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安積蒸留所 山桜 ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキー 50% シェリーウッドリザーブ

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ASAKA DISTILLERY 
YAMAZAKURA 
BLENDED  MALT JAPANESE WHISKY 
SHERRY WOOD RESERVE 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6ー7)

香り:ウッディで甘くフルーティーな香り立ち。麦芽や胡桃の乾いた要素に、アプリコットジャムや林檎のカラメル煮を思わせるしっとりと甘いアロマ。微かにスパイシーな要素が混じり、さながら洋菓子にトッピングされたシナモンやマサラを連想する。

味:リッチでコクのある口当たり。林檎ジャムや洋梨の果肉の甘み、栗の渋皮煮、紅茶を思わせるタンニン。微かに乾いた麦芽のようなアクセント。樽由来の要素がしっかりあり、それが果実の果肉を思わせるフルーティーさと、程よい渋みとなって口の中に広がる。
余韻はオーキーで華やか、スパイシーな刺激。黄色系のフルーティーさが戻り香となって長く続いていく。

まるで熟成庫の中にいるような木香と、しっとりとして熟成感のある甘いアロマが特徴的。追熟に使われたシェリーカスクは2〜3回使われたものか、全体を馴染ませている反面、シェリー感としては控えめで基本はバーボン樽由来の濃いオークフレーバーが主体。
構成原酒はおそらく2種類。一つは「かねてより弊社が貯蔵熟成しておりました原酒(背面ラベル記載)」で、10年程度の熟成を思わせるフルーティーさ。もう一つが4〜5年熟成と思しき安積蒸溜所のスパイシーで骨格のはっきりとした原酒。これらが混ざり合い、複層的な仕上がりを感じさせる。個人的にかなり好みな味わい。

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安積蒸留所を操業する笹の川酒造が、第二熟成庫の建設を記念してリリースした1本。440本限定。
本製品は安積名義ですがブレンデッドジャパニーズの区分であり、安積蒸留所の原酒に加え、背面ラベルに記載の通り「同社が貯蔵してきた原酒(国産)」がブレンドされ、シェリーカスクで18カ月のマリッジを経ているのが特徴となります。

本リリースについてはこれ以上明確な情報がなく、同社山口代表の言葉をそのまま伝えれば「シークレットリリースについて公式に情報を発信できませんが、そこも含めて予想しながら楽しんで頂きたい。」と。
また「愛好家がそれぞれの視点から予想を発信することは止めない」とのことなので、当方もいち愛好家として、本リリースの構成原酒等に関する予想を、以下にまとめていきます。

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予想の結論から言えば、構成原酒は
・安積蒸留所ノンピートモルト バーボン樽 4年程度熟成原酒
・秩父蒸留所ノンピートモルト(安積蒸溜所熟成) バーボン樽 10年程度熟成原酒
この2種類を1:1程度か秩父側多めの比率でバッティングして、リフィルシェリー樽でマリッジ。シェリー感は明示的にこれという色濃いものは出ていませんが、繋ぎとなるような品の良い甘さが付与された上で、50%に加水調整したものではないかと。

フレーバーとしては、秩父蒸溜所が昨年リリースした秩父 THE FIRST TENに似た、熟成を経たことで得られるフルーティーさと濃いオーキーさがあり。そこにほのかな酸味、骨格のはっきりしたスパイシーさと麦芽風味…これは安積蒸溜所のノンピート原酒でリリースされた、安積 THE FIRSTの延長線上にある個性。
既存のリリースからも感じることが出来る個性が、混ざり合ったブレンデッドモルトであると考えています。

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また、今回のリリースの特徴であり、そのヒントではないかと思うのが、シングルモルトではないのに安積(#あずみじゃないよあさかだよ)名義となっていることです。
笹の川酒造のウイスキー貯蔵庫には、蒸溜所の操業前から秩父蒸留所の原酒が10樽ほど保管されており、私の記憶が確かなら、該当原酒は蒸溜所を見学した2018年時点で8年熟成だったはずです。

