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カテゴリ:★5

長濱蒸溜所 アマハガン ワールドブレンド 小林さんちのメイドラゴン 47%

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AMAHAGAN
World Blended
The maid dragon of Kobayashi-san
700ml 47%

評価:★★★★★(5−6)

香り:注ぎたては鼻腔を刺激するドライな要素と、アプリコットやパイナップルを思わせる甘酸っぱさ。徐々にほろ苦いウッディネスに、アメリカンオークの華やかさとフレンチオーク系のバニラ香、複層的な樽香と微かなスモーキーさ。なんとも複雑なアロマ。

味:柔らかい口当たりから、グレーンのコクとソフトな甘さがあり、香り同様甘酸っぱさ、ややケミカルなパイン飴のようなフレーバーに乾いた麦芽、オールブラン。奥には白葡萄やナッツなどのフレーバーも。序盤はプレーンな味わいだが、それが複雑さを引き立てる。 余韻は口内をねっとりとした質感がコーティングし、序盤に感じられた甘酸っぱさが、スモーキーさとビターなウッディネス、ワインを思わせるタンニン、スパイシーなフィニッシュへと変わっていく。

AMAHAGAN系統の味わいをベースに、複数の原酒や樽の個性が混ざり合う、複雑なウイスキー。モルト:グレーン比率は6:4あたりか。特にハイランドモルトにワイン樽熟成のウイスキーとピートフレーバーが仕事をしているようだが、その複雑さ故、日によって、グラスによって、とにかく表情が変わるところがあり、なんとも奔放。これがブレンダーのコメントにある原作を意識した作りの結果か。
が、ハイボールにすると主張し合っていた個性が交わり、薄まり、すっきりとしてクリア、軽い酸味と麦芽風味ベースで非常に飲みやすい。

原作同様、序盤は深く考えずに楽しんでいくのが良いのかもしれない。酔った帰り道にドラゴンが居て、メイドになっていた??
冷静に考えてどういうことなん。。。いやこの可愛さなら良いのか。。。頭が。。。考えるな。。。感じるんだ。。。(何か盛られた模様

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ウイスキー界のコラボメーカー、長濱蒸溜所がリリースした、クール教信者作の漫画「小林さんちのメイドラゴン」とのタイアップリリース。原酒は長濱蒸溜所のモルト原酒と輸入ウイスキーのワールドブレンデッド。
先日は空挺ドラゴンズとのコラボリリースがありましたが、空挺ドラゴンズが肉料理に合うウイスキーをコンセプトとしたのに対して、今回のリリースは、原作の情景をイメージしてブレンドがされています。

メイドラゴンについては。。。異種族交流コメディ漫画なので、とりあえず見てくれとしか言えませんが。そのグラスの中身、何か混ぜられてないか?と、原作を知っている人なら若干疑ってしまうラベルに加え、裏ラベルのバーコードが竜形態のトールなのもこだわりを感じるポイント。
原酒の系統としては、ワイン樽原酒がかなりいい仕事というか、全体に厚みやフルーティーさ、そして余韻のビターなフレーバーを与えています。
また、長濱蒸溜所のモルトを熟成したものだけでなく、輸入ウイスキーを追加熟成したものを結構使っていると感じます。ピート原酒も存在は感じられつつフレーバーに幅が出る程度の塩梅で、万人向けながら複雑さを考察する楽しみもある1本です。

飲み方としては、テイスティングに記載した通りハイボールがオススメ。
深く考えると、え、それは良いのか見たいなツッコミどころや、色々深い設定がある原作ですが、そこまで考えなくても緩く、楽しく、可愛さも感じられるのがこのメイドラゴンが人気作となっている要因の一つだと思います。その意味でも、まずは軽く深く考えないでハイボールでグイっといってみるのがいいなと。




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さて、ここからちょっとマニアックな話。
今回のウイスキーですが、発売元であるBar レモンハートさんからテイスティングコメントの依頼を頂いており、去年の12月末の時点、ブレンドサンプルを頂いておりました。その時点のコメントは、販売ページや同社からのニュースリリース等で確認することが出来ますが、2つのコメントを比較すると、同じ要素はありつつも、異なるキャラクターを感じ取っていることが伝わるかと思います。

