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【咲グラス】ウイスキーをストレートで楽しむための最適なグラスづくり

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ウイスキーのブラインドテイスティングで定期的に競い合い、ライバルとも言っていい関係にあるシズタニエンこと静谷和典氏から「オリジナルグラスが出来上がったので、使用感を教えて欲しい」と連絡頂き、そのサンプルを使わせいただきました。

今回のオリジナルグラスの構想、出発点はハイボールでウイスキーに慣れ親しんだ人たちに、さらにウイスキーを楽しんで貰うにはどうしたらいいか。
ウイスキーの個性を全面に打ち出したカクテル「ウイスクテイル」や、ウイスキーをストレートでフードとペアリングする「ウイスキーニコラシカ」など、バーマンならではのアイディアを形にしてきた静谷さんが、純粋にウイスキーそのものを、つまりウイスキー単体をストレートで楽しんでもらうためのツールとして打ち出したのが、オリジナルテイスティンググラス「SAKI(咲)グラス」でした。


咲(SAKI)グラス
製造:非公開(国内にて職人のハンドメイド)
設計・監修:静谷和典

※咲グラス先行販売サイト:https://ideamarket.yomiuri.co.jp/projects/whisky-glass2022
9月15日(木)午前0時から、100脚分が先行販売されます。(酒販店や百貨店等で通常販売も調整中とのこと。)

グラスの製作エピソードやこだわりの数々は、上記URL先のクラウドファンディングサイトにまとめられています。
自ら手吹でグラスを作った経験、既存テイスティンググラスの分析、3Dプリンタを使った試作の数々、そしてブランド化する上での戦略…コロナ禍という苦境の中、休業という普段は生まれなかった時間を使った挑戦。
素直に凄いなと、同年代でここまでやれるのかと、ただただ感服する内容となっています。

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さて、当ブログでは咲グラスの使用感や、色々使ってみた上で見えてきた特性、ウイスキーのジャンルとの相性に焦点を当ててまとめていきます。
エピソードをあらためて紹介するのも良いですが、どういう性能のグラスなのか、実際に使用した印象を知りたい人が大半だと思いますので。。。
で、どうだったかというと。ウイスキーの良い部分を引き出し、親しみやすくする。まさに「ストレートでウイスキーを楽しむ」というコンセプトの通りのグラスだったのです。

香り:開かせて馴染ませる。各要素を引き出しつつ、特にウイスキーそのものが持つ麦芽や樽由来の甘さを引き立てて馴染ませることで、アルコール感を和らげる。

味:口当たりの部分がフィットするようにアーチを描いており、ウイスキーが抵抗なく口の中に導かれる。それによって口当たりが良く、アルコール感も穏やかに感じられる。

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相性:長期熟成から短熟、バーボンからスコッチ、あるいはラムやコニャックなど、多くの銘柄、ジャンル、仕様にマッチするオールマイティさが最大の魅力。
強いて言えば、甘さよりもクリアでシャープなピート香を楽しみたいようなアイラモルトは開かせる香味の傾向が異なるため、違うグラスを選びたい。また、香りが強い酒類に向いているため、香りがそもそも立たないような安ウイスキーは期待できない。40%台のブレンデッドよりは45%以上ある比較的個性のはっきりしたリリース(シングルカスクなど)に適正がある。
例えば、ジャパニーズクラフトで10年未満の高度数ウイスキーに対し、非常に良い仕事をしてくれる。

その他:全体としては適度な大きさで、ステムは細く、軽く仕上がっており、手に持った際に違和感が少ない(重量、70〜80g)。一方で、ボウルやリムは某社最高級ワイングラスのような薄さではなく、例えばケースに入れて自然に持ち運べる程度の耐久性が見込めるのも特徴と言える。

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以上が一般に使われている、ノーマルなテイスティンググラス、グレンケアン、国際規格グラス等と比較しながら、色々と飲み比べてみた使用感、感想です。特に初心者向けと見た場合ほとんどダメ出しするところのない、非常に良いグラスでした。

タイトルにある「ウイスキーをストレートで…」ひいては、ハイボールからのステップアップでウイスキーの個性をストレートで楽しんでほしいというコンセプトに対して、飲み慣れない人が敏感に感じ取る要素、飲みにくさに繋がる粗さ、アルコール感を軽減し、日本人が美味しさの基準にするといっても過言ではない「甘さ」を引き出す点が、グラスの特性として特筆すべきところです。

