タグ

タグ:ジャパニーズウイスキーの基準

「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」に潜む明暗

カテゴリ:

2月16日、日本洋酒酒造組合から”ジャパニーズウイスキーの基準”となる、表示の整理に関する自主基準が制定され、国内外に向けて公開されました。施行は2021年4月1日からとなります。

同組合は、酒税の保全等を目的として設立されている組合で、大手からクラフトまで、国内で洋酒の製造販売等を行うほぼ全てのメーカーが加盟しています。そうした組合が作る基準ですから、自主基準とはいえ、少なからず実効性のある基準ではないかと思います。
実際、既に動きを見せるメーカーもあり。また酒税法に関連する組織であるため、後の法律面への反映も期待できるのではとも感じます。

我々愛好家サイドから見ると、唐突に公開された感のある本基準ですが、検討は2017年頃から始まっていたそうで(参照記事:こちら)、加盟企業から選出されたWG、理事会での協議、意見交換等を経て約4年間をかけてまとめ上げた基準となります。
なお、ウイスキー文化研究所で議論が進んでいたジャパニーズウイスキーの定義とは、別のルートで造られたものという位置づけで、必ずしも整理が一致するわけではありません。

日本洋酒酒造組合:ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
※英語版はこちら

結論から言うと、ジャパニーズウイスキーとしての透明性とブランドを整理出来る、よく考えられている基準だと思います。
日本のウイスキーには、酒税法等での条件が緩いことから、
  1. 輸入原酒を使ってジャパニーズを名乗る(あるいは誤認させる)銘柄が、国内外に販売されていること。
  2. 最低熟成年数や熟成方法が定義されていないため、明らかに未熟な原酒が商品に使われていること。
  3. ブレンド用アルコールを用いてもウイスキーを名乗れること。
  4. 焼酎原酒などウイスキーではない蒸留酒がジャパニーズウイスキーとして輸出、販売されていること。
  5. ラベルの表記等に関して、基準が整理、統一されていないこと。
大きく分類すると、以上の問題がありました。
今回の基準では、これら意図して法律の抜け道を使う、悪貨の駆逐と言う点に主眼が置かれた整理となっており、一定の効果を発揮するものだと思います。

ですが、基準の決定に当たっては大手メーカー主導の流れがあるのか。あるいは目下最大の問題を優先したためか。
シングルモルトについてのブランド保護、透明性は担保された一方で、昨今増加傾向にあるクラフトディスティラリーの”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点で厳しい内容である、という印象があります。
今日の記事では、本基準がもたらす効果を「明暗」含めて、まとめてみたいと思います。


■ジャパニーズウイスキーの基準における整理

まず、今回制定された”表示に関する基準”において、ジャパニーズウイスキーと区分する条件をまとめると
  • モルトウイスキー・グレーンウイスキー、どちらも日本の蒸留所で糖化、発酵、蒸留、熟成を行ったもの。麦芽は必ず使うこと。
  • 水は日本国内で採水されたもの。熟成については木製樽(700リットル以下)を用いて日本国内で3年以上とする。
  • ボトリングは日本国内で、度数は40%以上とする。
として整理しています。

中でも蒸留所での製法に糖化が含まれていることや、原材料で「麦芽は必ず使用しなければならない」とあるのがポイントです。元々糖分のあるものから発酵、蒸留するブレンドアルコール類や、焼酎のように麴を使って糖化・発酵をさせるものと、麦芽で糖化するジャパニーズウイスキーが違うことを定義しています。

そのうえで、表記は「ジャパニーズウイスキー」とし(例:ジャパニーズモルトウイスキーではNG。また第6条の記載から、英訳等で日本製と誤認させる表記へのアレンジもNG)。ジャパニーズを名乗る基準に加え、問題となっていた"疑似ジャパニーズ"や”アル添ウイスキー”、"焼酎ウイスキー"をジャパニーズウイスキーの区分からシャットアウトする整理になっています。

ウイスキーの基準

今回発表された基準は、別途ウイスキー文化研究所が調整していた、ジャパニーズウイスキーの定義(TWSC版)と比べると、考え方は同じである一方、スコッチウイスキーの定義である"Scotch Whisky Regulation"寄りの内容で整理されています。
例えば仕込みに関する記述に加え、熟成年数もスコッチに倣って1年長く設定されている点。輸入バルク原酒を加えたものを「ジャパンメイドウイスキー」と整理するウイ文研の基準と異なり、あくまでジャパニーズか、そうではないか、という1か0かの整理になっています。

熟成年数の違いについては、日本のウイスキーがスコッチタイプの原酒である以上、3年熟成からウイスキーであるという整理も納得できなくはありません。
「日本は気候が温暖で熟成が早い(エンジェルシェアが多い)から熟成期間を短縮すべき」という意見もあるとは思いますが、既に国内でシングルモルトは最低3年でリリースするという対応が行われているのを見ると、実態べースで整理しても良いとは思います。レアケースですが、熟成庫に空調いれてるところもありますし。
ただし樽については木樽として幅広く読める表現となっており、スコッチ路線の基準でありながら、アレンジされている点もあります。

一方で、輸入バルクウイスキーを一部でも使ったウイスキーについては、単にジャパニーズウイスキーとして表記できないだけでなく、銘柄名についても制限をかけるのが本基準の特徴と言えます。
これは、第6条(特定の用語と誤認される表示の禁止等)に記載があり、日本を想起させる人名、地名、あるいは国旗の表記といった禁止事項が明記され、一見すると某西のメーカーが色々とやって話題になったような疑似ジャパニーズウイスキーが、その名称を名乗れなくなる整理となっています。

