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厚岸 シングルモルトウイスキー 芒種 55% 2021年リリース

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THE AKKESHI 
"BOSHU" 
Single Malt Japanese Whisky 
9th. season in the 24"sekki" 
Bottled 2021 
700ml 55% 

評価:★★★★★★(6)(!!)

香り:トップノートはシリアルや乾煎りした麦芽の香ばしさと、焦げた木材、燻製を思わせるスモーキーさ。レモンピール、和柑橘、乳酸系のニューポッティーな要素も多少あるが、嫌な若さは少ない。オーク樽由来の甘いアロマと混ざって、穏やかに香る。

味:クリーミーで粘性があり、度数を感じさせない柔らかい口当たり。フレーバーの厚み、原料由来の要素の濃さが特徴として感じられる。ピーティーで柑橘の皮やグレープフルーツを思わせるほろ苦さと酸味、麦芽の甘みや香ばしさ、鼻孔に抜けるピートスモーク。オークフレーバーはそこまで目立たず、バランスよく仕上がっている。
余韻は塩味を伴うピーティーさ。軽い刺激を舌の奥に残し、若い原酒にありがちなくどさ、未熟感を感じさせず、麦芽由来の甘みと共にすっきりと消えていく。

これぞ厚岸モルトと言う個性を堪能できる1本。若い原酒の嫌味な要素が極めて少なく、それでいて原料由来の好ましい要素は厚く、濃く残している。コクと甘みのある麦芽風味と、そこに溶け込むスモーキーフレーバー。丁寧な仕事を思わせる作りであり、樽感もバーボン樽由来のオークフレーバーが主張しすぎない自然な仕上がり。磨けば光る”原石”というよりは、若くして光り輝く”神童”と例えるべきだろう。
4年程度と短熟でありながら、ストレートでも抵抗なく飲み続けられるが、少量加水すると若さがさらに目立たなくなり、原料由来の甘み、香ばしさ、フルーティーさが、ピートフレーバーと混ざりあっていく。ハイボールも良好。アイラ要素が無いので厳密には違うが、かつてのヤング・アードベッグを彷彿とさせる仕上がりで、漠然とした期待が確信に変わる1本。現時点で★7をつけようか真剣に悩んだ。

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「これだよ、こういうのだよ!」
一口飲んで、思わず口に出してしまうくらいにテンションが上がった1本が、5月28日に発売となった厚岸蒸溜所 24節気シリーズの第3弾、芒種(ぼうしゅ)です。
これまで厚岸蒸溜所からリリースされてきた3年以上熟成品は、バーボン樽だけでなくシェリー樽、ワイン樽、ミズナラ樽と様々な樽で熟成された原酒をバッティングすることで構成された、複雑な味わいが特徴。若さを気にせず飲める反面、厚岸蒸溜所の作り出す酒質そのもののポテンシャル、特に今回のリリースで感じられる”コクと甘みのある麦芽風味”は、感じ取りにくくもなっていました。

今回のリリースは一転して、バーボン樽(リフィルやホグスヘッド含む)が主体と思われる単一樽タイプの構成。ミズナラ等多少異なる樽も使われているかもしれませんが、9割がたアメリカンオークでしょう。原酒は3~4年熟成のノンピートとピーテッドのバッティングで、ピート系のほうが多めという印象で、香味ともしっかりピーティーですが主張は強すぎず、一部国産麦芽”りょうふう”で仕込んだ原酒も使っていると思われる、柔らかい甘みと柑橘系を思わせるフレーバーが全体の厚みに寄与しています。。
現時点で厚岸蒸溜所からシングルカスクのリリースは出ておらず、酒質の味わい、特徴を楽しみたいなら、「芒種」はまさにうってつけと言うわけです。

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近いリリースとしては、ニューボーンのNo,1やNo,2がありましたが、当時の原酒は今以上に若く、創業初期の原酒でもあったため、ハウススタイルは確立途中でした。
自分はニューメイクや3年前後熟成のカスクサンプルを飲む機会があったため、厚岸の酒質についてある程度理解し、この蒸溜所は凄いと確信を持っています。一方で、多くの愛好家はその点が未知数なまま、作り手のこだわり、立地条件、周囲の評価等、総合的な視点から、漠然とした期待を抱いていた部分もあるのではないかと思います。(これが悪いという話ではありません。)

今回のリリースは、先に触れたように、最も重要なファクターである酒質について焦点を当てて飲むことが出来るわけですが、それでいて若いから仕方ないだろと、開き直るような造りでもありません。これまでのリリースに見られる、少しでも良いものを、美味しいものをと言う作り手のこだわりが感じられつつ、酒質について漠然としていた部分が明確になる。厚岸蒸溜所の成長と凄さを、改めて感じて頂けるのではないかと思います。


とはいえ、一口に凄さといっても伝わりにくいかもしれませんので、一例を示すと、
厚岸蒸溜所ではウイスキー造りの仕込みで
・粉砕比率を常に均一化するため、徹底した管理を行う。(普通にやっていると、若干ぶれます)
・発酵の際に、麦芽の量に対して自分たちが目指す酒質に最適なお湯の量と温度を調べ、管理する。
蒸溜以外の行程にも重きを置き、毎年見直しながらウイスキー造りを行っているそうです。今後はここに、自社で精麦した北海道産の麦芽とピートが加わるなど、その拘りは原料にも及んでいくわけですが、丁寧な仕事の積み重ねが、原料由来の風味を引き出しているのだと感じています。

このように全ての香味には理由があり、ゼロから勝手に生まれるものではありません。ですが、理由があるといってもそれがわからないモノもあります。今回のリリースで言えば、味の中にある塩気、しょっぱさです。厚岸蒸溜所のリリースの中で、これだけ塩気を感じるのは初めてではないでしょうか。
厚岸蒸溜所は太平洋を望む高台にあり、潮風が強く届く場所にあります。海辺にある蒸溜所は、熟成途中に樽の呼吸で空気中の塩分が吸収され、味わいに塩気が混ざるという説はありますが、本当にそうなのかという点については疑問があり、実は明確な答えが出ていません。

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※蒸溜所から見下ろす冬の厚岸湾。蒸溜所まで届く潮風が、今回のウイスキーのフレーバーに繋がったのだろうか。画像引用:厚岸蒸溜所Facebookより。

