安積蒸溜所 山桜 ザ・ファースト ピーテッド 50% 笹の川酒造

ASAKA PEATED
"The First"
YAMAZAKURA
JAPANESE SINGLE MALT WHISKY
Phenol 50PPM
700ml 50%
評価:★★★★★★(6)(!)
原酒構成の主体ばバーボン樽熟成のそれ。未熟香の少なさから若さは目立たず、適度にコクのある口当たりからフレッシュなスモーキーさ、柑橘系のアクセント。フルーティーというよりも、酸味や柑橘の皮を思わせるほろ苦さがあり、余韻に残るピートフレーバーには、バーボン樽由来のオーキーさと、モルトの甘み、香ばしさが混ざる。
香味の傾向は、アードベッグかカリラにラフロイグを足したようなイメージ。勿論ピートフレーバーの傾向が違うので、余韻にかけてはヨードや磯っぽさではなく、焚き木や野焼きの後のようなスモーキーさが主張してくる。その点、ピートはポートシャーロットタイプと言えるかもしれないが、酒質そのものの傾向が異なっており、クリアで柔らかい麦芽風味としっかりとした酸が特徴。嫌なところは少なく若さがプラスに働いて、いい意味でフレッシュなフレーバーを楽しめる。

安積蒸留所(笹の川酒造)が、2016年の再稼働後、2017年から仕込んでいた最初のピーテッドモルトで、3年熟成を迎えた原酒をバッティングした1本です。
2021年に入って最初に我が家に迎えた1本で、これは美味い、いや上手いと言うべきでしょうか。正直、驚かされました。
スコッチのピーテッドモルトに置き換えるなら、8年程度の熟成を思わせるクオリティ。勿論、香味の中に熟成の短さを感じる部分が全くないわけではないですが、大半は嫌な若さではなく、ピートフレーバーに勢いがあることで、はっきりとしたスモーキーさを味わえる点がポイントです。
また、加水ですが程よく骨格が残った口当たりで、樽感、酒質的にもまだ成長の余地を感じる仕上がり。3年でこれは十分すぎる完成度と言えますし、あと5年後のリリースが今から楽しみです。

当ブログの読者の皆様に前置きは不要と思いますが、安積蒸溜所のある福島県郡山市は、個人的に所縁があることもあって、2016年の蒸留所再稼働初期から成長を見させてもらってきました。
ニューメイクも、ニューボーンも、蒸留所見学でのカスクサンプルも・・・。
直近だと、2019年にリリースされた、安積蒸留所の3年熟成第一弾・ノンピート仕様のASAKA "The First"(写真右)は、控えめな樽感の中に、酒質の素性の良さを感じることが出来る仕上がり。現時点では完成と言えるレベルではないものの、問題を先送りした「将来に期待」ではない、純粋に成長を期待させる1本でした。
そうした経験値から、今回のリリースについても安積蒸溜所のキャラクターなら・・・と、ある程度予測をしていたわけですが、正直このピーテッドはそれを大幅に上回っていたのです。
酒質の素性の良さ、安積らしい柔らかい麦芽風味の中に酸味の立つような味わいが、ピートフレーバーと合わさって、どこかスコットランド的なキャラクターも感じます。良い熟成の傾向ですね。
こうして評価すると「いやいや、くりりんさんは安積推しだから、甘くつけてるんじゃないの?」と、そんな読者の声が聞こえてきそうですが、本音で思ってなきゃここまでストレートには書きませんから(笑)。行間読んで、行間。
ただ、飲んでいてあれ?と思ったのが、3年前に安積ピーテッドのニューメイクを飲んだ印象は、カリラとラガ、それこそ「ラフロイグっぽい感じじゃない」とまで3年前の自分は言い切ってるんですよね(汗)。
それが今回のコメントですから、当時の自分には猛省を促したい。。。でも再度ニューメイクを飲んでも、今回のリリースで感じたようなラフっぽさはないので、原酒の成長って面白いなと。
こういう成長をリアルタイムで経験できるのも、今の時代を生きる我々愛好家の特権ですよね。

ちなみに、他のクラフトのピーテッドはどうかというと、最近リリースされた津貫、静岡含めて全蒸溜所の3年熟成前後の通常リリースは全て飲んでいますし、カスクもいくつか頂いていますが、2016-17年蒸留ならシングルカスクは厚岸、通常リリースなら安積が一番好みでした。
比較対象として、手元にあった3年熟成のキルホーマン100%アイラ 1st Release 50%と比べても、安積のほうが酒質の素直さというか、素性の良さを感じます。
ここに2018年は設備をバージョンアップした三郎丸、麦芽の粉砕比率などを見直した長濱も入ってくるので、日本のクラフトの成長はまさにこれからで、目が離せません。
一方、今回の安積ピーテッドは複数樽のバッティングで、加水調整もされています。樽毎の違いから、必ずしもすべてが良い熟成ということはなく、作り手の調整によってカバーされている要素もあるでしょう。若い原酒は特にそうした違いが大きい印象があります。
それでも、良い原酒が無ければこうしたリリースにはなりません。若い原酒の制限があるなかで、まさに”上手く”作ったなと感じるわけです。
安積蒸留所については、蒸溜所そのものの認知度というか、蒸溜所の印象としてノンピートのほうが強いのではないでしょうか。ピーテッドについてはあまり知られていないと思いますが、今回のリリースは是非どこかで飲んでみてほしいですね。
安積の蒸留所に関する印象が変わることは、間違いないと思います。

【今日のオマケ】
笹の川酒造 純米吟醸 搾りたて生 初しぼり。
年末年始のお供でした。華やかでリンゴや洋梨のような吟醸香のフルーティーさ、クリーミーで柔らかい口当たり、仄かにヨーグルトの酸、玄米のような苦みが微かに。
しつこすぎない吟醸香とフルーティーさ、バランスが良く、すいすい飲めて1本すぐに空きました。
最近、年末年始のお供となりつつある、安積蒸留所を操業する笹の川酒造仕込みの日本酒です。
個人的に笹の川の日本酒は、スタンダード品だと「ああ、一般的な日本酒ってこうだよね」と感じる、ちょっともっさりしたような米感のあるタイプだと整理しているのですが、こういう限定品は洗練された、フルーティーさと吟醸香のバランスが取れた1本に仕上がっているのが多いですね。
蒸溜所見学に行くと売店で試飲も可能です。コロナ禍で見学は難しいかもしれませんが、機械があればウイスキーと合わせて日本酒も是非。