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カテゴリ:ウイスキー関連の話

The Whisky Tasting Club 第1回セミナーの開催について 6/30(月)19:00〜

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先日代表テイスターを拝命することとなったWTCことThe Whisky Tasting Clubですが、早速初回のテイスティングセミナーを開催することとなりました。

テーマは「スペイサイドらしさ」。スコッチウイスキーの生産地域はメーカーや団体によって区分が分かれるものの、一般的にはアイラ、アイランズ、キャンベルタウン、スペイサイド、ハイランド、ローランド、に整理されることが多いところ。
地域ごとの個性は度々愛好家の中で話題になり、個人的にアイラ、スペイサイド、ハイランドは蒸留所によって異なるため絶対的ではないものの、近年では地域の個性としてこういう酒質や味わいに寄せていこうというメーカー側の意図が見えるモノが多いと感じています。

今回のセミナーでは、リリースされたばかりの THE TASTER LINKWOODを軸に、6つのシングルモルトからその個性を紐解いていきます。
ポイントは知識からではなく、講師である代表テイスター及び参加者が感じた香味から個性の理解にアプローチするということ。WTCでは今後も「テイスティングを通じて学ぶ、体験する」をテーマに、様々なセミナーを企画します。
セミナーの進め方は色々工夫していきますので、参加いただけたら幸いです。

余談ですが、シークレット2種は私からの無償提供となります。初回セミナーですし、皆さんにより一層楽しんでいただけるよう、ちょっとくらいはオマケをと。
参加申し込みは以下、Saketryのサイトからチケットをご購入ください。なお、セミナーはWTC会員に限らず参加登録いただけます。
よろしくお願いします!

※参加申し込み:https://www.saketry.com/743177.html
※本セミナーは無事定員となりました。当日はよろしくお願いします。また今後2回目以降も企画しておりますので、引き続きご関心を頂けると幸いです。(6月21日追記)

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The Whisky Tasting Club セミナー①
 「改めて問う、スペイサイドらしさとは?」

 かつては密造のメッカから、時代を経て現代のウイスキー造りの起点ともなったスコットランド・スペイサイド地域。WTC初回のセミナーでは、時代と共に変化してきた同地域の蒸留所がもつ個性、らしさについて、代表テイスターである吉村宗之氏とくりりん氏の2人がそれぞれの解釈を述べ合います。
スペイサイド地方の個性は時代とともに変化しており、その要点を、リリースされたばかりの「ザ テイスター リンクウッド」を軸に、6種のウイスキーを通じて体験いただきます。

【開催日時】
6月30日(月)19時15分~21時00分
 ※19時00分開場

【会場】
TOKYO ALEWORKS TAPROOM
(東京エールワークスタップルーム板橋)
東京都板橋区板橋 1-8-4 板橋 Cask Village 1階

【参加費】
4,000円(税込)

【参加定員】
20名様限定(先着順)

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【テイスティングアイテム】

・オープニングハイボール
・ザ テイスター リンクウッド13年 2011-2024 51.3%
・ザ モルトマン リンクウッド17年 2006-2023 52.2%
・ウイスキースポンジ Edition No,99 グレンマレイ 32年 51.8%
・シークレットボトル①
・シークレットボトル②
※いずれも15mlでの提供となります。
 ※シークレットボトル①、②はスペイサイド地方の蒸留所のシングルカスクとなります。

 【WTCについて】
 The Whisky Tasting Club(WTC)はスコッチモルト販売(株)が運営する会員制サイトです。SAKETRYオンラインショッピングサイトや系列店舗と連動し、会員ポイントを利用してお得にお買い物をお楽しみいただけるサービスを2023年8月から展開しております(登録・年会費ともに無料)。

URL: https://whisky-tastingclub.com/
SNS(X): https://x.com/WhiskyTastingC

 whisky-tastingclub.com

The WHISKY Tasting Clubの代表テイスター就任について

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スコッチモルト販売(株)から発表ありました通り、同社が運営する会員サイト”The WHISKY Tasting Club”(WTC)の代表テイスターに、ウイスキーアドバイザーである吉村宗之氏、ストイックなドリンカーこと松木崇氏と共に就任することとなりました。

The WHISKY Tasting Club の代表テイスターを決定 
会員向けセミナーやレビュー発信などさらなる活動を開始 |

(2025年6月3日 スコッチモルト販売(株)発表)

SNS(X):https://x.com/whiskytastingc
WEB:The WHISKY Tasting Club  
※WTCの会員登録は無料となっております。

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WTCは2023年8月から運営されているサイト。スコモルさんの酒販部門であるSaketryやM's Tasting roomと連携し、購入時のポイント付与から商品紹介、独自のイベントやリリース企画などを実施することを目的に、立ち上げられていました。

現時点で会員数は約1500名。そこそこ大きなグループになっていますが、ニュースリリースタイトルにある「会員向けセミナーやレビュー発信などさらなる活動」は実施できていなかったところ。ここを拡充するために、私や松木さんに声がかかったということですね。
スコモルさんは、別サイトでサケドリ(旧ウスケバ)というブログポータルサイトを運営しており、私のブロガーとしての活動は2010年からウスケバで始まったので、その恩返しもかねて協力させていただこうと考えています。

