カテゴリ

カテゴリ:ジャパニーズウイスキーの基準

酒類の原料原産地表示制度がもたらす国産ウイスキーの課題と闇

カテゴリ:

はじめに:今回の記事は、2017年に改正され、2022年4月から有効となっている改正食品表示法「原料原産地表示制度」の解説です。
長文かつ地味に難解な箇所もあるので、興味が無い方は、4月以降に変わった国内ウイスキーメーカー各社のラベル表記と、その意味を解説した記事として、記事中盤のラベル表記分析、それが内包する誤解の種や闇に関する箇所を読んで頂ければと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日本で作られるウイスキーの一部には、海外から輸入された原酒が使われていたこと。輸入ウイスキーやウイスキーではない酒類を、ジャパニーズウイスキー化して販売するロンダリングビジネスの存在…。

2016年、あるウイスキーのリリースがきっかけで表面化した、日本のウイスキー産業が内包する課題、ある種のグレーゾーンとそこから生じる”闇”は、その後、様々な議論や情報発信を経て基準が制定され、国産ウイスキーといっても一括りにはできないことが、愛好家の中では常識と言えるくらい認知度が高まったところです。
当ブログにおいても、最初期から問題提起、解決策の提案、メディアによる関連する情報発信の紹介、関連規約の紹介・解説等の情報発信を継続的に行ってきました。

一方、最近、国内メーカーが製造・販売するウイスキーの裏ラベルに「●●産」や、「国内製造」「英国製造」などの表記がみられるようになりました。
先の経緯を知る方だと、なるほどこれは2021年に定められたジャパニーズウイスキーの基準による表記か、と認識されるかもしれません。ですがこれは2017年に改正された食品表示法「加工食品の原料原産地表示」によるもので、この法律が効果を発揮するまでの経過措置期間が、酒類においては2022年3月31日までだったことから、4月以降に製造・出荷されたウイスキーについて法律に準じた表記がされるようになってきたものです。

同改正法はすべての食品、酒類に適用され、あくまで一定の整理に基づいて原料・原産地を明記しようという法律です。
後発となる洋酒酒造組合のジャパニーズウイスキーの基準は、同改正法との横並びはとられているものの、一般消費者へのわかりやすい説明を行う義務を定めた改正法と、ジャパニーズウイスキーのブランドを守り、高めるための独自基準とでは、全く別の概念となります。
結果、今年の4月以降酒類全般において今までは無かった原料、原産地等に関する情報が明らかになった一方で、ウイスキーだからこそ生じる問題点、分かりにくさが生まれつつあります。

一例としては以下の画像、左側のシングルブレンデッドジャパニーズウイスキー富士。富士御殿場蒸留所のモルト原酒とグレーン原酒のみをブレンドした製品ですが、国内製造(グレーンウイスキー)表記がどういう意味か、パッと理解できますでしょうか。

top

そこで今回の記事では、改正食品表示法の運用を実際の表示例(各社のラベル)に基づいて紐解き、そうして新たに見えてきた情報、解釈の幅、誤解の種や新たな闇となる危険性を紹介しつつ、今後解決すべき課題を整理します。

前置きとして食品表示法の改正による、ウイスキーにおける原料原産地表示の概要を、以下の通り説明します。
同改正法では原料原産地表示以外に、事業者情報の記入など、他にも変更された箇所がありますが、本記事ではウイスキーの中身を見る上で最も大きな変更点と言える原料原産地表示についてまとめていきます。

※酒類の原料原産地表示に関する概要(ラベルに表記する情報)
  1. 原材料名での産地記入(●●産)は、その製品のもととなる原料の産地が表記される。。
  2. 原材料原産地名での●●製造は、その製品の内容について”実質的な変更をもたらす行為”が行われた国、地域が表記される。
  3. ●●産、または●●製造は、どちらか片方しか表記できない。また、●●産、●●製造が3地点以上になる場合、多く使われている順に2地点を記載し、それ以降をその他としてまとめても良い。
  4. ●●製造に紐づいて表記されるもの(モルトウイスキーorグレーンウイスキーorスピリッツ等ブレンドアルコール)は、製品内で最も比率が高いものだけ記載すればOK
FullSizeRender

※参考資料
・食品表示法(酒類関連変更箇所概要):https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/shokuhin/pdf/0020002-131.pdf
・改正食品表示法Q&A:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/shokuhin/sakeqa/bessatsu_2909.pdf
・ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則:https://www.jfftc.org/rule_kiyaku/pdf_kiyaku_hyouji/whiskey.pdf
 ⇒本規則の解説記事はこちら
・酒税法及び関連法令通達:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/01.htm
・ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準:http://www.yoshu.or.jp/statistics_legal/legal/pdf/independence_06.pdf

以上。。。
といっても、文面を読んだだけではわかりにくいと思うので、各社のラベルから代表的なものを解説していきます。
企業の姿勢やブレンドの造り、実は結構色々なことがわかってきます。

なお、本記事は全てのメーカーのラベルを掲載したわけではありません。純粋にパターンが同じだったり、在庫と流通のタイミングの問題もありますが、中にはニッカウイスキー(アサヒビール)のように掲載していないケース※もあります。
表示したりしなかったり、あるいは全部表示したり…そして今まではウイスキーだと思ってたものが…だったり、各社本当にバラバラの状況も見えてくるのです。

FullSizeRender

※2022年4月以降も掲載していないケース:
当該改正表示法では「できる限り新基準に基づいて原料原産地表示をすること」としつつも、2017年9月1日の改正法施行前から製造所に貯蔵されていた原酒や原料を使用する場合、産地情報を確認できない可能性もあることから、それが一部使用であっても●●産、●●製造の表記をしなくても良いとされている例外規定がある。
ニッカウイスキーの場合は、主としてベンネヴィス産原酒、ニューメイクの使い方によると推察。


■各社のラベルの原料原産地表示解説

suntory_hibiki_royal

サントリーの響21年(左)とローヤル(右)。
これはお手本のような表記の整理です。
原材料名、モルト、グレーンは、ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則(以降は「表示規則」と記載)によって、通常のウイスキーはモルト、グレーン、アルコールの順番に記載することとなっているので、これまで通りです。

サントリーはオールド以上のブランドがジャパニーズウイスキーであることを明言されており、響もローヤルも、原料原産地はどちらも国産表記となります。
ただし響21年はモルトウイスキーが、ローヤルはグレーンウイスキーが割合として一番高いため、国内製造(モルトウイスキー、グレーンウイスキー)か、国内製造(グレーンウイスキー、モルトウイスキー)か、異なる順番で記載されています。
響は予想通りかもですが、ローヤルについては意外に感じる方もいるかも知れない新情報です。

red_midai

続いては同じサントリーからレッド、そしてサンフーズ社から御勅使。
安価なウイスキーに見られる、スピリッツがブレンドされいてるケースです。
レッドは原材料名はローヤル等と同じ、モルト、グレーンですが、原料原産地は国内製造(グレーンスピリッツ)のみの表記です。

ここで言うグレーンスピリッツは、酒税法に照らし、アルコール度数95%以上の穀物原料のブレンド用アルコールになると思われます。
おそらくモルト原酒、グレーン原酒も一部使われているのでしょうけれど、比率としてはグレーンスピリッツが一番高く。この場合、グレーンスピリッツ+グレーン原酒・モルト原酒+水(度数が高くなりすぎるので39%に調整)を加えた後、カラメル色素で色彩調整であることがわかります。

