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嘉之助シングルモルト 4年 2018-2022 TWC向け 58% ジャパニーズトレイル

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KANOSUKE DISTILLERY  
SINGLE MALT WHISKY  
JAPANESE TRAIL for THE WHISKY CREW 
Aged 4 years 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Cask type Re-Charred American Oak Cask(MELLOWED KOZURU)
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6−7)(!)

香り:杏や干し柿、あるいはアップルタルトのような甘酸っぱさとほのかな香ばしさを伴う濃縮したオーク香。微かなハーブ、ビタミン剤。充実した香り立ち。

味:リッチでメロー、粘性を伴う口当たり。香り同様の甘酸っぱさに、キャラメリゼや甘栗の甘みとほろ苦さ、じわじわと華やかなオークフレーバーが合わさって広がる。余韻はスパイシーでドライ気味、やや荒削りではあるが、香り同様に濃厚で充実した余韻。

リチャー樽だが、メローコヅルの熟成に使われたことで樽材がこなれており、新樽等にみられるえぐみや渋味といった要素が抜け、オークフレーバーの良いところが濃縮されている。フレーバーはバーボン樽と新樽のいいとこ取りという印象で、少量加水するとオーキーな華やかさが前に出てくる。
嘉之助蒸溜所のハウスタイルを体現しており、最初のピークを迎えた原酒。2021年発売のシングルモルト1st リリースからみれば、原酒の成長も感じることができる。

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Whisk-eが運営する、会員制(紹介制)のウイスキー販売サイト「THE WHISKY CREW」がリリースを始めた、JAPANESE TRAILシリーズの第一弾。
同シリーズは、現在日本各地で造られているクラフトウイスキーに焦点を当て、各蒸留所に足を運び、その蒸留所の個性や特色を体現するリリースを行うことで、日本のクラフトウイスキーの現在地を発信していくという意欲的な企画になります。

私自身、最近クラフト蒸溜所に注目して、類似の取り組みをプライベートで行っていたり、THE LAST PIECEをはじめ関連するリリースに関わったりもしていましたので、Whisk-eさんの企画が今後どんな広がりを見せるのか、注目していきたいと思っています。

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その記念すべき第一弾の嘉之助蒸溜所は、同社のルーツともいえる熟成焼酎メローコヅルの空き樽で、蒸溜所創業初期の原酒を熟成した、シングルカスクウイスキー4年熟成品です。

メローコヅル樽熟成の原酒は、同社における最重要原酒と言って差し支えありません。これまでリリースしてきたシングルモルトシリーズでのキーモルトであり、特に1stリリースの主たる構成原酒でもあります。
「リッチでメローなウイスキーを作る」というのが同蒸留所 小正社長の目指すウイスキー像であったところ、それを見事に体現した仕上がりに唸らされました。

いやいや言うて4年熟成でしょと、大袈裟だなと思う方も居ると思いますが、熟成年数からイメージする時間経過での変化はスコッチの4年ではなく、バーボンやテキーラのそれに近い印象を受けます。
元々嘉之助蒸溜所の原酒は酒質や熟成環境から長期熟成向きではなく、5年程度でピークを迎えるだろうと予想されてはいましたが、いい意味で予想通り。樽感は過度な渋みや枯れ感なくメローで豊かな甘みと華やかさがあり、クリアで柔らかい酒質は短熟ながら樽感に馴染んで、ウイスキーとしてほぼ完成しつつあるのです。

勿論、5年以上熟成させることも出来ますが、この樽であれば後2−3年熟成させると甘みが減って渋み、苦味が強くなっていくような変化が予想され、逆にこれ以上若いとまだカドが尖っていていて、完熟というにはもう少し時間がかかる。
その点で、このTWC向けリリースは、蒸留所が目指すハウススタイルの一つにして、最初のピークを迎えていると言える原酒。「ジャパニーズトレイル」のコンセプトにも合致して、これはリリース第一弾にふさわしい樽を選ばれたなと、飲んで本当に驚かされました。

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(嘉之助蒸溜所、メローコヅル樽の一部。樽のサイズは所謂パンチョンサイズで約450リットル程度。バーボン樽とは異なる熟成感が面白い。)

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(同じメローコヅル樽熟成原酒としてリリースされている、アーティストエディション、3年熟成。今回のTWC向けと同じ傾向だが、こちらの方が約1年若い分、はつらつとして酒質のカドが取れきれていない印象を受ける。)

