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シグナトリー ブロガーズセレクト カリラ 12年 2007-2020 57.9% for 信濃屋

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SIGNATORY VINTAGE
BLOGGER’S SELECT
CAOLILA 
Aged 12 years
Distilled 2007
Bottled 2020
Cask type Hogshead #307341 
700ml 57.6%

評価:★★★★★★(6)

香り:柔らかく広がるスモーキーさ、燻した麦芽と淡い柑橘、塩素を思わせる薬品香を伴う。

味:口当たりはコクがあり、スモーキーで焚き木の焦げ感、グレープフルーツや焼きリンゴの果実味を伴って膨らみがある味わい。
余韻はスモーキーでオイリーな出汁感、潮気を思わせるミネラルとヨード、長いフィニッシュ。

一言で王道のカリラ。度数は高いが瓶内変化で刺激は穏やかに、反面香味の膨らみや余韻の長さにハイプルーフの恩恵を残したいいとこ取りな仕上がり。樽感は程よく、麦芽由来の風味を殺さない程度。樽由来の風味と、ピート由来の風味が合わさった、グレープフルーツ系のニュアンスとスモーキーフレーバーがバランス良く整っている。

強いて言えば多少複雑さに欠ける印象もあるが、同時リリースのダルユーインを飲んでからカリラに繋ぐと、口内に残るダルユーインの麦芽風味がカリラのピートフレーバーと合わさり、複雑さを補って一層楽しませてくれる。

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信濃屋からリリースされた、シグナトリー・ブロガーズセレクト。2020年1月、信濃屋の秋本さんと、J’s BARの蓮村さんの呼びかけで集まったブロガー4名が共同で選定した2本のうちの1本が、このカリラです。
※リリース選定の経緯など、詳細は以下過去記事を参照。

シグナトリー ブロガーズセレクト ダルユーイン 12年 2007-2020 57.9% for 信濃屋
https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1084477344.html

ブロガーズセレクト・ダルユーインと同様に、際立ってコレというフルーティーさやピートフレーバーが前面にあるタイプではなく、あくまで酒質ベースでの味わいに重きがあるのが特徴。
選定時は今よりフレッシュでシャープなピートフレーバーが特徴だったように思いますが、5年の経年でこなれたのか、広がりは残して主張は穏やかにまとめられています。

選定当日、美味しいんだけど(当時は)ありふれていると言えるこのヤングカリラをブロガーズセレクトにするのは面白くないんじゃ?、という意見を出した記憶があるのですが、秋本さんがしっかり良い塩梅に育ててくれました。うーん、流石プロ。

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※2020年1月選定当日の1コマ。この写真にYさんの姿が見えないのは、紫煙補給か遅刻だったか…

かつては、こうしたリリースも珍しくありませんでしたが、最近のボトラーズリリースは市場の傾向、トレンドに合わせる動きが顕著であり、例えるならピートがガツガツ主張してくるオラオラ系や、バーボン樽やホグスヘッド樽のアメリカンオークフレーバーが前面にあるキラキラ系、この2種類がトレンド。昨今のモルトのライト化、線の細さも合わさって、どれも同じ顔に見える…という傾向が見られます。

その点から見て、今回のリリースは結果的に原点回帰。それこそ2000年代前後、ブレンデッドからシングルモルトに移行しようという時に、オフィシャル、ボトラーズ、どちらにも見られたのが樽感ではない酒質ベースの味わいをメインにした、どこか洗練されていないリリース群であり、それが蒸留所の個性や味わいの複雑さを形成していました。各蒸留所とも、酒質が今より強かったというのもあるでしょうが、市場のトレンドがどこなのか定まっていなかったのでしょう。

今回のブロガーズセレクト2種は、まさにそうした時代に戻ったかのような印象を受けるリリースとなっています。
カリラについてはダルユーインに比べたらピートフレーバーはやや現行寄りと言えるかもしれませんが、オイリーでコクがあり、柑橘や焦げた木材のニュアンスはオフィシャルにも通じる個性でまさに王道。

近年のモルトのわかりやすい美味しさもいいモノですが、ウイスキーは温故知新、古きものにも学びがある。シングルカスクの入門としては勿論、それでいて上級者もなるほどと思わせてくれる、間口の広いちょっと懐かしい1本です。

