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アラン 18年 46% 2023年流通ロット

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ARRAN 
Single Malt Scotch Whisky 
Aged 18 years old 
Lot 2023 
700ml 46%

評価:★★★★★★★(6-7)

香り:オーキーで華やか、りんごのカラメル煮や洋梨のタルト、紅茶、微かに桃の缶詰を思わせるしっとりとした甘さが混じる。

味:柔らかく甘い麦芽風味、ブラウンシュガー、濃く入れた紅茶を思わせるウッディネス。中間以降は黄色系フルーツを思わせるフルーティーで華やかな艶のあるフレーバーが開き、非常に好ましい構成。
余韻は香りで感じた桃のシロップの甘さから、果実の皮を思わせるほろ苦い味わいが染みるように長く続く。

アメリカンオーク、そしてリフィルシェリーバットで熟成されたアランの真骨頂とも言うべきフルーティーなスタイルが全面に出ている。広義な表現としてはトロピカルフレーバーと言っても差し支えないだろう。熟成感、ウッディさも適度でバランスが良く、香味は旧ボトルの18年と同傾向だが完成度はこちらが高い印象。
これを家飲み出来るならもう充分。黒化した18年も良いけれど、やはりアランはこの系統が心落ち着く。3本くらい欲しい(笑)。

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端的に言えば、旧ボトル時代のアラン18年が完成度を高め、より艶やかなフルーティーさを増して現代に戻ってきた。
先日都内某所で試飲し、アラン18年構成変わってる。見るからに色違うし、そして美味い。どこかでちゃんと飲める機会が欲しいと思っていたところ。10年ぶりに訪問した野毛・BARシープで、マスターのおすすめがこちらでした。
「最近良かったって思ったボトルはコレだよね。」
こういう偶然は、なんだか嬉しいものです。

2019年に現在のボトル、ラインナップに大規模リニュアルを行ったアランモルト。その中でも特に大きな変化があったのが、シングルモルト18年です。
黒い、南国のビーチにでも行ってきたのかというくらい黒い。元々アラン18年はシェリー樽原酒とバーボン樽原酒を構成原酒としていましたが、基本的にはシェリー樽がリフィルホグスヘッドなのか、今回紹介するロットのような色合いでした。
ただ、生産本数が1ロット9000本と限られており、2000年ごろのアラン蒸留所の生産規模もそこまで大きなわけでは無いことから、シェリー樽の比率、1st fill と2nd fillの比率が変わればこう言うことも起こり得ます。

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(2019年ロットのアラン18年。1st fillシェリー樽原酒の比率が高く、リッチでウッディな味わいの奥にはバーボン樽に由来するフルーティーさがアクセント。レベルの高い1本だったが、ここまで急激なイメチェンは想定外だった。)

一方、このリニューアル後の数年間でアランの人気が急激に高まり、最新ロットが入ってきても即完売という状況が続いていました。
アランは毎試合6回2〜3失点でゲームは作ってくれるレベルだけど、9回完封の絶対的エースでは無いんだよね。人気もそこそこだし。
なんて評価をしていたのが嘘のよう。
アラン抽選販売なんてビラを見かけては、え?アランってもっと気軽に飲めたボトルだったよね?
いつのまにかその人気がエース級になっていることについていけず、暫くロットの変化は見てませんでした。
ひょっとすると、2022年のロットでも同様の変化があったのかもしれません。

話を今年のボトルに戻すと、アラン18年が美味しい、完成度が上がったと感じる背景には、蒸留所としての純粋な成長があるのではと考えています。
アランの創業は1995年(1996って書いてましたスイマセン)。大手メーカー傘下ではなく独立した蒸留所です。日本のクラフトみても明らかなように、創業から数年単位で酒質は安定しませんし、樽の調達から仕込み全般、繋がり作りやトライ&エラーの積み重ねだったことと思います。