その時点で今回のリリースに通じるフルーティーさが既にあったわけですが、2021年までマリッジ期間の18か月を含め3年強の熟成を経たとすれば、今回のリリースの構成原酒として違和感はなく。
何より蒸溜所は異なるとしても、ウイスキーの熟成で重要なファクターである”熟成環境”が、ほとんどの期間を安積蒸留所の環境下にある原酒なら、安積名義としてリリースするブレンデッドモルトウイスキーであっても同様に違和感のない構成であると言えます。

以上のようにいくつかの状況材料と、こうだったら良いなと言う願望が混ざった予想となっていますが、少なくともブレンドされている原酒の片方は10年前後の熟成期間を彷彿とさせるものであることは違いなく。そうなると、国内蒸留所でそれだけの原酒があって、しかも笹の川酒造が”かねてから熟成させていた”となる蒸溜所は、おのずと限られているわけです。

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(建設中の安積蒸留所の第二熟成庫。画像引用:笹の川酒造安積蒸留所公式Twitter

さて、ここからは仮定の話の上で、自分の願望というか、笹の川酒造とイチローズモルトの繋がりについて紹介します。

今や世界的なブランドとなったイチローズモルト。その設立前、肥土伊知郎氏が東亜酒造・羽生蒸留所の原酒を引き取った際、笹の川酒造がその保管場所を提供したという話は有名です。
ただしこれは微妙に事実と異なっており、日本の酒税法の関係から原酒を買い取ったのは笹の川酒造であり、イチローズモルト(ベンチャーウイスキー)の体制が整うまでは、笹の川酒造がイチローズモルトのリリースを代行していたのです。

ウイスキーブームの昨今なら、こうしたビジネスも受け入れられるでしょうが、当時は2000年代前半、ウイスキー冬の時代真っ只中。ほぼ同時期、余市蒸留所ですら1年間創業を休止した時期があったほどで、日本のウイスキー産業は明日もわからぬ状況でした。
そんな中大量の原酒を買い取り、血縁があるわけでもない1人の人間のチャレンジに協力する。なんて男気のある話だろうかと、思い返すたびに感じます。

さらに、笹の川酒造に保管されていた秩父蒸留所の原酒10樽。これは確か2010年頃に蒸留されたもので、ブームの到来はまだ先であり、蒸留所として製品がリリースされる前の頃のもの。
原酒を購入した経緯もまた、両者の繋がりの強さ、冬の時代を共に超えていこうという助けの手であるように感じます。

一方で、笹の川酒造が安積蒸留所として2016年にウイスキー事業を再開するにあたっては、秩父蒸留所と伊知郎さんが協力したのは言うまでもありません。
今回のリリースの構成原酒を秩父と安積とすれば、それは単なるブレンデッドとは言えない、熟成期間以上に、長く強い繋がりが産んだウイスキーであると言えます。個人的には待望の1本ですね。
単純に日本のブレンデッドモルトとして飲んでも美味しい1本ですが、是非そのバックストーリー含めて考察し、楽しんで貰えたらと思います。

安積蒸溜所 山桜 ザ・ファースト ピーテッド 50% 笹の川酒造

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ASAKA PEATED 
"The First" 
YAMAZAKURA 
JAPANESE SINGLE MALT WHISKY 
Phenol 50PPM
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)(!)

原酒構成の主体ばバーボン樽熟成のそれ。未熟香の少なさから若さは目立たず、適度にコクのある口当たりからフレッシュなスモーキーさ、柑橘系のアクセント。フルーティーというよりも、酸味や柑橘の皮を思わせるほろ苦さがあり、余韻に残るピートフレーバーには、バーボン樽由来のオーキーさと、モルトの甘み、香ばしさが混ざる。

