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映画「駒田蒸留所へようこそ」試写会感想&タイアップ企画紹介 11/10ロードショー

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2023年11月10日(金)から全国ロードショーとなる、世界初のアニメーション・ウイスキー映画「駒田蒸留所へようこそ」。
先日、その先行試写会に参加させて頂き、一足早く映画を楽しませて頂きました。

公式URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
予告編動画:https://youtu.be/KSAJIox--2g?si=4q0CtJ0YDMhtz7yq

映画公開前から本編ネタバレになるような記事はよろしくないと思うので、ネタバレにならない程度のざっくりとした感想でまとめると。。。内容はしっかりウイスキーの映画です。それでいて、普段ハイボールくらいしか飲まない「ウイスキーって?」という人や声優目的で見る方々から、推しの銘柄や蒸留所があるガチ勢まで、広く楽しめるストーリー構成になっていると思います。

勿論ツッコミどころがないわけではないですが、それをいちいち言うのは野暮ってもの。表面的には、蒸留所とウイスキーを復活させようという家族の物語ですが、見る人が見れば数分に1度のペースでニヤリとさせられる描写、情報、登場人物がストーリーに絡んでいる。
特に、本映画とタイアップが発表されている、三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷が好きという方は必見の映画ではないかと思います。(有楽町の某BARに行ったことがある方も、最後まで見ておくと良いかも・・・。)

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(予告編に一瞬写った劇中のワンカット。モデルとなった蒸留所に行ったことがある方なら、どこの蒸留所で、誰が描かれているかもわかってニヤリとしてしまう。)

言い換えると、関連知識があればあるだけ楽しめる映画なんです。
そこで本ブログでは公開前に知っておくと一層楽しめる予備知識、そしてタイアップ企画やオリジナルウイスキーについて公開情報をベースに、ネタバレにならない範囲でまとめていきます。

■映画の舞台と予備知識について

「崖っぷちの蒸留所の再起に奮闘する若き女社長と、夢もやる気もない新米編集者が家族の絆をつなぐ”幻のウイスキー”の復活を目指す。」
本映画に関する舞台設定ですが、SNS等では若鶴酒造の三郎丸蒸留所が舞台で、2016年の三郎丸蒸留所再建がストーリーベースになっているのではないか。という予想が散見されました。

確かに若鶴酒造・三郎丸蒸留所の敷地、社屋が駒田蒸留所のデザインになっているのは間違いありません。このアニメーション制作を手掛けたP.A.WORKSは富山県にあり、監督の吉田正行氏も取材されていることもあって、予告編を通しても三郎丸蒸留所をモデルとしたシーンが多数出てきます。
以下画像はその一部。映画を見る前、あるいは見た後でも、三郎丸蒸留所の見学に行くと、脳内でシナプス結合が多数発生することは間違いありません。

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さらに本映画のウイスキー監修は、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーが関わっており、若手社長が蒸留所の再起を目指すというストーリーも、稲垣マネージャーの取り組みとリンクするところです。

しかしここであえてネタバレに踏み込むと、劇中で語られるエピソードは、日本の様々な蒸留所にあった出来事と思しきもので、時間軸もそれぞれ異なる並行世界のような構成。決して三郎丸蒸留所の再建劇ではありませんでした。
例えば、経営困難となった駒田蒸留所において、原酒の破棄を迫られるシーンが出てきますが…これはもはや補足説明不要なエピソードですね。

また駒田蒸留所を操業しているのは、仮想の酒類メーカー御代田酒造。つまり長野県軽井沢の「御代田」が舞台として設定されています。若鶴酒造があるのは富山県です。軽井沢であることがそんなに重要か?と思うかもしれませんが、実はその意識があるだけで違います。なにより、軽井沢でウイスキーと言ったら…ここは予備知識として覚えておくと、ストーリー設定がすっきり飲みこみやすいと思います。

果たして幻のウイスキーは復活するのか、そして駒田蒸留所の未来は如何に…。

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(駒田蒸留所外観、御代田酒造の表記。劇中では「長野県」を連想させる場所が度々登場する。)

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(劇中で幻のウイスキーと言われた、”ウイスキーKOMA”。軽井沢で失われたウイスキーと言えばモデルは…。ただし、製法に関しての関連性はなく、あくまで位置づけとして。製法の伏線、ヒントはラベル。是非映画を見て頂きたい。)

■タイアップ企画について
本映画のストーリー進行は、御代田酒造・駒田蒸留所の社長である「駒田琉生(こまだるい)」と、News Value Japan(NVJ)社の新人記者である「高橋光太郎(たかはしこうたろう)」が、クラフトジャパニーズウイスキーを特集するための取材という目的で、国内の蒸留所を訪問するシーン。そして幻のウイスキーKOMAを復活させることを目指すシーン、主人公二人のそれぞれの”仕事”を舞台に構成されています。

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このウイスキー特集企画。劇中だけでなくリアル世界でのタイアップ企画が既に公開されており、現在オープンになっているのが以下の2つ。
・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
・映画本編に登場した5蒸留所(三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷)のオリジナルウイスキーリリース

