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2021年03月

ジャパニーズウイスキーをテーマにしたトークショーby alco 4/4(日)15時~

カテゴリ:
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4月4日、alcoさんが企画・主催するオンライントークショーに参加することとなりました。
テーマは「ジャパニーズウイスキー(ニッポンのウイスキー)」、ファシリテーターを務める中井さんの進行に合わせて、プレゼンテーター3人がトークする感じです。
ただし自分は音声のみ参加なので、いつものアイコン画像か、代理のクリリン人形がカウンターに置かれる形になります。某ローカル局の某移動番組のディレクターのような感じで、画面外から2人にあれこれ言う感じですね。


オンライントークショー
TALKING ABOUT 
JAPANESE WHISKY
by alco


プロのバーテンダー、ブロガー、酒屋が語る「ニッポンのウイスキー」
日程:4月4日 日曜日
時間:15時~16時30分
参加費:無料、事前登録不要

配信先:オンラインによるライブ配信
1. YouTube live(映像あり)
https://youtu.be/Nhu66Rl_l1Y
2. Clubhouse(音声のみ)
https://www.joinclubhouse.com/event/M43Gn22a
※同時配信、トーク内容は同じです。なお、見逃し配信はありません。
※収録時は窓の開放によるオープンエアの確保、アクリル板の設置等コロナウイルス対策を行います。


テーマとなる「ジャパニーズウイスキー」。
このワードだけで、なるほど、基準の話ね、とイメージされるかもしれません。確かに、基準の解説もしますが、それが全てというわけではなく、一番の目的は日本のウイスキーを応援すること。プレゼンテーターが好きな蒸留所やリリースを紹介したり、そもそもジャパニーズウイスキーの魅力とは何なのか、これを語り合っていくことになります。
ブームから大きな注目を集めるジャパニーズウイスキーですが、何が魅力なのか、蒸留所ごとの特徴だけでなく、他の地域のウイスキーとはどう違うのか、語られることは少ないように思います。

鈴木さんはウイスキー文化研究所が認定する、マスターオブウイスキーの2代目。幅広い知見に加え、バーマンとして長きに渡りお酒を扱われてきた、業界を代表する一人です。
新美さんはリカーマウンテン777の若き店長として、日々多くのお酒を扱われ、自身もウイスキーリリースに関わる等、洋酒業界の次の世代を担う期待のホープです。
そこに業界の人間でもない私が入るというのは中々違和感がありますが、プロバーマン、酒販関係者、そして愛好家としてそれぞれの立場、視点から語り合えるというのは、今までに無い試みではないでしょうか。

ちなみに、事前に簡単な情報交換を行ったのですが、結構意見が分かれていて面白かったですね。
今回の放送はライブのみで、記録としても残らないため、多少踏み込んだことも許されるでしょうか。なので、鈴木さんがぼやいたり、自分がぶっこんだり、新美さんがオロオロしたり、そんな風景があるんじゃないかなぁと予想しています(笑)。
・・・中井さん、仕切り頑張ってください!!
※中井さんはWhisky-eのイベントマネージャーを務められたり、ラグビーワールドカップの組織委員会で広報活動に関わったりと、その道のプロの方です。




なお、本イベントはあくまで有志による”趣味”として企画・開催されるもので、酒販メーカー、メディア等による販促を目的としたものではありません。
alcoというグループは、「BARとウイスキーの素敵バイブル」の執筆、編纂を行った小笹加奈子さんが立ち上げられたもの。これから洋酒に関連する情報発信を定期的に行っていく、その第1回として今回のテーマが設定されたものです。

第2回以降は、例えばウイスキー以外もテーマにして、作り手や愛好家がふらっと話に来るような、そんな企画として考えられているのだとか。当面はトライ&エラーの部分もあると思いますが、私自身も音声による情報発信はこれからやっていきたいと考えているので、勉強させてもらおうと思っています。
直前の告知になってしまい申し訳ありませんが、皆様、是非ご視聴のほどよろしくお願いします。


※以下、公式情報※
4月4日(日)、国内外で大人気のジャパニーズウイスキーをテーマとしたオンライントークショーを行います。ご登場いただくのはその道に精通したバーテンダー、人気ブロガー、リカーショップの若手店長。一度きりの生放送です。
最近、日本産ウイスキーボトルのラベル(表示)に新たな基準が設けられたことや、基準が変わるとどうなるの?といった話、大手メーカー・中小の蒸溜所に関する話など、とことんニッポンのウイスキーについて語っていただく90分。
日曜午後のまだ明るい時間ですので、好きなお酒を片手に、気軽にご視聴いただけたらと思います。 以下、概要です。

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◼︎企画名
プロのバーテンダー、ブロガー、酒屋が語る
「ニッポンのウイスキー」
◼︎日時
4月4日(日) 15:00〜16:30
◼︎形式
オンライントークショー(無料)

◼︎視聴方法
同時配信、トーク内容は同じです。
1. YouTube live(映像あり)
https://youtu.be/Nhu66Rl_l1Y
2. Clubhouse(音声のみ)
https://www.joinclubhouse.com/event/M43Gn22a
※ ハウリング防止のため、管理人のClubhouseアカウント(1アカウント)のみで行います。
※ 事前にアプリのダウンロードとアカウント登録(招待制)が必要です。
※ Clubhouseの仕様により、残念ながらAndroidユーザーの方はご利用いただけません。
・ウイスキー中級者程度が対象の内容になります。
・パイロット版ゆえ見逃し配信なし、一度限りの生放送になります。
・時間は90分を予定しておりますが、前後する可能性があります。
・本番組の録音・録画、メモ(著作物の複製)、再配布は禁止します。

