タグ

タグ:乾杯会

ストラスミル 36年 1988-2024 ホグスヘッド 46.6% BAR Eclipse first 10周年記念

カテゴリ:
FullSizeRender

STRATHMILL
BAR Eclipse first 10th Anniversary
Aged 36 years
Disitlled 1988
Bottled 2024
Cask type Hogshead
For Kanpaikai
700ml 46.6%

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:林檎や白葡萄、ハーブの爽やかなトップノート。続いてナッツ、干藁や穀物を思わせる要素、微かにオリーブのようなアクセント。繊細でありながら豊かな広がりを感じるアロマ。

味:若干のオイリーさを伴う柔らかく甘い口当たり。続いて軽い香ばしさ、華やかなオーク香が含み香として感じられ、香り同様の干藁や穀物系のフレーバーが牧歌的な印象に通じている。 余韻は軽やかなウッディネス、ドライで微かに青みがかった白色果実とホワイトペッパーのスパイシーな刺激を伴う。

香味の要素だけ見れば、まさにストラスミルのハウススタイルをそのまま体現したような一本。
トップノートにある爽やかな果実味と軽やかな香ばしさは、洗練された都会的な印象に通じる一方で、踏み込むとそこには牧歌的な、あるいは多少粗雑なところがあり、それが親しみ易さ、味わい深さに通じている。ああ、この肩肘張らない感じはエクリプスの雰囲気を想起する。林檎を思わせる白色果実がトップにあるのも心憎い、10周年記念の一本。

IMG_3472
乾杯会から5月30日発売されるストラスミル。
シードル(林檎)王子こと藤井さんがオーナーである、神田のBAR Eclipse first(エクリプス)の開業10周年を記念した一本です。

エクリプスは2015年にウイスキーとシードルの専門店として開業したBAR。藤井さん自身がウイスキーコニサーであるとともに、シードルについても本場フランスで多くの醸造所を巡るだけでなく、2021年には地元群馬県に自身でシードル醸造所(吹上シードリー)を立ち上げ、理想とするシードルの製造&販売を開始するなど、この10年間でいちバーマンの枠を遥かに超えた活動をされてきたところ。
今回のリリースは、そんな藤井さんらしさが全面に感じられる、10周年を記念するにふさわしいボトルとなっています。

というのも、藤井さん=麦と林檎であるのは上述の説明からご理解いただけると思いますが。
林檎系のフレーバーがあるウイスキー銘柄としてはグレンキースが有名、しかしそのグレンキースと合わせて、近しい個性を持つとされているのがストラスミルです。
ストラスミルについてはJ&Bの構成原酒で、あとは花と動物シリーズからリリースがある程度、オフィシャルリリースがほとんどないこともあって、あまり知られていない銘柄。あえて有名なほうではない、マイナーどころを攻めてくるの、らしい感じがしますね(笑)。

IMG_3574
※2014年のスペシャルリリースにラインナップされたストラスミル25年。こちらは1970年代の原酒で構成されており、1980年代よりも骨太な印象を受けるが軸となる香味要素は変わらない。

1980年代のストラスミルらしい軽やかさ、そして自然な林檎感のあるチョイス。かつてディアジオからスペシャルリリースとして発売されたストラスミル25年に通じる要素もあり、ボトラーズによってアレンジされたボトルではない、ハウススタイルが感じられるのも本ボトルの特徴。
ラベルの女性が手にしているのは、シードル醸造所のある群馬の品種、ぐんま名月でしょうか?
りんごを皮ごと丸齧りしたような、そんな瑞々しくも華やかで、故にちょっと雑味も混じる味わいなウイスキーです。

藤井さんとは他にも何かと繋がることが多く、古くはウイ文主催のテイスティング大会で偶然隣同士だったり…それをお互い知らずに川口のビアパブで出会ったり…その後も、神田の駅でホーム飲みしたり、イベントではキングオブキングスや、共同リリースやらあれこれ。
今回も乾杯会さんを通じたリリースにあたり、本ボトルのコメント、紹介文を書かせて頂きました! 
改めまして、10周年おめでとうございます。

IMG_3475
※2019年の4周年記念の際、プレゼントしたオリジナルラベルのウイスキー。このデザイン、どこかで見たことがあるような…(笑)