聞くところによれば、今後更なる企画も予定されているとのことですが、本記事ではまずこれらの企画について紹介していきます。

・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
映画を配信するGAGA社の公式サイトでは、9月末に映画本編を模したサイトがオープンし、蒸留所に関する情報発信が始まっています。
これは劇中では主人公:光太郎が書いている記事とリンクするような構成で…、最も内容は現時点では映画公開前なので非常にライト、編集長に「もっとウイスキーファンが読んで面白い原稿にしないとだめ。」と言われちゃいそう(笑)

ですがここで劇中に見られたような「〜〜の基準」とか、マニアックな話は逆に浮いちゃう気もするので。例えば劇中に出てきたシーンと実際の蒸留所の比較や、登場された方とのコメントとかまとめてくれるだけでも、聖地巡礼のきっかけになりそうで面白そうだと思うんですよね。
これから記事が増えていくと考えたら、楽しみなサイトです。

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URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/special/

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(本記事に引用したアニメシーン画像とリンクする2箇所。秩父蒸溜所と長濱蒸溜所の例。ウイスキー特集と合わせてこうした情報発信があれば。)

・映画本編とタイアップした5蒸留所のオリジナルウイスキーリリース
8月に横浜で開催されたウイスキーフェスティバル等を皮切りに、本映画とクラフトウイスキー蒸留所のタイアップ企画として、オリジナルウイスキーのリリースが発表されています。

この企画は2段階に分かれており、
・第一弾:ムビチケ前売り券を購入された方が応募できるもの(11月9日まで)
・第二弾:映画館を見て頂いた方が応募できる企画(11月10日~12月7日まで)※
※前売り券を購入された方は、第一弾、第二弾どちらも応募可能。
リリースの調整は信濃屋が担当。当選したら購入できる、抽選販売となります。

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【第一弾】
三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。
以上5点が発表され、第二弾はこの中から購入希望の蒸留所を選ぶ形式となります。

日本国内のウイスキーシーンは、2014年のドラマ:マッサンで注目度が高まり、世界的な需要増の後押しもあって大きなブームに繋がりました。そして今回の舞台はそのマッサン以降、大きく芽吹いたクラフトウイスキー。その旗振り役たる秩父蒸留所をはじめ、再稼働した蒸溜所、新興蒸溜所、新しい世代のウイスキーを楽しみにしたいです。

なおこれらのリリースについて、現物をテイスティングすることは出来ていませんが、選定を担当した信濃屋スピリッツバイヤーの秋本さんに電話一本、そのイメージ等を伺っています。折角なので、各蒸留所の紹介と合わせて後編記事として後日別途まとめたいと思います。

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■映画の公開に向けて
「ウイスキー」を主題とした映画は、アニメとしては世界初なのは言うまでもないですが、もう一歩踏み込んで「ウイスキー作り」を主題とした映画として見た場合、本作は実写映画“天使の分け前”に次いだ作品…となります。あるいはウイスキー作りの比率で言えば、ヒューマンドラマ色の強い“天使の分け前”に対し、あくまでウイスキー作りが軸にある本作が、世界初のクラフトウイスキー映画と言えるかもしれません。

それは本映画がP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」に位置付けられ、働くことをテーマに登場人物の奮闘を描く物語であることから。
ただそのウイスキー作りは、本編では精麦、発酵、糖化、蒸留という行程はあまり触れられず、熟成、ブレンドをメインに展開していきます。
この辺はちょっと残念ではありますが、ウイスキーが熟成(リリースまでに)に3年以上、あるいは5年、10年という年月が必要であるため、経営難の蒸留所の幻のウイスキー復活に、蒸留から何年も待ち続けるストーリー展開は設定上も厳しかったのでしょう。

ではKOMA復活に向けて原酒はどうしたのか、どんな出来事があったのか、それはぜひ本編を見て頂きたいと思います。
個人的には、ウイスキーライターの端くれとして、臨時とは言えブレンダーを務める身として、若い両主人公の働く姿に、むず痒くもエネルギーを貰うような感覚のある映画だと感じました。
世界中から注目を集めるジャパニーズウイスキー、これまでは過去の蓄積が評価につながってきましたが、今後は原酒も造り手も新しい世代が試される時代です。

「いいんじゃないの?必死にやった結果、俺はこの道に出会えたんだから」
本映画が直接的にも間接的にも、ジャパニーズウイスキーの造り手の背中を押してくれる一助となることを期待しています。

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追記:映画主題歌の「Dear my future」が良曲で、エンディングの余韻をしっかり膨らませてくれました。早見さん歌めちゃ上手いですね。

三郎丸蒸留所 The Ultimate Peat Glass オリジナルハンドメイドグラス

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さる6月23日、三郎丸蒸留所からハンドメイドのオリジナルグラス「The Ultimate Peat Glass」が発売されました。
オンライン販売分は即日完売しましたが、今後も増産、継続販売が予定されていること。
何より私自身が本グラスの設計・企画に関わらせてもらっていることもあり、開発の流れやグラスの特性、使い心地など、私個人の視点での情報も含めて当ブログで紹介させて頂きます。