一方で、サンフーズの御勅使は原材料名、モルト、グレーン、スピリッツで、原料原産地名は国内製造(スピリッツ)になります。
ウイスキーにブレンドされるスピリッツは、先のレッドに使われている穀類を原料としたものと、そうでないモノの2種類に分けられ、穀類原料のものは表示規則で原材料への表示義務がなく、一方で、表示されている場合は廃糖蜜ベースのモラセスアルコールが一般的です。
つまりレッドは穀類原料のスピリッツがメインなので、原材料名には記載がないが原料原産地名に記載があり。御勅使は上述の穀類ではないスピリッツがメインなので、どちらにもスピリッツ表記があることになります。

なお、酒税法上のウイスキーをざっくり整理すると、原酒10%で他ブレンドアルコールでもウイスキーとして成立するのはご存知かと思いますが。つまり上述2銘柄は、記載したスピリッツをモルトとグレーンの合計に対して過半数以上90%未満までブレンドしたもの、とも整理されます。
またどちらも国内製造表記ですが、これらのスピリッツは、アメリカや中国、ブラジル等から粗留アルコールという形で輸入され、それを大手のアルコールメーカーが連続式蒸留を行い、純粋アルコールとして流通させたものが一般的です。
海外からの輸入原料でありながら国内製造表記となっているのは、概要2.にある製品の内容に”実質的な変更”が行われた場所が国内であるため、国内製造表記に切り替わっているのです。

kirin_riku_fujisanroku

ラベルがリニューアルしたばかり、キリンから陸と富士山麓。
これは同じ会社の製品ですが、原材料名の順番が違うもの。
シングルブレンデッドの富士の表記は本記事の上部の画像にある通りですが、輸入原酒を使っている陸と富士山麓は、原料原産地名に国内製造、英国製造の2か所の表記があり、どちらも一番多く使われているのはグレーンウイスキー。ただし、モルトウイスキーをブレンドしていない陸は、原材料名の表記がグレーン、モルトと、富士山麓の逆になっています。

陸も富士山麓も、グレーン系でアメリカンっぽい仕上がりの味わいなので、香味の面ではグレーンウイスキー表記に違和感はないわけですが…
「Kさん、富士山麓の裏ラベルの説明文に”世界”が加わったのいつだっけ」
「えっと、最近だね」
「キリンは、フォアローゼズをタンクで運んできて、国内工場でボトリングしてるんだってね」
「…そうだね」
「もう一つ質問いいかな」
「…なんだい?」
「米国関連の表記どうなった?」
「勘のいい客は嫌いだよ…」

mars_twin

マルスのツインアルプスは、紛らわしい事例の1つ。
自前で蒸留したモルト原酒に、輸入したモルト原酒とグレーン原酒を用いてブレンドされています。
原材料は、前述の通りモルト、グレーンですが、原料原産地名は、英国、カナダ、国内と3か国が並んでいる一方で、国内製造の隣にグレーンウイスキーのみが表記されています。

これはグレーンウイスキーが100%でも、何より国産なのでもなく、使われている原料全体の中でグレーンウイスキーが一番多いという説明です。(※上記概要4.参照)
使われているだろうグレーンウイスキー、モルトウイスキーあるいはブレンデッドバルクも含めて産地としては英国産、カナダ産、国産の順に比率が高いという表記でもあり、その中で一番多いのはグレーンウイスキーですと。おそらくマルスの場合、国産はモルトウイスキーだと思いますが…。
このラベルは背景情報まで知らないと、誤解を招きそうな表記となっています。

akashi_blend_malt
FullSizeRender

江井ヶ嶋酒造のブレンデッドのあかし(上左)と、シングルモルトのあかし(上右)。
こちらも紛らわしい事例で、よくあるパターンになりそうなもの。
一方で桜尾蒸溜所のブレンデッド戸河内(下4本)は、1種類でもいい原料原産地情報を、全ての原料毎に記載する表記を採用していて、対応は真逆となっています。

ブレンデッドのあかしは、説明文にもあるように自社蒸留のモルト原酒も使われていますが、輸入原酒のグレーンを最も多く使っているので、原料原産地表記は英国製造(グレーンウイスキー)のみ。
逆に、シングルモルトあかしは自社蒸留のモルト100%なので、国内製造(モルトウイスキー)となっています。
シングルモルトはシンプルで分かりやすいですが、ブレンデッドの方は説明文で補足されているものの、ちょっと分かりづらいですね。
戸河内のように書いてくれれば良かったのですが。。。

FullSizeRender

原料原材料表記で、大括り化がされている事例もあります。それがイチローズモルトのモルト&グレーン、リーフシリーズのホワイトラベル。

裏ラベルには、世界5地域からの原酒を使っていることが表記されています。直近ロットの原料原産地表示は「英国製造、アイルランド製造、その他(グレーンウイスキー)」。
最近のホワイト、香味としてはほぼほぼグレーンで、若いグレーンやカナディアンの酸味と穀物感のあるフレーバーが目立っており、表記を見るにイギリス(スコットランド以外含まれる可能性も)とアイルランド産のグレーンウイスキーがメインということなのでしょう。
勿論、両国産のモルトウイスキーも、グレーンウイスキーの比率未満で含まれると言う表記でもありますが、香味的にはモルト2のグレーン8とか、そんな比率では…。

一方でここで初めて出てくるのが「その他」表記。つまり大括り化です。
これは、同改正法においては含まれる原材料の産地や原料原産地が3以上ある場合、比率の多い順に2地点を表記して残りは「その他」として良いとされているもの。ここではカナダ、アメリカ、日本はその他分類の比率であることがわかります。
香味的にも、まあ確かに…と言う感じではあり、違和感はないですね。

akkeshi

最後に今年6月にリリースされた、厚岸シングルモルトの清明。
少し表記の仕方が違うタイプで、原材料が●●産であることを表記する方法をとっています。モルト:(大麦(イギリス、オーストラリア、北海道産))
嘉之助蒸溜所のシングルモルトも同様の表記が採用されてますね。この場合、改正食品表示法では全ての原産地を記載することになっており(※上記概要1.参照。大くくり化も一部認められている)、それに準じた表記となっています。

なお、概要3.でも触れた通り、この●●産表記と、原料原産地の●●製造表記は併記できないため、せいめいの裏ラベルに原料原産地表記はありません。そしてこの表記は、後で別メーカーの商品でも出てくるので頭の片隅に置いてもらえればと思います。


■原料原産地表示の解釈と誤認事例
同改正法の運用が本格的に始まったのは、経過措置期間が終わった2022年4月1日。
一見すると産地が見える化されたようでいて、実は正しく読み解くには改正法以外に、酒税法や表示規則の知識も最低限必要になり、誤解を生みそうな表示になっている商品があるなど、課題を残す状況も理解頂けたのではないかと思います。

なぜこんなことになっているかと言うと、輸入原酒と国産原酒という、2か所以上の産地・種類の原酒を混ぜてリリースされるのは、ウイスキーとブランデーくらいであり。かつこれだけ多くの銘柄、製造メーカーと需要が存在するのは、酒類においてはウイスキーのみであるためです。
ビールや日本酒、あるいは本格焼酎ならこうはなりません。甲類焼酎は、レッドのところで触れたスピリッツを加水したものが大半なので、原料と製造地域で類似の問題が発生しますが。

じゃあウイスキーはもっと詳しく表記するようにすればいいじゃないかと言うと、これもまた難しい。ちょっとでも中身が変わったら、ラベルを全て替えなければならないのは事業者にとっては大きな負担ですし、世界的に原酒と原料が調達されている現代にあって、どこに線を引くのか、何より一般消費者はそこまでの情報を望んでいるのか、消費者と生産者、どちらの立場にも立って線を引くのが法律であるためです。

結果、他の酒類では起こりえない表記と整理の複雑さが生じることとなり、表示に解釈の幅もある運用から、誤解を招きかねない表記だけでなく、新たな闇につながりかねない事例も発生してきています。

highball_fminami

例えば、ファミリーマートで限定販売している、南アルプスワインアンドビバレッジ社製のハイボール缶。原材料名にウイスキー(国内製造)とありますが、同社は国内でウイスキーの蒸留を行っているわけではありません。