外気には塩気を含む成分があるでしょう、ですがそれが普段空気の入れ替えをしないウェアハウスの中で、ほぼ密閉状態にある樽の中にまで香味に影響するほど入り込むのかということです。
例えば、スコットランドではグレンモーレンジ蒸溜所は海辺にありますが、香味に塩気が混じるとは聞いたことがありません。逆にフレーバーに塩気があると言われるタリスカーは、蒸溜所こそスカイ島の海辺にありますが、熟成場所は本土の集中熟成庫であり、おおよそ香味に影響を及ぼすほど樽の中に塩分が入り込む環境とは言い難いのです。

この疑問については、ピートに含まれるフレーバーが塩気に繋がっているのではないかという説を自分は支持しています。特にアイラ島のピートですね。一方で、厚岸蒸溜所のモルトに使われたピートは、スコットランド本土内陸産だと聞いているため、それだけ塩分を含んだものかはわかりません。やはり気候が影響しているのか…厚岸蒸溜所の将来は間違いないと思えるリリースでしたが、同時に新たな謎も抱いてしましました。
ですが、こうした要素があるからこそウイスキーは面白いし、ワクワクさせてくれるんですよね。

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※厚岸でのウイスキー用麦芽りょうふう栽培風景。画像引用:ウイスキー大麦 豊作願い種まき 厚岸の試験栽培 6ヘクタールに拡大:北海道新聞 どうしん電子版 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/543015

24節気において芒種は、”米や麦芽の種蒔き”に最適な時期という位置づけが裏ラベルにて触れられています。ピートフレーバーに含まれた土の香りと、酒質由来の麦芽の甘みは、まさにそうした景色をイメージさせるものであり。スモーキーさと爽やかな樽香は、夏が近づく今の時期にマッチしたリリースだと思います。それこそ月並みな表現ですが、愛好家という顔を赤くした蛍も寄ってくることでしょう。

前作「雨水」では、蒸溜所が目指す厚岸オールスターへのマイルストーンとして楽しみが増えたところですが、「芒種」では原酒や樽使いが限定されたことで見えてくる、ウイスキーそのもの将来の姿があります。3〜4年熟成の原酒でありながら、これだけのものに仕上がる酒質の良さ。後5年もしたらどれだけのものがリリースされるのか。。。今までのリリースで感じた以上に、厚岸蒸溜所の今後に期待せざるを得ないのです。

【続報】T&T TOYAMAボトラーズ事業 クラウドファンディング

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5月13日から募集を開始した、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキーボトラーズ事業のクラウドファンディング。目標額の1000万円を30分で達成し、その後支援額は順調に伸び3000万円を突破。支援者の一人として、どこまで伸びるのか楽しみにもなってきました。

一方、企画者である下野さん曰く、「短期間でここまで支援が集まることは想定外」で、既に支援プランの大半が売り切れ状態に。。。そこで新しいリターンの追加共に、3500万円のネクストゴールとして設定されたのが、建設予定のウェアハウスに試飲用のスペースを造るというもの。ウェアハウス内で樽出しの原酒をテイスティングする…いや、ウイスキー好きが憧れる浪漫です。是非達成してほしいですね!
※本記事を書いた時点で、達成まで残り160万円。ネクストゴール達成を踏むのは何方でしょうか。



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※追加されたプラン(5月15日)
・クラウドファンディング支援者100人突破記念ウイスキー700ml × 2本セット

※追加されたプラン(5月20日)
・三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会&シークレットオンラインセミナー
・モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』


企画の詳細については以前記事にもしていますので、詳しい説明は割愛しますが、近年急増する日本のウイスキー蒸留所にあって、小規模なクラフトメーカーが直面する課題である、リリースや原酒の多様性、熟成、製品化に関する課題を解決する一助となるプロジェクトが、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキー・ボトラーズ事業です。

この事業の実施には、熟成場所となる広い土地と建物の初期費用のみならず、樽調達、原酒調達にかかるコスト、何よりボトリングや販売に関して必要となる資格の問題と言った、様々な”壁”があり、現在まで実現されてきませんでした。

そのコストについては、クラウドファンディングのネクストゴールの設定にあたり、
・土地、建物、設備:2億円(約2800㎡、建坪260)
・原酒購入、樽購入等年間費用:2000万円
という初期投資コストの情報が、ウェアハウスの設計と合わせて公開されています。
正直、自分と同い年の人間が億単位の金額を使うプロジェクトを立ち上げているなんて、周囲にはありません。素直に尊敬しますし、プロジェクトの意義としてもさることながら、人生をかけたであろう取り組みに、ウイスキー関係なくいち友人として可能な限り応援したいとも思うわけです。

ボトラーズの役割
※ボトラーズ事業を通じてボトラーズメーカーが担う、ウイスキーリリースまでの領域と課題(点線部分)

とはいえ、流石に今回のネクストゴールは、プロジェクト公開初日と同じ勢いで支援が入ることはないだろう、土日で応援記事を書こうじゃないか。。。と、準備していたらですね。ネクストゴールと共に追加された3プランのうち、「T&T TOYAMA シークレットオンラインセミナー」の支援枠が、即日完売してしまったわけです(汗)。改めて期待値の高さを感じた瞬間でもあります。

しかし、記念ウイスキー2本セットは前回の記事で紹介しているので、残るは三郎丸ウメスキープランと、モルトヤマ渾身のネタ枠。残りは300万円弱でネクストゴールも達成秒読みで…これって記事書く必要あるのか?。
いや、きっと自分だからこそ発信できるネタがあるはずだ。ウメスキー樽熟原酒は、以前蒸留所訪問した際に熟成途中のものを試飲済みだし。前回も即日達成してこんな流れだった気がするけど、気にしない気にしない。
そんなわけで、この記事では記事を書いている時点で、残っている2つの新支援プランについて、紹介していきます。


三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
支援額:16,500円
ウイスキーベースで造った梅酒”ウメスキー”と、そのウイスキー梅酒を樽熟成した新商品のセットがリターンにあるプラン。新商品はまだ名前が決まっておらず、その銘を提案できる、応募券もついています。
このプランだけ三郎丸色が強く、一見してT&T TOYAMAのボトラーズ事業と関係が無いように見えますが、梅酒を払い出した樽(梅酒樽)で、調達した原酒を熟成するという計画もあるそうで、後々一つの線に繋がっていくプランなのだとか。