また、現在長期熟成の原酒が枯渇し、リリースも高騰しています。そのため、ウイスキーとしてテイスティングする機会が増えているのは、20年熟成未満のスコッチやアイリッシュ、5〜10年程度のジャパニーズ。バーボンは元々長期熟成の流通量が少なかったですが、全体的に甘みが弱くなり、ドライな傾向にあります。その他、コニャックやラムなどが代替品として注目されていますが、これら今後の市場の主力商品とも言えるジャンルの良さを引き出す事も、咲グラスに期待できる特性です。
静谷さんはこれを科学的に分析して作ったわけではなく、さまざまな試行錯誤の中で、自身の経験を交えて導き出した。バーマンであり、マスターオブウイスキーだからこその経験と知識、そして直感による作品とも言えるわけです。

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形状を分析すると、グラスのボウル(底)部分が同じサイズのものより大きく広がって、それがポットスチルに見られる形状のように一旦すぼまることで、香りを広げるスペースが作られている。
このスペースでは、香りのポジティブな要素もネガティブな要素も増幅されますが、そこから口をつけるリムにかけて口径が広がり、スペースから距離がとられていることで、アルコール感が拡散し、まとまって鼻腔に届かないような構造であることが伺えます。

これが例えば、上の写真中央にある、卵の上部分をすっぱり切ったような… 自分がよく使っている木村硝子のテイスティンググラス0番や、さらに飲み口が窄まっている形状のものだと、香りの良い部分も悪い部分も、またアルコール要素が強く残って、飲み慣れた人向け、玄人向けのグラスになっていたのではないかと考えられます。

また、上の写真右側にある、Kyoto Fine Wine & Spirits さんのオリジナルグラスのような、液面から鼻腔までの面積と距離がある、大ぶりのグラスだったらどうなるか。
これはウイスキーの熟成感や奥行き、複雑さが試される構造になり、長期熟成ウイスキーは存分にその魅力を開かせる一方で、若いウイスキーには向かない形状になっていた。
つまり静谷さんが目指していた入門向けグラスとは異なるコンセプトになっていたわけで、こうして結果だけ見ると、これ以外に正解はないと思えるくらい、ダメ出しのしようがないグラスだったのです。

まあ、強いて言えば…香りを開かせる空間、変化の大きな形状が、最後の一口になるといつもの3割増しくらいでグラスを傾けないとウイスキーが口に入ってこない、というくらいでしょうか。。。口当たりについてはタリランド(写真左)のような構造で、ウイスキーがスッと口の中に入るのですが、機能面と造形面のバランスの問題で、難しい点なのです。
あんまり褒めすぎると、ステマ感が増してしまうのでイヤなんですけどね、正直このグラスには驚かされました。

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最近、ウイスキーグラスのリリースが増えてきて、さまざまな形状のものが誕生しています。
ただ、ウイスキーは1990年頃までは、ブレンデッドが中心の市場であり、そこから冬の時代を経て、2000年代に入ってシングルモルトが普及し始めた。
つまり飲みやすさ重視の時代から、個性を楽しむ時代が到来したのは直近10年程度のことであり、個性を楽しむ飲み方としてストレートが、ツールとしてテイスティンググラスが注目されるようになったのは、本当に最近のことなんですよね。

そしてその流れの中で、地域の特徴、品種の違い、テロワールと言われる要素を紐解くためにさまざまなグラスが造られたワインに倣って、多くのグラスが造られるようになっていくのは自然な流れであるように感じます。
ウイスキー業界におけるテイスティンググラスは過渡期にあり、今後はスタンダードなものから樽や度数、地域によってグラスの形状が確立していくのでは無いかと予想しています。

その中で、今回発表された咲グラスは、造り手と設計者の確かな知識、経験、技術によって作られる、ウイスキーの入門から応用まで幅広くカバーするオールマイティなテイスティンググラス。
グレンケアンに物足りなさを感じた人は、ぜひ一度手に取って、あるいは静谷さんのBAR(LI VET、Whisky Salon)で注文して、その違いを体感して頂けたらと思います。

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長崎 五島つばき蒸溜所 GOTOGIN 元大手酒類メーカー関係者が挑む 物語のあるクラフトジン

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突然ですが、自分は離島が好きです。
本土の港町や田舎とは違う、さらにゆったりと流れていく時間。周囲を海に囲まれていることで、隔離された空間が作る独特の雰囲気、景色。本土では望めない、ロマンに溢れた釣り場の数々。
大学時代はリゾートバイトで伊豆諸島に1ヶ月以上住み込みでバイトしたり、季節を問わず毎月1回は釣りにいったり、最終的には地元漁師の家に住み着いてもいました。

