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シングルモルト 松井 倉吉蒸留所 48% 2018年リリース 3種

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今から約3年前、ある3本のウイスキーがリリースされ、ジャパニーズウイスキーブームを追い風にして良くも悪くも注目を集めました。

銘柄は「倉吉」。鳥取県の倉吉市にある松井酒造合名会社(以下、松井酒造)がリリースしたピュアモルトウイスキーは、
・輸入原酒を使って作られていたこと。
・同社は当時自社蒸留をしていなかったこと。
・PRやデザインが紛らわしかったこと。
・価格が微妙に高かったこと。
・消費者からの問い合わせに対する回答等が火に油であったこと。
など、様々な要因が重なり合い、"おそらく"という前置きを使う必要がないほど、多くの愛好家から嫌悪され、あるいは嘲笑の対象となったことに異論の余地はありませんでした。


(当時のまとめ記事:松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題→ご参考) 

ピュアモルトウイスキー倉吉の存在を前向きに捉えるとすれば、酒税法とジャパニーズウイスキーの定義を見直すきっかけとして、業界全体を巻き込んだ動きに繋がったことは、ある意味評価出来るかもしれません。
しかしGoogle評価で★1.8(2019年1月時点)という、ウイスキーメーカーとして異例の低さにあるように。浸透したマイナスイメージによって、何を書いても「あの松井が」とネガティヴに取られる土壌が出来上がってしまったことは、逃れようも無い事実でした。

そんな彼らが「いずれは鳥取の地に蒸留所を作りたい(そこに観光客を招きたい、地域を活性化したい)」とする言葉を発信したとき、それを信じた人は少数だったのではないかと思います。
しかし昨年ポットスチルが導入され、一部国産麦芽を使う蒸留計画と共に蒸留所が一般公開を開始。その過程で、実は1000リットル程度の小規模なアランビックタイプのスチルが手元にあり、2017年ごろからウイスキー蒸留が行われていたことも明らかとなりました。
結果論でしかありませんが、彼らの計画は本当だったのです。

(創業した倉吉蒸留所外観と2018年後半に導入された、ポットスチル。中国製だがラインアームの角度が調整可能というユニークな機能を持つ。同社公式Twitter より引用。)

(松井酒造が2017年頃から使っていたというアランビックタイプのスチル。長濱蒸留所に類似の形状だが、同社との関係はないとのこと。同社WEBサイトより引用。)

これら蒸留設備の公開とほぼ同時期に発表されたのが、今回レビューする松井シングルモルト、サクラカスク、ミズナラカスク、ピーテッドモルトの3種です。
使われている原酒は、新設されたポットスチルではなく、上記写真のアランビックタイプのスチルで蒸留され、1年半程度熟成されたもの。他社のリリースで言えば、ニューボーンですね。
松井酒造の今後を測る原酒とは言い切れませんが、少なくとも日本で仕込み、蒸留された原酒となります。

その酒質は、モノによって良し悪しハッキリと言いますか。。。
ノンピートであるサクラとミズナラは、未熟感の少ないクリアで品のいい甘さや酸を感じる麦芽風味主体の酒質。多くの愛好家が抱いているであろうネガティヴイメージは払拭しないまでも、日本のクラフトの中でそう悪い部類ではなく、むしろ初年度の蒸留としては好感を持てる要素もある。樽次第では4〜5年程度でそれなりに仕上がりそうです。

また、リリースは48%まで加水されており、加水と仕込みには兼ねてより松井酒造が"最も重要"とプッシュしてきた大山の伏流水を使用。影響がどの程度かはわかりませんが、ニューメイクであることの荒さを差し引いて、確かにマイルドで柔らかさが感じられます。
一方、悪い方がピーテッド。これは蒸留で何かミスしたのか、あるいは樽の処理か・・・焼けたゴムや溶剤のような不快なニュアンスが感じられ、ただただ閉口モノでした。

