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【咲グラス】ウイスキーをストレートで楽しむための最適なグラスづくり

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ウイスキーのブラインドテイスティングで定期的に競い合い、ライバルとも言っていい関係にあるシズタニエンこと静谷和典氏から「オリジナルグラスが出来上がったので、使用感を教えて欲しい」と連絡頂き、そのサンプルを使わせいただきました。

今回のオリジナルグラスの構想、出発点はハイボールでウイスキーに慣れ親しんだ人たちに、さらにウイスキーを楽しんで貰うにはどうしたらいいか。
ウイスキーの個性を全面に打ち出したカクテル「ウイスクテイル」や、ウイスキーをストレートでフードとペアリングする「ウイスキーニコラシカ」など、バーマンならではのアイディアを形にしてきた静谷さんが、純粋にウイスキーそのものを、つまりウイスキー単体をストレートで楽しんでもらうためのツールとして打ち出したのが、オリジナルテイスティンググラス「SAKI(咲)グラス」でした。


咲(SAKI)グラス
製造:非公開(国内にて職人のハンドメイド)
設計・監修:静谷和典

※咲グラス先行販売サイト:https://ideamarket.yomiuri.co.jp/projects/whisky-glass2022
9月15日(木)午前0時から、100脚分が先行販売されます。(酒販店や百貨店等で通常販売も調整中とのこと。)

グラスの製作エピソードやこだわりの数々は、上記URL先のクラウドファンディングサイトにまとめられています。
自ら手吹でグラスを作った経験、既存テイスティンググラスの分析、3Dプリンタを使った試作の数々、そしてブランド化する上での戦略…コロナ禍という苦境の中、休業という普段は生まれなかった時間を使った挑戦。
素直に凄いなと、同年代でここまでやれるのかと、ただただ感服する内容となっています。

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さて、当ブログでは咲グラスの使用感や、色々使ってみた上で見えてきた特性、ウイスキーのジャンルとの相性に焦点を当ててまとめていきます。
エピソードをあらためて紹介するのも良いですが、どういう性能のグラスなのか、実際に使用した印象を知りたい人が大半だと思いますので。。。
で、どうだったかというと。ウイスキーの良い部分を引き出し、親しみやすくする。まさに「ストレートでウイスキーを楽しむ」というコンセプトの通りのグラスだったのです。

香り:開かせて馴染ませる。各要素を引き出しつつ、特にウイスキーそのものが持つ麦芽や樽由来の甘さを引き立てて馴染ませることで、アルコール感を和らげる。

味:口当たりの部分がフィットするようにアーチを描いており、ウイスキーが抵抗なく口の中に導かれる。それによって口当たりが良く、アルコール感も穏やかに感じられる。

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相性:長期熟成から短熟、バーボンからスコッチ、あるいはラムやコニャックなど、多くの銘柄、ジャンル、仕様にマッチするオールマイティさが最大の魅力。
強いて言えば、甘さよりもクリアでシャープなピート香を楽しみたいようなアイラモルトは開かせる香味の傾向が異なるため、違うグラスを選びたい。また、香りが強い酒類に向いているため、香りがそもそも立たないような安ウイスキーは期待できない。40%台のブレンデッドよりは45%以上ある比較的個性のはっきりしたリリース(シングルカスクなど)に適正がある。
例えば、ジャパニーズクラフトで10年未満の高度数ウイスキーに対し、非常に良い仕事をしてくれる。

その他:全体としては適度な大きさで、ステムは細く、軽く仕上がっており、手に持った際に違和感が少ない(重量、70〜80g)。一方で、ボウルやリムは某社最高級ワイングラスのような薄さではなく、例えばケースに入れて自然に持ち運べる程度の耐久性が見込めるのも特徴と言える。

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以上が一般に使われている、ノーマルなテイスティンググラス、グレンケアン、国際規格グラス等と比較しながら、色々と飲み比べてみた使用感、感想です。特に初心者向けと見た場合ほとんどダメ出しするところのない、非常に良いグラスでした。

タイトルにある「ウイスキーをストレートで…」ひいては、ハイボールからのステップアップでウイスキーの個性をストレートで楽しんでほしいというコンセプトに対して、飲み慣れない人が敏感に感じ取る要素、飲みにくさに繋がる粗さ、アルコール感を軽減し、日本人が美味しさの基準にするといっても過言ではない「甘さ」を引き出す点が、グラスの特性として特筆すべきところです。

また、現在長期熟成の原酒が枯渇し、リリースも高騰しています。そのため、ウイスキーとしてテイスティングする機会が増えているのは、20年熟成未満のスコッチやアイリッシュ、5〜10年程度のジャパニーズ。バーボンは元々長期熟成の流通量が少なかったですが、全体的に甘みが弱くなり、ドライな傾向にあります。その他、コニャックやラムなどが代替品として注目されていますが、これら今後の市場の主力商品とも言えるジャンルの良さを引き出す事も、咲グラスに期待できる特性です。
静谷さんはこれを科学的に分析して作ったわけではなく、さまざまな試行錯誤の中で、自身の経験を交えて導き出した。バーマンであり、マスターオブウイスキーだからこその経験と知識、そして直感による作品とも言えるわけです。

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形状を分析すると、グラスのボウル(底)部分が同じサイズのものより大きく広がって、それがポットスチルに見られる形状のように一旦すぼまることで、香りを広げるスペースが作られている。
このスペースでは、香りのポジティブな要素もネガティブな要素も増幅されますが、そこから口をつけるリムにかけて口径が広がり、スペースから距離がとられていることで、アルコール感が拡散し、まとまって鼻腔に届かないような構造であることが伺えます。

