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キルホーマン 7年 2013-2021 #623 for HARRY'S TAKAOKA 57.1%

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KILCHOMAN 
Aged 7 years 
Distilled 2013.8 
Bottled 2021.4 
Cask type 1st fill Bourbon Barrel #623 
Selected by T&T with くりりん 
Exclusively for HARRY'S TAKAOKA 
700ml 57.1% 

評価:★★★★★★★(6-7)(!)

香り:ややドライな香り立ち。フレッシュで強いピートスモークと合わせてシトラスのようなシャープな柑橘感、薬品香のアクセント。奥には煙に燻された黄色系フルーツが潜んでおり、時間経過で前に出てくる。

味:香りに反して口当たりは粘性があり、燻した麦芽やナッツの香ばしさ、ほろ苦さに加え、熟したグレープフルーツやパイナップル等の黄色系の果実感。年数以上の熟成感も感じられる。
余韻は強くスモーキーでピーティー。麦芽の甘みと柑橘感、微かに根菜っぽさ。愛好家がアイラモルトに求めるフルーティーさが湧き上がり、力強く長く続く。

若さを感じさせない仕上がりで、ストレートでも充分楽しめるが、グラスに数滴加水するとフルーティーさがさらに開く。逆にロック、ハイボールは思ったより伸びない。香味にあるシャープな柑橘香、燻した麦芽、黄色系フルーティーさの組み合わせを既存銘柄に例えるなら、序盤はアードベッグで後半はラフロイグのよう。粗削りであるが良い部分が光る、将来有望な若手スポーツ選手に見る未完成故の魅力。エース候補の現在地を確かめて欲しい。

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富山県高岡のBAR HARRY'S TAKAOKA(ハリーズ高岡)向けPB。2017年にウイスキーBARとしてリニューアルした同店の、4周年記念としてボトリングされたものです。
ボトリングは昨年12月頃から調整しており、本当は8月上旬に届くはずが、コロナの混乱で1か月スライド…。同店の周年には間に合いませんでしたが、中身はバッチリ、届いて着即飲してガッツポーズしちゃいました。今回は、そんな記念ボトルの選定に関わらせてもらっただけでなく、公式コメント掲載や、ラベルに名前まで入れて頂きました。

今回のリリースの魅力は、7年半熟成と若いモルトでありながら、若さに直結するフレーバーが目立たず年数以上の熟成感があること。そしてブラインドで出されたら「ラフロイグ10年バーボン樽熟成」と答えてしまいそうな、余韻にかけてのピーティーなフルーティーさにあります。

キルホーマンは、バーボン樽で7~8年熟成させると好ましいフルーティーさが出やすくなる、というのは過去の他のリリースでも感じられており、その認識で言えば、今回のボトルの仕上がりは不思議なものではありません。
ただ、個人的な話をすると、キルホーマンは2019年に話題になった100%アイラ9thリリースで醸成された期待値や、グレンマッスル向けキルホーマンでの経験もあって、「100%アイラこそ正義」と感じてしまっていた自分がおり。。。ノーマル仕様の酒質の成長に注目していなかったため、尚更驚かされたわけです。

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本記事では、今回のボトルの魅力を語る上で、キルホ―マン100%アイラにも少し触れることとします。
100%アイラとノーマルリリースの違いは、麦芽の製麦工程にあります。
100%アイラは蒸留所周辺の農家が生産した麦芽を、キルホーマン蒸溜所でモルティング。生産量は年間全体の25%で、設備の関係かフェノール値も20PPM程度と控え目に設定されています。一方で、今回のリリースを含むノーマルなキルホーマンは、ポートエレン精麦工場産の麦芽を使用し、50PPMというヘビーピート仕様となっています。

ローカルバーレイスペックでフロアモルティングした麦芽を前面に打ち出しているためか、あるいはピートを控えめにしているためか、100%アイラは麦芽風味を意図的に強調してボディを厚くしている印象を受けます。
そうしたフレーバーは、今後の熟成を経ていく上で将来性を感じさせる大事な要素でしたが、全体の完成度、バランスで見たときに、現時点ではそれが暑苦しく過剰に感じられることもあります。

