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グレンモーレンジ 18年 1990-2000年代流通 43%

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GLENMORANGIE 
YEARS 18 OLD 
SINGLE HIGHLAND RARE MALT SCOTCH WHISKY 
1990-2000’s 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:甘やかで柔らかい香り立ち。ブラウンシュガー、キャラメル、微かにみたらしの要素も混じる色濃い甘さ。合わせて牧草、麦芽香もしっかりと感じられる。

味:香り同様に柔らかくしっとりとした口当たり。まずはシェリー樽熟成を思わせる色濃い甘さ、キャラメルや微かにダークフルーツ。そしてやや野暮ったさに通じる麦芽風味、バニラやパン生地の甘さ、徐々にほろ苦くビターなウッディネス。

現行18年の華やかさとも、1世代前の90年代初頭流通の陶酔感伴うシェリー系18年(写真下)とも異なる、2000年前後の緩やかで甘やか、そして少し植物感などが混じる野暮ったさ、牧歌的な麦芽風味の混じる癒し系。
洗練されても突き抜けてもいないがそれが良い、どこか安心感を感じてしまう、この流通時期らしいモーレンジの個性を味わえる1本。

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初めて飲んだというわけではなく、今まで何度も飲んでいるボトルですが、レビューしていなかったので掲載します。

バーボン樽や麦芽風味のフレーバーがメインにある10年と加えて、シェリー樽熟成原酒の要素を感じられるのが、1990年からリリースを開始したとされるグレンモーレンジ18年です。
ただ同じ18年といっても、時代によってフレーバーの方向性は変わっており、今回はその点を少し掘り下げていきます。

現行品の18年は、シェリー樽原酒こそ使われているものの役割は全体に厚みを出す程度。現行18年の象徴とも言える、ラグジュアリーな華やかさは、バーボン樽熟成原酒の役割となっています。
一方で、1990年のリリース当初の18年は、シェリー樽原酒の個性が強く出て、そのクオリティはまさに黄金時代。甘やかでフルーティーで艶やかで…陶酔感を感じさせるもの。
どちらのボトルもその流通時期を俯瞰して、ハイレベルな1本であることは間違いありません。

そして今回紹介する1990年代後半から2000年代流通のグレンモーレンジ18年は、属性としてはそのどちらにも属さない。
シェリー樽原酒は60−70年代の黄金時代とは言いがたく、バーボン樽原酒は近年の市場を抑えた華やかでフルーティーさを全面に出せるようなものでもない。この時期のグレンモーレンジらしい野暮ったさのある麦芽風味を主体として、華やかでもフルーティーでもない、甘やかさとウッディさが備わった味わいが特徴です。

シングルモルトウイスキー市場は2000年代以降に本格的に拡大してきた歴史があり、いわばそこまでは、どんな味わいが市場で評価されるのか各社手探り状態だったところ。シェリー樽の色濃い甘さやダークフルーツを思わせる果実感。バーボン樽の華やかで黄色系のフルーティーさを思わせるオークフレーバー。そしてトロピカルフルーツ。
この辺を意識して各社がリリースをし出したのは、まさに最近なんですよね。

そうした歴史から、今回のグレンモーレンジ18年は、ブレンデッドウイスキー全盛期からの過渡期の1本。18年だけでなく、同時期の10年も妙に野暮ったいフレーバーが目立つ構成となっています。
ただ、この野暮ったさが完全に悪かというと決してそうではないんです。都会に住んでいると田舎の空気に心が安らぐ瞬間があるような、洗練されていないものに味を感じるというか。。。
何れにせよ、今のウイスキーにはない魅力を持った1本であると言えます。

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今回のレビューアイテムは、御徒町にオープンした「リカースペース榊」でテイスティングしました。
チャージ2000円と、通常のBARに比べると高額なように感じますが、無料で飲めるボトルに加え、このモーレンジが1杯●00円など、基本的には原価に近い価格で提供。
また、強い匂いを出さないフードは持ち込み自由など、フリーな感じも面白い。
色々飲んで勉強してみたい方、おすすめのBARです。

グレンリベット 12年 ダブルオーク 40% Lot2023.3 &ごめんなさい案件

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THE GLENLIVET 
12 YEARS OLD 
DOUBLE OAK 
Lot 2023.3 
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)(!)