使われている樽はピーテッドが古樽のバーボンバレル。サクラ、ミズナラは同じくリフィルのバーボンバレルの鏡板のみを変更したもの。
サクラやミズナラはそれ単体で使うと非常に個性の強い木材であり、過去に該当する樽で熟成させた別蒸留所の原酒は飲んだことがありましたが、新樽なら1〜2年も貯蔵すれば前者は桜餅のような、後者はニッキのようなニュアンスが強く出てきます。
今回はアメリカンホワイトオークとの2コイチ樽。熟成期間が短いことも作用して、樽感という点では酒質を殺さない程度のアクセントで、それぞれうまく作ってあるように感じました。

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THE MATSUI
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
SAKURA CASK
700ml 48%

品のいいオーク香、微かに乳酸、乾いた麦芽。
とろみと共にスパイシーな刺激のある口当たり、比較的クリアで嫌味は少なく、柔らかい麦芽風味主体。ほろ苦く長い。
あまりサクラっぽさはない。
加水すると少し感じられ、微かに桜餅っぽさ、ハーブのような植物感と酸味が混じるようになってくる。

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THE MATSUI
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
MIAZUNARA CASK
700ml 48%

微かにスパイシー、ニッキ、荒さを伴うウッディな香り立ち。スワリングしているとおしろいっぽい麦芽。
やや水っぽいが麦芽風味と淡くウッディで微かに乳酸を感じる口当たり。余韻はビターでドライ。ひりつくような刺激を伴うフィニッシュ。
加水は比較的麦系が伸びる。酸のある嫌味の少ない麦芽香だ。

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THE MATSUI
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
PEATED
700ml 48%

スパイシーで焦げたゴムと粘土、発酵した醤油、奥には未熟原酒の硫黄系のニュアンス。口当たりはマイルドだが焦げたゴム感やプラスチックのような溶剤系の要素、粘性がありビターな余韻 。
かつてリリースされていたモンデ酒造の笛吹峡を彷彿とさせる。個人的に非常に不快であるが、これが好ましいという方もいるらしい。(特に海外)


今回のテイスティングは、日本酒を中心に扱うIMADEYA銀座で開催された角打ちイベントにて行いました。
現場に居た営業の方からは、どのように作られているのか、あるいは売る側としての心境などもお聞きしましたが、やはり上述のネガティヴイメージもあって、国内販売ではだいぶ苦労しているそうです。(結果、海外や免税店に販路を求めたり、今回のように日本酒等他のユーザーを開拓に動くわけですが、それもウイスキー側からポジティブに取られない悪循環。。。)

今後は誤解のないように、このイメージを払拭するようにしていきたいとする販売員の方。
ただ今回のリリースに限っても、新しいスチルで蒸留していないのに、勘違いさせてしまうような説明ぶりになっていたり。ウイスキーとしてはまだ未熟な域を出ない熟成年数でありながら、それを表記せず"極上の一滴"やら盛り感拭えないPRがされていたりと、「そういうとこやぞ!(笑)」と思わず突っ込みたくなるような要素は未だ健在です。

同社の体制については定かじゃありませんが、察するに「とにかくぶちあげたれ」的な方針の決定権を持った人が居るのかもしれません。
大手企業の製品が市場の大半を締める中では、そうした考えや危機感もあるのでしょう。ですがその姿勢が反感を招くことに繋がり、どんなに良いものが出来てもこの会社の製品は飲みたくない、という残念な状況が変わることはない、むしろアンチの増加に繋がる可能性も考えられます。

自分はウイスキーは味が一番重要なファクターだと思っていますが、嗜好品である以上、作り手の想いや姿勢、歴史など付随する様々な情報を無視していいわけではありません。逆にそうした面を重視する愛好家もいます。
今回のリリースを飲んでの心境は「3歩進んで2歩下がる」。松井酒造が愛好家の信頼を得ていくには、まさにウイスキーが熟成する期間になぞらえ、荒さが穏やかになるよう真摯に誠実に製造・販売をして、長い時間をかけて信頼を回復していく必要があるのだと思います。
確かな一歩は感じることが出来ましたが、まだまだ時間がかかりそうですね。

松井酒造 マツイモルトウイスキー 倉吉 8年 シェリーカスク 46%

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THE KURAYOSHI MALT WHISKY 
Aged 8 Years 
Sherry Cask 
700ml 46% 