そうなると今回のロットに使われた原酒が仕込まれた2004-2005年は、いよいよ蒸留所として造りが安定し、熟成した原酒からのフィードバックも増える時期。シングルモルトブームも始まり、どんな樽のどんなウイスキーが評価されるか情報が入って熟成の方向性も定まってくる。
つまりアラン18年や21年などの熟成した原酒のロットは、これから一層期待出来るのでは…。
相変わらず店頭で見かけることは少ないですが、機会を見て定期的にテイスティングしたいと思います。

大手メーカーの安定した造りも良いですが、中小規模蒸留所、クラフトメーカーの成長が見えるリリースも楽しいですね。

アイルオブラッセイ ライトリーピーテッド Batch R-01.1 46.4%

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ISLE OF RAASAY 
LIGHT PEATED 
Batch R-01.1 
700ml 46.4% 

評価:★★★★★★(6)

香り:酸のある柔らかい麦芽香とスモーキーさ、燃え尽きた後の焚き火、淡い柑橘香がベース。その上に樽由来のアロマが複数あり、フレンチオークのバニラ香やオークフレーバーに、ワインオークを思わせる酸が混じる。

味:柔らかいコクのある口当たり。潮汁のようなダシっぽさとほろ苦いピート、麦芽風味に角の取れたミネラルを感じる。
余韻は穏やかなスパイスの刺激とビターなピート、序盤の柔らかさに反して強めのタンニンが口内を引き締める。

ライウイスキーカスク、チンカピンオークカスク、ワインカスク。3種類のカスクで熟成された6種類の原酒の組み合わせ。樽の使い方は賛否あるかもしれないが、このスタンダードリリースはそこまで煩く主張しない。一方で、この蒸留所で注目すべきは酒質。麦の厚みとピート、樽香の奥にある地味深さ。出汁っぽさと角の取れたミネラルは、仕込み水に由来していると思われ、それが厚みと地味深さに通じている。
ちょっと田舎っぽい感じが地酒っぽさ、現行品ならスプリングバンクにも共通するようなイメージ。 ハイボールは樽感が軽減され、酒質は伸びて、穏やかにスモーキー。

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アイルオブラッセイは、スコットランド、タリスカーで知られるスカイ島に隣接する、ヘプリディーズ諸島の一つ、ラッセイ島に2014年に設立された新興蒸留所です。
ただし 2014年は蒸留開始ではなく、会社の立ち上げであり、着工は2016年、蒸留の開始は2017年9月、樽詰めが行われたのはその翌月、2017年10月からというスケジュール感となっています。

今回のボトルは、そのラッセイ蒸留所のコアレンジとして初めてリリースされたR-01(Release-01)の2ndバッチ。2021年に初めてリリースされたR-01シングルモルトも麦芽風味と独特の複雑さがあって良かったですが、2ndも中々です。
今回のリリースを含むスタンダード品の原酒としては、4年熟成前後のものが構成原酒となっていますが、ラッセイ蒸留所の魅力は、若くても高品質な原酒を作り出すという3種6パターンの原酒作り。
そして発酵から加水まで、すべての行程に使用される、敷地内で組み上げられるミネラル分豊富な伏流水にあると感じています。

まずは使い方では良くも悪くもなる、樽使いから紹介していきます。
ラッセイ蒸留所の原酒はノンピートとピーテッドがあり、これをブレンドすることで、今回のテイスティングアイテムにある適度なピートフレーバーを持ったライトリーピーテッドウイスキーが出来上がります。
この2種の原酒の熟成に使われる樽は、ボルドー赤ワインカスク、ライカスク、そしてチンカピンオークカスク、それぞれ3種類であり、故に3種6パターンの原酒を使い分けると言うことになります。
そしてここで使われる樽にこだわりがあり、若くしてもそれなりな味わいに仕上がるのは、樽由来の要素も大きいのではないかと感じています。

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何がどう違うのか。赤ワイン樽は、ウイスキーでよくある名もなきバーガンディカスクではなく、ワインを知らない人でも知っている程の超有名ワイナリーを含む、3社の樽が使われています。 ライカスクはアメリカのウッドウォードリザーブ蒸留所から。そして、日本でいうミズナラと同種とされる、北米産のチンカピンオーク。

