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サイレントスピリッツ、グレーンウイスキー。
9月1日、ニッカウイスキー狂想曲が町中の酒屋に流れる中、対抗馬として先陣に置かれてしまったのが、今回取り上げるシングルグレーン知多です。
限定品にラインナップ刷新で生まれた期待のルーキーという、ニッカチームのぱっと見強力な布陣に対し、サントリーは僅か知多1種類。ただでさえグレーンという新しい試みであるところに、なぜ発売日合わせたしw、と突っ込みたくなるほどチャレンジングなリリースです。

先日のニューリリーステイスティングの際、スターターとしてチョイス。
サントリーはこのグレーンを使ったハイボールで"風香るハイボール"で売り出す計画とのことでしたので、今回はハイボールとストレートで、それぞれ1杯ずつ飲んでみました。
 
THE CHITA
Single Grain Whisky
SUNTORY WHISKY
700ml 43%


 
暫定評価:★★★★★(5)
 
香り:クリーンな刺激に乾いた木の香りが混じる、全体的に香りは立ちづらいがひっそりと時間をかけて立ち上がってくる。
わたあめのような甘い香り、コーンスターチ、微かにライムの爽やかさ。時間と共にバニラクリームの甘さ。
 
味:香り以上にコクがありスムーズな口当たり。薄めた蜂蜜、ほのかに混じるのはチャーしたオーク樽の焦げ感、ミント、干し藁、ドライパイナップル。
溶剤っぽいクセのある甘さと乾いた木のアロマが鼻に抜ける。
序盤にぱっとフレーバーが広がるが、後半は平坦。余韻は短くすっきりとした甘さ。
 
グレーンらしくない複雑さを備え、それでもグレーンらしく甘口でライトな香味。
ひそひそ声で色々話されているような感覚で、注意していないと聞き逃してしまいそうです。
しっかりした香味を期待すると肩透かしかもしれません。

しかし今リリースされているスコッチグレーンと比べると、明らかに知多のほうがレベルの高い出来です。先日飲んだベッカムのウイスキー・ヘイグクラブなんかより断然良いです。
香味の濃さではニッカのカフェグレーンに分がありますが、1本飲みきることを考えたら、知多のほうが早くなくなりそう。理由は上述のグレーンらしくない香味の幅。やっぱり単調だと飽きるんですよね。
 

今回発売された知多は、愛知県の知多工場で作られるシングルグレーンウイスキー。
シングルグレーンですが成分表示にモルトとあるのは、製造時に糖化酵素として大麦を使うためで、ブレンデットってことじゃないので注意。
クリーン、ミディアム、ヘビーという3タイプのグレーン原酒を作り分け。
樽もバーボン、スパニッシュオーク(シェリー?)、ワイン等の古樽を使い分けて熟成。香味から察するに古樽という表現は、使い込まれて相当影響の弱くなった樽も含まれてる言い回しなんでしょう。
熟成期間は5~15年。こうした幅広い条件が、グレーンらしからぬ複雑さを構成しているようです。

がしかし、あくまでもグレーンという枠の中での話。不出来なシングルモルト、あるいはブレンデットとは飲みやすさという点で強みがあり、香味の幅も比較できるでしょうが、しっかりと熟成された原酒が織り成す陶酔感のある香味の広がりは備わっていません。
例えるなら、焼酎の甲類と乙類の違いと言えるかもしれません。

 
ハイボールにすると良い意味で薄いバーボン風味。
上品なジムビームソーダという表現が頭に浮かびました。
薄いバーボンソーダは木のえぐみなどバランスの悪い点も目立つのですが、知多は均一に薄くなっていく印象があり、無心にごくごく飲める。後はレモンを搾っても良いという話。食事との相性がよさそうというか、どちらかといえば食事を邪魔しない感じです。

 
ここまで書いて、知多とカチ合うであろう同じニーズのボトルを考えると・・・晩酌用途で君臨するのは同門の絶対王者、サントリーウイスキー角瓶です。
他にもニッカのクリアブレンドやバーボン各種もあるわけですが、価格で考えると角の約3倍、クリアブレンドの約4倍という知多は、召喚コスト面で圧倒的に不利。
また、「ちょっといいウイスキー」として周囲には響ジャパニーズハーモニーから、シングルモルト・ノンエイジ四天王(山崎、白州、余市、宮城峡)までいる。
この戦いがどういう結果になるか、統計発表が楽しみです。まあサントリーが飲食側にプッシュするでしょうから、ニュースで特集記事が書かれる程度には売れるでしょうけど。

シングルグレーンのリリースは、新しい市場の獲得というと聞こえは良いのですが、結局はモルト原酒不足をカバーする苦肉の策という側面もあります。とすれば、取り込むのは他社ユーザーだけでなく自社のニーズ均一化でも良い。
ライトな味わいの中に様々な思惑が見える知多。飲み屋にも広く展開されるでしょうし、飲み手の皆様は、きっと今後どこかで飲む事になるんじゃないかなと思います。