タグ

タグ:江井ヶ嶋

お酒の美術館 PBリリース第2弾「琥月」「姫兎」江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボに協力

カテゴリ:
IMG_9395

お酒の美術館のプライベートボトルリリース第2弾、シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月(KOGETSU)、ブレンデッドウイスキー姫兎(HIMEUSAGI)が、9月上旬から同BAR店頭にて提供されています。
2022年にリリースされたPB第一弾、発刻、祥瑞同様に、くりりんがブレンダーとして原酒選定と、製品候補となるレシピ作成で協力させていただきました。

公開されていないものも含めると、関わらせていただたウイスキーリリースは20を超え、商品開発という視点での面白さ、難しさ、通常みることが出来ない奥深い世界を経験させてもらっています。
今回のリリース内容については、以下お酒の美術館からのプレスリリースに詳しく記載されていますが、本ブログではブレンダーとしての当方の視点から記事をまとめていきます。

公式プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000041825.html
お酒の美術館:https://osakeno-museum.com/


IMG_8206

今回のコラボは、昨今評価が高まっている瀬戸内のブナハーブン※こと江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボレーションで実現。(※瀬戸内のブナハーブンは自分が勝手に言ってるだけです。公式名称ではありません。)
シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月は、2018年に蒸留され、5年間オロロソシェリー樽で熟成された10PPM未満の原酒を、シングルカスク、カスクストレングスでボトリングしたもの。
ブレンデッドウイスキー姫兎は、琥月をキーモルトとして、江井ヶ嶋蒸溜所が保有するスコッチモルトウイスキー、グレーンウイスキーをブレンドしたもの。モルトとグレーンの比率は5:5で、50%に加水してリリースされています。

琥月からは江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルであるシェリー樽のフレーバーと昨今の酒質向上を感じることができ、姫兎は輸入原酒とのブレンドによってキーモルトの個性を感じつつもソフトで飲みやすい味わいに仕上がっています。
また、どちらのウイスキーからもシェリー樽のフレーバー以外に“にがり”のような潮のニュアンスが微かに感じられ、これもまた同蒸溜所の個性の一つ。
飲み方としては、琥月はハーフロックで、姫兎はハイボールがおすすめです。涼しくなってきたとはいえ、まだ1杯目はシュワシュワが恋しい。1杯目は姫兎か祥瑞をハイボール、2杯目は琥月か発刻をロックで、PBコースなんていかがでしょう。

IMG_9573

■リリース経緯など
お酒の美術館から、次のPBについて相談があったのは確か2022年年末のこと。
同年4月にリリースしたPB第一弾が好評で、特に祥瑞のほうはもう在庫がなく、ハイボールですっきりと飲めるウイスキーを新たに作れないか。
提案内容はざっくりとこんな感じで、どこか対応してくれる蒸留所は無いかと、日頃やり取りさせて頂いている複数社に相談・・・、結果、T&TのラストピースやKFWSさんのPB等で繋がりがあった、江井ヶ嶋酒造と話を進めることとなりました。

ご存じの通り、江井ヶ嶋酒造は1919年からウイスキーの製造を開始した国内でも屈指の歴史を持つウイスキーメーカーです。立地は兵庫県瀬戸内海沿岸沿いと、ストーリー性もある環境。1984年に整備された蒸留棟は、導線の確保された設備一式を有しています。
ただ、その造りは安定しておらず、長らくメーカーとしてもウイスキーは優先順位が低い状況にありました。それが大きく変わったのが2016年以降、設備の改修やスタッフの意識改革等が効果を発揮し、特に2018年以降の原酒はこれまでとは異なる高い品質のものとなっています。

IMG_4079

IMG_0177

IMG_8203

本リリースに限らず、自分がブレンダーとして関わらせてもらう以上、愛好家視点で蒸留所の個性とユーザーから求められている味わいをリンクさせたウイスキーを提案することを目指しています。
お酒の美術館は全国で約70店舗を展開する、もはや全国規模のBARチェーン店です。ここでウイスキーが情報発信と合わせて提供されれば、蒸留所の魅力、造り手の努力が知られる一助となるのではないか。そんな想いをもって、企画に関わらせて貰いました。

ただ当初はブレンドだけの予定で、その前提で前捌きをして江井ヶ嶋蒸溜所から候補となる原酒を出して頂いたのですが・・・。
カスクサンプルをテイスティングしたお酒の美術館の社長:富士元氏から、このクオリティならシングルモルトも希望したいとリクエストがあり。だったら、シングルモルトのカスク選定を進めつつ、ブレンデッドのほうはシングルモルトでリリースする原酒の一部をキーモルトとすることでどうかと提案(これが後々自分の首を絞めることに…)。

製造側には手間のかかる提案ですが、江井ヶ嶋蒸溜所の平石社長、中村工場長、両名から快諾頂き、シングルモルト琥月、ブレンデッド姫兎としてリリースの方向性が決まりました。

IMG_4086

IMG_9621

■シングルモルトジャパニーズウイスキー 琥月 62%
シングルモルトは個性の酒。江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルの一つは、全熟成樽の約7割を締めるというシェリー樽由来のフレーバーです。
バーボン樽も魅力的ですが、ここは瀬戸内のブナハーブンたる江井ヶ嶋の個性をアピールする方向で、オロロソシェリー、ペドロヒメネスシェリー(PX)、クリームシェリーの3種類の樽から、候補となる原酒を複数出して頂きました。

クリームは妙にスパイシーな癖があり、今回のリリースの方向性には合わないと除外。悩んだのは親しみやすいが癖も少ない樽感のオロロソシェリー樽の1つか、濃厚だがビターでウッディなPX樽の1つか。
今回は選んだ原酒をキーモルトとしてブレンドも作成するため、ここでミスチョイスすると取り返しがつきません。ここにきて、あ、これ結構難しいアイディアを出してしまったぞと、自分が置かれた状況を認識するに至ります…。