過去のイベントで個別の原酒をテイスティングしたこともありますが、ワインはまだ若くこれからと言う印象があったものの、ライのピートは適度なオーク香とスモーキーさ、チンカピンオークはウッディだが複雑な香味があり、限定のシングルカスクなど、リリースによっては若さが目立ち、樽感がうるさいものもしばしばありますが…。
スタンダード品はそれぞれを適度に組み合わせることで、香味に複雑さを与えています。樽の質の良さが原酒の魅力を引き上げ、中でも今回のような複数樽バッティングの加水品からは、充分味わい深いウイスキーがリリースされているのです。

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そして注目すべきポイントがもう一つ。それは仕込み水です。
昨今、味わい深いオールドボトルに対して、現行品は味が軽い、という話はよく聞きます。その要因としては、麦芽品種の違い、製法の違い、樽の違いなどが考えられるわけですが。もう一つ、仕込み水も確実に変わっていると思われます。
例えばアイラ島などは、上下水道の整備が明らかに進んでいませんでした。結果、蛇口をひねれば地層を通った茶色い水が出る、なんて話も普通にあるわけですが、その水で仕込み、加水したモルトと、今の技術でフィルタリングした浄水で仕込んだモルトは、同じものになるでしょうか。
間違いなく仕上がりは異なるとともに、前者のほうが香味が複雑になることは容易に想像できます。

ラッセイ蒸留所では、上述の通り、敷地内で汲み上げられた、伏流水をウイスキーの発酵から蒸留、加水まで、製造行程ほぼ全てで使用しています。
ボトルデザインに、化石を含む地層が採用されているのは、まさにこの仕込み水を意識してのこと。だからでしょうか。アイルオブラッセイ R-01.1は、他の現行品のモルトにはない地味深さ、味わい深さがあり、それを複数の樽感でさらに複雑な仕上がりとしている。
実は樽や製造技術だけでもなく、今となっては特別な仕込み水が、縁の下の力持ちとなっているのではないかと感じます。

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※アイルオブラッセイ R-01.1を飲んでいてイメージしたグレンイラ5年。1980年代にカリラ蒸留所を所有していたバロックレイド社リリースのバッテッドモルトであり、カリラを軸にブレンドされている。今回のリリースを飲んだ時に真っ先に思い浮かんだボトル。内陸っぽさと島っぽさ、若いが地味深い味わいに共通点を感じる。

なおこの蒸留所、蒸留設備だけでなく、レストラン、そして宿泊施設が整備されており、公式サイトでも美しい設備を見ることが出来ますが、実はつい先日まで日本側の代理店となっている株式会社都光が訪問されていて、その関係者筆頭の伊藤氏(@likaman_ito)が現地の写真をSNS で公開されています。
まったく、羨ましい限りです。けしからんし羨ましいので、マジで1回連れて行ってください、社長(笑)!!

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ジュラ 20年 ブティックウイスキー Batch.3 48.8% For 信濃屋

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JURA 
MASTER of MALT 
THAT BOUTIQUE-Y WHISKY 
Aged 20 years 
Distilled 1998 
Batch 3 
Cask type Hogshead #2150 
Exclusively for SHINANOYA 
500ml 48.8%

評価:★★★★★★(6)

香り:発酵したような乳酸系の香りがトップノートにあり、合わせて乾草を思わせるドライなウッディさと、土埃のようなほろ苦さ。スワリングすると発酵臭の奥から麦芽由来の甘み、白色系果実のフルーティーさ、微かに溶剤的な刺激も伴い、垢抜けないが複層的なアロマが感じられる。

味:香りに反して素直な麦芽風味主体のフレーバー構成で、何よりボディがしっかりとして厚みがある。微かにオーキーで、青りんご系の品の良いフルーティーさのアクセント。徐々に香りで感じた乳酸系の要素が鼻腔に抜け、余韻はほろ苦く、乾いた麦芽とウッディなフレーバーが長く残る。

