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ニッカ セッション 43% ブレンデッドモルトウイスキー

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NIKKA WHISKY
SESSION 
Blended Malt Whisky 
700ml 43% 

グラス:SK2、木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅(サンプル)
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★(5-6)

香り:ほのかに乳酸系の酸を伴う、ケミカル様な香り立ち。プレーン寄りのオーク香と乾いたウッディネスに、微かにドライオレンジ。焦げたようなモルティーさとピート香が混じる。

味:香り同様の構成。口当たりは酸味を帯びたケミカルなフルーティーさ。モルト100%だけあって、コシのしっかりした味わいに、多少ギスギスとした若い要素もあるが、モルト由来の甘みと加水で上手く慣らされている。後を追うようにほろ苦く香ばしいピートフレーバーが広がり、乾いた樽香を伴って余韻へ続く。

プレーン寄りの樽感に、ベンネヴィスと若めの新樽熟成余市という印象を受ける構成。若さを目立たせず、現在の相場を考えたら上手くまとめている。レシピ上は宮城峡や他の輸入原酒も使われているのだろうが、前述2蒸留所の個性が目立つため、残りの蒸溜所(原酒)は繋ぎと言える。余韻にかけての焦げたようにビターなスモーキーフレーバーは余市モルトの特徴。ベンネヴィスの特徴についてはもはや触れる必要はないだろう。前述の通り樽感がプレーン寄りなので、ハイボールにすると面白い。

(今回はサンプルテイスティングのため、画像は友人が撮影したものを借りています。Photo by @Bowmore80s)

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9月末にニッカからリリースされた新商品。ブラックニッカの限定品ラッシュの印象が強くて意識していませんでしたが、新ブランドの立ち上げは実に6年ぶりとのことです。
今年3月には看板商品である竹鶴ピュアモルトが終売&リニューアルしており、2020年はニッカにとって2015年以来の大きな方針転換を行った年と言えます。

特に大きかったのが、「竹鶴ピュアモルト」のブレンドレシピの変更だと感じています。
これまでは「ベンネヴィス」が使われていると噂されていた、ソフトでケミカルな、フルーティーなフレーバーの混じる構成を見直し、香味の上では100%、あるいはほぼ余市と宮城峡の組み合わせと思える、全く異なる味わいにシフトしてきたのです。

そしてその後、間を置かず発表されたのが、今回のレビューアイテムである「ニッカ・セッション」。ニッカウヰスキーとしてはおそらく初めて、ベンネヴィス蒸留所の原酒が使われていることを、公式にPRしたリリースです。

発売発表直後、飲まずして「つまり旧竹鶴ピュアモルトでしょ」と思った愛好家は、きっと自分だけではなかったと思います。しかし上述のとおり竹鶴ピュアモルトがリニューアルして香味が変わっており、使われなくなった原酒はどこに行くのかというところで、”華やぐスコティッシュモルトと、躍動するジャパニーズモルトの競演”なんてPRされたら、考えるなと言うほうが無理な話でじゃないでしょうか(笑)。

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(左から、ニッカ・セッション、竹鶴ピュアモルト、旧竹鶴ピュアモルト。)

ただ、当たり前な話ですが、ニッカ・セッションは旧竹鶴ピュアモルトのレシピをそのまま持ってきたようなブレンドではありませんでした。
上の写真で色合いを見ても、その違いは明らかですね。
先日、LIQULのコラムRe-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.8で、竹鶴ピュアモルトとセッションを特集した際にまとめさせてもらいましたが、旧竹鶴ピュアモルトと新作2銘柄の間ではっきりと線が引かれた、過去との違いを明確にしたレシピだとも感じています。

下の表はレシピというか、味わいから感じた銘柄毎の各原酒の個性の強さを、主観でまとめた個人的なイメージです。
あくまで主観なので、実際のレシピで使われている分量とは異なると思いますが(例えば、宮城峡のようにソフトな原酒は量が多くても目立ちにくい)、ポイントはピーティーな余市モルトの利かせ方だと考えています。
旧竹鶴ピュアモルトでは淡い程度だったその存在が、新作2銘柄では最近の余市に見られる、あまり樽の内側を焼いてないような新樽の香味に、ピーティーで香ばしいモルティーさが合わさり、特に余韻にかけて存在感を発揮して来ます。