グラス:サントリーテイスティング
量:ハーフショット
場所:BAR飲み
時期:開封後2ヶ月程度
暫定評価:★★★★★(5-6)

香り:近年系のシーズニングシェリー系の甘いアロマ。グリーンレーズン、ケーキシロップを思わせる甘みに、ホットケーキの生地を思わせる麦芽風味。最初は甘み主体のアロマだが、徐々に変化して乾いた木の渋み、ツンとしたエッジを感じる。

味:ピリピリとした口当たり、淡いシーズニングシェリーのプルーン、ブラウンシュガー、ほのかなウッディネスにハイランドモルトを思わせる麦芽風味が中間から広がる。飲み込んだ後はオレンジママレード、クラッカー、粘性のある甘みと微かに乾いた牧草のニュアンスが余韻として残る。
甘み主体で嫌味も少ない、少々奥行きには欠けるが全体的に飲みやすくまとまっている。


このブログのみならず世間で色々と話題になっている、鳥取の松井酒造の倉吉シリーズ。今回のボトルは今年の8~9月ごろにリリースされた8年モノのシェリーカスクです。
飲み手の中には複雑な想いを持っている方もいらっしゃるようですが、中身の原酒に罪はありません。
結局のところ、倉吉シリーズの問題は売り方、ラベルの表記、この1点に尽きます。
自分は飲んだ上で判断したいと・・・それでも、前回のNAシェリーカスクがメーカーコメントの甘い果実香、チョコレート、至福の1杯という表現から程遠いと感じる内容だっただけに、若干怖さがあって様子見のハーフショットから。

飲んだ日にFBにも投稿している内容ですが、これが思いのほか飲めるのです。
少し薄めですがちゃんと近年のシーズニングシェリー樽熟成の味がするだけでなく、その分近年の樽にありがちなえぐみ、ゴムっぽさなどは感じず、甘さ主体の構成でバランスは悪くないぞと。
ハイランドモルト主体のバルクがベースか、酒質的にはらしい麦芽風味も感じられ、熟成は高温多湿の日本ではなく冷涼なスコットランドを思わせる進み方。飲み口で少しスパイシーな刺激がありますが、それもまた一つアクセントになっていて抵抗なく飲み進めることが出来ました。
評価的には前回の18年と同等、あるいはそこまでちぐはぐさは感じなかったので、ちょい上くらいのイメージ。
もし最初にこの1本がリリースされていたら、もう少し前向きになれたんじゃないかと感じます。


ただ、先も述べたように倉吉シリーズの問題は、中身ではなくラベルの表記です。
前回リリースされたNA、NAシェリー、そして18年から疑問視されていたMade in NIPPONなど各表記は継続されただけでなく、加えてピュアモルト表記が今回のリリースから「KURAYOSHI MALT WHISKY」表記になり、とりあえずモルトウイスキーという事はわかりますが、シングルカスク、シングルモルト、ブレンデッドモルトのどの区分なのか、よくわからなくなってしまいました。

裏ラベルにもその旨は書かれておらず。バッティングはモルトとモルトの掛け合わせを指す為、同じ蒸留所の原酒を掛け合わせることもバッティングになり、シングルカスクの線はなくなりましたが、それ以外は読めるということに・・・。
多分ブレンデッドモルトなんだろうとは感じますが、紛らわしいだけですので、改めて基準整備の必要性を感じます。
別においしいモノが出来れば何の原酒を使っても良いんですけど、こういうところはキッチリしたほうが良いと思うんですけどね。


【10月21日 鳥取方面の地震において被災された皆様へ】
被災された皆様方にお見舞い申し上げます。
多くの被害、建造物の崩壊、断水などが起こっていると伺っておりますし、まだまだ余震も続いているとのこと。現地にお住まいの皆様の苦労は並々ならぬものと存じます。
当方も実家が東日本大震災で被災しただけでなく、親類が犠牲になるなどあり、こうした災害による悲しみと、やるせなさは少なからず理解しているつもりです。

被害が大きかったとされる地域には、この松井酒造合名会社もありますが、伝え聞くところでは「工場関係者は大丈夫」とのことで、一つ安心している次第です。
一刻も早くこの地震が収束し、被災された皆様にとって、いつもの生活が帰ってくることを祈っております。

松井酒造からのメッセージ ”国産ウイスキー”足りてますか?