活動の詳細については追って紹介していくことになりますが。
基本的には
・会員向けのテイスティングセミナーの開催
・テイスティングレビューの発信
・限定ウイスキーの企画
・テイスティングキットの配布
という形で、ウイスキーの情報や楽しみ方をテイスティングを主体に発信していく予定です。


ここまで見ると、要するにスコモルさんの組織だしスコモルさんの商品PRが主体なんでしょ、と思われるかもしれませんが、
テイスティングセミナーやレビュー発信については、スコモルさんの取り扱い商品だけでなく、我々代表テイスターが注目する銘柄、蒸留所などメーカーの垣根を超えて調整していくつもりであり、それを条件に引き受けさせて頂いています。
限定ウイスキーについても同様で、私も様々なメーカーとタイアップさせていただいておりますので、やれることはあるなと感じています。

それ以外には、私や松木さんはこれまで二人合わせて5000件を超える、膨大なテイスティングレビューを公開してきたところ。ウイスキーテイスターとして大先輩である吉村さん含め、全員がこれというテイスティングメソッドを持っています。
例えば、Saketryさんでやっている小瓶販売で、テイスティングスキル向上用のサンプルキットの企画監修をしたり、会員向けに今月のおすすめセットを作るのも。
また、その応用編でブラインドテイスティングキットの配布→答え合わせ→スコア集計して年間王者を決める、なんて取り組みをしても面白そうです。

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※Saketryさんのテイスティングキットの例

知識からのPRや学習がメインだったウイスキーに、体験を通じて知るためのテイスティングの機会やツールを組み込むということが狙いの一つですが、それをWTCという枠組みを使って実現していけたらと思います。
2025年はまず動きながら、色々トライ&エラーでやっていくため、準備と企画調整中心?本格的に立ち上がるのは2026年度からかなという気もしておりますが。
ご依頼いただいた以上は良い企画にできればと思いますので、読者の皆様がこれから発表されてくる企画にご参加いただけたら嬉しいですね。
今後とも、よろしくお願いいたします。


補足:当方は、スコッチモルト販売(株)およびWTCには外部有識者の一人として協力する形になり、同社に雇用されるものではありません。活動にかかる謝礼についても私個人としては受領せず、WTCの活動資金に回してもらうよう打診しております。
また、本件によってこれまで行ってきたブレンダーやテイスター、あるいはライターとしての活動が制限されるものでもありません。今後も引き続きフラットな立場でウイスキー業界に関わらせていただきます。

クロナキルティ ウイスキー ハイボール缶 & ジンソーダ缶

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クロナキルティ RTD (Ready To Drink)缶
・潮風感じる クロナキルティ ジンソーダ 7%
・潮風感じる クロナキルティ ハイボール 7%

※ご参考:KOTOコーポレーション公式リリース:https://www.atpress.ne.jp/news/434017

先日、クロナキルティ蒸溜所の1stリリース(自社蒸留原酒)であるクロナキルティ シングルポットスチルをレビューしたところ。
その翌日である4月22日、偶然にもクロナキルティから新リリースであるハイボール缶が公式発表、ローソン限定で発売されました。

いやいや、PBやるくらいの関係だし、くりりん知ってたんでしょ?と、言われそうですが。
本当に知らなかったんですよね。ハイボール缶出すという噂は耳にしていましたが、それ以上のことは。おそらくですが、ローソンという大手企業との絡みの関係上事前にオープンはできなかったのでしょう(そう信じたいw)

そんなわけで最寄りのローソンで早速捕鯨し、まっさらな状態からレビューを書いていきます。
ちなみに、ただレビューするのも面白くないので、行きつけのお店にお願いしてクロナキルティの既存リリースとの比較も行っていきます。
なおこのブログの読者層にクロナキルティの紹介は不要かと思いますが、すごく端的にお伝えするとアイルランド南部のダーンディディで9世代続く農家が2016年に設立、2019年に操業したアイリッシュウイスキーメーカー&蒸溜所がクロナキルティです。詳細は過去記事もご参照ください。

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・潮風感じる クロナキルティ ジンソーダ 7%

ミンクジンは、クロナキルティ蒸溜所で作られるスピリッツをベースとしたジン。スピリッツには同蒸留所の熟成庫と畑がある地域にある牧場産のホエイ(乳清)、またボタニカルの一つには同地域で取れるロックサンファイアを使っているとされています。
ともすると、どんな味なんだ?となりますが、基本的には、オーソドックスかつ王道的な柑橘やジュニパーの要素が主体となったドライジンです。

そのジンをベースとした缶の味はというと、これが非常にすっきりとしてドライ、そこに青みがかったジュニパーのジンらしいフレーバーが広がる、実に爽やかかつ本格的な味わいです。
「すっきり無糖、すっきりフローラル」と缶には書かれていますが、まさにですね。特にキンキンに冷やした状態で缶から直にグイッとやると、ドライな感じが強調され、後からジンらしいスパイスや柑橘、ジュニパーの風味が広がり、私はかなり好みでした。
食中酒として使っても、大概のジャンルに合わせられると思います。

