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アードベッグ レアカスク 1998-2020 Cask No,50 For Benjamin tan 56.5%

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ARDBEG RARE CASK 
Benjamin Tan's Private Collection 
Aged 22 years 
Distilled 1998 
Bottled 2020 
Cask type American Oak Refill Cask (6 years old), 2nd fill Sherry Cask (16 years old) 
Cask No,50 
700ml 56.5% 

暫定評価:★★★★★★★★(7-8)

香り:トップノートはリッチでふくよかな甘みを伴うシェリー香。ただべたつくような甘さではなく、コーヒーを思わせるアロマティックな要素や、レーズンや無花果等のダークフルーツ、林檎のカラメル煮などフルーツの甘酸っぱさも含んでいる。合わせて落ち着きのあるピートスモーク、ほのかに鰹節っぽさも伴う複雑なアロマ。

味:粘性のある口当たり。色濃いウッディさ、香り同様のリッチなシェリー感が、存在感のあるピートスモークを伴って広がる。香りと異なり、味はピートが優位。ダークフルーツジャムのようなシェリー感を底支えにして、アイラピートのスモーキーさ、カカオチョコを思わせるほろ苦さが余韻にかけてしっかりと広がる。
余韻は焦げた木材、鰹節、そしてほのかな薬品香を伴う特有のスモーキーフレーバーが、甘いシェリー香を伴って長く続く。

樽次第では、近年でもこういうものを作れるのか。古き良き時代を彷彿とさせるような、シェリー系のアイラモルト。甘酸っぱく赤黒系のフルーティーさのあるシェリー感に、どっしりとしたスモーキーさ。余韻にかけてアイラ系の要素、アードベッグと思える風味。微かに溶剤ような異物感が混じったが、全体的には良質なシェリー感とピート感で楽しめる。例えるなら1975年のオフィシャルシングルカスクリリースを、現代の材料で可能な限り再現したと言えるようなクオリティである。素晴らしい1杯。

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ありえないなんてことはありえない。不可能を可能にする方法は存在する。
香味もさることながら、リリースまでの流れにも、それを感じる・・・・・そんな貴重なボトルのサンプルを頂いていたので、今さらながらレビューさせてもらいます。

そもそもアードベッグ含め、ディアジオ(グレンモーレンジ含む)関連のオフィシャルで、PBをリリースするのは不可能と言われてきました。今回はシンガポールの酒販 Whisky Journey代表であるBenjamin Tan氏が発起人となり、有志を募ったうえでカスクを購入。有志はインポーター・酒販としても活動する方々であり、日本からは、Kyoto Fine Wine & Spiritsを経営するOjiさん、Nagataさんが名を連ねています。
こうした経緯から、本ボトルは形式的にはBenjamin Tan氏個人のプライベートコレクションとなりますが、実質的には。。。ということで、ここ最近まず日本には入ってこなかったアードベッグのオフィシャルシングルカスクが、国内市場でも発売されることとなったのです。


今回のボトル、特筆する要素はリリース経緯だけでなく、香味にもあります。
近年のシェリー樽熟成モルトの大多数は、近年シェリーとして分類されるシーズニングによる独特の風味があり、1970年代前半、あるいは1960年代蒸留のモルトに見られたフレーバーがほぼ失われているのは、周知のことと思います。
このシーズニングシェリー系のフレーバーが不味いとは言いません。突き抜けない代わりに安定しており、ちょっと前まであったシェリー酒そのものが混じったような椎茸フレーバーや、爆発するような硫黄感など、トンデモ系は本当に少なくなりました。

一方で、愛好家が求めてやまない、赤黒系のフルーティーさ、独特の艶やかな、妖艶なニュアンスをもったリリースも少なくなっています。
これは、トンデモ系の樽が確変を起こしたということではなく、玉石混合だった中で”石”のクオリティを近年のシーズニングシェリー樽が引き上げたこと。一方で数の限られている”玉”は安定して出回らないため、オフィシャルリリースに回す樽をシーズニングシェリー樽にシフトしたことが背景に考えられるわけですが、本リリースのシェリー感は”玉”に該当するモノであり、愛好家からすれば90年代でこの味はありえない、と思えたことを実現しているのです。

