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三郎丸蒸留所×長濱蒸溜所 日本初のクラフトブレンドが実現

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先日、ジャパニーズウイスキーの基準発表に関連し、三郎丸蒸留所の声明を紹介させて頂きました。内容に関して賛同する意見がSNS等で多く見られ、また同時に原酒交換によって実現する”クラフトジャパニーズブレンド”への期待も高まっていたところ。
そのわずか10日後。三郎丸蒸留所、そして長濱蒸溜所から、早くも原酒交換によるコラボ企画「日本初のクラフトブレンデッドウイスキー」の発表がありました。

複数の蒸留所が連携して企画し、同時にプレスリリースまで行う。これまで日本の蒸留所には見られなかった動きにワクワクしてしまいます。
自分はどちらの蒸留所も、創業初期(三郎丸蒸留所はリニューアル後)から毎年見学させて貰っているだけでなく、オリジナルリリースでの関わりもあり、他の愛好家よりも近い関係にあると言えます。
後日、レビューも掲載したいと思いますが、今日はわかる範囲で今回のリリースに関する情報をまとめ、紹介していきます。


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リリースは写真左から
長濱蒸溜所 INAZUMA
ブレンダー:長濱蒸溜所 屋久佑輔
・BLENDED MALT JAPANESE WHISKY "SYNERGY BLEND" 47% 700本
・WORLD BLENDED MALT WHISKY "EXTRA SELECTED" 47% 6000本
※プレスリリースはこちら

三郎丸蒸留所 FAR EAST OF PEAT
ブレンダー:三郎丸蒸留所 稲垣貴彦
・"FIRST BATCH" BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 50% 700本
・"SECOND BATCH" BLENDED MALT WHISKY 50% 5000本
※プレスリリースはこちら

※販売は3月30日から、両蒸留所が運営するオンラインショップ並びに関連酒販等で行われます。
なお、FAR EAST OF PEATのBatch1、IZUNA2本セットが3月8日から14日まで抽選受付となっています。詳細は各社の酒販またはメールマガジンなどを参照ください。



■ブレンデッドジャパニーズウイスキー2種
INAZUMAは、長濱蒸溜所のノンピートモルトと、三郎丸蒸留所のピーテッドモルトを使用(どちらもバーボン樽熟成)。
FAR EAST OF PEATは、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト(バーボン樽熟成)と、長濱蒸溜所のライトリーピーテッドモルト(アイラクオーターカスク熟成)を用いたものとなります。

使われている日本産原酒の蒸留時期は、双方とも2017年で、熟成年数は3年強と言うことになります。
つまり3年熟成のブレンドモルト?と感じるかもしれませんが、どちらも2020年にリリースされたシングルモルトは若さを感じさせない仕上がでした。また、2017年蒸留の長濱モルトは柔らかく穏やかな風味、三郎丸モルトはヘビーで広がりのある風味で、系統は異なるものの、どちらの酒質も共通してブレンドで馴染みの良さを感じる点があり、若いから…という思い込みは早計と言えます。

INAZUMAの組み合わせはノンピートとピーテッド。ノンピートでバーボン樽熟成の長濱モルトは、麦の甘さ、オーク樽由来のフルーティーさが酒質の柔らかさと合わさって穏やかに味わえるタイプであり、それがピーティーさがメインの三郎丸モルトのパワーを包み込む、足りない部分を補うような仕上がりが期待できます。
またFAR EAST OF PEATが使っている長濱のモルトは、アイラクォーターカスク熟成ということで、実物も見たことがありますが、これはラフロイグ蒸留所のもの。麦芽の甘みとスモーキーさに加わる、アイラ由来のフレーバーの一押し。。。この競演がどのようなシナジーを生むのか、実に楽しみです。

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(今回のブレンドに用いられた原酒は、両蒸留所ともアップデートが施される前に仕込まれたものである。例えばポットスチルは、三郎丸は旧世代のスチルを改修したもので蒸留されている。長濱は現在より再留器が小型で、スチルの数も異なる。詳細は以下対談企画を参照。)

■ワールドブレンデッド2種について
今回の企画では、どちらのブランドにも輸入モルト原酒を使った、ワールドブレンデッド仕様がラインナップされています。
振り返ってみると、三郎丸蒸溜所はムーングロウで、長濱はアマハガンで、それぞれWorld Whisky Awardで部門受賞を経験するなど、自社モルトとバルク原酒を使ったウイスキーについても評価されているのです。

個人的に、オリジナルリリースの関係で両蒸留所の保有する原酒を飲む機会を頂いてますが、それぞれ異なる企業、蒸留所から調達されているもので、国内での追加熟成も経て全く違う素材としてブレンドに作用すると感じます。
両ブレンダーが目指す方向性の違いも含め、一体どんな味わいになっているのか。これまでのウイスキーシーンにはなかったユニークな試みであり、個人的にはこのワールドブレンド仕様の仕上がりに、密かに期待しています。

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(長濱、三郎丸両蒸留所で関わらせてもらったオリジナルブレンデッド。どちらの蒸留所にも自前、輸入で様々な原酒があり、品質も一定以上が担保されている。)

■両蒸留所のウイスキーと造り手の想い
三郎丸蒸留所、長濱蒸留所については、酒育の会のLIQULにて特集対談記事が公開されています。
偶然ですが、長濱蒸留所編の公開は、まさに本日からです。
今回のリリースをきっかけとして、両蒸留所に興味を持たれた方は、ぜひ以下の記事も参照いただければと思います。
創業から現在に至るまで、どのような変化があったのか、目指すハウススタイルや、造り手の想いなど、対談形式でまとめています。

【ジャパニーズクラフトウイスキーの現在】
Vol.1 三郎丸蒸留所編:https://liqul.com/entry/4581

Vol.2 長濱蒸留所編:https://liqul.com/entry/5209

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※自画自賛気味ですが、WEB公開されている記事の中では両蒸留所の情報を一番網羅している記事だと思います。