一方で面白かったのが、実際のミンクジンから同じ度数設定でハイボールを作った場合、ミンクジンのほうは柑橘系のニュアンスが強く、缶のほうは青みがかったフローラルな要素が強く感じられた点です。また、香りも缶のほうが強かったように思います。
混ぜ方、度数の落とし方などの違いもあるのだと思いますが。今回は缶のレビューなので、缶の方が良かったと言えるのは歓迎です(笑)、何が違うのか、工夫があるのかは後で聞いてみたいと思います。

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※海辺に生える塩生植物のロックサンファイア。塩味と磯の香りのする草。もちろん食用。画像引用:https://girisyagohan.blog.jp/archives/50470899.html

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・潮風感じる クロナキルティ ハイボール 7%
クロナキルティで作られ、ブレンドしたアイリッシュウイスキーをベースにしたハイボール缶。
このリリースは、ベースとなるウイスキーがラベルデザインの似ているダブルオーク(右)かなと予想したのですが、飲み比べてみると全く味が違いました。おそらく、缶用のオリジナルレシピか国内未流通の商品をベースにしていると考えられます。

プレーン寄りで軽やかな穀物風味、徐々にバニラのような優しい甘さが炭酸と共に広がる。使われている原酒の熟成は5〜7年くらいか。アイリッシュとしては若すぎず、樽感も穏やかでクロナキルティのスタイルの優しい甘さがよく表現されています。
余韻は炭酸に混じるほろ苦さ、ほのかにオーキー。基本的には軽やかでクセのないスッキリ系ながら、温度が上がると穀物風味の広がりも。

香味から推察するにグレーン比率が高く、おそらくグレーン7〜8割、モルト(シングルポット含む)2〜3割といったアイリッシュブレンデッドウイスキー。
コメントに記載した「クロナキルティのスタイルの優しい甘さ」を感じるあたり、軸となる原酒には、自社蒸留&熟成したリリースであるシングルポットスチルウイスキーが使われているのでは…。だとすると結構贅沢なハイボール缶ですね。
(関係者に確認したところ、ほとんど正解だそうです。5/3追記)

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※2024年11月にリリースされたシングルポットスチルウイスキー。ハイボールにすると素朴な麦芽風味の中に優しい甘さとほのかな酸味が引き立つ。今回のハイボール缶にフロートするのも面白い。

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※クロナキルティ蒸溜所の熟成庫。銘柄にもなっているギャレーヘッド灯台の近く(ダーンディディ)の高台にあり、眼下には大西洋が広がる。

さて、今回のリリースには共通して「潮風」という表現に加え、ハイボール缶には「程よいソルティ」という記載もあります。

アイリッシュウイスキーやジンでなぜ海や塩気をイメージする表現が…という疑問に答えると、ミンクジンについては使用されているボタニカルのロックサンファイアが塩生植物であり、塩茹でしないでもしょっぱいと感じるくらいに潮気や磯の香りを含んでいること。
そしてウイスキーについては、クロナキルティの熟成庫が上の写真にあるように海辺で潮風吹き付ける高台にあり、その影響を受けているためと考えられます。
そういわれると、そういう味がしてくるような…?

何れにせよ、ジンソーダはドライで本格的、ウイスキーハイボールは優しい甘さとプレーンでスッキリとした味わいが万人受けする構成。
ジンソーダはサントリーの翠ジン缶で物足りない人に刺さると思いますし、ウイスキーに関してはもっと癖が強いほうが好み!という人もいるでしょうけれど、アイリッシュって元々そういうクセの少ないスッキリとしたタイプですから。クロナキルティブランドの入門と考えても、広報的にもアリなリリースだと思います。

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ここ数年、RTD市場におけるハイボール缶の開発競走、リリース合戦が加速しています。缶のラインを持っている企業に販売プランが確立したためか、大手ビールメーカー所有以外のクラフト銘柄からもリリースが行われているところ。

今回のリリースがそうかはわかりませんが、他社の事例では1ロット10万本以上という話なので、限定で作るにしてもそれなりの販路が求められるものの、スーパーや酒販などのチェーン店であればやってやれない規模ではなく。。。
アイリッシュに限定するなら、昨年から今年にかけては上の写真にあるバスカーやイーガンズからのリリースが行われてきました。

バスカーは元々フルーティーさをウリにした銘柄だっただけに、6%のものは華やかでフルーティーな、8%は芯のある味わいの中に華やかさがあり。イーガンズは樽由来のフレーバーを複数重ね合わせて香味形成する傾向があることからか、このハイボール缶も樽由来の香味が複雑に主張してくる味わい。
お互いがちゃんとベースとなる銘柄、ブランドの個性を意識している点が違いに繋がって、お値段以上に楽しませてもらいました。

今後はRTDジャンルにどんなリリースが出てくるのか。先日は長濱蒸溜所からのAMAHAGANハイボール缶や、福島県内限定で福島県南酒販から963ハイボール缶もリリース、いずれもいい出来でした。そう言えば桜尾からジントニック缶が5月下旬にリリースされるというニュースもありました、これもたまたま4月21日発表なんですよね(笑)。
ハイボール缶戦争に加えてジン缶の仁義なき戦い。。。こちらも楽しみです。

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アロマグラス STILL(スティル) KYKEY レビュー

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AROMA GLASS STILL 
KYKEY 

香り立ち:5※/5 
口当たり:3/5 
重量:95g前後 
仕様:ハンドメイド 
メーカー:木村硝子 
公式サイト:https://kykey.jp/aroma-glass-still/

