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久住蒸溜所 グリーンドラム ワールドモルト 46% Lot.2021

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KUJU DISTILLERY 
Green Dram 
Blended Malt & New Born 
World Malt Whisky 
Lot. 2021 
700ml 46% 

評価:ー(New Bornのため評価なし)

トップノートはややドライで鼻腔への刺激があり、合わせてアメリカンオークの華やかさ、ドライアップル、麦芽由来の甘さ、微かな酸を伴うフレッシュで爽やかなアロマ。
口に含むと軽くスパイシーな刺激の奥から、麦芽のオイリーで優しい甘さが広がる。若さと共に、やや単調ではあるが、素性の良さが伺える1本。

ハイボールにするとフレッシュな木々の香りにすっきりとした味わいで飲み進めていける。多少若さが目立つようにも感じられるが、スペックを考えれば特に不足はない。むしろ最近のトレンドをおさえ、よく出来ていると言える。
育つ若木は大樹となるか。ウイスキー愛好家の想いが結実した、今後に注目したい蒸溜所の1本。

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久住蒸溜所は、シングルモルト通販 洋酒専門店TSUZAKIの代表である宇戸田氏が、2021年に創業した大分県のクラフト蒸溜所です。
まず同酒販店は、宇戸田氏が家業である酒販店(津崎商事)を継ぐ際に、ウイスキーの販売に新規参入したもの。当時は日本市場におけるウイスキー冬の時代であり、消費は低迷中。その時代でありながらもウイスキーを扱おうと思ったのは、同氏がウイスキーの魅力に取り憑かれた愛好家の一人だったためです。

どれくらい惹かれていたかというと、その後ウイスキー好きが高じて地元の大分に蒸留所を建ててしまうくらいですから、よっぽどというか、もはやウイスキーが人生の一部であると言っても過言ではないほど。
ウイスキー蒸留の開始にあたっては、熊本県阿蘇山、大分県くじゅう連山にほど近い、旧小早川酒造の跡地を取得。豊かな水源、涼のある環境、この場所も縁の地であったそうですが、そこにさまざまな苦労を経て蒸留所を創業し、現在に至っています。
この際あった出来事は、同社WEBページでも語られていますが、その深掘りは、いずれシングルモルトがリリースされた時に取っておきたいと思います。

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※久住蒸溜所のポットスチルライトアップ。「100年後も久住でウイスキーを作り続ける」を掲げ、絶賛稼働中。画像引用:久住蒸溜所informationより。

さて、今回レビューしたグリーンドラムは、2023年にリリースされた、久住蒸溜所のニューボーンと、輸入したモルトウイスキーを久住蒸留所で追熟しバッティングした、ワールドブレンドモルトです。
ラベルのLotはリリース時期ではなく、久住蒸溜所の原酒の蒸留時期を示しており、香味から樽はバーボン系、2021年蒸留のニューボーン原酒に、おそらく熟成年数は5〜10年クラスの内陸スコッチモルトウイスキーが使用されていると予想します。

スコットランドより温暖な環境を思わせる若く強めの樽感が若干あるものの、基本的には華やかでドライな輸入原酒にオイリー、あるいはワクシーというような柔らかく甘い麦芽風味の仕事が感じられ、若さはあるが嫌味なところなく、素性の良さが伺える1本となっています。
久住蒸溜所は現在大分県産大麦をはじめ、伝統的なスコットランドのウイスキー製法をベースに、そこに大分の地がもたらす恵み、ならではの工夫を取り込んだ製法を模索していますが、それだけでなく造り手の独りよがりになってない香味の方向性にも、今後のリリースが期待できそうだと感じます。

余談ですが、宇戸田氏がウイスキーに惹かれたきっかけは、大学時代に飲んだグレンフィディックだったそうです。
30年以上前ですから、当時流通していたフィディックはメルシャン時代のNASか、ドットウェル時代の10年か。何れにせよ、現代より麦芽風味が厚く、洋梨やすりおろし林檎を思わせる白色系のフルーティーさがしっかりあった頃のモノ。
そして今回テイスティングしたGreen Dramにも、華やかで麦芽の甘みを感じる先に、同銘柄が見えてくるような…。そんな印象も感じる1本でした。