主観的分析

ベンネヴィスは、わかりやすいいつものケミカルっぽさのある個性。中にはピーティーな原酒もありますが、余市のそれとはキャラクターが大きく異なります。
その余市のピーテッドモルトの使い方で、これぞニッカという分かりやすい個性があるのは、輸入原酒の有無に限らず、ニッカの原酒が使われているという、明確なメッセージを発信しているように思えてきます。

それは、2銘柄を新たにリリースした理由にも繋がるものです。
原酒不足対応、将来を見据えた計画、流通量の安定化・・・様々な要因が説明されてきましたが、違和感はこのセッションのリリース。リニューアルした竹鶴ピュアモルトの出荷本数は年間30000ケースと旧時代と比較して相当絞ってきた中で、セッションの初年度は様子見で50000ケースです。
本当に原酒が足りないなら、宮城峡より生産量が少ない余市モルトをセッションに回す(少なくとも旧竹鶴よりは効かせている)ことや、そもそもセッションのリリースをしないで、旧竹鶴ピュアモルトを継続する選択肢だってあったと考えられるわけです。

昨今、「輸入原酒をジャパニーズウイスキーとして、あるいはそれを連想させる名前の商品に用いてリリースすることの賛否」が注目されていることは、改めて説明する必要はないと思います。
つまり、消費者意識の高まりを受けて、竹鶴は100%日本産と再整理し、もう一つ軸となるブランドを、輸入原酒とニッカの明確なキャラクターの中で、情報公開しつつ造ったのではないかと。
(実際、ジャパニーズウイスキーの基準に関する議論を受けたリリースの動きがある、なんて話を昨年聞いたことがありましたし。)

勿論、サントリーから碧”AO”、キリンから陸、ブレンデッドとグレーンと言う、2社が強みをもつ領域でワールドウイスキーが展開される中で、ニッカも後れをとるなと得意領域で新商品をリリースしてきた、ということかもしれませんが、これら3商品のリリース背景に、原酒不足問題だけでなく、大なり小なり「ジャパニーズウイスキーの基準問題」が影響していることは間違いないでしょう。

こうしたリリースに市場が、消費者が、どのように反応するか、各社はブランド価値向上を狙いつつ、そこを見ているようにも思います。
とはいえ、味以上にレアリティに惹かれる人が多いのもボリュームゾーンの特徴なので、ワールドウイスキーがブームの恩恵を100%受けていられるかは微妙なところ(実際、これら3つのワールドウイスキーは普通に店頭で買えますね)。ひょっとすると、一時的な整理になる可能性もあります。
しかし、日本におけるワールドウイスキーは、新しい可能性と成長の余地のあるジャンルであり、個人的には日本だからこそ作れるウイスキー造りの一つとして、今後も探求を続けてほしいと感じています。



今回は軸となる情報は同じながら、LIQULと異なる視点で記事を書きました。
なんというか、新リリースの楽しさだけでなく、色々と考えさせられるリリースでしたね・・・ニッカ・セッションは。
では、今回はこのへんで。

ベンネヴィス 25年 1990-2015  Mr,竹鶴シングルカスク 61.3%

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BEN NEVIS 
Mr,TAKETSURU'S SINGLE CASK 
Aged 25 years 
Distilled 1990 
Bottled 2015 
Cask type Remade Hogshead #1 of 1990 
Bottle No, 44/235 
700ml 61.3% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:ー
暫定評価:★★★★★★(6ー7)

香り:焦がした木材、松の樹皮を思わせるウッディネス、ローストアーモンドやキャラメルを思わせるほろ苦さと甘さ。じわじわとオレンジやパイナップルキャンディの人工的なフルーティーさを伴うアロマ。微かに溶剤的な刺激も感じる。