なので、「離島」というだけで親近感が湧く、パブロフの犬な心理を持っているのがくりりんです。
そして先日ブログ記事で紹介した飛騨高山蒸溜所の製造顧問、元キリンのチーフブレンダーである鬼頭英明さんとやりとりをしていた際に長崎・五島での計画を聞き、離島!蒸留所!!素晴らしい!!!と、離島愛が発動。
手始めに実施中のクラウドファンディングを勝手に応援させて頂くことにしました。

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世界遺産の島に蒸溜所を立ち上げ、クラフトジンづくりに挑戦!
https://readyfor.jp/projects/88266
※クラウドファンディング期間;2月28日〜4月25日11時まで


五島つばき蒸溜所は、酒類関連企業でお酒の製造販売・マーケティング等に関わってきた三人が、お酒本来の豊かさを持った「物語のあるお酒を作りたい」として設立中のクラフトジンの蒸留所です。
クラウドファンディングは既に終盤、目標金額を大きく越えた支援が集まっており、期待の大きさも伺えます。

場所は長崎県、五島市福江島、半泊(はんとまり)集落。
創業は2022年9月ごろ、製品出荷は同年12月ごろ。
設備はドイツ・アーノルドホルスタイン社製のジン専用蒸溜器。
造るジンはその蒸溜所名の通り、島の名産品である“つばき”をボタニカルの軸とし、島に湧き出る超軟水の湧水、ジュニパー、柑橘類などを使って仕上げられる予定です。

鬼頭ブレンダー曰く、正統派路線のジンだが、素材の個性を活かして膨らみと自然な濃縮感、飲み飽きることのないバランスのとれた美味しさ(ユニーク&ハーモニー)を目指すとのこと。
パッケージは同五島出身のアニメーション美術監督、山本二三氏が手掛けられ、内外ともこだわり抜いた個性を感じられる、まさに嗜好品たるクラフトジンが期待できます。

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五島つばき蒸溜所の代表である門田さん、ブレンダーである鬼頭さん、そしてマーケティング担当の小元さん。立ち上げを進めるキーマン3名は、実は全員がキリンビール社のOBです。約30年間同社に勤め、ウイスキー、ビール、酎ハイとさまざまなジャンルの酒類製造販売等に関わられてきた実績があります。

人生お酒一筋と言っても過言ではないリカーマンな方々ですが、なぜ少量生産のクラフトジンという、これまでの大量生産品とは真逆のお酒造りを選ばれたのか。
それは、大量生産大量消費の時代にあって、お酒が持つ物語や豊かさが失われてきているのではないかという意識から、自分達の手で“物語のあるお酒“を作り、それを通じて自分達が惹かれた場所の時間、空気、風景を共有したい。お酒にただ酔うのではなく、物語を含めて楽しんで欲しいと考えるようになり、今回のプロジェクトを立ち上げられたのだそうです。

これはあくまで個人的な推測ですが。
キリンビールで鬼頭さんが開発され、品質管理にも関わられていた大ヒット商品に”氷結“があります。
誰でも、手軽に、いつでも一定品質のお酒をの楽しめるというコンセプト。例えば、現代ではストロングゼロに代表されるように、純粋に効率よく「酔う」ことを目的とした安価なお酒は、それが悪いとは言いませんが、お酒そのものの背後にある物語は希薄だと言えます。
それこそ、原料の産地の話であるとか、造り手の想いとか、そういう景色が見えるかというと難しいでしょう。

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酒は嗜好品の部類ですが、嗜好品は効率じゃなく、こだわりの積み重ねだと思うんです。
私は直接お話を伺っていますが、クラウドファンディングのページを見るだけで、五島つばき蒸溜所に関わるメンバーが文字通りクラフトディスティラーとして、1本1本自分達のこだわりを込めたお酒を作りたい、という想いが伝わってきます。

では、「物語のあるお酒」としてどのようなジンを作ろうとしているのか。
それは長崎・五島にある「風景のアロマ」
・土地のアロマ(テロワール)
・素材のアロマ(個々のボタニカルの特徴)
・造り手のアロマ(ブレンダーの技術)
3つの要素をもって、飲む人にこの土地の魅力や、個性、お酒としてのおいしさを届けたいと言うこと。

具体的には、
五島の象徴といえる名産品の椿の種を炒って、挽いた上で蒸溜することで、深みのあるアロマとボディを生み出し。
水は現地の超軟水を用いて、その他ボタニカルについても素材毎に最適な蒸溜条件を見極め、個別に製法を切り替えることで、各個性を可能な限り引き出す。
それらを技術と実績のあるブレンダーが、個性を活かしながら調和させるブレンド行程を経て、物語のあるお酒へと昇華させていく。

