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三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール 缶ハイボール 9% 2022年リリース

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2022年12月1日、三郎丸蒸留所から「富山スモーキーハイボール」として販売されていた缶ハイボールが全面リニューアル。
名称を「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」として変更し、構成原酒も三郎丸の稲垣氏が開発したポットスチルZEMONで蒸留したモルト原酒をブレンドするなど、外観も内容も大幅に刷新してのリリースとなります。

三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール
355ml 9%
1缶 270円(税抜)
プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3543
PR動画:https://youtu.be/T7BMBoXDKjo

あれこれ書く前に飲んだ感想だけ述べると、これは美味いです。
リニューアル前後で比べたら、飲み口は一層クリアで、そこからしっかりピーティーなフレーバーが広がり、香ばしさとほろ苦さ、余韻は適度にドライでキレが良い。…
先にレビューしている三郎丸Ⅱ ハイプーリステスでも感じた洗練された味わいとなり、ハイボールとしての完成度も上がっているように感じられます。

そのまま飲んで良し、食中酒として使ってよし。この手の系統のスモーキーなウイスキーのハイボールを作るために、ウイスキーにソーダに氷にと、一式揃えて家で作るなら、もうこれで良いじゃんというレベルです。
価格はリニューアル前が税抜270円、リニューアル後が税抜298円で、約30円ほど上がっていますが、味が良くなっているので個人的にはまったく問題なし。
ここは価値観が分かれますが、例えば中途半端に安くて我慢しながら飲む酒よりも、ちょっと高くなっても良いからその分満足できる商品が良いなと思ってしまうんですよね。

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※今回リニューアルしたハイボール缶に使われている原酒を生み出す、三郎丸蒸留所独自のポットスチルZEMON。老子製作所との共同開発、世界で初めて鋳造で銅と錫の合金によるポットスチルを実現した。クリアでありながら厚み、重さのある原酒を生み出す特徴がある。

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ここで昨年リニューアルした富山スモーキーハイボール8%の特徴を振り返ると、同様にクリアでスモーキーな味わいながら、旧世代の三郎丸を思わせる若干の癖、根菜のようなニュアンスが僅かに感じられました。
それが普段使い、食中酒とした場合どうかというと、そこまで気にするものではないというレベルですが。

ただ、人間とはかくも欲深い生き物で、良い状態と悪い状態を比較すると、それまでこれでいい、あるいはこれが最高だと思っていたもので満足できなくなるんですよね。
だからこそ、人はより良きモノを求めて文明を発展させ、進化を重ねてきたわけです…。現状に満足しない、その向上心が生み出したのが今回の三郎丸ハイボール缶のリニューアルだと言えます。
おそらく、組み合わせる原酒の比率から、2019年以降が増え、特に2017年以前の原酒が減ったのでしょう。そこに輸入スコッチバルクウイスキーで、比較的クセの少ないピーティーなものや、グレーンを加えて非常に上手に作ってきたなという印象を受けます。

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※ハイボール缶が届いた当日、メニューは鶏大根。ヤバいぐらい相性が良かったです。無限に飲み食いできましたね。(語彙力)

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※三郎丸蒸留所のスモーキーハイボールプロ仕様。三郎丸Ⅱカスクストレングスをフロートしてスーパーハイボールに。これもスモーキーハイボールとして間違いない美味しさ。

こうしてよりクリアでスモーキーになったハイボール缶の真価は、夏場ならキンキンに冷やしてそのままで頂くのが一番ですが、今の時期は食中酒として合わせて、年末年始の食環境を充実させるのが一番だと考えます。
例えばコタツに入ってハイボール。飲み終わったのでいちいち底冷えする台所で作るか、冷蔵庫からサッと取り出して5秒で本格ハイボールか。どちらも同じクオリティなら、私は迷わず後者を選びますね。

そもそもこの缶ハイボールは、蒸留所マネージャーの稲垣さんが、家飲みするために作ったもの。いちいち準備するのがめんどくさいので、さっと本格ハイボールを飲めたらという考えで開発したものであり、その観点から見れば、今回のリニューアルで確実に完成に近づいたと言えるように感じます。(ブレンドも、部下に任せず稲垣さん自身が手掛けているとか。)
リニューアルしてラベルが変わると味が落ちる、あるいは薄くなるというのはウイスキー業界あるあるですが、ここではさらなる完成度のハイボールを味わえる。
ピートフリークの皆様は、年末年始用に今からでも調達されてみてはいかがでしょう。きっと満足できる味わいだと思いますよ!

