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【BAR訪問記】萌木の村 BAR Perch(パーチ) @山梨県 清里

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山梨県北杜市清里にあるリゾート施設「萌木の村」。この施設内にあるホテル・ハットウォールデンのバーラウンジとして整備されているのが、今回訪問したパーチです。

このBARはウイスキー愛好家の中でも隠れ家的な環境として知られ、業界内の著名な方々はもとより、自分のウイスキー仲間の何人かも都内から足繁く通っているところ。
都心部から各種交通機関で約3時間、今の時期だと新緑の山々と鮮やかに咲く桃の花を見ながらの行程で、それはそれで優雅なものではありますが・・・おそらくこのブログを見ている方の過半数以上は、電車を一駅二駅乗ってふらっと行くようなBARではないと思います。

しかしだからこそでしょうか。この場所には、リゾート特有とも言えるゆったりとした空気と、都心部のBARにはない居心地の良さ、それを作り出すスタッフのホスピタリティ。そしてオリジナルボトルを含む素晴らしいお酒の数々があり、一度訪問すればファンになってしまうだけの環境が整っているのです。

まずはホテルにチェックインし、BARオープンまで隣接するレストランROCKで簡単に食事・・・のつもりが美味しくて結構がっつり。萌木の村で醸造しているビールと地元産のグリルソーセージ等を味わい、満たされた気持ちでBARに向かうと、"村長"である舩木上次さんが仕事終わりに立ち寄ってくださいました。

「やっと来ることが出来ました、お待たせしてしまい申し訳ございません。」
「良いんだよ、それより今日はお酒のことをいっぱい勉強させてもらうよ。」

舩木さんとは2年ほど前から交流がありたが 萌木の村には訪問機会を作ることが出来ずにいました。 
そんな中、舩木さんと二人三脚でこのBARパーチを育てて来た、バーマンの久保田さんが退職され、新天地でさらなる修行に励まれるという報せ。私もまたそろそろ公私とも忙しくなる時期で、これは行くなら今しかない、無理してでも行くしかない!と妻にも頼み込んで都合をつけ、やっと訪問することが出来た訳です。

この日は偶然団体のお客様が入られていて、BARラウンジには開店早々から美酒に酔う愛好家の歓喜と、静かな熱気が漂っていました。

自分はウイスキーやワインが眠るセラーを案内して貰った後で、ラウンジへとチェックイン。
パーチはラウンジという位置付けから、写真の通り広い空間があり。そこは煉瓦造りの暖炉に加え、舩木さんが集められたアンティークのオルゴールも特色の一つ。
普通ならBARに行ったらカウンター席一択なのですが、今回は窓際のテーブル席に着席。窓の外は名残雪、暖炉の火を眺めながら、時折聞こえて来るオルゴールの高く優しい音色の中で、運ばれて来るお酒を楽しむ。そんな贅沢なひと時を堪能しました。

この記事ではそのうちの一部を紹介させて頂きますが、後日メモが残る限り個別のレビューもまとめていきます。

パーチのバックバーは、地元清里ゆかりとも言える白州に加え、その近隣のウイスキーである駒ヶ岳、軽井沢、イチローズモルト・・・ほか各種ジャパニーズウイスキーのラインナップが豊富。
もちろんスコッチウイスキーやバーボンも、都心部ではすっかり見られなくなってしまったような銘柄まで多数あり、文字通り愛好家垂涎、1杯目の注文から目移りしてしまいます。

オープニングドリンクは、そんなジャパニーズウイスキーから軽井沢1960年蒸留 21年43% "岩田久利 吹き硝子ボトル"。
天に昇っていくかのような、幻想的な美しさを備えたボトル。。。っていうか、今の時代にこれが開いてるBARは初めて見ましたよ。
驚く自分の隣で、「酒は開けて飲まないと!」と笑う舩木さん。
経年と加水で柔らかい飲み口から、ナッツを思わせる軽い麦感に、軽井沢らしからぬ上品なシェリー感。少し抜けたような印象はありますが、オープニングにはちょうど良いくらいです。