なお、このTWC向けの嘉之助シングルカスクは、約550本のボトリングでありながら発売後10分足らずで完売するという嘉之助蒸溜所への期待値の高さが窺える、驚愕の結果となりました。
自分が知ってる限り、事前に飲めたとかサンプル配布があったとかそういうことはなかったにも関わらず、初動でこれだけ在庫が動く・・・いやほんと、凄いですね(語彙力)。

一方で、今回のリリースが嘉之助蒸溜所の突然変異やスペシャルな原酒だったかといえばそうではなく、あくまでスタンダードなものだと言えます。
それに今回の原酒は蒸留開始初期のものであり、まだ熟成した原酒からのフィードバックを仕込みや蒸留工程に加えていない時代のものです。つまり、今後も嘉之助蒸溜所からは今回のものと同等のクオリティ、あるいはそれ以上のものがリリースされてくると言えるわけです。

先日、小正社長とスペース放送をした際も「今後はさらに良い原酒が仕上がってくるので、期待してほしい」と、熱く語られていました。
実際、それはそうだと思います。
今回はあくまで最初のピーク、蒸溜所として発展途上中の現在地。そのハウススタイルを認識し、今後が益々楽しみになる、なんだか前向きな企画に思わずニンマリ、口角が上がってしまいました。
嘉之助蒸溜所の今後のリリース及び、ジャパニーズトレイルの次回作も楽しみにしております。

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ダルウィニー 2006-2021 ディスティラリー エディション 43%

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DALWHINNIE 
DISTILLERY EDITION 
DOUBULE MATURED
(BOURBON - OLOROSO CASK)
Distilled 2006 
Botteld 2021 
700ml 43%

評価:★★★★★★(6)

香り:柔らかく甘い麦芽香にオークの乾いたウッディネス。そこに混ざるシェリー樽由来の色濃い樽香。2つの要素がはっきりとは混ざり合っておらず、複層的に感じられる香り立ち。

味:マイルドな口当たり。 蜂蜜や麦芽糖、はっきりとした甘みが広がり、徐々にビター。シェリー樽由来のドライプルーンやブラウンシュガーを思わせるフレーバーがアクセントになっている。
余韻はほろ苦く、じんわりとウッディネスが染み込むように消えていく。

スタンダードのダルウィニー15年に感じられる、ハイランドモルトの代表格と言えるような牧歌的な麦芽風味に、オロロソシェリー樽の色濃いフレーバー、ウッディネスが混ざり合う。特徴的なのは、後熟に用いたシェリー樽のフレーバーが完全に一体化しているわけではなく、香味とも麦芽風味→シェリー樽と段階的に変化していくことにある。
少量加水すると、前者のフレーバーにある青みがかった要素が一瞬顔を出すが、一体化していなかった2つの要素が混ざり合い、熟したオレンジや洋菓子を思わせるアロマとして感じられる。相変わらず派手さはないが、地味に旨い通好みの1本。

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愛好家御用達の隠れた名酒、ダルウィニー。
ダルウィニーはディアジオ社のクラシックモルトシリーズとして位置付けられ、まさにハイランドの代表として1980年代後半からリリースが続いているわけですが。
そのクラシックモルトシリーズを様々な樽で後熟させて毎年リリースしているのが、ディスティラリーエディション(以下、DEと表記)です。

ダルウィニーDEは、オロロソシェリー樽でのフィニッシュで構成されていますが、このシリーズは各蒸留所において毎年毎年ロット差があり、ダルウィニーDEは特にその違いが大きいように感じます。
最近のロットだと、2016年はシェリー感というよりはエステリーで華やかなフルーティーさという、組み合わせであり得るとしたらアメリカンオークシェリー樽由来のフレーバーが際立ち。2017年や2018年はリフィルかな?という麦芽風味主体の構成だったところ。

この2021年リリースのダルウィニーDEは樽の傾向が大きく変わって、最近の他社オフィシャルリリースに見られるようなシェリー感が、麦芽風味に混ざって感じられます。シーズニングのオロロソシェリー樽で、スパニッシュオークのキャラクターに由来するものでしょう。
その上でノーマルな15年とDE15年を比較すると、どちらも同系統のフレーバーがベースにありつつ、ハイボールなどのアレンジのしやすさはノーマルに軍配があがり、単体で緩く飲んでいくならDEも良いなというのが、この2021年リリースの印象です。

