【咲グラス】ウイスキーをストレートで楽しむための最適なグラスづくり
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ウイスキーのブラインドテイスティングで定期的に競い合い、ライバルとも言っていい関係にあるシズタニエンこと静谷和典氏から「オリジナルグラスが出来上がったので、使用感を教えて欲しい」と連絡頂き、そのサンプルを使わせいただきました。
今回のオリジナルグラスの構想、出発点はハイボールでウイスキーに慣れ親しんだ人たちに、さらにウイスキーを楽しんで貰うにはどうしたらいいか。
ウイスキーの個性を全面に打ち出したカクテル「ウイスクテイル」や、ウイスキーをストレートでフードとペアリングする「ウイスキーニコラシカ」など、バーマンならではのアイディアを形にしてきた静谷さんが、純粋にウイスキーそのものを、つまりウイスキー単体をストレートで楽しんでもらうためのツールとして打ち出したのが、オリジナルテイスティンググラス「SAKI(咲)グラス」でした。
咲(SAKI)グラス
製造:非公開(国内にて職人のハンドメイド)
設計・監修:静谷和典
※咲グラス先行販売サイト:https://ideamarket.yomiuri.co.jp/projects/whisky-glass2022
9月15日(木)午前0時から、100脚分が先行販売されます。(酒販店や百貨店等で通常販売も調整中とのこと。)
グラスの製作エピソードやこだわりの数々は、上記URL先のクラウドファンディングサイトにまとめられています。
自ら手吹でグラスを作った経験、既存テイスティンググラスの分析、3Dプリンタを使った試作の数々、そしてブランド化する上での戦略…コロナ禍という苦境の中、休業という普段は生まれなかった時間を使った挑戦。
素直に凄いなと、同年代でここまでやれるのかと、ただただ感服する内容となっています。

さて、当ブログでは咲グラスの使用感や、色々使ってみた上で見えてきた特性、ウイスキーのジャンルとの相性に焦点を当ててまとめていきます。
エピソードをあらためて紹介するのも良いですが、どういう性能のグラスなのか、実際に使用した印象を知りたい人が大半だと思いますので。。。
で、どうだったかというと。ウイスキーの良い部分を引き出し、親しみやすくする。まさに「ストレートでウイスキーを楽しむ」というコンセプトの通りのグラスだったのです。
香り:開かせて馴染ませる。各要素を引き出しつつ、特にウイスキーそのものが持つ麦芽や樽由来の甘さを引き立てて馴染ませることで、アルコール感を和らげる。
味:口当たりの部分がフィットするようにアーチを描いており、ウイスキーが抵抗なく口の中に導かれる。それによって口当たりが良く、アルコール感も穏やかに感じられる。


相性:長期熟成から短熟、バーボンからスコッチ、あるいはラムやコニャックなど、多くの銘柄、ジャンル、仕様にマッチするオールマイティさが最大の魅力。
強いて言えば、甘さよりもクリアでシャープなピート香を楽しみたいようなアイラモルトは開かせる香味の傾向が異なるため、違うグラスを選びたい。また、香りが強い酒類に向いているため、香りがそもそも立たないような安ウイスキーは期待できない。40%台のブレンデッドよりは45%以上ある比較的個性のはっきりしたリリース(シングルカスクなど)に適正がある。
例えば、ジャパニーズクラフトで10年未満の高度数ウイスキーに対し、非常に良い仕事をしてくれる。
その他:全体としては適度な大きさで、ステムは細く、軽く仕上がっており、手に持った際に違和感が少ない(重量、70〜80g)。一方で、ボウルやリムは某社最高級ワイングラスのような薄さではなく、例えばケースに入れて自然に持ち運べる程度の耐久性が見込めるのも特徴と言える。