同社は以前「南アルプスから湧き出るウイスキー」と説明文に記載した隼天※というウイスキーをリリースしていたことから、なるほど南アルプスにはウイスキーが湧き出す源泉があるのかとかぶっ飛んだことを考えてしまいましたが、そんなトリコ(少年ジャンプ)みたいなことはなく。
※実際は、以下の通り「南アルプスから湧き出るウイスキーに 最適な源水で仕上げた」という説明文で、絶妙な個所で改行されていたことと、文章をどこで区切るかで意味が違ったことから生じた誤読。

IMG_9694

この缶ハイボールは、輸入スコッチバルクとスピリッツをブレンドして加水し、ハイボール用に調整した段階で、モルトでもグレーンでもなくウイスキーとなり、上述の概要2.の「”実質的な変更をもたらす行為”」が行われた中間加工地点が国内と整理されたものです。

おそらく、当該ウイスキーを単体で原料原産地表示すると、
品目:ウイスキー
原料原産地名:グレーン、モルト、スピリッツ(国内製造)
でしょう。そして原材料としてのウイスキー(国内製造)となったものに、添加物とガスを加えて、最終的な品目がリキュール表記となったのではないかと考えられます。

以上の事例だけでも、改正法解釈の”実質的な変更をもたらす行為”については、蒸留なのかブレンドなのか加水なのか、解釈の幅があり得ることが分かるかと思います。
そして、そうした解釈の一つなのか、単なる誤表記か、最後は今回もまた事例の一つとなってしまうのが「松井酒造合名会社」のリリース各種です。

matsui_kurayoshi_sanin

左:マツイウイスキー 山陰 ブレンデッドウイスキー
原材料名:モルト・グレーン(国内製造)

中央:マツイピュアモルトウイスキー倉吉
右:マツイピュアモルトウイスキー倉吉シェリーカスク
原材料名:モルト(国内製造)

注目してしまうのが国内製造表記ですが、ポイントはそこから少しずれます。
この“原材料名”というのは、食品表示法でも表記規則でも、どちらの整理でも、モルト=大麦、グレーン=穀物となる、文字通り原材料です。モルトウイスキー、グレーンウイスキーの意味ではありません。
つまり、松井ウイスキーの山陰も、倉吉も、表記そのまの意味では、100%国産の精麦麦芽と穀物を使用したウイスキーということになります。(洋酒酒造組合側に、表記の整理を確認済み。) 

松井酒造は倉吉蒸留所にポットスチル等製造設備を2018年に導入・ウイスキーの自社製造を開始していたことから、ひょっとしたらひょっとするのか?
100%国産原料の国産モルトウイスキーとグレーンウイスキーを製造し、他社とは別格な極めて手頃な価格で提供するという、愛好家にとっての優良企業である可能性が微レ存か?

微粒子レベル級の期待を込めて、直接問い合わせをしてみたところ、製造担当者の方の回答は以下の通りでした。
  • 自社蒸留のモルトウイスキー原酒を一部使用している。だが全てを賄うことは出来ていない。
  • それ以外の原酒は、国内提携酒造から調達した国産原酒である。
  • マツイピュアモルトは、この2種類以上の国産原酒をブレンドしているため、ピュアモルトである。
  • 本社は過去にあった事例から、懐疑的な目を向けられることが多くあるが、現在は全て国内調達したウイスキーを使用している。故に裏ラベルも国内製造表記となる。
え、本当に100%国産なの?と、驚いてしまうと思いますが、慌ててはいけません、ここは冷静にいきましょう。

まず、使われているモルト原酒について、わかっていることから整理すると。
倉吉蒸留所は、輸入した麦芽を使ってウイスキーを仕込んでおり、計画としては発表されているものの、現時点で国産麦芽を使った仕込みは確認できていません。
仮に、国内提携酒造から調達した原酒というのが、モルト(国内製造)の本来の意味である、国産麦芽100%で作られた希少なモルト原酒であったとしても、自前の原酒が条件を満たさないため、このラベル表記は誤記である可能性が高いということになります。

グレーンについては、国内の大規模蒸溜所(富士御殿場や知多)からのグレーンウイスキーの安価多量提供のみならず、国産穀物で仕込んでいるグレーンウイスキーの存在は、各蒸留所関係者にヒアリングしても確認できません。
ですがグレーンスピリッツであれば、先に触れたような粗留アルコールを蒸留して造る国内製造グレーンスピリッツを提供してくれるメーカーがあるため、調達は不可能ではないことになります。しかし、純粋にグレーンウイスキーを指さないという消費者の誤解を誘うマナー違反に加え、国内製造の定義が”実質的な変更”によるもので国産穀物ではないことから、こちらも誤記、表示違反である可能性が極めて高いということになります。

そしてこれらは”国内提携酒造から調達した国産原酒”が、本来の意味での国産表記を満たすという前提に立っているものです。
ここから先は私見ですが、これまで個人的に関わってきた日本全国のクラフト蒸留所において話を聞く限り、松井酒造規模の大量リリースに対応できるだけの3年熟成以上のモルトウイスキーを提供してくれる蒸留所は、記憶にありません。ましてオール国産原料となると、なおのことです。
ラベルだけなら認識不足による単なる誤記となりますが、中の人の説明と合わせて考えると、そこにはもう一つ深くて暗い何かがあるように思えてならないのです。


■可能性の話:商品を製造して販売するA社と原酒を調達するB社
さて、以降はどこのメーカーの話でもありません。あくまで私の妄想であって、他産業(魚介とか食肉とか…)での過去の事例から、こういうことが出来てしまうのではないかという仮定の話になります。

現在、日本において各蒸留所で使われているブレンド用ウイスキーの外部調達は、蒸留所が直接行っているケースはまれで、大概は商社、輸入業者を介して行われています。
有名なところだとK物産さんとかですね。商社が調達可能なモルトウイスキーとグレーンウイスキー、その最低量と価格をリストアップし、蒸留所側に提示。蒸留所側が必要な量を発注する。
届いたウイスキーを使って、蒸留所側は商品を開発して販売するというのが、一般的な流れです。

ここで、
・商品を製造して販売するA社
・A社と繋がりが深く、実質的にA社の原料調達部隊であるB社
が居るとします。

yami

上のイラストのように、B社が輸入してきた原酒を、A社に対して「国産原酒」として展開。
A社は、B社の表記した仕様のままに、商品を「国産」として製品化し、販売した場合はどうでしょうか。

B社が酒類製造免許を持っている場合は、先に説明した概要2.の「”実質的な変更をもたらす行為”」で可能な解釈次第では、輸入原酒を国内製造化できる可能性があり、この場合はグレーゾーンですが合法的に国内製造表記が成立するかもしれません。例えば、上述のハイボール缶の時のような整理です。
ですが酒類製造免許は申請に製造設備を保有していることや、その後の製造実績等の必要があったりするので簡単にはいきません。安易な方法ですが、示し合わせた上での1:1取引なら、何らかの嘘をつく可能性もあります。

そして当該商品に対し、おかしいと消費者が感じたとしても、A社にあるのはB社が提供した「国産原酒」の情報のみです。また、消費者に対しては契約時の守秘義務の関係からと、別会社であるB社の情報をいちいち明かすことはないでしょう。

FullSizeRender

食品表示法の改正には、食品を扱う事業者の責任の所在を明確にすることも趣旨としてあり、製造生産者の表記も追加修正されています。
そして法律であるので、某組合基準とは異なり違反金等の罰則規定も当然存在します。原産地の虚偽記載は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金。法人である場合は、1億円以下の罰金。所管省庁による、立入検査等もあり得ます。
ですがこのケースでは、消費者等からB社の存在は見えず、仮に何かがあってばれたとしても、A社としては持ち得る情報で法令に合致した発信をしていたが、調達先(B社)に問題があったと、トカゲのしっぽ切りが出来てしまうのです。

