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ミクターズ US1 スモールバッチ バーボンウイスキー 45.7%

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MICHTER’S 
KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKEY 
SMALL BATCH 
US★1 
750ml 45.7% 

評価:★★★★★★(6)

香り:メローでスパイシーな香り立ち。ウッディで焦げ目のついたトーストを思わせる香ばしさ、キャラメル系の甘さの中に、オレンジや熟したプラムを思わせる果実香も混ざり、まさにバーボンらしいアロマ。

味:マイルドで濃厚、香り同様にメローな甘みとコク、オレンジを思わせる甘酸っぱさのアクセント。合わせて微かにイーストのような含み香が鼻腔に抜ける。余韻にかけてスパイシーでウッディ、徐々にタンニンが口内に仕込みんでじんわりとした刺激を伴い長く続く。

嫌味の少ない新樽のメローな甘さ、粘性のあるリッチなフレーバーに、適度な主張の残った口当たり。ロックにしても氷を受けてしっかり伸びてくれる。個人的に、バーボンらしいバーボンだと言える味わいの一つであり、安心感すらある。
前情報のない状態で飲んだ際、熟成は8年程度と感じたが、実際は5年程度とのこと。樽詰め度数や樽そのものの製法等、現在のミクターズブランド独自の工夫が効いているのだろう。近年のバーボンは樽感がドライ、あるいはえぐみが強く出ているものが散見される中で、この完成度の高さは得難い。ノンエイジ仕様と侮るなかれ、中身は大手上位グレード同等のクオリティを備えている。

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「ミクターズ」というブランド名に反応してしまう方は、かなりウイスキー歴の長い方か、バーボン好きである可能性が高い。理由は後述しますが、そうでない方には、このバーボンは様々ある銘柄の一つ、ひょっとすると酒屋の棚の風景の一部としか映っていないのではないでしょうか。
ですが、このミクターズはバーボンというお酒の歴史や世界観を詰め込んだような、味わいだけでなく情報としても厚みのある一本なのです。

最近、家飲み頻度が増えたことで、該当するバーボンを飲みながら銘柄の由来や歴史を紐解くことにハマっています。記事にしたところでは、フォアローゼズのブランドエピソードの矛盾、テンプルトンライの集団訴訟とバーボン業界の転換点…スコッチとは違う性質のバックストーリーがあり、また日本に伝わっている情報も少ないので、飲みながら調べて考察するのが楽しいのです。
今日はこのミクターズについて、現在と昔、2つの視点に整理して情報をまとめていきます。

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※1:ミクターズ・シャイヴリー蒸溜所。外観は蒸溜所というよりオフィスのよう。

■現在のミクターズ
現在、ミクターズはケンタッキー州ルイビルにある、Michter’s Shively (ミクターズ・シャイヴリー)蒸溜所で造られています。この蒸溜所の正式な稼働開始は2015年からで、2019年には博物館やビジターセンターを兼ねたもう一つの蒸溜所:フォートネルソンが、同じくルイビルに完成するなど、ウイスキー需要増を追い風にして順調に事業を拡大しています。

今回テイスティングしたUS1バーボンウイスキーのマッシュビルは、コーン79%、ライ11%、モルト10%。特筆するレシピではないですが、しいて言えばアーリータイムズと同じである点が、後述する噂話を裏付けているように感じます。
それよりも注目すべき点は、ミクターズは「コスト度外視」を掲げ、ウイスキーの製造に様々なアイディアを採用していることにあります。
代表的なものをざっくりまとめると

・熟成に用いる樽は、一度トーストして樽材内部を加熱した後、焦げ目をつけるチャーを行う2段階作業。
→樽由来のフレーバーが上質に、豊かになる。
・業界基準よりも低い度数(103 proof)での樽詰め。
→熟成後の加水調整を最小限にとどめるので、香味の複雑さが増す。
・熟成庫にヒートサイクルを入れ、温暖な状況を維持する。
→熟成スピードの上昇。

以上の通り。それぞれコストが上がる要因となりますが、→に記載したように、香味に直結する効果が期待できます。
これら以外にも、樽の乾燥期間について18~36カ月と、通常のバーボンに比べて長期間の乾燥が行われたものを使用する。原料に最高級の穀物を使っているなどもありますが、程度が不明瞭だったため、可能な限り上質なものを使用しているくらいの認識にとどめます。
しかし結果として、5年程度熟成のバーボンでありながらテイスティングした印象は、一般的な8年熟成品以上の濃厚さ、完成度があります。独自の工夫が香味を高めているのだと、コスト度外視の方針は納得出来るものでした。

