タグ

タグ:スコッチ

アーストン 10年 アイルサベイ 40% シーカスク & ランドカスク

カテゴリ:
IMG_1595

AERSTONE 
AILSA BAY DISTILLERY 
SINGLE MALT SCOTCH WHISKY 
Aged 10 years 
700ml 40% 

SEACASK "SMOOTH AND EASY"

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかでフルーティー。洋梨やすりおろし林檎を思わせるオーキーなアロマに、ナッツ、麦芽の白い部分の香り。微かに乾草のような乾いた植物感と土の香りがアクセントとして混じる。

味:口当たりは柔らかくスムーズだが、40%の度数以上にリッチでコクとしっかりと舌フレーバーがある。蜂蜜を思わせる甘み、麦芽風味が粘性をもってしっかりと舌の上に残りつつ、オークフレーバーのドライな華やかさが鼻孔に抜けていく。余韻は土っぽさと乾草のような乾いた植物感、微かにスモーキーでビターなフレーバー。序盤の甘みを引き締め、穏やかだが長く続く

アイルサベイ蒸留所の原酒を、同蒸留所の熟成庫で熟成させたもの。一言でグレンフィディック12年を思わせる構成だが、それ以上に厚みがあり、味わい深い。樽構成としては、バーボン樽だけでなく、リフィルシェリー樽の香味もアクセントになっているのだろう。グレンフィディックの華やかさにバルヴェニーの麦芽風味や甘みを足したような、両者の良いとこどりで今後が楽しみな酒質である。
コストパフォーマンスにも優れており文句のつけようがないが、SEA CASKに由来するフレーバーについては難しい。しいて言えば、味わいのコク、舌の上に残るそれが塩味の一要素と言えなくもないか・・・。このリリースに塩気を感じることが出来る感度の味覚を自分は持ち合わせていない。


LAND CASK "RICH AND SMOKY"
評価:★★★★★(5)

香り:やや酸の混じったスモーキーなトップノート。若い原酒特有のゴツゴツとした質感のあるピート香で、土系の香りと合わせて、焦げた木材、クレゾール、根菜的なニュアンスも混ざる。奥には麦芽とオーキーなアロマ、レモンやグレープフルーツを思わせる要素もあり、スワリングで主張が強くなる。

味:オイリーで柔らかいコクと甘み、燻した麦芽のほろ苦さとスモーキーさと、ほのかに柑橘系のフレーバーのアクセント。序盤はピートフレーバーと麦芽風味に分離感があるが、後半にかけて馴染む。余韻はスモーキーで微かに植物系のえぐみ、根菜っぽさを伴う。

アイルサベイ蒸留所の原酒を、グレンフィディック、バルヴェニー留所の熟成庫で熟成させたもの。
ピートフレーバーのしっかり備わったモルトで、樽構成含めて過去にリリースされたオフィシャルボトルと同じベクトル上にある1本で、おそらくピートレベルは20PPM程度。他社シングルモルトで類似の系統を挙げるなら、レダイグやポートシャーロット。根菜や焚火の煙、内陸ピートの強い主張に対し、酒質は柔らかく、麦芽の甘みがしっかりと広がる点も特徴と言える。なお、香りはこれらが合わさって複雑なアロマを感じられるが、味の面では少々分離感があるため、ストレートよりハイボール等がお薦め。

IMG_1593

IMG_1905

2007年に稼働した、ローランド地方・アイルサベイ蒸留所から10年熟成のシングルモルトリリース。海辺と内地山間部、2か所で異なる酒質のものを熟成させた、これまでにないコンセプトのウイスキーです。2018年頃に発売されていたのですが、マイナー蒸溜所ゆえに日本に入ってくるのが遅かったのでしょう、今年に入ってからようやく市場で見られるようになりました。

アイルサベイは、グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィを有するグランツ社が、同社のグレーン蒸溜所であるガ―ヴァンの敷地内に建設した蒸留所です。
グランツ社は、その名を冠するブレンデッドウイスキー・グランツを中心としたブレンド銘柄を、バルヴェニーやキニンヴィ蒸留所の原酒を用いてリリースしていたところ。近年、シングルモルトとしてブランドを確立していたグレンフィディックに続き、バルヴェニーも需要が増えてきたことで、新たにブレンデッド用のモルト原酒を調達する必要が生じていました。

