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福島県南酒販 963 AXIS ワールドブレンデッドウイスキー 46%

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963 
AXIS 
WORLD BLENDED WHISKY 
Produced by Fukushima kenan shuhan 
700ml 46% 

評価:★★★★★(5)

香り:プレーンでグレーンのクセの少ない穀物系の甘さ、ほのかに樽香。じわじわと内陸系モルトの酸や甘さを伴うフレッシュなアロマ。

味:口当たりはマイルドで、香り同様癖の少ないグレーン系の甘さが広がる。奥にはモルティーで、複数の樽香。古樽やバーボン樽のウッディネス、熟成した原酒の甘酸っぱさと若い原酒由来の酸味がグレーンベースなブレンドのアクセントとなっている。
余韻はややスパイシー、微かにウッディでほろ苦いフィニッシュがじんわりと続く、

ブレンド比率的にはグレーンウイスキーベースと思しきブレンデッド。ただし安ブレンドに使われるようなスカスカなグレーンではなく、コシの強いバーボンスタイルのグレーンに、同社が保有&熟成させた内陸モルトをブレンドしているのだろう。バランスが良く、若さや癖の少なさは万人向けの飲みやすさに通じている。ストレートはもちろん、ロックやハイボールなど、さまざまな飲み方で楽しむことができる。

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笹の川酒造の関連会社である、福島県南酒販がリリースするウイスキーブランドが、地元福島県郡山市の郵便番号963を銘柄名とした963ブレンデッドウイスキーです。これまで、963のスタンダードラインナップは、エントリーグレードの赤と黒、そしてミドルグレードのAXISとBONDSでしたが、その中でも価格的にボリュームゾーンに位置するAXISが大幅リニューアルしました。

963ブランドの構成原酒は基本的にはイギリスからの輸入原酒ですが、ウイスキー製造免許をもつ笹の川酒造(安積蒸留所)が製造元となることで、原酒のブレンドはもとより、追加熟成や自社蒸留の原酒などを確保した原酒をアレンジすることができる点に強みがあります。
安積蒸留所の熟成庫を見学しに行くと、樽の鏡板に「963」と書かれた樽を見かけることがあります。あれは今後使用するブレンド用に原酒を追熟、アレンジしたりしているためで、聞くところによれば県南酒販専用の熟成庫もあるのだとか。

日本の酒税法免許の整理では、蒸留設備を持ち、ウイスキー製造免許を持っていなければ輸入原酒であっても熟成、ブレンド、加水等のアレンジをすることはできません。
製造元との繋がりがあるからこそできるアレンジ力、原酒の活用が、963ブランドの強みとなっています。

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さて、今回リニューアルしたAXISですが、角瓶形状だったボトルやラベルデザインだけでなく、中身も大きくリニューアルしています。
この角瓶仕様が発売されたのは2019年、今から3年前。ブレンダーや保有原酒の変化もあるのでしょう。
以前のAXISや963関連の低価格帯リリースは、比較的若い内陸系の原酒を追熟させて、日本の温暖な熟成環境にありがちなウッディな樽感が加わったような構成でしたが、今回のAXISはそうした個性は控えめで、全体的にプレーンで癖のない甘みを感じさせる構成です。

その香味からコシの強いヘビータイプのグレーン、BSG(バーボンスタイルグレーン)をベースに、安積蒸留所で追加熟成した原酒をブレンドしてバランス良くまとめているのだと推察します。
グレーンというと安っぽい感じがするかもしれませんが、今の原酒市場においては、同じ価格帯で若くて荒々しいモルトを使われるより遥かにバランスよく仕上がるため、特にこうした晩酌や飲食店等で広く使われる間口の広いブレンドの場合、取りうる選択肢として充分アリだと思います。
下手に若さや個性の強いブレンドは、食事に合わせづらいんですよね。

また、その一方でちゃんと963らしさというか、旧世代のAXISにも通じる樽香も奥に感じられるため、ブランドの継承はされていると言うのもポイントだと思います。
今回のリニューアルでBONDSが休売となり、原酒をAXISに集約していくとのこと。原酒や資材の高騰、色々あるとは思いますが、競争の激しくなってきたウイスキー市場の中で一定のシェアを取れていることでもあり、縁のある地の企業の活躍に明るい気持ちにもなります。

