カテゴリ

カテゴリ:評価無し

アンジュ・ジアール 15年 ウイスキーカスクフィニッシュ for モルトヤマ 59.1%

カテゴリ:
IMG_6551

ANGE GIARD 
CALVADOS 
Aged 15 years old 
Malt Whisky Cask Finish (8 month)  
Bottled 2021 
For Maltyama 
700ml 59.1% 

香り:カスクストレングス&ハイプルーフらしくはっきりと強く、その中に独特のこもったような甘酸っぱさ。シロップ漬けの杏や赤リンゴ、徐々にカルヴァドスとは異なる甘味と香ばしさ、キャラメルやバニラ系の樽香が顔を出す。

味:口当たりはコクがあってパワフル、ややドライだが林檎の蜜の甘みと、梅酒を思わせる粘性、ほのかな渋み。じわじわとほろ苦くウッディで、煎餅のような香ばしいフレーバーが混ざってくる。
余韻はハイトーンな刺激の中に熟成林檎酢の香りが鼻腔に抜けた後、ビターな中に蜂蜜を思わせる甘みが残る長いフィニッシュ。

カルヴァドスとしては中短熟という熟成年数で、単体としては若さというか奥行きにかける部分があるものの。カルヴァドスらしさにモルトの厚みと樽感が合わさった、リッチな仕上がりが特徴的な1本。林檎と麦、それぞれが出し得るフレーバーで、お互いに足りない部分を補うペアとしての強みが感じられる。
今の時期はストレートよりソーダ割がおすすめ。さっぱりとしてそれでいて飲みごたえがあり、通常のカルヴァドスソーダに比べて満足感も高い。

IMG_9290

ウイスキー専門店、モルトヤマが昨年リリースしたカルヴァドスのPB。
蒸留所(ブランド)はアンジュ・ジアールで、ここは自社蒸留ではなく、他の生産者や農家が作った原酒を買い付けて熟成してリリースしている、カルヴァドスのボトラーズと言えるメーカー。
モルトヤマからはこれまで2種類のカルヴァドスPBがリリースされており、今回のリリースは14年以上熟成させたカルヴァドスを、モルトウイスキーを熟成していた空き樽で8ヶ月間フィニッシュした、ボトラーズらしいリリースであると言えます。

樽の素性は明らかになっていませんが、比較的樽感とモルトの香味が強いこと。シェリー系の香味は感じられないことから、樽感が強く出るフレンチオーク系の新樽で熟成していた、若い原酒を払い出した後のものではないかと予想します。フランス国内には蒸留所が約80ヶ所あるそうですから、そのあたりのものが使われていても違和感はありません。
また、ボトリング本数533本から払い出し時の欠損を1割と考えると、原酒の量は約400リットル。8ヶ月の追熟ですからエンジェルシェアはほぼないでしょう。ホグスヘッド以上、バット未満と中途半端なサイズとなるため、バレルサイズでの2樽バッティングの可能性もあります。

このようにユーザー側からすれば謎の残るスペックですが、1本丸っと飲んだ感想として、その品質は間違いのないものと言えます。
元々ベースとなるカルヴァドスが、多少癖強めの酒質にカスクストレングス。パワフルでドライな男性的な味わいであるところ。そのままだと通好みな1本となっていたものが、モルトウイスキーカスクのフィニッシュでいい塩梅に繋ぎとなる樽感増し、そして厚みのあるモルティーでねっとりとしたフレーバーが付与されており、前述のドライさが軽減。樽感強めで甘みと“らしい”フレーバーが両立した、遠目で見ると疑似的なオールドカルヴァドスとも言える仕上がりになっていると言えます。

