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ロッホローモンド ピーテッド シングルグレーン カフェスチル 46%

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LOCH LOMOND 
PEATED SINGLE GRAIN 
COFFEY STILL 
700ml 46% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:ピーティーでフローラルな(パフューム香ではない)柔らかいバニラ香、奥から柚子やレモンピールのような柑橘、微かに針葉樹を思わせるハーバルなアクセントも。複層的でスモーキー、フレッシュな要素も顔を出すが、若い原酒に由来する嫌味な要素は少ない。

味:香り同様柔らかい口当たり。合わせて広がるピートスモーク、洋梨の果肉のような緩いフルーティーさ、香り同様の柑橘感。余韻は柔らかいスモーキーさとビター、モルティーな甘みを舌の上に残して穏やかに消えていく。実に飲みやすい。

久しぶりに驚かされた1本。香味のベースはグレーン味(バーボン系統の香味)かと思いきやそうではなく、モルトウイスキーのそれでありながら、口当たりは柔らかく、質感はグレーンの柔らかさ、クリーミーさを受け継いでいる。また、蒸留方法の影響か、味はそこまで複雑ではないが、若さやネガティブな要素も少なく、溶け込んだピートフレーバーがバランス良く薫る。ピートは50PPMとのことだが、体感では10〜20程度といったところで、そこまで主張しない。
異色のグレーン。しかし内陸系ピーテッドモルトの一種と整理しても申し分ないクオリティがある。様々な可能性を秘めた1本。コストパフォーマンスも良好である。

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ロッホローモンドのオフシャルラインナップの一つ。本国では2020年に、日本国内では2021年3月2日から販売されています。
“ピーテッドグレーン”ってどういうことなの?
穀類乾燥させるときにピートを焚いたの?
と、ラベルを見た瞬間は混乱しましたが、調べてみるとピーテッドモルトを連続式蒸留器で蒸留した、ニッカのカフェモルトのような大麦原料のグレーンウイスキーであり、既製品のロッホローモンド・シングルグレーンの姉妹品に該当するようです。

同蒸留所には、玉ねぎ型の通常のポットスチルに加え、ネック部分の仕切りで酒質の調整が可能なローモンドスチル、カフェスチル、連続式蒸留器(コラムスチル)と、4種類の蒸留器が稼働するだけでなく、樽工場まで自社に備えています。多様な原酒の作り分けに加えて、分業制が一般的なスコットランドでは非常に珍しい、モルトとグレーンの蒸留が可能な唯一の蒸溜所※であり、近年大きな成長を遂げていることでも知られています。
※樽工場を持つ蒸留所は4社、連続式蒸留器までもつ蒸留所はロッホローモンドのみ。

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(蒸溜所外観(写真上)と、ロッホローモンドに導入されている蒸留器4タイプ(写真下:ロッホローモンド蒸留所WEBページより引用))

これら4種の蒸留器のうち、モルトでは画像左2種類のスチルを使ってインチマリン、ロッホローモンド、インチモーンとフルーティーなタイプからピーティーなタイプまで、様々なモルト原酒の造り分けが行われている一方。右側2種類のカフェスチル、連続式蒸留器でブレンデッドウイスキー用のグレーン原酒づくりも行われています。

今回のリリースは、2007年に導入されたカフェスチルでピーテッドモルトを連続蒸留したもの。同蒸留所においてカフェスチルは、主にモルトの蒸留に用いられているそうです。連続蒸溜は香味成分のないクリアなスピリッツが取れるという印象でしたが、これだけピートフレーバーは残るんですね。
稼働時期から原酒の熟成年数は長くて12年強となるわけですが、今回のリリースは樽感が淡く、ウッディさも主張しないので、例えばリフィルのバーボンバレルで7〜8年程度と少し若いものかと予想。ただし若いからえぐみがあるとか、粗いとか、そういうタイプではなく、ピートフレーバー含めて非常に柔らかく、クリーミーであり未熟感も少ない仕上がりとなっているのが蒸留方法の違いであるように感じられます。

また、ロッホローモンドなら「濡れたダンボール」「ユーカリ油」と言ったような個性的なフレーバーの存在が気になるところですが、これも若さ同様に抑えられています。あるのはモルトの素直な甘みと柔らかいスモーキーさ。まさに良いとこどり。
姉妹品のシングルグレーン(以下、画像)については、同様の柔らかさがあって飲み始めの人等にはオススメである一方、個人的には複雑さという点で少し物足りなさも覚えるところ。今回のリリースでは、その物足りなさをピートフレーバーが補っているのです。