ロングモーン 17年 2007-2024 伊藤若冲“老松孔雀図” 46.6% for 乾杯会

カテゴリ:
IMG_2932

LONGMORN 
Aged 17 years 
Distilled 2007 
Bottled 2024 
Cask type Bourbon Barrel #700016 
for Kanpaikai 
700ml 46.6% 

評価:★★★★★★(6-7)

香り:林檎のような白色果実やバニラの華やかさ、乾いた麦芽、微かにレモンピールを伴うオーク香。徐々に白葡萄を思わせるフルーティーさも開き、時間経過でクリーミーな質感に変化する。

味:序盤はソフトな麦芽風味から、ナッツ、そしてリンゴや白桃を思わせるフルーティーさ、華やかなオークフレーバーが広がり充実していく。
余韻は白桃を思わせるフルーティーさと軽やかな刺激が、じんわりと染み込むウッディネスを伴い長く続く。

モルティーかつフルーティーな香味が溶け込む充実した一本。46%台まで度数が落ちていることもあって主張は強くないが、それ故に香味のカドが取れ、各要素が馴染み、優しく包み込むような味わいは熟成の妙を感じさせてくれる。王道的なロングモーン。


乾杯会リリースの伊藤若冲ラベルシリーズ。乾杯会の代表である鄭さんが伊藤若冲好きということもあって、これまでもキルダルトンやアイリッシュとクオリティの高い原酒が詰められているところ。今回も熟成ロングモーン原酒がなかなか手に入らない中で、良い原酒を詰められてます。

ラベルに採用された伊藤若冲作「老松孔雀図」は、花王たる牡丹の間、岩の上に立つ白い孔雀と、松の老木が描かれた、落ち着いた華やかさ、格式の高さを感じさせる作品。
今回のロングモーンは、白色果実を中心としたフルーツと麦芽の白い部分を思わせる優しい甘さ、近年のロングモーン蒸留所の王道たる風味が牡丹と孔雀であり、古木のような落ち着きのあるオークフレーバー、ウッディネスが松の老木、まさに老松孔雀図を想起させる構成となっています。

近いリリースのイメージは、信濃屋さんが以前リリースしたOMCロングモーン15年 2000-2016 55.9%(以下写真)。乾杯会のロングモーンを飲んだ瞬間、このリリースが思い浮かんだんですよね。麦感がしっかりあって、それでいてナッティでフルーティー、樽感も華やか。今作はそれより落ち着きがある感じですが、いずれにしろ近年ロングモーンの中でも高い完成度であることは間違いありません。

IMG_3032

IMG_3033
※先日乾杯会からリリースされた、ロングモーン1996-2014 ホグスヘッド 58.8% 金目猫ラベル。美味な一本だが、王道的なロングモーンとは異なる、華やかでフルーティーでグランシャンパーニュコニャックのような香味が特徴。


なお、乾杯会の鄭さんとは愛好家グループとして、あるいは酒販として乾杯会が立ち上げ前からの付き合いであり、何かとお手伝いをさせてもらっています。
今回のロングモーンも公式コメント等を書かせて貰いました。鄭さんは愛好家視点で自分の好みである原酒を引っ張ってくるので、コメント書くにしてもフォーカスするところがわかりやすいんですよね。あるいは「くりりんさん、これはちょっと違う個性かもしれない…、そこはわかるように描いて欲しい。」なんて言われる時も。

っていうか後発のボトラーズ(インポーター)でありながら、よくもここまで色々な原酒を引っ張ってこれるものだと、ただただ感心します。今、原酒を輸入してきてリリースするタイプのボトラーズは複数社国内にありますが、どこも原酒枯渇の影響を受けているのに…。聞けばアジア圏のグループ(The Lucky Choice)で原酒調達に動いている模様。いやはや本当にすごい。
リリースは4月29日、乾杯会のECサイトにて。またすでにいくつかのBARでもテイスティング出来るので、合わせてぜひ。

NAGAHAMA シェリーカスクブレンド for 乾杯会 56% Dream of Craft Distillery

カテゴリ:
IMG_3301

DREAM OF CRAFT DISTILLERY 
NAGAHAMA 
Sherry cask blend 
Blended Malt Japanese whisky & Scotch whisky 
For KANPAIKAI 
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6)