ウイスキーの基準2

当ブログでも以前から発信していましたが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する問題は、製法だけでなく、名称や販売の際の説明についても制限しなければ意味がありません。
今回発表された基準は、その点についても考慮されているだけでなく、表記と言う意味では「ウイスキーに該当しない酒類にウイスキーであるかのように表示する」、前例でいえば”海外で焼酎をウイスキーとして販売する行為”に対して、第6条3項に「酒類※を売らないし協力もしない」という罰則的な記述があるのも、限定的ですが組合の規定として踏み込んだ内容だと思います。

※酒類であるため、製品やウイスキー原酒だけでなく、焼酎、ブレンド用アルコール等が幅広く含まれる。つまり該当するようなことをした企業が使うであろう酒類の供給を条件としている点が、この項目のポイントと言える。他方で、第6条3項は「日本国の酒税法上のウイスキーに該当しない酒類」が対象となるため、必ずしも第5条及び第6条2項を破った企業に対する罰則とはなりえない点が、ややちぐはぐな流れとも言える。


■基準の運用と時限措置
ただし、この基準では
・第6条第2項に、第5条に定める製法品質の要件に該当しないことを明らかにする措置をした時は、この限りではない。(説明すれば、ジャパニーズウイスキー表記はダメだけど、引き続き日本を想起させる単語等は使っても良い。)
・附則 第2条として、すでに販売中のウイスキーに関しては、中身の整理に2024年3月31日まで3年間の猶予を設ける。
とされており、抜け道もなくはありません。
基準制定の背景に一部の方々が強く連想する銘柄が、これをもって急に消えるというわけではないんですよね。おそらくラベル上の表記とデザインがちょっと変わるくらいで。 


ウイスキーの基準3

前者(第6条第2項)は、どこで説明するのかと言うことになりますが、話を聞く限りではラベルに限らないようです。SNS,WEB,消費者が常時参照できるような場所も含まれるようで、既に大手ウイスキーメーカーのサイトで説明の追加が行われているところもあります。

昨今、サントリーが山崎や白州に「Single Malt Japanese Whisky」表記をつけたり、その他ブランドのラベルもマイナーチェンジしていたり。ニッカの竹鶴ピュアモルトのリニューアルやセッションのリリース、キリンの富士や陸しかり。。。大手各社の動きは、ここに帰結するものだったのでしょう。
そうしてみると、入念に準備されていた、業界としての動きなのだということが見えてきます。

また、後者(附則第2条)については、既存のブランドを持っているところは逃げ得が出来るのではないか!と憤る意見もあるかもしれませんが、既存銘柄のラベル変更等は、ロットの切り替えを待つ必要もあり、その準備期間という意味もあると考えられます。
何よりウイスキーの熟成は3年間と定義している以上、自社原酒の準備期間として3年の猶予を与えるのは、性善説で考えると理解できる内容でもあります。

しかしこの附則事項も、ウイスキー蒸留を行うための設備の準備期間は考慮されておらず、本当に最低限の年数であること。
”2021年3月31日以前に事業者が販売するウイスキー”が、ブランド全体を指すか、リリース単位を指すかというとリリース単位であるそうで、例えば日本12年という銘柄をバルクウイスキーでリリースしていたメーカーが、これのフィニッシュモノや年数違いはリリース出来ないとのこと。
どちらも、これから基準に対応するメーカーにとっては、最低限の配慮であるように感じます。(前者の説明をすればその限りではなく、あくまで自主基準上では、ですが。)


基準説明
ウイスキーの基準4
※アサヒビールオンラインストアにおける説明文。赤字箇所がこのタイミングで追記された。第6条第2項は運用次第で本基準を有名無実化させる危険性もあるので、組合でのガイドライン整備が別途必要と考えられる。今後注視したい。
※海外のウイスキーショップにも動きがあり、有名どころであるWhiskyExchangeも、本基準を紹介。ショップではJapanese Whisky と From Japanese で整理するとのこと。


■基準の明暗そして今後への期待
さて、ここまでは基準における「明」の部分を中心にまとめてきましたが、「暗」となる懸念点についても自分の思うところをまとめます。
冒頭では、”クラフトディスティラリーにおける”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点では、厳しい内容である。”として触れました。
何かというと、原酒の多様性の確保、特に「グレーンウイスキー」の存在です。

シングルモルトブームの昨今にあって、基準を読む際にモルトウイスキーを連想しがちですが、消費の大半を占めるのはブレンデッドウイスキーです。
ブレンデッドウイスキーをつくるためには、モルトウイスキーだけではなく、グレーンウイスキーが必須となります。ですが、国内でグレーンの製造設備を持っているクラフトメーカーは殆どなく、また設備もポットスチルに比べて高額なことから、スコットランドだけでなく、カナダ、アイルランドといった地域からの輸入原酒に頼らざるを得ないのが実態となっています。(ポットスチルでもグレーンウイスキーは作れますが、連続式に比べ効率が悪く、コストも高くなります。)

大手3者は自社でグレーンウイスキーを作れるので問題はありません。国内外でブランドを確立している有名クラフトメーカーも、あまり問題にならないかもしれません。
しかし、ブームで参入したクラフト蒸留所や、あるいはこれから参入するメーカーはというと、まさに動こうとしていた矢先のことです。
グレーンウイスキーを販売してくれる国内の作り手が無い以上、この基準が施行されると、既存のブランド名や日本を想起させる名称(例えば蒸溜所の地名)で「ブレンデッドを作るな」と取られたり、リリースした商品に対して一般ユーザーから後ろ指を指される可能性もあります。