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「ピーテッドグレーン」というネーミングには面食らいましたが、個性の強い部類に入るロッホローモンドの原酒の中で、グレーン原酒の特性から決して長熟でもないのにこのまとまり具合、そしてこの飲みやすさ。「なるほど、こういうのもあるのか」と、香味以外に造り方も含めて大きな可能性を感じた1本でした。
っていうかこれで3500円ですから、コスパも文句なし。同じ価格でピーテッドモルト買ったら、もっと粗い仕上がりのリリースがほとんどです。

ストレート以外にハイボールなど様々な飲み方でも試してみたい。あるいは、この原酒をブレンドに使ったら・・・、今までにない新しいキャラクターにも繋がりそうです。バルクで入れて国内で使えないかなぁ…例えば長濱のブレンデッドに使ったら絶対面白いし、酒質の柔らかさとしてもマッチするはず。これは都光さんの仕事に期待したいですね。

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今日のオマケ。コスパの良さと、スペックでの驚きが共通点。

手取川 限定中取り純米大吟醸  特醸あらばしり 2020BY
味は文句なし。ですが、あらばしり(荒走り)は日本酒を絞る際に最初に出てくるお酒で、中取りはそのあと出てくるお酒。つまりこのスペックが同時に存在することは無いと思うのですが、どういうことなの?と。。。

ウイスキー仲間経由で調べてもらったところ、このあらばしりは、荒ばしりではなく、新酒を意味する新走りのことではないかと。なるほど、新酒の中取りってことか、紛らわしい(笑)。
因みに香りはフレッシュでライチやメロン、軽い香ばしさ。吟醸香はしつこくなく、味も適度なコクと甘みと酸、極微炭酸の刺激。フルーティーさにはウイスキーのフェロモン系のトロピカル香にも共通するニュアンスがあり、思わず笑顔になってしまう味わいでした。
うん、これはもう一本購入したいです。

キリン シングルグレーン 富士 46%

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SINGLE GRAIN WHISKEY 
FUJI 
The gift from Mt. Fuji 
700ml 46% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後半年程度
評価:★★★★★★(6)

香り:ややドライだが、エステリーでオレンジ系のアロマ、モンブランや渋皮煮を思わせるクリーミーな甘さと程よくビターなウッディネス。ほのかにえぐみもあるが、バランスよくまとまっている。

味:グレーンのメローなフレーバー、軽い穀物感を伴うスムーズながら重みのある口当たり。キャラメルソース、オレンジママレードや果実のペースト。フィナンシェや香り同様に栗の洋菓子を思わせるフレーバー。余韻は染み込むようなウッディさ、キャラメルソースを思わせる苦みがじんわりと染み込むように残る。

あくまでもグレーンウイスキーであるが、スコッチグレーンとバーボンの中間にあるようなフレーバーを持つ、複雑でリッチな構成。口内で広がる甘くビターな樽香、熟成によるフルーティーさ、グレーン由来の甘み、そして微かな植物感。独特の美味しさと個性を楽しめる。ストレート、またはお湯割りがオススメ。

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今年3月にキリンからリリースされた、グレーンタイプウイスキー2銘柄のうちの1つ。
低価格帯の「陸」は酒販のみならず、その辺のスーパーやコンビニでも見かける流通量でしたが、「富士」のほうはプレ値を除くと、発売当初は中々店頭で見かけませんでした。
そんなわけで、まずは試しに陸をテイスティング・・・すると、思った以上に良かった、というか面白かった。これはますます富士も試してみたいなと。後日、Amazon酒販で普通に売っていることに気が付き、ちょうどポイントもあったのでポチってみました。

結論から言えば、この富士も良かったです。
富士御殿場蒸留所では、ライト、ミディアム、ヘビーの3タイプのグレーン原酒を作り分けていることで知られていますが、富士はこの3種のグレーンをブレンドして造られています。
香味からは、重みのある穀物香を伴うフレーバーから、特にヘビータイプグレーンの味わいが真っ先に思い浮かぶ構成。ただし、熟成に使われた樽がバーボンバレル、つまり新樽から数えるとリフィル樽に当たることや、ライト、ミディアムタイプのクリーンで、エステリーな仕上がりの原酒も合わさって、バーボンに見られる強いウッディさやセメダイン系のニュアンスを控えめに、バランスよく仕上がっているのです。

