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ボウモア No,1 “OUR No,1 MALT” 40%

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BOWMORE No,1
OUR No, 1 MALT 
Maturing in FIRST FILL BOURBON CASKS
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)

香り:穏やかでスモーキーな香り立ち。塩気を伴う磯っぽさがトップにあり、そこからグレープフルーツを思わせる柑橘香、微かにバーボンオークの華やかさが混じる。また、若い原酒にあるような、麦芽の焦げたような香ばしさと粘土のような香り、ドライな刺激も潜んでいる。

味:序盤は水っぽく感じるような口当たりの緩さで、広がりは弱い。徐々にオイリーな質感。ほろ苦い麦芽風味とピート、ボウモアらしいグレープフルーツの綿を思わせるフレーバー、土っぽい香りがピートスモークと共に鼻腔に抜けていく。余韻は穏やかでピートスモークの残滓が残るが、主張は強くなく短い。

粗さの残る若い原酒を、バーボン樽で味付けして加水で少々強引に整えた万人向け仕様。もう少し広がりや主張が欲しいところだが、こちらから拾いに行くとボウモアに求めているフルーティーさ、バーボン樽の個性はちゃんと感じられるので、悲観する味わいではない。また、若い原酒であるためか、アイラ的な要素がはっきり残っているのも面白い。
オススメは何と言っても濃いめのハイボール。最近流行りの強炭酸水を使って少量でも刺激が残るように仕上げれば、ボウモアフレーバーを楽しめる夏向きの1杯が出来上がる。ハイボール用なら12年よりこちらを購入する。がぶがぶ飲んでいきたい。

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日本では2018年から発売されている、ボウモアのノンエイジ仕様。12年よりも低価格帯に位置付けられており、グレード的には以前スモールバッチとしてリリースされていたものの後継品ではないかと思われます。
また、似た名前のものとして、ハイプルーフ仕様のBowmore Vaults Edition No,1 がリリースされており、後継品と勘違いされているケースも見られますが、これは別系統のリリースとなります。

構成は1st fiillのバーボン樽熟成原酒が100%。比較的若い原酒を中心にバッティングされているものの、加水が上手く効いており、若さや近年ボウモアに見られる紙っぽさなど、ネガティブなフレーバーは気にならない仕上がりです。勿論、テイスティングでも触れた通り、加水が悪い部分を目立たなくさせた反面、ボウモア+バーボン樽という組み合わせから期待するだけのフルーティーさや、香味の勢いもトーンダウン。言うならば一般向け量産品かつ凡庸なウイスキーです。

ただ、フィルタリングはそこまで強く行われていないのか、量産品であっても決して無個性というわけではなく、ボウモアらしさに繋がるフレーバーは残されています。ストレートでは物足りないし、少し分離感もありますがハイボールなら問題なし。考えてみると、がぶがぶ飲みたいこれからのシーズンには悪くないボトルなんじゃないかと。
ベースの味はボウモアで、物足りなかったら、ボトラーズリリースのシングルカスクをちょっとフロートしてもいい。さながらジャケットはちゃんとしたブランドのものを着て、肌着、パンツはユニクロみたいな組み合わせ。普段飲みに何気に使い勝手の良いボトルです。

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さて、最近のボウモアの傾向と言えば、この銘柄に見て取れるように、熟成庫No,1 VAULTS推しのブランド戦略があります。以前からボウモアのエピソードの一つとして語られていましたが、2016年にリニューアルされて以来、通常リリース全てにNo,1 VALUTSの表記が見られるなど、一層強くアピールされるようになりました。

No,1 VAULTSはボウモア蒸溜所のシンボルとも言える、白壁にBOWMOREと書かれた海辺に建つ第一熟成庫のこと。現行品の白地のラベルは、この壁をイメージしたデザインであるともされています。
ただし、白壁は熟成庫ではなくただの倉庫で、隣接する1つ奥のスペースにある建物がNo,1 VAULTSだという話もあります。実際、熟成庫の入り口は上の画像中央に見える黒い扉ではなく、一つ内陸側の建物にあるので、そこを見ての話かと思いますが、熟成庫は地下に造られているため、建物の下で壁側(海側)まで繋がっているのかもしれません。

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(ボウモア蒸溜所周辺の航空写真。建物の形状、大きさ、位置関係等がわかりやすい。画像引用:https://canmore.org.uk/collection/1056623)

このブランド戦略には、蒸溜所の個性、ハウススタイルとの紐づけを、熟成環境によるものとしてアピールする狙いがあると言えます。潮気、磯の香りと言ったアイラ的な要素は、天候によっては海面が迫り、波が打ち付ける環境にあると整理すると、なるほどと思えるところはあります。
しかし、この手のフレーバーの由来については諸説あり、ピートや水等の原料由来であるとするほうが現実的であることから、個人的に熟成環境説には懐疑的です。また、写真を見てもわかる様に第一熟成庫はそこまで大きくなく、世界的に販売されているボウモア原酒全てを熟成できないという点もあります。

第一熟成庫というくらいなので、ボウモアには他にも熟成庫があります。蒸溜所から少し離れた丘の上(写真、黄色枠箇所)に並ぶ倉庫的な建物がそれ。積極的にPRされることはなく、外観にはボウモアのボの字もなく。。。敷地の隅に古びた小さな看板が確認できるのみ。つまり、昨今のリリースではごく一部の原酒が第一熟成庫から払い出され、名もなき熟成庫の原酒がバッティングされているのでしょう。
現実的な話をすると、この距離であれば熟成環境の違いは無いに等しく(第一熟成庫のほうが半地下なので、多少涼しいくらい)、香味の面で全く別物の原酒が混ぜられているなんてことにはなりません。しかしブランドの戦略として、あくまで第一熟成庫の原酒を(も)使ったと、そういう説明になっていくのだと考えます。

