タグ

タグ:信州蒸留所

映画 駒田蒸留所へようこそ オリジナルウイスキー&KOMA復活プロジェクト

カテゴリ:
11月10日公開の映画「駒田蒸留所へようこそ」。もうご覧になられたでしょうか。
先行試写会参加組としては、早くみんなとあそこはあの蒸留所だとか、あの人が写っていたとか、あるいはあのウイスキーは…とか、あれこれ語り合いたくてムズムズしており、やっとそれが出来る・・・。
近々、ストーリー考察スペースとかもやりたいですね。

一方で前回、先行試写会後に更新した紹介記事では、追って紹介としたのが、映画とコラボしたオリジナルウイスキーリリースに関してと、当時はオープンにできなかった企画、KOMA(独楽)復活プロジェクトです。
オリジナルウイスキーは言わずもがな、映画公開当日にオープンとなったKOMA復活プロジェクトのクラウドファンディングは、既に目標を達成するなど多くの注目を集めています。
今回の記事はKOMAとはどんなウイスキーだと考えられるのか、そしてコラボレーションリリースを実施する各蒸留所と本映画との関連やリリースの傾向等を紹介していきます。

IMG_1052

・KOMA復活プロジェクト(T&T TOYAMA クラウドファンディング)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044

・駒田蒸留所へようこそ コラボ企画 オリジナルウイスキーリリース
URL:
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/campaign/


◾️KOMA復活プロジェクト
11月10日の映画公開と合わせ、本映画のウイスキー監修・稲垣貴彦氏が代表を務めるT&T TOYAMAが公開したのが、劇中に登場する幻のウイスキーKOMA(独楽) を復活させる、映画さながらのプロジェクトです。

6b31f01b

ネタバレを最小限に、ウイスキーKOMAについて解説すると。。。このウイスキーは、駒田蒸留所を操業する御代田酒造が、かつて発売していたシングルモルトウイスキーです。

多くのファンがいたようですが、劇中では災害によって御代田酒造の蒸留設備が失われたことをきっかけに製造を中止しており、残っていた原酒も御代田酒造がウイスキー事業を再開するタイミングで「わかば」をリリースする際に使っていたことから、原酒ストックがない状況となります。
劇中では、このウイスキーを復活させることをテーマの一つにストーリーが進みます。色々な情報が合わさっていますが、御代田=軽井沢周辺の地名であること等から、位置付けとしてはそういうことなのでしょう。

77fa53e5

ただし、その中身は単に軽井沢モチーフというわけではないようです。
先日、稲垣さんとXのスペース配信中に考察したところでは、以下のような地ウイスキー寄りのシングルモルトではないかとのこと。
  • 表記上の熟成年数は12年。
  • 原酒は、当時ウイスキー用のノンピート麦芽より、関税の安かったピーテッド麦芽から仕込んだもの。
  • ミズナラ樽等の古樽(3回、4回熟成に用いた後のもの)で熟成。
劇中では、駒田蒸留所で蒸留した原酒の熟成を待つのではなく、シングルモルトKOMAをブレンドで再現しようと、日本各地の蒸留所から原酒を集める取り組みが行われます。

さて、話を現実世界に戻すと。
この幻のウイスキーKOMAを、現実でも復活(再現)しようという取り組みが、T&T TOYAMAがクラウドファンディングで進めるプロジェクトとなります。日本初のジャパニーズボトラーズであるT&T TOYAMAならではの取り組みでもありますね。

同プロジェクトでは、劇中同様に日本各地の蒸留所から原酒を集め、ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキーとして”KOMA“と、ブレンデッドモルトウイスキーとして”わかば“を、稲垣さんがブレンダーとなって再現します。
そしてKOMAに関しては、劇中では“ある樽”が復活の鍵を担うのですが…。調査員が向かった三郎丸蒸留所の蒸留棟の奥に、見慣れない樽が…おや、これはひょっとしてs…うわまてやめろなにお(

FullSizeRender

すいません、取り乱しました。
先に触れたように、公開されたクラウドファンディングはわずか3時間で目標金額の1000万を達成。支援総額は、本記事公開時点で既に2000万円を超えており、その注目の高さが伺えます。

こうした映画やドラマに登場した架空のウイスキーは、ファンとしては一度は飲んでみたいものです。ましてそれが同映画の監修者によるものとあればなおさらです。
T&T TOYAMAとは度々リリースにも関わらせてもらっていますが、今回私はブレンドに関わることはありません。引き続き、情報収集&発信をしていきたいと思います。


FullSizeRender
※クラウドファンディングではウイスキー以外にオリジナルグッズが付属するリターンとなる。また、お酒が飲めないものの本企画を応援したいというファンのために、Tシャツやジャケット等のリターンも用意されている。
クラファンURL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044


◾️駒田蒸留所へようこそ コラボリリース
さて、前回の記事でも紹介したように、今回の映画公開にあたっては、第一弾として公開前のチケット購入で応募できる記念ボトルに加え、第二弾として映画公開後に映画を見た人が応募できるコラボリリースの2つの企画が用意されていました。

komada_original

【第一弾】
 三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のライトリーピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。

