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羽生蒸留所 伊知郎 2000-2014 三越伊勢丹 58.5%

カテゴリ:
羽生蒸留所伊知郎2000
ICHIRO
HANYU DISTILLERY
Aged 14 years
Distilled 2000
Bottled 2014
Cognac Cask Finish
700ml 58.5%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:個人宅@TWD氏
時期:不明
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:ツンとしたハイトーンなアルコール感に、ナッティー、キャラメルアーモンド、微かに杏子を思わせる酸味を伴うウッディなアロマ。

味:パワフルな口当たり、香り同様酸味のあるウッディネス、松の樹皮、焦げたキャラメル、アタック強く余韻にかけて強い渋みとアルコール感。
ウッディーな苦味を伴うハイトーンでスパイシーなフィニッシュ。

荒削りでハイトーン、酒質的には重いというより中間がクリアで鋭く強いイメージ。多彩さがあるタイプでは無いが、そこに上乗せされた樽感が無骨でジャパニーズらしくもある。ストレート、または少量の加水で。
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三越伊勢丹が同デパート向けにボトリングしたオリジナルボトル、2本のうちの1つ。もう1本の1991については先日記事にさせていただいたところで、今回は残る2000年蒸留となります。

ベースとなった原酒は活性系のバーボン樽熟成か、シェリー樽のような濃さはなく、そこにコニャックカスクでのフィニッシュ。飲み口で感じられる酸味がらしさ・・・かもしれませんが、全体的にコニャックカスクの影響は控えめで、アタックの強い酒質に焦がした樽感という構成になっています。飲みごたえのある感じですね。
個人的にはもうちょっと甘み、奥行きが欲しくもありましたが、さらに樽感が強くサルファリーな1991より、こちらのほうが素直に羽生らしさも樽感も楽しめるように思います。
ジャパニーズウイスキー、まして地ウイスキーのように温度管理まで通常手が回らないような熟成環境にあっては、10~15年前後くらいのほうがちょうど良い熟成感に仕上がるのかもしれません。 

ちなみにこの当時、2000年代は既に肥土伊知郎氏がサントリーから東亜酒造に戻り、ウイスキー製造に関わっていた時期になります。
羽生の原酒は1980、1990年代に比べて2000年代はアタックの強さは変わらないものの、癖が少なくクリアな傾向にあるという印象があります。
ウイスキー冬の時代にあって時代に合わせようとされたのか、原料等の品種の変化によるところか、今の秩父につながる味わいとして考えると中々面白い指標とも感じました。

羽生蒸留所 伊知郎 1991-2014 三越伊勢丹 54.1%

カテゴリ:
羽生蒸留所伊知郎1991
ICHIRO 
HANYU DISTILLERY
Aged 23 years
Distilled 1991
Bottled 2014 
Cask type Madeira #1386 
700ml 54.1%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:個人宅@TWD氏
時期:不明
暫定評価:★★★★★★(5-6)

香り:淡くサルファリーな煙っぽいニュアンス、樽香強くウッディで熟成した梅酒のような酸味、黒砂糖、若干の植物感を伴う。

味:かりんとうのような甘みと香ばしさ、スパイシーで徐々にサルファリー。樽由来の香味は香り同様に濃く、リッチな味わい。
余韻はほのかな酸味とローストアーモンド、樽由来の苦みやえぐみが強く残る。

やんちゃというか、アンバランスというか、ジャパニーズらしい強い樽感が特徴的。酒質としても度数以上にアタックが強く、酸味を伴うアロマが甘みとともに樽由来の香味で後押しされ、羽生らしさとして感じられる。 
開封後数年単位で時間が必要。加水は硫黄が強くなる傾向があり、ストレートで。


三越伊勢丹限定品で2014年に発売されたイチローズモルト、羽生のマディラカスク。下の写真にあるように、2000年蒸留のコニャックカスクと共にリリースされ、2組の翼が対を成す、美しいデザインのボトルです。
当時はジャパニーズウイスキーブームが一気に拡大した時期、特に大陸方面からの買い付けが増えた時期でもあり、コレクターズアイテムとしての側面もあったと記憶しています。

また今回のリリースに限らず、羽生蒸留所からは、シェリー、バーボン、コニャック、マディラ・・・他のメーカーと比べても多様な樽が使われており、当時どのような考えでこうした樽を調達し、熟成に使っていたのか興味深くもあります。

ISETAN伊知郎

テイスティングで触れた「ジャパニーズウイスキーらしさ」は、酒質のフレッシュさに対して強く出がちな樽の影響、その両者によるバランスです。
同じ熟成期間を経たウイスキーでも、ジャパニーズのほうが短い期間で総じて強く樽の影響を受けている印象があります。
しかし、ジャパニーズウイスキーはスコッチウイスキーの流れを汲むもの。スコットランドと何が違う事でそうした影響が出るのかとすると、それは「温度(気温)」にあると考えています。

例えばこのカスクに限らず、近年リリースされた羽生蒸留所の原酒はほぼ全て、羽生で1度熟成された後、福島県郡山市の笹の川酒造の貯蔵庫に移され、そこで5~6年程度の時間をすごし、さらに今度は秩父に戻るというプロセスを経ています。
気象庁で過去の統計データを見てみると、羽生市のすぐ傍、気象台のある熊谷では2000年時、最高気温39.7度を9月に記録(最低気温は2月にマイナス4度)。スコットランドの平均気温を見ていただければ違いは一目瞭然、日本の方が全般的に高い温度環境の中で熟成されていたことがわかります。 

熟成のメカニズムでは、気温が高くなると樽材が膨張するため、寒い時期と比較して圧倒的にエキスが出ます。あまりに出すぎて、えぐみ、タンニンが強くなりすぎることも珍しくありません。
また、熟成はエキスだけで成り立つものではなく、寒さも必要です。低音環境下では樽材が縮み、これにより樽が呼吸するとされる条件が整うだけでなく、ウイスキーそのものも温度による体積の膨張、縮小、アルコールなどの揮発を繰り返していきます。
ウイスキーの熟成は"樽の呼吸"を伴うものであり、寒暖の差が大きいほうが熟成が早いとされるのは、こうした経緯によるわけです。

一方で気温の変化が比較的安定して、かつ冷温な環境下で長期間熟成させるほうが、分子の結合(あるいは樽材の縮小により産まれる微細な隙間)によりアルコール感が落ち着きやすいとする説もあります。
日本のクラフト系のウイスキーの大半は、羽生のようにツンとしたアルコール感と強い樽香が特徴的と感じるのは、こうした熟成環境によるところもあるのではないかと考えると、スコッチウイスキーとのスタイルの違いと環境の整合が取れるなと感じています。

ちなみに、この羽生の原酒は2004年頃に笹の川酒造の熟成庫に保管場所を移したわけですが、郡山市の気温は羽生市に比べると低く、しかし寒暖差という点では大きい傾向にありました。
怪我の功名というか、ポジティブな経緯ではないものの、これらの背景を考えれば、福島での熟成はそれはそれで価値のあるものだったのではないかと思えてきます。

先日、ブラインドで羽生のモルトを出題したところ、ハウススタイルついでにそんな話をする機会がありましたので、こちらでも自分の考えをまとめさせて頂きました。

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