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ウイスキーオブザイヤー2020 TOP3をバッファロー・トレース勢が独占 - ジムマーレイ ウイスキーバイブル

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”ジムマーレイ氏はアメリカで宝物を見つけたのかもしれない”
10月とは思えないほど暑い日々が続いていましたが、所用で1週間弱海外に出ている間に、すっかり秋らしくなっていた。。。帰ってきたら寒いしドラフト会議も終わっていたし、ジムマーレイ・ウイスキーバイブルも2020がリリースされてましたよ。なんだろう、この取り残され感。
そんなわけで少し遅くなりましたが、今年も同書籍の動向について紹介していきます。

JIM MURRAY'S WHISKY BIBLE 2020

ウイスキーバイブルは、次の1年間のウイスキーガイドとして、評論家のジムマーレイ氏がまとめている書籍。スコッチのみならず、アジア、アメリカ、カナダと世界中から約4700という銘柄が掲載されています。
この書籍の特徴はジム・マーレイ氏が、掲載されているすべての銘柄をテイスティングし、独自採点でポイントをつけてまとめているということ。そのため2018-2019年時点で最も評価が高かった銘柄が世界一のウイスキー、ワールドウイスキーオブザイヤーとして掲載されることとなるため、毎年少なからず注目されている著書でもあります。

ウイスキー特化で世界一を認定しているアワードは、愛好家団体が主催するモルトマニアックス(MMA)、ウイスキーマガジンが主催するワールドウイスキーアワード(WWA)、そしてジムマーレイ氏のウイスキーオブザイヤーがあります。
他に今年から始まった日本のウイ文研主催のTWSCや、総合酒類コンペではISCなどもありますが、ウイスキーに特化したタイトルは上の3つが愛好家間でのメジャーどころ。
それぞれ審査委員の好みというか、毛色の違いというか、受賞案件を比べてみると違いが出て面白いなと感じる反面、最近のウイスキーバイブルには些か傾向に変化があるという気がします。

というのも、このジムマーレイ氏の評価ですが、タイトルは5年前を最後にスコットランドから離れ、日本を経由してカナダから米国入り。
2017年にブッカーズ・ライ13年、2018年にテイラーフォーグレーン12年、そして2019年にはウィリアム・ラルー・ウェラーと3年連続で世界一をアメリカのウイスキーがとっているだけでなく、特に昨年は主要部門がほぼアメリカ色に染まった受賞結果は衝撃でした。

元々ジムマーレイ氏はバーボンやライウイスキーを評価していて、以前から「ライウイスキーにルネッサンスが起こる」とも発言しており、トップ評価を受けたのは初めてではありません。
中でもバッファロー・トレース蒸留所の原酒を使ったウイスキーがお気に入りという印象。そして今年発売されたウイスキーバイブル2020におけるアワードは・・・昨年の流れそのまま、またしてもアメリカ、またしてもバーボン。それも、4700銘柄のうち上位3銘柄をアメリカンウイスキーが独占するという、過去例のない結果となりました。

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■THE WINNER
・Jim murray's World Whisky of the Year 2020
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon



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・Second Finest Whisky in the World
William Laure Weller 2018

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・Third Finest Whisky In the World
THOMAS H. HANDY SAZERAC STRAIGHT RYE WHISKY 2018

この3銘柄はすべて、バッファロー・トレース蒸留所の系列によって作られたものです。
これまで全17巻を発刊してきたウイスキーバイブル史上初めての出来事で、ジムマーレイ氏も「さすがにあり得ないと思ったので、トップ10の銘柄を再度テイスティングしたが、結果は変わらなかった」とSpirits business紙に語っています。
2位となったウィリアム・ラルー・ウェラー、並びに3位のトーマス・ハンディ・サゼラックは昨年のウイスキーバイブル2019から連続の表彰台。よっぽど旨いのか。。。

ちなみに1792フルプルーフは、蒸留所はバートン1792ですがここもバッファロー・トレースの系列。ビンテージ違いと思われるものを飲んだことがあり、確かに熟成感とリッチな甘味、適度なウッディネスで余韻も良くできてる。最近のバーボンにしては良い仕事してるなあ、という感じの1本でした。(レビューを掲載していたら★7くらいの評価だったと思います。)