FullSizeRender

味にうるさい自分の知人に仕様を伏せて飲ませてみたところ、「あーこれ美味しい時代のカルヴァドスの味がする」といってグビグビ飲んでいたので、モルトウイスキーの個性は言わなきゃわからないくらいに融合しているなと(逆に意識すると、とても解る)。
ただ、このリリースは度数59.1%と中々に強敵です。熟成年数も決して長熟ではないので、ハイプルーフを飲み慣れない人にいきなりどうぞと言っても難しく。まして万年嫁募集中のモルトヤマさんよろしく、レディーキラーに使おうというのも無理な話ですが、そこは常に獲物を狙う男、おすすめはソニックだそうです。

ブランデーの類ってストレート以外でどう飲んでいいかわからないという声を聞きますが、お湯割、ソーダ割、そしてソニックと、実は結構自由にアレンジして良いものなのです。
かつてスコッチウイスキーにショットグラスというイメージがあったように。前時代的なブランデーグラスで、ペルシャ猫膝に乗せてバスローブ姿でくるくるというイメージが先行しちゃってる影響ですね。(下の画像のような…)
個人的に、このジャンルでのソーダ割りは甘いは美味い、そして適度な酸味を好む日本人の趣向にマッチしており、ウイスキーハイボールを越えるポテンシャルを秘めていると感じています。
実際、今回のボトルも6月以降ソーダ割が進む進む。。。気がついたら先日天に還っておりました。

IMG_6553

近年、熟成したウイスキーの高騰から、特に1万円前後という愛好家が手を出しやすい価格帯において良質なリリースを実現しようと、ウイスキーだけではなくラムやコニャック、そしてカルヴァドスなど様々な酒類への横展開が行われています。
長期熟成ウイスキーにあった熟成感や、かつてのウイスキーにあったフルーティーさ、類似の個性を、なるべく手頃な価格帯で実現しようという視点からの試みで、それこそスコッチモルトウイスキーソサイエティからラムやジンがでる時代。今やこうしたリリースは珍しくなったと言えます。

その中で、モルト専門店のチョイスしたカルヴァドス。やはり我々に対して「こういうの」というメッセージを感じるものです。本数の多さからまだ購入出来るようですが、家に一本あって困らない、チビチビ、ぐいぐい飲んでいける。価格的にも内容的にも良いリリースだと感じました。ご馳走様でした!

アマハガン✖️まどろみバーメイド コラボボトル 第2弾&第3弾

カテゴリ:
IMG_9238

NAGAHAMA DISTILLERY  
AMAHAGAN ✖️ まどろみバーメイド 
2nd 伊吹騎帆 World Malt Whisky 47%
3rd 陽乃崎日代子 World Spirtis 43%


昨日に続いて、今日もAMAHAGANです。
6月にリリースされた、まどろみバーメイドとのコラボボトル2種。まどろみバーメイドについては、今の時点では読んだことがある人には説明不要でしょうし、読まれたことがない方には、カクテルメインのバーテンダー漫画(女性なのでバーメイド)とだけ、理解して次に進んでもらえれば良いかなと。
そう、このブログの主役はお酒。サンプル頂いてテイスティングしてみたら、正統派&自由奔放でなかなか面白い構成だったのです。

漫画やアニメとのコラボは賛否両論あるモノですが、大前提として確立したブレンド技術の上で、それでいてジャパニーズウイスキーとして売るようなことさえしなければ、これもまた日本だからこそ作ることが出来る新しいお酒の形なのかなと考えています。(今やどちらもCOOL JAPANですし。)
今年2月、先立って第1弾としてリリースされたまどろみバーメイドコラボウイスキー「月川雪」も味的に悪くなく、何よりこのシリーズには共通してリリースとラベル(登場人物)に関連するレシピや背景情報があり、そこが納得感にも繋がっているのです。

今日はその辺りも踏まえて各リリースを紹介しつつ、第2弾と第3弾が同時に出た意図として、原作でも度々テーマとなるアレンジ(ツイスト)にも触れていきたいと思います。

IMG_6153
(コラボシリーズ第1弾としてリリースされた、主人公・月川雪をラベルに採用したAMAHAGAN。ワイン樽原酒2種類を使い、ふくよかに仕上げられたブレンデッドモルト。)