リリースされたカスクは、グレンモーレンジのビル・ラムズデン博士が、試験的に熟成していた3樽のうちの1つ。
・リフィルアメリカンオーク樽で6年
・2ndフィルオロロソシェリーバットで16年
という熟成スペックが紹介されていますが、どちらもセカンドフィルでありながら、まるで1st fillの樽で熟成したかのような濃厚さです。
余程スペシャルな樽で熟成したかのように感じますが、一体どんな素性なのか。。。ここからはラムズデン博士がなにを実験しようとしたのか含め、考察したいと思います。


歴史を紐解くと、1998年は、アードベッグ蒸留所がグレンモーレンジに買収され、再稼働した次の年。有名なリリースでは、ベリーヤングからルネッサンスまで続く、10年リリースへの旅に使われる原酒が仕込まれた年です。
ですがこの時点では、今回の原酒は明確な意図を持って樽詰めされた訳ではなかったと考えます。

2015年、アードベッグの200周年リリースが行われた年。ウイスキーマガジンのインタビューでラムズデン博士は樽の質の低下に触れると共に、「この10年間、アードベッグで様々な実験をしてきた。実験をした樽のいくつかはキープしてある」という話をしています。
今回の樽がその一つとするなら、実験の意図は最初の6年でなく、後の16年間にあったと考えられるのです。

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(アードベッグ・ベリーヤング〜ルネッサンスのシリーズ。1998年蒸留は近年と思えるが、評価されているビンテージでもある。)

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(アードベッグ・ウーガダール初期ボトル。箱裏にビンテージ表記あり。パワフルな中にシェリー樽のコクと甘みのある美味しいリリースだった。今回のシェリー樽はこうしたリリースの払い出し後か、それとも。。。)

では、この16年間の熟成に使ったリフィルオロロソバットは何者か。。。丁度2003年から、アードベッグはウーガダールをリリース。初期のそれは1975,1976年のシェリーカスク原酒を使ったとされており、または当時多くリリースされたシングルカスクか、そうした空きシェリー樽のどれかが使われたと考えるのが一つ。
また、リフィルのアメリカンオークシェリー樽で1st fillかのような色合いは考えにくく、その濃厚なエキスとダークフルーツ系の香味から、使われたのはスパニッシュオーク樽なのではないかとも予想しています。

すると実験は、シェリー樽に関するものだったのではと。そもそも「シェリーバットで長期熟成すると風味がダメになる」「アードベッグはフィニッシュに向かない」というラムズデン博士のコメントが、先のインタビュー記事に見られる中で、この樽はフィニッシュで、それも16年という比較的長い後熟を経ています。
例えば一度熟成に使ってアク抜きされたスパニッシュオークの良い部分、好ましいシェリー系のニュアンスを熟成を経て取り出そうとする実験なら、これは狙いとして成程と思えます。
(実際、グレンモーレンジですが、15年のリリースで1年間だけ新樽フィニッシュをして、明らかに後の原酒のためのアク抜き的なことをした例もあります。※以下ボトル)

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一方でもう一つ興味深いのが、リリース本数500本から逆算すると、最初の6年間の熟成で使われたリフィルアメリカンオーク樽も、500リットルないし、それくらいのサイズだったと考えられることです。
※バーボン樽をニコイチ、サンコイチしたとかでなければですが。

ベースとなった原酒は1998年の樽詰めなので、アードベッグ1975等でのリリースに使われたシェリー樽のリフィルを、アメリカンオーク樽として使っているのではないか。。。とか。
あるいは文字通りバットサイズの新樽を一度使った後に詰めたか、希望的観測も込みで前者かなと思いますが(そうだとすれば、実現した味わいのイメージとの繋がりもあって面白い)、こうして家系図のように歴代リリースを紐解いていくのも、あれこれ考えられて楽しいです。それも全ては上質な原酒であるからこそ、踏み込みたいと思えるんですよね。
結論?すいません、実際の狙いは結局推測の域を出ませんが、実験は成功で間違いないかと思います(笑)。←本記事末尾に公式情報を追記(3/23)