近々ハイエンドブランドの963チェスナットウッドリザーブ25年もリリースされるとのこと。
リリース時期的に今年のウイスキーフェスのブースで提供もあるでしょうから、今回のリリースと合わせて、ブースで色々話を聞いてみたいと思います。

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(地味にグッズが多いのも963ブランドの面白さ。写真のスキットルはアウトドアで重宝しています。)

シングルモルト 安積 5年 2017-2023 YOIYO Edition 48%

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YAMAZAKURA 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
ASAKA 
“YOIYO EDITION“ 
Aged 5 years 
Distilled 2017 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrels (5 Casks)
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはややドライだが、角の取れた酸と黄色系の果実香、グレープフルーツやレモン、麦芽やナッツの香ばしさも感じられる爽やかかつリッチなアロマ。

味:柔らかい口当たりから、オーキーな華やかさとクリーミーなフルーティーさ。煮た林檎や柑橘のような酸味、仄かに果実の皮を思わせるほろ苦さと麦芽風味。
余韻は果実のシロップ漬けのようなしっとりとした甘酸っぱさを感じた後、徐々にビターで軽やかな刺激を伴い長く続く。

5樽バッティングのシングルモルト。ロッテのウイスキーチョコレート”YOIYO“の第12弾、第13弾に使用されたモルトウイスキーそのもの。蒸留年の記載はないが蒸留所で確認。
本品は48%加水であるが、濃縮感のあるフレーバーが特徴的で、加熱調理した果実のような酸味と麦芽風味、安積蒸留所の個性はまさにここにありという構成。バッティングと加水でこなれた味わい、バーボン樽由来のフレーバーも後押しして、2017年蒸留の原酒としては一つのピークに到達している。

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2016年にウイスキー蒸留を再開した、笹の川酒造・安積蒸留所から、ロッテとコラボしたシングルモルトウイスキーとウイスキチョコレートがリリースされました。
YOIYOは「日本に酔うチョコレート」をテーマに、日本のクラフト蒸留所とコラボして酒チョコを展開するブランド。これまでウイスキーでは6蒸留所から計9作品。ウイスキー以外に、ジンや日本酒を使ったものもリリースされてきました。

チョコレートとウイスキーの相性の良さには異論を挟む余地が…無いわけではないのですが、一般的には間違いないとされる組み合わせ。
安積蒸留所とのコラボとなるYOIYO第12弾は2023年9月のリリースで、こちらは通常のウイスキーボンボンタイプですが、本日11月21日にはガナッシュタイプのウイスキーチョコレートも発表され、今回レビューするシングルモルト安積 YOIYO Editionはそれらのチョコレートに用いられているものと同じもの、度数で言えば原液となります。

企画にあたってはロッテの担当者が安積蒸留所を訪問し、リリースできる原酒を確認した上で、方向性を指定。笹の川酒造が原酒のバッティングを行ったと聞いています。

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※11月21日に発表された、YOIYO 酒ガナッシュ 安積EDITION。使用されている原酒は今回のレビューアイテムと同じ。画像引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002139.000002360.html

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※クラフト酒チョコレートYOIYO EDITION 12th
4%にまで加水されているが、チョコレートの甘くほろ苦い中に安積モルトの爽やかな酸味が感じられ、ちょうど良いアクセントになっている。新たに発売されたガナッシュタイプは一層安積の香味を感じられそうで、個人的に期待大。

安積のモルトウイスキーの個性は、なんといっても“湿り気を帯びた酸味”です。例えばそれはみずみずしい果肉をイメージさせるものだったり、あるいはそれを加熱調理したジャムやシロップのようなものであったり。
熟成年数によって感じ方は異なりますが、少なくとも2017年から2020年までの蒸留・熟成原酒からは共通の個性が感じられます。特に、2019年には木桶発酵槽が導入されたため、香味の傾向が変わるのかと思ったら、厚みや複雑さは増してる一方でベクトルは同じだったのは驚きました。