また、同社は傘下にピーティーな原酒を作る蒸留所が無く、ブレンドの幅を広げ、需要が増えているスモーキーなブレンデッドウイスキーのリリースに必要な原酒の確保も課題であったと言えます。
そこで建設・稼働させたのが、このアイルサベイ蒸留所でした。稼働後しばらくはリリースがありませんでしたが、2016年頃にピーティーなシングルモルトをリリース。しかしこれが魅力のある仕上がりだったかと言われれば…SPPMという酒質の甘さを示す指標など、面白いコンセプトはあるけど、やはりブレンド用かなと、あまり惹かれなかったことを覚えています。



その後、アイルサベイ蒸留所については特に調べることもなく、アイルサベイ=ピーテッドモルトだと早合点してしまっていたのですが。。。今回のレビューを書くにあたり、前回から5年越しで蒸留所の全容を把握。グランツ社の原酒調達にかかるロードマップと、アイルサベイ蒸留所の真の姿をようやく認識にするに至りました。

現在のアイルサベイは、16基のポットスチルを持つローランド最大規模の蒸留所。スチルはバルヴェニー蒸留所と同様の形状をしており、ブレンドに用いられる原酒の代替を目的の一つとしています。また、仕込み工程全体では、バルヴェニータイプのモルト以外の原酒を仕込むことも可能なように設計されており、ピーテッドモルトは千重の一重でしかなかったということになります。

aerstone_web

今回のレビューアイテムであるアーストン10年のSEA CASKとLAND CASKは、この2種類をテイスティングすることで、先に触れたアイルサベイ蒸留所のハウススタイルと可能性を味わうことが出来る、実に面白いリリースとなっています。

SEA CASKが、数PPM程度で華やかな風味を主体とするスペイサイドタイプの原酒であるのに対し、内地で熟成させているLAND CASKが20PPM程度でスモーキーさの際立った仕上がりなのは、海=アイラ、アイランズ=ピーティーと言うスコッチモルトに対する一般的な認識からすれば、「逆じゃない?」と思えなくもありません。
ですが、アイルサベイ蒸留所は下の地図でも明らかなように元々海辺に建設されていることや、バルヴェニー蒸留所の原酒を代替する目的があります。つまりアイルサベイ蒸留所で仕込み、熟成させているスタンダードなモルトなのだとすれば、このリリースの位置づけもなるほどと思えてきます。

一方で、精麦設備を持つバルヴェニー蒸留所では、1年間のうち、内陸のピートを焚いて麦芽を仕込んでいる期間があります。これを用いることで、これまでグレンフィディック、バルヴェニー両蒸留所では、少量ながらピーテッドモルトのリリースも行われてきました。
アイルサベイ蒸留所で用いられているピート麦芽が、バルヴェニー蒸留所で仕込まれているとすれば、熟成されているLAND CASK=ピーテッドモルトと言うのも、わからなくもありません。
…公式ページに説明がないので、あくまで個人的な推測ですが(汗)。

aerstone_warehouse

両リリースをテイスティングすることで見えてくる共通する特徴は、コクのある甘み、麦芽風味。SPPMという指標を用いて管理されているほど、蒸溜所としてこの点を意識しているように感じます。
そして今回のリリースだけで判断はできないものの、狙い通りの酒質に仕上がっていというか、それ以上のものを生み出してくる可能性もあると言えます。

実際、SEA CASKはアメリカンオークに由来する華やかさと、蒸溜所の特徴である麦芽由来のフレーバーが合わさって、蜂蜜のような甘みや、洋梨や林檎を思わせるフルーティーな個性。樽構成の違いからか、少し乾草のようなフレーバーも混ざりますが、ドライ寄りなフレーバーが強くなった現行品ではなく、20~30年前流通のグレンフィディックやバルヴェニー蒸留所のモルトを思わせる、40%加水とは思えないフレーバーの厚みが魅力です。正直3000円台のシングルモルト現行品で、このクオリティは素晴らしいです。

