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龍流 ブレンデッドジャパニーズウイスキー 43% 桜尾蒸留所✖️BAR お酒の美術館

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THE RYURYU 
BLENDED JAPANESE WHISKY 
“SAKURAO DISTILLERY” 
For BAR LIQUOR MUSEUM
700ml 43%

評価:-(飲んで評価いただければ幸いです)

香り:ややドライでエステリー、華やかさとスモーキーなトップノート。ドライアップルや柑橘に土や焦げた藁を思わせるピート香が混じる、微かにスパイシーで複雑なアロマ。時間経過でアップルタルト。

味:スムーズで柔らかい口当たり。ピーティーで砂糖をまぶしたグレープフルーツや燻した麦芽の甘さとほろ苦さ。余韻にかけてはバーボンオークの華やかさとナッツやシリアルを思わせる香ばしさ、後からウッディな苦味がピートスモークとともに感じられる。

桜尾蒸留所のモルト原酒とグレーン原酒だけで構成したブレンデッドウイスキー。その香味はピーティーかつエステリー。ミズナラ樽とバーボン樽に由来する清涼感あるウッディネスに、グレーンの緩やかな甘さ、香味ともドライ寄りの構成であるためオールシーズンで楽しめる構成。ストレートやロックでも充分楽しめるが、やはりおすすめはハイボール。スモーキーでいて飲みやすく、その中に桜尾蒸留所の個性がしっかりと感じられる。

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BAR お酒の美術館を展開するNBG社と、広島県の桜尾蒸留所を操業するサクラオブルワリーアンドディスティラリー社(以下、サクラオ)とのコラボリリースです。
桜尾蒸留所の3年熟成以上のモルト・グレーン原酒でブレンドした、ブレンデッドジャパニーズウイスキー。また単一蒸留所で両原酒を製造し、ブレンデッドウイスキーとして製品化しているのは国内では富士御殿場、桜尾のみであり、世界的にも非常に珍しいシングルブレンデッドウイスキーでもあります。(※嘉之助蒸溜所の日置グレーンは別蒸留所として整理)

お酒の美術館のコラボリリースでは、過去リリースされてきた第一弾の発刻、祥瑞、第二弾の琥月、姫兎、全リリースで、蒸留所との初期調整から原酒の選定やブレンドまでを担当させてもらっており、今回のコラボリリース第3弾も同様に協力させて頂きました。
今作に関するリリースの経緯等、概要はNBG社のプレスリリースにまとめられているため、本記事ではブレンダー視点でウイスキーを紹介していきます。
なお、これまで同様にリリースに当たっての報酬、ロイヤリティ等は頂いておりません。



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桜尾蒸留所の操業者であるサクラオ社(旧・中国醸造)は、歴史こそ100年を超えますが、現在の設備における創業はモルトウイスキーが2017年、グレーンウイスキーが2019年と比較的近年であり、それ以前は自社蒸留の原酒以外に輸入原酒を熟成、ブレンドしたものを主力商品としてリリースしてきました。
大きな転換点を迎えたのが2023年。スタンダードなリリースであるブレンデッドウイスキー戸河内を、100%自社蒸留&熟成のモルト原酒とグレーン原酒で造る、ブレンデッドジャパニーズウイスキーへリニューアルするという、クラフトメーカーとしては異例の挑戦を実現させたのです。

今回のPBは、このブレンデッドジャパニーズウイスキー戸河内”プレミアム”の兄弟銘柄、より厳選した原酒を用いたスペシャル版に当たります
構成原酒はモルトウイスキーがノンピートとピーテッド、グレーンは国産の丸麦を100%使用した桜尾蒸留所独自のもの。整理すると、原酒としては以下が使われており、熟成樽はバーボンとミズナラで、モルト比率のほうが高い構成(モルト6:グレーン4)となっています。

【ブレンデッドジャパニーズウイスキー龍流構成原酒】
・桜尾ピーテッドモルト(桜尾熟成:バーボン樽)
・桜尾ノンピートモルト(桜尾熟成:バーボン樽)
・桜尾ノンピートモルト(桜尾熟成:ミズナラ樽)
・桜尾ノンピートモルト(戸河内熟成:バーボン樽)
・桜尾グレーン(桜尾熟成:バーボン樽)
※全ての原酒が3年熟成以上