ウイスキー製造現場で、熟成庫が異なる場所にあるのは珍しいことではありません。某大手メーカーのように、蒸溜所とは全く違う場所や環境にある集中熟成庫で貯蔵して「海からの贈り物」的な説明がされるようなウイスキーと比較したら、蒸溜所近郊で熟成されているだけ良心的とも言えます。要するに説明の仕方、ブランド戦略と実態の話なんですよね。
(出荷する前に、丘の上から第一熟成庫に移してきて、1日経ったら払い出して第一熟成庫産なんてオチではない限り…w)

最近、サントリーは”シングルモルトの歩き方”という初心者向け情報誌と、スコッチウイスキーのセット販売を始めたようで、きっとこのNo,1 VAULTSについて知る人も増えてくるのでしょう。
この記事で触れた内容は、重箱の隅のような話かもしれませんが、広告から興味を持って、ある時触れられてない実態を知る。そのうえで興味をなくすか、そういうもんだと割り切るか、さらに興味を持つか。。。自分にとっての好きの形は何かを考えていくのが、嗜好品愛好家の歩む道なのかもしれません。
自分は結局ウイスキーは好きですし、ボウモアも好きですよ。

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ゲゲゲの鬼太郎 ハイランドパーク 15年 & ウィリアムソン 5年 for 東映アニメーション音楽出版

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GEGEGE NO KITARO
ORKNEY SINGLE MALT & BLENDED MALT WILLIAMSON 


先日、ウイスキー繋がりの知人Sさんから、このウイスキーを飲んで感想を教えてほしいとリクエストがありました。なんならブログ掲載用にボトルごと貸すからと。コロナもあって最近BARに行けてないので、これは本当にありがたい。二つ返事で了承し、ボトルをお借りしました。

モノは、東映アニメーション音楽出版さんが信濃屋さんの協力でリリースしたウイスキー2本。どちらも蒸留所表記がありませんが、オークニーモルトはハイランドパーク、ウィリアムソンはラフロイグのティースプーンモルトと思われます。
自分は同漫画の作者である、水木しげる氏が長く住まれた東京都調布市に所縁があり、何かと目にする機会も多かったところ。今回のリリースについても情報は知っていましたが、こうしてテイスティングできる機会を頂けるのは、これも縁というヤツかもしれません。

今回、Sさんからは
・蒸留所について、ハウススタイルから見てこのボトルはどう感じるか。
・熟成樽は何か(どちらもHogshead 表記だが、フレーバーが大きく異なる)
・ウィリアムソンの”澱”

この3点について、感想を頂きたいとのリクエストを頂いています。
特に”澱”はモノを見るのが一番だと、ボトルごと送って下さったようです。蒸留所については先に触れた通りですが、頂いた質問への回答を踏まえつつ、まずはこれらのリリースをテイスティングしていきます。

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KITARO 
Distilled on Orkney 
”HIGHLAND PARK” 
Aged 15 years 
Ditilled 2004 
Bottled 2020 
Cask type Hogshead "Refill Sherry"
700ml 63% 

香り:淡くシェリー樽由来の香ばしい甘さを伴う、微かにサルファリーな香り立ち。焙煎した麦やコーヒーを思わせる要素、奥に蜂蜜のような甘みと腐葉土の香りがあり、時間経過で馴染んでいく。

味:口当たりはパワフルで樽由来の甘さ、麦芽の香ばしさをしっかりと感じる。香り同様に乾煎りした麦芽、シリアル、シェリー樽に由来するドライオレンジやメープルシロップ、そして徐々にピーティーなフレーバーが存在感を出してくる。余韻はビターでピーティー、微かに樽由来のえぐみ。度数に由来して力強いフィニッシュが長く続く。

借りてきた直後はサルファリーな要素が若干トップノートに出てきていたが、徐々に馴染んで香ばしい甘さへと変わってきている。使われた樽はリフィルシェリーホグスヘッドと思われ、樽に残っているエキスが受け継がれ、濃厚ではないがバランス寄りのシェリー感。ストレートではやや気難しいく、ウッディなえぐみもあるが、加水すると樽由来の甘み、フルーティーさ、そしてピート香が開いてバランスが良くなる。これはストレートではなく加水しながら楽しむべき。
ハイランドパーク蒸留所のハウススタイルは、ピートとシェリー樽の融合。それを構成する原酒の1ピースとして違和感のない1樽。

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NEZUMIOTOKO 
WILLIAMSON "LAPHROAIG" 
Blended Malt Scotch Whisky 
Aged 5 years 
Ditilled 2011 
Botteld 2017 
Cask type Hogshead "Bourbon"
700ml 52.5% 

香り:しっかりとスモーキーで、淡くシトラスやレモングラスのような爽やかな柑橘香に、アイラモルトらしい潮気、海辺を連想させる要素も伴う。

味:短い熟成期間を感じさせない口当たりの柔らかさ、オイリーなコク。ピートフレーバーには乾燥させた魚介を思わせる要素に、バニラや淡くオーキーなフルーティーさ樽由来のオーキーなフレーバーも感じられる。余韻はスモーキーでほろ苦い、ソルティーなフィニッシュが長く続く。

BLENDED MALT表記だが、所謂ティースプーンなので実質的にラフロイグと言える。蒸留所のハウススタイルと、ポテンシャルの高さを感じる1本。若いは若いのだが、若さの中で良い部分がピックアップされており、未熟要素は少なく素直な美味しさがある。加水すると香りはより爽やかに、ラフロイグらしい柑橘感を後押しする淡いオークフレーバーと、薬品を思わせる含み香が開く。ストレート、加水、ハイボール、好きな飲み方で楽しみたい夏向きの酒。

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以上のように鬼太郎はハイランドパークで、樽はシェリーホグスヘッド(恐らくリフィル)。
ねずみ男はラフロイグで、樽はバーボンホグスヘッド。通常、ホグスヘッド表記だとバーボンのほうを指すことが一般的なので、鬼太郎ボトルは珍しい仕様と言えます。