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三郎丸Ⅱ 2019-2022 ハイプーリステス カスクストレングス 61%+46%加水版比較

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SABUROMARU 2 
THE HIGH PRIESTESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Cask Strength 
Distilled 2019 
Bottled 2022 
One of 600 bottles 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:燻した麦芽と樽由来の甘いアロマ、はっきりとスモーキーなトップノート。野焼きの香りと焼けたオレンジのような焦げ感、ピートスモーク、土っぽさ、微かにジンジャー。それらに押し込められたオーキーな要素が厚みとなって柑橘感を後押ししている。

味:ネガティブな要素が少なくクリア。乾いた麦芽と醤油煎餅のような香ばしさ、ほのかな柑橘感、焦がした木材や土っぽさを感じるスモーキーさが力強く広がる。
余韻は高度数らしくジンジンとした刺激が口内にあり、鼻抜けはスモーキー、ビターなピートフレーバーが長く続く。

今はまだ溌剌とした若さ、勢いの強さも目立つ構成であり、人によっては未熟と捉えるかもしれない。しかしその酒質は変に傾いた要素もない無垢なもの。これから熟成を経て複雑さや果実感を纏っていくだろう伸び代、大器を感じさせる。成長の方向性はアードベッグやラガヴーリン。これで“完成”はしていないが、2016年以前からは考えられない進化、洗練された味わいである。
数年後、最初のピークを迎えるだろう「未来」に想いを馳せる楽しみもある。まさに新時代のはじまりの1杯。

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※(リリース比較)本シリーズは毎年カスクストレングスと加水仕様がリリースされている。今年のリリースは雑味が少なくピートと麦芽由来の風味がダイレクトに感じられるが、加水版はその荒々しさが整えられて非常に親しみやすい。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、三郎丸の進化とZEMONの可能性は、どちらを飲んでも感じられる。

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先月リリースされた、三郎丸のタロットシリーズ第3弾。
本ブログの読者であればご存知の方も多いと思いますが、三郎丸蒸留所は2016年から17年にかけての大規模改修工事の後、1年毎に新しい取り組みを実施しています。
そのため、各年の仕込みから3年熟成で構成されている本シリーズは、段階的にその取り組みの効果を確認できる、ただの3年熟成リリース以上の意味を持つシリーズとなっています。

【関連情報】
2017年 大規模改修
2018年 三宅製作所製マッシュタン導入
2019年 鋳造製ポットスチルZEMON開発・導入
2020年 発酵層の1つを木製に(ステンレスで発酵開始→発酵最終段階を木製へ)。アイラピーテッド麦芽の仕込み実施
・・・
※詳細はJWICを参照いただくとより詳しく記載されています。(参照先はこちら

そして今年のリリース、三良丸Ⅱのポイントは、なんと言っても同蒸留所マネージャー(現若鶴酒造CEO)の稲垣貴彦氏が老子製作所と共同開発した、ZEMONで蒸留された原酒が初めてシングルモルトとしてリリースされることにあります。

三郎丸蒸留所は、2018年までは若鶴酒造としてウイスキーを作っていた旧時代のステンレスポットスチルのネック部分から先を銅製に改造した、改造スチル(写真下・左)でウイスキーを仕込んでいます。蒸留所の機能としてはリニューアルを経て向上していたものの、旧世代のウイスキーづくりから脱却したとは言い難いものでした。
この点に関して稲垣さんの想いは非常に強く、本ボトルの裏ラベルに記載されたメッセージでも、これからが始まりであることを強調されています。

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さて、世界初となる鋳造製ポットスチルZEMON(写真上・右)。銅92%、錫8%の合金で作られるスチル。その特徴は様々な媒体で語られているため改めて記載することはしませんが、違いは明確に現れました。
私の記憶が確かならば、今から2年前の2020年に三郎丸0がリリースされた時。その進化を評価しつつも、三郎丸はまだこれからであると。今後間違いなく、さらに良いウイスキーがリリースされてくると。そういうレビューをしていました。
既に2019年、2020年のニューメイクをテイスティングしており、間違いないと確信があったためです。

