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イチローズモルト 清里フィールドバレエ 33rd 53% シングルモルトジャパニーズウイスキー

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KIYOSATO FIELD BALLET 
33RD Anniversary 
Ichiro’s Malt 
Chichibu Distillery 
Single Malt Japanese Whisky 
700ml 53% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:メローでスパイシーなトップノート。松の樹皮、キャラメルコーティングした胡桃やアーモンド、艶やかさのあるリッチなウッディネス。奥にはアプリコットやアップルタルトを思わせるフルーティーさ、微かなスモーキーフレーバーがあり複雑なアロマを一層引き立てている。

味:口当たりはウッディで濃厚、ナッツを思わせる軽い香ばしさ、微かに杏シロップのような酸味と甘み。徐々に濃縮されたフレーバーが紐解かれ、チャーリング由来のキャラメルの甘さ、オーク由来の華やかさ、そしてケミカル系のフルーティーさが広がる。
余韻はスパイシーでほろ苦く、そして華やか。ハイトーンな刺激の中で、じんわりとフルーツシロップのような甘さとほのかなピートを感じる長い余韻。

香味全体において主役となっているのが、ウッディで新樽要素を含むメローでスパイシーな樽感。これは中心に使われているというミズナラヘッドのチビ樽によるものと考えられる。
また、アプリコットなどのフルーティーさやコクのある甘さにシェリー樽原酒の個性が、さらには秩父の中でもたまに見られるアイリッシュ系のフルーティーさを持った原酒の個性がヒロインのごとく現れる。その他にも、スパイシーさ、ピーティーさ、香味の中から登場人物のようにそれぞれの秩父原酒の個性が交わり、複雑で重厚な1本に仕上がっている。原酒の熟成は平均10年程度、高い完成度と技量を感じる。

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昨年8月に公演された、第33回清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」。その記念となるウイスキーが2023年5月15日に発表されました。
毎年、清里フィールドバレエのリリースにあたっては、その発起人である萌木の村の舩木上次氏が知人関係者にサンプルを配布されていて、今年もご厚意で先行テイスティングをさせていただいています。いつも本当にありがとうございます。

清里フィールドバレエの記念ウイスキーは、そのストーリーやフィールドバレエそのものをウイスキーのブレンドに反映して、25期の公開からサントリーとイチローズモルトで毎年作られてきました。
2020年までは、サントリーでは輿水氏、福璵氏が白州原酒を用いて。イチローズモルトでは肥土氏がブレンダーとして、羽生原酒と川崎グレーン原酒を用いて。
2021年からはイチローズモルトの吉川氏がブレンダーとなって、秩父蒸留所の原酒を使って、まさに夢の饗宴と言うべきリリースが行われています。

あまりに歴史があり、これだけで冊子が作れてしまう(実はすでに作られている)ので、本記事では直近数年、秩父のシングルモルトリリースとなった2021年以降に触れていくと、バーボン樽原酒とチビ樽のピーテッド原酒で白と黒の世界を表現した「白鳥の湖」。
ポートワイン樽原酒を用いて女性的かつミステリアスな要素が加わった「眠れる森の美女」。
それぞれのリリースがフィールドバレエの演目を元にしたレシピとなっており、グラスの中のもう一つの舞台として、更に贅沢な時間を楽しむことができます。

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※清里フィールドバレエが開催されている山梨県・萌木の村は、2021年に開業50周年を迎えた。その記念としてアニバーサリーシングルモルトが、秩父蒸留所のシングルモルトを用いてリリースされている。今作とは異なり華やかさが強調された造りで、こちらも完成度は高い。

一方、今回の記念リリースは舞台ドン・キホーテをイメージしてブレンドされているわけですが、正直見て楽しい演目である一方で、ウイスキーとして表現しろと言われたら…、これは難しかったのではないでしょうか。
造り手が相当苦労したという裏話も聞いているところ、個人的にも香味からのイメージで、老騎士(自称)の勘違い冒険劇たる喜劇ドン・キホーテを結びつけるのは正直難しくありました。