次は1960繋がりのスコッチモルト、GMのグレングラント1960-2001へ。これは純粋に美味い。古き良きGMらしくふくよかで、少し土っぽさを伴う豊かなシェリー感がたまりません。
そしてこれぞ地元、NAから25年までバックバーに一通り揃う白州ラインナップからは、久々に旧ボトルの12年を。もちろん、響や山崎も揃っているのですが、シェリーシェリーときたところで方向転換。今の白州12年より香味に存在感があり、厚みのあるウッディネスとスモーキーさがじんわりと広がっていきます。

macphails40&50
間髪入れずにオススメされるまま、なつかしのマクファイル40年&50年。ああ、もう順番はめちゃくちゃ。。。だがそれがいい(笑)。
中身はマッカランとしてウワサされているマクファイルズシリーズ。この長期熟成を普通にリリースしていたのですから、GMの規模と歴史がどれほどのものかが伝わってくるというもの。40年のほうがシェリーが効いており、スウィートでリッチな味わい。50年はリフィル系の華やかでドライなオークフレーバーが中心。

などなど、この他にも秘蔵のボトルも含めウイスキーを楽しんだところで、久保田さんにパーチの看板メニューとも言える"季節のフルーツを使ったカクテル"を作ってもらいました。
完全お任せ、雑な注文でしたが「そこそこ飲まれてますので、ここはクールダウンのために・・・」と作られたのが、ジンと柚子とトロピカルフルーツジュースのカクテル。

これがメチャ美味い。自分のコンディションに合っていたというのもあると思いますが、ジンと柚子の柑橘系の爽やかさが一体となり、ともすればクドくなりがちな双方の柑橘感、強いアタックはトロピカル系の果実味で丸みを帯びて穏やかに。
爽やかでありながら、満足感もある素晴らしい仕事の1杯でした。


この日は、舩木さんの友人であり、清里在住のNさんも来られていて、お二人から色々とこれまでの話しを伺うことができました。
曰く、パーチはかつてこのように整った環境ではなく、特段こだわりのないスペースだったそうです。それこそ、ウイスキーも数種類しか無かったという。。。
自分もこれまでの旅行先で立ち寄ったホテルのバーラウンジは、広く浅くを満たすが多く、特に地方の観光地のそれに突き抜けて凄いものは少ないという印象を持っていました。(先日宿泊した箱根の某ホテルラウンジは、カタログで売りの一つにしているのに荷物置き場になっていたほどで・・・。)

そこにバーマンとなる久保田さんが入社、当時ウイスキーに興味が無かったという舩木さんは、ラウンジを拡充する中で徐々にウイスキーの沼へ。。。この時、一人の常連客の後押しが二人に大きな影響を与えたとも聞きます。
ここからは清里の父・ポールラッシュ氏の言葉にある「最善を尽くせ、そして一流であれ」の精神の元、久保田さんは技術を磨き、舩木さんはウイスキーを集め、バーラウンジの環境を整えるだけでなく多くの人との繋がりをこの地に呼び込んでいきました。
そしてそれは、清里ウイスキーフェスティバルの開催をはじめ様々に結実。清里フィールドバレエやポールラッシュ生誕120周年記念ウイスキーといった、単なる記念品ではないウイスキーを産み出す事にも繋がっていくのです。
これが僅か10年に満たないうちの出来事だとすれば、信じる人は少ないのではないでしょうか。今後、この萌木の村、並びにBARパーチからどのような物語が生まれていくのか、楽しみでなりません。

(萌木の村発の記念ウイスキー達。一部はBARパーチでなければ飲むことが出来ないものも。各ボトルのレビューはこちら。)

こうしてオープンからクローズまで、すっかり長居をさせて頂き、ラウンジから徒歩1分未満の寝室でベットイン。翌朝には地元食材を使った美味しい朝食が待っている。
ああ、これは素晴らしい贅沢ですよ(笑)。
清里はこれからが新緑芽吹く春の訪れ、そして妖精の舞う夏へと続く、観光地としてのメインシーズンを迎えます。
次はいつ来れるかな、出来ればシーズン中にもう一度来たい、なんて考えながら満たされた気持ちで東京へと戻りました。
萌木の村の皆様、お世話になりました!

