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2021年05月

厚岸 シングルモルトウイスキー 芒種 55% 2021年リリース

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THE AKKESHI 
"BOSHU" 
Single Malt Japanese Whisky 
9th. season in the 24"sekki" 
Bottled 2021 
700ml 55% 

評価:★★★★★★(6)(!!)

香り:トップノートはシリアルや乾煎りした麦芽の香ばしさと、焦げた木材、燻製を思わせるスモーキーさ。レモンピール、和柑橘、乳酸系のニューポッティーな要素も多少あるが、嫌な若さは少ない。オーク樽由来の甘いアロマと混ざって、穏やかに香る。

味:クリーミーで粘性があり、度数を感じさせない柔らかい口当たり。フレーバーの厚み、原料由来の要素の濃さが特徴として感じられる。ピーティーで柑橘の皮やグレープフルーツを思わせるほろ苦さと酸味、麦芽の甘みや香ばしさ、鼻孔に抜けるピートスモーク。オークフレーバーはそこまで目立たず、バランスよく仕上がっている。
余韻は塩味を伴うピーティーさ。軽い刺激を舌の奥に残し、若い原酒にありがちなくどさ、未熟感を感じさせず、麦芽由来の甘みと共にすっきりと消えていく。

これぞ厚岸モルトと言う個性を堪能できる1本。若い原酒の嫌味な要素が極めて少なく、それでいて原料由来の好ましい要素は厚く、濃く残している。コクと甘みのある麦芽風味と、そこに溶け込むスモーキーフレーバー。丁寧な仕事を思わせる作りであり、樽感もバーボン樽由来のオークフレーバーが主張しすぎない自然な仕上がり。磨けば光る”原石”というよりは、若くして光り輝く”神童”と例えるべきだろう。
4年程度と短熟でありながら、ストレートでも抵抗なく飲み続けられるが、少量加水すると若さがさらに目立たなくなり、原料由来の甘み、香ばしさ、フルーティーさが、ピートフレーバーと混ざりあっていく。ハイボールも良好。アイラ要素が無いので厳密には違うが、かつてのヤング・アードベッグを彷彿とさせる仕上がりで、漠然とした期待が確信に変わる1本。現時点で★7をつけようか真剣に悩んだ。

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「これだよ、こういうのだよ!」
一口飲んで、思わず口に出してしまうくらいにテンションが上がった1本が、5月28日に発売となった厚岸蒸溜所 24節気シリーズの第3弾、芒種(ぼうしゅ)です。
これまで厚岸蒸溜所からリリースされてきた3年以上熟成品は、バーボン樽だけでなくシェリー樽、ワイン樽、ミズナラ樽と様々な樽で熟成された原酒をバッティングすることで構成された、複雑な味わいが特徴。若さを気にせず飲める反面、厚岸蒸溜所の作り出す酒質そのもののポテンシャル、特に今回のリリースで感じられる”コクと甘みのある麦芽風味”は、感じ取りにくくもなっていました。

今回のリリースは一転して、バーボン樽(リフィルやホグスヘッド含む)が主体と思われる単一樽タイプの構成。ミズナラ等多少異なる樽も使われているかもしれませんが、9割がたアメリカンオークでしょう。原酒は3~4年熟成のノンピートとピーテッドのバッティングで、ピート系のほうが多めという印象で、香味ともしっかりピーティーですが主張は強すぎず、一部国産麦芽”りょうふう”で仕込んだ原酒も使っていると思われる、柔らかい甘みと柑橘系を思わせるフレーバーが全体の厚みに寄与しています。。
現時点で厚岸蒸溜所からシングルカスクのリリースは出ておらず、酒質の味わい、特徴を楽しみたいなら、「芒種」はまさにうってつけと言うわけです。

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近いリリースとしては、ニューボーンのNo,1やNo,2がありましたが、当時の原酒は今以上に若く、創業初期の原酒でもあったため、ハウススタイルは確立途中でした。
自分はニューメイクや3年前後熟成のカスクサンプルを飲む機会があったため、厚岸の酒質についてある程度理解し、この蒸溜所は凄いと確信を持っています。一方で、多くの愛好家はその点が未知数なまま、作り手のこだわり、立地条件、周囲の評価等、総合的な視点から、漠然とした期待を抱いていた部分もあるのではないかと思います。(これが悪いという話ではありません。)

