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カテゴリ:ブレンデット・バッテッド

バランタイン 12年 ロイヤルブルー 1995〜2000年代前半 43%

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Ballantine’s 
ROYAL BLUE 
12 YEARS OLD 
SPECIAL RESERVE SCOTCH WHISKY 
1995-2000’s 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(5ー6)

香り:蜂蜜を思わせる厚みのある甘さ、麦芽香、すりおろした林檎、微かにカラメル。ドライオレンジや干し草を思わせる乾いたアクセント、微かなピートも奥から感じられる。

味:滑らかな口当たり。メインは麦芽由来の甘さでコクがあってふくよか。カルメ焼きを思わせる甘さやオレンジピールの砂糖漬け。余韻は序盤の甘さは引きずらない。じんわりと染み込むようなほろ苦さ、香ばしさを伴って長く続く。

香味とも内陸モルトの麦芽風味、ミルトンダフやグレントファースを思わせる要素が強く、グレーンも熟成したものを彷彿とさせる蜂蜜などの厚みのある甘さ。穏やかなピート香が底のほうにいて全体を引き立てているのもブレンドの妙として感じられる。17年クラスとは別のベクトルのスケール感があり、通常の12年と比較して確かに「全然違う」リッチなブレンデッド。
なお、ハイボールにすると炭酸が麦芽風味や熟成感を打ち消してしまうため、通常の12年との差はそこまで目立たない。ストレート、ロック、あるいは水割りで。

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1995年から日本限定でリリースされたバランタイン。後継品にはバランタイン12年 ブルーがあり、スタンダードラインナップの12年であるゴールドシールと並行してトータル15年ほどリリースされ続けたあと、2011年にバランタイン12年ブルーに統合され、その後12年そのものが終売となっています。

12年には他にも免税店向けのピュアモルトとか色々なリリースがあるのですが、話をロイヤルブルー系列とゴールドシール系列に絞って解説すると。
元々バランタインは1960年代に12年がリリースされると共に、選び抜かれた原酒だけを使って(使ったとされる)少量生産された12年ゴールドシールもほぼ同時にリリースされていました。ファイネストや17年は比較的ピーティーな原酒が使われる傾向もありましたが、12年は内陸、スペイサイド系の原酒を主として使われていることが多く、初期の頃から一貫してまろやかな麦芽風味やフルーティーな味わいが特徴でした。

その後、1970年代以降ゴールドシールは一旦生産されなくなりノーマルな12年のリリースが続くことになりますが、1980年代後半にノーマルな12年が突如ゴールドシールとなってリニューアル。
ウイスキー冬の時代に入り、各社がデラックス表記から12年表記など年数でわかりやすい高級感を出してくる戦略にシフトしたなかで、差別化を図ろうとしたのでしょう。1990年代以降、スタンダードな12年はゴールドシール系列として展開されていくことになります。

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※バランタイン12年1960年代流通(左)と、同時期流通のバランタイン12年ゴールドシール(右)。ゴールドシールの方がより熟成した原酒やモルト比率の高いレシピとなっているのか、複雑で芳醇な味わい、またピーティーでもあった。

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※1980年代後半に突如ゴールドシールとなったバランタイン12年(写真は1990年代流通)。この頃は親会社の変遷からか、原酒の傾向が多少異なることも。

一方で、日本では現在でこそ低価格帯のブレンデッドウイスキーはハイボールという選択肢が確立していますが、2000年代以前はロックや水割りが主流だったこともあり、1990年代に入って消費が低迷する日本市場=水割り向きのレシピで打開!という戦略で、1995年に開発・発売されたのが、今回レビューをするロイヤルブルーになります。

当時のサントリーから発出されたプレスリリースがWEBに残っていたので引用すると、
同品は、選び抜かれた約五〇種類のモルト原酒を使い、名門ジョージ・バランタイン社マスターブレンダーのジャック・ガウディ氏が五〇年の経験を傾けてブレンドした商品。
「バランタイン」の基本的特徴である「華やかな香りとすっきりした味わい」をそのままに、熟成感、味の厚み・まろやかさ・香味をアップしている。 デザインもロイヤルブルーを基調としたエレガントでシックなものにした。
ロイヤルブルーは英国王室に由来する濃青色で、バランタイン社のイメージカラーでもある。 アルコール度数四三%、七〇〇ミリリットル入り、希望小売価格五〇〇〇円。荷姿一二本入り。ギフトパッケージ入りも同時発売(内容はすべて同一)。