IMG_9172
AMAHAGAN✖️まどろみバーメイド
第2弾 伊吹騎帆 World Malt Whisky
700ml 47%


冒頭、2種類のリリースを正統派&自由奔放と書きましたが、この第2弾は正統派路線のブレンデッドモルトウイスキー。
AMAHAGANらしいケミカルなフルーティーさと乾いた麦芽風味、そこにシェリー樽由来のコクが繋ぎになって、決して比率は多くないでしょうが全体のバランスを整えています。

余韻はクリアでモルティーな香ばしさと甘みが残る感じですが、従来のアマハガンのPBだと黄色系のフルーツ、パイナップルといった感じの味わいが強調されるものが多いところ、これはほのかにビターなピートのアクセントと、モルティーな感じが強調されているように思います。
ひょっとすると、いくつかの原酒はこれまでのAMAHAGANに使われているものとは違う原酒を用いているのかもしれません。

ラベルに描かれているのは、まどろみバーメイドの主要登場人物3人のうちの1人、伊吹騎帆はホテルのBARで働くしっかりキッチリタイプのバーテンダー。公式コメントでは、面倒見の良い姉御肌の性格で、包み込むような優しさとシェリー樽の個性が...と解説されていますが、個人的には第1弾の月川雪の時のようなワイン樽原酒ではなく、後述する第3弾の陽乃崎日代子のスピリッツブレンドでもなく、あえて王道的なスコッチスタイルの樽構成、原酒構成で造るところに、その雰囲気、キャラクターが現れているようにも感じています。
そして根っからのオーセンティックBAR & ウイスキー愛好家の自分にとっては、この構成こそが逆に心落ち着く味わいでもあったりします。

IMG_9173
AMAHAGAN✖️まどろみバーメイド
第3弾 陽乃崎日代子 World Spirits 
700ml 43%


続いて第3弾が自由奔放なブレンドスピリッツ、陽乃崎日代子です。
なぜ香味の印象が自由奔放なのかというと、表記でSpiritsとあるように、これはAMAHAGANに使われる輸入原酒を含むウイスキーに、沖縄・新里酒造の熟成泡盛ベースのリキュール(ステンレスタンク3年の後、アメリカンオーク樽で7年以上熟成した泡盛に還元水飴を添加してリキュールとしたもの)をブレンドした、ウイスキーという枠に囚われていないお酒であるためです。

香りからして通常のAMAHAGANとは明らかに異なる構成。濃縮したオーキーさ、華やかさと泡盛系の個性を感じて、ウイスキーを思ってノージングすると「!?」となることは間違いないのですが、味わいはさらに奔放。
プレーンなモルティーさ。そこにのっぺりとした黄色系シロップの甘さと泡盛の癖、オーク感が混ざり、口当たりや質感はリキュールに近いというもの。
以前、新里酒造やヘリオス酒造がリリースした泡盛とウイスキー原酒のブレンドはもっと泡盛していて、これはなんか泡盛だねって素直に思えたのですが、今回のは言わばカクテルの原液であり、これをアマハガンブランドで作ってしまう自由さ、味わいからくる奔放さ、まさに自由奔放なお酒であるのです。

なお、これが原作にどう絡むかというと、同著の主要登場人物の1人、陽乃崎日代子は、パフォーマンスを行いながらカクテルを作るフレアバーテンダーを職業としており、公式コメントでは天真爛漫な性格と既存の枠に当てはまらないアイディア等からという位置付けがされています。
このレシピと登場人物の掛け合わせに違和感はないのですが、既存の枠に当てはまらないお酒のアレンジと言えば、主人公である月川雪の代名詞「ツイスト」であるところ。
陽乃崎日代子は設定上名家の出身で、そのしがらみから飛び出して自分の生き方を模索していたり。カクテルの技術は原作中でダメ出しされるところはあるものの、あざとく自分の個性をアピールするところなんかも、ああこのレシピはコイツだわと思えるポイントなのかもしれません。