今回のリリースは、先に触れたように、最も重要なファクターである酒質について焦点を当てて飲むことが出来るわけですが、それでいて若いから仕方ないだろと、開き直るような造りでもありません。これまでのリリースに見られる、少しでも良いものを、美味しいものをと言う作り手のこだわりが感じられつつ、酒質について漠然としていた部分が明確になる。厚岸蒸溜所の成長と凄さを、改めて感じて頂けるのではないかと思います。


とはいえ、一口に凄さといっても伝わりにくいかもしれませんので、一例を示すと、
厚岸蒸溜所ではウイスキー造りの仕込みで
・粉砕比率を常に均一化するため、徹底した管理を行う。(普通にやっていると、若干ぶれます)
・発酵の際に、麦芽の量に対して自分たちが目指す酒質に最適なお湯の量と温度を調べ、管理する。
蒸溜以外の行程にも重きを置き、毎年見直しながらウイスキー造りを行っているそうです。今後はここに、自社で精麦した北海道産の麦芽とピートが加わるなど、その拘りは原料にも及んでいくわけですが、丁寧な仕事の積み重ねが、原料由来の風味を引き出しているのだと感じています。

このように全ての香味には理由があり、ゼロから勝手に生まれるものではありません。ですが、理由があるといってもそれがわからないモノもあります。今回のリリースで言えば、味の中にある塩気、しょっぱさです。厚岸蒸溜所のリリースの中で、これだけ塩気を感じるのは初めてではないでしょうか。
厚岸蒸溜所は太平洋を望む高台にあり、潮風が強く届く場所にあります。海辺にある蒸溜所は、熟成途中に樽の呼吸で空気中の塩分が吸収され、味わいに塩気が混ざるという説はありますが、本当にそうなのかという点については疑問があり、実は明確な答えが出ていません。

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※蒸溜所から見下ろす冬の厚岸湾。蒸溜所まで届く潮風が、今回のウイスキーのフレーバーに繋がったのだろうか。画像引用:厚岸蒸溜所Facebookより。

外気には塩気を含む成分があるでしょう、ですがそれが普段空気の入れ替えをしないウェアハウスの中で、ほぼ密閉状態にある樽の中にまで香味に影響するほど入り込むのかということです。
例えば、スコットランドではグレンモーレンジ蒸溜所は海辺にありますが、香味に塩気が混じるとは聞いたことがありません。逆にフレーバーに塩気があると言われるタリスカーは、蒸溜所こそスカイ島の海辺にありますが、熟成場所は本土の集中熟成庫であり、おおよそ香味に影響を及ぼすほど樽の中に塩分が入り込む環境とは言い難いのです。

この疑問については、ピートに含まれるフレーバーが塩気に繋がっているのではないかという説を自分は支持しています。特にアイラ島のピートですね。一方で、厚岸蒸溜所のモルトに使われたピートは、スコットランド本土内陸産だと聞いているため、それだけ塩分を含んだものかはわかりません。やはり気候が影響しているのか…厚岸蒸溜所の将来は間違いないと思えるリリースでしたが、同時に新たな謎も抱いてしましました。
ですが、こうした要素があるからこそウイスキーは面白いし、ワクワクさせてくれるんですよね。

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※厚岸でのウイスキー用麦芽りょうふう栽培風景。画像引用:ウイスキー大麦 豊作願い種まき 厚岸の試験栽培 6ヘクタールに拡大:北海道新聞 どうしん電子版 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/543015

24節気において芒種は、”米や麦芽の種蒔き”に最適な時期という位置づけが裏ラベルにて触れられています。ピートフレーバーに含まれた土の香りと、酒質由来の麦芽の甘みは、まさにそうした景色をイメージさせるものであり。スモーキーさと爽やかな樽香は、夏が近づく今の時期にマッチしたリリースだと思います。それこそ月並みな表現ですが、愛好家という顔を赤くした蛍も寄ってくることでしょう。

前作「雨水」では、蒸溜所が目指す厚岸オールスターへのマイルストーンとして楽しみが増えたところですが、「芒種」では原酒や樽使いが限定されたことで見えてくる、ウイスキーそのもの将来の姿があります。3〜4年熟成の原酒でありながら、これだけのものに仕上がる酒質の良さ。後5年もしたらどれだけのものがリリースされるのか。。。今までのリリースで感じた以上に、厚岸蒸溜所の今後に期待せざるを得ないのです。

アマハガン ウェビナーエディション 47% 長濱蒸溜所 ワールドブレンデッド

カテゴリ:
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AMAHAGAN 
World Blended 
Webinar Edition 
Malt & Grain 
Released in 2021 
700ml 47%  

評価:★★★★★★(6)