テイスティングで感じた通り、味の厚みやまろやかさが通常の12年に比べて増しているのはコンセプトの一つであったようです。

その後、2003〜2004年ごろにバランタイン・ロイヤルブルーがバランタイン・ブルー12年(当時は17年以上と同じ丸瓶)にリニューアルしてリリース。
ちょうど私がウイスキーを飲み始めた頃だったのですが、12年ゴールドシールは2000円くらい、12年ブルーラベルは3500円くらいで販売されており、キャッチフレーズは確か「水で目覚める夢の香り」。同じ12年なのに見た目の高級感から段違いで、何が違うんだろう、美味そうだなぁ、でも高いなぁ…と、学生時代の自分にとっては垂涎の一本だったこともあって非常によく覚えています。

以上のように長らく2ブランドが展開されてきたバランタイン12年ですが、その後は冒頭述べたようにバランタイン・ブルーラベル12年に統一され(日本市場向けが世界標準になったのではなく、バランタイン12年が実質日本向け状態になった)、そのバランタイン・ブルー12年も原酒枯渇などを理由に2024年をもって半世紀を超える歴史に幕を閉じた…。ということになります。
まあ原酒枯渇というか、ハイボールで飲ませるなら12年じゃなくてもという趣旨のリニューアルなのだろうと思いますが。

余談ですが、今こうしてロイヤルブルーを飲んでみると、これは12年クラスのモノとしてはリッチで味わい深い、かなりしっかりとしたブレンドだぞと感じるところ。
ようやくここでレビューに添えていた漫画の伏線回収。今回レビューしたバランタイン12年ロイヤルブルーは、T&T TOYAMA およびモルトヤマの代表である下野さんがウイスキーにハマるきっかけになった一本であり、学生時代にBARで飲み比べをさせてもらって、その違いやおいしさに驚かれたのだとか。(詳細はモルトヤマ大学物語を参照

下野さんとは同世代、ほぼ同じ時期に飲み始めていることを考えると、バランタインは通る道なんでしょうか。なおこの漫画を読んだ結果、ロイヤルブルーを見るたびに下野さんの顔が頭に浮かぶ呪いにかかってしまったので、読者の皆様にもお裾分けして、当初の予定と異なって12年の歴史解説記事になってしまったレビューの結びとします。

「ロイヤルブルー12年のほうが美味い!」

ジョニーウォーカー 15年 グリーンラベル 43% 2021年以降流通品

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JOHNNIE WALKER 
GREEN LABEL 
Aged 15 years 
Blended Malt Scotch Whisky 
Talisker-Linkwood-Cragganmore-Caolila 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかなオーク香に、蜂蜜やバニラ、ほのかに洋梨を思わせる甘い麦芽香が混ざるリッチなアロマ。微かにスモーキーな要素も感じられるが、香りでは味以上にアメリカンオークと麦芽感が主体。

味:口当たりはマイルドで、甘い麦芽風味と合わせてスパイシーなオークフレーバー、微かに青みがかったニュアンス。徐々にほのかなピートフレーバーが後を追うように現れ、まず鼻腔にピートスモークと焦げたような香りが届き、その後余韻を引き締めるようなほろ苦さ、ウッディネスがバランス良く感じられる。

しっかりオーキーでモルティー。近年のトレンドと言える華やかでフルーティーな香味の中に、ほのかなスモーキーさを伴うバランスの取れた構成。モルト100%は伊達じゃなく、ストレートでも飲みごたえがあり、ブレンデッドにありがちな使い古された樽のえぐみ、枯れ感もなく、純粋に熟成した原酒の複雑さも楽しめる。これで4000円前後というのは、下手に同価格で12年熟成のシングルモルトを買うより良い買い物ではないだろうか。
ハイボールにすると各原酒の個性がばらけ、特にピートフレーバーを感じやすくなる。ステアしながら柔らかく立ち上るオーク香とスモーキーさが、お疲れ様の1杯への期待を膨らませてくれる。

