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シングルモルト 三郎丸 令和6年能登半島地震 チャリティーボトル

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Single Malt Japanese Whisky 
SABUROMARU 
Noto Charity Bottle 
Aged 3 years 
Distilled 2000 
Bottled 2024 
Cask type Bourbon Barrel #200142 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートからしっかりと主張するスモーキーさ。グレープフルーツやレモンピールを思わせる柑橘香、燻した麦芽に土のアロマも伴う。

味:柔らかい麦芽由来の甘みを伴う口当たりから、ピートのほろ苦さ、スモーキーさが香り同様の柑橘感をともなって力強く広がる。余韻はピーティーでパワフル、焦げた藁や柑橘の綿、喉を通じて体の中心に熱い酒精が宿る。

三郎丸蒸留所のハウススタイルである、ピーティーな酒質の個性がはっきり感じられるシングルモルト。3年熟成という期間は一見すると短いが、雑味少なく柔らかい口当たりや香り立ち、存分に個性を発揮した構成。また、本リリースはアイラ島のピートではなく、スコットランド内陸で産出したピートで仕込んだ麦芽を用いているため、余韻にかけて強くスモーキーさが主張するのも特徴と言える。
この優しくも力強い味わいが、1日も早い復興の後押しと、被災地へのエールとなれば幸いである。
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令和6年能登半島地震によってお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。
本日紹介するのは、1月9日に若鶴酒造・三郎丸蒸溜所から発表(プレスリリースは1月16日に実施)された、令和6年能登半島地震への寄付を募るためのチャリティーボトルです。

本リリースでは、私もリリースメンバーの一員として原酒選定、各種文書の文案作成等で協力させて頂きました。
関東在住のくりりんが、なんでこのチャリティーに?と思われるかもしれませんが、これまでの活動や血縁関係で北陸地方には所縁があり、震災当日は偶然同地方に居たこともあって、現地の混乱も僅かながら経験しました。
能登半島等被害の大きな地域に比べれば私の経験は微々たるものですが、早期復興に少しでも協力できればと本企画に協力させて頂きました。

一般発売は1月22日から、若鶴酒造の直営オンラインサイトであるALCにて。その売り上げは消費税、資材費を除いた全額が、日本赤十字社の令和6年能登半島地震災害義援金に寄付されます。
生産量の限られる三郎丸において貴重な1樽を実質無償提供すること。さらに、本リリースとは別に、今やベストセラーとなった「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール缶」の売り上げを、一部義援金として寄付することまで発表されています。

三郎丸蒸留所があるのは本地震によって被害を受けている北陸地域であり、直接的な被害は少なかったとは言え、観光や消費の点では間違いなく影響があります。
自分達も苦しいが、それでも地域に恩返しがしたい。このプロジェクトには金額以上に、稲垣社長をはじめとした各メンバーの想いが込められていると感じます。



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さて、ここから先はチャリティーボトルの中身の話をしていきます。
今回のチャリティーボトル用に選定されたのは、三郎丸蒸留所で2020年に蒸留された、内陸ピート仕込みの原酒です。フェノール値は50PPMで、蒸留器は勿論ZEMON。その原酒をバーボン樽で3年5ヶ月熟成させた、シングルカスク・シングルモルト・ジャパニーズウイスキーとなります。

後日リリース予定のシングルモルト三郎丸Ⅳ The Emperor と、スペック上は同じタイプの原酒ですね。
蒸留所で貯蔵する同仕様の原酒から、蒸留所スタッフの花里さんがピックアップしたのは写真の3種。No,200223は口当たりが非常に強く、まだ熟成が必要だと感じましたが、残る2つは最初の飲み頃を迎えているかのように、好ましいフレーバーと柔らかい飲み口を備えていました。
No,200182はピーティーでありつつ、全体を通して柔らかい麦芽や樽由来の甘さが主体。
No,200142は口当たりこそ同じ系統だが、余韻にかけて力強く好ましい柑橘感が特徴。
サンプルを飲んだ感想は概ね同じで、推しは後者。その後のミーティングで、単体で完成度が高く飲んで元気づけられるような、良い意味での勢いがあるNo,200142の原酒が全員一致で選ばれます。

