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カテゴリ:ウイスキー関連の話

アロマグラス STILL(スティル) KYKEY レビュー

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AROMA GLASS STILL 
KYKEY 

香り立ち:5※/5 
口当たり:3/5 
重量:95g前後 
仕様:ハンドメイド 
メーカー:木村硝子 
公式サイト:https://kykey.jp/aroma-glass-still/

タイプ※:特化型(低度数のもの、加水したウイスキーなど)
※タイプについて:飲みやすさ重視の「楽飲型(入門向け)」、香味分析やテイスティングに向いた「分析型」、ある特定の酒類や仕様で特性を発揮する「特化型」に分類。

【推奨】
・40%〜40%台前半の加水、または度数落ち。
・50%オーバーのハイプルーフから30%台までグラス内で加水したもの。
・長期熟成品、または麦芽由来の風味が豊かなもの。

【非推奨】
・若いシングルカスク、50%以上のカスクストレングス(バレルプルーフ)のストレート。
・ラムやバーボンなど、溶剤系のフレーバーが強いもの。

【その他】
・ハーフショットでも大丈夫だが、30ml注ぐ方が変化を見るための時間と香りの持続力のバランスが取れる。
・特殊な形状ゆえ、飲み込む際に通常より大きくグラスを傾ける必要がある。

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ウイスキーのWEBメディア「BARREL」を運営するオーツカ氏が製作するグラスブランド“アロマグラス”から、11月23日に発売されるハンドメイドグラス、AROMA GLASS STILLです。
リリースにあたり使用感を教えて欲しいと、かれこれ3ヶ月以上前から先行でグラスを使用させて貰いました。発売にあたり、当ブログでもレビューを掲載させていただきます。

AROMA GLASS STILLはポットスチルの形状にヒントを得て、香りを留めることをテーマに、構想2年、何十パターンも試作をくりかえして完成した意欲作です。
アロマグラスシリーズからは、2021年に第一弾となるAROMA GLASS BASICがリリース。デザインの親しみ易さ、入門向けかつ扱いやすく、多少香味はぼやけるもののどのウイスキーにも安定して使える特性が評価され、愛用する方も多く見られるところ。これは近年増えている若いジャパニーズや、スコッチボトラーズのリリースに合致した特性でした。

また、2022年にはオリジナルのショットグラス、CANONも発売され、ショットグラスでハードリカーの楽しみ方を見直す発信も行われています。
そして今回発表されたグラス、AROMA GLASS STILLは、BASICとは真逆の特性を有しており、香りを強く開かせるが故にウイスキーはタイプを選び、また扱いも上級者向けというか、多少ポイントを抑えておく必要がある、まさに特化した性能のグラスです。

オーツカさんのグラス3作を振り返ると、入門向けで広く使えるBASIC。ハイプルーフのバーボンなど高度数のウイスキーに対応するショットグラスのCANON。そして低度数や加水に対応するSTILLと、それぞれ異なるジャンルを抑えていることがわかります。
自分もグラス造りに関わったことがありますが、テイスティンググラスはちょっとした形状の違いで特性が大きくわ変わる、本当に奥が深い世界です。その中で、それぞれの方向性を持たせて3種のグラスを作るというのは、想像以上にコストと時間のかかる取り組みなのです。

本グラス造りの開発エピソードやこだわりは、BARRELに記事が掲載されていますので合わせてご参照ください。(該当記事:https://www.barrel365.com/still/

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※上写真:AROMA GLASS STILL(左)、AROMA GLASS BASIC(右)
※下写真:SHOT GLASS SERIES “CANON”

さて、ここからは今回発売されるAROMA GLASS STILL について、その特性や使用感をもう少し深掘りしていきます。
このグラスの特徴はなんと言っても個性的な形状。ポットスチルのネック部分上部を取り払ったような、膨らみのあるボウルと空間で香りを開かせ、飲み口に向けて段差のある形状が、しっかりそれをキープする点にあります。

そのため本グラスは「ノージンググラス」と公式で紹介されるほど、香りをとることに特化した特性を持っています。
中でも向いているウイスキーは、先に記載したように低度数のものや、グラスの中で加水して度数を下げたもの。
これまで、広くウイスキーシーンで使われているグレンケアンやノーマルなテイスティンググラスだと、ウイスキーとしては低度数なものだと香りが充分に広がらず、40%台前半仕様のスタンダードなブレンデッドやオフィシャル銘柄の一部は、その個性を感じ取りにくいものも多く見られました。

このようなウイスキーはハイプルーフなものに比べ香りの弱いものが多いのですが、本グラスは特殊な形状でしっかりと香りを開かせ、グラスの内部に留めるため、存分に香りを感じることが出来ます。
しかし昨今リリースの増えてきたボトラーズやクラフトの若いシングルカスク&ハイプルーフなウイスキー。溶剤やアルコール感、強すぎるエステルなどのニュアンスを含むバーボンやラムなどは、グラスの特性故に明らかに向いておらず、鼻をやられます。
ええ、ハイプルーフなものほど焼き切れます。

ですがハイプルーフリリースはグラス内で加水することで、素晴らしく豊かな香りを楽しむことが出来ます。
ウイスキーは元々加水した方が香りがわかりやすいと言われていますが、加水した状態で販売されているものと何が違うのかというと、加水によって度数が下がる際に、時間経過で失われてしまう微細な香りが多数発生するためです。
そしてAROMA GLASS STILLは特殊な形状でその香りを留めることが出来るのです。中でも、ハイランドモルトなどの麦芽風味が豊かなものは、加水によって鳥肌が立つほどの複雑さを感じることが出来ることでしょう。

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※オーツカさんが推奨する、開封後時間が経過し、多少香味が抜けているボトルのリカバリー。このベンロマックは開封から5年経過したものだが、確かに麦芽香を豊かに感じられる。

一方で、突き抜けた形状故に、ノージング以外に懸念点がないわけではありません。それが口当たり、飲み易さ、グラス管理です。
口当たりに関しては、リムは薄く作られており、可もなく不可もなしという感じですが、ボウルからリムにかけて広がりのある形状故に、一般的なテイスティンググラス以上に傾けないと液体が口に入ってきません。人によってはそうして傾けることに違和感が、あるいはリムが鼻が当たって気になる、という感想を持つ可能性もあります。

また管理のし易さとしては、洗浄後の水気の拭き取りの際に、グラス内部が少し拭き取り難い印象もありました。
製作者のオーツカさん自身も、これらの特性を踏まえて本グラスを「エキセントリックな形状」と称されています。
ただしグラス管理に関しては、専用のグラスクロスを使っていればそこまで気にならず。ぬるま湯で洗う、あるいは消毒用アルコールを吹きかけてから仕上げの拭き取りをするなど、通常ハンドメイドグラスを管理する程度の工夫で全く問題ないと思います。

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ワインでは、リーデル社が提唱したように地域や品種によってグラスに向き不向きがあり、グラスを変えることで異なる個性を、また適したグラスを用いることで味わいを一層輝かせることが出来るとされています。
ウイスキーもまた同様で、いくつかのグラスを使い分けることで、その複雑な香味から違う表情を紐解くことが出来るようになると言えます。

これまで、ウイスキーのグラスはそこまでグラスとウイスキーの相性が重要視されてきませんでしたが、それは単一蒸留所の個性を楽しむという文化が生まれたのが2000年以降、最近のことであるためです。
あくまで私の持論ですが、日頃は国際規格のテイスティンググラスなど、統一してウイスキーの分析を行うグラスを使いつつも、そのウイスキーの特性を掴んだら、それに向いたグラスを使ってみる。セカンドツールとなる性能特化型のグラスが手元にあることが、ウイスキーライフを一層豊かなものにしてくれると感じています。
AROMA GLASS STILL は、まさにその1つですね。