IMG_4370

悩んだ結果、シングルモルトとしては甲乙付けがたいため、ブレンドレシピとしてどちらが希望に沿ったレシピを作れるかで決めようと一旦保留。ブレンドの作業量が2倍になってしまいましたが、決められないのだから仕方ありません。

オロロソベースとPXベースとで、それぞれ候補となるレシピを複数造り、原酒群の中で最もバランスが良かったオロロソシェリー樽原酒の1つ(Cask No,101808)でリリースを進めることとなりました。
5年と若い熟成期間ですが、酒質が向上した2018年の仕込みだけあってベース部分の味わいは親しみやすく、特に加水すると非常に柔らかく飲みやすい味わいへと変化することから、素性の良さも感じられます。

ややビターなウッディネス、麦チョコや黒糖麩菓子のような甘さ、かすかにドライフルーツやピートのアクセント。
おすすめはハーフロックですが、お酒の美術館らしい楽しみ方として、ストレートにオールドブレンデッドを少量加えた飲み方を、裏メニューとして提案します。
正式なメニューではありませんが、お店で飲まれる方はぜひ裏メニューとして注文してみてください。(自分のおすすめは1980年代流通のジョニ黒です。)

IMG_9496

■ブレンデッドウイスキー 姫兎 50%

先に触れたように、琥月をキーモルトとし、江井ヶ嶋蒸溜所のモルトウイスキーに輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを加えたワールドブレンデッドウイスキーです。
モルトとグレーン比率は5:5。企画立案当初、お酒の美術館側からコンセプトとして提案された通り「ハイボールですっきりと飲めるウイスキー」をテーマにブレンドしています。

メレンゲや綿菓子を思わせる甘いアロマ、干し草、グレープフルーツやハーブ、青りんごを思わせる果実のアクセントに、微かにビターで潮気や樽由来の要素が混じる味わい。
琥月の原酒を一部使用しているためシェリー樽由来のフレーバーが感じられるだけでなく、江井ヶ嶋蒸溜所のもう一つの個性であるにがりのような潮のニュアンスがポイントです。

このニュアンスは、明石海峡が眼前に広がる熟成環境や、敷地内の深井戸からくみ上げられる仕込み水の関係からか、江井ヶ嶋蒸溜所のウイスキーに感じることが多い特徴で、今回は琥月より姫兎の方がこの特徴を捉えやすい印象があります。
ブレンドと加水で樽由来の要素が落ち着いた結果、個性を感じやすくなったのでしょうか。また、全体を通して感じられる麦芽風味は、輸入ハイランドモルトを江井ヶ嶋蒸溜所でリフィル樽に入れて追加熟成した原酒に由来するフレーバー。ノンピートタイプで麦芽風味が豊か、これだけでも通用するレベルの原酒で、正直これを別リリースとして出したいとも感じたほどでした。

IMG_4382

ただし、個性の強いシェリー系短熟ジャパニーズモルトである琥月に、モルティーなハイランドタイプの原酒を主体に構成するとなると、全体的にリッチな味わいとなって「すっきり飲めるウイスキー」に仕上げるのは難しくなります。
例えるなら、シェリー樽の原酒が”ざる用の濃さの麵つゆ”で、ハイランドモルトが小麦の風味豊かなうどんです。これがどんぶりいっぱい、ぶっかけうどんの量で出てきたら・・・すっきりとは食べれません。
じゃあ水で薄めれば・・・味がペラペラになってバランスが悪くなってしまう。つまり味を調えつつも奥深さは消さない、ダシのような存在が必要になります。

そこで使用したグレーンが、非常にプレーンでさっぱりとしたタイプ。樽やモルトの強い個性を引き算し、均一化するような感じで整えて、全体をうまくまとめてくれました。
心情的にはモルト、グレーン比率を6:4、あるいは7:3あたりのクラシックなタイプにしたかったのですが、モルトの個性が強くなりすぎてしまう。スコッチウイスキー縁の下の力持ちと言えるグレーンの重要性を改めて感じましたね。
試行錯誤の多かった作品ですが、何とかテーマの通りまとめられたと思います。ぜひハイボールで楽しんでいただけたらと思います。

IMG_9677

■お酒の美術館PBについて
お酒の美術館PBは源氏物語絵巻をラベルに用いた、シリーズ構成のウイスキーです。
2022年にリリースされた発刻、祥瑞は長濱蒸溜所の協力でリリースされたもの。
「発刻」は長濱蒸溜所の濃厚なシェリー樽原酒とピーティーな原酒を合わせ、輸入モルト、長期熟成グレーンでバランスを取りつつ加水なしでボトリングした、パワフルでスモーキーな愛好家向けのブレンデッド。
「祥瑞」は若い輸入原酒に発刻と同様の長期熟成グレーン、そして同じ濃厚なシェリー樽原酒をブレンドし、加水して47%でリリースした、華やかでフルーティーな万人向けのブレンデッドです。
今回はここに新たに「琥月」、「姫兎」の2種類が加わったわけですが、今後も国内クラフトメーカーとタイアップしたリリースが計画されています。

これらのリリースに関して、私は監修・協力の立場にありますが、報酬や給与、監修料等の金銭は一切受け取っておりません。(同チェーン店で飲んでいると、1本売れたら何%懐に入るんですか?という質問を受けることがありますがw)
あくまでお酒の美術館の常連として、一人のウイスキー愛好家として、趣味として協力させてもらっています。具体的には、蒸留所との繋ぎ、原酒選定、ブレンドレシピの提案までで、そこから具体的な契約や価格設定、店頭での提供はお店側の領域、私は関わっていません。
逆に、お酒の美術館側からもコンセプト以外は蒸留所とのやりとりなど、お任せ頂いてる状況。だからこそ、手間をかけて納得のいくブレンドを作れるという強みがあります。