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話題の松井酒造合名会社(以下、松井酒造)が発出したDMを、昨晩ウイスキー仲間経由で頂きました。 
「ニンニクか」
というタイトルへのツッコミはさておき、これはまたすごいですね。
日本のウイスキーの定義が曖昧なのは先に特集した通りですが、迫り来る嵐の予感に、さすがに言葉を失ってしまいました。
っていうかこの気持ちを表現するのに、言葉は無い方が良いのかもしれません。

このブログをご覧の皆様は、おそらくご存知と思いますが、ここでいう"国産ウイスキー"は何を指しているのか非常に曖昧です。
同社の製造行程で考えれば"国内でブレンドをしたウイスキー"までを含む広義的な意味なんでしょう。

上記はDMの裏面です。
文面を読む限りでは同社の熱い想いがまとめられています。
しかし前評判を考えれば、こんなビラを作っても火に油になるだけなんじゃないでしょうか。
普通に売れば良いのに、何かすごく急いでいるかのような印象すら受けます。

加えて、そこには同社WEBページに「スコットランドへの恩返し」「良いものは関係なく使う」とまで記載されていた、スコットランドの原酒を使用していることに関する記述が一切ありません。
同社にとってはそれが誇りでも、拘りでもあるかのような書きぶりで「本音で語る」とまで姿勢を表明していましたが、どこに行ってしまったのでしょう。
良い原酒なら、先の投稿でUPしたピュアモルトホワイトのようにその個性をPRすれば良いと思うのですが。これでは購入される酒販店等が、国内(倉吉)で蒸留したものと誤解されてしまう可能性も否定できません。

※関連する記述、倉吉モルトウイスキーの素性は以下にまとめてあります。
文末には 、同社Facebookのアドレスと共に「嬉しいご意見、厳しいご指摘などを頂き、日々勉強させてもらっている」とする記述に加え、「これで満足すること無く、もっとおいしい、もっとうまい商品を追い求めて努力し、より多くの人々を幸せにしていきます。本当に心からそう思います。」
と、同社の決意らしきものが述べられています。

色々言いたいことはありますが、ここではただ本当に、そうあってほしいと願うばかりです。


繰り返しになりますが、本当に、そうあってほしいです。


ジャパニーズウイスキーに今後必要だと思うこと

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松井酒造のピュアモルトウイスキー倉吉に関する話題を皮切りに、そこに潜むジャパニーズウイスキーの現状や課題をまとめてきました。
今回はそれらを背景として、ジャパニーズウイスキーに今後どうなってほしいのかという自分の意見をまとめ、一連の記事の締めとします。

第1回:松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060015284.html
第2回:ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060053301.html


まず、自分の考えの大枠から述べていきます。
バルクウイスキーの一件については、これまでもブログ上の記事で述べてきたように、高品質なものであればどんどん使って、日本だから作れる「ウイスキーとしての美味しさと魅力があるウイスキー」を安定して提供し続けることが第一だと考えています。
そして真に淘汰すべきは「その場しのぎで作るような低品質なウイスキー」であり、これらを実現する仕組みこそ、今この瞬間日本のウイスキー業界に必要なことであると思います。

もちろん、これはジャパニーズウイスキーの基準を作るという動きを否定するものではありません。
海外から買い付けた原酒を使って作ったブレンドが、ジャパニーズウイスキー名称を使えるかという疑問はそのとおりで、「日本で3年以上の熟成を経ている(スポーツ選手でいう帰化している感覚)」とか「海外原酒の割合を全体の半分以下とする」とか、あとはバルクの使用に関するラベル表記などの基準はあって良いと思います。
ただ、ブレンデッドウイスキー(モルト含む)については、飲みやすさやその完成度を優先する傾向があり、まったく無関係な歴史上の人物や建造物などの名前がつけられているものも多く、きちんとした整理の中であれば、海外原酒を完全に否定する必要も無いと感じます。 
(実際、そうした商品もリリースされています。)