その味わいについて、製品版のものはまだわかりませんが、熟成途中の原酒を飲んだ限り、フルーティーでマイルド、梅というよりは熟したプラムのような甘酸っぱさ、林檎の蜜を思わせる甘みもあり、余韻は樽熟を思わせるウッディさが甘みを引き締める。熟成を経てさらにリッチでまろやかになっていると思われます。
日本人の味覚に響く、素直に美味しい言える梅酒でした。某S社さんの同系統の商品と比較すると、あちらが万人向け量産品ならこちらは手作り、そんなキーワードを彷彿とさせる濃厚さが魅力です。

モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』
支援額:494,974円
WEBは饒舌、リアルは塩対応で知られるモルトヤマの下野さんが、富山を1日おもてなし。
もはやネタですよね。何だこの金額はという疑問については、下野さん曰く”これが選ばれることなく最終日を迎えて、「ナシ(下野さんの別通称)がしくしく」という語呂合わせを含め、今後のT&T TOYAMAブランド戦略で有効活用する”、大変自虐的なプランを想定しているようです。
“他は選ばれたけど、僕は選ばれない、まさに独身系瓶詰業者(インディペンデントボトラー)”とでも言うつもりなのでしょうか。

「でもこれ、応募あったらどうするの?」
という問いに対して、絶対にないから、と話していましたが…。既に同クラウドファンディングでネタ枠だった”高所作業車名づけプラン”が購入済みとなっている件について考えると、1度あることは2度あるんじゃないかなぁと。
私の財布では荷が重いですが、どなたか英雄の登場を期待しております(笑)。

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過去の記事とも重複した話になりますが、スコットランドではウイスキー蒸溜所が造った原酒を、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが買い取り、様々なリリースに繋げてきました。その例に倣えば、T&T TOYAMAのプロジェクトは今後のジャパニーズイスキー業界の継続的発展のため、必要な1ピースであると言えます。

勿論、類似の事業が過去から現在にかけて、なかったわけではありません。例えば、イチローズモルトで知られるベンチャーウイスキー社の立ち上げを支えた、笹の川酒造の原酒買い取りと各種リリース。軽井沢蒸溜所の原酒を受け継いだNo,1 Drinks社のリリースもまた、広義の意味では日本のウイスキーのボトラーズ事業と言えるでしょう。

ですが、今回T&T TOYAMAの立ち上げる、ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクトのように、
・ニューメイクから原酒を調達し、自社の熟成庫で自社調達した樽で熟成させた原酒をリリースする。
・熟成環境の提供や、ボトリング設備のレンタルといった、ウイスキーをリリースするために必要な機能を提供するサービス。
という、ただ熟成した原酒を買い付けるだけではない、多くの蒸溜所と二人三脚でウイスキー業界を成長させていくような構想は、今までにないものです。

日本における空前のウイスキーブームがもたらす、おそらくは今後無いであろう機運の高まり。大きなプロジェクトを立ち上げるのは、タイミングが重要です。クラウドファンディングの募集期間は残り約1か月。既にプロジェクトは確定しており、後はネクストゴール含めてこのプロジェクトがどこまで育ち、形になっていくのか。一人の応援者として楽しみにしています。

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T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業を始動 リリースの個性と期待について(追記あり)

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富山県のウイスキー専門店「モルトヤマ」の下野さんと、若鶴酒造・三郎丸蒸留所の稲垣さんが共同で運営するブランド「T&T TOYAMA」による、日本初のジャパニーズウイスキーの本格的なボトラーズプロジェクトが始動。
独自ブランド「Breath of Japan(日本の息吹)」のリリースに加え、日本のウイスキー業界の継続的発展に繋がる計画が、5月12日のyoutube Liveで公開されました。

ジャパニーズウイスキーというジャンルに限れば、世界初の取り組みとも言える事業の始動にあたっては、同ブランドの一口カスクオーナー制度等リターンを含む”クラウドファンディング”も本日正午から募集が開始され、開始30分で目標額の1000万円を達成!!!
追加のリターンとして、オリジナルブレンデッドウイスキーのプランも公開されています。

本記事では、同プロジェクトが目指すボトラーズメーカーとしての活動と役割を紹介しつつ、リターンにもなっている提携蒸留所の現在の酒質や、Breath of Japanとしてリリースされるボトルの期待値についてまとめていきます。
※各蒸溜所の情報について読みたい方は、記事後半部分まで飛ばし読みをしてください。

T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクト
クラウドファンディング
募集期間:5月13日~6月30日
目標額:1000万円(達成済み)
補足:支援者が100名を突破したことを受け、新しい支援プラン(オリジナルブレンデッドリターン)が追加されました。
世界初!ジャパニーズウイスキーボトラーズ設立プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)


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T&T TOYAMAが描く”本格的”なボトラーズプロジェクトとは。
ボトラーズメーカーは、蒸留所等から樽(原酒)を買い付け、その原酒を自社で熟成、ボトリングしてリリースしています。
一例として、オフィシャルブランドが大量の原酒をバッティングし、加水して品質を整えたものを定常的にリリースしているのに対し、ボトラーズは1樽またはスモールバッチを樽出しの度数そのままでボトリングすることで、原酒や樽の個性を際立たせたウイスキーをリリースする傾向があり、それが愛好家にとって大きな魅力となっています。

国内外から買い付けた原酒を、シングルカスク・カスクストレングスでリリースする。これだけなら、日本でも酒販店やBAR等のプライベートリリースで見られるもので、特段珍しくはありません。
ですが、買い付けた原酒を”自社の貯蔵庫で、自社で調達した樽で熟成させ、ピークを見極めてリリースする”という、欧州のボトラーズメーカーが一般的に行っている行程については、日本ではまだどのメーカーも行っていない取り組みであり、”本格的なボトラーズブランド”となるわけです。

なぜ日本ではボトラーズブランドが立ち上がらなかったのか。
理由については
・日本には蒸留所が少なかったため。
・原酒を交換したり、他社に販売するという取り組みが一般的ではなかったため。
・日本において自社で原酒を貯蔵し、ボトリングして販売する行為は、酒販免許以外に酒造免許の取得※が必要となり、事業者の負担が大きいため。
※酒造免許の取得には、酒造設備や専用の建屋が必要。