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余談:グラスレビューについて
これまで何度かグラスの紹介をしてきましたが、その使い勝手や特性を定量的に、あるいは端的に紹介できないかと考え、今回から試行的に評価シートを反映してみました。
香り立ちや口当たりはあくまで主観であって、この数値が高いから素晴らしいグラスであるとは言い切れません。例えば、今回のように香り立ちは良いが向き不向きが強い、というグラスもあります。

そして中でも悩んだのが、グラスのタイプの分類です。
上の写真は我が家にあるウイスキー用のグラスの一部ですが、右から「楽飲型(入門向け)3点」、「分析型(テイスティング向け)2点」、「特化型2点」の並び。
楽飲型と分析型に関しては相互関係にあり、右から左に行くに従って、それぞれの特性がフェードアウト、フェードインしていくイメージです。

・咲グラス
・AROMA GLASS BASIC
・The Ultimate Peat Glass
・木村硝子 テイスティング1
・咲グラス 蕾
・AROMA GLASS STILL
・KFWSテイスティンググラス

楽飲型は香りを適度に逃し、または馴染ませ、アルコール感を感じにくくする特性があり、口当たりも柔らかくする工夫がされているため、純粋にウイスキーを飲みやすく楽しめるようにしてくれる特性が強いもの。
分析型は、香りの要素を際立たせ、良いも悪いも全ての個性を感じやすくする特性が強いもの。
特化型は、今回のグラスのように、ある特定の仕様のウイスキーに対して素晴らしい特性を発揮するもの。というイメージです。

今後はこれまでの記事にもこの指標を取り入れる編集をしつつ、他のウイスキーグラスについてもレビュー記事を書いていきたいと思います。

映画 駒田蒸留所へようこそ オリジナルウイスキー&KOMA復活プロジェクト

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11月10日公開の映画「駒田蒸留所へようこそ」。もうご覧になられたでしょうか。
先行試写会参加組としては、早くみんなとあそこはあの蒸留所だとか、あの人が写っていたとか、あるいはあのウイスキーは…とか、あれこれ語り合いたくてムズムズしており、やっとそれが出来る・・・。
近々、ストーリー考察スペースとかもやりたいですね。

一方で前回、先行試写会後に更新した紹介記事では、追って紹介としたのが、映画とコラボしたオリジナルウイスキーリリースに関してと、当時はオープンにできなかった企画、KOMA(独楽)復活プロジェクトです。
オリジナルウイスキーは言わずもがな、映画公開当日にオープンとなったKOMA復活プロジェクトのクラウドファンディングは、既に目標を達成するなど多くの注目を集めています。
今回の記事はKOMAとはどんなウイスキーだと考えられるのか、そしてコラボレーションリリースを実施する各蒸留所と本映画との関連やリリースの傾向等を紹介していきます。

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・KOMA復活プロジェクト(T&T TOYAMA クラウドファンディング)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044

・駒田蒸留所へようこそ コラボ企画 オリジナルウイスキーリリース
URL:
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/campaign/


◾️KOMA復活プロジェクト
11月10日の映画公開と合わせ、本映画のウイスキー監修・稲垣貴彦氏が代表を務めるT&T TOYAMAが公開したのが、劇中に登場する幻のウイスキーKOMA(独楽) を復活させる、映画さながらのプロジェクトです。

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ネタバレを最小限に、ウイスキーKOMAについて解説すると。。。このウイスキーは、駒田蒸留所を操業する御代田酒造が、かつて発売していたシングルモルトウイスキーです。

多くのファンがいたようですが、劇中では災害によって御代田酒造の蒸留設備が失われたことをきっかけに製造を中止しており、残っていた原酒も御代田酒造がウイスキー事業を再開するタイミングで「わかば」をリリースする際に使っていたことから、原酒ストックがない状況となります。
劇中では、このウイスキーを復活させることをテーマの一つにストーリーが進みます。色々な情報が合わさっていますが、御代田=軽井沢周辺の地名であること等から、位置付けとしてはそういうことなのでしょう。

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ただし、その中身は単に軽井沢モチーフというわけではないようです。
先日、稲垣さんとXのスペース配信中に考察したところでは、以下のような地ウイスキー寄りのシングルモルトではないかとのこと。
  • 表記上の熟成年数は12年。
  • 原酒は、当時ウイスキー用のノンピート麦芽より、関税の安かったピーテッド麦芽から仕込んだもの。
  • ミズナラ樽等の古樽(3回、4回熟成に用いた後のもの)で熟成。
劇中では、駒田蒸留所で蒸留した原酒の熟成を待つのではなく、シングルモルトKOMAをブレンドで再現しようと、日本各地の蒸留所から原酒を集める取り組みが行われます。

さて、話を現実世界に戻すと。
この幻のウイスキーKOMAを、現実でも復活(再現)しようという取り組みが、T&T TOYAMAがクラウドファンディングで進めるプロジェクトとなります。日本初のジャパニーズボトラーズであるT&T TOYAMAならではの取り組みでもありますね。

同プロジェクトでは、劇中同様に日本各地の蒸留所から原酒を集め、ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキーとして”KOMA“と、ブレンデッドモルトウイスキーとして”わかば“を、稲垣さんがブレンダーとなって再現します。
そしてKOMAに関しては、劇中では“ある樽”が復活の鍵を担うのですが…。調査員が向かった三郎丸蒸留所の蒸留棟の奥に、見慣れない樽が…おや、これはひょっとしてs…うわまてやめろなにお(

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すいません、取り乱しました。
先に触れたように、公開されたクラウドファンディングはわずか3時間で目標金額の1000万を達成。支援総額は、本記事公開時点で既に2000万円を超えており、その注目の高さが伺えます。

こうした映画やドラマに登場した架空のウイスキーは、ファンとしては一度は飲んでみたいものです。ましてそれが同映画の監修者によるものとあればなおさらです。
T&T TOYAMAとは度々リリースにも関わらせてもらっていますが、今回私はブレンドに関わることはありません。引き続き、情報収集&発信をしていきたいと思います。


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※クラウドファンディングではウイスキー以外にオリジナルグッズが付属するリターンとなる。また、お酒が飲めないものの本企画を応援したいというファンのために、Tシャツやジャケット等のリターンも用意されている。
クラファンURL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044


◾️駒田蒸留所へようこそ コラボリリース
さて、前回の記事でも紹介したように、今回の映画公開にあたっては、第一弾として公開前のチケット購入で応募できる記念ボトルに加え、第二弾として映画公開後に映画を見た人が応募できるコラボリリースの2つの企画が用意されていました。

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【第一弾】
 三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のライトリーピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。

既に映画をご覧になった方はもうご存知かと思いますが、これら5蒸留所は、劇中においてモチーフとなり何かしらの役割をもって登場し、主人公たちが訪問している蒸留所となります。
ここでは冒頭紹介したように、映画を見ただけという人にも伝わるように、登場シーンと繋がる画像と合わせて、各リリースの方向性について紹介させていただきます。
なお、余談ですが本リリースの調整は、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本氏が担当しており、本記事執筆にあたって同氏から色々お話しも伺いました。その点についても紹介していきたいと思います。

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【三郎丸蒸留所】
もうご存知の通り、駒田蒸留所の”各設備”に関してモデルになったのは、富山県にある三郎丸蒸留所です。
そのため、ここ!という「駒田蒸留所スポット」は、以下の写真以外に多数出てきます。紹介する写真も一番多くなりましたが、まあ仕方ないですよねw
映画を見に行く前に三郎丸蒸留所に行ったことがある人たちは、非常に多くの既視感を覚えるでしょうし、見てから行く人は“スポット”探しも楽しめるかと思います。

