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三郎丸蒸留所×長濱蒸溜所 日本初のクラフトブレンドが実現

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先日、ジャパニーズウイスキーの基準発表に関連し、三郎丸蒸留所の声明を紹介させて頂きました。内容に関して賛同する意見がSNS等で多く見られ、また同時に原酒交換によって実現する”クラフトジャパニーズブレンド”への期待も高まっていたところ。
そのわずか10日後。三郎丸蒸留所、そして長濱蒸溜所から、早くも原酒交換によるコラボ企画「日本初のクラフトブレンデッドウイスキー」の発表がありました。

複数の蒸留所が連携して企画し、同時にプレスリリースまで行う。これまで日本の蒸留所には見られなかった動きにワクワクしてしまいます。
自分はどちらの蒸留所も、創業初期(三郎丸蒸留所はリニューアル後)から毎年見学させて貰っているだけでなく、オリジナルリリースでの関わりもあり、他の愛好家よりも近い関係にあると言えます。
後日、レビューも掲載したいと思いますが、今日はわかる範囲で今回のリリースに関する情報をまとめ、紹介していきます。


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リリースは写真左から
長濱蒸溜所 INAZUMA
ブレンダー:長濱蒸溜所 屋久佑輔
・BLENDED MALT JAPANESE WHISKY "SYNERGY BLEND" 47% 700本
・WORLD BLENDED MALT WHISKY "EXTRA SELECTED" 47% 6000本
※プレスリリースはこちら

三郎丸蒸留所 FAR EAST OF PEAT
ブレンダー:三郎丸蒸留所 稲垣貴彦
・"FIRST BATCH" BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 50% 700本
・"SECOND BATCH" BLENDED MALT WHISKY 50% 5000本
※プレスリリースはこちら

※販売は3月30日から、両蒸留所が運営するオンラインショップ並びに関連酒販等で行われます。
なお、FAR EAST OF PEATのBatch1のみ抽選販売となり、3月8日から14日まで受付となっています。



■ブレンデッドジャパニーズウイスキー2種
INAZUMAは、長濱蒸溜所のノンピートモルトと、三郎丸蒸留所のピーテッドモルトを使用(どちらもバーボン樽熟成)。
FAR EAST OF PEATは、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト(バーボン樽熟成)と、長濱蒸溜所のライトリーピーテッドモルト(アイラクオーターカスク熟成)を用いたものとなります。

使われている日本産原酒の蒸留時期は、双方とも2017年で、熟成年数は3年強と言うことになります。
つまり3年熟成のブレンドモルト?と感じるかもしれませんが、どちらも2020年にリリースされたシングルモルトは若さを感じさせない仕上がでした。また、2017年蒸留の長濱モルトは柔らかく穏やかな風味、三郎丸モルトはヘビーで広がりのある風味で、系統は異なるものの、どちらの酒質も共通してブレンドで馴染みの良さを感じる点があり、若いから…という思い込みは早計と言えます。

INAZUMAの組み合わせはノンピートとピーテッド。ノンピートでバーボン樽熟成の長濱モルトは、麦の甘さ、オーク樽由来のフルーティーさが酒質の柔らかさと合わさって穏やかに味わえるタイプであり、それがピーティーさがメインの三郎丸モルトのパワーを包み込む、足りない部分を補うような仕上がりが期待できます。
またFAR EAST OF PEATが使っている長濱のモルトは、アイラクォーターカスク熟成ということで、実物も見たことがありますが、これはラフロイグ蒸留所のもの。麦芽の甘みとスモーキーさに加わる、アイラ由来のフレーバーの一押し。。。この競演がどのようなシナジーを生むのか、実に楽しみです。

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■ワールドブレンデッド2種について
今回の企画では、どちらのブランドにも輸入モルト原酒を使った、ワールドブレンデッド仕様がラインナップされています。
振り返ってみると、三郎丸蒸溜所はムーングロウで、長濱はアマハガンで、それぞれWorld Whisky Awardで部門受賞を経験するなど、自社モルトとバルク原酒を使ったウイスキーについても評価されているのです。

個人的に、オリジナルリリースの関係で両蒸留所の保有する原酒を飲む機会を頂いてますが、それぞれ異なる企業、蒸留所から調達されているもので、国内での追加熟成も経て全く違う素材としてブレンドに作用すると感じます。
両ブレンダーが目指す方向性の違いも含め、一体どんな味わいになっているのか。これまでのウイスキーシーンにはなかったユニークな試みであり、個人的にはこのワールドブレンド仕様の仕上がりに、密かに期待しています。

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(長濱、三郎丸両蒸留所で関わらせてもらったオリジナルブレンデッド。どちらの蒸留所にも自前、輸入で様々な原酒があり、品質も一定以上が担保されている。)

■両蒸留所のウイスキーと造り手の想い
三郎丸蒸留所、長濱蒸留所については、酒育の会のLIQULにて特集対談記事が公開されています。
偶然ですが、長濱蒸留所編の公開は、まさに本日からです。
今回のリリースをきっかけとして、両蒸留所に興味を持たれた方は、ぜひ以下の記事も参照いただければと思います。
創業から現在に至るまで、どのような変化があったのか、目指すハウススタイルや、造り手の想いなど、対談形式でまとめています。

【ジャパニーズクラフトウイスキーの現在】
Vol.1 三郎丸蒸留所編:https://liqul.com/entry/4581

Vol.2 長濱蒸留所編:https://liqul.com/entry/5209

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※自画自賛気味ですが、WEB公開されている記事の中では両蒸留所の情報を一番網羅している記事だと思います。

