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津貫 ザ・ファースト 3年 59% & ピーテッド 3年 50% マルスウイスキー

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TSUNUKI 
”THE FIRST” 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 59% 

評価:★★★★★(5)

トップノートは熟してない青いバナナのような、硬さと酸を伴うアロマ。グラスをそのままにしていると、麦芽由来の甘みに加え、品の良いフルーティーさがとひっそりと立ち上ってくる。一方で、スワリングすると若い樽感が強めの刺激と共に解き放たれて、荒々しい要素が全体を支配する。複数種類の樽を使っていることでの変化だろう。味はスワリング後の香りの傾向で、パワフルで若い酸味を伴う麦芽風味、そして粗さの残るウッディさ。余韻はハイトーンで、微かにえぐみ、ハッカや和生姜のようなハーブ系のニュアンスを残す。

全体的にまだ若いため、大器の片りんを見せる一方で、それ以上に粗さ、強さが目立つ。ただし粗さといっても、オフフレーバーが強いわけではない。加水することで温暖な環境下で短期間に付与されたウッディさが軽減され、熟成した駒ケ岳に通じるリフィルシェリー樽由来と思しき品の良いフルーティーさと麦芽の甘みが開く。まさに原石という表現がぴったりくるウイスキーである。
近年、クリアで穏やか、度数を感じさせない若い原酒がクラフトシーンに多く見られる中で、津貫は真逆の強さの中に、麦感に粥的な甘みや淀みのある、クラシカルな原酒という印象を受ける。


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TSUNUKI 
"Peated" 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 50% 

評価:★★★★★(4ー5)

スモーキーでウッディな香り立ち。スモーキーさは柔らかく内陸系、ライト~ミディアムレベルの効き。ほのかに梅干しを思わせる酸味、奥にはエステリーな要素もあるが、それ以上に焦げたような樽感、カカオパウダーのような苦みを連想する要素が主体的。口当たりも柔らかくスムーズでスモーキー、出汁っぽい樽感があり、そこを支える麦芽風味と言う流れだが、全体的に骨格が弱い。
余韻は穏やかで落ち着いている。樽酒のようなウッディネスの中に若い原酒由来のえぐみのようなフレーバー、ピートと共に染みこむように消えていく。

バーボンバレル主体と思われるが、華やかでフルーティーな効き方ではなく、短期間でエキス分、チャー部分の焦げ感が効いている。馴染んでいくのはこれからというような、和的な材質の影響や、温暖な環境下での短期間熟成を思わせる仕上がり。ピートは内陸系で、ヘビーピートからライトピートまでいくつかの原酒を混ぜて調整しているのか、あまり強く主張しない。
THE ファーストと比較すると加水調整が強い分、粗さもまとめられているが、その影響か奥行きやフレーバーの骨格が弱い印象も受けた。もう少し様子を見ていきたい。

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長濱、三郎丸、安積、静岡ときて、津貫のレビューを掲載していませんでした。なので今回の更新では2020年に発売された津貫のファーストと、ピーテッド、同時テイスティングです。
どちらもBARのテイクアウト品となります。特に津貫ピーテッドは緊急事態宣言下での発売となり、しばらく飲めないと思っていましたがウイスキー仲間経由で手配いただけました。いつもありがとうございます!

津貫蒸留所はマルスウイスキー(本坊酒造)が2016年に鹿児島・津貫にある同社の焼酎蒸留所に併設する形で整備した、新しい蒸留所です。
マルスと言えば信州蒸留所ですが、これで冷涼な気候である長野・信州と、温暖な気候である鹿児島・津貫という2か所に製造拠点を持つことになりました。また、原酒の仕上がりを決める熟成環境としては、信州、津貫だけでなく、さらに温暖な環境となる屋久島エイジングセラーも整備しており、大手3社とは異なる原酒の仕上がりの幅、変化を実現できる環境が整っています。

マルスウイスキーの歴史を紐解くと、日本のウイスキー産業の黎明期から中心に近い立ち位置にあったにも関わらず、以下に例示するように時代や業界の流れに翻弄されてきた印象があります。結果論で見通しが甘かったと言ってしまえばそこまでですが、不運の連鎖の中にあるようにも。
一方、現代においては、2011年の信州蒸留所再稼働を皮切りに、この連鎖をたちきって事業が軌道に乗ってきているのではないかと思います。