これが例えば、上の写真中央にある、卵の上部分をすっぱり切ったような… 自分がよく使っている木村硝子のテイスティンググラス0番や、さらに飲み口が窄まっている形状のものだと、香りの良い部分も悪い部分も、またアルコール要素が強く残って、飲み慣れた人向け、玄人向けのグラスになっていたのではないかと考えられます。

また、上の写真右側にある、Kyoto Fine Wine & Spirits さんのオリジナルグラスのような、液面から鼻腔までの面積と距離がある、大ぶりのグラスだったらどうなるか。
これはウイスキーの熟成感や奥行き、複雑さが試される構造になり、長期熟成ウイスキーは存分にその魅力を開かせる一方で、若いウイスキーには向かない形状になっていた。
つまり静谷さんが目指していた入門向けグラスとは異なるコンセプトになっていたわけで、こうして結果だけ見ると、これ以外に正解はないと思えるくらい、ダメ出しのしようがないグラスだったのです。

まあ、強いて言えば…香りを開かせる空間、変化の大きな形状が、最後の一口になるといつもの3割増しくらいでグラスを傾けないとウイスキーが口に入ってこない、というくらいでしょうか。。。口当たりについてはタリランド(写真左)のような構造で、ウイスキーがスッと口の中に入るのですが、機能面と造形面のバランスの問題で、難しい点なのです。
あんまり褒めすぎると、ステマ感が増してしまうのでイヤなんですけどね、正直このグラスには驚かされました。

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最近、ウイスキーグラスのリリースが増えてきて、さまざまな形状のものが誕生しています。
ただ、ウイスキーは1990年頃までは、ブレンデッドが中心の市場であり、そこから冬の時代を経て、2000年代に入ってシングルモルトが普及し始めた。
つまり飲みやすさ重視の時代から、個性を楽しむ時代が到来したのは直近10年程度のことであり、個性を楽しむ飲み方としてストレートが、ツールとしてテイスティンググラスが注目されるようになったのは、本当に最近のことなんですよね。

そしてその流れの中で、地域の特徴、品種の違い、テロワールと言われる要素を紐解くためにさまざまなグラスが造られたワインに倣って、多くのグラスが造られるようになっていくのは自然な流れであるように感じます。
ウイスキー業界におけるテイスティンググラスは過渡期にあり、今後はスタンダードなものから樽や度数、地域によってグラスの形状が確立していくのでは無いかと予想しています。

その中で、今回発表された咲グラスは、造り手と設計者の確かな知識、経験、技術によって作られる、ウイスキーの入門から応用まで幅広くカバーするオールマイティなテイスティンググラス。
グレンケアンに物足りなさを感じた人は、ぜひ一度手に取って、あるいは静谷さんのBAR(LI VET、Whisky Salon)で注文して、その違いを体感して頂けたらと思います。

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お酒の美術館 祥瑞 & 発刻 オリジナルブレンデッドウイスキーのリリース

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全国にBARチェーンを展開する”お酒の美術館”から、同社初となるプライベートボトル、ブレンデッドウイスキー祥瑞(しょうずい)発刻(はっこく)が、各200本限定でリリースされます。
ウイスキー原酒の提供、製造は長濱蒸溜所。ブレンダーはくりりんが務めさせて頂きました。
※いつものように、趣味の活動の一環としての協力であり、売り上げや監修料といった報酬は一切受け取っておりません。

どちらのウイスキーも、長濱蒸溜所のモルト原酒、同社が輸入したスコッチグレーン、スコッチモルトを用いたブレンデッドウイスキー。
祥瑞は入門向けのブレンドであり、軽やかでフルーティーな、わかりやすさを重視した味わい。
発刻は愛好家向けのレシピであり、どっしりとスモーキーでシェリー樽原酒の効いた濃厚かつ複雑な味わいが、それぞれ特徴となっています。

また、祥瑞は47%に加水調整して飲みやすさを重視し、ウイスキーに馴染みのない方でもロックやハイボールで気軽に楽しんで貰う確信とをイメージして、価格もその分控えめに。
一方で発刻は加水調整をしていない、58%とハイプルーフ仕様のブレンド。シェリー系でヘビーピートという愛好家が好む、ちょっと尖った仕上がりをイメージしてブレンドしました。

ラベルやブランド名についてはお酒の美術館側で作成されており、私は一切タッチしていませんが、ラベルには源氏物語絵巻が用いられ、日本的な雰囲気と共に複数枚で1つとなる構想が。祥瑞は吉兆を、発刻は始まりを意味する単語であり、お酒の美術館のPBシリーズがこれから始まる、その行く先が明るいものであることを期待したネーミングとなっています。

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企画が動き出したのは昨年末。。。そうなんです、動き出してから半年経ってないんです(笑)。自分も大概ですが、この会社のスピード感ヤバいですね。
制作にあたり「1本は入門向けで、1本は愛好家向け、価格は同店の提供価格帯から外れないもの」という指定は受けていました。そして「後はくりりんさんに任せます」とも。
いち愛好家にすぎない自分を信頼頂いた、とても光栄な申し出ではあるのですが、酒美常連として変なものは作れませんし、責任も重大です。

だってコロナ明けで昔のように気軽に夜出歩くようになった時、自分のブレンドがいつまでも減らずに残っていたらと思うと…ぞっとします。
ただ今回、原酒を提供いただくのは長濱蒸溜所です。勝手知ったるとは言いませんが、これまでPBで何度もお世話になっているので、企画の進め方や原酒の個性を掴みやすいのは有り難かったです。(長濱蒸溜所からも、自分の起用を推薦してくださったとも聞いています。)