◼︎プレゼンテーター
鈴木勝二(草加「John O'Groats」マスターバーテンダー)
くりりん(ブログ「くりりんのウイスキー置場」運営)
新美剛志(「リカーマウンテン銀座777」店長)
◼︎ファシリテーター
中井敬子(ウイスキープロフェッショナル)
◼︎企画
小笹加奈子(ウイスキーエキスパート)
◼︎構成
<Session 1> テーマ説明、ジャパニーズウイスキーのラベル表示に関する新基準について
<Session 2> ジャパニーズウイスキーブームとその影響
<Session 3> ジャパニーズウイスキーの魅力と楽しみ方
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初めてのことばかりなので、最善は尽くすものの、不測の事態により変更が生じた場合には何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます


 

サントリー ローヤル 43% 2021年流通品

カテゴリ:
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SUNTORY 
ROYAL 
BLENDED WHISKY 
660ml 43% 

評価:★★★★★★(5-6)
※ロックでの評価、★6

香り:多少ツンとしたドライな刺激を伴う甘やかなウッディさ。すもも、干し柿、ドライアプリコット。いくつかの果実の穏やかな甘酸っぱさに、シェリーオークのカルメ焼きを思わせる甘くビターなアクセント。じわじわとホワイトオークやミズナラ系の華やかさ、オリエンタルと言われる和的な要素も混じってくる。開封直後は鼻腔への刺激が強い印象だが、時間経過での開きは良好。

味:緩くマイルドな口当たり。香り同様に複層的なウッディネスが含み香で広がり、柑橘やすもものキャンディ、蒸かした穀物、それらを引き締めるウッディな渋みと変化する。余韻は少しピリピリとした刺激から、舌の上に残る適度な重さのあるシェリー樽由来の甘みと、ミズナラ要素を含むオーク香が口内に揺蕩うように残る。

プレーンな原酒でキーモルトの香味を引き延ばす”引き算”ではなく、樽香の”足し算”で造られている多層的な香味構成。最も、比率として多いのは6~8年程度の若い原酒と思われ、10~15年熟成の原酒の要素がトップノートにありつつも、開封直後は樽香に硬さや、多少の刺激も目立つ。しかし時間をかけるとじわじわと硬さがほぐれ、使われた原酒由来の甘やかさ、多彩な樽香のレイヤーを、一つ一つ紐解くことが出来る。

以上のようにストレートでは少し気難しいところがあるため、日常的な飲み方としてはオンザロックをオススメしたい。ピントが合い辛かったウッディさが解け、特にミズナラ系の香味がわかりやすい。冷たく心地よい口当たりから、温度が上がることで一つ一つの個性が穏やかに口内から鼻腔に立ち上っていく変化は、上位ブランドにも通じるところがある。
ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か、その答えの1つを味わうことが出来るブレンデッド。休売となった響17年ほどの香味の広がり、重厚さはないが、レプリカとしてなら完成度は充分すぎる。誉め言葉として”プアマンズ響”という言葉を贈りたい。

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ここ最近紹介している、デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。1000円台のオールド、2000円台のリザーブ、そして最後は3000円台のローヤルです。
過去2つのレビューでも触れましたが、オールドやリザーブは”安ウイスキー”として見ていた部分があり、ちゃんと飲んでみて、日本人の好みに合わせて計算された美味しさ、真摯な造り、何より価格設定にも唸らされたところです。

一方でローヤルについては、元々美味しいというか、造りの良さは認識しており、侮っていたわけではありませんでした。ただ、改めて現行品を飲んでみると、先の2本とはそもそも作り方というかブレンドの方向性が異なっていることや、ローヤルの魅力・特徴を理解するきっかけともなりました。
味もさることながら、現在の市場価格3000円程度でこれだけのブレンドを量産できるって、日本の他社には真似できないですよ、いやホントに。

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(デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。リザーブからはストレートでもイケるが、オールドは濃いめの水割り、リザーブはハイボール、ローヤルはロックがオススメ。)

オールドが山崎のシェリー樽原酒を、リザーブが白州のバーボン樽原酒をそれぞれ軸にして、多少モルトの香味が足されつつも、最終的には若いグレーン原酒で引き算したような香味構成であるのに対し、ローヤルは様々な樽由来の香味を重ねて混ぜ合わせていくような、足し算のブレンデッドであること。そして、軸となる香味の一つには、ジャパニーズウイスキー発のフレーバー”ミズナラ香”が感じられる点が、ローヤルの特徴です。

これは最近休売や生産調整などもあって入手困難となってしまった、響の17年、21年、30年とも共通するコンセプトだと言えます。
酒に限らず、メーカー品にはフラグシップの思想をそのまま活かした廉価版が存在することが度々ありますが、ローヤル現行品はまさにそれ。バーボン樽由来の華やかさ、バニラ香。シェリー樽やワイン樽由来のコクのある甘みとほろ苦さ、和のニュアンスを思わせるミズナラの独特のアロマ・・・。熟成に用いた樽由来のフレーバーが、例えるなら着物の重ね着のように一つの形となっている。サントリーのブレンドであり、ジャパニーズウイスキーの魅力とは何かという問いに対する答えを見ることも出来ます。