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気がついたらラベルチェンジしていた、ジョニーウォーカーシリーズ。2020年ごろですかね。今回のレビューアイテムであるグリーンは旧ラベルを下に貼っておきますが、白地を加えたことで程よくスタイリッシュになったというか、個人的には前のラベルよりも好みです。

で、ラベルが変わったということは味も変わっています。
大きくはテイスティングの通り、従来のモルティーな甘みと味わいはそのまま、バーボン樽(あるいはアメリカンオーク樽)の香味が増して、わかりやすく華やかになったこと。さらにジョニーウォーカーというと、タリスカーやカリラという印象が強く、旧ラベルのグリーンはプレーンな原酒に由来する古い樽のえぐみや、タリスカー系の個性が主張していましたが、このブレンドは一層内陸&バーボン樽メインな構成へと変化しており、旧ラベルよりもバランスが良くなっていると感じます。

ラベルに書かれた4蒸留所からレシピを予想するなら、アメリカンオーク樽熟成のリンクウッドやクラガンモアが8〜9で、そこにタリスカーとカリラを合わせて1〜2といったところ。
軽くなった近年の内陸原酒では複雑さを出しにくいところ、強すぎると他の原酒を喰ってしまうピーティーな個性をバランスよく加え、複雑な味わいとして感じさせてくれるのは、流石大手のブレンデッドモルトという完成度。下手なシングルモルトより満足感の高い1本に仕上がっています。

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(旧ラベル、2016年に終売から復活したグリーン15年。この頃はジョニーウォーカーシリーズに共通してえぐみのような癖があり、個人的には好きになれない要素だった。)

以前Twitterかどこかで、白州が買えない人はジョニーウォーカーグリーンが代替品になるなんて話を見たことがあり。
いやいや流石にそれは厳しいでしょと、香味の傾向が違いすぎると思っていたのですが、バーボン感増し&内陸主体個性の新ラベルを飲んで見ると、わからなくもないなと。
元々白州はバーボン樽熟成のハイランドモルト系の香味に近い個性をしているので、NASや12年あたりの代替と考えるなら、価格的にも悪いチョイスじゃないかもしれません。

ただ、ここまで評価してきてハシゴを外すようで申し訳ないですが、悩ましい点がないわけではありません。
それはバランスが取れているといっても、やはりブレンデッドモルトであること。10割蕎麦と二八蕎麦では繋ぎの入った二八蕎麦のほうが喉越しが良いように、ジョニーウォーカーでは同じ価格帯で販売されているブレンデッドのゴールドラベルのほうが、全体としての一体感は高く。特にロックやハイボールにするならブレンデッドの方に強みがあります。
また、個性と飲みごたえ重視でストレートで飲んでいくにしても、愛好家勢は家飲み用に5000円以上で一層熟成感や個性のあるシングルモルト、ボトラーズを買ってしまうでしょうから、実はちょっと半端なグレードになってしまっているのかも。。。

旧グリーン→新グリーンの比較では、新グリーンの方が良くなってると言えますし、トレンドも押さえた良いブレンデッドモルトだと思うので飲めば面白い一本ですが、シリーズや市場全体を見た場合どうしたものか。
ああ、帯に短し襷に長し…

シーバスリーガル 12年 1950年代流通 43%

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CHIVAS REGAL 
BLENDED SCOTCH WHISKY 
AGED 12 YEARS 
1950’s 
750ml 43% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:土っぽさを伴う古典的な麦芽香と、角の取れたピートスモークと共に穏やかに香る。奥には焼き洋菓子や熟した洋梨を思わせる甘みがあり、じわじわと存在を主張する。

味:まろやかで膨らみのある口当たり。ほろ苦さを伴う麦芽風味、内陸のピート、香り同様の果実感や蜜を思わせる甘み。余韻は穏やかなスモーキーさとナッツやパイ生地のような香ばしさがほのかにあり、染み込むように消えていく。