同じウイスキーをテイスティングしたとしても、コメントが完全に一致することはないのですが、よほど体調や環境の違い、年単位で時間が経過しない限り、味の方向性が大きくブレることはありません。
例えば、バーボン樽のウイスキーならばバーボン樽由来のオークフレーバーが、シェリー樽なら…という具合で、無から有は生まれないので、必ず同じ要素を拾うはずです。

ではなぜ違うのか、くりりんのテイスティングがガバガバだから…ではなく。
半年前のブレンドサンプル時点では、使用する原酒は樽から払い出されておらず、その時点の原酒でレシピが作成されていること。そしてレシピ決定からボトリングまでの約半年間、原酒が追加の熟成を経ているためです。
そうなんです、上記テイスティング時点から、原酒が成長し、変化しているのです。

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(長濱蒸溜所 AZAI FACTORYこと旧七尾小学校で樽詰めを待つワイン樽の数々。)

サンプル時点では繋ぎになる原酒の熟成が弱く、スコッチグレーンか、あるいはグレーン多めのスコッチブレンデッドバルクの線の細さが、樽感やピートなど、各原酒の個性を支え切れていなかった印象を受けます。最終的には落ち着いて、AMAHAGAN系統の味わいが強く出てくるのですが、注ぎたてはそのちぐはぐさが強く出て、なんだか危ういなと、そんな第一印象でした。

このグラス内の変化が、これはこれでメイドラゴン原作のストーリー展開にマッチしているなと思えたわけですが。
一方で、製品版では約半年の追熟で樽感が増し、原酒の個性も強まっただけでなく、全体的に角が取れて繋がりも出ています。ピートフレーバー、ワイン樽原酒由来と思われるフルーティーさとビターなウッディネス、グレーンの甘さ、南ハイランドモルトの個性的なフルーティーさと麦芽風味、これらがまとまっていないようでまとまっている。原作を思わせるはちゃめちゃさ、にぎやかさがある、不思議なバランスのウイスキーへと成長していました。

どちらが好みかという話ではありませんが、ウイスキーの面白さ、ブレンダーの難しさを改めて感じたリリースとなりました。
いやその変化を感じられるのはコメント協力した人だけだろと言われたら、そこは記事から感じ取ってとしか言えないのですが(笑)。
コラボリリースだと、どうしても色眼鏡的に見られがちかと思いますが、長濱蒸溜所のコラボは規模の小さな蒸溜所とは思えないほどレシピに様々なパターンがあって本格的。ちゃんとストーリーがあって、ただラベルを貼っただけのコラボに終わらない点がポイントなのです。

最後に、これはレモンハートの古谷さんへの私信となりますが。この度は、貴重なサンプルウイスキーのテイスティングをさせて頂き、また、コメント協力という表舞台に立つ機会も頂き、誠にありがとうございました。次のリリースも楽しみにしております。

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メイドラゴンウイスキーのハイボールを、尾っぽの豚肉のチャーシューと。悪くない組み合わせです。ラベルデザインは、トールの背後が何パターンかあったらさらに面白かったですね。魅力的なキャラが多い原作なので。後、酒の席でシラフな小林さんなんて小林さんじゃない(笑)。

山桜 安積蒸溜所 &4 ワールドブレンデッドウイスキー 47%

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YAMAZAKURA 
ASAKA DISTILLERY &4 
WORLD BLENDED WHISKY 
Sasanokawa Shuzo Co., Ltd 
700ml 47% 

評価:★★★★★(5)

香り:注ぎたてはグレーンを思わせるクリーンな甘さ、ほのかに香ばしいウッディネスやスパイシーさからアメリカンタイプの原酒の個性も潜んでいる。徐々にモルティー甘さ、薄めた蜂蜜、微かにハーブやスパイス、そして湿った柑橘。内陸系のモルトの個性と合わせて安積らしい個性がひらいてくる。

味:口当たりは一瞬若い原酒の粗さ、癖が感じられるが、全体的にはプレーンで甘みとまろやかさのある味わい。舌の上で転がすと安積らしいコクのある甘さと湿ったような酸味があり、バーボン樽由来の華やかさ、微かなスモーキーさと蒸留所としての個性を感じることもできる。
余韻は穏やかなウッディネスと微かなスパイス、ブレンデッドらしいすっきりとしたフィニッシュ。