五島つばき蒸溜所 ゴトジン GOTOGIN 47% 1st Batch

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五島つばき蒸溜所 
ゴトジン 
GOTO GIN 
1st Batch 2022.12 
500ml 47% 

原材料 : ジュニパーベリー、椿の実、つばき茶、椿油搾り粕、ナツメグ、リコリス、アンジェリカ、柚子、カカオニブ、アーモンド、紅茶、シナモン、山椒、レーズン、ラズベリー、カルダモン、コリアンダー

テイスティングコメント:
爽やかでクリアなトップノート。雑味が少なくアルコール感も柔らかい。フレーバーは膨らみがありジュニパーを主体として柑橘や林檎、複数のスパイス、微かに青みがかったオイリーな甘さを伴い、これが全体の繋ぎとなっている。
王道的なジンの構成と言えるが、一つ一つのフレーバーが上質で、それらがまとまって全体のバランスも申し分ない。
今作はさながら守破離の守。ストレートで充分楽しめるが、ロックにしても上質な味わいは変わらない。原料、製造工程にこだわり抜いたというPRに偽りのない、美しい仕上がりである。

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昨年4月にクラウドファンディングの紹介記事を掲載させて頂いた、元大手酒類メーカー出身者が長崎県の五島列島に立ち上げるクラフトジン蒸溜所。五島つばき蒸溜所。

クラウドファンディングは設定額を超えてサクセスし、無事蒸溜所の建設がスタート。
コロナ禍に伴う物流混乱や大型台風を乗り越え、五島の美しい自然の中で、確かな技術と経験を持った造り手が多くのこだわりを詰め込み、生み出されるクラフトジン。その記念すべきファーストバッチが、昨年末に手元に届きました。
クラファンで支援させて頂いてから8ヶ月少々、光陰矢の如し、本当にあっという間ですね。ジンとおせち、和食って非常に相性が良く、年末年始でじっくり楽しませて頂いたところです。

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ジンと言っても作り方は幾つかの方法に分類されますが、共通するのはボタニカル、これによってどのようなフレーバーを付与するかです。
五島つばき蒸溜所のゴトジンは、五島でとれる「椿」をキーボタニカルに据えて製造、ブレンドを行っており、ボトルの形状は椿の花をイメージしたもの、原材料にも当然「椿の実、つばき茶、椿油搾り粕」の記載があります。
微かに感じられる柔らかく青みがかったような甘み、オイリーな質感、この辺りは椿由来のフレーバーかもしれません。

また、ジンと言ったら基本的には欠かすことが出来ない「ジュニパーベリー」も、一粒一粒、一文字割りにしたものを用いるという徹底ぶり。
この製法による違いがどの程度影響するのか、比較をしたことはないのですが、フレーバーを抽出する際に乱雑に割られ、砕かれたモノを使うか。それとも整ったモノを使うかは、溶け出すフレーバーに影響することは間違いないでしょうから、雑味や苦味といった要素の違いに繋がるのではないかと予想出来ます。

ベースとなるスピリッツは、特注の蒸留器でサトウキビを使って作る無味無臭、柔らかい味わいのもの。ここに上述のフレーバーが溶け込むことで、クリアでボタニカルの個性をしっかりと出したジンを生み出すことに繋がります。
実際、このゴトジン1st batchの仕上がりは非常に綺麗でで美しく、まさに造り手のこだわりを形にしたと言える構成です。
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こだわりと言えば、五島つばき蒸溜所ではボタニカル17種類毎に、蒸留の温度、カットポイントなどを変えてボタニカル毎に適したスピリッツを造り、複数出来た原酒をブレンダーがブレンドすることで様々なレシピ、リリースを構成しています。
こうしてブレンドされ、リリースされたのが今回のBatch No,1ですが、既に蒸溜所のオンラインショップでは1ヶ月5000円でオリジナルレシピによるリリースの定期購買コースも設定されています。(スタンダードのバッチも、蒸留ノウハウの蓄積とレシピの微修正で、バッチ毎に徐々にフレーバーが洗練され、変化しています。)