一方でLAND CASKはちょっと若いというか、単体では麦芽の甘みに対してピートフレーバーの分離感があるため、現時点では個性を楽しむという飲み方に。ただ、SEA CASKと比較したり、ハイボールにしたり、あるいはそもそもの目的であるブレンドに使われていくなら、力を発揮するでしょう。
ピートと麦芽、その2つの個性の間を他の原酒やグレーンが埋めて凸凹が合わさるようなイメージですね。実際LANⅮとSEA CASKに10年熟成のグレーンを適当にブレンドして遊んでみましたが、悪くありませんでした。既にグランツからピーテッドがリリースされているので、構成原酒としてセットで飲んでみるのも良いと思います。


海の塩気と陸の土っぽさ、みたいな熟成環境によるフレーバーの違いを感じるのがリリースの狙いかと思いきや、構成している原酒のコンセプトから違うという奇襲を受けた本リリース。
というか、SEA CASKのほうに塩気を感じられるかというと、そもそも熟成期間を通じて人間が感知できるだけの塩分量(塩味の認識闘値:1リットルあたり0.585gとして、海水の塩分濃度3.4%から計算すると…)が樽の中に入り込むには無理があります。加えて熟成環境以外の要素として、ピートも極少量で、加水も衛生面で基準値を満たした水が使われているという条件下では、ちょっと一般人の味覚嗅覚では困難なのではないかと考えられるわけです。

他方で環境の違いが温度や湿度にあると考えるなら、アイルサベイ蒸留所はバルヴェニー蒸留所に比べて若干ながら温暖な環境が予想されるため、例えば樽由来のフレーバーが強く出る等の効果も期待できます。結果として、SEA CASKでは予想以上の完成度と、LAND CASKでは面白さと可能性を楽しむことが出来たので、このリリースは先入観を持たず、あくまで今後グランツの主要原酒となるアイルサベイ蒸留所の2つのキャラクターとして楽しむのがお薦めです。

バランタイン17年

カテゴリ:
IMG_1107

BALLANTINE'S
AGED 17 YEARS 
BLENDED SCOTCH WHISKY 
Lot 2020~
750ml 40% 

評価:★★★★★(5-6)

香り:ややドライで穏やかな香り立ち。洋梨や林檎等の白色果実を思わせる華やかでフルーティーなオーク香、乾燥した乾草や穀物のような軽く乾いたウッディネス。

味:コクがあってクリーミー、スムーズな口当たり。オーキーで華やかな含み香、グレーン由来の蜜のような甘さ、熟成したモルトの甘酸っぱさがアクセントにあり、微かなスモーキーさとほろ苦いウッディネスがじんわりと残る。

穏やかでバランスの整った味わい。アメリカンオークで熟成された内陸モルトらしい、華やかでフルーティーな香味と、グレーンのコクのある甘みが混ざり合い、近年のトレンドとも言えるキャラクターを形成している。
面白みは少ないが、実に飲みやすい。飲む温度によってキャラクターに変化があり、20度以上ではグレーンがオークフレーバーを後押ししながら前に出て、クリーミーな質感が強調される。一方で、20度未満だと線が細く爽やかな味わいとなり、ロックやハイボール等、冷やして飲むことでも強みが発揮される。繊細なバランスの上に構築された、ガラス細工のようなブレンドながら、飲み方とシーンを選ばない、ブレンダーの技が光る1本。

IMG_1501

ザ・スコッチことブレンデッドスコッチウイスキーを代表する銘柄の一つである、バランタイン17年。
ジョニーウォーカー、シーバスリーガルと並んで、日本では”ど定番”とも言えるブレンデッドスコッチウイスキーですが、そのためか現行品をちゃんとテイスティングしたことがあるという人は少ないようにも感じます。

バランタインというと、マニアな愛好家ほど、赤青紋章、赤白紋章と、オールドボトルをイメージしてしまうかと思います。
実際、現行品とオールドのバランタインと比べると、モルト由来の香味はライトになり、それをグレーンの甘さで補っているところや、60~70年代のものと比較するとスモーキーフレーバーもかなり控えめで、癖が無いというか、面白みがないというか・・・愛好家の琴線を刺激する個性は強くありません。