ということで、連絡を頂いてから速攻で伊藤社長&屋久ブレンダーに連絡をとり、コンセプトに自分のイメージを加えて原酒のピックアップを依頼。
ここも早かったですね、1週間程度でモルト、グレーン、10種類の原酒が揃う長濱蒸溜所のスピード感。入門向けで3種、愛好家向けで3種、計6種のレシピを作成し、屋久ブレンダーとも相談しながら、加水やレシピの微調整を実施。
最終的にどれをリリースするか、そもそも企画を進めるかは、お酒の美術館にお任せしました。

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(今回のブレンドの原酒候補。ここにもう一つ加わって10種類のモルト・グレーンウイスキーからレシピの模索を行った。)

結果、選ばれたレシピのキーモルトとなっていたのが、どちらも写真右側の1本、ラインナップの中で異彩を放つ濃厚なシェリー樽熟成原酒(長濱蒸留モルト)です。
また左側にある色の薄いモルトウイスキーは、リフィル系の樽構成ながらフルーティーでモルティーな味わいが魅力的。ここに20年熟成のグレーンウイスキーを加えて、祥瑞と発刻の主要構成原酒となっています。

この3種の原酒だけなら2つのレシピの香味はそう変わらないところ、ここがブレンドの面白さです。
これらをベースとして、長濱蒸溜所のヘビーピート原酒や、熟成輸入原酒など、他に使用した原酒の比率や個性で、味わい、熟成感、全く違うスタイルにが仕上がったのは記載の通り。軽やかでフルーティーな祥瑞、リッチでピーティーな発刻。是非、飲み比べもしていただけたら嬉しいです。

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THE SHOZUI 
BLENDED WHISKY 
“Sherry & Fruity”
Malt 90 : Grain 10
Blender Kuririn
Bottled by Nagahama Distillery
700ml 47%


乾いた麦芽香にケミカルなフルーツ。洋梨、シトラス、パイン飴。軽やかなフルーティーさが香味の主体で、奥にはホームパイのような香ばしいモルティーな甘さも感じられる。
余韻は軽いスパイシーさとメローな甘み、染み込むようなフィニッシュ。
飲み方はなんでも。個人的にはスターターな1杯。ハイボールで気軽に飲んでほしい。

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THE HAKKOKU
BLENDED WHISKY
“Sherry & Peaty” 
Malt 90 : Grain 10
Blender Kuririn
Bottled by Nagahama Distillery
700ml 58%


燻製チップ、ベーコン、BBQソースを思わせる、スモーキーで香ばしく甘いアロマと、ピーティーでリッチなシェリー感を伴う口当たり。ドライプルーンや濃くいれた麦茶、奥にはエステリーな要素もほのかに混じる。
余韻はスパイシーでビター。どっしりとしたスモーキーフレーバーが長く続く。
飲み方はストレートか少量加水で。

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記事のまとめとして、お酒の美術館の近況について。
同BARはリサイクル業等いくつかのビジネスを行っていた、株式会社のぶちゃんマンが運営する事業の一つです。
同社はバブル期や第一次洋酒ブームで輸入されたウイスキー、つまりリユースのオールドボトルを使ったBAR事業に注目し、2017年に京都に1号店(三条烏丸本店)を開店。その後2018年には神田店を、さらには日本各地にフランチャイズ店を展開し、2022年4月1日には銀座店(写真上)も出店されています。

1コインから手軽にウイスキーが飲めるというコンセプトや、駅地下商店街、コンビニ等と提携し、独自の経営システムを構築することで、現在は日本全国で約40店舗と、とてつもないスピードで成長を続けています。
その独自システムの1例がフード提供です。同BARは大半の店舗で「持ち込み自由」であり、中には3月に開店した関内マリナード店のように、近隣飲食店のメニューが置かれて注文が取れる店舗や、「ファミチキ専用ハイボール」なんてメニューがある店舗まで。
下町の個人経営の飲食店とかだとたまに見るシステムですが、全国チェーンでってのは珍しいですよね。

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一方で、急拡大するお酒の美術館には、スタッフのバーマンとしてのスキルが未熟であるとか、オールドボトルの状態良し悪しの見分けがつかないとか、人材的な問題点を指摘する声もあります。
勿論同社として研修は行っているようですが、ただでさえ人材の乏しい業界で、これだけの急拡大。速成教育の弊害というか、既存のオーセンティックBARに比べたら、いわゆる安かろう悪かろうに見えてのことだと思います。

ですが、中にはしっかりとしたスキルを持たれている方も居ます。元神田店の店長で、現在銀座店でカウンターに立つ上野さんはその代表。ウイスキーの状態判断はもちろん、カクテルも銀座にあって恥ずかしくないレベルのものを提供されています。

じゃあその上野さんも神田店開店の3年前はどうだったかというと、同BARの強みであるオールドボトルの知識は走りながら学ばれてきたというのが嘘偽りないところだと思います。現在は銀座店でワインやシャンパンも多く扱うようになったので「勉強しないと…。」と悩まれていましたが、これもすぐに立ち上がるんじゃないでしょうか。
他の店舗でも、20歳ちょっとで入ってきた若手が、1年後には範囲こそ限定的ながらバリバリにオールドブレンドを語れるくらいに成長していたり。同店から別なBARに転職し、その知識を使って看板的な立ち位置を掴んでる人も。
無茶振りってのもある程度までは有効で、環境は人を育てるんだなと感じます。

