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ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー

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前回の記事でピュアモルトウイスキー倉吉の問題点を整理したところで、この一件から見えてくるジャパニーズウイスキーの課題と現状についても整理します。
ジャパニーズウイスキーの課題は、それを定義するはずの酒税法が緩すぎて、基準そのものが無いということ。そして、そこを補足するだけの力を持った団体が無いことです。

ウイスキーの製造は、その国で定められている法律等によって様々なルールがあります。
イギリスではThe Scotch Whisky Regulations( 通称スコッチ法)に加え、スコッチウイスキー協会による審査などで細かい部分が整理がされています。
スコッチ法の「スコッチウイスキーはスコットランド国内で蒸留、3年以上の熟成」というルールは有名ですが、熟成年数などのラベルの表記も消費者が誤解するような記述がないように、厳しいチェックがされています。
酒販店やBARが現地メーカーから樽を買ってプライベートボトリングをする際、ラベルの審査が通らず苦労するという話もあるくらいです。 (10周年という記載が、10年モノと見間違うからNGと言われたこともあるとか。。。)

対して、日本の酒税法では、ウイスキーの原料と製造方法に関する極めて基本的な記述しかなく、ウイスキー製造行程のどこまでを日本でやったらジャパニーズウイスキーなのかという決まりがありません。
つまり、海外から輸入してきた原酒を国内で貯蔵し、ブレンドして、税金を払ってリリースすることも可能であるわけです。

そうした日本の環境の中で、各社は長きに渡りトップランナーたるスコットランドのルールを参考にしながら、独自の判断と、基準と、モラルで、時に厳格に、時に柔軟に、ウイスキー作りを続けてきました。
そして「味の追求」や「原酒の幅の少なさ」などを補うため、構成原酒の一部に国内のみならず海外から買い付けたバルクウイスキーを使うことも、グレーゾーン的な扱いの中、一部の銘柄で行われていました。
そのうちのいくつかの商品では公式に「スコッチモルトを使った」と宣言しているモノもありますし、都市伝説的に広まっているものもあります。


上の写真は日本の中でも有名な蒸留所に転がっていた、スコッチバルクウイスキーのタンクです。この蒸留所では輸入バルクウイスキーを使用した製品は「ジャパニーズウイスキー表記」をしないなど、配慮もしているようです。
他にも「またあそこ原酒買ったよね」と、業界関係者に言われるほどの買い付けでバルクウイスキーを使ったリリースを行っている蒸留所もあります。先日、ここの蒸留所限定ブレンデッドを飲んだところ、若いスコッチバルクウイスキーと思われる味がバリバリで唸ってしまいました。
時代を遡ると、某社では「申請されている原酒貯蔵量以上にリリースされてないか?」と国会の委員会で話題のひとつになってしまったことも。

これらは違法なコトをしている訳ではないのですが、推測の域を出ない内容も含まれているため、どの蒸留所の話であるかは書きません。
しかし写真にあるようにバルクウイスキーがビジネスとして成立し、多くのロットが生産されているということが、その現状を雄弁に物語っているように思います。
松井酒造の肩をもつわけではありませんが、彼らの言動に「なんで俺らだけ言われにゃならんのよ」という姿勢が見えるのは、こうした背景が日本のウイスキー業界にあるためです。(彼らが叩かれた本当の理由は散々述べたので、割愛しますが。)



 ここまで読むとバルクウイスキーを使うことが"悪"のように読めてしまうかもしれませんので(実際人によってはバルク=粗悪なウイスキーという認識の方もいるようです)、その素性等について、自分が知ってる範囲で紹介しておこうと思います。

日本で主に使われているバルクウイスキーは、専門の業者が蒸留所から原酒をまとめて買いつけ、ブレンドして大容量のタンクで販売しているブレンデッドモルト、あるいはブレンデッドウイスキーです。
かつてはシングルモルトも販売されていたようですが、2012年にスコッチ法改正でシングルモルトのバルク輸出が禁止され、スコッチタイプはブレンド系のみとなっています。 (現地蒸留所と繋がりが強い企業にあっては、現地基準でウイスキーに該当しないニュースピリッツを輸入する方法もあるようですが、今回の話の流れである、メーカーが直ちにブレンド可能な商品としてのバルクウイスキーではないので省略します。) 

バルクウイスキーには3年クラスの非常に若いものから、30年近い長期熟成年数のものまであり。樽の傾向もバーボン系やシェリー系などいくつかパターンがあるようで、業者が保有する原酒の中から選び、買い付ける形になります。
また、クラフトメーカーなどではブレンデッドウイスキーを作る際に必要なグレーンウイスキーの調達も急務であり、国内で調達できない場合は太平洋を渡った先から買い付けていることもあるようです。近年はウイスキーブームにより国産グレーンの融通が困難で、海外調達が中心とも聞きます。

バルクウイスキーの特徴というかデメリットは、原酒に何が使われているのか公開されていないことにあります。
ただ、原酒を提供できる蒸留所やグループは限られていますし、例えばスコッチタイプはハイランドやスペイサイドのブレンデッド向け蒸留所が多いかなという印象は有ります。
味はどうかと言うと、バルクウイスキーだから悪いとか、明らかに粗悪とかそんなことはありません。
業者も最低限のクオリティを維持しないと商売になりませんから、これまでいくつか飲んできたバルクサンプルや、そっち系のウイスキーは普通に飲めるレベルですし、長期熟成タイプは風味もリッチで下手な蒸留所の原酒より旨い。
ブレンドのベースにも十分使えるレベルで、20年オーバーの長熟タイプは味だけ考えたら率先して使いたいほどです。
また、グレーンについても製法上大きな差が出づらい事もあり、バニラ系の風味がしっかりある「至って普通のグレーン」が供給されています。