特に海外市場における影響は重大です。
我々はこの基準を「ジャパニーズウイスキーと名乗る場合の表示基準」と捉えていますが、意図したのか、想定外かはわかりませんが、スコッチや米国の基準と横並びで「日本でウイスキーをつくる場合のルール」として受け取られているケースがあり、これも混乱を呼びかねないと感じています。
というか、現実的にブレンデッドジャパニーズウイスキーを作れないんですよね。
結果、既にブランドを確立しているメーカー優位になりかねず。。。新規参入の障壁となるだけでなく、ブレンデッドウイスキー市場をさらに大手が独占しかねない、その後押しとなる基準にならないかと危惧しています。

日本のウイスキーの整理4月以降
(4月以降の日本のウイスキーの整理想定。名称の「奥多摩」は、日本を想起させる地名の例であり他意はない。クラフトメーカーにとって、ジャパニーズウイスキー表記のブレンデッド※4の安定したリリースは難しい状況となる。)

この”グレーンウイスキーの話”をもって、基準を取り下げろとか、バルクを使ってジャパニーズウイスキーを明記してまでブランドづくりをさせろ、という主張をするものではありません。
基準の内容そのものは、現在の日本のウイスキーが内包する問題点だけでなく、製造サイドへの配慮といった多くを網羅するものであり、既に一部メーカーも動きを見せる等実効性もあります。
基準の決め方について、理事会とプロセスの実態がどうだったのか・・・某T氏の発信する情報等から、その透明性は少々気になるところですが、原材料の透明化について業界として動きを見せた。それは大きな一歩だと思います。

あとはこの基準をもとに、更なる問題点にどう対応していくか。何より、業界をどのように成長させていくかが重要です。
透明化の次は、品質ですね。ジャパニーズウイスキーだから買うと言う層の存在が、昨今のブームを起こしているのは事実ですが、愛好家のマインドとしては美味しいから、好きだから、あるいは楽しいから買うのです。


基準が規制である以上、すべてを100%満足させることは出来ません。その上で、基準を守ってもらうメリット(組合に加盟するメリット)も示しつつ、業界全体の成長戦略を考える必要があります。
例えば、ジャパニーズ独自の味わい、魅力の一助となるように、ジャパニーズウイスキー専用の酵母を組合が開発して組合員に提供するとか、品質保証シールのような取り組みはあっても良いのではと思います。

グレーンウイスキーの話もその1つであり、特に緊急性の高いものです。
組合が国内でグレーンウイスキーを調達し、年間決まった量を組合に加盟するウイスキーメーカーに提供するとか。
あるいは、グレーンウイスキーのみを製造するメーカーの立ち上げを業界として支援し、国産グレーン原酒を提供するとか。
時限措置として一定期間、グレーンについては輸入であっても国内で指定の年数以上熟成させたものなら使用して良いとか。。。


今この瞬間、ジャパニーズウイスキーのブランド保全は大事ですが、今後、日本のウイスキー産業をどのように育て、世界的な競争力を確保していくのか。このブームもいつまでも続く訳ではありませんから、組合が公的な側面を持つならば、長期的な視点から対応策を検討していくことも必要ではないかと思います。

今回の基準の公開をもってゴールではなく、業界としてはさらに動きが出てくることでしょう。従うメーカーだけではなく、そうではないメーカーも出てくると思います。
国産ウイスキーの原料等の表記や説明は、各社のモラルによって動いてきた業界に、やっと投じられた1石です。これが将来的に見て、日本のウイスキー産業がさらなる基盤を築くことになる一歩であったとなることを、いちウイスキー愛好家として期待しています。


後日談1:クラブハウスでジャパニーズウイスキーの基準を読み解く配信を行いました。
後日談2:同アプリで、ジャパニーズウイスキーの基準施行後に実現してほしいこと、組合へのリクエストに関する配信を行いました。
(音声は録音公開していませんが、当日の参考情報とメモは、それぞれ公開してあります。)


※以下、余談。
本基準の公開と合わせて、昨日の日経新聞(以下、参照)にも記事が掲載されています。このスピード…リークですね(笑)。
我々が良く知っている日本メーカーがリリースするウイスキーのうち、「富士山麓」「ザ・ニッカ」「フロムザバレル」「ブラックニッカ」「角瓶」「トリス」・・・といったラインナップがジャパニーズウイスキーから外れるとされており、個人的には富士山麓はフォアロ・・・うわまてやめろなにを・・・であるため、ある意味で納得でしたが、あれ?ヒb・・・「それ以上いけない!」・・・とか、読む人が読むと刺激的な内容となっています。

見方を変えると、今回の基準に伴う動きは日本のウイスキー産業を牽引してきた、大手メーカーからの盛大なカミングアウトです。
実態として4年間かはさておき、よくぞここまで各社と調整したなと。決断に至ったキッカケは、赤信号みんなで渡れば精神か、あるいは一般に輸入原酒に関する認識が広まるタイミングを待っていたのか。
"基準による明暗"という本記事のタイトルに倣えば、このカミングアウトが大手にとっては暗であり、一方で明であると言えるのかもしれません。
こちらは後でリストを作って、どれがどうだったのかをまとめてみたいです。