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お酒の美術館は気軽にお酒を楽しめる分、足りないものはお客が補うくらいでちょうどいいと、私は考えています。
そしてお客がもたらす知識や情報を、現場のスタッフが吸収して、気がつけばお店として独自の空気、スタイル、魅力を身に纏っている。お店としては開店時点でタネが植えられているような状態で、何がどう育つかは環境次第という、そんなイメージがあります。

その意味で、今回リリースされたお酒の美術館初のオリジナルウイスキー「祥瑞」と「発刻」は、経験こそあれどアマチュアであるお客の1人にブレンドを任せるというのが、お酒の美術館らしい企画と言えるのかもしれません。
であれば、私もこのウイスキーのブレンダーとして、皆様からいろいろ意見・感想を伺いたい。そして、お酒の美術館だけでなく、あるかもしれない次の企画に向けて、実績の一つとしたい。
そう、気がつけば今年は既にT&T TOYAMAのTHE LAST PIECEとで、4種類のブレンドに関わっているんですよね。愛好家兼フリーのブレンダー、新しいじゃないですか(笑)。

改めまして、貴重な機会を頂き感謝の念に耐えません。このリリースが、お酒の美術館にとっても、私にとっても、吉兆であり、将来に向けて動き出す後押しとなることを祈念して、本記事の結びとします。

Twitter スペース放送のご案内 12月5日 22:00~ OKIBA -ON AIR- 4th

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OKIBA -ON AIR- 4th 
12月5日(日)22:00~ 
@WarehouseWhisky 

https://twitter.com/WarehouseWhisky  

毎月恒例のTwitter スペース放送を今月も開催します。
開催日は、今日、今夜です!
ほんとは昨日までにはブログ記事UPしようと思っていたんですが、寝落ちしましたスイマセン…。
さて、今月も前回同様に以下の流れで話題のボトルや蒸留所の情報、ちょっとした裏話等を含めて取り上げていきます。

【放送内容】
⓪冒頭:近況報告など
①最近の注目ボトル:厚岸蒸留所 シングルモルト 立冬

②日本のクラフトウイスキー蒸溜所紹介:三郎丸蒸留所
③今月のホットトピックス:京都Fine Wine & Spiritsさんの最近のリリース紹介
④質問受付、フリーセッション

※spaceの参加方法について、わからない方は適当にぐぐってください。上述のTwitterアカウントをフォロー頂ければ、時間になるとTwitterアプリの画面上にスペースの情報が表示されるかと思います。

※トップの画像にも記載してありますように、この放送は洒落たBGMなんてなく、くりりんがひたすら1時間強話し続ける放送です。

参加頂く皆様は、各自お手元に飲み物と、そして別途BGMを調達してご参加いただけますと幸いです。


~以下、参考資料~

①最近注目のボトル:厚岸蒸溜所 シングルモルト 立冬
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厚岸蒸溜所から11月末に発売された、24節気シリーズの最新作。第5弾となる立冬です。

既に飲まれた方も多いのではないでしょうか。
今作は、事前情報として、北海道産ミズナラ樽原酒をキーモルトとしていること、シェリー樽の原酒を多く使っていることが明かされていましたが、そうした事前情報から色濃い味わいのリリースになるかと思いきや、色合いは薄紅色を帯びたライトゴールド、香味も予想と傾向が異なっていました。
この辺りについて、レシピの予想も含めて話をしていきたいと思います。


②日本のクラフトウイスキー蒸留所紹介:三郎丸蒸留所
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先日、2018年蒸留の原酒を用いた三郎丸Ⅰ ”THE MAGICIAN” がリリースされ、いよいよその本領を発揮してきた、三郎丸蒸溜所。
三郎丸蒸溜所は毎年なんらかのリニューアルを行っているため、どの段階がとは整理しづらいですが、ポットスチルを蒸溜所の象徴とするなら

・2016年以前(旧設備時代)
ーーー大規模リニューアルーーー
・2017-2018年(改造スチル時代)
・2019年〜(ZEMON時代)

として整理できます。
3年前のブログ記事にニューメイクのレビューを掲載しましたが、この大規模リニューアル後、特にマッシュタンが置き換わり、酒質が大幅に向上した2018年からが真の意味で旧世代から脱却したと言えます。

それもあって三郎丸のリリースは2017年がゼロ、2018年が始まりのイチとなっているわけで。
今回の放送では、その酒質の変化や蒸留所の最新動向について、THE MAGICIAN のテイスティングも交えて紹介していきます。

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※2018年から導入された三宅製作所製マッシュタン。三郎丸Ⅰ販売時のクイズにもなったが、左側に映る制御盤は稲垣氏の自作。またサイトグラスがない事が特徴であるが、覗き窓があるため分かりづらく、正答率1割を切る難問となった。

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※2021年の仕込みから、発酵層に導入された設備。酵母をあえて飢餓状態にすることで、乳酸発酵をコントロールする。

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※2020年から貯蔵を開始した第二熟成庫。左側にはバーボンバレル、右側には三四郎樽(ミズナラ樽)が見える。

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※原酒のチェックをする稲垣マネージャー。同蒸留所は様々な樽を有しており、実験的な熟成も行う。スパニッシュオークのシーズニングシェリー樽に可能性を感じる…。

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※三郎丸蒸溜所同様、今後の展開が楽しみなT&T TOYAMA。Breath of Japanのリリースが待ち遠しい。


