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2021年03月

【クラブハウス企画】ジャパニーズウイスキーの基準と今後に必要と思うこと 3月17日22時30分~

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先日、以下の記事で告知した、クラブハウスでの対談企画。
ウイスキー勢の人口ってクラブハウスではまだまだ少ないんですが、こんなマニアックな話題なのに、多くの方が聴講に来てくださったようで、この話題への関心の高さを感じます。(話すのに必死で把握していませんでしたが、100名くらい来られたとか?、本当にありがたい限りです。)

クラブハウス企画「ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く」by TWD 3月12日22時~ : くりりんのウイスキー置場 (blog.jp)

ただ、この日は酒税法、表示基準、JW基準の解説に加え、息抜きとしてオマケ(ラベルトリビア的なもの)の話もしたので、思った以上に時間を使ってしまい、基準後の業界はどうなるのか、期待することは何か、という”その後の話”をあまりすることが出来ませんでした。

なので、唐突ですが追加枠で、今晩ひっそりと
・基準運用において、必要だと考えられること(日本洋酒酒造組合に求めること)
・そもそもジャパニーズウイスキーの魅力って何だろうか

これらについて、語ってみようと思います。
※今回話をするのは私一人です。勿論、クラブハウスなのでリスナーからの質問や、飛び入りで話に入ってもらっても問題ありません。

ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く【延長戦】
タイトル:ジャパニーズウイスキーの今後に必要と思うこと
3月17日(水) 22時30分~23:30頃
https://www.joinclubhouse.com/event/PD4a6NLr

そして、先日話したこと、これから話すことは、まとめて記事でも公開させて頂きます。
メモ的な構成になり、オフレコ含めてすべてを書くことは出来ませんが、iphone持ってないので聴講できない、というコメントやメッセージを結構頂きましたので、これでご容赦いただければと思います。
また、3月21日は酒育の会で同様に基準を読み解く対談企画もあります。私の意見とは違うものもあると思います。他の方々の企画も参照いただければと思います。


【以下、参考資料】
追加話題①:基準運用において必要だと考えられること
(1 )基準を遵守するメリットはあるのか。
・基準によって、少数の”ジャパニーズウイスキー”の価値がさらに高まる可能性。
・海外では基準に対する誤解もある模様。※
※ジャパニーズウイスキーと表示する場合の基準、ではなく、日本のウイスキー造りの基準と読まれるケース。
・現時点で基準は法律ではない。
・作り手以外に販売側(メーカー営業、酒販店など)が遵守しないと意味がない。

(2)日本洋酒酒造組合に求めたいこと。
基準によって透明性は担保されたが、品質が担保されたわけではない。そもそも前提として、基準を守ってもらわなければ意味がなく、そのうえで業界の底上げと、正しい成長に繋げなければならない。
そのためには、透明性や情報発信の強化に加えて、品質を高めるための取り組みを求めたい。

提案1:基準マークの作成。
提案2:海外からも参照可能な、ジャパニーズウイスキーを包括的に紹介するWEBサイトの作成。(蒸溜所マップ、蒸溜所やウイスキーの紹介、著名人や組合認定者による官能評価の実施、各種情報の発信など)
提案3:ウイスキーの品質向上(仕込み、ブレンド技術)のためのセミナーや人材紹介。
提案4:ウイスキー仕込みに用いる組合酵母(日本酒の協会酵母的なもの)の提供。
提案5:グレーンウイスキー並びにモルトウイスキーの提供や交換にかかる橋渡し。

※補足:提案3~5は、大手メーカー以上にクラフトウイスキーメーカーへのサポートという位置づけが大きい。
大手や他社に依存する関係は健全とは言い難い。日本のウイスキー産業の構造では、ジョニーウォーカー等のブレンドメーカーやボトラーズブランドが不在であるため、大手以外の各社が1社1社力をつけて、独自のブランドを確立する必要がある。
そして時に手を取り合う、協力体制を作れることが望ましい。まずはそのための下支え、底上げが必要であると考える。

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参考:安積蒸留所で試験的に仕込まれた、日本酒酵母によるウイスキー。蒸留酒と言えど酵母の違いは仕上がりに大きく影響する。