既に映画をご覧になった方はもうご存知かと思いますが、これら5蒸留所は、劇中においてモチーフとなり何かしらの役割をもって登場し、主人公たちが訪問している蒸留所となります。
ここでは冒頭紹介したように、映画を見ただけという人にも伝わるように、登場シーンと繋がる画像と合わせて、各リリースの方向性について紹介させていただきます。
なお、余談ですが本リリースの調整は、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本氏が担当しており、本記事執筆にあたって同氏から色々お話しも伺いました。その点についても紹介していきたいと思います。

FullSizeRender

【三郎丸蒸留所】
もうご存知の通り、駒田蒸留所の”各設備”に関してモデルになったのは、富山県にある三郎丸蒸留所です。
そのため、ここ!という「駒田蒸留所スポット」は、以下の写真以外に多数出てきます。紹介する写真も一番多くなりましたが、まあ仕方ないですよねw
映画を見に行く前に三郎丸蒸留所に行ったことがある人たちは、非常に多くの既視感を覚えるでしょうし、見てから行く人は“スポット”探しも楽しめるかと思います。

一方でモデルになったのは”各設備に関して“であり、劇中の駒田蒸留所(御代田酒造)は長野県にありますし、ストーリーとの関連としては三郎丸の歴史をそのままなぞったものでもありません。
これは映画を作成したPAワークス社が同じ富山県にあり、映画作成にあたって三郎丸蒸留所を訪問して参考資料の撮影等をしたからと考えられます。

IMG_0489
IMG_0473
IMG_0460
IMG_0523
IMG_0433
IMG_0437

三郎丸蒸留所の特徴は、国内屈指のピーティーなウイスキーです。
2016年にクラウドファンディングを使って資金を調達し、蒸留設備をリニューアル。名前の無かった蒸留棟を三郎丸蒸留所として新たなスタートを切ります。
2020年の仕込みからは、スコットランド・アイラ島のピートで乾燥させた麦芽を用いたウイスキーを作っており、今回のオリジナルウイスキーはまさにその原酒を用いたものとなります。

秋本氏曰く、ここのカスクは迷わなかった。
本映画のウイスキー監修担当にして、蒸留所マネージャーでもある稲垣貴彦氏曰く、秋本さんが迷わず良いカスクを持って行った…と。
新樽熟成のウイスキーは、焦がしたオーク樽由来いのキャラメルやナッツ、バニラ、濃くいれた紅茶のようなタンニンが特徴です。そこにスモーキーな原酒が合わさることで、まず間違いないリリースだと思います。
saburomaru_pb_komada

【イチローズモルト・秩父蒸溜所】
皆様ご存知、日本においてはクラフトウイスキーの先駆けであり、今やメガクラフトと言える規模に成長した、埼玉県は秩父蒸溜所。劇中では主人公の心境において、ちょっとしたターニングポイントを迎えた際に訪問した場所として描かれています。

樽工場については手持ちの写真がありませんでしたが、以下の3枚で「あ!」と思っていただけるのではないでしょうか。この蒸留所のポイントの一つがミズナラです。ミズナラ材を用いた発酵槽がウイスキーの味に少なからず影響していると思いますが、劇中もその点を意識した描かれ方をしてるのです。
見学は一般見学を受け付けていないので中々難しいかもしれませんが、繋がりのあるBARが見学ツアーを企画したりしていますので、工夫して訪問してみてください。

IMG_0672
IMG_0673
FullSizeRender

そのオリジナルウイスキーは、劇中でも登場していると思しき吉川ブランドアドバイザーがブレンドに関わったシングルカスクブレンデッドのアンバサダーズチョイスです。
このシングルカスクブレンドは、秩父蒸溜所の原酒に、世界中から集めた原酒をブレンドし、樽に詰めて数年単位で追加熟成させたものです。

ウイスキーの製造過程では、ブレンドした原酒を樽に詰めてなじませる“マリッジ”という行程があり、それと何が違うのかというと。マリッジの期間は大概1年未満です。
イチローズモルトのシングルカスクブレンドは、1つの樽に1つのレシピで、それを数年、モノによっては5年、7年という長い期間追加熟成させた後に払い出してリリースするウイスキーです。

秩父蒸溜所では様々なタイプのシングルカスクブレンドが熟成されていますが、今回カスクチョイスに関わった秋本氏に伺うと、吉川ブランドアンバサダーの意向もあってフルーティーで華やかなタイプが選ばれている。少し前のON THE WAYに似ている。というコメントで、これは秩父蒸溜所のウイスキーが好きな方に刺さりそうなリリースが期待できます。
chichibu_pb_komada