味:とろりとした口当たりから、ウッディでビター、軽いスパイシーさを感じる。新樽系のウッディさに続き、ケミカルなシロップを思わせる甘味とフルーティーさ。それらは風邪薬シロップのミックスフルーツ味ようである。
余韻はビターなウッディネスに加え、舌の上でひりつくようなアタックがケミカルシロップの残滓と合わさって長く続く。

樽由来の要素のなかに、ベンネヴィスらしい特徴的なフルーティーさを感じるボトル。リメードホグスヘッド樽(鏡板が新樽)で熟成されているため、新樽香がアクセントとなって、ニッカらしいビター武骨な要素を伴う。度数もあってストレートではウッディな苦味と堅さ、アタックの強さもあるが、少量加水すると薬品シロップのようなフルーティーさが全面に広がり、好ましい変化がある。

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2014年12月に90歳で天寿を全うされた、竹鶴政孝氏の甥にして、後に養子となる竹鶴威氏。同氏のベンネヴィス蒸留所との繋がりから、2015年に235本のみボトリングされたのが今回の1本です。

裏ラベルを読むと、ニッカウイスキーが1989年に傘下としたベンネヴィス蒸留所における、竹鶴威氏の業績(1986年から休止中だったベンネヴィス蒸留所の再稼働にあたり、マッシュタンの交換やビジターセンターの新設を行ったこと等)に加え、この樽が蒸留所が再稼働した1990年の1樽であり、当時ニッカの副会長かつベンネヴィス蒸留所の会長でもあった竹鶴威氏が所有していた1樽であることが書かれています。

カスクナンバーである1 of 1990については、"1番目"と"1990年のうちの1つ"のどちらの意味でも読めますが、類似のリリースとして同時期蒸留で2014年にボトリングされたThe President Cask は No,2 of 1990 となっていることから、前者の意味と考えて間違いないと思われます。
つまりベンネヴィス再稼働の日は蒸留所買収から約1年後の1990年9月、蒸留器から流れ出た最初のスピリッツを樽詰した蒸留所にとっても記念の1本であるわけです。

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さて今回のボトルで特徴的なのは、ニッカでは定番ながらスコットランドでは珍しいリメードホグスヘッド樽(鏡板をアメリカンオークの新樽とした、バーボンホグスヘッド樽)で熟成されているということ。そし現在の90年代蒸留ベンネヴィスの個性として知られているケミカルなフルーティーさが、蒸留所を再稼働した最初の蒸留からしっかりと出ているということです。

新樽は強めに樽感が付与されてる傾向があるのは、余市等その他のリリースでもレビューの通りですが、それが鏡板のみであっても流石に25年の熟成。熟成感に加えニッカらしいウッディネスがしっかりと備わって、ちょっと樽が強くビターな味わいは、開くのに時間がかかるような印象も。。。
ただ、このニッカらしい樽感と個性的なフルーティーさが合わさった構成故、同時にテイスティングしたメンバーからは、ピュアモルト竹鶴そのものという声もあったほどでした。

実際のところ竹鶴17や21年には、余市の新樽や宮城峡のリメード樽など、熟成したモルトの異なる傾向のフルーティーさもあるため、必ずしもベンネヴィスがそれを形成しているわけでは無いと思いますが。そうした邪推はさておき、ラベルは竹鶴威氏の肖像で非常に雰囲気があり、ニッカファンなら間違いなく高まってしまう、垂涎の1本。
同蒸留所再開後の最初の一樽としてだけでなく、ニッカウイスキーとベンネヴィス、両社の発展に貢献した竹鶴威氏に捧げる一樽として、これ以上ない構成となっています。

惜しむらくは日本での販売がなかったため、このボトルそのものの存在が知られていないということ。時期的にはマッサン放送直後なのだから、故人の話とは言えバブル的な注目を受けるようなリリースだったはず。。。
まあ、現親会社であるアサヒビールはベンネヴィスブランドを重要視しておらず、蒸留所と不仲であるという話もあり、なんとなく複合的な要員が背景にありそうだなぁと推察しています。実際、リニューアルしているオフィシャル10年が未だに日本には入りませんし。ベンネヴィス名義のブレンデッドをPRせず、結婚式やパーティー会場での飲み放題要員としてあてがっている点が、ベンネヴィス側には不評という話も聞いたことがあります。