続いて質問事項の一つだった、ねずみ男の”澱”ですが、写真の通り、確かにすごい量が入ってますね。
ウイスキーの澱と言われるものは大きく2種類あり、1つはボトリングをする際、樽の内側が崩れて黒い粉として入り込むケース。通常はフィルタリングするため除外されますが、リリースによってはわざと入れているのではないかというくらい、シェリー樽だろうがバーボン樽だろうが、一定の量が必ず入っているものもあります。

もう1つは、保存環境の寒暖差からウイスキーの成分が固形化したり、樽から溶け出た成分が分離して生じるものです。先の”黒い粉”よりも粒が細かく、ふわふわと舞い上がる埃のような感じになり、例えるならクリームシチューを作っていて分離してしまった乳成分のようなモノ。
今回のリリースは、加水していないのに度数が52%まで下がっています。熟成を経て度数は変動するものですが、一般的なバレルエントリーは約64%で、そこから5年で10%以上低下しているのはかなり早い。樽の内部で何か特殊な変化があったことが予想できます。
また、ボトリング時期が2017年で、2020年のリリースまで約3年間ボトリングされた状態で保管されていたことを考えると、その間に何らかの変化があったとも考えられられます。

飲んだ印象としては、これらの合わせ技によって発生した澱であるように感じますが、灰を被ったようなこの特殊な仕様は、今回のラベルである”ねずみ男”とマッチしている点が興味深いですね。
香味についても、Williamson=ラフロイグと言える個性はもとより、若い原酒ながらフィルタリングをしていないことによる厚みと複雑さ、そしてボトリング後の時間経過によって熟成年数らしからぬ落ち着いた感じもあり、なかなか面白い1本に仕上がっていると思います。

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一方で、鬼太郎のハイランドパークは、先に触れたように珍しいラベルの表記なのですが、仕様としても珍しいと言えます。
それは近年のハイランドパーク蒸溜所はオフィシャルリリースにはシェリー樽を、ボトラーズリリースにはバーボン樽を融通する傾向があると言われているため。バーボン樽熟成のボトラーズリリースはいくつか市場に見られますが、シェリー樽のほうは貴重なのです。(それでいて、63%という樽詰め度数からほとんど下がってない高度数設定も、ボトラーズだからこそと言える珍しい仕様です。)

熟成のベースは、比較的ピート香が強い原酒が用いられたようで、樽由来の甘くビターな香味が強くある中でもしっかり主張してきます。
ハイランドパーク蒸溜所では、オークニー島で採れる麦芽やピート以外に、スコットランド本土のもの、あるいは試験的にですが古代品種の麦芽やアイラ島で採れるピートを使った仕込みも行われているなど、様々なタイプの原酒を仕込んでいる蒸留所です。中でもシェリー樽の甘みとピート由来のスモーキーさは、ハイランドパーク蒸溜所の”らしさ”、ハウススタイルを形成する重要な要素です。

今回のリリースに使われたのはリフィルシェリー・ホグスヘッド樽であると考えられるため、濃厚なシェリー感ではありませんが、近年のオフィシャルリリースに見られる味わいと同様の要素があり、以前何度か飲んだシングルカスクのプライベートボトル(以下、画像参照)に通じる一本だと感じました。

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話は少しそれますが、かつてボトラーズリリースは、オフィシャルリリースと同等の完成度、あるいはそれ以上の美味しさを併せ持つ個性的なウイスキーを、当たり前のようにリリースしていました。
一方、昨今は長期熟成の原酒が枯渇。合わせてシングルモルトがブームになり、オフィシャル各社がブランドを拡充すると、ボトラーズメーカーへ提供する原酒の量が減少し、今まで当たり前だったものが当たり前にリリースされることはなくなりました。
現代のウイスキー市場では、オフィシャルリリースは総合的な完成度と無難な美味しさを、ボトラーズリリースは原酒の個性と面白さを、そこには必ずしも美味しさは両立しないという住み分けになっており、ステージが完全に切り替わっています。

そうした中、ボトラーズ各社や酒販メーカーが今までと異なる視点、価値を持たせたリリースを企画するようになり、今回のような一見するとウイスキーとは関係ない、異なる文化との融合もその一つです。
かつてイタリアのMoon Import社がリリースしていた”美術品シリーズ”に共通点を見出せる発想とも言えますが、今回のボトルは漫画とのコラボという異文化融合ラベルでありながら、バックバーにあっても違和感のないデザインを心がけたとのこと※。確かに、他社からリリースされているコラボ品に比べて、落ち着いた配色、シンプルなデザインとなっています。
※参照:ip-spirits(ウイスキー販売) |

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長々と書いてしまったので、最後にまとめと言うか雑感を。
私をはじめとして愛好家視点では、ゲゲゲの鬼太郎とウイスキー?なんで?と、そういう疑問が先立つところがあるんじゃないかと思います。
鬼太郎達が住んでいる場所が、上の写真のオークニー諸島やアイラ島のような、牧歌的で、それでいて不毛の大地にあるかと言うとちょっと違う気もしますが、スコットランドの蒸留所にはケルピーなどの精霊やゴーストの伝承は数多くあります。
そういう”伝承”など現地のエピソードを絡める発信があると、リリースそのものにも違和感がなくなってくるのかもしれません。あるいは国産蒸留所とのコラボとかですね。付喪神、八百万の神、百鬼夜行、日本ではその手の話題に事欠きませんから。

一方で、中身は先にまとめたように、
ハイランドパークは王道というか、ハウススタイルの1ピースを切り取ったような味わい。
Williamson(ラフロイグ)は蒸溜所のポテンシャルと、ボトラーズリリースらしい面白さ。
ボトルをお借りしたということで、1か月間くらいかけてテイスティングしましたが、ハイランドパークはその間も刻々と瓶内での変化があり、ラフロイグは最初から最後まで安定していました。

ゲゲゲの鬼太郎は漫画として長い歴史を持ち、今なお親しまれる漫画ジャンルのベストセラー。来年は水木しげる氏生誕100周年にあたり、映画も制作中のようで、今回のリリース含めて今後話題になっていきそうです。一方、両蒸留所もまたスコッチモルトの中で長い歴史を持ち、高い人気があるものです。その点を繋がりと考えれば、蒸溜所のチョイスも繋がりが見えてくる…か。
個人的にアニメラベル=色物のような第一印象があったことは否定できませんが、カスクチョイスは信濃屋さんということで、ボトラーズリリース受難の中にあっても、面白いカスクを持ってくるなと、楽しんでテイスティングさせて頂きました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。ボトルは今度オマケをつけてお返ししますね!