自分はバーボンも結構好きなので色々飲んでいますし、スコッチやジャパニーズと同じくらい魅力があるジャンル、と言うことは理解しています。安定したクオリティを求めるならバーボンとも言ってるくらいです。
他方で、ここ数年で同ジャンルのウイスキーが味を向上させたという印象はなく、むしろ逆に長熟原酒と良質な樽の枯渇でスコッチ同様苦しい状況。しかしウイスキーバイブル2014でグレンモーレンジ・エランタ19年が世界一となって以来、頑なにスコッチのタイトル獲得がない不思議。。。しかも今年はTop 3もシングルカスクウイスキー部門も、一つもスコッチの名前がないのです。

全体的に苦しいなかに、光輝く素晴らしい一樽がたまに現れる条件は五分五分。それでこの結果は、単にそのサンプルが入らないだけかもですが、なにかを意図しているような気もしてしまいます。
例えば、クラフトバーボンブームが起こっている同国において、ブランド戦略として長熟プレミアムバーボンの市場を活性化させようとしているとか・・・考えすぎかもしれませんが。

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さて、他のカテゴリーに目を向けると、スコッチウイスキーでは今年も来ましたグレングラント18年。年数ごとのカテゴリーでもグラントのオフィシャルがウィナーとなっており、実際どのグレードでもコスパ、構成共に良くできているオフィシャルブランドだと思います。

スコッチカテゴリーはグラント18年の連覇となりましたが、同じ系統だとさらにフルーティーなグレンモーレンジ19年もありますし、麦系ならアバフェルディやクライゲラヒの20年オーバーグレードもある。ミドルグレードのスコッチモルトは拮抗してるような気がするんですよね。
さらにリストを見ていくと。。。"The Macphail 1949 China Special Edition 1"ってなんやねんそれw
中国市場はホント金が動いている。ただ70年熟成で過度な熟成が過ぎたのかもしれませんが、こういう限定品の長熟スコッチがトップに入ってこないのはジムマーレイ著書の傾向でもあります。

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(ジャパニーズ・シングルモルトカテゴリーを受賞した、シングルモルト松井・ミズナラカスク。決して悪い酒とは言わないが。。。相対評価で色々と疑問が。本ブログでのレビューはこちら

そして衝撃だったのが、ジャパニーズのカテゴリー。え、いや他にあるやろ?という結果は、TOP3以上の衝撃と言えます。
まずジャパニーズウイスキーオブザイヤーは、竹鶴ピュアモルトNASが受賞。不味いとは言いませんが。。。昨年は萌木の村がリリースしたポールラッシュ生誕120周年記念シングルモルトでしたから、落差が凄まじい。
日本のウイスキーの上位グレードにあるような強めに出た樽感が苦手なら、バーボンも同じようにウッディですし、シングルカスクウイスキーオブザイヤーを受賞したのは短熟樽感バッチリな南投オマーのバーボンバレルというのは。。。なんというか選定に微妙な違和感があるんですよね。

そしてジャパニーズのシングルモルトカテゴリーでは、松井酒造"シングルモルト松井・ミズナラカスク"がウィナーに。複雑な表情をする愛好家の姿が見えるようですが、以前レビューしたとおり、これはウイスキー単体で見るとそんなに悪くありません。
クリアで柔らかい酒質に、バーボン樽の鏡板だけミズナラに変えるという工夫(単にコスト削減目的の偶然の産物かもしれないが)もあって、風味もこの時点では良い感じにまとまってます。
ただし悪くないのであって、日本最高の一本とは。。。数年前の某ウイスキー評論家T氏の言葉を借りれば、正気とは思えない、が適切にすら感じます。

この受賞に、愛好家が祝福ムードにはおそらくならないように思います。あの松井が?という色眼鏡で見られてしまうだろうこの結果は、身から出た錆というか、企業側の問題に過ぎません。酒に罪はないのですが、親の評判で苦労する子供を見るような気持ちになりますね。