FullSizeRender

さて、最後に今回のリリースが2種類同時に出た狙いについて。
ことの発端は長濱蒸溜所社長が、新里酒造から泡盛を調達したところから始まります。コンセプトが決まって漫画著者・早川パオ氏にラベルを依頼したものの、それ以上にブレンドで苦労することになったのが「アレンジ」でした。

今回のリリース2種は、それぞれを混ぜてユーザーが「アレンジ」を楽しめるようにブレンドレシピが調整されています。
上の画像のようにラベルまたは箱を2つ合わせると、伊吹騎帆がサーブしたブレンデッドモルトに、陽乃崎日代子がワールドスピリッツを加えている構図になるわけですが、著者に長濱蒸溜所から出たお題は「単体でも成立し、混ぜても飲めることが一目でわかるもの」というざっくりしたもので。
その後、長濱蒸溜所の伊藤社長曰く「想像以上の作品が出てきて焦った。めちゃくちゃ気合い入ってた」というのが今回のラベル画像となります。で、泡盛とウイスキーです。しかも異なる2種類のレシピとのブレンドを想定するのですから、屋久さん、大変だったろうなぁ…(遠い目

ただ、この2種に感じた口当たりから余韻までの変化を形で表すと、第2弾が凸、第3弾が凹という感じで。案外喧嘩しないんじゃないかなとは思っていました。
実際ブレンドしてみると、第3弾のワールドスピリッツにあったのっぺりとした甘さが、第2弾にあるシャープな麦感とフルーティーさに合わさってくる。泡盛リキュールにあったであろう濃いめのオークフレーバーや癖もアクセント程度となって、これは確かに面白いかもしれないなと。原作を思い起こしつつ、2粒で3度美味しい、そんな味わいを素直に楽しませてもらいました。


余談:新里酒造がなぜ大量の泡盛リキュールを持っていたかというと、以前リリースした新里ウイスキー(泡盛と輸入原酒のブレンド)用に仕込んでいたものと思われます。
このリリース、コロナの影響もあったと思いますが、自分の記憶では初動以降はあまり話題にならなかったというか、店頭で見かけなかった印象があり。。。
ウイスキーは熱意があれば作ることができる。しかし問題は売ることが出来るかだ。という言葉が思い起こされました。
アレンジも大事ですが、それはやはり守破離の守。カクテル同様に基本となる技術があって、そしてそれが対外的に評価されてから、ですね。

ザ ラストピース ワールドエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
FullSizeRender

THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT WHISKY 
World Edition Batch No,1 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
One of 800 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:華やかでナッティな香り立ち。アプリコットジャムや熟した林檎を思わせるフルーティーな甘み。オーキーで程よいウディネス、ハーブのアクセント、ほのかにスモーキー。

味:フルーティーでしっとりと甘い口当たり。林檎の蜜、甘栗やカステラ、麦芽風味。香り同様に熟成感があり、一本芯の通った複雑な味わい。余韻にかけて香味の広がりを感じられ、微かにピーティーで華やかなオーク香が鼻腔に抜ける。

香味とも華やかでフルーティーだが、キラキラと派手なタイプではなく、しっとりとして色濃く奥ゆかしいタイプ。奥には黄色系フルーツ、麦芽風味、特徴的なピートなど、クラフト原酒由来の個性も感じさせる。
イメージとしては、THE LAST PIECEのジャパニーズエディションに熟成感を増して、完成度を追求したレシピ。日本とスコットランドの個性が織りなす、日本だからこそ作ることができるウイスキー。ストレート、少量加水、あるいはロックでじっくりと楽しんで欲しい。

the_last_piece_wb

先日、T&T TOYAMAから発表された「THE LAST PIECE」のワールドブレンデッド版です。
先日レビューを更新したジャパニーズエディションは、国内5ヶ所のクラフト蒸留所原酒100%のジャパニーズウイスキー。ワールドエディションは、構成比率の過半数以上がクラフト産原酒で、そこに輸入原酒をブレンドしたブレンデッドモルトウイスキーとなります。