※本記事に使用した「Photo by K67」表記のある写真は、ウイスキー仲間のK67さんが撮影されたものを提供頂きました。サイトはこちら

アードベッグ レアカスク 1998-2020 Cask No,50 For Benjamin tan 56.5%

カテゴリ:
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ARDBEG RARE CASK 
Benjamin Tan's Private Collection 
Aged 22 years 
Distilled 1998 
Bottled 2020 
Cask type American Oak Refill Cask (6 years old), 2nd fill Sherry Cask (16 years old) 
Cask No,50 
700ml 56.5% 

暫定評価:★★★★★★★★(7-8)

香り:トップノートはリッチでふくよかな甘みを伴うシェリー香。ただべたつくような甘さではなく、コーヒーを思わせるアロマティックな要素や、レーズンや無花果等のダークフルーツ、林檎のカラメル煮などフルーツの甘酸っぱさも含んでいる。合わせて落ち着きのあるピートスモーク、ほのかに鰹節っぽさも伴う複雑なアロマ。

味:粘性のある口当たり。色濃いウッディさ、香り同様のリッチなシェリー感が、存在感のあるピートスモークを伴って広がる。香りと異なり、味はピートが優位。ダークフルーツジャムのようなシェリー感を底支えにして、アイラピートのスモーキーさ、カカオチョコを思わせるほろ苦さが余韻にかけてしっかりと広がる。
余韻は焦げた木材、鰹節、そしてほのかな薬品香を伴う特有のスモーキーフレーバーが、甘いシェリー香を伴って長く続く。

樽次第では、近年でもこういうものを作れるのか。古き良き時代を彷彿とさせるような、シェリー系のアイラモルト。甘酸っぱく赤黒系のフルーティーさのあるシェリー感に、どっしりとしたスモーキーさ。余韻にかけてアイラ系の要素、アードベッグと思える風味。微かに溶剤ような異物感が混じったが、全体的には良質なシェリー感とピート感で楽しめる。例えるなら1975年のオフィシャルシングルカスクリリースを、現代の材料で可能な限り再現したと言えるようなクオリティである。素晴らしい1杯。

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ありえないなんてことはありえない。不可能を可能にする方法は存在する。
香味もさることながら、リリースまでの流れにも、それを感じる・・・・・そんな貴重なボトルのサンプルを頂いていたので、今さらながらレビューさせてもらいます。

そもそもアードベッグ含め、ディアジオ(グレンモーレンジ含む)関連のオフィシャルで、PBをリリースするのは不可能と言われてきました。今回はシンガポールの酒販 Whisky Journey代表であるBenjamin Tan氏が発起人となり、有志を募ったうえでカスクを購入。有志はインポーター・酒販としても活動する方々であり、日本からは、Kyoto Fine Wine & Spiritsを経営するOjiさん、Nagataさんが名を連ねています。
こうした経緯から、本ボトルは形式的にはBenjamin Tan氏個人のプライベートコレクションとなりますが、実質的には。。。ということで、ここ最近まず日本には入ってこなかったアードベッグのオフィシャルシングルカスクが、国内市場でも発売されることとなったのです。


今回のボトル、特筆する要素はリリース経緯だけでなく、香味にもあります。
近年のシェリー樽熟成モルトの大多数は、近年シェリーとして分類されるシーズニングによる独特の風味があり、1970年代前半、あるいは1960年代蒸留のモルトに見られたフレーバーがほぼ失われているのは、周知のことと思います。
このシーズニングシェリー系のフレーバーが不味いとは言いません。突き抜けない代わりに安定しており、ちょっと前まであったシェリー酒そのものが混じったような椎茸フレーバーや、爆発するような硫黄感など、トンデモ系は本当に少なくなりました。

一方で、愛好家が求めてやまない、赤黒系のフルーティーさ、独特の艶やかな、妖艶なニュアンスをもったリリースも少なくなっています。
これは、トンデモ系の樽が確変を起こしたということではなく、玉石混合だった中で”石”のクオリティを近年のシーズニングシェリー樽が引き上げたこと。一方で数の限られている”玉”は安定して出回らないため、オフィシャルリリースに回す樽をシーズニングシェリー樽にシフトしたことが背景に考えられるわけですが、本リリースのシェリー感は”玉”に該当するモノであり、愛好家からすれば90年代でこの味はありえない、と思えたことを実現しているのです。

リリースされたカスクは、グレンモーレンジのビル・ラムズデン博士が、試験的に熟成していた3樽のうちの1つ。
・リフィルアメリカンオーク樽で6年
・2ndフィルオロロソシェリーバットで16年
という熟成スペックが紹介されていますが、どちらもセカンドフィルでありながら、まるで1st fillの樽で熟成したかのような濃厚さです。
余程スペシャルな樽で熟成したかのように感じますが、一体どんな素性なのか。。。ここからはラムズデン博士がなにを実験しようとしたのか含め、考察したいと思います。