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(桜尾蒸留所のポットスチル。コラムスチルも併設されており、様々なタイプの原酒を生み出すことが出来る。)

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(桜尾蒸留所の熟成庫。温暖な環境で、力強い個性を持つ原酒に仕上がる傾向がある。奥にパラタイズ式で貯蔵されているのがグレーン原酒。)

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(廃線となった鉄道用トンネルを再利用している戸河内熟成庫。冷涼かつ多湿な環境が特徴であり、樽感は穏やかだが口当たりが柔らかく、エステリーな原酒に仕上がる傾向がある。)

ボトルは戸河内と共通のため、単に戸河内の詰替えなのではないか、ラベル替えではないかという声も見聞きしましたが、そんなことはありません。
龍流の味わいを構成原酒別に分解すると、ピーテッドモルト原酒のはっきりとしたスモーキーフレーバーに、バーボン樽原酒由来の華やかさが骨格を形成。そこにグレーン原酒が柔らかさと、ふくらみのあるエステリーな甘さを。ミズナラ樽由来の爽やかでスパイシーなフレーバーや桜尾熟成庫と戸河内熟成庫で異なる熟成感を持つ複数の原酒が複雑さを加えています。

戸河内プレミアムと飲み比べると、戸河内プレミアムのほうがグレーン原酒のフレーバーが主体となっており、スモーキーさもほとんどないため兄と弟というか、兄と妹(あるいは姉と弟)くらい違う感じですが。どちらのブレンドも桜尾グレーン原酒に共通点があり、戸河内プレミアムを飲んだ後で龍流を飲むと、スモーキーフレーバーの中にあるグレーン原酒由来の味わいにピントが合いやすいのではないかと思います。

桜尾グレーン原酒は、国産丸麦100%に糖化酵素としての輸入麦芽1の比率で造られる、麦原料のグレーン原酒です。そのため通常のコーンベースのグレーン原酒よりもボディに厚みがあり、味わいにも勢いがある。バーボン樽との組み合わせで、現時点では富士御殿場のヘビータイプグレーンに似た印象を受けるものに仕上がっています。
2021年に発表された「ジャパニーズウイスキーの基準」以降、ボリュームゾーンのリリース向け国産グレーン原酒をどうするかは各社大きな課題となっていたところ。それをいち早く解決して商品化に繋げた桜尾蒸留所の取り組みに、ただただ感嘆させられます。今回のリリースでは、原酒の豊富さや製造・熟成環境だけでなく、同蒸留所のグレーン原酒に是非注目してほしいです。

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(ブレンデッドウイスキー龍流のブレンド風景。候補となるレシピを試作を繰り返し、絞り込んでいく。)

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(様々な構成を試し、最終的に候補となった3種のレシピ。)

PBを作るに当たり、お酒の美術館からはスモーキータイプで手軽飲めるものをと依頼されていたため、ブレンデッドジャパニーズウイスキーという仕様のままに、ピーテッド原酒をどう活かしていくかがポイントでした。
幸か不幸か、ピーテッド原酒とグレーン原酒は馴染む比率に限りがあるように感じられ、グレーンを4割より多く使うとグレーンのフレーバーが目立ちすぎてまとまらず、4割より少なくするとモルトの若さが強く出て粗い仕上がりとなる。モルトとグレーンの比率はあまり迷いませんでした。

というのも上の写真にあるサンプルAは、一番最初の試作で「こんな感じかな?」と思いついたレシピであり、最もピーティーな構成。
その後何度も試作を繰り返しましたが、個人的にはこのレシピが一番好みでしたね。ブレンダーをやらせてもらっていると、結局一番最初に思いついたレシピが一番好みだった(あるいは完成形に近かった)ということは珍しくありません。

その後も用意頂いた原酒を使って試作を繰り返し、当日印象に残ったレシピの中から、バーボン樽原酒の比率を増やしたフルーティー寄りな構成のサンプルB、ミズナラ樽原酒の比率を増やしてスパイシーかつ複雑なサンプルCが候補として残り。後日、蒸留所側で3種を試作→一定期間のマリッジ→お酒の美術館の店長会議での投票でボトリングするレシピが決まったという流れです。
何れも桜尾蒸留所の個性がしっかり感じられるものでしたが、選ばれたレシピはサンプルB。フルーティー寄りなレシピで、スモーキーさとのバランスがとれているタイプです。万人向けのイメージで造っており、ちょっと残念でしたが狙い通りの結果でもありました。