商品名:The Ultimate Peat Glass
価格:15,000円(消費税込16,500円)
製作:木本硝子株式会社
付属品:グラスケース、グラスクロス
公式サイト:ニュースリリース
関連情報:木本氏、稲垣氏のクロストーク

※グラスの特徴
・ピート香を開きつつ、適度に樽や酒質由来の香りを馴染ませる。蒸留所の個性を感じやすい。
・リムの返しとエッジの処理から、口当たりはスムーズで柔らかく、ウイスキーを味わいやすい。
・全体的に滑らかで一体感のある、まさにハンドメイドというデザイン。

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The Ultimate Peat Glassは、三郎丸蒸留所のコンセプト(ピートを極める)をより確かに感じてもらうことをテーマに開発された、ウイスキー用のテイスティンググラスです。
グラスが変わると香味も変わるウイスキーにおいて、蒸留所マネージャーからの提案であり、お墨付き。
言い換えるとピーティーなウイスキーを最高に楽しめるグラスという位置付けで、個人的には三郎丸に限らずスモーキーさと樽由来のフレーバーが一定以上にあるウイスキーに対して、相性が良いグラスに仕上がっていると感じています。

◾️The Ultimate Peat Glass製作の流れ
同蒸留所マネージャーの稲垣さんは、ベルギービールのように、飲み方の提案としてウイスキーも蒸留所毎にオリジナルグラスがあると良いのではないかという考えがあり。
一方で、私自身はかねてから、ウイスキーを楽しむ上では、ワインのようにその種類、銘柄毎に適したグラスが必要ではないかと考えていたところ。
昨年から稲垣さん、モルトヤマの下野さん、そして私で硝子会社を複数訪問してそれぞれ話を伺い。その中で稲垣さんの紹介から木本社長の熱意に触れ、パートナーとしてグラス作りを行なって頂くことになります。

※関連する話は上述のクロストークでも語られていますので参照してみてください。

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とは言え、オリジナルグラス作りは、そう簡単に進む話ではありません。
数ミリ単位の形状の違いであっても、香味に大きな影響を与えるということ。
また、グラスは手吹きのハンドメイド、機械作りのマシンメイドがありますが、どちらもグラスの形状を決めるための金型が必要で、まずはデザインの方向性を定め、その金型を設計しなければ試作も出来ないということ。
そう、職人がゼロからぷーっと膨らませてイメージに合う形を試作してくれるわけではないのです。

この金型、決して安くなく、何パターンも作るとそれだけ販売価格に影響します。
最初の段階で可能な限り確度の高いデザイン案を作る必要があるわけですが、ご存知のようにグラスの形状は様々です。
そのため、まずは既製品のグラスを使ってウイスキーとの相性を確認すべく。木本硝子さんに我が家からウイスキーグラスやワイングラス、持ってるグラスを大量に持ち込み、コンセプトに近いデザインを絞り込みました。

この時の様子は、上述のクロストークでも語られています。木本社長としても、ここまでやる顧客は初めてだったようです(笑)。※上の写真は、ある程度絞り込んだ後のものになります。
某有名メーカーの大ぶりなグラスだけでなく、よく知られている形状のテイスティンググラスも、目指す香味の方向性ではないと稲垣さんの一刀両断でバシバシ除外。開かせすぎたり、全く開いていなかったり…、木本さんだけでなくT&Tの二人も「え、そんなに持ってきたの?」と驚いていましたが、むしろ持ってきていて良かったと、この時ばかりは安堵しました。

そうこうして行く中で、残ったグラスの形状とサイズから、徐々に目指す方向性が見えてきます。
完全にストレート形状ではなく、多少の膨らみがあり、リムは味わい易さのために少し返しをつける…。
このイメージを形にしていくのがグラスメーカー、木本社長の仕事です。
なお、金型が決まったらあとはデザインを調整できないかというとそんなことはなく。そこから少し金型を削るなど、微調整を加えて行くことは可能です。
試作品が完成後は、稲垣さんが直接木本社長とやりとりされ、当初の予定では4月のはずが2ヶ月遅れの6月下旬、ついに発売となりました。

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※開発当初予定になかった、付属の専用グラスクロス。美味しいお酒は美しいグラスで飲んで欲しい、造り手への敬意として急遽追加した。

形状検討の際にもう一つ考える必要があったのが、“ウイスキーを楽しむ”ことにおける、美味しさとテイスティング性能のバランスです。
例えばウイスキーを深掘りする、テイスティング目的なら、良いも悪いも含めて可能な限り香味要素をはっきり拾える形状のグラスが望ましいと言えます。ですが、それが美味しいか、楽しいかというと、悪い部分も強く拾うグラスが一般に好まれるとは言えません。

今回のThe Ultimate Peat Glassは、テイスティング性能は担保しつつも、広げる香味は良いもの、美味しさ寄りであるべきというのが稲垣さんの考えで、そのための工夫が設計に反映されていきます。
一方、ここでテイスティング性能寄りのグラスも作れないかと、下野さんがここまでの情報から新しい提案をするに至るのですが…。
詳細は、正式な発表があったら、改めて本ブログでも公開していこうと思います。

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※グラスの奥深い世界に、今までの価値観が崩壊して、思わず目を覆う下野さん。