安積蒸溜所の原酒と、世界4ヶ所のウイスキー原酒をブレンドした、ワールドブレンデッド。
原酒構成はバーボン樽がメインで、モルト:グレーン比率は6:4程度だろうか。序盤はグレーンやアメリカン、徐々に内陸スコッチやアイリッシュを思わせる構成原酒の個性の中から、キーモルトである安積蒸溜所の原酒の個性が開いてくるため、少なくとも全体の2〜3割程度は安積モルトで構成されていると思われる。
プレーン寄りの香味構成から膨らみを感じさせる味わい、そのバランスはさながら本醸造系の日本酒を思わせる。
オススメはハイボール。安積蒸留所らしさを残しつつ、スッキリとした味わいが非常に使いやすい1本。

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現存する東北最古のウイスキーメーカー、笹の川酒造が2016年から操業する安積蒸溜所の原酒を使い、満を持してリリースする同蒸溜所の名を冠した定番品となるブレンデッドウイスキー。安積蒸溜所&4。
使われている原酒のタイプは、裏ラベルの説明文やその香味からスコットランド、アイルランド、アメリカン、カナディアン、そして安積蒸溜所のモルト原酒でしょうか。

同酒造からは、古くはチェリーウイスキー、そして近年では山桜や、関連会社である福島県南酒販から963といったブレンデッドウイスキーがリリースされてきたものの、基本的に構成原酒の主体は自社貯蔵してきた輸入原酒です。
安積蒸溜所の原酒がキーモルトであると位置づけられたリリースは今回が初めてであり、安積蒸留所ないし笹の川酒造のウイスキー事業が、新しいステージに入ったというマイルストーンたるリリースでもあります。

販売価格は4000円少々。
コンセプトや価格だけ見れば、安積蒸溜所と関係の深いイチローズモルトのホワイトラベル(ホワイトリーフ)や、あるいは大手サントリーのAOを思わせるところはありますが、造りは全く別のベクトルでオンリーワンなリリースに仕上がっています。
それはあくまで大黒柱は安積であるということ。何かが突出したわけではないバランスのとれた造りの中に、3〜4年熟成程度のバーボン樽熟成の安積モルトの個性(麦芽風味と湿り気をおびた柑橘感)が感じられ、蒸留所名を関する資格は十分あるリリースだと思います。
全体的にプレーン寄りなので、香味としてはちょっと物足りなく感じるところはあるかもしれませんが、それらが逆に食中酒や後述するフロートなど様々なアレンジへの幅、自由度を残しているとも言えます。

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※2021年末に新たに完成した、第二熟成庫に設置されているベイマツ製のマリッジタンク。安積蒸溜所&4のブレンド後のマリッジに使われており、全てを払い出さず一部ブレンドを残した状態で、次のロットが加えられる。なんとも巨大なソレラシステムである。

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※安積蒸溜所リリースのブレンデッド。&4の約1000円下の価格帯に位置する山桜 プレシャス ブレンデッドウイスキー(右)。モルティーな安積蒸溜所&4に対して、コチラはグレーン比率が高くモルトも輸入原酒主体か、軽やかですっきりとした味わいが特徴。造りの大きな違いを感じる。

個人的に中小規模のクラフトウイスキーメーカーから、このクオリティのブレンデッドが定番商品として、この価格でリリースできる様になったという点は、ブレンド技術だけでなく蒸留所としての成長を感じる最大のポイントです。
欲を言えばシングルモルトを、という気持ちも愛好家にはあるでしょうけれど、1回の仕込みで1樽、年間4万リットル(1樽200リットルとして、200日分)しか原酒を生産できない規模の蒸留所で、考えなしに原酒を使うことは出来ません。
その中であっても、自社蒸溜原酒をキーモルトとして、定番品となる新しいリリースが可能となったのは、大きな一歩であると言えるわけです。

なお、安積蒸溜所のモルトの特性として、上述の独特のフレーバーは当然ありつつも、実はもう一つ、他の原酒との繋がりの良さ、喧嘩しない懐深さもまた特徴であり、安積蒸溜所&4のバランスの良さに寄与している点が、注目ポイントとも言えます。
それは原酒に限らず、ハイボールにした時の氷や炭酸水での伸び、料理との相性の良さ。他の原酒と混ざり合った時にそれを抱き込むような繋がりの良さ。まさしく安積らしさだと感じる要素です。

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※個人的にハマっているのが安積蒸溜所&4のハイボールにこれまでのリリースをフロートする飲み方。特にピーテッド要素があるリリースを加えるのが良き。さながら&5? 
食中酒から食後酒としてじっくり楽しめるリッチな味わいに。


