タグ

タグ:ハイランド

ロッホローモンド 12年 2011-2024 1st fill マディラホグスヘッド 54.8% 銀座777&渋谷313

カテゴリ:
FullSizeRender

LOCH LOMOND
12 YEARS OLD 
Distilled 2011 
Bottled 2024 
Cask type 1st fill Madeira Hogshead 
Exclusive for Liquor Mountain GINZA777 & SHIBUYA313 
700ml 54.8% 

評価:★★★★★★(6ー7)(!)

香り:無花果やパイナップルのフルーツシロップのような甘いアロマ、微かにスパイス、バニラの要素もあるが、主たる要素はケミカルフレーバーに集約されている。

味:口当たりはとろりと粘性にある質感、フルーツ味の風邪薬シロップの甘さ、ビタミン剤、オレンジやマンゴー。余韻にかけて適度なウッディネスが染み込むように全体を引き締めていく。

あざといまでのケミカルトロピカル。 マディラ感と言われると難しいが、落ち着いた無花果のようなフレーバー、溶け込むフルーティーさがその辺り由来か。いずれにせよクオリティの高い一本。
ケミカルフレーバー好きには自信を持っておすすめ出来る。


リカーマウンテン渋谷店と銀座店向けの限定ボトル。自分の関わった渋谷店向けブレンドPBを先日紹介しましたので、こちらも紹介。

同店は関連会社かつインポーターである都光さんがロッホローモンドの輸入代理店になっているので、通常ラインナップの扱いはもとより、何かとロッホローモンドPBがリリースされています。
今回のはその中でも当たりな一本ですね。ロッホローモンドでマディラワイン樽熟成のリリースは過去にも出ていますが、熟成年数が若くてスパイシーすぎたり、フルーティーさが足りなかったりするものも。一方今作はこれぞ近年のロッホローモンドテイスト、通称ジェネリックトロピカルが炸裂しています。

ロッホローモンドのオフィシャルシリーズの中では、フルーティーさを出す製法をしているインチマリン表記のリリース、特に12年以上熟成しているリリースにこの手のフレーバーが強く出ており、今回のものもベースの製法はインチマリンでしょうか。(勿論ロッホローモンド表記のものでも最近のは総じてフルーティーです。)
加えて近年のロッホローモンドということもあって変に紙っぽさもなく、大概の人は好きでしょってヤツです。

IMG_2912
※ロッホローモンドの通常ラインナップの中で特におすすめがインチマリン12年。新ラベルは少々ドライな仕上がりだが、例のフルーティーさはしっかり備わっている。

IMG_2940
※ロッホローモンド蒸留所のスチル。様々な設備を保有する大規模工場だがメインは所謂ローモンドスチル。ネック部分の仕切りを変えることでフレーバーをコントロールしている。またクーパレッジも併設しており様々なカスクでの熟成が行われている。

なお、この手のケミカルフレーバーはアイリッシュでも出る…というかアイリッシュが元祖。ただし仮にアイリッシュのシングルカスクで今これが出たら、絶対この値段では買えないのも本リリースの魅力の一つ。
またアイリッシュと違うのが余韻のキレ、アイリッシュは味わいがソフトな分余韻にかけて少しぼやける感じがあるものが多いところ、ケミカルな甘さがそこまでしつこくなく余韻が引き締まるのが特長です。

過去の投稿でも何度か触れてますが、かつてのロッホローモンドは濡れたダンボールやユーカリ油といった、一般的にネガティブな個性が強く出ており、我々世代の飲み手にいいイメージを持っている人はほとんどいないと言っても過言ではありません。
以前、良くなったロッホローモンドをブログで評価したら、くりりんは買収されたかみたいなことを言われたりも。流石に美味しくないものを美味しいという、そこまで魂売るようなことはしませんって…。