◾️ The Ultimate Peat Glassの性能検証
そうして完成したThe Ultimate Peat Glassですが、性能、使い勝手について、本記事では一般にテイスティンググラスとして使われていることが多いグレンケアンと、国際企画ワインテイスティンググラス、この2脚と比較しながら解説していきます。

まず重量ですが、
・グレンケアン テイスティンググラス (約130g)
・国際規格ワインテイスティンググラス (約120g)
・三郎丸 The Ultimate Peat Glass (約90g)

持った感じは、重心が真ん中寄り上部にあるので90gという数字よりも少し重く感じるかもしれませんが、逆にスワリングはしやすいですね。
強度は…食洗機や強い衝撃、あとは捻り洗い等をしなければ、つまり通常のハンドメイドテイスティンググラスと同等程度、特に繊細すぎる設計にはなっていません。

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比較テイスティングに使用するウイスキーは、コンセプトに合わせ、三郎丸Ⅱ シングルモルト 加水とカスクストレングスの2種。それぞれ30ml注いでの比較となります。
三郎丸モルトの強いピートフレーバーと、Zemonによって生み出される厚みと甘みのある酒質、熟成環境に由来する3年としては強めの樽感をどう広げるか。

【香り立ち】
いずれも同系統のアロマを拾えるが、グレンケアンは香りがボヤけたような、水っぽさが混じる。国際規格は逆にシャープでテイスティングはしやすい一方、ピートの強さだけでなくネガティブな要素を拾いやすく、特にカスクストレングス版ではその特性が際立つ。
一方でThe Ultimate Peat Glassは、適度にシャープなピート香に、樽由来の甘さが混じり、水っぽさもなくバランスよく感じられる。カスクストレングス版でも同様で、香りを広げつつもアルコールの刺激は強すぎない程度に抑えられている。

【味わい】
グレンケアン、国際規格はリム形状が特に変わらないこともあり、大きな違いは感じられないが、強いて言えばグレンケアンの方が口当たりは丸みがある。
一方で、The Ultimate Peat Glassはリムの返しとハンドメイドグラス特有のエッジ加工の丁寧さで、ウイスキーがスムーズに口内に導かれるだけでなく、口当たりも柔らかく感じられる。

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どの系統が良いかというのは好みの問題もあり、以下はあくまで主観的な考察ですが。
最も三郎丸モルトの良い部分を拾いやすかったのは、やはりThe Ultimate Peat Glassでした。昨年受け取った試作品の方向性の通りに仕上がっており、コンセプト通りのグラスだと思います。
ただ、最初にウイスキーの各要素をしっかり開かせるため、三郎丸以外の若いウイスキー、雑味要素が強い原酒だと、注いでから開いた要素が馴染むまで少し時間がかかるかもしれません。
その意味では、酒質が、造り手が試されるグラスという面も…。

それでは、それぞれのグラスで違いがでた考察として、まずは香りの違いにフォーカス。要因としてリムの口径、返し、ボウルの広がり具合が考えられます。
まずリムの口径はそれぞれ約43mm、46mm、46mm。実は国際規格とThe Ultimate Peat Glassは口径がほぼ同じなのですが、前者はボウル部分から緩やかに広がってすぼまるように広い空間が作られるのに対して、後者はボウルの広がりが大きく、その空間がリムの返しに向けて国際規格以上にすぼまっています。

国際規格のような形状のグラスは、各要素が良いも悪いもダイレクトに伝わってくる傾向があり、テイスティング向きの形状と言えます。テイスティングに限れば、安くて丈夫で使い勝手の良い、オールラウンダーなテイスティンググラスなんですよね。あともう1回り小さい製品があると、嬉しいんですが…。
一方でThe Ultimate Peat Glassは丸みを帯びた縦長なフォルムですが、口当たりで効果を発揮する“返し”がある分、グラスの中に適度な広さの空間が作られ、樽と酒質の香りの要素が滞留して馴染むこと。またすぼまったところから広がるように鼻腔へ導かれるため、開いた香りがダイレクトではなく、適度に逃がされることでバランス良く感じられるのだと考察します。

なおグレンケアンは、リムの口径は一番狭いのですが、液面から上の空間があまり広がらず、滞留もせず、そのままリム部分へと繋がるため、香りが広がりきらないのではないかと。。。
では容量を20mや15mlにしたらどうか。ハイプルーフのもの、特に長期熟成で奥行きのあるウイスキーはバランスが取れるような気もしますが、比較すると少しぼやけた香りになりがちです。
テイスティングと美味しさ、引き出す要素を中間くらいで見ると、こんな感じなのかもしれません。
まさに入門向けというグラスの一つであり、改めて、ある程度飲み慣れた人はグレンケアンから拘りの1脚にステップアップしても良いのでは、とも思える結果となりました。

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◾️余談&結びに
今回のグラス製作の話が出た時「僕の考えた最強のグラス」の要素が、
・リーデル ソムリエ ブルゴーニュ グランクリュのような薄さと返しのあるリム。
・既に蒸留所で販売されている、三郎丸テイスティンググラスから、大きくかけ離れないデザイン。
・サイズ感は国際規格と同等または一回り小さくした程度。
・木村硝子テイスティンググラスのような、リムから台座まで滑らかなフォルム。
でした。