以上3点が要因と考えられます。また、ウイスキーの消費量が低迷していたこともあるでしょう。
しかし、ブームを受けて世界的に日本のウイスキーが求められ、2014年時点で9箇所だった蒸留所は2021年には34か所と約4倍増。今後さらに増加傾向にあるわけですが、蒸溜所の数が急激に増えたことと、JWの基準が制定されて業界の流れが変わったことで、”作ればどこかで売れる”という今までのビジネスプランが通用しなくなりつつあります。

クラフト蒸留所は自社でブランドを確立していくために、良質な樽、熟成場所やボトリング設備の確保、販路と認知度向上、あるいはブレンド用原酒の調達や当面の資金計画と言った、”ウイスキー造り”以外の領域に課題がある状況です。※下画像参照。ボトラーズメーカーに関連する活動が点線部分に該当。
イギリスでは、大手ブレンドメーカーによる原酒提供以外に、例えばボトラーズメーカーの老舗であるGM社やシグナトリー社などが、上述の課題を解消する(結果として)の役割を古くから担い、ブレンデッドウイスキーとは異なるブランドを確立したことが、業界成長の一助となりました。
つまり、日本においてウイスキー業界が継続的発展を遂げるためには、今後同様の役割を担う活動が必要になってくるわけです。

ボトラーズの役割

T&T TOYAMAが立ち上げる「ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業」は、
単に原酒を買い付けてリリースするだけではなく、熟成、瓶詰、販売、蒸溜以降の行程において、特にクラフトウイスキーメーカーを後押しするプロジェクトでもあります。既に国内クラフト6蒸留所から原酒提供について合意しているだけでなく、現在進行形で他蒸留所とも話を進めているそうです。
詳細については、クラウドファンディングの募集ページに詳しくまとめられているので参照いただければと思いますが、端的にまとめると以下の通りです。

【T&T TOYAMA ボトラーズ事業概要】
・富山県内に独自の貯蔵庫(最大貯蔵量約3000樽)を建設し、原酒を熟成。
・富山県産ミズナラ材等を用いた県内での樽製造のみならず、独自に樽を調達して熟成に使用。
・若鶴酒造が所有するボトリング設備等を、同事業だけでなく、他社のリリースにも提供。
・T&T TOYAMAとしてリリースするジャパニーズウイスキーは、下野氏、稲垣氏らがこれまでのウイスキーリリースの経験を活かし、原酒の状態を見極めてボトリング。原酒提供元とは異なる環境がもたらす、原酒の成長にも期待。

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※2021年5月時点で、T&T TOYAMAとパートナーシップを提携した蒸留所一覧

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※富山県南砺市の風景と建設予定の熟成庫。例えば九州・鹿児島と富山の異なる気候に加え、通常蒸留所で使用するものと異なる樽での熟成など、違う環境で育った原酒が、将来どのような個性の違いに繋がるのか。ボトラーズブランドにおけるウイスキーの醍醐味とも言える。

最高気温分布
※各蒸溜所の最寄りの気象台過去5年間の月別最高気温の平均値。(御岳は最寄りに類似環境と思われる観測点が無く、鹿児島気象台の観測データを使用。)熟成に大きな影響を与える夏場の違いに加え、冬場の気温差も影響を与えると考えられる。

さて、本プロジェクトのクラウドファンディングの数あるリターンで、最も注目を集めるのは1口カスクオーナー+T&Tプレミアムメンバーのセットでしょう。
対象となっているのは、江井ヶ嶋、御岳、嘉之助、桜尾、三郎丸の5蒸留所で、これらのニューメイクを熟成するカスク(後日リリースされる「Breath of Japan」)の権利を1部保有できるもの。リリースまでは数年かかりますが、その間は設立記念パーティーや、イベントでのサンプルテイスティング等のリターンが受けられるようです。

ただ、既存リリースがある三郎丸や嘉之助と異なり、設備を改修した江井ヶ嶋や、リリースが行われていない御岳、桜尾については未知数です。情報の無い蒸留所に、決して安くない金額を投入するのは、如何にブームとは言えど覚悟のいることかと思います。。。

実は今回、別件のウイスキー活動の関係で、クラウドファンディングのリターン対象となる蒸留所の原酒が全て手元にあるのです。いくつかの蒸留所は、以前感じていた印象とはいい意味でまったくことなる原酒を作り出しており、経験を積んで日々進化するクラフトの成長を感じています。
前置きが長くなりましたが、今回の記事でもう一つの目的である、蒸溜所の個性やT&T TOYAMAの活動を通じたリリースの期待値を、主観として以下にまとめていきます。
関心あります方、リターンを選ぶ際の参考にしていただければ幸いです。また、既に支援をされたという方は、今後出てくるであろうリリースをイメージする一助となればと思います。


※クラウドファンディング、1口カスクオーナー制度のリターン
支援額:55000円~
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会※
・選択された蒸留所いずれかのシングルモルトウイスキー700ml各1本の一口カスクオーナー証
・裏ラベルに指名を掲載
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルグラス1脚
・T&T TOYAMAロゴ入りオリジナルTシャツ1着
・熟成庫壁面とT&T TOYAMAホームページへのお名前の掲載

※プレミアムメンバー会員の特典
・ボトラーズ設立記念パーティへのご招待(富山県内で開催)
・熟成庫の特別見学会へのご招待
・会員バッジの送付
・フェスでの原酒等の特別試飲が可能

【スケジュール】
2021年3月 原酒の買付交渉を開始
2021年5月 クラウドファンディング開始
2021年10月 熟成庫の建設着工予定
2021年12月 クラウドファンディングリターンの発送
2022年4月 熟成庫の完成予定・原酒の熟成の開始
2025年以降 商品のリリース

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※蒸溜所がリニューアルした2017年に行われた、記念パーティーの様子。今回のリターンにはこうしたパーティーの招待券や、熟成庫等の見学権が含まれている。

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※リターン対象となるボトルは、全て富山県内の樽工場でトースティング(樽の内側の炭化部分を削り落とし、炎で炙らずじっくりと木材を焼く加工)を施した、特殊なバーボン樽を使用する。新樽に近く、一方で一度熟成使われていることからアクが抜け、より香ばしくメローなフレーバーが期待できる。