FullSizeRender

BAR お酒の美術館のラインナップは、元々ベースとなっていたのが中古酒販として買い取ったウイスキーでしたが、昨今はそのコンセプトに加えて手軽に洋酒全般を楽しめるBARチェーンとして、領域をオールドから現行品へも広げつつあります。

従来のBARが階段を上った先や微妙に目立たない路地の裏など、隠れ家的なコンセプトであるのが多いところ。もちろんそれは魅力であるのですが、同店は逆に路面店、コンビニとのタイアップ、駅構内、空港の保安検査後のスペースといった、人が多く集まる場所に出店しています。ウイスキーの魅力はまず飲んで、知ってもらわないことには伝わりませんから、このPBを通じて広く日本のウイスキーの魅力が広まったら。。。と、それが冒頭にも書いた私の想いに繋がります。

改めて、今回もまたこうした貴重な機会を頂けたことを、この場を借りて御礼申し上げます。
クラフトの成長を心強く感じると共に、ブレンドの奥深さに悩み、そして楽しむ。なんと贅沢な経験でしょうか。
今回のリリースは先月からお酒の美術館全店で提供されています。機会がありましたら是非飲んでいただければ幸いです。

IMG_9539

シングルモルトあかし 4年 2018-2022 ヘビリーピーテッド 62% for KFWS

カテゴリ:
IMG_8210

EIGASHIMA DISTILLERY 
SINGLE MALT AKASHI
Heavily Peated 
Aged 4 years 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Cask type Bourbon Barrel #101855 
For Kyoto Fine Wine & Spirits 
500ml 62% 

評価:★★★★★★(6)

香り:フレッシュでスモーキーなトップノート。表層的にはピートと柑橘系のニュアンスが主体で好ましい香り立ち。そこからハーブ、焦がした針葉樹、微かに古い酒蔵のようなアロマが混ざり、度数相応の鼻腔への刺激も感じられる。

味:口当たりはオイリーでややビター、スモーキーで角のとれた麦芽風味。続いてバーボンオーク由来のバニラと麩菓子の甘さ、グレープフルーツ、オレンジオイルのような質感、奥には針葉樹や根菜を思わせるニュアンス。
余韻はピーティーでほろ苦くスパイシー。強いスモーキーさとハーブのよう青みがかった要素がが鼻腔に抜けて長く続く。

素性のいい麦芽風味に力強いピートフレーバーが特徴の1本。造り手の違い、意識の違いがこうも味わいに影響するのか。雑味が多く樽のノリも悪いかつての姿はなく、柑橘系の要素と樽感も良い塩梅で感じられる。決して洗練された味わいではないが、そこに江井ヶ嶋らしさ、個性を感じることが出来るとも言える。
江井ヶ嶋蒸溜所、新時代の始まり。是非先入観を捨てて飲んで欲しい。

IMG_8211

京都の酒販&インポーター、Kyoto Fine Wine & Spirits社(KFWS)からリリースされたプライベートボトル。実は、自分もちょっとお手伝いさせて貰いました。
同社のPBは、先日のWDC向けボトルをはじめ、多少価格は高くとも、高品質で間違いのないモノをリリースしていることで知られており、言い換えるとKFWSは愛好家からの信頼の厚いブランドであると言えます。
さながら一昔前のシルバーシールみたいな位置付けですね。

それ故、KFWS向けリリースで、江井ヶ嶋蒸溜所のあかしがラインナップされた時の愛好家の反応は…想像に難くないと思います。
少なくとも2010年代までは愛好家からほとんど評価されることがなかった、あの“あかし”です。
今回のリリースは、蒸留所とKFWSの繋ぎから関わらせてもらっているのですが、元を辿ればKFWSの2人もまた、いやいやくりりんさん、江井ヶ嶋ですよ?と、信用半分疑問半分といった反応でした。

IMG_8216

それが、現地で原酒をテイスティングしてから、「あれ、これ良いじゃない」と評価が変わります。本リリースを飲んだ愛好家の、SNS等での反応も総じて同様。
自分は、三郎丸蒸留所の原酒交換リリースであるFAR EAST OF PEATや、T&T TOYAMAのLAST PIECEのブレンド等を通じて、江井ヶ嶋蒸留所の酒質の変化、進化を知っていましたが、やはり最初は同じようなリアクションをしました。

何故こうも、多くの愛好家が同じような反応をするのか。
それは、以前のシングルモルトあかしは単純に美味しくない、という表現が正しくないとすれば、雑味が多く決して洗練された酒質ではない、雑味が多いが複雑と言うわけではなく妙にシャープで樽感と馴染みが悪い、全体的に何かしらのこだわりを感じさせる味わいではない、ということ。
現蒸留所長に伺ったその理由は、端的に言えば、雑に造った酒は雑な味にしかならない、ということでした。

かつて江井ヶ嶋蒸溜所は、そもそもの企業名・江井ヶ嶋酒造の通り日本酒をメインに作っていましたが、醸造酒を作らない夏場に製造スタッフを遊ばせない為に蒸留酒も作っていました(現在はウイスキーは通年製造)。そのため、意識は高くなく、言うならば安かろう悪かろうな、あるいは桶売り前提のようなスタンスでウイスキー造りが行われてきました。
一例となる出来事として2010年ごろ、自分が江井ヶ嶋蒸溜所を訪問した際、スタッフが麦芽のフェノール値を把握しておらず、「商社が勝手に持ってくる物で作ってるからわからない」なんて説明を受けたこともあるくらいです。