一方でモデルになったのは”各設備に関して“であり、劇中の駒田蒸留所(御代田酒造)は長野県にありますし、ストーリーとの関連としては三郎丸の歴史をそのままなぞったものでもありません。
これは映画を作成したPAワークス社が同じ富山県にあり、映画作成にあたって三郎丸蒸留所を訪問して参考資料の撮影等をしたからと考えられます。

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三郎丸蒸留所の特徴は、国内屈指のピーティーなウイスキーです。
2016年にクラウドファンディングを使って資金を調達し、蒸留設備をリニューアル。名前の無かった蒸留棟を三郎丸蒸留所として新たなスタートを切ります。
2020年の仕込みからは、スコットランド・アイラ島のピートで乾燥させた麦芽を用いたウイスキーを作っており、今回のオリジナルウイスキーはまさにその原酒を用いたものとなります。

秋本氏曰く、ここのカスクは迷わなかった。
本映画のウイスキー監修担当にして、蒸留所マネージャーでもある稲垣貴彦氏曰く、秋本さんが迷わず良いカスクを持って行った…と。
新樽熟成のウイスキーは、焦がしたオーク樽由来いのキャラメルやナッツ、バニラ、濃くいれた紅茶のようなタンニンが特徴です。そこにスモーキーな原酒が合わさることで、まず間違いないリリースだと思います。
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【イチローズモルト・秩父蒸溜所】
皆様ご存知、日本においてはクラフトウイスキーの先駆けであり、今やメガクラフトと言える規模に成長した、埼玉県は秩父蒸溜所。劇中では主人公の心境において、ちょっとしたターニングポイントを迎えた際に訪問した場所として描かれています。

樽工場については手持ちの写真がありませんでしたが、以下の3枚で「あ!」と思っていただけるのではないでしょうか。この蒸留所のポイントの一つがミズナラです。ミズナラ材を用いた発酵槽がウイスキーの味に少なからず影響していると思いますが、劇中もその点を意識した描かれ方をしてるのです。
見学は一般見学を受け付けていないので中々難しいかもしれませんが、繋がりのあるBARが見学ツアーを企画したりしていますので、工夫して訪問してみてください。

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そのオリジナルウイスキーは、劇中でも登場していると思しき吉川ブランドアドバイザーがブレンドに関わったシングルカスクブレンデッドのアンバサダーズチョイスです。
このシングルカスクブレンドは、秩父蒸溜所の原酒に、世界中から集めた原酒をブレンドし、樽に詰めて数年単位で追加熟成させたものです。

ウイスキーの製造過程では、ブレンドした原酒を樽に詰めてなじませる“マリッジ”という行程があり、それと何が違うのかというと。マリッジの期間は大概1年未満です。
イチローズモルトのシングルカスクブレンドは、1つの樽に1つのレシピで、それを数年、モノによっては5年、7年という長い期間追加熟成させた後に払い出してリリースするウイスキーです。

秩父蒸溜所では様々なタイプのシングルカスクブレンドが熟成されていますが、今回カスクチョイスに関わった秋本氏に伺うと、吉川ブランドアンバサダーの意向もあってフルーティーで華やかなタイプが選ばれている。少し前のON THE WAYに似ている。というコメントで、これは秩父蒸溜所のウイスキーが好きな方に刺さりそうなリリースが期待できます。
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【長濱蒸溜所】
長濱浪漫ビールが操業する日本最小規模の蒸留所…が、滋賀県・長濱蒸溜所です。
何か歯に挟まったような説明ですね?はい、蒸留設備の規模は、設備の一部が地ビールの製造設備と共用だったりで、確かに最小規模なのですが…ここは輸入原酒の活用含めて、熟成環境やリリースの展開を含めると、国内屈指と言える規模。
社長とブレンダーらスタッフが働きすぎだと心配するまでが、長濱蒸溜所ファンの通過儀礼であり、お約束でもあります。

また、2020年からは三郎丸蒸留所と合わせて、原酒の交換を各蒸留所と行うなど、各種コラボリリースに意欲的であることでも知られています。
劇中において、蒸留所の訪問はNVJ社の企画「クラフトウイスキー特集」のために行われていきますが、長濱蒸溜所だけはちょっと違うのです。あまり書きすぎるとネタバレになるので控えますが、この世界線でも長濱蒸溜所は各社と積極的な交流をされていたようです。
予告編の1シーンでも登場する所長?と思しき青年はひょっとして…

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長濱蒸溜所のリリースは、アイラクォーターカスク、つまり某L蒸留所で熟成に使っていたクォーターで熟成したノンピートモルト原酒です。
ノンピートなのですが、樽に染み付いたアイラモルトのフレーバーが原酒に溶け込み、スモーキーさやアイラモルトを思わせるヨード香など、独特のフレーバーを楽しむことができます。

また長濱の原酒は麦感豊富で雑味が少なく、若いうちから楽しむことができることで知られており、クオリティは問題なし。本当はピーテッドをと思ったが、三郎丸がアイラピート、信州が内陸ピーテッドなので、樽由来で異なるピートフレーバーを感じさせるノンピート原酒をチョイスしたと、秋本スピリッツバイヤー。
そうなんです、今回のオリジナルウイスキーは後述するKOMAの件もあってか、ピーテッドが多いんです。ただし一口にピートといっても、その種類によって全く味が異なるもの。本リリースに限らず、飲み比べも楽しんでほしいですね。
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【マルス信州蒸留所】
同蒸留所のルーツは、日本のウイスキーの黎明期、1949年からウイスキー製造を行っていた本坊酒造にあり、長い歴史を持つものの、事業としては稼働と休止を繰り返していたマルスウイスキー。
実はこれまで、マルスがウイスキー蒸留を休止するとブームが到来するという、不名誉なジンクスもあったのですが。。。この信州蒸留所は2011年に稼働を再開、近年のウイスキーブームを追い風に羽ばたき、国内有数のウイスキー事業者となっています。

映画では、特に2020年の大規模リニューアル以降に信州蒸留所の見学に行ったことがある人なら、「お?」と思うシーンや人物がスタートから出てきます。
ブランド名である駒ヶ岳が「駒田」と似ていることから、この蒸留所が舞台なんじゃないかという話も企画公開当初は見られましたが、予告映像があまりにも…だったので、即雲散霧消。ですが、そこは長野県の蒸留所。ちゃんと劇中では主人公らの訪問先の一つに登場するわけです。

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今回のオリジナルウイスキーは、信州蒸留所での蒸留が安定してきた直近5年以内のもの。
2011年の再稼働直後から数年は、少々酒質が暴れているというか、粗さが残っている印象がありましたが、2014年のポットスチルの交換以降は特にバランスが取れてきた印象があり、フレッシュで爽やかな麦芽風味に軽やかなスパイシーさ、樽感との馴染みも良いと感じています。
また、2020年の大規模改修後はマッシュタン等の設備の更新、見直しもあり、さらに酒質が向上しているのですが…それはまた別のリリースで。

ライトリーピーテッド原酒はほぼアクセント程度のピートフレーバーとなりますが、若い原酒が持つネガティブなフレーバーを抑え、逆に麦芽風味やバーボン樽由来のフレーバーを引き立てる傾向があると感じています。
麦感には香ばしさを、バーボン樽由来の黄色系のフルーティーさやバニラ香、華やかさには、ほろ苦さを加えてそれぞれの香味に立体感を、といった具合。
下手にヘビーピートにするとピートが浮ついてしまうため、信州の酒質を知ってもらうにはちょうどいいチョイスではないでしょうか。