発売は若鶴酒造が運営する私と、ALC.を中心に、4月19日(火)から。
先行する形で、4月1日(金)から購入希望の抽選受付が開始されます。
「個性のジャパニーズ、完成度のワールド」、ブレンダーの一員として、その実現を目指したブレンドです。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


改めて構成原酒を記載すると
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッド
・桜尾蒸溜所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
・スコッチモルト(国内追加熟成)

クラフト原酒は全て3年熟成でバーボン樽熟成。スコッチモルトは熟成年数非公開ですが、バーボン樽以外に、シェリー樽、リフィル樽等での熟成品が用いられており、一部原酒は国内で追加熟成を行ったものが使われています。

追加熟成を経たスコッチモルトは、もともとあったスコッチモルトらしいまとまりのある穏やかな酒質に、日本的な樽感が加わって熟成感も増した仕上がり。こうした原酒の存在は、個性をまとめ上げる繋ぎとして有用である一方、その原酒に頼るだけではワールドの意味がありません。
国産原酒の個性を主として残しつつ、全体の完成度を高めるにはどうするべきか。正直、ジャパニーズのレシピ以上に悩ましく、かけた時間、試作数も多くなりました。
【補足】各原酒の個性はリリース告知記事の後半に記載→こちら

FullSizeRender

しかしワールドブレンドというと、あまり良く無いイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
それはブームに乗って利益を得るために、安価な輸入原酒で水増ししたリリース。つまりパッションやストーリーのない、嗜好品としての重要要素を満たさないリリース、というイメージに起因しているのでは無いでしょうか。

確かに、そうしたウイスキーの存在は否定できません。しかし本来スコッチウイスキーは美味しいものであり、日本では作り得ない原酒が数多くあります。(あるいは日本でも作れるかもしれないが、膨大なコストがかかるケース。)
例えば長期熟成原酒がそうです。
ワールドブレンドは、日本でしか作れない原酒と日本では作れない原酒、それらの良い点を引き出すことで、これまでにないウイスキーを作ることが出来る、可能性に満ちたジャンルでもあるのです。
活かすも殺すも、造り手次第というわけですね。

IMG_6915

THE LAST PIECEをリリースする、ボトラーズメーカー「T&T TOYAMA」は、日本のクラフト蒸溜所が、将来単独でリリースを行っていくのではなく、他の蒸留所と連携する可能性を見出せるよう、蒸留所間のハブとなることを目標の一つとしています。
一方で、同社はスコッチモルトも海外メーカーから買い付けてリリースしており、ニンフシリーズやワンダーオブスピリッツがその代表作です。つまり、日本、スコットランド、どちらにも繋がりを持つメーカーと言えます。

であるならば、THE LAST PIECEのワールドエディションは、ジャパニーズの個性感じさせつつ、スコッチウイスキーのいいところも活かした、T&T TOYAMAらしいリリースに仕上げたい。
2つのリリースを飲みくらべることで、なるほどこれが日本の個性か、これがスコッチモルトの熟成感かと、愛好家に伝わるような美味しいウイスキーに仕上げたい。
果たしてその狙いは達成されたのか、限られた条件の中で可能な限り高い点数を目指したワールドエディション。楽しんで頂けたら幸いです。

IMG_6775

以下:余談
4月1日から開始される、私と、ALC.での抽選販売受付は、稲垣代表の趣味趣向が色濃く反映された、激ムズクイズが用意されています。
私と、ALC.抽選販売受付ページ:

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


公開されている4蒸留所とT&T TOYAMAからそれぞれ1問、計5問が選択式で出題されます。
誤解のないように補足すると、正答率が高い人から抽選で選ばれるのではなく、正答率が高いと当たりやすくなる、当選確率がプラス補正されるものです。全問正解でもハズレる可能性があり、正答率が低くても当たる可能性があります。
そんなわけで、これはちょっとしたゲームです。各蒸留所について調べる機会だと捉えて頂き、ぜひ奮ってご参加いただければと存じます。(難しい問題と思うかもしれませんが、冷静に選択肢1つ1つを考えてみてくださいね。)