なお、この原酒は昨年9月ごろ一度サンプリングされており、その際の下野さんの感想は今回のものとは全く別だったそうです。ギスギスとして溶剤系の刺激も強く、内陸ピートの仕込みであることからスモーキーさは強烈で、アイラピートの出汁感や柔らかさは出ていない、もっと暴れた印象の強いものだったとか。
それがわずか4-5ヶ月でこれだけの変化がある。熟成によるウイスキーの成長は、まさに男子3日会わざれば…と言うことなんですよね。今回選ばれなかった2種も、他の原酒同様に今後ますます成長していくでしょうし、次のサンプリングでは全く別な表情を見せてくれると予想します。


2024年1月1日、ちょうど新潟の南魚沼~長岡あたりの地域に自分は居ました。
同地域の震度は5強~。東日本大震災を想起させる揺れでした。
幸い、私の周囲に地震による直接の被害はなく。
普段やり取りするメッセンジャーのグループで、稲垣さんや下野さんの無事は確認。蒸留所も無事。ハリーズ金沢は少しばかりボトルが破損したようですが、マスターの田島さんも無事。まあT&Tの両名は元日から風邪で寝込んでいて、違う意味では無事じゃなかったのですが。
そしてその後、徐々に明らかになる震災の被害の大きさ。復興への険しい道のり…。

最初はBULKシリーズで復興支援ボトルをどうかと提案したのですが、それでは意味がないと稲垣さん。実は既に三郎丸モルトでチャリティーボトルをリリースしようと考えていたのだとか。そこからが早かったです。リーダーシップとはこういうものだと、見せつけられるような指示の速さ、周囲の仕事の速さで企画が動いていきます。
ラベルを書かれたコーラ氏(@c_o_l_a)に至っては、僅か2~3日でこの作品を完成。デザインもあっという間に決まり、当初予定より大幅に前倒してのリリース発表へと繋がります。

ラベルに描かれたのは、能登半島の見附島。今回の地震で大きな崩落があったことが報じられた、能登のシンボルとして知られている名所です。その在りし日の姿と昇る朝日に復興への想いを込めたNoto Charity Bottle。
この1本が、一日も早い被災地域の復興の一助となれば幸いです。

シングルモルト 三郎丸Ⅲ THE EMPRESS カスクストレングス 60% ヘビリーアイラピーテッド

カテゴリ:
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SABUROMARU 3 
THE EMPRESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
Cask Strength
Heavily Islay Peated (45PPM) 
Distilled 2020 
Bottled 2023 
One of 1800 bottles
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはレモンやグレープフルーツ、黄色を帯びた柑橘香、灰のような柔らかいスモーキーさ。微かに根菜、スパイス、オーク香。そして淡い薬品香を伴う。

味:コクのある口当たりから、グレープフルーツや柑橘、香ばしい麦芽風味、そしてピーティーなフレーバーがしっかりと広がる。中間以降は力強く、ジンジンとした刺激、奥にはバーボン樽由来のオークフレーバー。合わせて塩気やダシのような厚みがあり、ほろ苦くスモーキーなフィニッシュへとつながる。

今はまだ若さもあるが、全体的にネガティブなフレーバーが少なく、コクのある口当たりや柔らかいスモーキーさが女性的な印象も感じさせるモルトウイスキー。個人的な印象は、カリラとラガヴーリンに、少しアードベッグを加えたような…。
前半部分の口当たりの柔らかさやコク、雑味の少なさはZEMON由来、柑橘系のニュアンスは木桶発酵、そして余韻にかけての出汁感、繋がりのある味わいや柔らかく特徴的なスモーキーさはアイラピート由来と多くの新要素が感じられる。熟成感も過度に樽が主張しておらず、5年、10年後が楽しみな1本。

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年々進化を続ける若鶴酒造・三郎丸蒸留所。
今年については、映画「駒田蒸留所へようこそ」でも話題になっており、そのリリースにも注目が集まっているところ。いよいよ今年のシングルモルトリリース、三郎丸Ⅲ THE EMPRESS(女帝)が発売されました。

三郎丸蒸留所で、稲垣マネージャー主導で2016年から始まった大規模な再建計画と、三郎丸としてのブランドの立ち上げ。今回の原酒の仕込みの時期となる2020年は、その最終段階にして、若鶴酒造のウイスキーではなく、真に三郎丸蒸留所のハウススタイルやコンセプトを体現するウイスキーの仕込みが行われた年となります。
え、それはクラウドファンディング明けの2017年ではないのか、と思われるかもしれませんが、2017年〜2019年の仕込みは一部旧世代の設備等を用いているため、若鶴酒造のウイスキー事業として名もない蒸留棟だった旧時代から完全に切り替わったわけではありませんでした。