だらだら書いてしまいましたが、アメリカの蒸留所のなかに素晴らしい一樽が眠っているというのは確かにその通りで、このジャンルにもう少し目を向けるべきとも感じています。
ただスコッチに比べると、日本に入って来ていない銘柄がアメリカンウイスキーには多く、トップ銘柄をテイスティング出来る機会はまずないだろうとも思います。
ですが、このジャンルの特徴は、同じ蒸留所で作られた類似系統の銘柄が結構あるということ。
バッファロー・トレース蒸留所であれば、ブラントン・ゴールドや、ジョージTスタッグJr等、比較的入手しやすいものもあります。
また受賞銘柄以外では、最近メーカーズマークのプライベートセレクトが多数リリースされていて、これもなかなか良くできているバーボンです。
2020年は、ジャパニーズのクラフト各社から3年熟成がリリースされる年で、その成長を見ると共に、この辺りを追いかけてみるのも面白いと思います。


【ウイスキーバイブル2020 全カテゴリーウィナーリスト】
■SCOTCH WHISKY
・Scotch Whisky of the Year
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・Single Malt of the Year (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・Single Malt of the Year (Single Cask)
The Macphail 1949 China Special Edition 1

・Scotch Blend of the Year
Ballantine’s 17 Years Old

・Scotch Grain of the Year
The Last Drop Dumbarton 1977

・Scotch Vatted Malt of the Year
Glen Castle Blended Malt 1990

■SINGLE MALT SCOTCH WHISKY
・No Age Statement
Glen Grant Rothes Chronicles Cask Haven

・10 Years & Under (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 10 Years

・10 Years & Under (Single Cask)
Annandale Man O’ Sword

・11-15 Years (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 15 Years Batch Strength

・11-15 Years (Single Cask)
Signatory Vintage Edradour Ballechin 12 Year Old

・16-21 Years (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・16-21 Years (Single Cask)
Whisky Castle Glen Spey Aged 21 Years

・22-27 Years (Multiple Casks)
Glenmorangie Grand Vintage 1996

・22-27 Years (Single Cask)
The Whisky Shop Glendronach Aged 26 Years

・28-34 Years (Multiple Casks)
Ben Nevis 32 Years Old 1966

・28-34 Years (Single Cask)
Gordon & MacPhail Inverleven 1985

・35-40 Years (Multiple Casks)
Port Ellen 39 Years Old

・35-40 Years (Single Cask)
Glenfarclas The Family Casks 1978 W18

・41 Years & Over (Multiple Casks)
Glen Scotia 45 Year Old

・41 Years & Over (Single Cask)
The Macphail 1949 China Special Edition 1

■BLENDED SCOTCH WHISKY
・No Age Statement (Standard)
Ballantine’s Finest

・No Age Statement (Premium)
Johnnie Walker Blue Label Ghost & Rare

・5-12 Years
Johnnie Walker Black Label 12 Years Old

・13-18 Years
Ballantine’s 17 Years Old

・19 – 25 Years
Dewar’s Aged 25 Years The Signature

・26 – 50 Years
The Last Drop 56 Year Old Blend

■IRISH WHISKEY
・Irish Whiskey of the Year
Redbreast Aged 12 Years Cask Strength

・Irish Pot Still Whiskey of the Year
Redbreast Aged 12 Years Cask Strength

・Irish Single Malt of the Year
Bushmills Aged 21 Years

・Irish Blend of the Year
Jameson

・Irish Single Cask of the Year
Kinahan’s Special Release Project 11 Year Old

■AMERICAN WHISKEY
・Bourbon of the Year
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon

・Rye of the Year
Thomas H. Handy Sazerac 128.8 Proof

・US Micro Whisky of the Year
Garrison Brothers Balmorhea

・US Micro Whisky of the Year (Runner Up)
291 Barrel Proof Colorado Whiskey Aged 2 Years

■BOURBON
・No Age Statement (Multiple Barrels)
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon

・No Age Statement (Single Barrel) Colonel E H Taylor Single Barrel Bottled In Bond

