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2025年05月

フェイマスグラウス 1970年代中頃流通 43%

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THE FAMOUS GROUSE 
FINEST SCOTCH WHISKY 
1970's 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:ガトーショコラのようにほろ苦くも艶やかで甘いアロマ。シェリー樽由来の要素から、微かに土の香りと干し草、古典的な麦芽香があり、柔らかいスモーキーフレーバーも感じられる

味:まろやかな口当たり。カステラの茶色い部分、ママレードジャムのようなとろりとした甘みから、徐々にビターなピートフレーバーが存在感を増す。余韻はほろ苦くスモーキー、染み込むように長く続く。

シルクプリント時代のハイランドパーク12年を連想する麦芽風味と存在感のあるピートフレーバー、そしてシェリー樽を思わせるしっとりとした色濃い甘みが合わさったリッチな1本。グレーンも熟成したものが使われているのだろう。とてもスタンダード品とは思えないクオリティで、満足感の高い1本。

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おそらくハマヤ株式会社を通じた日本への流通品としては、最初期のころ、1975年ごろの流通と思われる1本。
1960年代、1970年代後半~1980年代、1980年代前半、1980年代後半、1990年代…。
これまで年代ごとの流通品のフェイマスグラウスをテイスティングしてきましたが、1980年代以降のころのそれに比べてしっかりとピートフレーバーやシェリー樽由来の個性があり、また60年代のそれと比較してもそん色ないクオリティが、今回のボトルには備わっていました。

確かに口当たりのとろりとした甘さ等グレーンを思わせる要素もありますが、余韻でしっかり染み込んでくるビターなピートフレーバーや、麦を思わせる要素、シェリー樽を思わせる艶やかな甘さなど、キーモルトを思わせる個性が充実しています。
フェイマスグラウスのキーモルトが一つといえばハイランドパーク。それもその辺のハイランドパークよりはるかにハイランドパークらしさを感じさせてくれる。それこそヘザーハニーの甘くビターなピートといわれると、非常に説得力のある要素だといえます。

人によってはこの存在感のあるビターなフレーバーに慣れない場合もあるかもしれません。近年のスモーキーさを強調するような乾燥したピートフレーバーや、柑橘系の要素を主張するものとは異なる、オールドボトルにたびたび見られる特徴。
だがそれがいい。近年の都会的で洗練された華やかなスコッチもよいですが、こうした泥臭さを残す地酒的な味わいもまた、スコッチの魅力なのです。

ストラスミル 36年 1988-2024 ホグスヘッド 46.6% BAR Eclipse first 10周年記念

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STRATHMILL
BAR Eclipse first 10th Anniversary
Aged 36 years
Disitlled 1988
Bottled 2024
Cask type Hogshead
For Kanpaikai
700ml 46.6%

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:林檎や白葡萄、ハーブの爽やかなトップノート。続いてナッツ、干藁や穀物を思わせる要素、微かにオリーブのようなアクセント。繊細でありながら豊かな広がりを感じるアロマ。

味:若干のオイリーさを伴う柔らかく甘い口当たり。続いて軽い香ばしさ、華やかなオーク香が含み香として感じられ、香り同様の干藁や穀物系のフレーバーが牧歌的な印象に通じている。 余韻は軽やかなウッディネス、ドライで微かに青みがかった白色果実とホワイトペッパーのスパイシーな刺激を伴う。

香味の要素だけ見れば、まさにストラスミルのハウススタイルをそのまま体現したような一本。
トップノートにある爽やかな果実味と軽やかな香ばしさは、洗練された都会的な印象に通じる一方で、踏み込むとそこには牧歌的な、あるいは多少粗雑なところがあり、それが親しみ易さ、味わい深さに通じている。ああ、この肩肘張らない感じはエクリプスの雰囲気を想起する。林檎を思わせる白色果実がトップにあるのも心憎い、10周年記念の一本。

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乾杯会から5月30日発売されるストラスミル。
シードル(林檎)王子こと藤井さんがオーナーである、神田のBAR Eclipse first(エクリプス)の開業10周年を記念した一本です。