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昨今、原酒の枯渇から良質なリリースは限られた市場にしか出回らなくなり、特に日本に入らないことも多くなりました。
一方、こうしたリリースを楽しめるのはごく一部の愛好家だけ、市場に入っても飲めないという声があるのも事実です。
実際今回のリリースもかなり高額です。ですが、関係者が暴利で売ってるわけではないので、交渉してどうなるわけでもありません。そして手を出さなければ他の国に買われて消えていく。。。

ないものはどうやっても飲めませんが、あれば可能性はゼロじゃない。繋がりが作られてるということが、次の機会にも繋がります。
不可能とされていたリリースの実現、文句なしの中身。その機会を作って頂いた有志の皆様に感謝し、本日の記事の結びとします。
今後のリリースも楽しみにしております!


※後日談(3月23日追記)※
ウイスキー仲間から、本ボトル外箱の内側に経緯らしいことが書いてある。として連絡を頂きました。
実はこのサンプルを頂いた際、一緒に共有頂いたのはトップの表ラベル写真で、それ以外はWEBでも見あたらなかったので見てなかったんです(汗)。カッコいい外箱があるなぁくらいにしか思っておらず。
頂いた画像から恐る恐る読んでみましたが・・・結論からすれば、上記の記載、狙いは概ね間違っておらず、実験について書かれていないことを考察しているような内容になっていた、という感じです。
いやぁ、奇跡的ですね。ブラインドで正解した時とは違う、安堵感のようなものがあります(笑)。
気になる方は以下に転記しておきますので、ご参照ください。

【UNIQUE CASK HISTORY】
The Spirit was distilled on Wednesday, 28th January 1998, during the watch of Stuart Thomson, Ardgeg’s devoted Distillery Manager. Then, in American oak refill casks the whisky began to quietly mature. Six years on, Dr Bill was intent on creating single malt worthy of Ardbeg Uigeadail, a much loved dram with old, sherry-aged stock at its heart. And so he transferred an experimental batch of this whisky into second-fill oloroso sherry casks he had selected personally. Over the next 16 years, one cask gained a particular fruitiness and an intensely medicinal note. Set aside by Dr Bill to celebrate its singular character, Cask no.0050 deserves to be enjoyed in its own right.

ハイランドパーク 21年 1972-1993 SMWS 55.2%

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HIGHLAND PARK 
THE SCOTCH MALT WHISKY SOCIETY 
No, 4.15
Distilled 1972 Feb 
Bottled 1993 Aug 
700ml 55.2% 

グラス:リーデル
場所:BAR Sandrie 
時期:不明
暫定評価:★★★★★★★★(8)

香り:へたっておらず、しっかりと勢いがある香り立ち。ビターでスモーキー、土っぽさと葉巻を思わせるスモーキーさに、バタークッキー、色の濃い蜂蜜とイチジクジャム。時間経過で軽い香ばしさを含む麦芽の甘味と甘酸っぱさがさらに開く。

味:マイルドでコクのある口当たり。ドライアプリコットやイチジクジャム、そこからほろ苦く焙煎したような麦芽風味。ほんの微かに乾燥した植物や根菜の灰汁などの雑味が混じるが、多彩さに繋がっている。
余韻はパイナップルケーキのようなしっとりとしたオークフレーバーと、熟成したモルトの蜜のような甘味。ほろ苦いピート、沸き立つようなスモーキーフレーバーを戻りにともなって非常に長く続く。

まさに熟成のピークにあるモルトの風味を楽しめる1本。系統としてはオフィシャル25年の1990年代流通品のそれだが、シェリー感が控えめであることと、シングルカスクであることも手伝って、樽由来のフレーバーに邪魔されず、むしろ後押しにして突き抜けてくるハイランドパークの個性と美味しさに感動を覚える。願わくば開封直後を飲んでみたかった。。。

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自分が求めているハイランドパーク味。アメリカンオークのリフィルシェリーバットあたりと思われる熟成で、シェリー感はアクセント程度ですが、そのフレーバーに酒質ベースのドライフルーツや色の濃い蜂蜜を思わせる風味、ハイランドパークらしい乾燥した植物や土っぽさに通じるピート香が混ざりあって、実に魅力的な味わいを形成しています。