今回のリリースは、冒頭述べたようにジャパニーズウイスキーの基準制定を受け、三郎丸から原酒交換に取り組むという発表があった矢先のことでした。「いやいや、動き早すぎでしょ」と感じた方も少なくないのではないでしょうか。

実は、今回の企画の発起人と言える三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーは、それこそ蒸留所をリニューアルして再稼働させた時から原酒交換のプランを持っており、他の蒸留所の見学や情報交換を行うなど、基準が形になる前から動きを進めていました。
私もクラフトウイスキー間の連携推進や、グレンマッスルでのジャパニーズブレンド構想があり、お互いに何が出来るか話をする中で、今回の一件もそういう動きがあると伺っていました。

鶏と卵の話ではありませんが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する話を受けて原酒交換が動いたというよりは、ブレンドづくり含めて準備を進めていたところ、今年に入って唐突に動きがあり「いつやるの?今でしょ!」と、両蒸留所がリリースにGOサインを出した。という流れであるようです。
ですがその前後関係は些末なこと。これによって原酒交換の前例が出来、ノウハウも両蒸留所にあることになります。蒸留所として今後も取り組みを進めていくことに変わりはなく、むしろ各社にとっても追い風となる実績が作れるのではないかと期待しています。

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長濱蒸留所の屋久ブレンダーと、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャー(兼ブレンダー)は、両蒸留所の距離が他の蒸留所に比べて離れていないこと、長濱蒸留所は規模が日本最小、三郎丸蒸留所は生産量が日本最小で、お互いに小さな蒸留所であることなど、何かと繋がりを感じるところがあり、意見交換をしてきたそうです。
例えば長濱蒸留所の原酒で、ある仕様が2018年頃から変わったのですが、それは稲垣さんのアドバイスからだったという話も聞いたことがあります。

詳しくは、ボトル購入特典となっている両ブレンダー対談動画で語られると思いますのでここでは伏せますが、こうして造り手同士が繋がって、お互いに品質を高めていく。
日本のウイスキーのルーツたるスコッチウイスキーは、大手メーカーと中小メーカーの共存共栄から発達してきた歴史があります。日本ではこれからクラフトを中心にそうした動きが出て来ればと、今回のリリースを第一歩とした動きに期待してなりません。

先の基準は、海外市場で既に反響を呼んでおり、ひょっとすると業界が想定していた以上の影響が今後出てくるとも考えられます。
そうして考えると、日本のウイスキー業界は、新しい時代に突入したと言えるのではないでしょうか。
新時代におけるクラフトウイスキーの魅力とは何か、そして市場を取るための計画は如何に。単に作れば良いだけではなく、大手との違いは何か、強みはどこにあるのか。必ずしも原酒交換だけが選択肢ではありません。
例えば蒸溜所がある地域のシェアだけは絶対に抑えると、地域限定ボトルのリリースというのもあるでしょう。厚岸蒸留所のような●●オールスターを作るというのも1手です。
基準に加え、今回のコラボレーションリリースが呼び水となって、クラフトウイスキー(自社ウイスキー)のさらなる魅力を、各社が考えていくようになるのではないかと思います。

規制下での創意工夫から、新たな付加価値が生まれるのは、産業界で数多起こってきた出来事の一つです。まずは今回のリリースを楽しみにしたいところですが、ここからのジャパニーズクラフトウイスキー業界の動きにも注目していきたいですね。

※関連記事:
三郎丸蒸留所 ニューポット2020 アイラピーテッド&ヘビリーピーテッド 60% +蒸留所からの意思表明 
「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」に潜む明暗
ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(日本洋酒酒造組合)


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三郎丸蒸留所 ニューポット2020 アイラピーテッド&ヘビリーピーテッド 60% +蒸留所からの意思表明

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SABUROMARU DISITILLERY 
ZEMON NEW POT 2020
Heavily Peated 52PPM 
Islay Peated 45PPM 
200ml 60% 

評価:無し(3年熟成未満のため)

ヘビリーピーテッド(52PPM):ボトル左
香り立ちはクリア。ニューポット香はあるが嫌味に感じるレベルではなく穏やか。甘みを帯びた麦芽香、微かに柑橘や皮つきパイナップル。ピート香は穏やかなスモーキーさから、徐々に焦げたようなニュアンスが開き、強く感じられる。
一方で、香りであまり目立たなかったピートフレーバーは、味わいでは序盤から広がる。コクと厚みのある麦芽風味と乳酸系の酸味。余韻はスモーキーで焚火の後の焦げた木材、土っぽさ。ほろ苦いピートフレーバーが長く続く。

アイラピーテッド(45PPM):ボトル右
はっきりと柑橘系の要素を伴うフレッシュな香り立ち。クリアでフルーティーな麦芽香に、微かな未熟要素。奥には強く主張しないが存在感のあるピートが香りの層を作っている。
味わいも同様に序盤は甘酸っぱくコクのある口当たりから、じわじわとほろ苦く香ばしい麦芽風味、ピートフレーバーが広がってくる。全体的に繋がりのある味わいで、余韻にかけてはピーティーでスモーキーだが焦げ感は控えめ、穏やかな塩気が舌の上に残る。