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※2:ミシガン州にあるミクターズ蒸溜所のヒートサイクルウェアハウス。同社は複数の貯蔵庫を複数地域に持っており、原酒保有量は175000バレルにもなると言われている。


■旧ミクターズ
ミクターズのルーツは、ラベルにも書かれた1753年、アメリカではじめてウイスキーを製造した公認蒸溜所であること。独立戦争時にも飲まれていたウイスキーだと言われています。
かつてのミクターズ蒸溜所は現在のルイビルではなくペンシルベニアにあり、1990年に経営不振で閉鎖されるまで(蒸溜は1989年まで)ウイスキーを生産していました。その後、この旧ミクターズ蒸溜所(別名:ボンバーガー蒸溜所)の1970年代蒸留の原酒の一部が、長期熟成を経てA.H.ハーシュとしてリリースされることになるのですが、これをきっかけとして同銘柄、同蒸溜所は伝説的とも言える評価を受けていくことになります。

一方1997年、放棄されていたミクターズの商標権を、チャタムインポート社が取得。2000年からミクターズ名義のウイスキーのリリースが始まります。
当時の同社は蒸溜所を持っておらず、UD、ヘブンヒル、オールドフォレスター、ウィレット等、多くの蒸溜所から原酒を調達して、単一またはブレンドしたものをリリースしていました。また、中でもブラウンフォーマングループとの結びつきが強く、2015年に発売を開始したUS1は、アーリータイムズ蒸溜所の原酒に独自の工夫を施して熟成させたものだと、”うわさ”されています。

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※3:旧ミクターズ蒸溜所(ボンバーガー蒸溜所)外観

独自の蒸溜所を持たず、銘柄の商標権をもって買い付けた原酒をリリースするスタイルは、バーボンウイスキー業界では珍しいことではありません。
が、それを伝説的ブランドに成長していたミクターズでやったこと。また、旧ミクターズ蒸溜所の原酒と、復活したミクターズブランドの原酒は、例えば同じマッシュビルである等の関連性が無く、全く別物であったことから、愛好家の反発を受けたであろうことは想像に難くありません。

それでも、ブランドがこうして今日に至るまで継続し、蒸溜所も操業&拡張路線であるのは、リリースされた中身が良質であり、徐々にヘイトが落ち着いていったためであるのだとか。
バーボン版軽井沢、A.H.ハーシュが伝説的でカルト的な人気を持つこともあり、今のミクターズは本当のミクターズではないという火種もあるはありますが、やはり味というのは重要なファクターなんだなと感じさせられるエピソードです。


■再び現在のミクターズ
さて、ここで再び話を現在のミクターズに戻します。
今回テイスティングしたUS1バーボンウイスキーは、単に5年程度熟成のバーボンとしてだけ見ればやや割高であると言えますが、クオリティは上述の通りです。また、ルーツとしてのエピソードを知った上で味わうと、かつてのミクターズとの繋がりはないものの、その名前の上に胡坐をかくような造りはしていないと感じます。

ちなみにミクターズ・シャイヴリー蒸溜所の操業は2015年からであり、熟成年数を考えると、US1は新たに設立した蒸溜所の原酒への代替も可能なタイミングが来ています。
この点については、調べても原酒が置き換わったという話はなく。同社はどうやらプレミアムグレードの10年を、2026年頃を目安に置き換えることを優先し、原酒を確保しているようです。

ミクターズのブランドは、日本に輸入されてないものを含めるとかなりの数があり、一度に入れ替えとはならないでしょう。
ボトリング設備を有する蒸溜所を、ペンシルベニアではなくルイビルのブラウンフォーマン蒸溜所(アーリータイムズ蒸溜所)のすぐ近所に建設したことも、長期的に見て自社蒸留原酒と外注した原酒でのハイブリットを継続することを想定しているのかもしれません。

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※4 現在のミクターズウイスキーの10年グレード。原酒は不明だが、ヘブンヒル、オールドフォレスター、ユナイテッドディスティラリーが含まれていると噂されている。

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※5 ミクターズ・シャイヴリー蒸溜所のポットスチル。同蒸溜所は一般に公開されていないため情報が乏しいが、こちらの記事に計画と内装の情報が詳しくまとめられている。