ジュラらしさと言う点では、野暮ったく、垢抜けない点であろうか。決して洗練されていないが、そうしたフレーバーが合わさって嫌味ではない複雑さが魅力としてある。まさに地酒として求めているものの一つと言えるかもしれない。特徴的な香味としては、信濃屋公式のテイスティングコメントには「メスカル」とあるが、要素の一つに見られる乳酸、発酵したようなニュアンスがそれだろう。熟成したテキーラにも似たフレーバーだが、メインは麦芽風味、厚みのあるボディ、そしてホグスヘッドで熟成されたウイスキーの華やかさとフルーティーさが、ウイスキーであることを主張する。
テキーラ好きが飲んだらどのような反応をするだろうか。
 
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とあるイケメンからサンプルを頂いたので、レビューを書いてみました。この状況下ではBAR飲みも出来ないので、ありがたい限りですね。
ジュラ蒸留所については、1963年に操業を開始(再開)して以降は、ノンピートないしライトリーピーテッド仕様のモルトが仕込まれていましたが、2002年からピーティーなモルトがリリースされるようになり、2009年にはヘビーピーテッドもオフィシャルからリリースされています。

ボトラーズリリースを見てみると、1989年リリースのシグナトリー社のヘビーピーテッドがあり、少なくとも80年代からそうした原酒を仕込んでいたようです。
今回のリリースは、実質的にはほぼノンピートと言われる仕込みだと思われますが、フレーバーの中にピートに似た雑味のようなフレーバーが混ざっています。とある国内蒸留所でも見られる特徴なのですが、ノンピートとピートの仕込みを併用した際に、例えばスチルの洗浄をしっかり行わないまま仕込みを切り替えると、設備に染み込んだ成分がフレーバーとして移ることがあります。

それは明確にピートフレーバーと言う感じではないのですが、まさに今回のリリースに見られる個性のように、ちょっとビターで、土っぽくて…これはこれで悪くないアクセントに繋がったりするのです。スコットランドではクライヌリッシュ的製法というヤツですね(笑)。

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さて、ジュラ蒸留所の個性、あるいはその個性から見て今回のリリースはどうなのかと、問われると中々難しいです。
そもそも、アイラを除くアイランズモルト、アラン、ジュラ、スキャパ、タリスカー、トバモリー、ハイランドパークと言った蒸留所は、スコットランドの他の地域に比べてフレーバーの統一感がほとんどありません。それはひとえに”島”といっても、資本はバラバラで、東西南北(東にはないですがw)様々な場所にあることも考えられそうですが、もう一つそれを際立たせているのが、ジュラやトバモリー蒸留所のような、洗練されてない酒質にあると言えます。

例えば一般的な内陸モルトウイスキーの構成は、麦芽風味にオークフレーバーというシンプルな仕上がりのものが多いです。ジュラはここに発酵したような要素、酸味、土っぽさ、あるいは硫黄や鉄分のような、少しよどんだ要素が混じるなど、軽やかで綺麗な仕上がりとはならないのです。
麦芽の調達はポートエレンだし、発酵槽や糖化槽はステンレスなので、鋳鉄製のような影響はなさそう。昔のジュラはもっと素直な構成だったのですが、90年代くらいから変化しているような…やはり仕込む原酒の種類が増えた関係でしょうか。

こうして要素の多いウイスキーは、言い換えれば繊細と言えるかもしれませんし、安定もしにくい傾向があります。今回のリリースは好ましいフレーバーが主体で、垢抜けなさは全体のアクセントに。水清ければ魚棲まず。どちらの存在もバランス次第でウイスキーのフレーバーの厚みになるのです。一口目は「あれ?」と思うかもしれませんが、なんだか飲めてしまい、もう1杯飲んでも良いかなと手が伸びる。
最近ジュラ蒸留所の20年熟成クラスのボトラーズリリースが多いので、月並みですが比較テイスティングするのも面白いかと思います。