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■江井ヶ嶋蒸留所の原酒について:
少なくとも、私個人の印象を隠すことなく伝えるならば、この5蒸留所の中で最も懐疑的な蒸留所が江井ヶ嶋だったと言えます。
熱意を感じない作り手、お世辞にもセンスが良いとは言い難いカスクマネジメント、熟成環境とマッチしない酒質。。。ただ、SNS繋がりの知人から、近年の江井ヶ嶋は専門スタッフの配属で仕込みが改善し、設備もアップデートされて酒質が大きく向上したという話を聞いていました。
テイスティングしたのは2018年蒸留のカスクサンプルと、2019年蒸留のニューメイクです。はっきり言って別物ですね。今までのように雑味が強いのに厚みがなく、樽感の乗りも悪いといった原酒ではなく、麦芽由来の柔らかいコクと程よい酸味、軽い香ばしさを伴う素朴な味わいが主体の、洗練されてバランスの良い酒質へと大きな変化を遂げています。熟成後は、間違いなくこれまでの江井ヶ嶋蒸留所のイメージを払拭してくれることでしょう!!

■御岳蒸留所の原酒について:
焼酎銘柄”富乃宝山”で知られる、西酒造が2019年に創業したのが御岳蒸溜所です。西酒造については、以前クラフトジン「尽」のリリースで話を伺った際、明確なビジョンを持って造りの工夫をしていたことが印象的で、ウイスキーについても密かに楽しみにしていました。
酒質についてはクリアでありつつボリュームのしっかりある、丁寧な造りも伺えるような素晴らしい品質のニューメイクです。傾向としてはハイランドモルト的ですが、クリアにしようとすると香味はプレーンで厚みが少なくなるのが傾向としてある中で、相反する特性をまとめ上げ、原料由来の良い成分を引き出していると言えます。ニューメイクの時点で、麦芽由来の豊かなコク、そして穏やかなフルーティーさがあり、余韻で未熟要素が残らない。飲んでいてワクワクしてきます!
なお、西酒造ではシェリー樽100%で熟成を行っているため、異なる樽で熟成するT&T TOYAMAのリリースはそれだけで貴重と言えます。将来的にシングルモルトがリリースされた際には、飲み比べをするのも楽しみですね。

■嘉之助蒸留所の原酒について:
当ブログでも何度かレビューしている嘉之助蒸留所。6月には初のシングルモルトリリースも控えており、愛好家の期待も高まっています。
嘉之助蒸留所の酒質については、綺麗な酸味を伴う酒質で適度なコクがあり、未熟要素も少ないため温暖な気候と相まって3~5年程度で仕上がる比較的短熟向きという印象。樽香の乗りも良く、素性の良い酒質だと思います。また、作り手の熱意だけでなく、長く焼酎造りに携わってきたことでの技量の高さも高品質なウイスキーを生み出すポイントになっています。
これまでリリースされてきたバーボン樽熟成のニューボーンはフルーティーで、焼酎樽熟成のものはメローで穏やか、今回のT&T TOYAMAのカスクでは、鹿児島よりも気温が低い熟成環境も合わせて、そのいいとこどりが狙えるのではないかと感じています。

■桜尾蒸留所の原酒について:
江井ヶ島と並んで(立地的にも)今回のダークホースとも言える、中国醸造が創業する桜尾蒸留所。クラフトジンは知っていても、どんな原酒が造られているかは未知数の蒸留所かと思います。
あるいは、地ウイスキーの戸河内をご存じの方は、過去のリリースから連想されるかもしれませんが、蒸留所として設備や環境は一新されており、使われている原酒も違うため全くの別物です。
2018年蒸留のカスクサンプルを飲んだ第一印象は、「あ、グレンマレイっぽい」。柔らかくクリアで未熟要素が少ないだけでなく、バーボン樽由来の黄色系のオーキーなフルーティーさが適度に感じられる。。。まさにスペイサイドモルトのようで驚かされました。ニューメイクも洗練されており、強い個性を感じない代わりに樽由来のフレーバーを邪魔しない、現代的なウイスキーが期待できます。

■三郎丸蒸留所の原酒について:
最後は言わずと知れた、三郎丸です。日本の蒸留所の中で唯一ピーティーな原酒のみを仕込む蒸留所であり、そのピートも2020年からアイラ島のピートを使った仕込みにシフトするなど、2017年の大規模リニューアル以降は様々な工夫を取り入れ、愛好家の注目度も年々高まっています。
リターンの対象となる2021年仕込みのニューメイクはまだテイスティングできていませんが、2020年仕込みのアイラピーテッド原酒を飲む限り、乳酸発酵由来のフルーティーさ、麦芽風味、そして微かに潮気を伴うピーティーなフレーバー。オールド・アードベッグを目指すという作り手の方針も合わせ、熟成後が楽しみで仕方ないニューメイクです。
さながら北陸の小さな巨人。あるいは日本のクラフトの至宝。ことこの蒸留所のカスクに関しては、もはや勝利は約束されたようなものです。

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なお、その他のリターンとしては、単純にブランドの設立を応援するもの等もありますが、上記1口オーナー制度以外に、ウイスキーのリターンがあるものとして新たに追加されたのが、

■支援者100名突破記念、焙煎樽マリッジのブレンデッドウイスキー
支援額:22000円~
・ブレンデッドモルトウイスキー『遊』(ブレンダー:モルトヤマ 下野)
・ブレンデッドウイスキー『創』(ブレンダー:若鶴酒造 稲垣)

こちらについては、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト原酒をキーモルトとし、輸入原酒をブレンドしたスモーキータイプのウイスキーを、一口オーナー制度のリリースにも使われる「焙煎バーボン樽」でマリッジしたもの。『創』はクラフト、ラベル(右)に書かれた獅子頭は”匠”を、『遊』は自由に造ることをイメージしているのだとか。未知数な部分もありますが、直近のリリースを見る限り間違いはないものとなりそうです。

そういえば、グレンマッスルで三郎丸の原酒を用いたブレンドを作った際は、バーボン樽でのマリッジでしたが、エキスが多く残った樽だったのか、スモーキーさの中にウッディで色濃くメローな味わいが付与された、納得のリリースに仕上がりました。あんな感じが強調されたリリースになるのかなと。
これまでT&Tのニンフシリーズ含め数々のリリースに関わり、原酒やブレンドレシピを選定してきた二人の技量に期待したいですね。