【長濱蒸溜所】
長濱浪漫ビールが操業する日本最小規模の蒸留所…が、滋賀県・長濱蒸溜所です。
何か歯に挟まったような説明ですね?はい、蒸留設備の規模は、設備の一部が地ビールの製造設備と共用だったりで、確かに最小規模なのですが…ここは輸入原酒の活用含めて、熟成環境やリリースの展開を含めると、国内屈指と言える規模。
社長とブレンダーらスタッフが働きすぎだと心配するまでが、長濱蒸溜所ファンの通過儀礼であり、お約束でもあります。

また、2020年からは三郎丸蒸留所と合わせて、原酒の交換を各蒸留所と行うなど、各種コラボリリースに意欲的であることでも知られています。
劇中において、蒸留所の訪問はNVJ社の企画「クラフトウイスキー特集」のために行われていきますが、長濱蒸溜所だけはちょっと違うのです。あまり書きすぎるとネタバレになるので控えますが、この世界線でも長濱蒸溜所は各社と積極的な交流をされていたようです。
予告編の1シーンでも登場する所長?と思しき青年はひょっとして…

IMG_1042
IMG_1043

長濱蒸溜所のリリースは、アイラクォーターカスク、つまり某L蒸留所で熟成に使っていたクォーターで熟成したノンピートモルト原酒です。
ノンピートなのですが、樽に染み付いたアイラモルトのフレーバーが原酒に溶け込み、スモーキーさやアイラモルトを思わせるヨード香など、独特のフレーバーを楽しむことができます。

また長濱の原酒は麦感豊富で雑味が少なく、若いうちから楽しむことができることで知られており、クオリティは問題なし。本当はピーテッドをと思ったが、三郎丸がアイラピート、信州が内陸ピーテッドなので、樽由来で異なるピートフレーバーを感じさせるノンピート原酒をチョイスしたと、秋本スピリッツバイヤー。
そうなんです、今回のオリジナルウイスキーは後述するKOMAの件もあってか、ピーテッドが多いんです。ただし一口にピートといっても、その種類によって全く味が異なるもの。本リリースに限らず、飲み比べも楽しんでほしいですね。
nagahama_pb_komada


【マルス信州蒸留所】
同蒸留所のルーツは、日本のウイスキーの黎明期、1949年からウイスキー製造を行っていた本坊酒造にあり、長い歴史を持つものの、事業としては稼働と休止を繰り返していたマルスウイスキー。
実はこれまで、マルスがウイスキー蒸留を休止するとブームが到来するという、不名誉なジンクスもあったのですが。。。この信州蒸留所は2011年に稼働を再開、近年のウイスキーブームを追い風に羽ばたき、国内有数のウイスキー事業者となっています。

映画では、特に2020年の大規模リニューアル以降に信州蒸留所の見学に行ったことがある人なら、「お?」と思うシーンや人物がスタートから出てきます。
ブランド名である駒ヶ岳が「駒田」と似ていることから、この蒸留所が舞台なんじゃないかという話も企画公開当初は見られましたが、予告映像があまりにも…だったので、即雲散霧消。ですが、そこは長野県の蒸留所。ちゃんと劇中では主人公らの訪問先の一つに登場するわけです。

IMG_0250
IMG_0209
FullSizeRender

今回のオリジナルウイスキーは、信州蒸留所での蒸留が安定してきた直近5年以内のもの。
2011年の再稼働直後から数年は、少々酒質が暴れているというか、粗さが残っている印象がありましたが、2014年のポットスチルの交換以降は特にバランスが取れてきた印象があり、フレッシュで爽やかな麦芽風味に軽やかなスパイシーさ、樽感との馴染みも良いと感じています。
また、2020年の大規模改修後はマッシュタン等の設備の更新、見直しもあり、さらに酒質が向上しているのですが…それはまた別のリリースで。

ライトリーピーテッド原酒はほぼアクセント程度のピートフレーバーとなりますが、若い原酒が持つネガティブなフレーバーを抑え、逆に麦芽風味やバーボン樽由来のフレーバーを引き立てる傾向があると感じています。
麦感には香ばしさを、バーボン樽由来の黄色系のフルーティーさやバニラ香、華やかさには、ほろ苦さを加えてそれぞれの香味に立体感を、といった具合。
下手にヘビーピートにするとピートが浮ついてしまうため、信州の酒質を知ってもらうにはちょうどいいチョイスではないでしょうか。

komagatake_pb_komada

【八郷蒸溜所】
最後になるのが、日の丸ウイスキーや、常陸野ネストビールで知られる茨城県・木内酒造が操業する八郷蒸溜所です。
正直、この蒸留所については、立地やPRの少なさもあってか、他のクラフトに比べると話題になることが少ない気がしますが(少なくとも自分の周囲では)、実は新興クラフトの中では屈指の規模を持つ、今後大きく発展することが予想される蒸留所だったりします。

劇中では、主人公らがNVJの企画を兼ねて訪問する2つ目の蒸留所として描かれています。先に触れたように、知られていないことから「あれ?ここどこ?」となる人も多いかもしれません。また、設備の見学以外に、ここでは「原酒のテイスティングノート」が登場するのですが、このテイスティングノートを書いたのが…の…だったり。
私が訪問したのは少々前なので写真も今の姿とは違うところがありますが、非常に機能的で、設備も新しいしっかりとしたものが揃っています。