香り:バニラやメレンゲクッキーを思わせる甘く香ばしいオーク香に、構成するモルト原酒に由来するケミカルな要素と植物っぽさを伴うトップノート。奥にはパイナップルシロップ、アーモンドスライス等のフルーティーさ、ナッティーなアロマ。スワリングするとメープルを思わせるメローな甘みも微かに感じられる。

味:スムーズで甘酸っぱくモルティーな香味構成。硬さの残る白桃、パイナップル系のケミカルなフレーバーに、ナッツや麦芽の香ばしさ。それらを長熟グレーンのとろりとメローな甘み、ビターなウッディネスが包み込んでいく。
余韻はほろ苦くスパイシーで、ピリピリとした刺激の中にオークフレーバーがアクセントとなって長く続く。

アマハガン通常品と同系統の原酒が、ブレンドの軸に使われているであろう香味構成。そこに熟成年数が長く、グレーンをはじめ異なるキャラクターの原酒も使われていることで、ブレンドながら全体的にスケールが大きく、変化に富んだ仕上がりとなっている。
フルーティーさは近年の愛好家が好む要素が主体的である反面、構成原酒の一つであるハイランドモルトに由来する”癖”も感じられる。少量加水すると、一瞬植物系のフレーバーが強まった後、オーキーな華やかさや麦芽由来の軽い香ばしさ、そしてフルーツシロップを思わせる甘みがと、好ましい要素が開いてくる。ハイボールも悪くなく、飲み方を選ばない1本。

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長濱蒸溜所がリリースする、ブレンデットウイスキー「AMAHAGAN」。同蒸溜所が調達した輸入原酒に、長濱蒸溜所で蒸留・熟成したジャパニーズ原酒をブレンドしたワールド仕様のハウスウイスキーで、今回のリリースはその特別版となります。

ラベルを彩るのは、漫画レモンハートで知られ主要キャラの面々。原酒の構成は
・長濱蒸溜所のモルト原酒
・熟成年数の異なるハイランドモルト3種
・2001年蒸留のスペイサイドモルト
・長期熟成のグレーン原酒
の6種類という情報が公開されています。
ブレンドは2020年9月に長濱蒸溜所が開催したセミナー「NAGAHAMA BLEND CHALLENGE」において、セミナー参加者に加え、講師を務めた静谷さんが手掛けたレシピを長濱蒸溜所で微調整したもの。
商品名のWebinarはネットでのセミナー等の意味であり、コンセプトである「愛好家の、愛好家による、愛好家のためのウイスキー」の通り、セミナーを通じて愛好家が作り出した味わいをリリースに繋げた訳ですね。

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私はこのセミナーに参加していないので、当日作られたレシピも、使われた原酒の素性についても、公開されてる以上の情報はありません。ですが、流石に”わからない”では記事として面白みもないので、今回はテイスティングを通じて、香味からレシピを紐解いて、こうではないかと言う予想を以下にまとめてみます。
まず、ブレンド構成はノーマルなアマハガンに共通する香味と、そこにはない香味の2系統に分類出来、それらが混ざり合うことで複雑で厚みのある味わいを作り出していると感じました。

前者の香味を形成しているのは、(つまりノーマルなアマハガンと共通する系統の原酒が)、長濱モルトとハイランドモルト3種、2系統の原酒です。
軽い香ばしさの混じる麦芽風味が主体である長濱モルトに、ややケミカルなニュアンスに加え、特徴的な癖を伴うフルーティさ。ハイランドモルト表記で、この香味をもったブレンド用原酒を年数違いで構築出来るのは。。。あの近代的な蒸留所でしょう。
8年、10年、18年。外箱に書かれているレモンハートのマスターがブレンドする原酒がまさにそれと言われても違和感なく。例えばノーマル品には同じ蒸留所産のもう少し若い原酒も使われているところ。8年クラスがメインにあり、今回のレシピではその分10年、18年クラスの比率が増えているのではと。

一方で、ブレンド全体のバランスに寄与しつつ、通常リリースにない香味の幅、複雑さにつながっているのは、2001年蒸留のスペイサイドモルトと、長期熟成のグレーン原酒、2つの仕事と考えます。
グレーン原酒は香味に感じられるとろりとした甘みと、熟成の長さを感じるビターなウッディネス。これは以前グレンマッスルNo,2のリリースで、似たような個性の原酒を使わせてもらった経験から、20年程度の熟成を予想。個性の違いが出にくいグレーン原酒なので蒸留所はハッキリとわかりませんが、ノースブリティッシュあたりではないでしょうか。(輸入なのでブレンドグレーン表記かもしれませんが。)