リリースしたばかりで気が早い話になりますが、このブレンドレシピでピート要素を強くしたり、もっと安積モルト比率を上げたりした、プレミアムエディションなんてのも今後リリースされてくるのかもしれません。
あるいはこのリリースはこのままで、原酒をしっかり育ててシングルモルトの定常リリースへというプロセスも考えられます。
何れにせよ、先日レビュー記事を投稿したTWC向けのシングルモルト安積でも書いたように、今後の展開、成長が楽しみで仕方ありません。

ただそこまでの間にジャパニーズウイスキーブームは、日本のウイスキー業界はどうなるのか。ブームは続くのか終わるのか、見通せないことは多くありますが、先日、笹の川酒造の山口哲蔵社長、恭司専務らから「私たちはこれからもずっとウイスキーを作り続けますよ!」という力強い言葉を頂きました。

既に10年以上続いたウイスキー冬の時代を乗り越え、2010年以降ウイスキー市場が広がる中で、未曾有の大災害、風評被害、地震や水害といった天災そして世界規模でのパンデミック・・・。ブームという強力な追い風のなかで、これ程様々な逆風が吹いた蒸留所は他にありません。
吹くのは季節風(磐梯颪)だけにしてほしいものですが、そうした状況を乗り越え、ウイスキー事業を継続してきた笹の川酒造こその言葉に、大きな説得力を感じました。
一人の元郡山市民として、ウイスキー愛好家として、安積蒸溜所とそのリリースを今後も楽しみにしていきたいと思います。

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キリン 陸 LAND DISCOVERY 50% 2022年ロット

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KIRIN WHIKEY 
RIKU 
LAND DISCOVERY 
Release 2022~ 
500ml 50% 

評価:★★★★★(4ー5)

香り:ピリッと鼻を刺すアルコールの刺激と合わせて、グレーンの甘さ、リフィルチャーオークあたりの樽感。ペットボトル販売の紅茶飲料を思わせる甘く、ほのかな苦味を連想するアロマが感じられる。

味:口当たりはメローでコクがあり、ウォッカを口に含んだ時のようなプレーンなアルコールの含み香と甘さを感じた後で、グレーン由来の穀物感、じわじわとほろ苦いタンニン、微かに柑橘のフレーバー。余韻はほろ苦く、品が良くすっきりとしている。

グレーンベース、アメリカンウイスキータイプのブレンデッド。香味とも単調というかクリーンで、アルコール感が混じるがフレーバーに強さもある。元々ストレートではなく、ハイボールや水割り等で割って飲むことを想定している原液のようなウイスキーなので、割り切った作りなのかもしれない。
一方で、ハイボールにするとほんのりとバーボン風味のフレーバーを残し、プレーンな味わいとなる。単体だと面白みにかけるものの、食中酒では不思議と2杯、3杯と飲めてしまう。個性を強化したい場合は、富士山麓シグネチャーブレンドや、バーボンウイスキーをフロートするのがオススメ。

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キリンが調達した輸入原酒と自社蒸留の国産原酒を使って作るワールドウイスキー。この商品は「KIRIN WHISK“E”Y」表記なのが特徴で、2020年5月にリリースされ、2022年4月にリニューアル。今回のレビューアイテムは、リニューアル後の1本です。

キリンは2019年に富士山麓のスタンダードグレード(樽熟原酒50° 700ml 50%)を生産終了とし、構成原酒のうちグレードの高い原酒は富士山麓シグネチャーブレンドや富士シングルグレーン等に。それ以外の若い原酒はハイボールなどで手軽に飲むことを割り切った構成とするブレンド(陸)に、ブランド再編というか、ある種のチーム再編を行なっています。

富士、陸ともコロナ禍真っ只中でのリリースとなりましたが、キリングループ全体としてのウイスキーの売上は好調だった一方で、陸については商品認知度が2割と非常に低く、テコ入れが行われたというのが今回のリニューアルの経緯とされています。
まあ…パワポで作ったような地味なラベルに加え、PRも積極にはおこなわれていなかった。そもそもウイスキーにあまり関心がない層が飲むだろう価格帯の商品ですから、この結果は必然だったのかもしれません。