IMG_1308
IMG_1340

さて、この八郷蒸溜所のオリジナルウイスキーは、3種類の樽(原酒)をブレンドして造る、日の丸トリプルカスクウイスキーです。
酒質については、麦感が厚く、古典的なハイランドモルトを思わせる風味が感じられるのが八郷の特徴。一方で、シェリー樽はともかく、チェリーブランデー樽やさくら樽という、これまでのウイスキーではあまり見られなかった樽が使われているため、今回のオリジナルウイスキーラインナップの中で一番イメージが出来ないリリースではないでしょうか。

さくら樽は今複数のクラフト蒸留所でも使われており、端的に言えば「桜餅」のような風味がウイスキーに付与される特徴があります。
そこに、チェリーブランデーやシェリー樽の濃厚な甘さ、色濃いウッディさが加わり、今回のウイスキーはリッチで複雑、どこか懐かしい、ウイスキーを飲んだことが無い人でも知っているような味に仕上がっているそうです。
八郷側でブレンドをするにあたり、そのバランスには苦労したそうですが、秋本氏からもアドバイスがあり、ちょうどいいバランスにまとまっているとのことです。

hinomaru_pb_komada

【最後に】
改めてこの映画を振り返ってみて、あのジャパニーズウイスキーがアニメーション映画になるとは…と、かれこれ15年以上ウイスキーを趣味としている一人として、感慨深いものがあります。
2012年に映画「天使のわけまえ」が公開された際も、ここまで話題になることはありませんでしたし、それ以前はハイボールブームが徐々に起こっていたとはいえ、ウイスキー=マイナーな酒という位置づけでしたから。
本映画は日本だけでなく、それこそウイスキーの本場イギリスや、台湾等海外でも上映されるとのことで、どんな反響があるのか今から非常に楽しみです。

なお、本映画とのコラボ企画としては、国内の蒸留所に「●●蒸留所へようこそ」というオリジナルポスターを展示するというものがあり、該当する全蒸留所のロゴがエンドロールで一斉に流れるその絵は壮観です。(また、ウイスキー愛好家としては聖地とも言える場所と、ある人物が登場するのも、遊び心があってGOODです。)
映画を見て、クラフトウイスキーが飲みたくなったらぜひ蒸留所へ。成長と発展を続けるジャパニーズウイスキーが、さらに盛り上がっていくことを記念して、本記事の結びとします。


IMG_1143

映画「駒田蒸留所へようこそ」試写会感想&タイアップ企画紹介 11/10ロードショー

カテゴリ:
IMG_0083

2023年11月10日(金)から全国ロードショーとなる、世界初のアニメーション・ウイスキー映画「駒田蒸留所へようこそ」。
先日、その先行試写会に参加させて頂き、一足早く映画を楽しませて頂きました。

公式URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
予告編動画:https://youtu.be/KSAJIox--2g?si=4q0CtJ0YDMhtz7yq

映画公開前から本編ネタバレになるような記事はよろしくないと思うので、ネタバレにならない程度のざっくりとした感想でまとめると。。。内容はしっかりウイスキーの映画です。それでいて、普段ハイボールくらいしか飲まない「ウイスキーって?」という人や声優目的で見る方々から、推しの銘柄や蒸留所があるガチ勢まで、広く楽しめるストーリー構成になっていると思います。

勿論ツッコミどころがないわけではないですが、それをいちいち言うのは野暮ってもの。表面的には、蒸留所とウイスキーを復活させようという家族の物語ですが、見る人が見れば数分に1度のペースでニヤリとさせられる描写、情報、登場人物がストーリーに絡んでいる。
特に、本映画とタイアップが発表されている、三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷が好きという方は必見の映画ではないかと思います。(有楽町の某BARに行ったことがある方も、最後まで見ておくと良いかも・・・。)

komada_chichibu

komada_nagahama
(予告編に一瞬写った劇中のワンカット。モデルとなった蒸留所に行ったことがある方なら、どこの蒸留所で、誰が描かれているかもわかってニヤリとしてしまう。)

言い換えると、関連知識があればあるだけ楽しめる映画なんです。
そこで本ブログでは公開前に知っておくと一層楽しめる予備知識、そしてタイアップ企画やオリジナルウイスキーについて公開情報をベースに、ネタバレにならない範囲でまとめていきます。

■映画の舞台と予備知識について

「崖っぷちの蒸留所の再起に奮闘する若き女社長と、夢もやる気もない新米編集者が家族の絆をつなぐ”幻のウイスキー”の復活を目指す。」
本映画に関する舞台設定ですが、SNS等では若鶴酒造の三郎丸蒸留所が舞台で、2016年の三郎丸蒸留所再建がストーリーベースになっているのではないか。という予想が散見されました。