一方、世界的なウイスキーブームの中で、イギリス以外でもシングルモルトが作られています。
それがバルクとして日本に入ってきた際、"バルクシングルモルトで擬似国産シングルモルト"など、更なる混乱に繋がるようなリリースが行われる可能性も否定できません。
2020年にかけてはビックビジネスチャンスがありますし、上述のブレンデッドと合わせて既存の基準は脆弱すぎます。
こうした混乱を未然に防ぐため「ジャパニーズシングルモルト並びにそれを意図する表記をするには、日本で蒸留、熟成を経たものに限る」などの基準を明確にして、現状の規制以上に将来に向けてブランドイメージを守る予防線を張る必要もあるのかなと考えます。

ただし基準を作る場合、それを作ることよりも徹底してもらうことのほうが難しい場合があります。
仕事上そうした調整に関わる事は少なくないのですが、今回の場合は今まで無いところに基準を作るわけですから、どうしても規制や制約に近い内容となり、どうやってそれを全メーカーに徹底させるのか、これが一番大きなハードルであると言えます。

極端な話、完全に徹底させるには「法律を変える(または補足事項を付与する)」しかありませんが、非常に大きな話となります。
現実的なところでは、どこかの団体や企業が声を上げて、対外的には実績として認知されるも、実際守っているかどうかは不透明という形になるか、あるいは賛同する企業との覚書や共同宣言か。しかしそうなると基準に賛同しないメーカーも出てきてしまい、あらたな混乱と火種になる可能性もあります。
記事を書きながらずっと考えていましたが、一筋縄ではいかないことは明白で、多くの議論が必要であると感じます。


仮に法律を変えていけるとすれば、ジャパニーズウイスキーの基準に加え、酒税法第3条15項ウイスキーにおける(ハ)も改定する内容であってほしいと考えています。 

【酒税法第3条15項ウイスキー(ハ)】
「イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)」

※イはモルトウイスキー、ロはグレーンウイスキーについてざっくりと書かれています。

ご存知の方も多い内容だと思いますが、 一例を挙げると、"アルコール度数50%のウイスキーを作る際、度数50%の原酒が10%、度数50%のブレンド用アルコールが90%の構成でもウイスキーと呼べてしまう"という、原酒比率を定めていた旧酒税法時代の名残です。
つまりこの項目が残ったままでは、仮にジャパニーズウイスキーの基準を作っても、90%がブレンド用アルコールでジャパニーズウイスキーというおかしな構図になってしまうのです。
かつて、日本のウイスキー業界の黎明期だった時期は、そうした基準でなければウイスキーを作れなかった背景や、日本人の味覚の問題もあったものと思います。
しかしいまや日本はウイスキー生産国の五指に数えられるようにもなり、世界的にも認められる状況になりました。
今こそ、旧酒税法からの完全な脱却が必要なのではないかと考えます。
これは日本のウイスキー業界というよりも日本という国の問題でもあります。


さて、ずいぶん長くなってしまいましたので、最後にウイスキー業界がこうあってほしいという形を書いて、この特集の締めとします。
現在、日本のウイスキー業界はクラフトウイスキーメーカーの新設ラッシュ。 続々と新しい蒸留所が稼働していますが、それでもスコットランドの約10分の1程度であり、しかもほとんどが独立している形です。
今はブームが後押ししていますが、将来を見据えれば栄枯必衰で必ず「冬の時代」は来ます。 
そうした時代に備え、お互いに原酒を融通しあって味に幅を持たせたり、海外への流通販路を確保する手助けをしたり、蒸留やブレンド技術、あるいは新製品の評価だったり・・・様々なモノを共有しあう、オープンな繋がりを今から構築しておく必要があると思うのです。
それこそ、やや安易ではありますが、クラフトウイスキー組合のような形を作り、冒頭述べたような「ウイスキーとしての美味しさ、魅力のあるウイスキー」を安定して提供し続ける仕組みに繋げて欲しいなと。