今回のボトルは100%アイラほど麦感やボディはマッシブでなく、ピートが強めでボディが適度に引き締まったスタイリッシュタイプ。昔のCMで例えるなら、ゴリマッチョと細マッチョですね。
また、キルホーマンの製造工程の特色としては発酵時間を非常に長く取っており、かつては70~80時間程度だったところが、現在は最長110時間というデータもあります。そうした造りの変化が由来してか、これまでリリースされてきた2000年代のビンテージに比べて酒質の雑味が控えめで、フルーティーさがさらに洗練されているのです。

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つまり、過剰に麦感や雑味が主張しないからこそ、樽感(オークフレーバー)を上手に着こなし、今回のようなアイラフルーティータイプに仕上がったと。
この原酒が後5年、10年熟成したらさらに素晴らしい原酒になるかと言われると、樽感が強くなりすぎてややアンバランスになってしまうのではないかという懸念もありますが、1st fillバーボン樽ではなくリフィルホグス等を使えば15年、20年という熟成を経た、一層奥行きあるフルーティーな味わいも期待できると言えます。

もはや優劣つけ難い2つの酒質と、それを生み出すキルホーマン蒸留所。
近年、アイラモルトのオフィシャルリリースが増え、安定して様々な銘柄を楽しめるようになりましたが、一方でシングルカスクorカスクストレングスの尖ったジャンルは逆に入手が難しくなりました。愛好家が求める味わいを提供していくという点で、10年後にはアイラモルトのエースとなっている可能性は大いにあります。

以上のように、ウイスキー愛好家にとって魅力ある要素が詰まったキルホーマン蒸留所は、ハリーズ高岡が目指す「ウイスキーの魅力を知り、触れ、楽しむことが出来る場所」というコンセプトにマッチする蒸留所であるとも言え、同店の節目を祝うにピッタリなチョイスだったのではとも思えます。
今後、何やら新しい発表も控えているというハリーズ高岡。北陸のウイスキーシーンを今後も支え、盛り上げていってほしいですね。

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(2017年8月、リニューアルした直後のハリーズ高岡のバックバー。オフィシャルボトルが中心で、現在と比べると実にすっきりとしている。これが数年であんなことになるなんて、この時は思いもしなかった。現在はウイスキーバーとして北陸を代表すると言っても過言ではない。)

なお、なぜ富山在住でもない自分が、ハリーズ高岡の周年記念ボトルに関わっているかと言うと…本BARが4年前にリニューアルした直後、モルトヤマの下野さんの紹介で訪店。以降、富山訪問時(三郎丸訪問時)は必ず来店させてもらい、周年記念の隠し玉を贈らせてもらったり、勝手にラベル作って遊んだりと、何かと交流があったことに由来します。あれからもう4年ですか、月日が経つのは早いですね…。

そんな節目の記念ボトルにお誘い頂き、関わらせてもらったというのは、光栄であるという以上に特別な感情も沸いてきます。関係者の皆様、改めまして4周年おめでとうございます!

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※補足:本リリースへの協力に当たり、監修料や報酬、利益の一部等は一切頂いておりません。ボトルについても必要分を自分で購入しております。


【続報】T&T TOYAMAボトラーズ事業 クラウドファンディング

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5月13日から募集を開始した、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキーボトラーズ事業のクラウドファンディング。目標額の1000万円を30分で達成し、その後支援額は順調に伸び3000万円を突破。支援者の一人として、どこまで伸びるのか楽しみにもなってきました。

一方、企画者である下野さん曰く、「短期間でここまで支援が集まることは想定外」で、既に支援プランの大半が売り切れ状態に。。。そこで新しいリターンの追加共に、3500万円のネクストゴールとして設定されたのが、建設予定のウェアハウスに試飲用のスペースを造るというもの。ウェアハウス内で樽出しの原酒をテイスティングする…いや、ウイスキー好きが憧れる浪漫です。是非達成してほしいですね!
※本記事を書いた時点で、達成まで残り160万円。ネクストゴール達成を踏むのは何方でしょうか。