京都Fine Wine & Spiritsさんの最近のリリース紹介
今ウイスキー愛好会の中でブランドを確立し、京都さんのリリースなら間違いないとも評価される、インポーター兼酒販の同社。元々愛好家が立ち上げたブランドだけに、ウイスキー以外のリリースでも視点が愛好家に合いやすいのでしょう。

代表(自称・雑用兼ボトル発送係)の王子さんとはブランド立ち上げ以前から交流があり、なにかと気にかけて面白がって頂いて、唐突にサンプルが届くことも。。。
そんなわけで、今回はメイントピックスとして、同社の最近のリリースをレビューさせて貰います。

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※上段左から
・Aurian 1979 for Wu Dram Clan 46.5%
・Aurian 1967 for Wu Dram Clan 48%
・Château de Gaube 1962-2020 for Wu Dram Clan 48.6%
・Cognac Grand Champagne VALLEIN TERCINIER 1970 for Wu Dram Clan
・Cognac Grand Champagne PRUNIER 1967 for Wu Dram Clan
・Cognac Grand Champagne Grosperrin 1933-1939 Heritage for Wu Dram Cran 700ml 47.4%

アルマニャック3種とグランシャンパーニュ・コニャック3種。
今回リリースされたAurian1979は、一昔前のカラメルシェリー系のニュアンスを思わせるリッチな味わい。Aurian1967はリフィルシェリーホグスヘッド樽で長熟したスペイサイドモルトのような、甘酸っぱさと華やかさがある、どちらもウイスキー好きに刺さるだろうフレーバーが魅力。言い換えればアルマニャックらしさの少ない2種に対して、
Château de Gaube 1962は土っぽさというか、葡萄の風味に野生味が混じるというか、アルマニャックらしさがある。傾向の違いも面白いです。

一方で、グランシャンパーニュ3種は、
VALLEIN TERCINIER 1970がリッチなフルーティーさ、PRUNIER 1967は華やかでいかにもこの地方のコニャックらしさ。Grosperrin 1933-1939は80年を越える長期熟成でありながら香味が繊細で、しかし奥行き、余韻は段違いに長い。。。
それぞれ銘柄、蒸留所が異なるため、酒質と樽の違いも感じられるのが面白さだと言えます。

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・ARDBEG 2001-2021, Wu DRAM Clan's Private Reserve KFWS cask no.348
・Finest Jamaican Rum Over 25 years old 50.1%
・BenRiach 1997 63.1% & 55.7%

京都Fine Wine & Spiritsさんは、ラムやコニャックなど、ウイスキー以外のリリースにも精力的であるところが面白さ、インポーターとしての魅力ですが、ウイスキーそのものも尖ったリリースが多くあります。
話題のアードベッグ2001レアカスクや、ベンリアック1997の別仕様についても紹介していく予定です。


④フリーセッション
ラストは質問コーナーと、飛び入り参加可のオープンセッションです。
今回は、「え、そんなこと自分に聞くの?」というような質問も頂いています。
明日は平日ですから、ゆるっと寝不足にならない範囲でトークしましょう!

それでは皆さま、今夜もよろしくお願いします。

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【経過報告】ハリーズ金沢 クラウドファンディング続報 (11月18日まで)

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ハリーズ金沢
〒920-0853
石川県金沢市本町1丁目3-27 2F
TEL:0762258830 
OPEN:2021年11月23日
SNS:https://twitter.com/TazimaKazuhiko

先日、当ブログで紹介させていただいた、ハリーズ金沢のクラウドファンディング。
無事目標額を達成し、支援額は現在350万円オーバー。ネクストゴール500万円に挑戦中です。

一方で、既に店舗は予定していた工事に着手しており、ハリーズ高岡時代は溢れにあふれていたボトル約1000本も、金沢店では綺麗にバックバーに配置完了。グランドオープン11月23日に向けて更なる準備を進めていくところとのことです。
(マスターの田島さん曰く、今後はバックバーにボトルはきっちり収納し、カウンター上はまっさらに保ちたいとのこと…本当に大丈夫でしょうか(笑))

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そういえば、前回の記事ではさわり程度しか紹介しなかったハリーズ金沢ですが、ただのBARではないんですよね。
1Fにはリカーショップ併設の、ステーキハウス「薪火三庵」がOPEN。このステーキハウスは、肉を焼く際、ウイスキー熟成後の樽材やミズナラ材等を使って焼き上げるとのこと。

樽材で肉を焼いたことはありませんが・・・、アウトドアでウイスキーかけながら焚火で肉を焼いたことはあり、独特の甘い香りと炭火とは違う焼き上がりが美味しかった印象があります。それを熟成ウイスキー樽材でやるということで、どんなアクセントになるのか楽しみです。

ちなみにクラウドファンディングは11月18日までであるところ、日程の関係で支援は今日までなんですが、マスターがネタに走った支援プラン「レセプションご招待プラン」があるんですよね。
T&Tの熟成庫建設クラファンの時に、おもてなしプランと高所作業車名づけ権がありましたが、要するにアレ。
何というか…こんなキャラじゃないのに…無茶しやがって(笑)

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 余談ですが、ハリーズと言えば三郎丸。
その三郎丸蒸溜所からシングルモルト第2弾、三郎丸Ⅰ”THE MAGICAN”の11月29日リリースが正式に発表されました。

前回のリリース、三郎丸0の仕込みは蒸溜所リニューアル直後の2017年。そこから比較して2018年は三宅製作所のマッシュタンを導入した仕込みの年で、ニューメイクをテイスティングした限り明らかに酒質が向上しており、当ブログでも「愛好家が三郎丸蒸溜所への評価を改める時が来た」と記事にした、その仕込みの原酒です。
前作も楽しみでしたが、それ以上に今年のリリースが楽しみにならないわけがないでしょうと。