エクリプスは2015年にウイスキーとシードルの専門店として開業したBAR。藤井さん自身がウイスキーコニサーであるとともに、シードルについても本場フランスで多くの醸造所を巡るだけでなく、2021年には地元群馬県に自身でシードル醸造所(吹上シードリー)を立ち上げ、理想とするシードルの製造&販売を開始するなど、この10年間でいちバーマンの枠を遥かに超えた活動をされてきたところ。
今回のリリースは、そんな藤井さんらしさが全面に感じられる、10周年を記念するにふさわしいボトルとなっています。

というのも、藤井さん=麦と林檎であるのは上述の説明からご理解いただけると思いますが。
林檎系のフレーバーがあるウイスキー銘柄としてはグレンキースが有名、しかしそのグレンキースと合わせて、近しい個性を持つとされているのがストラスミルです。
ストラスミルについてはJ&Bの構成原酒で、あとは花と動物シリーズからリリースがある程度、オフィシャルリリースがほとんどないこともあって、あまり知られていない銘柄。あえて有名なほうではない、マイナーどころを攻めてくるの、らしい感じがしますね(笑)。

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※2014年のスペシャルリリースにラインナップされたストラスミル25年。こちらは1970年代の原酒で構成されており、1980年代よりも骨太な印象を受けるが軸となる香味要素は変わらない。

1980年代のストラスミルらしい軽やかさ、そして自然な林檎感のあるチョイス。かつてディアジオからスペシャルリリースとして発売されたストラスミル25年に通じる要素もあり、ボトラーズによってアレンジされたボトルではない、ハウススタイルが感じられるのも本ボトルの特徴。
ラベルの女性が手にしているのは、シードル醸造所のある群馬の品種、ぐんま名月でしょうか?
りんごを皮ごと丸齧りしたような、そんな瑞々しくも華やかで、故にちょっと雑味も混じる味わいなウイスキーです。

藤井さんとは他にも何かと繋がることが多く、古くはウイ文主催のテイスティング大会で偶然隣同士だったり…それをお互い知らずに川口のビアパブで出会ったり…その後も、神田の駅でホーム飲みしたり、イベントではキングオブキングスや、共同リリースやらあれこれ。
今回も乾杯会さんを通じたリリースにあたり、本ボトルのコメント、紹介文を書かせて頂きました! 
改めまして、10周年おめでとうございます。

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※2019年の4周年記念の際、プレゼントしたオリジナルラベルのウイスキー。このデザイン、どこかで見たことがあるような…(笑)


グレンドーワン スコッチウイスキー 40% 2025年ロット

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GLEN DOWAN 
BLENDED SCOTCH WHISKY 
J&G GRANT 
Lot 2025~
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)

カラメルを思わせる色濃い甘さ、ビターな要素を伴うトップノート。加えて藁焼きのあとのような燻したようなスモーキーさが甘さと干藁を思わせるフレーバーの奥からじわじわと広がる。
口当たりはまろやかで、やや荒削りなモルティーさ、香ばしい穀物系の含み香。余韻はビターでじんわりとスモーキー。


グレンファークラス蒸留所を操業する、J&Gグラント社が製造するブレンデッドウイスキー、グレンドーワンの2025年ロット。
ちょうど1年ほど前、ミリオン商事さんが国内に輸入を開始し、手に取り易い価格と色濃くわかり易い味わいで口コミ等を通じて人気になった銘柄です。

話題になった理由はなんと言っても、その濃い色合い、やや人工的ながらシェリー樽由来のフレーバーを意識したであろう甘さ、そして上記製造元との関係などからグレンファークラスが使われているのではないか?とする推測情報ゆえ。
構成原酒が事実かどうかはさておき(個人的見解は後述)、キャッチーな色合い、情報、そして価格。個人的にもびっくりしましたね。そしてこれは売れるでしょと、確信したのを覚えています。

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※グレンドーワンの2024年ロット。映っていないがこのロットはキャップがスクリューキャップ。よくみるとラベルも微妙に異なっている。

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※グレンドーワン2025年ロットのコルクキャップ

実際、口コミを中心に人気が広がり、2024年ロットのメーカー側在庫は品薄状態(だったらしいです)。そして年が明けて2025年、装い新たに新ロットが国内に流通し始めたわけです。
お値段は据え置きながらしれっとラベルがリニューアルされ、キャップも高級感あるコルク仕様に。中身は変わっていないと言われていますが、もちろん味も変わっています。