香味の傾向は、アードベッグかカリラにラフロイグを足したようなイメージ。勿論ピートフレーバーの傾向が違うので、余韻にかけてはヨードや磯っぽさではなく、焚き木や野焼きの後のようなスモーキーさが主張してくる。その点、ピートはポートシャーロットタイプと言えるかもしれないが、酒質そのものの傾向が異なっており、クリアで柔らかい麦芽風味としっかりとした酸が特徴。嫌なところは少なく若さがプラスに働いて、いい意味でフレッシュなフレーバーを楽しめる。

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安積蒸留所(笹の川酒造)が、2016年の再稼働後、2017年から仕込んでいた最初のピーテッドモルトで、3年熟成を迎えた原酒をバッティングした1本です。
2021年に入って最初に我が家に迎えた1本で、これは美味い、いや上手いと言うべきでしょうか。正直、驚かされました。

スコッチのピーテッドモルトに置き換えるなら、8年程度の熟成を思わせるクオリティ。勿論、香味の中に熟成の短さを感じる部分が全くないわけではないですが、大半は嫌な若さではなく、ピートフレーバーに勢いがあることで、はっきりとしたスモーキーさを味わえる点がポイントです。
また、加水ですが程よく骨格が残った口当たりで、樽感、酒質的にもまだ成長の余地を感じる仕上がり。3年でこれは十分すぎる完成度と言えますし、あと5年後のリリースが今から楽しみです。

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当ブログの読者の皆様に前置きは不要と思いますが、安積蒸溜所のある福島県郡山市は、個人的に所縁があることもあって、2016年の蒸留所再稼働初期から成長を見させてもらってきました。
ニューメイクも、ニューボーンも、蒸留所見学でのカスクサンプルも・・・。

直近だと、2019年にリリースされた、安積蒸留所の3年熟成第一弾・ノンピート仕様のASAKA "The First"(写真右)は、控えめな樽感の中に、酒質の素性の良さを感じることが出来る仕上がり。現時点では完成と言えるレベルではないものの、問題を先送りした「将来に期待」ではない、純粋に成長を期待させる1本でした。
そうした経験値から、今回のリリースについても安積蒸溜所のキャラクターなら・・・と、ある程度予測をしていたわけですが、正直このピーテッドはそれを大幅に上回っていたのです。

酒質の素性の良さ、安積らしい柔らかい麦芽風味の中に酸味の立つような味わいが、ピートフレーバーと合わさって、どこかスコットランド的なキャラクターも感じます。良い熟成の傾向ですね。
こうして評価すると「いやいや、くりりんさんは安積推しだから、甘くつけてるんじゃないの?」と、そんな読者の声が聞こえてきそうですが、本音で思ってなきゃここまでストレートには書きませんから(笑)。行間読んで、行間。

ただ、飲んでいてあれ?と思ったのが、3年前に安積ピーテッドのニューメイクを飲んだ印象は、カリラとラガ、それこそ「ラフロイグっぽい感じじゃない」とまで3年前の自分は言い切ってるんですよね(汗)。
それが今回のコメントですから、当時の自分には猛省を促したい。。。でも再度ニューメイクを飲んでも、今回のリリースで感じたようなラフっぽさはないので、原酒の成長って面白いなと。
こういう成長をリアルタイムで経験できるのも、今の時代を生きる我々愛好家の特権ですよね。

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ちなみに、他のクラフトのピーテッドはどうかというと、最近リリースされた津貫、静岡含めて全蒸溜所の3年熟成前後の通常リリースは全て飲んでいますし、カスクもいくつか頂いていますが、2016-17年蒸留ならシングルカスクは厚岸、通常リリースなら安積が一番好みでした。

比較対象として、手元にあった3年熟成のキルホーマン100%アイラ 1st Release 50%と比べても、安積のほうが酒質の素直さというか、素性の良さを感じます。
ここに2018年は設備をバージョンアップした三郎丸、麦芽の粉砕比率などを見直した長濱も入ってくるので、日本のクラフトの成長はまさにこれからで、目が離せません。