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今回の企画は、桜尾のブレンデッドジャパニーズウイスキーでPBを造れたら良いなと、ダメ元で話を持っていったところ、この条件なら…→ええ、やりましょう(社長即決)→じゃあくりりんさん、後宜しくお願いします…。という形で話がまとまり、光栄なことにブレンダーも務めさせてもらいました。
国産原酒だけのブレンドは、モルトだけなら過去何度かありますが、モルトとグレーンを用いるケースでは初めて。また一つ、貴重な経験をさせてもらいました。

リリースにあたっての条件は一個人や一店舗で出来るようなものではなく、今国内で最も勢いのあるBARチェーンお酒の美術館だからことやれたという感じですが。何より、サクラオだからこそ、この仕様、この規模のPBを造ることが出来たと感じています。
本PB「龍流」は、全国のお酒の美術館で提供されています。リリース本数は約2000本で、すぐに無くなるものではないでしょうが…次があればサンプルAのレシピをリリースしたいですね(笑)。
皆様、お酒の美術館とサクラオブルワリーアンドディスティラリーのリリースを、引き続きよろしくお願いします。

シングルモルト 三郎丸 令和6年能登半島地震 チャリティーボトル

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Single Malt Japanese Whisky 
SABUROMARU 
Noto Charity Bottle 
Aged 3 years 
Distilled 2000 
Bottled 2024 
Cask type Bourbon Barrel #200142 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートからしっかりと主張するスモーキーさ。グレープフルーツやレモンピールを思わせる柑橘香、燻した麦芽に土のアロマも伴う。

味:柔らかい麦芽由来の甘みを伴う口当たりから、ピートのほろ苦さ、スモーキーさが香り同様の柑橘感をともなって力強く広がる。余韻はピーティーでパワフル、焦げた藁や柑橘の綿、喉を通じて体の中心に熱い酒精が宿る。

三郎丸蒸留所のハウススタイルである、ピーティーな酒質の個性がはっきり感じられるシングルモルト。3年熟成という期間は一見すると短いが、雑味少なく柔らかい口当たりや香り立ち、存分に個性を発揮した構成。また、本リリースはアイラ島のピートではなく、スコットランド内陸で産出したピートで仕込んだ麦芽を用いているため、余韻にかけて強くスモーキーさが主張するのも特徴と言える。
この優しくも力強い味わいが、1日も早い復興の後押しと、被災地へのエールとなれば幸いである。
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令和6年能登半島地震によってお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。
本日紹介するのは、1月9日に若鶴酒造・三郎丸蒸溜所から発表(プレスリリースは1月16日に実施)された、令和6年能登半島地震への寄付を募るためのチャリティーボトルです。

本リリースでは、私もリリースメンバーの一員として原酒選定、各種文書の文案作成等で協力させて頂きました。
関東在住のくりりんが、なんでこのチャリティーに?と思われるかもしれませんが、これまでの活動や血縁関係で北陸地方には所縁があり、震災当日は偶然同地方に居たこともあって、現地の混乱も僅かながら経験しました。
能登半島等被害の大きな地域に比べれば私の経験は微々たるものですが、早期復興に少しでも協力できればと本企画に協力させて頂きました。

一般発売は1月22日から、若鶴酒造の直営オンラインサイトであるALCにて。その売り上げは消費税、資材費を除いた全額が、日本赤十字社の令和6年能登半島地震災害義援金に寄付されます。
生産量の限られる三郎丸において貴重な1樽を実質無償提供すること。さらに、本リリースとは別に、今やベストセラーとなった「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール缶」の売り上げを、一部義援金として寄付することまで発表されています。

三郎丸蒸留所があるのは本地震によって被害を受けている北陸地域であり、直接的な被害は少なかったとは言え、観光や消費の点では間違いなく影響があります。
自分達も苦しいが、それでも地域に恩返しがしたい。このプロジェクトには金額以上に、稲垣社長をはじめとした各メンバーの想いが込められていると感じます。