今回のリリースは、冒頭述べたようにジャパニーズウイスキーの基準制定を受け、三郎丸から原酒交換に取り組むという発表があった矢先のことでした。「いやいや、動き早すぎでしょ」と感じた方も少なくないのではないでしょうか。

実は、今回の企画の発起人と言える三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーは、それこそ蒸留所をリニューアルして再稼働させた時から原酒交換のプランを持っており、他の蒸留所の見学や情報交換を行うなど、基準が形になる前から動きを進めていました。
私もクラフトウイスキー間の連携推進や、グレンマッスルでのジャパニーズブレンド構想があり、お互いに何が出来るか話をする中で、今回の一件もそういう動きがあると伺っていました。

鶏と卵の話ではありませんが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する話を受けて原酒交換が動いたというよりは、ブレンドづくり含めて準備を進めていたところ、今年に入って唐突に動きがあり「いつやるの?今でしょ!」と、両蒸留所がリリースにGOサインを出した。という流れであるようです。
ですがその前後関係は些末なこと。これによって原酒交換の前例が出来、ノウハウも両蒸留所にあることになります。蒸留所として今後も取り組みを進めていくことに変わりはなく、むしろ各社にとっても追い風となる実績が作れるのではないかと期待しています。

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長濱蒸留所の屋久ブレンダーと、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャー(兼ブレンダー)は、両蒸留所の距離が他の蒸留所に比べて離れていないこと、長濱蒸留所は規模が日本最小、三郎丸蒸留所は生産量が日本最小で、お互いに小さな蒸留所であることなど、何かと繋がりを感じるところがあり、意見交換をしてきたそうです。
例えば長濱蒸留所の原酒で、ある仕様が2018年頃から変わったのですが、それは稲垣さんのアドバイスからだったという話も聞いたことがあります。

詳しくは、ボトル購入特典となっている両ブレンダー対談動画で語られると思いますのでここでは伏せますが、こうして造り手同士が繋がって、お互いに品質を高めていく。
日本のウイスキーのルーツたるスコッチウイスキーは、大手メーカーと中小メーカーの共存共栄から発達してきた歴史があります。日本ではこれからクラフトを中心にそうした動きが出て来ればと、今回のリリースを第一歩とした動きに期待してなりません。

先の基準は、海外市場で既に反響を呼んでおり、ひょっとすると業界が想定していた以上の影響が今後出てくるとも考えられます。
そうして考えると、日本のウイスキー業界は、新しい時代に突入したと言えるのではないでしょうか。
新時代におけるクラフトウイスキーの魅力とは何か、そして市場を取るための計画は如何に。単に作れば良いだけではなく、大手との違いは何か、強みはどこにあるのか。必ずしも原酒交換だけが選択肢ではありません。
例えば蒸溜所がある地域のシェアだけは絶対に抑えると、地域限定ボトルのリリースというのもあるでしょう。厚岸蒸留所のような●●オールスターを作るというのも1手です。
基準に加え、今回のコラボレーションリリースが呼び水となって、クラフトウイスキー(自社ウイスキー)のさらなる魅力を、各社が考えていくようになるのではないかと思います。

規制下での創意工夫から、新たな付加価値が生まれるのは、産業界で数多起こってきた出来事の一つです。まずは今回のリリースを楽しみにしたいところですが、ここからのジャパニーズクラフトウイスキー業界の動きにも注目していきたいですね。

※関連記事:
三郎丸蒸留所 ニューポット2020 アイラピーテッド&ヘビリーピーテッド 60% +蒸留所からの意思表明 
「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」に潜む明暗
ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(日本洋酒酒造組合)


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厚岸蒸留所 雨水

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THE AKKESHI 
”USUI” 
2nd. Season in the 24 Sekki 
Blended Whisky 
Bottled 2021 
700ml 48% 

評価:★★★★★(5)

香:甘くウッディな香り立ち。カカオ多めのチョコレートのようなビターなアロマに、若い原酒のクリアな酸も伴うフレッシュさ。梅ジャム、和柑橘の皮、シリアルの香ばしさと、焦げ感を伴うスモーキーフレーバーが穏やかに香る。もう少し熟成を経ると丸みを帯びて一体感も増していくのだろう。

味:粘性のある口当たりから、熟していない果実を思わせる酸味と、ワインやシェリー樽由来と思しきウッディなフレーバー。若さは多少あるが、グレーンと加水が全体のバランスを整えて、コクのある味わい。後半に樽のエキス由来の要素から若干の椎茸っぽさ、フィニッシュはビターで土っぽいピート。青さの残るウッディさと共に、原酒由来の酸味が染み込むように残る。

バランス仕様のブレンデッド。香味とも序盤はシェリー樽やワイン樽由来と思しきフレーバーから、奥にバーボンオーク由来のバニラの甘さ、グレーンのコク、ピートフレーバーと言う流れ。約4年熟成ということもあってストレートでは樽感や酒質に若さ、粗さも残る点は否めないが、少量追加加水することで軽減され、酒質の伸びも良い。ハイボール等の割った飲み方で食中酒にも向くなど、ブレンデッドらしい特性もしっかり備わっている。個人的にはロックがオススメ。
なおこのウイスキーは作り手の想い、こだわりと言う点で、情報量は他のクラフト銘柄以上のものがある。現実と将来の可能性、どちらに重きを置くかでこのウイスキーの見え方は変わるかもしれない。

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北海道・厚岸蒸留所から2021年2月28日リリースされた、24節気シリーズ第2弾、雨水(うすい)。同蒸留所としては、2019年にリリースされたニューボーンシリーズ第4弾に次ぐ、ブレンデッドウイスキーです。

