ロッホローモンド ピーテッド シングルグレーン カフェスチル 46%

LOCH LOMOND
PEATED SINGLE GRAIN
COFFEY STILL
700ml 46%
評価:★★★★★★(6)(!)
香り:ピーティーでフローラルな(パフューム香ではない)柔らかいバニラ香、奥から柚子やレモンピールのような柑橘、微かに針葉樹を思わせるハーバルなアクセントも。複層的でスモーキー、フレッシュな要素も顔を出すが、若い原酒に由来する嫌味な要素は少ない。
味:香り同様柔らかい口当たり。合わせて広がるピートスモーク、洋梨の果肉のような緩いフルーティーさ、香り同様の柑橘感。余韻は柔らかいスモーキーさとビター、モルティーな甘みを舌の上に残して穏やかに消えていく。実に飲みやすい。
久しぶりに驚かされた1本。香味のベースはグレーン味(バーボン系統の香味)かと思いきやそうではなく、モルトウイスキーのそれでありながら、口当たりは柔らかく、質感はグレーンの柔らかさ、クリーミーさを受け継いでいる。また、蒸留方法の影響か、味はそこまで複雑ではないが、若さやネガティブな要素も少なく、溶け込んだピートフレーバーがバランス良く薫る。ピートは50PPMとのことだが、体感では10〜20程度といったところで、そこまで主張しない。
異色のグレーン。しかし内陸系ピーテッドモルトの一種と整理しても申し分ないクオリティがある。様々な可能性を秘めた1本。コストパフォーマンスも良好である。

ロッホローモンドのオフシャルラインナップの一つ。本国では2020年に、日本国内では2021年3月2日から販売されています。
“ピーテッドグレーン”ってどういうことなの?
穀類乾燥させるときにピートを焚いたの?
と、ラベルを見た瞬間は混乱しましたが、調べてみるとピーテッドモルトを連続式蒸留器で蒸留した、ニッカのカフェモルトのような大麦原料のグレーンウイスキーであり、既製品のロッホローモンド・シングルグレーンの姉妹品に該当するようです。
同蒸留所には、玉ねぎ型の通常のポットスチルに加え、ネック部分の仕切りで酒質の調整が可能なローモンドスチル、カフェスチル、連続式蒸留器(コラムスチル)と、4種類の蒸留器が稼働するだけでなく、樽工場まで自社に備えています。多様な原酒の作り分けに加えて、分業制が一般的なスコットランドでは非常に珍しい、モルトとグレーンの蒸留が可能な唯一の蒸溜所※であり、近年大きな成長を遂げていることでも知られています。
※樽工場を持つ蒸留所は4社、連続式蒸留器までもつ蒸留所はロッホローモンドのみ。


(蒸溜所外観(写真上)と、ロッホローモンドに導入されている蒸留器4タイプ(写真下:ロッホローモンド蒸留所WEBページより引用))
これら4種の蒸留器のうち、モルトでは画像左2種類のスチルを使ってインチマリン、ロッホローモンド、インチモーンとフルーティーなタイプからピーティーなタイプまで、様々なモルト原酒の造り分けが行われている一方。右側2種類のカフェスチル、連続式蒸留器でブレンデッドウイスキー用のグレーン原酒づくりも行われています。
今回のリリースは、2007年に導入されたカフェスチルでピーテッドモルトを連続蒸留したもの。同蒸留所においてカフェスチルは、主にモルトの蒸留に用いられているそうです。連続蒸溜は香味成分のないクリアなスピリッツが取れるという印象でしたが、これだけピートフレーバーは残るんですね。
稼働時期から原酒の熟成年数は長くて12年強となるわけですが、今回のリリースは樽感が淡く、ウッディさも主張しないので、例えばリフィルのバーボンバレルで7〜8年程度と少し若いものかと予想。ただし若いからえぐみがあるとか、粗いとか、そういうタイプではなく、ピートフレーバー含めて非常に柔らかく、クリーミーであり未熟感も少ない仕上がりとなっているのが蒸留方法の違いであるように感じられます。
また、ロッホローモンドなら「濡れたダンボール」「ユーカリ油」と言ったような個性的なフレーバーの存在が気になるところですが、これも若さ同様に抑えられています。あるのはモルトの素直な甘みと柔らかいスモーキーさ。まさに良いとこどり。
姉妹品のシングルグレーン(以下、画像)については、同様の柔らかさがあって飲み始めの人等にはオススメである一方、個人的には複雑さという点で少し物足りなさも覚えるところ。今回のリリースでは、その物足りなさをピートフレーバーが補っているのです。

「ピーテッドグレーン」というネーミングには面食らいましたが、個性の強い部類に入るロッホローモンドの原酒の中で、グレーン原酒の特性から決して長熟でもないのにこのまとまり具合、そしてこの飲みやすさ。「なるほど、こういうのもあるのか」と、香味以外に造り方も含めて大きな可能性を感じた1本でした。
っていうかこれで3500円ですから、コスパも文句なし。同じ価格でピーテッドモルト買ったら、もっと粗い仕上がりのリリースがほとんどです。
ストレート以外にハイボールなど様々な飲み方でも試してみたい。あるいは、この原酒をブレンドに使ったら・・・、今までにない新しいキャラクターにも繋がりそうです。バルクで入れて国内で使えないかなぁ…例えば長濱のブレンデッドに使ったら絶対面白いし、酒質の柔らかさとしてもマッチするはず。これは都光さんの仕事に期待したいですね。


今日のオマケ。コスパの良さと、スペックでの驚きが共通点。
手取川 限定中取り純米大吟醸 特醸あらばしり 2020BY
味は文句なし。ですが、あらばしり(荒走り)は日本酒を絞る際に最初に出てくるお酒で、中取りはそのあと出てくるお酒。つまりこのスペックが同時に存在することは無いと思うのですが、どういうことなの?と。。。
ウイスキー仲間経由で調べてもらったところ、このあらばしりは、荒ばしりではなく、新酒を意味する新走りのことではないかと。なるほど、新酒の中取りってことか、紛らわしい(笑)。
因みに香りはフレッシュでライチやメロン、軽い香ばしさ。吟醸香はしつこくなく、味も適度なコクと甘みと酸、極微炭酸の刺激。フルーティーさにはウイスキーのフェロモン系のトロピカル香にも共通するニュアンスがあり、思わず笑顔になってしまう味わいでした。
うん、これはもう一本購入したいです。