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シングルモルト 長濱 セカンドバッチ 50%

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SINGLE MALT NAGAHAMA 
THE SECOND BATCH 
Distilled 2017 to 2019 
Bottled 2023 
Cask type Sherry, Koval, Islay Quarter, Bourbon Quarter 
500ml 50% 

評価:★★★★★★(5→6)

香り:甘やかなウッディネス、複数のスパイスを思わせるアロマにりんごのカラメル煮や柑橘、カシスシロップ、微かに焦げた木材を思わせる要素を伴うリッチなアロマ。

味:とろりとした口当たり。黒かりんとうのような軽い香ばしさを伴う甘さと麦芽風味から、スパイシーな刺激と合わせて柑橘のジャムを思わせる甘酸っぱさ。余韻はウッディでビター、微かなピートを伴いジンジンと口内を刺激する長い余韻。

シェリー系の原酒を土台に、特にKOVALカスク由来のスパイシーさやアメリカンオークのフレーバーが合わさって、複雑な味わいが形成されている。ピーティーな原酒も少し使われており、香味の中で奥行きに通じているのが心憎い。
一方で、リリース直後の印象は各樽のフレーバーが馴染みきっておらず、濃厚さの中に複数の個性があるようでチグハグしたところもあったが、時間経過で馴染み一本筋の通った複雑さへと変化している。オススメはストレートを時間をかけて。

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長濱蒸溜所が2023年5月にリリースした、シングルモルト第2弾。
シェリー樽熟成原酒を軸に、KOVAL(バーボン)カスク、アイラクオーターカスク、バーボンクオーターカスクによる熟成原酒をバッティングしたシングルモルト。基本ノンピートですが、シェリー樽原酒についてはノンピートとピーテッド、それぞれの原酒が使われている。若い原酒ゆえに馴染みきってない印象はあったものの、今できる最大限の工夫をしたと感じた1本だったところ。
そろそろ第3弾のリリースも控えているので、ここで復習しておきたいと思います。
(え?そもそも1stのレビューがあがってないじゃないかって、細かいことを気にしてはいけない…)

シングルモルト長濱は、第1弾がバーボン樽やミズナラ樽原酒など、長濱蒸溜所にある様々な樽をベースにバッティングしたシングルモルト。
リリース直後もテイスティングしていますが、先日都内某BARでブラインドテイスティングをする機会があり、改めて飲んでみるとスパイシーかつしっかり柑橘系のフレーバーがあって、長濱かな?とは答えましたがTHE FIRSTとはわからなかった。時間経過によっていい意味でフレーバーが馴染み、大きく印象が変わっていたんですよね。
そして今回、久々にテイスティングしたTHE SECONDですが、これもやはりいい方向に変わっていると感じています。

長濱蒸溜所だけでなく、若いウイスキー全体に見られる傾向ですが、若い原酒で濃いめの樽感をバッティングしたシングルモルトやブレンデッドは、それがマリッジを経て馴染んだと感じてもボトリング後さらにもう一段、経年変化によってフレーバーが一体化する傾向があるように思います。
若い原酒の場合フレーバーの奥行き、複雑さが少なく、かつ味わいが強いため、どうしても原酒同士が馴染みにくいのでしょう。小さい子供たちだけ集めてもわちゃわちゃして落ち着かない小学校のクラスのようですが、成長すればある程度落ち着いてきますよね。

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そうした意味でTHE SECONDの変化は、恐らくKOVALカスク由来のスパイシーさ、焦げたようなウッディさ、そして若い原酒由来の酸といった要素が、シェリー樽由来の色濃い甘さの中に混じり、ただそれという単独の存在だけではなくなったという感じです。
例えば酸味が熟成樽由来の甘味と合わさったことで、ダークフルーツや柑橘を思わせるフレーバーへと変化している感じ。元々持っていたポテンシャルがしっかり発揮されてきています。