私の趣味でデザインを決定したわけではありませんが、出来上がったグラスをみてみると、まさに上記の「さいきょうぐらす」の系譜とも言えるデザインとなっており、その意味でも完成品には特別な思い入れがあります。
何より、グラス製作という、通常いち愛好家では関われないことまで関われる機会を頂けたことに感謝しかありません。
お酒におけるグラスの重要性はわかっているつもりでしたが、グラス製作の経験で、さらに知見を深めることが出来たと思います。

最近自分の周囲でオリジナルハンドメイドグラスのリリースが複数あり、造り手のコンセプトを反映した、個性的な形状のグラスが揃ってきました。
ウイスキーのグラスは、比較のために同じグラスを常に使うことは理に適っていますが、1本のウイスキーを理解しようとしたならば、複数のグラスで多角的に個性を見て行くこと。あるいはその個性を最大に活かすグラスを探索することも、ウイスキーの楽しさだと思います。

例えば、ストレートの入門グラスとして知られる「咲グラス」で飲んだ後、The Ultimate Peat Glassで同じウイスキーをテイスティングすると、その違いに驚くと共に、これまで見えなかった個性や、異なる視点でのイメージを掴めるかと思います。
これも嗜好品の“沼”とされる世界の一つ…。
掘り始めたらキリがないですが。せっかくこうした機会と共にグラスも手元にあるので、今後は比較含めてグラスレビューもやっていこうと思います。
あぁ、ウイスキーって楽しい!

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三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール 缶ハイボール 9% 2022年リリース

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2022年12月1日、三郎丸蒸留所から「富山スモーキーハイボール」として販売されていた缶ハイボールが全面リニューアル。
名称を「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」として変更し、構成原酒も三郎丸の稲垣氏が開発したポットスチルZEMONで蒸留したモルト原酒をブレンドするなど、外観も内容も大幅に刷新してのリリースとなります。

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール
355ml 9%
1缶 270円(税抜)
プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3543
PR動画:https://youtu.be/T7BMBoXDKjo

あれこれ書く前に飲んだ感想だけ述べると、これは美味いです。
リニューアル前後で比べたら、飲み口は一層クリアで、そこからしっかりピーティーなフレーバーが広がり、香ばしさとほろ苦さ、余韻は適度にドライでキレが良い。…
先にレビューしている三郎丸Ⅱ ハイプーリステスでも感じた洗練された味わいとなり、ハイボールとしての完成度も上がっているように感じられます。

そのまま飲んで良し、食中酒として使ってよし。この手の系統のスモーキーなウイスキーのハイボールを作るために、ウイスキーにソーダに氷にと、一式揃えて家で作るなら、もうこれで良いじゃんというレベルです。
価格はリニューアル前が税抜270円、リニューアル後が税抜298円で、約30円ほど上がっていますが、味が良くなっているので個人的にはまったく問題なし。
ここは価値観が分かれますが、例えば中途半端に安くて我慢しながら飲む酒よりも、ちょっと高くなっても良いからその分満足できる商品が良いなと思ってしまうんですよね。

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※今回リニューアルしたハイボール缶に使われている原酒を生み出す、三郎丸蒸留所独自のポットスチルZEMON。老子製作所との共同開発、世界で初めて鋳造で銅と錫の合金によるポットスチルを実現した。クリアでありながら厚み、重さのある原酒を生み出す特徴がある。

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ここで昨年リニューアルした富山スモーキーハイボール8%の特徴を振り返ると、同様にクリアでスモーキーな味わいながら、旧世代の三郎丸を思わせる若干の癖、根菜のようなニュアンスが僅かに感じられました。
それが普段使い、食中酒とした場合どうかというと、そこまで気にするものではないというレベルですが。

ただ、人間とはかくも欲深い生き物で、良い状態と悪い状態を比較すると、それまでこれでいい、あるいはこれが最高だと思っていたもので満足できなくなるんですよね。
だからこそ、人はより良きモノを求めて文明を発展させ、進化を重ねてきたわけです…。現状に満足しない、その向上心が生み出したのが今回の三郎丸ハイボール缶のリニューアルだと言えます。
おそらく、組み合わせる原酒の比率から、2019年以降が増え、特に2017年以前の原酒が減ったのでしょう。そこに輸入スコッチバルクウイスキーで、比較的クセの少ないピーティーなものや、グレーンを加えて非常に上手に作ってきたなという印象を受けます。

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※ハイボール缶が届いた当日、メニューは鶏大根。ヤバいぐらい相性が良かったです。無限に飲み食いできましたね。(語彙力)

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※三郎丸蒸留所のスモーキーハイボールプロ仕様。三郎丸Ⅱカスクストレングスをフロートしてスーパーハイボールに。これもスモーキーハイボールとして間違いない美味しさ。

こうしてよりクリアでスモーキーになったハイボール缶の真価は、夏場ならキンキンに冷やしてそのままで頂くのが一番ですが、今の時期は食中酒として合わせて、年末年始の食環境を充実させるのが一番だと考えます。
例えばコタツに入ってハイボール。飲み終わったのでいちいち底冷えする台所で作るか、冷蔵庫からサッと取り出して5秒で本格ハイボールか。どちらも同じクオリティなら、私は迷わず後者を選びますね。