また、既存の原酒も熟成を経て馴染んでいくのかと思いきや、逆に樽感と合わせて個性が濃縮されていくような感じもあります。郡山の気候によるところなのでしょうか…。
今回のボトルは2017年蒸留の5樽バッティング。加水によってちょうどいい塩梅にまとまってますが、シングルカスクで無加水だと、近い年数&スペックのリリースはその濃縮感や上述の酸味をだいぶ強く感じます。個人的に安積のモルトは、シングルカスクより複数バッティングで少量加水の方が良いという印象があるのはそのためかもしれません。

今回のYOIYO EDITIONはその意味もあって、自分好みな1本でした。
今後、2017年のみならず2018年、2019年と最初のピークを迎えたリリースが増えてくると思いますが、安積はどんどん仕込みの質が良くなって、美味しくなってきているので、さらなる熟成によって一層の複雑さと美味しさを纏う原酒が育ってくることを楽しみにしています。

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余談:安積蒸留所には、2023年夏の改修で蒸留棟内の発酵槽があるスペースを区切る壁が設置され、中に空調が入るようになりました。温度管理は発酵の際に大きなポイントとなる要素。地球温暖化の影響で、夏場が長く、暑くなってますからね。これでさらに仕込みが安定し、木桶の良さと、酵母の力を引き出せるのではと期待しています。

山桜 安積蒸溜所 &4 ワールドブレンデッドウイスキー 47%

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YAMAZAKURA 
ASAKA DISTILLERY &4 
WORLD BLENDED WHISKY 
Sasanokawa Shuzo Co., Ltd 
700ml 47% 

評価:★★★★★(5)

香り:注ぎたてはグレーンを思わせるクリーンな甘さ、ほのかに香ばしいウッディネスやスパイシーさからアメリカンタイプの原酒の個性も潜んでいる。徐々にモルティー甘さ、薄めた蜂蜜、微かにハーブやスパイス、そして湿った柑橘。内陸系のモルトの個性と合わせて安積らしい個性がひらいてくる。

味:口当たりは一瞬若い原酒の粗さ、癖が感じられるが、全体的にはプレーンで甘みとまろやかさのある味わい。舌の上で転がすと安積らしいコクのある甘さと湿ったような酸味があり、バーボン樽由来の華やかさ、微かなスモーキーさと蒸留所としての個性を感じることもできる。
余韻は穏やかなウッディネスと微かなスパイス、ブレンデッドらしいすっきりとしたフィニッシュ。

安積蒸溜所の原酒と、世界4ヶ所のウイスキー原酒をブレンドした、ワールドブレンデッド。
原酒構成はバーボン樽がメインで、モルト:グレーン比率は6:4程度だろうか。序盤はグレーンやアメリカン、徐々に内陸スコッチやアイリッシュを思わせる構成原酒の個性の中から、キーモルトである安積蒸溜所の原酒の個性が開いてくるため、少なくとも全体の2〜3割程度は安積モルトで構成されていると思われる。
プレーン寄りの香味構成から膨らみを感じさせる味わい、そのバランスはさながら本醸造系の日本酒を思わせる。
オススメはハイボール。安積蒸留所らしさを残しつつ、スッキリとした味わいが非常に使いやすい1本。

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現存する東北最古のウイスキーメーカー、笹の川酒造が2016年から操業する安積蒸溜所の原酒を使い、満を持してリリースする同蒸溜所の名を冠した定番品となるブレンデッドウイスキー。安積蒸溜所&4。
使われている原酒のタイプは、裏ラベルの説明文やその香味からスコットランド、アイルランド、アメリカン、カナディアン、そして安積蒸溜所のモルト原酒でしょうか。

同酒造からは、古くはチェリーウイスキー、そして近年では山桜や、関連会社である福島県南酒販から963といったブレンデッドウイスキーがリリースされてきたものの、基本的に構成原酒の主体は自社貯蔵してきた輸入原酒です。
安積蒸溜所の原酒がキーモルトであると位置づけられたリリースは今回が初めてであり、安積蒸留所ないし笹の川酒造のウイスキー事業が、新しいステージに入ったというマイルストーンたるリリースでもあります。