一方で、長濱らしさといえば、柔らかい麦芽風味とスパイス香、限定でリリースされるシングルカスク含めて、今まで飲んできた大体のリリースに共通して感じられる要素がこのボトルにもあります。そしてそれは、リリース直後でも時間が経っても一定の主張をするので、あー長濱だなと安心させてくれます。

そしてTHE SECONDでは、もう一つの特徴としてトンネル熟成庫の存在がピックアップされていました。
長濱蒸溜所は、長濱駅前にある長浜浪漫ビールに併設された蒸留棟で原酒の仕込みが行われているものの、熟成は使われなくなった旧道のトンネル、廃校となった小学校、そして2022年からは琵琶湖に浮かぶ竹生島でも行われています。

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※旧観音寺トンネルを活用した熟成庫。県内では心霊スポットとしても知られていたが、熟成庫となって天使がきたからか、噂もすっかり。

小学校、トンネル、異なる環境での熟成。トンネル熟成庫は1年を通じて気温が冷涼で、樽感が強く出る30度を超えることはまずない環境。樽感としてはスコットランドでの熟成に近くなり、一方でトンネル内は湿度が非常に高いことも特徴です。
どのような違いが出るかというと、度数が下がりやすくなると言われており、天然の加水が効くためか、まろやかな口当たりになると聞いています。

荒々しくも濃厚な原酒が育ちやすい温暖な熟成環境に比べ、穏やかでまろやかな原酒が育つなど違いが明確に表れていることが、それぞれの原酒をブレンドした際の複雑さに通じるわけです。
まだ若い原酒であるため真価を発揮するには多少時間が要りますが、その時間を含めて楽しむのもクラフトの味というヤツですね。
竹生島熟成とピーテッドがテーマの3rdリリースも楽しみにしています!

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シングルモルト 三郎丸Ⅲ THE EMPRESS カスクストレングス 60% ヘビリーアイラピーテッド

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SABUROMARU 3 
THE EMPRESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
Cask Strength
Heavily Islay Peated (45PPM) 
Distilled 2020 
Bottled 2023 
One of 1800 bottles
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはレモンやグレープフルーツ、黄色を帯びた柑橘香、灰のような柔らかいスモーキーさ。微かに根菜、スパイス、オーク香。そして淡い薬品香を伴う。

味:コクのある口当たりから、グレープフルーツや柑橘、香ばしい麦芽風味、そしてピーティーなフレーバーがしっかりと広がる。中間以降は力強く、ジンジンとした刺激、奥にはバーボン樽由来のオークフレーバー。合わせて塩気やダシのような厚みがあり、ほろ苦くスモーキーなフィニッシュへとつながる。

今はまだ若さもあるが、全体的にネガティブなフレーバーが少なく、コクのある口当たりや柔らかいスモーキーさが女性的な印象も感じさせるモルトウイスキー。個人的な印象は、カリラとラガヴーリンに、少しアードベッグを加えたような…。
前半部分の口当たりの柔らかさやコク、雑味の少なさはZEMON由来、柑橘系のニュアンスは木桶発酵、そして余韻にかけての出汁感、繋がりのある味わいや柔らかく特徴的なスモーキーさはアイラピート由来と多くの新要素が感じられる。熟成感も過度に樽が主張しておらず、5年、10年後が楽しみな1本。

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年々進化を続ける若鶴酒造・三郎丸蒸留所。
今年については、映画「駒田蒸留所へようこそ」でも話題になっており、そのリリースにも注目が集まっているところ。いよいよ今年のシングルモルトリリース、三郎丸Ⅲ THE EMPRESS(女帝)が発売されました。

三郎丸蒸留所で、稲垣マネージャー主導で2016年から始まった大規模な再建計画と、三郎丸としてのブランドの立ち上げ。今回の原酒の仕込みの時期となる2020年は、その最終段階にして、若鶴酒造のウイスキーではなく、真に三郎丸蒸留所のハウススタイルやコンセプトを体現するウイスキーの仕込みが行われた年となります。
え、それはクラウドファンディング明けの2017年ではないのか、と思われるかもしれませんが、2017年〜2019年の仕込みは一部旧世代の設備等を用いているため、若鶴酒造のウイスキー事業として名もない蒸留棟だった旧時代から完全に切り替わったわけではありませんでした。