そうなると、様々なことがおざなりになっていくものです。
一方で、2016年に現蒸留所長の中村裕司氏が着任され、現場の問題点を把握し、上層部に伝え、その改善に着手したことで、特に2018年ごろの酒質から明確に違いが現れてきます。
具体的に何をやったかと言えば、錆びて汚れた配管やタンクなどの交換・整備、清掃の徹底、発酵等の造りのノウハウ部分の見直しです。
中村氏は元々日本酒側の人間であるためウイスキーは未経験でしたが、だからこそこの設備、この造りではいけないと気づけたと言います。
そして「お前ら、そんなウイスキー作ってて家族に恥ずかしくないんか、一緒に飲みたいウイスキー造ってるって言えるんか」とスタッフに檄を飛ばした意識改革は、同氏の酒造りに対する熱い想いを感じさせるエピソードとなっています。

IMG_8208
IMG_8206

なお、同社がウイスキー製造免許を取得して100年に当たる2019年は、ポットスチルの交換も実施。古いポットスチルは、現在蒸留所正面にオブジェとして設置されています。
変更といっても、サイズも形状も変更されていませんが、2019年以降の仕込みは雑味が減ってさらに酒質が良くなったことから、確実に効果はあったこの交換。逆に言えば、2018年蒸留の原酒はまだ発展途上であると言えます。

ですが、蒸留における心臓部であるポットスチルが変更されていない2018年蒸留原酒に見られる旧世代からの進化こそ、中村所長がもたらした同蒸留所の変革と新時代の始まりを、最も感じられる要素だと私は感じています。
成分分析した場合も、数値上の特性が良いのは間違いなく2019年でしょう。記録に残る2019年、記憶に残る2018年と言ったところでしょうか。
本リリースはピーテッド仕様なのも良いですね。アイラのイメージから、やはり海辺のモルトにはピートが似合う。アイラ海峡、あかし海峡、なんか似てるし(笑)

IMG_8220

本リリースは昨年の発売で既に完売していますが、今回の樽が必ずしも特別な樽だった訳ではなく、2018年の中では平均的なものから好みに合う成長の原酒を選んだという感じ。
この時テイスティングした原酒のサンプルのクオリティは総じて安定しており、その証拠に、現在流通しているスタンダード品であるシングルモルト・ホワイトオークあかし(3〜4年熟成原酒がメイン、500ml 46%)の味わいも、確実に向上しています。

ただし江井ヶ嶋蒸留所のハウススタイルは、実はバーボン樽でもピートでもなく、ノンピートから極ライトピートでシェリー樽熟成にあります。
今回のボトルはその点では少し外れたものですが、今後リリースされるいくつかの他社PBはシェリー系で、そのキャラクターが良い具合にマッチしていることから、また違った驚きを愛好家にもたらしてくれると期待しています。
新時代の到来からまだ5年あまり、原酒の成熟はこれからですが、地ウイスキーからクラフトウイスキーへ、あかしの遂げた進化を本リリース、あるいはいずれかのボトルで感じてもらえたらと思います。

IMG_8196
IMG_8189

ザ ラストピース ワールドエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
FullSizeRender

THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT WHISKY 
World Edition Batch No,1 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
One of 800 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:華やかでナッティな香り立ち。アプリコットジャムや熟した林檎を思わせるフルーティーな甘み。オーキーで程よいウディネス、ハーブのアクセント、ほのかにスモーキー。

味:フルーティーでしっとりと甘い口当たり。林檎の蜜、甘栗やカステラ、麦芽風味。香り同様に熟成感があり、一本芯の通った複雑な味わい。余韻にかけて香味の広がりを感じられ、微かにピーティーで華やかなオーク香が鼻腔に抜ける。

香味とも華やかでフルーティーだが、キラキラと派手なタイプではなく、しっとりとして色濃く奥ゆかしいタイプ。奥には黄色系フルーツ、麦芽風味、特徴的なピートなど、クラフト原酒由来の個性も感じさせる。
イメージとしては、THE LAST PIECEのジャパニーズエディションに熟成感を増して、完成度を追求したレシピ。日本とスコットランドの個性が織りなす、日本だからこそ作ることができるウイスキー。ストレート、少量加水、あるいはロックでじっくりと楽しんで欲しい。

the_last_piece_wb

先日、T&T TOYAMAから発表された「THE LAST PIECE」のワールドブレンデッド版です。
先日レビューを更新したジャパニーズエディションは、国内5ヶ所のクラフト蒸留所原酒100%のジャパニーズウイスキー。ワールドエディションは、構成比率の過半数以上がクラフト産原酒で、そこに輸入原酒をブレンドしたブレンデッドモルトウイスキーとなります。

発売は若鶴酒造が運営する私と、ALC.を中心に、4月19日(火)から。
先行する形で、4月1日(金)から購入希望の抽選受付が開始されます。
「個性のジャパニーズ、完成度のワールド」、ブレンダーの一員として、その実現を目指したブレンドです。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


改めて構成原酒を記載すると
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッド
・桜尾蒸溜所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
・スコッチモルト(国内追加熟成)

クラフト原酒は全て3年熟成でバーボン樽熟成。スコッチモルトは熟成年数非公開ですが、バーボン樽以外に、シェリー樽、リフィル樽等での熟成品が用いられており、一部原酒は国内で追加熟成を行ったものが使われています。