タイプ※:特化型(低度数のもの、加水したウイスキーなど)
※タイプについて:飲みやすさ重視の「楽飲型(入門向け)」、香味分析やテイスティングに向いた「分析型」、ある特定の酒類や仕様で特性を発揮する「特化型」に分類。

【推奨】
・40%〜40%台前半の加水、または度数落ち。
・50%オーバーのハイプルーフから30%台までグラス内で加水したもの。
・長期熟成品、または麦芽由来の風味が豊かなもの。

【非推奨】
・若いシングルカスク、50%以上のカスクストレングス(バレルプルーフ)のストレート。
・ラムやバーボンなど、溶剤系のフレーバーが強いもの。

【その他】
・ハーフショットでも大丈夫だが、30ml注ぐ方が変化を見るための時間と香りの持続力のバランスが取れる。
・特殊な形状ゆえ、飲み込む際に通常より大きくグラスを傾ける必要がある。

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ウイスキーのWEBメディア「BARREL」を運営するオーツカ氏が製作するグラスブランド“アロマグラス”から、11月23日に発売されるハンドメイドグラス、AROMA GLASS STILLです。
リリースにあたり使用感を教えて欲しいと、かれこれ3ヶ月以上前から先行でグラスを使用させて貰いました。発売にあたり、当ブログでもレビューを掲載させていただきます。

AROMA GLASS STILLはポットスチルの形状にヒントを得て、香りを留めることをテーマに、構想2年、何十パターンも試作をくりかえして完成した意欲作です。
アロマグラスシリーズからは、2021年に第一弾となるAROMA GLASS BASICがリリース。デザインの親しみ易さ、入門向けかつ扱いやすく、多少香味はぼやけるもののどのウイスキーにも安定して使える特性が評価され、愛用する方も多く見られるところ。これは近年増えている若いジャパニーズや、スコッチボトラーズのリリースに合致した特性でした。

また、2022年にはオリジナルのショットグラス、CANONも発売され、ショットグラスでハードリカーの楽しみ方を見直す発信も行われています。
そして今回発表されたグラス、AROMA GLASS STILLは、BASICとは真逆の特性を有しており、香りを強く開かせるが故にウイスキーはタイプを選び、また扱いも上級者向けというか、多少ポイントを抑えておく必要がある、まさに特化した性能のグラスです。

オーツカさんのグラス3作を振り返ると、入門向けで広く使えるBASIC。ハイプルーフのバーボンなど高度数のウイスキーに対応するショットグラスのCANON。そして低度数や加水に対応するSTILLと、それぞれ異なるジャンルを抑えていることがわかります。
自分もグラス造りに関わったことがありますが、テイスティンググラスはちょっとした形状の違いで特性が大きくわ変わる、本当に奥が深い世界です。その中で、それぞれの方向性を持たせて3種のグラスを作るというのは、想像以上にコストと時間のかかる取り組みなのです。

本グラス造りの開発エピソードやこだわりは、BARRELに記事が掲載されていますので合わせてご参照ください。(該当記事:https://www.barrel365.com/still/

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※上写真:AROMA GLASS STILL(左)、AROMA GLASS BASIC(右)
※下写真:SHOT GLASS SERIES “CANON”

さて、ここからは今回発売されるAROMA GLASS STILL について、その特性や使用感をもう少し深掘りしていきます。
このグラスの特徴はなんと言っても個性的な形状。ポットスチルのネック部分上部を取り払ったような、膨らみのあるボウルと空間で香りを開かせ、飲み口に向けて段差のある形状が、しっかりそれをキープする点にあります。

そのため本グラスは「ノージンググラス」と公式で紹介されるほど、香りをとることに特化した特性を持っています。
中でも向いているウイスキーは、先に記載したように低度数のものや、グラスの中で加水して度数を下げたもの。
これまで、広くウイスキーシーンで使われているグレンケアンやノーマルなテイスティンググラスだと、ウイスキーとしては低度数なものだと香りが充分に広がらず、40%台前半仕様のスタンダードなブレンデッドやオフィシャル銘柄の一部は、その個性を感じ取りにくいものも多く見られました。

このようなウイスキーはハイプルーフなものに比べ香りの弱いものが多いのですが、本グラスは特殊な形状でしっかりと香りを開かせ、グラスの内部に留めるため、存分に香りを感じることが出来ます。
しかし昨今リリースの増えてきたボトラーズやクラフトの若いシングルカスク&ハイプルーフなウイスキー。溶剤やアルコール感、強すぎるエステルなどのニュアンスを含むバーボンやラムなどは、グラスの特性故に明らかに向いておらず、鼻をやられます。
ええ、ハイプルーフなものほど焼き切れます。

ですがハイプルーフリリースはグラス内で加水することで、素晴らしく豊かな香りを楽しむことが出来ます。
ウイスキーは元々加水した方が香りがわかりやすいと言われていますが、加水した状態で販売されているものと何が違うのかというと、加水によって度数が下がる際に、時間経過で失われてしまう微細な香りが多数発生するためです。
そしてAROMA GLASS STILLは特殊な形状でその香りを留めることが出来るのです。中でも、ハイランドモルトなどの麦芽風味が豊かなものは、加水によって鳥肌が立つほどの複雑さを感じることが出来ることでしょう。