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(ブレンデッドウイスキー響は、オーケストラをイメージして作られたと言われている。それは様々な音色(原酒)の足し合わせであり、特に17年以上のグレードは熟成した原酒の厚み、多彩さからそれを体現するような構成。先の着物のイメージで言えば、十二単をイメージする艶やかな多層感である。)

一方で、量産品故にコストや原酒貯蔵量との兼ね合いもあるのでしょう。上位グレードほどの香味の広がりがあるわけではありませんし、一部使われている若い原酒の硬さ、刺激が、熟成した原酒の柔らかく甘いウッディさを突き抜けて主張してくる点が、価格なりな部分にあります。

日本は温暖な気候故に、短期間で樽香を原酒に付与することが出来ます。例えば温度の上がりやすい環境として、山崎蒸留所の見学コースにあるような熟成スペースを使うとか。あるいはグレーン原酒を各樽の1st fillとして貯蔵し、長期熟成には使い辛い一番強く出る香味部分をブレンドに活かすとか。。。
ただ、短期間で付与した原酒はどうしてもベースの粗さが取り切れていないため、加水してもピリピリとした香味が残ってしまうし、重厚さも劣ってしまう。ローヤルのトップノートには、そうした要素が感じられるのも事実です。

とはいえ、これらは低価格で美味しいウイスキーを生み出し、安定して供給するための創意工夫でもあります。限られた条件下で可能な限り上等なクオリティを生み出す。まるで料理人が安価な材料でも仕込みと技で優れた逸品を作り出すような、まさにプロの技であると。
レビュー上でもオススメしていますが、現行品ローヤルの引っ掛かりは、時間をかけるか、あるいは日本人に一般的な飲み方であるロックにして飲むと問題なく消えます。それでいて熟成して重厚な味わいとなった原酒とは異なる、いい意味で適度な樽感、くどくない程度に広がる甘やかで多層的な含み香は、日常的に楽しめて飽きの来ない味わいでもあります。

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(1989年以前のローヤル。1960年代から70年代のころ(右側)は、モルトの香味をプレーンなアルコールで引き算したような構成になっているが、(左側)の80年代は原酒が確保されたか、ブレンドの方向性が定まったか、現代に通じる多層感、ミズナラ系の香味も感じることが出来る。)

サントリー・ローヤルは、初代マスターブレンダー「鳥居信次郎」が、ブレンダーとして最後に手掛けた、文字通り集大成として位置付けられているウイスキーです。
同氏のブレンドのコンセプトとなっているのが、日本人が美味しいと感じる味わい、現代で言う「ブレンドの黄金比」です。ただおそらく、当時の黄金比と今の黄金比は違うものと考えられます。半世紀以上の時を経て、我々日本人の味覚や趣向は変化しているわけですが、それは当時と現代のウイスキーとで、造りの違いを見ても明らかです。

現行品はわれわれの味覚、飲み方に合わせて、原酒の許す範囲で調整されているのでしょう。より華やかで、多彩で、それでいて繊細さも失わない・・・ですが、コンセプトは変わっていない。ローヤルをはじめ、これまで紹介してきた”御三家”は、その点がちょうどいいのです。
文字通り肩ひじ張らず、晩酌で、ちょっとした飲み会の席で、その場に合わせた自然な酔いを提供してくれる美味しさ。多くのウイスキーを飲み、モルトウイスキーに慣れた愛好家にとっても、逆に「そうそう、こういうので良いんだよ」と自然体で楽しめる味わい。創業者の想いが時代を超えて息づいているようにも感じられるのです。

清里フィールドバレエ 2020 白鳥の湖 63% イチローズモルト 秩父蒸留所

カテゴリ:
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Kiyosato Field Ballet
31th Anniversary 
Ichiro's Malt 
Single Malt Japanese Whisky
Chichibu Distillery 
Aged 7 years 
1 of 680 Bottles 
700ml 63%

暫定評価:★★★★★★★(6ー7)

香り:甘やかで穏やかに立ち上る熟成香。トップノートに梅や杏を思わせる酸が微かにあり、アーモンドを思わせる香ばしさと、ほのかに酵母やピーテッド麦芽そのもののようなスモーキーさ、麦芽香が続く。グラス内で刻々と変化する個性のみならず、その残り香も実に魅惑的。秩父らしいスパイシーさと、長期熟成したウイスキーをも連想するウッディで甘酸っぱい樽香が感じられる。

味:しっとりとした口当たりから反転して力強い広がり。序盤は秩父原酒らしいハッカ、和生姜を思わせるスパイシーさが一瞬あった後、置き換わるようにウッディな甘み、微かに林檎のカラメル煮、オレンジジャム、古典的なモルティーさが穏やかなピートフレーバーを伴って広がっていく。
余韻はフルーティーな甘みとモルティーな香ばしさ、ジンジンとした刺激はゆったりと落ち着き、微かに残るピート香がアクセントとなる、官能的なフィニッシュが長く続く。

ノンピートモルトとピーテッドモルト、2樽合計4樽のバッティングとのことだが、それ以上に感じられる複層的な味わい。ノンピート3樽、ピーテッド1樽という構成だろうか。香味に起承転結があり、序盤は秩父らしい個性の主張がありつつも、余韻にかけてピーテッドの柔らかいスモーキーさと、モルティーな麦由来の古典的な甘みに繋がる。度数63%に由来する香味の厚み、広がりがある一方で、それを感じせない香りの穏やかさと口当たりの柔らかさも特徴と言える。