ホテル ハット・ウォールデン
バーラウンジ パーチ 
営業時間:20:00〜02:00
定休日:月曜日
住所:〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545 

【BAR訪問記】BAR Kitchen (キッチン) @福岡 天神

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BARにとって、バックバーは店の象徴です。店主の趣向、考え方、あるいは心構えなど、その店の個性を雄弁に語りかけてきます。

お店によっては、バックバーを極力簡素にし、棚の中に全て仕舞ってしまうというところもあります。
これはこれで店主とのコミュニケーションから、ブラインド的に何が出てくるのかワクワクする時間を味わえるのですが。個人的には、お店に入った瞬間これでもかといわんばかりの圧倒的な物量で、見る人の心を虜にする完全開放型のバックバーが好み。
今回紹介するBAR キッチンは、そうしたバックバーに総本数1500本以上という全国でも有数の物量を誇るオーセンティックBAR。福岡県の歓楽街、中洲に程近い天神に店を構える、"南の聖地"の一つです。

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【BAR Kitchen】
住所:〒810-0073 福岡県福岡市中央区舞鶴1-8-26 グランパーク天神107
最寄り:天神駅から徒歩7分程度
TEL:092-791-5189
営業時間:16:00~3:00くらい
定休日:ほとんど無休
WEB(blog)
https://ameblo.jp/bar-kitchen/
※臨時定休日、イベントなどの情報はWEBをご覧ください。

百聞は一見にしかず、ご覧いただきましょう・・・と思ったら、バックバーがフレームに収まりきらない(汗)。 2枚目の写真は反対側の壁際ギリギリまで下がって撮影した1枚ですが、全14区画の区切りのうち、その半分しか入らないのです。
店内はテーブル席もある清潔感と開放感ある空間。カウンターは一般的なBARに比べて少しバックバーから距離があり、このボトル達を眺めるような感覚。ラインナップとしては、スコッチモルト、ジャパニーズ、バーボンなどのウイスキーを中心に、その他スピリッツ類新旧各種取り揃えたバックバー。セラーにはワイン、シェリーまで。そのスケールは一見の価値ありと言えます。

この巨大戦力を文字通り"バック"に、店を1人で切り盛りするのがマスターの岡さん。お酒全般に関する豊富な知識に加え、笑顔と九州人らしいホスピタリティに溢れるナイスガイです。
ウイスキーに関しては、ウイスキー文化研究所福岡支部も兼任されており、自身でセミナーを開催する以外に日本国内の各種ウイスキーイベントにも積極的に出没。ブース出展している事も多いため、お店に行った事は無くても会ったことがあるという愛好家は少なくないのではないでしょうか。

かく言う私も、facebookやイベントなどで繋がりはあるも、お店に伺えていないその1人でした(汗)。

「ご無沙汰しております、やっと来店出来ました。」
「いえいえ、お待ちしておりました。」
挨拶もそこそこに取り出されてくるボトル達。相手は上述の通り「戦いは数だよ!」を体現したような一団の指揮官です。(しかも現在進行形で増殖中です。)
この手のお店では流れに身を任せ、あの辺は?こういうのは?とざっくりとしたお願いをしつつ、そのチョイスを楽しんでいきます。

オープニングはまず緩くいきましょうか、と、懐かしいボトルになりつつあるマーレイマクデビットのクライゲラヒ1970、シグナトリー旧ボトルはハイランドパーク、カリラ、共に1976年蒸留。
近年の短〜中熟にはない、長期熟成ならではの華やかさ、舌触りが沁みますね。

折角ですからご当地ボトルなんてどうでしょう、と取り出される各種プライベートリリース達。
気になるところを幾つかチョイスしつつ、ウイスキー話、福岡トークに花を咲かせます。
中でも、モルトオデッセイ福岡のボウモア2001は、近年の紙っぽいニュアンスにグレープフルーツなどのフルーティーさがパッと広がる、この時期らしいキャラクターのある安心して飲める1本です。

続いて話題はバーボンへ。
ウチでは需要あまりないんで、バーボンロックの注文入ったら、この辺でガンガン作っちゃうんですよね〜と、90年代のスタンダードバーボンをいくつか取り出しつつ。中にはオールドヘブンヒル21年やヘンリーマッケンナ、旧ボトルエズラなどレアものも。
特にヘンリーマッケンナの60年代流通と思しき1本は、BAR飲みして惚れて買い求めた逸品なのだとか。