全体的に素朴で、近年のウイスキーにあるようなキラキラと華やかな要素はないが、熟成した原酒本来の甘みとコク、オールドボトルのモルトに共通する古典的な麦感、土っぽさ、そこから連想される田舎っぽさに魅力がある。構成原酒はおそらくそこまで多くなく、樽感も多彩とは言えないが、純粋に当時のモルト原酒の質の良さだけで愛好家の琴線に訴えかけてくる。
複雑さや熟成感、華やかさを好むなら、それこそ現行品のアルティスや25年が良いだろうが、個人的には素材の良さが光る味わいも捨てがたい。

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オールドブレンデッドにおいて、地雷率No,1と言っても過言ではないのがシーバスリーガル12年。
その原因が、キャップの裏側の材質にあるのは周知のことと思います。では、そのキャップがコルクだったらどうでしょうか?
実はシーバスリーガル12年は、発売初期の1939年から1950年代までコルクキャップが採用されており、例のキャップが採用される1960年代以降のロットよりも地雷率が低い(コルク臭の危険はあるため、ゼロではない)という特徴があります。

だったら1950年代以前のボトルを飲めば良いじゃない。
って、それで解決したらどんなに話は簡単か。その理由は2つあり、同銘柄が日本に入り始めたのは1960年代から、本格的に流通したのは1970年代からであることがまず挙げられます。
当時シーグラム傘下となっていたシーバス社はキリン・シーグラムの立ち上げに関わり、シーバスリーガル12年はキリンを通じて日本市場への正規流通が始まったという経緯があります。
そしてその時点では、ラベルのリニューアルと合わせてキャップも例のヤツに代わっており。。。
また後述の通り、シーバスブランドの1950年代は復活の最中で、並行輸入もなかったようです。そのため、日本市場をどんなに探しても、1950年代流通品を見かけることは無いわけです。

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(ペルノリカール社プレスリリースから画像引用:シーバスリーガルのラベル遍歴。2022年にはまた新たなデザインへと変更が行われている。)

では、この1950年代のシーバスリーガルはどこの市場にあるかというと、答えはアメリカです。
元々シーバスリーガル12年はアメリカ市場をターゲットとして、1938年(一説によると1939年)にリリースされていました。しかしそれ以前は社として原酒の売却があったり、その後勃発した第二次世界大戦で輸出産業が崩壊するなど厳しい状況にあり、シーバス社は1949年にシーグラム社の傘下に入ります。

そして1950年にミルトン蒸留所を取得し、その後ストラスアイラへと名前を変更。(この時は名前の変更を行っただけで、特段何か大きな変更をしたわけではないようです。)
今回のレビューアイテムであるシーバスリーガル12年は、まさにミルトン蒸留所時代の原酒をキーモルトとしており、モルト比率の高さからか古き良き時代のモルトの味わいが濃く、一方で少し田舎っぽさ、素朴な感じのある仕上がりとなっています。

シーグラム社傘下でしたが、まだグループ内での扱いが低かったのか、潤沢に原酒を使えたわけではなかったのでしょう。樽もプレーンオークメインか、現代のシーバスリーガルのようなハデな樽感もありません。だからこそ、こうして飲んでみてモルトの味わいを楽しみやすいというのは皮肉なことです。
一方、1960年代に入ると35カ国に輸出されるようになるなど、シーバスリーガルのブランドが評価され、そして1970年代〜1980年代には洋酒ブームとバブル景気の日本市場へ大量に投入されていくことになり、そのボトルは現代の市場の中で地雷となって多くの犠牲者と、それでも当たりを引きたいというコアなファンを生み出すことに繋がっています。

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(1980年代流通のシーバスリーガル12年。70年代とではロゴが微妙に異なるなど変化はあるが、基本的に同じデザインが踏襲されている。)

今回のレビューでは、1950年代のシーバスリーガルのテイスティングを、歴史背景を交えて紹介しました。
なるほど、キャップに汚染されていない真のシーバスリーガルとはこういう味なのか・・・とはならないんですよね。

本記事冒頭、「だったら1950年代以前のボトルを飲めば良いじゃない。って、それで解決したらどんなに話は簡単か。その理由は2つあり、」と書いて、その理由の1つである“ブランドの歴史と流通国”に関する話をつれつれと書いてきたわけで、そう、理由はもう一つあるんですよね。
それは、1950年代のシーバスリーガル12年はブランドとして復活の最中であり、テイスティングでも触れたように、あまり多彩な原酒を使っていたような感じがしないわけです。それは上述のように歴史背景を紐解く上でも、矛盾のない話と言えます。