構成原酒は厚岸蒸留所で蒸留・熟成したピーテッド、ノンピートモルト原酒に加え、グレーンは海外からニューメイクとして輸入したものを、厚岸蒸留所内で3年以上熟成して使用。ニューボーンと比較して、味に厚みが出ている一方、クラフトとして現時点で可能な限り”厚岸産のウイスキー”を作ったという1本でもあり、今後さらに理想へと近づいていく、そのマイルストーンであると言えます。
今回のレビューでは、このウイスキーの味と情報それぞれの側面から、ブレンドレシピの考察と、蒸溜所の目指す理想のウイスキーについてをまとめていきます。


■雨水ブレンドレシピ考察
第一印象は、シェリー樽とワイン樽。レビューの通り「ど」が付くほどではないのですが、比較的しっかりと双方の樽感が主張してきます。
ただ、それだけではなく、2つの主張を繋ぐ樽感の存在として、バーボン樽原酒が2つの樽感を慣らし、グレーンウイスキーの働きも口当たりの質感まで感じられます。ブレンド比率としてはモルトとグレーンで半々か、モルトがちょっと多い6:4くらいのクラシックな比率※に近い構成のようです。(※補足:現在、スコッチにおいてスタンダードなブレンド比率はモルト3:グレーン7であるとされているが、古くはモルトが60~70%使われていた。一部銘柄ではこれをクラシックブレンドと呼んでいる)

また、上述3つの樽以外に和的な柑橘感、甘酸っぱさを後押ししているような樽感の存在も微かにあることから、ミズナラ樽も隠し味として使われているのでしょう。モルトの樽構成比率はシェリー4:ワイン2:バーボン3:ミズナラ1とか、そんな感じでしょうか。
一方で、厚岸モルトとして愛好家に期待されるピートフレーバーは控えめで、昨年24節気シリーズ第一弾としてリリースされた「寒露」よりも穏やかにまとめられています。

ピートは百難隠す。ピートを強くすれば若さや未熟感も隠せてそれらしくまとまる一方で、その蒸溜所のベースとなる味わいも隠されてしまいます。どこに線を引いてどのような狙いを込めるのか、特にバランス型のブレンドを造る難しさでありますが、今回のブレンドではピートを穏やかに仕上げたことで、加水やハイボール等、ブレンデッドとして普段楽しまれる飲み方をした時の酒質の伸び、変化がわかりやすかったのはポイントです。

レシピでグレーンが半分くらいと書くと、ボディが薄いのではと感じる方が居るかもしれませんが、このブレンドはそんなことはなく。ハーフロックでも水に負けず、食事とも合わせやすくてよかったですね。食中酒としては和食、意外なところで焼き魚系のアテとも合うんじゃないかと思います。

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■厚岸蒸留所が目指すウイスキー造り

一方で、このウイスキーからは、香味以外に注目すべき情報があります。
それが冒頭述べた”理想へのマイルストーン”。良く知られているに目標に、厚岸蒸留所のウイスキーが目指すのは「アイラモルト」という話がありますが、これは実は少し違っていて、実際はアイラモルトの伝統や精神を受け継いだ、「原材料のすべてを厚岸から調達して造るウイスキー(厚岸オールスター)」を目指しています。

今回のブレンドに使われているモルトは、自社で仕込み、蒸溜を行ったものですが、グレーンは未熟成の状態で輸入したグレーンスピリッツを、厚岸蒸留所で輸入して使用しています。
先日、日本洋酒酒造組合から公開された、ジャパニーズウイスキーの基準に関する記事で、「国産グレーン原酒の問題」について当ブログでも触れさせてもらいましたが、一口にグレーン原酒の設備導入といっても、容易なことではありません。

雨水の原酒構成は基準を意識したものではなく、あくまで厚岸オールスターという理想に近づけるため。まず現段階ではグレーンの熟成から自前で行おうと。ただ、厚岸3年熟成のグレーンではなく、例えば10~20年熟成の輸入バルクグレーン原酒を使えば、手間も少なく、味の点ではさらにまとまりが良くなるような、違うキャラクターになった可能性もあります。あえてそれをしなかった点に、蒸溜所としてのこだわりの強さを感じるのです。

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※北海道・厚岸で栽培したウイスキー用麦芽の収穫風景(厚岸蒸留所 Facebookから引用)

あくまでも個人的な予想と前置きしますが、厚岸蒸留所なら、近い将来グレーンウイスキーの蒸溜も自前で始めてしまうのではないかと思います。それこそ小麦やトウモロコシ等の北海道産の穀物を使ってです。
実際、モルトウイスキーでは、厚岸オールスターの実現に向けた動きとして、北海道の地ビール用大麦麦芽品種「りょうふう」を厚岸で栽培し、一部仕込みもおこなっているだけでなく。湿原で取れる地場のピートを使った仕込みのために、蒸溜所内にドラム式モルティング設備を導入する計画も進められており、それは今年2021年にも完成するとされています。

目指すのは今一時の産物か、あるいは10年、100年先を見据えた理想へのステップか。”厚岸ウイスキー”を作り手がどのように考えているのか。そうした視点で見ると、美味しさだけでは測れない、嗜好品ならではの情報を飲む楽しみが、本ウイスキーには備わっていると言えます。
そうした作り手の想い、今できるベストを尽くしたと言えるチャレンジングスピリット、そしてニューボーン第4弾からの原酒の成長と、ブレンドに関するノウハウの蓄積。雨水の節気が表すように、冬から春へ。厚岸蒸留所が目指すウイスキーの芽吹きは、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

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津貫 ザ・ファースト 3年 59% & ピーテッド 3年 50% マルスウイスキー

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TSUNUKI 
”THE FIRST” 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 59% 

評価:★★★★★(5)

トップノートは熟してない青いバナナのような、硬さと酸を伴うアロマ。グラスをそのままにしていると、麦芽由来の甘みに加え、品の良いフルーティーさがとひっそりと立ち上ってくる。一方で、スワリングすると若い樽感が強めの刺激と共に解き放たれて、荒々しい要素が全体を支配する。複数種類の樽を使っていることでの変化だろう。味はスワリング後の香りの傾向で、パワフルで若い酸味を伴う麦芽風味、そして粗さの残るウッディさ。余韻はハイトーンで、微かにえぐみ、ハッカや和生姜のようなハーブ系のニュアンスを残す。