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【八郷蒸溜所】
最後になるのが、日の丸ウイスキーや、常陸野ネストビールで知られる茨城県・木内酒造が操業する八郷蒸溜所です。
正直、この蒸留所については、立地やPRの少なさもあってか、他のクラフトに比べると話題になることが少ない気がしますが(少なくとも自分の周囲では)、実は新興クラフトの中では屈指の規模を持つ、今後大きく発展することが予想される蒸留所だったりします。

劇中では、主人公らがNVJの企画を兼ねて訪問する2つ目の蒸留所として描かれています。先に触れたように、知られていないことから「あれ?ここどこ?」となる人も多いかもしれません。また、設備の見学以外に、ここでは「原酒のテイスティングノート」が登場するのですが、このテイスティングノートを書いたのが…の…だったり。
私が訪問したのは少々前なので写真も今の姿とは違うところがありますが、非常に機能的で、設備も新しいしっかりとしたものが揃っています。

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さて、この八郷蒸溜所のオリジナルウイスキーは、3種類の樽(原酒)をブレンドして造る、日の丸トリプルカスクウイスキーです。
酒質については、麦感が厚く、古典的なハイランドモルトを思わせる風味が感じられるのが八郷の特徴。一方で、シェリー樽はともかく、チェリーブランデー樽やさくら樽という、これまでのウイスキーではあまり見られなかった樽が使われているため、今回のオリジナルウイスキーラインナップの中で一番イメージが出来ないリリースではないでしょうか。

さくら樽は今複数のクラフト蒸留所でも使われており、端的に言えば「桜餅」のような風味がウイスキーに付与される特徴があります。
そこに、チェリーブランデーやシェリー樽の濃厚な甘さ、色濃いウッディさが加わり、今回のウイスキーはリッチで複雑、どこか懐かしい、ウイスキーを飲んだことが無い人でも知っているような味に仕上がっているそうです。
八郷側でブレンドをするにあたり、そのバランスには苦労したそうですが、秋本氏からもアドバイスがあり、ちょうどいいバランスにまとまっているとのことです。

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【最後に】
改めてこの映画を振り返ってみて、あのジャパニーズウイスキーがアニメーション映画になるとは…と、かれこれ15年以上ウイスキーを趣味としている一人として、感慨深いものがあります。
2012年に映画「天使のわけまえ」が公開された際も、ここまで話題になることはありませんでしたし、それ以前はハイボールブームが徐々に起こっていたとはいえ、ウイスキー=マイナーな酒という位置づけでしたから。
本映画は日本だけでなく、それこそウイスキーの本場イギリスや、台湾等海外でも上映されるとのことで、どんな反響があるのか今から非常に楽しみです。

なお、本映画とのコラボ企画としては、国内の蒸留所に「●●蒸留所へようこそ」というオリジナルポスターを展示するというものがあり、該当する全蒸留所のロゴがエンドロールで一斉に流れるその絵は壮観です。(また、ウイスキー愛好家としては聖地とも言える場所と、ある人物が登場するのも、遊び心があってGOODです。)
映画を見て、クラフトウイスキーが飲みたくなったらぜひ蒸留所へ。成長と発展を続けるジャパニーズウイスキーが、さらに盛り上がっていくことを記念して、本記事の結びとします。


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映画「駒田蒸留所へようこそ」試写会感想&タイアップ企画紹介 11/10ロードショー

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2023年11月10日(金)から全国ロードショーとなる、世界初のアニメーション・ウイスキー映画「駒田蒸留所へようこそ」。
先日、その先行試写会に参加させて頂き、一足早く映画を楽しませて頂きました。

公式URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
予告編動画:https://youtu.be/KSAJIox--2g?si=4q0CtJ0YDMhtz7yq

映画公開前から本編ネタバレになるような記事はよろしくないと思うので、ネタバレにならない程度のざっくりとした感想でまとめると。。。内容はしっかりウイスキーの映画です。それでいて、普段ハイボールくらいしか飲まない「ウイスキーって?」という人や声優目的で見る方々から、推しの銘柄や蒸留所があるガチ勢まで、広く楽しめるストーリー構成になっていると思います。

勿論ツッコミどころがないわけではないですが、それをいちいち言うのは野暮ってもの。表面的には、蒸留所とウイスキーを復活させようという家族の物語ですが、見る人が見れば数分に1度のペースでニヤリとさせられる描写、情報、登場人物がストーリーに絡んでいる。
特に、本映画とタイアップが発表されている、三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷が好きという方は必見の映画ではないかと思います。(有楽町の某BARに行ったことがある方も、最後まで見ておくと良いかも・・・。)

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(予告編に一瞬写った劇中のワンカット。モデルとなった蒸留所に行ったことがある方なら、どこの蒸留所で、誰が描かれているかもわかってニヤリとしてしまう。)

言い換えると、関連知識があればあるだけ楽しめる映画なんです。
そこで本ブログでは公開前に知っておくと一層楽しめる予備知識、そしてタイアップ企画やオリジナルウイスキーについて公開情報をベースに、ネタバレにならない範囲でまとめていきます。

■映画の舞台と予備知識について

「崖っぷちの蒸留所の再起に奮闘する若き女社長と、夢もやる気もない新米編集者が家族の絆をつなぐ”幻のウイスキー”の復活を目指す。」
本映画に関する舞台設定ですが、SNS等では若鶴酒造の三郎丸蒸留所が舞台で、2016年の三郎丸蒸留所再建がストーリーベースになっているのではないか。という予想が散見されました。

確かに若鶴酒造・三郎丸蒸留所の敷地、社屋が駒田蒸留所のデザインになっているのは間違いありません。このアニメーション制作を手掛けたP.A.WORKSは富山県にあり、監督の吉田正行氏も取材されていることもあって、予告編を通しても三郎丸蒸留所をモデルとしたシーンが多数出てきます。
以下画像はその一部。映画を見る前、あるいは見た後でも、三郎丸蒸留所の見学に行くと、脳内でシナプス結合が多数発生することは間違いありません。

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さらに本映画のウイスキー監修は、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーが関わっており、若手社長が蒸留所の再起を目指すというストーリーも、稲垣マネージャーの取り組みとリンクするところです。

しかしここであえてネタバレに踏み込むと、劇中で語られるエピソードは、日本の様々な蒸留所にあった出来事と思しきもので、時間軸もそれぞれ異なる並行世界のような構成。決して三郎丸蒸留所の再建劇ではありませんでした。
例えば、経営困難となった駒田蒸留所において、原酒の破棄を迫られるシーンが出てきますが…これはもはや補足説明不要なエピソードですね。

また駒田蒸留所を操業しているのは、仮想の酒類メーカー御代田酒造。つまり長野県軽井沢の「御代田」が舞台として設定されています。若鶴酒造があるのは富山県です。軽井沢であることがそんなに重要か?と思うかもしれませんが、実はその意識があるだけで違います。なにより、軽井沢でウイスキーと言ったら…ここは予備知識として覚えておくと、ストーリー設定がすっきり飲みこみやすいと思います。

果たして幻のウイスキーは復活するのか、そして駒田蒸留所の未来は如何に…。

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(駒田蒸留所外観、御代田酒造の表記。劇中では「長野県」を連想させる場所が度々登場する。)

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(劇中で幻のウイスキーと言われた、”ウイスキーKOMA”。軽井沢で失われたウイスキーと言えばモデルは…。ただし、製法に関しての関連性はなく、あくまで位置づけとして。製法の伏線、ヒントはラベル。是非映画を見て頂きたい。)