【ブラインドテイスティング】
トップノートはオーキーで華やか、ややドライ。洋梨などの果実香を感じる。奥には干藁、おが屑。
口当たりは蜜っぽい甘さ、ボディは加水で緩いが麦芽由来の甘みの後から、香り同様にオーキーでほろ苦いウッディネスを伴うフィニッシュ。
香味のスケールは小さくまとまった感じはあるが、好ましい要素主体でバランス良く味わえる。

バーボンオーク主体、12年熟成程度、オフィシャル複数樽バッティングのシングルモルト、地域はスペイサイド。
というところまでは絞り込める。
また、酒質には素性の良さが感じられ、大手メーカー、大手蒸留所による造りとも感じられる。
予想銘柄はグレンフィディックかグレンリベット。

ただ、オールドっぽさはないし、現行と考えるとフィディック12年かな。現行フィディックにしては麦感が柔らかいというか、蜜っぽい甘さが気になるけど・・・。
グレンリベットは一つ前のグリーンボトル時代や、ちょっと前に終売になった13年ファーストフィルアメリカンオークならともかく、現行はかなり樽感が淡くなってドライ、若さも目立ってた印象だから、近年リリースでは無いと予想。
現行リベット12年だったら、ペルノさんにゴメンナサイ発信するよ(笑)
ということで、銘柄はグレンフィディックで!
……。

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『グレンリベット及びペルノリカールさん、ごめんなさい』

ドヤ顔で回答しました。
しかも現行リベットはないとまで断定して回答しました。
まさかのど現行、グレンリベット12年ダブルオークでした。
出題者でもないのに、この時隣に居た某A氏の笑顔が憎たらしい。

弁明させていただくならば、2019年にグレンリベット12年がグリーンボトルから今の12年ダブルオークにリニューアルした時、そのインパクトたるや凄かったんです。
アメリカンオーク樽の華やかさや林檎系のフレーバーが薄くなり、ドライな樽香に若干ニューポッティーですらあるフレーバー。
アンケートをとったわけではありませんが、少なくとも自分の周囲の愛好家、当時のFBやTwitterでは賛否の賛を探す方が難しかった。

著名な某テイスターは、3rdフィルの樽の比率が増えているのではないかとし、厳しいコメントを発信していたのも覚えています。

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一方で、同様にラベルチェンジをしたグレンフィディック12年(写真右)は、当時味がそこまで変わらず、固めの洋梨や林檎、麦芽にオークフレーバーという感じで、安定感が光る結果に。
数年前にグレンフィディック12年のレビューを書いた時も…

「同じく12年のシングルモルトで売り出している某静かな谷のように、リニューアルする毎に樽感が薄く若さが目立って、いったいどうしたのかという銘柄も散見されるなか。グレンフィディックの安定感が際立つ結果になっているようにも感じます。」
なんて書いてます。

ただこうして最新ロットをブラインドで飲み、意外な結果に驚いてもう1杯注文して、さらに比較で現行グレンフィディック12年とも飲み比べた結果。
認めざるを得ないわけです。グレンリベット12年が美味しくなっているということに。

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「認めざるを得ない」なんていうと、偉そうというか、何かこの蒸留所にネガティブな想いがあるかのように思えますが、決してそんなことはありません。
むしろ近年の市場でトレンドの味を抑えてきたことは流石大手メーカーだと思いますし、それ以上にグレンリベットが旧ボトル時代の樽感、クオリティを取り戻していたことは素直に嬉しいことです。

故に約束通り「ゴメンナサイ」しますが、嬉しい誤算、嬉しいごめんなさいなので全然OK。
グレンリベッットは政府承認第一号の蒸留所であり、全てのモルトの基本と言われた時代があり、同様にUnblended表記やPure Malt表記など、オールド好きには特別な想いがあるのがグレンリベットです。

グレンリベット12年ダブルオークは、アメリカンオーク原酒とヨーロピアンオーク原酒のバッティング。
酒質がこなれた瓶内変化ではなく、明らかにリニューアル当時と比較して樽感がリッチになっているあたり、1stフィルのアメリカンオーク樽原酒を増やし、そこにヨーロピアンオークでコクを与える、この安定感に大手の底力を感じました。
ちなみに比較したところ、現行フィディック12年が以前よりまたちょっと固く、青っぽくなったような気もしましたが、これは誤差の範囲かもしれません。