追加熟成を経たスコッチモルトは、もともとあったスコッチモルトらしいまとまりのある穏やかな酒質に、日本的な樽感が加わって熟成感も増した仕上がり。こうした原酒の存在は、個性をまとめ上げる繋ぎとして有用である一方、その原酒に頼るだけではワールドの意味がありません。
国産原酒の個性を主として残しつつ、全体の完成度を高めるにはどうするべきか。正直、ジャパニーズのレシピ以上に悩ましく、かけた時間、試作数も多くなりました。
【補足】各原酒の個性はリリース告知記事の後半に記載→こちら

FullSizeRender

しかしワールドブレンドというと、あまり良く無いイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
それはブームに乗って利益を得るために、安価な輸入原酒で水増ししたリリース。つまりパッションやストーリーのない、嗜好品としての重要要素を満たさないリリース、というイメージに起因しているのでは無いでしょうか。

確かに、そうしたウイスキーの存在は否定できません。しかし本来スコッチウイスキーは美味しいものであり、日本では作り得ない原酒が数多くあります。(あるいは日本でも作れるかもしれないが、膨大なコストがかかるケース。)
例えば長期熟成原酒がそうです。
ワールドブレンドは、日本でしか作れない原酒と日本では作れない原酒、それらの良い点を引き出すことで、これまでにないウイスキーを作ることが出来る、可能性に満ちたジャンルでもあるのです。
活かすも殺すも、造り手次第というわけですね。

IMG_6915

THE LAST PIECEをリリースする、ボトラーズメーカー「T&T TOYAMA」は、日本のクラフト蒸溜所が、将来単独でリリースを行っていくのではなく、他の蒸留所と連携する可能性を見出せるよう、蒸留所間のハブとなることを目標の一つとしています。
一方で、同社はスコッチモルトも海外メーカーから買い付けてリリースしており、ニンフシリーズやワンダーオブスピリッツがその代表作です。つまり、日本、スコットランド、どちらにも繋がりを持つメーカーと言えます。

であるならば、THE LAST PIECEのワールドエディションは、ジャパニーズの個性感じさせつつ、スコッチウイスキーのいいところも活かした、T&T TOYAMAらしいリリースに仕上げたい。
2つのリリースを飲みくらべることで、なるほどこれが日本の個性か、これがスコッチモルトの熟成感かと、愛好家に伝わるような美味しいウイスキーに仕上げたい。
果たしてその狙いは達成されたのか、限られた条件の中で可能な限り高い点数を目指したワールドエディション。楽しんで頂けたら幸いです。

IMG_6775

以下:余談
4月1日から開始される、私と、ALC.での抽選販売受付は、稲垣代表の趣味趣向が色濃く反映された、激ムズクイズが用意されています。
私と、ALC.抽選販売受付ページ:

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


公開されている4蒸留所とT&T TOYAMAからそれぞれ1問、計5問が選択式で出題されます。
誤解のないように補足すると、正答率が高い人から抽選で選ばれるのではなく、正答率が高いと当たりやすくなる、当選確率がプラス補正されるものです。全問正解でもハズレる可能性があり、正答率が低くても当たる可能性があります。
そんなわけで、これはちょっとしたゲームです。各蒸留所について調べる機会だと捉えて頂き、ぜひ奮ってご参加いただければと存じます。(難しい問題と思うかもしれませんが、冷静に選択肢1つ1つを考えてみてくださいね。)

ザ ラストピース ジャパニーズエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
FullSizeRender

THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 
EIGASHIMA, SAKURAO, SABUROMARU, NAGAHAMA…and SECRET DISTILLERY 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
Cask type Bourbon Barrel 
One of 300 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:トップノートは黄色系のフルーティーさ。注ぎたてはドライだが徐々にお香の煙のように柔らかく香る。パイナップルや柑橘、ハーブ、パンケーキを思わせる甘さと軽い香ばしさ。フルーティーさとモルティーな甘みにスモーキーなアロマがまじり、複層的なアロマを形成する。

味:膨らみがあってモルティーな口当たり。熟したパイナップルを思わせる甘み。合わせてほろ苦い麦芽風味とウッディネス、軽いスパイスと微かに干草。じわじわと存在感のあるピートフレーバーが顔を出し、スモーキーでビターなフィニッシュが長く続く。

熟成年数以上にまとまりがあり、若さを感じさせないフルーティーでスモーキーな構成。バーボン樽のオーキーなフレーバーと、各蒸留所の個性がパズルのピースのように組み合わさり、それぞれが主張しながらも1つにまとまっている。わずか3年熟成の原酒だけで、これだけのウイスキーを作ることができる、クラフトジャパニーズの将来に可能性を感じる1杯。テイスティンググラスでストレート、または少量加水をじっくりと楽しんでほしい。

the_last_piece_jb

先日、T&T TOYAMAからリリースが発表された「THE LAST PIECE」。
世界初となる日本国内5か所のクラフト蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキーで、ジャパニーズ仕様とスコッチモルトを加えたワールド仕様、2つのリリースが予定されています。
本リリースは、2022年4月1日(月)から購入希望者の抽選受付を開始し、2022年4月19日(火)発売予定となります。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090



日本国内の蒸留所の数は、建設が予定されているものを合わせると50か所、60か所と増え続けている一方で、単独で様々なウイスキーをつくるのは限界があります。
スコットランドでは、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが多数存在し、原酒のやり取りが当たり前にあり、中にはブレンド向け蒸留所として位置付けられている蒸留所もあります。それらが一般的ではない日本においては、今まさにその可能性が模索されている状況にあり、今回のリリースは日本のウイスキー産業に新しい事例、選択肢を作ることが出来たと言えます。

また、T&T TOYAMAはこちらも世界初であるジャパニーズウイスキーボトラーズであり、現在富山県内にウェアハウスの建設と、各蒸留所からの原酒の調達を進めています。
そのT&T TOYAMAとして初めてリリースされるジャパニーズウイスキーが「THE LAST PIECE」であり、まさにどちらも先駆者、世界初尽くしのリリースとなっています。