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※追加されたプラン(5月15日)
・クラウドファンディング支援者100人突破記念ウイスキー700ml × 2本セット

※追加されたプラン(5月20日)
・三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会&シークレットオンラインセミナー
・モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』


企画の詳細については以前記事にもしていますので、詳しい説明は割愛しますが、近年急増する日本のウイスキー蒸留所にあって、小規模なクラフトメーカーが直面する課題である、リリースや原酒の多様性、熟成、製品化に関する課題を解決する一助となるプロジェクトが、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキー・ボトラーズ事業です。

この事業の実施には、熟成場所となる広い土地と建物の初期費用のみならず、樽調達、原酒調達にかかるコスト、何よりボトリングや販売に関して必要となる資格の問題と言った、様々な”壁”があり、現在まで実現されてきませんでした。

そのコストについては、クラウドファンディングのネクストゴールの設定にあたり、
・土地、建物、設備:2億円(約2800㎡、建坪260)
・原酒購入、樽購入等年間費用:2000万円
という初期投資コストの情報が、ウェアハウスの設計と合わせて公開されています。
正直、自分と同い年の人間が億単位の金額を使うプロジェクトを立ち上げているなんて、周囲にはありません。素直に尊敬しますし、プロジェクトの意義としてもさることながら、人生をかけたであろう取り組みに、ウイスキー関係なくいち友人として可能な限り応援したいとも思うわけです。

ボトラーズの役割
※ボトラーズ事業を通じてボトラーズメーカーが担う、ウイスキーリリースまでの領域と課題(点線部分)

とはいえ、流石に今回のネクストゴールは、プロジェクト公開初日と同じ勢いで支援が入ることはないだろう、土日で応援記事を書こうじゃないか。。。と、準備していたらですね。ネクストゴールと共に追加された3プランのうち、「T&T TOYAMA シークレットオンラインセミナー」の支援枠が、即日完売してしまったわけです(汗)。改めて期待値の高さを感じた瞬間でもあります。

しかし、記念ウイスキー2本セットは前回の記事で紹介しているので、残るは三郎丸ウメスキープランと、モルトヤマ渾身のネタ枠。残りは300万円弱でネクストゴールも達成秒読みで…これって記事書く必要あるのか?。
いや、きっと自分だからこそ発信できるネタがあるはずだ。ウメスキー樽熟原酒は、以前蒸留所訪問した際に熟成途中のものを試飲済みだし。前回も即日達成してこんな流れだった気がするけど、気にしない気にしない。
そんなわけで、この記事では記事を書いている時点で、残っている2つの新支援プランについて、紹介していきます。


三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
支援額:16,500円
ウイスキーベースで造った梅酒”ウメスキー”と、そのウイスキー梅酒を樽熟成した新商品のセットがリターンにあるプラン。新商品はまだ名前が決まっておらず、その銘を提案できる、応募券もついています。
このプランだけ三郎丸色が強く、一見してT&T TOYAMAのボトラーズ事業と関係が無いように見えますが、梅酒を払い出した樽(梅酒樽)で、調達した原酒を熟成するという計画もあるそうで、後々一つの線に繋がっていくプランなのだとか。

その味わいについて、製品版のものはまだわかりませんが、熟成途中の原酒を飲んだ限り、フルーティーでマイルド、梅というよりは熟したプラムのような甘酸っぱさ、林檎の蜜を思わせる甘みもあり、余韻は樽熟を思わせるウッディさが甘みを引き締める。熟成を経てさらにリッチでまろやかになっていると思われます。
日本人の味覚に響く、素直に美味しい言える梅酒でした。某S社さんの同系統の商品と比較すると、あちらが万人向け量産品ならこちらは手作り、そんなキーワードを彷彿とさせる濃厚さが魅力です。

モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』
支援額:494,974円
WEBは饒舌、リアルは塩対応で知られるモルトヤマの下野さんが、富山を1日おもてなし。
もはやネタですよね。何だこの金額はという疑問については、下野さん曰く”これが選ばれることなく最終日を迎えて、「ナシ(下野さんの別通称)がしくしく」という語呂合わせを含め、今後のT&T TOYAMAブランド戦略で有効活用する”、大変自虐的なプランを想定しているようです。
“他は選ばれたけど、僕は選ばれない、まさに独身系瓶詰業者(インディペンデントボトラー)”とでも言うつもりなのでしょうか。

「でもこれ、応募あったらどうするの?」
という問いに対して、絶対にないから、と話していましたが…。既に同クラウドファンディングでネタ枠だった”高所作業車名づけプラン”が購入済みとなっている件について考えると、1度あることは2度あるんじゃないかなぁと。
私の財布では荷が重いですが、どなたか英雄の登場を期待しております(笑)。

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過去の記事とも重複した話になりますが、スコットランドではウイスキー蒸溜所が造った原酒を、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが買い取り、様々なリリースに繋げてきました。その例に倣えば、T&T TOYAMAのプロジェクトは今後のジャパニーズイスキー業界の継続的発展のため、必要な1ピースであると言えます。

勿論、類似の事業が過去から現在にかけて、なかったわけではありません。例えば、イチローズモルトで知られるベンチャーウイスキー社の立ち上げを支えた、笹の川酒造の原酒買い取りと各種リリース。軽井沢蒸溜所の原酒を受け継いだNo,1 Drinks社のリリースもまた、広義の意味では日本のウイスキーのボトラーズ事業と言えるでしょう。

ですが、今回T&T TOYAMAの立ち上げる、ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクトのように、
・ニューメイクから原酒を調達し、自社の熟成庫で自社調達した樽で熟成させた原酒をリリースする。
・熟成環境の提供や、ボトリング設備のレンタルといった、ウイスキーをリリースするために必要な機能を提供するサービス。
という、ただ熟成した原酒を買い付けるだけではない、多くの蒸溜所と二人三脚でウイスキー業界を成長させていくような構想は、今までにないものです。

日本における空前のウイスキーブームがもたらす、おそらくは今後無いであろう機運の高まり。大きなプロジェクトを立ち上げるのは、タイミングが重要です。クラウドファンディングの募集期間は残り約1か月。既にプロジェクトは確定しており、後はネクストゴール含めてこのプロジェクトがどこまで育ち、形になっていくのか。一人の応援者として楽しみにしています。


T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始動 リリースの個性と期待について(追記あり)

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富山県のウイスキー専門店「モルトヤマ」の下野さんと、若鶴酒造・三郎丸蒸留所の稲垣さんが共同で運営するブランド「T&T TOYAMA」による、日本初のジャパニーズウイスキーの本格的なボトラーズプロジェクトが始動。
独自ブランド「Breath of Japan(日本の息吹)」のリリースに加え、日本のウイスキー業界の継続的発展に繋がる計画が、5月12日のyoutube Liveで公開されました。

ジャパニーズウイスキーというジャンルに限れば、世界初の取り組みとも言える事業の始動にあたっては、同ブランドの一口カスクオーナー制度等リターンを含む”クラウドファンディング”も本日正午から募集が開始され、開始30分で目標額の1000万円を達成!!!
追加のリターンとして、オリジナルブレンデッドウイスキーのプランも公開されています。

本記事では、同プロジェクトが目指すボトラーズメーカーとしての活動と役割を紹介しつつ、リターンにもなっている提携蒸留所の現在の酒質や、Breath of Japanとしてリリースされるボトルの期待値についてまとめていきます。
※各蒸溜所の情報について読みたい方は、記事後半部分まで飛ばし読みをしてください。

T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクト
クラウドファンディング
募集期間:5月13日~6月30日
目標額:1000万円(達成済み)
補足:支援者が100名を突破したことを受け、新しい支援プラン(オリジナルブレンデッドリターン)が追加されました。
世界初!ジャパニーズウイスキーボトラーズ設立プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)


