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2021年02月

津貫 ザ・ファースト 3年 59% & ピーテッド 3年 50% マルスウイスキー

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TSUNUKI 
”THE FIRST” 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 59% 

評価:★★★★★(5)

トップノートは熟してない青いバナナのような、硬さと酸を伴うアロマ。グラスをそのままにしていると、麦芽由来の甘みに加え、品の良いフルーティーさがとひっそりと立ち上ってくる。一方で、スワリングすると若い樽感が強めの刺激と共に解き放たれて、荒々しい要素が全体を支配する。複数種類の樽を使っていることでの変化だろう。味はスワリング後の香りの傾向で、パワフルで若い酸味を伴う麦芽風味、そして粗さの残るウッディさ。余韻はハイトーンで、微かにえぐみ、ハッカや和生姜のようなハーブ系のニュアンスを残す。

全体的にまだ若いため、大器の片りんを見せる一方で、それ以上に粗さ、強さが目立つ。ただし粗さといっても、オフフレーバーが強いわけではない。加水することで温暖な環境下で短期間に付与されたウッディさが軽減され、熟成した駒ケ岳に通じるリフィルシェリー樽由来と思しき品の良いフルーティーさと麦芽の甘みが開く。まさに原石という表現がぴったりくるウイスキーである。
近年、クリアで穏やか、度数を感じさせない若い原酒がクラフトシーンに多く見られる中で、津貫は真逆の強さの中に、麦感に粥的な甘みや淀みのある、クラシカルな原酒という印象を受ける。


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TSUNUKI 
"Peated" 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 50% 

評価:★★★★★(4ー5)

スモーキーでウッディな香り立ち。スモーキーさは柔らかく内陸系、ライト~ミディアムレベルの効き。ほのかに梅干しを思わせる酸味、奥にはエステリーな要素もあるが、それ以上に焦げたような樽感、カカオパウダーのような苦みを連想する要素が主体的。口当たりも柔らかくスムーズでスモーキー、出汁っぽい樽感があり、そこを支える麦芽風味と言う流れだが、全体的に骨格が弱い。
余韻は穏やかで落ち着いている。樽酒のようなウッディネスの中に若い原酒由来のえぐみのようなフレーバー、ピートと共に染みこむように消えていく。

バーボンバレル主体と思われるが、華やかでフルーティーな効き方ではなく、短期間でエキス分、チャー部分の焦げ感が効いている。馴染んでいくのはこれからというような、和的な材質の影響や、温暖な環境下での短期間熟成を思わせる仕上がり。ピートは内陸系で、ヘビーピートからライトピートまでいくつかの原酒を混ぜて調整しているのか、あまり強く主張しない。
THE ファーストと比較すると加水調整が強い分、粗さもまとめられているが、その影響か奥行きやフレーバーの骨格が弱い印象も受けた。もう少し様子を見ていきたい。

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長濱、三郎丸、安積、静岡ときて、津貫のレビューを掲載していませんでした。なので今回の更新では2020年に発売された津貫のファーストと、ピーテッド、同時テイスティングです。
どちらもBARのテイクアウト品となります。特に津貫ピーテッドは緊急事態宣言下での発売となり、しばらく飲めないと思っていましたがウイスキー仲間経由で手配いただけました。いつもありがとうございます!

津貫蒸留所はマルスウイスキー(本坊酒造)が2016年に鹿児島・津貫にある同社の焼酎蒸留所に併設する形で整備した、新しい蒸留所です。
マルスと言えば信州蒸留所ですが、これで冷涼な気候である長野・信州と、温暖な気候である鹿児島・津貫という2か所に製造拠点を持つことになりました。また、原酒の仕上がりを決める熟成環境としては、信州、津貫だけでなく、さらに温暖な環境となる屋久島エイジングセラーも整備しており、大手3社とは異なる原酒の仕上がりの幅、変化を実現できる環境が整っています。

マルスウイスキーの歴史を紐解くと、日本のウイスキー産業の黎明期から中心に近い立ち位置にあったにも関わらず、以下に例示するように時代や業界の流れに翻弄されてきた印象があります。結果論で見通しが甘かったと言ってしまえばそこまでですが、不運の連鎖の中にあるようにも。
一方、現代においては、2011年の信州蒸留所再稼働を皮切りに、この連鎖をたちきって事業が軌道に乗ってきているのではないかと思います。