五島の地には世界遺産に指定されるキリスト教祈りの地としての歴史があり、キーマン3名が惹かれた環境があります。
想いだけではなく、物語を育む魅力と歴史がその土地にあり、それらを紡ぐ確かな技術と実績があるからこそ目指せる、こだわりのクラフトジンづくりが今まさに始まろうとしているのです。

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日本では数年前にジンブームが到来し、酒造や焼酎等スピリッツメーカーが、クラフトジン市場に参入したという動きがありました。
その際、大半のメーカーでは和的な要素であるとか、個性的なスピリッツであるとか、あるいは地元の名物として植物のみならず動物的な何かまで、ジンという自由度の高いお酒にあって多種多様な原料を使った商品開発が行われたわけですが、個人的にはどこを向いているのかわからない商品も多数生み出された、という印象を持っています。

勿論、中には素晴らしいクラフトジンもありました。宮城の欅とか、西酒造の尽とか良かったですね。また、大手メーカーも参入し、日本のお酒市場に新しい選択肢が加わったのは事実です。
ですが、物事には守破離という考え方がある中で、何を守るかも定まらないうちから、なんとなく作れるからというような独創的なジンが造られ、一方でどう飲むのがオススメかと聞いても考えられていなかったり…。物語があるようで無い、造り手の好みなのか消費者の好みなのか、どこを向いて作っているのかわからないクラフトジンが、少なからずあったのも事実です。

その後、コロナ禍となりクラフトジンの領域では活発な動きが聞こえてこなくなっていましたが、今回、上述のように確かな造り手と深い想いによる、こだわりのジン生産計画を目にし、これは楽しみだと素直にワクワクしました。
冒頭述べたように離島愛がトリガーとなっていますが、それ以上に五島つばき蒸留所とキーマン3名が生み出すクラフトジンが楽しみでなりません。

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同蒸溜所におけるクラウドファンディングのリターンは、初回限定生産ジンのセット(10000円)から、蒸溜所に支援者のネームプレートを掲載するプラン、さらには100万円でオリジナルジンの生産というぶっ飛んだプランまであります。
流石に自分の財布から100万円は出せませんが、このブログの読者で自分だけのオリジナルジンに興味があるという方、支援しちゃっても良いんですヨ?

勝手に取り上げて勝手に応援しているだけの本記事ですが、自分にとってはこれもお酒が紡いでくれた縁の一つです。
いずれ福江島の海岸で、昼間はジンソーダを、夕暮れ時からはストレートやロックで、ゆるゆるやりながら1日を終える・・・そんな休暇を過ごしてみたいものです。
まあ、夕マヅメ時はグラスより釣り竿持ってる可能性が大ですけどね(笑)

クラウドファンディングのラストスパート、そしてそこから始まる蒸溜所創業に向けた準備、ジンづくり。是非ともこだわりの結実したお酒が出来上がりますよう、応援しております!

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飛騨高山蒸溜所 ロゴとプロジェクト体制を発表 クラファンはネクストゴールへ

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2022年3月25日、クラウドファンディングの立ち上げと共に、廃校を活用したウイスキー蒸留計画を本格的に始動させた岐阜県、舩坂酒造・飛騨高山蒸溜所。
クラウドファンディングは1日経たずに目標金額を達成し、約1週間で2000万円以上を集めなお支援が集まり続けている状況。そんな中、蒸留所予定地である旧高根小学校で、蒸留所のロゴの発表とプロジェクトチームメンバーによる記者会見が行われ、更に話題となっています。

※記者会見の様子はこちら(Youtube Live配信のアーカイブ)
https://www.youtube.com/watch?v=_Geu9vUb4SM

記者会見にはプロジェクトメンバーに加え、高山市長、旧高根小学校の校長先生ら学校関係者も参加されており、特に校長先生の気持ちがこもったお話は、LIVEで聞いていて思わず込み上げてくるものがありました。
会見の様子は上記URL先でアーカイブを視聴することが出来ますので、本記事で興味を持たれた方は是非ご参照ください。




■蒸留所のロゴについて
蒸留所のロゴは、東京オリンピック・パラリンピック2020のロゴを作成した野老朝雄氏が手掛け、注目を集めました。
ロゴデザインは、飛騨の”飛”をベースに、地元や世界との繋がりをイメージされたとのこと。また、将棋の駒である飛車としての意味もあり、縦横に動く駒による”繋がり”、勢いのある様や、将来的には竜と成って世界に羽ばたいてほしい、そんな意味も込められているそうです。