販売価格は4000円少々。
コンセプトや価格だけ見れば、安積蒸溜所と関係の深いイチローズモルトのホワイトラベル(ホワイトリーフ)や、あるいは大手サントリーのAOを思わせるところはありますが、造りは全く別のベクトルでオンリーワンなリリースに仕上がっています。
それはあくまで大黒柱は安積であるということ。何かが突出したわけではないバランスのとれた造りの中に、3〜4年熟成程度のバーボン樽熟成の安積モルトの個性(麦芽風味と湿り気をおびた柑橘感)が感じられ、蒸留所名を関する資格は十分あるリリースだと思います。
全体的にプレーン寄りなので、香味としてはちょっと物足りなく感じるところはあるかもしれませんが、それらが逆に食中酒や後述するフロートなど様々なアレンジへの幅、自由度を残しているとも言えます。

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※2021年末に新たに完成した、第二熟成庫に設置されているベイマツ製のマリッジタンク。安積蒸溜所&4のブレンド後のマリッジに使われており、全てを払い出さず一部ブレンドを残した状態で、次のロットが加えられる。なんとも巨大なソレラシステムである。

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※安積蒸溜所リリースのブレンデッド。&4の約1000円下の価格帯に位置する山桜 プレシャス ブレンデッドウイスキー(右)。モルティーな安積蒸溜所&4に対して、コチラはグレーン比率が高くモルトも輸入原酒主体か、軽やかですっきりとした味わいが特徴。造りの大きな違いを感じる。

個人的に中小規模のクラフトウイスキーメーカーから、このクオリティのブレンデッドが定番商品として、この価格でリリースできる様になったという点は、ブレンド技術だけでなく蒸留所としての成長を感じる最大のポイントです。
欲を言えばシングルモルトを、という気持ちも愛好家にはあるでしょうけれど、1回の仕込みで1樽、年間4万リットル(1樽200リットルとして、200日分)しか原酒を生産できない規模の蒸留所で、考えなしに原酒を使うことは出来ません。
その中であっても、自社蒸溜原酒をキーモルトとして、定番品となる新しいリリースが可能となったのは、大きな一歩であると言えるわけです。

なお、安積蒸溜所のモルトの特性として、上述の独特のフレーバーは当然ありつつも、実はもう一つ、他の原酒との繋がりの良さ、喧嘩しない懐深さもまた特徴であり、安積蒸溜所&4のバランスの良さに寄与している点が、注目ポイントとも言えます。
それは原酒に限らず、ハイボールにした時の氷や炭酸水での伸び、料理との相性の良さ。他の原酒と混ざり合った時にそれを抱き込むような繋がりの良さ。まさしく安積らしさだと感じる要素です。

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※個人的にハマっているのが安積蒸溜所&4のハイボールにこれまでのリリースをフロートする飲み方。特にピーテッド要素があるリリースを加えるのが良き。さながら&5? 
食中酒から食後酒としてじっくり楽しめるリッチな味わいに。


リリースしたばかりで気が早い話になりますが、このブレンドレシピでピート要素を強くしたり、もっと安積モルト比率を上げたりした、プレミアムエディションなんてのも今後リリースされてくるのかもしれません。
あるいはこのリリースはこのままで、原酒をしっかり育ててシングルモルトの定常リリースへというプロセスも考えられます。
何れにせよ、先日レビュー記事を投稿したTWC向けのシングルモルト安積でも書いたように、今後の展開、成長が楽しみで仕方ありません。

ただそこまでの間にジャパニーズウイスキーブームは、日本のウイスキー業界はどうなるのか。ブームは続くのか終わるのか、見通せないことは多くありますが、先日、笹の川酒造の山口哲蔵社長、恭司専務らから「私たちはこれからもずっとウイスキーを作り続けますよ!」という力強い言葉を頂きました。

既に10年以上続いたウイスキー冬の時代を乗り越え、2010年以降ウイスキー市場が広がる中で、未曾有の大災害、風評被害、地震や水害といった天災そして世界規模でのパンデミック・・・。ブームという強力な追い風のなかで、これ程様々な逆風が吹いた蒸留所は他にありません。
吹くのは季節風(磐梯颪)だけにしてほしいものですが、そうした状況を乗り越え、ウイスキー事業を継続してきた笹の川酒造こその言葉に、大きな説得力を感じました。
一人の元郡山市民として、ウイスキー愛好家として、安積蒸溜所とそのリリースを今後も楽しみにしていきたいと思います。