そして2001年蒸留のスペイサイドモルトは、淡麗寄りながら麦芽風味があり、多少スパイシーな酒質をブレンドの中から紐解きました。中間ではハイランドモルト由来のフルーティーさを邪魔せず、軽やかなスパイシーさで存在感を出してくるようなイメージです。
ブレンド向けとされる蒸溜所の中だと、ダフタウンなどのライトで柔らかいタイプ。。。ではなく、淡いようで主張する時はする、ベンリネス、キース、ブレイバルあたりを連想します。
その上でブレンドレシピはこれまでの経験から、長濱2、ハイランド4-5、スペイサイド1、グレーン2-3とか。
こうしてブレンドを紐解いて、あれこれ考えるテイスティングは楽しいですね。なお答えは分からないので、今度こっそり聞いてみますw

※ウェビナーエディション、くりりんの予想レシピ ()は比率
・長濱蒸溜所のモルト原酒:ノンピート、バーボン樽の2~3年熟成(20)
・熟成年数の異なるハイランドモルト3種:南ハイランドの某近代的蒸留所、8年、10年、18年熟成(40~50)
・2001年蒸留のスペイサイドモルト:ベンリネス、グレンキース、ブレイバルのどれかと予想(10)
・長期熟成のグレーン原酒:ノースブリティッシュまたはブレンデッドグレーン20年(20~30)




考察ついでに余談ですが、今回のリリースにはBARレモンハートの主要キャラクターが描かれ、今までのアマハガンとは異なるラベルデザインが採用されています。
これはリカーマウンテンさんとレモンハートのファミリー企画さんが共同で開始された、飲食店応援プロジェクトが関係しているのではないかと思われます。
こちらはイラスト販売益でオリジナルボトルを作成し、それを日本の飲食店に配布すると言う壮大なプロジェクト。ウイスキー業界としては初の試みではないでしょうか。既に中身のウイスキーの仕込みは完了し、イラストの価格次第で配布本数が決まる、という発信もSNSで見かけました。

長々書いてしまいましたが、今回のブレンドは長濱蒸溜所が作るアマハガンブランドに共通する“らしさ”がありつつも、そこに新しい個性、味わいが加わった面白いリリースだと思います。
愛好家のための〜というコンセプトは、まさに自分が関わらせて貰っているGLEN MUSCLEや、先日の三郎丸蒸溜所との原酒交換、蒸溜所で行われている泊りがけでのウイスキーづくり体験企画なども同じベクトルにあるものと言えます。そうしたウイスキー作りの方向性が長濱蒸溜所にあるからこそ、さまざまな企画に積極的に挑戦されているのかもしれません。
上記企画に加え、次のリリースも楽しみにしております。

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【続報】T&T TOYAMAボトラーズ事業 クラウドファンディング

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5月13日から募集を開始した、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキーボトラーズ事業のクラウドファンディング。目標額の1000万円を30分で達成し、その後支援額は順調に伸び3000万円を突破。支援者の一人として、どこまで伸びるのか楽しみにもなってきました。

一方、企画者である下野さん曰く、「短期間でここまで支援が集まることは想定外」で、既に支援プランの大半が売り切れ状態に。。。そこで新しいリターンの追加共に、3500万円のネクストゴールとして設定されたのが、建設予定のウェアハウスに試飲用のスペースを造るというもの。ウェアハウス内で樽出しの原酒をテイスティングする…いや、ウイスキー好きが憧れる浪漫です。是非達成してほしいですね!
※本記事を書いた時点で、達成まで残り160万円。ネクストゴール達成を踏むのは何方でしょうか。



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※追加されたプラン(5月15日)
・クラウドファンディング支援者100人突破記念ウイスキー700ml × 2本セット

※追加されたプラン(5月20日)
・三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
・T&T TOYAMAプレミアムメンバー入会&シークレットオンラインセミナー
・モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』


企画の詳細については以前記事にもしていますので、詳しい説明は割愛しますが、近年急増する日本のウイスキー蒸留所にあって、小規模なクラフトメーカーが直面する課題である、リリースや原酒の多様性、熟成、製品化に関する課題を解決する一助となるプロジェクトが、T&T TOYAMAのジャパニーズウイスキー・ボトラーズ事業です。

この事業の実施には、熟成場所となる広い土地と建物の初期費用のみならず、樽調達、原酒調達にかかるコスト、何よりボトリングや販売に関して必要となる資格の問題と言った、様々な”壁”があり、現在まで実現されてきませんでした。