例1:旧摂津酒造時代。竹鶴政孝をスコットランドに留学させ、日本初となる本格ウイスキー事業をに取り組むものの、不況により計画を断念。竹鶴政孝は1923年に寿屋(現・サントリー)で山崎蒸留所に関わる。
例2:ウイスキーブームを受けて自社でのウイスキー生産を再開※させるべく、1980年に信州蒸留所を竣工。1985年から操業を開始するも、日本のウイスキー消費量は1983年をピークに下降、ウイスキーブームは終焉に向かっており、熟成した原酒が揃う1990年代は酒税法改正等から冬の時代が訪れていた。1992年、信州蒸留所稼働休止。
※1960年に山梨にウイスキー工場を竣工。しかし販売不振から1969年に操業休止。当時はスコッチの税率が極めて高く、大衆ウイスキーとしてサントリーのトリス、ニッカのハイニッカ、ブラックニッカ等が主流だったが牙城を崩せなかった。例1から見れば、敵に塩を送った形とも・・・。

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(ウイスキー仲間のAさん経由で頂いた、津貫蒸留所で販売されている3年熟成のシングルカスクリリース。ノンピートタイプ(左)とピーテッドタイプ(右)。製品としての仕上がり、総合的な完成度は通常リリースに表れるが、酒質を見るなら、足し引きしない単一樽のカスクストレングスは欠かせない。)

今回のテイスティングアイテムである2種類のオフィシャルリリースですが、どちらも津貫蒸留所におけるノンピートタイプ、ピーテッドタイプのファーストリリースでありながら、その位置づけ、キャラクターの仕上がりは異なる点が興味深いです。

■津貫THE FIRST について
全体として荒々しさの残る、パワフルな仕上がり。近年、クラフトジャパニーズでは、若くても度数を感じさせない仕上がりが多く見られるなか、この津貫The First は蒸留所のコメントを引用すれば、"エネルギッシュな酒質"が特徴と言えます。

日本におけるウイスキー造りは、スコットランドをルーツとする一方で、北から南まで、例外なく温暖な時期がある環境は、スコッチタイプとは異なる仕上がりの原酒を産み出して来ました。特にその違いは、熟成期間とピークの関係となって現れます。
近年では、スコットランドに倣う、言わばクラシックな造りのニューメイクから、短期間の熟成を想定したクリアで未熟感の少ない、フルーティーさや柔らかさのあるニューメイクが造られるようになり、ひとつのトレンドとなりつつあります。

ところが津貫蒸留所で興味深いのは、確かに未熟香、雑味を減らしてはいるものの、力強い酒質を産み出そうとしている点です。
これはどちらかと言えば長期熟成を想定するスコットランド寄りのスタイルです。温暖で樽感が強く出るからクリアで飲みやすい酒質で短熟で仕上げようという、例えるなら台湾のカヴァラン的発想ではなく、逆に強い酒質で受け止めようという点は、他のクラフトジャパニーズとは異なるアプローチであると感じます。

また、その強さのなかには、ただ粗いだけではない、ハイランドモルトのキャラクターと言える粥のような麦の甘味が微かに感じられ、今後熟成を経ていくことで丸みを帯びて来るのではと予想される点や、フルーティーさも際立つだろう、大器の片鱗も見え隠れします。バーボンバレルも良いですが、アメリカンオークのリフィルシェリーカスクで、フルーティーさを後押しする樽使いもマッチしそうです。
熟成環境故に今後は総じて樽が強くなるとは思いますが、その成長曲線を上手くコントロール出来れば、他にはない個性的な原酒の仕上がりが期待でると予想しています。

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(津貫蒸留所の熟成庫。石蔵樽貯蔵庫の内部。津貫は信州に比べて温暖であり、エンジェルズシェアも信州が3%なのに対し、津貫は5~6%と2倍近い。流石九州、天使も酒好きか。)


■津貫Peatedについて
一方で、この津貫ピーテッドはどうしたのかと首を傾げてしまいました。
酒質はノンピート同様に雑味が少ないタイプ。ライトピートからヘビーピートまで、幅広くバッティングしたためか、ピート香もライト寄りに仕上がって柔らかく穏やか、ポジティブに捉えると飲みやすい。。。のですが、50%にしては緩い。全体的にパワーが足りないと感じてしまいます。
あれ、エネルギッシュな酒質は?序盤に記載したTHE FIRSTとのキャラクターの違いは、この点にあります。

ここで上記のシングルカスクリリースで酒質を比較すると、ピートタイプもしっかり強め。特段違いがあるようには感じられません。
実際、ノンピートとピーテッドで仕込みの仕様に違いはないとのこと。シングルカスクのほうは、ベースは同じく力強い酒質に、しっかりとピート。三郎丸等と同様に、ピート感がクリアではっきりと主張してきます。そこに樽のエキスが入り、ダシっぽいウッディさに梅を思わせる酸味も主張してくる。全体的に若く強い仕上がりです。

となると、ピーテッドリリースに感じた弱さは、バッティングの樽数に加え、加水の影響でしょうか。このファーストとピーテッドでの仕上げの違いについては、なぜどちらも同じ加水率、度数59%にしなかったのか、どんな狙いがあったのか、機会があれば質問してみたいですね。