歴史を紐解くと、1998年は、アードベッグ蒸留所がグレンモーレンジに買収され、再稼働した次の年。有名なリリースでは、ベリーヤングからルネッサンスまで続く、10年リリースへの旅に使われる原酒が仕込まれた年です。
ですがこの時点では、今回の原酒は明確な意図を持って樽詰めされた訳ではなかったと考えます。

2015年、アードベッグの200周年リリースが行われた年。ウイスキーマガジンのインタビューでラムズデン博士は樽の質の低下に触れると共に、「この10年間、アードベッグで様々な実験をしてきた。実験をした樽のいくつかはキープしてある」という話をしています。
今回の樽がその一つとするなら、実験の意図は最初の6年でなく、後の16年間にあったと考えられるのです。

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(アードベッグ・ベリーヤング〜ルネッサンスのシリーズ。1998年蒸留は近年と思えるが、評価されているビンテージでもある。)

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(アードベッグ・ウーガダール初期ボトル。箱裏にビンテージ表記あり。パワフルな中にシェリー樽のコクと甘みのある美味しいリリースだった。今回のシェリー樽はこうしたリリースの払い出し後か、それとも。。。)

では、この16年間の熟成に使ったリフィルオロロソバットは何者か。。。丁度2003年から、アードベッグはウーガダールをリリース。初期のそれは1975,1976年のシェリーカスク原酒を使ったとされており、または当時多くリリースされたシングルカスクか、そうした空きシェリー樽のどれかが使われたと考えるのが一つ。
また、リフィルのアメリカンオークシェリー樽で1st fillかのような色合いは考えにくく、その濃厚なエキスとダークフルーツ系の香味から、使われたのはスパニッシュオーク樽なのではないかとも予想しています。

すると実験は、シェリー樽に関するものだったのではと。そもそも「シェリーバットで長期熟成すると風味がダメになる」「アードベッグはフィニッシュに向かない」というラムズデン博士のコメントが、先のインタビュー記事に見られる中で、この樽はフィニッシュで、それも16年という比較的長い後熟を経ています。
例えば一度熟成に使ってアク抜きされたスパニッシュオークの良い部分、好ましいシェリー系のニュアンスを熟成を経て取り出そうとする実験なら、これは狙いとして成程と思えます。
(実際、グレンモーレンジですが、15年のリリースで1年間だけ新樽フィニッシュをして、明らかに後の原酒のためのアク抜き的なことをした例もあります。※以下ボトル)

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一方でもう一つ興味深いのが、リリース本数500本から逆算すると、最初の6年間の熟成で使われたリフィルアメリカンオーク樽も、500リットルないし、それくらいのサイズだったと考えられることです。
※バーボン樽をニコイチ、サンコイチしたとかでなければですが。

ベースとなった原酒は1998年の樽詰めなので、アードベッグ1975等でのリリースに使われたシェリー樽のリフィルを、アメリカンオーク樽として使っているのではないか。。。とか。
あるいは文字通りバットサイズの新樽を一度使った後に詰めたか、希望的観測も込みで前者かなと思いますが(そうだとすれば、実現した味わいのイメージとの繋がりもあって面白い)、こうして家系図のように歴代リリースを紐解いていくのも、あれこれ考えられて楽しいです。それも全ては上質な原酒であるからこそ、踏み込みたいと思えるんですよね。
結論?すいません、実際の狙いは結局推測の域を出ませんが、実験は成功で間違いないかと思います(笑)。←本記事末尾に公式情報を追記(3/23)

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昨今、原酒の枯渇から良質なリリースは限られた市場にしか出回らなくなり、特に日本に入らないことも多くなりました。
一方、こうしたリリースを楽しめるのはごく一部の愛好家だけ、市場に入っても飲めないという声があるのも事実です。
実際今回のリリースもかなり高額です。ですが、関係者が暴利で売ってるわけではないので、交渉してどうなるわけでもありません。そして手を出さなければ他の国に買われて消えていく。。。

ないものはどうやっても飲めませんが、あれば可能性はゼロじゃない。繋がりが作られてるということが、次の機会にも繋がります。
不可能とされていたリリースの実現、文句なしの中身。その機会を作って頂いた有志の皆様に感謝し、本日の記事の結びとします。
今後のリリースも楽しみにしております!


※後日談(3月23日追記)※
ウイスキー仲間から、本ボトル外箱の内側に経緯らしいことが書いてある。として連絡を頂きました。
実はこのサンプルを頂いた際、一緒に共有頂いたのはトップの表ラベル写真で、それ以外はWEBでも見あたらなかったので見てなかったんです(汗)。カッコいい外箱があるなぁくらいにしか思っておらず。
頂いた画像から恐る恐る読んでみましたが・・・結論からすれば、上記の記載、狙いは概ね間違っておらず、実験について書かれていないことを考察しているような内容になっていた、という感じです。
いやぁ、奇跡的ですね。ブラインドで正解した時とは違う、安堵感のようなものがあります(笑)。
気になる方は以下に転記しておきますので、ご参照ください。

【UNIQUE CASK HISTORY】
The Spirit was distilled on Wednesday, 28th January 1998, during the watch of Stuart Thomson, Ardgeg’s devoted Distillery Manager. Then, in American oak refill casks the whisky began to quietly mature. Six years on, Dr Bill was intent on creating single malt worthy of Ardbeg Uigeadail, a much loved dram with old, sherry-aged stock at its heart. And so he transferred an experimental batch of this whisky into second-fill oloroso sherry casks he had selected personally. Over the next 16 years, one cask gained a particular fruitiness and an intensely medicinal note. Set aside by Dr Bill to celebrate its singular character, Cask no.0050 deserves to be enjoyed in its own right.