少量加水すると甘酸っぱさ、オールドモルトを思わせる古典的なニュアンスが前面に出て、スモーキーフレーバーと交わり一体的に広がっていく。ジャパニーズらしさと、在りし日のスコッチモルトを連想する要素が渾然一体となった官能的な味わいは、間違いなく愛好家の琴線に響くだろう。
それにしても、秩父モルト2樽だけでこの味わいがつくれるとは、俄に信じられない。麦芽か、樽か、通常とは異なる特別な何かが作用しているように感じる。こうしたミステリアスな要素がウイスキーの魅力であり、面白さである。

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山梨県・清里、萌木の村で毎年8月に開催されているバレエの野外公演。定常公演としては日本で唯一という”清里フィールドバレエ“の第31回公演を記念したボトルが、2020年夏から遅れること約半年、3月下旬からリリースされることとなりました。
本サンプルは、リリースに先立って萌木の村 舩木村長から頂いたものです。ボトルの提供はBAR Perchで先行して行われており、今後は一部BARを中心に関係者限りで展開されていくとのことです。

清里フィールドバレエ記念ボトルは、第25回記念としてサントリーから特別なブレンドが。第26回から第29回はイチローズモルトから羽生原酒と川崎グレーン原酒を使ったブレンデッドウイスキーがリリースされていたところ。これだけでも伝説と言うには十分すぎるリリースでしたが、節目となる2019年第30回開催では、再びサントリーから白州30年という過去例のないスペックのボトルがリリースされていました。
※過去作のレビューはこちら

一方、別ルートで聞いた話では、イチローズモルトに羽生原酒と川崎グレーン原酒のストックはほとんど残っていないとのこと。サントリーも毎年毎年協力出来るわけではないでしょうし、ならば今後、フィールドバレエとして過去作に相当するスペックのボトルがリリースされることは難しいのでは・・・と。実際、2020年夏を過ぎてもリリースの報せはなく、第30回をもって記念リリースは終わってしまうのかと、そう感じてすらいました。
(そうでなくても、第30回の1本は、フィールドバレエシリーズのフィナーレと言われても違和感のない、奇跡的なリリースでもありました。)

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ですが、コロナ禍にあっても第31回清里フィールドバレエが開催されたように、ウイスキーとしてのフィールドバレエも終焉を迎えた訳ではありませんでした。
同ウイルスの影響で苦しい想いをしている関係者、BAR・飲食業界に少しでも活気を、前向きな気持ちを与えることが出来たらと、舩木村長がイチローズモルト・秩父蒸留所を訪問して直接オファー。
今作は、秩父蒸留所のモルト原酒のみで造る、全く新しいチャレンジとしてフィールドバレエ記念ボトルがリリースされたのです。

今作のテーマは、第31回フィールドバレエの演目であった「白鳥の湖」です。
そのストーリーを構成する白と黒、善と悪の要素に照らし、スタンダードな個性のノンピートタイプの秩父モルトと、ピーテッドタイプの秩父モルト、正反対な2つの原酒が選ばれ、ブランドアンバサダーでもある吉川氏によってバッティングされたものが今作のシングルモルトとなります。

熟成年数は7年、使われた樽は4樽(うち1つはチビ樽)、ボトリング本数は680本とのこと。バーボンバレルからのボトリングでは、同じ年数だと180~200本程度となるのが秩父蒸留所で良く見られるスペックであるため、4樽のうち3樽がバーボンかホグスヘッドとすれば、ほぼ全量使われているものと考えられます、少なくともどちらか片方の樽は、最低500本程度は取れる、大きな樽で熟成した原酒が使われたのではないかと推察されます。

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それでは、この新しいチャレンジとも言えるリリースを、香味で感じられた要素から紐解いて考察していきます。

香りのトップノートは度数63%を感じさせない穏やかさ。ウイスキーには香りの段階である程度味のイメージが出来るものが少なからずありますが、このウイスキーは逆に香りから全体像が見えないタイプで、ピートスモークの奥にあるフルーティーさ、甘やかな熟成香に味への期待が高まる。まるでステージの幕がゆっくりと上がり、これからどのような展開、演出があるのかと、息を飲む観客の呼吸の中で始まる舞台の景色が連想されるようです。

飲んでみると、香り同様に穏やかな始まりで、バーボン樽とは異なる落ち着きのあるウッディな甘みがありつつ、力強く広がる秩父モルトの個性。これはノンピート原酒に由来するものでしょうか。秩父モルトの殆どに感じられる独特なスパイシーさ、そこからモルティーな甘みとピーティーなほろ苦さ、穏やかなスモーキーさへと、まさに白から黒へ場面が変化していきます。

物語において、結末はその印象を決定づける重要な要素です。
本作は、スモーキーフレーバーをアクセントに、リフィル系の樽の自然なフルーティーさ、ウッディな要素、そしてモルト由来の香ばしさと甘みが渾然となり、白と黒の個性が混ざり合うフィニッシュへと繋がっていく。軽く舌を痺れさせた刺激は観劇を終えた観客から響く喝采のようでもあり、名残を惜しむように消えていくのです。