先に触れたように、類似の事件は食品産業においては過去にあった事例であり、紙面とお茶の間を少しばかり賑わせてきたことは、皆様も記憶の片隅にあるのではないかと思います。
これまで、ウイスキーは各社の小さな事業の1つでしかありませんでしたが、今や日本酒を越える日本の主要輸出産業の1つであり、観光資源や地域産業復興のキーポイントとしても期待される、様々な産業と結びつくまでに成長してきています。
光りあるところに闇がある、光が強くなれば、闇もまた濃くなる。こうした考えのもと、見えない形で何かをしようとする人達が出てきてもおかしくないわけです。


■最後に:解決すべき課題と議論の必要性
今回、改正食品表示法について調べることにしたのは、先日キリンの富士シングルブレンデッドジャパニーズウイスキーに関して「この商品はシングルグレーンなんでしょうか?ラベルに国産グレーン表記しかないんですが」としてTwitterで質問を受け、正しく答えることが出来なかったことがきっかけでした。

IMG_9125

この質問は、酒造関係の知人が代わりに解説してくれたことでことなきを得ましたが。
少なくとも私も、質問をくれた方も、そして酒造関係の知人も、この表記は合法でも分かりにくいし誤解を生むという見解で一致しており。
じゃあ他の銘柄はどうだろうかと、色々調べてみたわけですが、思った以上に複雑で、情報量が多く、おかしな表記もある話だったことは、この記事を通して紹介した通りです。

加えて、別に特定企業を叩く意思は全くないし、私怨の類もないのですが、調べていく中で出てきてしまったマツイさんの名前。
マツイさんは、2016年に発生した業界と愛好家を巻き込んだ一連の騒動から、燃えてしまった火を消すのではなく、商売のターゲットを事情を知らないようなライト層、ウイスキー以外の酒類の愛好家、そして日本の情報を得にくいだろう海外層に定めている印象で、その点から見ても今回の表記がただの理解不足による誤記なのか、判断しかねる部分があります。
何故なら、所定の手続きを行い、内容を説明して所管の税務署等の許可を得たうえでリリースするのが酒類だからです。

私自身、以前からブログ等で記載している通り、また自分自身でもリリースに関わっているように、輸入原酒を使って自社原酒には無い個性を得て完成度の高いリリースをすることは、決して悪ではないと考えています。
電子機器、自動車、生活用品各種…オール国産でやっているのが珍しいくらいであるように、良いものは国内外問わず使う、その考え方はものづくりの一つの方針であり、それが結果として独自の強みになることも考えられます。
ただ、問題なのはそれを偽って使うこと、誤解を与えるような形で製品とすることです。

食品表示法の趣旨は、「食品を摂取する際の安全性及び一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保する」ことにあります。
偽った説明の元で、合理的選択の機会を確保できるかと言われたら出来ないでしょう。また、誤解を生む表記についても同様であると言えます。
同改正法は、実際に効力を発揮してから間もないため、運用的には法律の趣旨に合致する解釈が、更なる議論を経て整備されていく段階かと思います。先に触れた、いくつかのラベルの表記がそうであり、単に表記を詳しくすればいいだけの問題でもありません。ここは様子をみていきたいところです。

各社の表記をもう1段階統一する、あるいは表記の解釈に関するガイドラインを作る。国内製造表記の実質的変更に関する事例や基準、消費者目線でのQ&Aの拡充があってもいいでしょうし、状況によっては原材料名と原料原産地表記に二重の記載を必要とする…など、知りたい人が必要な情報を、誤解なく正しく得られるようにする取り組みは、この法律の概念に基づき必要なのではないかと思います。
そして、闇になり得る事例、消費者から見えないところへの対応も…。
なんというか、法律や政策というのは、あちらを立てればこちらが立たず、必ず何か想定外が生まれる。バランスが本当に難しいですね。
本記事がこれらの議論の呼び水となり、そして皆様の理解の一助となることに繋がれば幸いです。

ジャパニーズウイスキーをテーマにしたトークショーby alco 4/4(日)15時~

カテゴリ:
167130186_565909964369054_4848312705481895180_n

4月4日、alcoさんが企画・主催するオンライントークショーに参加することとなりました。
テーマは「ジャパニーズウイスキー(ニッポンのウイスキー)」、ファシリテーターを務める中井さんの進行に合わせて、プレゼンテーター3人がトークする感じです。
ただし自分は音声のみ参加なので、いつものアイコン画像か、代理のクリリン人形がカウンターに置かれる形になります。某ローカル局の某移動番組のディレクターのような感じで、画面外から2人にあれこれ言う感じですね。


オンライントークショー
TALKING ABOUT 
JAPANESE WHISKY
by alco


プロのバーテンダー、ブロガー、酒屋が語る「ニッポンのウイスキー」
日程:4月4日 日曜日
時間:15時~16時30分
参加費:無料、事前登録不要

配信先:オンラインによるライブ配信
1. YouTube live(映像あり)
https://youtu.be/Nhu66Rl_l1Y
2. Clubhouse(音声のみ)
https://www.joinclubhouse.com/event/M43Gn22a
※同時配信、トーク内容は同じです。なお、見逃し配信はありません。
※収録時は窓の開放によるオープンエアの確保、アクリル板の設置等コロナウイルス対策を行います。


テーマとなる「ジャパニーズウイスキー」。
このワードだけで、なるほど、基準の話ね、とイメージされるかもしれません。確かに、基準の解説もしますが、それが全てというわけではなく、一番の目的は日本のウイスキーを応援すること。プレゼンテーターが好きな蒸留所やリリースを紹介したり、そもそもジャパニーズウイスキーの魅力とは何なのか、これを語り合っていくことになります。
ブームから大きな注目を集めるジャパニーズウイスキーですが、何が魅力なのか、蒸留所ごとの特徴だけでなく、他の地域のウイスキーとはどう違うのか、語られることは少ないように思います。

鈴木さんはウイスキー文化研究所が認定する、マスターオブウイスキーの2代目。幅広い知見に加え、バーマンとして長きに渡りお酒を扱われてきた、業界を代表する一人です。
新美さんはリカーマウンテン777の若き店長として、日々多くのお酒を扱われ、自身もウイスキーリリースに関わる等、洋酒業界の次の世代を担う期待のホープです。
そこに業界の人間でもない私が入るというのは中々違和感がありますが、プロバーマン、酒販関係者、そして愛好家としてそれぞれの立場、視点から語り合えるというのは、今までに無い試みではないでしょうか。

ちなみに、事前に簡単な情報交換を行ったのですが、結構意見が分かれていて面白かったですね。
今回の放送はライブのみで、記録としても残らないため、多少踏み込んだことも許されるでしょうか。なので、鈴木さんがぼやいたり、自分がぶっこんだり、新美さんがオロオロしたり、そんな風景があるんじゃないかなぁと予想しています(笑)。
・・・中井さん、仕切り頑張ってください!!
※中井さんはWhisky-eのイベントマネージャーを務められたり、ラグビーワールドカップの組織委員会で広報活動に関わったりと、その道のプロの方です。




なお、本イベントはあくまで有志による”趣味”として企画・開催されるもので、酒販メーカー、メディア等による販促を目的としたものではありません。
alcoというグループは、「BARとウイスキーの素敵バイブル」の執筆、編纂を行った小笹加奈子さんが立ち上げられたもの。これから洋酒に関連する情報発信を定期的に行っていく、その第1回として今回のテーマが設定されたものです。