ゲゲゲの鬼太郎 ハイランドパーク 15年 & ウィリアムソン 5年 for 東映アニメーション音楽出版

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GEGEGE NO KITARO
ORKNEY SINGLE MALT & BLENDED MALT WILLIAMSON 


先日、ウイスキー繋がりの知人Sさんから、このウイスキーを飲んで感想を教えてほしいとリクエストがありました。なんならブログ掲載用にボトルごと貸すからと。コロナもあって最近BARに行けてないので、これは本当にありがたい。二つ返事で了承し、ボトルをお借りしました。

モノは、東映アニメーション音楽出版さんが信濃屋さんの協力でリリースしたウイスキー2本。どちらも蒸留所表記がありませんが、オークニーモルトはハイランドパーク、ウィリアムソンはラフロイグのティースプーンモルトと思われます。
自分は同漫画の作者である、水木しげる氏が長く住まれた東京都調布市に所縁があり、何かと目にする機会も多かったところ。今回のリリースについても情報は知っていましたが、こうしてテイスティングできる機会を頂けるのは、これも縁というヤツかもしれません。

今回、Sさんからは
・蒸留所について、ハウススタイルから見てこのボトルはどう感じるか。
・熟成樽は何か(どちらもHogshead 表記だが、フレーバーが大きく異なる)
・ウィリアムソンの”澱”

この3点について、感想を頂きたいとのリクエストを頂いています。
特に”澱”はモノを見るのが一番だと、ボトルごと送って下さったようです。蒸留所については先に触れた通りですが、頂いた質問への回答を踏まえつつ、まずはこれらのリリースをテイスティングしていきます。

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KITARO 
Distilled on Orkney 
”HIGHLAND PARK” 
Aged 15 years 
Ditilled 2004 
Bottled 2020 
Cask type Hogshead "Refill Sherry"
700ml 63% 

香り:淡くシェリー樽由来の香ばしい甘さを伴う、微かにサルファリーな香り立ち。焙煎した麦やコーヒーを思わせる要素、奥に蜂蜜のような甘みと腐葉土の香りがあり、時間経過で馴染んでいく。

味:口当たりはパワフルで樽由来の甘さ、麦芽の香ばしさをしっかりと感じる。香り同様に乾煎りした麦芽、シリアル、シェリー樽に由来するドライオレンジやメープルシロップ、そして徐々にピーティーなフレーバーが存在感を出してくる。余韻はビターでピーティー、微かに樽由来のえぐみ。度数に由来して力強いフィニッシュが長く続く。

借りてきた直後はサルファリーな要素が若干トップノートに出てきていたが、徐々に馴染んで香ばしい甘さへと変わってきている。使われた樽はリフィルシェリーホグスヘッドと思われ、樽に残っているエキスが受け継がれ、濃厚ではないがバランス寄りのシェリー感。ストレートではやや気難しいく、ウッディなえぐみもあるが、加水すると樽由来の甘み、フルーティーさ、そしてピート香が開いてバランスが良くなる。これはストレートではなく加水しながら楽しむべき。
ハイランドパーク蒸留所のハウススタイルは、ピートとシェリー樽の融合。それを構成する原酒の1ピースとして違和感のない1樽。

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NEZUMIOTOKO 
WILLIAMSON "LAPHROAIG" 
Blended Malt Scotch Whisky 
Aged 5 years 
Ditilled 2011 
Botteld 2017 
Cask type Hogshead "Bourbon"
700ml 52.5% 

香り:しっかりとスモーキーで、淡くシトラスやレモングラスのような爽やかな柑橘香に、アイラモルトらしい潮気、海辺を連想させる要素も伴う。

味:短い熟成期間を感じさせない口当たりの柔らかさ、オイリーなコク。ピートフレーバーには乾燥させた魚介を思わせる要素に、バニラや淡くオーキーなフルーティーさ樽由来のオーキーなフレーバーも感じられる。余韻はスモーキーでほろ苦い、ソルティーなフィニッシュが長く続く。