そもそもこの缶ハイボールは、蒸留所マネージャーの稲垣さんが、家飲みするために作ったもの。いちいち準備するのがめんどくさいので、さっと本格ハイボールを飲めたらという考えで開発したものであり、その観点から見れば、今回のリニューアルで確実に完成に近づいたと言えるように感じます。(ブレンドも、部下に任せず稲垣さん自身が手掛けているとか。)
リニューアルしてラベルが変わると味が落ちる、あるいは薄くなるというのはウイスキー業界あるあるですが、ここではさらなる完成度のハイボールを味わえる。
ピートフリークの皆様は、年末年始用に今からでも調達されてみてはいかがでしょう。きっと満足できる味わいだと思いますよ!

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三郎丸Ⅱ 2019-2022 ハイプーリステス カスクストレングス 61%+46%加水版比較

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SABUROMARU 2 
THE HIGH PRIESTESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Cask Strength 
Distilled 2019 
Bottled 2022 
One of 600 bottles 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:燻した麦芽と樽由来の甘いアロマ、はっきりとスモーキーなトップノート。野焼きの香りと焼けたオレンジのような焦げ感、ピートスモーク、土っぽさ、微かにジンジャー。それらに押し込められたオーキーな要素が厚みとなって柑橘感を後押ししている。

味:ネガティブな要素が少なくクリア。乾いた麦芽と醤油煎餅のような香ばしさ、ほのかな柑橘感、焦がした木材や土っぽさを感じるスモーキーさが力強く広がる。
余韻は高度数らしくジンジンとした刺激が口内にあり、鼻抜けはスモーキー、ビターなピートフレーバーが長く続く。

今はまだ溌剌とした若さ、勢いの強さも目立つ構成であり、人によっては未熟と捉えるかもしれない。しかしその酒質は変に傾いた要素もない無垢なもの。これから熟成を経て複雑さや果実感を纏っていくだろう伸び代、大器を感じさせる。成長の方向性はアードベッグやラガヴーリン。これで“完成”はしていないが、2016年以前からは考えられない進化、洗練された味わいである。
数年後、最初のピークを迎えるだろう「未来」に想いを馳せる楽しみもある。まさに新時代のはじまりの1杯。

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※(リリース比較)本シリーズは毎年カスクストレングスと加水仕様がリリースされている。今年のリリースは雑味が少なくピートと麦芽由来の風味がダイレクトに感じられるが、加水版はその荒々しさが整えられて非常に親しみやすい。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、三郎丸の進化とZEMONの可能性は、どちらを飲んでも感じられる。

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先月リリースされた、三郎丸のタロットシリーズ第3弾。
本ブログの読者であればご存知の方も多いと思いますが、三郎丸蒸留所は2016年から17年にかけての大規模改修工事の後、1年毎に新しい取り組みを実施しています。
そのため、各年の仕込みから3年熟成で構成されている本シリーズは、段階的にその取り組みの効果を確認できる、ただの3年熟成リリース以上の意味を持つシリーズとなっています。

【関連情報】
2017年 大規模改修
2018年 三宅製作所製マッシュタン導入
2019年 鋳造製ポットスチルZEMON開発・導入
2020年 発酵層の1つを木製に(ステンレスで発酵開始→発酵最終段階を木製へ)。アイラピーテッド麦芽の仕込み実施
・・・
※詳細はJWICを参照いただくとより詳しく記載されています。(参照先はこちら

そして今年のリリース、三良丸Ⅱのポイントは、なんと言っても同蒸留所マネージャー(現若鶴酒造CEO)の稲垣貴彦氏が老子製作所と共同開発した、ZEMONで蒸留された原酒が初めてシングルモルトとしてリリースされることにあります。

三郎丸蒸留所は、2018年までは若鶴酒造としてウイスキーを作っていた旧時代のステンレスポットスチルのネック部分から先を銅製に改造した、改造スチル(写真下・左)でウイスキーを仕込んでいます。蒸留所の機能としてはリニューアルを経て向上していたものの、旧世代のウイスキーづくりから脱却したとは言い難いものでした。
この点に関して稲垣さんの想いは非常に強く、本ボトルの裏ラベルに記載されたメッセージでも、これからが始まりであることを強調されています。

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さて、世界初となる鋳造製ポットスチルZEMON(写真上・右)。銅92%、錫8%の合金で作られるスチル。その特徴は様々な媒体で語られているため改めて記載することはしませんが、違いは明確に現れました。
私の記憶が確かならば、今から2年前の2020年に三郎丸0がリリースされた時。その進化を評価しつつも、三郎丸はまだこれからであると。今後間違いなく、さらに良いウイスキーがリリースされてくると。そういうレビューをしていました。
既に2019年、2020年のニューメイクをテイスティングしており、間違いないと確信があったためです。