ご参考:「ジャパニーズウイスキー」の定義 業界団体が作成: 日本経済新聞 (nikkei.com)
この定義に基づくと、ウイスキー大手のジャパニーズウイスキーは、サントリーホールディングスは「響」「山崎」「白州」「知多」「ローヤル」「スペシャルリザーブ」「オールド」、海外市場向けの専用商品「季(TOKI)」の8ブランドが対象になる。アサヒグループホールディングス傘下のニッカウヰスキーは「竹鶴」「余市」「宮城峡」「カフェグレーン」4ブランド、キリンホールディングスは「富士」1ブランドと、蒸留所限定などがそれぞれ対象となる。

日本におけるウイスキーの原材料表記の順序と疑問について

カテゴリ:

IMG_20190621_081054

日本で発売されているブレンデッドウイスキーには、原材料として、写真のように「原材料:モルト、グレーン」という表記があります。

一般的な食品表示法の観点から言うと、原材料が左側に書いてあればあるほど、含有量(重量)が多いと理解されます。
ところが、スーパーやコンビニなどで販売されている1本1000円しないような安価なブレンデッドウイスキーであっても、1本1万円を超えるブレンデッドウイスキーであっても、この表記は同じです。

ブレンデッドウイスキーは、クラシックなスタイルや意図的にモルトの個性を際立てたものでない限り、多くのレシピが半分以上グレーンで構成され、まして安価なものであればなおさらその傾向は強くあります。
それを食品表示法の観点で整理すると「原材料:グレーン、モルト」と表記されるべきでは?という疑問が残るわけです。


この点について、ちょっと周囲で話題になっていたので、自分もウイスキー製造関係者に質問したりして、現場の整理などを確認してみました。
結論から言うと、日本で作られるウイスキーは"原材料の表示義務"がなく、その表記については別途定められている「ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則」の整理で、モルト、グレーンの順に表記すると”読める”ので、それに倣っているというのがオチです。

Screenshot_20190621_084839

ーーーーーーーーーーーー
ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則
以下、施行規則該当箇所。
(1) 原材料名
ウイスキーの特長を決定する要素に 基づき、「原材料名」という文字の後に、 次に掲げる原材料名を順次表示するも のとする。
・麦芽又はモルト
・穀類又はグレーン (「穀類」又は「グ レーン」の括弧書として類名を記載し又は穀類の種類名をそのまま表示しても差し支えないものとする。)
・ブレンド用アルコール (穀類を原料とするものを除き、これらを当該ウイスキーにブレンドした場合に表示するものとする。)
・スピリッツ (穀類を原料とするものを除き、これらを当該ウイスキーにブレンドした場合に表示するものとする。)
・シェリー酒類 (容量比で2.5パーセントを超えて使用した場合に、表示する。)

※スコッチなどの輸入ウイスキーは公正競争規約の対象外。
ーーーーーーーーーーーー

「順次表示する」とあって、施行規則の順番がモルト、グレーン、ブレンド用アルコール、スピリッツとなっているので、施行規則のまま対応すると、比率は関係なく現在の「モルト、グレーン」表記で統一される。どんなブレンデッドを「モルト、グレーン」の順番に表記しても、法的には全く問題ないのです。

一方、バーボンのようにコーンや小麦が8~9割、モルトが1割といったマッシュビルが公開されていて、比率が明らかな物は、一般的な理解に倣って「グレーン、モルト」と表記されるケースもあります。バーボンは公正競争規約の対象外だからとも言えますが、日本産グレーンウイスキーも同様の記載であるため、これが紛らわしさに繋がっています。
またスコットランドからバルクでブレンデッドウイスキーを購入すると、使われているモルトとグレーンの比率がわからないものもありますから、それをブレンドした場合仕上がった製品の正確な比率もわからなくなるため、施行規則の読み方に倣う形になる、というわけです。

こうした法令等で誤認を招く箇所については、文面を変えずとも注釈や補足資料をつけるなどして整理ができそうなものです。
ですが該当箇所は施行時から変わっておらず。言い方は悪いですが、これまでウイスキーを購入する側に、比率とか順番とか、あるいは輸入原酒とか、気にされる方はそう多くなかったということもあるのでしょう。
日本でウイスキーの定義に関する問題意識が一般に広まったのが近年であるように、表示の整理が長くこの記載のままであったのは、それが問題にならなかったからであると推察します。


ところで、この施行規則にはもっと根深いことが書かれており、個人的には原材料順序よりそちらのほうが問題であるように考えています。
それは、同じ項目にある「ブレンド用アルコール」と「スピリッツ」について。これらは"穀類を原料としたものである場合"は、記載する必要はないという点です。

おそらく、この記載は”酒税法第3条15項ウイスキー(ハ)”との横並びをとったものと考えられます。
該当箇所は当ブログでも度々触れていますが、日本の酒税法で定義するウイスキーについてまとめた酒税法上の記載。
ウイスキーは「イまたはロに掲げる酒類※にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコールスピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分総量の百分の十以上のものに限る)」とする。
イはモルトウイスキー、ロはグレーンウイスキーですが、ハは原酒100%ではなく、ざっくり計算で度数50%のモルトウイスキー10に対して、アルコールやスピリッツは90まで添加しても、ウイスキー扱いすることが認められているというものです。

ここで先に紹介した施行規則における整理を合わせると、ノンエイジのウイスキースピリッツは勿論、穀類で作ったブレンド用アルコールであれば、上記の整理で90%まで混ぜても原材料には表示されず。
そしてどのボトルもウイスキー表記で原材料:モルト、グレーンとなるのです。(表示されているブレンド用アルコールは廃糖蜜など、糖分を持つものから作られたアルコールと考えられます。)

正直、これは危ういところだと思いますね。
ここまでやるとそもそも味でモルトの風味なんて感じられないし、しかしカラメル添加でそれっぽい色合いにはなっている。流石に完成度云々のレベルではなく、果たしてウイスキーといえる飲み物なのでしょうか。

