アロマグラス STILL(スティル) KYKEY レビュー
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AROMA GLASS STILL
KYKEY
香り立ち:5※/5
口当たり:3/5
重量:95g前後
仕様:ハンドメイド
メーカー:木村硝子
公式サイト:https://kykey.jp/aroma-glass-still/
タイプ※:特化型(低度数のもの、加水したウイスキーなど)
※タイプについて:飲みやすさ重視の「楽飲型(入門向け)」、香味分析やテイスティングに向いた「分析型」、ある特定の酒類や仕様で特性を発揮する「特化型」に分類。
【推奨】
・40%〜40%台前半の加水、または度数落ち。
・50%オーバーのハイプルーフから30%台までグラス内で加水したもの。
・長期熟成品、または麦芽由来の風味が豊かなもの。
【非推奨】
・若いシングルカスク、50%以上のカスクストレングス(バレルプルーフ)のストレート。
・ラムやバーボンなど、溶剤系のフレーバーが強いもの。
【その他】
・ハーフショットでも大丈夫だが、30ml注ぐ方が変化を見るための時間と香りの持続力のバランスが取れる。
・特殊な形状ゆえ、飲み込む際に通常より大きくグラスを傾ける必要がある。
ウイスキーのWEBメディア「BARREL」を運営するオーツカ氏が製作するグラスブランド“アロマグラス”から、11月23日に発売されるハンドメイドグラス、AROMA GLASS STILLです。
リリースにあたり使用感を教えて欲しいと、かれこれ3ヶ月以上前から先行でグラスを使用させて貰いました。発売にあたり、当ブログでもレビューを掲載させていただきます。
AROMA GLASS STILLはポットスチルの形状にヒントを得て、香りを留めることをテーマに、構想2年、何十パターンも試作をくりかえして完成した意欲作です。
アロマグラスシリーズからは、2021年に第一弾となるAROMA GLASS BASICがリリース。デザインの親しみ易さ、入門向けかつ扱いやすく、多少香味はぼやけるもののどのウイスキーにも安定して使える特性が評価され、愛用する方も多く見られるところ。これは近年増えている若いジャパニーズや、スコッチボトラーズのリリースに合致した特性でした。
また、2022年にはオリジナルのショットグラス、CANONも発売され、ショットグラスでハードリカーの楽しみ方を見直す発信も行われています。
そして今回発表されたグラス、AROMA GLASS STILLは、BASICとは真逆の特性を有しており、香りを強く開かせるが故にウイスキーはタイプを選び、また扱いも上級者向けというか、多少ポイントを抑えておく必要がある、まさに特化した性能のグラスです。
オーツカさんのグラス3作を振り返ると、入門向けで広く使えるBASIC。ハイプルーフのバーボンなど高度数のウイスキーに対応するショットグラスのCANON。そして低度数や加水に対応するSTILLと、それぞれ異なるジャンルを抑えていることがわかります。
自分もグラス造りに関わったことがありますが、テイスティンググラスはちょっとした形状の違いで特性が大きくわ変わる、本当に奥が深い世界です。その中で、それぞれの方向性を持たせて3種のグラスを作るというのは、想像以上にコストと時間のかかる取り組みなのです。
本グラス造りの開発エピソードやこだわりは、BARRELに記事が掲載されていますので合わせてご参照ください。(該当記事:https://www.barrel365.com/still/)
※上写真:AROMA GLASS STILL(左)、AROMA GLASS BASIC(右)
※下写真:SHOT GLASS SERIES “CANON”
さて、ここからは今回発売されるAROMA GLASS STILL について、その特性や使用感をもう少し深掘りしていきます。
このグラスの特徴はなんと言っても個性的な形状。ポットスチルのネック部分上部を取り払ったような、膨らみのあるボウルと空間で香りを開かせ、飲み口に向けて段差のある形状が、しっかりそれをキープする点にあります。
そのため本グラスは「ノージンググラス」と公式で紹介されるほど、香りをとることに特化した特性を持っています。
中でも向いているウイスキーは、先に記載したように低度数のものや、グラスの中で加水して度数を下げたもの。
これまで、広くウイスキーシーンで使われているグレンケアンやノーマルなテイスティンググラスだと、ウイスキーとしては低度数なものだと香りが充分に広がらず、40%台前半仕様のスタンダードなブレンデッドやオフィシャル銘柄の一部は、その個性を感じ取りにくいものも多く見られました。
このようなウイスキーはハイプルーフなものに比べ香りの弱いものが多いのですが、本グラスは特殊な形状でしっかりと香りを開かせ、グラスの内部に留めるため、存分に香りを感じることが出来ます。