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さてダルウィニーのオフィシャルラインナップは15年とDEで、後はウィンターズゴールドが市場にあり、基本それ以外に定常的に販売されているオフィシャルリリースはありません。
ディアジオは、ダルウィニーに限らず売れ筋である一部の銘柄を除いてラインナップを絞る戦略をとっているようなんですよね。
ことダルウィニーについてはボトラーズもないので、折角クラシックモルトとして地域を代表する銘柄にしているのだから、もう少しラインナップを増やしてくれても良いんじゃないかなぁと思うのですが。。。

ただ、限定品として不定期ながら長期熟成のリリースが数年毎に行われており、2000年代にリリースされた29年、32年は絶品。2006年リリースの20年は少々難ありでしたが…。
2016年にリリースされた25年は、15年の傾向で麦芽風味とフルーティーさを洗練&ボリュームアップさせたような味わい。
2020年にリリースされた30年は麦芽風味にやや枯れた要素がありつつも、奥行きと熟した洋梨のようなフルーティーさがあり、どちらも通好みの味わいで良い仕上がりでした。

こうしてリミテッドをテイスティングして現行品のスタンダードに戻ってくると、改めてその良さも感じやすくなる。
ダルウィニーというよりは、ディアジオのブランド戦略の巧みさでもありますね。

安積蒸溜所 山桜 2017-2021 シングルモルトウイスキー 干支ラベル“虎” #17203

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ASAKA DISTILLERY 
YAMAZAKURA 
Aged 4 years 
Distilled 2017
Bottled 2021 
Cask type Bourbon Barrel #17203 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)

香り:アメリカンオーク由来のバニラ香。パイン飴に柑橘のワタ。合わせて東京沢庵を思わせる酸や、ウッディさには檜のような乾いた木材のアロマが混じる、膨らみのある香り立ち。しっかりとした個性を感じさせる。

味:口に含むととろりとした質感から蜂蜜、金柑、じわじわとほろ苦く柑橘のワタ。奥行きはそこまでないが、好ましい要素があり、余韻はオーキーなフルーティーさと缶詰シロップのような黄色い甘みを感じつつ、若干の粉っぽさが舌に残る。嫌な若さはなく、含み香に微かに日本酒のようなフレーバーが面白い。 

安積蒸留所のノンピート&バーボン樽熟成。50%に加水調整されているが、ボディは崩れておらず、蒸留所のスタンダードと言える個性を感じることができる。
少量加水するとさらにフルーティーに。トップノートにある篭ったような酸が引き伸ばされ、パイナップルやみかんの缶詰のシロップを思わせる甘酸っぱさ、そして麦芽由来の軽い香ばしさと好ましい変化がある。約4年熟成だが、最初の飲み頃と言え、今後の成長に加えて7〜8年程度で予想されるピークが楽しみ。

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福島県郡山市、笹の川酒造安積蒸留所が毎年リリースする予定となっている干支ラベルシリーズの2作目。同蒸留所は2016年に創業(再開)しており、その2年目の仕込みの原酒となります。
ラベルには今年の干支である虎と、毎年共通になっていくというウイスキーキャットが描かれている。昨年は牛、来年はウサギ、ちょっとした縁起物ですね。

これまでの安積蒸留所のノンピートモルトは、安積THE FIRST に加え、今作を含めてシングルカスクが4種類ほどリリースされています。
これらは全てバーボン樽原酒であることもあって、実は香味のベクトルは大きく変わりません。最大の特徴とも言えるのが、香味にある個性的な酸であり、樽感が淡いと麦芽風味が主体に、一方でバーボン樽由来の要素が強く混ざり合うと、フルーティーな味わいにつながってきています。

何を当たり前なことをと言われそうですが、一番プレーンだったのはTHE FIRST、逆に今回の虎ラベルは樽感が一番しっかりついているのではないかとも思います。
そのため、過去のリリースと今回のリリースを比較することで、熟成3年から4年にかけて、数ヶ月単位であっても起こっている、言わば成長期のモルトの変化を見ていただくこともできるのではないかと感じています。

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(ラダー社から2021年にリリースされた、同じ2017年蒸留のシングルカスク。こちらの方が麦芽風味がはっきりとして、樽感は控えめというかややドライ寄り。)