販売方法は抽選で、前回の販売同様…いや、それ以上に難しいクイズが関門となっていますが。三郎丸ファンにとっては問題なく解ける内容かと思います。かくいう私も、リニューアル前から三郎丸を応援している一人で、もはや赤子の手をひねるような…すいません、1問ググりました、白状します。
益々熱を帯びる北陸のウイスキーシーン。金沢、富山、早く現地に行けるようになる日が待ち遠しいです。

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BEHIND THE CASK (ビハインドザカスク) 代表に聞く ブランドコンセプトとリリース方針

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2021年、 青森県で立ち上がったボトラーズブランド「BEHIND THE CASK」
自分の周囲では、先日 T&T TOYAMA社やドラムラッド社が活動を開始しましたが、ウイスキー市場の拡大を背景にまた新しいブランドがスタートしていました。

BEHIND THE CASK
WEB:https://www.behindthecask.com/
SNS:https://twitter.com/BehindtheCask
ADDRESS:〒030-0862 青森県青森市古川2-10-9
TEL:050-8881-6239

同社のリリースについては、独自調達した原酒を日本国内でボトリングしている風景や、フランスの白ワインを思わせる特徴的なボトルデザインが目を引き、注目を集めています。しかし、リリースコンセプトやメーカースタンス、そしてボトルのラベル表記は謎に包まれた部分がありました。

先日、SNSで同社のローンチリリースADN-97の簡易レビューを投稿した際、公式アカウントから「質問を受け付ける」旨のレスポンスを頂き…。
これはチャンスと直接お話しを伺ってみたところ、これまでの日本のメーカーにはない「ワインとウイスキーのハイブリット」視点のコンセプト等、面白い試みが判明したのです。

今回の更新は前編後編構成。前編記事では、同社代表である澤田氏に伺った内容を以下に対談形式でまとめ、先に触れた「謎」の部分を解説していくと共に。後編記事ではリリースされたウイスキー2種についてもレビューしていきます。

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■対談内容まとめ
同社との対談はかなりボリューミーなものになったため、要点を以下にまとめます。詳細まで把握したい方は、本編を確認ください。

BEHIND THE CASK社概要:
・イギリス等で調達した原酒を輸入し、日本国内でボトリング。
・ワインボトルにワインコルク、ラベル含めワインを想起させる外観が特徴。
・2021年8月に1stリリース。1989年5月蒸留のブレンデッドグレーンIGN-89、1997年6月蒸留のブレンデッドモルトADN-97をローンチ。

Q1:なぜワインボトルでリリースしているのか。コンセプトを知りたい。
⇒「ソムリエがサーブするウイスキー」をコンセプトとしている。それは、ワインのようにウイスキーにおいても瓶内変化、温度、グラス等、原酒の変化とポテンシャルを引き出す手法に拘って楽しんで欲しいというメッセージを込めており、コンセプトを体現する為にワインボトルを採用している。

Q2:原酒の調達は?なぜ国内でボトリングしているのか。
⇒原酒調達は元ケイデンヘッド社のマーク・ワット氏に協力頂いている。ボトリングについては、ワインボトルはイギリスの工場ではボトリング出来ず、自分の考えるコンセプトを形にして発信する為、日本で独自にボトリングしている。

Q3:同ブランドのラベル表記(ボトリング日と熟成年数)に関する疑問。
日本ではなくイギリスで樽から払い出されて輸入した原酒について、表記されたボトリング日は国内のもの。イギリスでの払い出し日から間隔が開いていないか。また、日本への輸送期間も熟成年数に含まれていないか。
⇒輸送期間は熟成年数に含まれていないが、既存ラベルは誤解を招きやすい表記だったと感じており次回から修正する。なお、1stリリース2種の払い出しは2021年6月頃で、その後原酒を空輸している。

Q4:疑問は解消したが、こうした情報を発信した方が良いのでは。
⇒ミステリアスなところから興味関心を持って貰えればと考えていた。しかし誤解にも繋がってしまったと思う。今後は当社が考える飲み方、飲み頃等、SNS等で積極的にコンセプトを発信していく。

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■対談本編(対談者:BEHIND THE CASK 代表 澤田氏)
くりりん(以下、く)「…前略…。”BEHIND THE CASK”は、デザインや中身について評判が良いようです。一方で、ラベルを見て疑問に思うところや、ブランドコンセプトがわかりにくいと感じていました。こちらについてまず伺いたいと思います。」

澤田(以下、澤)「お手柔らかによろしくお願いします(笑)。当社のブランド、BEHIND THE CASKは始動にあたってミステリアスなところをアピールしようと考えていました。これは何だろう、どんな会社だろう、興味を持ってもらえるのではないかと考えたわけです。そのため、リリースにかかる情報や、コンセプト等の発信をあえて積極的に行っていませんでした。ただ、結果として一部誤解を招いたところもあったと思います。」

く「私としてもこの機会に正しく理解していきたいと思います。早速ですが、ラベルの表記についてです。まず1stリリースの2本は2021年8月ボトリングと表記されていますが、これらは日本で熟成されている原酒ではないため、樽出しはイギリスと考えられます。つまり日本への輸送期間分、払い出し日が数カ月単位でズレていますよね。」

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澤「はい、当社は日本国内でボトリングをしていますが、原酒は選定したものをイギリス等からタンク又は仮ボトリングした状態で運んできています。そのため、1stリリース2本については、イギリスでの払い出し日から輸送期間があった上で、国内でのボトリング日となります。」