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T&T TOYAMAが描く”本格的”なボトラーズプロジェクトとは。
ボトラーズメーカーは、蒸留所等から樽(原酒)を買い付け、その原酒を自社で熟成、ボトリングしてリリースしています。
一例として、オフィシャルブランドが大量の原酒をバッティングし、加水して品質を整えたものを定常的にリリースしているのに対し、ボトラーズは1樽またはスモールバッチを樽出しの度数そのままでボトリングすることで、原酒や樽の個性を際立たせたウイスキーをリリースする傾向があり、それが愛好家にとって大きな魅力となっています。

国内外から買い付けた原酒を、シングルカスク・カスクストレングスでリリースする。これだけなら、日本でも酒販店やBAR等のプライベートリリースで見られるもので、特段珍しくはありません。
ですが、買い付けた原酒を”自社の貯蔵庫で、自社で調達した樽で熟成させ、ピークを見極めてリリースする”という、欧州のボトラーズメーカーが一般的に行っている行程については、日本ではまだどのメーカーも行っていない取り組みであり、”本格的なボトラーズブランド”となるわけです。

なぜ日本ではボトラーズブランドが立ち上がらなかったのか。
理由については
・日本には蒸留所が少なかったため。
・原酒を交換したり、他社に販売するという取り組みが一般的ではなかったため。
・日本において自社で原酒を貯蔵し、ボトリングして販売する行為は、酒販免許以外に酒造免許の取得※が必要となり、事業者の負担が大きいため。
※酒造免許の取得には、酒造設備や専用の建屋が必要。

以上3点が要因と考えられます。また、ウイスキーの消費量が低迷していたこともあるでしょう。
しかし、ブームを受けて世界的に日本のウイスキーが求められ、2014年時点で9箇所だった蒸留所は2021年には34か所と約4倍増。今後さらに増加傾向にあるわけですが、蒸溜所の数が急激に増えたことと、JWの基準が制定されて業界の流れが変わったことで、”作ればどこかで売れる”という今までのビジネスプランが通用しなくなりつつあります。

クラフト蒸留所は自社でブランドを確立していくために、良質な樽、熟成場所やボトリング設備の確保、販路と認知度向上、あるいはブレンド用原酒の調達や当面の資金計画と言った、”ウイスキー造り”以外の領域に課題がある状況です。※下画像参照。ボトラーズメーカーに関連する活動が点線部分に該当。
イギリスでは、大手ブレンドメーカーによる原酒提供以外に、例えばボトラーズメーカーの老舗であるGM社やシグナトリー社などが、上述の課題を解消する(結果として)の役割を古くから担い、ブレンデッドウイスキーとは異なるブランドを確立したことが、業界成長の一助となりました。
つまり、日本においてウイスキー業界が継続的発展を遂げるためには、今後同様の役割を担う活動が必要になってくるわけです。

ボトラーズの役割

T&T TOYAMAが立ち上げる「ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業」は、
単に原酒を買い付けてリリースするだけではなく、熟成、瓶詰、販売、蒸溜以降の行程において、特にクラフトウイスキーメーカーを後押しするプロジェクトでもあります。既に国内クラフト6蒸留所から原酒提供について合意しているだけでなく、現在進行形で他蒸留所とも話を進めているそうです。
詳細については、クラウドファンディングの募集ページに詳しくまとめられているので参照いただければと思いますが、端的にまとめると以下の通りです。

【T&T TOYAMA ボトラーズ事業概要】
・富山県内に独自の貯蔵庫(最大貯蔵量約3000樽)を建設し、原酒を熟成。
・富山県産ミズナラ材等を用いた県内での樽製造のみならず、独自に樽を調達して熟成に使用。
・若鶴酒造が所有するボトリング設備等を、同事業だけでなく、他社のリリースにも提供。
・T&T TOYAMAとしてリリースするジャパニーズウイスキーは、下野氏、稲垣氏らがこれまでのウイスキーリリースの経験を活かし、原酒の状態を見極めてボトリング。原酒提供元とは異なる環境がもたらす、原酒の成長にも期待。

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※2021年5月時点で、T&T TOYAMAとパートナーシップを提携した蒸留所一覧