■タイアップ企画について
本映画のストーリー進行は、御代田酒造・駒田蒸留所の社長である「駒田琉生(こまだるい)」と、News Value Japan(NVJ)社の新人記者である「高橋光太郎(たかはしこうたろう)」が、クラフトジャパニーズウイスキーを特集するための取材という目的で、国内の蒸留所を訪問するシーン。そして幻のウイスキーKOMAを復活させることを目指すシーン、主人公二人のそれぞれの”仕事”を舞台に構成されています。

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このウイスキー特集企画。劇中だけでなくリアル世界でのタイアップ企画が既に公開されており、現在オープンになっているのが以下の2つ。
・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
・映画本編に登場した5蒸留所(三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷)のオリジナルウイスキーリリース

聞くところによれば、今後更なる企画も予定されているとのことですが、本記事ではまずこれらの企画について紹介していきます。

・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
映画を配信するGAGA社の公式サイトでは、9月末に映画本編を模したサイトがオープンし、蒸留所に関する情報発信が始まっています。
これは劇中では主人公:光太郎が書いている記事とリンクするような構成で…、最も内容は現時点では映画公開前なので非常にライト、編集長に「もっとウイスキーファンが読んで面白い原稿にしないとだめ。」と言われちゃいそう(笑)

ですがここで劇中に見られたような「〜〜の基準」とか、マニアックな話は逆に浮いちゃう気もするので。例えば劇中に出てきたシーンと実際の蒸留所の比較や、登場された方とのコメントとかまとめてくれるだけでも、聖地巡礼のきっかけになりそうで面白そうだと思うんですよね。
これから記事が増えていくと考えたら、楽しみなサイトです。

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URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/special/

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(本記事に引用したアニメシーン画像とリンクする2箇所。秩父蒸溜所と長濱蒸溜所の例。ウイスキー特集と合わせてこうした情報発信があれば。)

・映画本編とタイアップした5蒸留所のオリジナルウイスキーリリース
8月に横浜で開催されたウイスキーフェスティバル等を皮切りに、本映画とクラフトウイスキー蒸留所のタイアップ企画として、オリジナルウイスキーのリリースが発表されています。

この企画は2段階に分かれており、
・第一弾:ムビチケ前売り券を購入された方が応募できるもの(11月9日まで)
・第二弾:映画館を見て頂いた方が応募できる企画(11月10日~12月7日まで)※
※前売り券を購入された方は、第一弾、第二弾どちらも応募可能。
リリースの調整は信濃屋が担当。当選したら購入できる、抽選販売となります。

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【第一弾】
三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。
以上5点が発表され、第二弾はこの中から購入希望の蒸留所を選ぶ形式となります。

日本国内のウイスキーシーンは、2014年のドラマ:マッサンで注目度が高まり、世界的な需要増の後押しもあって大きなブームに繋がりました。そして今回の舞台はそのマッサン以降、大きく芽吹いたクラフトウイスキー。その旗振り役たる秩父蒸留所をはじめ、再稼働した蒸溜所、新興蒸溜所、新しい世代のウイスキーを楽しみにしたいです。

なおこれらのリリースについて、現物をテイスティングすることは出来ていませんが、選定を担当した信濃屋スピリッツバイヤーの秋本さんに電話一本、そのイメージ等を伺っています。折角なので、各蒸留所の紹介と合わせて後編記事として後日別途まとめたいと思います。

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■映画の公開に向けて
「ウイスキー」を主題とした映画は、アニメとしては世界初なのは言うまでもないですが、もう一歩踏み込んで「ウイスキー作り」を主題とした映画として見た場合、本作は実写映画“天使の分け前”に次いだ作品…となります。あるいはウイスキー作りの比率で言えば、ヒューマンドラマ色の強い“天使の分け前”に対し、あくまでウイスキー作りが軸にある本作が、世界初のクラフトウイスキー映画と言えるかもしれません。

それは本映画がP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」に位置付けられ、働くことをテーマに登場人物の奮闘を描く物語であることから。
ただそのウイスキー作りは、本編では精麦、発酵、糖化、蒸留という行程はあまり触れられず、熟成、ブレンドをメインに展開していきます。
この辺はちょっと残念ではありますが、ウイスキーが熟成(リリースまでに)に3年以上、あるいは5年、10年という年月が必要であるため、経営難の蒸留所の幻のウイスキー復活に、蒸留から何年も待ち続けるストーリー展開は設定上も厳しかったのでしょう。

ではKOMA復活に向けて原酒はどうしたのか、どんな出来事があったのか、それはぜひ本編を見て頂きたいと思います。
個人的には、ウイスキーライターの端くれとして、臨時とは言えブレンダーを務める身として、若い両主人公の働く姿に、むず痒くもエネルギーを貰うような感覚のある映画だと感じました。
世界中から注目を集めるジャパニーズウイスキー、これまでは過去の蓄積が評価につながってきましたが、今後は原酒も造り手も新しい世代が試される時代です。

「いいんじゃないの?必死にやった結果、俺はこの道に出会えたんだから」
本映画が直接的にも間接的にも、ジャパニーズウイスキーの造り手の背中を押してくれる一助となることを期待しています。

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追記:映画主題歌の「Dear my future」が良曲で、エンディングの余韻をしっかり膨らませてくれました。早見さん歌めちゃ上手いですね。

お酒の美術館 PBリリース第2弾「琥月」「姫兎」江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボに協力

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お酒の美術館のプライベートボトルリリース第2弾、シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月(KOGETSU)、ブレンデッドウイスキー姫兎(HIMEUSAGI)が、9月上旬から同BAR店頭にて提供されています。
2022年にリリースされたPB第一弾、発刻、祥瑞同様に、くりりんがブレンダーとして原酒選定と、製品候補となるレシピ作成で協力させていただきました。

公開されていないものも含めると、関わらせていただたウイスキーリリースは20を超え、商品開発という視点での面白さ、難しさ、通常みることが出来ない奥深い世界を経験させてもらっています。
今回のリリース内容については、以下お酒の美術館からのプレスリリースに詳しく記載されていますが、本ブログではブレンダーとしての当方の視点から記事をまとめていきます。

公式プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000041825.html
お酒の美術館:https://osakeno-museum.com/


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今回のコラボは、昨今評価が高まっている瀬戸内のブナハーブン※こと江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボレーションで実現。(※瀬戸内のブナハーブンは自分が勝手に言ってるだけです。公式名称ではありません。)
シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月は、2018年に蒸留され、5年間オロロソシェリー樽で熟成された10PPM未満の原酒を、シングルカスク、カスクストレングスでボトリングしたもの。
ブレンデッドウイスキー姫兎は、琥月をキーモルトとして、江井ヶ嶋蒸溜所が保有するスコッチモルトウイスキー、グレーンウイスキーをブレンドしたもの。モルトとグレーンの比率は5:5で、50%に加水してリリースされています。

琥月からは江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルであるシェリー樽のフレーバーと昨今の酒質向上を感じることができ、姫兎は輸入原酒とのブレンドによってキーモルトの個性を感じつつもソフトで飲みやすい味わいに仕上がっています。
また、どちらのウイスキーからもシェリー樽のフレーバー以外に“にがり”のような潮のニュアンスが微かに感じられ、これもまた同蒸溜所の個性の一つ。
飲み方としては、琥月はハーフロックで、姫兎はハイボールがおすすめです。涼しくなってきたとはいえ、まだ1杯目はシュワシュワが恋しい。1杯目は姫兎か祥瑞をハイボール、2杯目は琥月か発刻をロックで、PBコースなんていかがでしょう。

