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龍流 ブレンデッドジャパニーズウイスキー 43% 桜尾蒸留所✖️BAR お酒の美術館

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THE RYURYU 
BLENDED JAPANESE WHISKY 
“SAKURAO DISTILLERY” 
For BAR LIQUOR MUSEUM
700ml 43%

評価:-(飲んで評価いただければ幸いです)

香り:ややドライでエステリー、華やかさとスモーキーなトップノート。ドライアップルや柑橘に土や焦げた藁を思わせるピート香が混じる、微かにスパイシーで複雑なアロマ。時間経過でアップルタルト。

味:スムーズで柔らかい口当たり。ピーティーで砂糖をまぶしたグレープフルーツや燻した麦芽の甘さとほろ苦さ。余韻にかけてはバーボンオークの華やかさとナッツやシリアルを思わせる香ばしさ、後からウッディな苦味がピートスモークとともに感じられる。

桜尾蒸留所のモルト原酒とグレーン原酒だけで構成したブレンデッドウイスキー。その香味はピーティーかつエステリー。ミズナラ樽とバーボン樽に由来する清涼感あるウッディネスに、グレーンの緩やかな甘さ、香味ともドライ寄りの構成であるためオールシーズンで楽しめる構成。ストレートやロックでも充分楽しめるが、やはりおすすめはハイボール。スモーキーでいて飲みやすく、その中に桜尾蒸留所の個性がしっかりと感じられる。

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BAR お酒の美術館を展開するNBG社と、広島県の桜尾蒸留所を操業するサクラオブルワリーアンドディスティラリー社(以下、サクラオ)とのコラボリリースです。
桜尾蒸留所の3年熟成以上のモルト・グレーン原酒でブレンドした、ブレンデッドジャパニーズウイスキー。また単一蒸留所で両原酒を製造し、ブレンデッドウイスキーとして製品化しているのは国内では富士御殿場、桜尾のみであり、世界的にも非常に珍しいシングルブレンデッドウイスキーでもあります。(※嘉之助蒸溜所の日置グレーンは別蒸留所として整理)

お酒の美術館のコラボリリースでは、過去リリースされてきた第一弾の発刻、祥瑞、第二弾の琥月、姫兎、全リリースで、蒸留所との初期調整から原酒の選定やブレンドまでを担当させてもらっており、今回のコラボリリース第3弾も同様に協力させて頂きました。
今作に関するリリースの経緯等、概要はNBG社のプレスリリースにまとめられているため、本記事ではブレンダー視点でウイスキーを紹介していきます。
なお、これまで同様にリリースに当たっての報酬、ロイヤリティ等は頂いておりません。



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桜尾蒸留所の操業者であるサクラオ社(旧・中国醸造)は、歴史こそ100年を超えますが、現在の設備における創業はモルトウイスキーが2017年、グレーンウイスキーが2019年と比較的近年であり、それ以前は自社蒸留の原酒以外に輸入原酒を熟成、ブレンドしたものを主力商品としてリリースしてきました。
大きな転換点を迎えたのが2023年。スタンダードなリリースであるブレンデッドウイスキー戸河内を、100%自社蒸留&熟成のモルト原酒とグレーン原酒で造る、ブレンデッドジャパニーズウイスキーへリニューアルするという、クラフトメーカーとしては異例の挑戦を実現させたのです。

今回のPBは、このブレンデッドジャパニーズウイスキー戸河内”プレミアム”の兄弟銘柄、より厳選した原酒を用いたスペシャル版に当たります
構成原酒はモルトウイスキーがノンピートとピーテッド、グレーンは国産の丸麦を100%使用した桜尾蒸留所独自のもの。整理すると、原酒としては以下が使われており、熟成樽はバーボンとミズナラで、モルト比率のほうが高い構成(モルト6:グレーン4)となっています。

【ブレンデッドジャパニーズウイスキー龍流構成原酒】
・桜尾ピーテッドモルト(桜尾熟成:バーボン樽)
・桜尾ノンピートモルト(桜尾熟成:バーボン樽)
・桜尾ノンピートモルト(桜尾熟成:ミズナラ樽)
・桜尾ノンピートモルト(戸河内熟成:バーボン樽)
・桜尾グレーン(桜尾熟成:バーボン樽)
※全ての原酒が3年熟成以上

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(桜尾蒸留所のポットスチル。コラムスチルも併設されており、様々なタイプの原酒を生み出すことが出来る。)

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(桜尾蒸留所の熟成庫。温暖な環境で、力強い個性を持つ原酒に仕上がる傾向がある。奥にパラタイズ式で貯蔵されているのがグレーン原酒。)

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(廃線となった鉄道用トンネルを再利用している戸河内熟成庫。冷涼かつ多湿な環境が特徴であり、樽感は穏やかだが口当たりが柔らかく、エステリーな原酒に仕上がる傾向がある。)

ボトルは戸河内と共通のため、単に戸河内の詰替えなのではないか、ラベル替えではないかという声も見聞きしましたが、そんなことはありません。
龍流の味わいを構成原酒別に分解すると、ピーテッドモルト原酒のはっきりとしたスモーキーフレーバーに、バーボン樽原酒由来の華やかさが骨格を形成。そこにグレーン原酒が柔らかさと、ふくらみのあるエステリーな甘さを。ミズナラ樽由来の爽やかでスパイシーなフレーバーや桜尾熟成庫と戸河内熟成庫で異なる熟成感を持つ複数の原酒が複雑さを加えています。

戸河内プレミアムと飲み比べると、戸河内プレミアムのほうがグレーン原酒のフレーバーが主体となっており、スモーキーさもほとんどないため兄と弟というか、兄と妹(あるいは姉と弟)くらい違う感じですが。どちらのブレンドも桜尾グレーン原酒に共通点があり、戸河内プレミアムを飲んだ後で龍流を飲むと、スモーキーフレーバーの中にあるグレーン原酒由来の味わいにピントが合いやすいのではないかと思います。

桜尾グレーン原酒は、国産丸麦100%に糖化酵素としての輸入麦芽1の比率で造られる、麦原料のグレーン原酒です。そのため通常のコーンベースのグレーン原酒よりもボディに厚みがあり、味わいにも勢いがある。バーボン樽との組み合わせで、現時点では富士御殿場のヘビータイプグレーンに似た印象を受けるものに仕上がっています。
2021年に発表された「ジャパニーズウイスキーの基準」以降、ボリュームゾーンのリリース向け国産グレーン原酒をどうするかは各社大きな課題となっていたところ。それをいち早く解決して商品化に繋げた桜尾蒸留所の取り組みに、ただただ感嘆させられます。今回のリリースでは、原酒の豊富さや製造・熟成環境だけでなく、同蒸留所のグレーン原酒に是非注目してほしいです。