これまであまり意識して飲んでませんでしたが、この頃流通のバーボンって、ハイプルーフはもちろん、加水も緩くメローで美味しいんですよね。
高度数が続いた後の箸休めにぴったりです。
だいぶエンジンも温まりました。そろそろ本命にいきましょう。
BAR キッチンさんに来て、イチローズモルトを飲まないわけにはいきません。同店が聖地と呼ばれる由来の一つはここにあります。(写真のキングオブハーツのコメントは、別記事にて掲載済みですので割愛。)

先日の記事でも少し触れていますが、BARキッチンは"カードシリーズ全種一斉テイスティング会"という狂気の試みを行なった、世界でも唯一のBARです。
一部ボトルは既に空になっているものの、バックバー最上段に並ぶその姿はまさに壮観。その他のイチローズモルトシリーズの品揃えも豊富で、自身で樽買いしたオリジナルボトルもあります。この環境、飲まないわけにはいきませんね。

そうした情報からか、海外から訪れる愛好者も多いと聞きます。
この日も台湾から仕事で来られたという愛好者2名が、滞在期間の3日間連続でジャパニーズウイスキーを中心に舌鼓を打っていました。

さて、長くなりましたが、イチローズモルト繋がりで時事的な話を一つ。
毎年この時期、ウイスキートーク福岡が博多で開催されます。今年は6月17日に前日イベントとして津貫蒸留所の見学会、18日に本イベントが予定されています。

ウイスキートークでは限定ボトルの一つに「月と失われゆく動物」として、イベント実行委員会が選定したイチローズモルト(羽生または秩父)がボトリングされており、今年は通算7作目がリリース予定。
BARキッチンにはファーストリリースの"日本オオカミ"のみ在庫がありませんが、その他は写真の通りです。
ラベルを並べてみると、絶滅が危惧される動物のシルエットと合わせ、月が徐々に欠けていくのが特徴。今年のリリースはついに新月、そこに描かれる動物が何かは、イベントページでご確認ください(それともキッチンで当日開いてるかな・・・?)。

同イベント期間中も、BARキッチンは15時から営業中。しかもお手伝いさんを増強し、全国から参加される愛好者を受け入れる準備は万全の模様。
博多に宿泊される方は、イベント限定ボトルも合わせて楽しまれてはいかがでしょう。

今回の記事、読み直してみるとBARとしての規模に話が偏ってしまった感があります。
大は小を兼ねる。ボトルの数は多いに越したことはありませんが、やはり一番はマスターのキャラクター、人間性だと思います。
自分のように、博多に行ったら絶対行こう!という心になるのは、岡さんのウイスキー愛とそのキャラクターに惹かれたからに他なりません。
今回の訪問、非常に良い夜を過ごさせていただきました。
ありがとうございました!

リンクウッドとラモンアロネス サロンドシマジ本店にて

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先日、本年1回目のサロンドシマジ本店にお呼ばれしてきました。
「見せたいものがある」なんて前置きされ、仕事を終えて電車に飛び乗り、期待を高めながら一路広尾へ。
エレベーターを降りると、ホールに立ち込めるのは葉巻の良い香り。あ、もう一服されているなと部屋に入ると、執筆を一区切りしてパイプ燻らせる島地さんの姿がありました。

「おお、よく来たな。見てくれ、サロンドシマジの新しいグッズ、スノードームだ。」
「今回は骸骨じゃないんですね。いつもとは違う可愛い感じゃないですか。」
それがいいんだよ。と、笑う島地さん。
「ところで、見せたいものってこれですか?」
と聞くと、おもむろにデザイン段階のカレンダーを広げ、「今度サロンドシマジのカレンダーを作るんだ。その撮影用に部屋の一部を専属スタッフにデザインしてもらったんだよ。」
若干のドヤ顔、その視線の先は部屋の一区画。ワインセラーと戸棚の上。チャーチルの人形と関連するグッズ、シガー、パイプ、ウイスキー・・・視線を上に移すと、チャーチル人形を今にも急降下爆撃しようかとするスツーカの姿が照らし出されています。