こうしてこだわりが形になり、慈しみと風景のアロマをもったジンを作る五島つばき蒸溜所ですが。このボタニカル毎にスピリッツを調整してブレンドする方法は、既に他のクラフトジン蒸溜所でも行われており、製法としてオリジナルではありません。
他方で、リリースを形作るブレンダーの存在が五島つばき蒸溜所の強みであり、オリジナルであるとも言えます。

本蒸溜所を立ち上げた造り手の一人、鬼頭英明氏は元キリン富士御殿場蒸溜所で33年間ウイスキー作りに関わってきたチーフブレンダーです。
正直、これだけのキャリアと経験のある造り手がブレンダーとして関わるジン蒸溜所は、少なくとも国内で他に聞いたことがありません。
鬼頭さんとは、同じくブレンダーとなる飛騨高山蒸溜所の設立に関連して、情報交換を行わせて頂いていましたが。
いやまず間違いないだろうと予想していた通り、最初から美味しいジンを届けて頂けました。

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クラファンの記事にも書きましたが、自分は離島好きで伊豆諸島は何度訪問したかわからないほどです。
離島の雰囲気、空気は、本土とはちょっと違うのです。これで五島にも渡っていたら、このジンの表現している“風景のアロマ”に一層の親しみや、イメージも具体的に出来たのではないかと思いますが…、残念ながら五島列島は未訪問。
写真や映像以上の情報は手元にありませんので、あくまで上質で美味しいジンであることは強調させて頂き、後の経験は皆様にお願いしたいと思います。

なお、五島つばき蒸溜所とそのこだわりのジン造りが、2023年2月9日(木)19:30〜、再放送:2月15日(水)11:15〜、NHKの「いいいじゅー」にて特集放送が予定されています。
鬼頭さん曰く、かなりしっかりと特集されている。我々の情熱と、クレイジーな造りを見て頂けたらとのこと。これは是非ゴトジンを飲みつつ楽しみたいと思います。

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番組URL:https://www.nhk.jp/p/ts/J7775NQ8GW/episode/te/MY7YQR1417/

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール 缶ハイボール 9% 2022年リリース

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2022年12月1日、三郎丸蒸留所から「富山スモーキーハイボール」として販売されていた缶ハイボールが全面リニューアル。
名称を「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」として変更し、構成原酒も三郎丸の稲垣氏が開発したポットスチルZEMONで蒸留したモルト原酒をブレンドするなど、外観も内容も大幅に刷新してのリリースとなります。

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール
355ml 9%
1缶 270円(税抜)
プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3543
PR動画:https://youtu.be/T7BMBoXDKjo

あれこれ書く前に飲んだ感想だけ述べると、これは美味いです。
リニューアル前後で比べたら、飲み口は一層クリアで、そこからしっかりピーティーなフレーバーが広がり、香ばしさとほろ苦さ、余韻は適度にドライでキレが良い。…
先にレビューしている三郎丸Ⅱ ハイプーリステスでも感じた洗練された味わいとなり、ハイボールとしての完成度も上がっているように感じられます。

そのまま飲んで良し、食中酒として使ってよし。この手の系統のスモーキーなウイスキーのハイボールを作るために、ウイスキーにソーダに氷にと、一式揃えて家で作るなら、もうこれで良いじゃんというレベルです。
価格はリニューアル前が税抜270円、リニューアル後が税抜298円で、約30円ほど上がっていますが、味が良くなっているので個人的にはまったく問題なし。
ここは価値観が分かれますが、例えば中途半端に安くて我慢しながら飲む酒よりも、ちょっと高くなっても良いからその分満足できる商品が良いなと思ってしまうんですよね。