特に余韻が素晴らしいですね。20年という熟成期間がハイランドパークの酒質にとってベストだったのか、開封後の時間経過でこなれているにもかかわらず、2段階、戻りも含めて3段階まで伸びるフィニッシュ。度数が高く、それによって強い余韻のものはいくらでもありますが、まるで余韻だけ別にウイスキーを飲みなおしたように持続的かつ広がりのある点は、この時代のモルトの素晴らしさと言えるのです。

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(1990年代流通のハイランドパーク25年。小細工抜きに旨い1本。今回のボトルとはほぼ同じ蒸留時期にあることから、共通項があるのは当たり前かもしれないが、その美味しさを構成する一要素に特化したシングルカスクの魅力が今回のボトルには集約されている。)

なお、感じた余韻のなかに、ヘビーピートモルトのように過度に主張するような強さはないが、沸き立つように持続するピート香があり、これはフロアモルティングで仕込まれたモルトで度々見られる特徴であると感じます。

ハイランドパークは一部(約20%)のモルトを現在もフロアモルティングで仕込んでいるところ。同仕込み方法では、麦芽の状態が不均一になること(どんなに頑張ってひっくり返しても、火の通りが麦芽毎に異なる、それ故に香味の複雑さに繋がる)、そして現在のモルトスターでの方式に比べてじっくりと麦芽が乾燥させられるため、ピートが麦芽の奥まで染み込み、PPMは低くても、存在感のあるスモーキーさが沸き立つように出てくるのではないかと思えます。
この味わいの複雑さと余韻の長さは、そうした時代の麦芽、そして仕込み方法が影響していると考えると、効率化が全て正しいわけではないと、仕事のあり方も考えさせられてしまいますね。

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今日のおまけ:カレラ セントラルコースト ピノ・ノワール 2016

2019-2020年時点で市場に流通している、セントラルコーストの現行ロット的なボトル。カリピノらしく熟した赤系の果実を思わせる風味は健在ですが、数年熟成させたものに比べて少し酸が固め。ただ、カレラはその果実感に艶があるというか、どことなく良いブルゴーニュワインに通じるようなニュアンスもあるのが魅力だと思います。

それっぽく言うと、気品というかエレガント?
そのまま飲んで良し、熟成させて良し。国内だと大手酒販最安値はリカマンで、税込み3600円くらいだったはず。新世界ピノは似たような香味のものも少なくないですが、この価格帯では頭一つ抜けてますね。
ウイスキー好きが好む果実味もあり、この辺は是非一度試してほしいです。

ニッカ シングルカスク余市 1990-2010 日本丸就航20周年記念 61%

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YOICHI 
NIKKA SINGLE CASK MALT WHISKY 
For 20th Aniversary NIPPON MARU 
Aged 19 years 
Distilled 1990.12.22 
Bottled 2010.2.4 
Cask No, 128853 
750ml 61% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:不明
場所:自宅@テイスティングサンプル
評価:★★★★★★★★(8)

香り:メローなウッディーさ。松の樹皮やどんぐり、燻したような麦芽香の後からチャーオークの焦げ感を伴うバニラとキャラメルの濃厚なアロマ。樽香の奥にはチョコチップクッキーのような香ばしさを伴う甘味と垣間見える熟した果実感。強くはないが存在感のあるピートスモークに、微かに溶剤的な刺激も伴う。

味:リッチでメロー、パワフルでどっしりとしたボディ。キャラメルを思わせる甘味に松の樹皮やアーモンドのようなビ武骨なウッディさと香ばしさ。そこに熟したオレンジの果汁を思わせる甘酸っぱさが溶け込み、余市の酒質由来の要素を感じる。
余韻はややハイトーンでスパイシー。漁港を思わせる海の香りがウッディな樽香と共に鼻孔に届く。カカオの苦味、焦げたウッディさはこなれており、染み込むように長く続く。