全体的にまだ若いため、大器の片りんを見せる一方で、それ以上に粗さ、強さが目立つ。ただし粗さといっても、オフフレーバーが強いわけではない。加水することで温暖な環境下で短期間に付与されたウッディさが軽減され、熟成した駒ケ岳に通じるリフィルシェリー樽由来と思しき品の良いフルーティーさと麦芽の甘みが開く。まさに原石という表現がぴったりくるウイスキーである。
近年、クリアで穏やか、度数を感じさせない若い原酒がクラフトシーンに多く見られる中で、津貫は真逆の強さの中に、麦感に粥的な甘みや淀みのある、クラシカルな原酒という印象を受ける。


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TSUNUKI 
"Peated" 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 50% 

評価:★★★★★(4ー5)

スモーキーでウッディな香り立ち。スモーキーさは柔らかく内陸系、ライト~ミディアムレベルの効き。ほのかに梅干しを思わせる酸味、奥にはエステリーな要素もあるが、それ以上に焦げたような樽感、カカオパウダーのような苦みを連想する要素が主体的。口当たりも柔らかくスムーズでスモーキー、出汁っぽい樽感があり、そこを支える麦芽風味と言う流れだが、全体的に骨格が弱い。
余韻は穏やかで落ち着いている。樽酒のようなウッディネスの中に若い原酒由来のえぐみのようなフレーバー、ピートと共に染みこむように消えていく。

バーボンバレル主体と思われるが、華やかでフルーティーな効き方ではなく、短期間でエキス分、チャー部分の焦げ感が効いている。馴染んでいくのはこれからというような、和的な材質の影響や、温暖な環境下での短期間熟成を思わせる仕上がり。ピートは内陸系で、ヘビーピートからライトピートまでいくつかの原酒を混ぜて調整しているのか、あまり強く主張しない。
THE ファーストと比較すると加水調整が強い分、粗さもまとめられているが、その影響か奥行きやフレーバーの骨格が弱い印象も受けた。もう少し様子を見ていきたい。

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長濱、三郎丸、安積、静岡ときて、津貫のレビューを掲載していませんでした。なので今回の更新では2020年に発売された津貫のファーストと、ピーテッド、同時テイスティングです。
どちらもBARのテイクアウト品となります。特に津貫ピーテッドは緊急事態宣言下での発売となり、しばらく飲めないと思っていましたがウイスキー仲間経由で手配いただけました。いつもありがとうございます!

津貫蒸留所はマルスウイスキー(本坊酒造)が2016年に鹿児島・津貫にある同社の焼酎蒸留所に併設する形で整備した、新しい蒸留所です。
マルスと言えば信州蒸留所ですが、これで冷涼な気候である長野・信州と、温暖な気候である鹿児島・津貫という2か所に製造拠点を持つことになりました。また、原酒の仕上がりを決める熟成環境としては、信州、津貫だけでなく、さらに温暖な環境となる屋久島エイジングセラーも整備しており、大手3社とは異なる原酒の仕上がりの幅、変化を実現できる環境が整っています。

マルスウイスキーの歴史を紐解くと、日本のウイスキー産業の黎明期から中心に近い立ち位置にあったにも関わらず、以下に例示するように時代や業界の流れに翻弄されてきた印象があります。結果論で見通しが甘かったと言ってしまえばそこまでですが、不運の連鎖の中にあるようにも。
一方、現代においては、2011年の信州蒸留所再稼働を皮切りに、この連鎖をたちきって事業が軌道に乗ってきているのではないかと思います。

例1:旧摂津酒造時代。竹鶴政孝をスコットランドに留学させ、日本初となる本格ウイスキー事業をに取り組むものの、不況により計画を断念。竹鶴政孝は1923年に寿屋(現・サントリー)で山崎蒸留所に関わる。
例2:ウイスキーブームを受けて自社でのウイスキー生産を再開※させるべく、1980年に信州蒸留所を竣工。1985年から操業を開始するも、日本のウイスキー消費量は1983年をピークに下降、ウイスキーブームは終焉に向かっており、熟成した原酒が揃う1990年代は酒税法改正等から冬の時代が訪れていた。1992年、信州蒸留所稼働休止。
※1960年に山梨にウイスキー工場を竣工。しかし販売不振から1969年に操業休止。当時はスコッチの税率が極めて高く、大衆ウイスキーとしてサントリーのトリス、ニッカのハイニッカ、ブラックニッカ等が主流だったが牙城を崩せなかった。例1から見れば、敵に塩を送った形とも・・・。

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(ウイスキー仲間のAさん経由で頂いた、津貫蒸留所で販売されている3年熟成のシングルカスクリリース。ノンピートタイプ(左)とピーテッドタイプ(右)。製品としての仕上がり、総合的な完成度は通常リリースに表れるが、酒質を見るなら、足し引きしない単一樽のカスクストレングスは欠かせない。)

今回のテイスティングアイテムである2種類のオフィシャルリリースですが、どちらも津貫蒸留所におけるノンピートタイプ、ピーテッドタイプのファーストリリースでありながら、その位置づけ、キャラクターの仕上がりは異なる点が興味深いです。

■津貫THE FIRST について
全体として荒々しさの残る、パワフルな仕上がり。近年、クラフトジャパニーズでは、若くても度数を感じさせない仕上がりが多く見られるなか、この津貫The First は蒸留所のコメントを引用すれば、"エネルギッシュな酒質"が特徴と言えます。

日本におけるウイスキー造りは、スコットランドをルーツとする一方で、北から南まで、例外なく温暖な時期がある環境は、スコッチタイプとは異なる仕上がりの原酒を産み出して来ました。特にその違いは、熟成期間とピークの関係となって現れます。
近年では、スコットランドに倣う、言わばクラシックな造りのニューメイクから、短期間の熟成を想定したクリアで未熟感の少ない、フルーティーさや柔らかさのあるニューメイクが造られるようになり、ひとつのトレンドとなりつつあります。