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※富山県南砺市の風景と建設予定の熟成庫。例えば九州・鹿児島と富山の異なる気候に加え、通常蒸留所で使用するものと異なる樽での熟成など、違う環境で育った原酒が、将来どのような個性の違いに繋がるのか。ボトラーズブランドにおけるウイスキーの醍醐味とも言える。

最高気温分布
※各蒸溜所の最寄りの気象台過去5年間の月別最高気温の平均値。(御岳は最寄りに類似環境と思われる観測点が無く、鹿児島気象台の観測データを使用。)熟成に大きな影響を与える夏場の違いに加え、冬場の気温差も影響を与えると考えられる。

さて、本プロジェクトのクラウドファンディングの数あるリターンで、最も注目を集めるのは1口カスクオーナー+T&Tプレミアムメンバーのセットでしょう。
対象となっているのは、江井ヶ嶋、御岳、嘉之助、桜尾、三郎丸の5蒸留所で、これらのニューメイクを熟成するカスク(後日リリースされる「Breath of Japan」)の権利を1部保有できるもの。リリースまでは数年かかりますが、その間は設立記念パーティーや、イベントでのサンプルテイスティング等のリターンが受けられるようです。

ただ、既存リリースがある三郎丸や嘉之助と異なり、設備を改修した江井ヶ嶋や、リリースが行われていない御岳、桜尾については未知数です。情報の無い蒸留所に、決して安くない金額を投入するのは、如何にブームとは言えど覚悟のいることかと思います。。。

実は今回、別件のウイスキー活動の関係で、クラウドファンディングのリターン対象となる蒸留所の原酒が全て手元にあるのです。いくつかの蒸留所は、以前感じていた印象とはいい意味でまったくことなる原酒を作り出しており、経験を積んで日々進化するクラフトの成長を感じています。
前置きが長くなりましたが、今回の記事でもう一つの目的である、蒸溜所の個性やT&T TOYAMAの活動を通じたリリースの期待値を、主観として以下にまとめていきます。
関心あります方、リターンを選ぶ際の参考にしていただければ幸いです。また、既に支援をされたという方は、今後出てくるであろうリリースをイメージする一助となればと思います。


※クラウドファンディング、1口カスクオーナー制度のリターン
支援額:55000円~
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会※
・選択された蒸留所いずれかのシングルモルトウイスキー700ml各1本の一口カスクオーナー証
・裏ラベルに指名を掲載
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルグラス1脚
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルTシャツ1着
・熟成庫壁面とT&T TOYAMAホームページへのお名前の掲載

※プレミアムメンバー会員の特典
・ボトラーズ設立記念パーティへのご招待(富山県内で開催)
・熟成庫の特別見学会へのご招待
・会員バッジの送付
・フェスでの原酒等の特別試飲が可能

【スケジュール】
2021年3月 原酒の買付交渉を開始
2021年5月 クラウドファンディング開始
2021年10月 熟成庫の建設着工予定
2021年12月 クラウドファンディングリターンの発送
2022年4月 熟成庫の完成予定・原酒の熟成の開始
2025年以降 商品のリリース

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※蒸溜所がリニューアルした2017年に行われた、記念パーティーの様子。今回のリターンにはこうしたパーティーの招待券や、熟成庫等の見学権が含まれている。

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※リターン対象となるボトルは、全て富山県内の樽工場でトースティング(樽の内側の炭化部分を削り落とし、炎で炙らずじっくりと木材を焼く加工)を施した、特殊なバーボン樽を使用する。新樽に近く、一方で一度熟成使われていることからアクが抜け、より香ばしくメローなフレーバーが期待できる。