ただし1つ不安があったとすれば、2020年には改善されたものの、2019年の酒質はニューメイク時点で少しぼやけた印象があり、ピートフレーバーは2018年の方が際立って感じられた点にあります。
ウイスキー造りの心臓部とも言えるポットスチルが全て変わったのですから、カットポイントなどその使い方で苦労があったという話。トライ&エラーがあるのは当たり前でしょう。
分析結果、数値の面でもネガティブな風味に繋がる要素(グラフ上段)で一部2018年の原酒を越えている点があり、これがニューメイク時点での「ぼやけている」という感想に繋がったのだと思います。

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しかし今、目の前にある最低限の熟成を経た三郎丸Ⅱをテイスティングし、改めて三郎丸Ⅰもテイスティングし、熟成による成長の違いを如実に感じています。三郎丸Ⅰはだいぶ暴れてますが、Ⅱの方は素直に、確実に成長している印象を受けます。
今後熟成を経ていく中で、さらに洗練されて、複雑さを増していく、3年間でその下地が出来た状況であるようにも感じます。

これに関して同様のイメージを思い起こし、頷いた方々もいらっしゃるのではないかと思います。
新酒を飲み、成長過程を飲み、そして未来をイメージする。既に完成品したリリースはそれはそれで良いものですが、10年、20年前となると当時何があったか分からない蒸溜所も珍しくありません。変化を知り、今だけでなく、過去や未来の姿との比較も含めて楽しめる。これこそ現在進行形で成長する、新興クラフト蒸溜所の最大の魅力だと感じる瞬間です。

なお、三郎丸のZEMONですが、ポットスチルが全て変わったのは事実ですが、改造スチル時代の良い部分を引き継ぐために一部類似の設計を採用しています。
それはスチルのネックが折れ曲がった先、ラインアームの角度と短さです。角度は兎も角そんな短いか?と思われるかもしれませんが、改造スチルはラインアーム部分約1m先から冷却機となっており、物凄くラインアームが短いのです。
三郎丸の重みと厚みのある原酒はここから産まれると考え、ZEMONも同様にラインアームはかなり短く設計されています。
良いものは使い、そうでないものは変えていく。変えない勇気がある一方で、変える勇気もある。若い稲垣さんだからこそ出来る柔軟さ、チャレンジスピリッツが三郎丸の魅力なんですよね。

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※蒸留所に展示されているZEMON開発の実験機。合金であっても同様の触媒反応があることだけでなく、鋳造の場合表面に細かい凹凸が出来ることで接触面積が増え、さらに高い効果が見込まれる等、様々なメリットが確認されている。

一方で少し気は早いですが来年のリリースはどうなるか。冒頭まとめたように、実は来年も設備面で変化があるだけでなく、それ以上に日本のウイスキー業界にとって前例のない革新的な取り組みの過程が、形になろうとしています。
そう、アイラ島産のピートを使ったモルトウイスキーの仕込みです。
稲垣さんが目指すウイスキーの理想像は、アードベッグの1970年代。アイラらしいフレーバーはピート成分の違いから産まれるのではないかと考え、現地で調達したピート、麦芽を使った仕込みが2020年に行われています。

つまり来年は
・三宅製作所マッシュタン
・木桶発酵槽(最終のみ)【2022NEW】
・鋳造製ポットスチルZEMON
これらの設備で仕込んだ
①内陸ピートを使った従来のピーテッドモルト原酒(52PPM)
②アイラピートを使ったピーテッドモルト原酒(48PPM)
以上2つ。時期はずらすことになるかもしれないが、2種類ともリリースされる予定と聞いています。

ニューメイクの時点で、既に違いがはっきりと出ていましたが、その違いは熟成後どうなったのか。。。
これまで仕込んできた原酒の成長だけでなく、来年のリリースも今から待ちどおしいです。

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三郎丸Ⅰ THE MAGICAN 2018-2021 48%

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SABUROMARU Ⅰ 
THE MAGICAN 
Aged 3 years 
Distilled 2018 
Bottled 2021 
Cask type Bourbon Barrel 
One of 3000 bottles 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)

香り:穏やかだがどっしりとして存在感のあるスモーキーさ。乾草、野焼き、焚火の後のような、どこか田舎的でなつかしさを感じる燻した麦芽のピートスモーク。奥には柑橘、微かに青菜の漬物を思わせる酸もある。