なお、ミクターズのラベルにはポットスチルが書かれており、新しい蒸溜所においてもシンボルとなっています。
現在原酒を調達しているメーカーが噂通りだとすると、蒸留機の形状から大きく変わっていくことは明らかです。結果、現在の香味が維持されるのか、全く異なるスタイルが生まれるのか、それはまだ様子を見ていくしかありません。

しかしリリースに用いられた独自の工夫が産み出す結果を味わう限り、自分には現在のミクターズの方向性が間違っているとは思えないのです。その工夫は、今後のリリースにも使われていくわけですから。
現在のものも良いですが、未来のミクターズは、きっとさらに良いウイスキーになるのではないかと期待しつつ、今日の記事の結びとします。


画像引用:
※1、※4:Facebook ミクターズ公式アカウント
※2:https://thebourbonculture.com/whiskey-info/michters-distillery-past-present-and-future/
※3:https://en.wikipedia.org/wiki/Bomberger%27s_Distillery
※5:https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-joe-magliocco-talks-doubling-capacity-1000000-gallons/

執筆時参照情報:
・https://thebourbonculture.com/whiskey-info/michters-distillery-past-present-and-future/

・http://michters.com/
・https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-joe-magliocco-talks-doubling-capacity-1000000-gallons/
・https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-announces-opening-date-for-whiskey-row-fort-nelson-distillery/

フォアローゼズ シングルバレル 50% ”4輪の薔薇の真実” Liqul掲載記事紹介

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FOUR ROSES 
SINGLE BARREL 
Kentucky Straight Bourbon Whiskey 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)

香り:バニラやキャラメルに、華やかさの混じるウッディなトップノート。チェリー、林檎飴のフルーティーな甘さ。焦げた木材やパン酵母のような香りのアクセント。微かに溶剤系のスパイシーな刺激もあるが、全体的にはメローでリッチな構成。

味:飲み口は濃厚だが、度数に反して比較的マイルドで熟成感がある。新樽熟成に由来するキャラメル等のメローな甘みに混じる甘酸っぱさ、徐々にスパイシーな刺激、微かな香ばしさと焦げた木材のえぐみ。余韻は程よくウッディでドライ、スパイシーな刺激が心地よく続く。

まさに新樽熟成のバーボンらしさ。その中でもフォアローゼズのシングルバレルは華やかさ、フルーティーさ、そしてスパイシーな刺激が特徴的であり、他のバーボンと一線を画す個性として備わっている。これらはフォアローゼズのマッシュビルのライ麦比率の高さに由来すると考えられる一方で、7~9年というバーボンではミドルエイジ相当に当たる熟成を経たことと、50%への加水調整が全体をまろやかに、上手くまとめている。オススメはロックで。あるいは写真のようにアメリカンオークのウッドスティックを1週間程度沈めて、樽感を足してやるとなお良し。

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個人的に、バーボンウイスキーの現行品スタンダードラインナップの中で、一押しのブランドがフォアローゼズシングルバレルです。濃厚さ、甘さ、フルーティーさ。香味の複雑さと個性の強さとのバランス。特に5000円程度までという価格設定で考えたら、文句なくこの1本です。

その他の銘柄では、ノブクリーク・シングルバレル60%やエヴァンウィリアムズ12年等も候補。ただしノブクリークは比較するとえぐみが多少気になり、エヴァンウィリアムズ12年は近年香味の傾向が変わって、少々べたつくような質感が感じられること等から、熟成年数等に捕らわれず1杯の香味で考えると、やはり自分はフォアローゼズが一番好みです。(1万円台まで出すなら、現行品ではブラントンシングルバレルやスタッグJr等を推します)

■フォアローゼズ・シングルバレルの特徴
テイスティングノートでマッシュビル(原料比率)の話をしていますが、フォアローゼズ・シングルバレルは他のスタンダードなバーボンと異なり、ライ麦比率の高いレシピを用いていることが特徴としてあります。
一般的なバーボン。例えば上で候補として挙げたノブクリークは、コーン75%、ライ13%、モルト12%に対して、フォアローゼズ・シングルバレルはコーン65%、ライ35%、モルト5%と、明らかにライ麦の比率が高いのです。※補足:フォアローゼズは通常品のマッシュビルとして、コーン75%、ライ20%、モルト5%でも蒸留していますが、それでもライ麦比率が高い仕様です。