今回のリリースのキーモルトとなっているのは
・ミズナラヘッドのチビ樽(クオーターカスク)原酒
そこに、
・11年熟成のオロロソシェリー樽原酒
・8年熟成のヘビリーピーテッド原酒
という3つのパーツが情報公開されています。
これらの情報と、テイスティングした感想から、私の勝手な考察を紹介させていただくと。
通常と少し異なる形状のチビ樽原酒、つまりウイスキーにおける王道的な樽となるバーボンやシェリーではなく、個性的で一風変わった原酒を主軸に置くこと。これが舞台における主人公、ドン・キホーテとして位置付けられているのかなと。

そして、このチビ樽原酒に由来する濃厚なウッディさと、幾つもの樽、原酒の個性が重厚なフレーバーを紡ぐ点が、登場人物がさまざまに出てくる劇中をイメージさせてくれます。
特に中間以降にフルーティーで艶やかな、女性的なフレーバーも感じられる点は、まさに劇中におけるヒロイン、キトリ登場という感じ。
しかも余韻が樽感ではなく、ほのかなスモーキーさで引き立てられる点が、キトリと結婚することになるバジルの存在…、といったキャスティングなのだろうかと。口内に残るハイトーンでじんじんとした刺激は、さながら終幕時の万雷の拍手のようにも感じられます。

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※清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」
画像引用:https://spice.eplus.jp/articles/301927/amp

ただ、このリリースをフィールドバレエというよりウイスキー単体で捉えた場合、純粋に美味しく、そして高い完成度の1本だと思います。
造り手がベストを尽くした、一流の仕事。萌木の村に関連するリリースに共通する清里の精神が、確かに息づいている。秩父蒸留所の原酒の成長、引き出しの多さ、そして造り手の技量が感じられますね。

実は自分は秩父の若い原酒に見られるスパイシーさ、和生姜やハッカのようなニュアンス、あるいは妙なえぐみが得意ではなく、これまで秩父モルトで高い評価をすることはほとんどなかったように思います。
ただ10年熟成を超えたあたりの原酒のフルーティーさや、近年の若い原酒でも定番品のリーフシリーズ・ダブルディスティラリーの味が明らかに変わっている中で感じられる要素、そしてブレンド技術やニューメイクの作り込みと、流石に凄いなと思うこと多々あり、既に昔の認識のままでもありません。

良いものは良い、過去秩父蒸留所のモルトを使った清里フィールドバレエ3作の中では、今回の1本が一番好みです。
発表は5月15日、一般向けの抽選発売は5月20日からとのこと。萌木の村のBAR Perchをはじめ、国内のBARでももちろん提供されるはずですので、その際は、当ブログの記事が複雑で重厚な香味を紐解くきっかけの一つとなってくれたら幸いです。

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イチローズモルト 神田バーテンダーズチョイス 2023 60% #7163

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ICHIRO’s MALT 
KANDA BARTENDER’S CHOICE 2023 
Single Cask World Blended Whisky 
Cask No, 7163 (2nd fill Bourbon Barrel) 
Selected by Kanda Bar Society 
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)

香り:キャラメルナッツを思わせる甘さと軽い香ばしさ、古い家具、微かにオレンジのような果実香が混ざる。

味:口当たりはメローでボリューミー、オレンジカラメルソースやチョコウェハースからスパイシーなフレーバー。微かにフルーティー。入りはグレーンの個性から徐々にモルトの個性に切り替わっていく。
余韻はスパイシーでウッディ、紅茶を思わせる淡い甘さとタンニンがあり、長く続く。

第一印象はグレーンというよりも、バーボン系のウッディさ。ヘビータイプグレーンを思わせる色濃い甘さとウッディさがあり、その個性をモルトが引き算しつつ、スパイシーさとフルーティーさが足し算されている。モルトとグレーンの比率は4:6程度と予想。全体的に若い印象はなく、トータル10年程度は熟成されているようだ。
時間をかけてマリッジした複数の原酒の、異なる2つの個性が足し引きされ、融合したような味わいが面白い。

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2年に一度、神田祭りの開催と合わせてリリースされる記念ボトル第6弾。
2013年に第一弾の羽生がリリースされてから10年、その間、神田の飲食店はウイスキーブーム、インバウンド増からの感染症と、まさに急転直下。その苦労は各位計り知れないものだったと思われますが、こうしてリリースが続いたこと、またこのボトルを飲むとができたことを、一人の愛好家として嬉しく思います。