ただし1つ不安があったとすれば、2020年には改善されたものの、2019年の酒質はニューメイク時点で少しぼやけた印象があり、ピートフレーバーは2018年の方が際立って感じられた点にあります。
ウイスキー造りの心臓部とも言えるポットスチルが全て変わったのですから、カットポイントなどその使い方で苦労があったという話。トライ&エラーがあるのは当たり前でしょう。
分析結果、数値の面でもネガティブな風味に繋がる要素(グラフ上段)で一部2018年の原酒を越えている点があり、これがニューメイク時点での「ぼやけている」という感想に繋がったのだと思います。

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しかし今、目の前にある最低限の熟成を経た三郎丸Ⅱをテイスティングし、改めて三郎丸Ⅰもテイスティングし、熟成による成長の違いを如実に感じています。三郎丸Ⅰはだいぶ暴れてますが、Ⅱの方は素直に、確実に成長している印象を受けます。
今後熟成を経ていく中で、さらに洗練されて、複雑さを増していく、3年間でその下地が出来た状況であるようにも感じます。

これに関して同様のイメージを思い起こし、頷いた方々もいらっしゃるのではないかと思います。
新酒を飲み、成長過程を飲み、そして未来をイメージする。既に完成品したリリースはそれはそれで良いものですが、10年、20年前となると当時何があったか分からない蒸溜所も珍しくありません。変化を知り、今だけでなく、過去や未来の姿との比較も含めて楽しめる。これこそ現在進行形で成長する、新興クラフト蒸溜所の最大の魅力だと感じる瞬間です。

なお、三郎丸のZEMONですが、ポットスチルが全て変わったのは事実ですが、改造スチル時代の良い部分を引き継ぐために一部類似の設計を採用しています。
それはスチルのネックが折れ曲がった先、ラインアームの角度と短さです。角度は兎も角そんな短いか?と思われるかもしれませんが、改造スチルはラインアーム部分約1m先から冷却機となっており、物凄くラインアームが短いのです。
三郎丸の重みと厚みのある原酒はここから産まれると考え、ZEMONも同様にラインアームはかなり短く設計されています。
良いものは使い、そうでないものは変えていく。変えない勇気がある一方で、変える勇気もある。若い稲垣さんだからこそ出来る柔軟さ、チャレンジスピリッツが三郎丸の魅力なんですよね。

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※蒸留所に展示されているZEMON開発の実験機。合金であっても同様の触媒反応があることだけでなく、鋳造の場合表面に細かい凹凸が出来ることで接触面積が増え、さらに高い効果が見込まれる等、様々なメリットが確認されている。

一方で少し気は早いですが来年のリリースはどうなるか。冒頭まとめたように、実は来年も設備面で変化があるだけでなく、それ以上に日本のウイスキー業界にとって前例のない革新的な取り組みの過程が、形になろうとしています。
そう、アイラ島産のピートを使ったモルトウイスキーの仕込みです。
稲垣さんが目指すウイスキーの理想像は、アードベッグの1970年代。アイラらしいフレーバーはピート成分の違いから産まれるのではないかと考え、現地で調達したピート、麦芽を使った仕込みが2020年に行われています。

つまり来年は
・三宅製作所マッシュタン
・木桶発酵槽(最終のみ)【2022NEW】
・鋳造製ポットスチルZEMON
これらの設備で仕込んだ
①内陸ピートを使った従来のピーテッドモルト原酒(52PPM)
②アイラピートを使ったピーテッドモルト原酒(48PPM)
以上2つ。時期はずらすことになるかもしれないが、2種類ともリリースされる予定と聞いています。

ニューメイクの時点で、既に違いがはっきりと出ていましたが、その違いは熟成後どうなったのか。。。
これまで仕込んできた原酒の成長だけでなく、来年のリリースも今から待ちどおしいです。

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三郎丸Ⅰ THE MAGICAN 2018-2021 48%

カテゴリ:
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SABUROMARU Ⅰ 
THE MAGICAN 
Aged 3 years 
Distilled 2018 
Bottled 2021 
Cask type Bourbon Barrel 
One of 3000 bottles 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)

香り:穏やかだがどっしりとして存在感のあるスモーキーさ。乾草、野焼き、焚火の後のような、どこか田舎的でなつかしさを感じる燻した麦芽のピートスモーク。奥には柑橘、微かに青菜の漬物を思わせる酸もある。

味:程よくオイリーでピーティー、しっかりとスモーキーフレーバーが広がる。香ばしい麦芽風味、微かな土っぽさ。バーボン樽由来の甘みや柑橘を思わせる甘酸っぱさがアクセントになっている。
余韻はピーティーでビター、湧き立つスモークが鼻腔に抜けていく。

香味とも少々水っぽさがあり、複雑さのある仕上がりではないが、元々の重みのある酒質と若い原酒であることが由来して一つ一つのフレーバーに輪郭があり、鼻腔、口内に長く滞留する。カスクストレングスリリースのものと比べると、奔放さも荒々しさもなりをひそめて穏やかに仕上がっており、こちらは万人向けの仕上がり。新世代の三郎丸蒸留所の個性を知る上では入門編と言える1本。

