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御岳 ファーストエディション 2023 シングルモルト 43%

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ONTAKE DISTILLERY 
THE FIRST EDITION 2023 
Single Malt Japanese Whisky 
Cask type 1st fill Solera Sherry Butt 
700ml 43% 

評価:★★★★★(5)

香り:トップノートはドライプルーンやレーズンを思わせる甘く穏やかなシェリー樽由来のアロマ。微かに柑橘やアーモンドのアクセント。ややビターで軽い香ばしさに通じる硫黄香も感じられる。

味:柔らかい口当たり、香り同様のドライフルーツのフレーバーから香ばしさ、コクのある味わい。酒質の透明感に通じる品の良い甘さが特徴で、余韻にかけては軽やかな刺激と栗の渋皮煮、カカオを思わせる適度にビターなウッディネスが染み込むように広がる。

ノンピートタイプの原酒で43%まで加水されていることから、香味とも各要素はあまり強く主張せず、シェリー樽由来のフレーバー含めて穏やかにバランスよくまとまったシングルモルト。ともすれば面白味に欠ける仕上がりとも感じるかもしれないが、じっくり味わってみると中々どうして味わい深いのは、この蒸留所の酒質とシェリーの古樽由来のポテンシャルからだろう。例えるなら、京料理のような和食に通じる上品さと奥行きがある。
何より本リリースを起点に今後の異なる仕様のリリースにも繋がる、スタートラインにしてハウススタイルを表現した1本である。

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直近5年以内に創業した新興蒸留所の中でも、ニューメイクでの評価だけでなく、創業者こだわりの環境、設備、ハウススタイル等から、ここは間違いないと、愛好家から高い期待を寄せられているのが鹿児島県 西酒造 御岳蒸留所です。

何がそこまで凄いのかというと、
  • ウイスキーの熟成は基本シェリー樽
  • シェリー樽の大多数はソレラ払い出しのもの(2019年〜2021年まではソレラ払出し100%、2022年以降は一部シーズニング有り)
  • 蒸留所内部だけでなく、外観、景観にもこだわった各種施設。
  • 焼酎造りで培われたノウハウ、技術等によって生み出される、クリアでありながらコクのあるニューメイク。
などなど。実はこれ以外にも多数あるのですが、ウイスキーに直結する要素としてはこのあたり。

特に話題となったのは、ニューメイクの味わいもさることながら、熟成に用いられているシェリー樽でしょう。
西酒造においてウイスキー事業の創業は2019年ですが、同社は1845年から焼酎を製造しており、代表的な銘柄が「天使の誘惑」。天使の誘惑はシェリー樽熟成を売りにしている焼酎ですが、御岳蒸留所では焼酎事業で培ったシェリー樽調達ルートを活用し、ウイスキーは基本的に全てシェリー樽で、それも先に記載したようにソレラ払出しという、愛好家としては興味を持たずにいられない樽で熟成されているのです。

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※御岳蒸留所から望む鹿児島、桜島(御岳)方面の展望。標高400mほどの場所にある蒸留所からの景観は、一見の価値あり。

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※御岳蒸留所の熟成庫内部。石造りの熟成庫の中には、ソレラ払出しのシェリー樽の証明とされる黒塗りの樽が並ぶ。エンジェルシェアは年2%とのことで、10年単位での熟成も期待できる。

ここでシェリー樽について補足をすると、ウイスキーの熟成に用いられるシェリー樽は、大きく分けると実際にシェリー酒の熟成に用いられていた樽(呼び方は複数ありますが、本記事ではソレラ・シェリー樽とします)と、擬似的なシェリー酒を入れて一定期間保管したシーズニング・シェリー樽の2種類があります。

ソレラ・シェリー樽は、シェリー酒の消費量やそもそも熟成方法の関係から流通量が少なく、また樽ごとの香味も安定しづらいことで、現在は一定品質のものを大量に確保できるシーズニング・シェリー樽が主流となっています。
しかし愛好家間では、昔はソレラ・シェリー樽が主流であり、そして昔の方がウイスキーは美味しかった、つまりこれはソレラ・シェリー樽によるものだと、一種の神格化とも言える評価を受けています。