ザ ラストピース ジャパニーズエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
FullSizeRender

THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 
EIGASHIMA, SAKURAO, SABUROMARU, NAGAHAMA…and SECRET DISTILLERY 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
Cask type Bourbon Barrel 
One of 300 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:トップノートは黄色系のフルーティーさ。注ぎたてはドライだが徐々にお香の煙のように柔らかく香る。パイナップルや柑橘、ハーブ、パンケーキを思わせる甘さと軽い香ばしさ。フルーティーさとモルティーな甘みにスモーキーなアロマがまじり、複層的なアロマを形成する。

味:膨らみがあってモルティーな口当たり。熟したパイナップルを思わせる甘み。合わせてほろ苦い麦芽風味とウッディネス、軽いスパイスと微かに干草。じわじわと存在感のあるピートフレーバーが顔を出し、スモーキーでビターなフィニッシュが長く続く。

熟成年数以上にまとまりがあり、若さを感じさせないフルーティーでスモーキーな構成。バーボン樽のオーキーなフレーバーと、各蒸留所の個性がパズルのピースのように組み合わさり、それぞれが主張しながらも1つにまとまっている。わずか3年熟成の原酒だけで、これだけのウイスキーを作ることができる、クラフトジャパニーズの将来に可能性を感じる1杯。テイスティンググラスでストレート、または少量加水をじっくりと楽しんでほしい。

the_last_piece_jb

先日、T&T TOYAMAからリリースが発表された「THE LAST PIECE」。
世界初となる日本国内5か所のクラフト蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキーで、ジャパニーズ仕様とスコッチモルトを加えたワールド仕様、2つのリリースが予定されています。
本リリースは、2022年4月1日(月)から購入希望者の抽選受付を開始し、2022年4月19日(火)発売予定となります。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090



日本国内の蒸留所の数は、建設が予定されているものを合わせると50か所、60か所と増え続けている一方で、単独で様々なウイスキーをつくるのは限界があります。
スコットランドでは、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが多数存在し、原酒のやり取りが当たり前にあり、中にはブレンド向け蒸留所として位置付けられている蒸留所もあります。それらが一般的ではない日本においては、今まさにその可能性が模索されている状況にあり、今回のリリースは日本のウイスキー産業に新しい事例、選択肢を作ることが出来たと言えます。

また、T&T TOYAMAはこちらも世界初であるジャパニーズウイスキーボトラーズであり、現在富山県内にウェアハウスの建設と、各蒸留所からの原酒の調達を進めています。
そのT&T TOYAMAとして初めてリリースされるジャパニーズウイスキーが「THE LAST PIECE」であり、まさにどちらも先駆者、世界初尽くしのリリースとなっています。

IMG_6880


今回、そんな記念すべきリリースにおいて、ブレンダーという大役を頂きました。
私はあくまで趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家でしかありません。ならば、今回のブレンドはT&T TOYAMAの2名が生産者、販売者なら、自分は愛好家という立ち位置から求めている味わいを提案していこうと、原酒選定やレシピ構築のテイスティグ、ディスカッションに参加しています。

しかしこれまでブレンドレシピ構築は10リリース以上関わっていますが、今回はとにかく難しかったですね。
まず全ての原酒がバーボン樽熟成で、そしてどれも3年以上ながら短期間の熟成であったということ。
ブレンドにおいては、グレーン、あるいはシェリーやワインのような甘く濃い樽感など、モルト原酒の強い風味の間を繋ぐ要素の有無がポイントになります。
例えるなら、蕎麦打ちで言うところの小麦粉のような存在。今回はそれらの要素が一切無いなかで、バランスをとっていかなければなりませんでした。