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(ブレンデッドウイスキー龍流のブレンド風景。候補となるレシピを試作を繰り返し、絞り込んでいく。)

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(様々な構成を試し、最終的に候補となった3種のレシピ。)

PBを作るに当たり、お酒の美術館からはスモーキータイプで手軽飲めるものをと依頼されていたため、ブレンデッドジャパニーズウイスキーという仕様のままに、ピーテッド原酒をどう活かしていくかがポイントでした。
幸か不幸か、ピーテッド原酒とグレーン原酒は馴染む比率に限りがあるように感じられ、グレーンを4割より多く使うとグレーンのフレーバーが目立ちすぎてまとまらず、4割より少なくするとモルトの若さが強く出て粗い仕上がりとなる。モルトとグレーンの比率はあまり迷いませんでした。

というのも上の写真にあるサンプルAは、一番最初の試作で「こんな感じかな?」と思いついたレシピであり、最もピーティーな構成。
その後何度も試作を繰り返しましたが、個人的にはこのレシピが一番好みでしたね。ブレンダーをやらせてもらっていると、結局一番最初に思いついたレシピが一番好みだった(あるいは完成形に近かった)ということは珍しくありません。

その後も用意頂いた原酒を使って試作を繰り返し、当日印象に残ったレシピの中から、バーボン樽原酒の比率を増やしたフルーティー寄りな構成のサンプルB、ミズナラ樽原酒の比率を増やしてスパイシーかつ複雑なサンプルCが候補として残り。後日、蒸留所側で3種を試作→一定期間のマリッジ→お酒の美術館の店長会議での投票でボトリングするレシピが決まったという流れです。
何れも桜尾蒸留所の個性がしっかり感じられるものでしたが、選ばれたレシピはサンプルB。フルーティー寄りなレシピで、スモーキーさとのバランスがとれているタイプです。万人向けのイメージで造っており、ちょっと残念でしたが狙い通りの結果でもありました。

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今回の企画は、桜尾のブレンデッドジャパニーズウイスキーでPBを造れたら良いなと、ダメ元で話を持っていったところ、この条件なら…→ええ、やりましょう(社長即決)→じゃあくりりんさん、後宜しくお願いします…。という形で話がまとまり、光栄なことにブレンダーも務めさせてもらいました。
国産原酒だけのブレンドは、モルトだけなら過去何度かありますが、モルトとグレーンを用いるケースでは初めて。また一つ、貴重な経験をさせてもらいました。

リリースにあたっての条件は一個人や一店舗で出来るようなものではなく、今国内で最も勢いのあるBARチェーンお酒の美術館だからことやれたという感じですが。何より、サクラオだからこそ、この仕様、この規模のPBを造ることが出来たと感じています。
本PB「龍流」は、全国のお酒の美術館で提供されています。リリース本数は約2000本で、すぐに無くなるものではないでしょうが…次があればサンプルAのレシピをリリースしたいですね(笑)。
皆様、お酒の美術館とサクラオブルワリーアンドディスティラリーのリリースを、引き続きよろしくお願いします。

ザ ラストピース ワールドエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

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THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT WHISKY 
World Edition Batch No,1 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
One of 800 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:華やかでナッティな香り立ち。アプリコットジャムや熟した林檎を思わせるフルーティーな甘み。オーキーで程よいウディネス、ハーブのアクセント、ほのかにスモーキー。

味:フルーティーでしっとりと甘い口当たり。林檎の蜜、甘栗やカステラ、麦芽風味。香り同様に熟成感があり、一本芯の通った複雑な味わい。余韻にかけて香味の広がりを感じられ、微かにピーティーで華やかなオーク香が鼻腔に抜ける。

香味とも華やかでフルーティーだが、キラキラと派手なタイプではなく、しっとりとして色濃く奥ゆかしいタイプ。奥には黄色系フルーツ、麦芽風味、特徴的なピートなど、クラフト原酒由来の個性も感じさせる。
イメージとしては、THE LAST PIECEのジャパニーズエディションに熟成感を増して、完成度を追求したレシピ。日本とスコットランドの個性が織りなす、日本だからこそ作ることができるウイスキー。ストレート、少量加水、あるいはロックでじっくりと楽しんで欲しい。

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先日、T&T TOYAMAから発表された「THE LAST PIECE」のワールドブレンデッド版です。
先日レビューを更新したジャパニーズエディションは、国内5ヶ所のクラフト蒸留所原酒100%のジャパニーズウイスキー。ワールドエディションは、構成比率の過半数以上がクラフト産原酒で、そこに輸入原酒をブレンドしたブレンデッドモルトウイスキーとなります。

発売は若鶴酒造が運営する私と、ALC.を中心に、4月19日(火)から。
先行する形で、4月1日(金)から購入希望の抽選受付が開始されます。
「個性のジャパニーズ、完成度のワールド」、ブレンダーの一員として、その実現を目指したブレンドです。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


改めて構成原酒を記載すると
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッド
・桜尾蒸溜所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
・スコッチモルト(国内追加熟成)

クラフト原酒は全て3年熟成でバーボン樽熟成。スコッチモルトは熟成年数非公開ですが、バーボン樽以外に、シェリー樽、リフィル樽等での熟成品が用いられており、一部原酒は国内で追加熟成を行ったものが使われています。

追加熟成を経たスコッチモルトは、もともとあったスコッチモルトらしいまとまりのある穏やかな酒質に、日本的な樽感が加わって熟成感も増した仕上がり。こうした原酒の存在は、個性をまとめ上げる繋ぎとして有用である一方、その原酒に頼るだけではワールドの意味がありません。
国産原酒の個性を主として残しつつ、全体の完成度を高めるにはどうするべきか。正直、ジャパニーズのレシピ以上に悩ましく、かけた時間、試作数も多くなりました。
【補足】各原酒の個性はリリース告知記事の後半に記載→こちら

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しかしワールドブレンドというと、あまり良く無いイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
それはブームに乗って利益を得るために、安価な輸入原酒で水増ししたリリース。つまりパッションやストーリーのない、嗜好品としての重要要素を満たさないリリース、というイメージに起因しているのでは無いでしょうか。