蒸留所のロゴはまさに蒸留所の顔です。
しっかりとコンセプトを込めて作る必要があるのはわかりますが、それにしてもすごい人に依頼したなと思ったのは私だけではないと思います。
有巣社長曰く、「たまたま知り合いだった」とのことですが、後述するプロジェクトメンバーにしても、はいよろしくと組める人達ではありません。それだけ、このプロジェクトが時間をかけて組成され、綿密な計画の元で動いていることがわかります。

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■飛騨高山蒸溜所プロジェクトメンバー


・プロジェクト実行者:有巣弘城(舩坂酒造)

・ロゴデザイン担当:野老朝雄

・製造顧問:鬼頭英明(元富士御殿場蒸留所チーフブレンダー、現五島つばき蒸溜所)

・総合アドバイザー:稲垣貴彦(若鶴酒造、三郎丸蒸留所)

・海外及びデジタル戦略(EC):中山雄介(元Amazon、楽天、現合同会社オープンゲートCEO)

・蒸溜所設計兼クリエイティブディレクター:平本知樹(株式会社woo 代表、空間デザイン専門家)

・販売兼マーケティングアドバイザー:下野孔明(T&T TOYAMA、モルトヤマ)

・蒸溜器製造:老子祥平(老子製作所)

※製造スタッフは、有巣さんを中心とした舩坂酒造のメンバーが担当します。

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いやぁ、どうですかこれ。
経験者や人材の限られたウイスキー業界において、ここまでスペシャリストを集めた立ち上げは前例がないと思います。
また、ここに記載されていない協力者も複数あります。地元の繋がりで言えば、例えばクラウドファンディングで木桶発酵槽のネーミングライツを購入した某地元企業など、更に広がります。その期待は、クラファンのリターンで実績のある三郎丸原酒のカスクオーナーより、まだ設備もない飛騨高山蒸溜所のほうに応募が集まったことからも明らかです。

ウイスキーは製造にかかるノウハウがある程度公開されており、外注した設備の導入が行われれば原酒を造ることは出来る状況にあります(勿論その出来の良し悪しはありますが)。しかし問題はそこから先で、それを管理し、ブレンドし、製品として国内外に販売していかなければなりません。

おそらく今後、多くのクラフト蒸留所で製造→販売→消費に至るまでの間にある”死の谷”を越えられるかが課題になってくるわけですが、それは現時点で事業化計画としてどれだけ明確なプランを打ち出せているか。具体的な体制が作れているかが重要になります。
その点、飛騨高山蒸溜所の体制は他のクラフトに比べて強力過ぎて、記者会見を見なければ現実味が無いとも思えてしまうほどです。改めて、有巣社長の人脈というか、繋がりの強さを感じた記者会見となりました。

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記者会見中は関連する質問が無く、どのようなウイスキーを目指すのかという点が深堀りされませんでした。個人的に伺ったところ、ZEMONの特徴を活かした、ふくよかでフルーティーなウイスキーを造っていきたいとのこと。
また、自分自身の力だけでなく、地元やプロジェクトメンバーの力を合わせて、飛騨高山から世界へ発信していけるようなウイスキーを造れればと、語られていたのが印象的でした。

飛騨高山蒸溜所は、その強力な体制に反して将来的に目指すウイスキーのビジョンが、他のクラフト蒸留所に比べると控えめなのかもしれません。例えば、三郎丸蒸留所のようにアードベッグ1974を目指すとか、厚岸蒸溜所のアイラモルト、あるいは嘉之助蒸留所の焼酎樽を用いた独自の個性とかですね。

ですが蒸留所予定地となっている旧高根小学校周辺の緑豊かな土地と、豊富で綺麗な水、秘境という言葉がしっくりくる場所は、熟成環境としても適しているように感じます。
何より、舩坂酒造の醸造に関する技術に加え、製造、ブレンド、販売において実績のある方々が加わったこの蒸留所が造るウイスキーは、間違いないだろうと確信すら覚えます。
じっくり焦らず、ウイスキーが熟成するのを待つように、この蒸留所が稼働し、原酒が生み出され、それと共にブランドが育っていくのも一つの形なのかなと思えてきます。

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※飛騨高山蒸溜所のクラウドファンディングが発表された3月25日は、15年前に旧高根小学校が閉校した翌日だった。止まっていた時間が動き出す、その一助となれたことがとても誇らしい。


■クラウドファンディングのネクストゴール
以上のように、蒸留所としての体制を発表した飛騨高山蒸溜所ですが、合わせてクラウドファンディングにおけるネクストゴール(3500万円で達成)を発表されています。
それが、同校庭(蒸溜所敷地内)に、桜並木を復活させるというものです。