いずれにせよ、現在の関係はともかく、竹鶴威氏が現地の発展に貢献した偉人として評価されたからこそのリリースです。それをレビュー出来たのはブロガー冥利に尽きる機会でした。
なお、テイスティングは年末に開催された持ち寄り会で機会を頂きましたが、その場で開封という瞬間にも立ち会わせてもらい、持ち主の男気に感謝しかありません。貴重なボトルをありがとうございました。

2019年を振り返る ~印象に残ったボトルや出来事など~

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1年があっという間に過ぎ去ってしまった・・・なんてことを毎年呟いている気がしますが。(もう歳だなぁ・・・とも)
日々こうしてブログを更新していると、過ぎ去ってしまった時間の存在を実感出来る、日記的な感覚があったりします。

2019年に更新したレビュー数は270程度、総数は1500を越えました。うち投稿していない銘柄もあったりで、何だかんだ500銘柄は飲んでいると思います。
また、今年はブログ活動をしてきた中でも、最も繋がりの広がった年で、楽しいことも多かったですし、考えさせられる事柄も少なからずありました。
2019年最終日の更新では、これら1年で経験したことの中から、印象に残っている出来事やボトルをまとめて振り返っていきます。

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■Liqulの執筆開始&グレンマッスルのリリース
最も印象的だった出来事は、勿論この2つ。
まずひとつ目が、酒育の会の代表である谷島さんからお声がけいただき、Liqulでオフィシャルボトルレビューの執筆を開始したこと。
同紙がWEB媒体へと移行する来年からが本番なので、今年は準備運動的な意味合いもありましたが、業界で活躍されている皆様と一緒に活動することができたのは、大きな刺激になりました。

また、執筆にあたりアイコンを新垣先生に描いて貰えたのも、ウイスキーの縁で実現した出来事のひとつです。
某海賊漫画風くりりん似顔絵。個人的にはすごく気に入っているものの、仲間内から「こんな悪い表情出来てない」と言われておりますがw
2020年最初の記事は既に入稿済みで、先日リニューアルが発表されたアランの新旧飲み比べが掲載される予定です。

そしてもうひとつの出来事は、オリジナルリリース「グレンマッスル18年ブレンデッドモルト」が実現したことですね。
宅飲みした際の酔った勢いで始まった計画でしたが、愛好家にとってのロマンをこうして形に出来たことは、ブログ活動というか人生の記念になったといっても過言ではありません。
実現に当たってご協力頂いた笹の川酒造、ならびに福島県南酒販の皆様、本当にお世話になりました。。。

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グレンマッソー18年は、国内で3年以上貯蔵されていたものとはいえ、輸入原酒(バルク)を使ったブレンデッドモルトウイスキーです。
突き抜けて旨いリリースとは言えませんが、キーモルトを探るミステリアスな面白さに、嗜好品として楽しんでもらえるバックストーリー。加えて香味にも流行りの系統のフルーティーさがあり、一定レベルのクオリティには仕上がっていたと思います。

何の思い入れもなくとりあえずサンプルだけ手配して、複数のなかから比較的まともなものを選んで・・・というような選定方法では、我々愛好家側の色は出せないと思っての”ブレンド”というジャンルでしたが。SNS等で「今年印象に残ったウイスキーのひとつ」と、何人かに言って貰えていたのが嬉しかったですね。
そして第一歩が踏み出せたことで、それに続く新しい動きもあり、来年はそのいくつかを発表出来ると思います。我々の作った味がどんな感想をいただけるのか、今から楽しみです。