確かに、そうしたウイスキーの存在は否定できません。しかし本来スコッチウイスキーは美味しいものであり、日本では作り得ない原酒が数多くあります。(あるいは日本でも作れるかもしれないが、膨大なコストがかかるケース。)
例えば長期熟成原酒がそうです。
ワールドブレンドは、日本でしか作れない原酒と日本では作れない原酒、それらの良い点を引き出すことで、これまでにないウイスキーを作ることが出来る、可能性に満ちたジャンルでもあるのです。
活かすも殺すも、造り手次第というわけですね。

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THE LAST PIECEをリリースする、ボトラーズメーカー「T&T TOYAMA」は、日本のクラフト蒸溜所が、将来単独でリリースを行っていくのではなく、他の蒸留所と連携する可能性を見出せるよう、蒸留所間のハブとなることを目標の一つとしています。
一方で、同社はスコッチモルトも海外メーカーから買い付けてリリースしており、ニンフシリーズやワンダーオブスピリッツがその代表作です。つまり、日本、スコットランド、どちらにも繋がりを持つメーカーと言えます。

であるならば、THE LAST PIECEのワールドエディションは、ジャパニーズの個性感じさせつつ、スコッチウイスキーのいいところも活かした、T&T TOYAMAらしいリリースに仕上げたい。
2つのリリースを飲みくらべることで、なるほどこれが日本の個性か、これがスコッチモルトの熟成感かと、愛好家に伝わるような美味しいウイスキーに仕上げたい。
果たしてその狙いは達成されたのか、限られた条件の中で可能な限り高い点数を目指したワールドエディション。楽しんで頂けたら幸いです。

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以下:余談
4月1日から開始される、私と、ALC.での抽選販売受付は、稲垣代表の趣味趣向が色濃く反映された、激ムズクイズが用意されています。
私と、ALC.抽選販売受付ページ:

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


公開されている4蒸留所とT&T TOYAMAからそれぞれ1問、計5問が選択式で出題されます。
誤解のないように補足すると、正答率が高い人から抽選で選ばれるのではなく、正答率が高いと当たりやすくなる、当選確率がプラス補正されるものです。全問正解でもハズレる可能性があり、正答率が低くても当たる可能性があります。
そんなわけで、これはちょっとしたゲームです。各蒸留所について調べる機会だと捉えて頂き、ぜひ奮ってご参加いただければと存じます。(難しい問題と思うかもしれませんが、冷静に選択肢1つ1つを考えてみてくださいね。)

ザ ラストピース ジャパニーズエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
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THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 
EIGASHIMA, SAKURAO, SABUROMARU, NAGAHAMA…and SECRET DISTILLERY 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
Cask type Bourbon Barrel 
One of 300 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:トップノートは黄色系のフルーティーさ。注ぎたてはドライだが徐々にお香の煙のように柔らかく香る。パイナップルや柑橘、ハーブ、パンケーキを思わせる甘さと軽い香ばしさ。フルーティーさとモルティーな甘みにスモーキーなアロマがまじり、複層的なアロマを形成する。

味:膨らみがあってモルティーな口当たり。熟したパイナップルを思わせる甘み。合わせてほろ苦い麦芽風味とウッディネス、軽いスパイスと微かに干草。じわじわと存在感のあるピートフレーバーが顔を出し、スモーキーでビターなフィニッシュが長く続く。

熟成年数以上にまとまりがあり、若さを感じさせないフルーティーでスモーキーな構成。バーボン樽のオーキーなフレーバーと、各蒸留所の個性がパズルのピースのように組み合わさり、それぞれが主張しながらも1つにまとまっている。わずか3年熟成の原酒だけで、これだけのウイスキーを作ることができる、クラフトジャパニーズの将来に可能性を感じる1杯。テイスティンググラスでストレート、または少量加水をじっくりと楽しんでほしい。

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先日、T&T TOYAMAからリリースが発表された「THE LAST PIECE」。
世界初となる日本国内5か所のクラフト蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキーで、ジャパニーズ仕様とスコッチモルトを加えたワールド仕様、2つのリリースが予定されています。
本リリースは、2022年4月1日(月)から購入希望者の抽選受付を開始し、2022年4月19日(火)発売予定となります。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090



日本国内の蒸留所の数は、建設が予定されているものを合わせると50か所、60か所と増え続けている一方で、単独で様々なウイスキーをつくるのは限界があります。
スコットランドでは、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが多数存在し、原酒のやり取りが当たり前にあり、中にはブレンド向け蒸留所として位置付けられている蒸留所もあります。それらが一般的ではない日本においては、今まさにその可能性が模索されている状況にあり、今回のリリースは日本のウイスキー産業に新しい事例、選択肢を作ることが出来たと言えます。

また、T&T TOYAMAはこちらも世界初であるジャパニーズウイスキーボトラーズであり、現在富山県内にウェアハウスの建設と、各蒸留所からの原酒の調達を進めています。
そのT&T TOYAMAとして初めてリリースされるジャパニーズウイスキーが「THE LAST PIECE」であり、まさにどちらも先駆者、世界初尽くしのリリースとなっています。

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今回、そんな記念すべきリリースにおいて、ブレンダーという大役を頂きました。
私はあくまで趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家でしかありません。ならば、今回のブレンドはT&T TOYAMAの2名が生産者、販売者なら、自分は愛好家という立ち位置から求めている味わいを提案していこうと、原酒選定やレシピ構築のテイスティグ、ディスカッションに参加しています。

しかしこれまでブレンドレシピ構築は10リリース以上関わっていますが、今回はとにかく難しかったですね。
まず全ての原酒がバーボン樽熟成で、そしてどれも3年以上ながら短期間の熟成であったということ。
ブレンドにおいては、グレーン、あるいはシェリーやワインのような甘く濃い樽感など、モルト原酒の強い風味の間を繋ぐ要素の有無がポイントになります。
例えるなら、蕎麦打ちで言うところの小麦粉のような存在。今回はそれらの要素が一切無いなかで、バランスをとっていかなければなりませんでした。

また、今回使用した原酒と蒸溜所は
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッドモルト
・桜尾蒸留所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビリーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
という組み合わせ。
若い原酒であることも後押しして、それぞれがはっきりとした個性を持っていることも、各蒸留所においては強みである一方、ブレンドにおいては難しさに繋がりました。

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三郎丸のヘビーピートモルトのような、強い個性を主体としてブレンドを構築するのは解決策の一つなのですが、これはピートフレーバーで他の蒸溜所の個性を圧殺する構成であり、せっかく5か所の蒸留所の原酒をブレンドする意味がなくなってしまいます。
従って三郎丸蒸留所の原酒をガッツリ使うわけにはいかず、そうなると先に書いたようにバランスの問題が出てしまう…。