追加話題②:ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か
そもそも、基準を作ったうえで求められるジャパニーズウイスキーとはどんなものか。
スコッチウイスキーを主とし、一部バーボンウイスキー(アメリカンウイスキー)のDNAを持つ日本のウイスキー造り。
ウイスキーの作り方は基本的には同じ、装置もほぼ同じ、そして現時点では原材料も輸入。こうした中で、ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か?個性とは何か?、この点を個人的見解に基づいて紐解きたい。

事例1:仕込みの違い。
A「糖化?お湯入れておけば出来るだろ。」
B「XX℃のお湯を麦芽〇〇〇kgに対して●●●リットル入れて、〇〇時間行う。」

A「ポットスチルXX機。ただし蒸留後、ニューメイクは同一のスピリッツタンクに混ぜられる。」
B「ポットスチルXX機。蒸留後はそれぞれニューメイクをタンクに入れ、樽詰めする。」

A「基本はホワイトオーク、スパニッシュやフレンチオークもシェリー樽やワイン樽として一部使う」
B「基本は同じ。他方で同じホワイトオークでも新樽や活性樽、ミズナラ、桜、その気になれば栗や杉も使う。」

安定した大量生産の考え方か、多種多様な原酒を1つの蒸留所が作る考え方か。


事例2:気候の違い。
・日本とスコットランドの違いは四季、大きな気候変化である。
・誤解してはならないのが、日本は四季があるから”勝手に”美味しくなるという話ではない。
・日本のウイスキー造りは、四季との闘い(特に夏、冬)か、如何に共存できるかと言える。
・樽のエキスは温暖な時に出る。特に20度後半、30度台になると極端に出る。
・一度出たエキスは戻ることは無い。これにより、スコットランドでは端麗で華やかな仕上がりになるものが、日本では濃厚でウッディな仕上がりとなる。
・ちなみに、台湾のように温暖すぎる環境では、熟成によって得られる香味の奥行きを出しづらい。

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画像引用:【2020年版】エディンバラの気候とオススメの服装を解説! | School With

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環境における樽感の出方の違いのイメージ図。C-①は温暖、C-②は普通、C-③は冷涼な地域をイメージ。点線は樽そのものが解け出る量を示す。

まとめ:日本のウイスキーの個性とは?
・日本は、スコットランドにはないタイプ(例:濃厚でウッディ)な原酒が存在。
・気候を克服することによって繊細かつ華やかなタイプの原酒も作ることが出来る。ただしこれは苦手。
・水質の違いから、日本の水で加水するとまろやかになりやすい。
・シングルモルトでは、10〜15年熟成で勢いのある酒質ながら樽が強く、適度な奥行きを備える。
・仕込み、気候の違いによって得られた多様な原酒をブレンドすることで、ジャパニーズウイスキーは十二単のように多くの香味の層と、重厚さを持つウイスキーとなりえる。
・ジャパニーズウイスキー表記は出来ないが、輸入原酒を活用してさらに香味の幅を広げることが出来るのも、現時点では日本で造ることが出来るウイスキーのみである。
・また、小規模なクラフトは、これ以外に地産の麦芽や樽材を使うなど、日本独自の材料の取り込みにも期待したい。世界に発信できる、更なる魅力あるウイスキーの創出に期待。

※参考:代表銘柄の個人的イメージ
バランタイン:ガラス細工、100円ショップ~職人仕事
ジョニーウォーカー:西◯の吊るし〜オーダースーツ
響:着物、街着〜十二単
竹鶴:野武士~宮仕え
富士:黒船来航

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サントリー オールド 43% 2021年現行品

カテゴリ:
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SUNTORY OLD WHISKY 
A TASTE OF
The Japanese Tradition 
700ml 43% 

評価:★★★★★(4-5)(!)
※ストレートの評価。ロック、濃いめの水割りで食中酒として楽しむべき。その場合は+★1

香り立ちは穏やか、甘い熟成した原酒のウッディなアロマが一瞬感じられ、シリアルのような穀物香、サトウキビ、踏み込むとそれを突き破るようにツンと刺すような刺激がある。
口当たりは少々あざとくもあるとろりとした甘さの中に、若干ピリピリとした刺激、若さが感じられる。一方で、シェリーやバーボンオークの熟成した山崎原酒の甘み、ウッディさがふわりと鼻腔に届き、ブレンドの方向性を示している。余韻はビターでやや単調。少し口内に張り付くように残る。