ラム麦比率が高いバーボンは、どのような特徴が表れるかと言うと、ライ麦パンのように香ばしさが強くなる…なんてことはなく。フルーティーでスパイシーな香味を感じやすくなる一方で、ドライな仕上がりにもなるという特徴があります。フォアローゼズ・シングルバレルに感じられる特徴ですね。
後は好みの問題ですが、ここにメローな新樽系の香味が熟成を経て上手く馴染むことで、飲み飽きない複雑さ、カドが取れて艶やかな甘みとフルーティーさが備わった、極上のバーボンに仕上がっていくわけです。

4輪の薔薇の真実とは?フォアローゼズ シングルバレル:Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.12 | LIQUL - リカル -

そうした原酒は、シングルバレルの中でも”プライベートセレクション”などでリリースされる、ごく一部のカスクに備わっているものですが、通常品シングルバレル(本ボトル)もそのベクトル上にある、レプリカとして位置付ければ申し分ないクオリティがあります。
スタンダード品だからと侮るなかれフォアローゼズ。その楽しみ方含めて、詳しくは今月の酒育の会「Liqul」にコラム記事として掲載させてもらいました。一方で、本記事ではコラム上では書ききれなかった、フォアローゼズのブランドエピソードの考察”4輪の薔薇の真実”について、バトンを引き継いでまとめていきます。

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画像引用:エピソード|フォアローゼズについて|フォアローゼズ|キリン (kirin.co.jp)

フォアローゼズのブランドエピソードについて、ウイスキー愛好家なら一度は”ブランド創業者のプロポーズ説(上画像)”を聞いたことがあると思います。
ですが、”FOUR ROSES ”のルーツは諸説あるだけでなく、何より知られていないのがこれから記載する、創業者プロポーズ説に対する疑問と、プロポーズしたのは創業者じゃなかった話です。


■創業者プロポーズ説の疑問
それは、ブランド創業者であるポール・ジョーンズJr氏(1840-1895)が、生涯モルトヤm...じゃなかった、”生涯独身”だったということです。
ブランドエピソードが正しければ、同氏は絶世の美女と結ばれているはずです。プロポーズは成功したが、結局結婚に至らなかったという可能性は残りますが、そんな苦い記憶を果たして自社のブランドに使うでしょうか。

また、フォアローゼズのブランドが商標登録されるのは1888年ですが、プロポーズが行われた時期がはっきりしないのも理由の一つです。同氏の年齢は商標登録時で48歳。10年、20年寝かせるアイディアとは思えず、仮に5年以内だったとしても、40代です。現代ならともかく、当時としては結婚適齢期を逃した中で絶世の美女にアプローチをする。。。そして一時的には認められたものの、結局結婚に至らなかった。
いやいや、悲劇的すぎるでしょう(汗)。しかも同氏は1895年に亡くなられるのですから、なんというか救いがありません。

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※フォアローゼズ一族とも言える、ジョーンズ一族の家系図。

そうなると、フォアローゼズのルーツは他にあるのではないか。諸説ある中で、正史候補としてコラムで紹介したのが「プロポーズしたのは創業者じゃなかった説」です。
主役となるのは、フォアローゼズ創業者一族であり、ポール・ジョーンズJr氏の甥にあたる人物で、後に会社経営を引き継ぐローレンス・ラヴァレ・ジョーンズ氏(1860-1941)。この人物が、まさに意中の女性にプロポーズを行い、4輪の深紅の薔薇のコサージュで返事をもらった人物であることが、同蒸留所の歴史をまとめた著書”FourRoses”に、創業者一族へのインタビューを通じてまとめられています。

ローレンス氏の恋は一目惚れではなかったことや。奥手だったローレンス氏は何度もアプローチをかけ、最後に12輪の深紅の薔薇と共にプロポーズをしたことなど。広く知られているエピソードとは若干異なるのですが。それくらいの誇張は…まあ広報戦略の中ではよくあることです。
また、真紅の薔薇についても、なぜ12輪でプロポーズして、返事は4輪のコサージュだったのか。別途調べてみると、この薔薇の数にも意味があり、時代背景と合わせて表立って語られない、より情熱的で奥ゆかしい、そんなバックストーリーがあることがわかってきたのです。(詳しくはLiqulの記事を参照ください。)