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(直近リリースでバーボン樽系ではないフルーティーな秩父としては、THE FIRST TENがある。このリリースに感じたリフィルシェリー系のフルーティーさは近い印象があるものの、スモーキーさと後述する特別な要素で、異なるウイスキーに仕上がっている。)

ここで特筆すべきは、樽由来の要素として1st fillのバーボンやシェリー樽といった、俺が俺がと主張してくるような強い個性ではなく、麦芽由来の風味を引き立て、穏やかな甘みとフルーティーさをもたらしてくれる引き立て役としての樽構成です。その点で、このリリースに使われた樽は香味から判別しにくくあるのですが、バーボン樽だけではない複雑さがあり、なんとも絶妙な塩梅です。

何より、レビューにおいて”官能的”という表現を使うに足る特徴的なフレーバーが、このシングルモルトの魅力であり、ミステリアスな部分もであります。
ウイスキーのオールドボトルや、あるいは適切な長期熟成を経たウイスキーが持つ、ただドライでスパイシーなだけではない、独特の風味・質感を持ったモルティーさとフルーティーさ。このボトルは7年という短期熟成でありながら、そうした個性が溶け込み、香味において愛好家の琴線に触れうる特別なニュアンスを形成しています。

秩父の原酒はノンピート、ピーテッドとも様々飲んできましたが、こうしたフレーバーを持つものはありませんでした。
素性として、何か特別な仕込みの原酒か・・・可能性の高さで言えば、どちらかの原酒を熟成していた樽、またはマリッジを行った樽が羽生や川崎グレーンといった長期熟成原酒を払い出した後の樽だったりとか、白と黒の原酒の間をつなぐ存在がもう一つあったとしても不思議ではありません。
さながらそれは、フィールドバレエが公演されている、夏の夜の空気、清里の大地の香りのような、フィールドバレエたる舞台を形作る重要な1ピースのようでもあります。

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このブログを読まれている方はご存知かもしれませんが、私は秩父第一蒸留所のモルト原酒に見られる特定のスパイシーさ、えぐみのような個性があまり好みではありません。
飲んでいるとこれが蓄積されてきて、胸焼けのような感覚を覚えて、飲み進まなくなることがしばしばあるためです。

が、このウイスキーでは嫌味に感じないレベルのアクセント、多彩さを形成する要素にすぎず、むしろ好ましいフレーバーへ繋がって、味わい深く仕上がっています。確か秩父に★7をつけるのは初めてですね。
それこそ純粋に味と1杯の満足感で言えば、過去作である第26〜29回の羽生原酒と川崎グレーンのブレンドリリースに負けていません。長期熟成による重厚さは及ばないものの、若い原酒のフレッシュさと、それを補う落ち着いた樽の要素とピート香、余韻にかけて全体のバランスをとっている特別な要素の存在。。。今だから創れる味わいがあるのです。

先人の遺産ではない、現代の作り手と原酒が生み出す、清里フィールドバレエ記念ボトル、新しい時代の幕開け。ミステリアスな魅力も含めて、多くの愛好家に楽しんでもらえるウイスキーだと思います。
そして最後に私信となりますが、舩木上次さん、今回も素晴らしいリリースと、テイスティング機会をいただきありがとうございました。
コロナ禍という過去例のない事態であっても、最善を尽くし、一流を目指す。そのチャレンジ精神が形になったような、清里の地にもフィールドバレエにも相応しいウイスキーです。
是非今度、萌木の村で詳しい話を聞かせて頂けたら幸いです。


※4月7日追記:本件、関係者から2樽と聞いていましたが、正しくは4樽であるとの情報を頂きました。2樽だと色々腑に落ちない部分があったので、個人的にもすっきりしました(笑)。関連する部分を追記・修正させて頂きました。

サントリー スペシャルリザーブ 40% 2021年流通品

カテゴリ:

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SUNTORY 
SPECIAL RESERVE 
Luscious Elegant Aroma 
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)

香り:穏やかな香り立ち。トップノートは華やかでややドライ、オーク香と薄めたメープルシロップを思わせる甘み、微かにシェリー香に由来する甘酸っぱさも混じる。全体的に適度な熟成感がるが、奥には少し鼻腔を刺激する若さ、やや表面的な印象も受ける。

味:口当たりはスムーズでゆるい甘さ。香りで感じられる甘酸っぱいウッディさと華やかなオーク感が、グレーンのコクや柔らかい口当たりから鼻腔に抜けていく。余韻にかけては樽由来のフレーバーがまとまっていき、ほろ苦く、香り同様に少しピリピリとした刺激を伴いつつ残滓として口内に残る。

主軸となる原酒構成は決して若すぎず、体感で5~12年といった熟成感。白州のバーボン樽原酒を思わせる個性をキーモルトに、シェリー樽系のフレーバーが隠し味となって香味の幅に繋がっている。値段なりの部分はあるが、ストレートでもそれなりに飲め、ロックや水割りに合わせやすい。何より、個人的にはハイボールをお勧めしたい。香味の軸となっているオーク香が伸び、さっぱりとした飲み口から鼻腔に抜けるようにふわりと香る、甘やかで華やかなアロマが特徴と言える。
肩肘張らずデイリーに楽しめる、白州味メインなブレンデッド。目立たないが仕事はきっちり、もっと評価されるべき”いぶし銀”なヤツ。