例1:旧摂津酒造時代。竹鶴政孝をスコットランドに留学させ、日本初となる本格ウイスキー事業をに取り組むものの、不況により計画を断念。竹鶴政孝は1923年に寿屋(現・サントリー)で山崎蒸留所に関わる。
例2:ウイスキーブームを受けて自社でのウイスキー生産を再開※させるべく、1980年に信州蒸留所を竣工。1985年から操業を開始するも、日本のウイスキー消費量は1983年をピークに下降、ウイスキーブームは終焉に向かっており、熟成した原酒が揃う1990年代は酒税法改正等から冬の時代が訪れていた。1992年、信州蒸留所稼働休止。
※1960年に山梨にウイスキー工場を竣工。しかし販売不振から1969年に操業休止。当時はスコッチの税率が極めて高く、大衆ウイスキーとしてサントリーのトリス、ニッカのハイニッカ、ブラックニッカ等が主流だったが牙城を崩せなかった。例1から見れば、敵に塩を送った形とも・・・。

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(ウイスキー仲間のAさん経由で頂いた、津貫蒸留所で販売されている3年熟成のシングルカスクリリース。ノンピートタイプ(左)とピーテッドタイプ(右)。製品としての仕上がり、総合的な完成度は通常リリースに表れるが、酒質を見るなら、足し引きしない単一樽のカスクストレングスは欠かせない。)

今回のテイスティングアイテムである2種類のオフィシャルリリースですが、どちらも津貫蒸留所におけるノンピートタイプ、ピーテッドタイプのファーストリリースでありながら、その位置づけ、キャラクターの仕上がりは異なる点が興味深いです。

■津貫THE FIRST について
全体として荒々しさの残る、パワフルな仕上がり。近年、クラフトジャパニーズでは、若くても度数を感じさせない仕上がりが多く見られるなか、この津貫The First は蒸留所のコメントを引用すれば、"エネルギッシュな酒質"が特徴と言えます。

日本におけるウイスキー造りは、スコットランドをルーツとする一方で、北から南まで、例外なく温暖な時期がある環境は、スコッチタイプとは異なる仕上がりの原酒を産み出して来ました。特にその違いは、熟成期間とピークの関係となって現れます。
近年では、スコットランドに倣う、言わばクラシックな造りのニューメイクから、短期間の熟成を想定したクリアで未熟感の少ない、フルーティーさや柔らかさのあるニューメイクが造られるようになり、ひとつのトレンドとなりつつあります。

ところが津貫蒸留所で興味深いのは、確かに未熟香、雑味を減らしてはいるものの、力強い酒質を産み出そうとしている点です。
これはどちらかと言えば長期熟成を想定するスコットランド寄りのスタイルです。温暖で樽感が強く出るからクリアで飲みやすい酒質で短熟で仕上げようという、例えるなら台湾のカヴァラン的発想ではなく、逆に強い酒質で受け止めようという点は、他のクラフトジャパニーズとは異なるアプローチであると感じます。

また、その強さのなかには、ただ粗いだけではない、ハイランドモルトのキャラクターと言える粥のような麦の甘味が微かに感じられ、今後熟成を経ていくことで丸みを帯びて来るのではと予想される点や、フルーティーさも際立つだろう、大器の片鱗も見え隠れします。バーボンバレルも良いですが、アメリカンオークのリフィルシェリーカスクで、フルーティーさを後押しする樽使いもマッチしそうです。
熟成環境故に今後は総じて樽が強くなるとは思いますが、その成長曲線を上手くコントロール出来れば、他にはない個性的な原酒の仕上がりが期待でると予想しています。

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(津貫蒸留所の熟成庫。石蔵樽貯蔵庫の内部。津貫は信州に比べて温暖であり、エンジェルズシェアも信州が3%なのに対し、津貫は5~6%と2倍近い。流石九州、天使も酒好きか。)


■津貫Peatedについて
一方で、この津貫ピーテッドはどうしたのかと首を傾げてしまいました。
酒質はノンピート同様に雑味が少ないタイプ。ライトピートからヘビーピートまで、幅広くバッティングしたためか、ピート香もライト寄りに仕上がって柔らかく穏やか、ポジティブに捉えると飲みやすい。。。のですが、50%にしては緩い。全体的にパワーが足りないと感じてしまいます。
あれ、エネルギッシュな酒質は?序盤に記載したTHE FIRSTとのキャラクターの違いは、この点にあります。