今作は秩父蒸留所のモルト原酒と、輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを1樽分ブレンドし、2nd fill バーボンバレルで約7年間マリッジしたという1本です。
ブレンドした時点で秩父のモルト原酒は3年程度の熟成だったそうで、7年強のマリッジ期間を合わせると使われている秩父はトータル10年程度の熟成品。最初のリリースから10年という節目のボトルにぴったりなリリースとも感じます。

ブレンド比率は香味からの予想で、だいたいモルト4:グレーン6。
グレーンの中でもしっかり色の付いたバーボン系のヘビータイプグレーンが使われている印象で、ブレンド比率は秩父モルト2、輸入モルト2、輸入グレーン(英国)2、輸入グレーン(カナダ)4あたりでしょうか。
これらがセカンドフィルで主張の穏やかなバーボンバレルの中で混ざり合い、追加熟成を経た結果、例えば新樽後熟でつくような後付けで個性を圧殺する強い樽感ではなく、元からあった樽感が混ざり、こなれたような熟成感に繋がっています。

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※神田祭り記念ボトル、2021(右)と2023(左)。どちらもシングルカスクブレンド。2021の方が色が淡く、若いバナナや柑橘類を思わせる酸味とプレーン寄りの甘さが感じられる。メローでスパイシーな2023とは構成が大きく異なり、好みも分かれそう。自分は2023のほうが好み。

一方で、今回のリリースで非常にわかりにくかったのが改正表示法に基づく裏ラベルの表記です。
原料原産地名:英国製造、カナダ製造(グレーンウイスキー)
見ての通り国内製造表記がなく。あれ、ひょっとして輸入原酒だけで作られているのか?と、ラベル画像を二度見三度見。。。
結論は、先に書いてある通り秩父原酒がちゃんと使われているわけですが。これは英国製造には2つないし3つの意味があったということです。

英国製造は
・英国で製造(製麦)したモルトを原料として秩父蒸留所で蒸留、熟成したモルトウイスキー。
・英国で製造(蒸留、熟成、ブレンド)されたバルクモルトウイスキー。
・英国で製造されたバルクグレーンウイスキー。
つまり、原料としての英国製造と、輸入原酒としての英国製造が重なった表記だったのです。
そしてそこに、カナダで製造されたバルクグレーンウイスキーが合わさって、全体で最も多く使われているのがグレーンウイスキーであるため(グレーンウイスキー)として表記される。

…いや、わっかんねーよこれ。
表示法の改正は、国民が原料等使われているものを理解しやすくするためって趣旨があったはずなのに、余計混乱を生じさせる記載になっています。
まあ他の酒類だとあまりこういうことはなく、ウイスキーが特別なんですが、個別に捕捉の情報を発信していかないと、いらぬ誤解を生じさせてしまいそうだなと危惧します。ベンチャーウイスキーさんもそこまで個別のボトルの情報を発信しませんしね。
その補足に私のブログが役立てば幸いですが…。

なんだか話が変わってしまいましたが、メローでスパイシーで、個人的には結構好みなボトルでした。ぜひ神田のBARでお楽しみください。

キリン 富士 シングルモルト ジャパニーズウイスキー 46% 富士御殿場蒸留所

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KIRIN FUJI 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
FUJI GOTEMBA DISTILLERY
700ml 46% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:ややドライだが、エステリーで華やかなトップノート。洋梨や白葡萄を思わせる軽やかなフルーティーさ、フルーツタルト、奥には乾いたウッディネス、干し草、微かにゴムのようなアロマも感じられる。

味:口当たりは軽めだが、桃の缶詰のシロップやフルーツゼリーを思わせるしっとりとした甘さ、白や黄色のフルーティーさが広がる。
余韻にかけては華やかでオーキーな熟成香が鼻腔に抜け、ウッデイでドライ、栗の渋皮煮を思わせる甘さと微かな渋み、ほろ苦さ、スパイシーな刺激も伴う。

キリン富士シリーズの3作目、これぞ富士御殿場蒸留所のシングルモルトという1本。
クリーン&エステリーのハウススタイルを体現した、軽やかでいて豊かなフルーティーさが特徴で、原酒は主としてバーボン樽熟成だろうが、ワイン樽なども含まれている印象。また、短熟から中長熟まで広くバッティングされているようだ。欲を言えばもう少しリッチな方が良かったが、価格を考えればこれ以上求めるのは酷。終売となったシングルモルト富士山麓18年に通じるフレーバーもあって、個人的には懐かしさを感じる1本でもある。