そして、60年代以降輸出を拡大した同銘柄には、シーグラムグループが保有するさまざまな原酒が使われているわけで、50年代とレシピが同じとは思えません。
ということは、結局我々愛好家が気になって仕方がない日本で認識されているシーバスリーガルのオールド「本来の味」にたどり着くには、地雷原の中からダイヤ一粒を探す、茨の道を進むしか・・・

あ、これ考えたらアカンやつですか。こんだけ長々と書いておいて結局何を言いたかったんだお前は?
・・・そこでくりりんは考えることをやめた。

【完】

くりりん先生の次回更新にご期待ください

バランタイン17年

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BALLANTINE'S
AGED 17 YEARS 
BLENDED SCOTCH WHISKY 
Lot 2020~
750ml 40% 

評価:★★★★★(5-6)

香り:ややドライで穏やかな香り立ち。洋梨や林檎等の白色果実を思わせる華やかでフルーティーなオーク香、乾燥した乾草や穀物のような軽く乾いたウッディネス。

味:コクがあってクリーミー、スムーズな口当たり。オーキーで華やかな含み香、グレーン由来の蜜のような甘さ、熟成したモルトの甘酸っぱさがアクセントにあり、微かなスモーキーさとほろ苦いウッディネスがじんわりと残る。

穏やかでバランスの整った味わい。アメリカンオークで熟成された内陸モルトらしい、華やかでフルーティーな香味と、グレーンのコクのある甘みが混ざり合い、近年のトレンドとも言えるキャラクターを形成している。
面白みは少ないが、実に飲みやすい。飲む温度によってキャラクターに変化があり、20度以上ではグレーンがオークフレーバーを後押ししながら前に出て、クリーミーな質感が強調される。一方で、20度未満だと線が細く爽やかな味わいとなり、ロックやハイボール等、冷やして飲むことでも強みが発揮される。繊細なバランスの上に構築された、ガラス細工のようなブレンドながら、飲み方とシーンを選ばない、ブレンダーの技が光る1本。

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ザ・スコッチことブレンデッドスコッチウイスキーを代表する銘柄の一つである、バランタイン17年。
ジョニーウォーカー、シーバスリーガルと並んで、日本では”ど定番”とも言えるブレンデッドスコッチウイスキーですが、そのためか現行品をちゃんとテイスティングしたことがあるという人は少ないようにも感じます。

バランタインというと、マニアな愛好家ほど、赤青紋章、赤白紋章と、オールドボトルをイメージしてしまうかと思います。
実際、現行品とオールドのバランタインと比べると、モルト由来の香味はライトになり、それをグレーンの甘さで補っているところや、60~70年代のものと比較するとスモーキーフレーバーもかなり控えめで、癖が無いというか、面白みがないというか・・・愛好家の琴線を刺激する個性は強くありません。

ですが、軸となっているグレンバーギーに由来する華やかさや、近年のトレンドの一つと言えるオーキーなフレーバーは昔のリリース以上に際立っており、まさに王道と言える構成。じっくりテイスティングすれば、ミルトンダフやトファースに由来する麦芽風味が感じられるだけでなく、こうしたモルトの香味をまとめ、どう飲んでも崩れないバランスの良い味わいは、他有名ブレンドとは異なる造りと言えます。
ジョニーウォーカーが力のブレンドなら、バランタインは技のブレンドです。その場を壊さない、わき役としての働きから、飲み手の経験値に応じて表情も変わる。時代によって原酒の違いはあっても、ブレンダーの技は変わらない。現行品であっても楽しめるウイスキーなのです。


酒育の会 Liqul 
Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.13
バランタイン17年 ブレンドの奥深さと”魔法の7柱の真相”

https://liqul.com/entry/5700

そんなわけで、先日公開されたLiqulのコラム 「Re-オフィシャルスタンダードテイスティング」では、バランタイン17年を取り上げてみました。
前半部分はバランタイン17年の個性や楽しみ方についてということで、あまり捻った内容にはなっていませんが、重要なのは後半部分です。