また、今回使用した原酒と蒸溜所は
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッドモルト
・桜尾蒸留所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビリーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
という組み合わせ。
若い原酒であることも後押しして、それぞれがはっきりとした個性を持っていることも、各蒸留所においては強みである一方、ブレンドにおいては難しさに繋がりました。

the_last_piece_distillery
sample_b

三郎丸のヘビーピートモルトのような、強い個性を主体としてブレンドを構築するのは解決策の一つなのですが、これはピートフレーバーで他の蒸溜所の個性を圧殺する構成であり、せっかく5か所の蒸留所の原酒をブレンドする意味がなくなってしまいます。
従って三郎丸蒸留所の原酒をガッツリ使うわけにはいかず、そうなると先に書いたようにバランスの問題が出てしまう…。

そうして調整を繰り返して仕上がったのが、今回のブレンドとなります。
三郎丸蒸留所のオイリーでどっしりとした酒質、ピートフレーバーを底支えにして、江井ヶ嶋蒸溜所の軽やかなスモーキーさ、桜尾蒸留所のフルーティーさ、長濱蒸溜所の柔らかいモルティーさ、そこに非公開蒸留所の個性と酒質がエッセンスとなったレシピ。

自分が”ジャパニーズブレンドらしさ”として考える、「十二単」のような艶やかで雅な雰囲気…とまではいかないものの、各蒸留所の個性が重なり合い、共演しつつも、まとまりのある味わい。パズルで最後のピースがはまり、一枚の絵画として新しい世界が広がった瞬間。まさに「THE LAST PIECE」の銘に相応しいリリースに仕上がったと感じています。

ちなみに、スコッチモルトを用いたワールド仕様のレビューも後日実施する予定ですが、そちらは純粋な美味しさ、ブレンドとしての完成度を見て貰えたらと思います。これも、様々な原酒を使うことが出来る日本のウイスキーだからできる、ウイスキー造りの方向性の1つです。
本リリースがジャパニーズウイスキーの将来に向け、新しい可能性に繋がることを期待しています。
→ワールドエディション Batch No,1のリリースレビューはこちら

IMG_6775

長濱 シングルモルト 2017-2021 オーナーズカスク 58.2% フレンチオーク

カテゴリ:
FullSizeRender

NAGAHAMA 
FOR CASK OWNER 
Aged 3 years 
Distilled 2017 
Bottled 2021 
Cask type French oak 
Malt type Peated 
700ml 58.2%

香り:焦げたようなウッディーさとピート香が強く香る。日本家屋の中にいるような木香、鰹節のような出汁感に、燻したようなスモーキーなアロマが立ち上がる。

味:キャラメルソースを思わせる甘みとビターなウッディネス、そして存在感のあるスモーキーさが同時に広がる、濃厚で色濃い要素を強く感じる味わい。
余韻はタンニンが強く口内の水分を奪っていく中で、鰹節感のあるピートスモークが長く残る。

本来ならこの熟成年数ではまとまらないような様々な強い個性を、長濱の柔らかくクリアなモルトの甘みと質感が繋いでいる。その点で、長濱蒸留所が短期熟成で原酒を仕上げていく、懐の深さ、樽感との馴染みのいい原酒であることが窺える。
今回はフレンチオークの新樽であるが、シェリーやワインなど、樽感を強く付与するような組み合わせでも、しっかりと香味を形作ることが期待できる。ウイスキーの完成度よりも、蒸留所としての期待値を高めることが出来る1本。

FullSizeRender

昨年、ウイスキー繋がりの知人から譲って頂いた、長濱蒸溜所のオーナーズカスク払い出しの1本。たくさんあっても飲み切れないので、普段お世話になっている皆さんにあいさつ代わりに配ってるんですよ、と。なんて徳の高いお方でしょう…。