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ご無沙汰しております。
この数年間、本当に色々ありましたが、もはやコロナ禍ではないと言う感じか、街も人も、数年前の姿を取り戻しつつあるように感じます。
私もそろそろブログ活動を再開していくかー、と思いつつもだらだら先延ばしにしていたわけですが、先日サンプルを飲んでこれは面白いと感じていたキリンの新商品(2023年5月16日発売)をフライングで買えましたので、これを皮切りに、活動を再開していこうと思います。

さて、今回のシングルモルト富士ですが、個人的にはよくぞ富士御殿場モルトの味わいを通常リリースで復活させてくれたと、評価点以上に感動した1本です。
また5000円〜6000円という価格帯で、このクオリティのジャパニーズシングルモルトモルトがリリースされるという点も、ウイスキーの高騰の中ではありがたいことであり。ブームを受けて量産した大手メーカーの原酒が着実に育っていることの証でもあって、非常に嬉しく思います。

原酒構成を予想すると、8〜9割がバーボン樽で、原酒は平均10年あたり、だいたい6〜18年くらいの短塾から中長熟原酒がバッティングされている印象。
バーボン樽由来の華やかさとフルーティーさ、そこに複雑さを加える異なる幾つかの樽感、富士御殿場蒸留所らしいクリーンでエステリーな酒質。熟成時に50%まで度数を落としているのもあってか線は細めですが、これだけオーキーで果実味や甘さのあるモルトを現行スコッチで探そうとすると、良くて同価格帯あるいはそれ以上となるため、価格面でも勝負できます。

かつて富士山麓ブランドでシングルモルト18年がリリースされていた時は、非常に美味しい(特に香りが素晴らしい)モルトだったにも関わらず、当時の市場はスコッチモルト優位でジャパニーズモルトは高いと一部の愛好家を除いて敬遠。相対的な価格差(2000年代当時で1本約2万円は高い…ボトラーズの60年代ロングモーンやベンリアックが買えた…)からも、あまり話題にならなかった訳ですが、今回のシングルモルト富士は、ついに時代と市場とキリンの出せるものが合致したと言えるリリースなのです。

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一方で、後日このシングルモルト富士がリリースされた際には、愛好家の世代によって大きく2つの感想が生じてくるのではと予想します。
1つは、私のように懐かしいという感想。もう1つは、味はさておき「キリンっぽくない」という感想です。
というのはここ数年、キリンの通年リリースは富士御殿場蒸留所で作られるグレーンウイスキーをベースとし、グレーン、あるいはアメリカンウイスキー系統の香味を持ったリリースが殆どでした。

・富士山麓シグネチャーブレンド
・キリンウイスキー陸
・シングルグレーン富士
・シングルブレンデッドウイスキー富士
飲むとわかりますが、全てのウイスキーがグレーン風味主体、あるいはグレーンそのもの。従って、富士御殿場のハウススタイルはグレーン系の香味だと、特に近年飲み始めた人にはそう認識されていてもおかしくない訳です。

ただし細々販売されていた蒸留所の限定品や、あるいは上述の18年のように、富士御殿場蒸留所は決してグレーンだけの蒸留所ではなく、フルーティーで華やかで、近年の愛好家の趣向にマッチしたモルト原酒が作られていました。
通常リリースが故に試して欲しいにも高すぎる、ものがない、というブーム時のテンプレにならないだろう本リリース。
2023年はジャパニーズウイスキー100周年にして、蒸留所創業50周年の記念の年。是非この機会に富士御殿場蒸留所、もう一つの個性を楽しんでもらえたらと思います。

追記:コメントにて、平均熟成年数7年強という情報を頂きました。飲んで感じた印象よりも数年若かったですが、それだけ若くても楽しめるクオリティの原酒が育っているのだと言えますね。

五島つばき蒸溜所 ゴトジン GOTOGIN 47% 1st Batch

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五島つばき蒸溜所 
ゴトジン 
GOTO GIN 
1st Batch 2022.12 
500ml 47% 

原材料 : ジュニパーベリー、椿の実、つばき茶、椿油搾り粕、ナツメグ、リコリス、アンジェリカ、柚子、カカオニブ、アーモンド、紅茶、シナモン、山椒、レーズン、ラズベリー、カルダモン、コリアンダー