聞くところでは、イチローズモルトの肥土伊知郎氏は、新しく稼動するクラフトウイスキー蒸留所を尋ね、自身の経験に基づくアドバイスをされているそうです。
自社で全てを賄えてしまう大手企業には魅力を感じないかもしれませんが、これから続々と増えていくクラフトウイスキーメーカーは、こうした仕組みが必要なのではないかと考えます。
それこそ全企業が協力し合うジャパニーズウイスキー協会的なものがあっても。。。

何れにせよ長く日本のウイスキー業界が成長し続けられる流れになればと、いち愛好者として祈るばかりです。
今回、日本のウイスキー業界の現状と課題をまとめる記事を書いたわけですが、すでに多くのコメントを頂いているところ。この記事をきっかけに多くの議論が生まれ、様々な可能性の中から日本のウイスキー業界の将来を考えていく、その呼び水の一滴にでもなれれば幸いです。 


【追伸】
前略、松井酒造合名会社様。
ウイスキー業界の現状としてここまで書いた上で、私も本音で一言申し上げます。
御社の書かれた思想、意見は賛同できる部分もございます。
しかしそうした理想を掲げるのであれば、周囲を納得させる味で示してください。
御社の姿勢が認められるか、ただの金儲けや言い訳だと非難されるかは味次第です。
現状が何方かはお分かりのことと思います。今後の商品が、我々をいい意味で驚かせる内容であることを期待しております。

ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー

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前回の記事でピュアモルトウイスキー倉吉の問題点を整理したところで、この一件から見えてくるジャパニーズウイスキーの課題と現状についても整理します。
ジャパニーズウイスキーの課題は、それを定義するはずの酒税法が緩すぎて、基準そのものが無いということ。そして、そこを補足するだけの力を持った団体が無いことです。

ウイスキーの製造は、その国で定められている法律等によって様々なルールがあります。
イギリスではThe Scotch Whisky Regulations( 通称スコッチ法)に加え、スコッチウイスキー協会による審査などで細かい部分が整理がされています。
スコッチ法の「スコッチウイスキーはスコットランド国内で蒸留、3年以上の熟成」というルールは有名ですが、熟成年数などのラベルの表記も消費者が誤解するような記述がないように、厳しいチェックがされています。
酒販店やBARが現地メーカーから樽を買ってプライベートボトリングをする際、ラベルの審査が通らず苦労するという話もあるくらいです。 (10周年という記載が、10年モノと見間違うからNGと言われたこともあるとか。。。)

対して、日本の酒税法では、ウイスキーの原料と製造方法に関する極めて基本的な記述しかなく、ウイスキー製造行程のどこまでを日本でやったらジャパニーズウイスキーなのかという決まりがありません。
つまり、海外から輸入してきた原酒を国内で貯蔵し、ブレンドして、税金を払ってリリースすることも可能であるわけです。

そうした日本の環境の中で、各社は長きに渡りトップランナーたるスコットランドのルールを参考にしながら、独自の判断と、基準と、モラルで、時に厳格に、時に柔軟に、ウイスキー作りを続けてきました。
そして「味の追求」や「原酒の幅の少なさ」などを補うため、構成原酒の一部に国内のみならず海外から買い付けたバルクウイスキーを使うことも、グレーゾーン的な扱いの中、一部の銘柄で行われていました。
そのうちのいくつかの商品では公式に「スコッチモルトを使った」と宣言しているモノもありますし、都市伝説的に広まっているものもあります。


上の写真は日本の中でも有名な蒸留所に転がっていた、スコッチバルクウイスキーのタンクです。この蒸留所では輸入バルクウイスキーを使用した製品は「ジャパニーズウイスキー表記」をしないなど、配慮もしているようです。
他にも「またあそこ原酒買ったよね」と、業界関係者に言われるほどの買い付けでバルクウイスキーを使ったリリースを行っている蒸留所もあります。先日、ここの蒸留所限定ブレンデッドを飲んだところ、若いスコッチバルクウイスキーと思われる味がバリバリで唸ってしまいました。
時代を遡ると、某社では「申請されている原酒貯蔵量以上にリリースされてないか?」と国会の委員会で話題のひとつになってしまったことも。