昨年リリースされたシングルモルト三郎丸Ⅱも、2019年に自社開発のポットスチルZEMONによって蒸留された原酒でリリースされていますが、2019年の蒸留の際に余溜として用いられたのは、前年2018年まで使用していた旧世代の改造ポットスチル時代のもの。
蒸留に難しさもあった2019年の原酒から、注意深くテイスティングすると旧世代の個性を感じるのはそのためです。

三郎丸蒸留所はコンセプトとして「THE ULTIMATE PEAT(ピートを極める)」とともに、目指すシングルモルトは「1970年代のアードベッグ」を掲げています。
2020年の仕込みからは、重要なポイントとなる“アイラ島で取れたピートで製麦したモルト”を原料に用いて蒸留することで、従来の内陸産ピート由来の野焼きのような強いスモーキーさから、柔らかく個性的なスモーキーさに変わり。
味わいへの影響としては、余韻にかけてダシっぽさやコク、あるいは塩味といったアイラモルトにも通じる個性が得られています。
また、これまでのリニューアルで手を入れられてこなかった発酵槽も新たに木桶を導入。これで原料、粉砕、糖化、発酵、蒸留、そして熟成。全ての行程が三郎丸仕様になり、目指すシングルモルトの姿に向け、大きな1歩を踏み出したのです。

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(アイラ島、ブルックラディ蒸留所近くのピートホグで採掘されたアイラピート。内陸ピートとは成分が異なり、アイラモルト特有とも言われるヨード香や塩気に由来すると考えられる。稲垣マネージャーが現地を訪問した際、自社の仕込みの量であれば契約可能であることが判明し、アイラピート麦芽の供給契約を締結。)

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(2020年から導入された木桶発酵槽。最初は1基だけだったが、のちに2基となった。96時間の発酵行程のうち、蒸留前の一定期間をホーローから木桶に移して実施する。これにより、乳酸発酵が促されて味わいの複雑さ、柑橘系のフレーバーが際立つ。)

三郎丸Ⅲ THE EMPRESSに関し、これまでのリリースからもう一つ変化があるのが、熟成における樽由来の成分の出方、樽感の濃さです。
過去のリリースと今作とで樽感を比較すると、三郎丸Ⅲのほうが淡く、スコッチウイスキー寄りのまとまり方をしている印象を受けます。
これは熟成期間のうち2022〜2023年の1年間、T&T TOYAMAの井波熟成庫に移して熟成をさせたため、その効果があったものと考えられます。
井波熟成庫は断熱を重視した部材、設計が用いられており、1年を通じて安定した熟成が可能となっています。

参考までに、以下写真の通り三郎丸ⅡとⅢの色合いを比較すると、Ⅱのほうが若干濃い色合いです。これが10年熟成原酒なら微々たる違いかもいれませんが、これらの原酒はまだ3年で、効果があったのはうちⅢの1年のみ。味についてもⅡの方が樽感がアバウトというか、濃くでた分原酒に馴染みきっていない印象を受けます。
一方で、樽感が若干淡くなったこともあり、今までより少し若いニュアンスが感じられるのも特徴かもしれません。しかし今回のリリースはあくまで3年熟成です。3年としては十分酒質は整っているのですが、樽感としても酒質としても、今後の伸び代が残されていると見ることが出来ます。

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以上のように、年々進化を重ねる三郎丸蒸留所のウイスキーの中でも、この2019年から2020年の間は、原料や設備のアップロードから非常に大きな変化があったことが感じられるリリース。少なくとも、これまでの三郎丸蒸留所のウイスキーと三郎丸Ⅲ THE EMPRESSとでは、全く違う印象を感じられると思います。