シークレットアイラ (ラガヴーリン) 2013-2022 ポートカスク #4105 for BAR 莨樽

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SECRET ISLAY DISTILLERY (LAGAVULIN) 
Aged 8 years 
Distilled 2013 
Bottled 2022 
Matured Port Wine Cask #4105 
For Bar Rotaru 3rd Annviersary 
Supported by Shinanoya 
700ml 53.8%

評価:★★★★★★(6)

香り:甘くスモーキーなトップノート。フレーバーティーのような甘さと支配的なピートで、野焼きや根菜を思わせる土系の要素、微かに漬物、蜂蜜梅干しを思わせる酸、鼻腔へのほのかな刺激を伴う。

味:口当たりは甘く張り付くような粘性がありつつ、はっきりとピーティー。乾煎りした麦芽のような香ばしさ、焦げた木材や根菜の風味と合わせてドライベリーやチェリー、フルーツシロップのような甘酸っぱさ。
余韻はヨードを伴うピーティーでねっとりとした甘さから、スパイシーな刺激も感じられ、長く続く。

若いアイラモルトの良さである、熟成によってこなれていないはつらつとしたピートフレーバーや、蒸留所の個性は適度に残りつつも、若さゆえの口当たりの粗さ、ネガティブなフレーバーをポートワイン樽由来の粘性のある甘さがコーティングし、複雑さに通じている面白い仕上がり。
ポートワイン樽由来の要素には、硫黄香などの悪い要素はなく、ポート酒を思わせる深みある甘さ、角の取れた酸味、穏やかなウッディネスが付与されている。
女性的なポートの包容力と、力強く男性的なアイラの共演は、さながら美女と巨人…。スペック表記から想像される以上のクオリティを感じられる1本。

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六本木のウイスキー&カクテルBAR 莨樽(ろうたる)のオープン3周年を記念したプライベートリリース。BARの周年記念日となる8月18日に発売予定の、美女と巨人なアイラモルトです。信濃屋と同BARの繋がりで実現した1本であり、リリースに当たっては私も少しお手伝いさせて頂きました。

いや、信濃屋はともかく、くりりんは何の繋がりがあったんだ、と言う疑問から触れていくと、BAR莨樽はオーナーとしてウイスキー愛好家の郭 良 (かく りょう)さんが、共同オーナーとして乾杯会の鄭 冲(てい ちゅう)さんが立ち上げたお店。
お二人とは、私がブレンダー&調整役として関わらせてもらった乾杯会のプライベートリリース:Dream of Craft Distilleryを通じての繋がりがあり、今回の周年記念リリースに当たっても、サンプル確認やラベル作成等でお手伝いさせて頂いたという流れになります。
勿論、売り上げや協力料を頂く話ではありません。いつも通り趣味として、友人としての関わりです。

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※本リリースは、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本さんが調達した原酒からチョイスされており、一部信濃屋でも販売される。予約は8月7日から。

前置きはこれくらいとして、本リリースの中身を改めて解説していきます。
正直なことを言えば、私自身が何の前情報も繋がりもなく、シークレットアイラでポートカスクで短熟リリースを飲むか…と言われたら、多分率先しては飲まなかったろうなと思います。サンプル確認の段階でも「ウーン、今時のスペックだなぁ…シークレットだし…」と、そんなことを考えながら、サンプルをグラスに注いだ記憶があります。

ただ、それをノージングして、一口飲んで、あれ?これいいじゃん、今の市場の状況なら全然アリだよね、となるのです。
キーポイントはポートカスクです。今回のリリースの熟成は最初の1年強がバーボン樽で、その後がポートワイン樽という変則スペック。本来、この熟成年数で若いアイラモルト、特にラガヴーリンのようにパワフルで個性が強いものは、ピートも麦芽風味も力強くわかりやすいのが特徴である一方で、バーボン樽だけだとドライで荒々しい仕上がりになりがちです。
本リリースはそれをポートカスク由来の甘さがうまくコーティングしている。例えるなら一定量の雪が積もった日の景色は、一面の細かい凹凸は隠されているものの、大きなオブジェや地形はその姿を認識出来る。みたいな感じです。