一方で同じく流通量の多いスコッチモルトのスタンダードだと、ボウモア12年の現行品が結構美味しいんです。ボディは緩いというか軽いのですが、グレープフルーツや赤系果実の混じるピートフレーバーは、以前のボウモアに通じるキャラクター。大手メーカーのリリースも、定期的に試してみないとその真価が測れませんね。
今回も良い経験をさせてもらいました。2019年〜2020年にグレンリベットに絶望した各位、裏ラベルにボトリングロットが書かれてますので、ぜひ今一度試してみてください。

カバラン トリプルシェリーカスク 40%

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KAVALAN 
SINGLE MALT WHISKY 
TRIPLE SHERRY CASK 
700ml 40% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:枝付きレーズンやクランベリー、ダークフルーツを思わせる果実の香り、オールドタイプのシェリー樽を思わせるチョコレートやカラメルを思わせる色濃い甘さ。開封直後は微かにサルファリー、ややドライで鼻腔への刺激もあるが、好ましい要素の方が強く、非常に充実している。

味:スムーズな口当たりから香り同様、ダークフルーツを思わせる甘酸っぱいフレーバー、アーモンドチョコレート。苺シロップやフレーバーティーを思わせる含み香から、余韻は若干後付けしたような甘さが軽くスパイシーな刺激、程よいウッディネスと共に残る。

色濃い甘さと果実感を伴う甘酸っぱさ。ボディは少々軽いが、香りだけならもう1ポイント上の評価をしてもいいくらい、古き良き時代のシェリー樽熟成ウイスキーの一つを連想させる1本。多少作為的なところもあるが、オロロソ、PX、モスカテル、3種の樽を組み合わせることで、上記香味を作り上げたブレンダーの手腕は見事。言うならばこれは完成度の高いレプリカ。70〜80年代流通のシェリー系オールドボトルを連想する1本。
なお、そうした経験からくる整理を除いても、よく出来たリリースでる。

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昨年、某所でこのボトルを飲んで「こいつは面白い」と即購入した1本。本レビューは開封後、1年ちょい経過時点という感じですね。
開封直後はテイスティングコメントでも触れたように少しサルファリーな要素がありましたが、それはすぐに馴染み、今では全体のフルーティーさ、ベリー系の香味を支える香味の一つに転じています。

最も特筆するべきは、その香味の方向性です。
昨今のシェリー樽は、シーズニングのアメリカンオークやスパニッシュが主流となり、甘くクリーミーで、ドライプルーンやチョコレートのようなフレーバーを感じるものが多くあります。
普通に買えてそのフレーバーを確認できる代表的なものは、エドラダワー10年とかですね。先日当方関連でリリースがあったT&T TOYAMAのTHE BULK Vol.1も同様。まずここで断っておくと、本リリースのフレーバーは、それらとは異なるものです。

では、どういったモノか。10年以上前のウイスキー市場には、一口にシェリーカスクといっても、様々なフレーバーの方向性が見られました。
そのうち、代表的なものが某ボトラーズのリリースや、有名家族経営蒸留所のリリースに多く見られた、カラメルのような緩い甘さと程よいフルーティーさがある、今はなきオールドシェリーの一つです。
これは時系列的には通称パハレテ、古樽に甘口シェリーを圧入して再活性化させた樽によるものと考えられ、1980年代以前には、いくつかのブレンデッドウイスキーにも見られた個性です。

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※本リリースを飲んで連想したオールドブレンドは、ロイヤルサルートの1980年代以前流通や、同時期のグランツ21年、スチュワート・クリームオブザバーレイなど。
今回のこのカバラン・トリプルシェリーカスクの最大の特徴は、そうした当時の味わいに通じるフレーバーが備わっていることにあります。
といっても、昔の樽を使ったとかそういう話ではなく、今ある素材を組み合わせて、限りなくかつての味わいに近いものを仕上げています。偶然か、狙ったか、それはわかりませんが、市場で評価されている香味であることは確かです。

元々カバランは、クリアで軽く、フルーティー寄りの酒質を、厳選した樽で仕上げることで、愛好家の好ましいと感じるフレーバーに上手く焦点を当ててブランドを確立してきました。
例えばソリストのシェリーカスクには、スパニッシュオークのフレーバーを上手く使って、赤黒系の果実味と豊富なタンニン、ミズナラとは異なる香木系のアロマを付与した、さながら山崎シェリーカスクを思わせるリリースが多く。フィノカスクはアメリカンオークの古樽熟成がもたらす角の取れたフルーティーさ、トロピカルフレーバーとも称される個性が付与されているものが多い。
わかりやすく好ましいフレーバーが強いため、国際コンペ等でも非常に強い銘柄ですね。