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■最後に
津貫蒸留所では、津貫でのウイスキー造りに適した酒質を模索している最中にあります。
創業時からの変化としては、糖化工程でお湯の投入回数を増やし、3番麦汁まで取れるよう設備を増設しただけでなく、発酵工程ではディスティラリー酵母とエール酵母の混合発酵を行う中で、それぞれの酵母の強さ、種類(2020年度は7種類を試したとのこと)を模索したり、ピートレベルもノンピートから50PPMのヘビーピートまで、様々な仕込みを実施しています。
そのため、創業初期に比べて現在は酒質も変化してきているとの話も聞きます。

九州地方は、元々蒸留酒として焼酎文化の本場であるためか、昨今はウイスキー蒸留所の計画が複数あり。津貫、嘉之助に加えて宝山の西酒造も本格的に動き出すようです。
そんな中で、今回のリリースや、蒸留所限定のシングルカスクを飲んだ印象としては、他のクラフトにはない個性、パワフルな味わいに繋がるチャレンジだと感じました。個人的に、温暖な地域はキレイで柔らかめが向いていると思い込んでいたところに、津貫のリリースは「なるほど、こういうアプローチもあるのか」と。

津貫蒸留所の生み出すウイスキーには、まさに九州男児と言えるような、力強く、それでいて樽感や他の原酒を受け入れるおおらかさをもつ、太陽と青空の似合うウイスキーに仕上がっていくことを期待したいです。

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※本記事の蒸留所関連写真は、ウイスキー仲間のAさんに提供頂きました。サンプルの手配含め、本当にありがとうございました!

三郎丸蒸留所 ニューポット2020 アイラピーテッド&ヘビリーピーテッド 60% +蒸留所からの意思表明

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SABUROMARU DISITILLERY 
ZEMON NEW POT 2020
Heavily Peated 52PPM 
Islay Peated 45PPM 
200ml 60% 

評価:無し(3年熟成未満のため)

ヘビリーピーテッド(52PPM):ボトル左
香り立ちはクリア。ニューポット香はあるが嫌味に感じるレベルではなく穏やか。甘みを帯びた麦芽香、微かに柑橘や皮つきパイナップル。ピート香は穏やかなスモーキーさから、徐々に焦げたようなニュアンスが開き、強く感じられる。
一方で、香りであまり目立たなかったピートフレーバーは、味わいでは序盤から広がる。コクと厚みのある麦芽風味と乳酸系の酸味。余韻はスモーキーで焚火の後の焦げた木材、土っぽさ。ほろ苦いピートフレーバーが長く続く。

アイラピーテッド(45PPM):ボトル右
はっきりと柑橘系の要素を伴うフレッシュな香り立ち。クリアでフルーティーな麦芽香に、微かな未熟要素。奥には強く主張しないが存在感のあるピートが香りの層を作っている。
味わいも同様に序盤は甘酸っぱくコクのある口当たりから、じわじわとほろ苦く香ばしい麦芽風味、ピートフレーバーが広がってくる。全体的に繋がりのある味わいで、余韻にかけてはピーティーでスモーキーだが焦げ感は控えめ、穏やかな塩気が舌の上に残る。

どちらの銘柄も未熟香は少なく、味わいも柔らかくコクがある。度数も60%を感じさせず、目をつぶって飲んだら若いモルトとは思うだろうが、ニューポットとは確信をもって答えられないかもしれない。それくらい新酒が本来持つだろう未熟要素、オフフレーバーが少なく、一方で原料や仕込み由来のフレーバーが双方ともしっかりと備わっている。

飲み比べると、内陸ピートで仕込まれたヘビリーピーテッドは、麦芽風味とピートがそれぞれ主張し合う構成。アイラピーテッドは、はっきりと柑橘系の要素にピートフレーバーが溶け込み、全体を繋ぐような一体感のある構成となっている。また、ピートフレーバーの違いも、前者には木材が焦げたようなスモーキーさが強く感じられるが、後者は焦げ感よりも煙的な要素が主体となって塩気も伴う。仕込みの時期の差もあるだろうが、香味の違いが興味深い。
2016年以前の姿を知っている人が飲めば、あの三郎丸の原酒なのかと驚愕することだろう。これらの原酒が熟成した姿、特にバーボン樽での数年後が楽しみで仕方ない。

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富山県、若鶴酒造の操業する三郎丸蒸留所が2020年の仕込みで造った、2種類のニューポット。
三郎丸蒸留所の酒質が2017年のリニューアルから大幅に改善し、特にマッシュタンを入れ替えた2018年からの伸びは、この蒸留所の過去を知っている愛好家は認識を改める時がきたと、以前ブログ記事にもさせて頂いたところです。