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シングルモルト 安積 2018-2022 ジャパニーズトレイル for TWC 59%

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THE JAPANESE TRAIL No,4 
ASAKA DISTILLERY 
SINGLE MALT WHISKY 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Exclusively For The Whisky Crew 
700ml 59% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:注ぎたてはシャープな印象を持つトップノート、すぐにバーボン樽由来の黄色系果実のオーク香、柑橘、土っぽさやタールを伴うピートスモークが麦芽の甘さと共に広がる。

味:ややオイリーな口当たり。麦芽の甘みと土っぽさを伴うピートフレーバーが、柑橘やグレープフルーツ、微かにパイナップル等のフルーティーさ酸味、ほろ苦さを伴いつつ広がる。飲みこんだ後で口内にハイトーンな刺激を伴うが、それを柔らかい甘さが包み込む。スモーキーでほろ苦く、香ばしい余韻が長く続く。

安積蒸溜所のピーテッドモルトの個性を、しっかりと感じることが出来るリリース。内陸のピートであるためヨードやダシ感こそ無いが、バーボンオークの華やかさ、安積らしい湿り気のある柑橘感、加熱した果実のような酸味、麦芽風味、そこに強めのピートスモークが合わさって、ラフロイグやキルホーマンの8〜10年熟成品に近い系統に仕上がっている。
これでまだ4年。。。今後はさらにリッチで、フルーティーな成長を遂げていくだろう伸び代もある。安積蒸留所の軌跡を感じると共に、ジャパニーズの将来が楽しみになる1本。

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年末に向けてリリースラッシュのウイスキー業界。個人的に期待大だった1本が、このTHE WHISKY CREW向けのシングルモルト安積です。
蒸留所創業の2016年から、個人的に安積蒸留所に注目してきたというのもありますが、今回のリリースがピーテッドタイプだったという点が一番の理由です。

安積蒸溜所からの本格的なピーテッドタイプのリリースは、2020年の安積ファースト・ピーテッド以来(個人向けPBを除く)であり、このリリースが将来性抜群で美味しかったことや、ピーテッド原酒の成長を見ることが出来るのではないかと、期待していたわけです。
通常リリースだと今年発売されたシングルモルト安積2022はバランス寄りのピート感を備えていますが、ノンピート原酒の個性が強い仕上がりで、ピート原酒の成長を見るまでには至りませんでした。

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そして飲んだ感想は、コメントからも感じていただけるように期待通りの1本でした。
原酒の構成は、2018年蒸溜で4年熟成のバーボン樽3樽からのバッティング。内訳は50PPMのヘビーピーテッドモルト1樽、ノンピートモルト2樽。バッティングの比率はピーテッドモルトが60%、残り2樽からノンピートモルトが合計40%となっています。
また安積のバーボン樽原酒の度数は大概61〜62%くらいであり、そこから推定2〜3%だけ加水した、ほぼカスクストレングス、極少量加水リリースとなります。

この加水量で増える本数は微々たるもの。市場的にはカスクストレングスの方がウケが良い傾向がある中で、3樽の原酒を結びつけるため、香味の完成度を重視して加水を選ぶプロ意識。
まだ4年熟成で若いため、奥行きというか複雑さは若干軽いところもありますが、3樽のバッティングによってピート感とフルーティーさ、両方が感じられる構成となっており、今後1〜2年の熟成でさらに樽感がのって風味のカドが取れてくれば、一層リッチで複雑な味わいになることも想像出来る。
これはもう間違いないでしょう。

熟成によって蓄積する時間、つまり蒸留所の軌跡を辿る事が出来るだけでなく、そこから先の未来まで、来年が楽しみだねと前向きな気持ちになれる。
TWCのジャパニーズトレイルのコンセプトとしては勿論、年末にテイスティングするのにも相応しい仕上がりとなっています。

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※安積蒸溜所におけるピーテッド原酒の仕込みは、1年のうち蒸溜設備のオーバーホール期間前、夏場の前の1〜2ヶ月のみ行われている。仕込みの量が少ないため、リリース頻度も少ない。