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(三郎丸 THE MAGICIANのカスクストレングス(CS)エディション。稲垣マネージャーが初号機は暴走していますと、リリースに当たり意味深なコメントをしていましたが、このCS仕様は確かにパワフルで三郎丸らしさが暴走気味。将来性を見るなら削りしろが残ったCSを。現時点での味わいを楽しむなら加水のほうがバランスがとれている。)

そう言えばレビューしていなかったシングルモルト三郎丸I。
昨年11月にリリースされて今更感凄いですが、このまま放置したらⅡが出ちゃいそうなので、このタイミングでネタにしちゃいましょう。2018年蒸留原酒をベースにしたTHE SUNも先日レビューしたところですし、2022年の仕込みはなにやら新しい動きもあるようなので。

さて、まずこのリリースですが、既に多くの方がご存じの通り、2018年の三郎丸蒸留所はマッシュタンを自家製のものから三宅製作所製に変更。粉砕比率を4.5:4.5:1から2:7:1に変更すると共に、旧世代の設備からの脱却として大きな一歩を踏み出した年にあたります。
その効果、酒質の変化は劇的で、当時の驚きと将来への確信は、今から約4年前のブログ記事では「素晴らしい可能性を秘めた原酒が産まれており、一部の愛好家が持っていたであろう若鶴酒造への評価を、改める時が来たと言っても過言ではありません。」としてまとめています。

当時記事:若鶴酒造 三郎丸蒸留所 ニューポット 2018 CF結果追跡その2
https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1073202772.html

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その当時の原酒がどのように変化してきたか、こうしてリアルタイムで進化を見ることが出来るのは今を生きる我々の特権であり、クラフトウイスキーを追う楽しみでもあります。
自分の息子の成長を見るような、推しのローカルアイドルがメジャーになっていく過程を見るような。。。ちょうど小さい子供が居るというのもあるのでしょうか、そんな心境で見ている自分が居たり。

で、実際飲んだ印象は、まずニューメイクにあった三郎丸のらしさと言えるピートフレーバー、柑橘系の甘酸っぱさ等は良い感じでバーボン樽由来のフレーバーと馴染んできてますね。
通常の熟成環境は比較的温暖というのもあって樽感は強めで、これだと5〜7年くらいでピークに当たりそうな感じですが、未熟感が目立つ酒質ではないので問題無さそう。
また、2020年に完成した第二熟成庫は屋根散水での温度管理を、2022年完成のT&T TOYAMA 井波熟成庫はCLTや断熱シャッターを用いるなどしてさらに優れた温度、湿度の特性があり、今後はさらなる長期熟成も可能になっています。

一方で、2017と2018の原酒の違いは、オフフレーバーの量が少なくなっていることと、ピートがしっかりと主張するようになっていることが挙げられます。
勿論、ポットスチルを入れ替えた2019年以降に比べたら、まだこの時代はオフフレーバーが多く、特に2018年の最初の仕込みのほうは仕込みの関係で2017年の余留液を引き継いでいることから、旧世代の残滓が強めに残ってもいます。その辺りの原酒は、このリリースにも使われているのでしょう。針葉樹のような青菜の漬物のような、オイリーさの中に独特な個性が感じられます。

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(T&T TOYAMA THE LAST PIECEのリリースで使用した、2018年原酒2種。片方は仕込み前半、片方は後半。前半は癖が強くオイリーで、後半はドライ寄りでピートが強く主張する。明らかに酒質が異なっている。)

それでも2017に比べたら格段に酒質が向上しており、中でも今まではぼやけていたピートフレーバーに芯が通り、骨格のはっきりとした主張をするようになったことが傾向として挙げられます。

それは熟成を経た後も変わらず、樽香の乗りが良く、三郎丸らしいヘビーな酒質はそのままに、どっしりとスモーキーで個性の強い味わいを形成しているだけでなく、2018年蒸留のほうが骨格の強い酒質になっていることもあって、さらなる熟成の余地を感じさせる点もポイントです。3年熟成リリースはあくまで始まりであって、今後にも期待できる。
ああ、これはきっと、某バスケットボール漫画の安西先生の心境なのかもしれません。見ているかラ○…お前を越える逸材が富山に居るのだ…。


余談ですが、そんな逸材三郎丸は、設備のアップデート、ポットスチルの開発、木桶の導入、アイラピートの調達やスーパーヘビーピート原酒の仕込みと、毎年毎年、何かしら新しい取り組みを行なってきました。
毎年夏に行われる三郎丸の仕込み。2022年は一体どんな取り組みが行われているかというと…、世界的な物流の混乱からピーテッド麦芽の輸入が前期の仕込みに間に合わず。国産麦芽を使った仕込みで、蒸留を開始したのだそうです。

国産麦芽で勘の良い人はピンとくるかもしれませんが、そうこれはノンピートなのです。三郎丸及び若鶴酒造の歴史において、公式には初めてノンピート麦芽による仕込みが行われている、アブノーマルな状況(稲垣マネージャー曰く)が、きせずしてこの2022年の取り組みとなっています。
なんとも言い難い話ではありますが、個人的にはノンピートの三郎丸は非常に興味があります。3年後のリリースだけでなく、それこそノンピートの飛騨高山とのブレンド、飲み比べも面白そう。
取り急ぎ、ニューメイクを飲むのも今から楽しみです。

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