バランタイン17年と言えば、”The Scotch”に加えてもう一つ、”魔法の7柱(Ballantine's magnificent seven)"という構成原酒に関する通称があり、主観ですが、日本においては後者のほうがメディア、専門書等で多く使われている表現だと感じます。
魔法の7柱は、バランタイン17年が誕生した1937年からの構成原酒とされ、まさにバランタインのルーツという位置づけなのですが、実際はどうだったのでしょうか。本当に7蒸溜所の原酒がキーモルトとして使われていたのか。当時の状況を、各蒸溜所の操業期間や市場動向などを参照しつつ、考察した記事となっています。

要点だけまとめると、
・1937年当初、バランタイン17年は、”魔法の7柱”を用いてリリースされていなかった。
・主に使われたのは、グレンバーギーとミルトンダフ。
・残る5蒸留所は、1950年代のブランド拡張時期に結びつき、実際に7蒸溜所がキーモルトとして使われたのは1968年~1980年代後半まで。
・魔法の7柱のうち、バルブレア、プルトニーの操業期間が考察の鍵。
・1987年以降はブランドが他社に移行。構成原酒が変化。

ということで、”魔法の7柱”は1950-60年代、ハイラムウォーカー社が輸出を拡大する際、原酒確保のために傘下とした5蒸溜所の情報が、元々あった2蒸留所と合わさって”構成原酒”として誇張(あるいは誤解)されて伝わったのではないかと。
つまり「魔法の7柱なんて最初はなかったんだよ!(ナッ、ナンダッテー)」と、ブランドエピソードの核心部分に踏み込んだ内容となっています。

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(バランタイン魔法の7柱が使われていた時代の17年、1960年代から1980年代初頭のラベル遍歴。一番右のボトルは1980年代後半、アライド社時代のものであるため、レシピ、フレーバー共に異なる。)

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ちなみに、”魔法の7柱”を誰が最初に使ったかと言うと、1942年設立の輸出管理団体SWA:Scotch Whisky Associationであるとされています(ただし、時期不明)。また、それを誰が日本国内に広めたかというと、調べた限り60年代から80年代にかけては、正規代理店であった明治屋の広告※上記参照 には該当する記述が見られず・・・。初めて情報が出てくるのは、1988年から正規代理店となるサントリー・アライド社の発信のようです。
参照:https://www.suntory.co.jp/whisky/Ballantine/chp-06-e.html

現在の市場を見てみると、”魔法の7柱”は欧州等他国でほとんどPRに使われていないこともあり、いわゆるマッカランにおける“ロールスロイス”と同じようなモノだったと考えられます。
サントリーが正規代理店になった当時、既にアードベッグが創業を休止していたりと、キーモルトは変わっていた時代なのですが…。(アライド社時代、公式ページのキーモルトには、ラフロイグの表記があった。)
それでも広まった魔法の7柱。語呂が良かったということもあるとはいえ、これぞ広報戦略だなと、考えさせられますね。

バランタイン構成原酒シリーズ

なお、現行品17年の公式ページからは”魔法の7柱”という表現は消えており、あくまで歴史上の1ピースという整理。キーモルトはグレンバーギー、ミルトンダフ、グレントファース、スキャパの4蒸溜所となっています。
紛らわしいのが「レシピは創業時からほとんど変わっていない」という説明ですが、このレシピというのは構成原酒比率ではなく、モルト:グレーン比率とかなんでしょう。このグレーン原酒についても、リリース初期に使われた原酒は不明で、1955年からはダンバードン蒸留所のものが使われていたところ。同蒸留所は2002年に閉鎖・解体され、現在はペルノリカール傘下、ストラスクライド蒸溜所の原酒を軸にしているようです。

これら構成原酒については、2018年から写真の3蒸留所のシングルモルトがバランタイン名義でリリースされたり、その前には〇〇〇エディション17年、という形で4蒸溜所の原酒を強調したレシピがリリースされるなど、ブランドがペルノリカール社傘下となってからは、新しい世代のバランタインをPRする試みが行われています。
ただ、新しい時代といっても、先に記載した通りグレンバーギー、ミルトンダフはバランタイン17年をブランド設立当初から構成してきた最重要原酒であり、実は核の部分は1937年から変わっていなかったりもします。量産分を補うため、トファースとスキャパが追加されていると考えると、実にシンプルです。