一方、今回の安積ピーテッドは複数樽のバッティングで、加水調整もされています。樽毎の違いから、必ずしもすべてが良い熟成ということはなく、作り手の調整によってカバーされている要素もあるでしょう。若い原酒は特にそうした違いが大きい印象があります。
それでも、良い原酒が無ければこうしたリリースにはなりません。若い原酒の制限があるなかで、まさに”上手く”作ったなと感じるわけです。

安積蒸留所については、蒸溜所そのものの認知度というか、蒸溜所の印象としてノンピートのほうが強いのではないでしょうか。ピーテッドについてはあまり知られていないと思いますが、今回のリリースは是非どこかで飲んでみてほしいですね。
安積の蒸留所に関する印象が変わることは、間違いないと思います。

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【今日のオマケ】
笹の川酒造 純米吟醸 搾りたて生 初しぼり。
年末年始のお供でした。華やかでリンゴや洋梨のような吟醸香のフルーティーさ、クリーミーで柔らかい口当たり、仄かにヨーグルトの酸、玄米のような苦みが微かに。
しつこすぎない吟醸香とフルーティーさ、バランスが良く、すいすい飲めて1本すぐに空きました。

最近、年末年始のお供となりつつある、安積蒸留所を操業する笹の川酒造仕込みの日本酒です。
個人的に笹の川の日本酒は、スタンダード品だと「ああ、一般的な日本酒ってこうだよね」と感じる、ちょっともっさりしたような米感のあるタイプだと整理しているのですが、こういう限定品は洗練された、フルーティーさと吟醸香のバランスが取れた1本に仕上がっているのが多いですね。
蒸溜所見学に行くと売店で試飲も可能です。コロナ禍で見学は難しいかもしれませんが、機械があればウイスキーと合わせて日本酒も是非。

安積蒸留所 ザ・ファースト 山桜 3年 50%

カテゴリ:
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YAMAZAKURA 
JAPANESE SINGLE MALT WHISKY 
ASAKA "The First"
Aged 3 years 
Distilled 2016
Bottled 2019
700ml 50%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:自宅
評価:★★★★(4-5)

香り:レモンタルトを思わせる酸と軽やかに香ばしい麦芽香主体。微かに酵母香、焦げたオークのアクセント。あまり複雑さはないがフレッシュで嫌味の少ないアロマ。

味: 若々しく、レモングラスや微かに乳酸っぽさも伴うニューポッティーな含み香。口当たりはとろりとした甘みから柑橘類を皮ごとかじったような酸味と渋み、麦芽由来のほろ苦さがある。
余韻はアメリカンオークのバニラ、微かな焦げ感。序盤に感じた酸味と共にざらざらとした粗さが若干ある。オーキーな華やかさは今後熟成を経て開いていくことが期待される。

樽感はほどほどで、ところどころ粗さを残した酒質。まだ完成品とは言い難い、スタートラインのモルト。それ故現時点での評価は本ブログの基準点の範囲となるが、これをもって将来を悲観するような出来ではないことは明記したい。
この蒸留所の特徴とも言える、酸味に類するフレーバーやコクのある味わいは健在で、オフフレーバーも目立たない。今後の成長を安心して見ていける、素性の良い原酒である。なお加水するとオーク香が多少開くだけでなく、粗さが落ち着いてぐっと飲みやすくなる点も、将来が期待できる要素である。

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2016年、試験蒸留期間を経て稼働した福島県郡山市の安積蒸留所。スコッチの基準でウイスキーを名乗れる、3年熟成の条件を満たしたシングルモルトがいよいよリリースされました。
蒸留所を操業するのは、かつて羽生蒸留所の原酒の引き取り先として、資金を肩代わりし熟成庫を提供した笹の川酒造。その安積蒸留所のウイスキー作り開始にあたっては、イチローズモルトが逆にスタッフの研修先となったり、肥土さんがアドバイスをされるなど、両社の繋がりが創ったウイスキーでもあります。