※飛騨高山蒸溜所 クラウドファンディングページ
https://www.makuake.com/project/whisky-hida/

蒸留所となる旧高根小学校敷地内にはかつては多くの桜が植えられており、春になると満開の桜が子供たちを迎えていたそうです。現在その桜は学校前にかかる橋の建て替え工事に伴って無くなってしまっており、資料として写真が残されているのみ。これをもう一度復活させたいという、なんともクラファンらしい取り組みが計画されています。

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そんなのウイスキーと関係ないやん、と思われるかもしれませんが、飛騨高山蒸溜所ではウイスキーの蒸留だけでなく、校庭を活用したキャンプやアウトドア等、蒸留所そのものを体験型として、ウイスキーだけでなく飛騨高山の環境を楽しむことをコンセプトに設定しています。
流石にキャンプをする夏に桜の花はありませんが、同地域で桜が咲く5月頃に、花と新緑を愛でながら蒸溜所で熟成したウイスキーを1杯なんて最高ですよね。

なにより、同蒸留所のウイスキー事業は地域に活力を与えること、地域のプライドとなるブランドを創出することを目標としています。であるならば、その第一歩として、失われた桜の木が再びこの地に復活するというのは、心情的にも後押しとなる取り組みだと感じます。

現在の支援額は約3100万円(当記事公開時)。その主たるリターンの1つとして当初予定していた一口カスクオーナー制度は、応募が殺到したことで追加に追加を重ね、第3弾にまでなりました。
有巣社長に伺ったところ、もうこれ以上の追加はないそうです。
地元の期待を背にして、愛好家の期待にも後押しされ、動き出す飛騨高山蒸溜所のウイスキー事業。一応援者として、そしてクラウドファンディングの支援者として、その想いが形になる日が待ち遠しいです。


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※蒸留所となる旧高根小学校に残されている、当時の生徒たちによるお別れの落書き。これらは改修工事においては保護し、蒸留所となった後も残していくとのこと。

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※蒸留所の裏手、山から流れ出ている伏流水。高山市内を流れる清流も美しく、この豊かな水を使ってウイスキー造りは行われる。

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※高山の街並みと飛騨高山蒸溜所を創業する舩坂酒造。こちらは高山市内にあり、アクセスも良い。歴史を感じさせる外観、有巣社長の手により様々な商品開発や見学設備が整えられており、蒸留所見学と合わせて訪れたい。

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※ 舩坂酒造の代表的な銘柄である大吟醸 四ツ星
綺麗で洗練された品の良い香り。白色系果実の華やかさ、穏やかな酸。軽く程よい粘性が舌にからみ、雑味の無い旨みを感じるすっきりとした余韻。造り手自信の一本という評価も納得。

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※舩坂酒造、飛騨高山蒸溜所を操業するアリスグループは、高山市内に2軒の旅館を経営している。本陣平野屋花兆庵、本陣平野屋別館。どちらも気持ちのこもったおもてなしが素晴らしいと評判。蒸溜所見学の際は合わせて利用してみては。

飛騨高山蒸溜所の挑戦 ~クラフトウイスキーで狙う地域産業と観光業活性化~

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岐阜県高山市、いわゆる飛騨高山と呼ばれ、知られる地域に、岐阜県初の蒸留所建設計画が始動しました。
同計画の開始にあたり、クラウドファンディングが3月25日から開始。リターンには酵母別のニューメイクや、1口カスクオーナー等、魅力的なプランがあり、目標額は開始から数分で達成。ロケットスタートを決めて、今なお伸び続けている状態にあります。(ブログ公開時点で約1600万円)

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クラウドファンディングページ:
https://www.makuake.com/project/whisky-hida/


飛騨高山蒸溜所については、そのオーナーとなる舩坂酒造の有巣社長と以前から繋がりがあり、今回の計画についても事前に伺っていたところ。クラファンの実施に当たっては、応援コメントを含めてちょっとだけ協力させてもらっていました。

概要だけ列記しますと
・蒸溜所名は飛騨高山蒸溜所。現地にある廃校を改修して蒸溜所とする。
・ウイスキーのタイプはノンピートモルトがメイン。いずれ地元産の麦芽も使用したい。
・蒸留設備は、三郎丸蒸留所に導入されている国産の鋳造ポットスチルZEMON…もとい、製造者である老子製作所が、これまでの稼働データをもとに改修したZEMON(改)を軸とした設備。
・操業にあたってはT&T TOYAMAの稲垣氏と下野氏がコンサルを、そして元キリンのチーフブレンダーだった鬼頭氏が製造をサポートする。
・リニューアルした廃校は、ウイスキー製造のみならず、各種ウイスキー関連の「学び」を得る場として活用する、
・舩坂酒造を傘下とするアリスグループは市内に旅館を2軒営業するなど、旅館業としても現地と繋がりが深く、ウイスキーツアーの充実を狙う。
・高山市とも協力し、クラフトウイスキーによる地域産業の再興も推進する。(クラファンには、高山市長からのコメント有り)