どちらの銘柄も未熟香は少なく、味わいも柔らかくコクがある。度数も60%を感じさせず、目をつぶって飲んだら若いモルトとは思うだろうが、ニューポットとは確信をもって答えられないかもしれない。それくらい新酒が本来持つだろう未熟要素、オフフレーバーが少なく、一方で原料や仕込み由来のフレーバーが双方ともしっかりと備わっている。

飲み比べると、内陸ピートで仕込まれたヘビリーピーテッドは、麦芽風味とピートがそれぞれ主張し合う構成。アイラピーテッドは、はっきりと柑橘系の要素にピートフレーバーが溶け込み、全体を繋ぐような一体感のある構成となっている。また、ピートフレーバーの違いも、前者には木材が焦げたようなスモーキーさが強く感じられるが、後者は焦げ感よりも煙的な要素が主体となって塩気も伴う。仕込みの時期の差もあるだろうが、香味の違いが興味深い。
2016年以前の姿を知っている人が飲めば、あの三郎丸の原酒なのかと驚愕することだろう。これらの原酒が熟成した姿、特にバーボン樽での数年後が楽しみで仕方ない。

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富山県、若鶴酒造の操業する三郎丸蒸留所が2020年の仕込みで造った、2種類のニューポット。
三郎丸蒸留所の酒質が2017年のリニューアルから大幅に改善し、特にマッシュタンを入れ替えた2018年からの伸びは、この蒸留所の過去を知っている愛好家は認識を改める時がきたと、以前ブログ記事にもさせて頂いたところです。

その後、以下の画像のように2019年にはポットスチルを入れ替え、世界発の鋳造ポットスチルであるZEMONが稼働。2020年には発酵槽の一つに木桶を導入。2019年の仕込みは、ポットスチルをはじめ蒸留設備の変更ということで調整に苦労されたようですが、2020年はそのノウハウを活かし、木桶による乳酸発酵と合わさって一層クリアでフルーティーさのあるニューメイクが生み出されています。

三郎丸蒸留所アップデート2018ー2020
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※1:2018年に導入された三宅製作所製のマッシュタン。従来に比べ、ピート香がさらに引き立つようになった。
※2:2019年に開発・導入された、鋳造製ポットスチルZEMON。従来のスチルに比べて様々に良い効果が期待できる。
※3:2020年に導入された木桶発酵槽。複数のタンクで発酵されたものを、最終的にこの木桶で乳酸発酵する。
※4:2020年から使用することとなった、アイラ島のピート。現在、国内でアイラピートを使った仕込みは他に例がない。


また、同じく2020年にはアイラ島で産出するピートで仕込んだ麦芽の使用を開始したことが、三郎丸蒸留所における大きな転換点ともなりました。
現在、日本に輸入されるピーテッド麦芽に使われているピートは、全てスコットランド内陸産のものであり、アイラ島で産出するピートを使った仕込みは行わせていません。背景には大手スコッチメーカーがアイラ島産出のピートをほぼ全て押さえてしまっていることがあり、アイラモルトブームでありながら、アイラピートを使った仕込みが出来ないというジレンマが日本のウイスキーメーカーにありました。

ピートフレーバーは、使われたピートの産地によって微妙に異なることが、近年愛好家間でも知られてきています。植物の根などが多く混じる内陸系のピート、海藻などが海の要素が多く混じるアイラ島のピート。前者は燻製のような、あるいは焦げたようなスモーキーさ、後者はアイラモルト特有とも言われるヨードや薬品的な要素、また海辺を連想させる塩気や磯っぽさをウイスキーに付与すると考えられます。

三郎丸蒸留所は、年間の仕込みの量が大手に比べて遥かに少ないことから、アイラピート麦芽を必要分確保することが出来たのだそうです。今後、2021年以降は全ての仕込みがアイラピート麦芽に切り替わり、原酒を蒸留していくと計画されていることから、まさに蒸留所の転換点となったのがこの2020年の仕込みであり、ニューポットであるのです。

ご参考:三郎丸蒸留所における各年度の取り組みについては、以下Liqulの対談記事に詳しくまとめられています。


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昨年11月、三郎丸蒸留所からは3年熟成のシングルモルト”THE FOOL”がリリースされ、50PPMという強いピーティーさ、リニューアル前の酒質からの大きな変化、厚みのあるヘビーな味わいに、驚かされ将来に期待を抱いた愛好家も少なくなかったのではないかと思います。
しかし、歴代のニューメイクを飲んでいくと、その驚きは序章でしかないと感じるはずです。上記画像※1~※4にあるとおり、設備や材料のアップデートとノウハウの蓄積により、それぞれの年に2017年の蒸留を上回る原酒が誕生しているのです。

特にリニューアル後の集大成とも言える、2020年仕込みのニューメイクが成長した姿は確信をもって間違いないと言えるものです。
綺麗なニューメイクを作る蒸留所は多くありますが、これだけ麦芽由来のコクや厚みがあり、現時点から未熟要素の少ないニューメイクなら、日本の熟成環境で強く付与される樽感を受けとめて短期で仕上がるでしょうし。また、空調を効かせた冷温貯蔵庫もあることで、20年を超える長期間の熟成という選択肢もあります。

大手蒸留所は、その生産規模から小規模な仕込み、試験的な蒸留は行い辛いものがあります。例えば、不定期に少量しか手に入らないボデガ産のシェリーの古樽よりも、シーズニングで安定して大量に供給される疑似シェリー樽のほうが需要があるという話からも、その傾向が見えてくると思います。