セットされたアイテムはどれもアンティークでそれだけでも目を引きますが、チャーチルを狙っているのがドイツの爆撃機というのも、ウィットに富んでいます。  
なるほど、これは確かにカッコいい。
サロンドシマジ本店はそこかしこにウイスキーのボトル、シガーグッズなど島地さんの趣味が溢れた空間ながら、この一区画だけ博物館というか、ゲストルームのような雰囲気を纏っています。

その後は執筆中の新著のエピソード(推薦人を勤めたのが鈴木京香さん!)などを伺いつつ、行きつけのレストラン「酒肆ガランス」に場所を移し、同店店主自ら腕を振るったスパイシーな料理を、これまたスパイシーなタリスカースパイシーハイボールと共に堪能。
実はこのレストラン、昨年伺った際に自分は生涯語られるレベルの粗相をしてしまったのですが、それが逆に店主の星野さんに顔を覚えて貰う事にも繋がった、自分にとって頭の上がらないお店の一つ。。。
いつものルッカではなく、ガランスに向かわれるあたり、島地さんも人が悪いです(笑)。
(酒肆ガランスの島地コースを締めくくる、エスニックなカレーの後のこれまたスパイシーな麻婆麺。パクチーたっぷり、残った麻婆にはご飯を絡めて。。。)

食後は再び本店に戻り、こちらもお約束のシガーとモルトタイム。
最初の一杯は"ちょっと特別な国産ウイスキー"でスランジバー。その後は大好物、1970年代以前に蒸留されたオールドリンクウッドが出てきて、テンションが上がります。

LINKWOOD
Over 12 years
1970's
760ml 43%
ムーインインポートが輸入していた時代をのオフィシャルボトル。
コクのある口当たりから麦芽風味、蜂蜜を塗ったトースト、オレンジママレード、じわじわと広がるスモーキーフレーバー、奥にある土っぽいニュアンスが古典的なスペイサイドモルトを思わせる。
DCL社の至宝ここにあり、堪らない1本。

LINKWOOD 
Gordon & Maqpail
Aged 56 years
Distilled 1954
Bottled 2010
700ml 43%
黒蜜やレーズンを思わせる甘さを一瞬感じた後で、カカオチョコレート、エスプレッソを思わせる強い苦味が口の中に広がる。ウッディでタンニンが染み込み、ドライな余韻へと繋がる。
半世紀を超える熟成を経て、シェリー樽から溶け出た要素が支配的でストレートではアンバランス。加水することで苦味が軽減され、コクとカラメルソースを思わせるほろ苦さが心地よい味わいに。

合わせるシガーはこちらも自分の大好物、ラモンアロネス・スペシャリーセレクテッド。
「今日はモルトもシガーも突き抜けてるヤツを出す」なんて前置きされていたので、何が出てくるのか興味津々でしたが、そう、今回の本店はめちゃくちゃ「俺得」な組み合わせだったんです。

スペシャリーセレクテッドはビターチョコレートのようなコクのある苦味が広がる、イメージとは違う味わい。ラモンアロネスは柔らかく香り高いお香のような印象だったので、一口目から驚かされました。
しかし5年以上追加熟成していたというその吸い口はまろやかで心地よく、特に加水したリンクウッド1954との相性は抜群です。


さて、島地さんは資生堂とのコラボでBARやレストランなどにフォーカスした連載をされていますが、最近MHDとのコラボで、ウイスキー愛好家を対象とした連載"タリスカー・ゴールデンアワー"も始められました。既に第一回が公開されており、テイスターの山岡さんがスターターを務められています。
新著執筆の話といい、先日76歳を迎えられたというのに、老当益壮とはこの事でしょうか。
先に伺った話では、今も毎日机に向かわれ、原稿を執筆されているのだそう。"人生の真夏日"を迎えられる方は、相応のバイタリティあってこそなんですね。
「次はくりりんでいくか、推薦しとくぞ!」なんて嬉しい発言も飛び出し。。。もし実現したら、光栄の一言ではすみません。

タリスカーゴールデンアワー
タリスカー・ゴールデンアワー
"シングルモルトの巨匠はテリアの鼻と鷹の目を持つ。"