実際のところどうなのか、この考察については長くなるので本記事では省略しますが、ソレラ・シェリー樽はアメリカンオークのみが使われており、長期間シェリー酒を熟成していたため古樽となって木材そのもののエキスは出にくく、ゆっくりと熟成が進みます。故に良質な樽であれば長期熟成を経て華やかでフルーティーで、そこにシェリー樽由来のフレーバーがバランスよく交わる形が期待できます。
一方でシーズニングシェリー樽の保管期間は1年〜4年程度であり、樽材はアメリカンオーク、スパニッシュオーク、どちらもありますが、木材由来のエキスが多く出るため、特にスパニッシュオークのものは早い段階で濃厚な味わいに仕上がるという傾向があります。

そのソレラ・シェリー樽を使ったであろう御岳蒸留所のシングルモルト、ファーストリリースはいつ出るのか、個人的にも非常に楽しみで、その発表があったのは2023年11月末。記憶する限り、ファーストリリースにシェリーカスクを持ってきたクラフト蒸溜所は初めてだと思います。
構成原酒はもちろん御岳蒸留所のこだわりの一つであるシェリー樽熟成にあり、発表されたファーストリリースのラベルには「1st fill Solera Sherry Butt」の文字がしっかりと記載されています。


本リリースの一般販売開始は12月20日。(公式サイトでの抽選販売は同日11時から)
実は御岳蒸留所は友人複数名がカスクオーナーになっており、早い段階でそのニューメイクをテイスティングさせてもらっていました。
また今回はその繋がりで、一般販売よりも早くシングルモルトをテイスティングさせてもらいました。
その印象はレビューの通りですが、思った以上に上品で、そしてバランス型の仕上がりという感じです。これは、御岳蒸留所が目指すウイスキーの方向性である「芳醇なフルーツの香り。バランスの取れた香味。喉を滑るようなクリアな飲み口。」によるものと思います。

シェリー樽由来の風味は、加水されていることもあって柔らかく穏やかで、ひょっとするともっと濃厚でウッディなスパニッシュオークのシーズニング的なものを予想されていた方からすれば「あれ?」と思うかもしれません。
ただし先に触れたとおり、ソレラ・シェリー樽は長期間熟成に用いられた後の古樽であり、元々長期間の熟成向き、短い熟成であれば酒質の味わいを活かす自然な仕上がりとなる傾向があります。今回のリリースで味わえる要素はまさにその傾向で、長期熟成を経て芽吹くであろう複雑さ、奥行きの種とも言える各要素を、じっくり飲むことで感じられると思います。

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※御岳蒸留所のポットスチル。奥は発酵層、糖化層。ポットスチルはラインアームを上向きに設計し、フルーティーで深い香味成分を取り出すことを狙う。

また、味わいのベースとなる御岳蒸留所の酒質については、ニューメイクの時に感じられたのは、柔らかさ、クリアで雑味が少ないのにコク、厚みがあるという、本来ウイスキーのニューメイクが持つであろう様々な要素のなかから、いいところだけ取り出したようなもの。自社培養の酵母によるところか、それとも技術によるのか、以前飲んだ際に本当に驚いたのを覚えています。
成長した原酒は、これは本リリースにおいては、特に味わいの中で口当たりの柔からさ、膨らみの中でその質の良さを感じられると思います。

こうした樽と酒質由来の風味をスコッチモルトに当てはめると、一昔前のオフィシャル・マッカランみたいな印象もあるシングルモルト御岳。
しいて言えば46%、あるいは50%仕様のリリースを飲んでみたいところですが、それはきっと今後実現してくることでしょう。
酒質は若くても長期熟成でも楽しめるクオリティがありますが、熟成環境や樽は長期熟成を狙えるものであり、むしろ下手に若い段階で出さず、一定の熟成を経た上で高度数のリリースとして出すほうが、リリースの完成度は間違いなく高くなると考えられます。

今回のリリースは、将来に向けてのスタートライン、ハウススタイルの卵。「世界を狙う」ではなく「世界が狙う」ウイスキーを目指し、今後ここからさらにスケールの大きなリリースが展開されてくることを、楽しみにしています。

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T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始動 リリースの個性と期待について(追記あり)

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富山県のウイスキー専門店「モルトヤマ」の下野さんと、若鶴酒造・三郎丸蒸留所の稲垣さんが共同で運営するブランド「T&T TOYAMA」による、日本初のジャパニーズウイスキーの本格的なボトラーズプロジェクトが始動。
独自ブランド「Breath of Japan(日本の息吹)」のリリースに加え、日本のウイスキー業界の継続的発展に繋がる計画が、5月12日のyoutube Liveで公開されました。