故に、小回りの利くクラフトでは三郎丸蒸留所のような独自の個性をもった蒸留所や原酒が生まれてくる楽しみがあり。2020年仕込みで新たに登場したアイラピーテッドもその一つです。
日本初となるこの原酒がどのように成長していくか。リアルタイムで見ていくことが出来る幸運を噛みしめつつ、本レビューの結びとします。

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※以下、余談:ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所からのメッセージについて
先日、日本洋酒酒造組合からジャパニーズウイスキーの基準となる、表示に関する自主基準が発表されました。
当ブログでも前回の記事で基準を紹介し、期待できる効果と懸念事項を解説させて頂いたところです。また、同基準に対していくつかのウイスキーメーカーからは賛同の声明が発表され、あるいはWEBサイトの商品説明が切り替わる等、業界としても動きが見られます。

その中で、大きな注目を集めたのが、若鶴酒造・三郎丸蒸留所が発表した声明「ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所の方針と提案」です。同社の発表は愛好家を中心にシェア・リツイートされ、今後基準を運用していく上での重要な示唆であるとする意見が多く寄せられています。



内容をざっくりまとめると、
・若鶴酒造、三郎丸蒸留所は同基準を遵守する。
・しかし今後日本のウイスキー産業には、国産モルト原酒の多様性と、グレーン原酒の確保という課題が生じる。
・国産グレーン原酒を国内のウイスキーメーカーに提供する仕組みの確立を後押ししていただきたい。
・国産モルト原酒の多様性については、三郎丸蒸留所は他の蒸留所との原酒交換に応じる準備があり、今後積極的に推進していきたい。
と言うものです。

自分の記事とも概ね同じ意見ですが、実際のウイスキー製造現場サイドからの声として、エピソードを交えて説明されたそれは、より説得力のあるものであったと感じます。
また、原酒の多様性確保に関し、国産グレーン原酒の懸念はクラフト1社だけではどうにもならないことですが、逆にクラフト側からの提案として「原酒の交換」が発表されたのは、重要な意思表明だと感じています。

日本のクラフト蒸留所は、小規模ながら大手とは異なる様々な個性の原酒が存在します。
三郎丸蒸留所については本記事でも紹介しているので割愛しますが、
厚岸蒸留所の、精緻な仕込みに北海道産麦芽がもたらすフルーティーな原酒。
安積蒸留所の、スコッチモルトを彷彿とさせるようなピーテッド原酒。
静岡蒸溜所の、軽井沢スチルと薪加熱方式というこれまでにない取り組みが生み出す原酒。
長濱蒸溜所の、麦芽の甘みと香ばしさが活かされた柔らかい味わいの原酒。
嘉之助蒸留所の、クリアで早期に仕上がる南国環境を彷彿とさせる原酒・・・。
個人的にぱっと思い浮かべるだけで、これだけ個性的なモルトがあります。

また、今や第二蒸留所まで稼働し世界規模のブランドととなった秩父は勿論。スペイサイド的な酒質を彷彿とさせるスタイルでリリースが楽しみな遊佐、樽や熟成環境に様々な工夫を凝らす信州、津貫。古参ながら苦戦していた江井ヶ島も設備をリニューアルして酒質が向上したという話も聞きます。1つ1つ紹介していくとキリがありません。
これらの原酒が交わり、ジャパニーズブレンデッドとしてリリースされる。まさに日本だからこそ実現できるブランドであり、夢のある、美味しさだけでなくワクワクするプランだと思います。


とはいえ、この手の話は”言うは易し”というヤツで、法律的な面も絡むことが懸念事項です。
なんだって前例のないことをするのはパワーがいるものですが、荒唐無稽な提案ではありません。例えば相互に等価設定で同量の原酒を樽で取引しあうような対応なら・・・。原酒交換が1件でも行われ、ノウハウが開示されれば後に続く蒸留所も増えてくるのではないかと思います。
また、今までは交換した原酒をどのように使われるのか等の不安もあり得たところ。整備された基準が、様々な意味で後押しになるのではないかとも感じます。

今回、声明を発表された若鶴酒造の稲垣マネージャーは、33歳と若いクラフトマンです。ですが蒸留所を見ても、本記事で説明したとおり老朽化した蒸留所を改修し、新しい技術を導入し、素晴らしい原酒を生み出すまで導いた行動力があります。
ならば、この提案もきっと早期に実現されるのではないかと思います。今後、三郎丸蒸留所から生み出される原酒だけでなく、発表された提案の実現に向けた動きについても、注目していきたいです。

三郎丸 0 THE FOOL 3年 48% シングルモルト

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SABUROMARU ZERO
”THE FOOL”
Heavily Peated (50PPM)
Aged 3 years
Distilled 2017
Bottled 2020
Cask type Bourbon barrel
700ml 48% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★(5)

香り:甘く香ばしい、焚火の後のような落ち着きのあるピートスモーク。麦芽糖、あるいはもろみを思わせる香りが若さを感じさせるが嫌味な要素は少なく、どこか素朴である。微かにオレンジピールのほろ苦さ、柑橘感が混じり、アクセントになっている。

味:オイリーでスモーキー、麦芽由来の甘みに加えて柑橘の皮や綿を思わせるほろ苦さ、穏やかな酸味。加水で整えられており口当たりはスムーズで、じわじわとスパイシーな刺激もある。余韻はピーティーでビターなフィニッシュが長く続く。