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(今回のリリースを飲んで、まず思い浮かべたのはこの1樽。富士御殿場のヘビータイプグレーンと言えば、各ウイスキーイベントのキリンブースで、樽から直出しで提供されていた試飲サンプルを連想する愛好家も多いのではないだろうか。)

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(富士と陸の違いは、海外原酒を使っているかどうかに加えて、原酒の熟成感も大きい。陸が手を入れて飲むことを前提としているのに対して、富士はストレートで飲むことを前提としているようにも感じられる。また、同メーカーからリリースされている、富士山麓シグネチャーブレンドとの共通項もある。)

個人的に、グレーンウイスキーの味は嫌いではないのですが、時折ボトラーズからリリースされるスコッチタイプのものは、香味が単調であまり飲み進みません。
若いものは奥行きがなく薄っぺらい、熟成したものはソフトな口当たりから、コクとメローな甘さがあるものの単調さが否めない。グレーンはグレーンでもバーボンは香味にメリハリのあるものが多く、好んで飲みますが、スコッチタイプは途中で飲み飽きてしまうのです。
ホント、たまにハーフショットくらいで良いかなぁって。

ところが、この富士は違和感無く飲み進められます。
バーボンにも通じる穀物由来の風味の重さだけでなく、香味も多層的で、それでいて特徴でもあるメローな味わいもしっかり。グレーンウイスキーの中でも、バーボン、カナディアン、スコッチタイプの中間点、あるいは良いとこ取りと言えるような構成。シーグラム社の影響を強く受けたキリンらしさというか、同社のグレーン原酒の作り分けが生み出したオリジナル、文字通り”キリンシングルグレーン”だと感じる仕上がりなのです。



また、陸と富士、安価で良質なグレーンが手に入りやすくなったことで、ウイスキーライフに新たな選択肢が生まれたとも感じています。
先日公開された、Liqulの記事”Re-オフィシャルスタンダードテイスティングVol.9”でもまとめさせていただきましたが、その一つが「自分でブレンドを作る」ことです。

2020年のオフィシャルリリースを通じて、富士と陸に「これは面白い」と感じた理由でもあります。
ブレンドにおいてグレーンの存在を整理すると、陸はどちらかと言えば引き算寄りのグレーンですが、富士は足し算のグレーンです。
陸を多く入れるとまとまりやすい一方で、モルトの個性が薄まりドライな香味になっていきます。一方で、富士は少量ならモルトと調和しますが、多く入れるとモルトの風味と喧嘩してごちゃごちゃした味わいになってしまいます。

今回の2銘柄がターゲットとしているのは、ウイスキー初心者というよりも、ある程度ウイスキーに親しみ、自宅でウイスキーを複数本所有して楽しんでいるような消費者層です。
つまり趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家であるわけですが、そうした方々は間違いなくシングルモルト、シングルカスクのウイスキーを持っているはずで、そこにキリンからのニューリリース2銘柄が加わることで、ブレンドの面白さ、奥深さ、そして難しさも楽しめるようになるのではないかと感じています。それこそ、先に触れたグレーンの使い分けでバランスが取れたときの味わいは、単に飲みやすいだけではない、異なる個性のウイスキーとなるほどです。

モルトに比べ、そこまで高額なリリースでもないので、是非色々な使い方でウイスキーを楽しんでほしいですね。

グレンマッスル No,6

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GLEN MUSCLE 
No,6 "Nice Bulk!!" 
Most Muscular Edition 
Blended Islay Scotch Malt & Highland Malt Whisky 
Aged 24 to 29 years old 
Distilled 1991 & 1996 
Bottled 2020.10.30 
Selected, Blended by Team GLEN MUSCLE with Y,Yahisa 
Bottled by NAGAHAMA Distillery 
700ml 46.1%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
場所:自宅
評価:★★★★★★(6)

香り:オーキーで華やか、トップノートはエステリーでパイナップルや洋梨の果肉、焼き菓子の甘さと香ばしさ。微かに人工的な黄桃シロップ、長期熟成を思わせる角のとれたウッディネス。奥には古典的な麦芽香もあり、時間と共に馴染んでくる。

味:香り同様にオーキーで、黄色系のフルーツソースとほろ苦くナッティーな麦芽風味。アタックは度数相応で柔らかいが、存在感のあるリッチな味わい。奥にはケミカルなニュアンス、若干枯れた要素の混じる古典的なモルティーさ。
余韻はフルーティーさに混じる微かなピート、土っぽさ。ビターなフィニッシュがじんわりと染み込むように続く。