2024年ロットは、甘くほのかにスモーキーな中にグレーン由来か、プレーンなところに色付けしたような、やや人工的な甘さが感じられた構成。
一方で2025年ロットは、色濃い甘さが少し抑えめになったものの、ビターなスモーキーフレーバーがその分強く感じられ、モルト由来と思しき香味もわかり易い。テイスティングコメントの通りリッチな味わいになったと感じられます。

なお、熟成年数は変わらず8〜10年といったところでしょうか。
ウイスキー業界あるあるとして、ラベルが変わると味が変わる(味が落ちる)なんてことが囁かれることはしばしばありますが、これはむしろその逆、よくなっているように感じます。スモーキーさと厚みを増した味わいは、どちらかと言えばストレートやロック向きですが、ハイボールにしてもマッチしそうです。

さて、最後に。
グレンドーワンの構成原酒はオープンにされていませんが、20種類前後のモルトウイスキーとグレーンウイスキーが使われているとのこと。
上述の通りブランドの保有元からグレンファークラスがピックアップされがちな本品ですが、J&Gグラント社の繋がりから紐解いていくと、いわゆるイアンマクロード社系列が原酒の提供元ではないかと予想します。(ファークラスはブレンドのラインがなかったはず…)

イアンマクロード関連の蒸留所といえば、タムデューやグレンゴインですね。どちらもシェリー系で知られる蒸留所。また、同社のブレンデッド銘柄はアイランズモルトをキーモルトとするアイルオブスカイ12年があります。
イアンマクロードは、日本国内の蒸留所にもバルクウイスキーを輸出するメーカーの一つ。傘下蒸留所以外にも様々な原酒を保有しています。
ひょっとすると、この辺りを軸にグレンファークラスの若い原酒を混ぜるなどして作ったのが、グレンドーワンなのではないか…。
なんて個人的な予想を書いて、本記事の結びとします。
安価でも面白い銘柄が増えるのは大歓迎です。

バランタイン 12年 ロイヤルブルー 1995〜2000年代前半 43%

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Ballantine’s 
ROYAL BLUE 
12 YEARS OLD 
SPECIAL RESERVE SCOTCH WHISKY 
1995-2000’s 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(5ー6)

香り:蜂蜜を思わせる厚みのある甘さ、麦芽香、すりおろした林檎、微かにカラメル。ドライオレンジや干し草を思わせる乾いたアクセント、微かなピートも奥から感じられる。

味:滑らかな口当たり。メインは麦芽由来の甘さでコクがあってふくよか。カルメ焼きを思わせる甘さやオレンジピールの砂糖漬け。余韻は序盤の甘さは引きずらない。じんわりと染み込むようなほろ苦さ、香ばしさを伴って長く続く。

香味とも内陸モルトの麦芽風味、ミルトンダフやグレントファースを思わせる要素が強く、グレーンも熟成したものを彷彿とさせる蜂蜜などの厚みのある甘さ。穏やかなピート香が底のほうにいて全体を引き立てているのもブレンドの妙として感じられる。17年クラスとは別のベクトルのスケール感があり、通常の12年と比較して確かに「全然違う」リッチなブレンデッド。
なお、ハイボールにすると炭酸が麦芽風味や熟成感を打ち消してしまうため、通常の12年との差はそこまで目立たない。ストレート、ロック、あるいは水割りで。

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1995年から日本限定でリリースされたバランタイン。後継品にはバランタイン12年 ブルーがあり、スタンダードラインナップの12年であるゴールドシールと並行してトータル15年ほどリリースされ続けたあと、2011年にバランタイン12年ブルーに統合され、その後12年そのものが終売となっています。

12年には他にも免税店向けのピュアモルトとか色々なリリースがあるのですが、話をロイヤルブルー系列とゴールドシール系列に絞って解説すると。
元々バランタインは1960年代に12年がリリースされると共に、選び抜かれた原酒だけを使って(使ったとされる)少量生産された12年ゴールドシールもほぼ同時にリリースされていました。ファイネストや17年は比較的ピーティーな原酒が使われる傾向もありましたが、12年は内陸、スペイサイド系の原酒を主として使われていることが多く、初期の頃から一貫してまろやかな麦芽風味やフルーティーな味わいが特徴でした。