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※今回リニューアルしたハイボール缶に使われている原酒を生み出す、三郎丸蒸留所独自のポットスチルZEMON。老子製作所との共同開発、世界で初めて鋳造で銅と錫の合金によるポットスチルを実現した。クリアでありながら厚み、重さのある原酒を生み出す特徴がある。

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ここで昨年リニューアルした富山スモーキーハイボール8%の特徴を振り返ると、同様にクリアでスモーキーな味わいながら、旧世代の三郎丸を思わせる若干の癖、根菜のようなニュアンスが僅かに感じられました。
それが普段使い、食中酒とした場合どうかというと、そこまで気にするものではないというレベルですが。

ただ、人間とはかくも欲深い生き物で、良い状態と悪い状態を比較すると、それまでこれでいい、あるいはこれが最高だと思っていたもので満足できなくなるんですよね。
だからこそ、人はより良きモノを求めて文明を発展させ、進化を重ねてきたわけです…。現状に満足しない、その向上心が生み出したのが今回の三郎丸ハイボール缶のリニューアルだと言えます。
おそらく、組み合わせる原酒の比率から、2019年以降が増え、特に2017年以前の原酒が減ったのでしょう。そこに輸入スコッチバルクウイスキーで、比較的クセの少ないピーティーなものや、グレーンを加えて非常に上手に作ってきたなという印象を受けます。

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※ハイボール缶が届いた当日、メニューは鶏大根。ヤバいぐらい相性が良かったです。無限に飲み食いできましたね。(語彙力)

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※三郎丸蒸留所のスモーキーハイボールプロ仕様。三郎丸Ⅱカスクストレングスをフロートしてスーパーハイボールに。これもスモーキーハイボールとして間違いない美味しさ。

こうしてよりクリアでスモーキーになったハイボール缶の真価は、夏場ならキンキンに冷やしてそのままで頂くのが一番ですが、今の時期は食中酒として合わせて、年末年始の食環境を充実させるのが一番だと考えます。
例えばコタツに入ってハイボール。飲み終わったのでいちいち底冷えする台所で作るか、冷蔵庫からサッと取り出して5秒で本格ハイボールか。どちらも同じクオリティなら、私は迷わず後者を選びますね。

そもそもこの缶ハイボールは、蒸留所マネージャーの稲垣さんが、家飲みするために作ったもの。いちいち準備するのがめんどくさいので、さっと本格ハイボールを飲めたらという考えで開発したものであり、その観点から見れば、今回のリニューアルで確実に完成に近づいたと言えるように感じます。(ブレンドも、部下に任せず稲垣さん自身が手掛けているとか。)
リニューアルしてラベルが変わると味が落ちる、あるいは薄くなるというのはウイスキー業界あるあるですが、ここではさらなる完成度のハイボールを味わえる。
ピートフリークの皆様は、年末年始用に今からでも調達されてみてはいかがでしょう。きっと満足できる味わいだと思いますよ!

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シークレットハイランドモルト 30年 48% GLEN MUSCLE No,7 Episode 3/3 

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SECRET HIGHLAND MALT 
SCOTCH WHISKY (SINGLE MALT)
Aged 30 years old 
Distilled 1990 
GLEN MUSCLE No,7 Episode 3/3
For Whisky Lovers & Drinkers, Blinded by Fear 10th Anniversary
700ml 48% 

香り:ブラウンシリアルのような香ばしいモルティーさとナッツ、乾いた牧草、じわじわと熟成由来の甘くオーキーな樽香、古びた家具。オレンジ果汁やバルサミコ酢のような甘みと重みのある酸も伴う複雑なアロマ。

味:口当たりはオイリーで粘性があり、どっしりとしている。合わせて乾いた紙っぽさとシリアル。樽由来の要素はほのかなシェリー要素と度数落ちの華やかさ、ナッツ、軽くスパイスを伴う。
余韻はカカオ多めのチョコレートを食べた後のようなほろ苦さ、しっとりとした中にピリピリとした舌への刺激を伴って長く続く。