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■江井ヶ嶋蒸留所の原酒について:
少なくとも、私個人の印象を隠すことなく伝えるならば、この5蒸留所の中で最も懐疑的な蒸留所が江井ヶ嶋だったと言えます。
熱意を感じない作り手、お世辞にもセンスが良いとは言い難いカスクマネジメント、熟成環境とマッチしない酒質。。。ただ、SNS繋がりの知人から、近年の江井ヶ嶋は専門スタッフの配属で仕込みが改善し、設備もアップデートされて酒質が大きく向上したという話を聞いていました。
テイスティングしたのは2018年蒸留のカスクサンプルと、2019年蒸留のニューメイクです。はっきり言って別物ですね。今までのように雑味が強いのに厚みがなく、樽感の乗りも悪いといった原酒ではなく、麦芽由来の柔らかいコクと程よい酸味、軽い香ばしさを伴う素朴な味わいが主体の、洗練されてバランスの良い酒質へと大きな変化を遂げています。熟成後は、間違いなくこれまでの江井ヶ嶋蒸留所のイメージを払拭してくれることでしょう!!

■御岳蒸留所の原酒について:
焼酎銘柄”富乃宝山”で知られる、西酒造が2019年に創業したのが御岳蒸溜所です。西酒造については、以前クラフトジン「尽」のリリースで話を伺った際、明確なビジョンを持って造りの工夫をしていたことが印象的で、ウイスキーについても密かに楽しみにしていました。
酒質についてはクリアでありつつボリュームのしっかりある、丁寧な造りも伺えるような素晴らしい品質のニューメイクです。傾向としてはハイランドモルト的ですが、クリアにしようとすると香味はプレーンで厚みが少なくなるのが傾向としてある中で、相反する特性をまとめ上げ、原料由来の良い成分を引き出していると言えます。ニューメイクの時点で、麦芽由来の豊かなコク、そして穏やかなフルーティーさがあり、余韻で未熟要素が残らない。飲んでいてワクワクしてきます!
なお、西酒造ではシェリー樽100%で熟成を行っているため、異なる樽で熟成するT&T TOYAMAのリリースはそれだけで貴重と言えます。将来的にシングルモルトがリリースされた際には、飲み比べをするのも楽しみですね。

■嘉之助蒸留所の原酒について:
当ブログでも何度かレビューしている嘉之助蒸留所。6月には初のシングルモルトリリースも控えており、愛好家の期待も高まっています。
嘉之助蒸留所の酒質については、綺麗な酸味を伴う酒質で適度なコクがあり、未熟要素も少ないため温暖な気候と相まって3~5年程度で仕上がる比較的短熟向きという印象。樽香の乗りも良く、素性の良い酒質だと思います。また、作り手の熱意だけでなく、長く焼酎造りに携わってきたことでの技量の高さも高品質なウイスキーを生み出すポイントになっています。
これまでリリースされてきたバーボン樽熟成のニューボーンはフルーティーで、焼酎樽熟成のものはメローで穏やか、今回のT&T TOYAMAのカスクでは、鹿児島よりも気温が低い熟成環境も合わせて、そのいいとこどりが狙えるのではないかと感じています。

■桜尾蒸留所の原酒について:
江井ヶ島と並んで(立地的にも)今回のダークホースとも言える、中国醸造が創業する桜尾蒸留所。クラフトジンは知っていても、どんな原酒が造られているかは未知数の蒸留所かと思います。
あるいは、地ウイスキーの戸河内をご存じの方は、過去のリリースから連想されるかもしれませんが、蒸留所として設備や環境は一新されており、使われている原酒も違うため全くの別物です。
2018年蒸留のカスクサンプルを飲んだ第一印象は、「あ、グレンマレイっぽい」。柔らかくクリアで未熟要素が少ないだけでなく、バーボン樽由来の黄色系のオーキーなフルーティーさが適度に感じられる。。。まさにスペイサイドモルトのようで驚かされました。ニューメイクも洗練されており、強い個性を感じない代わりに樽由来のフレーバーを邪魔しない、現代的なウイスキーが期待できます。