さて、本記事ではあくまで当方個人の予想として、中身がラガヴーリンであると明記しています。
昔、ラガヴーリンのオフィシャル16年は、シェリー樽とは明記されてないものの、シェリー樽熟成原酒が使われているのか?と、専門家や愛好家間で議論になるほど色濃く甘みを感じる構成でした。昨今のものは多少比率が変わったのかチャーリングしたオークとバーボン樽系のフレーバーが分かり易い構成になっており、あれはシェリーではなくカラメルとリチャーオークだったのかなと思うところですが。
こうして甘口でピーティー、パワフルなラガヴーリンを飲むと、現代的なセンスでまとめられたリリースと感じつつも、同時に昔のイメージが思い出されるようでもあります。

ちなみにラガヴーリンは、郭さんがシングルモルトにハマったきっかけの銘柄であり、その後自身のこだわりを形にする中でBAR莨樽開店へと繋がります。
また、表ラベルについては信濃屋からいくつか案が出される中で、選ばれたのは打ち上げ花火を背景にした女性…。これは単に萌えを意識したのではなく、裏ラベルに書かれたように「郭さんの最も大切な人」を彷彿とさせるイラストだったことから。BARの節目を祝う、特別なリリースに相応しいものとなりました。
改めて、3周年と記念ボトルのリリースおめでとうございます。

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【WHISKY BAR & GARELLRY 莨樽について】
2020年に六本木にオープン。莨樽の「莨」は煙草、「樽」はウイスキーの意味であり、大人の嗜好品を嗜む空間として使って頂きたいという郭氏の想い、こだわりのもと、特別な空間、特別なウイスキーを揃え、日々進化を続けている。そのウイスキーのラインナップは1500本以上。造り手の情熱やその国々の文化と共に、一期一会のウイスキーを提供することをテーマに、ウイスキー初心者から、経験豊富なベテラン愛好家まで納得のラインナップを揃える。また、カクテルも旬のフルーツカクテルを中心に準備されている。

WHISKY BAR & GARELLRY 莨樽
住所:東京都港区六本木7-16-5 六本木戸田ビル1F
営業時間:18:00~26:00
定休日:日曜日

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カリラ 14年 2008-2022 バーボンバレル for Wu Dram Clan 52.4%

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CAOL ILA 
Wu Dram Clan 
Aged 14 years 
Distilled 2008/03 
Bottled 2022/03 
Cask type Bourbon Barrel #304738 
700ml 52.4% 

評価:★★★★★★(6)

トップノートはややドライ、バーボン樽由来のオーキーな黄色系果実、合わせてスモーキーで、焦げ感を伴うピート香。ヨードや塩気を伴い、シャープで力強い。
味わいも同様で、アイラ要素を強く感じさせる構成。熟成を経たことによる樽由来のフルーティーさに対して、ピートフレーバーや麦芽風味など、全体的に多少粗さが残っており、それが風強く波立つ海を連想させ、海の要素を際立てている。
余韻はウッディな華やかさもややエッジが立って、スパイシーでほろ苦いフィニッシュ。

クリアでスモーキーで、ほのかな甘さと共にシャープで適度な粗さがある。オフィシャル路線から外れておらず、むしろシングルカスクとしてのバーボン樽の個性と、カリラらしさのしっかりある、ボトラーズリリースらしい1本、
飲み頃という意味では、最初のピーク。まだまだ熟成の余地も残されているが、これ以上熟成し、20年、30年となると、1990年代以降のカリラは樽感が強くなり異なるキャラクターとなるため、個性も楽しめる美味しさとしては10~15年程度が適齢なのかもしれない。

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80年代、90年代、2000年代、傾向の違いはあれど、いつの世代の原酒も流通があり、大外ししたリリースも少なく大概は美味い、まさに安定のカリラ。
ラフロイグ、ボウモア、アードベッグ、ラガヴーリンと、オフィシャルからの原酒提供が止まってボトラーズリリースがほとんどなくなり。時期によっては流通がなく、あってもシークレットアイラ名義という昨今の市場において、変わらない存在感は行きつけの店で頼む「いつもの」のような安心感すらあります。