安積蒸留所についてはコロナ前は1年に1度、見学をさせて頂いており、当然ニューメイクの変化も現地で見てきました。1年目より2年目、2年目より3年目のほうが個性が際立っており、麦芽の甘みも出ていたのを覚えています。
2020年、2021年と訪問できていませんでしたが、先日ちょっと縁があって2021年仕込みのニューメイクをテイスティングさせてもらったところ、2019年に導入された木桶の効果か、蒸留所の個性はそのままに、麦芽風味の厚みやフルーティーさがニューメイク時点からさらに出ており、蒸留所として確実に進化を遂げていたことが印象深かったですね。

安積蒸留所は、これまで3年熟成以上のリリースだとバーボン樽原酒しかありませんが、今回の干支ラベルで熟成のピークに向けた期待値と、そのポテンシャルを充分感じ取れるのではないかと思います。
一方で、蒸留所としてはそれ以外にシェリー樽、ミズナラ樽、ワイン樽等多くの原酒も仕込んでおり、今後のリリースで個性と樽感がどのように結びついてくるかも楽しみです。中でも、ミズナラ樽との親和性は特に高いのではないかと期待しています。

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余談ですが、先日発生した最大震度6強の地震。蒸留所として人的被害はなかったとのことですが、少なからず設備への影響はあり、また事務所や居住環境についても大きな被害を受けたと聞いております。
日本にいる以上地震の発生は避けて通れませんが、東北に縁のある当方としては、東北地方にだけ集中してしまう現状に、不条理を感じざるを得ません。そうであってもなんで・・・と。

難しい状況の中ではありますが、全国のクラフト蒸留所を見ても、安積蒸留所はいい意味で個性的であり、厚みと膨らみのある若い酒質を作ることができていると感じています。
がんばれと、軽々しく言うのも気が引けるところですが、それでも頑張っていただきたい。引き続き良いウイスキーを作っていただきたい、そう強く願っています。

ダルウィニー 15年 2021年現行ボトル 43%

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DALWHINNIE 
Highland Single Malt 
Aged 15 years 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかなオーク香と蜂蜜のアロマ。合わせて麦芽の白い部分、籾殻、すりおろした林檎を思わせる品の良いフルーティーさが柑橘系のアクセントと共に感じられる。

味:口当たりは柔らかくオイリーで厚みのある味わい。香り同様にオーキーな含み香と麦芽風味、蜂蜜を思わせる甘みが主体となって広がる。余韻は微かにピーティーでウッディなほろ苦さ。軽い刺激を伴いつつ、ジワリと染み込むように長く続く。

軽やかなオーク香とワクシーな麦芽風味が主体。飲み方はハイボールでも悪くないが、ワイングラスに氷を入れてステアする、フレグランススタイルで飲むことで個性が一層引き立つ。まさにハイランドモルトの代表的キャラクターの一つ。
また、オールドボトルと比較して樽感の華やかさは現行寄りと言えるが、香味のベクトルに大きな変化が見られない点も、ダルウィニー蒸溜所の特徴であり、ハウススタイルであると言える。

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個人的に、現在販売されているシングルモルトの中で、ハイランドモルトらしい個性を知りたいと問われたらお勧めするのがこの1本。
愛好家御用達の隠れた〜〜なんて表現をするなら、間違いなくダルウィニー15年を候補に挙げます。
昨年更新した酒育の会 Liqulの記事でも、同様のテーマでダルウィニーを紹介したところです。

Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol,14 ダルウィニー15年
https://liqul.com/entry/5853


蒸溜所については上記Liqulの記事で紹介したため、ここでは別な視点からダルウィニーの個性を紹介していきます。
スコッチモルトにおいては、ハイランド、スペイサイド、ローランド、アイラと、地域毎に産地が括られ、その地域による個性も度々話題にもなります。
実際、各蒸留所のシングルモルトを飲むと、そうした違いが見えてくることは間違いなく、特にアイラモルトはアイラ島産のピートがもたらす強烈な個性が、その立ち位置を明確なものとしています。

一方でハイランドやスペイサイドのように広大で、漠然とした地域の違いはというと、これは解釈が分かれますが、地域の違いというよりも蒸溜所毎のハウススタイルの偏りという点で、認識されているケースが多いと感じています。
そして、地域毎の個性の違いに繋がる要因は何かというと、一つは熟成に影響を与える気候、もう一つはピートや麦芽、水質など、その地域から産出する原料にあったのではないかと考えています。