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■リリース経緯など
お酒の美術館から、次のPBについて相談があったのは確か2022年年末のこと。
同年4月にリリースしたPB第一弾が好評で、特に祥瑞のほうはもう在庫がなく、ハイボールですっきりと飲めるウイスキーを新たに作れないか。
提案内容はざっくりとこんな感じで、どこか対応してくれる蒸留所は無いかと、日頃やり取りさせて頂いている複数社に相談・・・、結果、T&TのラストピースやKFWSさんのPB等で繋がりがあった、江井ヶ嶋酒造と話を進めることとなりました。

ご存じの通り、江井ヶ嶋酒造は1919年からウイスキーの製造を開始した国内でも屈指の歴史を持つウイスキーメーカーです。立地は兵庫県瀬戸内海沿岸沿いと、ストーリー性もある環境。1984年に整備された蒸留棟は、導線の確保された設備一式を有しています。
ただ、その造りは安定しておらず、長らくメーカーとしてもウイスキーは優先順位が低い状況にありました。それが大きく変わったのが2016年以降、設備の改修やスタッフの意識改革等が効果を発揮し、特に2018年以降の原酒はこれまでとは異なる高い品質のものとなっています。

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本リリースに限らず、自分がブレンダーとして関わらせてもらう以上、愛好家視点で蒸留所の個性とユーザーから求められている味わいをリンクさせたウイスキーを提案することを目指しています。
お酒の美術館は全国で約70店舗を展開する、もはや全国規模のBARチェーン店です。ここでウイスキーが情報発信と合わせて提供されれば、蒸留所の魅力、造り手の努力が知られる一助となるのではないか。そんな想いをもって、企画に関わらせて貰いました。

ただ当初はブレンドだけの予定で、その前提で前捌きをして江井ヶ嶋蒸溜所から候補となる原酒を出して頂いたのですが・・・。
カスクサンプルをテイスティングしたお酒の美術館の社長:富士元氏から、このクオリティならシングルモルトも希望したいとリクエストがあり。だったら、シングルモルトのカスク選定を進めつつ、ブレンデッドのほうはシングルモルトでリリースする原酒の一部をキーモルトとすることでどうかと提案(これが後々自分の首を絞めることに…)。

製造側には手間のかかる提案ですが、江井ヶ嶋蒸溜所の平石社長、中村工場長、両名から快諾頂き、シングルモルト琥月、ブレンデッド姫兎としてリリースの方向性が決まりました。

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■シングルモルトジャパニーズウイスキー 琥月 62%
シングルモルトは個性の酒。江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルの一つは、全熟成樽の約7割を締めるというシェリー樽由来のフレーバーです。
バーボン樽も魅力的ですが、ここは瀬戸内のブナハーブンたる江井ヶ嶋の個性をアピールする方向で、オロロソシェリー、ペドロヒメネスシェリー(PX)、クリームシェリーの3種類の樽から、候補となる原酒を複数出して頂きました。

クリームは妙にスパイシーな癖があり、今回のリリースの方向性には合わないと除外。悩んだのは親しみやすいが癖も少ない樽感のオロロソシェリー樽の1つか、濃厚だがビターでウッディなPX樽の1つか。
今回は選んだ原酒をキーモルトとしてブレンドも作成するため、ここでミスチョイスすると取り返しがつきません。ここにきて、あ、これ結構難しいアイディアを出してしまったぞと、自分が置かれた状況を認識するに至ります…。

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悩んだ結果、シングルモルトとしては甲乙付けがたいため、ブレンドレシピとしてどちらが希望に沿ったレシピを作れるかで決めようと一旦保留。ブレンドの作業量が2倍になってしまいましたが、決められないのだから仕方ありません。

オロロソベースとPXベースとで、それぞれ候補となるレシピを複数造り、原酒群の中で最もバランスが良かったオロロソシェリー樽原酒の1つ(Cask No,101808)でリリースを進めることとなりました。
5年と若い熟成期間ですが、酒質が向上した2018年の仕込みだけあってベース部分の味わいは親しみやすく、特に加水すると非常に柔らかく飲みやすい味わいへと変化することから、素性の良さも感じられます。

ややビターなウッディネス、麦チョコや黒糖麩菓子のような甘さ、かすかにドライフルーツやピートのアクセント。
おすすめはハーフロックですが、お酒の美術館らしい楽しみ方として、ストレートにオールドブレンデッドを少量加えた飲み方を、裏メニューとして提案します。
正式なメニューではありませんが、お店で飲まれる方はぜひ裏メニューとして注文してみてください。(自分のおすすめは1980年代流通のジョニ黒です。)

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■ブレンデッドウイスキー 姫兎 50%

先に触れたように、琥月をキーモルトとし、江井ヶ嶋蒸溜所のモルトウイスキーに輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを加えたワールドブレンデッドウイスキーです。
モルトとグレーン比率は5:5。企画立案当初、お酒の美術館側からコンセプトとして提案された通り「ハイボールですっきりと飲めるウイスキー」をテーマにブレンドしています。

メレンゲや綿菓子を思わせる甘いアロマ、干し草、グレープフルーツやハーブ、青りんごを思わせる果実のアクセントに、微かにビターで潮気や樽由来の要素が混じる味わい。
琥月の原酒を一部使用しているためシェリー樽由来のフレーバーが感じられるだけでなく、江井ヶ嶋蒸溜所のもう一つの個性であるにがりのような潮のニュアンスがポイントです。

このニュアンスは、明石海峡が眼前に広がる熟成環境や、敷地内の深井戸からくみ上げられる仕込み水の関係からか、江井ヶ嶋蒸溜所のウイスキーに感じることが多い特徴で、今回は琥月より姫兎の方がこの特徴を捉えやすい印象があります。
ブレンドと加水で樽由来の要素が落ち着いた結果、個性を感じやすくなったのでしょうか。また、全体を通して感じられる麦芽風味は、輸入ハイランドモルトを江井ヶ嶋蒸溜所でリフィル樽に入れて追加熟成した原酒に由来するフレーバー。ノンピートタイプで麦芽風味が豊か、これだけでも通用するレベルの原酒で、正直これを別リリースとして出したいとも感じたほどでした。

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ただし、個性の強いシェリー系短熟ジャパニーズモルトである琥月に、モルティーなハイランドタイプの原酒を主体に構成するとなると、全体的にリッチな味わいとなって「すっきり飲めるウイスキー」に仕上げるのは難しくなります。
例えるなら、シェリー樽の原酒が”ざる用の濃さの麵つゆ”で、ハイランドモルトが小麦の風味豊かなうどんです。これがどんぶりいっぱい、ぶっかけうどんの量で出てきたら・・・すっきりとは食べれません。
じゃあ水で薄めれば・・・味がペラペラになってバランスが悪くなってしまう。つまり味を調えつつも奥深さは消さない、ダシのような存在が必要になります。

そこで使用したグレーンが、非常にプレーンでさっぱりとしたタイプ。樽やモルトの強い個性を引き算し、均一化するような感じで整えて、全体をうまくまとめてくれました。
心情的にはモルト、グレーン比率を6:4、あるいは7:3あたりのクラシックなタイプにしたかったのですが、モルトの個性が強くなりすぎてしまう。スコッチウイスキー縁の下の力持ちと言えるグレーンの重要性を改めて感じましたね。
試行錯誤の多かった作品ですが、何とかテーマの通りまとめられたと思います。ぜひハイボールで楽しんでいただけたらと思います。