そのコストについては、クラウドファンディングのネクストゴールの設定にあたり、
・土地、建物、設備:2億円(約2800㎡、建坪260)
・原酒購入、樽購入等年間費用:2000万円
という初期投資コストの情報が、ウェアハウスの設計と合わせて公開されています。
正直、自分と同い年の人間が億単位の金額を使うプロジェクトを立ち上げているなんて、周囲にはありません。素直に尊敬しますし、プロジェクトの意義としてもさることながら、人生をかけたであろう取り組みに、ウイスキー関係なくいち友人として可能な限り応援したいとも思うわけです。

ボトラーズの役割
※ボトラーズ事業を通じてボトラーズメーカーが担う、ウイスキーリリースまでの領域と課題(点線部分)

とはいえ、流石に今回のネクストゴールは、プロジェクト公開初日と同じ勢いで支援が入ることはないだろう、土日で応援記事を書こうじゃないか。。。と、準備していたらですね。ネクストゴールと共に追加された3プランのうち、「T&T TOYAMA シークレットオンラインセミナー」の支援枠が、即日完売してしまったわけです(汗)。改めて期待値の高さを感じた瞬間でもあります。

しかし、記念ウイスキー2本セットは前回の記事で紹介しているので、残るは三郎丸ウメスキープランと、モルトヤマ渾身のネタ枠。残りは300万円弱でネクストゴールも達成秒読みで…これって記事書く必要あるのか?。
いや、きっと自分だからこそ発信できるネタがあるはずだ。ウメスキー樽熟原酒は、以前蒸留所訪問した際に熟成途中のものを試飲済みだし。前回も即日達成してこんな流れだった気がするけど、気にしない気にしない。
そんなわけで、この記事では記事を書いている時点で、残っている2つの新支援プランについて、紹介していきます。


三郎丸蒸留所 樽熟成ウメスキープロトタイプ+ウメスキーセット
支援額:16,500円
ウイスキーベースで造った梅酒”ウメスキー”と、そのウイスキー梅酒を樽熟成した新商品のセットがリターンにあるプラン。新商品はまだ名前が決まっておらず、その銘を提案できる、応募券もついています。
このプランだけ三郎丸色が強く、一見してT&T TOYAMAのボトラーズ事業と関係が無いように見えますが、梅酒を払い出した樽(梅酒樽)で、調達した原酒を熟成するという計画もあるそうで、後々一つの線に繋がっていくプランなのだとか。

その味わいについて、製品版のものはまだわかりませんが、熟成途中の原酒を飲んだ限り、フルーティーでマイルド、梅というよりは熟したプラムのような甘酸っぱさ、林檎の蜜を思わせる甘みもあり、余韻は樽熟を思わせるウッディさが甘みを引き締める。熟成を経てさらにリッチでまろやかになっていると思われます。
日本人の味覚に響く、素直に美味しい言える梅酒でした。某S社さんの同系統の商品と比較すると、あちらが万人向け量産品ならこちらは手作り、そんなキーワードを彷彿とさせる濃厚さが魅力です。

モルトヤマが富山で一日おもて『なしざんまい』
支援額:494,974円
WEBは饒舌、リアルは塩対応で知られるモルトヤマの下野さんが、富山を1日おもてなし。
もはやネタですよね。何だこの金額はという疑問については、下野さん曰く”これが選ばれることなく最終日を迎えて、「ナシ(下野さんの別通称)がしくしく」という語呂合わせを含め、今後のT&T TOYAMAブランド戦略で有効活用する”、大変自虐的なプランを想定しているようです。
“他は選ばれたけど、僕は選ばれない、まさに独身系瓶詰業者(インディペンデントボトラー)”とでも言うつもりなのでしょうか。

「でもこれ、応募あったらどうするの?」
という問いに対して、絶対にないから、と話していましたが…。既に同クラウドファンディングでネタ枠だった”高所作業車名づけプラン”が購入済みとなっている件について考えると、1度あることは2度あるんじゃないかなぁと。
私の財布では荷が重いですが、どなたか英雄の登場を期待しております(笑)。

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過去の記事とも重複した話になりますが、スコットランドではウイスキー蒸溜所が造った原酒を、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが買い取り、様々なリリースに繋げてきました。その例に倣えば、T&T TOYAMAのプロジェクトは今後のジャパニーズイスキー業界の継続的発展のため、必要な1ピースであると言えます。