く「日本では法律上ラベル表記の整理がありません。その記載がルール的にNGかというとそうではないのですが、一般的なリリースの理解で言えば、消費者は直前まで樽に入っていたと誤解してしまいませんでしょうか。」

澤「言い訳がましくなりますが、その点まで考えが及んでおらず、多くのお問い合わせも頂きました。おっしゃる通りですので、次回のリリースでは本国側での樽からの払い出し日を明記しつつ、必要に応じて日本での瓶詰め日を併記する形にしたいと思います。」

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(※同社SNSで公開されているボトリング設備の一部)

く「もう1点気になるのが、熟成年数の表記です。例えば今回のボトルADN-97の場合、蒸留年1997年6月に対し、日本でのボトリング日2021年8月からの起算で熟成年数がカウントされていませんでしょうか。海路で運んだ場合、イギリスからではどんなに早くても4カ月、今は半年くらいかかってしまうと思います。そうなると、熟成年数は24年ではなく23年ではないかと思うのですが。」

澤「実は今回は、イギリスから原酒を輸出してもらう直前で輸出方法に関して待ったがかかり、時間が無かったため空輸に切り替えたのです。当初、選定した原酒をタンクで輸入する予定だったのですが、本国側で仮ボトリングしてくれと言われてしまい。。。AND-97の払い出しは2021年6月で、そこから1か月程度で国内へ。ラベルには2021年8月と表記して造ってしまっていたため、日本国内での詰替えが急ピッチの作業となってホントに焦りました(汗)」

く「エアーだったんですね。それなら納得です。また仮ボトリングという苦肉の策をとったことや、ラベルの表記が消費者の疑問に繋がってしまったと。熟成年数についてはこちらの深読みしすぎだったこともわかりましたし、個人的に最大の疑問点がクリアになりました。」

日本におけるPB ボトラーズの整理
(※日本のボトラーズブランドがPBリリースを行う流れの概要図。本国でラベル貼付け含めボトリングを行うケース①はSWAの審査が厳しいことや、ラベルの自由度が著しく制限されることもあり、現在はSWAの基準を満たす仮ラベルで審査を通し、日本国内で独自のラベルに張り替えるケース②が多い。BEHIND THE CASK社のリリースはケース③の予定が、ケース②とのハイブリッドになったもの。)


■ボトル形状とリリースコンセプトについて
く「BEHIND THE CASKのリリースは、やはりこのシャトーイケムを思わせるワインボトルやコルク、ラベルデザインが目を引きます。1stリリースでは日本国内で詰め替えてまでこのボトルにしている、これらには狙いがあるのでしょうか。」

澤「この説明は、当社が目指すモデルメーカー、当方の経歴、リリースコンセプトという順に説明させて頂ければと考えています。
まず、当社はフランスのウイスキーボトラーズ、ミシェル・クーブレ社を、目指すモデルの1つに掲げています。こだわりの樽の調達、独自の熟成というところには辿りつけていませんが、将来的に実現する方法は既に目星をつけています。
そして当方の経歴ですが、元々ワインから洋酒関連のビジネスに関わり始めました。ソムリエの資格を取得し、ボルドー大学でテイスティングコースを受講しました。一方で、ウイスキー分野ではウイスキーの製造にも関わってきました。そうした経験の上で、自分は“ソムリエがサーブするウイスキー”をイメージし、BEHIND THE CASKのリリースにワインボトルを採用したという経緯があります。」

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く「ミシェル・クーブレ社のリリースもワイン的な外観がありますね。一方で、お話ありました“ソムリエがサーブするウイスキー”について、もう少し詳しく説明頂けますでしょうか。ソムリエのサーブというと、ワインの状態や温度、様々な要素を最適なところでグラスに注ぐ、というイメージがあります。この考えをウイスキーにも取り入れるというメッセージでしょうか。」

澤「はい、この点がこれまで充分説明できていなかった、当社リリースのコンセプトだと思います。
ウイスキーをはじめ、お酒はボトリングされた後も日々変化していくものです。ワインはまさに変化を見極めていかなければならないお酒の代表であり、ピークを迎えて最適な状態で飲むワインの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものです。ウイスキーにおいても、早飲みするもの、多少空気に触れさせたほうが良いもの、数年間の時間を経て面白い変化が見込めるもの、ワイン同様に様々なタイプがあります。私はソムリエとしての経験、そしてウイスキー愛好家としての経験から、変化も含めてウイスキーを楽しんでほしい。こうしたメッセージを込めて、ワインを想起させる外観、仕様をBEHIND THE CASKのリリースに採用させて頂きました。」

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く「なるほど、非常に良くわかりました。それで“ソムリエがサーブするウイスキー”なんですね。確かにサルファリーなシェリー樽熟成ウイスキーが、時間経過でベリー香を纏うものに変化したり、バーボン樽熟成のものもウッディさの角が取れるなど、変化を楽しみながら、我々愛好家は日々ウイスキーと向き合っています。今後、BEHIND THE CASKのリリースは、飲み頃、変化の予測も含め、提案していくということになるのでしょうか。」

澤「そうですね、まだ情報発信ツールやサイトなども整理している最中で、そこまでまとめられていないですが、次のリリースに向けて準備を進めていければと思います。また、SNS等に投稿される愛好家の皆様からの感想も確認させて頂き、リリースしたボトルの変化に関するフィードバックとさせてもらえればと考えています。」