感覚的には10年程度熟成した原酒を軸に、それを若いグレーン原酒で引き延ばしたという構成。
そのため、香味ともトップノートに山崎蒸留所の原酒を思わせる甘やかなウッディさがあって「おっ」と思わせる一方で、該当する熟成原酒を構成の1~2割とすると、8~9割が若い原酒とも感じられる構成であり、グレーン系の風味や、香味の粗さも目立つ。キーモルトの主張はプラス要素であるが、ストレートではやはり安価なウイスキーであることも認識出来てしまう。

ところがこれをロック、水割りにすると、上述の悪い部分が薄まり、熟成原酒由来のフレーバーが伸びて一気にバランスが良くなる。安心感すら感じる味わいだ。特に日常的な食中酒としての使いやすさは特筆もので、特別なシーンのための1本ではない、だからこそ長く親しめる。そんな作り手の意図が感じられるリリースである。

水割り

最近SNS、クラブハウス、いろんなところでプッシュしていますが、個人的に評価急上昇中の1本が、サントリーオールドです。
先日発表されたジャパニーズウイスキーの基準、これと合わせて日経新聞の報道※では、サントリーのブレンデッドで「ジャパニーズウイスキー」に該当するのは響、季、ローヤル、リザーブ、オールドとされており。特にオールドはジャパニーズウイスキーの中で最も長い歴史があり、最も安価なリリースとなります(1950年発売、現行価格1880円)。せっかくだからこの辺をちゃんと飲んでみるかと、購入してみたわけです。※参考記事

正直、びっくりしましたね。あれ?こんなに美味しかったかなと。(驚きついでにLiqulにもコラムを寄稿したので、近日中に掲載されると思います。)
以前飲んだものは、華やかだけど結構ペラいという印象で、ハイボールなのかロックなのか、どちらで飲んでも半端な感じでしたし、そもそも80年代以前のオールドボトルはお察しレベルでした。
原酒の多様性か、あるいは基準に合わせてレシピを変えてきたのか、間違いなく現行品が進化しており、キーモルトの良さに加え、楽しめる飲み方があるウイスキーになっているのです。


補足すると、ストレートでは粗さというか、あざとい感じが、値段相応という部分に感じられます。なので、飲み方によって評価は変わるかもしれません。美味しさの質もちょっと違いますし。
ですが、トップノートに感じられる熟成した山崎蒸留所の原酒を思わせる香味が、水や氷を加えることで、若い原酒の刺激、濃いめの甘さ、香味の粗い部分と混ざり合って平均化され、綺麗に伸びてくれる。非常によく考えられているウイスキーだと思います。

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価格帯で前後のラインナップと比較すると、この山崎の熟成原酒由来と思える甘やかなウッディネスは角やトリスには感じられず、リザーブともキーモルトのキャラクターが異なります。これらは白州のバーボン樽原酒のキャラクターである華やかさ、爽やかなオーク香を感じるんですよね。

構成の違いは、サントリーが各銘柄をどのように飲んで欲しいと考えているかで変わっていると推察します。
上述の通りオールドは水割りで甘み、熟成した原酒の香味が伸びて、ゆったりと楽しめる。柔らかく甘い含み香がまさに和食に合うような、落ち着きのある味わいです。
一方、角やリザーブはハイボールでさっぱりと、オーク香と炭酸の刺激で爽やかに楽しめる。それこそ揚げ物などの居酒屋メニューに合いそうなのがこちらの飲み方です。オールドのハイボールは、悪くないけどそこまでという感じで、線引きされているようにも感じます。


歴史を振り返ると、オールドは和食に合うウイスキーという位置付けでリリースされた系譜があります。
想定された飲み方はまさに水割りやロックといった、日本の酒文化に根付いた飲み方。ラベルにThe Japanese  Traditionと書かれているように、狙いの違いが感じられるだけでなく、これをジャパニーズウイスキーの基準に合致させてきた点にも驚かされました。