ロッホローモンドは2003〜2004年ごろの仕込みから変わり、年々ネガが減って好ましいフルーティーなフレーバーが強く出るようになってきたのです。上記インチマリン12年は最たる事例で、2016年ごろの流通品を皮切りに、ラベルチェンジする毎に洗練されてケミカルフルーティー特化に。5000円台で買えるシングルモルトとしてはもっと評価されて良い、トップクラスにわかりやすいフルーティーさを備えています。勿論、今回のPBはさらに強いなわけですが。

同時期のロッホローモンドでは設備的な何かが変わったという記録は残っていないものの、この頃新しいマネージャーが着任しています。業界的にもシングルモルトにシフトしていく動きがあった中で、作り手の意識が変わり、そこから蒸留所本来のポテンシャルが引き出されたのかもしれません。
“かつて"紙"といわれた、ロッホローモンド蒸留所、新世紀の逆襲。飲めば未来が少し明るくなるような、南ハイランドの可能性。 ”
と書いたのが2016年のこと。あれから約10年。やっぱり間違いはなかったですね。

IMG_2944
余談:そのリカーマウンテンさんがGWと35周年記念でよくわからないレベルのセールをしています。モートラックとかアードベッグとか、10年くらい前の価格かなこれは(笑

グレンモーレンジ 18年 1990-2000年代流通 43%

カテゴリ:
IMG_0619

GLENMORANGIE 
YEARS 18 OLD 
SINGLE HIGHLAND RARE MALT SCOTCH WHISKY 
1990-2000’s 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:甘やかで柔らかい香り立ち。ブラウンシュガー、キャラメル、微かにみたらしの要素も混じる色濃い甘さ。合わせて牧草、麦芽香もしっかりと感じられる。

味:香り同様に柔らかくしっとりとした口当たり。まずはシェリー樽熟成を思わせる色濃い甘さ、キャラメルや微かにダークフルーツ。そしてやや野暮ったさに通じる麦芽風味、バニラやパン生地の甘さ、徐々にほろ苦くビターなウッディネス。

現行18年の華やかさとも、1世代前の90年代初頭流通の陶酔感伴うシェリー系18年(写真下)とも異なる、2000年前後の緩やかで甘やか、そして少し植物感などが混じる野暮ったさ、牧歌的な麦芽風味の混じる癒し系。
洗練されても突き抜けてもいないがそれが良い、どこか安心感を感じてしまう、この流通時期らしいモーレンジの個性を味わえる1本。

IMG_1562

初めて飲んだというわけではなく、今まで何度も飲んでいるボトルですが、レビューしていなかったので掲載します。

バーボン樽や麦芽風味のフレーバーがメインにある10年と加えて、シェリー樽熟成原酒の要素を感じられるのが、1990年からリリースを開始したとされるグレンモーレンジ18年です。
ただ同じ18年といっても、時代によってフレーバーの方向性は変わっており、今回はその点を少し掘り下げていきます。

現行品の18年は、シェリー樽原酒こそ使われているものの役割は全体に厚みを出す程度。現行18年の象徴とも言える、ラグジュアリーな華やかさは、バーボン樽熟成原酒の役割となっています。
一方で、1990年のリリース当初の18年は、シェリー樽原酒の個性が強く出て、そのクオリティはまさに黄金時代。甘やかでフルーティーで艶やかで…陶酔感を感じさせるもの。
どちらのボトルもその流通時期を俯瞰して、ハイレベルな1本であることは間違いありません。

そして今回紹介する1990年代後半から2000年代流通のグレンモーレンジ18年は、属性としてはそのどちらにも属さない。
シェリー樽原酒は60−70年代の黄金時代とは言いがたく、バーボン樽原酒は近年の市場を抑えた華やかでフルーティーさを全面に出せるようなものでもない。この時期のグレンモーレンジらしい野暮ったさのある麦芽風味を主体として、華やかでもフルーティーでもない、甘やかさとウッディさが備わった味わいが特徴です。