ちなみに、2020年の仕込みはアイラピートの他に、従来と同じ内陸産ピートでの仕込みも行われています。
稲垣マネージャーの話では、その原酒を用いたシングルモルトは2024年5月ごろ、「シングルモルト 三郎丸Ⅳ THE EMPEROR」としてのリリース予定とのこと。フェノール値はⅢが45、Ⅳが52でほぼ同じ。ピートフレーバーは熟成期間が長いほどこなれて馴染んでいくため、アイラピートと内陸ピートの個性の違いを学ぶという意味では、これ以上ないリリースになるかと。。。

それこそ今までは熟成環境由来とされていたアイラモルトの個性が、ピートに由来することが大きかったという事実から、ウイスキー愛好家として得られる経験値は大きいと思います。
言い換えるとアイラモルトを日本で作っただけでは?…ということもありません。オリジナルの蒸留器ZEMONは日本唯一です。
三郎丸蒸留所のファンは勿論、今までのリリースはあんまり…と言う方も、ぜひ飲んでみて欲しいですね。

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(三郎丸蒸留所限定で販売が始まった、三郎丸ランタン。ものづくり好きな稲垣マネージャーらしい公式グッズである。)

シングルモルト 三郎丸 2019-2023 The Ultimate Peat 61% 特装版

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SABUROMARU 
The Ultimate Peat 
Single Malt Japanese Whisky 
Distilled 2019 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrel #190093 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)

香り:スモーキーでビター、和柑橘を思わせるアロマに微かに根菜や発酵香、焦げた木材や藁、灰のような香りも混ざる。スワリングするとオレンジピールやキャラメル、ほのかなオーク香。

味:甘酸っぱくスモーキー、オイリーな口当たり。柑橘やチャーオークの甘さ、ウッディネス。そしてビターなピートフレーバーがしっかりと広がる。
余韻はほろ苦くピーティーで力強い。オークフレーバーがその奥に混じり、グレープフルーツの綿やオレンジ等を思わせる果実味が隠し味となって複雑で長く続く。

やや若さに通じるところはあるが、力強いスモーキーフレーバーと柑橘系の要素、三郎丸らしさがしっかりと感じられる1本。2018年のZEMON導入前に比べて洗練された酒質に、樽感が程よく混ざりあう。樽感は華やか黄色フルーツ系より、少し焦げ目がついた新樽寄りのタイプで、それがピート由来のほろ苦い香味と馴染んでいる。
口当たりは61%あるとは思えない柔らかさ。本リリースの特徴で、専用グラスでなくとも充分美味しさと個性を楽しめる。

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なお、上記通常使っている木村硝子テイスティンググラス1でのレビューだが、The Ultimate Peat Glassを使うことでこれらの要素が混ざり、ピートのスモーキーさと樽由来の甘やかなアロマが主体でネガティブ要素も一層少なくなり、口当たりのスムーズさで美味しさが際立つ。
まさに、良いフレーバーを引き出し、力強いピートフレーバーと三郎丸の酒質がバランスよく融合した味わい。

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三郎丸蒸留所の「ピートを極める」をコンセプトに、その個性や美味しさをストレートに伝えられるように製作したオリジナルグラス「The Ultimate Peat Glass」。このグラスの特装版として発売された、アタッシュケース付きモデルに付属していたのが、今回のテイスティングアイテムです。

本テイスティンググラスの設計には自分も関わらせてもらった訳ですが、「こういうのできませんか?」と、悪ノリで提案したモノが本当に形になってしまったのが本品だったりします。
元ネタは某グラスメーカーのイベント用アイテムと思しき、同社の最上位モデルのワイングラス8種が全て入ったケース。アタッシュケースかっこいいなー、こういうのあったら良いなぁ、2脚セットとかでどうだろうと。