そうして調整を繰り返して仕上がったのが、今回のブレンドとなります。
三郎丸蒸留所のオイリーでどっしりとした酒質、ピートフレーバーを底支えにして、江井ヶ嶋蒸溜所の軽やかなスモーキーさ、桜尾蒸留所のフルーティーさ、長濱蒸溜所の柔らかいモルティーさ、そこに非公開蒸留所の個性と酒質がエッセンスとなったレシピ。

自分が”ジャパニーズブレンドらしさ”として考える、「十二単」のような艶やかで雅な雰囲気…とまではいかないものの、各蒸留所の個性が重なり合い、共演しつつも、まとまりのある味わい。パズルで最後のピースがはまり、一枚の絵画として新しい世界が広がった瞬間。まさに「THE LAST PIECE」の銘に相応しいリリースに仕上がったと感じています。

ちなみに、スコッチモルトを用いたワールド仕様のレビューも後日実施する予定ですが、そちらは純粋な美味しさ、ブレンドとしての完成度を見て貰えたらと思います。これも、様々な原酒を使うことが出来る日本のウイスキーだからできる、ウイスキー造りの方向性の1つです。
本リリースがジャパニーズウイスキーの将来に向け、新しい可能性に繋がることを期待しています。
→ワールドエディション Batch No,1のリリースレビューはこちら

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ザ ラストピース ブレンデッドモルトのリリースとスペース放送告知(4/1~ 抽選受付)

カテゴリ:
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ジャパニーズウイスキーボトラーズT&T TOYAMAから、世界初となる国内5箇所のクラフトウイスキー蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキー「THE LAST PIECE」がリリースされます。

THE LAST PIECE 
BLENDED MALT WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 700ml 50% (限定300本)
World Edition Batch No,1 700ml 50% (限定800本)

Blender: TAKAHIKO INAGAKI, TADAAKI SHIMONO, KURIRIN 
Bottled By T&T TOYAMA 
発売時期:2022年4月19日(火)予定

※公式ニュースリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000031708.html

※リリース記念スペース放送
3月28日(月)21:00〜
配信URL:https://twitter.com/i/spaces/1lPKqmZeDanKb
スピーカー:T&T TOYAMA(稲垣貴彦、下野孔明)、くりりん
参考資料:本記事後半に記載

・江井ヶ嶋蒸溜所
・桜尾蒸溜所
・三郎丸蒸留所
・長濱蒸溜所
・非公開の国産蒸留所
世界初となる計5蒸留所の原酒を用いた、ブレンデッドモルト ジャパニーズウイスキーです。
また、これらの原酒に国内で追加熟成したスコッチモルトを加えた、ワールドブレンドも同時にリリースされます。販売は若鶴酒造のALCで、抽選販売(4月1日12:30受付開始、クイズ有り)を中心に行われる予定です。

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※3月25日に行なわれた記者会見風景。ニュース動画はこちら

公式発表にもありますように、くりりんがブレンダーの一員として参加させていただきました。(これまで同様に、監修料や販売にかかる利益等報酬は受け取っておりません。)
計画自体は1年以上前からT&Tの2名を中心に動いており、それこそ交換する原酒の選定などにも関わらせて頂いたところです。
ブレンダーとしての参加は、自分のテイスティング能力とこれまでのリリース実績等を評価いただいたとのことですが、本当に凄い経験をさせて貰いました。

リリースにあたっては、タイトルにもあるようにT&T TOYAMAの2名と当方でスペース放送を実施して、改めて企画の説明や狙い、そして裏話等をさせて頂きます。
例えば、ブランド名であるTHE LAST PIECEの由来にもなっている、ブレンドのトライ&エラーです。

今回の原酒は全て光るものがあり、今後の成長も見込めるものでした。しかしそれはあくまでシングルモルト、シングルカスクとしてリリースする場合であり、今回のようにブレンドするとなると、豊かな個性は必ずしもプラスにならない場合があります。
しかもジャパニーズエディションの構成原酒は、全て3年熟成でバーボン樽原酒です。シェリー樽の濃厚な香味でバランスをとるような事も出来ません。かといって、ピートを強くしすぎると他の原酒の個性が死んでしまう。とにかくバランスをとるのが難しかったですね。

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(ブレンド風景。ジャパニーズ、ワールドとも日本のクラフト蒸留所のポテンシャルを感じる事ができるレシピに仕上がった。)

THE LAST PIECEは、各蒸留所の個性をパズルのピースに例え、パズルが1枚の絵画となる瞬間、全く新しい魅力をもったウイスキーが誕生することをイメージしています。
各蒸留所の原酒の個性、混ぜ合わせたときの表情、ブレンドにおける最後の1ピースはどこにあるのか…。リリースを楽しみにしてもらえるようなエピソードを、スペースやブログ記事を通じて紹介していきたいと思います。

なお、本日3月25日はリリースに向けての記者発表が行われたわけですが。3月26日、27日のウイスキーフェスティバルでは、ブレンド直後のサンプルをT&T TOYAMAブースで同プレミアム会員のみに試飲提供するそうです。
気になる方は、ピンバッチをお忘れなく!

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※以下、スペース放送用参考資料※
THE LAST PIECE の紹介と、構成原酒を提供頂いた蒸留所に関する所感を以下の通りまとめます。
共通しているのが、若い原酒ながら熟成年数以上にまとまりがあり、どれもレベルが高いということです。
「またまた、忖度してるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、厳しめに見たとしても、どの蒸溜所の原酒もスコッチウイスキーで言うところの10~15年熟成程度のクオリティはあるものと感じています。

放送では、それぞれの原酒に感じた印象、ブレンドに使ってみた際の変化等も伺ってみたいと思います。そのため、原酒調達にあたって各蒸留所を回られたT&T TOYAMAの2人に私が色々質問をして、話を聞いていくような流れをイメージしています。


■THE LAST PIECEについて
ブランドネーミングの由来は上記の通りですが、少し異なる視点の話を記載します。
2021年にジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始めたT&T TOYAMAは、日本のウイスキー産業においてハブとなる存在を目指すという目標を持っています。
ジャパニーズウイスキー約100年の歴史(山崎の創業を起点とした場合)のなかで、日本には作り手がおり、蒸留所があり、それをリリースする酒販店も充実しています。しかし、スコットランドのように各蒸留所と繋がりのあるブレンドメーカー、ボトラーズメーカーが存在せず、また法律的な制限もあって、それらは非常に縦割り的で、組織を越えた横の繋がりは殆どありません。