第2回以降は、例えばウイスキー以外もテーマにして、作り手や愛好家がふらっと話に来るような、そんな企画として考えられているのだとか。当面はトライ&エラーの部分もあると思いますが、私自身も音声による情報発信はこれからやっていきたいと考えているので、勉強させてもらおうと思っています。
直前の告知になってしまい申し訳ありませんが、皆様、是非ご視聴のほどよろしくお願いします。


※以下、公式情報※
4月4日(日)、国内外で大人気のジャパニーズウイスキーをテーマとしたオンライントークショーを行います。ご登場いただくのはその道に精通したバーテンダー、人気ブロガー、リカーショップの若手店長。一度きりの生放送です。
最近、日本産ウイスキーボトルのラベル(表示)に新たな基準が設けられたことや、基準が変わるとどうなるの?といった話、大手メーカー・中小の蒸溜所に関する話など、とことんニッポンのウイスキーについて語っていただく90分。
日曜午後のまだ明るい時間ですので、好きなお酒を片手に、気軽にご視聴いただけたらと思います。 以下、概要です。

------
◼︎企画名
プロのバーテンダー、ブロガー、酒屋が語る
「ニッポンのウイスキー」
◼︎日時
4月4日(日) 15:00〜16:30
◼︎形式
オンライントークショー(無料)

◼︎視聴方法
同時配信、トーク内容は同じです。
1. YouTube live(映像あり)
https://youtu.be/Nhu66Rl_l1Y
2. Clubhouse(音声のみ)
https://www.joinclubhouse.com/event/M43Gn22a
※ ハウリング防止のため、管理人のClubhouseアカウント(1アカウント)のみで行います。
※ 事前にアプリのダウンロードとアカウント登録(招待制)が必要です。
※ Clubhouseの仕様により、残念ながらAndroidユーザーの方はご利用いただけません。
・ウイスキー中級者程度が対象の内容になります。
・パイロット版ゆえ見逃し配信なし、一度限りの生放送になります。
・時間は90分を予定しておりますが、前後する可能性があります。
・本番組の録音・録画、メモ(著作物の複製)、再配布は禁止します。

◼︎プレゼンテーター
鈴木勝二(草加「John O'Groats」マスターバーテンダー)
くりりん(ブログ「くりりんのウイスキー置場」運営)
新美剛志(「リカーマウンテン銀座777」店長)
◼︎ファシリテーター
中井敬子(ウイスキープロフェッショナル)
◼︎企画
小笹加奈子(ウイスキーエキスパート)
◼︎構成
<Session 1> テーマ説明、ジャパニーズウイスキーのラベル表示に関する新基準について
<Session 2> ジャパニーズウイスキーブームとその影響
<Session 3> ジャパニーズウイスキーの魅力と楽しみ方
------

初めてのことばかりなので、最善は尽くすものの、不測の事態により変更が生じた場合には何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます


 

【クラブハウス企画】ジャパニーズウイスキーの基準と今後に必要と思うこと 3月17日22時30分~

カテゴリ:
先日、以下の記事で告知した、クラブハウスでの対談企画。
ウイスキー勢の人口ってクラブハウスではまだまだ少ないんですが、こんなマニアックな話題なのに、多くの方が聴講に来てくださったようで、この話題への関心の高さを感じます。(話すのに必死で把握していませんでしたが、100名くらい来られたとか?、本当にありがたい限りです。)

クラブハウス企画「ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く」by TWD 3月12日22時~ : くりりんのウイスキー置場 (blog.jp)

ただ、この日は酒税法、表示基準、JW基準の解説に加え、息抜きとしてオマケ(ラベルトリビア的なもの)の話もしたので、思った以上に時間を使ってしまい、基準後の業界はどうなるのか、期待することは何か、という”その後の話”をあまりすることが出来ませんでした。

なので、唐突ですが追加枠で、今晩ひっそりと
・基準運用において、必要だと考えられること(日本洋酒酒造組合に求めること)
・そもそもジャパニーズウイスキーの魅力って何だろうか

これらについて、語ってみようと思います。
※今回話をするのは私一人です。勿論、クラブハウスなのでリスナーからの質問や、飛び入りで話に入ってもらっても問題ありません。

ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く【延長戦】
タイトル:ジャパニーズウイスキーの今後に必要と思うこと
3月17日(水) 22時30分~23:30頃
https://www.joinclubhouse.com/event/PD4a6NLr

そして、先日話したこと、これから話すことは、まとめて記事でも公開させて頂きます。
メモ的な構成になり、オフレコ含めてすべてを書くことは出来ませんが、iphone持ってないので聴講できない、というコメントやメッセージを結構頂きましたので、これでご容赦いただければと思います。
また、3月21日は酒育の会で同様に基準を読み解く対談企画もあります。私の意見とは違うものもあると思います。他の方々の企画も参照いただければと思います。


【以下、参考資料】
追加話題①:基準運用において必要だと考えられること
(1 )基準を遵守するメリットはあるのか。
・基準によって、少数の”ジャパニーズウイスキー”の価値がさらに高まる可能性。
・海外では基準に対する誤解もある模様。※
※ジャパニーズウイスキーと表示する場合の基準、ではなく、日本のウイスキー造りの基準と読まれるケース。
・現時点で基準は法律ではない。
・作り手以外に販売側(メーカー営業、酒販店など)が遵守しないと意味がない。

(2)日本洋酒酒造組合に求めたいこと。
基準によって透明性は担保されたが、品質が担保されたわけではない。そもそも前提として、基準を守ってもらわなければ意味がなく、そのうえで業界の底上げと、正しい成長に繋げなければならない。
そのためには、透明性や情報発信の強化に加えて、品質を高めるための取り組みを求めたい。

提案1:基準マークの作成。
提案2:海外からも参照可能な、ジャパニーズウイスキーを包括的に紹介するWEBサイトの作成。(蒸溜所マップ、蒸溜所やウイスキーの紹介、著名人や組合認定者による官能評価の実施、各種情報の発信など)
提案3:ウイスキーの品質向上(仕込み、ブレンド技術)のためのセミナーや人材紹介。
提案4:ウイスキー仕込みに用いる組合酵母(日本酒の協会酵母的なもの)の提供。
提案5:グレーンウイスキー並びにモルトウイスキーの提供や交換にかかる橋渡し。

※補足:提案3~5は、大手メーカー以上にクラフトウイスキーメーカーへのサポートという位置づけが大きい。
大手や他社に依存する関係は健全とは言い難い。日本のウイスキー産業の構造では、ジョニーウォーカー等のブレンドメーカーやボトラーズブランドが不在であるため、大手以外の各社が1社1社力をつけて、独自のブランドを確立する必要がある。
そして時に手を取り合う、協力体制を作れることが望ましい。まずはそのための下支え、底上げが必要であると考える。

IMG_0264
参考:安積蒸留所で試験的に仕込まれた、日本酒酵母によるウイスキー。蒸留酒と言えど酵母の違いは仕上がりに大きく影響する。


追加話題②:ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か
そもそも、基準を作ったうえで求められるジャパニーズウイスキーとはどんなものか。
スコッチウイスキーを主とし、一部バーボンウイスキー(アメリカンウイスキー)のDNAを持つ日本のウイスキー造り。
ウイスキーの作り方は基本的には同じ、装置もほぼ同じ、そして現時点では原材料も輸入。こうした中で、ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か?個性とは何か?、この点を個人的見解に基づいて紐解きたい。

事例1:仕込みの違い。
A「糖化?お湯入れておけば出来るだろ。」
B「XX℃のお湯を麦芽〇〇〇kgに対して●●●リットル入れて、〇〇時間行う。」

A「ポットスチルXX機。ただし蒸留後、ニューメイクは同一のスピリッツタンクに混ぜられる。」
B「ポットスチルXX機。蒸留後はそれぞれニューメイクをタンクに入れ、樽詰めする。」