麦、ピート、樽、そして時間がもたらすそれらの融合。余市が余市たる味わいが詰まった素晴らしい1本。60%を越えるハイプルーフだが、熟成によって口当たりはこなれ、それでいてパワフルでフルボディな新樽フレーバー。樽感の奥に潜む多彩なレイヤーから、余市における円熟味を味わえる1本とも言える。加水するとマイルドで、麦芽由来の甘味が開く。

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縁あって大変貴重なボトルをテイスティングさせていただきました。
それは、クルーズ船日本丸の就航20周年を記念し、船内限定で発売されていた余市のシングルカスク。流石豪華客船、凄い樽引っ張ってきたなと言う感じですが、リリース当時はブーム到来前。まだ普通に余市20年や、年に1度のヴィンテージシリーズが販売されていた頃ですから、この手の原酒が販売されていても違和感はありません。

他方で違和感という意味では、日本丸は商船三井客船、つまり三井グループに属する船であることが少しひっかかりました。
ニッカウイスキーが属するのはアサヒビールホールディングス。同社は特段どこのグループというわけではありませんが、過去の資金調達等の関係から実質的に住友グループの一員と見なされるほど深い繋がりがあります。そう、グループが違うんですね。

日常的な宴会から冠婚葬祭において、ビールを見るとグループがわかると言う話は耳にしたことがあると思いますが、それは販売経路にそのまま繋がります。この整理でいくと、三井グループはサッポロかサントリーと言われており。。。山崎、白州ではなく余市が詰められていたことに、些か違和感を感じたという訳です。
もっとも、この手の話は時代によって変わるの。最近の日本丸のレストランや、客室内の冷蔵庫にはアサヒスーパードライが使われていることから、そこまで気にする話じゃないのかもしれません。(あるいは2000年頃の三井グループと住友グループの合併話から、門戸が開かれたか。)

話がだいぶそれてしまいました。そろそろ中身にフォーカスしていきます。
今回のボトルはまさにアメリカンオークの新樽というフレーバーが主体ですが、ただ樽感が濃いだけでなく、熟成によって丸みを帯びている点。その奥には、余市らしい激しく主張しないじっとりとしたスモーキーさと、微かに漁港のような香りがアクセント。そして厚みのある酒質は、オレンジ系の果実の甘酸っぱさを伴う、リッチな樽感のなかに余市らしさが複数のレイヤーとなって合わさった、多彩な味わいが魅力であると言えます。

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(余市10年マイウイスキーの新樽熟成3種。どれも今回の日本丸20周年記念と大差ない色合い、度数構成であるが。。。)

同じ新樽の余市で比較すると、樽感という点では、上記マイウイスキーの余市10年も、今回の日本丸カスク(約20年熟成)と同じくらいの濃さがあります。
ですが、ここまでのバランス、多彩さが感じられたものはありません。勿論このはつらつとした味わいも決して悪くはないのですが。。。このまま10年寝かせてもこうはならない。恐らくそれは熟成期間の違いだけでなく、使われた新樽のサイズが違うのではと推察します。

最近のマイウイスキーや余市では、250リットルの新樽が中心です。しかしこの日本丸は、パンチョンやバットサイズの大型の新樽が使われているのではないか。それ故にじっくりと熟成が進み、約2倍の年月をかけてこの香味にたどり着いたのでは・・・と。
それこそ、ウイスキー不遇の期間を過ごしたからこそ生まれた産物であると共に、その時間がくれた贈り物のようなウイスキーだと感じます。
(画像検索でこのボトルに付属していたメーカーコメントのカードを確認しました。500リットルサイズの新樽が使われてるとのことです。2/25 追記)

なお蒸留は1990年12月22日となっているところ、日本丸の就航は同年9月です。同じ月の原酒って無かったのかなあとか。ひょっとして関係者が1990年に樽買いしていた?いやそれこそ先に触れたグループ違いの話が当時は強かったろうし・・・
これでなんの事情もなく揃えて来なかったなら、ニッカらしいなと思えてしまったりです(笑)。

ボウモア 23年 1995-2018 ウィームス 57.4%

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BOWMORE 
WEMYSS MALTS 
"Nostalgic 70's Flavor" 
Aged 23 years 
Disilled 1995 
Bottled 2018 
Cask type Hogshead 
700ml 57.4%