最後に、今回のプロジェクトに関する個人的な期待として。
日本にはウイスキーの造り手がいて、ウイスキーを輸入・販売するインポーター、卸業者、酒販店がいて、一見して製造から販売までの流れが整っているように見えます。ですがその間を繋ぐ機能を持つ事業者がほとんど居ないことから、作り手が製造から販売の間にある、全ての製品企画・販売計画を建てる必要があります。
ですが、販売に繋げるのは簡単なことではなく、コストもかかります。また、小規模なクラフトほど原酒の作り分けは難しく、多様性を確保するのは容易ではありません。
この点を分業してきたのは本場スコットランドであったわけですが、T&T TOYAMAが始めるボトラーズプロジェクトは、日本のウイスキー業界になかった最後の1ピースとなりえ、ウイスキー史に残る挑戦的な取り組みであると言えます。

先日、日本洋酒酒造組合から発表されたジャパニーズウイスキーの基準(通称)を受け、市場の動き、造り手の意識が変わりつつあります。売り手市場は終わりを告げようとしており、各社は今までには無かった制限の中で、自社のブランドを確立していく戦略を求められているのです。
そうした中で、ボトラーズブランドのリリースが、オフィシャルリリースとの相互補完の関係で、ブランド全体のPRやリリースの多様性に繋がること。あるいは造ったばかりの原酒を安定して資金化できることは、蒸留所の安定に繋がることも期待できます。決して簡単な取り組みではありませんが、動き出したプロジェクトを見ると、逆にT&Tでしか出来なかったことではないかとも感じます。
日本のウイスキー業界の若きクラフトマンにしてクリエイター2人の大いなる挑戦。我々愛好家は勿論、業界全体で応援してほしいと願って、記事の結びとします。

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余談:クラウドファンディング最大のネタ枠だった「高所作業車名づけ権」が、開始数分で購入された件について。見ていて昼飯を吹き出しました。誰ですかこんな心意気のあるお方は・・・(いいぞもっとやれ!笑)
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三郎丸蒸留所×長濱蒸溜所 コラボレーションボトル4本のまとめレビュー

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富山県・三郎丸蒸留所と滋賀県・長濱蒸溜所の原酒交換によって実現した、国内初となる蒸留所間のコラボ企画。
三郎丸蒸留所「FAR EAST OF PEAT」、長濱蒸溜所「INAZUMA」
この2つの銘柄において、両蒸留所の原酒のみを使ったジャパニーズブレンドと、輸入原酒も用いたワールドブレンド、計4本が3月末にリリースされました。

幸運なことにFAR EAST OF PEATについては手元に。INAZUMAについては所有する方からのサンプルを頂き、自宅で落ち着いて、比較しながらテイスティングすることが出来ました。
レビューは今後個別に掲載させて頂きますが、まずは4本を飲み比べた所感、そしてブレンドの特徴を紹介させて頂きます。



■リリース概要
本リリースの背景や両蒸留所の個性については先日の記事でまとめていますので省略しますが、ポイントは2蒸留所が連携して原酒を交換しただけでなく、同時リリースまで企画したことにあります。日本のウイスキー史上初の試みになりますね。

ただし”原酒交換”といっても、酒税法上”交換”というのは認められていないため、実際は相互に原酒を販売しあう形になるのですが、原酒の販売は酒税が発生するため、蒸留所間の原酒のやり取りはコスト増に繋がる懸念があります。
そこで同法上許されている未納税取引を使って、両蒸留所の原酒を同量・等価でやり取りすることで、1樽単位での原酒の交換を実現しています。

とはいえ、長濱には三郎丸の1樽が、三郎丸には長濱の1樽があるだけで、お互いの蒸留所の原酒を自由に組み合わせられるわけではありません。それでも異なる素性・個性を持つ原酒が、両蒸留所の個性にどのような影響を与え、味わいを生み出すのか。本来なら2つしかないウイスキーを2倍以上楽しむことが出来るだけでなく、両ブレンダーが描くキャラクターの違いにも注目です。

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■三郎丸蒸留所 FAR EAST OF PEAT 
・FIRST BATCH : BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 700ml 50%

三郎丸:50PPMのヘビーピーテッドモルト(バーボン樽)
長濱:ライトリーピーテッドモルト(アイラ・クォーターカスク)

グレープフルーツなどの柑橘系のニュアンスを伴うピート香が強くあり、徐々に焦げた木材や焚火のようなアロマ。三郎丸モルトのピート香もそうですが、バーボン樽と長濱の原酒を熟成させていたアイラ樽由来の要素がアクセントになって、一瞬アイラモルトかと見まごうような構成から三郎丸→長濱と言う感じ。
一方味についてはその逆で、長濱蒸溜所の原酒に由来する緩い麦芽風味、柔らかさが口当たりをマイルドに。そこに三郎丸蒸留所の個性、樽由来の要素としてバーボンオークの甘さ、香ばしさと焦げ感のあるピートフレーバーという感じで続いていきます。
比率は5:5ではなく、三郎丸のほうが多そう。どちらも癖の強い原酒である中で、若さを感じさせませんし、ラフロイグっぽいスモーキーさもわかりやすく、加水も合わせていいバランスに仕上がっています。

・SECOND BATCH:BLENDED MALT WHISKY 700ml 50%
※上記三郎丸、長濱の原酒に、輸入原酒を加えてブレンド。
ジャパニーズがバーボン樽系の香味だったのに対して、ワールドのほうはシェリー樽に由来する香味要素がトップにあるのが特徴です。軽めの酸を伴うシェリー感、そこから麦芽の甘み、香ばしさ、じわじわとピートフレーバーと言うバランス型で、ピーティーなモルトとバーボン樽由来のフレーバーが主となる1st batchとは、大きくキャラクターが異なっています。
多少若さを感じますが、時間が経過すると原酒が馴染むのか変化する部分もあり、使われた原酒に由来してか、軽やかなスペイサイド地方の個性を伴うような、面白い1本です。

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■長濱蒸溜所 "INAZUMA" SYNERGY OF THE DISTILLERIES 
・BLENDED MALT JAPANESE WHISKY "SYNERGY BLEND" 700ml 47%

三郎丸:50PPMのヘビーピーテッドモルト(バーボン樽)
長濱:ノンピートモルト(バーボン樽)