・9 Years and Under
Russell’s Reserve Single Barrel

・10-12 Years
Elijah Craig Barrel Proof Aged 12 Years

・11-15 Years
Pappy Van Winkle 15 Years Old

・16-20 Years
Michter’s 20 Year Old Kentucky Straight Bourbon

・21 Years and Over
Pappy Van Winkle 23 Years Old

■RYE
・No Age Statement
Thomas H. Handy Sazerac 128.8 Proof

・Up to 10 Years
Knob Creek Cask Strength

・11-15 Years
Van Winkle Family Reserve 13 Years Old

・Over 15 Years
Sazerac 18 Years Old

・Single Cask
Knob Creek Single Barrel Select

■CANADIAN WHISKY
・Canadian Whisky of the Year
Crown Royal Northern Harvest Rye

■JAPANESE WHISKY
・Japanese Whisky of the Year
Nikka Taketsuru Pure Malt

・Single Malt of the Year (MB)
The Matsui Mizunara Cask

■EUROPEAN WHISKY
・European Whisky of the Year (Multiple)
Thy Whisky No. 9 Bøg Single Malt (Denmark)

・European Whisky of the Year (Single)
Penderyn Single Cask no. M75-32 (Wales)

■WORLD WHISKY
・Asian Whisky of the Year
Nantou Distillery Omar Bourbon Cask #11140804 (Taiwan)

・Southern Hemisphere Whisky of the Year
Bakery Hill Peated Malt Cask
Strength (Australia)

※上記画像、ならびに受賞リストは以下から引用しました。

三郎丸蒸留所 一口カスクオーナーを追加募集 7/5から

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7月1日、昨年に引き続き募集のあった、三郎丸蒸留所の1口樽オーナー制度。
同蒸留所の原酒をバーボン樽(バッファロートレース、ウッドフォード)でそれぞれ熟成させ、2本のシングルカスクウイスキーが5年後に手元に届くというもの。
昨年は数日で、今年は僅か1日で200口が埋まってしまい、その関心の高さが伺える結果となりました。

完売するとは思ってましたが、まさか即日とは。。。
思わぬ反響を受け、三郎丸では追加のオーナー50口を7月5日10時から募集するとのこと。
前回溢れてしまった方は必見ですね。

※応募はこちらから。

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この光景、新生三郎丸をまさにプロジェクト初期から見てきた自分にとって非常に感慨深いものがありました。
今から3年前、三郎丸がクラウドファンディングで改修資金を募った時。これまでのウイスキーの出来から、懐疑的な意見を述べる愛好家は少なくなく。昨年の原酒を飲むまで、自分もあれ程のものが出来るとは思ってなかったんですよね。(面白いものを持っているから、可能性は間違いなくあるとは某パンチョンの人と話していましたが。)

今、一度でも新生三郎丸のニューメイクを飲んだことがあるウイスキー関係の方であれば、少なくとも昔とは違うというイメージの払拭と、前向きな印象を持たない方は居ないと思うのです。
その点、小口でもカスクオーナーになれるという今回の試みが魅力的で、即完売するのも自然な流れだと思います。

一方、三郎丸蒸留所では今年の仕込みにかけて大規模な改修を実施しており、業界初の「鋳造製ポットスチル(ZEMON)」を2基導入。これまではステンレスと銅のハイブリット構造なスチル1基で初留も再留も行っていたところ。スチルを入れ換えて一般的な蒸留所と同様、初留と再留を同日に蒸留が出来るようになっています。

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(ポットスチル新旧。ネック角度と長さ、ラインアームの構造などは以前を参考に設計してあるとのことだが、鋳造という製造方法に加え、銅と錫の合金という新しい要素が酒質にどう作用するかは未知数。)

現在カットポイントや温度を探りつつ蒸留を行っている最中ということですが、昨年の酒質からどんな変化があるのか。実は後日伺う予定があるので、早速確認してきます。
本当は樽オーナー募集開始前に確認できていれば良かったのですが。。。きっと稲垣マネージャーのことです。今回も良いものを仕込んでくれていると期待しています。

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キリン 富士山麓 樽熟原酒 50% 終売を発表 後継品は未定

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いい奴から居なくなる、昨今のウイスキー業界はベタな脚本を見るようです。
富士山麓は2005年にキリンウイスキーの顔になるブランドとしてリリースされ、今から約2年前にリニューアル。値上げを兼ねてはいましたが、それでもコスパ抜群とファンに受け入れられていた人気銘柄「キリン 富士山麓 樽熟原酒 50%」が来年3月に終売となる報道がありました。