今作の樽構成はオロロソカスク、PXカスク、モスカテルカスク。熟成年数は比較的若く、5〜7年といったところで、それ故少し刺激もあります。
PXはシェリー酒そのものが濃厚な甘さであるのに対して、確かに味わいに厚みは出るものの、樽由来のフレーバーはビターになる傾向があり、おそらく3種の中では控えめ。口当たりの甘酸っぱさはモスカテルで、ベリー系のフレーバーにも寄与している。そして軸になっているのがスパニッシュオークのオロロソ。。。
自分の経験値から分析すると、これらが絶妙なバランス(記載順に、2:3:5あたりと予想)で組み合わさり、加水で整えられ、万人向けでありながら自分のような愛好家にも刺さる、さながら高品質なオールドレプリカとなっているのです。

え、カバランの40%加水?
そう感じる方も多いかもしれませんが、このフレーバーのものを安定してこの価格で作れるというのは正直凄いですし、納得できる味わいだと思います。
夏本番のこれからの時期に濃厚シェリーはちょっとキツいかもしれませんが、今から開けておいて秋口から楽しむなんていうのも良いかもしれません。

シングルモルトあかし 4年 2018-2022 ヘビリーピーテッド 62% for KFWS

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EIGASHIMA DISTILLERY 
SINGLE MALT AKASHI
Heavily Peated 
Aged 4 years 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Cask type Bourbon Barrel #101855 
For Kyoto Fine Wine & Spirits 
500ml 62% 

評価:★★★★★★(6)

香り:フレッシュでスモーキーなトップノート。表層的にはピートと柑橘系のニュアンスが主体で好ましい香り立ち。そこからハーブ、焦がした針葉樹、微かに古い酒蔵のようなアロマが混ざり、度数相応の鼻腔への刺激も感じられる。

味:口当たりはオイリーでややビター、スモーキーで角のとれた麦芽風味。続いてバーボンオーク由来のバニラと麩菓子の甘さ、グレープフルーツ、オレンジオイルのような質感、奥には針葉樹や根菜を思わせるニュアンス。
余韻はピーティーでほろ苦くスパイシー。強いスモーキーさとハーブのよう青みがかった要素がが鼻腔に抜けて長く続く。

素性のいい麦芽風味に力強いピートフレーバーが特徴の1本。造り手の違い、意識の違いがこうも味わいに影響するのか。雑味が多く樽のノリも悪いかつての姿はなく、柑橘系の要素と樽感も良い塩梅で感じられる。決して洗練された味わいではないが、そこに江井ヶ嶋らしさ、個性を感じることが出来るとも言える。
江井ヶ嶋蒸溜所、新時代の始まり。是非先入観を捨てて飲んで欲しい。

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京都の酒販&インポーター、Kyoto Fine Wine & Spirits社(KFWS)からリリースされたプライベートボトル。実は、自分もちょっとお手伝いさせて貰いました。
同社のPBは、先日のWDC向けボトルをはじめ、多少価格は高くとも、高品質で間違いのないモノをリリースしていることで知られており、言い換えるとKFWSは愛好家からの信頼の厚いブランドであると言えます。
さながら一昔前のシルバーシールみたいな位置付けですね。

それ故、KFWS向けリリースで、江井ヶ嶋蒸溜所のあかしがラインナップされた時の愛好家の反応は…想像に難くないと思います。
少なくとも2010年代までは愛好家からほとんど評価されることがなかった、あの“あかし”です。
今回のリリースは、蒸留所とKFWSの繋ぎから関わらせてもらっているのですが、元を辿ればKFWSの2人もまた、いやいやくりりんさん、江井ヶ嶋ですよ?と、信用半分疑問半分といった反応でした。

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それが、現地で原酒をテイスティングしてから、「あれ、これ良いじゃない」と評価が変わります。本リリースを飲んだ愛好家の、SNS等での反応も総じて同様。
自分は、三郎丸蒸留所の原酒交換リリースであるFAR EAST OF PEATや、T&T TOYAMAのLAST PIECEのブレンド等を通じて、江井ヶ嶋蒸留所の酒質の変化、進化を知っていましたが、やはり最初は同じようなリアクションをしました。