香り:ドライプルーンやデーツなどのダークフルーツ、黒蜜やチョコレートを思わせる色濃い甘さ。合わせてハーブ、微かに焼き栗のような焦げたウッディさ、スパイシーな要素もあり、香りの複雑さに繋がっている。1:1程度に加水すると、華やかなフルーティーさが強く開く。

味:香り同様にリッチで色濃く甘酸っぱい味わいだが、そこにオレンジやパイナップルなどのシロップを思わせるケミカルで華やかなフレーバーが混ざる。余韻にかけては焼き芋のような樽香の香ばしさ、ほろ苦いウッディネスが全体を引き締めて長く続く。

長濱蒸溜所の原酒を含む、シェリー樽熟成のモルトウイスキーをレシピ全体で70%以上使用。
色合い同様にこってこてのシェリーカスクだが、一部使われているハイランドモルト由来のフルーティーさ、異なる樽感が全体の複雑さに繋がり、単調になりがちな若年圧殺シェリー系ウイスキーとは異なる仕上がりが特徴。
静謐な夜の琵琶湖と、湖面に浮かぶ満月のような陰のイメージを持つウイスキー。

IMG_3092

昨日レビューを投稿したワインカスクブレンドに引き続き、乾杯会向けリリースのブレンデッドモルトウイスキー2種のうちの1つ。こちらも当方がブレンダーを務めさせて頂きました。
見るからに濃厚そうな色合い、愛好家ホイホイとも言える外観。これは売れるでしょってなるボトルですが、実は想定外なことがあり、結果として良い方向に転がった、ある種“持っている”リリースでした。

リリースの主体となる乾杯会は、ウイスキー愛好家である鄭氏が立ち上げた、会員制組織にして酒販企業。ワインカスクブレンドの記事や、当該ボトルの販売ページでも紹介されているため、設立経緯等詳細な説明は割愛しますが、鄭氏自身は非常に熱心なウイスキー愛好家であり、自分の手で特別なリリースを愛好家に届けるという想いのもと活動しています。
その鄭氏から相談を受け、調整させて貰ったのが長濱蒸溜所の原酒をベースにブレンドしたブレンデッドモルト2種。昨日はワインカスクブレンドの構成エピソードに焦点を当てましたので、今回の記事では当然、このシェリーカスクブレンドにスポットライトを当てていきます。

IMG_3296

まず、基本的な仕様はワインカスクブレンドと同じで、「和の雰囲気があるラベル、フルーティーで濃厚なブレンデッドモルト(無加水)」です。
ラベルは和のイメージを出すべく、日本画家の外山諒氏に依頼し、日本画で作成。ワインカスクブレンドが朝(陽)に対して、シェリーカスクブレンドは夜(陰)としました。
構成原酒については、長濱蒸溜所を代表する、国際的な酒類コンペで高く評価されているシェリー樽原酒を使用出来るよう、長濱蒸溜所の伊藤社長と屋久ブレンダーにリクエスト。。。

そして、ブレンドが難しかったワインカスクブレンドに対して、シェリーカスクブレンドは完成系として目指す明確なイメージがあったこともあり、特に悩むことなくレシピは決まりました。
その完成系とは何か。ブレンドコンセプトは「静謐な夜の琵琶湖と、湖面に浮かぶ満月のような陰のイメージを持つウイスキー」となっていますが、具体的な“味”のイメージとして目指す理想は、例えばグレンファークラス1987ブラックジョージ等のフルーティーさのある濃厚シェリー系ウイスキーです。

シェリー樽熟成のシングルカスクリリースには、スパニッシュオーク樽の熟成であっても、ダークフルーツの色濃い甘さとウッディな味わいの中に、アメリカンオークを思わせる黄色系のフルーティーさが混じるものがあります。個人的にはそれが当たりであり、好きなシェリー系の一つ。
なぜそんな仕上がりとなるかはさておき、今回は該当する特徴を、シェリーオクタブ熟成長濱モルトの濃厚なシェリー感、シェリー樽熟成スコッチモルトや輸入ハイランドモルトのフルーティーさ、それぞれ複数のモルトをブレンドすることで再現しようとしたわけです。

結果は、レプリカ…くらいには出来たのではないでしょうか。
そもそも熟成年数から全く異なるため、あれだけの完成度は出せませんが、シェリー樽由来の濃厚な味わいの中に潜むフルーティーさ、さながら夜の湖面に浮かぶ月、雲間から差し込む月光のようなイメージに共感してもらえたら嬉しいです。