華やかでほろ苦い樽香、熟した果実のフルーティーさと、オールドモルトを思わせる古典的なモルティーさの競演。熟成した原酒ならではの質感、香味の奥行きも特徴の一つ。さながらエステリー&モルティー、あるいは伝統と革新か。同じ90年代蒸留の原酒でありながら、異なる個性が混ざりあい、ボトルやグラスの中での多層的な香味の変化が長く楽しめる。
ブレンド向け輸入原酒(バルク)は質が劣るという潜在的先入観を覆す、まさに「ナイスバルク!!」という掛け声を贈りたい。

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VATTED SCOTCH GRAIN WHISKY 
With GLEN MUSCLE No,6 
Aged 38 years 
Distilled 1982 
Bottled 2020 
30ml 54.3% 

GLEN MUSCLE No,6 24年 + 1982グレーン原酒(38年) ※グレーンを5%程度ブレンド。
今回のリリースに付属する、グレーン原酒をブレンド。
主となるフレーバー構成はほぼ同じだが、2つの原酒の個性に繋がりが生まれ、全体を包み込むような甘味がバランスの良さに繋がっている。このグレーンの働きは”繋ぎ”であり、洋菓子にかけられたシロップ、あるいは寿司の醤油といったところか。香味に一体感をもたらすだけでなく、ボディの厚みが増し、キャラメルのような香味は黄色系のフルーツとマッチする。ゆったりと楽しめるウイスキーへと変化する。


長濱蒸溜所からリリースされた、グレンマッスル第6弾。ブレンデッドモルトウイスキーです。※一般販売は長濱浪漫ビールWEB SHOPで12/1 12:30~
ここまでシリーズが続くと、前置きの必要はないと思いますので多くは触れませんが。グレンマッスルは、ウイスキー愛好家が求める「美味しさだけでなく、尖った魅力や面白さのあるウイスキー」を、愛好家がウイスキーメーカーと協力(リリースを監修)して実現するシリーズです。
原酒は国内外問わず、方式もシングルカスクからブレンドを問わずであり、特にブレンドの場合は原酒の選定、レシピ作りから関わるのもこのシリーズの特徴と言えます。

今回は長濱蒸留所が保有する輸入原酒の中から、熟成年数の長いものを中心にリストアップ。実際にテイスティングし、モルト、グレーン合わせて10種類以上の原酒の中から、29年熟成のアイラモルトと、24年熟成のハイランドモルト、2蒸留所の原酒が選定されました。
アイラモルトは華やかさとナッティーなフレーバー、独特の土っぽさのある古典的な麦芽風味。魅力的な要素が強くありましたが、ボディの軽さがネック。一方で、ハイランドモルトは少し特徴的な風味がありつつも、フルーティーでボディも厚い。
どちらも一長一短な個性を持っていましたが、その場で適当に混ぜたところ、お互いの良い部分が強調されたことから、この2つで進めたいと、リリースの方向性が決まったのです。

その後、2種類の原酒における最適なブレンド比率を模索するため、長濱蒸留所でブレンダーも務める屋久さんと、複数のレシピで試作を実施。最後は直感、ブラインドで投票を行って、リリースレシピを決定しました。
なお、原酒の選定時、ある方針を巡って激しい協議(物理)もあったとかなかったとかなのですが、それはリリースの狙いにも関わってくるので、後ほど説明します。

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(ブレンドレシピの選定風景イメージ。ブレンドは原酒を混ぜてからの時間経過でフレーバーが変わるため、当初想定とは異なる結果になり、改めてブレンドの難しさを認識。)

リリースコンセプトとして、今回のグレンマッスル的な魅力、面白さは2つあります。
1つは「熟成感」。そしてもう1つが「ブレンド」、グレーンの重要性です。

近年、若い原酒のリリースが増えてきています。長熟原酒枯渇のボトラーズリリースもそうですが、蒸留所側も、ニューメイクの段階で雑味が少なく柔らかい味わいの原酒を作り、3~5年でそれなりに飲めるというリリースが、特に新興勢を中心に見られるようになりました。またアメリカでは、科学の力で熟成期間を大幅に短縮するという取り組みまで行われています。