バーボン樽由来の甘いオーク香。柑橘に加えて少し漬物に通じるような特徴的なフルーティーさを伴う酸があり、奥には微かにハーブ、スモーキーさ。長濱蒸溜所の造りだけあって、長濱モルト多めの柔らかい口当たりが印象的で、香りに反して味のほうでは三郎丸の個性はそこまで主張してきません。序盤は品の良い甘さの麦芽風味とオークフレーバー、余韻にかけて焦げたようなピート、微かにハーバルな要素とウッディネスが全体を引き締める。
比率は長濱7,三郎丸3といったところでしょうか。三郎丸のほうに比べると原酒のパワーの違いか、少しちぐはぐな部分もありますが、加水もあって10PPM程度のライトでフルーティーな、バランス寄りのブレンデッドモルトに仕上がっています。同蒸留所では同じ程度のピートレベルのライトリーピーテッドモルトも仕込んでいますが、それとは違う味わいが面白いです。

・WORLD BLENDED MALT WHISKY "EXTRA SELECTED" 700ml 47%
※上記三郎丸、長濱の原酒に、輸入原酒を加えてブレンド。
もはやこれも長濱蒸溜所の個性。とにかく一言で言えばアマハガン味なのですが、ノーマルのアマハガン以上にフルーティー寄りのタイプで、若さも感じない、1ランク良い原酒を使っていることが伺えます。
少しドライなトップノート、桃缶、あるいはキャンディーのようなケミカルでねっとりとした質感も伴うフルーティーさ。余韻にかけて微かなピート、フレーバーティーのような甘みとタンニン。ベースとなる輸入原酒のフルーティーな香味に、口当たりの柔らかさは長濱モルト、ウッディな甘みと三郎丸モルト由来のピートフレーバーが加わって、厚みのある味わいに仕上がっています。
予想比率は輸入原酒6~7、長濱2~3、三郎丸1。個人的に好みな味で、この企画に関係なく家飲み用に1本欲しいですね(笑)。

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■4種のウイスキーを比較して
正直、今回の2蒸留所のタイアップリリースは、蓋を開けたら結構似た味になるんじゃないかと野暮なことを考えていました。ところが、どちらのリリースにも明確な違いがあり、この企画によってもたらされる多様性が思った以上に大きいということが良くわかりました。

ジャパニーズブレンドの方は各蒸留所のハウススタイルを軸に、三郎丸には長濱の、長濱には三郎丸の、それぞれ今までとは違うキャラクターが加わった味わいがあります。
長濱多めと思われるINAZUMAは、三郎丸の強い個性をプレーンな原酒でかなり悩みながらバランス寄りにまとめたのではないかと感じるところ。三郎丸多めだと長濱のウイスキーじゃなくなってしまいますが、今回の企画趣旨を考えると多少はキャラクターを出していきたい。ブレンダーの苦労が伝わってくるようです。
その点で、三郎丸FEPはピート×ピート×アイラカスクという強い個性同士の掛け合わせですが、厚みのある三郎丸の原酒が上手くまとめつつ、口当たりの柔らかさは長濱譲り。今までのクラフトウイスキーには無い味わいに仕上がっていると思います。
また、どちらも3年熟成原酒の掛け合わせとは思えない仕上がりで、若さが目立つなんてことはありません。

一方で、大きな違いが出たのが原酒の選択肢が増えるワールドブレンド。当たり前と言えば当たり前ですが、ブレンダーの好みだけでなく、蒸留所としてのスタイルも現れているように思います。
既存リリースでブレンデッドについては方向性を定めていない三郎丸は、これまであまり見られなかったシェリー系原酒のキャラクターがトップにくる味わい。確か他のリリースだと、ムーングロウ・ハーフムーンくらいでしょうか。三郎丸蒸留所で仕込まれる原酒は50PPMのヘビーピートのみですから、そうではない原酒を使うことで、バランス寄りの味わいに繋げています。
逆に長濱はアマハガンという軸となるブレンデッドリリースがあり、それ用の原酒を多くストックする長濱では、そのキャラクターは変えず、今回入手した原酒を追加で使うことで、さらに複雑さのある味わいに仕上げてきたと感じられます。

昨今話題になってるジャパニーズウイスキーの基準の制定に際し、特にクラフトウイスキーメーカーはこれまでとは違う戦略も求められています。
つまり今回の企画は冒険であり、新しい挑戦です。この機会をどのように活かそうとしたか、それぞれのリリースに対してブレンダーの解釈が分かれた結果でもあり、なるほどこう使ったかと、思った以上に面白く、新しい味わいを楽しませてくれました。
4月29日には、購入者特典としてブレンダー2名のWEB対談も予定されているところ。これも今までには無い企画ですね。これらのリリースを飲みながら、満喫させてもらおうと思います。


サントリー ローヤル 43% 2021年流通品

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SUNTORY 
ROYAL 
BLENDED WHISKY 
660ml 43% 

評価:★★★★★★(5-6)
※ロックでの評価、★6

香り:多少ツンとしたドライな刺激を伴う甘やかなウッディさ。すもも、干し柿、ドライアプリコット。いくつかの果実の穏やかな甘酸っぱさに、シェリーオークのカルメ焼きを思わせる甘くビターなアクセント。じわじわとホワイトオークやミズナラ系の華やかさ、オリエンタルと言われる和的な要素も混じってくる。開封直後は鼻腔への刺激が強い印象だが、時間経過での開きは良好。

味:緩くマイルドな口当たり。香り同様に複層的なウッディネスが含み香で広がり、柑橘やすもものキャンディ、蒸かした穀物、それらを引き締めるウッディな渋みと変化する。余韻は少しピリピリとした刺激から、舌の上に残る適度な重さのあるシェリー樽由来の甘みと、ミズナラ要素を含むオーク香が口内に揺蕩うように残る。

プレーンな原酒でキーモルトの香味を引き延ばす”引き算”ではなく、樽香の”足し算”で造られている多層的な香味構成。最も、比率として多いのは6~8年程度の若い原酒と思われ、10~15年熟成の原酒の要素がトップノートにありつつも、開封直後は樽香に硬さや、多少の刺激も目立つ。しかし時間をかけるとじわじわと硬さがほぐれ、使われた原酒由来の甘やかさ、多彩な樽香のレイヤーを、一つ一つ紐解くことが出来る。