麦、内陸系のピート、そして樽と原料由来の柑橘系のニュアンス。ここに若さに通じる若干の垢ぬけなさ、オフフレーバー要素が混じっている。複雑さはあまりないが、加水と複数樽のバッティングによってバランスがとれ、三郎丸蒸溜所の個性を楽しみやすく仕上がっている1本。
例えるならば、ピートのフレーバーの系統としてはブルイックラディやアードモア、酒質のオイリーさはラガヴーリンに似て、麦芽風味と垢抜けない要素が三郎丸。これをベースに熟成が進み、加水やバッティングで整っていくとすれば、将来を期待せずにはいられない。

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若鶴酒造・三郎丸蒸溜所、2017年のリニューアル後の原酒でリリースされた、初のシングルモルトウイスキー「三郎丸0”THE FOOL”」。この三郎丸0はカスクストレングス版が200本、48%の加水版が2000本リリースされ、今回のレビューアイテムは加水版となります。
(カスクストレングス版のレビューはこちら。)

カスクストレングス版は、若鶴酒造の酒販サイ「ALC」での販売開始から数十秒で完売したことで話題になりました。一方で、同酒造敷地内にある販売ブース・令和蔵でも販売され、こちらは来場者に本数がいきわたり、比較的穏やかに(とはいえ即完売)販売が行われたとのことです。

現地では製造関係者との交流に加え、試飲提供や車での来場者向けのドリンク、おつまみの提供等もあり、地元の蒸留所に期待する愛好家を中心に販売・交流が出来たというのは、いい雰囲気だなと感じました。
また、加水版についても普段若鶴酒造と付き合いのある問屋・酒販店に卸されており、発売後に店頭を探して無事購入できたという声も、SNS等で見かけます。

ブームもあって何かと話題になりがちなジャパニーズウイスキーですが、こうしたクラフト蒸溜所のファーストリリースは、本来は地元のユーザーが、あるいはマニアックな愛好家が盛り上げていくレベルのものじゃないかなぁと思うのです。
それこそ、ブーム前のイチローズモルト・秩父蒸留所のファーストリリースはそんな感じでした。

その点で、今回の三郎丸0はネットはさておき、地元を優先した形の販売になっており、自分はこれで良いんじゃないかと感じています。

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前置きが長くなりました。
今回レビューする三郎丸0、THE FOOL は、2017年に蒸留された原酒をバーボン樽で3年熟成させ、複数樽バッティング、加水調整したものです。
三郎丸蒸留所のリニューアルにおける酒質の変化や、蒸留所に関する話はカスクストレングスのレビュー記事でまとめているので、今回は飲み比べ、両リリースの違いに触れていきたいと思います。

まず前提として、どちらも同じ樽からの原酒構成であるため、香味の要素は当然同じ傾向にあります。
そのため、カスクストレングスを飲まなければ三郎丸蒸留所の個性がわからないとか、そういう事はないです。加水版でも充分三郎丸蒸留所のキャラクターと、その可能性を感じられます。

ただ、加水の方が香味が落ち着いており、良い部分も多少勢いが弱まった反面、2017年蒸留の三郎丸原酒にある"旧世代の設備の影響"も控えめで、目立たなくなっているように思います。
カスクストレングス版は、ネガティブな要素も多少抱えているのですが、良い部分、魅力的な要素がそれ以上の勢いでカバーして、厚みのある酒質の一部にしてしまっているという感じです。
その点で、ウイスキーマニアが望むような面白さは、カスクストレングスの方が強く、加水版は普及品として広く蒸留所のキャラクターをPRすることに向いている。当たり前な構成かもしれませんが、よく考えられたリリースだなと思います。

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なお、三郎丸蒸溜所の2017年蒸留原酒としては、今後熟成を経ていくことでさらに美味いリリースが出てくることでしょう。
蒸留所によっては3年でピークかという酒質のところもありますが、樽感や時間の流れを受け止める酒質の厚みは、三郎丸蒸留所の個性のひとつであり、5年、7年、冷温環境なら10年以上熟成する中で洗練されて、ピーティーでリッチな味わいをさらに楽しめるようになると期待出来ます。
ニューボーンリリースから期待値高かったですが、今回のリリースで確信に変わりました。まさにこれは原石ですね。

また、2018年以降の原酒については設備の更新等から2017年仕込みよりも質が良く、とあるインポーターさんに2018~2020までのニューメイクを渡して感想を伺ったところ「ピートの効きは2018が一番強く、もっとも好みだった」という評価がありました。
自分も2020と2018がリニューアル後4年間の仕込みのなかでは好みであり、来年以降のリリースが今から楽しみでなりません。

三郎丸蒸留所にとって新しいスタートにして、節目の年となった2020年。新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の事態が世界を襲う、ままならない1年でもありましたが、リリースとしても、蒸留所のアップデートとしても、そして作り手に、それぞれ明るい話題もあり、門出の年ともなりました。
数年後、自分達はこの1年をどう振り替えるのか。成長した三郎丸蒸留の原酒を楽しみながら、出来れば笑顔で振り返りたい、そう思うのです。

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今日のオマケ:大吟醸 若鶴2020 金沢国税局酒類品評会優等賞受賞 仕込み25号
先日、ウイスキーとセットでALCから購入した若鶴の日本酒。
クラフトウイスキー蒸留所は、異なる酒類をメインにしているところも少なくないので、ウイスキー以外にも楽しみがあります。
若鶴酒造は勿論日本酒。これは吟醸香は品の良い程度で、柔らかい米の旨味とコクがメインとして楽しめるタイプ。単品で飲み飽きず、料理との相性もバッチリです。
ああ、今の時期ならぶりしゃぶとか、おでんとか、良いですよねぇ。。。

三郎丸0 THE FOOL 3年 カスクストレングス 63% シングルモルト

カテゴリ:
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SABUROMARU ZERO 
”THE FOOL” 
Cask Strength 
Heavily Peated (50PPM) 
Aged 3 years 
Distilled 2017 
Bottled 2020 
Cask type Bourbon barrel 
700ml 63% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅
時期:開封直後
評価:★★★★★★(6)(!)