ここで上記のシングルカスクリリースで酒質を比較すると、ピートタイプもしっかり強め。特段違いがあるようには感じられません。
実際、ノンピートとピーテッドで仕込みの仕様に違いはないとのこと。シングルカスクのほうは、ベースは同じく力強い酒質に、しっかりとピート。三郎丸等と同様に、ピート感がクリアではっきりと主張してきます。そこに樽のエキスが入り、ダシっぽいウッディさに梅を思わせる酸味も主張してくる。全体的に若く強い仕上がりです。

となると、ピーテッドリリースに感じた弱さは、バッティングの樽数に加え、加水の影響でしょうか。このファーストとピーテッドでの仕上げの違いについては、なぜどちらも同じ加水率、度数59%にしなかったのか、どんな狙いがあったのか、機会があれば質問してみたいですね。

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■最後に
津貫蒸留所では、津貫でのウイスキー造りに適した酒質を模索している最中にあります。
創業時からの変化としては、糖化工程でお湯の投入回数を増やし、3番麦汁まで取れるよう設備を増設しただけでなく、発酵工程ではディスティラリー酵母とエール酵母の混合発酵を行う中で、それぞれの酵母の強さ、種類(2020年度は7種類を試したとのこと)を模索したり、ピートレベルもノンピートから50PPMのヘビーピートまで、様々な仕込みを実施しています。
そのため、創業初期に比べて現在は酒質も変化してきているとの話も聞きます。

九州地方は、元々蒸留酒として焼酎文化の本場であるためか、昨今はウイスキー蒸留所の計画が複数あり。津貫、嘉之助に加えて宝山の西酒造も本格的に動き出すようです。
そんな中で、今回のリリースや、蒸留所限定のシングルカスクを飲んだ印象としては、他のクラフトにはない個性、パワフルな味わいに繋がるチャレンジだと感じました。個人的に、温暖な地域はキレイで柔らかめが向いていると思い込んでいたところに、津貫のリリースは「なるほど、こういうアプローチもあるのか」と。

津貫蒸留所の生み出すウイスキーには、まさに九州男児と言えるような、力強く、それでいて樽感や他の原酒を受け入れるおおらかさをもつ、太陽と青空の似合うウイスキーに仕上がっていくことを期待したいです。

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※本記事の蒸留所関連写真は、ウイスキー仲間のAさんに提供頂きました。サンプルの手配含め、本当にありがとうございました!

駒ケ岳 津貫エイジング 寶常セレクション2017 50% 蒸留所限定

カテゴリ:
KOMAGATAKE
Tsunuki Aging
Ho-jo- Selection 2017
Distilled in Shinsyu
Matured at Tsunuki Ageing Cellar
700ml 50%

グラス:国際規格テイスティング
場所:BAR飲み
時期:不明
暫定評価:★★★★★(5)

香り:ツンとしてアタックの強い香り立ち。ピーティーでスモーキー、シトラスやレモンピールの柑橘香、やや乳酸っぽさも混じる。

味:ハイトーンでスパイシー、荒さとアタックの強い口当たり。ハーブ、うっすらとグレープフルーツ、そして苦味と土っぽさを伴うピートフレーバー。唾液と混ざると蜜っぽい甘みも感じる。
余韻はスモーキーでハイトーン、口内に刺激を残しつつ長く続く。

まだまだ荒さと刺激が残る若いモルトウイスキー。ピートフレーバーがアクセントになって若いがそれなりに飲めてしまう、津貫エイジングの効果は樽由来と思しき柑橘の香味と、加水で現れる蜜っぽさにあるだろうか。


本坊酒造の第2蒸留所となる鹿児島県は津貫蒸留所。津貫では蒸留が2015年から開始され、ニューポットの販売も始まっています。
また、津貫蒸留所は元々本坊酒造の焼酎工場の一つで、蒸留所稼働前から試験的に信州蒸留所の原酒を熟成させており、その原酒が「津貫エイジング」としてもリリースされています。