※参照記事

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■ジャパニーズウイスキーの定義とワールドブレンデッド
さて、輸入原酒と言えば、2019年は輸入原酒を使いつつ「ジャパニーズ的な名称を用いたリリース(疑似ジャパニーズ)」が、前年以上に見られたのも印象的でした。
一部銘柄に端を発し、ウイスキーの成分表記についても少なからず話題となりました。こうした話は、すべて情報を開示したり、事細かに整理したからといってプラスに働くものとは限りませんが、法律上の整理と一般的なユーザーが求める情報量が、解離してきているのは間違いありません。
今の日本は、昭和のウイスキー黎明期ではないんですよね。

一方で、大手の動きとしてはサントリーが「ワールドブレンデッドウイスキー AO 碧」を新たにリリースしたこともまた、2019年の印象的な出来事のひとつだったと感じています。
ワールドブレンデッド表記は、自分の記憶ではイチローズモルト(ベンチャーウイスキー)が2017年頃から自社リリースに用い始めた表記。ジャパニーズウイスキーブームのなかで、それとは逆行するブランドを業界最大手であるサントリーが立ち上げたのは驚きでした。

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ウイスキー文化研究所ではジャパニーズウイスキーの定義作りが進み、既に素案が公開されている状況にあります。
来年のTWSCはその定義に基づいてカテゴリーの整理が行われていますし、4月にはジャパニーズウイスキーフェスティバルが開催される予定であると聞きます。

シングルモルトウイスキーでは、産地が重要な要素となるため基準に基づく産地呼称等の整理が必要ですが、ブレンデッドはジャパニーズだけでなく、広い視点で考えなければならないとも思います。
他産業ではMade in Japanブランドが世界的に強みと言っても、日本製のパーツや材料が評価されている部分もあれば、国内外問わず作られたそれらを、日本の技術や品質追求の考えの下で組むことで形成されている部分もあります。
サントリーの碧を始め、ワールドブレンデッド区分のウイスキーは、日本の環境だけでなくブレンド技術という日本の技をブランドに出来る可能性を秘めたジャンルと言えます。

つまり輸入原酒(バルクウイスキー)もまた、使い方次第で立派なブランドとなるのですが、問題なのは酒ではなく”売り方”。どこのメーカーとは言いませんが、海外市場をターゲットに、紛らわしいを通り越したえげつない商品をリリースしている事例もあります。
現在作られている基準をきっかけに、そうした整理にもスポットライトが当たり、業界を巻き込んだ議論に繋がっていくことを期待したいです。

※参照記事

■2019年印象に残ったウイスキー5選
小難しい話はこれくらいにして、行く年来る年的投稿ではお決まりとも言える、今年印象に残ったウイスキーです。
まず前置きですが、今年は冒頭触れたとおり、500銘柄くらいはテイスティングをさせていただきました。
中には、サンプル、持ち寄り会等でご厚意により頂いたものもあります。皆様、本当にありがとうございました。

オールドの素晴らしいものは相変わらず素晴らしく、そうでないものはそれなりで。一方ニューリリースでは原酒の個性が弱くなり、ボトラーズは特にどれをとってもホグスヘッド味。。。のような傾向があるなかで、それを何かしらとタイアップして売るような、ラベル売り的傾向も目立ちました。
市場に溢れる中身の似たり寄ったりなリリースに、食傷気味になる愛好家も少なくなかったのではないかと推察します。

その中で、今年印象的だったボトルを年始から思い返すと、オフィシャルリリースや、作り手や選び手の想いが込められたものほど、そのバックストーリーの厚みから印象に残りやすかったように思います。
個人的な好みというか、その時その時の美味しさだけで選ぶなら、カテゴリーから上位を見てもらえれば良いので、面白味がありません。味以外の要素として、そのリリースに込められた情報、背景、個人的な思い入れ等も加味し、”印象に残ったウイスキー”を選んでいきます。
なお先の項目で触れている、グレンマッスルやサントリー碧も該当するボトルなのですが、二度紹介しても仕方ないので、ここでは除外します。(ニューポット、ニューボーンについても、来年まとめるため対象外とします。)

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チャーしたスパニッシュオークの新樽で熟成された山崎。味は若い原酒を濃い樽感で整えたような粗さはあるが、その樽感がシェリー樽、あるいはシーズニングという概念を大きく変えた。味以外の"情報"で、これ以上のインパクトはない。是非飲んで欲しい1本。