という感じでですね…。
これまでウイスキー関連でのクラウドファンディングは色々ありましたが、ここまで調整されていて、実績と具体性のあるプランは見たことがありません。もし興味のある方は上記リンク先で、詳細を確認頂ければと思います。

有巣さんは自分と同世代、同い年。蒸留所のコンサルティングを手掛けるT&T TOYAMAの2人も同世代なんですが・・・本当に同じ時間を生きてきた人なんだろうかと、複雑な想いも感じてしまいました。
え、これ手を入れるところなんかあるの?と、プラン概要を見て突っ込んでしまったほどです。

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一方で、蒸留所の創業者となる企業については、ウイスキー愛好家の方々にはなじみがないと思うので補足をさせて頂きます。蒸溜所のオーナーとなり、創業者となるのは、同地で200年以上の歴史を持つ酒造「舩坂酒造」と旅館業を営むアリスグループです。

同社は元々高山市で飲食・旅館業を中心としていた企業ですが、代表である有巣氏は、紆余曲折あって2009年から事業承継した舩坂酒造を立て直し、地域の魅力を形成する一つの要素として飛騨高山の日本酒を盛り上げていこうと様々な取り組みを進められてきました。
※当時の詳細については、こちらの特集記事にまとめられています。

そんな中、飛騨高山にもっと魅力と活気のある産業を呼び込みたい。
観光資源の充実はもとより、地元産のモノが世界にから求められるような、飛騨高山のプライドとなる商品を造りたい。
新しいプランを模索していた際、若鶴酒造で三郎丸蒸留所が造るウイスキーに出会い、その可能性に感銘を受けたのだそうです。

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こうして始まったのが、今回の飛騨高山におけるウイスキー蒸留計画となります。
私自身、クラウドファンディングに寄稿させて頂いた応援コメントの通り、今回計画されている内容は実現性が高いと考えています。ZEMONにしても、廃校を用いたウイスキー造りにしても、協力体制が見込める先駆者の存在があり、サポートする人材と自社が持つ観光業等の基盤があり、決して無謀な計画とは思えません。

「ウイスキーは情熱があれば造ることはできる。しかし魅力的な商品を開発し、販路を開拓できるかは別次元の問題である。」というのは某蒸留所社長の言葉ですが、今回はコンサルティングを引き受けているT&T TOYAMAによる市場との繋ぎも期待できるだけでなく、製造面でのサポート体制も充実していると言えます。

また、先に触れたように同社は旅館業も営み、観光業という点で地域と深く関わっています。
モデルケースは秩父でしょうか。魅力的なウイスキーがあり、酒があり、環境があり、観光資源があり、日本中、世界中から人が集まり、地域経済の循環と外部からの流入が起こり、新しい産業が生まれ好循環サイクルにつながる。。。
その期待値は、クラウドファンディングの支援が集まるスピードを見れば明らかです。

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一部の愛好家の間では、既に創業が待ち焦がれる飛騨高山蒸溜所。それは三郎丸での実績から、ZEMONによって造られるまろやかで厚みのある酒質が、ノンピートスタイルでどのようなウイスキーに仕上がるかという期待に加え、同じポットスチル等設備を用いて、異なる環境で造られるウイスキーが、将来両者にもたらす相乗効果も期待されているということでもあります。

作り手の技量としては、舩坂酒造は日本酒業界では高い評価を受ける酒造の1つです。大吟醸四つ星等、同酒造の代表的な銘柄を飲みましたが、流行りの吟醸マシマシあるいはフルーティー系というよりは、雑味も少なく丁寧なつくりが伺える堅実な酒という感じで、高い技量も伺えました。
そしてウイスキー蒸留については、記載の通り心強いサポートが見込めるというのもあります。

こうした諸条件から、体制的にも製法的にも期待できると言える飛騨高山蒸溜所。
現時点でクラウドファンディングのリターンプランは、カスクオーナー制度と、ネタ枠だと思っていた木製発酵槽の名づけプランが24時間経たずに売り切れてしまいましたが、幸いなことに、愛好家向けプランとも言える1口カスクオーナー制度は一定数の枠がある状態です。