BLENDED MALT表記だが、所謂ティースプーンなので実質的にラフロイグと言える。蒸留所のハウススタイルと、ポテンシャルの高さを感じる1本。若いは若いのだが、若さの中で良い部分がピックアップされており、未熟要素は少なく素直な美味しさがある。加水すると香りはより爽やかに、ラフロイグらしい柑橘感を後押しする淡いオークフレーバーと、薬品を思わせる含み香が開く。ストレート、加水、ハイボール、好きな飲み方で楽しみたい夏向きの酒。

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以上のように鬼太郎はハイランドパークで、樽はシェリーホグスヘッド(恐らくリフィル)。
ねずみ男はラフロイグで、樽はバーボンホグスヘッド。通常、ホグスヘッド表記だとバーボンのほうを指すことが一般的なので、鬼太郎ボトルは珍しい仕様と言えます。

続いて質問事項の一つだった、ねずみ男の”澱”ですが、写真の通り、確かにすごい量が入ってますね。
ウイスキーの澱と言われるものは大きく2種類あり、1つはボトリングをする際、樽の内側が崩れて黒い粉として入り込むケース。通常はフィルタリングするため除外されますが、リリースによってはわざと入れているのではないかというくらい、シェリー樽だろうがバーボン樽だろうが、一定の量が必ず入っているものもあります。

もう1つは、保存環境の寒暖差からウイスキーの成分が固形化したり、樽から溶け出た成分が分離して生じるものです。先の”黒い粉”よりも粒が細かく、ふわふわと舞い上がる埃のような感じになり、例えるならクリームシチューを作っていて分離してしまった乳成分のようなモノ。
今回のリリースは、加水していないのに度数が52%まで下がっています。熟成を経て度数は変動するものですが、一般的なバレルエントリーは約64%で、そこから5年で10%以上低下しているのはかなり早い。樽の内部で何か特殊な変化があったことが予想できます。
また、ボトリング時期が2017年で、2020年のリリースまで約3年間ボトリングされた状態で保管されていたことを考えると、その間に何らかの変化があったとも考えられられます。

飲んだ印象としては、これらの合わせ技によって発生した澱であるように感じますが、灰を被ったようなこの特殊な仕様は、今回のラベルである”ねずみ男”とマッチしている点が興味深いですね。
香味についても、Williamson=ラフロイグと言える個性はもとより、若い原酒ながらフィルタリングをしていないことによる厚みと複雑さ、そしてボトリング後の時間経過によって熟成年数らしからぬ落ち着いた感じもあり、なかなか面白い1本に仕上がっていると思います。

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一方で、鬼太郎のハイランドパークは、先に触れたように珍しいラベルの表記なのですが、仕様としても珍しいと言えます。
それは近年のハイランドパーク蒸溜所はオフィシャルリリースにはシェリー樽を、ボトラーズリリースにはバーボン樽を融通する傾向があると言われているため。バーボン樽熟成のボトラーズリリースはいくつか市場に見られますが、シェリー樽のほうは貴重なのです。(それでいて、63%という樽詰め度数からほとんど下がってない高度数設定も、ボトラーズだからこそと言える珍しい仕様です。)

熟成のベースは、比較的ピート香が強い原酒が用いられたようで、樽由来の甘くビターな香味が強くある中でもしっかり主張してきます。
ハイランドパーク蒸溜所では、オークニー島で採れる麦芽やピート以外に、スコットランド本土のもの、あるいは試験的にですが古代品種の麦芽やアイラ島で採れるピートを使った仕込みも行われているなど、様々なタイプの原酒を仕込んでいる蒸留所です。中でもシェリー樽の甘みとピート由来のスモーキーさは、ハイランドパーク蒸溜所の”らしさ”、ハウススタイルを形成する重要な要素です。

今回のリリースに使われたのはリフィルシェリー・ホグスヘッド樽であると考えられるため、濃厚なシェリー感ではありませんが、近年のオフィシャルリリースに見られる味わいと同様の要素があり、以前何度か飲んだシングルカスクのプライベートボトル(以下、画像参照)に通じる一本だと感じました。