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さて、ここから先はチャリティーボトルの中身の話をしていきます。
今回のチャリティーボトル用に選定されたのは、三郎丸蒸留所で2020年に蒸留された、内陸ピート仕込みの原酒です。フェノール値は50PPMで、蒸留器は勿論ZEMON。その原酒をバーボン樽で3年5ヶ月熟成させた、シングルカスク・シングルモルト・ジャパニーズウイスキーとなります。

後日リリース予定のシングルモルト三郎丸Ⅳ The Emperor と、スペック上は同じタイプの原酒ですね。
蒸留所で貯蔵する同仕様の原酒から、蒸留所スタッフの花里さんがピックアップしたのは写真の3種。No,200223は口当たりが非常に強く、まだ熟成が必要だと感じましたが、残る2つは最初の飲み頃を迎えているかのように、好ましいフレーバーと柔らかい飲み口を備えていました。
No,200182はピーティーでありつつ、全体を通して柔らかい麦芽や樽由来の甘さが主体。
No,200142は口当たりこそ同じ系統だが、余韻にかけて力強く好ましい柑橘感が特徴。
サンプルを飲んだ感想は概ね同じで、推しは後者。その後のミーティングで、単体で完成度が高く飲んで元気づけられるような、良い意味での勢いがあるNo,200142の原酒が全員一致で選ばれます。

なお、この原酒は昨年9月ごろ一度サンプリングされており、その際の下野さんの感想は今回のものとは全く別だったそうです。ギスギスとして溶剤系の刺激も強く、内陸ピートの仕込みであることからスモーキーさは強烈で、アイラピートの出汁感や柔らかさは出ていない、もっと暴れた印象の強いものだったとか。
それがわずか4-5ヶ月でこれだけの変化がある。熟成によるウイスキーの成長は、まさに男子3日会わざれば…と言うことなんですよね。今回選ばれなかった2種も、他の原酒同様に今後ますます成長していくでしょうし、次のサンプリングでは全く別な表情を見せてくれると予想します。


2024年1月1日、ちょうど新潟の南魚沼~長岡あたりの地域に自分は居ました。
同地域の震度は5強~。東日本大震災を想起させる揺れでした。
幸い、私の周囲に地震による直接の被害はなく。
普段やり取りするメッセンジャーのグループで、稲垣さんや下野さんの無事は確認。蒸留所も無事。ハリーズ金沢は少しばかりボトルが破損したようですが、マスターの田島さんも無事。まあT&Tの両名は元日から風邪で寝込んでいて、違う意味では無事じゃなかったのですが。
そしてその後、徐々に明らかになる震災の被害の大きさ。復興への険しい道のり…。

最初はBULKシリーズで復興支援ボトルをどうかと提案したのですが、それでは意味がないと稲垣さん。実は既に三郎丸モルトでチャリティーボトルをリリースしようと考えていたのだとか。そこからが早かったです。リーダーシップとはこういうものだと、見せつけられるような指示の速さ、周囲の仕事の速さで企画が動いていきます。
ラベルを書かれたコーラ氏(@c_o_l_a)に至っては、僅か2~3日でこの作品を完成。デザインもあっという間に決まり、当初予定より大幅に前倒してのリリース発表へと繋がります。

ラベルに描かれたのは、能登半島の見附島。今回の地震で大きな崩落があったことが報じられた、能登のシンボルとして知られている名所です。その在りし日の姿と昇る朝日に復興への想いを込めたNoto Charity Bottle。
この1本が、一日も早い被災地域の復興の一助となれば幸いです。

御岳 ファーストエディション 2023 シングルモルト 43%

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ONTAKE DISTILLERY 
THE FIRST EDITION 2023 
Single Malt Japanese Whisky 
Cask type 1st fill Solera Sherry Butt 
700ml 43% 

評価:★★★★★(5)

香り:トップノートはドライプルーンやレーズンを思わせる甘く穏やかなシェリー樽由来のアロマ。微かに柑橘やアーモンドのアクセント。ややビターで軽い香ばしさに通じる硫黄香も感じられる。

味:柔らかい口当たり、香り同様のドライフルーツのフレーバーから香ばしさ、コクのある味わい。酒質の透明感に通じる品の良い甘さが特徴で、余韻にかけては軽やかな刺激と栗の渋皮煮、カカオを思わせる適度にビターなウッディネスが染み込むように広がる。