これらは違法なコトをしている訳ではないのですが、推測の域を出ない内容も含まれているため、どの蒸留所の話であるかは書きません。
しかし写真にあるようにバルクウイスキーがビジネスとして成立し、多くのロットが生産されているということが、その現状を雄弁に物語っているように思います。
松井酒造の肩をもつわけではありませんが、彼らの言動に「なんで俺らだけ言われにゃならんのよ」という姿勢が見えるのは、こうした背景が日本のウイスキー業界にあるためです。(彼らが叩かれた本当の理由は散々述べたので、割愛しますが。)



 ここまで読むとバルクウイスキーを使うことが"悪"のように読めてしまうかもしれませんので(実際人によってはバルク=粗悪なウイスキーという認識の方もいるようです)、その素性等について、自分が知ってる範囲で紹介しておこうと思います。

日本で主に使われているバルクウイスキーは、専門の業者が蒸留所から原酒をまとめて買いつけ、ブレンドして大容量のタンクで販売しているブレンデッドモルト、あるいはブレンデッドウイスキーです。
かつてはシングルモルトも販売されていたようですが、2012年にスコッチ法改正でシングルモルトのバルク輸出が禁止され、スコッチタイプはブレンド系のみとなっています。 (現地蒸留所と繋がりが強い企業にあっては、現地基準でウイスキーに該当しないニュースピリッツを輸入する方法もあるようですが、今回の話の流れである、メーカーが直ちにブレンド可能な商品としてのバルクウイスキーではないので省略します。) 

バルクウイスキーには3年クラスの非常に若いものから、30年近い長期熟成年数のものまであり。樽の傾向もバーボン系やシェリー系などいくつかパターンがあるようで、業者が保有する原酒の中から選び、買い付ける形になります。
また、クラフトメーカーなどではブレンデッドウイスキーを作る際に必要なグレーンウイスキーの調達も急務であり、国内で調達できない場合は太平洋を渡った先から買い付けていることもあるようです。近年はウイスキーブームにより国産グレーンの融通が困難で、海外調達が中心とも聞きます。

バルクウイスキーの特徴というかデメリットは、原酒に何が使われているのか公開されていないことにあります。
ただ、原酒を提供できる蒸留所やグループは限られていますし、例えばスコッチタイプはハイランドやスペイサイドのブレンデッド向け蒸留所が多いかなという印象は有ります。
味はどうかと言うと、バルクウイスキーだから悪いとか、明らかに粗悪とかそんなことはありません。
業者も最低限のクオリティを維持しないと商売になりませんから、これまでいくつか飲んできたバルクサンプルや、そっち系のウイスキーは普通に飲めるレベルですし、長期熟成タイプは風味もリッチで下手な蒸留所の原酒より旨い。
ブレンドのベースにも十分使えるレベルで、20年オーバーの長熟タイプは味だけ考えたら率先して使いたいほどです。
また、グレーンについても製法上大きな差が出づらい事もあり、バニラ系の風味がしっかりある「至って普通のグレーン」が供給されています。


長くなってしまいましたが、ジャパニーズウイスキーの課題はその基準のあいまいさにあり、メーカーによっては必要に応じてバルクウイスキーに頼った商品作りを行っている現状もまた、伝わったものと思います。 
勿論、全てのメーカーが使っているわけではなく、出荷量を絞っても使わない姿勢を見せている銘柄もあります。 あくまで自分の知っている範囲の話ですが、全ての銘柄がそういう状況にある訳ではないことは、補足させていただきます。 

"ジャパニーズウイスキー"が世界的に評価される中、日本のウイスキー業界は、こうした課題とどのように向き合って行くべきなのでしょうか。
機運の高まりから「ジャパニーズウイスキー」と「そうでないウイスキー」を分ける"基準"を作ろうという動きも出ています。
問題提起と現状把握も終わったところで、次回はこうした課題や現状に対する自分なりの考えをまとめます。

ジャパニーズウイスキーに今後必要だと思うことに続く。

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