“あったのではないか”と過去形なのは、現在は麦芽もピートも地産地消の時代ではないこと。物流網の発達と効率化の観点から、様々な地域のものが集約され、一部は海外から輸入され、特別指定しない限りはモルトスターから統一的に供給されていること。
熟成環境も、大手ブランドのものは効率化の観点から蒸溜所とは異なる地域にある集中熟成庫で熟成されることが多く。
結果、地域毎の違いに繋がっていたであろう要素が、特に現在のハイランド&スペイサイドウイスキーからは姿を消しつつあるためです。

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(左はダルウィニーのオフィシャルボトルファーストリリース。1980年第初頭にリリースされた。原酒には、蒸溜所改修前、フロアモルティングで仕込まれた時代の麦芽が用いられている。現行品とは麦芽風味の厚みや癖の濃淡はあるが、香味の傾向は同じ方向にある。)

ではダルウィニーは地産地消なのかというと、ここも原料は1960年代の改修工事以降モルトスターから提供。熟成庫も、現在は多くの原酒が集中熟成である可能性が非常に高いです。(公式には集中熟成庫での熟成の話はオープンになっていないため、可能性が高い、とします。)
そうなると冒頭のダルウィニーを指して「ハイランドモルトらしい個性を知りたいなら・・・」という表現は、矛盾するように感じるかもしれません。
これは変わらない製法、そして何よりもブレンダーが目指す味の方向性が昔も今も大きく違わないため、多少個性はライトになっているものの、かつてのハイランドモルトらしさが残されているのです。

ここで言うハイランドらしさは、自分の解釈では牧歌的な麦芽風味です。糖化前の原料状態の麦芽を齧ると味わえる、芯の白い部分の甘み。我々に馴染みのあるものに例えると、お粥ですね。白く、優しく、どこか垢抜けない田舎っぽい甘さ。
オールドボトルだとグレンモーレンジ、オーバン、マクダフ…スペイサイドモルトにも同様の個性が見られましたが、近年の蒸留所の多くは線が細くライトで華やかな傾向にシフトした印象を受けます。

どの時代をもって個性とする、らしさとするかはまさに飲み手の解釈次第です。一部のモルトのような手に入らないものを惜しむより、今に目を向けることも大切です。
ただ昔があって今があるという時間の流れの中で、変わらないものを愛でるのもまた、嗜好品の楽しみ方であると思います。
ダルウィニーはいつまでも古くからの愛好家の隠れ家、宿木であってほしいです。

清里フィールドバレエ 32回開催記念 イチローズモルト 秩父 58% 眠れる森の美女

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Ichiro's Malt 
(Chihibu Distillery) 
Single Mlalt Japanese Whisky 
Kiyosato Field Ballet 
32nd Anniversary 
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6)

香り:黒砂糖やオランジェットの甘い香り、紹興酒を思わせる香ばしさ。奥には赤系のドライフルーツ、微かに針葉樹のようなハーバルなニュアンスも伴う。徐々にベリーやオレンジ、ドライフルーツのアロマが強く感じられる、多彩な樽香が複雑に絡む重厚的なアロマ。

味:リッチでボリューミー。シェリー樽やワイン樽を思わせる色濃い甘さが、奥からオーキーな華やかさを伴って広がる。続いてビターなウッディネス、微かに椎茸やアーモンド、酒精強化ワインの要素。余韻は口内のパチパチとした刺激を伴い、長く綺麗に纏まっている。

第32回フィールドバレエの演目であった「眠れる森の美女」をテーマとして、秩父蒸溜所のモルト原酒をブレンドしたシングルモルトウイスキー。女性的な要素を表現するためにポートワイン樽の原酒が使われ、バーボン樽原酒のフルーティーさ、華やかさをベースに、香味の随所で特徴的な要素が感じられる。
引き出しの多いウイスキーで、初見では香味の認識や表現を難しく感じてしまうかもしれない。大きめのグラスで空間を使って開かせると複雑で芳醇に。少量加水でベリー系の果実感が眠りから目覚め、好ましい要素を引き出すことが出来る。

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毎年夏に開催される、バレエの野外公演“清里フィールドバレエ”。
2014年の定常公演25周年からリリースが続く、清里フィールドバレエ記念ボトルの最新作。基本的には萌木の村のBAR Perchで提供されていますが、3/1に一般向けにも発売されて、即完売となったようです。
Twitterのほうで昨年12月にレビューを投稿しておりましたが、発売を受けてブログの方でも詳しくまとめていきたいと思います。