ですが、軸となっているグレンバーギーに由来する華やかさや、近年のトレンドの一つと言えるオーキーなフレーバーは昔のリリース以上に際立っており、まさに王道と言える構成。じっくりテイスティングすれば、ミルトンダフやトファースに由来する麦芽風味が感じられるだけでなく、こうしたモルトの香味をまとめ、どう飲んでも崩れないバランスの良い味わいは、他有名ブレンドとは異なる造りと言えます。
ジョニーウォーカーが力のブレンドなら、バランタインは技のブレンドです。その場を壊さない、わき役としての働きから、飲み手の経験値に応じて表情も変わる。時代によって原酒の違いはあっても、ブレンダーの技は変わらない。現行品であっても楽しめるウイスキーなのです。


酒育の会 Liqul 
Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.13
バランタイン17年 ブレンドの奥深さと”魔法の7柱の真相”

https://liqul.com/entry/5700

そんなわけで、先日公開されたLiqulのコラム 「Re-オフィシャルスタンダードテイスティング」では、バランタイン17年を取り上げてみました。
前半部分はバランタイン17年の個性や楽しみ方についてということで、あまり捻った内容にはなっていませんが、重要なのは後半部分です。

バランタイン17年と言えば、”The Scotch”に加えてもう一つ、”魔法の7柱(Ballantine's magnificent seven)"という構成原酒に関する通称があり、主観ですが、日本においては後者のほうがメディア、専門書等で多く使われている表現だと感じます。
魔法の7柱は、バランタイン17年が誕生した1937年からの構成原酒とされ、まさにバランタインのルーツという位置づけなのですが、実際はどうだったのでしょうか。本当に7蒸溜所の原酒がキーモルトとして使われていたのか。当時の状況を、各蒸溜所の操業期間や市場動向などを参照しつつ、考察した記事となっています。

要点だけまとめると、
・1937年当初、バランタイン17年は、”魔法の7柱”を用いてリリースされていなかった。
・主に使われたのは、グレンバーギーとミルトンダフ。
・残る5蒸留所は、1950年代のブランド拡張時期に結びつき、実際に7蒸溜所がキーモルトとして使われたのは1968年~1980年代後半まで。
・魔法の7柱のうち、バルブレア、プルトニーの操業期間が考察の鍵。
・1987年以降はブランドが他社に移行。構成原酒が変化。

ということで、”魔法の7柱”は1950-60年代、ハイラムウォーカー社が輸出を拡大する際、原酒確保のために傘下とした5蒸溜所の情報が、元々あった2蒸留所と合わさって”構成原酒”として誇張(あるいは誤解)されて伝わったのではないかと。
つまり「魔法の7柱なんて最初はなかったんだよ!(ナッ、ナンダッテー)」と、ブランドエピソードの核心部分に踏み込んだ内容となっています。

ballantines1960_1990
(バランタイン魔法の7柱が使われていた時代の17年、1960年代から1980年代初頭のラベル遍歴。一番右のボトルは1980年代後半、アライド社時代のものであるため、レシピ、フレーバー共に異なる。)

ballantines_pr

ちなみに、”魔法の7柱”を誰が最初に使ったかと言うと、1942年設立の輸出管理団体SWA:Scotch Whisky Associationであるとされています(ただし、時期不明)。また、それを誰が日本国内に広めたかというと、調べた限り60年代から80年代にかけては、正規代理店であった明治屋の広告※上記参照 には該当する記述が見られず・・・。初めて情報が出てくるのは、1988年から正規代理店となるサントリー・アライド社の発信のようです。
参照:https://www.suntory.co.jp/whisky/Ballantine/chp-06-e.html

現在の市場を見てみると、”魔法の7柱”は欧州等他国でほとんどPRに使われていないこともあり、いわゆるマッカランにおける“ロールスロイス”と同じようなモノだったと考えられます。
サントリーが正規代理店になった当時、既にアードベッグが創業を休止していたりと、キーモルトは変わっていた時代なのですが…。(アライド社時代、公式ページのキーモルトには、ラフロイグの表記があった。)
それでも広まった魔法の7柱。語呂が良かったということもあるとはいえ、これぞ広報戦略だなと、考えさせられますね。