IMG_8501
IMG_8487

なお、冒頭述べたように、ちょっとした想定外な出来事や嬉しい誤算もありました。まず一つは色合い、そしてシェリー樽由来のフレーバーの濃さです。
実は今回ピックアップいただいた原酒のサンプルは、レシピを検討した6月時点ではワインだけでなくシェリー樽原酒もややドライ寄りで、色もそこまで濃くありませんでした。
それこそ、今年1月に仕込んだ発刻と祥瑞の時に使用したものからすると、半分とはいかないまでも2/3くらいの濃さ。
濃ければ良いってわけじゃ無いんですが、今回は濃厚なシェリー感をプレーン寄りのハイランドモルトで引き算して整えるつもりだったので、出来れば濃い方が良かったのです。

また、もう一つ計算外が、ピックアップ頂いたスコッチウイスキーの中に、5年熟成表記だが12年以上に感じられる熟成感と豊かな味わいのシェリー系ウイスキーがあり、経緯を聞くと12年熟成のシェリー系モルトに誤って5年が少量混じってしまったバルクなのだと。
長濱蒸溜所のシェリー樽熟成原酒との相性もバッチリで、これは間違いないとレシピを組んで完成…

と一息ついた矢先、混ざった5年はブレンデッドウイスキー(モルト&グレーン)で、今回のコンセプトであるブレンデッドモルトウイスキーには使えないことが判明。急遽別な原酒を追加でピックアップして貰いましたが、届いた原酒はシェリー感の淡いタイプ。
シェリー感とフルーティーさのバランスを考えて、シェリー系のウイスキーを70%までブレンドしましたが、レシピ作成当時の味わいは今よりずっとバランス寄りで、色合いも夜や陰陽のイメージとしてはちょっと薄い。リクエストに100%応えられたか、自信を持てない感じだったのです。

ただしこの後、“持っている”出来事、嬉しい誤算が起こります。
実はレシピを検討した時点で、構成原酒はまだ樽に入った状態。その後ブレンドされるまで約5ヶ月間、月にして6月から11月、最も樽感に影響が出る夏場を挟んだことで、原酒が色濃くリッチに熟成。
その変化は「ブレンド完了しましたよ!」と、届いた画像を見て、思わず「樽違うの使いました?」と聞いてしまった程です。

IMG_3151
FullSizeRender

一方で、色は良いが味はどうか、変に苦くなってないか、テイスティングするまで不安が残りましたが、結果として全てが良い方向に落ち着いてくれて、いやー鄭さん持ってるなぁと一安心。
ひょっとして長濱の屋久ブレンダーは、ブレンド時期までの変化を考えて、今回の原酒をピックアップされたのだろうか?
それは皆様の想像にお任せしますが、結果が伴うのがプロの仕事ということで。改めて素晴らしい原酒を選んで、提供してくださったことに感謝ですね。

なお、完成したワインカスクブレンドとシェリーカスクブレンドですが、発売時期が同じだったこともあり、ラベルの原画を描き起こしていただいた外山氏の日本画個展(2022年12月15日〜21日)に展示していただきました。
ウイスキーと日本画のコラボ。実は外山さんとは以前別なブランドでリリースを計画していたことがあったのですが、それは色々あってうまく形にならず、今回それを実現出来たのは非常に感慨深くもありました。
改めまして、この機会をいただいた乾杯会の鄭氏に、この場を借りて感謝致します。
そしてこのボトルを手にして頂いた皆様。美味しさとウイスキー愛に国境はないことを感じさせる、同氏の情熱が結実した味わいを楽しんでもらえたら幸いです。

NAGAHAMA ワインカスクブレンド for 乾杯会 58% Dream of Craft Distillery 

カテゴリ:
FullSizeRender

DREAM OF CRAFT DISTILLERY 
NAGAHAMA 
Wine cask blend 
Blended Malt Japanese whisky & Scotch whisky 
For KANPAIKAI 
700ml 58%

評価:★★★★★★(6)

香り:白ワインやシャンパンを思わせる爽やかな酸と、ブリオッシュ香にも似たアロマ。乾いた麦芽、ドライアップルやグレープフルーツ。奥からケミカルなニュアンスを伴う華やかでフルーティーな香り立ち。時間経過で麦芽由来の甘さが一層感じられる。