それこそ、このクオリティのものを2000円未満という価格で大量生産しているのですから、改めてサントリーの凄さを感じます。
それは原酒の質、種類もそうですが、ブレンド技術ですね。理想的な状況で美味しいモノを作れるのは当たり前で、限られた状況で如何に優れたものを作れるかがプロの技。例えば響21年ならハイボールも水割りもロックも、すべからく美味しくなるでしょう。ローヤル、リザーブも原酒のレベルがオールドより上なので、ストレートでもそこそこ飲めます。
一方このオールドは、原酒に加え、コスト面も制限が強くある中で、シーンを限定することでおいしさを発揮する点にそれを見ます。また、味わいに感じる熟成した原酒の香味から、コスト面はギリギリ、可能な限りを尽くした薄利なリリースではないでしょうか。

オールドは、昭和の一時期、世界トップクラスのセールスを記録した銘柄でしたが、その反動からか色々言われた銘柄でした。光が強ければ影も強くなる。ただ、当時のものを飲むと、その主張にもなんとなく納得してしまう味でもありました。

ジャパニーズウイスキーの基準に照らすと、冒頭述べたように最古にして最安値のジャパニーズウイスキーと位置付けられるのがオールドであり、ここまで紹介したように品質も文句のないレベルです。
それこそ同じ市場を狙うクラフトウイスキーメーカーはリリースの方向性、打ち込み方を考えないと真正面からでは太刀打ちできないとも思ってしまうクオリティ。
迫るジャパニーズウイスキー新時代。約30年の時を経て、昭和の大エースに改めて光が当たる時がきたのかもしれません。

クラブハウス企画「ジャパニーズウイスキーの基準を読み解く」by TWD 3月12日22時~

カテゴリ:

最近流行りのアプリ、クラブハウス。面白いアプリですね。
ラジオよりもリスナーとの距離が近く、一方でyoutube等の動画アプリとは違って音声中心なので手軽に発信できる。一応「メモ禁止、録音禁止」という紳士協定もあるため、若干踏み込んだ発言も出来る。

例えば1か月に1度くらい、今月飲んだウイスキーを振り返りつつ、リリースに関わった人や酒販関係者、他のブロガーとかも招待してラジオ的に対談する、質問を受け付ける・・・なんてやったら面白いんじゃないかなとか考えているところです。
こじつけですが、本業で役立つ、WEB会議の進行や、説明スキルの向上にもつながりそうですし。

さて、そのクラブハウスで今週末3月12日(金)22時から、ジャパニーズウイスキーの基準をテーマに、1つセッションを予定しています。
最近毎週何かしらテーマを決めて開催している飲み手仲間の雑談場ですが、今回はちょっとガチめに。
まとめをしてくれるモデレーターは、同じくウイスキーブロガーで、プロテイスターでもあるDrinker's Lounge のYakuさんです。

TWD Presents 【飲み手の話】割と若い世代の飲み手が洋酒の未来について割とストイックに雑談します
日時:3月12日(金)22:00~23:30予定
入退出:自由
ルール:特にありませんが、基準や特定の銘柄を不当にディスる会ではありません。
参考資料:本記事下部に掲載。
※クラブハウスアプリは現時点ではiOS専用なので、android端末からは参加できません。

クラブハウスTWD

前半は、ジャパニーズウイスキーの基準に関連するところとして
・酒税法
・ウイスキーの表示に関する公正競争規約及び施行規則
・ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(通称:ジャパニーズウイスキーの基準)

以上3つのルールから、ざっくり意図するところを解説します。
これらは過去記事で既にまとめていますが、要点を絞っていくのと、文字に出来ないことを話していく感じで。

特に、今回施行される”ジャパニーズウイスキーの基準”については、記載されているものが何を狙いとしているのか、海外のウイスキー市場の反応など、個人的理解・考察の範囲ですが、紹介できればなと。
(そこは違うのではないか、こうとも読める、というリスナーからのレスがリアルタイムで聞けて、私自身の勉強に繋げたいのも、狙いの一つです。)

そして後半では参加者からの質問受付は勿論、気になる蒸留所の話、ジャパニーズに限らずオススメリリースなど、話を広げていければと考えています。
Yakuさんは話を聞いたり、繋いだりするのが凄く上手い人なので、私がぱーっと喋って空回りすることなく、きっと面白いセッションになるんじゃないかと期待しています。