ノンピートタイプの原酒で43%まで加水されていることから、香味とも各要素はあまり強く主張せず、シェリー樽由来のフレーバー含めて穏やかにバランスよくまとまったシングルモルト。ともすれば面白味に欠ける仕上がりとも感じるかもしれないが、じっくり味わってみると中々どうして味わい深いのは、この蒸留所の酒質とシェリーの古樽由来のポテンシャルからだろう。例えるなら、京料理のような和食に通じる上品さと奥行きがある。
何より本リリースを起点に今後の異なる仕様のリリースにも繋がる、スタートラインにしてハウススタイルを表現した1本である。

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直近5年以内に創業した新興蒸留所の中でも、ニューメイクでの評価だけでなく、創業者こだわりの環境、設備、ハウススタイル等から、ここは間違いないと、愛好家から高い期待を寄せられているのが鹿児島県 西酒造 御岳蒸留所です。

何がそこまで凄いのかというと、
  • ウイスキーの熟成は基本シェリー樽
  • シェリー樽の大多数はソレラ払い出しのもの(2019年〜2021年まではソレラ払出し100%、2022年以降は一部シーズニング有り)
  • 蒸留所内部だけでなく、外観、景観にもこだわった各種施設。
  • 焼酎造りで培われたノウハウ、技術等によって生み出される、クリアでありながらコクのあるニューメイク。
などなど。実はこれ以外にも多数あるのですが、ウイスキーに直結する要素としてはこのあたり。

特に話題となったのは、ニューメイクの味わいもさることながら、熟成に用いられているシェリー樽でしょう。
西酒造においてウイスキー事業の創業は2019年ですが、同社は1845年から焼酎を製造しており、代表的な銘柄が「天使の誘惑」。天使の誘惑はシェリー樽熟成を売りにしている焼酎ですが、御岳蒸留所では焼酎事業で培ったシェリー樽調達ルートを活用し、ウイスキーは基本的に全てシェリー樽で、それも先に記載したようにソレラ払出しという、愛好家としては興味を持たずにいられない樽で熟成されているのです。

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※御岳蒸留所から望む鹿児島、桜島(御岳)方面の展望。標高400mほどの場所にある蒸留所からの景観は、一見の価値あり。

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※御岳蒸留所の熟成庫内部。石造りの熟成庫の中には、ソレラ払出しのシェリー樽の証明とされる黒塗りの樽が並ぶ。エンジェルシェアは年2%とのことで、10年単位での熟成も期待できる。

ここでシェリー樽について補足をすると、ウイスキーの熟成に用いられるシェリー樽は、大きく分けると実際にシェリー酒の熟成に用いられていた樽(呼び方は複数ありますが、本記事ではソレラ・シェリー樽とします)と、擬似的なシェリー酒を入れて一定期間保管したシーズニング・シェリー樽の2種類があります。

ソレラ・シェリー樽は、シェリー酒の消費量やそもそも熟成方法の関係から流通量が少なく、また樽ごとの香味も安定しづらいことで、現在は一定品質のものを大量に確保できるシーズニング・シェリー樽が主流となっています。
しかし愛好家間では、昔はソレラ・シェリー樽が主流であり、そして昔の方がウイスキーは美味しかった、つまりこれはソレラ・シェリー樽によるものだと、一種の神格化とも言える評価を受けています。

実際のところどうなのか、この考察については長くなるので本記事では省略しますが、ソレラ・シェリー樽はアメリカンオークのみが使われており、長期間シェリー酒を熟成していたため古樽となって木材そのもののエキスは出にくく、ゆっくりと熟成が進みます。故に良質な樽であれば長期熟成を経て華やかでフルーティーで、そこにシェリー樽由来のフレーバーがバランスよく交わる形が期待できます。
一方でシーズニングシェリー樽の保管期間は1年〜4年程度であり、樽材はアメリカンオーク、スパニッシュオーク、どちらもありますが、木材由来のエキスが多く出るため、特にスパニッシュオークのものは早い段階で濃厚な味わいに仕上がるという傾向があります。