グラス:国際規格テイスティング
時期:開封直後?
場所:ジェイズバー(ALLEN氏持参物)
暫定評価:★★★★★★★★(7ー8)

香り:エキゾチックなニュアンスを含む、トロピカルなフルーティーさ。熟した果実の発散するフェロモン。アップルマンゴー、グレープフルーツ、土っぽいピートと燃えさしのような柔らかいスモーキーさ。微かに地磯を思わせる要素もある。官能的なアロマ。

味:とろりとした口当たりから、香り同様に南国果実に混じる柑橘のニュアンス。ピートのほろ苦さと、ダシっぽいコクのある塩気、熟したマンゴーの甘さと薬品を思わせる含み香が、余韻のウッディネスと混ざりあって鼻孔に抜けていく、長く続くフィニッシュ。

90年代中頃のボウモアらしいダシっぽさと適度な雑味、厚みのある酒質に60年代に通じるトロピカルなフルーティーさが備わった素晴らしい1本。1995年にもこんなカスクがあったのかと衝撃を受ける。サブタイトルはノスタルジック70'sではなく60’sにするべき。

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先日、台湾のボトラーズである”AQUAVITAE”の代表アレン氏が開催した、招待制のテイスティング会。そこでスペシャルアイテムとして振る舞われた1本。
アレン氏は兼ねてから日本の愛好家のなかでも、ウイスキーに造形が深いブロガーを招いたテイスティング会を開催してみたかったとのことで、信濃屋さんの協力を経て企画の実現に至りました。

その際のテイスティングアイテムについては、追って個別に記事化させていただくとして、イベントの最後に提供されたのが、アレン氏ら台湾のグループでジョイントボトリングしたこのボウモア。
会のラインナップのボトルはどれも面白く、かつアレン氏が好んでいるフレーバーの傾向が、我々日本の飲み手の好みと近いことが理解できるなど、1本1本選び手のイメージを確認しながらテイスティングできる貴重な機会であったわけですが。。。ボウモアのあまりの美味しさに、最後に全部持っていかれてしまった感すらあります。

スペシャルアイテムの提供はブラインド。ですがノージングで即90年代のボウモアとわかる、官能的なフルーティーさとピート香のハーモニー。
フルーティーさについては
アレン「昔のボウモアを思わせるフレーバーがあるから、Nostalgic 70's flavorと書いているんだ(英語)」
くり「70年代というより60年代なんじゃ?(日本語で呟く)」
アレン「(通訳もなしに)自分も60年代だと思うんだけど、実は78年に似ているという人が居たから、配慮して70sにしたんだ」
という、通訳なしで想いが通じあってしまったやりとりも(笑)。
さすがにパフューム時代のボウもアとは違うと思いますが、このくだりからも我々とアレン氏は感じ方が近いんだな、と感じたエピソードでした。

しかし1995年のボウモアはフルーティーさよりもアイラ要素の強いものがメインという印象でしたから、1990~1993年あたりを思わせるフルーティー系統とボディ感の両立した味わいには驚かされました。まさしく現代に甦った60年代のボウモアです。
そして会を通じて、アレン氏だけでなく日本のブロガー、情報発信者との交流ができたことも大きな収穫であり、今回の機会を作っていただいた、アレン氏と信濃屋さんには感謝しかありません。(また、金曜日の20時30分からというゴールデンタイムに会場を提供してくださった、ジェイズバー・蓮村さんの男気にも。)
お声がけいただき、ありがとうございました!!

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アードベッグ 25年 1975-2001 ジョン・ミルロイ 58%

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ARDBEG 
John Milroy Selection 
Aged 25 years 
Distilled 1975 
Bottled 2001 
Cask type Sherry Butt 
700ml 58% 

グラス:国際企画テイスティング
時期:開封後1週間程度
暫定評価:★★★★★★★★(8)

香り:ややドライでハイトーン、鼻腔を刺激する強いアタック。ピーティーで燻したようなスモーキーさに混じる塩素や薬品香、その奥にはコシのある麦芽香と粘土を思わせる土系のアロマも混じる。