こうしたリリースに共通するところとして、樽感は強く、わかりやすく付与されているものの、原酒そのものと馴染んでいなかったり、あるいは奥行きがなくフレーバーの幅が少ないという傾向があります。
そんなリリースはダメだと、否定するものではありません。それにはそれの良さがあります。例えば樽由来の香味を捉えやすく、フレーバーの理解に繋がるだけでなく、成長の余地があることから、その先の姿をイメージして楽しむことも出来ます。

一方で、熟成した原酒の良さとは何か。口当たりの質感もさることながら、フレーバーの幅、奥行きと言いますか。一つの要素からどんどんテイスティングワードが広がるような、軸のある複雑さだと、自分は考えています。若い原酒でも複数の樽感を足し合わせることで後付けの複雑さを出すことも出来ますが、ともすると化粧の厚塗りをしているようになり、熟成によって得られた複雑さとは違うものになってしまうのです。

今回のリリースに使われている樽はアメリカンオーク、ホグスヘッドタイプです。
同系統の樽構成でありながら、香味で連想するフレーバーの種類が多く、ただウッディなだけではない、柔らかくも存在感のある”熟成感”を備えた香味の広がりを、感じていただけるのではないかと思います。


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(マッスル6にグレーンを後追いで追加。しっかりと樽感、香味のあるグレーンなので、追いグレーンの場合はハーフショットなら1ml程度で十分。スポイトがない場合は、ストローや小振りのスプーンで代用できる。)

そしてもう一つのコンセプトが、先に述べたように”ブレンド”です。
今回のリリースには、1982年蒸留、38年熟成のグレーン原酒が付属しています。
販売ページでは特に説明していないので(非売品扱いなので)、手元に届いて「なにこれ」となるかもしれませんが、このグレーンには、グレンマッスルNo,6に加えて頂くことで、ブレンドにおけるグレーンの重要性、違いを体験できるという狙いがあります。

実は原酒選定の際、このグレーンも候補にあり、グレンマッスルNo,6をモルト100%にするか、ブレンデッドウイスキーにするか、メンバー間で意見が別れました。
ブレンデッドモルトには原酒由来のフレーバーの分かり易さや、リリースとしての特別感があり、一方でグレーンをブレンドした際の全体としてのバランスの良さ、完成度の高さも捨てがたいものでした。

近年のブレンドに使われるグレーンは、ともするとモルトの香味を引き算してバランスを取るものですが、このグレーンは足し算、全体を底上げするような働きがあります。
激しい協議の結果、リリースはブレンデッドモルトで行われることとなりましたが、長濱蒸留所のご厚意で、購入者がブレンドできる”追いグレーン”を付属して貰えることとなりました。
これが、小瓶としてついてくる、1982グレーン原酒です。

飲んでいる途中で味変に使用する。あるいは小瓶を用意して、事前にグレーンを混ぜて馴染ませて、比較テイスティングして楽しむ。。。これまでのリリースにはなかった楽しみ方じゃないかと思います。
また、ウイスキーを注文して、加水用の水が出てくるBARは多くありますが、グレーンが出てくるってのも斬新ではないでしょうか(笑)。
なお、このグレーンはかなり香味のしっかりしたグレーンなので、加えるのはハーフショットに1ml程度で充分です。
馴染ませる場合はもう少し加えても大丈夫ですが、入れすぎるとグレーンが勝ち過ぎてしまうので注意が必要。。。そうした変化も飲み手の遊び心として、楽しんで貰えたらと思います。

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長濱蒸溜所とは、今年2月にリリースされた第2弾”Shiagatteruyo!!”に続くタイアップ、リリース監修となりました。そして2020年に予定されている、最後のリリースとなります。
新型コロナウイルスの感染拡大という難しい状況かつ、蒸留所としてはシングルモルトリリースに向けても多忙を極めるなか、我々メンバーの要求への柔軟な対応に加え、上述の追いグレーンをはじめ多くのご厚意を頂きました。

ですが、そのおかげで愛好家から見てワクワクするような、美味しいだけではない要素に富んだリリースに仕上がりました。
今回のリリースは決して安価ではありません。原酒価格の高騰から、マッスルシリーズで初の20000円OVERとなってしまいました。故に、手にとって頂いた皆様にも感謝であり、それに見合う価値、美味しさや楽しさを感じて頂けたら幸いです。

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2020年にリリースされたグレンマッスルシリーズは、構成原酒含めて計6本。まさかここまで続くとは思いませんでした。
メーカー、ユーザー問わず本当に多くの愛好家によって支えられたシリーズだと思います。
そして来年も、我々の旅は続きます。。。

Thanks to Glenmuscle officicals and lovers.
See you Next Muscle.