以上のようにストレートでは少し気難しいところがあるため、日常的な飲み方としてはオンザロックをオススメしたい。ピントが合い辛かったウッディさが解け、特にミズナラ系の香味がわかりやすい。冷たく心地よい口当たりから、温度が上がることで一つ一つの個性が穏やかに口内から鼻腔に立ち上っていく変化は、上位ブランドにも通じるところがある。
ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か、その答えの1つを味わうことが出来るブレンデッド。休売となった響17年ほどの香味の広がり、重厚さはないが、レプリカとしてなら完成度は充分すぎる。誉め言葉として”プアマンズ響”という言葉を贈りたい。

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ここ最近紹介している、デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。1000円台のオールド、2000円台のリザーブ、そして最後は3000円台のローヤルです。
過去2つのレビューでも触れましたが、オールドやリザーブは”安ウイスキー”として見ていた部分があり、ちゃんと飲んでみて、日本人の好みに合わせて計算された美味しさ、真摯な造り、何より価格設定にも唸らされたところです。

一方でローヤルについては、元々美味しいというか、造りの良さは認識しており、侮っていたわけではありませんでした。ただ、改めて現行品を飲んでみると、先の2本とはそもそも作り方というかブレンドの方向性が異なっていることや、ローヤルの魅力・特徴を理解するきっかけともなりました。
味もさることながら、現在の市場価格3000円程度でこれだけのブレンドを量産できるって、日本の他社には真似できないですよ、いやホントに。

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(デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。リザーブからはストレートでもイケるが、オールドは濃いめの水割り、リザーブはハイボール、ローヤルはロックがオススメ。)

オールドが山崎のシェリー樽原酒を、リザーブが白州のバーボン樽原酒をそれぞれ軸にして、多少モルトの香味が足されつつも、最終的には若いグレーン原酒で引き算したような香味構成であるのに対し、ローヤルは様々な樽由来の香味を重ねて混ぜ合わせていくような、足し算のブレンデッドであること。そして、軸となる香味の一つには、ジャパニーズウイスキー発のフレーバー”ミズナラ香”が感じられる点が、ローヤルの特徴です。

これは最近休売や生産調整などもあって入手困難となってしまった、響の17年、21年、30年とも共通するコンセプトだと言えます。
酒に限らず、メーカー品にはフラグシップの思想をそのまま活かした廉価版が存在することが度々ありますが、ローヤル現行品はまさにそれ。バーボン樽由来の華やかさ、バニラ香。シェリー樽やワイン樽由来のコクのある甘みとほろ苦さ、和のニュアンスを思わせるミズナラの独特のアロマ・・・。熟成に用いた樽由来のフレーバーが、例えるなら着物の重ね着のように一つの形となっている。サントリーのブレンドであり、ジャパニーズウイスキーの魅力とは何かという問いに対する答えを見ることも出来ます。

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(ブレンデッドウイスキー響は、オーケストラをイメージして作られたと言われている。それは様々な音色(原酒)の足し合わせであり、特に17年以上のグレードは熟成した原酒の厚み、多彩さからそれを体現するような構成。先の着物のイメージで言えば、十二単をイメージする艶やかな多層感である。)

一方で、量産品故にコストや原酒貯蔵量との兼ね合いもあるのでしょう。上位グレードほどの香味の広がりがあるわけではありませんし、一部使われている若い原酒の硬さ、刺激が、熟成した原酒の柔らかく甘いウッディさを突き抜けて主張してくる点が、価格なりな部分にあります。

日本は温暖な気候故に、短期間で樽香を原酒に付与することが出来ます。例えば温度の上がりやすい環境として、山崎蒸留所の見学コースにあるような熟成スペースを使うとか。あるいはグレーン原酒を各樽の1st fillとして貯蔵し、長期熟成には使い辛い一番強く出る香味部分をブレンドに活かすとか。。。
ただ、短期間で付与した原酒はどうしてもベースの粗さが取り切れていないため、加水してもピリピリとした香味が残ってしまうし、重厚さも劣ってしまう。ローヤルのトップノートには、そうした要素が感じられるのも事実です。

とはいえ、これらは低価格で美味しいウイスキーを生み出し、安定して供給するための創意工夫でもあります。限られた条件下で可能な限り上等なクオリティを生み出す。まるで料理人が安価な材料でも仕込みと技で優れた逸品を作り出すような、まさにプロの技であると。
レビュー上でもオススメしていますが、現行品ローヤルの引っ掛かりは、時間をかけるか、あるいは日本人に一般的な飲み方であるロックにして飲むと問題なく消えます。それでいて熟成して重厚な味わいとなった原酒とは異なる、いい意味で適度な樽感、くどくない程度に広がる甘やかで多層的な含み香は、日常的に楽しめて飽きの来ない味わいでもあります。

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(1989年以前のローヤル。1960年代から70年代のころ(右側)は、モルトの香味をプレーンなアルコールで引き算したような構成になっているが、(左側)の80年代は原酒が確保されたか、ブレンドの方向性が定まったか、現代に通じる多層感、ミズナラ系の香味も感じることが出来る。)

サントリー・ローヤルは、初代マスターブレンダー「鳥居信次郎」が、ブレンダーとして最後に手掛けた、文字通り集大成として位置付けられているウイスキーです。
同氏のブレンドのコンセプトとなっているのが、日本人が美味しいと感じる味わい、現代で言う「ブレンドの黄金比」です。ただおそらく、当時の黄金比と今の黄金比は違うものと考えられます。半世紀以上の時を経て、我々日本人の味覚や趣向は変化しているわけですが、それは当時と現代のウイスキーとで、造りの違いを見ても明らかです。

現行品はわれわれの味覚、飲み方に合わせて、原酒の許す範囲で調整されているのでしょう。より華やかで、多彩で、それでいて繊細さも失わない・・・ですが、コンセプトは変わっていない。ローヤルをはじめ、これまで紹介してきた”御三家”は、その点がちょうどいいのです。
文字通り肩ひじ張らず、晩酌で、ちょっとした飲み会の席で、その場に合わせた自然な酔いを提供してくれる美味しさ。多くのウイスキーを飲み、モルトウイスキーに慣れた愛好家にとっても、逆に「そうそう、こういうので良いんだよ」と自然体で楽しめる味わい。創業者の想いが時代を超えて息づいているようにも感じられるのです。

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