香り:香り立ちはドライで酒精の刺激と香ばしいスモーキーさ。焚火や野焼きの後のような、土っぽさ、干し草の焦げた香りに、郷愁を感じさせる要素を伴う。合わせてエステリーで、グレープフルーツやドライオレンジを思わせる柑橘香、ほのかにオーキーなアクセント。奥にはニューポッティーな要素も微かにある。

味:コクと厚み、そしてボリュームのある口当たり。香ばしい麦芽風味とピートフレーバー、樽由来の甘味と酒質の甘酸っぱさが混じり、柑橘を思わせる風味が広がる。余韻はスモーキーでほろ苦いピートフレーバーの中に、微かに薬品シロップのような甘みと若干の未熟要素。ジンジンとした刺激を伴って長く続く。

度数が63%あるとは思えないアルコール感の穏やかさだが、芯はしっかりとしており、味にボリュームがあるため口の中での広がりに驚かされる。厚みのある酒質が内陸系のピート、麦芽、そして程よく付与された樽由来の風味をまとめ、熟成年数以上の仕上がりを思わせる。
勿論未熟な成分も感じられるが、過去の設備の残滓と言える要素であり、伸び代のひとつと言える。加水するとフレッシュな酒質の若さが前に出るが、すぐに馴染む。2つの世代を跨ぐウイスキーにして、可能性と将来性を感じさせる、門出の1本。

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富山県、若鶴酒造が操業する三郎丸蒸留所は、創業1952年と、日本のウイスキー蒸留所の中でも長い歴史を持つ、老舗の蒸留所です。
同蒸留所は、2016年から2017年にかけ、クラウドファンディングも活用した大規模リニューアルを実施したことでも知られています。そうして新たな環境で仕込まれた、新生・三郎丸としての原酒で3年熟成となる、三郎丸0”ゼロ”がついにリリースされました。

50PPMというこだわりのヘビーピート麦芽に由来する、ピーティーでしっかりと厚みや甘味のあるヘビーな酒質。これは他のジャパニーズモルトにはない個性と言えます。
今回のリリースは、同社酒販サイトALC限定で63%のカスクストレングス仕様(200本)と、通常リリースとなる48%の加水仕様(2000本)があり、どちらもバーボン樽で熟成した原酒のみをバッティングし、構成されています。
※()内はリリース本数。

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(三郎丸0カスクストレングス(左)と48%加水仕様(右)。ベースとなる原酒はどちらも同じ。外箱は富山県高岡市の伝統工芸品である高岡銅器から、銅をデザインに採用している。)

中身の説明に移る前に、三郎丸0THE FOOLの位置づけについて、裏面に書かれたメーカー説明文を補足します。
1つ目は、なぜ”ゼロ”なのか。
この手のリリースはファーストリリースであることを表記するのが一般的ですが、三郎丸は位置づけが少し異なります。
蒸留所責任者である稲垣さんに伺ったところ、2017年は厳密にはリニューアル過程の途中であり、旧世代の設備(ポットスチルの一部や、マッシュタン)が残って使われていました。進化の途中、リニューアル前後の三郎丸蒸留所を繋ぐ、1の前の”0”という意味があるそうです。

もう1つが、タイトルやラベルに描かれたタロット"THE FOOL"(愚者)について。
これは、裏ラベルでキーワードとして触れられていますが、単なる愚か者ということではなく、「思うところに従い、自由に進む者」という意味があるとのこと。
蒸留所のリニューアルやウイスキー造りは、稲垣さんが自分で考え、まさに愚者の意味する通り様々なアップデートや工夫を凝らして行われてきました。
そういえば、タロットカードとしての愚者の番号も「0」なんですよね。
若者の挑戦がどのような結末に繋がるのか、0から1へと繋がるのか。。。蒸留所としても作り手としても、分岐点となるリリースと言えます。

※蒸留所の特徴や設備、リニューアル・アプデートがもたらした酒質の変化等については、LIQULの対談記事(ジャパニーズクラフトウイスキーの現在~VOL.1 三郎丸蒸留所編~)で、詳しくまとめられています。今回のリリース、あるいは若鶴のウイスキーを飲みながら、ご一読いただければ幸いです。





前置きが長くなりましたが、ここから中身の話です。
三郎丸0 THE FOOL カスクストレングスは、これぞ2017年の三郎丸という前述の個性が全面にあり、バーボン樽由来の香味は引き立て役。ネガティブな要素も多少ありますが、それも含めてまとまりの良さが特徴の一つです。
加水版はまだ飲めていませんが、カスクストレングスを加水した感じでは、若さが多少出るものの、目立って崩れる印象はないため、方向性は同じと推察しています。

酒質の懐の深さと言うべきでしょうか。フレーバーの傾向としては、何度かリリースされたニューボーン等から大きく変わっていませんが、複数の原酒がバッティングされたことで味わいに厚みが出ています。GLEN MUSCLE  No,3でブレンドしたときも感じましたが、キャラは強いのにチームを壊さない。キーモルトとしても申し分ない特性を備えていると感じます。