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最高の白州のひとつ。白州蒸留所シングルモルトで初の30年熟成という点も印象的だが、15本と極少数生産故、樽から全量払い出されなかったことがもたらした、アメリカンオーク由来の淀みのないフルーティーさ、良いとこ取りのような熟成感が素晴らしい。

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アメリカで多くのシェアを獲得していた、全盛期とも言える時代のオールドクロウ。
100年を越える瓶熟を経てなお濁らずくすまず、艶のある甘味と熟成ワインのように整ったウッディネスが素晴らしい。また味もさることながら、ボトルそのものが有するバックストーリーも申し分なし。記憶に刻まれた、文化財級の1本。

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新しい蒸留所が示した新時代への可能性。樽由来のフルーティーさ、麦芽由来の甘味とフロアモルティングに由来する厚みのあるスモーキーフレーバーが合わさり、短熟らしからぬ仕上がりが評判となった。来年の10周年、そしてこれから先のリリースにも期待したい。

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マイ余市を選ぶつもりが、年末の持ち寄り会で滑り込んだ特別なウイスキー。2014年に天寿を全うされた、故竹鶴威氏に敬意を表した記念ボトル。ニッカが蒸留所を再稼働させた1990年の、最初の原酒をリメードホグスヘッド樽で熟成させたシングルカスクで、ニッカらしいウッディさにオークフレーバーと、ベンネヴィスらしいフルーティーさが合わさった、ファン垂涎の1本。

※その他候補に上がったボトル
・グレンファークラス 29年 1989-2019 ブラックジョージ
・リトルミル40年 1977-2018 セレスティアルエディション
・アラン 18年 オフィシャル
・アードベッグ 19年 トリーバン
・余市10年 2009-2019 マイウイスキー作り#411127

ちなみに、2019年はウイスキーだけでなく、ワインも色々飲んだ1年でした。
いくつか個別の記事を書いてみて、まだワインについては1本まとめて記事に出来るだけの経験が足りないと、オマケ程度でふれるにとどめましたが、ウイスキー好きに勧められるボトルもある程度固まったように思います。
ウイスキー愛好家のなかでも、ワインを嗜みはじめたメンバーがちらほら出てきていますし、来年はウイスキー×ワインの交流も進めていきたいですね。

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■以下、雑談(年末のご挨拶)
さて、本更新をもって2019年の投稿は最後となります。
まとめ記事ということで長くなりましたが、最後に来年の話を少し。。。

来年3月で本ブログは5周年を迎えます。
ブログ活動を再開した当時はどれだけ続くかなんて考えてませんでしたが、これも本当にあっという間でした。
ブログを通じて色々と繋がりも増え、執筆活動以外の動きもあり。先に記載した通り、来年は新たに発表出来ることもいくつかあると思います。

他方で、ブログ外のところでは息子が小学校に上がるなどの家庭環境の変化や、仕事のほうも任されている事業で管理職的な立ち回りが求められるようになってきて、公私とも変化の大きな年になりそうです。
自分にとってブログ活動は趣味であるため、継続はしていくつもりですが、今年から暫定的に行っている週休二日ルールを定着させるなど、時間の使い方を考えなければならなくなると思います。こうして、環境が変わっていくなかで何かを継続することは、本当に難しいんですよね。

楽しみである気持ちが半分と、不安のような複雑な気持ちが半分。。。というのが今の心境。そんな中でも、細々とでも活動は継続していくつもりですので、皆様来年もどうぞよろしくお願いします。
それでは、良いお年をお迎えください。

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ベンネヴィス 20年 1996-2017 AQUA VITAE #2028 50.6%

カテゴリ:
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BEN NEVIS 
AQUA VITAE 
Aged 20 years 
Distilled 1996 
Bottled 2017 
Cask type Sherry Butt #2028 
700ml 50.6% 

グラス:国際規格テイスティンググラス
時期:開封後数日以内
場所:ジェイズバー
暫定評価:★★★★★(5)