これまでの時代であれば大手3社を中心に様々なウイスキーがリリースされ、少数のクラフトメーカーが尖ったリリースで愛好家を賑わす、そんなビジネスモデルが成立したところ。しかし今やそのウイスキーメーカーの数は創業予定のものを含めると60社を超える状況です。

如何に複雑な香味を持つウイスキーと言えど、そこまで多様性のあるものは出来ませんし、商品の製造だけでなく販売、広報にかかるコストは馬鹿になりません。
共存共栄を図って日本のウイスキー産業を更に大きなものとしていくためには、各社の間を繋ぎ、リリースを通じたPRも行う”ハブとなるメーカー”、つまりブレンドメーカーやボトラーズメーカーが業界におけるラストピースとなっています。

T&T TOYAMAには4月上旬完成予定の熟成庫があり、ここで原酒の熟成は行われていきます。
そして各クラフト蒸留所と連携し、交換、調達した熟成原酒を用いたリリースの第一歩が、「THE LAST PIECE」。彼らが目指す日本のウイスキー産業に込められた想いが結実した、ブレンデッドウイスキーであると言えるのです。

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Japanese Edition Batch No,1 700ml 50% (限定300本)
各クラフト蒸留所、3年以上熟成原酒をバッティング。

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World Edition Batch No,1 700ml 50% (限定800本)
各クラフト蒸留所の原酒を構成比率で半分以上使用。スコッチモルトは日本国内で追熟したものをブレンド。

■ラベルデザインについて
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ラベルデザインは、各蒸留所の個性がつながり、調和することをイメージして、日本の伝統工芸の一つである組子(くみこ)をモチーフに使用しています。
また、その組子の配置は細胞やDNAをイメージさせるようでもあり、これもまた繋がりと、そしてその繋がりが増えていくことで、新しい日本のウイスキーを形成することも意味として込められているそうです。

最初はパズルのピースでラベル案を作ったんですが、気がついたらめちゃくちゃスタイリッシュでカッコ良くなってました。やはりプロの技術は凄いですね。
組子は様々なデザインがあるので、今後リリースが続く場合はラベルは色違いだけでなく、異なる組子のデザインを用いていくそうです。

■構成原酒と蒸留所について
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①江井ヶ嶋蒸溜所
蒸留時期:2018年6月
度数:62.8%
系統:ライトリーピーテッド
樽:バーボンバレル

軽やかな麦芽風味にピリッとした舌への刺激、柑橘系のフルーティーさ、オークフレーバー、そしてじわじわと土っぽくピーティーな余韻。
同蒸留所の特徴として、ヘビーでフレーバーの力強い原酒とは対極にある、ライトで柔らかく、それでいて適度なコクのある原酒という印象。かつてはコシのないペラくて雑味の強い蒸留所という印象が、こうして単品で飲んでみるとその変化に改めて驚かされました。
先日リリースされた、三郎丸蒸留所とのコラボリリースFAR EAST OF PEATでも同様の役回りでしたが、今回のブレンドにおいても全体の繋ぎ、底支えとしていい仕事をしていると思います。


②桜尾蒸溜所
蒸留時期:2018年8月
度数:60.8%
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

ブレンドに向けてテイスティングをした際、いい意味で一番驚きがあったのがこの原酒でした。
個人的に桜尾蒸留所の原酒は、例えるならスコットランドのグレンマレイのように、プレーンで軽やか、しかし樽感を受け止めてフルーティーに仕上がる近年のスペイサイドモルトのようだと感じています。正直、もっと評価されていい蒸留所ですね。
今回の原酒はしっかりとオーキーなアロマ。軽やかでフルーティーかつナッティーな広がり。余韻がウッディでドライ寄りでもあったので、使う量には注意しなければなりませんでしたが、ジャパニーズ、ワールドともフルーティーな香味を形成する役割を担っています。


③三郎丸蒸留所
蒸留時期:2018年7月、8月
度数:63.1%、62.3%
系統:ヘビーピーテッド
樽:バーボンバレル

今回、三郎丸からは2種類の原酒が用意されていました。
どちらも三郎丸らしくどっしりとした重みのあるフレーバー構成は共通で、
63.1%のほうはモルティーで香ばしく、そして焦げたような強いスモーキーさ。
62.3%のほうはオイリーで微かにハーバル、スモーキーさの中に癖を残したような構成。
ピートフレーバーは前者のほうが素直で、一層際立っているのですが、今回のブレンドでは、後者62.3%の原酒をどう使いこなすかがポイントだったように思います。
三郎丸の原酒はとにかく強いので、使いすぎると全てのフレーバーを圧殺してしまいます。しかし、大黒柱となる存在が無いとブレンドは成り立たず、それぞれの個性が分解してしまいます。
いかにしてバランスをとっていくか…造り手に似てじゃじゃ馬です(笑)。

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④長濱蒸溜所
蒸溜時期:2018年7月
度数:59.9%
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

長濱蒸溜所の個性がしっかり出ていると言える原酒です。
香りはモルティーで微かにモロミの香り、穏やかな酸味とオーク香。味わいも柔らかくコクがある麦芽風味を主体として、余韻はほろ苦く軽い香ばしさが混じる。
バーボンバレル特有の華やかさはまだそれほど強くないため、5蒸留所の原酒の中では最も中立的なキャラクターと言えるかもしれません。まさに各蒸留所の繋ぎ役ですね。
今回はバーボン樽原酒ですが、くりりんは個人的に別リリース関連でワイン樽やシェリー樽原酒を使ったところ、どれも非常にいい仕事をしていました。


⑤非公開の国産蒸留所X
蒸留時期:2018年
度数:非公開
系統:ノンピート
樽:バーボンバレル

蒸留所側の希望により、完全非公開となります。私も一切コメントできません。
ただ、この蒸留所の原酒なくして、今回のブレンドレシピは成り立ちませんでした。
蒸留所の個性としてはジャパニーズ、ワールド、どちらのブレンドからでも感じることが出来ると思います。テイスティングに当たっては、各蒸留所の個性を紐解きつつ、どこの蒸留所かを予想しながら楽しんで貰えたらと思います。


⑥スコッチモルト各種
熟成年数:非公開
系統:ノンピート、ピーテッド
樽:シェリー樽、バーボン樽、ウイスキー樽

ワールド仕様のレシピに使われた、輸入スコッチ原酒です。(同仕様では、構成比率51%以上がジャパニーズ原酒です。)
国内で追加熟成された原酒が用いられ、かなりこなれているもの、日本的な個性・樽感が付与されているものがあり、ジャパニーズという枠を超えて可能性を感じるものでした。
今回のリリースでは、各蒸留所の個性と将来性を感じられるリリースがジャパニーズだとすれば、ワールドは日本だからこそ作ることが出来るウイスキーとしての可能性を感じられると思います。