なお、両者での事前打ち合わせとかは一切しません。いやほら、クラブハウスってそういうアプリですから―——―。ぶっつけ本番?、それでもYakuさんなら・・・Yakuさんなら何とかしてくれる・・・(丸投げ)。

自分はこのブログを始めた初期のころから、それこそ愛好家全体を見ても輸入原酒問題が広く知られていなかったころから、某社社長の呼びかけに応じる形で酒税法の問題点含めて日本のウイスキー業界の状況を記事にし、発信してきました。
また、並行してクラフトウイスキー関係の方々とも関わりが広がり、今回の基準についても背景含めて一般の愛好家よりは内情を知っていると思います。
金曜夜の夜更かし、ウイスキー片手に、ちょっとしたラジオ感覚で楽しんで貰えたら幸いです。

(後日談:延長戦もひっそりとやりました。)


※「続きを読む」ボタンが表示される場合は、押すと参考情報が表示されます。
【以下、当日参考情報】

ロッホローモンド ピーテッド シングルグレーン カフェスチル 46%

カテゴリ:
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LOCH LOMOND 
PEATED SINGLE GRAIN 
COFFEY STILL 
700ml 46% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:ピーティーでフローラルな(パフューム香ではない)柔らかいバニラ香、奥から柚子やレモンピールのような柑橘、微かに針葉樹を思わせるハーバルなアクセントも。複層的でスモーキー、フレッシュな要素も顔を出すが、若い原酒に由来する嫌味な要素は少ない。

味:香り同様柔らかい口当たり。合わせて広がるピートスモーク、洋梨の果肉のような緩いフルーティーさ、香り同様の柑橘感。余韻は柔らかいスモーキーさとビター、モルティーな甘みを舌の上に残して穏やかに消えていく。実に飲みやすい。

久しぶりに驚かされた1本。香味のベースはグレーン味(バーボン系統の香味)かと思いきやそうではなく、モルトウイスキーのそれでありながら、口当たりは柔らかく、質感はグレーンの柔らかさ、クリーミーさを受け継いでいる。また、蒸留方法の影響か、味はそこまで複雑ではないが、若さやネガティブな要素も少なく、溶け込んだピートフレーバーがバランス良く薫る。ピートは50PPMとのことだが、体感では10〜20程度といったところで、そこまで主張しない。
異色のグレーン。しかし内陸系ピーテッドモルトの一種と整理しても申し分ないクオリティがある。様々な可能性を秘めた1本。コストパフォーマンスも良好である。

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ロッホローモンドのオフシャルラインナップの一つ。本国では2020年に、日本国内では2021年3月2日から販売されています。
“ピーテッドグレーン”ってどういうことなの?
穀類乾燥させるときにピートを焚いたの?
と、ラベルを見た瞬間は混乱しましたが、調べてみるとピーテッドモルトを連続式蒸留器で蒸留した、ニッカのカフェモルトのような大麦原料のグレーンウイスキーであり、既製品のロッホローモンド・シングルグレーンの姉妹品に該当するようです。

同蒸留所には、玉ねぎ型の通常のポットスチルに加え、ネック部分の仕切りで酒質の調整が可能なローモンドスチル、カフェスチル、連続式蒸留器(コラムスチル)と、4種類の蒸留器が稼働するだけでなく、樽工場まで自社に備えています。多様な原酒の作り分けに加えて、分業制が一般的なスコットランドでは非常に珍しい、モルトとグレーンの蒸留が可能な唯一の蒸溜所※であり、近年大きな成長を遂げていることでも知られています。
※樽工場を持つ蒸留所は4社、連続式蒸留器までもつ蒸留所はロッホローモンドのみ。

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(蒸溜所外観(写真上)と、ロッホローモンドに導入されている蒸留器4タイプ(写真下:ロッホローモンド蒸留所WEBページより引用))

これら4種の蒸留器のうち、モルトでは画像左2種類のスチルを使ってインチマリン、ロッホローモンド、インチモーンとフルーティーなタイプからピーティーなタイプまで、様々なモルト原酒の造り分けが行われている一方。右側2種類のカフェスチル、連続式蒸留器でブレンデッドウイスキー用のグレーン原酒づくりも行われています。