バランタイン構成原酒シリーズ

なお、現行品17年の公式ページからは”魔法の7柱”という表現は消えており、あくまで歴史上の1ピースという整理。キーモルトはグレンバーギー、ミルトンダフ、グレントファース、スキャパの4蒸溜所となっています。
紛らわしいのが「レシピは創業時からほとんど変わっていない」という説明ですが、このレシピというのは構成原酒比率ではなく、モルト:グレーン比率とかなんでしょう。このグレーン原酒についても、リリース初期に使われた原酒は不明で、1955年からはダンバードン蒸留所のものが使われていたところ。同蒸留所は2002年に閉鎖・解体され、現在はペルノリカール傘下、ストラスクライド蒸溜所の原酒を軸にしているようです。

これら構成原酒については、2018年から写真の3蒸留所のシングルモルトがバランタイン名義でリリースされたり、その前には〇〇〇エディション17年、という形で4蒸溜所の原酒を強調したレシピがリリースされるなど、ブランドがペルノリカール社傘下となってからは、新しい世代のバランタインをPRする試みが行われています。
ただ、新しい時代といっても、先に記載した通りグレンバーギー、ミルトンダフはバランタイン17年をブランド設立当初から構成してきた最重要原酒であり、実は核の部分は1937年から変わっていなかったりもします。量産分を補うため、トファースとスキャパが追加されていると考えると、実にシンプルです。

DSC06327

余談ですが、バランタイン・シングルモルトシリーズからスキャパ蒸溜所の原酒がリリースされなかったのは、同蒸留所が1994年から2004年まで操業を休止していたため(原酒そのものは、1996年からハイランドパークのスタッフが年間6週間のみアルバイトで操業しており、ブレンドに用いる量は最低限確保されていた)、シングルモルトに回すほどストックが無かったためと考えられます。後継品も出ていることから、少なくともシリーズの人気が出なかったことが原因…と言うわけではないでしょう。

休止の影響を受けた時代は2021年で終わりを告げ、来年以降は17年向けに確保できる原酒の量も増えてくることになります。バランタインは昨年17年以上のグレードでラベルチェンジを行ったところですが、また2022年以降どんな動きがあるのか。
香味だけでなく、現行の王道を行くスタイルを形成するブレンダーの技を意識して飲んでみると、面白いかもしれません。

オールドパー スーペリア 43% 近年流通品

カテゴリ:
FullSizeRender

Old Parr 
Superior 
Scotch Whisky  
2000-2010's 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:薄めたキャラメル、カステラの茶色い部分のような穏やかで色が少しついたような古酒系の甘やかさに、微かな鼻腔への刺激、スモーキーさを伴うトップノート。時間経過で熟成した内陸モルトに由来する品の良いフルーティーなアロマと熟成樽由来のウッディネスが開いてくる。

味:マイルドで軽いコクのある口当たり。シェリー樽由来のウッディさ、薄めたキャラメルや鼈甲飴、熟成したグレーンの甘みと香ばしいモルトの風味から、じわじわとビターで土っぽいピーティーさが染み込むように広がる。 
余韻は穏やかでありながら存在感のあるスモーキーさが鼻腔に抜け、ピートとウッディなほろ苦さ、口内をジンジンと刺激する。

ウイスキー愛好家の中で話題になることはあまりない1本だが、それは日本市場において本ブランドのギフト向けと言う位置づけや、ブレンデッドのノンエイジという外観からくる印象もあったと推察。
しかし、中々どうして香味は多彩で味わい深く、熟成したスペイサイド、ハイランドモルトがもたらすフルーティーさや、若干アイラ要素を伴うピーティーな原酒がいい仕事をしている。ストレートも悪くないが、加水やロックで飲むと”場を壊さない味わい”をゆったりと楽しめる。さながら潤滑油としてのウイスキーである。