ほら、男性ならアタッシュケースに憧れることは1度くらいあるじゃないですか(特に思春期)。
しかし稲垣さんからは、やれますね、とサムズアップがメッセンジャーで返ってきたくらいのリアクションで、社交辞令だと思っていたらまさか本当に作るとは(笑)。
しかもこのグラス用のウイスキーとセットですよ。完成の連絡を受けて、思わず笑ってしまいました。

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※The Ultimate Peat Glass 特装版内容:専用アタッシュケース、シングルカスク三郎丸2019-2023、専用グラスクロス、ピンバッチ、The Ultimate Peat Glass。これにボトルを入れて持ち歩く日は来るのだろうか…。

そんな個人的な趣味全開のアイテムに対して、付属のウイスキーはピーティーでスモーキーな本格派。また、樽感と酒質、このグラスで楽しむのにちょうどいい塩梅です。
2019年の三郎丸は、独自開発した鋳造ポットスチルZEMON導入によって酒質がさらに向上。数値上では苦労が見られますが、三郎丸が目指すウイスキーの個性が、原酒の成長とともに間違いなく洗練されて感じられます。
一方で、今回の1本は三郎丸の2019年の原酒の中では決してあたりとか、突き抜けた品質というわけではないようにも思います。

いわば、三郎丸モルトとしては平均的なキャラクターの一つ。今後、5年、8年と熟成を経て、間違いなく完成度が高まる余力があるようにも感じられます。
なお、今回の特装版ですが最初に予定していた販売数は瞬殺。その後追加販売もあるなど、想像以上に好評でした。
自分の知人(アジア圏の方)は、これは一体どこで買えるんだ、素晴らしいアイテムだと興奮気味に語っていました。ああ、やっぱりケースって大事なんですね(笑)。

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オマケ:自分が見かけたアタッシュケース入りグラスセット。こういうの作れませんか?この一言が、まさかこんな結果になろうとは。

シングルモルト 安積 5年 2017-2023 YOIYO Edition 48%

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YAMAZAKURA 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
ASAKA 
“YOIYO EDITION“ 
Aged 5 years 
Distilled 2017 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrels (5 Casks)
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはややドライだが、角の取れた酸と黄色系の果実香、グレープフルーツやレモン、麦芽やナッツの香ばしさも感じられる爽やかかつリッチなアロマ。

味:柔らかい口当たりから、オーキーな華やかさとクリーミーなフルーティーさ。煮た林檎や柑橘のような酸味、仄かに果実の皮を思わせるほろ苦さと麦芽風味。
余韻は果実のシロップ漬けのようなしっとりとした甘酸っぱさを感じた後、徐々にビターで軽やかな刺激を伴い長く続く。

5樽バッティングのシングルモルト。ロッテのウイスキーチョコレート”YOIYO“の第12弾、第13弾に使用されたモルトウイスキーそのもの。蒸留年の記載はないが蒸留所で確認。
本品は48%加水であるが、濃縮感のあるフレーバーが特徴的で、加熱調理した果実のような酸味と麦芽風味、安積蒸留所の個性はまさにここにありという構成。バッティングと加水でこなれた味わい、バーボン樽由来のフレーバーも後押しして、2017年蒸留の原酒としては一つのピークに到達している。

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2016年にウイスキー蒸留を再開した、笹の川酒造・安積蒸留所から、ロッテとコラボしたシングルモルトウイスキーとウイスキチョコレートがリリースされました。
YOIYOは「日本に酔うチョコレート」をテーマに、日本のクラフト蒸留所とコラボして酒チョコを展開するブランド。これまでウイスキーでは6蒸留所から計9作品。ウイスキー以外に、ジンや日本酒を使ったものもリリースされてきました。

チョコレートとウイスキーの相性の良さには異論を挟む余地が…無いわけではないのですが、一般的には間違いないとされる組み合わせ。
安積蒸留所とのコラボとなるYOIYO第12弾は2023年9月のリリースで、こちらは通常のウイスキーボンボンタイプですが、本日11月21日にはガナッシュタイプのウイスキーチョコレートも発表され、今回レビューするシングルモルト安積 YOIYO Editionはそれらのチョコレートに用いられているものと同じもの、度数で言えば原液となります。