キルホーマン 100%アイラ 1stリリース 50%

カテゴリ:
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KILCHOMAN 
THE INAUGURAL 100% ISLAY 
LIMITED EDITION RELEASE 
Aged 3 years 
Release 2011 
Phenol 50 ppm 
Cask type Fresh & Refill Bourbon Barrel 
700ml 50% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
場所:自宅
評価:★★★★★(5ー6)

香り:シャープで焦げた木材や土っぽさの混じるピート香。乾燥した麦芽、レモンピール、微かにオーキーだが垢抜けない。奥には若い原酒由来のニューポッティーさと、溶剤っぽい要素も感じられる。

味:オイリーでやや酸味を伴う燻した麦芽。フルーティーさではなく、焦げたようなピート、根菜系のフレーバーが支配的で塩気と共に口内に広がる。余韻はビターでスモーキー、焦げたゴムのような異物感が微かにあるなかで、若い原酒の酸味を含み長く続く。

田舎っぽいというか、洗練されていないというか、香味とも粗削りなピートフレーバーが支配的で、若い麦芽風味と淡い樽香がそれを支えている。現時点でも悪くはないが、将来性を見る以外の過度な期待は禁物。
香味は厚みはあるがやや単調で、加水すると樽の要素が薄まるためか、原酒のバラツキが目立ってしまう。ストレートの後はキンと冷やしてハイボール等でも。

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ご無沙汰しております。先日22日に信濃屋さんから発売した、キルホーマン100%アイラ for TGM。既に多くの愛好家から「美味しい」というコメント、メッセージをいただいており、個人的にもうそれだけで嬉しさ爆発なところ。合わせて、SNS等ではキルホーマンのリリースそのものに注目が集まる動きも見えて、自分達のリリースがその一端を担っているとしたら、これほど素晴らしいことはないと感じている次第です。

今回の販売は、前回のサードリリース以上に瞬殺だったと聞いています。
グレンマッスルというウイスキーが愛好家のなかに浸透してきたようで、これも嬉しいことでありますが、比例して購入できない方が増えるジレンマもあります。本体のレビュー記事のほうに"飲めるBARリスト"を作成しましたので、興味ある方は最寄りのBARでも楽しんで貰えたら幸いです。

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さて、本題というか今回のレビューは100%アイラ繋がりで懐かしい1本。キルホーマン100%アイラシリーズの1stリリースです。
キルホーマン蒸留所の設立が2005年。100%アイラの仕込みが始まったのはいつ頃からかは正確にはわかりませんが、過去リリースのスペックや蒸留所の歴史を見るに(2006年のモルティング設備火災被害からの再建という流れから)2007年あたりでしょうか。スコッチウイスキーの規定を満たす3年熟成の1stリリースが2011年となったことからも、その辺りと予想しています。

100%アイラの1stリリースは、シングルカスク仕様と複数バッティング仕様の2種類があり、今回のレビューアイテムは後者のほうです。
麦芽の生産から、精麦、蒸留、熟成、瓶詰のすべての行程をアイラ島で行った、100%アイラの原点とも言えるリリースで、今年はちょうどキルホーマン100%アイラの10作目がリリースされる年でもありますし、グレンマッスル4もあります。
ボトルそのものはリリース当時にBAR等で飲んではいますが、当時の味を復習しておこうと抜栓しました。

キルホーマンのみならず、新しい蒸留所の原酒は設備の慣れや調整等から、数年かけて安定していく印象があります。
100%アイラらしいねっとりとした麦芽風味に、土っぽさに根菜感、若いラガヴーリンとアードベッグを足して2で割ったような系統の味わい。熟成を経ていくことで、バーボン樽由来のフルーティーさが馴染んでいくような成長曲線もイメージ出来ますが、現時点では加水&複数樽バッティングでも隠せない、ピートと酒質由来の粗さ、全体的なあか抜けなさ。そう言えば最近美味しくなったと感じるマキヤーベイも、2012年のリリース当初はこんな感じの特徴が目立っていたと記憶しています。
この辺は当時と近年との原酒の仕込み方に違いがあるのか、例えばより短熟で仕上がるよう雑味の少ない酒質になるような調整をしているとか、結果同じ短熟でも近年の方が良くなってると思います。

一方、100%アイラ1stリリースの疑問が、裏ラベルにフェノール値が50PPMと書かれている点です。
香味は短熟&リフィル系の樽構成もあってか、ピートフレーバーが支配的で、50PPMという説明を見ても違和感はなかったのですが、よくよく考えると、キルホーマンが使う麦芽は、50PPMのものがポートエレン精麦工場の仕込みで、20PPMのものが蒸留所でのモルティングによる仕込みとされており、100%アイラは後者のはず・・・。

初期の100%アイラの仕込みは50PPM統一だったとするなら話は単純ですが、昨年リリースされた9thエディションに使われた2007年仕込みの100%アイラ原酒は20PPMでしたし、2008年仕込みの原酒にも20PPMのものが同様に確認できます。
ファーストリリースは3年熟成で若いので、ピートを強く焚いて未熟さをごまかそうとした?それにしては、2ndリリースが同じような熟成年数であるにも関わらず20ppmです。
海外サイトを見ても、1st Releaseのピートレベルに言及したものが見当たらないのもネックで、まさかの誤表記?でもそれにしてはピートが強いような・・・うーん。
なんだかはっきりしないままですが、まあ50PPMタイプがあれば15年、20年と長期熟成した先の姿が楽しみだなんてお茶を濁して記事をまとめます(汗)。

キルホーマン 100%アイラ 8年 forチームグレンマッスル 55.9% ※BARリスト追記

カテゴリ:
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KILCHOMAN
100% ISLAY MALT
SINGLE CASK RELEASE
For TEAM GLEN MUSCLE
Aged 8 years
Distilled 2012
Bottled 2020
Phenol 20 PPM
Cask type Fresh Bourbon Barrel #29
700ml 55.9%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:自宅
評価:★★★★★★(6-7)

香り:ややドライで硬質感のある香り立ち。燻した麦芽のスモーキーさと、グレープフルーツやレモンピールを思わせる爽やかな柑橘香、ジンジャーエールを思わせる甘さ、仄かに消毒薬。注ぎたてはスパイシーな刺激もあるが、時間経過でやわらぎオーキーなニュアンスがその分開く。