ジャパニーズウイスキーというジャンルに限れば、世界初の取り組みとも言える事業の始動にあたっては、同ブランドの一口カスクオーナー制度等リターンを含む”クラウドファンディング”も本日正午から募集が開始され、開始30分で目標額の1000万円を達成!!!
追加のリターンとして、オリジナルブレンデッドウイスキーのプランも公開されています。

本記事では、同プロジェクトが目指すボトラーズメーカーとしての活動と役割を紹介しつつ、リターンにもなっている提携蒸留所の現在の酒質や、Breath of Japanとしてリリースされるボトルの期待値についてまとめていきます。
※各蒸溜所の情報について読みたい方は、記事後半部分まで飛ばし読みをしてください。

T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクト
クラウドファンディング
募集期間:5月13日~6月30日
目標額:1000万円(達成済み)
補足:支援者が100名を突破したことを受け、新しい支援プラン(オリジナルブレンデッドリターン)が追加されました。
世界初!ジャパニーズウイスキーボトラーズ設立プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)


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T&T TOYAMAが描く”本格的”なボトラーズプロジェクトとは。
ボトラーズメーカーは、蒸留所等から樽(原酒)を買い付け、その原酒を自社で熟成、ボトリングしてリリースしています。
一例として、オフィシャルブランドが大量の原酒をバッティングし、加水して品質を整えたものを定常的にリリースしているのに対し、ボトラーズは1樽またはスモールバッチを樽出しの度数そのままでボトリングすることで、原酒や樽の個性を際立たせたウイスキーをリリースする傾向があり、それが愛好家にとって大きな魅力となっています。

国内外から買い付けた原酒を、シングルカスク・カスクストレングスでリリースする。これだけなら、日本でも酒販店やBAR等のプライベートリリースで見られるもので、特段珍しくはありません。
ですが、買い付けた原酒を”自社の貯蔵庫で、自社で調達した樽で熟成させ、ピークを見極めてリリースする”という、欧州のボトラーズメーカーが一般的に行っている行程については、日本ではまだどのメーカーも行っていない取り組みであり、”本格的なボトラーズブランド”となるわけです。

なぜ日本ではボトラーズブランドが立ち上がらなかったのか。
理由については
・日本には蒸留所が少なかったため。
・原酒を交換したり、他社に販売するという取り組みが一般的ではなかったため。
・日本において自社で原酒を貯蔵し、ボトリングして販売する行為は、酒販免許以外に酒造免許の取得※が必要となり、事業者の負担が大きいため。
※酒造免許の取得には、酒造設備や専用の建屋が必要。

以上3点が要因と考えられます。また、ウイスキーの消費量が低迷していたこともあるでしょう。
しかし、ブームを受けて世界的に日本のウイスキーが求められ、2014年時点で9箇所だった蒸留所は2021年には34か所と約4倍増。今後さらに増加傾向にあるわけですが、蒸溜所の数が急激に増えたことと、JWの基準が制定されて業界の流れが変わったことで、”作ればどこかで売れる”という今までのビジネスプランが通用しなくなりつつあります。

クラフト蒸留所は自社でブランドを確立していくために、良質な樽、熟成場所やボトリング設備の確保、販路と認知度向上、あるいはブレンド用原酒の調達や当面の資金計画と言った、”ウイスキー造り”以外の領域に課題がある状況です。※下画像参照。ボトラーズメーカーに関連する活動が点線部分に該当。
イギリスでは、大手ブレンドメーカーによる原酒提供以外に、例えばボトラーズメーカーの老舗であるGM社やシグナトリー社などが、上述の課題を解消する(結果として)の役割を古くから担い、ブレンデッドウイスキーとは異なるブランドを確立したことが、業界成長の一助となりました。
つまり、日本においてウイスキー業界が継続的発展を遂げるためには、今後同様の役割を担う活動が必要になってくるわけです。

ボトラーズの役割

T&T TOYAMAが立ち上げる「ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業」は、
単に原酒を買い付けてリリースするだけではなく、熟成、瓶詰、販売、蒸溜以降の行程において、特にクラフトウイスキーメーカーを後押しするプロジェクトでもあります。既に国内クラフト6蒸留所から原酒提供について合意しているだけでなく、現在進行形で他蒸留所とも話を進めているそうです。
詳細については、クラウドファンディングの募集ページに詳しくまとめられているので参照いただければと思いますが、端的にまとめると以下の通りです。