ステージもレベルもまったく違ますが、自分もブログ執筆でほぼ毎日机に向かう 日々。最近さらに多くの者に読んで貰っています。 
そんな自分にとって、島地さんから聞く話、過ごす時間はこれ以上にない刺激です。
美酒、美食、葉巻、音楽、ウィットに富んだ会話。。。こうして更けていった春の夜。島地さん、Tさん、今回もお忙しい中貴重な時間を頂き、ありがとうございました。

【BAR訪問記】Paradee (パラディ) @野毛 桜木町

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JR桜木町駅下車、"野毛の近道"と呼ばれる地下通路を通った先、ブリーズベイホテルの隣にプチダイニングバー パラディがあります。
ダイニングという表記そのまま、木目調の入り口から覗く店内は、近年流行りのライブカウンターのレストランと見間違うかのデザインですが、其処彼処にはレストランにないようなオールドボトルの数々。席に着けば、約300種類というバックバーのボトルが視界に飛び込んできます。


「ご無沙汰しております。」
先日、オーバン14年の投稿で触れましたが、パラディに足を運ぶのは実に4年ぶりのこと。
今から6年前、ちょうどモルトウイスキーの楽しさに目覚めた頃。地元のBARのマスターから紹介されて来店し、更にお酒の楽しさを教えて貰ったものの、居住地を都内に移してからは足が遠のいていました。


パラディに伺ったら、まず飲みたいのがガロンボトルのハイボール。
同店は現行品よりも1990年代以前に流通したウイスキーやリキュールの品揃えが豊富であり、特にブレンデッドウイスキーは通称ガロンボトルと言われる、1ガロン(英ガロン:約4.5リットル。米ガロン:約3.75リットル)サイズで販売されていてたオールドボトルをハウスウイスキー的に扱っています。
愛好家間の通説では「サイズの大きいボトルの方が、光、温度、空気、様々な要因に対して強く、状態が良い」ということ。今回はシーバスリーガル、ホワイトホース、マーテルが開封されており、この中からホワイトホースの1970年代流通を頂きます。

(一般的なタンブラーサイズのハイボール。。。ガロンボトルと対比すると、ショットグラスのように小さく見える。)

パラディのバックバーはウイスキーを中心にラインナップされていますが、オールドリキュール、シェリー、その他の酒類もコアなところが揃っており、マスターである赤羽さんの知識も豊富。
かつてウイスキー一辺倒だった自分ですが、最近様々な酒類を勉強中で、今日はシェリー酒に浮気です。
10年くらい前に流通したパロコルタド。深い酸味とコク、奥に潜むレーズン、樽由来の甘みが実に美味。オールドのハイボールで口に残った甘みをしっかり引き締めて次にバトンを渡してくれます。


さて、準備運動の2杯を終えたところでいよいよ本番。先日、パラディは開店15周年を迎えました。
同店は毎年周年記念としてレア物のウイスキーを開封して提供しており、15周年の当日は、15年ものを中心にマスターこだわりのウイスキーが15本開封されています。

ジュエルオブスコットランドのブローラ、エイカーダイクのポートエレン、ラガヴーリン陶器ボトル、そして赤羽さんの愛するスプリングバンク。。。
周年当日に行われた記念営業でいくつかのボトルは天に還ってしまったようですが、今回は残ったラインナップから1杯頂きます。

1980〜90年代流通のGMスミスズグレンリヴェットの15年。しっとりとした甘みを感じる口当たりから、麦芽風味、そしてスモーキーフレーバーが広がる、今とは異なるスタイルのグレンリベット。1杯目からでも楽しめるナイスな1本です。
「グレンリベットはモルトウイスキーの基本。味わいは変わっても、その時代その時代で基本になるキャラクターがあるよね」と。確かに近年のリベットはピートフレーバーが控えめで、今回テイスティングした15年とはキャラクターが異なりますが、華やかでバーボン樽の香味が主体的なキャラクターは、今の時代のトレンドでもあります。