味:粘性と塩気を伴う厚みのあるほろ苦い麦芽風味。それに馴染んで広がるピートフレーバーと、熟したパイナップルやグループフルーツを思わせる甘酸っぱさ。余韻にかけてはバーボンオークの甘味、モルトの香ばしさとジンジャーの刺激、ピートスモークが強くはないが微かな焦げ感を伴って長く持続する。

麦由来の旨みとも言えるフレーバーが強い、まさにローカルバーレイという1本。粘性と厚みのある風味は、さながらエールビールを思わせる質感にも通じている。
開封直後や注ぎたては香りで硬さを感じるが、グラスの中で比較的早く変化して開いていくだけでなく、麦芽風味にバーボン樽由来のフレーバーとピートが混じり、熟成を経て一体となった味わいも楽しめる。少量加水すると序盤の硬さが穏やかになり、黄色系のフルーティーさを感じられる、短熟ながら旨いモルトである。ストレート以外ではハイボールがオススメ、麦芽風味に程よいピートが感じられる。

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先日予告していました、自分が関わらせてもらっているオリジナルウイスキーブランド”GLEN MUSCLE(グレンマッスル)”シリーズに、初のシングルモルトが登場します。位置づけはキルホーマン100%ISLAY シングルカスクのプライベートボトルで、カスク選定からメンバーで関わらせていただきました。

今回のボトリングに協力いただいたのは、インポーターのWhisk-eさん。我々の想いを汲んで、蒸留所から素晴らしい原酒を調達してくれました。
ボトリングは247本。うち一部がWhisk-eさんの保有分となり、信濃屋さん経由で一般販売も行われる予定です※。販売開始は店頭・WEBとも6月22日(月)、WEBは12時からオープンで、価格は税込み12100円とのことです。 詳細は以下の信濃屋WEBショップをご確認ください。
※完売いたしました、お買い求め下さった皆様、ありがとうございました。こちらで把握しているBAR等の入荷情報は、記事の最下部を参照ください(2020年6月25日追記)

※ボトルの販売はWhisky-eと信濃屋食品が行うもので、我々チームメンバーが販売による利益を得ることはありません。またリリースにあたっての協力料、監修料等の類も一切受け取るものではありません。チームメンバーが所有するボトルは、必要本数を各自が購入したものになります。

既に前置きの必要もないと思いますが、グレンマッスルは、ウイスキー好きが笑顔で楽しんで貰えるような”味わい”や”エピソード”、中でもちょっと尖った魅力のあるウイスキーを、蒸留所やメーカー協力のもとで国産・輸入原酒を問わず活用して作り上げる、愛好家による愛好家のためのウイスキーです。
プロ、アマを問わずウイスキー愛好家で結成された”チーム・グレンマッスル”が、ウイスキーメーカーにユーザーの求める味わい等の情報を提供し、言わば新商品のリリース企画を監修するもので、これまでグレンマッスルとしてブレンデッドウイスキー3作がリリースされてきました。

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(グレンマッスルNo,1は福島県南酒販・笹の川酒造、No,2は長濱蒸留所、No,3は若鶴酒造・三郎丸蒸留所と協力してリリースされた。またNo,3は構成原酒として2.5年熟成の三郎丸シングルカスクも同時にリリースされている。リリースの一覧とレビューはこちら。)

グレンマッスルのコンセプトは先に述べた通りで、過去の3作では、求める味わいをブレンドを経て”作り出す”ことに重きを置いていました。
一方、今回のリリースはシングルカスクです。作るのではなく、明確なテーマを定め、”選び出す”ことがポイントになります。

そのテーマのベースとなるのが、キルホーマンから1年に1度リリースされているシングルモルト、100%アイラシリーズです。
2011年の1st Relaseから今年で10作目となる同シリーズは、リリースを重ねる毎に熟成した原酒が使われるようになって、厚みのある麦芽風味とそれに馴染んだピート香、アイラのローカルバーレイとして年々愛好家の人気も増してきています。
特に昨年の9thは好評で、美味しいという情報が広まると日本市場割り当て分が即完売し、海外から取り寄せる人まで居たほどです。 

ただ、このシリーズは毎年樽構成が異なっており、リリースによっては好ましい要素とそうでない要素が混在している部分があります。
そのなかで愛好家が求める要素に繋がっていると思われるのが、バーボン樽で一定以上(最低でも7~8年)熟成を経た、フルーティーなタイプの原酒です。ただし、2019年時点でそうした100%アイラのシングルカスクは、日本市場向けにはリリースされていませんでした。
ならばそれを実現出来ないか・・・。今回のグレンマッスルでは、キルホーマン100%アイラシリーズにおいて、特に7th~9thリリースに感じられた”魅力的な要素”の素となっている原酒を、選定の際のテーマとしました。

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(ボトリングテーマについてのミーティング風景。照明は暗いが、真剣に想いと筋肉をぶつけ合った場であり、決して悪い相談ではない(笑))

企画が動いたのは昨年秋。今回スペシャルトレーナーとしてジョイント頂いた、Whisk-eの誇るリアルマッソー市川さんにブランドコンセプトを説明し、キルホーマンからカスクサンプルが届いたのが年の瀬のこと。
聞くところでは、通常より少量生産となる100%アイラは、蒸留所側がなかなかサンプルを出してくれないのだそうですが、今回は運良く複数のサンプルを調達してもらうことができました。