A「基本はホワイトオーク、スパニッシュやフレンチオークもシェリー樽やワイン樽として一部使う」
B「基本は同じ。他方で同じホワイトオークでも新樽や活性樽、ミズナラ、桜、その気になれば栗や杉も使う。」

安定した大量生産の考え方か、多種多様な原酒を1つの蒸留所が作る考え方か。


事例2:気候の違い。
・日本とスコットランドの違いは四季、大きな気候変化である。
・誤解してはならないのが、日本は四季があるから”勝手に”美味しくなるという話ではない。
・日本のウイスキー造りは、四季との闘い(特に夏、冬)か、如何に共存できるかと言える。
・樽のエキスは温暖な時に出る。特に20度後半、30度台になると極端に出る。
・一度出たエキスは戻ることは無い。これにより、スコットランドでは端麗で華やかな仕上がりになるものが、日本では濃厚でウッディな仕上がりとなる。
・ちなみに、台湾のように温暖すぎる環境では、熟成によって得られる香味の奥行きを出しづらい。

c0c3a265f5e9b68ea8a44dbf5deab086
画像引用:【2020年版】エディンバラの気候とオススメの服装を解説! | School With

7ee17fde
環境における樽感の出方の違いのイメージ図。C-①は温暖、C-②は普通、C-③は冷涼な地域をイメージ。点線は樽そのものが解け出る量を示す。

まとめ:日本のウイスキーの個性とは?
・日本は、スコットランドにはないタイプ(例:濃厚でウッディ)な原酒が存在。
・気候を克服することによって繊細かつ華やかなタイプの原酒も作ることが出来る。ただしこれは苦手。
・水質の違いから、日本の水で加水するとまろやかになりやすい。
・シングルモルトでは、10〜15年熟成で勢いのある酒質ながら樽が強く、適度な奥行きを備える。
・仕込み、気候の違いによって得られた多様な原酒をブレンドすることで、ジャパニーズウイスキーは十二単のように多くの香味の層と、重厚さを持つウイスキーとなりえる。
・ジャパニーズウイスキー表記は出来ないが、輸入原酒を活用してさらに香味の幅を広げることが出来るのも、現時点では日本で造ることが出来るウイスキーのみである。
・また、小規模なクラフトは、これ以外に地産の麦芽や樽材を使うなど、日本独自の材料の取り込みにも期待したい。世界に発信できる、更なる魅力あるウイスキーの創出に期待。

※参考:代表銘柄の個人的イメージ
バランタイン:ガラス細工、100円ショップ~職人仕事
ジョニーウォーカー:西◯の吊るし〜オーダースーツ
響:着物、街着〜十二単
竹鶴:野武士~宮仕え
富士:黒船来航

511a97d1

クラブハウス企画「ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く」by TWD 3月12日22時~

カテゴリ:

最近流行りのアプリ、クラブハウス。面白いアプリですね。
ラジオよりもリスナーとの距離が近く、一方でyoutube等の動画アプリとは違って音声中心なので手軽に発信できる。一応「メモ禁止、録音禁止」という紳士協定もあるため、若干踏み込んだ発言も出来る。

例えば1か月に1度くらい、今月飲んだウイスキーを振り返りつつ、リリースに関わった人や酒販関係者、他のブロガーとかも招待してラジオ的に対談する、質問を受け付ける・・・なんてやったら面白いんじゃないかなとか考えているところです。
こじつけですが、本業で役立つ、WEB会議の進行や、説明スキルの向上にもつながりそうですし。

さて、そのクラブハウスで今週末3月12日(金)22時から、ジャパニーズウイスキーの基準をテーマに、1つセッションを予定しています。
最近毎週何かしらテーマを決めて開催している飲み手仲間の雑談場ですが、今回はちょっとガチめに。
まとめをしてくれるモデレーターは、同じくウイスキーブロガーで、プロテイスターでもあるDrinker's Lounge のYakuさんです。

TWD Presents 【飲み手の話】割と若い世代の飲み手が洋酒の未来について割とストイックに雑談します
日時:3月12日(金)22:00~23:30予定
入退出:自由
ルール:特にありませんが、基準や特定の銘柄を不当にディスる会ではありません。
参考資料:本記事下部に掲載。
※クラブハウスアプリは現時点ではiOS専用なので、android端末からは参加できません。

クラブハウスTWD

前半は、ジャパニーズウイスキーの基準に関連するところとして
・酒税法
・ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則
・ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(通称:ジャパニーズウイスキーの基準)

以上3つのルールから、ざっくり意図するところを解説します。
これらは過去記事で既にまとめていますが、要点を絞っていくのと、文字に出来ないことを話していく感じで。

特に、今回施行される”ジャパニーズウイスキーの基準”については、記載されているものが何を狙いとしているのか、海外のウイスキー市場の反応など、個人的理解・考察の範囲ですが、紹介できればなと。
(そこは違うのではないか、こうとも読める、というリスナーからのレスがリアルタイムで聞けて、私自身の勉強に繋げたいのも、狙いの一つです。)

そして後半では参加者からの質問受付は勿論、気になる蒸留所の話、ジャパニーズに限らずオススメリリースなど、話を広げていければと考えています。
Yakuさんは話を聞いたり、繋いだりするのが凄く上手い人なので、私がぱーっと喋って空回りすることなく、きっと面白いセッションになるんじゃないかと期待しています。

なお、両者での事前打ち合わせとかは一切しません。いやほら、クラブハウスってそういうアプリですから―——―。ぶっつけ本番?、それでもYakuさんなら・・・Yakuさんなら何とかしてくれる・・・(丸投げ)。

自分はこのブログを始めた初期のころから、それこそ愛好家全体を見ても輸入原酒問題が広く知られていなかったころから、某社社長の呼びかけに応じる形で酒税法の問題点含めて日本のウイスキー業界の状況を記事にし、発信してきました。
また、並行してクラフトウイスキー関係の方々とも関わりが広がり、今回の基準についても背景含めて一般の愛好家よりは内情を知っていると思います。
金曜夜の夜更かし、ウイスキー片手に、ちょっとしたラジオ感覚で楽しんで貰えたら幸いです。

(後日談:延長戦もひっそりとやりました。)


※「続きを読む」ボタンが表示される場合は、押すと参考情報が表示されます。
【以下、当日参考情報】

「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」に潜む明暗

カテゴリ:

2月16日、日本洋酒酒造組合から”ジャパニーズウイスキーの基準”となる、表示の整理に関する自主基準が制定され、国内外に向けて公開されました。施行は2021年4月1日からとなります。

同組合は、酒税の保全等を目的として設立されている組合で、大手からクラフトまで、国内で洋酒の製造販売等を行うほぼ全てのメーカーが加盟しています。そうした組合が作る基準ですから、自主基準とはいえ、少なからず実効性のある基準ではないかと思います。
実際、既に動きを見せるメーカーもあり。また酒税法に関連する組織であるため、後の法律面への反映も期待できるのではとも感じます。

我々愛好家サイドから見ると、唐突に公開された感のある本基準ですが、検討は2017年頃から始まっていたそうで(参照記事:こちら)、加盟企業から選出されたWG、理事会での協議、意見交換等を経て約4年間をかけてまとめ上げた基準となります。
なお、ウイスキー文化研究所で議論が進んでいたジャパニーズウイスキーの定義とは、別のルートで造られたものという位置づけで、必ずしも整理が一致するわけではありません。