というか最近のアイラモルトの市場、新規発売された10年以上熟成の蒸留所名表記のボトラーズリリースって、本当にカリラくらいしかないんですよね。
最近だと、30年オーバーの熟成がCoDカリラの32年や、 BARカスクストレングスの20周年記念ボトルでリリースされているところ。ただ、この2種は味わいというより価格的になかなか手が出ないボトル。一方で、10年熟成程度なら現実的だし、面白いモノもいくつかあります。

例えば、以下のワットウイスキーのカリラは、熟成を経て角がとれた酒質からアイラ要素をメインに楽しめるボトルですし、その逆としてフルーティーさが欲しい場合は、今回のボトルを筆頭に、バーボンバレル熟成のものを狙ってみると良いと思います。

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カリラ 32年 1990-2022 51.5% for Wu DRAM Clan
今年WDCがリリースした、MHDオフィシャル扱いのカリラ・シングルカスク。このオフィシャル相当のボトルが国内に流通するということだけでも十分凄いが…現在の市場のオフィシャル30年オーバーというだけあって、勿論価格も凄い。

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カリラ 11年 ワットウイスキー 2011−2022 ホグスヘッド 58.4% 

わかりやすいフルーティーさではなく、樽感は淡く、その分ヨードとピートからなる”アイラらしさ“を味わえる点がポイント。ハイボール向き。
いやいや、そんなことしなくても、カリラはオフィシャル12年が充分美味しいじゃないか。という意見も聞こえてきそうですが、ことピートに関しては加水じゃダメなんです。確かにバランスや飲みやすさとしては、オフィシャル現行のカリラや、その他アイラモルトも悪く無いクオリティがありますし、個人的にも普段はそれで十分です。
カリラ以外だと、キルホーマンのマキヤーベイの最新ロットとか飲んでみてください。凄いレベル上がってます。

ですが、加水やフィルタリング、あるいは複数樽バッティングでエッジの丸まったピートや麦感じゃなくて、カスクストレングスでバチっと効いたボトルが飲みたくなる時もあるのです。
そんなシングルカスク/カスクストレングスリリースにいつまでも居てくれるカリラの偉大さに感謝しつつ、今日の記事の結びとします。
ほんと、このまま安定してリリースされ続けて欲しいものです。

アンネームドアイラ 30年 1991-2022 WDC 3rd Anniversary Collection 51.4%

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UNNAMED ISLAY (Lapharoaig)
Wu Dram Clan 3rd Anniversary Collection
Aged 30 years
Distilled 1991
Bottled 2022
Cask type Bourbon barrel #2674
700ml 51.4%

評価:★★★★★★★(7)

ラベルの圧に反して、あるいは度数に反して香味は上品で複雑。穏やかな香り立ちから、華やかなオークとナッツ、乾いた麦芽に角の取れたスモーキーさ、柑橘やグレープフルーツ。
口当たりも同様に、じんわりと角の取れた柑橘感とオークフレーバー、ピートスモーク、海のアロマが混ざり合って広がる。
最初の一口も美味いが、二口目以降に複雑さが増してさらに美味い。熟成は足し算だけではない、引き算と合わさって作られる、上質な和食のような繊細さが熟成の芸術たる1本。

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香味の傾向から、おそらくラフロイグと思われる1本。
ラベルからイメージされるバッキバキでゴリゴリな味わい(失礼)ではなく、女性的というか紳士的というか、実に優雅でバランスが取れた長期熟成アイラモルトです。

バーボンバレルで30年も熟成したら、もっと樽感は強く、ウッディでオーク感マシマシな感じに仕上がりそうなものですが、熟成環境が冷涼で一定、それである程度湿度が高く、長期熟成期間中にタンニンが分解されていく過程を踏まえれば、こうしたリリースにもなりえるのか。
この淡い感じは、今回の原酒の供給もとであるシグナトリーのリリースを俯瞰した時に見られる特徴にも一致しており、同社の熟成間強によるものとも考えられます。

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Wu Dram Clanは、KFWSの王子さんを含む、ラベルに描かれている3名の愛好家で構成されるプライベートブランドです。既に数多くのリリースを手がけており、その全てが非常にクオリティの高いスピリッツであると、愛好家間では多少高くてもこのブランドなら、という指標の一つにも鳴っています。