IMG_6880


今回、そんな記念すべきリリースにおいて、ブレンダーという大役を頂きました。
私はあくまで趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家でしかありません。ならば、今回のブレンドはT&T TOYAMAの2名が生産者、販売者なら、自分は愛好家という立ち位置から求めている味わいを提案していこうと、原酒選定やレシピ構築のテイスティグ、ディスカッションに参加しています。

しかしこれまでブレンドレシピ構築は10リリース以上関わっていますが、今回はとにかく難しかったですね。
まず全ての原酒がバーボン樽熟成で、そしてどれも3年以上ながら短期間の熟成であったということ。
ブレンドにおいては、グレーン、あるいはシェリーやワインのような甘く濃い樽感など、モルト原酒の強い風味の間を繋ぐ要素の有無がポイントになります。
例えるなら、蕎麦打ちで言うところの小麦粉のような存在。今回はそれらの要素が一切無いなかで、バランスをとっていかなければなりませんでした。

また、今回使用した原酒と蒸溜所は
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッドモルト
・桜尾蒸留所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビリーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
という組み合わせ。
若い原酒であることも後押しして、それぞれがはっきりとした個性を持っていることも、各蒸留所においては強みである一方、ブレンドにおいては難しさに繋がりました。

the_last_piece_distillery
sample_b

三郎丸のヘビーピートモルトのような、強い個性を主体としてブレンドを構築するのは解決策の一つなのですが、これはピートフレーバーで他の蒸溜所の個性を圧殺する構成であり、せっかく5か所の蒸留所の原酒をブレンドする意味がなくなってしまいます。
従って三郎丸蒸留所の原酒をガッツリ使うわけにはいかず、そうなると先に書いたようにバランスの問題が出てしまう…。

そうして調整を繰り返して仕上がったのが、今回のブレンドとなります。
三郎丸蒸留所のオイリーでどっしりとした酒質、ピートフレーバーを底支えにして、江井ヶ嶋蒸溜所の軽やかなスモーキーさ、桜尾蒸留所のフルーティーさ、長濱蒸溜所の柔らかいモルティーさ、そこに非公開蒸留所の個性と酒質がエッセンスとなったレシピ。

自分が”ジャパニーズブレンドらしさ”として考える、「十二単」のような艶やかで雅な雰囲気…とまではいかないものの、各蒸留所の個性が重なり合い、共演しつつも、まとまりのある味わい。パズルで最後のピースがはまり、一枚の絵画として新しい世界が広がった瞬間。まさに「THE LAST PIECE」の銘に相応しいリリースに仕上がったと感じています。

ちなみに、スコッチモルトを用いたワールド仕様のレビューも後日実施する予定ですが、そちらは純粋な美味しさ、ブレンドとしての完成度を見て貰えたらと思います。これも、様々な原酒を使うことが出来る日本のウイスキーだからできる、ウイスキー造りの方向性の1つです。
本リリースがジャパニーズウイスキーの将来に向け、新しい可能性に繋がることを期待しています。
→ワールドエディション Batch No,1のリリースレビューはこちら

IMG_6775

ザ ラストピース ブレンデッドモルトのリリースとスペース放送告知(4/1~ 抽選受付)

カテゴリ:
okiba_onair_sp2_0325

ジャパニーズウイスキーボトラーズT&T TOYAMAから、世界初となる国内5箇所のクラフトウイスキー蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキー「THE LAST PIECE」がリリースされます。

THE LAST PIECE 
BLENDED MALT WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 700ml 50% (限定300本)
World Edition Batch No,1 700ml 50% (限定800本)

Blender: TAKAHIKO INAGAKI, TADAAKI SHIMONO, KURIRIN 
Bottled By T&T TOYAMA 
発売時期:2022年4月19日(火)予定

※公式ニュースリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000031708.html

※リリース記念スペース放送
3月28日(月)21:00〜
配信URL:https://twitter.com/i/spaces/1lPKqmZeDanKb
スピーカー:T&T TOYAMA(稲垣貴彦、下野孔明)、くりりん
参考資料:本記事後半に記載

・江井ヶ嶋蒸溜所
・桜尾蒸溜所
・三郎丸蒸留所
・長濱蒸溜所
・非公開の国産蒸留所
世界初となる計5蒸留所の原酒を用いた、ブレンデッドモルト ジャパニーズウイスキーです。
また、これらの原酒に国内で追加熟成したスコッチモルトを加えた、ワールドブレンドも同時にリリースされます。販売は若鶴酒造のALCで、抽選販売(4月1日12:30受付開始、クイズ有り)を中心に行われる予定です。

IMG_6772
IMG_6674
※3月25日に行なわれた記者会見風景。ニュース動画はこちら

公式発表にもありますように、くりりんがブレンダーの一員として参加させていただきました。(これまで同様に、監修料や販売にかかる利益等報酬は受け取っておりません。)
計画自体は1年以上前からT&Tの2名を中心に動いており、それこそ交換する原酒の選定などにも関わらせて頂いたところです。
ブレンダーとしての参加は、自分のテイスティング能力とこれまでのリリース実績等を評価いただいたとのことですが、本当に凄い経験をさせて貰いました。

リリースにあたっては、タイトルにもあるようにT&T TOYAMAの2名と当方でスペース放送を実施して、改めて企画の説明や狙い、そして裏話等をさせて頂きます。
例えば、ブランド名であるTHE LAST PIECEの由来にもなっている、ブレンドのトライ&エラーです。