IMG_20190621_192919

ちなみに、シェリーの2.5%未満は香味料としての整理になります。
何でシェリーだけ個別に記載されているのか。ウイスキー≒シェリー樽熟成の歴史的背景から、樽に染み込んでいる分を計算しているのかと思っていましたが、樽は容器であり、染み込んでいたものや元々あった成分が溶け出てしまうのはノータッチ。
また、ワインを添加することは整理がないので難しいけれど、ワインフィニッシュとして、ワイン樽に染み込んでいたワインが溶け出すのは問題ありません。ということは、一度樽に染み込ませてしまえば何でも混ぜられるということに。。。

どの分野もそうですが、結局、抜け道はいくらでもあります。それを完全に塞ごうとすると、いたちごっこになるか、極論同じものしか作れなくなって競争性が担保出来ない領域になりなす。
それ故、こうしたルールはある程度の柔軟さも必要で、それをどう解釈して使うかという作り手の姿勢にかかってくると言えます。

現在の日本のウイスキーに関するルールは、まさに解釈次第で毒にも薬にもなります。
いい方向に使えば新しい可能が、そうでない方向に使えば粗悪なものが。冒頭触れた原材料標記の順序にしても、ウイスキーとして"完成度が高ければ"個人的にはどちらでも良い。例えばモルト4:グレーン6、モルト6:グレーン4のブレンドを飲み比べてみても、グレーン比率が高いから質が悪いという訳ではなく、前者の方が完成度が高い場合もままあります。

ウイスキーブームで様々なメーカーが業界に参入する昨今。我々愛好家に求められるのは規制を声高に叫ぶ以上に、より良いものを作ろうとする真摯な作り手を、自分の目と耳、あるいは鼻と舌で見極めることではないかと思うのです。

東洋経済 米国「焼酎ウイスキー」を笑えない日本の現状 に思うこと

カテゴリ:

先日、「ジャパニーズウイスキーの悲しすぎる現実」と題し、日本のウイスキー業界の課題に切り込んだ東洋経済社から、またなんとも刺激的な記事が公開されました。
本記事についても前回同様、徒然と思うことをまとめていきます。

米国「焼酎ウイスキー」を笑えない日本の現状
酒造会社がウイスキー免許に殺到するワケ(4/28)

今回の主題は、当ブログでも以前取り上げた"焼酎メーカーが輸出した一部の熟成焼酎が、アメリカではウイスキーとして販売されている"という、日本とアメリカの酒税法の違いで起こる輸出焼酎ウイスキーに関する話。
そしてそこから、前回の記事よりさらに踏み込んだ、日本のバルクウイスキーに関する現状と課題が特集されています。
サブタイトルなど多少煽り気味なところもありますが、全体的には事実確認と裏付けがされた内容であり、実態を把握する上でよくまとめられている記事だと思います。

参照:当ブログの輸出焼酎ウイスキーに関する記事。(深野ウイスキー12年)

まず"輸出焼酎ウイスキー"についてですが、これは法律の解釈とメーカー側のコメント、さらに国税庁の見解までまとめられていて、上記記事を書いた際、後日自分がやろうと思っていたことそのものでした。
やはりこの辺、大手メディアは強いですね。確認したかった内容だったので助かりました(笑)。

本件は国内だけなら兎に角、他国の法律にまたがる話。一筋縄ではいきませんが、この状況をどう受け取るかは我々読者の判断に委ねられているとも言えます。
ビジネスチャンスだと粗悪なものをブームに乗じて売りさばくか、上記記事にまとめたように「日本では売れない色濃く熟成した長熟焼酎」を販売する手段とするか、まさにメーカー側の倫理が問われているのだと思います。


(焼酎は光量規制によりある一定以上の色の濃さのものを国内で発売出来ない。ブレンドするかフィルタをかけて減色するか、あるいは食物繊維等を加えて焼酎ベースのリキュールとするしかない。画像はその一例である、太刀洗15年シェリーカスク。少しサルファリーだが濃厚なシェリー感で焼酎らしからぬ味わい。画像引用:amazon)


そして、記事では焼酎の事例が対岸の火事ではないとして、日本のウイスキー業界の現状、ウイスキーの定義とバルクウイスキー問題について再び特集する構成となっています。
ただ、今回は一般向けと言えるレベルからマニアック路線に踏み込んだ内容であり、前回の記事の反響の大きさが伺えます。

大きくは以下3点。
・松井酒造、倉吉ウイスキー騒動について。
・業界全体として増加するバルクウイスキー輸入と、ニッカウイスキーの事例。
・ジャパニーズウイスキーの定義について。

倉吉ウイスキー騒動は、当時から本ブログを読まれていた方にはよく知られた話。今となっては「そんなこともあったね」と感じるくらいだと思いますが、一般の方からすれば「なにそれ」という話が"例のメーカーコメント付き"でまとめられています。(詳しく知りたい方は以下を参照ください。)
まあこれほど日本のウイスキーの定義の穴をついてきたというか、合法の範囲で"したたか"にヤッテヤッタ事例は他にないんですよね。最近は記事中に書かれたみりんメーカーみたいに怪しいのがまた増えてきていますが、日本のウイスキーの定義が持つ問題を語るサンプルケースにおいて、これ以上はないと言えます。

参照:松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題

そして、増加し続けるバルクウイスキー輸入量の統計データとともに、ついにここまで切り込んだかという話が、「モルト・ウイスキー・イヤー・ブック」掲載、ニッカウイスキーによるベンネヴィス蒸留所の原酒輸入、自社商品へのブレンドについての話です。