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話は少しそれますが、かつてボトラーズリリースは、オフィシャルリリースと同等の完成度、あるいはそれ以上の美味しさを併せ持つ個性的なウイスキーを、当たり前のようにリリースしていました。
一方、昨今は長期熟成の原酒が枯渇。合わせてシングルモルトがブームになり、オフィシャル各社がブランドを拡充すると、ボトラーズメーカーへ提供する原酒の量が減少し、今まで当たり前だったものが当たり前にリリースされることはなくなりました。
現代のウイスキー市場では、オフィシャルリリースは総合的な完成度と無難な美味しさを、ボトラーズリリースは原酒の個性と面白さを、そこには必ずしも美味しさは両立しないという住み分けになっており、ステージが完全に切り替わっています。

そうした中、ボトラーズ各社や酒販メーカーが今までと異なる視点、価値を持たせたリリースを企画するようになり、今回のような一見するとウイスキーとは関係ない、異なる文化との融合もその一つです。
かつてイタリアのMoon Import社がリリースしていた”美術品シリーズ”に共通点を見出せる発想とも言えますが、今回のボトルは漫画とのコラボという異文化融合ラベルでありながら、バックバーにあっても違和感のないデザインを心がけたとのこと※。確かに、他社からリリースされているコラボ品に比べて、落ち着いた配色、シンプルなデザインとなっています。
※参照:ip-spirits(ウイスキー販売) |

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長々と書いてしまったので、最後にまとめと言うか雑感を。
私をはじめとして愛好家視点では、ゲゲゲの鬼太郎とウイスキー?なんで?と、そういう疑問が先立つところがあるんじゃないかと思います。
鬼太郎達が住んでいる場所が、上の写真のオークニー諸島やアイラ島のような、牧歌的で、それでいて不毛の大地にあるかと言うとちょっと違う気もしますが、スコットランドの蒸留所にはケルピーなどの精霊やゴーストの伝承は数多くあります。
そういう”伝承”など現地のエピソードを絡める発信があると、リリースそのものにも違和感がなくなってくるのかもしれません。あるいは国産蒸留所とのコラボとかですね。付喪神、八百万の神、百鬼夜行、日本ではその手の話題に事欠きませんから。

一方で、中身は先にまとめたように、
ハイランドパークは王道というか、ハウススタイルの1ピースを切り取ったような味わい。
Williamson(ラフロイグ)は蒸溜所のポテンシャルと、ボトラーズリリースらしい面白さ。
ボトルをお借りしたということで、1か月間くらいかけてテイスティングしましたが、ハイランドパークはその間も刻々と瓶内での変化があり、ラフロイグは最初から最後まで安定していました。

ゲゲゲの鬼太郎は漫画として長い歴史を持ち、今なお親しまれる漫画ジャンルのベストセラー。来年は水木しげる氏生誕100周年にあたり、映画も制作中のようで、今回のリリース含めて今後話題になっていきそうです。一方、両蒸留所もまたスコッチモルトの中で長い歴史を持ち、高い人気があるものです。その点を繋がりと考えれば、蒸溜所のチョイスも繋がりが見えてくる…か。
個人的にアニメラベル=色物のような第一印象があったことは否定できませんが、カスクチョイスは信濃屋さんということで、ボトラーズリリース受難の中にあっても、面白いカスクを持ってくるなと、楽しんでテイスティングさせて頂きました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。ボトルは今度オマケをつけてお返ししますね!

※本記事に使用した「Photo by K67」表記のある写真は、ウイスキー仲間のK67さんが撮影されたものを提供頂きました。サイトはこちら

アラン 25年 1995-2020 オフィシャル1st Lot 46%

カテゴリ:
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Arran 
Single Malt Scotch Whisky 
25 Years old 
Distilled 1995 
Bottled 2020 
Cask type Bourbon Barrel 65%, Sherry Cask 35%
Re-casking 1st fill sherry and refill sherry hogsheads (12 month)
700ml 46% 

暫定評価:★★★★★★(6ー7)