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で、リニューアル後は白黒カラーからゴールドをあしらって、ちょっと垢抜けた感じのデザインを採用。合わせてパウチ容器で試供品を50万人分配ったりとか、今までにない取り組みもありました。
また、中身もリニューアルされており、「ほのかな甘い香りと澄んだ口当たり」「何層にも感じる香味豊かなおいしさ」を強化したとのこと。

リニューアル前はブレンデッドというよりはグレーンウイスキーとして優秀で、自前でブレンドを作るなど使いやすい1本だとして評価していましたが、リニューアル後の陸は構成原酒の傾向は大きく変わってないと思うものの、ブレンド比率や作りの傾向の変化で純粋にバーボンタイプのハイボーラーになったなという感じです。
強化ポイントの後者は評価が分かれると思うものの、前者については間違いなく。リニューアル前に比べてバーボン(グレーン)系の甘さ、アクのような要素が抑えられて、品良くプレーンでピュアな感じにまとまっています。

ゆえに、購入して口開けの印象は「薄いな…」と。ウイスキーそのものの飲みごたえはあるのですが、香味の主張がプレーンで面白みに欠けると感じていました。同じ時期にリリースされた富士シングルブレンデッドも軽めの仕上がりだったので、キリンのブレンドコンセプトはライト系にシフトしてるのかとすら思ったところ。
ただ陸に関しては食中酒用ハイボールで使っていくなら強みとなる構成で、何よりこの香味系統の商品は他社にないので、日本人が潜在的に持っている甘く飲みやすいお酒、という需要にもマッチする戦略だと評価できます。

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(個人的に最近ハマってるツマミが、らっきょうの甘酢漬けと合鴨スモーク。バーボンウイスキー系の香味分類にある陸はハイボールが肉に合う。そこに脂とマッチするらっきょうの甘酸っぱさと食感がなんとも良い塩梅。)

なお、キリンがブランドを整理した結果、輸入原酒を使って作っている陸と富士山麓。国産原酒のみを使って作る富士シリーズ。と、大きな2本柱が出来上がりました。
この中で、富士山麓が広報戦略的に浮いているため今後どうなるかわかりませんが、これはこれで面白い商品なのと(下手なハイプルーフバーボン飲むより美味い)、裏ラベルの表記をこっそりリニューアルしていたりしているので、後日最新版をレビューしてみたいと思います。

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アマハガン ハンドフィル 蒸溜所限定品 62% ”Recommend for Highball”

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AMAHAGAN 
World Blended 
Edition Hand-filled 
”Recommend for Highball”
Cask type Sherry 
Bottled 2022 
500ml 62% 

評価:★★★★★(5)

香り:ツンとして鼻腔に強い刺激を伴うクリアなトップノート。薄めたキャラメル、焦げたオーク、ほのかにドライプルーンのような甘さも感じられる。

味:香り同様にピリピリとした刺激が口内にありつつ、味はしっかりと樽由来の甘み、ケミカルな要素があり、焦げたキャラメルのほろ苦さ、ほのかにグラッシーでニッキのようなスパイシーさが余韻に繋がる。

蒸留所限定ブレンドの一つ。ブレンドの主体は5年程度と思われる若い内陸原酒で、香味とも刺激は残るが、それ以外に樽や原料由来の甘さ、ウッデイネス、各種フレーバーはそう悪いものではなく、未熟香もほぼ感じられない。そのため、推奨されているハイボールにするときれいに伸びて、軽やかな飲み口からチャーした樽の風味をアクセントに、余韻にかけてドライフルーツの甘みが程よく感じられる。
何より購入までの行程で楽しめる、エンターテイメントとしての魅力が素晴らしい。各クラフトもこうした取り組みをもっと実施してほしい。

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長濱蒸溜所で販売されている、蒸留所来訪者向けのオリジナルAMAHAGAN(アマハガン)。
アマハガンについての説明は不要かと思いますので割愛しますが、既製品のそれと異なるレシピでブレンドしたものをオクタブサイズのカスクに詰め、蒸留所内で追加熟成している商品です。
今回、ウイスキー仲間からお土産としていただいたのでレビューを掲載します。

ロットや原酒の切り替わりで名称も変わっていますが、今回のは”Recommend for Highball”
ベースとなるブレンドは、比較的若い輸入モルト原酒に長濱のモルトをバッティングし、プレーンでアタックが強く、それでいて品の良いフルーティーさを感じる構成。ストレートだとアタックが多少強く感じられますが、ロックやハイボールなら、そうした刺激が落ち着いて穏やかに楽しめるというレシピとなっています。