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※オーツカさんが推奨する、開封後時間が経過し、多少香味が抜けているボトルのリカバリー。このベンロマックは開封から5年経過したものだが、確かに麦芽香を豊かに感じられる。

一方で、突き抜けた形状故に、ノージング以外に懸念点がないわけではありません。それが口当たり、飲み易さ、グラス管理です。
口当たりに関しては、リムは薄く作られており、可もなく不可もなしという感じですが、ボウルからリムにかけて広がりのある形状故に、一般的なテイスティンググラス以上に傾けないと液体が口に入ってきません。人によってはそうして傾けることに違和感が、あるいはリムが鼻が当たって気になる、という感想を持つ可能性もあります。

また管理のし易さとしては、洗浄後の水気の拭き取りの際に、グラス内部が少し拭き取り難い印象もありました。
製作者のオーツカさん自身も、これらの特性を踏まえて本グラスを「エキセントリックな形状」と称されています。
ただしグラス管理に関しては、専用のグラスクロスを使っていればそこまで気にならず。ぬるま湯で洗う、あるいは消毒用アルコールを吹きかけてから仕上げの拭き取りをするなど、通常ハンドメイドグラスを管理する程度の工夫で全く問題ないと思います。

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ワインでは、リーデル社が提唱したように地域や品種によってグラスに向き不向きがあり、グラスを変えることで異なる個性を、また適したグラスを用いることで味わいを一層輝かせることが出来るとされています。
ウイスキーもまた同様で、いくつかのグラスを使い分けることで、その複雑な香味から違う表情を紐解くことが出来るようになると言えます。

これまで、ウイスキーのグラスはそこまでグラスとウイスキーの相性が重要視されてきませんでしたが、それは単一蒸留所の個性を楽しむという文化が生まれたのが2000年以降、最近のことであるためです。
あくまで私の持論ですが、日頃は国際規格のテイスティンググラスなど、統一してウイスキーの分析を行うグラスを使いつつも、そのウイスキーの特性を掴んだら、それに向いたグラスを使ってみる。セカンドツールとなる性能特化型のグラスが手元にあることが、ウイスキーライフを一層豊かなものにしてくれると感じています。
AROMA GLASS STILL は、まさにその1つですね。

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余談:グラスレビューについて
これまで何度かグラスの紹介をしてきましたが、その使い勝手や特性を定量的に、あるいは端的に紹介できないかと考え、今回から試行的に評価シートを反映してみました。
香り立ちや口当たりはあくまで主観であって、この数値が高いから素晴らしいグラスであるとは言い切れません。例えば、今回のように香り立ちは良いが向き不向きが強い、というグラスもあります。

そして中でも悩んだのが、グラスのタイプの分類です。
上の写真は我が家にあるウイスキー用のグラスの一部ですが、右から「楽飲型(入門向け)3点」、「分析型(テイスティング向け)2点」、「特化型2点」の並び。
楽飲型と分析型に関しては相互関係にあり、右から左に行くに従って、それぞれの特性がフェードアウト、フェードインしていくイメージです。

・咲グラス
・AROMA GLASS BASIC
・The Ultimate Peat Glass
・木村硝子 テイスティング1
・咲グラス 蕾
・AROMA GLASS STILL
・KFWSテイスティンググラス

楽飲型は香りを適度に逃し、または馴染ませ、アルコール感を感じにくくする特性があり、口当たりも柔らかくする工夫がされているため、純粋にウイスキーを飲みやすく楽しめるようにしてくれる特性が強いもの。
分析型は、香りの要素を際立たせ、良いも悪いも全ての個性を感じやすくする特性が強いもの。
特化型は、今回のグラスのように、ある特定の仕様のウイスキーに対して素晴らしい特性を発揮するもの。というイメージです。

今後はこれまでの記事にもこの指標を取り入れる編集をしつつ、他のウイスキーグラスについてもレビュー記事を書いていきたいと思います。

映画 駒田蒸留所へようこそ オリジナルウイスキー&KOMA復活プロジェクト

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11月10日公開の映画「駒田蒸留所へようこそ」。もうご覧になられたでしょうか。
先行試写会参加組としては、早くみんなとあそこはあの蒸留所だとか、あの人が写っていたとか、あるいはあのウイスキーは…とか、あれこれ語り合いたくてムズムズしており、やっとそれが出来る・・・。
近々、ストーリー考察スペースとかもやりたいですね。

一方で前回、先行試写会後に更新した紹介記事では、追って紹介としたのが、映画とコラボしたオリジナルウイスキーリリースに関してと、当時はオープンにできなかった企画、KOMA(独楽)復活プロジェクトです。
オリジナルウイスキーは言わずもがな、映画公開当日にオープンとなったKOMA復活プロジェクトのクラウドファンディングは、既に目標を達成するなど多くの注目を集めています。
今回の記事はKOMAとはどんなウイスキーだと考えられるのか、そしてコラボレーションリリースを実施する各蒸留所と本映画との関連やリリースの傾向等を紹介していきます。

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・KOMA復活プロジェクト(T&T TOYAMA クラウドファンディング)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044