ウイスキー原酒不足拡大 キリン、一部販売終了へ(日経新聞 11/28)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO38267140Y8A121C1EAF000?s=2

この終売情報は今月初旬くらいには酒屋に流れており、既に出荷規制中との話も。自分も先日のウイスキーフェスで裏を取らせてもらっていたところでした。
で、いつ記事にするかと下書きを作っていたところにこの報道です。思ったよりも発表が早かったですね。


終売の経緯は「ハイボールブームによる原酒不足」となっていますが、もう少し紐解くと、先日リリースされた上位グレード「富士山麓シグニチャーブレンド(想定価格:5400円)」に原酒を集約するため。
ブレンドの軸に使われる原酒の熟成年数は違いがありますが、シグニチャーブレンドはNA仕様で、特にグレーンは短熟でもそれなりに仕上がるため、数年後を見据えた場合リリースの安定に繋がるのでしょう。

また、昨今原料等の価格上昇から、国産にしろ輸入にしろ原酒の価格も上がっている状況で、採算を考えての決定もあるものと思われます。
50%とエントリーグレードながら高度数設定もウリでしたが、その分酒税も高かったのが富士山麓樽熟原酒。1700円前後を店頭想定価格としつつも、最近ディスカウントショップなどでは税込1500円程度で売られていることもしばしばあり。
別途キリンが販売している御殿場モルト・グレーンや、他のウイスキー価格を調べていただければ(カラクリもおおよそ察しがつくものとは思いますが)、儲け出てるんだろうかと疑問に思っていたくらいでした。終売の事前情報も、驚きはすれど意外ではなかった、というのが率直な感想です。

これらを踏まえると、今年に入りシグニチャーブレンドをショップ限定品から通常流通に切り替えていたのは、樽熟原酒の終売に向けた一手であり、キリンウイスキーの看板とも言える「富士山麓」ブランドを存続させるためでもあったのではないかと考えられます。

(今回終売の富士山麓樽熟原酒50%と2018年8月に一般販売を開始したシグニチャーブレンド。右のピュアモルトはキリン・ドリンクスの限定商品。)

なお、終売となる代わりに富士山麓関連の新商品があるかというと・・・何かしら動きがあるのは記事でも書かれているとおりなのですが、裏を取りきれておらず詳細は不明です。
記事中では次世代に向けて原酒の保全にも動くとあり、加えて上記の経緯を考えると、50%の高度数を維持した商品では確実に値上げでしょうし、価格を維持するなら40〜45%くらいで、使われていたうち熟成した原酒はシグニチャーブレンドに寄せ、残りの原酒で作れるもの。。。例えば「薫風」や「オークマスター樽薫る」の上位グレードあたりではないかと予想します。

余談ですが、キリン以外でもう1銘柄終売だか休売になるという噂もあります。こちらも確認が取れていませんが、ひょっとすると近いうちにまた紙面を賑わすのではないかと考えられます。
ウイスキーブームはオリンピックあたりまで続くとは思うのですが、各社の息切れ具合が、反動となって後の冬の時代に繋がらなければとただただ心配です。

ジャパニーズウイスキー「響」のフェイクボトル報道に思うこと

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いつか話題になるだろうと思っていた、ネットオークションにおけるジャパニーズウイスキーのフェイクボトル。その逮捕者が出たというニュースが、本日配信されています。

中身は別のウイスキー 偽「響30年」販売容疑で逮捕(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL8P41T0L8PONFB006.html

自分がウイスキーを本格的に飲み始めた2010年頃、フェイクボトルと言えばスコッチでマッカランやスプリングバンク、あるいは陶器瓶のラガヴーリンなど、海外から買い付けるような一部のレアなボトルに限られていました。
代表的なものが、昨年ニュースにもなった100年前のマッカランとかですね。
国内ではマッカラン30年ブルーラベルが話題になるくらいで、よほど高額なものでなければフェイクづくりは割に合わないというのが定説だったとも記憶しています。