確かに若鶴酒造・三郎丸蒸留所の敷地、社屋が駒田蒸留所のデザインになっているのは間違いありません。このアニメーション制作を手掛けたP.A.WORKSは富山県にあり、監督の吉田正行氏も取材されていることもあって、予告編を通しても三郎丸蒸留所をモデルとしたシーンが多数出てきます。
以下画像はその一部。映画を見る前、あるいは見た後でも、三郎丸蒸留所の見学に行くと、脳内でシナプス結合が多数発生することは間違いありません。

saburomaru_komada

さらに本映画のウイスキー監修は、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーが関わっており、若手社長が蒸留所の再起を目指すというストーリーも、稲垣マネージャーの取り組みとリンクするところです。

しかしここであえてネタバレに踏み込むと、劇中で語られるエピソードは、日本の様々な蒸留所にあった出来事と思しきもので、時間軸もそれぞれ異なる並行世界のような構成。決して三郎丸蒸留所の再建劇ではありませんでした。
例えば、経営困難となった駒田蒸留所において、原酒の破棄を迫られるシーンが出てきますが…これはもはや補足説明不要なエピソードですね。

また駒田蒸留所を操業しているのは、仮想の酒類メーカー御代田酒造。つまり長野県軽井沢の「御代田」が舞台として設定されています。若鶴酒造があるのは富山県です。軽井沢であることがそんなに重要か?と思うかもしれませんが、実はその意識があるだけで違います。なにより、軽井沢でウイスキーと言ったら…ここは予備知識として覚えておくと、ストーリー設定がすっきり飲みこみやすいと思います。

果たして幻のウイスキーは復活するのか、そして駒田蒸留所の未来は如何に…。

komada_miyota
(駒田蒸留所外観、御代田酒造の表記。劇中では「長野県」を連想させる場所が度々登場する。)

komada_koma
(劇中で幻のウイスキーと言われた、”ウイスキーKOMA”。軽井沢で失われたウイスキーと言えばモデルは…。ただし、製法に関しての関連性はなく、あくまで位置づけとして。製法の伏線、ヒントはラベル。是非映画を見て頂きたい。)

■タイアップ企画について
本映画のストーリー進行は、御代田酒造・駒田蒸留所の社長である「駒田琉生(こまだるい)」と、News Value Japan(NVJ)社の新人記者である「高橋光太郎(たかはしこうたろう)」が、クラフトジャパニーズウイスキーを特集するための取材という目的で、国内の蒸留所を訪問するシーン。そして幻のウイスキーKOMAを復活させることを目指すシーン、主人公二人のそれぞれの”仕事”を舞台に構成されています。

komada_jw

このウイスキー特集企画。劇中だけでなくリアル世界でのタイアップ企画が既に公開されており、現在オープンになっているのが以下の2つ。
・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
・映画本編に登場した5蒸留所(三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷)のオリジナルウイスキーリリース

聞くところによれば、今後更なる企画も予定されているとのことですが、本記事ではまずこれらの企画について紹介していきます。

・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
映画を配信するGAGA社の公式サイトでは、9月末に映画本編を模したサイトがオープンし、蒸留所に関する情報発信が始まっています。
これは劇中では主人公:光太郎が書いている記事とリンクするような構成で…、最も内容は現時点では映画公開前なので非常にライト、編集長に「もっとウイスキーファンが読んで面白い原稿にしないとだめ。」と言われちゃいそう(笑)

ですがここで劇中に見られたような「〜〜の基準」とか、マニアックな話は逆に浮いちゃう気もするので。例えば劇中に出てきたシーンと実際の蒸留所の比較や、登場された方とのコメントとかまとめてくれるだけでも、聖地巡礼のきっかけになりそうで面白そうだと思うんですよね。
これから記事が増えていくと考えたら、楽しみなサイトです。

nvj_komada
URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/special/

FullSizeRender
IMG_0215
(本記事に引用したアニメシーン画像とリンクする2箇所。秩父蒸溜所と長濱蒸溜所の例。ウイスキー特集と合わせてこうした情報発信があれば。)

・映画本編とタイアップした5蒸留所のオリジナルウイスキーリリース
8月に横浜で開催されたウイスキーフェスティバル等を皮切りに、本映画とクラフトウイスキー蒸留所のタイアップ企画として、オリジナルウイスキーのリリースが発表されています。

この企画は2段階に分かれており、
・第一弾:ムビチケ前売り券を購入された方が応募できるもの(11月9日まで)
・第二弾:映画館を見て頂いた方が応募できる企画(11月10日~12月7日まで)※
※前売り券を購入された方は、第一弾、第二弾どちらも応募可能。
リリースの調整は信濃屋が担当。当選したら購入できる、抽選販売となります。

komada_original

【第一弾】
三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。
以上5点が発表され、第二弾はこの中から購入希望の蒸留所を選ぶ形式となります。

日本国内のウイスキーシーンは、2014年のドラマ:マッサンで注目度が高まり、世界的な需要増の後押しもあって大きなブームに繋がりました。そして今回の舞台はそのマッサン以降、大きく芽吹いたクラフトウイスキー。その旗振り役たる秩父蒸留所をはじめ、再稼働した蒸溜所、新興蒸溜所、新しい世代のウイスキーを楽しみにしたいです。