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■お酒の美術館PBについて
お酒の美術館PBは源氏物語絵巻をラベルに用いた、シリーズ構成のウイスキーです。
2022年にリリースされた発刻、祥瑞は長濱蒸溜所の協力でリリースされたもの。
「発刻」は長濱蒸溜所の濃厚なシェリー樽原酒とピーティーな原酒を合わせ、輸入モルト、長期熟成グレーンでバランスを取りつつ加水なしでボトリングした、パワフルでスモーキーな愛好家向けのブレンデッド。
「祥瑞」は若い輸入原酒に発刻と同様の長期熟成グレーン、そして同じ濃厚なシェリー樽原酒をブレンドし、加水して47%でリリースした、華やかでフルーティーな万人向けのブレンデッドです。
今回はここに新たに「琥月」、「姫兎」の2種類が加わったわけですが、今後も国内クラフトメーカーとタイアップしたリリースが計画されています。

これらのリリースに関して、私は監修・協力の立場にありますが、報酬や給与、監修料等の金銭は一切受け取っておりません。(同チェーン店で飲んでいると、1本売れたら何%懐に入るんですか?という質問を受けることがありますがw)
あくまでお酒の美術館の常連として、一人のウイスキー愛好家として、趣味として協力させてもらっています。具体的には、蒸留所との繋ぎ、原酒選定、ブレンドレシピの提案までで、そこから具体的な契約や価格設定、店頭での提供はお店側の領域、私は関わっていません。
逆に、お酒の美術館側からもコンセプト以外は蒸留所とのやりとりなど、お任せ頂いてる状況。だからこそ、手間をかけて納得のいくブレンドを作れるという強みがあります。

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BAR お酒の美術館のラインナップは、元々ベースとなっていたのが中古酒販として買い取ったウイスキーでしたが、昨今はそのコンセプトに加えて手軽に洋酒全般を楽しめるBARチェーンとして、領域をオールドから現行品へも広げつつあります。

従来のBARが階段を上った先や微妙に目立たない路地の裏など、隠れ家的なコンセプトであるのが多いところ。もちろんそれは魅力であるのですが、同店は逆に路面店、コンビニとのタイアップ、駅構内、空港の保安検査後のスペースといった、人が多く集まる場所に出店しています。ウイスキーの魅力はまず飲んで、知ってもらわないことには伝わりませんから、このPBを通じて広く日本のウイスキーの魅力が広まったら。。。と、それが冒頭にも書いた私の想いに繋がります。

改めて、今回もまたこうした貴重な機会を頂けたことを、この場を借りて御礼申し上げます。
クラフトの成長を心強く感じると共に、ブレンドの奥深さに悩み、そして楽しむ。なんと贅沢な経験でしょうか。
今回のリリースは先月からお酒の美術館全店で提供されています。機会がありましたら是非飲んでいただければ幸いです。

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三郎丸蒸留所 The Ultimate Peat Glass オリジナルハンドメイドグラス

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さる6月23日、三郎丸蒸留所からハンドメイドのオリジナルグラス「The Ultimate Peat Glass」が発売されました。
オンライン販売分は即日完売しましたが、今後も増産、継続販売が予定されていること。
何より私自身が本グラスの設計・企画に関わらせてもらっていることもあり、開発の流れやグラスの特性、使い心地など、私個人の視点での情報も含めて当ブログで紹介させて頂きます。

商品名:The Ultimate Peat Glass
価格:15,000円(消費税込16,500円)
製作:木本硝子株式会社
付属品:グラスケース、グラスクロス
公式サイト:ニュースリリース
関連情報:木本氏、稲垣氏のクロストーク

※グラスの特徴
・ピート香を開きつつ、適度に樽や酒質由来の香りを馴染ませる。蒸留所の個性を感じやすい。
・リムの返しとエッジの処理から、口当たりはスムーズで柔らかく、ウイスキーを味わいやすい。
・全体的に滑らかで一体感のある、まさにハンドメイドというデザイン。

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The Ultimate Peat Glassは、三郎丸蒸留所のコンセプト(ピートを極める)をより確かに感じてもらうことをテーマに開発された、ウイスキー用のテイスティンググラスです。
グラスが変わると香味も変わるウイスキーにおいて、蒸留所マネージャーからの提案であり、お墨付き。
言い換えるとピーティーなウイスキーを最高に楽しめるグラスという位置付けで、個人的には三郎丸に限らずスモーキーさと樽由来のフレーバーが一定以上にあるウイスキーに対して、相性が良いグラスに仕上がっていると感じています。

◾️The Ultimate Peat Glass製作の流れ
同蒸留所マネージャーの稲垣さんは、ベルギービールのように、飲み方の提案としてウイスキーも蒸留所毎にオリジナルグラスがあると良いのではないかという考えがあり。
一方で、私自身はかねてから、ウイスキーを楽しむ上では、ワインのようにその種類、銘柄毎に適したグラスが必要ではないかと考えていたところ。
昨年から稲垣さん、モルトヤマの下野さん、そして私で硝子会社を複数訪問してそれぞれ話を伺い。その中で稲垣さんの紹介から木本社長の熱意に触れ、パートナーとしてグラス作りを行なって頂くことになります。

※関連する話は上述のクロストークでも語られていますので参照してみてください。

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とは言え、オリジナルグラス作りは、そう簡単に進む話ではありません。
数ミリ単位の形状の違いであっても、香味に大きな影響を与えるということ。
また、グラスは手吹きのハンドメイド、機械作りのマシンメイドがありますが、どちらもグラスの形状を決めるための金型が必要で、まずはデザインの方向性を定め、その金型を設計しなければ試作も出来ないということ。
そう、職人がゼロからぷーっと膨らませてイメージに合う形を試作してくれるわけではないのです。

この金型、決して安くなく、何パターンも作るとそれだけ販売価格に影響します。
最初の段階で可能な限り確度の高いデザイン案を作る必要があるわけですが、ご存知のようにグラスの形状は様々です。
そのため、まずは既製品のグラスを使ってウイスキーとの相性を確認すべく。木本硝子さんに我が家からウイスキーグラスやワイングラス、持ってるグラスを大量に持ち込み、コンセプトに近いデザインを絞り込みました。

この時の様子は、上述のクロストークでも語られています。木本社長としても、ここまでやる顧客は初めてだったようです(笑)。※上の写真は、ある程度絞り込んだ後のものになります。
某有名メーカーの大ぶりなグラスだけでなく、よく知られている形状のテイスティンググラスも、目指す香味の方向性ではないと稲垣さんの一刀両断でバシバシ除外。開かせすぎたり、全く開いていなかったり…、木本さんだけでなくT&Tの二人も「え、そんなに持ってきたの?」と驚いていましたが、むしろ持ってきていて良かったと、この時ばかりは安堵しました。

そうこうして行く中で、残ったグラスの形状とサイズから、徐々に目指す方向性が見えてきます。
完全にストレート形状ではなく、多少の膨らみがあり、リムは味わい易さのために少し返しをつける…。
このイメージを形にしていくのがグラスメーカー、木本社長の仕事です。
なお、金型が決まったらあとはデザインを調整できないかというとそんなことはなく。そこから少し金型を削るなど、微調整を加えて行くことは可能です。
試作品が完成後は、稲垣さんが直接木本社長とやりとりされ、当初の予定では4月のはずが2ヶ月遅れの6月下旬、ついに発売となりました。

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※開発当初予定になかった、付属の専用グラスクロス。美味しいお酒は美しいグラスで飲んで欲しい、造り手への敬意として急遽追加した。