味:程よくオイリーでピーティー、しっかりとスモーキーフレーバーが広がる。香ばしい麦芽風味、微かな土っぽさ。バーボン樽由来の甘みや柑橘を思わせる甘酸っぱさがアクセントになっている。
余韻はピーティーでビター、湧き立つスモークが鼻腔に抜けていく。

香味とも少々水っぽさがあり、複雑さのある仕上がりではないが、元々の重みのある酒質と若い原酒であることが由来して一つ一つのフレーバーに輪郭があり、鼻腔、口内に長く滞留する。カスクストレングスリリースのものと比べると、奔放さも荒々しさもなりをひそめて穏やかに仕上がっており、こちらは万人向けの仕上がり。新世代の三郎丸蒸留所の個性を知る上では入門編と言える1本。

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(三郎丸 THE MAGICIANのカスクストレングス(CS)エディション。稲垣マネージャーが初号機は暴走していますと、リリースに当たり意味深なコメントをしていましたが、このCS仕様は確かにパワフルで三郎丸らしさが暴走気味。将来性を見るなら削りしろが残ったCSを。現時点での味わいを楽しむなら加水のほうがバランスがとれている。)

そう言えばレビューしていなかったシングルモルト三郎丸I。
昨年11月にリリースされて今更感凄いですが、このまま放置したらⅡが出ちゃいそうなので、このタイミングでネタにしちゃいましょう。2018年蒸留原酒をベースにしたTHE SUNも先日レビューしたところですし、2022年の仕込みはなにやら新しい動きもあるようなので。

さて、まずこのリリースですが、既に多くの方がご存じの通り、2018年の三郎丸蒸留所はマッシュタンを自家製のものから三宅製作所製に変更。粉砕比率を4.5:4.5:1から2:7:1に変更すると共に、旧世代の設備からの脱却として大きな一歩を踏み出した年にあたります。
その効果、酒質の変化は劇的で、当時の驚きと将来への確信は、今から約4年前のブログ記事では「素晴らしい可能性を秘めた原酒が産まれており、一部の愛好家が持っていたであろう若鶴酒造への評価を、改める時が来たと言っても過言ではありません。」としてまとめています。

当時記事:若鶴酒造 三郎丸蒸留所 ニューポット 2018 CF結果追跡その2
https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1073202772.html

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その当時の原酒がどのように変化してきたか、こうしてリアルタイムで進化を見ることが出来るのは今を生きる我々の特権であり、クラフトウイスキーを追う楽しみでもあります。
自分の息子の成長を見るような、推しのローカルアイドルがメジャーになっていく過程を見るような。。。ちょうど小さい子供が居るというのもあるのでしょうか、そんな心境で見ている自分が居たり。

で、実際飲んだ印象は、まずニューメイクにあった三郎丸のらしさと言えるピートフレーバー、柑橘系の甘酸っぱさ等は良い感じでバーボン樽由来のフレーバーと馴染んできてますね。
通常の熟成環境は比較的温暖というのもあって樽感は強めで、これだと5〜7年くらいでピークに当たりそうな感じですが、未熟感が目立つ酒質ではないので問題無さそう。
また、2020年に完成した第二熟成庫は屋根散水での温度管理を、2022年完成のT&T TOYAMA 井波熟成庫はCLTや断熱シャッターを用いるなどしてさらに優れた温度、湿度の特性があり、今後はさらなる長期熟成も可能になっています。

一方で、2017と2018の原酒の違いは、オフフレーバーの量が少なくなっていることと、ピートがしっかりと主張するようになっていることが挙げられます。
勿論、ポットスチルを入れ替えた2019年以降に比べたら、まだこの時代はオフフレーバーが多く、特に2018年の最初の仕込みのほうは仕込みの関係で2017年の余留液を引き継いでいることから、旧世代の残滓が強めに残ってもいます。その辺りの原酒は、このリリースにも使われているのでしょう。針葉樹のような青菜の漬物のような、オイリーさの中に独特な個性が感じられます。

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(T&T TOYAMA THE LAST PIECEのリリースで使用した、2018年原酒2種。片方は仕込み前半、片方は後半。前半は癖が強くオイリーで、後半はドライ寄りでピートが強く主張する。明らかに酒質が異なっている。)