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2021年4月1日に施行されるジャパニーズウイスキーの新基準。
自主基準ではありますが、この基準に合致する3000円台までのジャパニーズウイスキーは、オールド、リザーブ、ローヤルしかなく。ウイスキーにおける一般的なデイリーユースを同価格帯までとすれば、この3本はまさに、デイリー・ブレンデッドジャパニーズ御三家と言える存在となっています。

先日オールドを飲んでそのクオリティに驚かされ、じゃあリザーブとローヤルはどうだろうと、会社帰りに近所のカクヤスでご購入。
ノーマルなリザーブは、特級時代のものを除けば10年前に12年表記のものを飲んで以来久しぶりであり(新幹線で水割り缶は飲みましたが)、これだけ期間が開いたとあっては、実質初テイスティングとも言えます。

その日はリザーブをロックとハイボールでやりながら、クラブハウスで「JWの新基準を読み解く」を放送したわけですが・・・。お、こいつもええやんかと、放送しながら軽く4~5杯くらい飲んだと思います(笑)。
ブレンドの軸となる10~12年程度熟成したモルト原酒の香味を、若い原酒(特にグレーン)で伸ばしたような方向性はオールドとも同じなのですが、全体的に熟成年数が上がっているのか若さは目立たない。また、白州原酒由来の華やかなオーク香にシェリー系の樽感やグレーンのコク、甘みがアクセントとなって、バランスの取れた仕上がりです。

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あくまで個人的な印象ですが、上述の”御三家”(三本柱とか、呼び方は何でも良いですが、全て半世紀以上の歴史を持つロングセラーなので、敬意を評して)の中で、リザーブは目立たないというか、だったらローヤルでええやんとも思ってしまう位置づけでした。度数もリザーブだけ40%ですし。
ただ、改めて飲んでみるとそれぞれキーモルトとなっている原酒の違いが分かりやすく。ストレートはあまり響かないかもしれませんが、飲み方次第ではなかなかどうして、多くの愛好家が納得できるだろう味わいに仕上がっていると感じます。

リザーブの軸となっている、白州原酒由来の華やかなオークフレーバーは、実は角瓶にも構成要素の一つとして備わっているキャラクターです。ただ、これはハイボールにすると消えてしまう。一方で、リザーブはハイボールにしてもそうした香味が適度に残り、含み香で華やかに香りつつ、余韻はすっきりさっぱり、ブレンデッドらしく飲みやすいバランスの良さが印象的です。

オークフレーバーの強さだけでいえば、スコッチモルトのバーボン樽熟成など、もっと強く、主体的に感じられるものはあります。ですが、そうした銘柄はオークフレーバーが強すぎて、単体では良いのですが、特に食中で使うにはくどいと感じることもしばしば。。。和食、というか白米と味噌汁が出てくるような日常的な食事にはなかなか合いません。
オールドの水割りでも感じた、フードペアリングと言うほどには対象を定めない、まさに日常的な使いやすさ。特定条件下での計算されたバランスの良さが、リザーブにもあるのです。



サントリー・リザーブは、かつて佐治敬三社長の「海外から来たお客さんから見ても、見劣りしないウイスキーを」という号令の下で開発され、1969年に発売されました。
これは1970年の大阪万博を見据えた方針でしたが、1971年には洋酒輸入自由化が始まり、ライバルとなるスコッチウイスキーが自由に輸入・販売されるようになること。
さらに歴史を遡ると、1962年の酒税法改正(雑酒扱いだったウイスキーに、ウイスキー区分が新設される)を受け、国内でも各社の競争が過熱していたことから、サントリーとしてウイスキー区分のブランドを確立するための1手でもありました。

一方で、視点を現代に向けると、国内外で加熱するジャパニーズウイスキーブーム、新たに施行されるジャパニーズウイスキーの基準。そこに適合し、新時代におけるブランド確立に向けて、虎視眈々と準備を進めていたサントリーの戦略。。。
これらの動きが、リザーブ発売当時の状況とも重なって見えて、興味深くあります。

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リザーブの軸となるオークフレーバーは、スコッチモルトに多く見られる王道的キャラクターの一つであり、香味だけでいえばライバルは多数。また製品自体も、価格帯でブレンデッドスコッチ有名銘柄12年クラスとモロかぶりという、まさに激戦区に投入されたブランドです。
ですが、飲み比べて特段見劣りするという感じはなく。ジャパニーズウイスキーらしさを、複数タイプの原酒の掛け合わせ、多彩な樽香が織りなす重厚さとするならば、同じようにオークフレーバーが軸にあっても、淡麗寄りのバランタインやシーバスリーガル12年に無い複雑さを感じることが出来ますし、味の面でも優れていると思います。

1969年発売当時、リザーブのキャッチコピーは「国産品と呼ばず、国際品と呼んでください」でした。
このリザーブの戦略が、どのような結果に繋がったかは定かではありません。すぐにオールドが市場を席巻しましたし、品質面で当時のグレーンは怪しいところもありました。ですが、現代においては文字通りの国産品であり、国際品と呼ぶにもふさわしいクオリティを身に着けたと言えます。

サントリー・リザーブが、今後どのように愛好家に受け入れられていくのか。脚光を浴びる時が来るのか。御三家としてリザーブを残したサントリーの戦略が、現代の市場にどのようにハマるのかはわかりません。
ただ個人的なことを言えば、今まではこうした銘柄は率先して飲んできませんでしたが、改めて飲むと気づく点が多いというか、本当にしっかりと考えられて造られていることが見えてきます。1周まわってデイリーユース。これもまた、ウイスキーの楽しみ方なのかもしれませんね。