一方で、リニューアル前となる2016年以前の原酒は、特徴的な厚みやオイリーさはプラス要素でしたが、設備の問題で未熟香に繋がる成分、オフフレーバーが多かっただけでなく、50PPMで仕込まれたはずのピート香が蒸留後は抜けているという症状もありました。一部愛好家からは酷評される仕上がりで、ニューメイクに至っては体が嚥下を拒否するレベルだったことも。
それがリニューアルを経て、ステンレス製だったポットスチルが改造され、形状はほぼそのまま銅の触媒効果が得られるようになり。また、酵母や仕込みも見直されたことで、現在の味わいに通じる下地が作られることとなります。

三郎丸ビフォーアフター
(リニューアル前後の三郎丸。画像右上にあるマッシュタンは、裏ラベルにも書かれた"縦長のマッシュタン"。麦芽粉砕比率は前代未聞の4.5:4.5:1。2017時点では継続して使われており、2018年に三宅製作所製の導入で半世紀に及ぶ役目を終えた。)

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(三郎丸蒸留所の設備や原料の遍歴まとめ。2018年以降も、段階的に様々な改修が行われている。つまり作り手も新しい環境へのアジャストが求められ、難しい5年間だったことが伺える。)

発酵臭や硫黄香といったネガティブ要素が大幅に軽減され、強みと言える厚みのある麦芽風味とピートフレーバー、オイリーな酒質が残ったのが、2017年のニューメイクです。
伝統の中でも良い部分を受け継ぎ、まさに過去と未来を繋ぐ中間点にある存在と言っても間違いないと思います。

2018年以降のものに比べると、まだ未熟要素が目立ちますが、熟成によって消えるか馴染むかする程度。何より、新たな旅を始めたばかりの蒸留所の第一歩に、これ以上を求めるのも酷というものでしょう。
実際、酒質的にも樽感的にも、熟成の余地は残されていますし、同蒸留所には冷温熟成庫があるため、日本の環境下でありながら20年以上の熟成が見込める点は、他のクラフト蒸留所にはない大きな強みだと思います。

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(原酒の受け皿となる樽も、バーボンだけでなくボデガ払い出しの長熟シェリー樽や、PX樽、ミズナラ樽、ワイン樽・・・などなど数多くある。いくつか利かせてもらったが、これから先が楽しみになる成長具合だった。)

自分はリニューアル以降、毎年蒸留所を訪問し、酒質の変化を見てきました。
大きな変化があった2017年、期待が確信に変わったのがマッシュタンを変更した2018年。2019年はポットスチルの交換や、乳酸発酵への取り組みもあって特に苦労があったそうですが、2020年はその甲斐あって、蒸留所改修プランの集大成ともいうべき原酒が生まれています。

つまり、今後リリースされる銘柄は、ますます酒質のクオリティが高くなっていくと予想できるのです。それは将来的にあの偉大な、巨人と称される蒸留所に届きうるまでとも。。。
勿論規模では比較にならないでしょうが、そもそもターゲット領域が違う話です。小規模だからこそ、実現できるアイデアもあります。(例えば良質な樽の確保や、アイラピート麦芽とか)
ああ、リアルタイムでこうした蒸留所の成長を感じられることの、なんと贅沢な楽しみ方でしょう。

4年前、飯田橋の居酒屋で稲垣さんから聞いた、無謀とも思えた蒸留所の再建プラン。今にして思えば、それはまさに"愚者"に描かれた若者の旅立ちだったのかもしれません。
愚者のタロットは、崖の上を歩く姿が書かれています。崖から落ちてしまうのか、あるいは踏みとどまって旅を続けていくのか。後者の可能性をニューメイクで感じ、シングルモルトがリリースされた今はもう疑いの余地はありません。
今後もファンの一人として、三郎丸蒸留所の成長・成熟を見ていけたら良いなと思います。

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改めて三郎丸0のリリース、おめでとうございます!

グレンマッスル No,5 First Growth 56% 三郎丸蒸留所 シングルカスクブレンデッド

カテゴリ:

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GLEN MUSCLE 
"No,5 First Growth" 
Age: Over 3 Years Old 
Type: Japan Made Whisky 
Cask type: 1st fill Bourbon Barrel (Single Cask Blended Whisky)
700ml 56%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後2週間程度
場所:自宅
評価:★★★★★★(6)

香り:焦げたオーク、焚き木やタール、土っぽさを伴うスモーキーな香り立ち。無骨なウッディネスの奥から、エステリーなニュアンスと、グレープフルーツやオレンジなどの柑橘香がシャープに鼻腔を刺激する。またほのかにBBQソースを思わせる甘さも香ってくる。

味:コクがあってオイリーな口当たり。チャーオークのキャラメルを思わせる甘みと、酒質由来の酸味。ボディは厚く、焙煎した麦芽を思わせる香ばしい甘さが下支えに。余韻はブラックペッパーのスパイシーさ、しっかりとピーティーでスモーキー。カカオを思わせるほろ苦さと、樽由来の焦げたウッディネスが染み込むように残る。