また、そのブレンドをオクタブのシェリーカスクで追加熟成。シェリーカスクというと色合いの濃さと香味への強い影響を予想されるかもしれませんが、樽事態はそれなりに使い古されているので、リチャーした樽材由来の香ばしく焦げたようなウッディさがある反面、シェリー樽でイメージする感じは前面に出ない、程よく付与された仕上がりとなっています。

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このシリーズの面白いところは、単に蒸留所限定品というだけではなく、その購入方法、手順にあります。

元々スコットランドの蒸溜所では、ハンドフィル、またの名をバリンチとして、蒸留所のビジターセンターで購入者が樽から直接ボトリングし、蒸留所限定のウイスキーを購入できるシステムがあります。
そのシステムを、日本の酒税法下でできる範囲で踏襲したのが、このAMAHAGAN Hand Filledになります。
写真付きで購入までの流れを紹介していきます。

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①購入希望者は蒸溜所側の購入履歴ノート、ラベルにその日の日付、購入者の名前等を記載。

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②500mlのボトルに樽から直接ウイスキーを詰める。

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③最後に、ラベルを貼って、キャップに封をして、お買い上げ。

というのが一連の流れ。
既に課税した限定ウイスキーが樽に詰められていて、それを量り売りで販売しているということではあるのですが、記帳、ラベルサイン、ボトリングという本来済ませておける作業、実施する必要のない管理(記帳)を、あえて購入時にお客さんの手で行うことで、特別感が得られるのです。
だって、蒸留所を見学しにきて、そこのオリジナルウイスキーがあるだけでも嬉しいのに、一連の流れを経験したなんて、普通に楽しすぎるでしょう。まさにエンターテイメントです。

なお、樽の中身は完全に払い出さず、少量残った状態で次のロットやレシピに加えている、所謂ソレラシステム的な運用がされており、ウナギのたれのように徐々に味わいが複雑に、奥行きを持っていくことも期待できます。
長濱蒸留所でハンドフィルの販売が始まったのは2020年あたりから。そこから何度もロットが切り替わる息の長い企画となっており、その成長や限定レシピの登場がファンの間では蒸留所訪問時の楽しみの一つとなっています。
中には成熟したハンドフィルを買うために、定期的に蒸留所を訪れる猛者もいるそうです。

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(ブレンドの熟成状態を確認する屋久ブレンダー。今回のロットが終わりそうなので、次のブレンドをどうしようか…とレシピを模索されている。Photo by C)

現在、日本各地にウイスキー蒸留所が創業し、その数は将来60カ所を超えるとも言われています。
そんな中で、大きくはピートの有無、樽感の違いでしか味わいに変化をつけることが出来ないウイスキーは、香味だけで60種類も明確な違いや注目されるブランドを作れるかと言ったら、それはかなり難しいと考えます。

勿論そうした努力は必要で、高品質でこだわりのウイスキーを作るという1点でブランドを確立できれば良いですが。
例えば地域観光と結びつけるローカル色や、体験型のエンターテイメント色、あるいは横のつながりで他のメーカーとの連携など、ウイスキーの味以外で愛好家を惹きつける取り組みが今後一層必要になってくるのではないかと思います。
値段と香味は大体同じだったら、あるいは多少高くても、買うのは思い入れがあるところ。となるのが人(オタ)の心情というものです。

その点、長濱蒸留所は本当にそこを上手く掴んでくるんですよね。
社長がアイディアマンで、良いと思ったものはガンガン取り込む、意思決定から実行までがめちゃくちゃ早いというのもあります。このハンドフィルだけでなく、先日の長濱フェスもまさにその一例です。あれの企画って動き出したの。。。(ry
現場はめちゃくちゃ大変だと思いますが、でもそれは間違いなくファン獲得につながって、ブランド向上につながって、5年後、10年後の自分達を後押しする原動力になるのです。
長濱蒸留所だけでなく、多くのクラフト蒸留所でウイスキー以外の要素も含めて様々なアイデアが実行されて、愛好家を増やしてくれれば良いなと思います。

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オマケ:7月17日(日)、社長の企画思いつきで開催された長濱ウイスキーフェスでは、蒸留所前でひたすら焼き鳥を焼く同氏の姿があり。イベント後は各社との繋がりや原酒調達のため、スコットランドに旅立ったという。改めて記載すると、同氏は長濱浪漫ビールの社長であり、全国規模の酒販店リカーマウンテンの社長でもある。