味:柑橘を思わせる酸と麦芽の柔らかい甘み。濃縮感のあるフレーバーで、ほのかに乾草や土っぽさのあるピートフレーバーがアクセント。度数を感じさせない口当たりから、飲みこんだ後でトロピカルなフルーティーさが盛り上がるように広がり、麦芽風味と共に口内に染み込んで長く続く。

長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒と白ワイン樽原酒をレシピ全体で過半数以上使用しており、ワイン樽由来の個性と長濱の麦芽風味、らしさを感じることが出来る仕上がり。ブレンドした複数種類のハイランドモルト由来の、系統の異なる麦芽風味と干し草のニュアンスが牧歌的な雰囲気を感じさせ、余韻にかけては近年流行りのフルーティーさが広がる。ブレンドコンセプトは朝靄を纏う伊吹山に、柔らかく差し込む朝日のような、陽のイメージを持つウイスキー。それぞれのフレーバーが、コンセプトの各要素に紐づくようにブレンドされている(自画自賛)。

IMG_3096

先日、ウイスキーが縁で相談をいただき、プライベートボトル2種のブレンダーを務めさせていただきました。
蒸溜所は滋賀県は長濱蒸溜所。ジャンルは国産原酒とスコッチモルトウイスキーを用いたブレンデッドモルトウイスキー。勝手知ったる…というのは失礼かもしれませんが、グレンマッスルやお酒の美術館の発刻、祥瑞など、これまで度々同様のリリースに関わらせて貰っている蒸留所です。

既にウイスキーは発売され、販売分は完売しております。有難い限りです。
勿論、これまで同様に当方が本売り上げやブレンダー料等を受け取ることはありませんが、自分が関わらせて貰ったウイスキーが完売するというのは、どこか安心してしまうものです。
今後はBAR等飲食店で、あるいは手元にあるボトルを飲んでいただく段階にあるわけですが、ブレンダーとして本レシピに込めたイメージや、今回のレシピ作成の際の苦労話など、商品情報を深掘りする形で当ブログに掲載させていただきます。

クノアュサ・3

まず本リリースの主体である乾杯会について。
本ボトルの国内向け販売を頂いた、長濱浪漫ビールや信濃屋で紹介されている通り、乾杯会は愛好家、鄭冲氏が立ち上げた、会員制組織かつ酒販企業となります。

発起人である鄭氏は10年以上日本に住まれている中国出身の非常に熱心なウイスキー愛好家で、日本において北から南までBAR巡り、イベント参加、蒸留所訪問をし、新旧問わず様々なウイスキーを飲んで勉強されています。
一方で、世界的にウイスキー需要が高まる中で、愛好家間では通常リリースと異なる特別なウイスキーを飲みたいという要望が増えつつあります。自分たちの手でそうしたウイスキーを届けたいと考え、会員制組織を立ち上げての今回のリリースを企画や、各クラフトウイスキー蒸溜所での樽購入、さらに六本木でウイスキーBARの共同オーナーとなってウイスキーを提供する場所も整えるなど、一般的なウイスキー愛好家としての枠組みを超えた活動も行っています。

routaru
※鄭氏が共同オーナーとなっている、六本木のBAR莨樽(ろうたる)。2022年8月オープン。新旧問わず様々なボトルが揃っている。

そんな中で鄭氏から相談を受けて調整させていただいたのが、今回のリリースとなります。
頂いた条件は以下の3点。
・ラベルは日本を象徴するような和的なイメージ。
・蒸溜所を代表する原酒を使いたい。一つはシェリー系を希望。
・グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わいで2種類。

ラベルについては筆字で漢字2文字ドーンみたいな、某S社さんを想起させるデザインは使いたくなかったため、日本文化の一つ、日本画をラベルに取り入れることを提案。
以前から交流させて頂いている、若手日本画家の外山諒さんを紹介し、ラベルを担当頂くこととなりました。

続いて原酒については、長濱蒸溜所を代表する原酒といったら、WWAや IWSCなどの国際酒類コンペで高い評価を受けているワイン樽熟成原酒とシェリー樽熟成原酒しかないだろうと、伊藤社長、及び同蒸溜所ブレンダーの屋久さんにイメージを伝え、原酒をピックアップしていただきました。
ラベルOK、原酒OK、スケジュールも決まってここまではトントン拍子で進み(長濱蒸溜所は本当に仕事が早いw)、さあ後は私の仕事だと、いざブレンドとなってサンプルを手に取って…ここから先が困難でした。