今回のリリースは、同ブランド3周年を記念して、アイラモルト、グレンバーギー、キャパドニックの3種がリリースされたもの。
3名それぞれが酒類におけるスペシャリストと言えるレベルの愛好家であり、このリリースでラベルに大きく描かれたBoris氏は

「our Man from Munich, moving things in the background, hunting and analyzing in cold blood. No matter how tough the negotiations get, Boris will handle it. But in the end it has to be peated.(最終的にはピーテッド化する)」と紹介されるほど、高い交渉力と、ピーテッドモルトに対するこだわりがあるそうです。

その氏がセンターなラベルとあれば、とっておきとも言えるアイラモルトも納得ですね。古き良き時代を思わせる要素と、近年のトレンドを合わせたようなフレーバーのバランス感も、WDCやKFWSのリリースによく見られる傾向です。
改めて非常にレベルの高い1本でした。

キルホーマン 7年 2013-2021 #623 for HARRY'S TAKAOKA 57.1%

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KILCHOMAN 
Aged 7 years 
Distilled 2013.8 
Bottled 2021.4 
Cask type 1st fill Bourbon Barrel #623 
Selected by T&T with くりりん 
Exclusively for HARRY'S TAKAOKA 
700ml 57.1% 

評価:★★★★★★★(6-7)(!)

香り:ややドライな香り立ち。フレッシュで強いピートスモークと合わせてシトラスのようなシャープな柑橘感、薬品香のアクセント。奥には煙に燻された黄色系フルーツが潜んでおり、時間経過で前に出てくる。

味:香りに反して口当たりは粘性があり、燻した麦芽やナッツの香ばしさ、ほろ苦さに加え、熟したグレープフルーツやパイナップル等の黄色系の果実感。年数以上の熟成感も感じられる。
余韻は強くスモーキーでピーティー。麦芽の甘みと柑橘感、微かに根菜っぽさ。愛好家がアイラモルトに求めるフルーティーさが湧き上がり、力強く長く続く。

若さを感じさせない仕上がりで、ストレートでも充分楽しめるが、グラスに数滴加水するとフルーティーさがさらに開く。逆にロック、ハイボールは思ったより伸びない。香味にあるシャープな柑橘香、燻した麦芽、黄色系フルーティーさの組み合わせを既存銘柄に例えるなら、序盤はアードベッグで後半はラフロイグのよう。粗削りであるが良い部分が光る、将来有望な若手スポーツ選手に見る未完成故の魅力。エース候補の現在地を確かめて欲しい。

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富山県高岡のBAR HARRY'S TAKAOKA(ハリーズ高岡)向けPB。2017年にウイスキーBARとしてリニューアルした同店の、4周年記念としてボトリングされたものです。
ボトリングは昨年12月頃から調整しており、本当は8月上旬に届くはずが、コロナの混乱で1か月スライド…。同店の周年には間に合いませんでしたが、中身はバッチリ、届いて着即飲してガッツポーズしちゃいました。今回は、そんな記念ボトルの選定に関わらせてもらっただけでなく、公式コメント掲載や、ラベルに名前まで入れて頂きました。

今回のリリースの魅力は、7年半熟成と若いモルトでありながら、若さに直結するフレーバーが目立たず年数以上の熟成感があること。そしてブラインドで出されたら「ラフロイグ10年バーボン樽熟成」と答えてしまいそうな、余韻にかけてのピーティーなフルーティーさにあります。

キルホーマンは、バーボン樽で7~8年熟成させると好ましいフルーティーさが出やすくなる、というのは過去の他のリリースでも感じられており、その認識で言えば、今回のボトルの仕上がりは不思議なものではありません。
ただ、個人的な話をすると、キルホーマンは2019年に話題になった100%アイラ9thリリースで醸成された期待値や、グレンマッスル向けキルホーマンでの経験もあって、「100%アイラこそ正義」と感じてしまっていた自分がおり。。。ノーマル仕様の酒質の成長に注目していなかったため、尚更驚かされたわけです。