日本洋酒酒造組合:ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
※英語版はこちら

結論から言うと、ジャパニーズウイスキーとしての透明性とブランドを整理出来る、よく考えられている基準だと思います。
日本のウイスキーには、酒税法等での条件が緩いことから、
  1. 輸入原酒を使ってジャパニーズを名乗る(あるいは誤認させる)銘柄が、国内外に販売されていること。
  2. 最低熟成年数や熟成方法が定義されていないため、明らかに未熟な原酒が商品に使われていること。
  3. ブレンド用アルコールを用いてもウイスキーを名乗れること。
  4. 焼酎原酒などウイスキーではない蒸留酒がジャパニーズウイスキーとして輸出、販売されていること。
  5. ラベルの表記等に関して、基準が整理、統一されていないこと。
大きく分類すると、以上の問題がありました。
今回の基準では、これら意図して法律の抜け道を使う、悪貨の駆逐と言う点に主眼が置かれた整理となっており、一定の効果を発揮するものだと思います。

ですが、基準の決定に当たっては大手メーカー主導の流れがあるのか。あるいは目下最大の問題を優先したためか。
シングルモルトについてのブランド保護、透明性は担保された一方で、昨今増加傾向にあるクラフトディスティラリーの”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点で厳しい内容である、という印象があります。
今日の記事では、本基準がもたらす効果を「明暗」含めて、まとめてみたいと思います。


■ジャパニーズウイスキーの基準における整理

まず、今回制定された”表示に関する基準”において、ジャパニーズウイスキーと区分する条件をまとめると
  • モルトウイスキー・グレーンウイスキー、どちらも日本の蒸留所で糖化、発酵、蒸留、熟成を行ったもの。麦芽は必ず使うこと。
  • 水は日本国内で採水されたもの。熟成については木製樽(700リットル以下)を用いて日本国内で3年以上とする。
  • ボトリングは日本国内で、度数は40%以上とする。
として整理しています。

中でも蒸留所での製法に糖化が含まれていることや、原材料で「麦芽は必ず使用しなければならない」とあるのがポイントです。元々糖分のあるものから発酵、蒸留するブレンドアルコール類や、焼酎のように麴を使って糖化・発酵をさせるものと、麦芽で糖化するジャパニーズウイスキーが違うことを定義しています。

そのうえで、表記は「ジャパニーズウイスキー」とし(例:ジャパニーズモルトウイスキーではNG。また第6条の記載から、英訳等で日本製と誤認させる表記へのアレンジもNG)。ジャパニーズを名乗る基準に加え、問題となっていた"疑似ジャパニーズ"や”アル添ウイスキー”、"焼酎ウイスキー"をジャパニーズウイスキーの区分からシャットアウトする整理になっています。

ウイスキーの基準

今回発表された基準は、別途ウイスキー文化研究所が調整していた、ジャパニーズウイスキーの定義(TWSC版)と比べると、考え方は同じである一方、スコッチウイスキーの定義である"Scotch Whisky Regulation"寄りの内容で整理されています。
例えば仕込みに関する記述に加え、熟成年数もスコッチに倣って1年長く設定されている点。輸入バルク原酒を加えたものを「ジャパンメイドウイスキー」と整理するウイ文研の基準と異なり、あくまでジャパニーズか、そうではないか、という1か0かの整理になっています。

熟成年数の違いについては、日本のウイスキーがスコッチタイプの原酒である以上、3年熟成からウイスキーであるという整理も納得できなくはありません。
「日本は気候が温暖で熟成が早い(エンジェルシェアが多い)から熟成期間を短縮すべき」という意見もあるとは思いますが、既に国内でシングルモルトは最低3年でリリースするという対応が行われているのを見ると、実態べースで整理しても良いとは思います。レアケースですが、熟成庫に空調いれてるところもありますし。
ただし樽については木樽として幅広く読める表現となっており、スコッチ路線の基準でありながら、アレンジされている点もあります。

一方で、輸入バルクウイスキーを一部でも使ったウイスキーについては、単にジャパニーズウイスキーとして表記できないだけでなく、銘柄名についても制限をかけるのが本基準の特徴と言えます。
これは、第6条(特定の用語と誤認される表示の禁止等)に記載があり、日本を想起させる人名、地名、あるいは国旗の表記といった禁止事項が明記され、一見すると某西のメーカーが色々とやって話題になったような疑似ジャパニーズウイスキーが、その名称を名乗れなくなる整理となっています。

ウイスキーの基準2

当ブログでも以前から発信していましたが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する問題は、製法だけでなく、名称や販売の際の説明についても制限しなければ意味がありません。
今回発表された基準は、その点についても考慮されているだけでなく、表記と言う意味では「ウイスキーに該当しない酒類にウイスキーであるかのように表示する」、前例でいえば”海外で焼酎をウイスキーとして販売する行為”に対して、第6条3項に「酒類※を売らないし協力もしない」という罰則的な記述があるのも、限定的ですが組合の規定として踏み込んだ内容だと思います。

※酒類であるため、製品やウイスキー原酒だけでなく、焼酎、ブレンド用アルコール等が幅広く含まれる。つまり該当するようなことをした企業が使うであろう酒類の供給を条件としている点が、この項目のポイントと言える。他方で、第6条3項は「日本国の酒税法上のウイスキーに該当しない酒類」が対象となるため、必ずしも第5条及び第6条2項を破った企業に対する罰則とはなりえない点が、ややちぐはぐな流れとも言える。


■基準の運用と時限措置
ただし、この基準では
・第6条第2項に、第5条に定める製法品質の要件に該当しないことを明らかにする措置をした時は、この限りではない。(説明すれば、ジャパニーズウイスキー表記はダメだけど、引き続き日本を想起させる単語等は使っても良い。)
・附則 第2条として、すでに販売中のウイスキーに関しては、中身の整理に2024年3月31日まで3年間の猶予を設ける。
とされており、抜け道もなくはありません。
基準制定の背景に一部の方々が強く連想する銘柄が、これをもって急に消えるというわけではないんですよね。おそらくラベル上の表記とデザインがちょっと変わるくらいで。 


ウイスキーの基準3

前者(第6条第2項)は、どこで説明するのかと言うことになりますが、話を聞く限りではラベルに限らないようです。SNS,WEB,消費者が常時参照できるような場所も含まれるようで、既に大手ウイスキーメーカーのサイトで説明の追加が行われているところもあります。

昨今、サントリーが山崎や白州に「Single Malt Japanese Whisky」表記をつけたり、その他ブランドのラベルもマイナーチェンジしていたり。ニッカの竹鶴ピュアモルトのリニューアルやセッションのリリース、キリンの富士や陸しかり。。。大手各社の動きは、ここに帰結するものだったのでしょう。
そうしてみると、入念に準備されていた、業界としての動きなのだということが見えてきます。

また、後者(附則第2条)については、既存のブランドを持っているところは逃げ得が出来るのではないか!と憤る意見もあるかもしれませんが、既存銘柄のラベル変更等は、ロットの切り替えを待つ必要もあり、その準備期間という意味もあると考えられます。
何よりウイスキーの熟成は3年間と定義している以上、自社原酒の準備期間として3年の猶予を与えるのは、性善説で考えると理解できる内容でもあります。

しかしこの附則事項も、ウイスキー蒸留を行うための設備の準備期間は考慮されておらず、本当に最低限の年数であること。
”2021年3月31日以前に事業者が販売するウイスキー”が、ブランド全体を指すか、リリース単位を指すかというとリリース単位であるそうで、例えば日本12年という銘柄をバルクウイスキーでリリースしていたメーカーが、これのフィニッシュモノや年数違いはリリース出来ないとのこと。
どちらも、これから基準に対応するメーカーにとっては、最低限の配慮であるように感じます。(前者の説明をすればその限りではなく、あくまで自主基準上では、ですが。)