湿ったようなウッディネス。ブラウンシュガーやドライプルーンの甘いアロマから、サルファリーでオロロソシェリーそのものが混じったような椎茸っぽさを感じさせる。
口当たりはリッチで、かりんとうの甘味からカカオを思わせる苦味がすぐに開き、そのままサルファリーさとビターなフレーバーが主体。余韻はややハイトーン。ウッディで熟成感がある一方、評価が難しい。

ビターな樽感とサルファリーさで、90年代ベンネヴィスに求めるフルーティーさは潰れている。これもシェリー樽の系統のひとつであるが、AQUA VITAEのラインナップでは異端。
レビューすべきか迷ったが、エピソード的に厚みがあったので掲載。カスク選定の難しさ、サンプル通りの味わいにならないこともままあるという1本。

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先月、ジェイズバーで開催された信濃屋およびAQUA VITAEによるテイスティング会にて。
90年代中頃のベンネヴィスといえば、経緯は不明ですが所謂ジェネリックトロピカルと言われるケミカルなフルーティーさが特徴として挙げられます。
それ故、ボウモアのトロピカルフレーバーや、ホグスヘッドの華やかなオークフレーバーを好む同社代表のAllen氏なら、このスペックのボトルであれば間違いなくそっちの系統をチョイスしているだろうと飲んでみると・・・全くイメージと異なる味わいに驚かされました。

本人がその場に居るのですから質問しない手はありません。
くり「ベンネヴィスだけ他のボトルとイメージが違うように感じるんですが。」
Allen「サンプルの時はもっとクリアなシェリー感だったのに、ボトリングしてみたらウッディな感じになってしまったんだ。」
くり「ちょっとサルファリーですよね?(控えめに質問)」
Allen「ちょっとじゃないよ、かなりだよ(笑)」
Allen「でも、海外のイベントとかで人によっては美味しいって言うんだ。だから1本くらいはこういうボトルがあっても良いかなって思うんだよね。」
まあ僕は好みじゃないけど、というコメントが飲み込まれたようにも感じましたが、なるほどなあと。

この手の話は、樽の中身は場所によって味が異なる(樽感が一定ではない)ということからくる”ボトリングの罠”です。
樽の中のウイスキーは、樽の木材に触れている部分が濃く、ウッディであり。中心部分はクリアである傾向があります。これが熟成が長い樽であればあるほど全体が均一になってくるのですが、スコットランドで20年クラスのものは、その差が大きいのでしょう。
樽の”中取り無濾過”とかできれば良いんですが、払いだしの際は全部混ざってしまいます。結果、他のサンプルでも、カスクサンプルとボトリングのもので味が違うことはよくある話です。
(故に、店頭でサンプルを飲む場合は、これがカスクサンプルなのか、ボトリング後のサンプルなのかを確認すると誤差を減らせるという訳です。)

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という話は、自分の英語力では残念ながら翻訳することが出来ず。。。その場に居たウイスキー仲間も断念し、伝えることができなかったのですが、ボトラーの選定者が、どういう狙いで樽を選び、その結果に対してどういうイメージを持っているのかという感想まで聞くことができた。非常に実りの多いイベントだったと思います。

日本という国は、高度経済成長からバブル景気にまたがる洋酒ブームからの、不景気とウイスキー冬の時代の到来。また、日本の洋酒ブーム時には本国側がウイスキー冬の時代にあったという点も重なり、この落差が多くのオールドボトルを日本国内に産み出す結果になりました。
では台湾はどうかというと、アジア向けのボトルは多少ありますが、日本が埋蔵する在庫量とは比べ物になりません。
そうしたなかで、気軽にオールドを飲めないなら、自分がそれに近い味わいのものをリリースしたいと考えたAllen氏の行動力に、あれこれ動いている自分もエネルギーを貰えたようにも感じました。
近い将来、自分が関わったリリースが出た暁には・・・逆に感想を聞いてみたいですね。