今回の原酒は全て光るものがあり、今後の成長も見込めるものでした。しかしそれはあくまでシングルモルト、シングルカスクとしてリリースする場合であり、今回のようにブレンドするとなると、豊かな個性は必ずしもプラスにならない場合があります。
しかもジャパニーズエディションの構成原酒は、全て3年熟成でバーボン樽原酒です。シェリー樽の濃厚な香味でバランスをとるような事も出来ません。かといって、ピートを強くしすぎると他の原酒の個性が死んでしまう。とにかくバランスをとるのが難しかったですね。

FullSizeRender
(ブレンド風景。ジャパニーズ、ワールドとも日本のクラフト蒸留所のポテンシャルを感じる事ができるレシピに仕上がった。)

THE LAST PIECEは、各蒸留所の個性をパズルのピースに例え、パズルが1枚の絵画となる瞬間、全く新しい魅力をもったウイスキーが誕生することをイメージしています。
各蒸留所の原酒の個性、混ぜ合わせたときの表情、ブレンドにおける最後の1ピースはどこにあるのか…。リリースを楽しみにしてもらえるようなエピソードを、スペースやブログ記事を通じて紹介していきたいと思います。

なお、本日3月25日はリリースに向けての記者発表が行われたわけですが。3月26日、27日のウイスキーフェスティバルでは、ブレンド直後のサンプルをT&T TOYAMAブースで同プレミアム会員のみに試飲提供するそうです。
気になる方は、ピンバッチをお忘れなく!

FullSizeRender


※以下、スペース放送用参考資料※
THE LAST PIECE の紹介と、構成原酒を提供頂いた蒸留所に関する所感を以下の通りまとめます。
共通しているのが、若い原酒ながら熟成年数以上にまとまりがあり、どれもレベルが高いということです。
「またまた、忖度してるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、厳しめに見たとしても、どの蒸溜所の原酒もスコッチウイスキーで言うところの10~15年熟成程度のクオリティはあるものと感じています。

放送では、それぞれの原酒に感じた印象、ブレンドに使ってみた際の変化等も伺ってみたいと思います。そのため、原酒調達にあたって各蒸留所を回られたT&T TOYAMAの2人に私が色々質問をして、話を聞いていくような流れをイメージしています。


■THE LAST PIECEについて
ブランドネーミングの由来は上記の通りですが、少し異なる視点の話を記載します。
2021年にジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始めたT&T TOYAMAは、日本のウイスキー産業においてハブとなる存在を目指すという目標を持っています。
ジャパニーズウイスキー約100年の歴史(山崎の創業を起点とした場合)のなかで、日本には作り手がおり、蒸留所があり、それをリリースする酒販店も充実しています。しかし、スコットランドのように各蒸留所と繋がりのあるブレンドメーカー、ボトラーズメーカーが存在せず、また法律的な制限もあって、それらは非常に縦割り的で、組織を越えた横の繋がりは殆どありません。

これまでの時代であれば大手3社を中心に様々なウイスキーがリリースされ、少数のクラフトメーカーが尖ったリリースで愛好家を賑わす、そんなビジネスモデルが成立したところ。しかし今やそのウイスキーメーカーの数は創業予定のものを含めると60社を超える状況です。

如何に複雑な香味を持つウイスキーと言えど、そこまで多様性のあるものは出来ませんし、商品の製造だけでなく販売、広報にかかるコストは馬鹿になりません。
共存共栄を図って日本のウイスキー産業を更に大きなものとしていくためには、各社の間を繋ぎ、リリースを通じたPRも行う”ハブとなるメーカー”、つまりブレンドメーカーやボトラーズメーカーが業界におけるラストピースとなっています。

T&T TOYAMAには4月上旬完成予定の熟成庫があり、ここで原酒の熟成は行われていきます。
そして各クラフト蒸留所と連携し、交換、調達した熟成原酒を用いたリリースの第一歩が、「THE LAST PIECE」。彼らが目指す日本のウイスキー産業に込められた想いが結実した、ブレンデッドウイスキーであると言えるのです。

the_last_piece_jb
Japanese Edition Batch No,1 700ml 50% (限定300本)
各クラフト蒸留所、3年以上熟成原酒をバッティング。

the_last_piece_wb
World Edition Batch No,1 700ml 50% (限定800本)
各クラフト蒸留所の原酒を構成比率で半分以上使用。スコッチモルトは日本国内で追熟したものをブレンド。

■ラベルデザインについて
IMG_6671

ラベルデザインは、各蒸留所の個性がつながり、調和することをイメージして、日本の伝統工芸の一つである組子(くみこ)をモチーフに使用しています。
また、その組子の配置は細胞やDNAをイメージさせるようでもあり、これもまた繋がりと、そしてその繋がりが増えていくことで、新しい日本のウイスキーを形成することも意味として込められているそうです。

最初はパズルのピースでラベル案を作ったんですが、気がついたらめちゃくちゃスタイリッシュでカッコ良くなってました。やはりプロの技術は凄いですね。
組子は様々なデザインがあるので、今後リリースが続く場合はラベルは色違いだけでなく、異なる組子のデザインを用いていくそうです。

■構成原酒と蒸留所について
the_last_piece_distillery

①江井ヶ嶋蒸溜所
蒸留時期:2018年6月
度数:62.8%
系統:ライトリーピーテッド
樽:バーボンバレル

軽やかな麦芽風味にピリッとした舌への刺激、柑橘系のフルーティーさ、オークフレーバー、そしてじわじわと土っぽくピーティーな余韻。
同蒸留所の特徴として、ヘビーでフレーバーの力強い原酒とは対極にある、ライトで柔らかく、それでいて適度なコクのある原酒という印象。かつてはコシのないペラくて雑味の強い蒸留所という印象が、こうして単品で飲んでみるとその変化に改めて驚かされました。
先日リリースされた、三郎丸蒸留所とのコラボリリースFAR EAST OF PEATでも同様の役回りでしたが、今回のブレンドにおいても全体の繋ぎ、底支えとしていい仕事をしていると思います。