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本記事では、今回のボトルの魅力を語る上で、キルホ―マン100%アイラにも少し触れることとします。
100%アイラとノーマルリリースの違いは、麦芽の製麦工程にあります。
100%アイラは蒸留所周辺の農家が生産した麦芽を、キルホーマン蒸溜所でモルティング。生産量は年間全体の25%で、設備の関係かフェノール値も20PPM程度と控え目に設定されています。一方で、今回のリリースを含むノーマルなキルホーマンは、ポートエレン精麦工場産の麦芽を使用し、50PPMというヘビーピート仕様となっています。

ローカルバーレイスペックでフロアモルティングした麦芽を前面に打ち出しているためか、あるいはピートを控えめにしているためか、100%アイラは麦芽風味を意図的に強調してボディを厚くしている印象を受けます。
そうしたフレーバーは、今後の熟成を経ていく上で将来性を感じさせる大事な要素でしたが、全体の完成度、バランスで見たときに、現時点ではそれが暑苦しく過剰に感じられることもあります。

今回のボトルは100%アイラほど麦感やボディはマッシブでなく、ピートが強めでボディが適度に引き締まったスタイリッシュタイプ。昔のCMで例えるなら、ゴリマッチョと細マッチョですね。
また、キルホーマンの製造工程の特色としては発酵時間を非常に長く取っており、かつては70~80時間程度だったところが、現在は最長110時間というデータもあります。そうした造りの変化が由来してか、これまでリリースされてきた2000年代のビンテージに比べて酒質の雑味が控えめで、フルーティーさがさらに洗練されているのです。

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つまり、過剰に麦感や雑味が主張しないからこそ、樽感(オークフレーバー)を上手に着こなし、今回のようなアイラフルーティータイプに仕上がったと。
この原酒が後5年、10年熟成したらさらに素晴らしい原酒になるかと言われると、樽感が強くなりすぎてややアンバランスになってしまうのではないかという懸念もありますが、1st fillバーボン樽ではなくリフィルホグス等を使えば15年、20年という熟成を経た、一層奥行きあるフルーティーな味わいも期待できると言えます。

もはや優劣つけ難い2つの酒質と、それを生み出すキルホーマン蒸留所。
近年、アイラモルトのオフィシャルリリースが増え、安定して様々な銘柄を楽しめるようになりましたが、一方でシングルカスクorカスクストレングスの尖ったジャンルは逆に入手が難しくなりました。愛好家が求める味わいを提供していくという点で、10年後にはアイラモルトのエースとなっている可能性は大いにあります。

以上のように、ウイスキー愛好家にとって魅力ある要素が詰まったキルホーマン蒸留所は、ハリーズ高岡が目指す「ウイスキーの魅力を知り、触れ、楽しむことが出来る場所」というコンセプトにマッチする蒸留所であるとも言え、同店の節目を祝うにピッタリなチョイスだったのではとも思えます。
今後、何やら新しい発表も控えているというハリーズ高岡。北陸のウイスキーシーンを今後も支え、盛り上げていってほしいですね。

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(2017年8月、リニューアルした直後のハリーズ高岡のバックバー。オフィシャルボトルが中心で、現在と比べると実にすっきりとしている。これが数年であんなことになるなんて、この時は思いもしなかった。現在はウイスキーバーとして北陸を代表すると言っても過言ではない。)

なお、なぜ富山在住でもない自分が、ハリーズ高岡の周年記念ボトルに関わっているかと言うと…本BARが4年前にリニューアルした直後、モルトヤマの下野さんの紹介で訪店。以降、富山訪問時(三郎丸訪問時)は必ず来店させてもらい、周年記念の隠し玉を贈らせてもらったり、勝手にラベル作って遊んだりと、何かと交流があったことに由来します。あれからもう4年ですか、月日が経つのは早いですね…。

そんな節目の記念ボトルにお誘い頂き、関わらせてもらったというのは、光栄であるという以上に特別な感情も沸いてきます。関係者の皆様、改めまして4周年おめでとうございます!

Harrys takaoka


※補足:本リリースへの協力に当たり、監修料や報酬、利益の一部等は一切頂いておりません。ボトルについても必要分を自分で購入しております。


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