なおこれらのリリースについて、現物をテイスティングすることは出来ていませんが、選定を担当した信濃屋スピリッツバイヤーの秋本さんに電話一本、そのイメージ等を伺っています。折角なので、各蒸留所の紹介と合わせて後編記事として後日別途まとめたいと思います。

FullSizeRender

■映画の公開に向けて
「ウイスキー」を主題とした映画は、アニメとしては世界初なのは言うまでもないですが、もう一歩踏み込んで「ウイスキー作り」を主題とした映画として見た場合、本作は実写映画“天使の分け前”に次いだ作品…となります。あるいはウイスキー作りの比率で言えば、ヒューマンドラマ色の強い“天使の分け前”に対し、あくまでウイスキー作りが軸にある本作が、世界初のクラフトウイスキー映画と言えるかもしれません。

それは本映画がP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」に位置付けられ、働くことをテーマに登場人物の奮闘を描く物語であることから。
ただそのウイスキー作りは、本編では精麦、発酵、糖化、蒸留という行程はあまり触れられず、熟成、ブレンドをメインに展開していきます。
この辺はちょっと残念ではありますが、ウイスキーが熟成(リリースまでに)に3年以上、あるいは5年、10年という年月が必要であるため、経営難の蒸留所の幻のウイスキー復活に、蒸留から何年も待ち続けるストーリー展開は設定上も厳しかったのでしょう。

ではKOMA復活に向けて原酒はどうしたのか、どんな出来事があったのか、それはぜひ本編を見て頂きたいと思います。
個人的には、ウイスキーライターの端くれとして、臨時とは言えブレンダーを務める身として、若い両主人公の働く姿に、むず痒くもエネルギーを貰うような感覚のある映画だと感じました。
世界中から注目を集めるジャパニーズウイスキー、これまでは過去の蓄積が評価につながってきましたが、今後は原酒も造り手も新しい世代が試される時代です。

「いいんじゃないの?必死にやった結果、俺はこの道に出会えたんだから」
本映画が直接的にも間接的にも、ジャパニーズウイスキーの造り手の背中を押してくれる一助となることを期待しています。

komada_end

追記:映画主題歌の「Dear my future」が良曲で、エンディングの余韻をしっかり膨らませてくれました。早見さん歌めちゃ上手いですね。

シングルモルト駒ケ岳 屋久島エージング 2020 53% 

カテゴリ:
IMG_20200401_141506

KOMAGATAKE 
Single Malt 
Yakushima Aging 
Distilled in Shinshu Distillery 
Matured in Yakushima Aging Cellar 
Bottled in 2020 
700ml 53% 

グラス:テイスティンググラス
場所:新宿ウイスキーサロン
時期:開封直後
評価:★★★★★(5)

香り:オーキーでウッディ、バニラの甘さと柑橘や若干の針葉樹系のハーバルさ。合わせて、焦げたようなスモーキーさを伴うドライな香り立ち。

味:口当たりはねっとりとしており、柑橘やバナナ、仄かに熟れたパイナップルを思わせる甘酸っぱいフレーバーがあるが、それが徐々に若い果実のような固い酸味に変わっていき、若さとして感じられる。中間以降は樽感が収まり乾いた麦芽風味やハイトーンな刺激。余韻は土っぽさを伴うピートフレーバー、燃えさしのようなスモーキーさがあり、それ以外は比較的あっさりとしている。

ねっとりとしたオークフレーバーがあり、酒質由来の酸味と合わさって甘酸っぱい味わいが特徴的なモルト。温暖な地域での熟成をイメージさせる構成であるが、一方で若い原酒が主体であるためか、粗削りな部分は否めないが、作り手の表現したいイメージが伝わるよう。また余韻にかけての若さはピートがうまく打ち消しており、将来への可能性を感じる1本でもある。

IMG_20200401_141602

信州蒸留所で蒸留した原酒を、本坊酒造の屋久島伝承蔵にある専用セラーで熟成させた、シングルモルトウイスキー。
蒸留所がある信州よりもさらに温暖な環境での熟成により、異なる個性を付与した1本です。

信州蒸留所が再稼働したのは2012年。屋久島エイジングセラーは2016年に新設されたものですが、その際に信州から屋久島、津貫へと熟成させた原酒を一部移していたため、必ずしも2016年以降の原酒で構成されているわけではありません。
とはいえ10年、20年熟成のものではなく、飲んだ印象は3~6年程度と一定の若さを連想する酸味や質感のある味わい。そこに強めに効いたアメリカンオークの樽由来のエキス、バニラや黄色系のフルーティーさにも繋がる要素を付与し、前述の酒質由来の要素と合わさってねっとりと甘酸っぱい味わいとして感じられます。