【T&T TOYAMA ボトラーズ事業概要】
・富山県内に独自の貯蔵庫(最大貯蔵量約3000樽)を建設し、原酒を熟成。
・富山県産ミズナラ材等を用いた県内での樽製造のみならず、独自に樽を調達して熟成に使用。
・若鶴酒造が所有するボトリング設備等を、同事業だけでなく、他社のリリースにも提供。
・T&T TOYAMAとしてリリースするジャパニーズウイスキーは、下野氏、稲垣氏らがこれまでのウイスキーリリースの経験を活かし、原酒の状態を見極めてボトリング。原酒提供元とは異なる環境がもたらす、原酒の成長にも期待。

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※2021年5月時点で、T&T TOYAMAとパートナーシップを提携した蒸留所一覧

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※富山県南砺市の風景と建設予定の熟成庫。例えば九州・鹿児島と富山の異なる気候に加え、通常蒸留所で使用するものと異なる樽での熟成など、違う環境で育った原酒が、将来どのような個性の違いに繋がるのか。ボトラーズブランドにおけるウイスキーの醍醐味とも言える。

最高気温分布
※各蒸溜所の最寄りの気象台過去5年間の月別最高気温の平均値。(御岳は最寄りに類似環境と思われる観測点が無く、鹿児島気象台の観測データを使用。)熟成に大きな影響を与える夏場の違いに加え、冬場の気温差も影響を与えると考えられる。

さて、本プロジェクトのクラウドファンディングの数あるリターンで、最も注目を集めるのは1口カスクオーナー+T&Tプレミアムメンバーのセットでしょう。
対象となっているのは、江井ヶ嶋、御岳、嘉之助、桜尾、三郎丸の5蒸留所で、これらのニューメイクを熟成するカスク(後日リリースされる「Breath of Japan」)の権利を1部保有できるもの。リリースまでは数年かかりますが、その間は設立記念パーティーや、イベントでのサンプルテイスティング等のリターンが受けられるようです。

ただ、既存リリースがある三郎丸や嘉之助と異なり、設備を改修した江井ヶ嶋や、リリースが行われていない御岳、桜尾については未知数です。情報の無い蒸留所に、決して安くない金額を投入するのは、如何にブームとは言えど覚悟のいることかと思います。。。

実は今回、別件のウイスキー活動の関係で、クラウドファンディングのリターン対象となる蒸留所の原酒が全て手元にあるのです。いくつかの蒸留所は、以前感じていた印象とはいい意味でまったくことなる原酒を作り出しており、経験を積んで日々進化するクラフトの成長を感じています。
前置きが長くなりましたが、今回の記事でもう一つの目的である、蒸溜所の個性やT&T TOYAMAの活動を通じたリリースの期待値を、主観として以下にまとめていきます。
関心あります方、リターンを選ぶ際の参考にしていただければ幸いです。また、既に支援をされたという方は、今後出てくるであろうリリースをイメージする一助となればと思います。


※クラウドファンディング、1口カスクオーナー制度のリターン
支援額:55000円~
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会※
・選択された蒸留所いずれかのシングルモルトウイスキー700ml各1本の一口カスクオーナー証
・裏ラベルに指名を掲載
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルグラス1脚
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルTシャツ1着
・熟成庫壁面とT&T TOYAMAホームページへのお名前の掲載

※プレミアムメンバー会員の特典
・ボトラーズ設立記念パーティへのご招待(富山県内で開催)
・熟成庫の特別見学会へのご招待
・会員バッジの送付
・フェスでの原酒等の特別試飲が可能

【スケジュール】
2021年3月 原酒の買付交渉を開始
2021年5月 クラウドファンディング開始
2021年10月 熟成庫の建設着工予定
2021年12月 クラウドファンディングリターンの発送
2022年4月 熟成庫の完成予定・原酒の熟成の開始
2025年以降 商品のリリース

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※蒸溜所がリニューアルした2017年に行われた、記念パーティーの様子。今回のリターンにはこうしたパーティーの招待券や、熟成庫等の見学権が含まれている。