以上が一般に使われている、ノーマルなテイスティンググラス、グレンケアン、国際規格グラス等と比較しながら、色々と飲み比べてみた使用感、感想です。特に初心者向けと見た場合ほとんどダメ出しするところのない、非常に良いグラスでした。
タイトルにある「ウイスキーをストレートで…」ひいては、ハイボールからのステップアップでウイスキーの個性をストレートで楽しんでほしいというコンセプトに対して、飲み慣れない人が敏感に感じ取る要素、飲みにくさに繋がる粗さ、アルコール感を軽減し、日本人が美味しさの基準にするといっても過言ではない「甘さ」を引き出す点が、グラスの特性として特筆すべきところです。
また、現在長期熟成の原酒が枯渇し、リリースも高騰しています。そのため、ウイスキーとしてテイスティングする機会が増えているのは、20年熟成未満のスコッチやアイリッシュ、5〜10年程度のジャパニーズ。バーボンは元々長期熟成の流通量が少なかったですが、全体的に甘みが弱くなり、ドライな傾向にあります。その他、コニャックやラムなどが代替品として注目されていますが、これら今後の市場の主力商品とも言えるジャンルの良さを引き出す事も、咲グラスに期待できる特性です。
静谷さんはこれを科学的に分析して作ったわけではなく、さまざまな試行錯誤の中で、自身の経験を交えて導き出した。バーマンであり、マスターオブウイスキーだからこその経験と知識、そして直感による作品とも言えるわけです。

形状を分析すると、グラスのボウル(底)部分が同じサイズのものより大きく広がって、それがポットスチルに見られる形状のように一旦すぼまることで、香りを広げるスペースが作られている。
このスペースでは、香りのポジティブな要素もネガティブな要素も増幅されますが、そこから口をつけるリムにかけて口径が広がり、スペースから距離がとられていることで、アルコール感が拡散し、まとまって鼻腔に届かないような構造であることが伺えます。
これが例えば、上の写真中央にある、卵の上部分をすっぱり切ったような… 自分がよく使っている木村硝子のテイスティンググラス0番や、さらに飲み口が窄まっている形状のものだと、香りの良い部分も悪い部分も、またアルコール要素が強く残って、飲み慣れた人向け、玄人向けのグラスになっていたのではないかと考えられます。
また、上の写真右側にある、Kyoto Fine Wine & Spirits さんのオリジナルグラスのような、液面から鼻腔までの面積と距離がある、大ぶりのグラスだったらどうなるか。
これはウイスキーの熟成感や奥行き、複雑さが試される構造になり、長期熟成ウイスキーは存分にその魅力を開かせる一方で、若いウイスキーには向かない形状になっていた。
つまり静谷さんが目指していた入門向けグラスとは異なるコンセプトになっていたわけで、こうして結果だけ見ると、これ以外に正解はないと思えるくらい、ダメ出しのしようがないグラスだったのです。
まあ、強いて言えば…香りを開かせる空間、変化の大きな形状が、最後の一口になるといつもの3割増しくらいでグラスを傾けないとウイスキーが口に入ってこない、というくらいでしょうか。。。口当たりについてはタリランド(写真左)のような構造で、ウイスキーがスッと口の中に入るのですが、機能面と造形面のバランスの問題で、難しい点なのです。
あんまり褒めすぎると、ステマ感が増してしまうのでイヤなんですけどね、正直このグラスには驚かされました。

最近、ウイスキーグラスのリリースが増えてきて、さまざまな形状のものが誕生しています。
ただ、ウイスキーは1990年頃までは、ブレンデッドが中心の市場であり、そこから冬の時代を経て、2000年代に入ってシングルモルトが普及し始めた。
つまり飲みやすさ重視の時代から、個性を楽しむ時代が到来したのは直近10年程度のことであり、個性を楽しむ飲み方としてストレートが、ツールとしてテイスティンググラスが注目されるようになったのは、本当に最近のことなんですよね。
そしてその流れの中で、地域の特徴、品種の違い、テロワールと言われる要素を紐解くためにさまざまなグラスが造られたワインに倣って、多くのグラスが造られるようになっていくのは自然な流れであるように感じます。
ウイスキー業界におけるテイスティンググラスは過渡期にあり、今後はスタンダードなものから樽や度数、地域によってグラスの形状が確立していくのでは無いかと予想しています。
その中で、今回発表された咲グラスは、造り手と設計者の確かな知識、経験、技術によって作られる、ウイスキーの入門から応用まで幅広くカバーするオールマイティなテイスティンググラス。
グレンケアンに物足りなさを感じた人は、ぜひ一度手に取って、あるいは静谷さんのBAR(LI VET、Whisky Salon)で注文して、その違いを体感して頂けたらと思います。