キリン 富士 シングルブレンデッド ジャパニーズウイスキー 43%

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FUJI 
KIRIN FUJIGOTENBA DISTILLERY 
SINGLE BLENDED JAPANESE WHISKY 
700ml 43% 

評価:★★★★★(5ー6)

香り:トップノートはややドライ、エステリーな要素とほのかに溶剤系のニュアンス。奥から柔らかく熟した果実を思わせる甘い香りが、モルト由来の香ばしさと合わせて感じられる。穏やかで品の良い香り立ち。

味: 口当たりは柔らかく、穏やかな甘酸っぱさ。グレーン系の甘みとウッディネスから、モルト由来のほろ苦さ、薄めたカラメル、ほのかな酸味。香りに対して味は淡麗寄りで、雑味少なくあっさりとした余韻が感じられる。

基本的にグレーン由来のバニラや穀物感が中心で、ほのかにモルト由来の香味がアクセントになっているという構成。グレーン8にモルト2くらいの比率だろうか。樽もバーボン主体であっさりとしていて飲みやすく、綺麗にまとまった万人向けの構成。その中に富士御殿場らしい個性を備えたブレンデッドでもある。
ストレート以外では、ハイボール、ロック共に冷涼感のある甘い香り立ちから、飲み口はスムーズで軽やか。微かに原酒由来と思しき癖があるが、食事と合わせるとまったく気にならない。

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キリン・ディスティラリー社が操業する富士御殿場蒸留所から、2022年6月にリリースされたシングルブレンデッドウイスキー。
以前、ロッホローモンド・シグネチャーブレンドの記事でも記載していますが、シングルブレンデッドとは1つの蒸留所でグレーン、モルト、どちらも蒸留・熟成してブレンドしたウイスキーが名乗れるカテゴリーで、ジャパニーズではこのリリースが初めてではないかと思います。

同社はかねてから「クリーン&エステリー」というコンセプトでウイスキーを作ってきましたが、ブランドとしてはプラウドとか、DNAとか、モルトをPRしていた時もあれば、グレーンメインの時もあり、ブランドイメージは紆余曲折があったところ。富士山麓から富士へとメインブランドを移行した現在は「美しく気品あるビューティフルなウイスキー」を目指すブランドを掲げています。

商品開発にあたっては、シングルブレンドだからこそ表現できる、蒸留所としての個性、テロワール。それを実現するため、同社が作ってきたライト、ミディアム、ヘビータイプのグレーン原酒に、モルト原酒をブレンドし、美しいハーモニーを奏でるようにブレンドしたとのこと。
開発コンセプトの詳細なところは、田中マスターブレンダーと土屋氏の対談記事に詳しくまとめられており、公式リリースを見ても社としてかなり気合の入ったブランドであることが伺えます。(参照:https://drinx.kirin.co.jp/article/other/4/

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さて、当ブログの記事では、そうした開発側のコンセプトを踏まえつつ、1人の飲み手として感じたこと、知っていることなどから、異なる視点でこの「富士シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー」を考察していきます。

まず「クリーン&エステリー」とされる、キリンのウイスキー”らしさ”とは何か。なぜそのらしさは生まれたのか。
それは同社におけるグレーンウイスキーとモルトウイスキーのルーツにあり、話は同蒸留所の立ち上げ(1970年代)まで遡ります。

キリンビールは当時世界のウイスキー産業に大きな影響力を持っていたシーグラムグループとの合弁会社としてキリン・シーグラムを設立し、富士御殿場蒸留所を1972年に建設。翌1973年にはロバートブラウンをリリースしたことは広く知られています。
こうした経緯から、富士御殿場蒸留所はスコッチとバーボン、両方のDNAを持つなんて言われたりもするわけですが、それは製造設備だけではなく、良質な輸入原酒を調達することが出来たということでもあり、実際上述のロバートブラウンは輸入原酒を用いて開発、リリースされていたことが公式に語られています。

一方、当時の日本市場で求められた飲みやすくソフトなウイスキーを作る上で、足りないパーツがグレーンと、スコッチモルトとは異なるクリーンな原酒でした。
例えば現代的なブレンデッドのレシピで、モルト2,グレーン8でブレンドを作る場合、モルトとグレーン、どちらを輸入してどちらを自前で作ったほうが良いかと言われれば、輸送コスト、製造効率からグレーンということになります。