しかし昨今リリースの増えてきたボトラーズやクラフトの若いシングルカスク&ハイプルーフなウイスキー。溶剤やアルコール感、強すぎるエステルなどのニュアンスを含むバーボンやラムなどは、グラスの特性故に明らかに向いておらず、鼻をやられます。
ええ、ハイプルーフなものほど焼き切れます。
ですがハイプルーフリリースはグラス内で加水することで、素晴らしく豊かな香りを楽しむことが出来ます。
ウイスキーは元々加水した方が香りがわかりやすいと言われていますが、加水した状態で販売されているものと何が違うのかというと、加水によって度数が下がる際に、時間経過で失われてしまう微細な香りが多数発生するためです。
そしてAROMA GLASS STILLは特殊な形状でその香りを留めることが出来るのです。中でも、ハイランドモルトなどの麦芽風味が豊かなものは、加水によって鳥肌が立つほどの複雑さを感じることが出来ることでしょう。
※オーツカさんが推奨する、開封後時間が経過し、多少香味が抜けているボトルのリカバリー。このベンロマックは開封から5年経過したものだが、確かに麦芽香を豊かに感じられる。
一方で、突き抜けた形状故に、ノージング以外に懸念点がないわけではありません。それが口当たり、飲み易さ、グラス管理です。
口当たりに関しては、リムは薄く作られており、可もなく不可もなしという感じですが、ボウルからリムにかけて広がりのある形状故に、一般的なテイスティンググラス以上に傾けないと液体が口に入ってきません。人によってはそうして傾けることに違和感が、あるいはリムが鼻が当たって気になる、という感想を持つ可能性もあります。
また管理のし易さとしては、洗浄後の水気の拭き取りの際に、グラス内部が少し拭き取り難い印象もありました。
製作者のオーツカさん自身も、これらの特性を踏まえて本グラスを「エキセントリックな形状」と称されています。
ただしグラス管理に関しては、専用のグラスクロスを使っていればそこまで気にならず。ぬるま湯で洗う、あるいは消毒用アルコールを吹きかけてから仕上げの拭き取りをするなど、通常ハンドメイドグラスを管理する程度の工夫で全く問題ないと思います。
ワインでは、リーデル社が提唱したように地域や品種によってグラスに向き不向きがあり、グラスを変えることで異なる個性を、また適したグラスを用いることで味わいを一層輝かせることが出来るとされています。
ウイスキーもまた同様で、いくつかのグラスを使い分けることで、その複雑な香味から違う表情を紐解くことが出来るようになると言えます。
これまで、ウイスキーのグラスはそこまでグラスとウイスキーの相性が重要視されてきませんでしたが、それは単一蒸留所の個性を楽しむという文化が生まれたのが2000年以降、最近のことであるためです。
あくまで私の持論ですが、日頃は国際規格のテイスティンググラスなど、統一してウイスキーの分析を行うグラスを使いつつも、そのウイスキーの特性を掴んだら、それに向いたグラスを使ってみる。セカンドツールとなる性能特化型のグラスが手元にあることが、ウイスキーライフを一層豊かなものにしてくれると感じています。
AROMA GLASS STILL は、まさにその1つですね。
余談:グラスレビューについて
これまで何度かグラスの紹介をしてきましたが、その使い勝手や特性を定量的に、あるいは端的に紹介できないかと考え、今回から試行的に評価シートを反映してみました。
香り立ちや口当たりはあくまで主観であって、この数値が高いから素晴らしいグラスであるとは言い切れません。例えば、今回のように香り立ちは良いが向き不向きが強い、というグラスもあります。
そして中でも悩んだのが、グラスのタイプの分類です。
上の写真は我が家にあるウイスキー用のグラスの一部ですが、右から「楽飲型(入門向け)3点」、「分析型(テイスティング向け)2点」、「特化型2点」の並び。
楽飲型と分析型に関しては相互関係にあり、右から左に行くに従って、それぞれの特性がフェードアウト、フェードインしていくイメージです。
・咲グラス
・AROMA GLASS BASIC
・The Ultimate Peat Glass
・木村硝子 テイスティング1
・咲グラス 蕾
・AROMA GLASS STILL
・KFWSテイスティンググラス
楽飲型は香りを適度に逃し、または馴染ませ、アルコール感を感じにくくする特性があり、口当たりも柔らかくする工夫がされているため、純粋にウイスキーを飲みやすく楽しめるようにしてくれる特性が強いもの。
分析型は、香りの要素を際立たせ、良いも悪いも全ての個性を感じやすくする特性が強いもの。
特化型は、今回のグラスのように、ある特定の仕様のウイスキーに対して素晴らしい特性を発揮するもの。というイメージです。
今後はこれまでの記事にもこの指標を取り入れる編集をしつつ、他のウイスキーグラスについてもレビュー記事を書いていきたいと思います。