昨年リリースされたシングルモルト三郎丸Ⅱも、2019年に自社開発のポットスチルZEMONによって蒸留された原酒でリリースされていますが、2019年の蒸留の際に余溜として用いられたのは、前年2018年まで使用していた旧世代の改造ポットスチル時代のもの。
蒸留に難しさもあった2019年の原酒から、注意深くテイスティングすると旧世代の個性を感じるのはそのためです。

三郎丸蒸留所はコンセプトとして「THE ULTIMATE PEAT(ピートを極める)」とともに、目指すシングルモルトは「1970年代のアードベッグ」を掲げています。
2020年の仕込みからは、重要なポイントとなる“アイラ島で取れたピートで製麦したモルト”を原料に用いて蒸留することで、従来の内陸産ピート由来の野焼きのような強いスモーキーさから、柔らかく個性的なスモーキーさに変わり。
味わいへの影響としては、余韻にかけてダシっぽさやコク、あるいは塩味といったアイラモルトにも通じる個性が得られています。
また、これまでのリニューアルで手を入れられてこなかった発酵槽も新たに木桶を導入。これで原料、粉砕、糖化、発酵、蒸留、そして熟成。全ての行程が三郎丸仕様になり、目指すシングルモルトの姿に向け、大きな1歩を踏み出したのです。

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(アイラ島、ブルックラディ蒸留所近くのピートホグで採掘されたアイラピート。内陸ピートとは成分が異なり、アイラモルト特有とも言われるヨード香や塩気に由来すると考えられる。稲垣マネージャーが現地を訪問した際、自社の仕込みの量であれば契約可能であることが判明し、アイラピート麦芽の供給契約を締結。)

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(2020年から導入された木桶発酵槽。最初は1基だけだったが、のちに2基となった。96時間の発酵行程のうち、蒸留前の一定期間をホーローから木桶に移して実施する。これにより、乳酸発酵が促されて味わいの複雑さ、柑橘系のフレーバーが際立つ。)

三郎丸Ⅲ THE EMPRESSに関し、これまでのリリースからもう一つ変化があるのが、熟成における樽由来の成分の出方、樽感の濃さです。
過去のリリースと今作とで樽感を比較すると、三郎丸Ⅲのほうが淡く、スコッチウイスキー寄りのまとまり方をしている印象を受けます。
これは熟成期間のうち2022〜2023年の1年間、T&T TOYAMAの井波熟成庫に移して熟成をさせたため、その効果があったものと考えられます。
井波熟成庫は断熱を重視した部材、設計が用いられており、1年を通じて安定した熟成が可能となっています。

参考までに、以下写真の通り三郎丸ⅡとⅢの色合いを比較すると、Ⅱのほうが若干濃い色合いです。これが10年熟成原酒なら微々たる違いかもいれませんが、これらの原酒はまだ3年で、効果があったのはうちⅢの1年のみ。味についてもⅡの方が樽感がアバウトというか、濃くでた分原酒に馴染みきっていない印象を受けます。
一方で、樽感が若干淡くなったこともあり、今までより少し若いニュアンスが感じられるのも特徴かもしれません。しかし今回のリリースはあくまで3年熟成です。3年としては十分酒質は整っているのですが、樽感としても酒質としても、今後の伸び代が残されていると見ることが出来ます。

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以上のように、年々進化を重ねる三郎丸蒸留所のウイスキーの中でも、この2019年から2020年の間は、原料や設備のアップロードから非常に大きな変化があったことが感じられるリリース。少なくとも、これまでの三郎丸蒸留所のウイスキーと三郎丸Ⅲ THE EMPRESSとでは、全く違う印象を感じられると思います。

ちなみに、2020年の仕込みはアイラピートの他に、従来と同じ内陸産ピートでの仕込みも行われています。
稲垣マネージャーの話では、その原酒を用いたシングルモルトは2024年5月ごろ、「シングルモルト 三郎丸Ⅳ THE EMPEROR」としてのリリース予定とのこと。フェノール値はⅢが45、Ⅳが52でほぼ同じ。ピートフレーバーは熟成期間が長いほどこなれて馴染んでいくため、アイラピートと内陸ピートの個性の違いを学ぶという意味では、これ以上ないリリースになるかと。。。