く「ひょっとしてラベルの大部分を占める空白は、ボトルの状態や開封日等をメモしておくようなイメージで作られたりしました?」

澤「いえ、そこまでは考えていませんでした(笑)。ですが、ワインでもセラーに入れた日をメモしたり、タグをつけられたりする方もいらっしゃいますから、そういう使われ方があってもいいかもしれません。」

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■原酒の提供とパートナーについて
く「細かいことで恐縮ですが、ワインボトルを使用する理由は理解できましたが、これを国内でボトリングする理由を教えてください。」

澤「端的に言えば、それを実現できるボトリングメーカーがイギリスに無かったことです。BEHIND THE CASKに用いる原酒は、CADENHEAD’Sのマネージャーだったマーク・ワット氏の協力を得て確保した原酒の中から、趣旨に沿ったものを選んでいます。一方で、これをイギリス本国でボトリングしようとすると、ワインボトルがボトリングラインに合わなかったり、メーカー側にも在庫がないので、当社のように少数リリースで規格にないボトルやラインの調整までは行ってくれません。自分が考えるコンセプト、メッセージを込めたリリースとするためには、国内でボトリングを行うしかなかったのです。
また、だったらノーマルなボトルで良いじゃないかと思う方も居るかもしれませんが、細部にまで拘ってこそ、プライベートリリースの魅力に繋がると考えています。」

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(※マーク・ワット氏。ケイデンヘッド社を退職後、Watt Whisky Campanyを立ち上げ引き続きウイスキーリリースに関わっている。画像引用:https://whiskyfacile.wordpress.com/2020/05/16/interview-mark-watt-campbeltown-whisky-company/)

く「神は細部に宿る、ということですね。確かに、今回リリースされた2種類については、色合い的にもまさにイケムのような仕上がりで、ボトルを手に取ってみると独特な存在感があり、バックバーにあっても目立ちそうです。なお、コンセプトに絡んだ想定はどのあたりだったんでしょうか」

澤「IGN-89は長期熟成のグレーンで、瓶内変化のスピードは非常に緩やかです。すぐにでも飲めますが、ややドライでウッディな質感があるため、その点の変化が期待できます。温度としては常温で、ただし冬場は少し温めるくらいがいいと思います。
AND-97は開封直後から蜂蜜、洋梨、そして花のような甘みと酸味を感じる香りがあり、香味ともあまりトゲトゲしいところはありません。これらの要素がグラスの中で馴染み、開いていくことから、比較的早飲みのイメージです。温度としては、軽く冷えた状態からサーブすると、常温に戻る過程で変化をさらに楽しんで貰えるのではないかと思います。」


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く「赤ワインや白ワインのような捉え方ですね。そうした発信がリリースと合わせてあると、他社にはない試みとなって一層面白さが出てくるように思います。後はグラスの指定や…デキャンタージュ等も考えられますね。」

澤「はい、まさにデキャンタージュについては考えていました。ウイスキーをデキャンタージュする方法を取り入れている愛好家がいるとも聞いていますが、オフフレーバーの軽減、アルコールや樽香のトゲトゲしさをコントロールできるのではないかと考えています。ウイスキーにはウイスキーの良さが、ワインにはワインの良さがあり、無理にこれらを融合させるつもりはありませんが、良さを引き出せると感じられる手法は試していきたいと考えています。」

く「長々と質問にお答えいただき、ありがとうございました。最後に今後のリリース予定や、BEHIND THE CASKとしての活動予定についても教えてください。」

澤「現在第2弾のリリースに向けて準備を進めています。詳しくはコメントできませんが、今回はシェリー系で記号はGNR-13とだけ…。なお、先ほどコメントさせて頂きましたように、今後はラベル表記に誤解が生じないよう表記を見直すとともに、BEHIND THE CASKのコンセプトに沿った発信もしていくつもりです。そういう意味では、2ndリリースこそ真の意味でのローンチであり、皆様に評価頂く機会になるものと思っています。
また、当社の活動について長期的な視点で言えば、現在所管の税務署とも相談しながら、日本国内でどのような取り組みを実施できるのか、新しいアイディアも模索しています。既にいくつかは整理を終えており、後はリリースが落ち着き次第、次の動きを展開していきます。」

く「日本国内ではプライベートブランドが珍しくなくなり、当たり前に市場にある時代となりました。そんな中で、どうやって独自色を出していくか、持ち味を活かすか、それが我々愛好家にとっても重要な指針となります。是非、その魅力をさらに打ち出していけるようなリリースや活動を展開していってください。本日はありがとうございました。」


※補足※
ボトラーズメーカーの定義について。明確に定められていませんが、
①原酒を買い付け、独自ブランドを販売しているオフィシャル以外のメーカー。
②買い付けた原酒を独自に熟成し、シングル○○としてボトリングしてリリースしているメーカー。
一般的にボトラーズの理解は①、②の条件を満たすものとなります。しかし日本企業の場合、②を満たすことが以下背景から困難であり、厳密にいえば日本のプライベーター、酒販等がリリースする独自ブランドの大半は、ボトラーズと言うよりはインポーターのPBブランドとなります。

現在のイギリスの法律では、シングルモルトを樽で輸出することが出来ないこと。日本においても樽で原酒を保有し、熟成させたうえで課税してボトリングするには、酒販免許ではなく酒造免許が必要で、しかも酒造免許の取得には様々なハードルがあること。大きくはこの2点が障壁となるためです。
従ってBEHIND THE CASK社も現時点ではボトラーズとは言えない区分となりますが、この点について新しいプランを進めているそうです。

~後編に続く~

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