・駒田蒸留所へようこそ コラボ企画 オリジナルウイスキーリリース
URL:
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/campaign/


◾️KOMA復活プロジェクト
11月10日の映画公開と合わせ、本映画のウイスキー監修・稲垣貴彦氏が代表を務めるT&T TOYAMAが公開したのが、劇中に登場する幻のウイスキーKOMA(独楽) を復活させる、映画さながらのプロジェクトです。

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ネタバレを最小限に、ウイスキーKOMAについて解説すると。。。このウイスキーは、駒田蒸留所を操業する御代田酒造が、かつて発売していたシングルモルトウイスキーです。

多くのファンがいたようですが、劇中では災害によって御代田酒造の蒸留設備が失われたことをきっかけに製造を中止しており、残っていた原酒も御代田酒造がウイスキー事業を再開するタイミングで「わかば」をリリースする際に使っていたことから、原酒ストックがない状況となります。
劇中では、このウイスキーを復活させることをテーマの一つにストーリーが進みます。色々な情報が合わさっていますが、御代田=軽井沢周辺の地名であること等から、位置付けとしてはそういうことなのでしょう。

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ただし、その中身は単に軽井沢モチーフというわけではないようです。
先日、稲垣さんとXのスペース配信中に考察したところでは、以下のような地ウイスキー寄りのシングルモルトではないかとのこと。
  • 表記上の熟成年数は12年。
  • 原酒は、当時ウイスキー用のノンピート麦芽より、関税の安かったピーテッド麦芽から仕込んだもの。
  • ミズナラ樽等の古樽(3回、4回熟成に用いた後のもの)で熟成。
劇中では、駒田蒸留所で蒸留した原酒の熟成を待つのではなく、シングルモルトKOMAをブレンドで再現しようと、日本各地の蒸留所から原酒を集める取り組みが行われます。

さて、話を現実世界に戻すと。
この幻のウイスキーKOMAを、現実でも復活(再現)しようという取り組みが、T&T TOYAMAがクラウドファンディングで進めるプロジェクトとなります。日本初のジャパニーズボトラーズであるT&T TOYAMAならではの取り組みでもありますね。

同プロジェクトでは、劇中同様に日本各地の蒸留所から原酒を集め、ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキーとして”KOMA“と、ブレンデッドモルトウイスキーとして”わかば“を、稲垣さんがブレンダーとなって再現します。
そしてKOMAに関しては、劇中では“ある樽”が復活の鍵を担うのですが…。調査員が向かった三郎丸蒸留所の蒸留棟の奥に、見慣れない樽が…おや、これはひょっとしてs…うわまてやめろなにお(

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すいません、取り乱しました。
先に触れたように、公開されたクラウドファンディングはわずか3時間で目標金額の1000万を達成。支援総額は、本記事公開時点で既に2000万円を超えており、その注目の高さが伺えます。

こうした映画やドラマに登場した架空のウイスキーは、ファンとしては一度は飲んでみたいものです。ましてそれが同映画の監修者によるものとあればなおさらです。
T&T TOYAMAとは度々リリースにも関わらせてもらっていますが、今回私はブレンドに関わることはありません。引き続き、情報収集&発信をしていきたいと思います。


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※クラウドファンディングではウイスキー以外にオリジナルグッズが付属するリターンとなる。また、お酒が飲めないものの本企画を応援したいというファンのために、Tシャツやジャケット等のリターンも用意されている。
クラファンURL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044


◾️駒田蒸留所へようこそ コラボリリース
さて、前回の記事でも紹介したように、今回の映画公開にあたっては、第一弾として公開前のチケット購入で応募できる記念ボトルに加え、第二弾として映画公開後に映画を見た人が応募できるコラボリリースの2つの企画が用意されていました。

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【第一弾】
 三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のライトリーピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。

既に映画をご覧になった方はもうご存知かと思いますが、これら5蒸留所は、劇中においてモチーフとなり何かしらの役割をもって登場し、主人公たちが訪問している蒸留所となります。
ここでは冒頭紹介したように、映画を見ただけという人にも伝わるように、登場シーンと繋がる画像と合わせて、各リリースの方向性について紹介させていただきます。
なお、余談ですが本リリースの調整は、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本氏が担当しており、本記事執筆にあたって同氏から色々お話しも伺いました。その点についても紹介していきたいと思います。

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【三郎丸蒸留所】
もうご存知の通り、駒田蒸留所の”各設備”に関してモデルになったのは、富山県にある三郎丸蒸留所です。
そのため、ここ!という「駒田蒸留所スポット」は、以下の写真以外に多数出てきます。紹介する写真も一番多くなりましたが、まあ仕方ないですよねw
映画を見に行く前に三郎丸蒸留所に行ったことがある人たちは、非常に多くの既視感を覚えるでしょうし、見てから行く人は“スポット”探しも楽しめるかと思います。

一方でモデルになったのは”各設備に関して“であり、劇中の駒田蒸留所(御代田酒造)は長野県にありますし、ストーリーとの関連としては三郎丸の歴史をそのままなぞったものでもありません。
これは映画を作成したPAワークス社が同じ富山県にあり、映画作成にあたって三郎丸蒸留所を訪問して参考資料の撮影等をしたからと考えられます。