何故こうも、多くの愛好家が同じような反応をするのか。
それは、以前のシングルモルトあかしは単純に美味しくない、という表現が正しくないとすれば、雑味が多く決して洗練された酒質ではない、雑味が多いが複雑と言うわけではなく妙にシャープで樽感と馴染みが悪い、全体的に何かしらのこだわりを感じさせる味わいではない、ということ。
現蒸留所長に伺ったその理由は、端的に言えば、雑に造った酒は雑な味にしかならない、ということでした。

かつて江井ヶ嶋蒸溜所は、そもそもの企業名・江井ヶ嶋酒造の通り日本酒をメインに作っていましたが、醸造酒を作らない夏場に製造スタッフを遊ばせない為に蒸留酒も作っていました(現在はウイスキーは通年製造)。そのため、意識は高くなく、言うならば安かろう悪かろうな、あるいは桶売り前提のようなスタンスでウイスキー造りが行われてきました。
一例となる出来事として2010年ごろ、自分が江井ヶ嶋蒸溜所を訪問した際、スタッフが麦芽のフェノール値を把握しておらず、「商社が勝手に持ってくる物で作ってるからわからない」なんて説明を受けたこともあるくらいです。

そうなると、様々なことがおざなりになっていくものです。
一方で、2016年に現蒸留所長の中村裕司氏が着任され、現場の問題点を把握し、上層部に伝え、その改善に着手したことで、特に2018年ごろの酒質から明確に違いが現れてきます。
具体的に何をやったかと言えば、錆びて汚れた配管やタンクなどの交換・整備、清掃の徹底、発酵等の造りのノウハウ部分の見直しです。
中村氏は元々日本酒側の人間であるためウイスキーは未経験でしたが、だからこそこの設備、この造りではいけないと気づけたと言います。
そして「お前ら、そんなウイスキー作ってて家族に恥ずかしくないんか、一緒に飲みたいウイスキー造ってるって言えるんか」とスタッフに檄を飛ばした意識改革は、同氏の酒造りに対する熱い想いを感じさせるエピソードとなっています。

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なお、同社がウイスキー製造免許を取得して100年に当たる2019年は、ポットスチルの交換も実施。古いポットスチルは、現在蒸留所正面にオブジェとして設置されています。
変更といっても、サイズも形状も変更されていませんが、2019年以降の仕込みは雑味が減ってさらに酒質が良くなったことから、確実に効果はあったこの交換。逆に言えば、2018年蒸留の原酒はまだ発展途上であると言えます。

ですが、蒸留における心臓部であるポットスチルが変更されていない2018年蒸留原酒に見られる旧世代からの進化こそ、中村所長がもたらした同蒸留所の変革と新時代の始まりを、最も感じられる要素だと私は感じています。
成分分析した場合も、数値上の特性が良いのは間違いなく2019年でしょう。記録に残る2019年、記憶に残る2018年と言ったところでしょうか。
本リリースはピーテッド仕様なのも良いですね。アイラのイメージから、やはり海辺のモルトにはピートが似合う。アイラ海峡、あかし海峡、なんか似てるし(笑)

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本リリースは昨年の発売で既に完売していますが、今回の樽が必ずしも特別な樽だった訳ではなく、2018年の中では平均的なものから好みに合う成長の原酒を選んだという感じ。
この時テイスティングした原酒のサンプルのクオリティは総じて安定しており、その証拠に、現在流通しているスタンダード品であるシングルモルト・ホワイトオークあかし(3〜4年熟成原酒がメイン、500ml 46%)の味わいも、確実に向上しています。

ただし江井ヶ嶋蒸留所のハウススタイルは、実はバーボン樽でもピートでもなく、ノンピートから極ライトピートでシェリー樽熟成にあります。
今回のボトルはその点では少し外れたものですが、今後リリースされるいくつかの他社PBはシェリー系で、そのキャラクターが良い具合にマッチしていることから、また違った驚きを愛好家にもたらしてくれると期待しています。
新時代の到来からまだ5年あまり、原酒の成熟はこれからですが、地ウイスキーからクラフトウイスキーへ、あかしの遂げた進化を本リリース、あるいはいずれかのボトルで感じてもらえたらと思います。

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ニッカウイスキー 宮城峡 モスカテルウッドフィニッシュ 2017 46%