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※リターン対象となるボトルは、全て富山県内の樽工場でトースティング(樽の内側の炭化部分を削り落とし、炎で炙らずじっくりと木材を焼く加工)を施した、特殊なバーボン樽を使用する。新樽に近く、一方で一度熟成使われていることからアクが抜け、より香ばしくメローなフレーバーが期待できる。

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■江井ヶ嶋蒸留所の原酒について:
少なくとも、私個人の印象を隠すことなく伝えるならば、この5蒸留所の中で最も懐疑的な蒸留所が江井ヶ嶋だったと言えます。
熱意を感じない作り手、お世辞にもセンスが良いとは言い難いカスクマネジメント、熟成環境とマッチしない酒質。。。ただ、SNS繋がりの知人から、近年の江井ヶ嶋は専門スタッフの配属で仕込みが改善し、設備もアップデートされて酒質が大きく向上したという話を聞いていました。
テイスティングしたのは2018年蒸留のカスクサンプルと、2019年蒸留のニューメイクです。はっきり言って別物ですね。今までのように雑味が強いのに厚みがなく、樽感の乗りも悪いといった原酒ではなく、麦芽由来の柔らかいコクと程よい酸味、軽い香ばしさを伴う素朴な味わいが主体の、洗練されてバランスの良い酒質へと大きな変化を遂げています。熟成後は、間違いなくこれまでの江井ヶ嶋蒸留所のイメージを払拭してくれることでしょう!!

■御岳蒸留所の原酒について:
焼酎銘柄”富乃宝山”で知られる、西酒造が2019年に創業したのが御岳蒸溜所です。西酒造については、以前クラフトジン「尽」のリリースで話を伺った際、明確なビジョンを持って造りの工夫をしていたことが印象的で、ウイスキーについても密かに楽しみにしていました。
酒質についてはクリアでありつつボリュームのしっかりある、丁寧な造りも伺えるような素晴らしい品質のニューメイクです。傾向としてはハイランドモルト的ですが、クリアにしようとすると香味はプレーンで厚みが少なくなるのが傾向としてある中で、相反する特性をまとめ上げ、原料由来の良い成分を引き出していると言えます。ニューメイクの時点で、麦芽由来の豊かなコク、そして穏やかなフルーティーさがあり、余韻で未熟要素が残らない。飲んでいてワクワクしてきます!
なお、西酒造ではシェリー樽100%で熟成を行っているため、異なる樽で熟成するT&T TOYAMAのリリースはそれだけで貴重と言えます。将来的にシングルモルトがリリースされた際には、飲み比べをするのも楽しみですね。

■嘉之助蒸留所の原酒について:
当ブログでも何度かレビューしている嘉之助蒸留所。6月には初のシングルモルトリリースも控えており、愛好家の期待も高まっています。
嘉之助蒸留所の酒質については、綺麗な酸味を伴う酒質で適度なコクがあり、未熟要素も少ないため温暖な気候と相まって3~5年程度で仕上がる比較的短熟向きという印象。樽香の乗りも良く、素性の良い酒質だと思います。また、作り手の熱意だけでなく、長く焼酎造りに携わってきたことでの技量の高さも高品質なウイスキーを生み出すポイントになっています。
これまでリリースされてきたバーボン樽熟成のニューボーンはフルーティーで、焼酎樽熟成のものはメローで穏やか、今回のT&T TOYAMAのカスクでは、鹿児島よりも気温が低い熟成環境も合わせて、そのいいとこどりが狙えるのではないかと感じています。

■桜尾蒸留所の原酒について:
江井ヶ島と並んで(立地的にも)今回のダークホースとも言える、中国醸造が創業する桜尾蒸留所。クラフトジンは知っていても、どんな原酒が造られているかは未知数の蒸留所かと思います。
あるいは、地ウイスキーの戸河内をご存じの方は、過去のリリースから連想されるかもしれませんが、蒸留所として設備や環境は一新されており、使われている原酒も違うため全くの別物です。
2018年蒸留のカスクサンプルを飲んだ第一印象は、「あ、グレンマレイっぽい」。柔らかくクリアで未熟要素が少ないだけでなく、バーボン樽由来の黄色系のオーキーなフルーティーさが適度に感じられる。。。まさにスペイサイドモルトのようで驚かされました。ニューメイクも洗練されており、強い個性を感じない代わりに樽由来のフレーバーを邪魔しない、現代的なウイスキーが期待できます。