シングルモルトウイスキー市場は2000年代以降に本格的に拡大してきた歴史があり、いわばそこまでは、どんな味わいが市場で評価されるのか各社手探り状態だったところ。シェリー樽の色濃い甘さやダークフルーツを思わせる果実感。バーボン樽の華やかで黄色系のフルーティーさを思わせるオークフレーバー。そしてトロピカルフルーツ。
この辺を意識して各社がリリースをし出したのは、まさに最近なんですよね。

そうした歴史から、今回のグレンモーレンジ18年は、ブレンデッドウイスキー全盛期からの過渡期の1本。18年だけでなく、同時期の10年も妙に野暮ったいフレーバーが目立つ構成となっています。
ただ、この野暮ったさが完全に悪かというと決してそうではないんです。都会に住んでいると田舎の空気に心が安らぐ瞬間があるような、洗練されていないものに味を感じるというか。。。
何れにせよ、今のウイスキーにはない魅力を持った1本であると言えます。

IMG_0926
IMG_0966
今回のレビューアイテムは、御徒町にオープンした「リカースペース榊」でテイスティングしました。
チャージ2000円と、通常のBARに比べると高額なように感じますが、無料で飲めるボトルに加え、このモーレンジが1杯●00円など、基本的には原価に近い価格で提供。
また、強い匂いを出さないフードは持ち込み自由など、フリーな感じも面白い。
色々飲んで勉強してみたい方、おすすめのBARです。

ロッホローモンド クラシック シングルモルト 40%

カテゴリ:

IMG_9823

LOCH LOMOND 
CLASSIC 
SINGLE MALT SCOTCH WHISKY 
700ml 40% 

評価:★★★★★★(6)

香り:硬さの残る麦芽香とすりおろした林檎、蜂蜜、ほのかにオーキーな華やかさがアクセント。基本的に品良くバランスの良い構成で、奥にはパイナップルや柑橘を思わせるフルーティーな要素も感じられる。強くはないが好ましい香り立ちである一方で、時間経過で単調気味になっていくなど、平均熟成年数の若さを感じさせる要素もある。

味: スムーズだがオイリーで厚みのある口当たり。蜂蜜を思わせる甘さに、オレンジシロップや黄色系のケミカルなフルーティーさ。後半にかけて軽やかな刺激があり、余韻はビターでほのかにスモーキー。じわじわとピートとウッディなほろ苦さが広がり、フルーティーな甘さと混じちぇいい意味での複雑さが長く続く。

香味に好ましいフルーティーさがあり、微かなピートが全体を引き締めて、フレーバーのバランスも良好。40%加水モルトの平均的なそれより厚み、飲み応えを感じられ、これでエントリーグレードクラスのNASかと驚かされる。
一方で時間経過やハイボールにすると樽由来の要素が弱まるのか、ややドライ寄りの変化。麦芽由来の風味と仄かなピートスモークで、食中酒や暑い時期に飲むには丁度いい。
いずれにせよ、ロッホローモンドだからと偏見を持っていた時代は遥か遠く、価格的にも内容的にも使い勝手の良いシングルモルトである。

IMG_9847

最近のスコッチモルトの中で、年々酒質が向上し、ラベルチェンジもいい方向に作用していると感じる数少ない事例。ロッホローモンド蒸留所のエントリーグレードであるクラシックが、今回のレビューアイテムです。

ロッホローモンド蒸留所の酒質にいつから変化があったか、それはこれまで度々レビューで触れているので割愛しますが、2000年代前半と考えられます。
では、流通しているオフィシャルボトルの変化についてはどうか。以前、青色にメタリックカラーでクラシックと表記されていた、2015年前後流通のロットはグラッシーで癖の強さが目立っており、悪くはないけど良くもないというか、まさに文字通り”クラシック”なロッホローモンドスタイルが残っていたのです。