安積蒸留所の原酒は、ミディアムボディというか、そこまで癖の強いタイプではなく、初期からオフフレーバーも少ない仕上がりでした。
ただし基準(3年熟成)を満たしたといっても、スコッチタイプの原酒が3年でピークに仕上がる訳がなく。。。安積蒸留所の熟成環境なら最低でも5年、最初のピークとしては7~8年は見たいという印象。とはいえウイスキーを名乗れる基準を満たしてのリリースであるため、他のリリースと同様の整理のもと、当ブログの評価分類に加えることとします。

樽構成はラベルに記載がありませんが、ファーストフィルのバーボン樽を軸に据えに、リフィル(ウイスキーカスク含む)や新樽等を加えたような、いずれにせよアメリカンオークの樽がほとんどを締めると思われるバッティング。シェリーは使われていないか、使われていても1樽とかリフィルとか、全体に対して少量ではという感じですね。

アメリカンオークがメインとなると、華やかで黄色いフルーツやバニラっぽさのあるオークフレーバーを連想しますが、さすがに熟成期間からそこまで強く効いておらず、まだ蕾というか種から芽吹いたレベル。該当するフレーバーの兆しがないわけではなく、オーキーな要素が所々に溶け込んでいて、今後の熟成を経て開いていくという感じです。
それこそ7~8年熟成させれば、温暖な日本での熟成らしいリッチなウッディさとオークフレーバー、アプリコット系の甘酸っぱさが混じるような味わいになるのではと期待しています。

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(安積蒸留所のポットスチルとニューメイク。同蒸留所の原酒や環境等については、2年目時点での比較記事を参照頂きたい。なお、2019年までの仕込みに用いたマッシュタンはステンレスだが、2020年に向けて木桶を導入して更なる進化を目指す模様。)

一方、ここで違和感を覚えたのが、ファーストリリースの樽の強さです。
安積蒸留所は、東北の盆地の中心部分という、夏暑く冬寒い、寒暖差の激しい地域にあります。
そのため、これまで複数リリースされた1年熟成程度のニューボーンには、新樽やシェリー樽のものなど今回のリリースより樽感の強いものが普通にありました。 そうした原酒を活かしたバッティングも、恐らくできたはずです。
ですが、裏ラベルにも書かれている「安積蒸留所の風味の傾向」を主とするため、一部そうした樽は使いつつも、あえてそう仕上げなかったのではないかと感じました。

では風味の傾向とは何か。今回、原酒の成長を確認する意味も兼ねて、ファーストリリースのコメントと、ほぼ同じ時期のニューポットのコメントを比較して、残っているフレーバーとなくなったフレーバを整理してみました。同時に比較をしたわけではありませんが、「安積蒸留所の風味の傾向」を形成する、熟成によって変化した、酒質由来と樽由来の要素を可視化する整理ができたのではないかと思います。

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※2016年蒸留原酒、ニューポット時点でのテイスティングコメント
香り:酸味が強く、ドライなアルコール感と微かに発酵臭を伴うアロマ。加水すると乾燥させた麦芽、おかき、無糖のシリアルを思わせる香ばしさを感じる。  

味:軽くスパイシーな口当たり、最初はニューポットらしい乳酸系で微かに発酵したような酸味、口の中で転がすとオイリーで香ばしい麦芽風味が主体的に。 余韻は麦芽系のフレーバーが後を引きつつあっさりとしているボディはミドル程度、加水するとバランスがとれて口当たりは柔らかくまろやかに。 

また、過去のコメントではフルーティーなタイプというより、田舎料理のような素朴さがあるというコメントも。
今回のボトルのテイスティングをするにあたり、あえて過去の記事は見直していません。ファーストをテイスティングをした後で改めて両コメントを見直して、強く共通する部分は太字で、あまり感じられなくなった部分を取り消し線で表記。
未熟成によるネガな要素が熟成によって軽減されたことは勿論、酒質部分は「酸、香ばしさ、コク(オイリーというよりはとろみ)のある麦芽由来の風味」この点が共通項として残る要素となります。