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最後に、本リリースに関わったブレンダーの一人としての感想を。
日本のウイスキーはスコットランドをルーツにしていますが、現代においてはそれを完全に再現するのではなく、蒸留所毎に発酵や蒸留、そして熟成等で工夫し、各地の環境にアジャストして独自の個性を生み出しています。

例えば、温暖な日本においては樽感が強く出るため、基本的には熟成期間を短く設定しなければなりませんが、その分、長期熟成では失われてしまう原酒の個性が強く残ります。
結果、シングルモルトではそうした個性が強みとなり、現在進行形で評価を高めているわけですが。規模の限られるクラフト蒸留所単体で作る事が出来る原酒の種類、香味の幅には限界があります。
T&T TOYAMAが進めている各種プロジェクトは、まさに日本のウイスキー産業の将来を見据えたものと言えるわけです。

ただ…記事中にも書いたとおり、個性豊かなクラフト原酒のブレンドは、想像以上に難しかったですね(笑)。
これはリリースコンセプトというより、自分個人の想いとなりますが、今回のブレンドで表現したかったジャパニーズウイスキー観は「十二単」です。熟成を経たことで得られる重厚なウッディさと個性、これらが重なり合うことで生まれるウイスキーを、雅で艶やかな日本の着物独特の雰囲気に重ねています。

結果、十二単というよりは、単に着物の重ね着のような感じかもしれませんが、それぞれの原酒の個性が色彩となり、重なりあうことでこれまでにない味わいに仕上がったと思います。
最初の1杯は、是非テイスティンググラスでじっくりと、各蒸留所に思いを馳せながら楽しんでいただけたら幸いです。

T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始動 リリースの個性と期待について(追記あり)

カテゴリ:
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富山県のウイスキー専門店「モルトヤマ」の下野さんと、若鶴酒造・三郎丸蒸留所の稲垣さんが共同で運営するブランド「T&T TOYAMA」による、日本初のジャパニーズウイスキーの本格的なボトラーズプロジェクトが始動。
独自ブランド「Breath of Japan(日本の息吹)」のリリースに加え、日本のウイスキー業界の継続的発展に繋がる計画が、5月12日のyoutube Liveで公開されました。

ジャパニーズウイスキーというジャンルに限れば、世界初の取り組みとも言える事業の始動にあたっては、同ブランドの一口カスクオーナー制度等リターンを含む”クラウドファンディング”も本日正午から募集が開始され、開始30分で目標額の1000万円を達成!!!
追加のリターンとして、オリジナルブレンデッドウイスキーのプランも公開されています。

本記事では、同プロジェクトが目指すボトラーズメーカーとしての活動と役割を紹介しつつ、リターンにもなっている提携蒸留所の現在の酒質や、Breath of Japanとしてリリースされるボトルの期待値についてまとめていきます。
※各蒸溜所の情報について読みたい方は、記事後半部分まで飛ばし読みをしてください。

T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクト
クラウドファンディング
募集期間:5月13日~6月30日
目標額:1000万円(達成済み)
補足:支援者が100名を突破したことを受け、新しい支援プラン(オリジナルブレンデッドリターン)が追加されました。
世界初!ジャパニーズウイスキーボトラーズ設立プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)


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T&T TOYAMAが描く”本格的”なボトラーズプロジェクトとは。
ボトラーズメーカーは、蒸留所等から樽(原酒)を買い付け、その原酒を自社で熟成、ボトリングしてリリースしています。
一例として、オフィシャルブランドが大量の原酒をバッティングし、加水して品質を整えたものを定常的にリリースしているのに対し、ボトラーズは1樽またはスモールバッチを樽出しの度数そのままでボトリングすることで、原酒や樽の個性を際立たせたウイスキーをリリースする傾向があり、それが愛好家にとって大きな魅力となっています。

国内外から買い付けた原酒を、シングルカスク・カスクストレングスでリリースする。これだけなら、日本でも酒販店やBAR等のプライベートリリースで見られるもので、特段珍しくはありません。
ですが、買い付けた原酒を”自社の貯蔵庫で、自社で調達した樽で熟成させ、ピークを見極めてリリースする”という、欧州のボトラーズメーカーが一般的に行っている行程については、日本ではまだどのメーカーも行っていない取り組みであり、”本格的なボトラーズブランド”となるわけです。

なぜ日本ではボトラーズブランドが立ち上がらなかったのか。
理由については
・日本には蒸留所が少なかったため。
・原酒を交換したり、他社に販売するという取り組みが一般的ではなかったため。
・日本において自社で原酒を貯蔵し、ボトリングして販売する行為は、酒販免許以外に酒造免許の取得※が必要となり、事業者の負担が大きいため。
※酒造免許の取得には、酒造設備や専用の建屋が必要。

以上3点が要因と考えられます。また、ウイスキーの消費量が低迷していたこともあるでしょう。
しかし、ブームを受けて世界的に日本のウイスキーが求められ、2014年時点で9箇所だった蒸留所は2021年には34か所と約4倍増。今後さらに増加傾向にあるわけですが、蒸溜所の数が急激に増えたことと、JWの基準が制定されて業界の流れが変わったことで、”作ればどこかで売れる”という今までのビジネスプランが通用しなくなりつつあります。

クラフト蒸留所は自社でブランドを確立していくために、良質な樽、熟成場所やボトリング設備の確保、販路と認知度向上、あるいはブレンド用原酒の調達や当面の資金計画と言った、”ウイスキー造り”以外の領域に課題がある状況です。※下画像参照。ボトラーズメーカーに関連する活動が点線部分に該当。
イギリスでは、大手ブレンドメーカーによる原酒提供以外に、例えばボトラーズメーカーの老舗であるGM社やシグナトリー社などが、上述の課題を解消する(結果として)の役割を古くから担い、ブレンデッドウイスキーとは異なるブランドを確立したことが、業界成長の一助となりました。
つまり、日本においてウイスキー業界が継続的発展を遂げるためには、今後同様の役割を担う活動が必要になってくるわけです。