一方、当時からインチマリン12年には好ましいフルーティーさが強く「ロッホローモンド良くなったんじゃない?」と、徐々に愛好家の評価を変えていったところ。
その後2020年~2021年にかけて、ロッホローモンドは3ブランドあった全てのオフィシャルリリースを、以下の写真のようにロッホローモンド・XXXXXXに統一。日本市場での評価がどこまで反映されたかはわかりませんが、香味の傾向は全て同じフルーティーベースになり、蒸留所としてこうあろうという方向性、新しいハウススタイルを感じさせてくれます。

lochlomond12_o
※ロッホローモンドは、ピーティーなインチモーン、フルーティーさ重視のインチマリン、そしてバランスをとったロッホローモンドとで整理されている。NAS製品は12年クラスに比べると麦芽風味の硬さ、プレーンさが目立つ傾向はあるが、バランスは悪くなく、上述3銘柄に共通する個性を楽しめる。

今回テイスティングレビューしたクラシックも同様に、市場のトレンドを押さえた、21世紀のロッホローモンドのフレーバー構成が特徴。
原酒としては5〜12年クラスの若いものからスタンダードなクラスまで、広く使っているようで。熟成したモルトのフルーティーさと若い麦感が程よく合わさった構成。
ともすると、他銘柄だと口当たりのオイリーさ、とろりとした要素がしつこく感じられることがある一方で、このクラシックは後半から余韻にかけての軽い刺激と苦味が、それを引き締めてくれています。

樽はバーボン樽、アメリカンオークがメインと思われる構成。ただ、ほのかにシェリー樽を思わせるようなコクのある甘み、オレンジ系のフレーバーがいい仕事をしていて、ホグスヘッドやバットも繋ぎとして使われているように感じます。
またロッホローモンドは蒸留所敷地内に樽整備工場も備えており、余韻にかけて感じるほろ苦さ、ビターなウッディネスは、同工場で整備したリチャー樽由来ではないかとも思われます。

FullSizeRender

なんというか、普通エントリーグレードのボトルって、ストレートで飲むとあまり触れられるところが少なくて、ハイボールに逃げて終わりってことも少なからずあるんですが…。このボトルはストレートでも見るところが多く、普通に楽しめます。
公式サイトに書かれている「ノンヴィンテージながら非常にエレガントでフルボディな味わい」も、あながち言い過ぎではないなと。ちょっとハリボテ感があるようにも感じますが、この価格帯ならもう十分でしょう。

ただ、ハイボールについてはレビューの通りドライ寄りに変化しちゃうので、個人的にはもう少し甘みやコクが欲しかったところ…最後にちょっとしたアレンジを紹介。
ロッホローモンド蒸留所は連続式蒸留機としてカフェスチルを導入しており、グレーンも自前で蒸留している、スコットランドでも数少ない蒸留所です。

そうして作られたグレーンは、シングルブレンデッドとしてシグネチャーに活用されるだけでなく、ノンピートグレーン、そして世にも珍しいピーテッドグレーンの2種類が、それぞれシングルグレーンとしてリリースされており・・・。
単体でもメローで適度な熟成感もある、美味しいグレーンですが、クラシックモルト6、シングルグレーン4くらいでブレンドしてハイボールにすると、これがいい具合に甘さとコクが出て、フルーティーさも底上げしてくれるのです。
どちらも、3000円前後、2本で6000円くらい。下手な限定品を買うより断然楽しめる組み合わせだと思います。

IMG_9855
余談:以上、ロッホローモンド・クラシックのレビューでした。が、記事を書くにあたって公式サイトを見たらですね、なんか、また、ラベル変わってませんかね(笑)。
この前変えたばかりなのに。。。ただ冒頭述べたように、近年のロッホローモンド銘柄はラベルチェンジの度に原酒が代替わりしてクオリティを上げてきましたので、今回のラベルチェンジにも期待しています。