企画にあたってはロッテの担当者が安積蒸留所を訪問し、リリースできる原酒を確認した上で、方向性を指定。笹の川酒造が原酒のバッティングを行ったと聞いています。

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※11月21日に発表された、YOIYO 酒ガナッシュ 安積EDITION。使用されている原酒は今回のレビューアイテムと同じ。画像引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002139.000002360.html

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※クラフト酒チョコレートYOIYO EDITION 12th
4%にまで加水されているが、チョコレートの甘くほろ苦い中に安積モルトの爽やかな酸味が感じられ、ちょうど良いアクセントになっている。新たに発売されたガナッシュタイプは一層安積の香味を感じられそうで、個人的に期待大。

安積のモルトウイスキーの個性は、なんといっても“湿り気を帯びた酸味”です。例えばそれはみずみずしい果肉をイメージさせるものだったり、あるいはそれを加熱調理したジャムやシロップのようなものであったり。
熟成年数によって感じ方は異なりますが、少なくとも2017年から2020年までの蒸留・熟成原酒からは共通の個性が感じられます。特に、2019年には木桶発酵槽が導入されたため、香味の傾向が変わるのかと思ったら、厚みや複雑さは増してる一方でベクトルは同じだったのは驚きました。

また、既存の原酒も熟成を経て馴染んでいくのかと思いきや、逆に樽感と合わせて個性が濃縮されていくような感じもあります。郡山の気候によるところなのでしょうか…。
今回のボトルは2017年蒸留の5樽バッティング。加水によってちょうどいい塩梅にまとまってますが、シングルカスクで無加水だと、近い年数&スペックのリリースはその濃縮感や上述の酸味をだいぶ強く感じます。個人的に安積のモルトは、シングルカスクより複数バッティングで少量加水の方が良いという印象があるのはそのためかもしれません。

今回のYOIYO EDITIONはその意味もあって、自分好みな1本でした。
今後、2017年のみならず2018年、2019年と最初のピークを迎えたリリースが増えてくると思いますが、安積はどんどん仕込みの質が良くなって、美味しくなってきているので、さらなる熟成によって一層の複雑さと美味しさを纏う原酒が育ってくることを楽しみにしています。

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余談:安積蒸留所には、2023年夏の改修で蒸留棟内の発酵槽があるスペースを区切る壁が設置され、中に空調が入るようになりました。温度管理は発酵の際に大きなポイントとなる要素。地球温暖化の影響で、夏場が長く、暑くなってますからね。これでさらに仕込みが安定し、木桶の良さと、酵母の力を引き出せるのではと期待しています。

シングルモルト 三郎丸 5年 2018-2023 63% for 鈴木酒販

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SABUROUMARU 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 5 years 
Distilled 2018 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrel 
For Suzuki Shuhan 
700ml 63% 

評価:★★★★★★(6)

香り:トップノートで感じられるのは土や根菜、タール、炭を思わせる分厚いアロマ。まさにピートの香りだ。スワリングしていると野焼きのようなスモーキーさと共に、焼いたオレンジやリンゴ、バニラの甘いアロマも感じられる。

味:口当たりはピーティーでパワフル。火のついたピートを口に含んだよう。合わせてキャラメルを思わせる樽由来の甘さ、オレンジを思わせる甘酸っぱさが広がる。余韻はしっかりとスモーキーでドライ、焦げた木材や藁のアロマが鼻腔に抜け、ほろ苦く香ばしい余韻が長く続く。

総評:フルボディな酒質に力強いピートフレーバー、柑橘を思わせるニュアンス。三郎丸モルトの特徴がはっきりと表現された1本。2018年はZEMON導入前であるが、マッシュタンの新調により仕込みが安定し、前年以上に際立ったピートフレーバーが感じられる。