ところが、近年のジャパニーズウイスキーブームを受けて、まずはイチローズモルトのフェイクと思しきボトルがヤフオクなどで見られるようになり。スコッチモルトも高騰し始めた結果、近年リリースでもフェイクを疑われるボトルが徐々に増えていました。
そして極め付けが、今年発表された白州、響の休売ニュース。海外からの買い付けで流通価格の数倍という価格高騰を引き起こした結果、メルカリやヤフオクの所謂転売系の出品物に明らかにフェイクと思しき響17年以上が混じり始めたのです。(メルカリの方が多い印象。)
それは散見というほどの数はないものの、事件化することは時間の問題だったようにも思います。


疑わしきは・・・ということで、この場でWEB上に出品されている(されていた)ボトルを名指しすることはできませんが、例えば最近メルカリやヤフオクで見かけた響で、明らかに怪しかったモノの特徴は以下の通り。

①開封済みである。
②液面が通常より高い。
③撮影の影響を差し引いても、色が濃いor薄い。
④ラベルが張り直されたような跡がある。
⑤キャップシールのデザインが異なる。

はっきり言って、上述のレアなオールドボトルのそれと比べると殆どは雑なフェイクであり、個別に解説するまでもありません。ラベルをルーペで拡大したり、キャップシールを一部切り取ってコルクの状態を確認しないと認識出来ない精巧なフェイクに比べれば、あまりにも稚拙。
現時点ではキャップシールまで複製して詰め替えているようなケースは少なく、①、②、③がセットになっていたりで、笑いのネタにすらなるレベルです。

他方、④や⑤は解説の余地があるので少し述べていくと、まず④は最安価の響ジャパニーズハーモニーのラベルを剥がし、響17年以上のグレードのラベルを調達(あるいはプリント)して貼り直した、所謂ニコイチと思われるものです。
響はボトルのカットがグレード毎に変わるのと、ウイスキーの色合いもジャパニーズハーモニーと17年以上では異なるため、注意して見ればわかるのですが・・・。以前あったこの怪しい出品物は、残念ながら落札されていました。
また、⑤については、今回ニュースになっているケースが該当すると思われるもの。響のキャップシールは現行品だと斜めにカット(30年は垂直)が入り、HIBIKIなどの印字があるのですが、それらが全くないのっぺらぼうなモノがありました。

そして、このような市場状況が続くと確実に増えてくるのが、先に述べた「精巧なフェイク」です。
既に高額なジャパニーズウイスキーの空き瓶が、オークションなどで数万単位の価格でも落札されており、その行き先は純粋なコレクターだけとは思えません。
キャップシールを複製して詰め替えされると、少しでも液面の高さ、色合いをごますように見える写り具合のような、怪しいところがあれば購入しないという予防策を取る以外に手はないのです。

これまで海外から調達されてしまったオールドボトルのフェイクは、泣き寝入りするしかなかったケースが殆どであるように思います。現在は逆に、海外の愛好家がジャパニーズのフェイクを掴んでしまったという悲しい話もあります。
しかし現行品で国内となれば、明確なフェイクは責任の所在を辿ることはある程度まで可能であると思います。

今回のケースは、まさに氷山の一角。容疑者らが悪意を否定している状況(偽物と知ってたけど、騙す気はなかったって、弁明にならんがな。。。ってか何入ってたんだ)ですが、少なくとも逮捕者が出たことで、フェイクの出品に歯止めがかかってくれることを期待したいです。

若鶴酒造関連会社がリラックスとウイックを子会社化 洋酒部門強化へ

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今朝のニュースで興味深い記事があったので、紹介させてもらいます。
北陸コカコーラボトリングの協力会社であるGRNが、洋酒等の並行輸入・販売における国内主要企業のリラックス、及びその子会社でウイスキー業界ではお馴染みのウイックら2社を子会社化したという話題です。

洋酒、ワイン、仕入れ拡大 GRN輸入卸売2社子会社化(6/5 北陸新聞)

ウイスキーを飲み始めたばかりの方々には馴染みがないかもしれませんが、ある程度飲んでいる方や業界の方なら必ず一度は手にとっているであろうウイック社卸売のボトル。
今回ピックアップしたいポイントは、今後同社の販売の拠点が北陸に移る可能性・・・というより、GRN社が三郎丸蒸留所を操業し、ウイスキー製造を手掛ける若鶴酒造の親会社でもあること。そして今回の子会社化を経た後のグループ全体としての規模にあります。
各社の正式な役割分担等は株式取得前でまだ不明ながら、調達・販売の機能と選択肢が強化され、大きな動きに繋がることは間違いありません。