シークレットハイランドモルト 30年 48% GLEN MUSCLE No,7 Episode 3/3 

カテゴリ:
FullSizeRender

SECRET HIGHLAND MALT 
SCOTCH WHISKY (SINGLE MALT)
Aged 30 years old 
Distilled 1990 
GLEN MUSCLE No,7 Episode 3/3
For Whisky Lovers & Drinkers, Blinded by Fear 10th Anniversary
700ml 48% 

香り:ブラウンシリアルのような香ばしいモルティーさとナッツ、乾いた牧草、じわじわと熟成由来の甘くオーキーな樽香、古びた家具。オレンジ果汁やバルサミコ酢のような甘みと重みのある酸も伴う複雑なアロマ。

味:口当たりはオイリーで粘性があり、どっしりとしている。合わせて乾いた紙っぽさとシリアル。樽由来の要素はほのかなシェリー要素と度数落ちの華やかさ、ナッツ、軽くスパイスを伴う。
余韻はカカオ多めのチョコレートを食べた後のようなほろ苦さ、しっとりとした中にピリピリとした舌への刺激を伴って長く続く。

複雑で個性的。近年多く見られるバーボン樽でプレーンな酒質を熟成して華やかキラキラ系に仕上げた、ある種現行品のトレンドとは異なる方向性。2ndフィルあたりのシェリーバットで長期熟成したのか、ほのかなシェリー感、オーキーな熟成香、ビターなウッディネスと複雑な要素が感じられる。
時間経過で香りのほうは華やかさ、樽香優位となり、好ましい要素が強くなってくる。香味とも個性と樽感が濃縮した状況であり、加水するとそれが綺麗に伸びる。好みは分かれるだろうが、短期熟成原酒では出てこない奥行き、スケールが感じられる1杯。

IMG_9037

GLEN MUSCLE No,7 シリーズ3部作の最終リリース。そして最終リリース。
ブランドについての説明は…もう不要でしょう。間に厚岸ブレンデッドのNo,8が入ったため順番が前後していますが、昨年6月に長濱蒸溜所からリリースされたNo,7 Episode1/3 Blended Whisky 3 to 30 yearsの構成原酒の1つであり、表記されている最長熟のモルトウイスキーです。

当時の経緯や狙い等については過去記事を参照いただくとして、このブレンデッドウイスキーNo,7 Episode1/3では
・長濱蒸留所で蒸留、3年熟成を経たピーテッドモルトジャパニーズウイスキー
・スコットランドから調達して20年熟成のグレーンウイスキー
・スコットランド産の10年〜30年熟成のモルトウイスキー
10種類以上の原酒から使用原酒が選定され、レシピが形成されたわけですが、中でも中核的な役割を担う2つのシングルモルトウイスキー(1994年蒸留26年熟成、1990年蒸留30年熟成)が、No,7 Episode 2/3と今回のNo,7 Episode 3/3となります。

FullSizeRender

No,7 Episode1/3は、構成原酒の中でも長濱蒸留所のピーテッドモルト原酒3年の個性を屋台骨として、エステリーなフルーティーさ、奥行きや複雑さ、熟成感を付与する方向でブレンドレシピが構成されており、その要素を形成するのが、先に述べた2種の原酒です。

軽やかだが華やかでエステリー、フルーティーなハイランドモルト1994。
モルティーで個性的だが、熟成感を備えたハイランドモルト1990。
両者の属性は、さながら陽と陰。
かつて、サントリーのマスターブレンダー鳥井信治郎氏が「ええ匂いいうもんは、やっぱりウ○コの香りが入ってんとあかんのや」とコメントしたように、香水を作る際には様々なアロマが組み込まれる中でマイナス面の香りが必須とされるように。
複雑で奥行きのある香味には、同じ系統の原酒を混ぜ合わせるだけでなく、異なる属性、異なるベクトルの原酒の組み合わせによって生じる香味の幅の広さが重要であり、そのバランスを如何にとるかがブレンダーの力の見せ所だと考えています。