それこそ今までは熟成環境由来とされていたアイラモルトの個性が、ピートに由来することが大きかったという事実から、ウイスキー愛好家として得られる経験値は大きいと思います。
言い換えるとアイラモルトを日本で作っただけでは?…ということもありません。オリジナルの蒸留器ZEMONは日本唯一です。
三郎丸蒸留所のファンは勿論、今までのリリースはあんまり…と言う方も、ぜひ飲んでみて欲しいですね。

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(三郎丸蒸留所限定で販売が始まった、三郎丸ランタン。ものづくり好きな稲垣マネージャーらしい公式グッズである。)

シングルモルト 三郎丸 2019-2023 The Ultimate Peat 61% 特装版

カテゴリ:
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SABUROMARU 
The Ultimate Peat 
Single Malt Japanese Whisky 
Distilled 2019 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrel #190093 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)

香り:スモーキーでビター、和柑橘を思わせるアロマに微かに根菜や発酵香、焦げた木材や藁、灰のような香りも混ざる。スワリングするとオレンジピールやキャラメル、ほのかなオーク香。

味:甘酸っぱくスモーキー、オイリーな口当たり。柑橘やチャーオークの甘さ、ウッディネス。そしてビターなピートフレーバーがしっかりと広がる。
余韻はほろ苦くピーティーで力強い。オークフレーバーがその奥に混じり、グレープフルーツの綿やオレンジ等を思わせる果実味が隠し味となって複雑で長く続く。

やや若さに通じるところはあるが、力強いスモーキーフレーバーと柑橘系の要素、三郎丸らしさがしっかりと感じられる1本。2018年のZEMON導入前に比べて洗練された酒質に、樽感が程よく混ざりあう。樽感は華やか黄色フルーツ系より、少し焦げ目がついた新樽寄りのタイプで、それがピート由来のほろ苦い香味と馴染んでいる。
口当たりは61%あるとは思えない柔らかさ。本リリースの特徴で、専用グラスでなくとも充分美味しさと個性を楽しめる。

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なお、上記通常使っている木村硝子テイスティンググラス1でのレビューだが、The Ultimate Peat Glassを使うことでこれらの要素が混ざり、ピートのスモーキーさと樽由来の甘やかなアロマが主体でネガティブ要素も一層少なくなり、口当たりのスムーズさで美味しさが際立つ。
まさに、良いフレーバーを引き出し、力強いピートフレーバーと三郎丸の酒質がバランスよく融合した味わい。

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三郎丸蒸留所の「ピートを極める」をコンセプトに、その個性や美味しさをストレートに伝えられるように製作したオリジナルグラス「The Ultimate Peat Glass」。このグラスの特装版として発売された、アタッシュケース付きモデルに付属していたのが、今回のテイスティングアイテムです。

本テイスティンググラスの設計には自分も関わらせてもらった訳ですが、「こういうのできませんか?」と、悪ノリで提案したモノが本当に形になってしまったのが本品だったりします。
元ネタは某グラスメーカーのイベント用アイテムと思しき、同社の最上位モデルのワイングラス8種が全て入ったケース。アタッシュケースかっこいいなー、こういうのあったら良いなぁ、2脚セットとかでどうだろうと。

ほら、男性ならアタッシュケースに憧れることは1度くらいあるじゃないですか(特に思春期)。
しかし稲垣さんからは、やれますね、とサムズアップがメッセンジャーで返ってきたくらいのリアクションで、社交辞令だと思っていたらまさか本当に作るとは(笑)。
しかもこのグラス用のウイスキーとセットですよ。完成の連絡を受けて、思わず笑ってしまいました。

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※The Ultimate Peat Glass 特装版内容:専用アタッシュケース、シングルカスク三郎丸2019-2023、専用グラスクロス、ピンバッチ、The Ultimate Peat Glass。これにボトルを入れて持ち歩く日は来るのだろうか…。

そんな個人的な趣味全開のアイテムに対して、付属のウイスキーはピーティーでスモーキーな本格派。また、樽感と酒質、このグラスで楽しむのにちょうどいい塩梅です。
2019年の三郎丸は、独自開発した鋳造ポットスチルZEMON導入によって酒質がさらに向上。数値上では苦労が見られますが、三郎丸が目指すウイスキーの個性が、原酒の成長とともに間違いなく洗練されて感じられます。
一方で、今回の1本は三郎丸の2019年の原酒の中では決してあたりとか、突き抜けた品質というわけではないようにも思います。