それでも2017に比べたら格段に酒質が向上しており、中でも今まではぼやけていたピートフレーバーに芯が通り、骨格のはっきりとした主張をするようになったことが傾向として挙げられます。

それは熟成を経た後も変わらず、樽香の乗りが良く、三郎丸らしいヘビーな酒質はそのままに、どっしりとスモーキーで個性の強い味わいを形成しているだけでなく、2018年蒸留のほうが骨格の強い酒質になっていることもあって、さらなる熟成の余地を感じさせる点もポイントです。3年熟成リリースはあくまで始まりであって、今後にも期待できる。
ああ、これはきっと、某バスケットボール漫画の安西先生の心境なのかもしれません。見ているかラ○…お前を越える逸材が富山に居るのだ…。


余談ですが、そんな逸材三郎丸は、設備のアップデート、ポットスチルの開発、木桶の導入、アイラピートの調達やスーパーヘビーピート原酒の仕込みと、毎年毎年、何かしら新しい取り組みを行なってきました。
毎年夏に行われる三郎丸の仕込み。2022年は一体どんな取り組みが行われているかというと…、世界的な物流の混乱からピーテッド麦芽の輸入が前期の仕込みに間に合わず。国産麦芽を使った仕込みで、蒸留を開始したのだそうです。

国産麦芽で勘の良い人はピンとくるかもしれませんが、そうこれはノンピートなのです。三郎丸及び若鶴酒造の歴史において、公式には初めてノンピート麦芽による仕込みが行われている、アブノーマルな状況(稲垣マネージャー曰く)が、きせずしてこの2022年の取り組みとなっています。
なんとも言い難い話ではありますが、個人的にはノンピートの三郎丸は非常に興味があります。3年後のリリースだけでなく、それこそノンピートの飛騨高山とのブレンド、飲み比べも面白そう。
取り急ぎ、ニューメイクを飲むのも今から楽しみです。

三郎丸 THE SUN ブレンデッドウイスキー 2022 48%

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THE SUN 
SABUROMARU WHISKY 2022
The symphony of Saburomaru malt and World matured grain
700ml 48%

評価:★★★★★★(6)

香り:香り立ちは焦げたようなピーティーさ、アーモンドの皮を思わせる焦げた木材、仄かにスパイス。三郎丸モルトらしいスモーキーなアロマと合わせて角の取れたウッディネス、複数の樽由来の複雑な甘い香りが立ち上がり、全体をより複雑にしている。

味:オイリーで柔らかく、どっしりとしたコク、厚みのある濃厚な口当たり。三郎丸モルトらしいピーティーなフレーバーに、焦げた木材やグレーン由来の甘み、ほろ苦さ、微かにハーブ。後半から余韻にかけてはママレードジャムのような角の取れた甘酸っぱさ、濃い甘みがあり、余韻のスモーキーさとビターなフレーバーが全体を引き締めている。

富山県産ミズナラ樽熟成の三郎丸蒸留所2018年蒸留モルト原酒を軸に、シェリー樽、バーボン樽等で熟成した同蒸留所のモルト原酒と、12年以上(最長16年)熟成の輸入グレーン原酒をバッティングしたブレンデッドウイスキー。グレーンについては輸入後にワイン樽等で追加熟成を行ったものが使われている。

ブレンデッドというとグレーン主体の無個性な印象が香味の先入観としてあるが、このブレンドはかなりモルティーで、古典的なブレンド比率と予想される。そのため、味わいは三郎丸蒸留所の個性そのもの。それを追加熟成したグレーンと合わせることで、個性を楽しみやすくしつつ、ウイスキーとしては飲みやすく仕上げている。加水の具合もいい塩梅で不足は決して感じない、作り手のセンスを感じる1本。

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先日、三郎丸蒸留所から5320本限定でリリースされた、三郎丸の名を冠するもう一つのウイスキー。
自社モルト原酒と、追加熟成した輸入グレーンとの掛け合わせは、同じクラフトでは厚岸蒸溜所のブレンデッドウイスキーを彷彿とさせるコンセプト。ただ、スピリッツで輸入して全てを国内熟成している厚岸に対して、三郎丸は10年程度熟成の状態で輸入したものを追加熟成し、ブレンドに用いている点に違いがあります。