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■ローレンス氏プロポーズ説の疑問
一方で、「プロポーズしたのは創業者じゃなかった説」にも疑問点があり、この話が正史だと断定しづらい要素となっています。
まず、ローレンス氏は若くして才気があり、会社を継いでいく人間として期待されていました。
ローレンス氏がプロポーズしたのは、1880年代中頃。(仮に1885年としましょう。)
”フォアローゼズ”が、ポール氏の手で商標登録されたのは1888年です。
これだけ見れば、結婚から商標登録まで約3年。今後会社を継ぐ甥っ子のエピソードを、世代交代後に向けて商標登録したと整理できるので、何ら違和感はありません。

ですが、ポール氏はローレンス氏の結婚に大反対していたのだそうです。
最終的に結婚は認められますが、会社分断の危機に発展するなど紆余曲折あり、ローレンス氏が意中の女性と結婚出来たのは1894年。プロポーズから10年弱の時間が経過していることになります。
著書FourRosesにまとめられた内容をそのまま記載するなら、これはひとえに、結婚して家庭を持つことで、ローレンス氏のビジネスマンとしての才能が潰れてしまうことを危惧したためだったとか。しかし、思い出してほしいのが、結婚に大反対しているはずのポール氏が、1888年にフォアローゼズを商標登録しているのです。

かたや反対、かたや商標登録。なんなの?人格破綻者なの?と思わず突っ込みたくなる所業。
日本人的感覚で強引に結びつけるなら、ポール氏は結婚を内心認めつつも、反骨精神か、あるいは本気度を見るために反対し、一方で将来会社を継ぐエースのために準備はしていたと。ドラマの脚本にありそうな、不器用な愛情らしきものがあるとしか解釈できません。
なお、ローレンス氏の結婚が認められた1894年の翌年、1895年にポール氏は55歳と言う若さで亡くなるのですが、原因は腎臓の炎症、ブライト病とされたものの、前兆はなく普通に仕事をしている最中だったそうです。なんとなくですが、TVドラマにありがちな景色が頭の中に再生されてくるようです。

以上のように、2人の関係のこじれについて、強引な解釈をする必要があることから100%この説が正しいとは言い切れないのですが、創業者一族へのインタビューや事実関係、時系列で考えると、少なくとも生涯独身の創業者がプロポーズしたというよりも、あるいは「メーカーのお祭りで踊った女性4人の胸元に薔薇のコサージュがあったから」という何の厚みもない説よりも、ローレンス氏のプロポーズ説は確度が高く、お酒を美味しくしてくれるエピソードとして歓迎できるものだと感じています。
正直なところ、この手のブランドエピソードは多少誇張や改変があるのが当たり前で、もう1世紀以上も前の話なのだから何でもいいという感情があるのも事実です。ただし、それがあることでお酒が美味しくなるなら。あるいは今回のように考察の余地があり、あれこれ考える楽しみが残るなら、支持すべきは間違いなく”ロマン”のあるほうでしょう。

フォアローゼズに限らず、これと知られているエピソードも、調べてみると実は違っていたり、疑問が残っていることは少なくありません。ウイスキー片手にその領域に踏み込んでみる楽しさは、さながら歴史学者になった気分です。一部地域に住む方々は、まだ大手を振って夜の街にとは言い難い状況。ならば夜のひと時を、時間の流れを遡って、あれこれ考えて楽しんでみてはいかがでしょうか。
趣味の時間として、充実のひと時をもたらしてくれることと思います。

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(禁酒法があけた1935年に登場する、フォアローゼズのPR広告。この時点でポール氏が舞踏会でプロポーズするエピソードが使われている。今ほど情報確度が高くなく、大らかだった時代の産物が、80年以上経った現代まで使われ続けているのは興味深い。)

ベンチマーク シングルバレル 47% ケンタッキーストレートバーボン

カテゴリ:
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BENCHMARK 
SINGLE BARREL 
KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKY 
1990's 
750ml 47% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
場所:自宅
評価:★★★★★★(6)

香り:メローで穀物系の香ばしさ、バニラウェハースやキャラメルポップコーンを含むアロマ。奥には発酵した穀物の酸、オレンジティーのアクセント、合わせてニスのような溶剤系のニュアンスが鼻孔を刺激する。

味:香り同様にメローで、色の濃いはちみつを思わせる粘性のある甘味とクラッカーの軽い香ばしさ。ビターでスパイシーなフレーバーが同時に広がり、チャーオークのウッディネスが強く余韻にかけて残っていく。