赤羽さんは「ウイスキーの香味を育てる」という考え方で、ボトルを扱われています。
ウイスキーの香味はボトルの中で絶えず変化していて、それは熟成とは異なる、持っている要素の中で、ある要素が開いている時、別な要素が裏に回るという話であったり。
あるいは、ボトルの中の空間部分にウイスキーの香りが充満すると、それが再度溶け込み、香りが循環していくという考え方であったり。
科学的というより、感覚的な話かもしれませんが、そうして「これは良い」と感じる状態に至ったボトルを勧めてもらえるのは、単にニューリリースを探るだけではない、BARの個性や考え方をも飲むことができる楽しみでもあります。

関連するエピソードとして、以前オールドのアベラワー10年を頼んだ時のこと。至って普通の1990年代流通のアベラワー10年だったのですが、「これはもう最高の状態よ」と、グラスに注がれたそれが店内いっぱいに広がるほど香り立ち、なんでこれほど香るのかと、びっくりしたのを今でも鮮明に覚えています。
それは店内を清潔に保つ、グラスをしっかり磨く、室温を適切に管理するなど、飲食店としてある種当たり前のことを積み上げた上で引き出されたボトルのポテンシャルだったのだと思いますが、まさに"こだわりの仕事"だと感じます。

(「今日はどのボトルの機嫌が良さそうですか?」と頼んで出てきた1本。パールズオブスコットランドのトーモア1995。トーモアらしい軽いオイリーさと、オークフレーバーが馴染んだ親しみやすい1杯。)

お酒ばかりの紹介になってしまいましたが、パラディはフードメニューも充実しており、食事とお酒を合わせて楽しむことも出来ます。
あるいはここは野毛、非常にディープな夜の街。そんなお店でちょっと1杯引っ掛けてから、締めの1杯を飲むために足を運んでも良い。
この日も古くからの常連さんや、デートで来店されたご夫婦、瞬く間に飲まれていったバーホッパーの方、様々なお客で静かな賑わいを感じました。
そう、最初に書くべきことでしたが、このBARは飲んでいて楽しいのです。
マスターのひととなり、雰囲気がそうさせるのだと思いますが、店内には必ず笑顔があります。

15周年という一つの区切りを迎えたダイニングバー・パラディ。自分がはじめて来店したのが9周年のあたりでしたので、そこからはや6年。月日が経つのは早いものです。
今後も20年、30年と、横浜の夜に、こだわりのお酒と笑顔の空間を提供して頂けたらと思います。
PUTI DINNING BAR Paradee
(プチダイニングバー パラディ)
住所:横浜市中区花咲町1-22-4
営業時間: 19時00分〜28時00分
定休日:日曜定休
TEL:045-260-6835
席数:カウンター7席

【BAR訪問記】 BAR LIVET(リベット)@新宿3丁目

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プロとはなんでしょうか。
考え方は様々であれど、飲食業であれば出してくるものが美味しいのは当たり前、そこから先にもう一つ何かがあるのがプロの仕事。それは喜びだったり、感動だったり、雰囲気だったり・・・あるいはそこでしか得られない知識、体験だったり・・・その何かがお店の魅力となり、我々はお金を払うのだと思うのです。

今回紹介するBARリベットのマスターである静谷さんは、プロの仕事をストイックに追求している若手バーマンの1人。
なんてことを書くと堅苦しい生真面目な方を連想するかもしれませんが、非常にフレンドリーで肩の力を抜くのが上手い、愛され要素溢れる方です。
プライベートでは何度か交流があったのですが、実はお店に伺ったことはなく。先日、同店が3周年を迎えられたとのことで、良いきっかけだと新宿三丁目まで脚を運んでみました。

BAR LIVET
営業時間:19時00分〜27時00分
定休日:不定休
住所:東京都新宿区新宿3-6-3 ISビル4F
TEL:03ー6273ー2655
アプリ:ハイドアウトクラブで最新情報を発信中

通い慣れた人なら、新宿三丁目駅から徒歩1分かかるかどうか。大通りから一つ路地を入った、いかにもという場所にお店があります。
エレベーターで4Fへ上がると、ドアが開いた瞬間そこはもう店内、初めて来た方は無機質なエレベーターの自動ドアからいきなり変わるその雰囲気に驚くかもしれません。
ただ、そこにあるのはまごうこと無きオーセンティックなBAR空間です。