ところが津貫蒸留所で興味深いのは、確かに未熟香、雑味を減らしてはいるものの、力強い酒質を産み出そうとしている点です。
これはどちらかと言えば長期熟成を想定するスコットランド寄りのスタイルです。温暖で樽感が強く出るからクリアで飲みやすい酒質で短熟で仕上げようという、例えるなら台湾のカヴァラン的発想ではなく、逆に強い酒質で受け止めようという点は、他のクラフトジャパニーズとは異なるアプローチであると感じます。

また、その強さのなかには、ただ粗いだけではない、ハイランドモルトのキャラクターと言える粥のような麦の甘味が微かに感じられ、今後熟成を経ていくことで丸みを帯びて来るのではと予想される点や、フルーティーさも際立つだろう、大器の片鱗も見え隠れします。バーボンバレルも良いですが、アメリカンオークのリフィルシェリーカスクで、フルーティーさを後押しする樽使いもマッチしそうです。
熟成環境故に今後は総じて樽が強くなるとは思いますが、その成長曲線を上手くコントロール出来れば、他にはない個性的な原酒の仕上がりが期待でると予想しています。

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(津貫蒸留所の熟成庫。石蔵樽貯蔵庫の内部。津貫は信州に比べて温暖であり、エンジェルズシェアも信州が3%なのに対し、津貫は5~6%と2倍近い。流石九州、天使も酒好きか。)


■津貫Peatedについて
一方で、この津貫ピーテッドはどうしたのかと首を傾げてしまいました。
酒質はノンピート同様に雑味が少ないタイプ。ライトピートからヘビーピートまで、幅広くバッティングしたためか、ピート香もライト寄りに仕上がって柔らかく穏やか、ポジティブに捉えると飲みやすい。。。のですが、50%にしては緩い。全体的にパワーが足りないと感じてしまいます。
あれ、エネルギッシュな酒質は?序盤に記載したTHE FIRSTとのキャラクターの違いは、この点にあります。

ここで上記のシングルカスクリリースで酒質を比較すると、ピートタイプもしっかり強め。特段違いがあるようには感じられません。
実際、ノンピートとピーテッドで仕込みの仕様に違いはないとのこと。シングルカスクのほうは、ベースは同じく力強い酒質に、しっかりとピート。三郎丸等と同様に、ピート感がクリアではっきりと主張してきます。そこに樽のエキスが入り、ダシっぽいウッディさに梅を思わせる酸味も主張してくる。全体的に若く強い仕上がりです。

となると、ピーテッドリリースに感じた弱さは、バッティングの樽数に加え、加水の影響でしょうか。このファーストとピーテッドでの仕上げの違いについては、なぜどちらも同じ加水率、度数59%にしなかったのか、どんな狙いがあったのか、機会があれば質問してみたいですね。

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■最後に
津貫蒸留所では、津貫でのウイスキー造りに適した酒質を模索している最中にあります。
創業時からの変化としては、糖化工程でお湯の投入回数を増やし、3番麦汁まで取れるよう設備を増設しただけでなく、発酵工程ではディスティラリー酵母とエール酵母の混合発酵を行う中で、それぞれの酵母の強さ、種類(2020年度は7種類を試したとのこと)を模索したり、ピートレベルもノンピートから50PPMのヘビーピートまで、様々な仕込みを実施しています。
そのため、創業初期に比べて現在は酒質も変化してきているとの話も聞きます。

九州地方は、元々蒸留酒として焼酎文化の本場であるためか、昨今はウイスキー蒸留所の計画が複数あり。津貫、嘉之助に加えて宝山の西酒造も本格的に動き出すようです。
そんな中で、今回のリリースや、蒸留所限定のシングルカスクを飲んだ印象としては、他のクラフトにはない個性、パワフルな味わいに繋がるチャレンジだと感じました。個人的に、温暖な地域はキレイで柔らかめが向いていると思い込んでいたところに、津貫のリリースは「なるほど、こういうアプローチもあるのか」と。

津貫蒸留所の生み出すウイスキーには、まさに九州男児と言えるような、力強く、それでいて樽感や他の原酒を受け入れるおおらかさをもつ、太陽と青空の似合うウイスキーに仕上がっていくことを期待したいです。

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※本記事の蒸留所関連写真は、ウイスキー仲間のAさんに提供頂きました。サンプルの手配含め、本当にありがとうございました!

三郎丸蒸留所 ニューポット2020 アイラピーテッド&ヘビリーピーテッド 60% +蒸留所からの意思表明

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SABUROMARU DISITILLERY 
ZEMON NEW POT 2020
Heavily Peated 52PPM 
Islay Peated 45PPM 
200ml 60% 

評価:無し(3年熟成未満のため)

ヘビリーピーテッド(52PPM):ボトル左
香り立ちはクリア。ニューポット香はあるが嫌味に感じるレベルではなく穏やか。甘みを帯びた麦芽香、微かに柑橘や皮つきパイナップル。ピート香は穏やかなスモーキーさから、徐々に焦げたようなニュアンスが開き、強く感じられる。
一方で、香りであまり目立たなかったピートフレーバーは、味わいでは序盤から広がる。コクと厚みのある麦芽風味と乳酸系の酸味。余韻はスモーキーで焚火の後の焦げた木材、土っぽさ。ほろ苦いピートフレーバーが長く続く。

アイラピーテッド(45PPM):ボトル右
はっきりと柑橘系の要素を伴うフレッシュな香り立ち。クリアでフルーティーな麦芽香に、微かな未熟要素。奥には強く主張しないが存在感のあるピートが香りの層を作っている。
味わいも同様に序盤は甘酸っぱくコクのある口当たりから、じわじわとほろ苦く香ばしい麦芽風味、ピートフレーバーが広がってくる。全体的に繋がりのある味わいで、余韻にかけてはピーティーでスモーキーだが焦げ感は控えめ、穏やかな塩気が舌の上に残る。