テイスティングコメント:
爽やかでクリアなトップノート。雑味が少なくアルコール感も柔らかい。フレーバーは膨らみがありジュニパーを主体として柑橘や林檎、複数のスパイス、微かに青みがかったオイリーな甘さを伴い、これが全体の繋ぎとなっている。
王道的なジンの構成と言えるが、一つ一つのフレーバーが上質で、それらがまとまって全体のバランスも申し分ない。
今作はさながら守破離の守。ストレートで充分楽しめるが、ロックにしても上質な味わいは変わらない。原料、製造工程にこだわり抜いたというPRに偽りのない、美しい仕上がりである。

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昨年4月にクラウドファンディングの紹介記事を掲載させて頂いた、元大手酒類メーカー出身者が長崎県の五島列島に立ち上げるクラフトジン蒸溜所。五島つばき蒸溜所。

クラウドファンディングは設定額を超えてサクセスし、無事蒸溜所の建設がスタート。
コロナ禍に伴う物流混乱や大型台風を乗り越え、五島の美しい自然の中で、確かな技術と経験を持った造り手が多くのこだわりを詰め込み、生み出されるクラフトジン。その記念すべきファーストバッチが、昨年末に手元に届きました。
クラファンで支援させて頂いてから8ヶ月少々、光陰矢の如し、本当にあっという間ですね。ジンとおせち、和食って非常に相性が良く、年末年始でじっくり楽しませて頂いたところです。

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ジンと言っても作り方は幾つかの方法に分類されますが、共通するのはボタニカル、これによってどのようなフレーバーを付与するかです。
五島つばき蒸溜所のゴトジンは、五島でとれる「椿」をキーボタニカルに据えて製造、ブレンドを行っており、ボトルの形状は椿の花をイメージしたもの、原材料にも当然「椿の実、つばき茶、椿油搾り粕」の記載があります。
微かに感じられる柔らかく青みがかったような甘み、オイリーな質感、この辺りは椿由来のフレーバーかもしれません。

また、ジンと言ったら基本的には欠かすことが出来ない「ジュニパーベリー」も、一粒一粒、一文字割りにしたものを用いるという徹底ぶり。
この製法による違いがどの程度影響するのか、比較をしたことはないのですが、フレーバーを抽出する際に乱雑に割られ、砕かれたモノを使うか。それとも整ったモノを使うかは、溶け出すフレーバーに影響することは間違いないでしょうから、雑味や苦味といった要素の違いに繋がるのではないかと予想出来ます。

ベースとなるスピリッツは、特注の蒸留器でサトウキビを使って作る無味無臭、柔らかい味わいのもの。ここに上述のフレーバーが溶け込むことで、クリアでボタニカルの個性をしっかりと出したジンを生み出すことに繋がります。
実際、このゴトジン1st batchの仕上がりは非常に綺麗でで美しく、まさに造り手のこだわりを形にしたと言える構成です。
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こだわりと言えば、五島つばき蒸溜所ではボタニカル17種類毎に、蒸留の温度、カットポイントなどを変えてボタニカル毎に適したスピリッツを造り、複数出来た原酒をブレンダーがブレンドすることで様々なレシピ、リリースを構成しています。
こうしてブレンドされ、リリースされたのが今回のBatch No,1ですが、既に蒸溜所のオンラインショップでは1ヶ月5000円でオリジナルレシピによるリリースの定期購買コースも設定されています。(スタンダードのバッチも、蒸留ノウハウの蓄積とレシピの微修正で、バッチ毎に徐々にフレーバーが洗練され、変化しています。)

こうしてこだわりが形になり、慈しみと風景のアロマをもったジンを作る五島つばき蒸溜所ですが。このボタニカル毎にスピリッツを調整してブレンドする方法は、既に他のクラフトジン蒸溜所でも行われており、製法としてオリジナルではありません。
他方で、リリースを形作るブレンダーの存在が五島つばき蒸溜所の強みであり、オリジナルであるとも言えます。

本蒸溜所を立ち上げた造り手の一人、鬼頭英明氏は元キリン富士御殿場蒸溜所で33年間ウイスキー作りに関わってきたチーフブレンダーです。
正直、これだけのキャリアと経験のある造り手がブレンダーとして関わるジン蒸溜所は、少なくとも国内で他に聞いたことがありません。
鬼頭さんとは、同じくブレンダーとなる飛騨高山蒸溜所の設立に関連して、情報交換を行わせて頂いていましたが。
いやまず間違いないだろうと予想していた通り、最初から美味しいジンを届けて頂けました。