ピーティーで厚みのある三郎丸モルトの個性と、チャーオーク系の樽香を主とした香味構成。樽感は決して圧殺的な効き方ではなく、原酒の魅力を邪魔せず、若さを軽減して全体をまとめるような仕上がりとなっている。時間経過でバニラ香や、使われたスコッチモルト由来の華やかさ。少量加水するとさらにまとまりが良くなり、若いなりに整ったスモーキーな味わいが楽しめる。厚みがしっかりあるのでロックにしても悪くない。
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11月2日、私を含めた愛好家メンバーでリリースに関わらせてもらっているオリジナルブランド、グレンマッスルの第5弾が、若鶴酒造(三郎丸蒸留所)から発売されました。
※本リリースは既に完売となっております。ご購入いただきました皆様、本当にありがとうございました。入荷BARリストについてはとりまとめ完了次第、後日追記いたします。

モノは今年の3月に同蒸留所から発売されたグレンマッスル No,3 New Born Little Giantを、バッファロートレース蒸留所の樽で追加熟成した、シングルカスクブレンデッドです。
構成の約半分を占める三郎丸蒸留所のモルト原酒(2017年蒸留、バーボン樽熟成#274)がNo,3時点では2.5年熟成であったため、ニューボーンブレンドという位置づけでしたが、それが計3年熟成となり、スコッチの基準ではNew Born からWhiskyへと至ったことから、成長と品質を表す意味を込めて”First Growth”と名付けました。

グレンマッスルとは何か、あるいは本リリースのエピソードや我々メンバーの立ち位置については、過去の関連記事やNo,3のレビュー記事でがっつり語っているので省略します。(No,3の紹介記事はこちら
ブレンドの比率はモルト95%、グレーン5%で、キーモルトは前述の通り三郎丸モルト。残り半分の原酒は三郎丸蒸留所が保有していた熟成10年以上の輸入スコッチモルトとグレーンですが、一口にバルクといっても樽の違いやピートの濃淡等で多くの種類があり、これらの原酒を用いたオリジナルブレンドレシピの構築に、我々愛好家メンバーで関わらせてもらったわけです。

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(ラベルにも使用した、熟成庫内での原酒確認風景。ラベルを見た海外の方から「ビューティフルだ、是非ほしい」と蒸留所に直電まであったとのことで、何だか嬉しい。)

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(同じレシピのブレンデッドの熟成前後。グレンマッスルNo,3(右)に比べ、追加熟成を経たNo,5のほうが見た目も香味も色濃い仕上がりとなっている。その変化は、たった半年と侮ることなかれ。)

No,3時点では、三郎丸モルトの若さに加えて、モルト95%と攻めたブレンド構成から、それぞれの原酒のフレーバーがはつらつと主張するような、若さに由来する勢いも見え隠れする味わいでした。これはあえてそう仕上げており、追加熟成でバランスが取れてくることを狙っていましたが、結果は概ね予想通りとなったと思います。

各原酒のフレーバーは丸みを帯び、追加熟成に使った樽からエキス(あるいはバーボン)が染み出たのか、全体的にまろやかでキャラメルのような甘みが備わっている。そのため擬似的ですが、熟成感も3年が半分とは思えないくらいに感じます。
それでいて三郎丸モルトらしいピーティーさは健在。余韻にかけてはウッディな渋みが少々口に残ることから、これ以上熟成させた場合はバランスが崩れてしまったかもしれませんが、現時点では樽由来の要素として余市の新樽熟成や、あるいは焦げた木材のエキスやタール系の要素がピートフレーバーと合わさって、どこかラガヴーリン16年にも共通するニュアンスが感じられる・・・。
ちょうどいいところに落ち着いてくれて安心するとともに、改めて熟成のピークを見極める難しさを感じました。



(三郎丸蒸留所の最近の状況については、蒸留所責任者の稲垣さんにも協力頂き、Liqul誌の対談企画が詳しい。2017年のリニューアル前後の変化は前編、2018年以降やThe Foolの情報については後編を参照。)

Liqulでの対談企画や、No,3のレビュー記事でも触れていますが、三郎丸蒸留所は2017年にかけて行われた大規模リニューアルにより、巨人と称される偉大な蒸留所にも届きうる、素晴らしい個性を身に着けました。
酷評されていた酒質は過去となり、愛好家が、世界が驚くウイスキーが北陸の小さな蒸留所で育とうとしています。その蒸留所の個性を後押しするような、将来の姿と成長をイメージしてブレンドしたのが、No,3 New Born Little GiantとNo,5 First Growthです。


11月12日には、三郎丸蒸留所から初のシングルモルトリリースとなる、三郎丸0 ”THE FOOL”がリリースされる予定です。いよいよ、新生・三郎丸蒸留所の旅が始まります。
グレンマッスルNo,3やNo,5に関心を持たれている方は、三郎丸蒸留所の魅力についても既にご存じとは思いますが、構成原酒は同じ2017年蒸留のバーボン樽熟成原酒です。我々がイメージした将来の姿と、その蒸留所の現在地を、合わせて楽しんでいただけたら嬉しいですね。

最後になりますが、今回は結果的にラベルから中身まで、やってみたかったことが全て実現したリリースとなりました。
新型コロナウイルス感染拡大で様々な混乱もあるなか、蒸留所責任者の稲垣さんには我々のプランにご理解とご協力を頂きました。もう富山県に足を向けて寝られません。最大級の感謝を込めて本記事の結びとします。
また是非面白いこと、ワクワクするようなことを一緒に考えていけたら良いなと思います。

それでは今日はこの辺で。
See you Next GLEN MUSCLE・・・
mascle6_coming soon

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