前置きが長くなってしまいました。いい加減お酒の話に移りましょう(笑)
静谷さんはペルノリカール社が認定するグレンリベットブランドのアンバサダーであることから、BARリベットでは同社が展開するグレンリベットとアベラワー、この2銘柄の品揃えが豊富。特にグレンリベットはゲール語の"静かな谷"という意味から、ご自身の苗字とも掛けており、特別な思い入れがあるそうです。

勿論それ以外にも様々な銘柄を揃えていますが、折角ですから最初の1杯はハウスウイスキーの一つとなるアベラワー。同銘柄の12年を詰めたミニ樽から直接注ぐ、樽出しをハイボールで。
スムーズで柔らかい飲み口のアベラワーに、使い古されたミニ樽から適度な木香が追加され、バランスよく飲み易い1杯です。
2杯目はグレンリベットのハウスウイスキーで、オフィシャル18年をベースに計5種類のグレンリベットでブレンドした、オリジナルシングルモルト。これもミニ樽からの樽出しで、程よくシェリー系の樽感が効いた甘い香味に、近年のリベットらしくスパイシーな刺激が追いかけて来ます。

(おつまみにはグレンリベットを使ったお手製の生チョコ。今後はウイスキーに合うチョコレートとして、新しいメニューを検討中とのこと。)

ハウスウイスキーの2杯を飲んだところで「折角"リベット"に来られたのですから、くりりんさんこれ飲みましょうよ」と、静谷さんが出して来たのは蒸留所限定のハンドフィルボトル。
蒸留所を訪問された際に直接ボトリングされてたもので、写真左側はバーボン樽の18年モノ、蜂蜜やリンゴを思わせる爽やかな甘みとコクのある味わい。右側の逆さラベルはシェリー樽で、プルーン、チョコレートを思わせる深い甘みが広がる、王道的な構成です。

バーボン樽やシェリー樽のグレンリベットというと、ナデューラとしてリリースされているものが有名ですが、どちらもそこから頭一つ抜けた完成度で、流石ハンドフィル、良いもの出してるなあと月並みなことを感じてしまいます。

(この日は開店3周年の翌日。お客さんらと差し入れのシャンパンで乾杯することに。お祝い攻勢でマスターは既にほろ酔い気味?)

記事の前置きで「プロとは」なんて大層なことを語ってしまいましたが、こうして少ないながらBARを巡っていると、バーマンの皆様は様々な形で努力され、プロの仕事をされようとしているのが伝わって来ます。
静谷さんについて少し書くと、ウイスキーBARを名乗る以上、関連する知識はあって当然。その下積みとして、ウイスキー文化研究所主催の検定1級、2級、3級、を全受験者中1位で合格。シングルモルト級は唯一1位を逃し2位だったそうですが、この他にもソムリエ、ウイスキーコニサーなどの資格も有しています。
また、知識だけでなくテイスティング能力の向上にも余念がなく、相当訓練を積まれており、その上で、自分としてさらに何か出来るのか、今年は考えていきたいとのこと。
これだけのバックホーンですから、我々客側もまさに"勉強"させて貰えそうですね。

この日は開店直後から来店していたのですが、気がつけば週末でもないのにお店は満席。常連と思われる方々の雰囲気もまた良く、相乗効果でお店の空間を作り上げています。
眠らない街新宿で4年目のスタートを切った静谷さんとBARリベット、そこからどのようなプロの仕事が生まれ、個性ある空間を作っていくのか、愛好家の1人として今から楽しみです。

(写真上:グレンリベットベストアンバサダーに選ばれた記念品、ファウンダーズリザーブ21年。シェリー樽の香味にオークのフルーティーさが余韻にかけて広がる。)
(写真下:カクテルで締めの1杯と言うオーダーで出て来た、あまおうとグレンリベットを使ったフローズンカクテル。ふわりとした口当たりにイチゴミルク、微かにオーク、春の味。甘党の自分にはぴったり(笑))

追記:静谷さんは資生堂のWEBマガジンTreatment & Grooming At Shimaji Salonで島地勝彦氏による取材を受けており、記事は3月にも公開される予定。
当ブログの記事を読んで同店に興味を持って下さった方、常連の皆様。プロのライター、カメラマンが写すBARリベットとマスターの姿は要チェックです!

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