どちらの銘柄も未熟香は少なく、味わいも柔らかくコクがある。度数も60%を感じさせず、目をつぶって飲んだら若いモルトとは思うだろうが、ニューポットとは確信をもって答えられないかもしれない。それくらい新酒が本来持つだろう未熟要素、オフフレーバーが少なく、一方で原料や仕込み由来のフレーバーが双方ともしっかりと備わっている。

飲み比べると、内陸ピートで仕込まれたヘビリーピーテッドは、麦芽風味とピートがそれぞれ主張し合う構成。アイラピーテッドは、はっきりと柑橘系の要素にピートフレーバーが溶け込み、全体を繋ぐような一体感のある構成となっている。また、ピートフレーバーの違いも、前者には木材が焦げたようなスモーキーさが強く感じられるが、後者は焦げ感よりも煙的な要素が主体となって塩気も伴う。仕込みの時期の差もあるだろうが、香味の違いが興味深い。
2016年以前の姿を知っている人が飲めば、あの三郎丸の原酒なのかと驚愕することだろう。これらの原酒が熟成した姿、特にバーボン樽での数年後が楽しみで仕方ない。

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富山県、若鶴酒造の操業する三郎丸蒸留所が2020年の仕込みで造った、2種類のニューポット。
三郎丸蒸留所の酒質が2017年のリニューアルから大幅に改善し、特にマッシュタンを入れ替えた2018年からの伸びは、この蒸留所の過去を知っている愛好家は認識を改める時がきたと、以前ブログ記事にもさせて頂いたところです。

その後、以下の画像のように2019年にはポットスチルを入れ替え、世界発の鋳造ポットスチルであるZEMONが稼働。2020年には発酵槽の一つに木桶を導入。2019年の仕込みは、ポットスチルをはじめ蒸留設備の変更ということで調整に苦労されたようですが、2020年はそのノウハウを活かし、木桶による乳酸発酵と合わさって一層クリアでフルーティーさのあるニューメイクが生み出されています。

三郎丸蒸留所アップデート2018ー2020
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※1:2018年に導入された三宅製作所製のマッシュタン。従来に比べ、ピート香がさらに引き立つようになった。
※2:2019年に開発・導入された、鋳造製ポットスチルZEMON。従来のスチルに比べて様々に良い効果が期待できる。
※3:2020年に導入された木桶発酵槽。複数のタンクで発酵されたものを、最終的にこの木桶で乳酸発酵する。
※4:2020年から使用することとなった、アイラ島のピート。現在、国内でアイラピートを使った仕込みは他に例がない。


また、同じく2020年にはアイラ島で産出するピートで仕込んだ麦芽の使用を開始したことが、三郎丸蒸留所における大きな転換点ともなりました。
現在、日本に輸入されるピーテッド麦芽に使われているピートは、全てスコットランド内陸産のものであり、アイラ島で産出するピートを使った仕込みは行わせていません。背景には大手スコッチメーカーがアイラ島産出のピートをほぼ全て押さえてしまっていることがあり、アイラモルトブームでありながら、アイラピートを使った仕込みが出来ないというジレンマが日本のウイスキーメーカーにありました。

ピートフレーバーは、使われたピートの産地によって微妙に異なることが、近年愛好家間でも知られてきています。植物の根などが多く混じる内陸系のピート、海藻などが海の要素が多く混じるアイラ島のピート。前者は燻製のような、あるいは焦げたようなスモーキーさ、後者はアイラモルト特有とも言われるヨードや薬品的な要素、また海辺を連想させる塩気や磯っぽさをウイスキーに付与すると考えられます。

三郎丸蒸留所は、年間の仕込みの量が大手に比べて遥かに少ないことから、アイラピート麦芽を必要分確保することが出来たのだそうです。今後、2021年以降は全ての仕込みがアイラピート麦芽に切り替わり、原酒を蒸留していくと計画されていることから、まさに蒸留所の転換点となったのがこの2020年の仕込みであり、ニューポットであるのです。

ご参考:三郎丸蒸留所における各年度の取り組みについては、以下Liqulの対談記事に詳しくまとめられています。


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昨年11月、三郎丸蒸留所からは3年熟成のシングルモルト”THE FOOL”がリリースされ、50PPMという強いピーティーさ、リニューアル前の酒質からの大きな変化、厚みのあるヘビーな味わいに、驚かされ将来に期待を抱いた愛好家も少なくなかったのではないかと思います。
しかし、歴代のニューメイクを飲んでいくと、その驚きは序章でしかないと感じるはずです。上記画像※1~※4にあるとおり、設備や材料のアップデートとノウハウの蓄積により、それぞれの年に2017年の蒸留を上回る原酒が誕生しているのです。

特にリニューアル後の集大成とも言える、2020年仕込みのニューメイクが成長した姿は確信をもって間違いないと言えるものです。
綺麗なニューメイクを作る蒸留所は多くありますが、これだけ麦芽由来のコクや厚みがあり、現時点から未熟要素の少ないニューメイクなら、日本の熟成環境で強く付与される樽感を受けとめて短期で仕上がるでしょうし。また、空調を効かせた冷温貯蔵庫もあることで、20年を超える長期間の熟成という選択肢もあります。

大手蒸留所は、その生産規模から小規模な仕込み、試験的な蒸留は行い辛いものがあります。例えば、不定期に少量しか手に入らないボデガ産のシェリーの古樽よりも、シーズニングで安定して大量に供給される疑似シェリー樽のほうが需要があるという話からも、その傾向が見えてくると思います。

故に、小回りの利くクラフトでは三郎丸蒸留所のような独自の個性をもった蒸留所や原酒が生まれてくる楽しみがあり。2020年仕込みで新たに登場したアイラピーテッドもその一つです。
日本初となるこの原酒がどのように成長していくか。リアルタイムで見ていくことが出来る幸運を噛みしめつつ、本レビューの結びとします。