ボトラーズの役割

T&T TOYAMAが立ち上げる「ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業」は、
単に原酒を買い付けてリリースするだけではなく、熟成、瓶詰、販売、蒸溜以降の行程において、特にクラフトウイスキーメーカーを後押しするプロジェクトでもあります。既に国内クラフト6蒸留所から原酒提供について合意しているだけでなく、現在進行形で他蒸留所とも話を進めているそうです。
詳細については、クラウドファンディングの募集ページに詳しくまとめられているので参照いただければと思いますが、端的にまとめると以下の通りです。

【T&T TOYAMA ボトラーズ事業概要】
・富山県内に独自の貯蔵庫(最大貯蔵量約3000樽)を建設し、原酒を熟成。
・富山県産ミズナラ材等を用いた県内での樽製造のみならず、独自に樽を調達して熟成に使用。
・若鶴酒造が所有するボトリング設備等を、同事業だけでなく、他社のリリースにも提供。
・T&T TOYAMAとしてリリースするジャパニーズウイスキーは、下野氏、稲垣氏らがこれまでのウイスキーリリースの経験を活かし、原酒の状態を見極めてボトリング。原酒提供元とは異なる環境がもたらす、原酒の成長にも期待。

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※2021年5月時点で、T&T TOYAMAとパートナーシップを提携した蒸留所一覧

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※富山県南砺市の風景と建設予定の熟成庫。例えば九州・鹿児島と富山の異なる気候に加え、通常蒸留所で使用するものと異なる樽での熟成など、違う環境で育った原酒が、将来どのような個性の違いに繋がるのか。ボトラーズブランドにおけるウイスキーの醍醐味とも言える。

最高気温分布
※各蒸溜所の最寄りの気象台過去5年間の月別最高気温の平均値。(御岳は最寄りに類似環境と思われる観測点が無く、鹿児島気象台の観測データを使用。)熟成に大きな影響を与える夏場の違いに加え、冬場の気温差も影響を与えると考えられる。

さて、本プロジェクトのクラウドファンディングの数あるリターンで、最も注目を集めるのは1口カスクオーナー+T&Tプレミアムメンバーのセットでしょう。
対象となっているのは、江井ヶ嶋、御岳、嘉之助、桜尾、三郎丸の5蒸留所で、これらのニューメイクを熟成するカスク(後日リリースされる「Breath of Japan」)の権利を1部保有できるもの。リリースまでは数年かかりますが、その間は設立記念パーティーや、イベントでのサンプルテイスティング等のリターンが受けられるようです。

ただ、既存リリースがある三郎丸や嘉之助と異なり、設備を改修した江井ヶ嶋や、リリースが行われていない御岳、桜尾については未知数です。情報の無い蒸留所に、決して安くない金額を投入するのは、如何にブームとは言えど覚悟のいることかと思います。。。

実は今回、別件のウイスキー活動の関係で、クラウドファンディングのリターン対象となる蒸留所の原酒が全て手元にあるのです。いくつかの蒸留所は、以前感じていた印象とはいい意味でまったくことなる原酒を作り出しており、経験を積んで日々進化するクラフトの成長を感じています。
前置きが長くなりましたが、今回の記事でもう一つの目的である、蒸溜所の個性やT&T TOYAMAの活動を通じたリリースの期待値を、主観として以下にまとめていきます。
関心あります方、リターンを選ぶ際の参考にしていただければ幸いです。また、既に支援をされたという方は、今後出てくるであろうリリースをイメージする一助となればと思います。


※クラウドファンディング、1口カスクオーナー制度のリターン
支援額:55000円~
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会※
・選択された蒸留所いずれかのシングルモルトウイスキー700ml各1本の一口カスクオーナー証
・裏ラベルに指名を掲載
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルグラス1脚
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルTシャツ1着
・熟成庫壁面とT&T TOYAMAホームページへのお名前の掲載

※プレミアムメンバー会員の特典
・ボトラーズ設立記念パーティへのご招待(富山県内で開催)
・熟成庫の特別見学会へのご招待
・会員バッジの送付
・フェスでの原酒等の特別試飲が可能

【スケジュール】
2021年3月 原酒の買付交渉を開始
2021年5月 クラウドファンディング開始
2021年10月 熟成庫の建設着工予定
2021年12月 クラウドファンディングリターンの発送
2022年4月 熟成庫の完成予定・原酒の熟成の開始
2025年以降 商品のリリース

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※蒸溜所がリニューアルした2017年に行われた、記念パーティーの様子。今回のリターンにはこうしたパーティーの招待券や、熟成庫等の見学権が含まれている。

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※リターン対象となるボトルは、全て富山県内の樽工場でトースティング(樽の内側の炭化部分を削り落とし、炎で炙らずじっくりと木材を焼く加工)を施した、特殊なバーボン樽を使用する。新樽に近く、一方で一度熟成使われていることからアクが抜け、より香ばしくメローなフレーバーが期待できる。

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■江井ヶ嶋蒸留所の原酒について:
少なくとも、私個人の印象を隠すことなく伝えるならば、この5蒸留所の中で最も懐疑的な蒸留所が江井ヶ嶋だったと言えます。
熱意を感じない作り手、お世辞にもセンスが良いとは言い難いカスクマネジメント、熟成環境とマッチしない酒質。。。ただ、SNS繋がりの知人から、近年の江井ヶ嶋は専門スタッフの配属で仕込みが改善し、設備もアップデートされて酒質が大きく向上したという話を聞いていました。
テイスティングしたのは2018年蒸留のカスクサンプルと、2019年蒸留のニューメイクです。はっきり言って別物ですね。今までのように雑味が強いのに厚みがなく、樽感の乗りも悪いといった原酒ではなく、麦芽由来の柔らかいコクと程よい酸味、軽い香ばしさを伴う素朴な味わいが主体の、洗練されてバランスの良い酒質へと大きな変化を遂げています。熟成後は、間違いなくこれまでの江井ヶ嶋蒸留所のイメージを払拭してくれることでしょう!!