その後、1970年代以降ゴールドシールは一旦生産されなくなりノーマルな12年のリリースが続くことになりますが、1980年代後半にノーマルな12年が突如ゴールドシールとなってリニューアル。
ウイスキー冬の時代に入り、各社がデラックス表記から12年表記など年数でわかりやすい高級感を出してくる戦略にシフトしたなかで、差別化を図ろうとしたのでしょう。1990年代以降、スタンダードな12年はゴールドシール系列として展開されていくことになります。

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※バランタイン12年1960年代流通(左)と、同時期流通のバランタイン12年ゴールドシール(右)。ゴールドシールの方がより熟成した原酒やモルト比率の高いレシピとなっているのか、複雑で芳醇な味わい、またピーティーでもあった。

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※1980年代後半に突如ゴールドシールとなったバランタイン12年(写真は1990年代流通)。この頃は親会社の変遷からか、原酒の傾向が多少異なることも。

一方で、日本では現在でこそ低価格帯のブレンデッドウイスキーはハイボールという選択肢が確立していますが、2000年代以前はロックや水割りが主流だったこともあり、1990年代に入って消費が低迷する日本市場=水割り向きのレシピで打開!という戦略で、1995年に開発・発売されたのが、今回レビューをするロイヤルブルーになります。

当時のサントリーから発出されたプレスリリースがWEBに残っていたので引用すると、
同品は、選び抜かれた約五〇種類のモルト原酒を使い、名門ジョージ・バランタイン社マスターブレンダーのジャック・ガウディ氏が五〇年の経験を傾けてブレンドした商品。
「バランタイン」の基本的特徴である「華やかな香りとすっきりした味わい」をそのままに、熟成感、味の厚み・まろやかさ・香味をアップしている。 デザインもロイヤルブルーを基調としたエレガントでシックなものにした。
ロイヤルブルーは英国王室に由来する濃青色で、バランタイン社のイメージカラーでもある。 アルコール度数四三%、七〇〇ミリリットル入り、希望小売価格五〇〇〇円。荷姿一二本入り。ギフトパッケージ入りも同時発売(内容はすべて同一)。

テイスティングで感じた通り、味の厚みやまろやかさが通常の12年に比べて増しているのはコンセプトの一つであったようです。

その後、2003〜2004年ごろにバランタイン・ロイヤルブルーがバランタイン・ブルー12年(当時は17年以上と同じ丸瓶)にリニューアルしてリリース。
ちょうど私がウイスキーを飲み始めた頃だったのですが、12年ゴールドシールは2000円くらい、12年ブルーラベルは3500円くらいで販売されており、キャッチフレーズは確か「水で目覚める夢の香り」。同じ12年なのに見た目の高級感から段違いで、何が違うんだろう、美味そうだなぁ、でも高いなぁ…と、学生時代の自分にとっては垂涎の一本だったこともあって非常によく覚えています。

以上のように長らく2ブランドが展開されてきたバランタイン12年ですが、その後は冒頭述べたようにバランタイン・ブルーラベル12年に統一され(日本市場向けが世界標準になったのではなく、バランタイン12年が実質日本向け状態になった)、そのバランタイン・ブルー12年も原酒枯渇などを理由に2024年をもって半世紀を超える歴史に幕を閉じた…。ということになります。
まあ原酒枯渇というか、ハイボールで飲ませるなら12年じゃなくてもという趣旨のリニューアルなのだろうと思いますが。

余談ですが、今こうしてロイヤルブルーを飲んでみると、これは12年クラスのモノとしてはリッチで味わい深い、かなりしっかりとしたブレンドだぞと感じるところ。
ようやくここでレビューに添えていた漫画の伏線回収。今回レビューしたバランタイン12年ロイヤルブルーは、T&T TOYAMA およびモルトヤマの代表である下野さんがウイスキーにハマるきっかけになった一本であり、学生時代にBARで飲み比べをさせてもらって、その違いやおいしさに驚かれたのだとか。(詳細はモルトヤマ大学物語を参照

下野さんとは同世代、ほぼ同じ時期に飲み始めていることを考えると、バランタインは通る道なんでしょうか。なおこの漫画を読んだ結果、ロイヤルブルーを見るたびに下野さんの顔が頭に浮かぶ呪いにかかってしまったので、読者の皆様にもお裾分けして、当初の予定と異なって12年の歴史解説記事になってしまったレビューの結びとします。

「ロイヤルブルー12年のほうが美味い!」

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