いわば、三郎丸モルトとしては平均的なキャラクターの一つ。今後、5年、8年と熟成を経て、間違いなく完成度が高まる余力があるようにも感じられます。
なお、今回の特装版ですが最初に予定していた販売数は瞬殺。その後追加販売もあるなど、想像以上に好評でした。
自分の知人(アジア圏の方)は、これは一体どこで買えるんだ、素晴らしいアイテムだと興奮気味に語っていました。ああ、やっぱりケースって大事なんですね(笑)。

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オマケ:自分が見かけたアタッシュケース入りグラスセット。こういうの作れませんか?この一言が、まさかこんな結果になろうとは。

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール 缶ハイボール 9% 2022年リリース

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2022年12月1日、三郎丸蒸留所から「富山スモーキーハイボール」として販売されていた缶ハイボールが全面リニューアル。
名称を「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」として変更し、構成原酒も三郎丸の稲垣氏が開発したポットスチルZEMONで蒸留したモルト原酒をブレンドするなど、外観も内容も大幅に刷新してのリリースとなります。

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール
355ml 9%
1缶 270円(税抜)
プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3543
PR動画:https://youtu.be/T7BMBoXDKjo

あれこれ書く前に飲んだ感想だけ述べると、これは美味いです。
リニューアル前後で比べたら、飲み口は一層クリアで、そこからしっかりピーティーなフレーバーが広がり、香ばしさとほろ苦さ、余韻は適度にドライでキレが良い。…
先にレビューしている三郎丸Ⅱ ハイプーリステスでも感じた洗練された味わいとなり、ハイボールとしての完成度も上がっているように感じられます。

そのまま飲んで良し、食中酒として使ってよし。この手の系統のスモーキーなウイスキーのハイボールを作るために、ウイスキーにソーダに氷にと、一式揃えて家で作るなら、もうこれで良いじゃんというレベルです。
価格はリニューアル前が税抜270円、リニューアル後が税抜298円で、約30円ほど上がっていますが、味が良くなっているので個人的にはまったく問題なし。
ここは価値観が分かれますが、例えば中途半端に安くて我慢しながら飲む酒よりも、ちょっと高くなっても良いからその分満足できる商品が良いなと思ってしまうんですよね。

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※今回リニューアルしたハイボール缶に使われている原酒を生み出す、三郎丸蒸留所独自のポットスチルZEMON。老子製作所との共同開発、世界で初めて鋳造で銅と錫の合金によるポットスチルを実現した。クリアでありながら厚み、重さのある原酒を生み出す特徴がある。

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ここで昨年リニューアルした富山スモーキーハイボール8%の特徴を振り返ると、同様にクリアでスモーキーな味わいながら、旧世代の三郎丸を思わせる若干の癖、根菜のようなニュアンスが僅かに感じられました。
それが普段使い、食中酒とした場合どうかというと、そこまで気にするものではないというレベルですが。

ただ、人間とはかくも欲深い生き物で、良い状態と悪い状態を比較すると、それまでこれでいい、あるいはこれが最高だと思っていたもので満足できなくなるんですよね。
だからこそ、人はより良きモノを求めて文明を発展させ、進化を重ねてきたわけです…。現状に満足しない、その向上心が生み出したのが今回の三郎丸ハイボール缶のリニューアルだと言えます。
おそらく、組み合わせる原酒の比率から、2019年以降が増え、特に2017年以前の原酒が減ったのでしょう。そこに輸入スコッチバルクウイスキーで、比較的クセの少ないピーティーなものや、グレーンを加えて非常に上手に作ってきたなという印象を受けます。

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※ハイボール缶が届いた当日、メニューは鶏大根。ヤバいぐらい相性が良かったです。無限に飲み食いできましたね。(語彙力)

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※三郎丸蒸留所のスモーキーハイボールプロ仕様。三郎丸Ⅱカスクストレングスをフロートしてスーパーハイボールに。これもスモーキーハイボールとして間違いない美味しさ。

こうしてよりクリアでスモーキーになったハイボール缶の真価は、夏場ならキンキンに冷やしてそのままで頂くのが一番ですが、今の時期は食中酒として合わせて、年末年始の食環境を充実させるのが一番だと考えます。
例えばコタツに入ってハイボール。飲み終わったのでいちいち底冷えする台所で作るか、冷蔵庫からサッと取り出して5秒で本格ハイボールか。どちらも同じクオリティなら、私は迷わず後者を選びますね。