ただ今回のボトルは、新樽フレンチオークのオクタブカスクで熟成した、3年熟成の長濱蒸溜所のピーテッドモルトです。
オクタブカスクのサイズは60リットル程度のもの。つまり、新樽で、樽感の強く出るフレンチオークで、そして原酒に対して接触面積の増える小型サイズの樽で、更に温暖な長濱の熟成環境。ある程度ウイスキーを飲んでる人なら、これらの要素を受け止めて短期間でまとめるには、樽や原酒に求められるスペックが非常に特殊というか、何らかの工夫が必要であることは想像に難くないと思います。

それこそ、一般的なモルトのニューメイクを突っ込んで同じ条件で3年熟成させたとしたら。原酒の若さが残り、バチバチと粗い口当たりの中で、隠れていたニューポッティーな要素が目立ち始め、濃く渋いウッディなフレーバーが襲い掛かってくる…。
樽感がアクセント?いやいやとんでもない、アクシデントですよ。
というレベルでまさに事故。とても飲めたものではない何かが出来上がってしまうわけです。

こうした短熟の難しさを克服して、武器にしてきた代表格が台湾のカヴァラン蒸留所です。そのクオリティは今や世界的に認知されていることも、説明は不要かと思います。
一方で、日本国内においてそれを成り立たせることが可能な蒸溜所が、現時点で2か所。その1つが嘉之助蒸溜所、そしてもう一つが長濱蒸溜所だと私は考えています。

それは今回のボトルが、他の蒸留所ならそもそも熟成に無理のある、いわば記念品のような位置づけであるにも関わらず。
本来馴染むのに時間がかかるはずの各要素を酒質が受け止めて、ウッディな渋みはありつつも、なんとか楽しめるクオリティに仕上がった点に、蒸留所としての可能性を感じることが出来るのです。

IMG_6154
(長濱蒸溜所のアランビック蒸留器。長濱蒸溜所が目指す酒質を作る上で欠かせない。)

nagahamawine
(AZAI FACTORY内にあるワイン樽の1つ。日本でも有名なボルドー赤ワインの樽であり、今後のリリースが楽しみ。)

長濱蒸溜所はAMAHAGANのリリースが話題になっていますが、実はクリアで柔らかく、そして麦芽風味の豊かなモルト原酒を生み出しています。
この原酒は、原酒の性質と熟成環境、そして樽の質もあって、短熟からでも仕上がる特性は先に触れた通りです。そしてその特徴が生きて、シェリー樽原酒のリッチな味わい、ワイン樽原酒の豊かなベリー系フレーバーなど、色濃いフレーバーを付与する樽との馴染みが良いのも特徴だと言えます。

それを証明するかのように、WWA2022では3年熟成の長濱シェリーカスクがカテゴリーウィナー。IWSCでは同じく3年熟成の長濱ワインカスクが最高金賞となり…、そして3月23日にはアジア地区での最高評価、トロフィー受賞も発表されています。

IMG_6715
Nagahama distillery Bordeaux Red Wine Cask 1564 Single Malt Whisky
https://iwsc.net/results/detail/121485/bordeaux-red-wine-cask-1564-single-malt-whisky

こうしたコンペの結果だけで単純比較はできませんが、少なくとも出品物は、短熟ウイスキーの先駆者とも言えるカヴァラン以上の評価を受けたということになります。
サントリー、ニッカら現在日本の大手ウイスキーメーカーも、かつてはスコットランドの有名銘柄とコンペで競い合い、受賞を重ねることで世界に認知される一大ブランドとなりました。
今回の受賞もまた大きな結果であり、将来に向けた着実な1歩でもあります。

長濱蒸溜所は日本最小規模の蒸留所の1つですが、先日の記事でも紹介したように蒸留所内、トンネル、廃校、離島(琵琶湖内)と、滋賀県内4か所にある異なる熟成環境が2021年に整備され、多様な原酒を熟成し始めたところ。まだまだ成長段階にある蒸留所です。
今回の受賞は、蒸留所の成長を後押しする結果となるのは間違いありません。滋賀県の長濱から、世界の長濱へ。更なる展開を楽しみにしています。



このページのトップヘ

見出し画像
×