つまりこれが、安積蒸留所の風味の傾向なのではないかと思うのです。
あくまで自分の個人的な整理、考察でしかないため後日機会があれば蒸留所関係者に話は聞いてみたい。とはいえ、もしこれから飲まれる方は、ベースにある要素を意識しつつ飲んで貰えると、その傾向が分かりやすいのではないかと思います。
なお当時から加水でのバランスも評価していますが、見直すまですっかり忘れてました(汗)。


さて、今回リリースされた安積蒸留所の3年熟成品を筆頭に、新たに開業したクラフト蒸留所のシングルモルトウイスキー・リリースラッシュがこれから始まります。
その際、香味を「若い」と感じることは間違いなくあると思いますがこの場合の「若い」は、それ以上の原酒が蒸留所に存在しえないのだから当然であって、無い袖は振れないもの。だから悪いという話ではありません。

まず大事なのは”ちゃんとウイスキーである”ということ。理想的には”その蒸留所の個性を認識できる”こと。この辺は人間も同じですよね。
3年熟成時点で、明確にピークを見据えていけるスタートラインにある、というのがこの時点のリリースで認識されるべき一つのポイントだと思います。
当たり前のように思えるかもしれませんが、そうではないモノも当然あるのです。
そして成長を楽しみながら、次を思い描く。その点で、安積The Firstは十分に条件を満たしたリリースだと感じています。

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(ウイスキーフェスティバル2019会場、笹の川酒造ブースにて。出荷前の安積ファーストと山口社長。)
こうして"安積"の名を冠するウイスキーが目の前にあるということ、元郡山市民としては感慨深いものがあります。
3年前の夏、初めて蒸留所を見学させて貰った日から今日まではあっという間でしたが、先日の台風災害対応を始め、蒸留所としては様々な苦労があったことと思います。
改めて蒸留所の皆様、ファーストリリース、おめでとうございます!

笹の川酒造 安積蒸留所の現在

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笹の川酒造が操業する、福島県郡山市の安積蒸留所。
2016年に創業、試験蒸留期間を経て2017年1月にニューポット発売、共同カスクオーナー制度開始、ニューボーン発売。。。などなど、同蒸留所にとってシングルモルトウイスキー業界への船出となった1年間が過ぎ去り。いよいよ今年3月24日には、2度目の共同カスクオーナー制度の見学会&交流会が開催されます。

これまでも何度か触れていますが、ウイスキー製造は作り手側の技術、ノウハウの蓄積に加え、設備の慣れ的な要素も原酒の仕上がりに少なからず関わってきます。特に規模の小さいクラフト系は、創業から1〜2年程度は香味の変化が大きい時期と感じています。
自分も共同カスクオーナー制度に参加しているので、ぜひ見学会にて安積蒸留所の進化を感じたいところでしたが、あいにくこの週末はとても重要な家庭行事があり、参加が叶わないのです。(いわゆるひとつの記念日というヤツでして。)

また自分以外にも、様々な理由から現地訪問が中々出来ない愛好家はいらっしゃると思います。
そこで見学会&交流会をちょっとフライングし、直近で蒸留されたばかりのニューポットをテイスティング。その変化を紹介するとともに、熟成中の原酒の成長をイメージ出来る指標になりそうな話など、安積蒸留所の"現在"を掲載していきます。


さて、2017年1月に発売された、安積蒸留所のニューポット。当時自分は以下のテイスティングレビューを掲載しています。

香り:酸味が強く、ドライなアルコール感と微かに発酵臭を伴うアロマ。加水すると乾燥させた麦芽、おかき、無糖のシリアルを思わせる香ばしさを感じる。

味:軽くスパイシーな口当たり、最初はニューポットらしい乳酸系で微かに発酵したような酸味、口の中で転がすとオイリーで香ばしい麦芽風味が主体的に。
余韻は麦芽系のフレーバーが後を引きつつあっさりとしている。 ボディはミドル程度、加水するとバランスがとれて口当たりは柔らかくまろやかに。