今回のボトルは、その津貫エイジングの蒸留所限定品。蒸留所のゲストルーム的な位置付けである、元社長宅を改築したという"寶常エリア"でのみ販売されている1本。詳しい素性はわかりませんが、津貫エイジングの原酒3樽をバッティングしたシングルモルトと裏ラベルにはあります。

飲んだ印象では、原酒のタイプはピーテッド、熟成年数は体感3年程度で樽はバーボンだと思うのですが、以前リリースされた津貫エイジングより度数が低いのに荒さが強いというか、樽感も異なると感じる仕上がり。
津貫は気温が信州に比べて高く、3年丸々津貫で熟成させていたらもう少し樽感が強く出ても良い印象で、例えば使われた樽がリフィルだったとか、3樽のうち1樽くらい異なる傾向の原酒が混じっているのではないかと感じました。
ここは情報を持ってる方に実際のところを伺いたいですね。


ウイスキーの熟成に樽が重要なのは言わずもがなですが、その樽の働きに影響するのが熟成環境です。
個人的に信州、津貫共原酒は標準以上のクオリティがあると感じているところで、後はこの環境がどのように原酒を育むのか。今後のリリースにも期待しています。

モルト オブ カゴシマ 25年 1984−2009 マルスウイスキー

カテゴリ:

MARS WHISKY
The Malt of KAGOSHIMA
Aged 25 Years
Distilled 1984
Bottled 2009
Cask type Sherry
46% 720ml

グラス:SK2
量:50ml
場所:自宅
時期:不明
暫定評価:★★★★★(5)

香り:ツンとした酸味のある香り立ち、焼酎のような麹的なアロマにウエハースの甘み、ハーブを思わせる香味もある。ほのかにスモーキーで、奥には熟成したモルトの華やかさも感じられる。

味:ねっとりとした口当たり、古い油のような地ウイスキー的な癖に、薄いシェリー香。黒糖麩菓子、湿った木とココアの粉末を思わせるほろ苦くウッディーなフレーバー。
余韻は微かにサルファリーで焙煎した麦芽の香ばしさ、ぬれた紙、土っぽいピートフレーバーも感じられるビターな余韻が長く続く。


現在建設と準備が進んでいる、マルスウイスキーの第二蒸留所、鹿児島津貫。
九州では先日発生した熊本地震の影響で、多くの住民が今なお苦しく、辛い時間を過ごしている状況ではありますが、地震の影響が少なかった鹿児島では、4月17日に津貫工場建設に向けた地鎮祭が開催され、2016年11月の蒸留開始に向け、いよいよ本格的に工事が始まるようです。

国内最南端のウイスキー蒸留所、鹿児島で地鎮祭(読売新聞)

津貫工場でのウイスキー蒸留が発表されたのは今年の1月。その際話題となったのが、32年ぶりに「鹿児島ウイスキー」が復活するというものでした。
先日の記事にも書きましたが、マルスウイスキーが現在の信州工場を建設する前、1981年から1985年までの約4年間、鹿児島の工場内にポットスチルを備え付けて製造された原酒がありました。
それが32年前の鹿児島ウイスキーであり、このモルトオブカゴシマです。

このウイスキーは1984年蒸留で自分の生まれ年と同ビンテージ。となると味わいは当然気になるわけで、本格的に飲み始めた頃、BARで探して飲んだのをおぼえています。
当時の印象は「不思議な味がするなあ」という程度でしたが、6年後、改めて飲んでみると色々気づきがあります。
シェリー感は信州蒸留所の原酒に共通するものがあるものの、加水の影響か薄く感じられ、一見するとシェリーっぽさをあまり感じません。
そしてその加水の影響を差し引けば、酒質は荒く、地ウイスキー系の癖が強く残った味わい。全体が焼酎っぽいというか、典型的な地ウイスキーの仕上がりだと感じます。江井ケ嶋、秩父、笹の川など、日本のマイクロディスティラリーで大なり小なり同じような癖が出るのは興味深い現象です。

新しい蒸留所の原酒はどのようなものが生まれてくるのか。地震の被害がこれ以上大きくならないことを願うとともに、今年誕生する新しい個性が、マルスウイスキーのさらなる発展に寄与することを祈っています。
(本ボトルはFB繋がりで名古屋のKさんとサンプル交換を頂きました。貴重なボトルをありがとうございました!。)

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