味:口に含むと香りほどのアタックはなく、オイリーで焦げ感を伴いながらヨードや魚介系のニュアンス、潮気を思わせるピートフレーバーがどっしりと広がる。合わせてバタークッキーやグレープフルーツ、ほのかにアプリコット。麦と樽由来の要素もあり、ボディは厚い。
余韻はほろ苦く強いスモーキーさと柑橘香、微かにゴムのようなニュアンスを伴いつつ長く続く。

アイラの要素が濃縮したような重厚なアードベッグ。香りに少々固さというかシャープな刺激があるが、味わいは樽が酒質を邪魔せず角を取る程度に効いて、口内で存分に個性を発揮するような仕上がりとなっている。
こういうのを飲んでしまうと、90年代のアードベッグが穏やかであるという意見も納得。素晴らしい1杯にただただ感謝。

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このボトルをテイスティングするのは本当に久しぶり(7~8年ぶりくらいか)、文句なく旨いアードベッグです。
シェリー樽表記ですが2nd fillのアメリカンオークといった系統で、酒質ベースの仕上がり。アードベッグの当時は麦感が厚く、そして何よりアイラ的なピート要素が非常に濃いものが多く、それが90年代以降との違いとなっています。

時代が時代だけに、1970年代蒸留のオフィシャルでは濃厚なシェリー樽仕上げのものもしばしばあり、それはそれで美味で、昔の自分はそっちの方が好みだったりもしたのですが。。。こうしてプレーン系統の樽で熟成されたものを飲むと、より一層個性が強調されて良いですね。
酒質の厚さがピートフレーバーを受け止め、奥行きもさることながらスケールの大きな味わいに繋がっているようです。

このヘビーピート仕様の背景には、1960~1970年代に同系統の原酒の需要が増え、蒸留所を所有するDCLとして対応を求められていたということがあります。(当時のアードベッグは、DCLとハイラムウォーカー社がそれぞれ株式を保持していた。筆頭はDCL。)
DCLは、グレンギリーでの仕込みの失敗やカリラのリニューアルに伴う一時閉鎖などから、ブローラを再稼働させたりとピーテッド原酒の仕込みに苦心していた時期。アードベッグも同様の役割を担ったのでしょう。
1974年にはアードベッグでのモルティングだけでなく、ポートエレンで精麦されたモルトを使うようになるなど、仕込みの量が増えていたようです。

そして1979年、カリラの操業が軌道に乗り、ピート麦芽需要も一段落ついたためか、DCLはアードベッグをハイラムウォーカー(後にアライド社)に完全売却します。
アードベッグは後に、回り回って関連会社の傘下として戻ってくることになりますが、1979年から1980年代の閉鎖間際のポートエレンは、シャープなピーティーさと麦系のニュアンスも比較的ある、アードベッグに感じられたものと同じようにアイラ要素の強い原酒が仕込まれています。個人的な考察ですが、アードベッグが担っていた役割を一時的に肩代わりしたのかなとも予想しています。

現代は再びピーテッドモルト需要が高まり、通常リリースも主張の強いピーティーさを身につけるだけでなく、スーパーノヴァなど更に強くピートを焚き付けたリリースもあります。ただ、酒質が昔より軽いのと、それ以上に使われているピートの産地や種類が違うのか、フレーバーの仕上がりが異なっている。
1970年代のアードベッグ。まさに時代が産んだ銘酒と言える1本なのです。

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この日のワイン:シャトー・コス・デストゥルネル AOCサンテステフ 1982
ラフィットに隣接し、格付け1級にも肉薄するという評価のワイン。
フルボディで甘味は控えめの黒系果実香、鰹節や鞣し革、リコリス、黒土。熟成によって角のとれたタンニンとビターで柔らかい酸を伴う余韻。。。
普段分かりやすい新世界のワイン主体なので、楽しく酔って終わりですが。いやはやこういうレイヤーの多い上質なワインは、深く没入していくような感覚があります。

格付けによる違いとか、熟成のポジ・ネガな部分の違い等、まだまだ勉強している身ではありますが、個人的にこの1本はネガ要素が少なく、こういうのが良い熟成なのかなと感じられる構成でした。

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