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安積蒸留所といえば、2019年に木桶発酵槽を導入し、以降の仕込みでは酒質にさらにフルーティーさと厚みが出ています。
原酒の成長だけでなく、今後生まれてくる新しい原酒にも期待できるわけですが。
一方で、木桶導入前、ステンレスタンクを使っていた時代が悪かったかというと決してそんなことはなく、今回のように樽やピートとの馴染みがよく、ブレンドした際には他の原酒との繋がりも良い。仏のような笑顔で知られる造り手の山口哲蔵氏のような、懐深い特性も持っています。

一方でなぜこうした安積独自の酒質、独特の酸味を持つフルーティーな味わいになるのか、実は造り手側もよくわかっていないそうです。
ただし偶然の産物と言えど、何らかの理由はあるわけで。製造プロセスを聞く限り、変わったところはないので、私は発酵時に日本酒における生酛仕込み的な現象が起こっているのではと予想しています。
上の写真を見ていただければ伝わるように、安積蒸溜所の設備はかつて笹の川酒造で日本酒の製造・保管場所だった歴史ある造りの蔵に導入され、糖化、発酵、蒸留、全てが同じ空間で行われています。

生酛仕込みは発酵時に使用する乳酸菌を、自然に漂う乳酸菌を増やして使用する方法で、この乳酸菌は例えば木材などに住み着くと言われています。(木製発酵槽で香味の複雑さが期待出来るのもこの点にあると言われています。)
発酵時間はステンレスタンクでの発酵だった2018年頃までは約3日、現在は約100時間、その中で蔵に付いている菌が独自の発酵、フレーバーの生成に寄与しているとしたら、創業から250年、長い時間をかけて生み出された笹の川酒造の歴史が醸す味わいとして、なんとも浪漫ある要素ではないでしょうか。

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2016年の創業から、淡々と原酒を造り、焦らず、じっくりと原酒の熟成と合わせて事業を展開してきた安積蒸留所。
来年は熟成した原酒と、輸入原酒をブレンドしたワールドブレンデッドウイスキー安積蒸留所&4を発売するなど、ウイスキー事業本格参入から7年目の年に、同蒸留所としてさらなるチャレンジも発表されています。

一足お先にテイスティングしてきましたが、柔らかい甘さを感じるモルトとグレーンの風味、ほのかにピーティーですっきりと飲みやすく仕上がったブレンデッドで、ハイボールにめちゃくちゃ使いやすかったですね。
この7年間、決して平坦ではなかった安積蒸留所の道のり、飛躍の時は近いと感じる原酒の成長。来年以降もリリースを楽しみにしています。

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安積蒸溜所 山桜 シングルモルトウイスキー 2022 Edition 50%

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ASAKA DISTILLERY 
YAMAZAKURA 
Single Malt Japanese Whisky 
2022 Edition 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)

香り:穏やかにピーティーでビター、ほのかに焦げ感を伴う麦芽香。シトラスやグレープフルーツを思わせるシャープな柑橘香に、杏酒のような角の取れた酸も混じるモルティーなアロマ。時間経過で土壁のような、古典的スコッチに近い香りも開いてくる。

味:麦芽の甘みから香り同様にピーティーなほろ苦さ、ドライアプリコットや柑橘に、少しこもったような特徴的な酸味のある柔らかい口当たり。
徐々にスモーキーで、乾いた印象のあるウッディネス。余韻はややドライだが、ピートフレーバーと樽由来のウッディさがしっかりと長く続くリッチなフィニッシュ。

開封直後は樽感とピート、麦芽風味にちぐはぐなところがあり、若さが目立っていた印象もあったが、開封後数日単位の瓶内変化で上述のフレーバーがまとまってきた。何より飲んでいるとまた飲んでみようと思える後ひく要素、開いてくる個性があり、構成するノンピートとピーテッド原酒に将来性、伸び代が感じられる。少なくとも、この個性は国内では安積蒸留所にしかない。
さながら今年の夏の大会に出てきた2年生、来年のドラフト候補となる注目選手。

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安積蒸溜所(あづみじゃないよ、あさかだよ)がリリースする、複数樽バッティング、加水調整によるシングルモルト。
これまで、同蒸溜所からのリリースは、安積ファースト(ノンピート)、安積ファースト・ピーテッドという形で、ノンピートか、ピーテッドかという1か0かのリリース形態でした。