今回のリリースは、2007年に導入されたカフェスチルでピーテッドモルトを連続蒸留したもの。同蒸留所においてカフェスチルは、主にモルトの蒸留に用いられているそうです。連続蒸溜は香味成分のないクリアなスピリッツが取れるという印象でしたが、これだけピートフレーバーは残るんですね。
稼働時期から原酒の熟成年数は長くて12年強となるわけですが、今回のリリースは樽感が淡く、ウッディさも主張しないので、例えばリフィルのバーボンバレルで7〜8年程度と少し若いものかと予想。ただし若いからえぐみがあるとか、粗いとか、そういうタイプではなく、ピートフレーバー含めて非常に柔らかく、クリーミーであり未熟感も少ない仕上がりとなっているのが蒸留方法の違いであるように感じられます。

また、ロッホローモンドなら「濡れたダンボール」「ユーカリ油」と言ったような個性的なフレーバーの存在が気になるところですが、これも若さ同様に抑えられています。あるのはモルトの素直な甘みと柔らかいスモーキーさ。まさに良いとこどり。
姉妹品のシングルグレーン(以下、画像)については、同様の柔らかさがあって飲み始めの人等にはオススメである一方、個人的には複雑さという点で少し物足りなさも覚えるところ。今回のリリースでは、その物足りなさをピートフレーバーが補っているのです。

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「ピーテッドグレーン」というネーミングには面食らいましたが、個性の強い部類に入るロッホローモンドの原酒の中で、グレーン原酒の特性から決して長熟でもないのにこのまとまり具合、そしてこの飲みやすさ。「なるほど、こういうのもあるのか」と、香味以外に造り方も含めて大きな可能性を感じた1本でした。
っていうかこれで3500円ですから、コスパも文句なし。同じ価格でピーテッドモルト買ったら、もっと粗い仕上がりのリリースがほとんどです。

ストレート以外にハイボールなど様々な飲み方でも試してみたい。あるいは、この原酒をブレンドに使ったら・・・、今までにない新しいキャラクターにも繋がりそうです。バルクで入れて国内で使えないかなぁ…例えば長濱のブレンデッドに使ったら絶対面白いし、酒質の柔らかさとしてもマッチするはず。これは都光さんの仕事に期待したいですね。

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今日のオマケ。コスパの良さと、スペックでの驚きが共通点。

手取川 限定中取り純米大吟醸  特醸あらばしり 2020BY
味は文句なし。ですが、あらばしり(荒走り)は日本酒を絞る際に最初に出てくるお酒で、中取りはそのあと出てくるお酒。つまりこのスペックが同時に存在することは無いと思うのですが、どういうことなの?と。。。

ウイスキー仲間経由で調べてもらったところ、このあらばしりは、荒ばしりではなく、新酒を意味する新走りのことではないかと。なるほど、新酒の中取りってことか、紛らわしい(笑)。
因みに香りはフレッシュでライチやメロン、軽い香ばしさ。吟醸香はしつこくなく、味も適度なコクと甘みと酸、極微炭酸の刺激。フルーティーさにはウイスキーのフェロモン系のトロピカル香にも共通するニュアンスがあり、思わず笑顔になってしまう味わいでした。
うん、これはもう一本購入したいです。

三郎丸蒸留所×長濱蒸溜所 日本初のクラフトブレンドが実現

カテゴリ:
先日、ジャパニーズウイスキーの基準発表に関連し、三郎丸蒸留所の声明を紹介させて頂きました。内容に関して賛同する意見がSNS等で多く見られ、また同時に原酒交換によって実現する”クラフトジャパニーズブレンド”への期待も高まっていたところ。
そのわずか10日後。三郎丸蒸留所、そして長濱蒸溜所から、早くも原酒交換によるコラボ企画「日本初のクラフトブレンデッドウイスキー」の発表がありました。

複数の蒸留所が連携して企画し、同時にプレスリリースまで行う。これまで日本の蒸留所には見られなかった動きにワクワクしてしまいます。
自分はどちらの蒸留所も、創業初期(三郎丸蒸留所はリニューアル後)から毎年見学させて貰っているだけでなく、オリジナルリリースでの関わりもあり、他の愛好家よりも近い関係にあると言えます。
後日、レビューも掲載したいと思いますが、今日はわかる範囲で今回のリリースに関する情報をまとめ、紹介していきます。