そもそもこの缶ハイボールは、蒸留所マネージャーの稲垣さんが、家飲みするために作ったもの。いちいち準備するのがめんどくさいので、さっと本格ハイボールを飲めたらという考えで開発したものであり、その観点から見れば、今回のリニューアルで確実に完成に近づいたと言えるように感じます。(ブレンドも、部下に任せず稲垣さん自身が手掛けているとか。)
リニューアルしてラベルが変わると味が落ちる、あるいは薄くなるというのはウイスキー業界あるあるですが、ここではさらなる完成度のハイボールを味わえる。
ピートフリークの皆様は、年末年始用に今からでも調達されてみてはいかがでしょう。きっと満足できる味わいだと思いますよ!

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三郎丸Ⅱ 2019-2022 ハイプーリステス カスクストレングス 61%+46%加水版比較

カテゴリ:
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SABUROMARU 2 
THE HIGH PRIESTESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Cask Strength 
Distilled 2019 
Bottled 2022 
One of 600 bottles 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:燻した麦芽と樽由来の甘いアロマ、はっきりとスモーキーなトップノート。野焼きの香りと焼けたオレンジのような焦げ感、ピートスモーク、土っぽさ、微かにジンジャー。それらに押し込められたオーキーな要素が厚みとなって柑橘感を後押ししている。

味:ネガティブな要素が少なくクリア。乾いた麦芽と醤油煎餅のような香ばしさ、ほのかな柑橘感、焦がした木材や土っぽさを感じるスモーキーさが力強く広がる。
余韻は高度数らしくジンジンとした刺激が口内にあり、鼻抜けはスモーキー、ビターなピートフレーバーが長く続く。

今はまだ溌剌とした若さ、勢いの強さも目立つ構成であり、人によっては未熟と捉えるかもしれない。しかしその酒質は変に傾いた要素もない無垢なもの。これから熟成を経て複雑さや果実感を纏っていくだろう伸び代、大器を感じさせる。成長の方向性はアードベッグやラガヴーリン。これで“完成”はしていないが、2016年以前からは考えられない進化、洗練された味わいである。
数年後、最初のピークを迎えるだろう「未来」に想いを馳せる楽しみもある。まさに新時代のはじまりの1杯。

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※(リリース比較)本シリーズは毎年カスクストレングスと加水仕様がリリースされている。今年のリリースは雑味が少なくピートと麦芽由来の風味がダイレクトに感じられるが、加水版はその荒々しさが整えられて非常に親しみやすい。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、三郎丸の進化とZEMONの可能性は、どちらを飲んでも感じられる。

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先月リリースされた、三郎丸のタロットシリーズ第3弾。
本ブログの読者であればご存知の方も多いと思いますが、三郎丸蒸留所は2016年から17年にかけての大規模改修工事の後、1年毎に新しい取り組みを実施しています。
そのため、各年の仕込みから3年熟成で構成されている本シリーズは、段階的にその取り組みの効果を確認できる、ただの3年熟成リリース以上の意味を持つシリーズとなっています。

【関連情報】
2017年 大規模改修
2018年 三宅製作所製マッシュタン導入
2019年 鋳造製ポットスチルZEMON開発・導入
2020年 発酵層の1つを木製に(ステンレスで発酵開始→発酵最終段階を木製へ)。アイラピーテッド麦芽の仕込み実施
・・・
※詳細はJWICを参照いただくとより詳しく記載されています。(参照先はこちら

そして今年のリリース、三良丸Ⅱのポイントは、なんと言っても同蒸留所マネージャー(現若鶴酒造CEO)の稲垣貴彦氏が老子製作所と共同開発した、ZEMONで蒸留された原酒が初めてシングルモルトとしてリリースされることにあります。

三郎丸蒸留所は、2018年までは若鶴酒造としてウイスキーを作っていた旧時代のステンレスポットスチルのネック部分から先を銅製に改造した、改造スチル(写真下・左)でウイスキーを仕込んでいます。蒸留所の機能としてはリニューアルを経て向上していたものの、旧世代のウイスキーづくりから脱却したとは言い難いものでした。
この点に関して稲垣さんの想いは非常に強く、本ボトルの裏ラベルに記載されたメッセージでも、これからが始まりであることを強調されています。