アードベッグ レアカスク 1998-2020 Cask No,50 For Benjamin tan 56.5%

カテゴリ:
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ARDBEG RARE CASK 
Benjamin Tan's Private Collection 
Aged 22 years 
Distilled 1998 
Bottled 2020 
Cask type American Oak Refill Cask (6 years old), 2nd fill Sherry Cask (16 years old) 
Cask No,50 
700ml 56.5% 

暫定評価:★★★★★★★★(7-8)

香り:トップノートはリッチでふくよかな甘みを伴うシェリー香。ただべたつくような甘さではなく、コーヒーを思わせるアロマティックな要素や、レーズンや無花果等のダークフルーツ、林檎のカラメル煮などフルーツの甘酸っぱさも含んでいる。合わせて落ち着きのあるピートスモーク、ほのかに鰹節っぽさも伴う複雑なアロマ。

味:粘性のある口当たり。色濃いウッディさ、香り同様のリッチなシェリー感が、存在感のあるピートスモークを伴って広がる。香りと異なり、味はピートが優位。ダークフルーツジャムのようなシェリー感を底支えにして、アイラピートのスモーキーさ、カカオチョコを思わせるほろ苦さが余韻にかけてしっかりと広がる。
余韻は焦げた木材、鰹節、そしてほのかな薬品香を伴う特有のスモーキーフレーバーが、甘いシェリー香を伴って長く続く。

樽次第では、近年でもこういうものを作れるのか。古き良き時代を彷彿とさせるような、シェリー系のアイラモルト。甘酸っぱく赤黒系のフルーティーさのあるシェリー感に、どっしりとしたスモーキーさ。余韻にかけてアイラ系の要素、アードベッグと思える風味。微かに溶剤ような異物感が混じったが、全体的には良質なシェリー感とピート感で楽しめる。例えるなら1975年のオフィシャルシングルカスクリリースを、現代の材料で可能な限り再現したと言えるようなクオリティである。素晴らしい1杯。

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ありえないなんてことはありえない。不可能を可能にする方法は存在する。
香味もさることながら、リリースまでの流れにも、それを感じる・・・・・そんな貴重なボトルのサンプルを頂いていたので、今さらながらレビューさせてもらいます。

そもそもアードベッグ含め、ディアジオ(グレンモーレンジ含む)関連のオフィシャルで、PBをリリースするのは不可能と言われてきました。今回はシンガポールの酒販 Whisky Journey代表であるBenjamin Tan氏が発起人となり、有志を募ったうえでカスクを購入。有志はインポーター・酒販としても活動する方々であり、日本からは、Kyoto Fine Wine & Spiritsを経営するOjiさん、Nagataさんが名を連ねています。
こうした経緯から、本ボトルは形式的にはBenjamin Tan氏個人のプライベートコレクションとなりますが、実質的には。。。ということで、ここ最近まず日本には入ってこなかったアードベッグのオフィシャルシングルカスクが、国内市場でも発売されることとなったのです。


今回のボトル、特筆する要素はリリース経緯だけでなく、香味にもあります。
近年のシェリー樽熟成モルトの大多数は、近年シェリーとして分類されるシーズニングによる独特の風味があり、1970年代前半、あるいは1960年代蒸留のモルトに見られたフレーバーがほぼ失われているのは、周知のことと思います。
このシーズニングシェリー系のフレーバーが不味いとは言いません。突き抜けない代わりに安定しており、ちょっと前まであったシェリー酒そのものが混じったような椎茸フレーバーや、爆発するような硫黄感など、トンデモ系は本当に少なくなりました。

一方で、愛好家が求めてやまない、赤黒系のフルーティーさ、独特の艶やかな、妖艶なニュアンスをもったリリースも少なくなっています。
これは、トンデモ系の樽が確変を起こしたということではなく、玉石混合だった中で”石”のクオリティを近年のシーズニングシェリー樽が引き上げたこと。一方で数の限られている”玉”は安定して出回らないため、オフィシャルリリースに回す樽をシーズニングシェリー樽にシフトしたことが背景に考えられるわけですが、本リリースのシェリー感は”玉”に該当するモノであり、愛好家からすれば90年代でこの味はありえない、と思えたことを実現しているのです。

リリースされたカスクは、グレンモーレンジのビル・ラムズデン博士が、試験的に熟成していた3樽のうちの1つ。
・リフィルアメリカンオーク樽で6年
・2ndフィルオロロソシェリーバットで16年
という熟成スペックが紹介されていますが、どちらもセカンドフィルでありながら、まるで1st fillの樽で熟成したかのような濃厚さです。
余程スペシャルな樽で熟成したかのように感じますが、一体どんな素性なのか。。。ここからはラムズデン博士がなにを実験しようとしたのか含め、考察したいと思います。


歴史を紐解くと、1998年は、アードベッグ蒸留所がグレンモーレンジに買収され、再稼働した次の年。有名なリリースでは、ベリーヤングからルネッサンスまで続く、10年リリースへの旅に使われる原酒が仕込まれた年です。
ですがこの時点では、今回の原酒は明確な意図を持って樽詰めされた訳ではなかったと考えます。