②桜尾蒸溜所
蒸留時期:2018年8月
度数:60.8%
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

ブレンドに向けてテイスティングをした際、いい意味で一番驚きがあったのがこの原酒でした。
個人的に桜尾蒸留所の原酒は、例えるならスコットランドのグレンマレイのように、プレーンで軽やか、しかし樽感を受け止めてフルーティーに仕上がる近年のスペイサイドモルトのようだと感じています。正直、もっと評価されていい蒸留所ですね。
今回の原酒はしっかりとオーキーなアロマ。軽やかでフルーティーかつナッティーな広がり。余韻がウッディでドライ寄りでもあったので、使う量には注意しなければなりませんでしたが、ジャパニーズ、ワールドともフルーティーな香味を形成する役割を担っています。


③三郎丸蒸留所
蒸留時期:2018年7月、8月
度数:63.1%、62.3%
系統:ヘビーピーテッド
樽:バーボンバレル

今回、三郎丸からは2種類の原酒が用意されていました。
どちらも三郎丸らしくどっしりとした重みのあるフレーバー構成は共通で、
63.1%のほうはモルティーで香ばしく、そして焦げたような強いスモーキーさ。
62.3%のほうはオイリーで微かにハーバル、スモーキーさの中に癖を残したような構成。
ピートフレーバーは前者のほうが素直で、一層際立っているのですが、今回のブレンドでは、後者62.3%の原酒をどう使いこなすかがポイントだったように思います。
三郎丸の原酒はとにかく強いので、使いすぎると全てのフレーバーを圧殺してしまいます。しかし、大黒柱となる存在が無いとブレンドは成り立たず、それぞれの個性が分解してしまいます。
いかにしてバランスをとっていくか…造り手に似てじゃじゃ馬です(笑)。

IMG_6723

④長濱蒸溜所
蒸溜時期:2018年7月
度数:59.9%
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

長濱蒸溜所の個性がしっかり出ていると言える原酒です。
香りはモルティーで微かにモロミの香り、穏やかな酸味とオーク香。味わいも柔らかくコクがある麦芽風味を主体として、余韻はほろ苦く軽い香ばしさが混じる。
バーボンバレル特有の華やかさはまだそれほど強くないため、5蒸留所の原酒の中では最も中立的なキャラクターと言えるかもしれません。まさに各蒸留所の繋ぎ役ですね。
今回はバーボン樽原酒ですが、くりりんは個人的に別リリース関連でワイン樽やシェリー樽原酒を使ったところ、どれも非常にいい仕事をしていました。


⑤非公開の国産蒸留所X
蒸留時期:2018年
度数:非公開
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

蒸留所側の希望により、完全非公開となります。私も一切コメントできません。
ただ、この蒸留所の原酒なくして、今回のブレンドレシピは成り立ちませんでした。
蒸留所の個性としてはジャパニーズ、ワールド、どちらのブレンドからでも感じることが出来ると思います。テイスティングに当たっては、各蒸留所の個性を紐解きつつ、どこの蒸留所かを予想しながら楽しんで貰えたらと思います。


⑥スコッチモルト各種
熟成年数:非公開
系統:ノンピート、ピーテッド
樽:シェリー樽、バーボン樽、ウイスキー樽

ワールド仕様のレシピに使われた、輸入スコッチ原酒です。(同仕様では、構成比率51%以上がジャパニーズ原酒です。)
国内で追加熟成された原酒が用いられ、かなりこなれているもの、日本的な個性・樽感が付与されているものがあり、ジャパニーズという枠を超えて可能性を感じるものでした。
今回のリリースでは、各蒸留所の個性と将来性を感じられるリリースがジャパニーズだとすれば、ワールドは日本だからこそ作ることが出来るウイスキーとしての可能性を感じられると思います。

sample_b

最後に、本リリースに関わったブレンダーの一人としての感想を。
日本のウイスキーはスコットランドをルーツにしていますが、現代においてはそれを完全に再現するのではなく、蒸留所毎に発酵や蒸留、そして熟成等で工夫し、各地の環境にアジャストして独自の個性を生み出しています。

例えば、温暖な日本においては樽感が強く出るため、基本的には熟成期間を短く設定しなければなりませんが、その分、長期熟成では失われてしまう原酒の個性が強く残ります。
結果、シングルモルトではそうした個性が強みとなり、現在進行形で評価を高めているわけですが。規模の限られるクラフト蒸留所単体で作る事が出来る原酒の種類、香味の幅には限界があります。
T&T TOYAMAが進めている各種プロジェクトは、まさに日本のウイスキー産業の将来を見据えたものと言えるわけです。

ただ…記事中にも書いたとおり、個性豊かなクラフト原酒のブレンドは、想像以上に難しかったですね(笑)。
これはリリースコンセプトというより、自分個人の想いとなりますが、今回のブレンドで表現したかったジャパニーズウイスキー観は「十二単」です。熟成を経たことで得られる重厚なウッディさと個性、これらが重なり合うことで生まれるウイスキーを、雅で艶やかな日本の着物独特の雰囲気に重ねています。

結果、十二単というよりは、単に着物の重ね着のような感じかもしれませんが、それぞれの原酒の個性が色彩となり、重なりあうことでこれまでにない味わいに仕上がったと思います。
最初の1杯は、是非テイスティンググラスでじっくりと、各蒸留所に思いを馳せながら楽しんでいただけたら幸いです。

このページのトップヘ

見出し画像
×