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さて、世界初となる鋳造製ポットスチルZEMON(写真上・右)。銅92%、錫8%の合金で作られるスチル。その特徴は様々な媒体で語られているため改めて記載することはしませんが、違いは明確に現れました。
私の記憶が確かならば、今から2年前の2020年に三郎丸0がリリースされた時。その進化を評価しつつも、三郎丸はまだこれからであると。今後間違いなく、さらに良いウイスキーがリリースされてくると。そういうレビューをしていました。
既に2019年、2020年のニューメイクをテイスティングしており、間違いないと確信があったためです。

ただし1つ不安があったとすれば、2020年には改善されたものの、2019年の酒質はニューメイク時点で少しぼやけた印象があり、ピートフレーバーは2018年の方が際立って感じられた点にあります。
ウイスキー造りの心臓部とも言えるポットスチルが全て変わったのですから、カットポイントなどその使い方で苦労があったという話。トライ&エラーがあるのは当たり前でしょう。
分析結果、数値の面でもネガティブな風味に繋がる要素(グラフ上段)で一部2018年の原酒を越えている点があり、これがニューメイク時点での「ぼやけている」という感想に繋がったのだと思います。

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しかし今、目の前にある最低限の熟成を経た三郎丸Ⅱをテイスティングし、改めて三郎丸Ⅰもテイスティングし、熟成による成長の違いを如実に感じています。三郎丸Ⅰはだいぶ暴れてますが、Ⅱの方は素直に、確実に成長している印象を受けます。
今後熟成を経ていく中で、さらに洗練されて、複雑さを増していく、3年間でその下地が出来た状況であるようにも感じます。

これに関して同様のイメージを思い起こし、頷いた方々もいらっしゃるのではないかと思います。
新酒を飲み、成長過程を飲み、そして未来をイメージする。既に完成品したリリースはそれはそれで良いものですが、10年、20年前となると当時何があったか分からない蒸溜所も珍しくありません。変化を知り、今だけでなく、過去や未来の姿との比較も含めて楽しめる。これこそ現在進行形で成長する、新興クラフト蒸溜所の最大の魅力だと感じる瞬間です。

なお、三郎丸のZEMONですが、ポットスチルが全て変わったのは事実ですが、改造スチル時代の良い部分を引き継ぐために一部類似の設計を採用しています。
それはスチルのネックが折れ曲がった先、ラインアームの角度と短さです。角度は兎も角そんな短いか?と思われるかもしれませんが、改造スチルはラインアーム部分約1m先から冷却機となっており、物凄くラインアームが短いのです。
三郎丸の重みと厚みのある原酒はここから産まれると考え、ZEMONも同様にラインアームはかなり短く設計されています。
良いものは使い、そうでないものは変えていく。変えない勇気がある一方で、変える勇気もある。若い稲垣さんだからこそ出来る柔軟さ、チャレンジスピリッツが三郎丸の魅力なんですよね。

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※蒸留所に展示されているZEMON開発の実験機。合金であっても同様の触媒反応があることだけでなく、鋳造の場合表面に細かい凹凸が出来ることで接触面積が増え、さらに高い効果が見込まれる等、様々なメリットが確認されている。

一方で少し気は早いですが来年のリリースはどうなるか。冒頭まとめたように、実は来年も設備面で変化があるだけでなく、それ以上に日本のウイスキー業界にとって前例のない革新的な取り組みの過程が、形になろうとしています。
そう、アイラ島産のピートを使ったモルトウイスキーの仕込みです。
稲垣さんが目指すウイスキーの理想像は、アードベッグの1970年代。アイラらしいフレーバーはピート成分の違いから産まれるのではないかと考え、現地で調達したピート、麦芽を使った仕込みが2020年に行われています。

つまり来年は
・三宅製作所マッシュタン
・木桶発酵槽(最終のみ)【2022NEW】
・鋳造製ポットスチルZEMON
これらの設備で仕込んだ
①内陸ピートを使った従来のピーテッドモルト原酒(52PPM)
②アイラピートを使ったピーテッドモルト原酒(48PPM)
以上2つ。時期はずらすことになるかもしれないが、2種類ともリリースされる予定と聞いています。

ニューメイクの時点で、既に違いがはっきりと出ていましたが、その違いは熟成後どうなったのか。。。
これまで仕込んできた原酒の成長だけでなく、来年のリリースも今から待ちどおしいです。

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