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三郎丸蒸留所の特徴は、国内屈指のピーティーなウイスキーです。
2016年にクラウドファンディングを使って資金を調達し、蒸留設備をリニューアル。名前の無かった蒸留棟を三郎丸蒸留所として新たなスタートを切ります。
2020年の仕込みからは、スコットランド・アイラ島のピートで乾燥させた麦芽を用いたウイスキーを作っており、今回のオリジナルウイスキーはまさにその原酒を用いたものとなります。

秋本氏曰く、ここのカスクは迷わなかった。
本映画のウイスキー監修担当にして、蒸留所マネージャーでもある稲垣貴彦氏曰く、秋本さんが迷わず良いカスクを持って行った…と。
新樽熟成のウイスキーは、焦がしたオーク樽由来いのキャラメルやナッツ、バニラ、濃くいれた紅茶のようなタンニンが特徴です。そこにスモーキーな原酒が合わさることで、まず間違いないリリースだと思います。
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【イチローズモルト・秩父蒸溜所】
皆様ご存知、日本においてはクラフトウイスキーの先駆けであり、今やメガクラフトと言える規模に成長した、埼玉県は秩父蒸溜所。劇中では主人公の心境において、ちょっとしたターニングポイントを迎えた際に訪問した場所として描かれています。

樽工場については手持ちの写真がありませんでしたが、以下の3枚で「あ!」と思っていただけるのではないでしょうか。この蒸留所のポイントの一つがミズナラです。ミズナラ材を用いた発酵槽がウイスキーの味に少なからず影響していると思いますが、劇中もその点を意識した描かれ方をしてるのです。
見学は一般見学を受け付けていないので中々難しいかもしれませんが、繋がりのあるBARが見学ツアーを企画したりしていますので、工夫して訪問してみてください。

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そのオリジナルウイスキーは、劇中でも登場していると思しき吉川ブランドアドバイザーがブレンドに関わったシングルカスクブレンデッドのアンバサダーズチョイスです。
このシングルカスクブレンドは、秩父蒸溜所の原酒に、世界中から集めた原酒をブレンドし、樽に詰めて数年単位で追加熟成させたものです。

ウイスキーの製造過程では、ブレンドした原酒を樽に詰めてなじませる“マリッジ”という行程があり、それと何が違うのかというと。マリッジの期間は大概1年未満です。
イチローズモルトのシングルカスクブレンドは、1つの樽に1つのレシピで、それを数年、モノによっては5年、7年という長い期間追加熟成させた後に払い出してリリースするウイスキーです。

秩父蒸溜所では様々なタイプのシングルカスクブレンドが熟成されていますが、今回カスクチョイスに関わった秋本氏に伺うと、吉川ブランドアンバサダーの意向もあってフルーティーで華やかなタイプが選ばれている。少し前のON THE WAYに似ている。というコメントで、これは秩父蒸溜所のウイスキーが好きな方に刺さりそうなリリースが期待できます。
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【長濱蒸溜所】
長濱浪漫ビールが操業する日本最小規模の蒸留所…が、滋賀県・長濱蒸溜所です。
何か歯に挟まったような説明ですね?はい、蒸留設備の規模は、設備の一部が地ビールの製造設備と共用だったりで、確かに最小規模なのですが…ここは輸入原酒の活用含めて、熟成環境やリリースの展開を含めると、国内屈指と言える規模。
社長とブレンダーらスタッフが働きすぎだと心配するまでが、長濱蒸溜所ファンの通過儀礼であり、お約束でもあります。

また、2020年からは三郎丸蒸留所と合わせて、原酒の交換を各蒸留所と行うなど、各種コラボリリースに意欲的であることでも知られています。
劇中において、蒸留所の訪問はNVJ社の企画「クラフトウイスキー特集」のために行われていきますが、長濱蒸溜所だけはちょっと違うのです。あまり書きすぎるとネタバレになるので控えますが、この世界線でも長濱蒸溜所は各社と積極的な交流をされていたようです。
予告編の1シーンでも登場する所長?と思しき青年はひょっとして…

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長濱蒸溜所のリリースは、アイラクォーターカスク、つまり某L蒸留所で熟成に使っていたクォーターで熟成したノンピートモルト原酒です。
ノンピートなのですが、樽に染み付いたアイラモルトのフレーバーが原酒に溶け込み、スモーキーさやアイラモルトを思わせるヨード香など、独特のフレーバーを楽しむことができます。

また長濱の原酒は麦感豊富で雑味が少なく、若いうちから楽しむことができることで知られており、クオリティは問題なし。本当はピーテッドをと思ったが、三郎丸がアイラピート、信州が内陸ピーテッドなので、樽由来で異なるピートフレーバーを感じさせるノンピート原酒をチョイスしたと、秋本スピリッツバイヤー。
そうなんです、今回のオリジナルウイスキーは後述するKOMAの件もあってか、ピーテッドが多いんです。ただし一口にピートといっても、その種類によって全く味が異なるもの。本リリースに限らず、飲み比べも楽しんでほしいですね。
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【マルス信州蒸留所】
同蒸留所のルーツは、日本のウイスキーの黎明期、1949年からウイスキー製造を行っていた本坊酒造にあり、長い歴史を持つものの、事業としては稼働と休止を繰り返していたマルスウイスキー。
実はこれまで、マルスがウイスキー蒸留を休止するとブームが到来するという、不名誉なジンクスもあったのですが。。。この信州蒸留所は2011年に稼働を再開、近年のウイスキーブームを追い風に羽ばたき、国内有数のウイスキー事業者となっています。