そのソレラ・シェリー樽を使ったであろう御岳蒸留所のシングルモルト、ファーストリリースはいつ出るのか、個人的にも非常に楽しみで、その発表があったのは2023年11月末。記憶する限り、ファーストリリースにシェリーカスクを持ってきたクラフト蒸溜所は初めてだと思います。
構成原酒はもちろん御岳蒸留所のこだわりの一つであるシェリー樽熟成にあり、発表されたファーストリリースのラベルには「1st fill Solera Sherry Butt」の文字がしっかりと記載されています。


本リリースの一般販売開始は12月20日。(公式サイトでの抽選販売は同日11時から)
実は御岳蒸留所は友人複数名がカスクオーナーになっており、早い段階でそのニューメイクをテイスティングさせてもらっていました。
また今回はその繋がりで、一般販売よりも早くシングルモルトをテイスティングさせてもらいました。
その印象はレビューの通りですが、思った以上に上品で、そしてバランス型の仕上がりという感じです。これは、御岳蒸留所が目指すウイスキーの方向性である「芳醇なフルーツの香り。バランスの取れた香味。喉を滑るようなクリアな飲み口。」によるものと思います。

シェリー樽由来の風味は、加水されていることもあって柔らかく穏やかで、ひょっとするともっと濃厚でウッディなスパニッシュオークのシーズニング的なものを予想されていた方からすれば「あれ?」と思うかもしれません。
ただし先に触れたとおり、ソレラ・シェリー樽は長期間熟成に用いられた後の古樽であり、元々長期間の熟成向き、短い熟成であれば酒質の味わいを活かす自然な仕上がりとなる傾向があります。今回のリリースで味わえる要素はまさにその傾向で、長期熟成を経て芽吹くであろう複雑さ、奥行きの種とも言える各要素を、じっくり飲むことで感じられると思います。

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※御岳蒸留所のポットスチル。奥は発酵層、糖化層。ポットスチルはラインアームを上向きに設計し、フルーティーで深い香味成分を取り出すことを狙う。

また、味わいのベースとなる御岳蒸留所の酒質については、ニューメイクの時に感じられたのは、柔らかさ、クリアで雑味が少ないのにコク、厚みがあるという、本来ウイスキーのニューメイクが持つであろう様々な要素のなかから、いいところだけ取り出したようなもの。自社培養の酵母によるところか、それとも技術によるのか、以前飲んだ際に本当に驚いたのを覚えています。
成長した原酒は、これは本リリースにおいては、特に味わいの中で口当たりの柔からさ、膨らみの中でその質の良さを感じられると思います。

こうした樽と酒質由来の風味をスコッチモルトに当てはめると、一昔前のオフィシャル・マッカランみたいな印象もあるシングルモルト御岳。
しいて言えば46%、あるいは50%仕様のリリースを飲んでみたいところですが、それはきっと今後実現してくることでしょう。
酒質は若くても長期熟成でも楽しめるクオリティがありますが、熟成環境や樽は長期熟成を狙えるものであり、むしろ下手に若い段階で出さず、一定の熟成を経た上で高度数のリリースとして出すほうが、リリースの完成度は間違いなく高くなると考えられます。

今回のリリースは、将来に向けてのスタートライン、ハウススタイルの卵。「世界を狙う」ではなく「世界が狙う」ウイスキーを目指し、今後ここからさらにスケールの大きなリリースが展開されてくることを、楽しみにしています。

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シングルモルト 長濱 セカンドバッチ 50%

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SINGLE MALT NAGAHAMA 
THE SECOND BATCH 
Distilled 2017 to 2019 
Bottled 2023 
Cask type Sherry, Koval, Islay Quarter, Bourbon Quarter 
500ml 50% 

評価:★★★★★★(5→6)

香り:甘やかなウッディネス、複数のスパイスを思わせるアロマにりんごのカラメル煮や柑橘、カシスシロップ、微かに焦げた木材を思わせる要素を伴うリッチなアロマ。

味:とろりとした口当たり。黒かりんとうのような軽い香ばしさを伴う甘さと麦芽風味から、スパイシーな刺激と合わせて柑橘のジャムを思わせる甘酸っぱさ。余韻はウッディでビター、微かなピートを伴いジンジンと口内を刺激する長い余韻。