補足:本リリースは株式会社鈴木酒販が、三郎丸蒸留所2018年の仕込みの際にニューメイクで購入した原酒を熟成してリリースしたプライベートボトルです。通常のシングルモルト三郎丸のシリーズとは無関係の位置付けとなります。

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コメントの通り、鈴木酒販からリリースされた三郎丸のプライベートボトルです。
同社とはちょっとした縁があり、ボトリングサンプルを頂いて公式のテイスティングコメントを担当、気に入ったので1本購入させて頂きました。
そのため公式のコメントと↑のコメントが同じですが、決してコピペではありません(笑)。

また、同様に本リリースはラベルが過去リリースされた三郎丸Ⅰ THE MAGICIAN と同じデザインを用いたものが貼られていますが、三郎丸のシングルモルトリリースは、PB含めてテンプレートとして
2017年原酒:三郎丸0 THE FOOL
2018年原酒:三郎丸Ⅰ THE MAGICIAN
2019年原酒:三郎丸Ⅱ THE HIGH PRIESTES
と、原酒がローマ数字表記とカード名で整理されていて、他のPBでも同様にタロットカードのラベルが使われていることは珍しくありません。

一方で、今回はラベルがあえて逆向きに貼られていますが、これも鈴木酒販としての狙いがあってのこと。鈴木酒販は元々日本酒を中心とした酒販であり、日本酒では逆さラベルは偶にあるのと、社としての想いがあってのことでしたが…。
しかしその意図を鈴木酒販が説明する前にボトル画像がSNS等に出た結果、「三郎丸から逆位置のタロットシリーズが出たか!?」と誤解が生まれ、三郎丸公式や稲垣マネージャーから急遽「違います」発信が行われる等、ちょっとしたハプニングもありました。
ラベルの意図や経緯については、詳しくは鈴木酒販の公式ページをご参照ください。

さて、三郎丸Ⅰと言えばZEMON導入前、2016年の改修でステンレス製のポットスチルを改造し、ネックから先を銅製にした改造スチル最終年度。また2017年蒸留所の設備を一部改修、マッシュタンが三宅製作所製となって仕込みが安定した年です。ニューメイクを飲んで、ああ、この蒸留所は完全に立ち直ったと確信したのもこの年でした。
最も、この頃はやはりポットスチルの性能もあってか2019年以降に比べると成分比率的には洗練されているとは言えないのですが、ピートフレーバーは際立っており、残された雑味も含めて旨い、パワフルな味わいが特徴です。

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ちなみに、2年前にリリースされた3年熟成の三郎丸Ⅰカスクストレングスと5年熟成を経た本リリースを比べると、ベースは同じでも前者はピートフレーバーと酒質が暴走気味で荒々しく、樽感と馴染んでない印象もありました。しかし後者、つまり今回のリリースは樽感が増した分複雑でボリューミーな味わいとなっています。相変わらずピートフレーバーも強いですね。
感覚的には同じ環境であと3年、冷涼な環境なら5年以上は熟成させていけそうだという感じもあります。それくらいしっかりと酒質の骨格、厚みがあり、将来が楽しみな原酒です。

三郎丸蒸留所の仕込みは、蒸留器が2019年以降新型ポットスチルZEMONに、さらに2020年にはアイラピート麦芽と木桶発酵槽を用いた仕込みへと切り替わっていきます。
また最近では熟成環境の整備も進んでおり、2019年に完成した三郎丸第二熟成庫には、井水クーラーや屋根散水システムなど、熟成庫内の温度をモニターし、長期熟成の大敵とも言える高温状態から樽を守るシステムが追加で導入されています。

三郎丸らしさは残しつつも、一層洗練され、新たな個性を身につけて年々進化する蒸留所。後日リリースを控える三郎丸Ⅲ THE EMPRESS では、稲垣マネージャーが目指す“1970年代のアードベッグ”に向けた個性としてなくてはならない、アイラピートで仕込んだ麦芽がどのように成長したか。今から非常に楽しみです。

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