基準説明
ウイスキーの基準4
※アサヒビールオンラインストアにおける説明文。赤字箇所がこのタイミングで追記された。第6条第2項は運用次第で本基準を有名無実化させる危険性もあるので、組合でのガイドライン整備が別途必要と考えられる。今後注視したい。
※海外のウイスキーショップにも動きがあり、有名どころであるWhiskyExchangeも、本基準を紹介。ショップではJapanese Whisky と From Japanese で整理するとのこと。


■基準の明暗そして今後への期待
さて、ここまでは基準における「明」の部分を中心にまとめてきましたが、「暗」となる懸念点についても自分の思うところをまとめます。
冒頭では、”クラフトディスティラリーにおける”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点では、厳しい内容である。”として触れました。
何かというと、原酒の多様性の確保、特に「グレーンウイスキー」の存在です。

シングルモルトブームの昨今にあって、基準を読む際にモルトウイスキーを連想しがちですが、消費の大半を占めるのはブレンデッドウイスキーです。
ブレンデッドウイスキーをつくるためには、モルトウイスキーだけではなく、グレーンウイスキーが必須となります。ですが、国内でグレーンの製造設備を持っているクラフトメーカーは殆どなく、また設備もポットスチルに比べて高額なことから、スコットランドだけでなく、カナダ、アイルランドといった地域からの輸入原酒に頼らざるを得ないのが実態となっています。(ポットスチルでもグレーンウイスキーは作れますが、連続式に比べ効率が悪く、コストも高くなります。)

大手3者は自社でグレーンウイスキーを作れるので問題はありません。国内外でブランドを確立している有名クラフトメーカーも、あまり問題にならないかもしれません。
しかし、ブームで参入したクラフト蒸留所や、あるいはこれから参入するメーカーはというと、まさに動こうとしていた矢先のことです。
グレーンウイスキーを販売してくれる国内の作り手が無い以上、この基準が施行されると、既存のブランド名や日本を想起させる名称(例えば蒸溜所の地名)で「ブレンデッドを作るな」と取られたり、リリースした商品に対して一般ユーザーから後ろ指を指される可能性もあります。

特に海外市場における影響は重大です。
我々はこの基準を「ジャパニーズウイスキーと名乗る場合の表示基準」と捉えていますが、意図したのか、想定外かはわかりませんが、スコッチや米国の基準と横並びで「日本でウイスキーをつくる場合のルール」として受け取られているケースがあり、これも混乱を呼びかねないと感じています。
というか、現実的にブレンデッドジャパニーズウイスキーを作れないんですよね。
結果、既にブランドを確立しているメーカー優位になりかねず。。。新規参入の障壁となるだけでなく、ブレンデッドウイスキー市場をさらに大手が独占しかねない、その後押しとなる基準にならないかと危惧しています。

日本のウイスキーの整理4月以降
(4月以降の日本のウイスキーの整理想定。名称の「奥多摩」は、日本を想起させる地名の例であり他意はない。クラフトメーカーにとって、ジャパニーズウイスキー表記のブレンデッド※4の安定したリリースは難しい状況となる。)

この”グレーンウイスキーの話”をもって、基準を取り下げろとか、バルクを使ってジャパニーズウイスキーを明記してまでブランドづくりをさせろ、という主張をするものではありません。
基準の内容そのものは、現在の日本のウイスキーが内包する問題点だけでなく、製造サイドへの配慮といった多くを網羅するものであり、既に一部メーカーも動きを見せる等実効性もあります。
基準の決め方について、理事会とプロセスの実態がどうだったのか・・・某T氏の発信する情報等から、その透明性は少々気になるところですが、原材料の透明化について業界として動きを見せた。それは大きな一歩だと思います。

あとはこの基準をもとに、更なる問題点にどう対応していくか。何より、業界をどのように成長させていくかが重要です。
透明化の次は、品質ですね。ジャパニーズウイスキーだから買うと言う層の存在が、昨今のブームを起こしているのは事実ですが、愛好家のマインドとしては美味しいから、好きだから、あるいは楽しいから買うのです。


基準が規制である以上、すべてを100%満足させることは出来ません。その上で、基準を守ってもらうメリット(組合に加盟するメリット)も示しつつ、業界全体の成長戦略を考える必要があります。
例えば、ジャパニーズ独自の味わい、魅力の一助となるように、ジャパニーズウイスキー専用の酵母を組合が開発して組合員に提供するとか、品質保証シールのような取り組みはあっても良いのではと思います。

グレーンウイスキーの話もその1つであり、特に緊急性の高いものです。
組合が国内でグレーンウイスキーを調達し、年間決まった量を組合に加盟するウイスキーメーカーに提供するとか。
あるいは、グレーンウイスキーのみを製造するメーカーの立ち上げを業界として支援し、国産グレーン原酒を提供するとか。
時限措置として一定期間、グレーンについては輸入であっても国内で指定の年数以上熟成させたものなら使用して良いとか。。。


今この瞬間、ジャパニーズウイスキーのブランド保全は大事ですが、今後、日本のウイスキー産業をどのように育て、世界的な競争力を確保していくのか。このブームもいつまでも続く訳ではありませんから、組合が公的な側面を持つならば、長期的な視点から対応策を検討していくことも必要ではないかと思います。

今回の基準の公開をもってゴールではなく、業界としてはさらに動きが出てくることでしょう。従うメーカーだけではなく、そうではないメーカーも出てくると思います。
国産ウイスキーの原料等の表記や説明は、各社のモラルによって動いてきた業界に、やっと投じられた1石です。これが将来的に見て、日本のウイスキー産業がさらなる基盤を築くことになる一歩であったとなることを、いちウイスキー愛好家として期待しています。


後日談1:クラブハウスでジャパニーズウイスキーの基準を読み解く配信を行いました。
後日談2:同アプリで、ジャパニーズウイスキーの基準施行後に実現してほしいこと、組合へのリクエストに関する配信を行いました。
(音声は録音公開していませんが、当日の参考情報とメモは、それぞれ公開してあります。)


※以下、余談。
本基準の公開と合わせて、昨日の日経新聞(以下、参照)にも記事が掲載されています。このスピード…リークですね(笑)。
我々が良く知っている日本メーカーがリリースするウイスキーのうち、「富士山麓」「ザ・ニッカ」「フロムザバレル」「ブラックニッカ」「角瓶」「トリス」・・・といったラインナップがジャパニーズウイスキーから外れるとされており、個人的には富士山麓はフォアロ・・・うわまてやめろなにを・・・であるため、ある意味で納得でしたが、あれ?ヒb・・・「それ以上いけない!」・・・とか、読む人が読むと刺激的な内容となっています。

見方を変えると、今回の基準に伴う動きは日本のウイスキー産業を牽引してきた、大手メーカーからの盛大なカミングアウトです。
実態として4年間かはさておき、よくぞここまで各社と調整したなと。決断に至ったキッカケは、赤信号みんなで渡れば精神か、あるいは一般に輸入原酒に関する認識が広まるタイミングを待っていたのか。
"基準による明暗"という本記事のタイトルに倣えば、このカミングアウトが大手にとっては暗であり、一方で明であると言えるのかもしれません。
こちらは後でリストを作って、どれがどうだったのかをまとめてみたいです。

ご参考:「ジャパニーズウイスキー」の定義 業界団体が作成: 日本経済新聞 (nikkei.com)
この定義に基づくと、ウイスキー大手のジャパニーズウイスキーは、サントリーホールディングスは「響」「山崎」「白州」「知多」「ローヤル」「スペシャルリザーブ」「オールド」、海外市場向けの専用商品「季(TOKI)」の8ブランドが対象になる。アサヒグループホールディングス傘下のニッカウヰスキーは「竹鶴」「余市」「宮城峡」「カフェグレーン」4ブランド、キリンホールディングスは「富士」1ブランドと、蒸留所限定などがそれぞれ対象となる。

このページのトップヘ

見出し画像
×