勿論、類似の事業が過去から現在にかけて、なかったわけではありません。例えば、イチローズモルトで知られるベンチャーウイスキー社の立ち上げを支えた、笹の川酒造の原酒買い取りと各種リリース。軽井沢蒸溜所の原酒を受け継いだNo,1 Drinks社のリリースもまた、広義の意味では日本のウイスキーのボトラーズ事業と言えるでしょう。

ですが、今回T&T TOYAMAの立ち上げる、ジャパニーズウイスキーボトラーズプロジェクトのように、
・ニューメイクから原酒を調達し、自社の熟成庫で自社調達した樽で熟成させた原酒をリリースする。
・熟成環境の提供や、ボトリング設備のレンタルといった、ウイスキーをリリースするために必要な機能を提供するサービス。
という、ただ熟成した原酒を買い付けるだけではない、多くの蒸溜所と二人三脚でウイスキー業界を成長させていくような構想は、今までにないものです。

日本における空前のウイスキーブームがもたらす、おそらくは今後無いであろう機運の高まり。大きなプロジェクトを立ち上げるのは、タイミングが重要です。クラウドファンディングの募集期間は残り約1か月。既にプロジェクトは確定しており、後はネクストゴール含めてこのプロジェクトがどこまで育ち、形になっていくのか。一人の応援者として楽しみにしています。


Ken’s Choice アメリカンドリームバレル 13年 テネシーウイスキー 50% TWSC2021受賞

カテゴリ:
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AMERICAN DREAM BARREL 
SINGLE BARREL TENNESSEE WHISKY
Ken’s Choice 
The Independence 
Aged 13 years 
Distilled 2003 
For Ken's bar 
700ml 50% (101.6proof)

評価:★★★★★★★(7)

香り:焦げ感を伴う無骨なウッディネス。トーストやキャラメルソース。甘くビターなアロマの中に、松の樹皮やスパイスを含む香り立ち。徐々に焼き洋菓子を思わせる香ばしい甘みも開いてくる。度数も高さ故、骨格もしっかりとしており濃厚でリッチな構成。

味:香りに反してスムーズで柔らかく、メローでバランスの良い構成。メープルシロップを思わせる甘み、微かに焼き林檎やチェリーの果肉、焦げたオークのアクセント。じわじわとウッディなタンニンが口内に染み込んでいくが、嫌味の無い程度で余韻は穏やかに消えていく。

香り立ちは一般的なアメリカンウイスキーのそれと異なり、まるで余市の新樽熟成や羽生モルトのいくつかに感じられるような、無骨なウッディさが感じられるが、味は非常に柔らかくマイルド。香りとのギャップに驚かされる。この味わいの中にある素朴な感じと柔らかい酒質、蒸留所はジョージ・ディッケルだろうか。熟成を経たことで感じる角の取れた甘み、バランスの良さ、完成度の高い1本である。
飲み口のすぼんだテイスティンググラスだと香りが少しくどくも感じられるため、リーデルのモルトグラスか、なければロックグラスに氷を入れず、ストレートで濃厚かつ円熟した香味を楽しみたい。

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先日発表された、ウイスキー文化研究所主催のコンペ、TWSC2021。有識者による審査の結果、ウイスキーカテゴリーで最高金賞に受賞した12本のうち1本が、このボトルです。サンプルを頂いていたんですが…ブログ掲載していませんでした(汗)。
モノはアメリカンウイスキーへのこだわりで知られるKen’s barのプライベートボトル。ラベル右上に書かれた2005は蒸留年ではなく、同BARの創業年となります。
原酒はTWAからの調達で、TWAでテネシー、そして2003年蒸留と言うと、同ボトラーズが10周年を記念してリリースしたボトルをはじめ、同年のものがいくつかリリースされていますので、TWAが蒸留所からまとめて購入した樽の一つ、と考えるのが妥当でしょうか。

最近はテネシー州にも蒸溜所が増えていますが、2000年代蒸留で10年以上熟成したテネシーウイスキーとなると、蒸溜所の選択肢はジャックダニエル、ジョージディッケル。この2つはマッシュビル※がコーン比率高くライ比率少な目という共通点がある中で、明確な違いはやはり味の柔らかさでしょうか。どちらもテネシーウイスキーらしくメローで甘めな香味であるものの、ジャックダニエルのほうが骨格がしっかりしており、ボリューミー。ジョージディッケルのほうが柔らかい、というのが個人的な印象です。
※ジャックダニエル:コーン80、ライ8、モルト12
※ジョージディッケル:コーン84、ライ8、モルト8