長くなってしまいましたが、ジャパニーズウイスキーの課題はその基準のあいまいさにあり、メーカーによっては必要に応じてバルクウイスキーに頼った商品作りを行っている現状もまた、伝わったものと思います。 
勿論、全てのメーカーが使っているわけではなく、出荷量を絞っても使わない姿勢を見せている銘柄もあります。 あくまで自分の知っている範囲の話ですが、全ての銘柄がそういう状況にある訳ではないことは、補足させていただきます。 

"ジャパニーズウイスキー"が世界的に評価される中、日本のウイスキー業界は、こうした課題とどのように向き合って行くべきなのでしょうか。
機運の高まりから「ジャパニーズウイスキー」と「そうでないウイスキー」を分ける"基準"を作ろうという動きも出ています。
問題提起と現状把握も終わったところで、次回はこうした課題や現状に対する自分なりの考えをまとめます。

ジャパニーズウイスキーに今後必要だと思うことに続く。

松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題

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先日、ピュアモルトウイスキー倉吉をリリースした鳥取の松井酒造合名会社(以下、松井酒造)が、公式ページをリニューアルし、その内容が話題になっています。 

※ピュアモルトウイスキー倉吉 当ブログでの評価はこちら。

元々同社の製品はリリース当時から自社蒸留しないで輸入原酒を使ったことや、ラベル表記が紛らわしいとか、いろんな意味で話題になっていました。
そうした中で同社に対する評価や投稿の中には、「日本のウイスキー業界全体に共通する問題」について「松井酒造だけの問題」として批判されている方も少なからずおり、それに答える形で松井酒造も"何が問題なのか"を履き違えている節がありました。 

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同社が更新したWEBページには、代表者と思われる方のメッセージ(と写真)が掲載されていますが、その内容からもピントがずれていることが伺えます。
本質的な問題はそこじゃないんだけどな〜・・・。

松井酒造合名会社WEBページ ウイスキーについて
http://www.matsui-shuzo.co.jp/whiskey.php


色々と疑問が残る言葉遣いはともかく、メーカー側の本音としてそういうことがあるのも理解は出来ますし、冒頭述べたように一部誤解されている方々がいるのも事実でしょう。(それをダイレクトに言ってしまうのもどうかと思うんですが。)
であればちょうど良い機会ですので、本件の問題点を整理しつつ、日本のウイスキー業界の現状、今後何が必要なのかということを自分なりにまとめていきたいと思います。


まず松井酒造の一件で疑問点となるのは、同ウイスキーには自社の原酒が使われず、スコットランドから輸入した原酒、いわゆるバルクウイスキーが使われていることです。
そのため、「ジャパニーズウイスキーを意図する記述をしておきながら、海外原酒を使うなんて詐欺じゃないのか」というコメントをされる方も見受けられましたが、これは日本の法律上は問題ありません。
それどころか、使っていることを明記しているだけ"他社製品"より"親切"であるとも言えます。
続編にて解説しますが、これが日本のウイスキー業界の内包する課題のひとつです。

同銘柄における最大の問題点は「ラベルや説明文などの売り方が紛らわしかった」ということです。
しかし、これも消費者をだまそうと意図してそういう売り方をしたのか、単に消費者が勝手に勘違いしただけかは証明が困難であり、かなりグレーゾーンな話だと言えます。 

確かにこのピュアモルトウイスキー倉吉は、
見るからに某社のシングルモルトにラベルが似てるとか、
ポットスチル等の設備を備えていないのに倉吉蒸留所名義であるとか、
倉吉では原酒を1年未満しか保管していないと思われるのに「熟成」とか、
突っ込みどころは数多く有ります。

ですが、ラベルが似てる似てないの話は、パクられモトとなる某社側が動いてない以上、疑惑の域を出ません。 
さらに日本のウイスキーには熟成の定義はなく、蒸留所の話にしても焼酎の蒸留設備があれば、蒸留方法に指定の無い日本の法律上はウイスキーを蒸留できてしまいますから、倉吉蒸留所が作った(ブレンドした)ウイスキーとして、事実に反しているとは言いがたいのです。
もっとも、8月中旬に発売されるという、シェリーカスク倉吉8年は、THE KURAYOSHI MALT WHISKYと、ピュアモルトウイスキー表記ですらなくなっているのですが。。。

疑問がないワケではありませんが、言うならばルールではなくマナーの問題というヤツですね。
松井酒造の肩を持つわけではないですが、感情論抜きに中立的に考えると、このあたりが妥当なところかなと。 
本件に関して納得できないという方は司法や行政に訴えかけるのも手ではありますが、疑問があるなら何も言わずに購入しない、仕入れないということだと思います。

後は同社のクレーム対応が、火に油を注ぐような内容だったというのも非難される一因にあるのですが、そこはあくまで企業姿勢の話です。
ここでは大人の対応でノーコメントとして、続編へと続きます。


「ジャパニーズウイスキーの現状」へ続く

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