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余談1。
今回のラベル、どこかで見たことがあるという方も居ると思います。
1つは過去の偉大なリリースで、もう一つはスコットランドのどこかで・・・です。
前者についてはお察し頂くとして、後者はウイスキー愛好者でスコットランド・スペイサイド地方を旅行した人にとっては、一度は目にしているのではないかという、有名な(?)標識がベースになっています。
写真は、先日カレンダーの紹介もさせていただいた、K67さんから頂きました。
どこにあるか、現物をGoogleMAP等で探してみてください。


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余談2。
このシリーズから、Eclipseの藤井さんがシードル醸造所設立、創業のためチーム活動を休止されています。
以前から計画は聞いていて、でもシードルって言っても、ガレージみたいなとこで少量から作るんでしょ?、ビール的な感じで。。。と思ってましたごめんなさい、先日公開された外観写真を見て震える規模でした。
日本にはまだ馴染みの少ないシードルですが、リンゴそのものは日本の食文化に根付いており、生産量も多くあります。ジャパニーズウイスキーならぬジャパニーズシードル、良いですね。是非理想とするシードルを造られ、お店で飲める日を楽しみにしています!!


補足:グレンマッスルのリリースにあたって。
少しでも手に取りやすい価格でコンセプトに合致したリリースを実現するため、我々チームメンバーは監修料、及び販売に伴う金銭的な利益の一切を得ておりません。またメンバー個人が必要とする本数についても、販売元から通常価格で購入しております。

ローガ ブレンデッドグレーン 51年 1964-2016 51.5%

カテゴリ:
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ROGHA 
Blended Grain Scotch Whisky 
Aged 51 years 
Distilled 1964 
For Scotch Malt Sales 
700ml 51.5% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:不明
場所:BAR Eclipse 
評価:★★★★★★(6)

香り:メローで重みのある香り立ち。色の濃い蜂蜜やべっこう飴、ほのかにオレンジの皮、柿のペーストのような植物感も伴う甘みと、艶のあるウッディさ。

味:マイルドで粘性のある口当たり。香り同様に色の濃い蜂蜜や穀物を思わせる存在感のある甘み、しっかりとしたウッディネス、木材系の要素が中間から感じられる。
余韻は単調気味だが、べったりと張り付くようなグレーンの甘みから、さらさらとして、軽くドライなフィニッシュへと変化する。

マイルドでメロー。樽感が適度な重みとして感じられ、長期熟成だからこその熟成感やウッディネスも備わった美味しいグレーンだが、結局のところグレーンであるがゆえにその枠を出ない。飲みやすい反面、好みの問題も大きい。加水するとシャバシャバになりやすいので注意。


スコッチモルト販売がリリースしているオリジナルブランドのハイエンド、”ローガ”シリーズ。長期熟成にこだわったシリーズであり、かつてはスプリングバンクやロングモーンなど有名人気蒸留所の40年熟成以上の原酒が名を連ねていました。
一方、近年はスコッチモルトの原酒枯渇と高騰で、ブランドの維持も難しくなってきており、モルトではなくグレーンのリリースが行われるようになってきています。

今回レビューするのは2016年にリリースされたローガの長熟グレーン。昨年2018年には46年熟成のものもリリースされました。
複数蒸留所のグレーン原酒をブレンドしたグレーン100%のブレンドという位置付けで、原酒構成は明らかにされていませんが、半世紀を越える熟成期間のグレーンのみが使われている珍しい仕様。そしてカスクストレングスで50%オーバーの度数や、外観も熟成期間のわりには濃くなく美しい琥珀色で、なんともそそるスペックです。

一方、グレーンはモルトと異なり短期間の熟成でも仕上がりやすい反面、香味の幅が似通って大味で、熟成での延び幅が少ない傾向があります。マイルドで蜂蜜やバニラを思わせる柔らかい甘みと穀物香。そこに樽由来のウッディーさがどれだけ出るか。
飲み口やボディーの柔らかさ、粘性のようなコクは、モルトと合わせるブレンデッドでは繋ぎとして重要な要素になりますが、香味の部分はどれだけ熟成させてもグレーンのまま。本質的な部分に変化が現れづらく、あくまでも”そこそこ”止まりなのです。