バッティングですので一概に比較はできませんが、信州蒸留所熟成のものとの違いは、例えば最近リリースされたリミテッドリリース2019や再稼働後のバーボンバレル系のシングルカスクなど、信州のものはどこか冷涼な爽やかさでスペイサイドモルトを思わせる樽感があり、一方で屋久島のこれは序盤の粘度の高い質感が熟れたバナナ等の果実のよう。
ウイスキー愛好家がイメージするトロピカルフレーバーとは当然異なりますが、なるほど確かにこれは信州とは違う熱帯感、どこか南国チックだぞと思わされるのです。

そうした序盤のフレーバー構成から、余韻にかけては急展開。ピートフレーバーが存在を主張してくるのですが、樽感もストンと落ちてしまう。そのため、酒質と樽感が馴染んでいるかと言えば、余韻にかけて分離しているような印象も受けます。
このあたりは若さなのでしょう。今はまだ粗削りですが、熟成の傾向としては熟成場所としての可能性を感じるリリースであり、伝わってくるイメージが環境とマッチしたものであるのが面白い。
これらの原酒が熟成を経て、それぞれの個性が馴染んでいくような成長を期待したいです。

駒ヶ岳 3年 2016-2019 ウイスキープラス 5周年記念 62% #3303

カテゴリ:
IMG_20191209_220640
KOMAGATAKE 
MARS WHISKY 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016 
Bottled 2019 
Cask type Bourbon barrel #3303 
For WHISKY PLUS 5th ANNIVERSARY 
700ml 62% 

グラス:国際規格テイスティング
時期:開封当日
場所:ジェイズバー
暫定評価:★★★★★(5)(!)

香り:若さに通じる酵母香と酸のある麦芽、ニューポッティーなアロマがあるが、それがスモーキーな要素のなかでシトラスや若い林檎を思わせる果実要素にも感じられる。

味:口当たりはフレッシュで爽やかな柑橘感、香り同様に酸味を伴う口当たりで、乾いた麦芽風味からじわじわとピーティーでスモーキーなフレーバーが広がる。
余韻はピーティーでほろ苦く、仄かにニューポッティーな要素が残る。

若いなりに整っていて、普通に飲めるモルト。若さが嫌みではなく、爽やかさと果実感に繋がっていて、ネガ要素もピートで程よくマスクされている。こうした原酒の素性の良さ故、今この瞬間以上に蒸留所の5年後、10年後への期待が高まる原石のようなモルト。

IMG_20191209_223016

輸入業者のエイコーンの販売店舗であるザ・ウイスキープラスの開店5周年を記念した限定リリース。3年と若い原酒ですし、あまり期待はしてなかったのですが、テイスティングの通りそれなりに飲ませる味わいで、驚かされました。

勿論、熟成感は年数なりで、この時点で突き抜けて素晴らしいとは言えないのですが、若いだけでない良さを感じさせてくれるんですよね。
ネガティブな要素が目立たず、ボディもそれなりにあり、特に熟成で消えづらい発酵したような要素や先天性のオフフレーバーに類するものが少ない。ピートの馴染みも現時点で悪くなく、20ppm故に原料由来、樽由来のフレーバーとも喧嘩していない。
このままバーボンバレルで綺麗に熟成したら、それこそ昔のピーティーな時代の内陸スコッチモルトを思わせる仕上がりになるのではと、将来性を感じるのです。
(最も、日本の場合は樽が強く出るためどうしても"綺麗に"、というのが中々難しいのですが。。。)

信州蒸留所は2014年末のオフシーズンに、休止前から使い続けて老朽化した蒸留器を交換し、形状はほぼそのままでリニューアルしています。
最初の年というのはどの蒸留所も設備の癖をつかむまで時間がかかると聞くところ、色々馴染んだ2年目は良い原酒が出来てきたのか。あるいは元々良いのか。また最近鉄製だった発酵槽を木桶に変更していますし、更なる変化も見込めそう。。。
お恥ずかしいながら、マルスの若いのは「まだ良いか」くらいに考えて、そこまで飲んできていないので相対評価が出来ません(汗)。
その点で、自分にとっては他のヴィンテージの現時点にも興味を抱くきっかけになる、文字通り興味深い1本でした。

IMG_20191205_204425

今日のオマケ:コノスル ピノ・ノワール 20バレル 2017

先日オマケに書いた、コノスルのシングルヴィンヤード・ブロックNo,21の上位グレード。お値段税込み2600円。Web上の評判は中々良いのですが、個人的にコノスルに2000円以上出すのはどうかなという、よくわからない抵抗感と、先のブロックNo,21が2000円以内の価格帯では一番好みということからくる「もうこれでええやん」という安定思考で、気にはなっていたものの手を出さずにいたワイン。

知人の後押しもあり、思いきって購入。
結果、評判通り良かったというオチ。
カリピノの日本市場で4000~5000円のワインにあるような、どっしりとした香味構成。初日は序盤の新世界ピノの熟したブルーベリーやカシス、赤黒系の果実を思わせる甘酸っぱさから、余韻にかけてしっかり目のタンニンと樽香が、軽いスパイスと共にグッと来る感じ。
これは後半部分がなんとかなれば。。。と思ってバキュバン保管で1日置いたところ、そのタンニンが馴染みはじめ、良い塩梅に変化。