そこで富士御殿場蒸溜所は、シーグラム社のノウハウを活かしグレーンスピリッツを造りつつ、その後はバーボン系のヘビーなものから、カナディアンやスコッチグレーンのライトなもの、その中間点と、日本でも珍しいグレーンの造り分けを可能とする生産拠点として力を入れていくことになります。
また、モルト原酒に関しては、当時のしっかりと骨格のあるモルティーなスコッチタイプの原酒とは異なる(あるいはそれを邪魔しない)、ライトでクリーンなものが作られるようになっていきます。

つまり、シーグラム社と共に、日本市場にウイスキーを展開するにあたって必要だと考えられた原酒を自社で生み出す過程で、富士御殿場蒸留所の方向性は「クリーン&エステリー」となり。
それが現代に至る中で洗練され、今後は国際展開を狙う上で知名度があり、仕込み水や熟成環境で恩恵を受ける富士山の美しく壮大な外観と掛けて「ビューティフルなウイスキー」となっていったのです。

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サントリーやニッカに代表される、多くの国内蒸留所でモルトが先に来るところ。キリンのウイスキーは独立した一つの蒸留所としてウイスキーを作り始めたのではなく、グループの一員として、商品開発をする上で必要なモノを補う形でウイスキーを作り始めた、立ち位置の違いがあった蒸溜所創業初期。

しかし2000年代にはウイスキー冬の時代があり、シーグラムグループも影響力を失い、キリン独自のブランド確立が求められて以降、苦労されていた時期もありました。
ですが同社の強み、ルーツであるグレーン原酒の作り分けを活かしつつ、大陸に咲く4本の薔薇関連も活用して富士山麓ブランドでファンを増やし。近年では「富士シングルグレーンウイスキー」に代表されるアメリカ、カナダ、スコッチという各種グレーンウイスキーの良いとこどりとも言える、自社原酒だけでのハウススタイルを確立。
またそれをベースとし、クリーンなモルトと掛け合わせて、「富士シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー」が誕生し、キリン・ディスティラリーはジャパニーズウイスキーメーカーとして大きな一歩を踏み出したのです。

今回のリリースは、富士シングルグレーンと比較すると、熟成感は同等程度ですが原酒はミディアム、ライト系の比率が増えたのか、モルトの分ヘビータイプグレーンの比率が減ったのか、あっさりと、よりクリーンにまとめられており、一見すると面白みのないウイスキーと言えます。
特に開封直後は香味がドライで、広がりが弱いとも感じており、コンセプトの「味わいまで美しい」をこのように解釈されたのか、または一般的に流通の多いブレンデッドというジャンルに引っ張られすぎてないかと疑問にも感じました。
しかしこうして考察してみると、歴史的背景からも、蒸留所の培ってきた技術からも、そして狙う市場とユーザー層からも、これが富士御殿場蒸留所を体現するスタンダードリリースとして、最適解の一つではと思えてくるのです。

以上、中の人に聞いた話も含めてつれつれと書いてきましたが、1本のウイスキーからここまであれこれ考えるのはオタクの所業。しかし間口が広く、奥が深いのは嗜好品として良い商品の証拠でもあります。
キリン・ディスティラリー社は本リリースを軸に、国内のみならず中国、オーストラリアを含めた海外展開を大きく強化する計画であり。これまで今ひとつブームの波に乗れていなかった感のあるキリンが大きな飛躍をとげる。富士シリーズはそのキーアイテムとして、同社のルーツという点から見ても、これ以上ないリリースだと言える。。。
そんなことを酔った頭で考えつつ、キリがないので今日はこの辺で筆をおくことにします。

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以下、余談。
富士シングルブレンデッドは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを用いるブレンデッドでありながら、裏ラベルには国内製造(グレーンウイスキー)の表記があり、モルトウイスキーが使われてないのでは?実はグレーンウイスキーなのでは?等、異なる読み方が出来てしまいます。

実はこれ、改正された表示法(ジャパニーズウイスキーの基準ではない)の関係で、一番多いモノだけ表記すれば良いことになっており、モルトウイスキーはブレンドされてますが、表記されていないだけなのです。
ビール含む、酒類全般を見て改正された表示法なので、ウイスキーに全て合致しないことはわかりますが、なんとも紛らわしい。。。

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