リリースの系譜は、
25thが白州メインのピュアモルト。
26th〜29thが羽生と川崎メインのブレンデッド。
30thが白州シングルモルト30年。
31thと32ndは秩父のシングルモルト。
イチローズモルトとサントリーからそれぞれ記念ボトルがリリースされてきましたが、長期熟成原酒で構成されてきた30周年までのリリースと異なり、31thからは秩父蒸留所の原酒がメインとなって、リリースの傾向が変わった印象を受けます。

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それは単にシングルカスクでリリースするのではなく、複数樽バッティングのシングルモルトとして31th、32ndともそれぞれ軸になる原酒があり、演目のストーリーに合わせて香味を作るブレンダーの狙いを紐解いていく面白さもあります。
例えば第31回の演目は白鳥の湖。同演目のテーマは光と闇。これは7年熟成の秩父モルトのバッティング。光をイメージするオーキーでフルーティーな原酒に、闇のパートは色濃くピーティーに仕上がったチビ樽原酒を用いて表現されていました。

そして2021年の夏に公演された第32回清里フィールドバレエの演目は「眠れる森の美女」。
前作に続いて、難しいオーダーです。ブレンドに使われた原酒は7樽から、バーボン、シェリー、ワイン…様々な香味要素がある中で、酒質は前作とは異なりノンピートがメインで、うち女性的な香味をポートワイン樽で表現されているのだと思います。ただ、これは狙って造られたのか、自分の考えすぎかはわかりませんが、このウイスキーはテイスティングで触れたように紐解くのに時間と工夫が要る、ちょっと難しさを感じるものです。

それはトップノートにある重く霞がかかったような、シェリーや紹興酒を思わせるアロマ。果実味、華やかさ、ウッディな要素、好ましいと感じる香味要素の上に”それ”があることで、少し近づきがたい印象を受けてしまいます。
もちろん、そのままテイスティングしてマズいとか、そういう類のものではないのですが…。演目に倣って表現するなら、王女を眠りから覚ますには、王子様の口づけが必要なのだと。

ここで王子の口づけに該当するのが、少量の加水、そして大ぶりなグラスです。
色々試しましたが、この組み合わせが一番全ての要素を引き立ててくれました。グラスに注ぎ、スワリングすることで、城を覆う暗い木々と茨の森とも言える上述の重たい霞が晴れていき、奥から好ましい要素が湧き上がってきます。
そして少量加水。100年の呪いが解ける変化と言うには大げさですが、先に触れたシェリーや紹興酒を思わせるアロマが逆転し、グラスの中で芳醇で複雑なアロマを形成していくのです。

勿論この演目は様々なストーリーパターンがあるように、今回の自分のレビュー(解釈)がすべて正しいわけではありません。
ただ、良いウイスキーであればこそ、一つの視点で見るのではなく、時間をかけて、あれこれ考察しながら様々な飲み方を試してみる。これぞ嗜好品の楽しみ方です。
今回も萌木の村の舩木村長からテイスティングの機会を頂きましたが、じっくりテイスティングさせて頂いたことで、贅沢な時間を過ごすことが出来ました。

素敵なプレゼントをありがとうございました。
一昨年、昨年と伺えておりませんが、今年こそ清里に伺いたいですね。
改めまして、御礼申し上げます。


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余談:大ぶりなグラスについて
今回のテイスティングでは、いつもの木村硝子のテイスティンググラス以外に、ガブリエルグラスを使っています。
「すべての酒類の魅力をこのグラス1つで引き出せる」というのがこのグラスのウリ。ホンマかいなと、赤、白、日本酒、ウイスキー、ブランデーと色々使ってみましたが、確かにそれぞれの香りの構成要素をしっかり引き出して、鼻孔に届けてくれる気がします。口当たりも良いですね。

ただ、構成要素を引き出すのはそうなんですが、良いところも悪いところも誤魔化さずに引き出してくるので、例えば若い原酒主体で繋がりの粗いブレンドとかだと、思いっきりばらけてしまいます。
先日、とある企画で試作したレシピの1つは見事に空中分解しました(笑)。
今回のようにテイスティングツールの1つとして、ウイスキーの良さを違う角度から引き出すだけでなく。例えばブレンドの試作をした後、その仕上がりを確認する際にも活用できそうです。

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