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クラファンの記事にも書きましたが、自分は離島好きで伊豆諸島は何度訪問したかわからないほどです。
離島の雰囲気、空気は、本土とはちょっと違うのです。これで五島にも渡っていたら、このジンの表現している“風景のアロマ”に一層の親しみや、イメージも具体的に出来たのではないかと思いますが…、残念ながら五島列島は未訪問。
写真や映像以上の情報は手元にありませんので、あくまで上質で美味しいジンであることは強調させて頂き、後の経験は皆様にお願いしたいと思います。

なお、五島つばき蒸溜所とそのこだわりのジン造りが、2023年2月9日(木)19:30〜、再放送:2月15日(水)11:15〜、NHKの「いいいじゅー」にて特集放送が予定されています。
鬼頭さん曰く、かなりしっかりと特集されている。我々の情熱と、クレイジーな造りを見て頂けたらとのこと。これは是非ゴトジンを飲みつつ楽しみたいと思います。

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番組URL:https://www.nhk.jp/p/ts/J7775NQ8GW/episode/te/MY7YQR1417/

山桜 安積蒸溜所 &4 ワールドブレンデッドウイスキー 47%

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YAMAZAKURA 
ASAKA DISTILLERY &4 
WORLD BLENDED WHISKY 
Sasanokawa Shuzo Co., Ltd 
700ml 47% 

評価:★★★★★(5)

香り:注ぎたてはグレーンを思わせるクリーンな甘さ、ほのかに香ばしいウッディネスやスパイシーさからアメリカンタイプの原酒の個性も潜んでいる。徐々にモルティー甘さ、薄めた蜂蜜、微かにハーブやスパイス、そして湿った柑橘。内陸系のモルトの個性と合わせて安積らしい個性がひらいてくる。

味:口当たりは一瞬若い原酒の粗さ、癖が感じられるが、全体的にはプレーンで甘みとまろやかさのある味わい。舌の上で転がすと安積らしいコクのある甘さと湿ったような酸味があり、バーボン樽由来の華やかさ、微かなスモーキーさと蒸留所としての個性を感じることもできる。
余韻は穏やかなウッディネスと微かなスパイス、ブレンデッドらしいすっきりとしたフィニッシュ。

安積蒸溜所の原酒と、世界4ヶ所のウイスキー原酒をブレンドした、ワールドブレンデッド。
原酒構成はバーボン樽がメインで、モルト:グレーン比率は6:4程度だろうか。序盤はグレーンやアメリカン、徐々に内陸スコッチやアイリッシュを思わせる構成原酒の個性の中から、キーモルトである安積蒸溜所の原酒の個性が開いてくるため、少なくとも全体の2〜3割程度は安積モルトで構成されていると思われる。
プレーン寄りの香味構成から膨らみを感じさせる味わい、そのバランスはさながら本醸造系の日本酒を思わせる。
オススメはハイボール。安積蒸留所らしさを残しつつ、スッキリとした味わいが非常に使いやすい1本。

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現存する東北最古のウイスキーメーカー、笹の川酒造が2016年から操業する安積蒸溜所の原酒を使い、満を持してリリースする同蒸溜所の名を冠した定番品となるブレンデッドウイスキー。安積蒸溜所&4。
使われている原酒のタイプは、裏ラベルの説明文やその香味からスコットランド、アイルランド、アメリカン、カナディアン、そして安積蒸溜所のモルト原酒でしょうか。

同酒造からは、古くはチェリーウイスキー、そして近年では山桜や、関連会社である福島県南酒販から963といったブレンデッドウイスキーがリリースされてきたものの、基本的に構成原酒の主体は自社貯蔵してきた輸入原酒です。
安積蒸溜所の原酒がキーモルトであると位置づけられたリリースは今回が初めてであり、安積蒸留所ないし笹の川酒造のウイスキー事業が、新しいステージに入ったというマイルストーンたるリリースでもあります。