■三郎丸蒸留所の原酒について:
最後は言わずと知れた、三郎丸です。日本の蒸留所の中で唯一ピーティーな原酒のみを仕込む蒸留所であり、そのピートも2020年からアイラ島のピートを使った仕込みにシフトするなど、2017年の大規模リニューアル以降は様々な工夫を取り入れ、愛好家の注目度も年々高まっています。
リターンの対象となる2021年仕込みのニューメイクはまだテイスティングできていませんが、2020年仕込みのアイラピーテッド原酒を飲む限り、乳酸発酵由来のフルーティーさ、麦芽風味、そして微かに潮気を伴うピーティーなフレーバー。オールド・アードベッグを目指すという作り手の方針も合わせ、熟成後が楽しみで仕方ないニューメイクです。
さながら北陸の小さな巨人。あるいは日本のクラフトの至宝。ことこの蒸留所のカスクに関しては、もはや勝利は約束されたようなものです。

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なお、その他のリターンとしては、単純にブランドの設立を応援するもの等もありますが、上記1口オーナー制度以外に、ウイスキーのリターンがあるものとして新たに追加されたのが、

■支援者100名突破記念、焙煎樽マリッジのブレンデッドウイスキー
支援額:22000円~
・ブレンデッドモルトウイスキー『遊』(ブレンダー:モルトヤマ 下野)
・ブレンデッドウイスキー『創』(ブレンダー:若鶴酒造 稲垣)

こちらについては、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト原酒をキーモルトとし、輸入原酒をブレンドしたスモーキータイプのウイスキーを、一口オーナー制度のリリースにも使われる「焙煎バーボン樽」でマリッジしたもの。『創』はクラフト、ラベル(右)に書かれた獅子頭は”匠”を、『遊』は自由に造ることをイメージしているのだとか。未知数な部分もありますが、直近のリリースを見る限り間違いはないものとなりそうです。

そういえば、グレンマッスルで三郎丸の原酒を用いたブレンドを作った際は、バーボン樽でのマリッジでしたが、エキスが多く残った樽だったのか、スモーキーさの中にウッディで色濃くメローな味わいが付与された、納得のリリースに仕上がりました。あんな感じが強調されたリリースになるのかなと。
これまでT&Tのニンフシリーズ含め数々のリリースに関わり、原酒やブレンドレシピを選定してきた二人の技量に期待したいですね。


最後に、今回のプロジェクトに関する個人的な期待として。
日本にはウイスキーの造り手がいて、ウイスキーを輸入・販売するインポーター、卸業者、酒販店がいて、一見して製造から販売までの流れが整っているように見えます。ですがその間を繋ぐ機能を持つ事業者がほとんど居ないことから、作り手が製造から販売の間にある、全ての製品企画・販売計画を建てる必要があります。
ですが、販売に繋げるのは簡単なことではなく、コストもかかります。また、小規模なクラフトほど原酒の作り分けは難しく、多様性を確保するのは容易ではありません。
この点を分業してきたのは本場スコットランドであったわけですが、T&T TOYAMAが始めるボトラーズプロジェクトは、日本のウイスキー業界になかった最後の1ピースとなりえ、ウイスキー史に残る挑戦的な取り組みであると言えます。

先日、日本洋酒酒造組合から発表されたジャパニーズウイスキーの基準(通称)を受け、市場の動き、造り手の意識が変わりつつあります。売り手市場は終わりを告げようとしており、各社は今までには無かった制限の中で、自社のブランドを確立していく戦略を求められているのです。
そうした中で、ボトラーズブランドのリリースが、オフィシャルリリースとの相互補完の関係で、ブランド全体のPRやリリースの多様性に繋がること。あるいは造ったばかりの原酒を安定して資金化できることは、蒸留所の安定に繋がることも期待できます。決して簡単な取り組みではありませんが、動き出したプロジェクトを見ると、逆にT&Tでしか出来なかったことではないかとも感じます。
日本のウイスキー業界の若きクラフトマンにしてクリエイター2人の大いなる挑戦。我々愛好家は勿論、業界全体で応援してほしいと願って、記事の結びとします。

tttoyama_cf

余談:クラウドファンディング最大のネタ枠だった「高所作業車名づけ権」が、開始数分で購入された件について。見ていて昼飯を吹き出しました。誰ですかこんな心意気のあるお方は・・・(いいぞもっとやれ!笑)
kousyosagyou

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