使われている三郎丸モルトは、三宅製作所製のマッシュタンを導入して、酒質として大幅な改善を果たした2018年蒸留。
これを富山県利賀産ミズナラ樽で熟成した原酒を軸に、三郎丸蒸留所のシェリーやバーボン等さまざまな樽での熟成原酒を用いてレシピを構築。スモーキーな香味に感じられるスパイシーさ、ママレードジャムのような濃厚なオレンジフレーバーがこの原酒由来でしょうか。
余談ですが、ミズナラ樽は熟成3年強で想像以上のエンジェルシェアがあったようで、想定していた以上に樽数を使ったと稲垣マネージャーがボヤいてました。

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(三郎丸蒸留所で熟成中のミズナラ樽。三四郎のロゴが目印。)


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(熟成中の原酒の状態を確認する稲垣マネージャー。スパニッシュオークカスクで2年強という原酒は、早くも色濃い甘さとウッディな香味が。)

そしてこのブレンドを紹介する上でもう一つ重要なパーツが、冒頭部分でも触れた追加熟成グレーンです。
実はこのブレンドに使われたグレーン、自分は一度飲んだことがありました。
それは三郎丸蒸留所とのタイアップでオリジナルブレンドを作ろうという企画を進めていた、2019年の夏のこと。提供いただいたサンプルの中に、追加熟成前のグレーンがあったのです。

結論から言えば、その時のグレーンはドライで甘みが足りず微妙だなあと。自分はブレンドを作る上で、違うものにチェンジしてもらったわけですが。しかし追加熟成を経て今回のブレンドに使われた12〜16年熟成のグレーンは、間違いなく口当たりの柔らかさ、全体のバランスとコクのある甘みに繋がる良い仕事をしています。
グレーンの追加熟成に使われたという焙煎樽も、メローなフレーバーを付与し、全体の1要素として貢献していますね。同じ樽はT&T TOYAMAが調達した原酒の熟成にも使われていて、そういう意味で将来が楽しみになるところでもあります。

今回のリリースはテイスティングで記載したように、三郎丸蒸留所のピーティーで厚みのあるフレーバーの個性を全面に出しつつ、それを複数の樽やグレーンでまとめ、奥行きを出し、一本筋の通った複雑さを形成したブレンドです。
これは荒削りながら響や鶴のような、日本の大手メーカーがリリースするブレンデッドウイスキーにも通じるコンセプトなんですよね。
そのコンセプトを実現するには、様々な樽を用いて熟成した、作り分けた原酒がなければなりません。日本最小規模ながらリニューアル以来コツコツと原酒を作り続けてきた、三郎丸蒸留所がついにこの領域に入ってきたかと。感慨深さも感じる1本でした。

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(THE SUNのハイボール。グレーンによる繋ぎが解けて、逆に多彩な味わいとなる。構成原酒由来のフレーバーを理解する上では、この飲み方が良いかもしれない。)

ザ ラストピース ワールドエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

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THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT WHISKY 
World Edition Batch No,1 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
One of 800 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:華やかでナッティな香り立ち。アプリコットジャムや熟した林檎を思わせるフルーティーな甘み。オーキーで程よいウディネス、ハーブのアクセント、ほのかにスモーキー。

味:フルーティーでしっとりと甘い口当たり。林檎の蜜、甘栗やカステラ、麦芽風味。香り同様に熟成感があり、一本芯の通った複雑な味わい。余韻にかけて香味の広がりを感じられ、微かにピーティーで華やかなオーク香が鼻腔に抜ける。

香味とも華やかでフルーティーだが、キラキラと派手なタイプではなく、しっとりとして色濃く奥ゆかしいタイプ。奥には黄色系フルーツ、麦芽風味、特徴的なピートなど、クラフト原酒由来の個性も感じさせる。
イメージとしては、THE LAST PIECEのジャパニーズエディションに熟成感を増して、完成度を追求したレシピ。日本とスコットランドの個性が織りなす、日本だからこそ作ることができるウイスキー。ストレート、少量加水、あるいはロックでじっくりと楽しんで欲しい。