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リリースは写真左から
長濱蒸溜所 INAZUMA
ブレンダー:長濱蒸溜所 屋久佑輔
・BLENDED MALT JAPANESE WHISKY "SYNERGY BLEND" 47% 700本
・WORLD BLENDED MALT WHISKY "EXTRA SELECTED" 47% 6000本
※プレスリリースはこちら

三郎丸蒸留所 FAR EAST OF PEAT
ブレンダー:三郎丸蒸留所 稲垣貴彦
・"FIRST BATCH" BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 50% 700本
・"SECOND BATCH" BLENDED MALT WHISKY 50% 5000本
※プレスリリースはこちら

※販売は3月30日から、両蒸留所が運営するオンラインショップ並びに関連酒販等で行われます。
なお、FAR EAST OF PEATのBatch1、IZUNA2本セットが3月8日から14日まで抽選受付となっています。詳細は各社の酒販またはメールマガジンなどを参照ください。



■ブレンデッドジャパニーズウイスキー2種
INAZUMAは、長濱蒸溜所のノンピートモルトと、三郎丸蒸留所のピーテッドモルトを使用(どちらもバーボン樽熟成)。
FAR EAST OF PEATは、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト(バーボン樽熟成)と、長濱蒸溜所のライトリーピーテッドモルト(アイラクオーターカスク熟成)を用いたものとなります。

使われている日本産原酒の蒸留時期は、双方とも2017年で、熟成年数は3年強と言うことになります。
つまり3年熟成のブレンドモルト?と感じるかもしれませんが、どちらも2020年にリリースされたシングルモルトは若さを感じさせない仕上がでした。また、2017年蒸留の長濱モルトは柔らかく穏やかな風味、三郎丸モルトはヘビーで広がりのある風味で、系統は異なるものの、どちらの酒質も共通してブレンドで馴染みの良さを感じる点があり、若いから…という思い込みは早計と言えます。

INAZUMAの組み合わせはノンピートとピーテッド。ノンピートでバーボン樽熟成の長濱モルトは、麦の甘さ、オーク樽由来のフルーティーさが酒質の柔らかさと合わさって穏やかに味わえるタイプであり、それがピーティーさがメインの三郎丸モルトのパワーを包み込む、足りない部分を補うような仕上がりが期待できます。
またFAR EAST OF PEATが使っている長濱のモルトは、アイラクォーターカスク熟成ということで、実物も見たことがありますが、これはラフロイグ蒸留所のもの。麦芽の甘みとスモーキーさに加わる、アイラ由来のフレーバーの一押し。。。この競演がどのようなシナジーを生むのか、実に楽しみです。

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(今回のブレンドに用いられた原酒は、両蒸留所ともアップデートが施される前に仕込まれたものである。例えばポットスチルは、三郎丸は旧世代のスチルを改修したもので蒸留されている。長濱は現在より再留器が小型で、スチルの数も異なる。詳細は以下対談企画を参照。)

■ワールドブレンデッド2種について
今回の企画では、どちらのブランドにも輸入モルト原酒を使った、ワールドブレンデッド仕様がラインナップされています。
振り返ってみると、三郎丸蒸溜所はムーングロウで、長濱はアマハガンで、それぞれWorld Whisky Awardで部門受賞を経験するなど、自社モルトとバルク原酒を使ったウイスキーについても評価されているのです。

個人的に、オリジナルリリースの関係で両蒸留所の保有する原酒を飲む機会を頂いてますが、それぞれ異なる企業、蒸留所から調達されているもので、国内での追加熟成も経て全く違う素材としてブレンドに作用すると感じます。
両ブレンダーが目指す方向性の違いも含め、一体どんな味わいになっているのか。これまでのウイスキーシーンにはなかったユニークな試みであり、個人的にはこのワールドブレンド仕様の仕上がりに、密かに期待しています。

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(長濱、三郎丸両蒸留所で関わらせてもらったオリジナルブレンデッド。どちらの蒸留所にも自前、輸入で様々な原酒があり、品質も一定以上が担保されている。)