IMG_0477

近年まで日本市場におけるオールドパーの定常ラインナップにおいて、上位グレードに位置付けられていた1本。シルバー、12年、18年クラシック※、そしてこのスーペリアですね。※ブレンデッドモルト仕様だった18年クラシックは2015年頃に終売。
モノはアメリカ市場向けとして作られていたため、日本の正規品であっても750ml仕様がスタンダード。というか、1980年代以降のオールドパーはアメリカ、メキシコ、アジアと関連する免税店を含む地域への輸出向けのブランドとなっているため、ヨーロッパ向けスタンダードである700ml仕様は造られておらず、日本向けも全て750mlとなっているのが実態としてあります。

さて、スーペリアが「販売されていた・・・」として過去形なのは、2019年11月にディアジオが日本市場向けオールドパーのブランド・リニューアルを発表するとともに、終売となっていた18年をブレンデッドウイスキーとして復活。そのラインナップにスーペリアはなく、一部酒販では製造終了の文字も見られるようになったためです。
中身がどれだけよくても、熟成年数表記があるほうが高級感が出るし、12年との違いも分かりやすいためでしょうか。現時点で日本向け公式サイトに情報は残っているようですが、今回のブランド戦略の変更と共に、徐々にフェードアウトしていく流れが見えます。
ご参考:オールドパー、リニューアルのお知らせ (oldparr.jp)


スーペリアは熟成した原酒のみならず、若い原酒まで幅広く用いることで、深みとコク、熟成感だけでなく、若い原酒に由来する骨格のしっかりした味わいを両立しようとブレンドされています。
こうしてテイスティングしてみると、確かに、熟成した内陸モルトのフルーティーさ、シェリー樽に由来する甘さ、そして若い原酒の刺激は香りの奥、味では余韻でアクセントとして若干感じられる。また、アイラモルトに由来すると思われる染み込むようなスモーキーさも特徴的で、レビューの通り中々味わい深いブレンドに仕上がっています。

構成原酒としては、オールドパーはグレンダランとクラガンモアがキーモルトであるとされていましたが、現代はこの2つだけでなく、ディアジオ社が持つ様々な原酒が用いられているようです。
というのも、クラガンモアやグレンダランは、古くは麦芽風味に厚みがあり、内陸系のピーティーさも主張してくるような原酒でしたが、両蒸留所とも現代はライト化が進み、特に蒸溜所が建て替えられたグレンダランのキャラクターは1985年以降大きく変わっています。
そのため、フルーティーさはともかくピートは異なる原酒の力を借りなければ出てこない。。。
例えば、カリラやラガヴーリンといった蒸留所の短熟、中熟原酒を隠し味に、内陸原酒の中熟、一部長熟原酒(一部シェリー樽熟成を含む)をブレンドしたとすれば、こういう仕上がりにもなるのかなと予想しています。


余談ですが、オールドパーはリユース市場での流通量が多い銘柄の一つです。
それは先に書いたように、ギフトとして使われることが多い一方で、もらった人が飲まずに放出してしまうため。また、オールドボトルは状態がよくないモノが多いことでも知られているわけですが、となれば取引価格は下がっていきます。一方で、コルクキャップで金属臭とは無関係な近年流通品のスーペリアも割を食っているのか、手頃な価格で取引されていることが多くあります。(2次流通価格を基準とするわけではありませんが、本ブレンドは終売品でもあるので。)

レビューの通り中身は熟成した原酒がたっぷり使われた、安価なブレンデッドやモルトでは実現できない深みのある味わいです。
この手のブレンドは、シングルモルトやボトラーズリリース等の個性を楽しむモノではないので、単品では物足りなさがあるやもしれませんが、その場の主役になるのではなく、例えば知人との談笑の場、読書や観劇のお供といった、場を壊さず空気を温めるような潤滑油としての使われ方なら、充分なクオリティがあると感じます。
そんな需要があるようでしたら、是非リサイクルショップやオークションを探してみてはいかがでしょう。

ハンキーバニスター 8年 1970年代流通 特級表記 43%

カテゴリ:

IMG_20201117_091658

HANKEY BANNISTER 
YEARS 8 OLD
SCOTCH WHISKY 
1960-70's 
760ml 43% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後3か月程度
評価:★★★★★★(6)

香り:トップノートは黒砂糖やかりんとう、ほのかにみたらし、カラメルソース。香ばしい要素が混じる色濃い甘いアロマ。古典的なシェリー感の一つが軸となり、そこにデメラララムのようなグレーンの甘い香りも混じる。