■御岳蒸留所の原酒について:
焼酎銘柄”富乃宝山”で知られる、西酒造が2019年に創業したのが御岳蒸溜所です。西酒造については、以前クラフトジン「尽」のリリースで話を伺った際、明確なビジョンを持って造りの工夫をしていたことが印象的で、ウイスキーについても密かに楽しみにしていました。
酒質についてはクリアでありつつボリュームのしっかりある、丁寧な造りも伺えるような素晴らしい品質のニューメイクです。傾向としてはハイランドモルト的ですが、クリアにしようとすると香味はプレーンで厚みが少なくなるのが傾向としてある中で、相反する特性をまとめ上げ、原料由来の良い成分を引き出していると言えます。ニューメイクの時点で、麦芽由来の豊かなコク、そして穏やかなフルーティーさがあり、余韻で未熟要素が残らない。飲んでいてワクワクしてきます!
なお、西酒造ではシェリー樽100%で熟成を行っているため、異なる樽で熟成するT&T TOYAMAのリリースはそれだけで貴重と言えます。将来的にシングルモルトがリリースされた際には、飲み比べをするのも楽しみですね。

■嘉之助蒸留所の原酒について:
当ブログでも何度かレビューしている嘉之助蒸留所。6月には初のシングルモルトリリースも控えており、愛好家の期待も高まっています。
嘉之助蒸留所の酒質については、綺麗な酸味を伴う酒質で適度なコクがあり、未熟要素も少ないため温暖な気候と相まって3~5年程度で仕上がる比較的短熟向きという印象。樽香の乗りも良く、素性の良い酒質だと思います。また、作り手の熱意だけでなく、長く焼酎造りに携わってきたことでの技量の高さも高品質なウイスキーを生み出すポイントになっています。
これまでリリースされてきたバーボン樽熟成のニューボーンはフルーティーで、焼酎樽熟成のものはメローで穏やか、今回のT&T TOYAMAのカスクでは、鹿児島よりも気温が低い熟成環境も合わせて、そのいいとこどりが狙えるのではないかと感じています。

■桜尾蒸留所の原酒について:
江井ヶ島と並んで(立地的にも)今回のダークホースとも言える、中国醸造が創業する桜尾蒸留所。クラフトジンは知っていても、どんな原酒が造られているかは未知数の蒸留所かと思います。
あるいは、地ウイスキーの戸河内をご存じの方は、過去のリリースから連想されるかもしれませんが、蒸留所として設備や環境は一新されており、使われている原酒も違うため全くの別物です。
2018年蒸留のカスクサンプルを飲んだ第一印象は、「あ、グレンマレイっぽい」。柔らかくクリアで未熟要素が少ないだけでなく、バーボン樽由来の黄色系のオーキーなフルーティーさが適度に感じられる。。。まさにスペイサイドモルトのようで驚かされました。ニューメイクも洗練されており、強い個性を感じない代わりに樽由来のフレーバーを邪魔しない、現代的なウイスキーが期待できます。

■三郎丸蒸留所の原酒について:
最後は言わずと知れた、三郎丸です。日本の蒸留所の中で唯一ピーティーな原酒のみを仕込む蒸留所であり、そのピートも2020年からアイラ島のピートを使った仕込みにシフトするなど、2017年の大規模リニューアル以降は様々な工夫を取り入れ、愛好家の注目度も年々高まっています。
リターンの対象となる2021年仕込みのニューメイクはまだテイスティングできていませんが、2020年仕込みのアイラピーテッド原酒を飲む限り、乳酸発酵由来のフルーティーさ、麦芽風味、そして微かに潮気を伴うピーティーなフレーバー。オールド・アードベッグを目指すという作り手の方針も合わせ、熟成後が楽しみで仕方ないニューメイクです。
さながら北陸の小さな巨人。あるいは日本のクラフトの至宝。ことこの蒸留所のカスクに関しては、もはや勝利は約束されたようなものです。

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なお、その他のリターンとしては、単純にブランドの設立を応援するもの等もありますが、上記1口オーナー制度以外に、ウイスキーのリターンがあるものとして新たに追加されたのが、

■支援者100名突破記念、焙煎樽マリッジのブレンデッドウイスキー
支援額:22000円~
・ブレンデッドモルトウイスキー『遊』(ブレンダー:モルトヤマ 下野)
・ブレンデッドウイスキー『創』(ブレンダー:若鶴酒造 稲垣)

こちらについては、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト原酒をキーモルトとし、輸入原酒をブレンドしたスモーキータイプのウイスキーを、一口オーナー制度のリリースにも使われる「焙煎バーボン樽」でマリッジしたもの。『創』はクラフト、ラベル(右)に書かれた獅子頭は”匠”を、『遊』は自由に造ることをイメージしているのだとか。未知数な部分もありますが、直近のリリースを見る限り間違いはないものとなりそうです。

そういえば、グレンマッスルで三郎丸の原酒を用いたブレンドを作った際は、バーボン樽でのマリッジでしたが、エキスが多く残った樽だったのか、スモーキーさの中にウッディで色濃くメローな味わいが付与された、納得のリリースに仕上がりました。あんな感じが強調されたリリースになるのかなと。
これまでT&Tのニンフシリーズ含め数々のリリースに関わり、原酒やブレンドレシピを選定してきた二人の技量に期待したいですね。


最後に、今回のプロジェクトに関する個人的な期待として。
日本にはウイスキーの造り手がいて、ウイスキーを輸入・販売するインポーター、卸業者、酒販店がいて、一見して製造から販売までの流れが整っているように見えます。ですがその間を繋ぐ機能を持つ事業者がほとんど居ないことから、作り手が製造から販売の間にある、全ての製品企画・販売計画を建てる必要があります。
ですが、販売に繋げるのは簡単なことではなく、コストもかかります。また、小規模なクラフトほど原酒の作り分けは難しく、多様性を確保するのは容易ではありません。
この点を分業してきたのは本場スコットランドであったわけですが、T&T TOYAMAが始めるボトラーズプロジェクトは、日本のウイスキー業界になかった最後の1ピースとなりえ、ウイスキー史に残る挑戦的な取り組みであると言えます。

先日、日本洋酒酒造組合から発表されたジャパニーズウイスキーの基準(通称)を受け、市場の動き、造り手の意識が変わりつつあります。売り手市場は終わりを告げようとしており、各社は今までには無かった制限の中で、自社のブランドを確立していく戦略を求められているのです。
そうした中で、ボトラーズブランドのリリースが、オフィシャルリリースとの相互補完の関係で、ブランド全体のPRやリリースの多様性に繋がること。あるいは造ったばかりの原酒を安定して資金化できることは、蒸留所の安定に繋がることも期待できます。決して簡単な取り組みではありませんが、動き出したプロジェクトを見ると、逆にT&Tでしか出来なかったことではないかとも感じます。
日本のウイスキー業界の若きクラフトマンにしてクリエイター2人の大いなる挑戦。我々愛好家は勿論、業界全体で応援してほしいと願って、記事の結びとします。

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余談:クラウドファンディング最大のネタ枠だった「高所作業車名づけ権」が、開始数分で購入された件について。見ていて昼飯を吹き出しました。誰ですかこんな心意気のあるお方は・・・(いいぞもっとやれ!笑)
kousyosagyou

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