熟成のピークを感じる艶やかな甘さの奥から、多少刺激や酸、独特の野暮ったい個性が感じられる。類似の傾向としては、ブラントン・シングルバレルの同時期流通品に通じるところがある香味構成。ブラントンより樽感がリッチで、余韻にかけてもウッディーなフレーバーが強い点は、熟成年数の違いであり、このリリースがプレミアムブランドたる所以かもしれない。

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経緯は定かではないものの、市場へのPRとしてはバーボンの”基準”となる名のもとにリリースされていたシングルバレルバーボン。
ラベルに”FRANKFORT”の表記があるように、蒸留所はバッファロートレース(このボトルの流通当時の名称はエンシェントエイジ蒸留所)で、この頃の同蒸留所の原酒からは、原料や製法に由来すると思われる独特の酸と香ばしさが感じられることから、バーボンのなかでも比較的特徴的なキャラクターを備えている1本だと思います。

ベンチマークのシングルバレルには今回の無印と、XO表記の2種類があります。これはXOだから長期熟成という訳でもなく、中身のグレードは同じで、単に対象の市場や時期の違いによるものであるそうです。
1990年代当時のベンチマークのスタンダード品には、ボトル形状が特徴的な6~7年熟成表記のベンチマーク・プレミアムバーボン40~45%があり、それに比べると、バーボンの”シングルバレル”の価値に明るくない一般的な視点では、本リリースが特別感に乏しかったのではと考えられます。

香味から感じる熟成年数は8~10年程度で、味の滑らかさも飲み応えもベンチマーク・プレミアムより間違いなく上ですが、熟成年数を記載しようにもシングルバレルであるためロット毎の熟成年数にブレがあり、統一的に記載できない。そのため、アメリカ以外の海外市場向けには、ブランデーなどで使われていて特別感と馴染みのあるXOという表記を加えることで、リリースの差別化を狙ったのかもしれません。
(リユース品を調べても、XOのほうが多く日本市場に流通していますね。)


今回のボトルは、家飲み用バーボンとして開栓。メーカーズマーク46のプライベートセレクトを飲みきったので、傾向が違うものをチョイス。夏場って何故かバーボンが飲みたくなるんですよね。
メーカーズマークは小麦ですが、こちらのバッファロートレース系はライ麦の比率が10~15%と高めなレシピで仕込まれていて、系統としては同じ蒸留所で作られているブラントンのオールドボトルに似ているように思います。また、冒頭述べた独特の酸というか、穀類のもろみのような野暮ったさに通じる要素が混じるのが特徴で、むしろこの香味が夏場に飲むにはちょうど良いのです。

ヴァージン バーボン 21年 2000年代流通 50.5%

カテゴリ:
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VIRGIN BOURBON 
(HEAVEN HILL) 
AGED 21YEARS 
KENTUCKY STRAIGHT BOURBON 
2000's 
750ml 50.5% 

グラス:不明
場所:BAR Twice-UP
時期:不明
評価:★★★★★★★(7)

香り:芳醇で艶やかな甘さに、ビターなウッディさの混じるアロマ。新樽由来のエキスが溶け込んだリッチで艶やかな甘さは、チェリーシロップとオレンジママレード、焼き菓子やカラメルソースのようなほろ苦さ、香ばしさも感じられる。

味:リッチでメローかつパワフル。メープルシロップのように濃厚でとろりとした甘味のある口当たり。オレンジピール、カカオチョコレートに濃く入れた紅茶、徐々にビターなフレーバーがあり、微かにスパイシー。余韻はウッディで焦げたキャラメルを思わせるほろ苦いフィニッシュが長く続く。

こってりと新樽系のエキスの溶け込んだバーボンだが、ウッディでえぐみや渋味の強いタイプではなく、オールドバーボン特有のメローで艶やかな甘味を備えたリッチな香味構成。高い度数が強い樽感をギリギリ支えており、違和感はあまりないが、果実味よりは甘味優位。余韻のウッディさがやや強い。


以前から一度飲んで見たいと思っていた銘柄、ヴァージン・バーボン21年に出会うことが出来ました。バックバーで見つけて即注文です。
ヴァージンはヘブンヒル蒸留所が製造していたバーボン銘柄で、ラインナップは21年のほかに7年、10年、15年があり、どれも101プルーフのBIB仕様が特徴。後述の3種は、総じてコスパが良いと評判であったことに加え、バーボンブームを経験した愛好家にとっては馴染み深く、近年のヘブンヒル関連銘柄の大幅整理の中で消えていった、惜別の銘柄でもあります。