2015年、アードベッグの200周年リリースが行われた年。ウイスキーマガジンのインタビューでラムズデン博士は樽の質の低下に触れると共に、「この10年間、アードベッグで様々な実験をしてきた。実験をした樽のいくつかはキープしてある」という話をしています。
今回の樽がその一つとするなら、実験の意図は最初の6年でなく、後の16年間にあったと考えられるのです。

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(アードベッグ・ベリーヤング〜ルネッサンスのシリーズ。1998年蒸留は近年と思えるが、評価されているビンテージでもある。)

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(アードベッグ・ウーガダール初期ボトル。箱裏にビンテージ表記あり。パワフルな中にシェリー樽のコクと甘みのある美味しいリリースだった。今回のシェリー樽はこうしたリリースの払い出し後か、それとも。。。)

では、この16年間の熟成に使ったリフィルオロロソバットは何者か。。。丁度2003年から、アードベッグはウーガダールをリリース。初期のそれは1975,1976年のシェリーカスク原酒を使ったとされており、または当時多くリリースされたシングルカスクか、そうした空きシェリー樽のどれかが使われたと考えるのが一つ。
また、リフィルのアメリカンオークシェリー樽で1st fillかのような色合いは考えにくく、その濃厚なエキスとダークフルーツ系の香味から、使われたのはスパニッシュオーク樽なのではないかとも予想しています。

すると実験は、シェリー樽に関するものだったのではと。そもそも「シェリーバットで長期熟成すると風味がダメになる」「アードベッグはフィニッシュに向かない」というラムズデン博士のコメントが、先のインタビュー記事に見られる中で、この樽はフィニッシュで、それも16年という比較的長い後熟を経ています。
例えば一度熟成に使ってアク抜きされたスパニッシュオークの良い部分、好ましいシェリー系のニュアンスを熟成を経て取り出そうとする実験なら、これは狙いとして成程と思えます。
(実際、グレンモーレンジですが、15年のリリースで1年間だけ新樽フィニッシュをして、明らかに後の原酒のためのアク抜き的なことをした例もあります。※以下ボトル)

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一方でもう一つ興味深いのが、リリース本数500本から逆算すると、最初の6年間の熟成で使われたリフィルアメリカンオーク樽も、500リットルないし、それくらいのサイズだったと考えられることです。
※バーボン樽をニコイチ、サンコイチしたとかでなければですが。

ベースとなった原酒は1998年の樽詰めなので、アードベッグ1975等でのリリースに使われたシェリー樽のリフィルを、アメリカンオーク樽として使っているのではないか。。。とか。
あるいは文字通りバットサイズの新樽を一度使った後に詰めたか、希望的観測も込みで前者かなと思いますが(そうだとすれば、実現した味わいのイメージとの繋がりもあって面白い)、こうして家系図のように歴代リリースを紐解いていくのも、あれこれ考えられて楽しいです。それも全ては上質な原酒であるからこそ、踏み込みたいと思えるんですよね。
結論?すいません、実際の狙いは結局推測の域を出ませんが、実験は成功で間違いないかと思います(笑)。←本記事末尾に公式情報を追記(3/23)

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昨今、原酒の枯渇から良質なリリースは限られた市場にしか出回らなくなり、特に日本に入らないことも多くなりました。
一方、こうしたリリースを楽しめるのはごく一部の愛好家だけ、市場に入っても飲めないという声があるのも事実です。
実際今回のリリースもかなり高額です。ですが、関係者が暴利で売ってるわけではないので、交渉してどうなるわけでもありません。そして手を出さなければ他の国に買われて消えていく。。。

ないものはどうやっても飲めませんが、あれば可能性はゼロじゃない。繋がりが作られてるということが、次の機会にも繋がります。
不可能とされていたリリースの実現、文句なしの中身。その機会を作って頂いた有志の皆様に感謝し、本日の記事の結びとします。
今後のリリースも楽しみにしております!


※後日談(3月23日追記)※
ウイスキー仲間から、本ボトル外箱の内側に経緯らしいことが書いてある。として連絡を頂きました。
実はこのサンプルを頂いた際、一緒に共有頂いたのはトップの表ラベル写真で、それ以外はWEBでも見あたらなかったので見てなかったんです(汗)。カッコいい外箱があるなぁくらいにしか思っておらず。
頂いた画像から恐る恐る読んでみましたが・・・結論からすれば、上記の記載、狙いは概ね間違っておらず、実験について書かれていないことを考察しているような内容になっていた、という感じです。
いやぁ、奇跡的ですね。ブラインドで正解した時とは違う、安堵感のようなものがあります(笑)。
気になる方は以下に転記しておきますので、ご参照ください。

【UNIQUE CASK HISTORY】
The Spirit was distilled on Wednesday, 28th January 1998, during the watch of Stuart Thomson, Ardgeg’s devoted Distillery Manager. Then, in American oak refill casks the whisky began to quietly mature. Six years on, Dr Bill was intent on creating single malt worthy of Ardbeg Uigeadail, a much loved dram with old, sherry-aged stock at its heart. And so he transferred an experimental batch of this whisky into second-fill oloroso sherry casks he had selected personally. Over the next 16 years, one cask gained a particular fruitiness and an intensely medicinal note. Set aside by Dr Bill to celebrate its singular character, Cask no.0050 deserves to be enjoyed in its own right.

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