シェリー系の原酒を土台に、特にKOVALカスク由来のスパイシーさやアメリカンオークのフレーバーが合わさって、複雑な味わいが形成されている。ピーティーな原酒も少し使われており、香味の中で奥行きに通じているのが心憎い。
一方で、リリース直後の印象は各樽のフレーバーが馴染みきっておらず、濃厚さの中に複数の個性があるようでチグハグしたところもあったが、時間経過で馴染み一本筋の通った複雑さへと変化している。オススメはストレートを時間をかけて。

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長濱蒸溜所が2023年5月にリリースした、シングルモルト第2弾。
シェリー樽熟成原酒を軸に、KOVAL(バーボン)カスク、アイラクオーターカスク、バーボンクオーターカスクによる熟成原酒をバッティングしたシングルモルト。基本ノンピートですが、シェリー樽原酒についてはノンピートとピーテッド、それぞれの原酒が使われている。若い原酒ゆえに馴染みきってない印象はあったものの、今できる最大限の工夫をしたと感じた1本だったところ。
そろそろ第3弾のリリースも控えているので、ここで復習しておきたいと思います。
(え?そもそも1stのレビューがあがってないじゃないかって、細かいことを気にしてはいけない…)

シングルモルト長濱は、第1弾がバーボン樽やミズナラ樽原酒など、長濱蒸溜所にある様々な樽をベースにバッティングしたシングルモルト。
リリース直後もテイスティングしていますが、先日都内某BARでブラインドテイスティングをする機会があり、改めて飲んでみるとスパイシーかつしっかり柑橘系のフレーバーがあって、長濱かな?とは答えましたがTHE FIRSTとはわからなかった。時間経過によっていい意味でフレーバーが馴染み、大きく印象が変わっていたんですよね。
そして今回、久々にテイスティングしたTHE SECONDですが、これもやはりいい方向に変わっていると感じています。

長濱蒸溜所だけでなく、若いウイスキー全体に見られる傾向ですが、若い原酒で濃いめの樽感をバッティングしたシングルモルトやブレンデッドは、それがマリッジを経て馴染んだと感じてもボトリング後さらにもう一段、経年変化によってフレーバーが一体化する傾向があるように思います。
若い原酒の場合フレーバーの奥行き、複雑さが少なく、かつ味わいが強いため、どうしても原酒同士が馴染みにくいのでしょう。小さい子供たちだけ集めてもわちゃわちゃして落ち着かない小学校のクラスのようですが、成長すればある程度落ち着いてきますよね。

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そうした意味でTHE SECONDの変化は、恐らくKOVALカスク由来のスパイシーさ、焦げたようなウッディさ、そして若い原酒由来の酸といった要素が、シェリー樽由来の色濃い甘さの中に混じり、ただそれという単独の存在だけではなくなったという感じです。
例えば酸味が熟成樽由来の甘味と合わさったことで、ダークフルーツや柑橘を思わせるフレーバーへと変化している感じ。元々持っていたポテンシャルがしっかり発揮されてきています。

一方で、長濱らしさといえば、柔らかい麦芽風味とスパイス香、限定でリリースされるシングルカスク含めて、今まで飲んできた大体のリリースに共通して感じられる要素がこのボトルにもあります。そしてそれは、リリース直後でも時間が経っても一定の主張をするので、あー長濱だなと安心させてくれます。

そしてTHE SECONDでは、もう一つの特徴としてトンネル熟成庫の存在がピックアップされていました。
長濱蒸溜所は、長濱駅前にある長浜浪漫ビールに併設された蒸留棟で原酒の仕込みが行われているものの、熟成は使われなくなった旧道のトンネル、廃校となった小学校、そして2022年からは琵琶湖に浮かぶ竹生島でも行われています。

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※旧観音寺トンネルを活用した熟成庫。県内では心霊スポットとしても知られていたが、熟成庫となって天使がきたからか、噂もすっかり。

小学校、トンネル、異なる環境での熟成。トンネル熟成庫は1年を通じて気温が冷涼で、樽感が強く出る30度を超えることはまずない環境。樽感としてはスコットランドでの熟成に近くなり、一方でトンネル内は湿度が非常に高いことも特徴です。
どのような違いが出るかというと、度数が下がりやすくなると言われており、天然の加水が効くためか、まろやかな口当たりになると聞いています。

荒々しくも濃厚な原酒が育ちやすい温暖な熟成環境に比べ、穏やかでまろやかな原酒が育つなど違いが明確に表れていることが、それぞれの原酒をブレンドした際の複雑さに通じるわけです。
まだ若い原酒であるため真価を発揮するには多少時間が要りますが、その時間を含めて楽しむのもクラフトの味というヤツですね。
竹生島熟成とピーテッドがテーマの3rdリリースも楽しみにしています!