映画では、特に2020年の大規模リニューアル以降に信州蒸留所の見学に行ったことがある人なら、「お?」と思うシーンや人物がスタートから出てきます。
ブランド名である駒ヶ岳が「駒田」と似ていることから、この蒸留所が舞台なんじゃないかという話も企画公開当初は見られましたが、予告映像があまりにも…だったので、即雲散霧消。ですが、そこは長野県の蒸留所。ちゃんと劇中では主人公らの訪問先の一つに登場するわけです。

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今回のオリジナルウイスキーは、信州蒸留所での蒸留が安定してきた直近5年以内のもの。
2011年の再稼働直後から数年は、少々酒質が暴れているというか、粗さが残っている印象がありましたが、2014年のポットスチルの交換以降は特にバランスが取れてきた印象があり、フレッシュで爽やかな麦芽風味に軽やかなスパイシーさ、樽感との馴染みも良いと感じています。
また、2020年の大規模改修後はマッシュタン等の設備の更新、見直しもあり、さらに酒質が向上しているのですが…それはまた別のリリースで。

ライトリーピーテッド原酒はほぼアクセント程度のピートフレーバーとなりますが、若い原酒が持つネガティブなフレーバーを抑え、逆に麦芽風味やバーボン樽由来のフレーバーを引き立てる傾向があると感じています。
麦感には香ばしさを、バーボン樽由来の黄色系のフルーティーさやバニラ香、華やかさには、ほろ苦さを加えてそれぞれの香味に立体感を、といった具合。
下手にヘビーピートにするとピートが浮ついてしまうため、信州の酒質を知ってもらうにはちょうどいいチョイスではないでしょうか。

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【八郷蒸溜所】
最後になるのが、日の丸ウイスキーや、常陸野ネストビールで知られる茨城県・木内酒造が操業する八郷蒸溜所です。
正直、この蒸留所については、立地やPRの少なさもあってか、他のクラフトに比べると話題になることが少ない気がしますが(少なくとも自分の周囲では)、実は新興クラフトの中では屈指の規模を持つ、今後大きく発展することが予想される蒸留所だったりします。

劇中では、主人公らがNVJの企画を兼ねて訪問する2つ目の蒸留所として描かれています。先に触れたように、知られていないことから「あれ?ここどこ?」となる人も多いかもしれません。また、設備の見学以外に、ここでは「原酒のテイスティングノート」が登場するのですが、このテイスティングノートを書いたのが…の…だったり。
私が訪問したのは少々前なので写真も今の姿とは違うところがありますが、非常に機能的で、設備も新しいしっかりとしたものが揃っています。

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さて、この八郷蒸溜所のオリジナルウイスキーは、3種類の樽(原酒)をブレンドして造る、日の丸トリプルカスクウイスキーです。
酒質については、麦感が厚く、古典的なハイランドモルトを思わせる風味が感じられるのが八郷の特徴。一方で、シェリー樽はともかく、チェリーブランデー樽やさくら樽という、これまでのウイスキーではあまり見られなかった樽が使われているため、今回のオリジナルウイスキーラインナップの中で一番イメージが出来ないリリースではないでしょうか。

さくら樽は今複数のクラフト蒸留所でも使われており、端的に言えば「桜餅」のような風味がウイスキーに付与される特徴があります。
そこに、チェリーブランデーやシェリー樽の濃厚な甘さ、色濃いウッディさが加わり、今回のウイスキーはリッチで複雑、どこか懐かしい、ウイスキーを飲んだことが無い人でも知っているような味に仕上がっているそうです。
八郷側でブレンドをするにあたり、そのバランスには苦労したそうですが、秋本氏からもアドバイスがあり、ちょうどいいバランスにまとまっているとのことです。

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【最後に】
改めてこの映画を振り返ってみて、あのジャパニーズウイスキーがアニメーション映画になるとは…と、かれこれ15年以上ウイスキーを趣味としている一人として、感慨深いものがあります。
2012年に映画「天使のわけまえ」が公開された際も、ここまで話題になることはありませんでしたし、それ以前はハイボールブームが徐々に起こっていたとはいえ、ウイスキー=マイナーな酒という位置づけでしたから。
本映画は日本だけでなく、それこそウイスキーの本場イギリスや、台湾等海外でも上映されるとのことで、どんな反響があるのか今から非常に楽しみです。

なお、本映画とのコラボ企画としては、国内の蒸留所に「●●蒸留所へようこそ」というオリジナルポスターを展示するというものがあり、該当する全蒸留所のロゴがエンドロールで一斉に流れるその絵は壮観です。(また、ウイスキー愛好家としては聖地とも言える場所と、ある人物が登場するのも、遊び心があってGOODです。)
映画を見て、クラフトウイスキーが飲みたくなったらぜひ蒸留所へ。成長と発展を続けるジャパニーズウイスキーが、さらに盛り上がっていくことを記念して、本記事の結びとします。


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