複雑で個性的。近年多く見られるバーボン樽でプレーンな酒質を熟成して華やかキラキラ系に仕上げた、ある種現行品のトレンドとは異なる方向性。2ndフィルあたりのシェリーバットで長期熟成したのか、ほのかなシェリー感、オーキーな熟成香、ビターなウッディネスと複雑な要素が感じられる。
時間経過で香りのほうは華やかさ、樽香優位となり、好ましい要素が強くなってくる。香味とも個性と樽感が濃縮した状況であり、加水するとそれが綺麗に伸びる。好みは分かれるだろうが、短期熟成原酒では出てこない奥行き、スケールが感じられる1杯。

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GLEN MUSCLE No,7 シリーズ3部作の最終リリース。そして最終リリース。
ブランドについての説明は…もう不要でしょう。間に厚岸ブレンデッドのNo,8が入ったため順番が前後していますが、昨年6月に長濱蒸溜所からリリースされたNo,7 Episode1/3 Blended Whisky 3 to 30 yearsの構成原酒の1つであり、表記されている最長熟のモルトウイスキーです。

当時の経緯や狙い等については過去記事を参照いただくとして、このブレンデッドウイスキーNo,7 Episode1/3では
・長濱蒸留所で蒸留、3年熟成を経たピーテッドモルトジャパニーズウイスキー
・スコットランドから調達して20年熟成のグレーンウイスキー
・スコットランド産の10年〜30年熟成のモルトウイスキー
10種類以上の原酒から使用原酒が選定され、レシピが形成されたわけですが、中でも中核的な役割を担う2つのシングルモルトウイスキー(1994年蒸留26年熟成、1990年蒸留30年熟成)が、No,7 Episode 2/3と今回のNo,7 Episode 3/3となります。

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No,7 Episode1/3は、構成原酒の中でも長濱蒸留所のピーテッドモルト原酒3年の個性を屋台骨として、エステリーなフルーティーさ、奥行きや複雑さ、熟成感を付与する方向でブレンドレシピが構成されており、その要素を形成するのが、先に述べた2種の原酒です。

軽やかだが華やかでエステリー、フルーティーなハイランドモルト1994。
モルティーで個性的だが、熟成感を備えたハイランドモルト1990。
両者の属性は、さながら陽と陰。
かつて、サントリーのマスターブレンダー鳥井信治郎氏が「ええ匂いいうもんは、やっぱりウ○コの香りが入ってんとあかんのや」とコメントしたように、香水を作る際には様々なアロマが組み込まれる中でマイナス面の香りが必須とされるように。
複雑で奥行きのある香味には、同じ系統の原酒を混ぜ合わせるだけでなく、異なる属性、異なるベクトルの原酒の組み合わせによって生じる香味の幅の広さが重要であり、そのバランスを如何にとるかがブレンダーの力の見せ所だと考えています。

その意味で、今回のシークレットハイランドモルト30年は、陰陽どちらかと言われたら、陰にあたる個性であり、個人的には主役になるモルトウイスキーではないと感じていました。(少なくとも、近年のトレンドには逆行するものであると)
ただ、グレンマッスルメンバーの1人である倉島氏がこの原酒の可能性を評価し、自信が主催するウイスキーグループ“Blinded by fear”の10周年記念も兼ねてリリースを進めていくこととなります。

結果、こうして3部作が揃ってみると、まず目指したブレンドがあり、ブレンドを構成するキーパーツであり、そのフレーバーの幅の両端を味わえる構成原酒をセットでというのは、純粋に面白い取り組みです。愛好家が面白いと感じてくれるような、GLEN MUSCLE らしいリリースであり、単体としてだけでなく、ブレンドの構成原酒として視点を変えて、3本を飲み比べて頂けたら嬉しいですね。

蛇足ですが、今回のラベルは前作Episode 2/3の華やかで春や南国をイメージするようなデザインに対し、葉も花も落ちた冬の水辺に立つ1本の木に白と黒の文字という、対局にあるデザインで作成してみました。ラベルから伝わる香味の印象もさることながら、このラベルに使われた写真が、構成原酒のヒントになっているのもポイントです。
あまりメジャーな場所ではないようですが、非常に雰囲気のあるスポットです。興味がある方は探してみてください。