近年、日本全国で産声を上げるクラフトディスティラリーにとって、ウイスキーづくりの技術向上は勿論重要ですが、製品の販路に加え、樽や各種物資、ブレンド用原酒などの調達先の確保も同じくらい重要です。
GRN社のニュースは、若鶴酒造がそれを商社経由だけでなく関連会社も含めて行える事になり、ルートが今まで以上に広がるという事が一つ。加えて、その企業の特色として例えばリラックスは各種ワインの輸入にも実績があるわけですが、グループのバックホーンで並行品ではなく正規代理店契約も結べる状況となると、ウイスキーの熟成に使えるシェリーやワイン樽などの調達ルートの開拓にも繋がり、ウイスキーづくりの選択肢が広がることも期待出来ます。

さらにGRN社側に目を向けると、グループとして元々持っていた機能を合わせれば、酒類全般の輸出入・製造・提供を可能とする一大勢力が誕生する可能性も。。。今回の記事は若鶴酒造視点メインで書きましたが、興味がある方はGRNについても調べて見てください。


"ジャパニーズウイスキーブーム"と言っても、一般市場で消費される大半は大手製品。特に居酒屋で飲まれるような、角、トリス、ブラックニッカなどが中心であり、残された市場をクラフト勢が取り合う状況に変わりはありません。
その為、クラフト勢は地元の市場に基盤を作りつつ、ローカルアイドルがメジャーデビューしていくようにじわじわ支持を広げていく必要があるわけですが、主要な市場、酒販店や飲食店への販路が確立しているということは、大きなアドバンテージとなります。

今回のニュース地方紙5面のローカルな記事ですが、酒販関係者を中心に業界としては何気に大きな話じゃないかと、  朝からテンションが上がってしまいました
記事全体を通してふわふわした書き振りになっているのは、未定な部分があるのもそうですが、純粋に規模感が大きすぎて書ききれないのです。
自分としては今後、北陸からウイスキー業界に新しい流れが出来てくることを、いち愛好家として楽しみにしています。(コアユーザー向けはモルトヤマもありますし、ウィック社製品の扱いが増えるかな?)


さて、その三郎丸蒸留所ですが、2年目の仕込みに向けて、マッシュタンとその関連設備を新調する工事が行われました。
昨年のリニューアルと合わせ、これでぐっと製造環境が近代化しましたね。過去の密造時代一歩手前のような設備を知っている自分としては、中々感慨深いものもあります。


若鶴酒造では次週11日から試験的な仕込みを行い、準備を整えていくそうです。
まだ具体的なリリースがないため、同社の原酒は市場的に未知数なところはあるものの、昨年仕込みのニューメイクを飲んだ限り、ヘビーでピーティーで、どのジャパニーズとも異なる面白い原酒が生まれています。
ここに生産設備が新調され、発酵過程が安定すれば、さらに洗練された原酒を作ることができるという期待もあります。

ウイスキーの仕込みは夏場のみである同社ですが、通常の見学対応は勿論、レセプションホールである大正蔵で、映画「ウイスキーと2人の花嫁」の上映会を行なったり、5月には同社敷地内でバッカス富山も開催されるなど、活動は広く行なっています。
また、ウイスキーのリリースとしては先日レビューした蒸留所限定のブレンダーズトライアルをはじめ、ムーングロウのセカンドリリースLimited Edition 2018がリリースされたばかり。
関東にいるとどうしても情報が届きにくいのですが、活動実態はなかなかどうして精力的なのです。


2018年は若鶴酒造にとって、創業100周年となる大きな節目の年でもあります。
その年に今後に向けた動きの一つが、今回のニュース。
思い返せばプロジェクトリーダーの稲垣さんの熱意に共感し、蒸留所改修のためのクラウドファンディングを紹介をさせて頂いた時から2年目少々、気がつけばどんどん大きな動きになっていく北陸のウイスキームーブメント。
今後どのような形を成していくのか、その動きに引き続き注目していきたいです。

※当記事の写真は撮影者の許可を得て使用しています。

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