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厚岸 ブレンデッドウイスキー 小雪 48% 二十四節気シリーズ

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THE AKKESHI 
BLENDED WHISKY 
SYOUSETSU 
20th. Season in the 24 Sekki 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(5-6)

香り:トップノートはプレーンな甘さの後で、焼き芋のような香ばしさ、微かな焦げ感と土のアロマ。じわじわとスモーキーで、奥にはオレンジやカスタード、オークフレーバーが潜んでいる。

味:口当たりはスムーズで瑞々しい。グレーンや樽由来の甘みの後から、柑橘、シェリー樽のヒント、麦芽風味とピート香がバランス良く広がる。余韻にかけて軽やかなスパイシーさとミネラル、ほろ苦く穏やかにスモーキーなフィニッシュ。

ピート、麦芽、グレーン、樽、それぞれが過度に主張せず、バランスの良い印象を受けるブレンデッドウイスキー。熟成感が増してきた結果がはっきりと出ており、ストレート、ロック、ハイボール、様々な飲み方でも楽しめる。特にハイボールがオススメ!
ストレートでは少しボディが軽い印象を持ったが、これは使用している厚岸熟成グレーンの質によるところか。この時期の降っても積もらない小ぶりな雪の如く…。

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二十四節気シリーズ、折り返しの第13弾。
飲んだ最初の一言は「まとまってきたなぁ」と。第一印象でそう感じるほど、今回のリリースもまたそれぞれの原酒の個性、樽感がバランス良くまとまっており、それぞれの原酒の成長が感じられる仕上がりです。
樽構成はバーボン樽メインに、モルトはミズナラ樽や繋ぎのシェリー樽がそれぞれ1〜2割か。微かに赤みがかった色合いにも見えるので、ワイン樽も少量使われているかもしれません。

原酒構成はモルト6:グレーン4、あるいは5:5といった、比較的グレーン原酒が全体を慣らしている印象。ピートフレーバーもその分穏やかで、ノンピートモルトも一部使われてる感じですね。
以前リリースされたブレンデッド大寒もそうでしたが、最近の冬のブレンデッドリリースはあえてグレーンの比率を上げているのか、加水によって全体がさらに慣らされてまとまりが良く、一方で少し軽いというかしんとしているというか、ボリューミーな傾向にある春から夏にかけてのブレンドの対極にあるように感じます。

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(2023年5月にリリースされた、ブレンデッドウイスキーとしては前作となる厚岸“小満”。原酒が熟成を増してバランスの良さを感じるのは今作と同じだが、ブレンド比率と構成原酒の違いで小満の方が躍動感を感じる。)

こうしたタイプのウイスキーは、味のインパクトが少ない分、面白みがないという印象を受けるかもしれません。
ただ、真逆に強すぎる個性、強すぎる主張のものは、毎日付き合うのが疲れるモノです。ウイスキーの完成系は一つではなく、毎日飲んでも飽きがないくらいの、ちょっと地味なくらいの味わいも完成系の一つだと言えます。
ブレンデッドウイスキーの場合、特に大手製品のスタンダードグレードはまさにそんな感じですね。

じゃあ厚岸の限定リリースにそれを求めるか?というと、それもまた好み次第ですが。。。こういうブレンドを自前の原酒だけで作れるようになってきた、というのが蒸留所としても成長の証。
1ショットで途中加水も試しながら、あるいは別途ハイボールも飲んでも飲み疲れない。むしろグレーンがよく伸びて、ストレートとはまた違う印象もあるくらいです。
厚岸蒸溜所のウイスキーとして、入門の1本にしてみても良いと思います。

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(厚岸蒸溜所の裏手。早い秋の終わり、忍び寄る冬の気配…)

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