これが約1年間でどのように変ったかというと、ベースはもちろん同じながら、香味の中にあったネガティブな雑味、発酵したような感じが軽減され、綺麗な酸味から軽く香ばしい麦芽風味とコクを感じる酒質へと変化。この綺麗な酸味が、安積蒸留所の個性の一つですね。
ネガティブな要素が少なくなったことで、個性が洗練されてきた印象です。

日本のクラフト蒸留所なんてブームに乗ってるだけだろ?、と思う方も少なからず居ると思いますが、安積蒸留所は秩父蒸留所の協力でスタッフの研修を行うなど、秩父蒸留所がこれまでチャレンジしてきた試みのうち、成功事例、良い部分を引き継いでいるとのこと。
こうした知識に加え、1年間の操業を通じた経験の蓄積や試行錯誤の結果が、今回ニューポットに感じられた変化であるとすれば、既にそれは色眼鏡で見るものではなく。蒸留所としても業界としても、良い方向に進んでいると感じます。 

安積蒸留所ポットスチル
(定点観測:ポットスチルの外観。左が2016年7月ごろ、右が現在。使い込まれたことで色合いに変化が見られる。)

熟成庫
(定点観測:熟成庫の一画。2016年7月の試験蒸留時点(上)と現在(下)。貯蔵量が増えたことで、樽とウイスキーの香りが熟成庫を満たしている。新樽、ミズナラ、バーボン、シェリー、ワイン・・・様々な種類の樽が並んでいる。)

ニューポットに良い変化が見られたことは、この時期の原酒を樽詰めする共同オーナー制度だけでなく、蒸留所の今後に向けても明るい話です。
しかしもう一つ忘れてはいけないのが、熟成環境がもたらす原酒への影響です。

安積蒸留所は、"風の蒸留所"と名乗るように、盆地福島県の中心部に位置し、夏はカラッと暑く、冬は磐梯山と安達太良山からの冷たいおろし風が吹きすさぶ、寒暖差の激しい地域にあります。
本来、設立したばかりの蒸留所の原酒がどのように成長していくかは、相応の時間が経たなければ判りません。そのため、厚岸蒸留所などは試験熟成として建設予定地で原酒への影響を調べていたほどです。
では安積蒸留所はというと、先日掲載したニューボーンに加え、蒸留所設立前、笹の川酒造としてウイスキーを製造していた頃に購入した原酒があります。
そのうちの一つ、ニューポットからバーボンバレルで約8年間熟成させてきた某国産原酒を飲んでみると、これが日本らしい熟成感、蜜っぽい甘みとフルーティーさで多少樽は強いものの美味しいウイスキーに仕上がっているのです。

これは郡山の環境がもたらす熟成への影響を量る上では、重要な指標であると言えます。
樽にもよりますが、バーボンバレルでなら上記同様5〜10年程度の熟成期間を設定しておくのがこの環境では良さそう。その他の樽との組み合わせを考え、工夫を続ける必要はあると思いますが、現在の原酒との組み合わせで考えると、同様の系統に育つのではないかとも思うのです。

(オマケ:福島県南酒販がリリースする963の樽も安積蒸留所の熟成庫に置かれている。250リットルのシーズニングシェリーカスクでマリッジされているのはネットショップ限定品?、左奥には昨年高い評価を得たミズナラウッドリザーブのセカンドバッチの姿も。)

そんなわけで、安積蒸留所の現状と原酒の出来は比較的順調といえる状況であり、今後がますます楽しみになりました。
所縁の地にある蒸留所だけに、この成長と可能性は嬉しいですね。
今回はノンピートの原酒にフォーカスしていますが、ご存知のようにピーテッド原酒も昨年から仕込まれておりますし、さらには日本酒酵母で仕込んだ安積蒸留所独自の原酒もあります。
これらの成長についても、今後レポートできればいいなと思っています。

山桜 安積蒸留所 ニューボーン アメリカンホワイトオーク 63.3% 笹の川酒造

カテゴリ:
ASAKA
NEW BORN
YAMAZAKURA
Distilled 2017.1.5
Bottled 2017.6.27
Cask type New American Oak Barrel #17003
700ml 63.3%