その意味で、今回のシークレットハイランドモルト30年は、陰陽どちらかと言われたら、陰にあたる個性であり、個人的には主役になるモルトウイスキーではないと感じていました。(少なくとも、近年のトレンドには逆行するものであると)
ただ、グレンマッスルメンバーの1人である倉島氏がこの原酒の可能性を評価し、自信が主催するウイスキーグループ“Blinded by fear”の10周年記念も兼ねてリリースを進めていくこととなります。

結果、こうして3部作が揃ってみると、まず目指したブレンドがあり、ブレンドを構成するキーパーツであり、そのフレーバーの幅の両端を味わえる構成原酒をセットでというのは、純粋に面白い取り組みです。愛好家が面白いと感じてくれるような、GLEN MUSCLE らしいリリースであり、単体としてだけでなく、ブレンドの構成原酒として視点を変えて、3本を飲み比べて頂けたら嬉しいですね。

蛇足ですが、今回のラベルは前作Episode 2/3の華やかで春や南国をイメージするようなデザインに対し、葉も花も落ちた冬の水辺に立つ1本の木に白と黒の文字という、対局にあるデザインで作成してみました。ラベルから伝わる香味の印象もさることながら、このラベルに使われた写真が、構成原酒のヒントになっているのもポイントです。
あまりメジャーな場所ではないようですが、非常に雰囲気のあるスポットです。興味がある方は探してみてください。

IMG_20190519_125218

さて、 GLEN MUSCLEは、気がつけば2018年のファーストリリースから約4年、一般にリリースされたもので10本、シークレットも含めると11本というリリースを重ねたブランドとなりましたが、どれも異なる取り組みがあり、コンセプトがあり、愛好家がワクワクするような、面白いと感じるような仕組みを盛り込むことができたのではないかと考えています。

加えて、クラフト蒸留所が持つ原酒でブレンドPBをリリースする(監修する)という、今でこそ珍しくないものの、当時一般的だったPB=シングルカスクのサンプルから選定、とは異なるコンセプトの先駆けの一つとして実施したことも、新しいジャンルの可能性をを発信することが出来たのではと感じています。

なにより私自身このブランドを通じて、ウイスキーをリリースするという事に内部から関わり、ウイスキーのブレンドからラベルの作成、事務手続きまで、ただ飲んでブログを書いていただけではわからない経験をすることができました。例えば造り手の領域での話が小指の先くらいはわかるようになった。これは0と1くらい大きな違いです。
それはメンバー各位同様であり、私がT&T TOYAMAやお酒の美術館等のブレンドPBを担当させて貰ったように、現在はそれぞれが経験を活かし、フリーのブレンダーやカスク選定者としてリリースに関わる等、確実に活動の幅を広げています。

GLEN MUSCLEはこれで活動を休止しますが、メンバーが居なくなるわけではありません。ブロガーくりりんの活動は続きますし、愛好家が面白いと思えるような、美味しいだけでなくワクワクするようなウイスキーは、今後もまたどこかで、違う形でリリースされていくことになります。
ですが一つの節目として。この企画にご理解、ご協力をいただいた造り手の皆様、ウイスキーメーカーの皆様、そして手にとって頂いた愛好家の皆様。
まずはこの場をお借りして、御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
それではまたどこかで、違う形でお会いしましょう。

ダルウィニー 2006-2021 ディスティラリー エディション 43%

カテゴリ:
FullSizeRender

DALWHINNIE 
DISTILLERY EDITION 
DOUBULE MATURED
(BOURBON - OLOROSO CASK)
Distilled 2006 
Botteld 2021 
700ml 43%

評価:★★★★★★(6)

香り:柔らかく甘い麦芽香にオークの乾いたウッディネス。そこに混ざるシェリー樽由来の色濃い樽香。2つの要素がはっきりとは混ざり合っておらず、複層的に感じられる香り立ち。