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以前飲んだTWAの別リリース(上画像)は、香味とも樽が強く、正直どちらの蒸留所なのかわかりませんでした。
しかし今回のリリースは、13年間の熟成を経たことによる濃厚さはあるものの、味はスムーズでマイルド。香りに少々特殊な要素がありますが、味はジョージディッケルと言われて違和感ありません。
また、補足的な推測材料として、ラベルの表記が「SINGLE BARREL TENNESSEE WHISKY」となっている点ですね。オフィシャルボトルの整理で言えば、ジャックダニエルはWHISKEY、ジョージディッケルはWHISKY表記となっており、こだわりの強いKen's Barさんなら、ここは合わせてくるのではないか…と思うのです。

実際、ラベル(ボトルデザイン全体)を眺めると、リリース側の妥協なき拘り、溢れる愛が見えてきます。
アメリカンウイスキーの禁酒法前後の時代を彷彿とさせる、スコッチウイスキーとは異なる空気を纏うオールド調のデザイン。
拘りはキャップにまで及んでおり、同時期を意識したと思われるTAXシール風の紙封印に加え、上から蝋封してあるのがいかにもそれっぽい。ここまで来ると、販売上の度数設定が50%(実際は101.6Proofだが、小数点以下切り捨てのため)というのも、BIB仕様を意識したのではないかとすら感じます。

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中身が素晴らしいので、これらのネタは分からなくても充分楽しめるウイスキーですが、同店の常連になるような愛好家からすれば、オタク心を擽る一粒で二度美味しい仕様。リリースする側の表情が見えるとは、こういうことを言うのかもしれません。
リリースを調整されたインポーターさん(信濃屋さん?)は相当苦労されたんじゃないかとも推察しますが、実に良い仕事だと思います。
近年様々なラベルリリースが増えていますが、やはり自分の好みはこういうタイプですね。

改めましてKen‘s Bar様、最高金賞の受賞、おめでとうございます。
早く一連のコロナウイルス問題が落ち着き、BARに伺って、リリースを飲みながら関わった方々の話を聞きたいです。


以下、余談。
話は逸れますが、今回のTWSC2021には、我々がリリースに関わらせてもらったウイスキー、GLEN MUSCLE No,5もエントリーされており、シルバーを受賞しました。

突き抜けて美味しいウイスキーではなく、コンセプトと将来性を楽しむリリースなので、ゴールド以上はないだろうと思っていましたが、コンペで自分たちの作品が評価されるというのは、想像以上にワクワクするものでした。
若鶴酒造さま、ウイスキーのリリースだけでなく、普通は経験できないような機会を頂き、本当にありがとうございました!

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マクダフ 13年 2006-2020 GM 52.9% For モルトヤマ #101695

カテゴリ:
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MACDUFF 
CONNOISSEURS CHOICE
GORDON& MACPHAIL
Aged 13 years
Distilled 2006
Bottled 2020
Cask type Refill Bourbon Barrel #101695 
For Maltoyama 
700ml 52.9%

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:オーキーで華やかなトップノート。洋梨やドライパイナップルを思わせるフルーティーさ、ココナッツ、ほのかにバタービスケット。注ぎたて(開封直後)はドライでスパイシー、ハーブや木材の削りカスのようなアロマがトップにあるが、徐々に黄色系のフルーティーさと蜜っぽさ、麦芽由来の甘みが強くなり、加水するとさらに開いてくる。

味:スムーズな口当たりから、柔らかいコクのある麦芽風味と軽いスパイシーさ。香り同様にアメリカンオーク由来の華やかな含み香があり、洋梨の果肉、砂糖漬けレモンピールとナッツを思わせる甘みとほろ苦さ。余韻は程よくドライでウッディ、オーキーな黄色系フルーツの残滓を伴って穏やかに続く。

オークフレーバーと麦芽風味主体。リフィルバレルなのがプラスに働いた、樽感と酒質のバランスの良さが魅力的な1本である。開封後時間経過、または少量加水すると香りにあったドライな刺激が穏やかになり、すりおろし林檎や白葡萄のフルーティーさ、ホットケーキなどの小麦菓子を思わせる甘さといった、好ましい要素が充実してくる。40%程度まで加水するとさらに麦芽風味が充実し、まさにデヴェロンだなぁと言う感じ。フレーバーを楽しむなら段階的に加水を推奨するが、ハイボールにしても良好で、夏向きの味わいを楽しめる。
近年のGMコニッサーズチョイスらしい、蒸溜所のハウススタイルを活かした仕上がり。蒸留所の限定品やハンドフィルを買ったら、こんな感じのものが出てくるんじゃないかという完成度の高い1本。