味:適度なコクとまろやかさ。香り同様のシェリー系のフレーバーが広がる、まったりとしたリッチな味わい。余韻は軽いスパイシーさと、キャラメルソースを思わせる甘味、ほろ苦さ。奥に乾煎りした穀物、アイスコーヒーにあるような酸味を微かに。

年数表記以上の原酒もブレンドされているとは思うが、8年熟成とは思えないリッチな味わい。当時らしいカラメル系のシェリー感や加水の影響を受けながら個性を残す、香ばしくしっかりとしたモルティーさ、熟成したグレーンの甘みを感じられるのがこのブレンドの魅力である。グレンファークラスがキーモルトと言われても違和感は無いが、実態は不明。ストレートで。

IMG_20201117_091848

7月頃、ふと濃いめのオールドブレンデッドが飲みたくなり、開封したボトル。ハンキーバニスター8年のJAPAN TAX付き。
狙い通りの味なのですが、若干の引きこもりと金属っぽさがあったので、ワインコルクを刺して放置プレーしていました。気が付けば夏が終わり、秋も晩秋というところ。そういえばこの手のウイスキーを飲むには丁度いい時期になったなと。これもまた狙い通り、香りがしっかり開いて美味しく頂けています。

ハンキーバニスターのスタンダード品は、1980年代前後で原酒の傾向が大きく変わります。シェリー感が濃いのが1970年代までで、求める味は断然こっち。1980年代は15年等の上位リリースに原酒がまわされたのか、12年以下のグレードはシェリー感が淡くなり、リフィル系統の樽使いにシフトしたような印象を受けます。
撮影条件が違うので何とも言えませんが、過去に当ブログでレビューしたものと比較しても、その色合いから系統の違いを察していただけると思います。

e4b4c9f8
(1980年代のハンキーバニスター12年。色合いだけでなく、紋章の違いも時代考察材料。)

同銘柄は、日本では三越デパートを中心にギフト品として展開されており、今回のボトルにも三越のシールが貼られていますね。
ところが洋酒ブームの終焉をもって日本への輸入が途絶えたのか、あるいは88年に親会社がSaccone & Speed社からインヴァ―ハウス社となり、ターゲット市場が変わったか、90年代には姿を消していました。で、そのまま終売かと思い込んでいたのですが、最近はまた輸入が始まったようです。
調べてみると、本国ではリリースが継続されており、40年熟成品までラインナップにあるのだから、知らないウイスキーがまだまだあるなと思い知らされます。

ちなみにこのSaccone & Speed社は1982年にグレンファークラスの販売代理店となり、ラベルに同社の名前が書かれることが、オールドファークラスの時代考察材料としても知られています。
販売代理店になるくらいだから、それ以前から蒸留所との繋がりは深かったと考えられるものの、実は今回レビューする時代のハンキーバニスターのキーモルトが、ファークラスであるという記述はスコッチオデッセイ以外見当たらない。。。いや味的に違和感はないのですが。

なお同誌の記述によると、この銘柄が特に日本に入ったのは1980年代からだそうで、確かにリユース市場で見かけるのはそのあたり。
80年代なら、15年や21年は同様にとろんと甘いシェリー感があるのですが、熟成が進んだためか、陶器のため抜けているのか、味にメリハリが少ないのがこの8年との違いと言えます。
若い原酒も、古典的な樽感も、熟成した原酒もうまく使って仕上げられた、近年中々見られないブレンドです。



オールド・セントアンドリュース 12年 1980年代流通 特級表記 43%

カテゴリ:
Screenshot_20200602_082938
OLD St.ANDREWS 
SCOTCH WHISKY 
12 YEARS OLD 
1980's 
750ml 43% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:サンプル購入@ドーノック
時期:不明
評価:★★★★★(5)