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※以下、余談:ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所からのメッセージについて
先日、日本洋酒酒造組合からジャパニーズウイスキーの基準となる、表示に関する自主基準が発表されました。
当ブログでも前回の記事で基準を紹介し、期待できる効果と懸念事項を解説させて頂いたところです。また、同基準に対していくつかのウイスキーメーカーからは賛同の声明が発表され、あるいはWEBサイトの商品説明が切り替わる等、業界としても動きが見られます。

その中で、大きな注目を集めたのが、若鶴酒造・三郎丸蒸留所が発表した声明「ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所の方針と提案」です。同社の発表は愛好家を中心にシェア・リツイートされ、今後基準を運用していく上での重要な示唆であるとする意見が多く寄せられています。



内容をざっくりまとめると、
・若鶴酒造、三郎丸蒸留所は同基準を遵守する。
・しかし今後日本のウイスキー産業には、国産モルト原酒の多様性と、グレーン原酒の確保という課題が生じる。
・国産グレーン原酒を国内のウイスキーメーカーに提供する仕組みの確立を後押ししていただきたい。
・国産モルト原酒の多様性については、三郎丸蒸留所は他の蒸留所との原酒交換に応じる準備があり、今後積極的に推進していきたい。
と言うものです。

自分の記事とも概ね同じ意見ですが、実際のウイスキー製造現場サイドからの声として、エピソードを交えて説明されたそれは、より説得力のあるものであったと感じます。
また、原酒の多様性確保に関し、国産グレーン原酒の懸念はクラフト1社だけではどうにもならないことですが、逆にクラフト側からの提案として「原酒の交換」が発表されたのは、重要な意思表明だと感じています。

日本のクラフト蒸留所は、小規模ながら大手とは異なる様々な個性の原酒が存在します。
三郎丸蒸留所については本記事でも紹介しているので割愛しますが、
厚岸蒸留所の、精緻な仕込みに北海道産麦芽がもたらすフルーティーな原酒。
安積蒸留所の、スコッチモルトを彷彿とさせるようなピーテッド原酒。
静岡蒸溜所の、軽井沢スチルと薪加熱方式というこれまでにない取り組みが生み出す原酒。
長濱蒸溜所の、麦芽の甘みと香ばしさが活かされた柔らかい味わいの原酒。
嘉之助蒸留所の、クリアで早期に仕上がる南国環境を彷彿とさせる原酒・・・。
個人的にぱっと思い浮かべるだけで、これだけ個性的なモルトがあります。

また、今や第二蒸留所まで稼働し世界規模のブランドととなった秩父は勿論。スペイサイド的な酒質を彷彿とさせるスタイルでリリースが楽しみな遊佐、樽や熟成環境に様々な工夫を凝らす信州、津貫。古参ながら苦戦していた江井ヶ島も設備をリニューアルして酒質が向上したという話も聞きます。1つ1つ紹介していくとキリがありません。
これらの原酒が交わり、ジャパニーズブレンデッドとしてリリースされる。まさに日本だからこそ実現できるブランドであり、夢のある、美味しさだけでなくワクワクするプランだと思います。


とはいえ、この手の話は”言うは易し”というヤツで、法律的な面も絡むことが懸念事項です。
なんだって前例のないことをするのはパワーがいるものですが、荒唐無稽な提案ではありません。例えば相互に等価設定で同量の原酒を樽で取引しあうような対応なら・・・。原酒交換が1件でも行われ、ノウハウが開示されれば後に続く蒸留所も増えてくるのではないかと思います。
また、今までは交換した原酒をどのように使われるのか等の不安もあり得たところ。整備された基準が、様々な意味で後押しになるのではないかとも感じます。

今回、声明を発表された若鶴酒造の稲垣マネージャーは、33歳と若いクラフトマンです。ですが蒸留所を見ても、本記事で説明したとおり老朽化した蒸留所を改修し、新しい技術を導入し、素晴らしい原酒を生み出すまで導いた行動力があります。
ならば、この提案もきっと早期に実現されるのではないかと思います。今後、三郎丸蒸留所から生み出される原酒だけでなく、発表された提案の実現に向けた動きについても、注目していきたいです。

静岡蒸溜所 プロローグK シングルモルト 3年 55.5%

カテゴリ:
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SHIZUOKA 
"PROLOGUE K" 
THE LEGENDARY STEAM-HEATING STILL 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Aged 3 years old 
Cask type Bourbon Barrel 
Released in 2020 
700ml 55.5% 

評価:★★★★(4)

香り:和柑橘を思わせる爽やかさと苦み、若干の土っぽさ。蒸かした穀物のような甘さもあるが、奥にはニューポッティーな要素に加え、セメダイン系のニュアンスも伴うドライ寄りの香り立ち。

味:飲み口は度数相応の力強さで、若干粉っぽさのある舌あたり。バーボン樽由来のやや黄色見を帯びたウッディな甘味が、軽めのピートや麦芽のほろ苦さを伴って広がる。
一方で、中間から後半、余韻はあまり伸びる感じはなく、樽感、ピートとも穏やかになり、若さに通じるほのかな未熟要素、軽いえぐみを残して消えていく。

強めの樽感と軽めのピートでカバーされ、若さは目立たない仕上がり。樽はウッディな渋みが主張するような効き方ではなく、余韻にかけて穏やかに反転する変化が面白い。これは温暖な環境と短い熟成年数、そして酒質によるところと推察。若い原酒のみで構成されているため、酒質と樽感との分離感も多少あるが、少量加水するとスムーズで軽やか、麦芽由来の甘さも引き立ちまとまりが良くなる。
クラフト蒸留所のファーストリリースとして、そのクオリティは及第点。”伝説のスチル”の真価はこれからか。

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静岡蒸溜所から2020年12月にリリースされた、シングルモルトのファーストリリース”プロローグK”
ボトルで購入は出来ず、コロナ禍でBAR飲みも控えているため飲めていませんでしたが、知人のBARで小瓶売りのテイクアウトが可能だったため、緊急事態宣言前に調達していたものです。