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さて、 GLEN MUSCLEは、気がつけば2018年のファーストリリースから約4年、一般にリリースされたもので10本、シークレットも含めると11本というリリースを重ねたブランドとなりましたが、どれも異なる取り組みがあり、コンセプトがあり、愛好家がワクワクするような、面白いと感じるような仕組みを盛り込むことができたのではないかと考えています。

加えて、クラフト蒸留所が持つ原酒でブレンドPBをリリースする(監修する)という、今でこそ珍しくないものの、当時一般的だったPB=シングルカスクのサンプルから選定、とは異なるコンセプトの先駆けの一つとして実施したことも、新しいジャンルの可能性をを発信することが出来たのではと感じています。

なにより私自身このブランドを通じて、ウイスキーをリリースするという事に内部から関わり、ウイスキーのブレンドからラベルの作成、事務手続きまで、ただ飲んでブログを書いていただけではわからない経験をすることができました。例えば造り手の領域での話が小指の先くらいはわかるようになった。これは0と1くらい大きな違いです。
それはメンバー各位同様であり、私がT&T TOYAMAやお酒の美術館等のブレンドPBを担当させて貰ったように、現在はそれぞれが経験を活かし、フリーのブレンダーやカスク選定者としてリリースに関わる等、確実に活動の幅を広げています。

GLEN MUSCLEはこれで活動を休止しますが、メンバーが居なくなるわけではありません。ブロガーくりりんの活動は続きますし、愛好家が面白いと思えるような、美味しいだけでなくワクワクするようなウイスキーは、今後もまたどこかで、違う形でリリースされていくことになります。
ですが一つの節目として。この企画にご理解、ご協力をいただいた造り手の皆様、ウイスキーメーカーの皆様、そして手にとって頂いた愛好家の皆様。
まずはこの場をお借りして、御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
それではまたどこかで、違う形でお会いしましょう。

アンジュ・ジアール 15年 ウイスキーカスクフィニッシュ for モルトヤマ 59.1%

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ANGE GIARD 
CALVADOS 
Aged 15 years old 
Malt Whisky Cask Finish (8 month)  
Bottled 2021 
For Maltyama 
700ml 59.1% 

香り:カスクストレングス&ハイプルーフらしくはっきりと強く、その中に独特のこもったような甘酸っぱさ。シロップ漬けの杏や赤リンゴ、徐々にカルヴァドスとは異なる甘味と香ばしさ、キャラメルやバニラ系の樽香が顔を出す。

味:口当たりはコクがあってパワフル、ややドライだが林檎の蜜の甘みと、梅酒を思わせる粘性、ほのかな渋み。じわじわとほろ苦くウッディで、煎餅のような香ばしいフレーバーが混ざってくる。
余韻はハイトーンな刺激の中に熟成林檎酢の香りが鼻腔に抜けた後、ビターな中に蜂蜜を思わせる甘みが残る長いフィニッシュ。

カルヴァドスとしては中短熟という熟成年数で、単体としては若さというか奥行きにかける部分があるものの。カルヴァドスらしさにモルトの厚みと樽感が合わさった、リッチな仕上がりが特徴的な1本。林檎と麦、それぞれが出し得るフレーバーで、お互いに足りない部分を補うペアとしての強みが感じられる。
今の時期はストレートよりソーダ割がおすすめ。さっぱりとしてそれでいて飲みごたえがあり、通常のカルヴァドスソーダに比べて満足感も高い。

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ウイスキー専門店、モルトヤマが昨年リリースしたカルヴァドスのPB。
蒸留所(ブランド)はアンジュ・ジアールで、ここは自社蒸留ではなく、他の生産者や農家が作った原酒を買い付けて熟成してリリースしている、カルヴァドスのボトラーズと言えるメーカー。
モルトヤマからはこれまで2種類のカルヴァドスPBがリリースされており、今回のリリースは14年以上熟成させたカルヴァドスを、モルトウイスキーを熟成していた空き樽で8ヶ月間フィニッシュした、ボトラーズらしいリリースであると言えます。