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先日、T&T TOYAMAから発表された「THE LAST PIECE」のワールドブレンデッド版です。
先日レビューを更新したジャパニーズエディションは、国内5ヶ所のクラフト蒸留所原酒100%のジャパニーズウイスキー。ワールドエディションは、構成比率の過半数以上がクラフト産原酒で、そこに輸入原酒をブレンドしたブレンデッドモルトウイスキーとなります。

発売は若鶴酒造が運営する私と、ALC.を中心に、4月19日(火)から。
先行する形で、4月1日(金)から購入希望の抽選受付が開始されます。
「個性のジャパニーズ、完成度のワールド」、ブレンダーの一員として、その実現を目指したブレンドです。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


改めて構成原酒を記載すると
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッド
・桜尾蒸溜所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
・スコッチモルト(国内追加熟成)

クラフト原酒は全て3年熟成でバーボン樽熟成。スコッチモルトは熟成年数非公開ですが、バーボン樽以外に、シェリー樽、リフィル樽等での熟成品が用いられており、一部原酒は国内で追加熟成を行ったものが使われています。

追加熟成を経たスコッチモルトは、もともとあったスコッチモルトらしいまとまりのある穏やかな酒質に、日本的な樽感が加わって熟成感も増した仕上がり。こうした原酒の存在は、個性をまとめ上げる繋ぎとして有用である一方、その原酒に頼るだけではワールドの意味がありません。
国産原酒の個性を主として残しつつ、全体の完成度を高めるにはどうするべきか。正直、ジャパニーズのレシピ以上に悩ましく、かけた時間、試作数も多くなりました。
【補足】各原酒の個性はリリース告知記事の後半に記載→こちら

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しかしワールドブレンドというと、あまり良く無いイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
それはブームに乗って利益を得るために、安価な輸入原酒で水増ししたリリース。つまりパッションやストーリーのない、嗜好品としての重要要素を満たさないリリース、というイメージに起因しているのでは無いでしょうか。

確かに、そうしたウイスキーの存在は否定できません。しかし本来スコッチウイスキーは美味しいものであり、日本では作り得ない原酒が数多くあります。(あるいは日本でも作れるかもしれないが、膨大なコストがかかるケース。)
例えば長期熟成原酒がそうです。
ワールドブレンドは、日本でしか作れない原酒と日本では作れない原酒、それらの良い点を引き出すことで、これまでにないウイスキーを作ることが出来る、可能性に満ちたジャンルでもあるのです。
活かすも殺すも、造り手次第というわけですね。

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THE LAST PIECEをリリースする、ボトラーズメーカー「T&T TOYAMA」は、日本のクラフト蒸溜所が、将来単独でリリースを行っていくのではなく、他の蒸留所と連携する可能性を見出せるよう、蒸留所間のハブとなることを目標の一つとしています。
一方で、同社はスコッチモルトも海外メーカーから買い付けてリリースしており、ニンフシリーズやワンダーオブスピリッツがその代表作です。つまり、日本、スコットランド、どちらにも繋がりを持つメーカーと言えます。

であるならば、THE LAST PIECEのワールドエディションは、ジャパニーズの個性感じさせつつ、スコッチウイスキーのいいところも活かした、T&T TOYAMAらしいリリースに仕上げたい。
2つのリリースを飲みくらべることで、なるほどこれが日本の個性か、これがスコッチモルトの熟成感かと、愛好家に伝わるような美味しいウイスキーに仕上げたい。
果たしてその狙いは達成されたのか、限られた条件の中で可能な限り高い点数を目指したワールドエディション。楽しんで頂けたら幸いです。

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以下:余談
4月1日から開始される、私と、ALC.での抽選販売受付は、稲垣代表の趣味趣向が色濃く反映された、激ムズクイズが用意されています。
私と、ALC.抽選販売受付ページ:

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


公開されている4蒸留所とT&T TOYAMAからそれぞれ1問、計5問が選択式で出題されます。
誤解のないように補足すると、正答率が高い人から抽選で選ばれるのではなく、正答率が高いと当たりやすくなる、当選確率がプラス補正されるものです。全問正解でもハズレる可能性があり、正答率が低くても当たる可能性があります。
そんなわけで、これはちょっとしたゲームです。各蒸留所について調べる機会だと捉えて頂き、ぜひ奮ってご参加いただければと存じます。(難しい問題と思うかもしれませんが、冷静に選択肢1つ1つを考えてみてくださいね。)

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