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余談ですが、バランタイン・シングルモルトシリーズからスキャパ蒸溜所の原酒がリリースされなかったのは、同蒸留所が1994年から2004年まで操業を休止していたため(原酒そのものは、1996年からハイランドパークのスタッフが年間6週間のみアルバイトで操業しており、ブレンドに用いる量は最低限確保されていた)、シングルモルトに回すほどストックが無かったためと考えられます。後継品も出ていることから、少なくともシリーズの人気が出なかったことが原因…と言うわけではないでしょう。

休止の影響を受けた時代は2021年で終わりを告げ、来年以降は17年向けに確保できる原酒の量も増えてくることになります。バランタインは昨年17年以上のグレードでラベルチェンジを行ったところですが、また2022年以降どんな動きがあるのか。
香味だけでなく、現行の王道を行くスタイルを形成するブレンダーの技を意識して飲んでみると、面白いかもしれません。

シークレットスペイサイド ブレンデッドモルト 19年 ドラムラッド 1stリリース 44%

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SPEYSIDE BLENDED MALT 
DRAMLAD JAPAN 
THE ONE DRAM SELECTION 
Aged 19 years 
Distilled 2001 
Bottled 2021  
Cask type Sherry #48 
700ml 44.0% 

評価:★★★★★★(6-7)

香り:ドライプルーンやナッツ、ブラウンシュガーを思わせるシェリー系のウッディネスに、紅茶、アプリコット、熟した洋梨等の華やかなオーク香が、枯れたようなドライな刺激と共に感じられる。シェリー感は濃すぎずクリア寄りで、夏場であっても嫌味にならない。

味:口当たりはスムーズで度数相応だが、骨格は崩れておらず、余韻にかけて軽くヒリつくような刺激が残る。この点は酒質由来の要素だろう。口内で広がるシェリー樽由来のダークフルーツ系の香味はバランス良く、香り同様の印象。じわじわとドライなオーク、カカオチョコレートを思わせるビターなウッディネスが染み込むように長く残る。

バランスの良いシェリー系ブレンデッドモルト。おそらくニューメイクからブレンドしているタイプと思われるが、印象としてはマッカラン、グレンロセス、タムデュー、リベットあたり。原酒同士はしっかりと融合し、濃厚過ぎないシェリー感に、オーキーなフルーティーさ、華やかさがアクセントとなって、近年流行りの圧殺シーズニングシェリー系とは一線を画す、一昔前のボトラーズリリースを連想させるフレーバー構成。
開封直後、真夏というシェリー樽熟成ウイスキーに厳しい時期でのテイスティングでありながら、これだけ飲める点が素晴らしい。これから秋、冬にかけてじっくり楽しんでいけるグッドリリース。

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先日紹介させて頂いた、ドラムラッド社のファーストリリース。同社の伊志嶺代表、及びテイスターが自信をもってチョイスしたというボトルです。販売開始即完売したリリースですが、運良く入手することができ、この1週間、じっくりとテイスティングさせて頂きました。

ボトラーズブランド・ドラムラッドについては当ブログでも紹介しておりますので、前置きは不要でしょう。同ブランドのアピールポイントの一つは、テイスターの顔が見えること。実績のあるテイスターが総意でチョイスする、美味しさ、面白さ、個性。。。これら明確な狙いのあるリリースにあります。
ただ、本音を書かせてもらえれば、1st リリースの情報を見た際、楽しみだというポジティブな想いだけでなく、おや?と思うところが無いわけではありませんでした。

それはドラムラッド社がラベル上でも掲げるビジョン「PRIDE MAKES DELIGHT」や、コアレンジのコンセプト「蒸溜所のハウススタイルを体現する樽や、今のウイスキーの旨さと豊かな個性を持った樽」を掲げるリリースの第一弾が、素性を明記できないシークレットシリーズかつ、ブレンデッドモルトであったことにあります。
また、スペックから「所謂シーズニング圧殺タイプかな」という予想もあって、個性がわかりにくいのではないか、果たしてコンセプトに合致するものなんだろうか…と、懸念する部分があったのです。