樽の素性は明らかになっていませんが、比較的樽感とモルトの香味が強いこと。シェリー系の香味は感じられないことから、樽感が強く出るフレンチオーク系の新樽で熟成していた、若い原酒を払い出した後のものではないかと予想します。フランス国内には蒸留所が約80ヶ所あるそうですから、そのあたりのものが使われていても違和感はありません。
また、ボトリング本数533本から払い出し時の欠損を1割と考えると、原酒の量は約400リットル。8ヶ月の追熟ですからエンジェルシェアはほぼないでしょう。ホグスヘッド以上、バット未満と中途半端なサイズとなるため、バレルサイズでの2樽バッティングの可能性もあります。

このようにユーザー側からすれば謎の残るスペックですが、1本丸っと飲んだ感想として、その品質は間違いのないものと言えます。
元々ベースとなるカルヴァドスが、多少癖強めの酒質にカスクストレングス。パワフルでドライな男性的な味わいであるところ。そのままだと通好みな1本となっていたものが、モルトウイスキーカスクのフィニッシュでいい塩梅に繋ぎとなる樽感増し、そして厚みのあるモルティーでねっとりとしたフレーバーが付与されており、前述のドライさが軽減。樽感強めで甘みと“らしい”フレーバーが両立した、遠目で見ると疑似的なオールドカルヴァドスとも言える仕上がりになっていると言えます。

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味にうるさい自分の知人に仕様を伏せて飲ませてみたところ、「あーこれ美味しい時代のカルヴァドスの味がする」といってグビグビ飲んでいたので、モルトウイスキーの個性は言わなきゃわからないくらいに融合しているなと(逆に意識すると、とても解る)。
ただ、このリリースは度数59.1%と中々に強敵です。熟成年数も決して長熟ではないので、ハイプルーフを飲み慣れない人にいきなりどうぞと言っても難しく。まして万年嫁募集中のモルトヤマさんよろしく、レディーキラーに使おうというのも無理な話ですが、そこは常に獲物を狙う男、おすすめはソニックだそうです。

ブランデーの類ってストレート以外でどう飲んでいいかわからないという声を聞きますが、お湯割、ソーダ割、そしてソニックと、実は結構自由にアレンジして良いものなのです。
かつてスコッチウイスキーにショットグラスというイメージがあったように。前時代的なブランデーグラスで、ペルシャ猫膝に乗せてバスローブ姿でくるくるというイメージが先行しちゃってる影響ですね。(下の画像のような…)
個人的に、このジャンルでのソーダ割りは甘いは美味い、そして適度な酸味を好む日本人の趣向にマッチしており、ウイスキーハイボールを越えるポテンシャルを秘めていると感じています。
実際、今回のボトルも6月以降ソーダ割が進む進む。。。気がついたら先日天に還っておりました。

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近年、熟成したウイスキーの高騰から、特に1万円前後という愛好家が手を出しやすい価格帯において良質なリリースを実現しようと、ウイスキーだけではなくラムやコニャック、そしてカルヴァドスなど様々な酒類への横展開が行われています。
長期熟成ウイスキーにあった熟成感や、かつてのウイスキーにあったフルーティーさ、類似の個性を、なるべく手頃な価格帯で実現しようという視点からの試みで、それこそスコッチモルトウイスキーソサイエティからラムやジンがでる時代。今やこうしたリリースは珍しくなったと言えます。

その中で、モルト専門店のチョイスしたカルヴァドス。やはり我々に対して「こういうの」というメッセージを感じるものです。本数の多さからまだ購入出来るようですが、家に一本あって困らない、チビチビ、ぐいぐい飲んでいける。価格的にも内容的にも良いリリースだと感じました。ご馳走様でした!

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