原酒の仕様は蒸留日以外同じものでしたが、飲んでみるとそれぞれに明確な違いがあり、小規模蒸留所故の仕込みの手作業や、少量生産から生じる個体差が大きいように感じられました。
ピーティーでフルーティーなタイプだけではなく、樽由来の粘性、オークフレーバーが強いタイプや、中には焦げたゴムを思わせる個人的にネガティブなフレーバーを強く持つ原酒もあり・・・ そして満場一致で選ばれた原酒が、今回のCask No, 29です。
マッスルで29(肉)なんで、番号で決め打ちしたように見えるかもしれませんが、実際にサンプルの中で我々が求めていた味わいに合致していたのがこのカスク。なんだか不思議な縁を感じてしまいます。

その味わいは、まさにローカルバーレイという麦感の強い構成を主とし、黄色系のフルーティーさや、麦芽風味に馴染んだピートフレーバーが副次的に備わった、通好みな構成です。(100%アイラの仕込みに用いられるフロアモルティングは、麦芽の乾燥具合の不均一さが味わいの幅に広がるだけでなく、時間をかけて乾燥させるため麦芽にピート香が深く馴染むのではないかと予想。)
サンプル時点ではフルーティーさを強く感じましたが、ボトリングしてみると麦芽風味が強く厚くなっており、系統としては熟成したラガやカリラに近い印象。若さに由来してか香味に硬さが多少ありますが、グラスのなかでの開きは早く、開封後の変化にも期待できると感じています。

何より、これまでの100%アイラに感じられた好ましい部分との共通点が明確にあり、それがカスクストレングス故に力強く(いささか暑苦しく)広がっていく。。。手前味噌ですが、グレンマッスルという名前的にも、カスク選定の際のテーマとしても、合致したリリースなのではないかと思います。

レビューの評価としては、★6から開いて7を伺うクラスで、厳しめに見ても現時点で昨年の100%アイラ9thと同等レベルのクオリティがあるとし、同じ評価とします。
しかし熟成8年でこれだけの完成度ってのがすごいですね。過去のリリースとの比較で、この原酒が突然変異で生まれたわけではなく、今後もリリースされていくと考えられるのも特筆すべきところ。熟成感でいえば、アイラの他の蒸留所に比べ5年は成長が早い印象があり、更なる成長を遂げるであろう今後が楽しみでなりません。
我々チームメンバーが惚れた成長株。次世代アイラモルトのエース候補となれる逸材の現在地としても、本リリースを楽しんで貰えたら幸いです。


※ご参考:キルホーマン for チームグレンマッスルが飲めるお店一覧(6月30日追記)
BAR BOTA (北海道小樽)
Bar Fishborn (北海道帯広)
バル ハルヤ (北海道菊水)
Malt Bar Kirkwall (北海道すすきの)
BAR 無路良 (北海道すすきの)
洋食屋さん りもーね (岩手県滝沢市)
BAR Harry's高岡 (富山県高岡市)
テキーラ道場 (千葉県千葉市)
旬味 菜野 (東京都北千住)
BAR HONESTY(東京都北千住)
BAR GROOVY(東京都神田)
BAR 官兵衛(東京都神田)
Bar&Sidreria Eclipse first (東京都神田)
BAR Hexagone (東京都銀座)
BAR CAPERDONICH(東京都新橋)
BAR CAMPBELLTOUN LOCH (東京都有楽町)
BAR Algernon Sinfonia(東京都赤坂見附)
BAR レモンハート(東京都大泉学園)
J's BAR (東京都池袋)
ワイン&ビストロ シュエットルージュ (東京都池袋)
BAR もるとや(東京都池袋)
カフェバーJam Lounge(東京都高田馬場)
BAR 新宿ウイスキーサロン (東京都新宿)
BAR LIVET (東京都新宿)
ハイランダーインTokyo 人形町(東京都人形町)
BAR Shu-shu(東京都葛西)
BAR GOSSE(東京都目黒)
酒処 石場 (東京都祖師谷)
Highlander Inn Tokyo (東京都中野坂上)
BAR 私(東京都高円寺)
からだに優しいごはんとSAKE◎醁醽 RokuRei(東京都西荻北)
BAR BLACKHEART(東京都国分寺)
Bar Sandrie (東京都立川)
BAR Shanty Shack(神奈川県横浜市西区)
&BAR Old⇔Craf(神奈川県関内)
BAR ICHINANA(長野県伊那市)
BAR QuanZ(愛知県刈谷市)
マリオットアソシアホテル メインバー(愛知県名古屋市中村区)
BAR よっち(愛知県名古屋市中区)
BAR BARNS(愛知県名古屋市中区)
BAR Rubin's-vaseルビンズベース (愛知県名古屋市栄)
BAR 100 (愛知県名古屋市中区大須)
BAR TANKS (京都府京都市上京区)
BAR Silver moon(京都府京都市伏見区)
BAR kaguya(京都府宇治市)
京都洋酒研究所(京都府京都市北区)※
ANNIE HALL BAR (京都府京都市下京区)
BAR Minmore House(大阪府大阪市北区)
BAR パラディ(大阪府大阪市北区)
BAR SIMON(大阪府大阪市中央区)
BAR Rosebank(大阪府大阪市港区)
The nineteenth bar(兵庫県神戸市三宮)
あじどころはる(兵庫県神戸市長田区)
憩処 ありがとう(岡山県笠岡市)
DAINIG BAR MALFISH(岡山県笠岡市)
BAR Shamrock(香川県高松市)
BAR HIGUCHI(福岡県中洲)
BAR kitchen(福岡県舞鶴)
BAR poco rit(沖縄県那覇市)近日オープン予定

※京都洋酒研究所様からは、近日中にTHE SHARE BARを通じてテイスティングサンプルの販売も行われる予定です。 

この他、購入いただいたお店に関する情報がありましたら、コメントまたはメッセージにてお伝えいただけますと幸いです。
なお、6月下旬現在、お店によっては他商品とタイミングを合わせて入荷する等から、一部ボトルが届いていないお店もあるようです。
もし本リリースを目的としていただく場合は、事前にお店側がSNS等で発信されている入荷情報を確認を頂ければと存じます。

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