カテゴリ:
NIKKA WHISKY
MIYAGIKYO
Moscatel Wood Finish
Bottled 2017
700ml 46%

グラス:リーデルヴィノテクスピリッツ
量:30ml
場所:BAR飲み@ナデューラ
時期:開封後1週間程度
暫定評価:★★★★★(5-6)

香り:粘性のある飲み口を連想させる甘いアロマと、奥から若さに伴う刺激。シロップを入れた紅茶、ブラウンシュガー、ドライオレンジ、微かな硫黄香。時間経過で甘みが開いてくる。

味:粘性とピリピリとした刺激のある口当たり。オレンジママレード、サルタナレーズン、シェリーオークのウッディネスと微かに硫黄。焼き芋のような焦げた甘みがじわじわと広がる。
余韻はウッディでカカオの苦味、収斂するようなドライなフィニッシュ。

甘口だが苦味も強い構成。加水すると樽感が軽減されるためかベースとなる酒質の若さ、薄めたリモンチェッロのようなフレッシュな香味が際立つ一方、硫黄も浮ついて感じられる。

   
アサヒビール(ニッカウイスキー)が日本、欧州・米国、それぞれの市場向けに展開中のシングルモルトのリミテッドエディション。
日本向けは9月26日に発売された、余市、宮城峡のモスカテルウッドフィニッシュ。欧州・米国市場向けとしてはラムカスクフィニッシュが、それぞれ11月に3500本限定で発売予定となっています。

今回の限定品は、ニッカウイスキーでは珍しいフィニッシュタイプです。
同社のシングルモルトは、ここ10年ほど宮城峡はシェリー樽、余市は新樽が王道路線で、フィニッシュで仕上げたボトルは明示的にリリースされていなかったと記憶しています。(竹鶴ではシェリーフィニッシュなどがありましたが。。。)
新しい製法へのチャレンジと言える動きですが、本音はシングルモルト需要が高まる中、今使える原酒のキャラクターを短期間で変えるためのフィニッシュ、というところでしょうか。
こうした手法は決して悪いものではなく、前例としてはグレンモーレンジなどで積極的に使われていますし、追加熟成期間を長くとったダブルマチュアードはMHD社のディスティラリーエディションでも毎年お馴染み。良い樽と追加熟成期間を見極められれば、充分面白いモノが出来ると思います。

フィニッシュに使われたモスカテルカスク、つまり元々熟成されていたモスカテルワインは、マスカットタイプの葡萄品種を天日干しにし、糖度を高めた上で醸造する甘口の酒精強化ワインです。
今回はポルトガル産が使われていますが、シェリー酒で知られるヘレスに加え、ヨーロッパ各地でもモスカテルワインは作らているようです。
平均的にはペドロヒメネスに次ぐ甘口なワインに位置付けられますが、単に甘口なだけではなく、フレッシュな酸味や果実味を備えているのが特徴。 特にポルトガル産のものはヘレス産に比べて熟成期間が短いものが多く、フレッシュな傾向が強くあるのだとか。

※モスカテルワインについては、ウイスキー仲間のTWD氏がTasters.jpに詳しくまとめています。

もっとも、基本的には酒精強化ワインの空き樽なので、普段飲みなれたオロロソシェリーオーク樽のウイスキーに共通するところもあります。
この宮城峡もとろりとした飲み口に、レーズン系のドライフルーツの甘み、ウッディーなタンニンがしっかり。そこにオレンジなどの柑橘を思わせる香味も混じってきて、この辺りがオロロソシェリーとは異なる、モスカテルらしさかなと感じられるところです。
全般的に悪い樽感ではないのですが、ほんの微かに硫黄香があるのは、ベースの原酒由来か、樽の処理なのか・・・。

っと、樽に関する前置きが長くなってしまいました。
とりとめない感じですが、最後にベースとなった原酒は、比較的若さの残ったタイプのもの。樽由来の香味の奥から、そうしたニュアンス、刺激が感じられます。
アサヒのニュースリリースやウイスキーマガジンの記載では、「通常」のシングルモルト宮城峡、シングルモルト余市ベースと読める書きぶりで、流石にいくらなんでも既製品のレシピをフィニッシュしただけ・・・なんて作り方は無いとは思いますが、通常品とリンクする比較的若い原酒が使われているのは間違いないと感じます。

この結果、原酒のキャラクターと強めに出ている樽感のちぐはぐ感が個人的に気になってしまったわけですが、開封後の時間変化でまとまって、また違う美味しさに繋がることを期待したいです。


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