同書籍はウイスキー業界の動向をまとめて1年に1度発売される書籍です。日本で一般に販売されていないため、コアな愛好家を除いてあまり知られておらず、この話も知る人ぞ知るというネタでした。
同書籍のベンネヴィス蒸留所の項目では、ここ数年間「今年は日本にこれだけ原酒(ニューメイク)を輸出した」というデータを掲載しており、2017、2018ではそれぞれ以下の画像の記述が確認できます。
スコッチ法ではシングルモルトのバルク輸出を禁止していますが、ウイスキーの定義から外れる3年未満熟成のものは回避出来るようです。

最も、掲載されたデータは関係者が公開している数値であるのか、裏が取れているのかどうか含めて不明であり、実態は定かではありません。
仮に事実としても、同蒸留所は1989年にニッカウイスキーが買収。閉鎖状態にあったところから、設備を改修しつつ再稼働させた実績があります。
自社が保有する原酒の幅を広げるため、その原酒を輸入したとしても、それはニッカウイスキーに限らず保有者(あるいは出資者)としての権利とも思います。
また、ベンネヴィスで言えば、再稼働後の原酒を用いたボトラーズメーカーのリリースは、愛好家から高い評価を受けてもいるところ。これは同社による買収があったからこそ、とも言えます。


東洋経済の記事では、品質を補い、高めるために輸入原酒を使うことは悪ではないとしつつ、ジャパニーズウイスキーの定義に関する問題として、その根本は業界全体の倫理観が問われているとまとめています。
これらの話はまさに、ルールというより作り手だけの問題ではない、売り手もふくめたマナーの問題なのです。

そもそも、◯◯ウイスキーというのが、◯◯で蒸留された原酒を100%使ったものというのは、シングルモルト的な発想です。シングルモルトについては輸入原酒に関する問題には発展しておらず、該当するのはブレンデッドタイプのウイスキーとなります。

ブレンデッドウイスキーは、その風味に最も大きな影響を与えるトップドレッシング、あるいはキーモルトとされるもの以外に、複数の原酒をつなぎ合わせる役割をするものや、味の土台を作る原酒をの存在も忘れてはなりません。
自分で作ってみるとよくわかりますが、ちょっと前のどこぞの野球チームのように、4番バッターばかり集めても多彩で複雑で飲みやすい、完成度の高いブレンデッドにはならないのです。
日本の原酒は熟成環境等の関係から、個性としては4番キャラなウイスキーが作られやすい傾向があり。対して、スコットランドの原酒は熟成が穏やかで、10年〜20年熟成程度のバルクウイスキー、特にハイランドタイプのそれは繋ぎや土台に使いやすいイメージがあります。
それこそ長期熟成原酒によるブレンデッドは、日本のウイスキーだけで作るより、輸入原酒を使っていた方がバランスが良かった事例もあります。

自分はこれまでも、誤解を招くような記載は企業のマナーの問題であること。他方、最終的には「美味いは正義」。高品質なものを作るためなら、一定の整理の上でバルクを使うことも手段の一つとする考え方で、記事を公開してきました。
ベンネヴィスにしても、大手やクラフト含むその他の企業のバルク使用にしても、使うことは否定しないまでも誤解を招かないようにする工夫は必要と言えます。例えば、イチローズモルトのワールドブレンデッド表記などは、非常にわかりやすい整理と説明で、工夫の一つだと思います。


記事中には、せっかくブームで業界が盛り上がったのに、新たな定義、規制を作ることで悪影響が出ないかを懸念する声もありました。確かにそういう影響がないとは言い切れませんが、一方で100%日本蒸留オンリー!とすれば解決するほど単純な話でもありません。(そもそも原料となるモルティング済みの麦芽は、ほぼ100%輸入という実態もあります。)
また、今後日本の企業が販路を広げていかなければならない海外の有識者からは、既に「ジャパニーズウイスキーって何?」とする声が一部上がるなど、先送りにしてもそう遠くない未来さらに大きな問題となる可能性も否定できません。

現在ウイスキー文化研究所らが中心となって進められている、ジャパニーズウイスキーの定義の議論。部外者である私はその進捗は存じませんが、この手の話は、ある程度一般に認知されて初めて議論が進むこともあります。
東洋経済の一連の記事については、賛否含め様々な意見があるものと思いますが、こうした記事が議論の後押しとなって、さらに大きな動きとなることを期待したいです。

東洋経済 ジャパニーズウイスキーの悲しすぎる現実 について思うこと

カテゴリ:
「ジャパニーズウイスキー」の悲しすぎる現実
輸入モノが国産に化ける、緩すぎる規制(東洋経済 3月26日)

WWA2018でジャパニーズウイスキー3種が、同国際コンペの主要部門といえるブレンデッド及びモルトウイスキー区分で世界一を獲得。日本のウイスキーの評価は益々高まった・・・なんてことを書いた数日後、東洋経済社からジャパニーズウイスキーのもう一つの事実とも言える記事が公開されました。

所謂「バルク」に分類される海外からの輸入原酒と、日本の酒税法の問題点については、これまで当ブログでも何度か記事にしてきたところです。
自画自賛というわけではありませんが、バルクウイスキーの実態とその位置付け、そして日本のウイスキーを取り巻く環境について、愛好家を中心として一定の情報提供ができたのではないかと感じています。


ご参考:ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー(2016年8月9日)