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先日、T&T TOYAMA ジャパニーズウイスキーボトラーズ事業の紹介をしたので、今回は手元にある富山関係リリースのレビューでも。T&Tなら ニンフのラフロイグやアードベッグって手もあるんですが、この状況じゃ読んで貰った後でBAR飲みって訳にもいかないですし、ここはまだ買えて家飲み向きなボトルで。。。
というわけでこのGMコニッサーズチョイスのマクダフ、まだ買えるんですよね。価格も同じようなフレーバーを持ったオフィシャルや、他のシングルカスクリリースとの比較でも違和感なく、味も悪くない。というかむしろ良い部類なのに、なんででしょう。スペックが地味だからかな?

構成は安定のバーボン樽熟成、黄色系フルーティー・ハイランドモルト。リフィルバレル熟成なので、ドカンとオーキーで突き抜ける感じではないですが、その分マクダフらしい麦芽風味がフルーティーさと合わせて開く綺麗な仕上がり。過剰なウッディネスなどネガティブな要素が少ないだけでなく開封後の変化も良好で、ドライ気味な部分が徐々にこなれて好ましい要素が開いてきます。

私見ですが、マクダフの魅力は若いリリースから見られる麦芽風味と、熟成を経ていくと現れる綺麗なフルーティーさにあると感じており。今回の一本は長熟のカスクではないものの、それらに通じる魅力を感じさせてくれると思います。
その他の飲み方では、ロックにするとちょっとウッディさが目立ちますが、軽やかで冷涼なオーク香が心地よく、加水やハイボールは言わずもがな。特にハイボールはこれからのシーズン、テラスや野外でゴクリとやったら優勝案件でしょう。アレンジとしてレモンピールをちょっと絞ったり、あるいはスペアミントなんて浮かべてみたり。。。単にオーキーなだけでなく、酒質由来のフレーバーの素性が良いので、様々な飲み方にマッチしてくれます。


このマクダフがリリースされた時、同時にシェリー樽熟成のグレントファースもリリースされ、愛好家の間で話題になっていました。
やっぱりGMってボトラーズは凄いですね。ボトラーズ苦境の現状にあっても普通にこういう樽が出てくる…そしてそれを相応な価格でPBとして回してしまうのですから、「GMの貯蔵量は化け物か」とか呟いてしまいそうです。
(勿論、そうした原酒を引っ張ってこれたモルトヤマさんの繋がりも、これまで数多くのPBをリリースしてきた経験・実績によるもので、一朝一夕に実現できることではありません。)

話が逸れますが、GMのコニッサーズチョイスは、かつては加水オンリーで、カラメルを添加したような甘みのある緩いシェリー感のあるボトルが中心。その後はそれのリフィル樽かというプレーンなタイプが主体。つまりシェリー樽熟成系が多かったわけです。
ところが、2018年頃にブランド整理を行ってリリースの方向性を変更すると、今回のようにシングルカスクでリリースするコニッサーズチョイスが登場。このシリーズでは先に触れたキャラクターから離れ、バーボン樽で熟成した原酒や、蒸溜所のハウススタイルやオフシャルリリースの延長線上にある味わいのリリースが見られるようになります。

おそらく、CASKシリーズなど別ブランドに回していた樽をコニッサーズチョイスで使うようになったのでしょう。また、GM社を含めてスコットランドの老舗ボトラーズは、1年のうち決まったタイミングで蒸留所からニューメイクや熟成原酒をまとめて買い付けており(そういう会議の場があるのだとか)、一部の原酒は他ボトラーズメーカーに回すなど、ブローカー的な活動もしています。
今回のボトルのように、今までのGMのリリースと毛色が違う、蒸溜所のハウススタイルが全面に出ているような樽は、ひょっとすると熟成原酒として買い付けたものからピークを見極めてリリースしたボトルなのかもしれません。

絶対的エースと言えるような、圧倒的パワーや存在感のあるタイプではありませんが、所謂ユーティリティープレイヤーとして、こういうボトルが1本あると助かる。そんなタイプのリリース。
ちなみにフレーバーの傾向としては、麦芽風味が豊富なものでクライヌリッシュ、グレンモーレンジ、アラン。ぱっと思いつくマイナーどころでダルウィニー、ダルユーイン、オード。。。この辺が好みな方は、このボトルもストライクゾーンではないかと思います。

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