今年1月、新年のご挨拶を兼ねて笹の川酒造の社長以下と情報交換を行った際「今年は安積として初めて自社原酒のノンピートとピーテッドタイプをバッティングした、バランス寄りのシングルモルトをリリースしようと思う」と計画を話されており、それがまさに今回の1本ということだったわけです。
詳細なレシピは聞いていませんが、飲んだ印象ではバーボン樽100%で、原酒はピート4割前後、ノンピート6割前後といったところでしょうか。比較的ピーティーでありながら、麦芽の甘みや後述する個性といった、安積らしさも感じられる、良い塩梅のレシピだと思います。

ただ、開封直後は香味がまとまりきれてない印象があり、レビュー時期を1ヶ月ほどずらしました。(さぼってたわけじゃないんだからね!)
本作のリリースは5月下旬。年始の段階で構想でしたから、そこから選定、ブレンド、マリッジ、流通となると、マリッジ期間が充分取れてなかったのかもしれません。あるいは今回使われたのは熟成4年前後の若い原酒ですから、原酒同士の主張が強く、まとまるまでに時間がかかっている可能性はあります。
何れにせよ、このリリースは開封後、日に日に安積らしさ、良いところが感じられるようになり、その変化を見るのも楽しい。レビューの通りリリースとしても蒸留所としても、将来性を感じられる1本となっています。

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(2019年にリリースされた安積ファースト・右から、ピーテッド・中央、そして今回の2022Edition・左。)

さて、このブログを読まれている皆様には「またか」という記載になりますが、安積蒸留所の特徴は、なんといっても酸味です。

酸味と言っても、レモンのようにフレッシュな酸味ではなく、熟した柑橘のような、梅酒や杏酒のような、あるいはお漬物にあるような、角が取れてこもったような酸味と言いますか、他の日本のクラフト蒸留所にはない香味が個性となっています。
これがノンピートの場合は全面にあって、どこか純米酒を思わせるような要素に繋がり、ピーテッドの場合は、まるでヨード感を抜いたラフロイグのような、そんなフレーバーを形成するのです。

なぜ独特の個性が出てくるのか、正直なところそれはわかりません。
ただ、同蒸留所は2019年に以下の写真の通り発酵層をステンレスから木桶に交換しており、木桶発酵層で仕込まれた原酒飲んでみると、今ある個性は失われておらず。むしろそれらを補うような麦芽の甘みといくつかのフレーバー、そして乳酸系の酸が加わって、より複雑で厚みのある味わいへと進化しているように感じられました。
つまり発酵槽が要因ではなかった訳ですが、設備のアップデートやノウハウの蓄積による原酒の進化も楽しみな要素です。

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安積蒸留所は、現在数多くあるクラフト再稼働・新興蒸留所の中ではリリースが話題になることがそこまで多くありません。それこそ、2016〜2017年稼働組の中では地味な方と言えます。
まあ広報が弱いのは、この手のローカルメーカーあるあるの一つ。ですが、実力は本物です。個人的に、現時点での評価として日本のクラフト蒸留所で5指に入ると感じています。

実際、先日WWA2021でのワールドベスト受賞という評価に加えて、愛好家の間でも安積のモルトって美味しいよねという声を聞くことが増えてきました。昨日夜のスペース放送でも、1万円以内で買いなウイスキーを話ていた時、安積の名前が出たのは嬉しい驚きでした。
そうなんです、特に5年以下のモルトで、ここまで飲ませる蒸留所ってなかなかありません。
同蒸留所の創業1〜2年以内の原酒のピークは7〜8年熟成くらいかなと予想するところで、木桶導入後の原酒の成長も考えるとあと5年は評価を待ちたいところですが。その中間地点、マイルストーンとして今回のリリースを含む、これからのリリースを時間をかけて楽しんでもらいたい。
「あさかはいいぞ」と改めて推して、記事の結びとします。

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今日のオマケ:蒸留棟内にあるフリーWi-Fiの張り紙。山崎や余市と言った蒸留所なら見学導線にあっても違和感はないが、安積に張られていることの違和感は、きっと現地に行ったことがある人ならわかるはず(笑)。いや、良いことなんですよ、間違いなく。

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