形状検討の際にもう一つ考える必要があったのが、“ウイスキーを楽しむ”ことにおける、美味しさとテイスティング性能のバランスです。
例えばウイスキーを深掘りする、テイスティング目的なら、良いも悪いも含めて可能な限り香味要素をはっきり拾える形状のグラスが望ましいと言えます。ですが、それが美味しいか、楽しいかというと、悪い部分も強く拾うグラスが一般に好まれるとは言えません。

今回のThe Ultimate Peat Glassは、テイスティング性能は担保しつつも、広げる香味は良いもの、美味しさ寄りであるべきというのが稲垣さんの考えで、そのための工夫が設計に反映されていきます。
一方、ここでテイスティング性能寄りのグラスも作れないかと、下野さんがここまでの情報から新しい提案をするに至るのですが…。
詳細は、正式な発表があったら、改めて本ブログでも公開していこうと思います。

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※グラスの奥深い世界に、今までの価値観が崩壊して、思わず目を覆う下野さん。

◾️ The Ultimate Peat Glassの性能検証
そうして完成したThe Ultimate Peat Glassですが、性能、使い勝手について、本記事では一般にテイスティンググラスとして使われていることが多いグレンケアンと、国際企画ワインテイスティンググラス、この2脚と比較しながら解説していきます。

まず重量ですが、
・グレンケアン テイスティンググラス (約130g)
・国際規格ワインテイスティンググラス (約120g)
・三郎丸 The Ultimate Peat Glass (約90g)

持った感じは、重心が真ん中寄り上部にあるので90gという数字よりも少し重く感じるかもしれませんが、逆にスワリングはしやすいですね。
強度は…食洗機や強い衝撃、あとは捻り洗い等をしなければ、つまり通常のハンドメイドテイスティンググラスと同等程度、特に繊細すぎる設計にはなっていません。

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比較テイスティングに使用するウイスキーは、コンセプトに合わせ、三郎丸Ⅱ シングルモルト 加水とカスクストレングスの2種。それぞれ30ml注いでの比較となります。
三郎丸モルトの強いピートフレーバーと、Zemonによって生み出される厚みと甘みのある酒質、熟成環境に由来する3年としては強めの樽感をどう広げるか。

【香り立ち】
いずれも同系統のアロマを拾えるが、グレンケアンは香りがボヤけたような、水っぽさが混じる。国際規格は逆にシャープでテイスティングはしやすい一方、ピートの強さだけでなくネガティブな要素を拾いやすく、特にカスクストレングス版ではその特性が際立つ。
一方でThe Ultimate Peat Glassは、適度にシャープなピート香に、樽由来の甘さが混じり、水っぽさもなくバランスよく感じられる。カスクストレングス版でも同様で、香りを広げつつもアルコールの刺激は強すぎない程度に抑えられている。

【味わい】
グレンケアン、国際規格はリム形状が特に変わらないこともあり、大きな違いは感じられないが、強いて言えばグレンケアンの方が口当たりは丸みがある。
一方で、The Ultimate Peat Glassはリムの返しとハンドメイドグラス特有のエッジ加工の丁寧さで、ウイスキーがスムーズに口内に導かれるだけでなく、口当たりも柔らかく感じられる。

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どの系統が良いかというのは好みの問題もあり、以下はあくまで主観的な考察ですが。
最も三郎丸モルトの良い部分を拾いやすかったのは、やはりThe Ultimate Peat Glassでした。昨年受け取った試作品の方向性の通りに仕上がっており、コンセプト通りのグラスだと思います。
ただ、最初にウイスキーの各要素をしっかり開かせるため、三郎丸以外の若いウイスキー、雑味要素が強い原酒だと、注いでから開いた要素が馴染むまで少し時間がかかるかもしれません。
その意味では、酒質が、造り手が試されるグラスという面も…。

それでは、それぞれのグラスで違いがでた考察として、まずは香りの違いにフォーカス。要因としてリムの口径、返し、ボウルの広がり具合が考えられます。
まずリムの口径はそれぞれ約43mm、46mm、46mm。実は国際規格とThe Ultimate Peat Glassは口径がほぼ同じなのですが、前者はボウル部分から緩やかに広がってすぼまるように広い空間が作られるのに対して、後者はボウルの広がりが大きく、その空間がリムの返しに向けて国際規格以上にすぼまっています。

国際規格のような形状のグラスは、各要素が良いも悪いもダイレクトに伝わってくる傾向があり、テイスティング向きの形状と言えます。テイスティングに限れば、安くて丈夫で使い勝手の良い、オールラウンダーなテイスティンググラスなんですよね。あともう1回り小さい製品があると、嬉しいんですが…。
一方でThe Ultimate Peat Glassは丸みを帯びた縦長なフォルムですが、口当たりで効果を発揮する“返し”がある分、グラスの中に適度な広さの空間が作られ、樽と酒質の香りの要素が滞留して馴染むこと。またすぼまったところから広がるように鼻腔へ導かれるため、開いた香りがダイレクトではなく、適度に逃がされることでバランス良く感じられるのだと考察します。

なおグレンケアンは、リムの口径は一番狭いのですが、液面から上の空間があまり広がらず、滞留もせず、そのままリム部分へと繋がるため、香りが広がりきらないのではないかと。。。
では容量を20mや15mlにしたらどうか。ハイプルーフのもの、特に長期熟成で奥行きのあるウイスキーはバランスが取れるような気もしますが、比較すると少しぼやけた香りになりがちです。
テイスティングと美味しさ、引き出す要素を中間くらいで見ると、こんな感じなのかもしれません。
まさに入門向けというグラスの一つであり、改めて、ある程度飲み慣れた人はグレンケアンから拘りの1脚にステップアップしても良いのでは、とも思える結果となりました。

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◾️余談&結びに
今回のグラス製作の話が出た時「僕の考えた最強のグラス」の要素が、
・リーデル ソムリエ ブルゴーニュ グランクリュのような薄さと返しのあるリム。
・既に蒸留所で販売されている、三郎丸テイスティンググラスから、大きくかけ離れないデザイン。
・サイズ感は国際規格と同等または一回り小さくした程度。
・木村硝子テイスティンググラスのような、リムから台座まで滑らかなフォルム。
でした。

私の趣味でデザインを決定したわけではありませんが、出来上がったグラスをみてみると、まさに上記の「さいきょうぐらす」の系譜とも言えるデザインとなっており、その意味でも完成品には特別な思い入れがあります。
何より、グラス製作という、通常いち愛好家では関われないことまで関われる機会を頂けたことに感謝しかありません。
お酒におけるグラスの重要性はわかっているつもりでしたが、グラス製作の経験で、さらに知見を深めることが出来たと思います。

最近自分の周囲でオリジナルハンドメイドグラスのリリースが複数あり、造り手のコンセプトを反映した、個性的な形状のグラスが揃ってきました。
ウイスキーのグラスは、比較のために同じグラスを常に使うことは理に適っていますが、1本のウイスキーを理解しようとしたならば、複数のグラスで多角的に個性を見て行くこと。あるいはその個性を最大に活かすグラスを探索することも、ウイスキーの楽しさだと思います。

例えば、ストレートの入門グラスとして知られる「咲グラス」で飲んだ後、The Ultimate Peat Glassで同じウイスキーをテイスティングすると、その違いに驚くと共に、これまで見えなかった個性や、異なる視点でのイメージを掴めるかと思います。
これも嗜好品の“沼”とされる世界の一つ…。
掘り始めたらキリがないですが。せっかくこうした機会と共にグラスも手元にあるので、今後は比較含めてグラスレビューもやっていこうと思います。
あぁ、ウイスキーって楽しい!

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