香り:やや重みのあるシェリー香が主体。プルーンやデーツ、微かにアーモンドチョコレートやカカオのニュアンス。奥にはバーボン樽由来のオーキーな華やかさが混じる。ふくよかで嫌味の少ない香り立ち。

味:滑らかでまとまりの良い口当たり。黒砂糖や甘酸っぱく煮込んだダークフルーツのようなフレーバーに続いて、アランらしいフルーティーさが開く。余韻は程よいウッディネス、オークフレーバー。シェリー樽由来の残り香が鼻腔に抜ける、リッチなフィニッシュが長く続く。

シェリー系だが圧殺ではなく、綺麗な仕上がり。フレーバーの傾向としてはダークフルーツ、黄色系フルーツ、チョコレート、というシェリーオーク&アメリカンオークのそれ。同じオフィシャルラインナップでは21年より18年のベクトルにあると言えるが、その18年を磨き上げ、嫌な部分を極力なくしたと言える洗練された構成でもあり、例えるなら18年が純米吟醸、25年は純米大吟醸という感じ。蒸留所として今出来るベストを尽くしたと感じる1本である。

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1995年創業のアラン蒸留所が、2020年に創業25年を迎えたことを記念し、3000本限定でリリースした25年熟成のシングルモルト。本数は限られていますが、今後25年はアランのオフィシャルラインナップでコアレンジ扱いとなり、毎年少量ずつリリースされていく予定とのことです。
国内は2021年1月時点で未入荷でしたが、ウイスキー仲間経由で、その貴重な1st ロットをテイスティングさせて頂くことが出来ました。

原酒の構成比率はバーボン樽原酒が65%、シェリー樽が35%。香味ともシェリー樽由来のフレーバーがメインにありますが、主張しすぎないバランスの良さがポイントです。
また、今回のリリースには特徴的なスペックとして、どちらの原酒もボトリング前に、1stフィルまたはリフィルのシェリーホグスヘッド樽に詰め直し、さらに12か月間熟成を経ていることが触れられています。

これは確認できる範囲で、既存の18年や21年等オフィシャルリリースには無い記述です。
1樽1樽移しているのか、一旦混ぜたものをマリッジを兼ねて再充填したのかは不明ながら、3000本限定というリリース規模なら、どちらであってもおかしくはないかなと。(シェリーバットやパンチョンからホグスは、24年間のエンジェルシェアがあっても入らない可能性があるので、やっててバーボン、シェリーの区分で混ぜて、それぞれに対応したカスクに再充填かなと予想。)
シェリー樽原酒のフレーバーにアメリカンオークの華やかさが溶け込み、25年の特徴とも言える一体感のある味わいを形成することに、一役買っているのではないかと思われます。

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(比較対象と言える1本。今回のリリースを飲んで真っ先に連想したのは18年だった。)

トロピカルとも称される黄色いフルーティーさを伴うシェリー樽熟成モルトは、愛好家に人気である反面昨今のウイスキーシーンでは中々お目にかかれないものです。ただ、近年のアランは疑似的ながらそのフレーバーに近いものをハウススタイルの一つとして構成し、リリースしてきました。

日本市場にも流通したアランのシングルカスクや限定ボトルしかり、2019年のリニューアル後にシェリー路線へと転換した、写真の18年新ラベルしかり。これまでのリリースで培ったノウハウ、ブレンド技術をもって、今アラン蒸留所にあるものでベストを尽くした。その結果が、この25年であるように感じる仕上がりです。
というか、創業初期のアランの原酒って、そんなに評判良くなかったと思うんですよね。シェリー樽も硫黄系のフレーバーが目立ったり、酒質も垢抜けないというか…。

勿論、熟成を経て成長したとか、原酒の中でより良いものを厳選したとか、一概にこれまでのリリースで語ることは出来ないかもしれません。ですが、事実として創業初期の原酒にそういう傾向・評価がある中で、それをここまで磨き上げた。蒸留所の努力と工夫に対し、あの有名な一言で記事をまとめたいと思います。
「いやー、良い仕事してますね!!」

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