グラス:木村硝子テイスティング
場所:自宅
時期:開封後1ヶ月以内
評価:ー

香り:ツンとしたアタック、ほのかに甘酒や麹のような癖を伴う香り。レモンバウム、乾いたウッディネス、ポップコーンや焼き芋を思わせる軽い香ばしさと甘みもある。

味:少しの刺激を伴う粘性、コクのある口当たり。蜂蜜レモンキャンディの甘み主体の味わいに、東京沢庵のような出汁っぽさを伴う酸味がある。
余韻はハイトーンでヒリヒリするアルコール感、焼き芋を思わせる焦げ感とねっとりとした甘みで長く続く。

新樽熟成らしく樽系の香味がだいぶ出始めているが、決して悪い方向ではない。あくまで発展途上であり、むしろ3年〜5年でのウッディでメローな仕上がりが期待できる。
加水すると香味とも酒質由来の酸味が引き立ち、天然酵母の麦パンを食べているよう。この麦芽風味と酸味が今後の熟成を経て熟成香、樽香と合わさった時にどう仕上がるか、楽しみになる1本。


昨年初頭、ちょうど今から1年前。福島県郡山市に創業した安積蒸留所から初のニューポットがリリースされました。
その原酒は多少荒削りながらネガティブ要素の少ない、素朴でコクと個性とも言える酸味のある味わい。当ブログでもレビューを掲載していますが、熟成による伸び代と削りしろのある素性の良い原酒と感じています。

そして今回テイスティングするニューボーンは、その同時期に蒸留した原酒をアメリカンホワイトオークの新樽で約半年間熟成させたもの。
この他にも安積蒸留所からはバーボン、シェリー、ミズナラといった樽でそれぞれ数ヶ月熟成させたニューボーンが、樽毎に複数種類リリースされています。


日本の酒税法等においてニューボーンの定義は明確にはありませんが、熟成期間3年未満のウイスキー(スピリッツ)がリリースされる際の名称として、主に国内市場で使われています。
言わばニューポットはスタート地点、そしてニューボーンは成長過程であり、決して美味しいだけのウイスキーとは言えないものですが、それぞれを飲むことで原酒の成長曲線に2つ以上の点がプロットされ、当該蒸留所における原酒の質、熟成環境の影響、それらを踏まえての成長を認識するきっかけとなります。

さて、安積蒸留所のニューボーンシリーズですが、先に書いたように酒質は素性の良い部類であり、若さゆえに多少感じられるネガティブな要素は熟成の過程で軽減されて樽感と馴染んでいくものと感じます。
それより、見ておきたかったのは熟成環境の影響です。
樽由来の要素としては、バーボン樽は余韻にかけてコクと淡い華やかさがあり、5〜8年程度でピークを迎えるであろう構成。ミズナラはスパイシーでニッキのような香味が早くも感じられ、シェリーはやや癖のあるウッディさで甘みが出ておらず、まだ未知数のところがある印象。

そして今回のテイスティングアイテムである新樽熟成のニューボーンは、バレルサイズであることも影響してか、4種類の中で最も樽の影響が出ているだけでなく、今後夏場を迎えることを考えても、やはりピークは速そうです。
それこそ10年で余市の新樽熟成のような、濃い甘みとウッディな仕上がりになるのではないかと感じます。やはりピークは速そうですね。

なお、ピークが早く来るということは、それだけ酒質の仕上がりが荒くなる可能性もあります。
安積蒸留所の酒質はそこまで荒いタイプではないので、短熟で飲めない味わいにはならないと思いますが、より馴染みやすい綺麗なニューポットを作っていく必要があるのも事実です。
2016年の創業から1年以上が経過して、スタッフの技術やノウハウの蓄積、設備としての慣れ、つまり蒸留所としてはどう成長しているのか。この点については、後日改めて記事にしたいと思います。

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