しかし、そうした印象はテイスティングしてみて消えました。
ブレンデッドモルトといっても、これはニューメイクの段階でバッティングされたものでしょう。もはや「スペイサイド地域産」という、一つの原酒と言っても過言でないレベルで融合し、同地域のモルトが熟成することで感じられる、軽やかでフルーティーな個性がしっかりと感じられます。一方で蒸溜所の個性としては、癖の少ないクリア寄りの酒質の中に、度数落ちでありながら骨格を残すアタック、刺激から有名蒸留所のいくつかを連想する酒質が感じられます。

シェリー感には現行寄りのシーズニング的な要素はありつつも、圧殺的なしつこさではなく、熟成によって付与されたオークフレーバーや、酒質由来のフルーティーさが混ざり合う点が好ましい。また、度数落ちのモルトに見られる、やや枯れたニュアンスと、それによって強調されるドライな華やかさがシェリー系の甘みの中でアクセントとなっています。
往年の愛好家にとっては、懐かしさも感じるウイスキーですね。個人的には、BBR社がリリースしていたブレンデッドモルトウイスキー、ブルーハンガー25年の1stや2ndリリースを彷彿とさせるキャラクターだと感じました。

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(BBR ブルーハンガー25年。初期のころのものは、やや枯れたようなシェリー感、オークフレーバーに、熟成を経たモルトのしっかりとしたフルーティーさが特徴的だった。今回のドラムラッドリリースは、近年寄りのシェリー感ではあるが、その中にこうしたリリースを彷彿とさせる要素が備わっている。)

スペイサイドという地域らしさに加え、現行品のウイスキーの中でも十分な美味しさ、魅力的な個性を秘めたカスクのチョイスは、シークレットというベールの中にそれを見出し、固定概念にとらわれず後押しする。テイスターチームがあってこそのリリースであるとも感じます。
というか、現行品でこれ以上のシェリー系のウイスキーを、この価格で調達するのは難しいのではないでしょうか。前情報で予想したことから一転して、なるほど、これこそドラムラッドの1stリリースに相応しいんじゃないかと思えました。

ブログ公開に先立ち、伊志嶺さんにメッセージを送ったところ、こうしたカスクは今後も調達できる見込みがあるとのこと。ドラムラッドのシークレットスペイサイドは今後も期待できそうです!

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THE AGE of INNOCENCE
ROUGH COAST 
Islay Single Malt
Batch1 Red Wine Cask 

さて、今回のリリースは同社の理念を体現したコアレンジである「THE ONE DRAM SELECTION」であったわけですが、8月19日には若い原酒だからこその個性、あるいはカスクフィニッシュ等によるこれまでにない新鮮さ、驚きのある味わいを楽しむグレード「THE AGE of INNOCENCE」の発売も予定されています。
ネーミングは「Rough Coast (荒れる海岸)」。これは今回のみのリリースではなく、今後もBatchを重ねる形で、リリースを継続していくシリーズになるのだとか。

近年のスコッチウイスキー業界では、オフィシャル側との関係で蒸溜所名を明記してのリリースが難しくなってきています。
アイラシングルモルトという表記はシークレットXXXXと同様に、いかにも現代のウイスキーという感じですが、中身はスモーキーさのはっきりした原酒で、ハイボールにもマッチするとのこと。カスクフィニッシュのリリースは当たり外れが大きい印象があり、普通なら抵抗を感じてしまいますが、このメンバーが選んだなら…と、早くも後押しされている自分が居ます。

PBリリースが増えてきた昨今の市場において、その中でもしっかりとしたメッセージ、選定者の顔が見えるというのは、一つ重要なファクターなんですね。


最後に。。。全く関係ないのですが、自分が使っているスマートウォッチのデザイン(配色)が、THE ONE DRAM SELECTIONラベルに似ているなと。ドラムラッドブランドにますます思い入れを持ってしまいそうです(笑)。
そんなわけで、今後のリリースも楽しみにしております!!

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