一方で、今回の21年は調べた限りブランドの初期からリリースされていたものではなく、2000年代に短期間だけリリースされた銘柄のようです。
他のグレードと異なり、メーカーズマークのように蝋封されたハンドクラフト仕様。それまでのハイエンドである15年のややくすんだゴールドカラーではなく、メタリックなシルバーというのが目を引きます。
マッシュビルは不明。ただしライ系のスパイシーさはあまりないので、コーン比率高めのレシピであると考えられます。
チャコールフィルターを透したニューメイクを新樽で21年間以上熟成し、マイルドでキャラメルのような芳醇な甘味と濃い紅茶を思わせるタンニン、ウッディネス。リッチで旨いバーボンに仕上がっています。

なお、同じヘブンヒル系列からの長期熟成バーボンで知られるエヴァンウィリアムズ23年は、新樽由来の甘味とウッディネスに赤系のベリー感。このヴァージンは系統としてはキャラメルやメープルシロップ系の甘味がメインにあり、ウッディーでメロー。マッシュビルの違いか、熟成を経て艶やかな甘さを備えるなかで、方向性が異なるように感じられました。
贅沢なことを言えば、多少ボディが樽に負けているというか、甘味に対してウッディさが強い。まあ見事に葉巻が欲しくなりました(笑)。

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今日のオマケ:ジョン デュヴァル ワインズ エンティティ シラーズ 2015

オーストラリアのシラーズ。ということで先日記事にもしたトルブレック等の芳醇な果実味、色濃いベリー感を期待して同じ地区の葡萄が使われているものを購入したのですが・・・新世界感はあまりなく、仏ボルドーのカベルネを思わせるような味わいに驚かされました。
ただそれは決して悪い意味ではなく、意外だっただけで味そのもののレベルは高いですね。

ヴィンテージのわりに落ち着きがあり、早飲みからイケる懐深い香味構成。滑らかな口当たりから黒系果実のフルーティーさは、ブルーベリーやカシス、葡萄の皮、こなれたタンニンが全体を後押しするリッチな味わい。全体の1/3が新樽で16ヶ月熟成。樹齢100年を越える古樹も含まれているということで、この落ち着いたリッチな味わいとタンニンはその要素からきてるのかなーと推察。
新世界シラーズとして飲むと「あれ?」という感じですが、カベルネをイメージして飲むと普通に美味しいワインだと思います。

メーカーズマーク プライベートセレクト For 信濃屋 With Scott 53.8%

カテゴリ:
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MAKER'S MARK 
PRIVATE SELECT 
BARREL FINISHED OAK SATVES
SELECTION BY SHINANOYA wtih Scott 
750ml 53.8% 

グラス:シュピゲラウテイスティンググラス
場所:自宅
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートは柔らかく包まれるような甘いアロマ。甘食、キャラメルコーティングされたオレンジ、スペアミント。合わせて香ばしいチャーオークとスパイシーさのアクセント。若干溶剤っぽさに通じるニュアンスもあるが、バランスは整っていて多層感がある。

味:粘性のあるリッチな口当たり。とろりとシロップのような甘味から、チェリーやオレンジなどを思わせる酸味。そしてじわじわと焦げたオークのほろ苦い香味が、ほのかな酵母のニュアンスとともに鼻腔に抜け、口内を引き締めていく。
余韻はウッディだが柔らかく、オークエキス由来の色の濃い甘味と軽いスパイス、カカオを思わせる苦味を伴って長く残る。

オーク由来のエキスがしっかり溶け込み、バランスの整った味わい深いバーボン。その柔らかい甘さに加え、焦げたようなニュアンスが悪目立ちしない範囲で主張している点が面白い。またスパイシーな要素が多層感に繋がっている。ロックにすると一瞬焦げたような苦味が強くなるが、氷に負けずバランスは崩れない。むしろほど良く延びて長く楽しめる。

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信濃屋のメンバーが、メーカーズマークのプログラムマネージャーであるScott Mooney氏とともにフレーバー構成を行った、オリジナルのメーカーズマーク。
プライベートセレクトは、恐らくメーカーズマーク46に使われるものと同等程度の熟成年数の原酒をベースに、加工、焼き具合などで変化をつけたアメリカンオークとフレンチオークの5種類10枚からなる”インナーステイヴ”を漬け込んで、9週間程度のフィニッシュを経てリリースされるものです。(詳細はこちらを参照。)