また出張で家を空けたため、開封5日後バキュバン保管のブツを恐る恐る飲んでみましたが、普通に問題なし。
甘味が少し減った分、他の香味と混じってこなれて。。。これはこれで良い。かなりロングライフなワインなのですね。
つまるところ、新しいヴィンテージはデキャンタで速攻開かせても、今回みたいに時間をかけて飲んでも、あるいは熟成させても良いんじゃない?と。

ブロックNo,21はチャーミーというか、ベリー系のフルーティーさを支えるボディに少し軽さがあるので、そこが日本円3000円くらいののピノというイメージですが(それでも充分なコスパ)、この20バレルは確実にその上位グレードを意識した作りです。
今の自分の能力じゃ、まじでナパピノとの区別がつかない。。この価格でこれってスゴいんじゃね?という気付きを得られたので、即飲めるブロックNo,21以外に、じっくり飲んでいく20バレルの2種類をストック決定です。

シングルモルト 駒ヶ岳 リミテッドエディション 2019 48%

カテゴリ:
komagatake_limited_edition_2019
KOMAGATAKE 
MARS SHINSHU DISTILLERY 
Single Malt Japanese Whisky 
Limited Editon 2019 
700ml 48% 

グラス:アランノベルティーグラス
時期:開封後1ヶ月程度
場所:BAR ヒーロー
評価:★★★★★(5ー6)

香り:フレッシュな香り立ちで、原酒由来の酸を感じるアロマ。レモングラス、ライムシロップやアロエ果肉を思わせる甘さと淡いオークの華やかさ。奥にはニューメイクに由来するニュアンスもあって、ピントが合う度に若さを認識させられる。

味:とろりとした口当たりと共に、樽由来のフレーバーの粗さが舌の上で感じられる。アタックはあるが、オーキーな華やかさもあり、レモンタルトやバニラウェハース、余韻はドライで乾いたオークやレモングラスの爽やかさ、スパイシーなフィニッシュ。

オーキーな華やかさとともに、繋ぎになるコクのある質感と比較的若い原酒のアタックが備わったボトル。若さは特に香りで感じられるが嫌みなほどではない。加水するとまとまり、爽やかな香味構成になるので少量加水推奨。先は長いが期待は出来る。

IMG_20191109_092638

マルスが毎年リリースしている、信州蒸留蒸留所の原酒をブレンドして作るリミテッドエディション。
これ以外にも一年に数回限定リリースがあるマルスなので、リミテッドエディションが特別という印象はありませんが、48%の加水調整と複数樽バッティングの仕様から、将来的にリリースされるオフィシャルボトルをイメージしているのかなと。言わばキルケランがやっていたワークインプログレスのイメージに重なるところがあります。

昨年のリミテッドはバーボン樽オンリーでしたが、今回の原酒構成はバーボンバレルで熟成された原酒を"主体"としたヴァッティングで、シェリー樽やアメリカンホワイトオーク樽原酒(マルスの表記では何度も使ったプレーンオークか、新樽か)も使われているとのこと。
香味から察するに、おそらくメインの原酒の熟成年数は5~6年程度で、3年くらいの若いタイプも混じっている印象。シェリー樽についてはリフィルでたぶんこれが若い方の原酒。フレーバーの主体は説明文の通りバーボン樽系統ですね。

ピートの主張も殆どないので、メインノンピートタイプかライトピーテッド。淡くオークフレーバーの効いた爽やかな味わいは、近年のスペイサイドモルトに共通する要素を感じさせます。
一方、口当たりにとろりとした粘性のある甘味があるのが特徴的でもあり、ここはバーボン樽以外の樽が仕事をしている部分と推察。リフィルシェリーともプレーンオークともとれるが、後者でしょうか。それが全体をカバーして、レビューの通りストレートでは若干の粗さと酸のある香味構成ながら、嫌みにならない程度に収まっているのだと思います。

この一本、信州蒸留所の現在地としては過熟感もなく、引き続き熟成して10年以上は熟成期間を見られそうなマイルストーン。4~5年後に10年熟成としてオフィシャルスタンダードでリリースされるのが楽しみです。
このリリースだけ見ると、それはグレングラントっぽくなりそうな気がしてきました。


追記:この記事に関連して「中身スコッチモルトなんですか?」という質問を、ウイスキーフェスの会場でお会いした方からされましたが、普通に信州蒸留所の原酒だと思ってます。そもそも表ラベルでSHINSHU DISTILLERY 表記かつSingle Malt Japanese Whisky 表記ですしね。
系統を分類するならスペイサイドタイプの酒質であり、それが熟成の結果、現行オフィシャルのグラント12年とか、そういうタイプの味になりそうだと感じたという話です。
その場で本坊酒造のスタッフにも確認しましたが、間違いなく信州蒸留所の原酒であるとのことでした。(11/17追記)

このページのトップヘ

見出し画像
×