静岡蒸溜所は、2016年に静岡県の奥座敷、中河内川のほとりに、洋酒インポーターであったガイアフロー社が創業した蒸溜所です。
創業にあたっては、旧軽井沢蒸溜所の設備一式を市の競争入札で落札し、可能な限り活用していく計画が発表されたことでも話題となりました。

その後聞いた話では、設備は老朽化していて、ほとんどが新蒸溜所での運用に耐える品質を保持していなかったそうです。ですが、モルトミルとポットスチル1機は活用可能だったとのことで、静岡蒸溜所に移設されて再び原酒を生み出し始めます。これが、今回リリースされたプロローグKのルーツである、"伝説の蒸留機 K”となります。
また、蒸溜所の創業年である2016年は、蒸溜所にすべての設備が整っていなかったため、初留・再留とも蒸留機Kで行う形態で仕込まれていました(現在は初留のみ)。今回のリリースも、全て同原酒で構成されているとのことです。

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(今は無き、軽井沢蒸溜所での1枚。このシルエットは、プロローグKのラベルデザインや、ボトルシルエットにも採用されている。)

以上の経緯から、創業前は"軽井沢蒸留所の復活"とも話題になった静岡蒸留所ですが、創業してからの評価はピンキリというか、必ずしもいい話ばかりではありませんでした。
WEBやメディアを通じて発信される拘りや新しい取り組み、愛好家からの期待値に反して、ウイスキー関係者からは「迷走している」という評価を聞くことも。。。

私自身、設備や蒸留行程の細かいところまで見てきた訳ではないので、あくまでウイスキーイベント等でカスクサンプルをテイスティングする限り。骨格が弱い一方で雑味が多いというか、発酵か、蒸留か、何か仕込みでうまくいってないような。。。酒質の面でも惹きつけられる要素が少ないというのが、少なくとも1年前時点※での本音でした。
※昨年はコロナでイベントがなく、見学にも行けなかったので。


(静岡蒸留所 プロローグKのPR動画。ウイスキー作りやリリースまでの流れが、22分とPR動画にしては長編の構成で紹介されている。プロローグKの紹介は16分あたりから。え、そこまで考えて?というこだわりも。)

そして3年熟成となるプロローグKです。男子3日会わざれば・・・ではないですが、日本のモルトで1年は大きな影響を持つ時間です。あれからどのように変化したのか、じっくり見ていきます。
構成原酒の蒸留時期は、創業初期にあたる2016年から2017年。麦芽は50%が日本産、30%はスコットランドから輸入したピーテッド麦芽、残り20%はドイツ、カナダ産のビール用の麦芽(ノンピート麦芽、ホップが効いているわけではない)を使用。これら原料を蒸留機Kで蒸留した原酒をバーボン樽で3年熟成した、31樽から構成されています。

飲んだ印象としては、樽感は強いですが、ベースは繊細寄りのウイスキーだと思います。
ピートも内陸系のものを軽めなので、フレーバーのひとつとしてアクセントになってます。
香りに感じられる特徴的な柑橘香や、樽香によらない幾つかの個性は、麦芽の構成に由来するのでしょうか。以前とある蒸溜所の方から「日本産の麦芽を使った原酒は、熟成の過程で和の成分を纏いやすい」という話を伺ったことがありますが、このプロローグKのトップノートでも、同様の印象が感じられました。

樽感が強めなのは、蒸留所のある場所が、静岡の山間ながら温暖な熟成環境に由来していると考えられます。
短期間の熟成なので、華やかなオーク香やフルーティーさ、ウッディな渋みはまだ出ていませんが、樽由来の甘み、エキス分は良く溶け込んでいます。
つまりこれから熟成が進めば、一層ウッディになり、フルーティーな変化もありそうですが、現時点ではかつて感じた印象のまま、酒質の厚み、奥行きが少なく、後が続かない。スッと消えていくのは、その為かなという感じです。
この良く言えば繊細、率直に言えば弱い箇所をどう補うかが、仕込みからリリースまで、全体的な課題だと感じます。

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(蒸留機を増設し、設現在の形になった静岡蒸溜所で蒸留された原酒のサンプルの一つ。ラベルにはWood firedという新しい取り組みによる表記がある。創業初期より骨格はしっかりしたと感じられるが・・・。)

蒸留所としては、2017年以降にポットスチルを増設し、地元で産出する木材・薪を使った直火蒸留という新しい取り組みも始めるなどしています。(これは温度が上がらないなど、苦労されていたと聞きます。)
ですがその酒質は、例えば三郎丸のリニューアル前後や、長濱の粉砕比率調整前後のような、ベクトルが変わるような大きな変化があった訳ではないようで、どこか問題を抱えているように感じます。

静岡蒸溜所の原酒は、近年のトレンドと言える洗練されてクリアなキャラクターではなく、クラフト感というかクラシックな雑味というか。。。言わばクラフトらしいクラフト、という路線が創業時から変わらぬベクトルとして感じられます。
加えて懐が深いタイプではなさそうなので、ピークの見極めが難しそうです。繊細さを活かすなら短熟のハイプルーフもアリですが、この手の酒質は樽と馴染みにくく奥行きも出にくいため、雑味や未熟香とのバランスをどうとっていくか。個人的には酒質や余韻のキレを多少犠牲にしても、いっそ樽をもっと効かせた後で、46%加水くらいにしてまとめる方が向いてる感じかなと思います。

果して、10年後にどちらのキャラクターがウイスキーとして正しいかはわかりません。
ですが、思い返すと軽井沢蒸留所の原酒も、決して洗練されたタイプではありませんでした(美味い不味いは、好みやカスク差もあるので保留。実際、軽井沢は樽による当たり外れが大きかった)。軽井沢蒸留所のDNAを持つ静岡蒸留所にあって、このキャラクターはある意味でらしさであり、"伝説"を受け継ぐ姿なのかもしれません。

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