他方、この手の話は一般に広く、そして正しく認知されてこそ、国が動く土台が整備されるというものです。
記憶している限り、本問題に関するメディアからの報道は業界専門誌に限られており、認識しているのは愛好家の一部という状況でした。
今回発信を行なった東洋経済もまた、ある種専門誌であるとはいえ、発信力については5大紙に次ぐものがあると認識しています。
タイトルは中々に刺激的ですが、今回の記事が世論に対して一石を投じるきっかけとなり、現在ウイスキー文化研究所などが進めているジャパニーズウイスキーの基準整備を後押しすることに繋がるのではないかと期待しています。


当該記事は
・輸入原酒で作られる"ジャパニーズウイスキー"
・ブレンド用アルコールを使用できる日本の酒税法
大きくこの2本立てでまとめられており、業界の状況を調査し、各メーカーや関係者の意見もまとめることで、踏み込んだ特集となっています。

ブレンドアルコールの使用、酒税法の問題点については追記する内容もありませんので、早急に議論が進むことを願っています。
粗悪なウイスキーを大々的に製造することは、短期的に利益は得られても長期的に見て業界が衰退することは、かつてスコットランドでも起こった話です。

一方で、輸入原酒の使用に関して改めて自分の考えを記載させていただくと、
・輸入原酒のみで作られたウイスキーがジャパニーズを名乗ることは疑問。
・ただし、輸入原酒については、一定の基準のもとであれば、使うことは問題ない。

輸入原酒100%でジャパニーズというのは明らかに問題外ですが、完成度を高める目的で一定量の輸入原酒を使うのは、決して悪ではないと考えます。
例えば日本のウイスキーは温暖な気候から樽感が強くなりがちですが、比較的寒冷なスコットランドなどの異なる地域で熟成された原酒と組み合わせることで、バランスの向上や奥行き、複雑さを生み出す事が期待できますし、実際それらの原酒を用いたウイスキーも存在します。
加えて生産規模の限られるクラフトディスティラリーにおいては、グレーンウイスキーの需要のみならず、酒類製造免許における最低製造数量基準も無視出来ません。

他業界に目を向けると、自動車、家電、日本が強みとするものは完全国産品というわけではなく、輸入した技術や部品を組み上げてMade in Japanとして評価されています。
日本のウイスキーは先に記載したように国際的に高い評価を受けており、その評価を受ける背景には、原酒の質のみならず「ブレンドの技術」や「日本の熟成環境」もあります。
ならば、輸入原酒であっても、日本だからこそ作れる高品質なウイスキーを作る上では取り入れて、海外との差別化を図っていくべきではないかというのが持論です。
そのためにも、現在整備が進んでいる"定義"の中で、その扱いや表記方法まで明確に示していく必要があると共に、"全事業者"への徹底が重要となります。


最後に、今回の特集、並びにこれまでの自分の意見の中で触れられていなかった課題を記載して、記事の結びとします。
それは、上記"全事業者"には、製造者だけではなく販売側も含まれるという点です。

ウイスキー製造者側に、ラベルの記載で消費者が誤解しないように努めている動きがあることは、記事のコメントから読み取ることが出来ます。
もちろんこれは途上の動きであり、特定のメーカーに限られるだけでなく、整理がわかりにくいものも見られます。しかし免税店を含む一部販売店ではそうしたウイスキーも含めて「ジャパニーズウイスキー」として販売している状況があります。
この点についても、結局は明確な基準がないことに起因しており、誰が悪いという責任を問うものではありません。課題は製造側にあるだけではなく、ブームによって急速に広がった市場全体にあると言えます。

古来どのような業界でも、トライ&エラー、あるいはスクラップ&ビルドを繰り返しながら基準やルールは整備されてきました。
今後日本のウイスキー業界がどのような選択をするのか。ブームの影で変革の動きが起ころうとしています。


※メッセージにて最低製造数量基準についてのご指摘を頂き、追記させて頂きました。輸入原酒の表記の置き換えをして良いという話でも、安易に撤廃すべきと言えるものでもありませんが、小規模かつ新興のクラフトディスティラリーにとってハードルである事に違いない基準です。(3/27追記)

ジャパニーズウイスキーに今後必要だと思うこと

カテゴリ:

松井酒造のピュアモルトウイスキー倉吉に関する話題を皮切りに、そこに潜むジャパニーズウイスキーの現状や課題をまとめてきました。
今回はそれらを背景として、ジャパニーズウイスキーに今後どうなってほしいのかという自分の意見をまとめ、一連の記事の締めとします。

第1回:松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060015284.html
第2回:ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060053301.html


まず、自分の考えの大枠から述べていきます。
バルクウイスキーの一件については、これまでもブログ上の記事で述べてきたように、高品質なものであればどんどん使って、日本だから作れる「ウイスキーとしての美味しさと魅力があるウイスキー」を安定して提供し続けることが第一だと考えています。
そして真に淘汰すべきは「その場しのぎで作るような低品質なウイスキー」であり、これらを実現する仕組みこそ、今この瞬間日本のウイスキー業界に必要なことであると思います。

もちろん、これはジャパニーズウイスキーの基準を作るという動きを否定するものではありません。
海外から買い付けた原酒を使って作ったブレンドが、ジャパニーズウイスキー名称を使えるかという疑問はそのとおりで、「日本で3年以上の熟成を経ている(スポーツ選手でいう帰化している感覚)」とか「海外原酒の割合を全体の半分以下とする」とか、あとはバルクの使用に関するラベル表記などの基準はあって良いと思います。
ただ、ブレンデッドウイスキー(モルト含む)については、飲みやすさやその完成度を優先する傾向があり、まったく無関係な歴史上の人物や建造物などの名前がつけられているものも多く、きちんとした整理の中であれば、海外原酒を完全に否定する必要も無いと感じます。 
(実際、そうした商品もリリースされています。)