販売価格は4000円少々。
コンセプトや価格だけ見れば、安積蒸溜所と関係の深いイチローズモルトのホワイトラベル(ホワイトリーフ)や、あるいは大手サントリーのAOを思わせるところはありますが、造りは全く別のベクトルでオンリーワンなリリースに仕上がっています。
それはあくまで大黒柱は安積であるということ。何かが突出したわけではないバランスのとれた造りの中に、3〜4年熟成程度のバーボン樽熟成の安積モルトの個性(麦芽風味と湿り気をおびた柑橘感)が感じられ、蒸留所名を関する資格は十分あるリリースだと思います。
全体的にプレーン寄りなので、香味としてはちょっと物足りなく感じるところはあるかもしれませんが、それらが逆に食中酒や後述するフロートなど様々なアレンジへの幅、自由度を残しているとも言えます。

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※2021年末に新たに完成した、第二熟成庫に設置されているベイマツ製のマリッジタンク。安積蒸溜所&4のブレンド後のマリッジに使われており、全てを払い出さず一部ブレンドを残した状態で、次のロットが加えられる。なんとも巨大なソレラシステムである。

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※安積蒸溜所リリースのブレンデッド。&4の約1000円下の価格帯に位置する山桜 プレシャス ブレンデッドウイスキー(右)。モルティーな安積蒸溜所&4に対して、コチラはグレーン比率が高くモルトも輸入原酒主体か、軽やかですっきりとした味わいが特徴。造りの大きな違いを感じる。

個人的に中小規模のクラフトウイスキーメーカーから、このクオリティのブレンデッドが定番商品として、この価格でリリースできる様になったという点は、ブレンド技術だけでなく蒸留所としての成長を感じる最大のポイントです。
欲を言えばシングルモルトを、という気持ちも愛好家にはあるでしょうけれど、1回の仕込みで1樽、年間4万リットル(1樽200リットルとして、200日分)しか原酒を生産できない規模の蒸留所で、考えなしに原酒を使うことは出来ません。
その中であっても、自社蒸溜原酒をキーモルトとして、定番品となる新しいリリースが可能となったのは、大きな一歩であると言えるわけです。

なお、安積蒸溜所のモルトの特性として、上述の独特のフレーバーは当然ありつつも、実はもう一つ、他の原酒との繋がりの良さ、喧嘩しない懐深さもまた特徴であり、安積蒸溜所&4のバランスの良さに寄与している点が、注目ポイントとも言えます。
それは原酒に限らず、ハイボールにした時の氷や炭酸水での伸び、料理との相性の良さ。他の原酒と混ざり合った時にそれを抱き込むような繋がりの良さ。まさしく安積らしさだと感じる要素です。

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※個人的にハマっているのが安積蒸溜所&4のハイボールにこれまでのリリースをフロートする飲み方。特にピーテッド要素があるリリースを加えるのが良き。さながら&5? 
食中酒から食後酒としてじっくり楽しめるリッチな味わいに。


リリースしたばかりで気が早い話になりますが、このブレンドレシピでピート要素を強くしたり、もっと安積モルト比率を上げたりした、プレミアムエディションなんてのも今後リリースされてくるのかもしれません。
あるいはこのリリースはこのままで、原酒をしっかり育ててシングルモルトの定常リリースへというプロセスも考えられます。
何れにせよ、先日レビュー記事を投稿したTWC向けのシングルモルト安積でも書いたように、今後の展開、成長が楽しみで仕方ありません。

ただそこまでの間にジャパニーズウイスキーブームは、日本のウイスキー業界はどうなるのか。ブームは続くのか終わるのか、見通せないことは多くありますが、先日、笹の川酒造の山口哲蔵社長、恭司専務らから「私たちはこれからもずっとウイスキーを作り続けますよ!」という力強い言葉を頂きました。

既に10年以上続いたウイスキー冬の時代を乗り越え、2010年以降ウイスキー市場が広がる中で、未曾有の大災害、風評被害、地震や水害といった天災そして世界規模でのパンデミック・・・。ブームという強力な追い風のなかで、これ程様々な逆風が吹いた蒸留所は他にありません。
吹くのは季節風(磐梯颪)だけにしてほしいものですが、そうした状況を乗り越え、ウイスキー事業を継続してきた笹の川酒造こその言葉に、大きな説得力を感じました。
一人の元郡山市民として、ウイスキー愛好家として、安積蒸溜所とそのリリースを今後も楽しみにしていきたいと思います。

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