■三郎丸蒸留所の原酒について:
最後は言わずと知れた、三郎丸です。日本の蒸留所の中で唯一ピーティーな原酒のみを仕込む蒸留所であり、そのピートも2020年からアイラ島のピートを使った仕込みにシフトするなど、2017年の大規模リニューアル以降は様々な工夫を取り入れ、愛好家の注目度も年々高まっています。
リターンの対象となる2021年仕込みのニューメイクはまだテイスティングできていませんが、2020年仕込みのアイラピーテッド原酒を飲む限り、乳酸発酵由来のフルーティーさ、麦芽風味、そして微かに潮気を伴うピーティーなフレーバー。オールド・アードベッグを目指すという作り手の方針も合わせ、熟成後が楽しみで仕方ないニューメイクです。
さながら北陸の小さな巨人。あるいは日本のクラフトの至宝。ことこの蒸留所のカスクに関しては、もはや勝利は約束されたようなものです。

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なお、その他のリターンとしては、単純にブランドの設立を応援するもの等もありますが、上記1口オーナー制度以外に、ウイスキーのリターンがあるものとして新たに追加されたのが、

■支援者100名突破記念、焙煎樽マリッジのブレンデッドウイスキー
支援額:22000円~
・ブレンデッドモルトウイスキー『遊』(ブレンダー:モルトヤマ 下野)
・ブレンデッドウイスキー『創』(ブレンダー:若鶴酒造 稲垣)

こちらについては、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト原酒をキーモルトとし、輸入原酒をブレンドしたスモーキータイプのウイスキーを、一口オーナー制度のリリースにも使われる「焙煎バーボン樽」でマリッジしたもの。『創』はクラフト、ラベル(右)に書かれた獅子頭は”匠”を、『遊』は自由に造ることをイメージしているのだとか。未知数な部分もありますが、直近のリリースを見る限り間違いはないものとなりそうです。

そういえば、グレンマッスルで三郎丸の原酒を用いたブレンドを作った際は、バーボン樽でのマリッジでしたが、エキスが多く残った樽だったのか、スモーキーさの中にウッディで色濃くメローな味わいが付与された、納得のリリースに仕上がりました。あんな感じが強調されたリリースになるのかなと。
これまでT&Tのニンフシリーズ含め数々のリリースに関わり、原酒やブレンドレシピを選定してきた二人の技量に期待したいですね。


最後に、今回のプロジェクトに関する個人的な期待として。
日本にはウイスキーの造り手がいて、ウイスキーを輸入・販売するインポーター、卸業者、酒販店がいて、一見して製造から販売までの流れが整っているように見えます。ですがその間を繋ぐ機能を持つ事業者がほとんど居ないことから、作り手が製造から販売の間にある、全ての製品企画・販売計画を建てる必要があります。
ですが、販売に繋げるのは簡単なことではなく、コストもかかります。また、小規模なクラフトほど原酒の作り分けは難しく、多様性を確保するのは容易ではありません。
この点を分業してきたのは本場スコットランドであったわけですが、T&T TOYAMAが始めるボトラーズプロジェクトは、日本のウイスキー業界になかった最後の1ピースとなりえ、ウイスキー史に残る挑戦的な取り組みであると言えます。

先日、日本洋酒酒造組合から発表されたジャパニーズウイスキーの基準(通称)を受け、市場の動き、造り手の意識が変わりつつあります。売り手市場は終わりを告げようとしており、各社は今までには無かった制限の中で、自社のブランドを確立していく戦略を求められているのです。
そうした中で、ボトラーズブランドのリリースが、オフィシャルリリースとの相互補完の関係で、ブランド全体のPRやリリースの多様性に繋がること。あるいは造ったばかりの原酒を安定して資金化できることは、蒸留所の安定に繋がることも期待できます。決して簡単な取り組みではありませんが、動き出したプロジェクトを見ると、逆にT&Tでしか出来なかったことではないかとも感じます。
日本のウイスキー業界の若きクラフトマンにしてクリエイター2人の大いなる挑戦。我々愛好家は勿論、業界全体で応援してほしいと願って、記事の結びとします。

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余談:クラウドファンディング最大のネタ枠だった「高所作業車名づけ権」が、開始数分で購入された件について。見ていて昼飯を吹き出しました。誰ですかこんな心意気のあるお方は・・・(いいぞもっとやれ!笑)
kousyosagyou

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