味:マイルドな口当たり。 蜂蜜や麦芽糖、はっきりとした甘みが広がり、徐々にビター。シェリー樽由来のドライプルーンやブラウンシュガーを思わせるフレーバーがアクセントになっている。
余韻はほろ苦く、じんわりとウッディネスが染み込むように消えていく。

スタンダードのダルウィニー15年に感じられる、ハイランドモルトの代表格と言えるような牧歌的な麦芽風味に、オロロソシェリー樽の色濃いフレーバー、ウッディネスが混ざり合う。特徴的なのは、後熟に用いたシェリー樽のフレーバーが完全に一体化しているわけではなく、香味とも麦芽風味→シェリー樽と段階的に変化していくことにある。
少量加水すると、前者のフレーバーにある青みがかった要素が一瞬顔を出すが、一体化していなかった2つの要素が混ざり合い、熟したオレンジや洋菓子を思わせるアロマとして感じられる。相変わらず派手さはないが、地味に旨い通好みの1本。

FullSizeRender
FullSizeRender

愛好家御用達の隠れた名酒、ダルウィニー。
ダルウィニーはディアジオ社のクラシックモルトシリーズとして位置付けられ、まさにハイランドの代表として1980年代後半からリリースが続いているわけですが。
そのクラシックモルトシリーズを様々な樽で後熟させて毎年リリースしているのが、ディスティラリーエディション(以下、DEと表記)です。

ダルウィニーDEは、オロロソシェリー樽でのフィニッシュで構成されていますが、このシリーズは各蒸留所において毎年毎年ロット差があり、ダルウィニーDEは特にその違いが大きいように感じます。
最近のロットだと、2016年はシェリー感というよりはエステリーで華やかなフルーティーさという、組み合わせであり得るとしたらアメリカンオークシェリー樽由来のフレーバーが際立ち。2017年や2018年はリフィルかな?という麦芽風味主体の構成だったところ。

この2021年リリースのダルウィニーDEは樽の傾向が大きく変わって、最近の他社オフィシャルリリースに見られるようなシェリー感が、麦芽風味に混ざって感じられます。シーズニングのオロロソシェリー樽で、スパニッシュオークのキャラクターに由来するものでしょう。
その上でノーマルな15年とDE15年を比較すると、どちらも同系統のフレーバーがベースにありつつ、ハイボールなどのアレンジのしやすさはノーマルに軍配があがり、単体で緩く飲んでいくならDEも良いなというのが、この2021年リリースの印象です。

IMG_6861
IMG_6448

さてダルウィニーのオフィシャルラインナップは15年とDEで、後はウィンターズゴールドが市場にあり、基本それ以外に定常的に販売されているオフィシャルリリースはありません。
ディアジオは、ダルウィニーに限らず売れ筋である一部の銘柄を除いてラインナップを絞る戦略をとっているようなんですよね。
ことダルウィニーについてはボトラーズもないので、折角クラシックモルトとして地域を代表する銘柄にしているのだから、もう少しラインナップを増やしてくれても良いんじゃないかなぁと思うのですが。。。

ただ、限定品として不定期ながら長期熟成のリリースが数年毎に行われており、2000年代にリリースされた29年、32年は絶品。2006年リリースの20年は少々難ありでしたが…。
2016年にリリースされた25年は、15年の傾向で麦芽風味とフルーティーさを洗練&ボリュームアップさせたような味わい。
2020年にリリースされた30年は麦芽風味にやや枯れた要素がありつつも、奥行きと熟した洋梨のようなフルーティーさがあり、どちらも通好みの味わいで良い仕上がりでした。

こうしてリミテッドをテイスティングして現行品のスタンダードに戻ってくると、改めてその良さも感じやすくなる。
ダルウィニーというよりは、ディアジオのブランド戦略の巧みさでもありますね。

このページのトップヘ

見出し画像
×