香り:ややドライな香り。グレーン系の甘さ、ザラメや干し草。穀物感の強い香り立ちだが、奥にはシェリー樽を思わせるアロマ。古い油のような癖が微かに感じられる。

味:香りに反してしっとりとした口当たり。はちみつの染み込んだカステラやパンケーキ、グレーンのフレーバーから徐々にほろ苦く、乾いた麦芽を思わせるハイランド系のモルティーさ。微かにクレヨンのような、不思議な癖が鼻孔に抜ける。
余韻は序盤のグレーンの甘味に微かなシェリー感とスパイシーな刺激が混じり、張り付くように残る。

多少の癖はあるが、熟成したグレーンを主体にプレーン寄りな内陸モルトというマイルドなブレンド。シェリー樽が隠し味として効いており、上位グレードの21年に通じる要素と言える。飲みやすい反面ピートフレーバーはほぼ無く、面白味もあまり無いが、この辺りは流石特級時代というべきか、現行品に比べて味は濃い。飲み方はストレートかロックを推奨。

IMG_20200602_082138

1970年代に日本市場向けのブランドとして登場した、オールド・セントアンドリュース。ゴルフコースとして知られる聖地の名を冠した銘柄です。 その歴史は、先日レビューしたエクスカリバー同様に、当時の市場でよく見られるポッと出の輸出向け銘柄・・・と思いきや、調べてみると、作り手は古くからスコッチウイスキーのブレンダー(所謂外部委託を請け負ってブレンドを作成するような)企業だったようで、1970年代に大きな方針転換があったようです。

この方針転換には、トマーティン蒸留所が関わっていたとされています。トマーティンは1974年に大規模な拡張工事を行い、年間生産量で1250万リットルとスコットランド最大の規模の蒸留所となりますが、先見の明がなかったというべきか、運命のいたずらと言うべきか、徐々にスコッチウイスキーの消費が低迷し、冬の時代と呼ばれる1980年代に入ります。

多くの蒸留所が生産調整を行い、一部が操業を休止する中、1985年にプロジェクトからトマーティンは離脱し、1986年に会社を清算。同年、宝酒造に買収されるわけですが、一連の流れから考えるに、トマーティンは自国内並びにヨーロッパでの消費が伸び悩む中で、原酒を活用する活路の一つを、この銘柄で日本市場に見出したのかもしれません。

Screenshot_20200602_082955
(1970年代流通、760ml表記のオールド・セントアンドリュース12年。21年はコルクキャップ仕様となる時代だが、12年はネック部分の特級シールの形状で見分けられる。)

努力もむなしくトマーティンは極東の島国の一企業の傘下に入るという結末を迎えてしまうわけですが、ここで誕生したセントアンドリュースというブランドは、日本国内のウイスキー冬の時代すら生き抜き、現代まで続くブランドとなります。
1970~1980年代は、ノンエイジ(ゴルフボール型のボトル)、8年、12年、21年が。
1990~2000年代には、イーグル、アルバトロスといった、ゴルフのスコアに絡む用語を銘打ったブレンドに、10年熟成(一部21年熟成)で樽型のボトルに入った単一蒸留年のブレンデッド並びにピュアモルト等、様々なリリースが展開されていました。
近年はゴルフボール型ボトルでのリリースが主流で、エイジングはノンエイジから21年まで。この辺りは父の日ギフトなんかにも喜ばれそうなボトルですね。

構成原酒については、今回のボトルの流通時期にあたる1970年代~1980年代当時のものは、上記の経緯から明らかであるようにハイランドモルト、トマーティンが主体であると言われています。
トマーティンが使われているブレンドとしては、BIG-Tがありますが、セントアンドリュースのほうはグレーンが強めなため、風味は別物。しいて言えば独特なシェリー感等共通する部分があると言えばあるような・・・というレベル。
1985年以降、トマーティンの離脱後のキーモルトはわかりませんが、1990年代にハイランドモルト表記のボトルがリリースされていたことから、原酒の提供は続いていたのではないかと思われます。(近年のリリースは、スペイサイドモルトとグレーンのブレンドとして説明されているため、トマーティンではないようです。)

余談ですが、個人的に樽型ボトルの1984年蒸留表記(生まれ年)が欲しいのですが・・・リユース市場にあるのは82、83、85年ばかりで、84が見当たらない不思議。製造されなかったとは思えないのですが、巡り合わない。なんでかなー。

このページのトップヘ

見出し画像
×