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飛騨高山の地は山間にあって、蒸留所が操業する廃校は更に山の奥のダムの傍という、隠れ家的な場所にあります。スコットランドで例えると、スペイサイド地域を思わせるような環境とも言えるわけですが、そこでZEMONで蒸留される厚みのある原酒が、熟成を経ていくことで仕上がる味わいが楽しみであるのは勿論。
今回のプランで面白いと思うのが、舩坂酒造のメンバーが三郎丸蒸留所でウイスキー研修を受けた際に蒸留した原酒を、飛騨高山蒸溜所に移して熟成するというもの。ノンピートとピーテッド、2つのプランがあるということで、三郎丸ファンにとっても激しく興味を惹かれるのではないかと思います。

本企画に小指の先くらい突っ込ませてもらった当方としても、飛騨高山蒸溜所の状況はもとより、これらの原酒の成長については可能な範囲でフォローできればと思いますが、例えば一口オーナーで高山に集って、ウイスキー祭り(あるいはオフ会)的な催しなんてやったら最高に楽しそうですよね。

夢のある話は、さらに夢が広がっていくもの。
ただそれを夢で終わらせないためにも、有巣さんをはじめ舩坂酒造の皆様には形になるエールを送りたい。
日本のクラフトウイスキー、世界が注目する領域に新しい挑戦が形になることを願って、本記事の結びとします。

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【経過報告】ハリーズ金沢 クラウドファンディング続報 (11月18日まで)

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ハリーズ金沢
〒920-0853
石川県金沢市本町1丁目3-27 2F
TEL:0762258830 
OPEN:2021年11月23日
SNS:https://twitter.com/TazimaKazuhiko

先日、当ブログで紹介させていただいた、ハリーズ金沢のクラウドファンディング。
無事目標額を達成し、支援額は現在350万円オーバー。ネクストゴール500万円に挑戦中です。

一方で、既に店舗は予定していた工事に着手しており、ハリーズ高岡時代は溢れにあふれていたボトル約1000本も、金沢店では綺麗にバックバーに配置完了。グランドオープン11月23日に向けて更なる準備を進めていくところとのことです。
(マスターの田島さん曰く、今後はバックバーにボトルはきっちり収納し、カウンター上はまっさらに保ちたいとのこと…本当に大丈夫でしょうか(笑))

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そういえば、前回の記事ではさわり程度しか紹介しなかったハリーズ金沢ですが、ただのBARではないんですよね。
1Fにはリカーショップ併設の、ステーキハウス「薪火三庵」がOPEN。このステーキハウスは、肉を焼く際、ウイスキー熟成後の樽材やミズナラ材等を使って焼き上げるとのこと。

樽材で肉を焼いたことはありませんが・・・、アウトドアでウイスキーかけながら焚火で肉を焼いたことはあり、独特の甘い香りと炭火とは違う焼き上がりが美味しかった印象があります。それを熟成ウイスキー樽材でやるということで、どんなアクセントになるのか楽しみです。

ちなみにクラウドファンディングは11月18日までであるところ、日程の関係で支援は今日までなんですが、マスターがネタに走った支援プラン「レセプションご招待プラン」があるんですよね。
T&Tの熟成庫建設クラファンの時に、おもてなしプランと高所作業車名づけ権がありましたが、要するにアレ。
何というか…こんなキャラじゃないのに…無茶しやがって(笑)

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 余談ですが、ハリーズと言えば三郎丸。
その三郎丸蒸溜所からシングルモルト第2弾、三郎丸Ⅰ”THE MAGICAN”の11月29日リリースが正式に発表されました。

前回のリリース、三郎丸0の仕込みは蒸溜所リニューアル直後の2017年。そこから比較して2018年は三宅製作所のマッシュタンを導入した仕込みの年で、ニューメイクをテイスティングした限り明らかに酒質が向上しており、当ブログでも「愛好家が三郎丸蒸溜所への評価を改める時が来た」と記事にした、その仕込みの原酒です。
前作も楽しみでしたが、それ以上に今年のリリースが楽しみにならないわけがないでしょうと。

販売方法は抽選で、前回の販売同様…いや、それ以上に難しいクイズが関門となっていますが。三郎丸ファンにとっては問題なく解ける内容かと思います。かくいう私も、リニューアル前から三郎丸を応援している一人で、もはや赤子の手をひねるような…すいません、1問ググりました、白状します。
益々熱を帯びる北陸のウイスキーシーン。金沢、富山、早く現地に行けるようになる日が待ち遠しいです。

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