IMG_8501

ご存じの方も多いと思いますが、昨今、世界的なウイスキー需要増から輸入原酒の価格は上昇傾向にあるだけでなく、手に入る原酒も長期熟成のモノが手に入らなくなってきています。
グレーンなら比較的なんとかなりますが、それでも以前の2倍、モノによっては3倍近い価格まで高騰しています。

その結果、以前PBをブレンドした時は使えた長期熟成の輸入ハイランドモルトがサンプルに入っておらず、今までは無かった蒸留所構成から全く異なるハイランドモルトがピックアップされているなど、長濱でのブレンドならこの方向で安パイ…という想定は早くも崩壊。新しい挑戦となってしまいました。
また、今回特集しているワインカスクブレンドでは、長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒が思ったよりも色が出ていないドライなタイプであったことも想定外でした。

色合いに関しては、じゃあシェリー系が黒、ワイン系が白、黒と白の太極図、夜と朝の陰陽でまとめようと、すぐにアイディアが浮かんだのですが、問題は味です。
なにせ、今回の条件は「グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わい」。
自分はよくブレンドを”蕎麦”に例えて説明していますが、繋ぎとなる要素があったほうがまとまりやすくバランスよく仕上がることは明白です。その繋ぎとなる要素には、グレーン以外に、シェリー感やワイン感等の色濃い甘さ、ウッディなエキス、加水も該当し、若い原酒が多いブレンドであればあるほどその重要性は増します。
また、ピーテッド原酒を使ってごまかすことが出来ないことも、ハードルを高くしました。大げさに言うわけではありませんが、針の穴を通すようなコントロール、繊細なバランスでこれらの原酒をまとめ切らなければなりませんでした。

FullSizeRender

そこで、今回は麦芽風味を軸にバランスをとることとしました。
長濱のワイン樽原酒が持つ柔らかい甘さの麦芽風味。
ミドルエイジのハイランドモルトの1つが持つ、牧歌的な雰囲気を持つ麦芽風味。
もう一つ、比較的若いハイランドモルトが持つ、フルーティーで乾いた香味を感じさせる麦芽風味。
これらの麦芽風味を大黒柱として、ワイン樽原酒は白ワイン樽を加えてもらい、色、甘さではなくフルーティーさを後押しする方向で。またピート要素、シェリー樽要素も微かに加え、全体の複雑さを増す。

試作品の最初のイメージでは、田舎街の朝、周囲に漂う草木や田んぼの香り、朝靄の漂う適度な湿度と清々しさ、そこに差し込む朝日のキラキラとした光。これらが長濱蒸溜所周辺の景色と共に、ウイスキーから感じられる各要素と紐づいて感じられました。
このイメージを、シェリーカスクブレンドのものと合わせて外山さんに伝えて原画を描いて頂いたのが、箱とラベルに印刷された作品となります。ここは流石プロですね。どちらもイメージやウイスキーの雰囲気にピッタリ合っており、プロの仕事の凄さを感じられるコラボとなったのです。

IMG_8571
※長濱蒸溜所 伊藤社長を挟んで、左:乾杯会 鄭氏。右:莨樽共同オーナー 郭氏。

依頼主にして発起人である鄭氏もワインカスクブレンドのほうが好みであると話されており、頂いたリクエストと期待を裏切らずに済んだと、国内販売完売と合わせて胸をなでおろしました。
以上のように、期せずして新しい挑戦もあった今回のブレンダー協力ですが、計画通りのところもあり、偶然もありで、しかしながらどちらのリリースもコンセプトが明確でラベルとの関連性もあり、手前味噌ですが、良いリリースになったのではないかと感じています。

さて、ここから先は、飲んだ人達の感想を聞きながら、自分の作品を愛でることが出来る、ブレンダーとしての特権、楽しみとなる時間です。ここまでひっくるめて一つの趣味、なんて贅沢で恵まれた時間でしょうか。
改めまして、お声がけ頂いた鄭さん、今回のリリースに協力頂いた関係者各位、そしてこのウイスキーを手に取って下さった方々に感謝申し上げて、記事の結びとします。
ありがとうございました。

このページのトップヘ

見出し画像
×