そのインナーステイヴの組合せ(レシピ)は1001通りあるそうで、ベースとなる原酒の個体差を合わせれば、文字通り世界でたった一つのオリジナルフレーバーを作り出せるのが特徴。
実際これまでリリースされたものを何種類か飲んだ印象は、必ずすべての完成度がレベルアップするわけではありませんが、バランス良く多層的なものがあれば、リッチでメローなタイプやフルーティーなタイプもある。様々なキャラクターを感じることができました。
価格もそれほど高くありませんし、香味の多様性というバーボンの課題を解消しつつ、効率的にオリジナルリリースを作り出せる革新的なプログラムといえます。

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(プライベートセレクト、インナーステイヴの種類とフレーバーの傾向をまとめた図。この原型となったメーカーズマーク46の開発エピソードは、過去記事に掲載。)

さて今回のボトルですが、純粋に美味しいメーカーズマークです。
メーカーズマークらしさは、冬小麦を原料に使うことで得られる柔らかい口当たりと言われていますが、今回のレシピはその点を潰しておらず、香味とも該当する特徴をしっかり感じます。
また近年のバーボンはえぐみや渋味を強く感じるものもありますが、これは先に書いたメローなフレーバーが主体で嫌みが少ない。選定者が何を基準にしたかが伝わってくるようです。

そしてそこから効いてくるのがインナーステイヴMo(Roasted French Mocha)と、SP(Toasted French Spice)由来の香味成分です。
味で分かりやすいのはMo由来と考えられる奥深い甘味と、焦げたようなほろ苦く香ばしいフレーバー。味わい全体に、奥行きと甘味だけだと締まらない余韻にビターなアクセントを加えています。
また、香りや余韻に多層感を与えているのが、SP由来のフレーバーと考えられるスパイシーさ。Moも仕事をしていますが、ただ濃くなってしまうだけのところを、違うベクトルの色彩を加えたような、特に柑橘系やハーブ等の要素を後押ししているのではないかと感じます。

結果、これら2種だけでインナーステイヴ10枚のうち9枚を使っていますが、飲んでみるとこれ以外ないバランスだと感じます。
そして最後に1枚だけ使われたMaker's 46は「つなぎ」として使っているとのこと。上の図にあるように、この木材がMoとSpの中間の属性をもつものであるのが繋ぎの理由と思われますが・・・これは考えすぎかもしれませんが、元々このプライベートセレクトの原型はメーカーズマーク46にあることから、作り手へのリスペクトも込められているのかなとも。いずれにせよ、良い仕事しているバーボンです。
信濃屋からのプライベートセレクトリリースは2作目ですが、個人的には今回のほうが好みでした。

ちなみに、今回のレシピを作った信濃屋メンバーのなかにはバイヤー兼WEB担当の(あ)こと秋本さんがおり、若手ながら主要メンバーの一人として本ボトルを担当されていたようです。
秋本さんとはTWDの活動や個人的な持ち寄り会などで繋がりが深く、好みはそれなりに把握していたこともあり・・・
今回のバーボンを飲んで「なるほどねー」と思う部分が多く、その点を含めてあれこれ考えるのも楽しめた1本でした。
(評価は★6ー7にするか悩みましたが、自分が楽しめた要因は上記事前情報にもあるでしょうから、一つおとして★6としています。)

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以下、信濃屋繋がりで雑談。
主催、企画運営は今回のボトルにも関わっている信濃屋の若手チームメンバー。同店による出展はもちろん最近イベントで増えてきた有志による持ち寄りブースや、プロ等によるセミナーもあり、かつ入場券が都内イベントにしては安価に押さえられているのも若手向けという感じで・・・いやぁこういう取り組みって新しいし、良いですね。

自分の頃は20代というだけで貴重がられた時代でしたが、今はどんどん若手世代の愛好家が増えてきていますから、いよいよメーカー主催で開催されるようになったのか。。。というのは些か感慨深くもあります。
昭和な自分には参加権利がありませんが、企画の趣旨には大賛成。盛会を祈念して、ここで紹介させていただきます。

Liquor Lovers 2019 →詳細はこちら
https://liqurlovers.peatix.com/

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