従って、今回のブレンデッド・グレーンもあくまでグレーン。スコッチブレンドのような多彩さではなく、むしろ10年単位の期間同じ樽のなかで混ざっていたような”一体感”すら感じる構成。グレーンにしては重く、熟成感はあるのですが、個人的にはコレジャナイ感がぬぐえません。
バーボンは素晴らしいと思うものがいくつもあるのに、同じような分類のグレーンは高まらない不思議。どこかに突き抜けたグレーンがあれば、一度飲んでみたいものです。。。

ポートダンダス 52年 1964-2017 スペシャルリリース 44.6%

カテゴリ:
PORT DUNDAS
Single Grain Scotch Whisky
Aged 52 years
Distilled 1964
Bottled 2017
Cask type Refill American Oak Hogsheads
700ml 44.6%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後数日程度
場所:Y's Land IAN
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:上品なチャーオーク香、メープルシロップやバタースコッチ、ほのかにオレンジや熟したパイナップル。コクのある甘いアロマが柔らかく広がる。

味:スムーズでクリーミーな甘みが感じられる。バニラ、穀物のグリッツ、洋菓子やハニーブレッド。濃厚で綺麗なバーボンのようであるが、中間から余韻にかけてやや単調気味でもある。
余韻は樽香主体でウッディだが、ほのかにアロエ、サトウキビのような植物的アクセントもあり、ドライで長く続く。

半世紀を超える熟成でありながら、クドさの少ない熟成感が味わえるグレーンウイスキー。香りには甘みだけでなく樽由来と思しき果実香がアクセントとなっている一方、味は甘露であるが少々単調気味。しかしディアジオらしいナチュラルな樽づかいが、この熟成年数でもブレないのは流石の一言。


ポートダンダスは2009年(ウイスキーマガジン誌の記録では2010年)に閉鎖された、グラスゴー近郊の丘の上にあった、グレーンウイスキー蒸留所。MHDの資料によれば、ホワイトホースのボトリング設備(こちらは現在も稼働している模様)にあり関係が深かったとのことで、確かに地理的にもアイラ島から原酒の海輸が可能で、本土流通の要として関係が深かったというのも頷けます。

また、過去には20年熟成のポートダンダスがスペシャルリリースシリーズからリリースされましたが、このリリースは新樽、バーボン樽、シェリー樽で長期間追加熟成された原酒でバッティングされており、強めの樽感が特徴としてあったところ。今回のように一気通貫でアメリカンオークのリフィルホグスヘッドのリリースは、樽材の関係からバーボン寄りのテイストですが、自然な樽感の中に酒質の味わいがメインで楽しめるのがポイントとも言えます。

まあ個人的にはグレーンウイスキーの香味は何年熟成しても何樽でもグレーンはグレーン、というイメージもあるのですが、今回のボトルのような主張の強く無い単一樽での長期熟成が作り出す、マイルドでメローな味わいは個性の一つと言え。ウイスキーに馴染みがない方から愛好家まで、広く楽しめるのも強みかなと感じています。 

参照:Lost Distilleries ポートダンダス蒸留所 Whisky Magazine

さて、ディアジオ傘下のグレーンウイスキー蒸留所では、現在フル稼働中で"帝国の心臓"とも言われるキャメロンブリッジが有名。しかし今回のポートダンダスに加え、1993年に閉鎖したカンバスなども規模の大きなグレーンウイスキー蒸留所だったようです。
跡地を調べてみると、ポートダンダスはディアジオ関連のオフィスが一つあるだけで、後は目立った設備はなく更地になった後に再開発が行われています。
まあ主要都市グラスゴーのシティーセンターから1マイルちょっとの立地ですから、当然と言えばそうなのかも。

一方、カンバスはというと、敷地内は大量の貯蔵庫が並ぶ設備へと変貌を遂げており・・・その近くにはスペイサイドクーパレッジまで。そう、先日別な記事でも紹介した、同社集中熟成庫の一つと思しき設備となって現在に至っています。
自分の推測に過ぎませんが、かつては物流速度などの制約から、消費地の近くにブレンド、ボトリングのための設備が必要だったものの、技術が発達した現代は状況が異なり、一箇所集中の方がむしろ管理はしやすくなる。効率化の結果が見えるようでもあります。

こうした大規模蒸留所の跡地を調べると、思いがけず「この設備は何?」というものが見つかったりで、ネットが発達した現代だからこその楽しみだなと感じています。

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