■両蒸留所のウイスキーと造り手の想い
三郎丸蒸留所、長濱蒸留所については、酒育の会のLIQULにて特集対談記事が公開されています。
偶然ですが、長濱蒸留所編の公開は、まさに本日からです。
今回のリリースをきっかけとして、両蒸留所に興味を持たれた方は、ぜひ以下の記事も参照いただければと思います。
創業から現在に至るまで、どのような変化があったのか、目指すハウススタイルや、造り手の想いなど、対談形式でまとめています。

【ジャパニーズクラフトウイスキーの現在】
Vol.1 三郎丸蒸留所編:https://liqul.com/entry/4581

Vol.2 長濱蒸留所編:https://liqul.com/entry/5209

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※自画自賛気味ですが、WEB公開されている記事の中では両蒸留所の情報を一番網羅している記事だと思います。

今回のリリースは、冒頭述べたようにジャパニーズウイスキーの基準制定を受け、三郎丸から原酒交換に取り組むという発表があった矢先のことでした。「いやいや、動き早すぎでしょ」と感じた方も少なくないのではないでしょうか。

実は、今回の企画の発起人と言える三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーは、それこそ蒸留所をリニューアルして再稼働させた時から原酒交換のプランを持っており、他の蒸留所の見学や情報交換を行うなど、基準が形になる前から動きを進めていました。
私もクラフトウイスキー間の連携推進や、グレンマッスルでのジャパニーズブレンド構想があり、お互いに何が出来るか話をする中で、今回の一件もそういう動きがあると伺っていました。

鶏と卵の話ではありませんが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する話を受けて原酒交換が動いたというよりは、ブレンドづくり含めて準備を進めていたところ、今年に入って唐突に動きがあり「いつやるの?今でしょ!」と、両蒸留所がリリースにGOサインを出した。という流れであるようです。
ですがその前後関係は些末なこと。これによって原酒交換の前例が出来、ノウハウも両蒸留所にあることになります。蒸留所として今後も取り組みを進めていくことに変わりはなく、むしろ各社にとっても追い風となる実績が作れるのではないかと期待しています。

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長濱蒸留所の屋久ブレンダーと、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャー(兼ブレンダー)は、両蒸留所の距離が他の蒸留所に比べて離れていないこと、長濱蒸留所は規模が日本最小、三郎丸蒸留所は生産量が日本最小で、お互いに小さな蒸留所であることなど、何かと繋がりを感じるところがあり、意見交換をしてきたそうです。
例えば長濱蒸留所の原酒で、ある仕様が2018年頃から変わったのですが、それは稲垣さんのアドバイスからだったという話も聞いたことがあります。

詳しくは、ボトル購入特典となっている両ブレンダー対談動画で語られると思いますのでここでは伏せますが、こうして造り手同士が繋がって、お互いに品質を高めていく。
日本のウイスキーのルーツたるスコッチウイスキーは、大手メーカーと中小メーカーの共存共栄から発達してきた歴史があります。日本ではこれからクラフトを中心にそうした動きが出て来ればと、今回のリリースを第一歩とした動きに期待してなりません。

先の基準は、海外市場で既に反響を呼んでおり、ひょっとすると業界が想定していた以上の影響が今後出てくるとも考えられます。
そうして考えると、日本のウイスキー業界は、新しい時代に突入したと言えるのではないでしょうか。
新時代におけるクラフトウイスキーの魅力とは何か、そして市場を取るための計画は如何に。単に作れば良いだけではなく、大手との違いは何か、強みはどこにあるのか。必ずしも原酒交換だけが選択肢ではありません。
例えば蒸溜所がある地域のシェアだけは絶対に抑えると、地域限定ボトルのリリースというのもあるでしょう。厚岸蒸留所のような●●オールスターを作るというのも1手です。
基準に加え、今回のコラボレーションリリースが呼び水となって、クラフトウイスキー(自社ウイスキー)のさらなる魅力を、各社が考えていくようになるのではないかと思います。

規制下での創意工夫から、新たな付加価値が生まれるのは、産業界で数多起こってきた出来事の一つです。まずは今回のリリースを楽しみにしたいところですが、ここからのジャパニーズクラフトウイスキー業界の動きにも注目していきたいですね。

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