デュー オブ ベンネヴィス 1970年代流通 特級表記 43%

カテゴリ:
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DEW OF BEN NEVIS 
OLD SCOTCH WHISKY 
Ceramic decanter 
1970's 
760ml 43%

グラス:国際企画テイスティング
時期:開封直後
場所:お酒の美術館
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:しっかりとした骨格を感じるリッチな香り立ち。香ばしさのあるカラメルソースとオールブラン、奥から熟した果実を思わせるフルーティーさ。また、微かにスモーキーなニュアンスも伴う。

味:ややアタックが強く、ボディはそれほどでもないが余韻にかけてひりつくような刺激に繋がる。フレーバーは香り同様で、色濃い甘味から香ばしさとほろ苦さ、徐々にフルーティー。ピートを伴うトロピカル感がカラメルソースを思わせるフレーバーのなかに溶け込んでいる。
余韻はビターでハイトーン、微かにハーブのようなフレーバーを伴って張り付くように残る。

若干コルキーなニュアンスはあるが、それ以外はアルコールや香味の骨格もしっかりとしていて状態は良好。年数表記はないが、おそらく通常リリースと同じ8年程度だろう。それに由来するアタックの強さがある一方で、構成は熟成したグレーン多めの中にモルティーさの感じられる作り。キャラメルのような甘味の奥に、熟した南国果実の風味が潜んでいる。

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表記はベンネヴィスですが、シングルモルトではなくブレンデッド。当時の通常品はダンピー形状「Dew of Ben Nevis(ベンネヴィスの滴?)」8年表記で販売されていた銘柄の、セラミックボトルバージョンです。
蒸留所の名前がそのままブレンデッドに使われているというのは、トマーティン・BIG-Tと似ていますね。

リリースを遡ると、デューオブベンネヴィスは、1970年代がリリース最初期のようです。
その後1980年代は存在が確認できず、1990年代に入ると12年熟成のものと、ノンエイジの"蔵出し"がリリースされるようになります。
ベンネヴィス蒸留所は1978年に操業を休止しており、それを1981年にロングジョン社が買収。1984年には一時的に再稼働しますが、78年の操業休止とともにブレンデッドの生産も終了していて、その後原酒はロングジョンに優先的に供給。1989年にニッカ傘下に移った後、オリジナルのブランドを再開したとすれば、時系列に違和感はありません。

8年熟成にしては色濃い作りで、香味にはシェリー系のニュアンスを感じるだけでなく、この時代の他のブレンデッドとは異なる独特の香ばしさやフルーティーさを備えています。
このフレーバーをもたらしたキーモルトはベンネヴィス。そして主要なグレーンもおそらくベンネヴィス。ベンネヴィス蒸留所は、1955年に連続式蒸留器コフィースチルを導入し、スコットランドで初めてグレーンウイスキーとモルトウイスキー両方を作ることが出来る単一蒸留所となった経緯があり、モルトとグレーンで充分な量が確保出来たことから、自社としてもブレンデッドの生産に動いた(ただしメインは他社への原酒供給だった)、ということなのではと考えられます。

余談ですが、この紛らわしいベンネヴィス表記のブレンデッド。スコッチ法改正に伴って蒸留所名をブレンデッドウイスキーにそのまま使うことができなくなり、現行品はネヴィス・デューとしてリリースされています。
ただ法改正が行われたのは近年で、上記トマーティン含めて約40年そのままだったのは。。。おおらかというかなんというか(笑)

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今日のオマケ:カレラ ピノノワール セントラルコースト 2013
個人的にかなり気に入っている銘柄。ウイスキー仲間からも評価の高いボトルです。
以前1年違いの2012をレビューしていますが、それ以来迷ったらこれという位置付け。
5年くらい熟成させたカレラのセントラルコーストは、香味とも柔らかく、カリピノらしく熟したベリー感に加えて余韻のタンニンも適度でするする飲めてしまう。変に甘味も強くないし、バランスのよさが良い感じ。
こういうのを週末の家御飯で使えるようにストックしておくのは、アリだと思うのです。
だからまあまとめ買いも仕方ないってことで。。。

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