一方、世界的なウイスキーブームの中で、イギリス以外でもシングルモルトが作られています。
それがバルクとして日本に入ってきた際、"バルクシングルモルトで擬似国産シングルモルト"など、更なる混乱に繋がるようなリリースが行われる可能性も否定できません。
2020年にかけてはビックビジネスチャンスがありますし、上述のブレンデッドと合わせて既存の基準は脆弱すぎます。
こうした混乱を未然に防ぐため「ジャパニーズシングルモルト並びにそれを意図する表記をするには、日本で蒸留、熟成を経たものに限る」などの基準を明確にして、現状の規制以上に将来に向けてブランドイメージを守る予防線を張る必要もあるのかなと考えます。

ただし基準を作る場合、それを作ることよりも徹底してもらうことのほうが難しい場合があります。
仕事上そうした調整に関わる事は少なくないのですが、今回の場合は今まで無いところに基準を作るわけですから、どうしても規制や制約に近い内容となり、どうやってそれを全メーカーに徹底させるのか、これが一番大きなハードルであると言えます。

極端な話、完全に徹底させるには「法律を変える(または補足事項を付与する)」しかありませんが、非常に大きな話となります。
現実的なところでは、どこかの団体や企業が声を上げて、対外的には実績として認知されるも、実際守っているかどうかは不透明という形になるか、あるいは賛同する企業との覚書や共同宣言か。しかしそうなると基準に賛同しないメーカーも出てきてしまい、あらたな混乱と火種になる可能性もあります。
記事を書きながらずっと考えていましたが、一筋縄ではいかないことは明白で、多くの議論が必要であると感じます。


仮に法律を変えていけるとすれば、ジャパニーズウイスキーの基準に加え、酒税法第3条15項ウイスキーにおける(ハ)も改定する内容であってほしいと考えています。 

【酒税法第3条15項ウイスキー(ハ)】
「イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)」

※イはモルトウイスキー、ロはグレーンウイスキーについてざっくりと書かれています。

ご存知の方も多い内容だと思いますが、 一例を挙げると、"アルコール度数50%のウイスキーを作る際、度数50%の原酒が10%、度数50%のブレンド用アルコールが90%の構成でもウイスキーと呼べてしまう"という、原酒比率を定めていた旧酒税法時代の名残です。
つまりこの項目が残ったままでは、仮にジャパニーズウイスキーの基準を作っても、90%がブレンド用アルコールでジャパニーズウイスキーというおかしな構図になってしまうのです。
かつて、日本のウイスキー業界の黎明期だった時期は、そうした基準でなければウイスキーを作れなかった背景や、日本人の味覚の問題もあったものと思います。
しかしいまや日本はウイスキー生産国の五指に数えられるようにもなり、世界的にも認められる状況になりました。
今こそ、旧酒税法からの完全な脱却が必要なのではないかと考えます。
これは日本のウイスキー業界というよりも日本という国の問題でもあります。


さて、ずいぶん長くなってしまいましたので、最後にウイスキー業界がこうあってほしいという形を書いて、この特集の締めとします。
現在、日本のウイスキー業界はクラフトウイスキーメーカーの新設ラッシュ。 続々と新しい蒸留所が稼働していますが、それでもスコットランドの約10分の1程度であり、しかもほとんどが独立している形です。
今はブームが後押ししていますが、将来を見据えれば栄枯必衰で必ず「冬の時代」は来ます。 
そうした時代に備え、お互いに原酒を融通しあって味に幅を持たせたり、海外への流通販路を確保する手助けをしたり、蒸留やブレンド技術、あるいは新製品の評価だったり・・・様々なモノを共有しあう、オープンな繋がりを今から構築しておく必要があると思うのです。
それこそ、やや安易ではありますが、クラフトウイスキー組合のような形を作り、冒頭述べたような「ウイスキーとしての美味しさ、魅力のあるウイスキー」を安定して提供し続ける仕組みに繋げて欲しいなと。

聞くところでは、イチローズモルトの肥土伊知郎氏は、新しく稼動するクラフトウイスキー蒸留所を尋ね、自身の経験に基づくアドバイスをされているそうです。
自社で全てを賄えてしまう大手企業には魅力を感じないかもしれませんが、これから続々と増えていくクラフトウイスキーメーカーは、こうした仕組みが必要なのではないかと考えます。
それこそ全企業が協力し合うジャパニーズウイスキー協会的なものがあっても。。。

何れにせよ長く日本のウイスキー業界が成長し続けられる流れになればと、いち愛好者として祈るばかりです。
今回、日本のウイスキー業界の現状と課題をまとめる記事を書いたわけですが、すでに多くのコメントを頂いているところ。この記事をきっかけに多くの議論が生まれ、様々な可能性の中から日本のウイスキー業界の将来を考えていく、その呼び水の一滴にでもなれれば幸いです。 


【追伸】
前略、松井酒造合名会社様。
ウイスキー業界の現状としてここまで書いた上で、私も本音で一言申し上げます。
御社の書かれた思想、意見は賛同できる部分もございます。
しかしそうした理想を掲げるのであれば、周囲を納得させる味で示してください。
御社の姿勢が認められるか、ただの金儲けや言い訳だと非難されるかは味次第です。
現状が何方かはお分かりのことと思います。今後の商品が、我々をいい意味で驚かせる内容であることを期待しております。

このページのトップヘ

見出し画像
×