その後、以下の画像のように2019年にはポットスチルを入れ替え、世界発の鋳造ポットスチルであるZEMONが稼働。2020年には発酵槽の一つに木桶を導入。2019年の仕込みは、ポットスチルをはじめ蒸留設備の変更ということで調整に苦労されたようですが、2020年はそのノウハウを活かし、木桶による乳酸発酵と合わさって一層クリアでフルーティーさのあるニューメイクが生み出されています。

三郎丸蒸留所アップデート2018ー2020
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※1:2018年に導入された三宅製作所製のマッシュタン。従来に比べ、ピート香がさらに引き立つようになった。
※2:2019年に開発・導入された、鋳造製ポットスチルZEMON。従来のスチルに比べて様々に良い効果が期待できる。
※3:2020年に導入された木桶発酵槽。複数のタンクで発酵されたものを、最終的にこの木桶で乳酸発酵する。
※4:2020年から使用することとなった、アイラ島のピート。現在、国内でアイラピートを使った仕込みは他に例がない。


また、同じく2020年にはアイラ島で産出するピートで仕込んだ麦芽の使用を開始したことが、三郎丸蒸留所における大きな転換点ともなりました。
現在、日本に輸入されるピーテッド麦芽に使われているピートは、全てスコットランド内陸産のものであり、アイラ島で産出するピートを使った仕込みは行わせていません。背景には大手スコッチメーカーがアイラ島産出のピートをほぼ全て押さえてしまっていることがあり、アイラモルトブームでありながら、アイラピートを使った仕込みが出来ないというジレンマが日本のウイスキーメーカーにありました。

ピートフレーバーは、使われたピートの産地によって微妙に異なることが、近年愛好家間でも知られてきています。植物の根などが多く混じる内陸系のピート、海藻などが海の要素が多く混じるアイラ島のピート。前者は燻製のような、あるいは焦げたようなスモーキーさ、後者はアイラモルト特有とも言われるヨードや薬品的な要素、また海辺を連想させる塩気や磯っぽさをウイスキーに付与すると考えられます。

三郎丸蒸留所は、年間の仕込みの量が大手に比べて遥かに少ないことから、アイラピート麦芽を必要分確保することが出来たのだそうです。今後、2021年以降は全ての仕込みがアイラピート麦芽に切り替わり、原酒を蒸留していくと計画されていることから、まさに蒸留所の転換点となったのがこの2020年の仕込みであり、ニューポットであるのです。

ご参考:三郎丸蒸留所における各年度の取り組みについては、以下Liqulの対談記事に詳しくまとめられています。


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昨年11月、三郎丸蒸留所からは3年熟成のシングルモルト”THE FOOL”がリリースされ、50PPMという強いピーティーさ、リニューアル前の酒質からの大きな変化、厚みのあるヘビーな味わいに、驚かされ将来に期待を抱いた愛好家も少なくなかったのではないかと思います。
しかし、歴代のニューメイクを飲んでいくと、その驚きは序章でしかないと感じるはずです。上記画像※1~※4にあるとおり、設備や材料のアップデートとノウハウの蓄積により、それぞれの年に2017年の蒸留を上回る原酒が誕生しているのです。

特にリニューアル後の集大成とも言える、2020年仕込みのニューメイクが成長した姿は確信をもって間違いないと言えるものです。
綺麗なニューメイクを作る蒸留所は多くありますが、これだけ麦芽由来のコクや厚みがあり、現時点から未熟要素の少ないニューメイクなら、日本の熟成環境で強く付与される樽感を受けとめて短期で仕上がるでしょうし。また、空調を効かせた冷温貯蔵庫もあることで、20年を超える長期間の熟成という選択肢もあります。

大手蒸留所は、その生産規模から小規模な仕込み、試験的な蒸留は行い辛いものがあります。例えば、不定期に少量しか手に入らないボデガ産のシェリーの古樽よりも、シーズニングで安定して大量に供給される疑似シェリー樽のほうが需要があるという話からも、その傾向が見えてくると思います。

故に、小回りの利くクラフトでは三郎丸蒸留所のような独自の個性をもった蒸留所や原酒が生まれてくる楽しみがあり。2020年仕込みで新たに登場したアイラピーテッドもその一つです。
日本初となるこの原酒がどのように成長していくか。リアルタイムで見ていくことが出来る幸運を噛みしめつつ、本レビューの結びとします。

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※以下、余談:ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所からのメッセージについて
先日、日本洋酒酒造組合からジャパニーズウイスキーの基準となる、表示に関する自主基準が発表されました。
当ブログでも前回の記事で基準を紹介し、期待できる効果と懸念事項を解説させて頂いたところです。また、同基準に対していくつかのウイスキーメーカーからは賛同の声明が発表され、あるいはWEBサイトの商品説明が切り替わる等、業界としても動きが見られます。

その中で、大きな注目を集めたのが、若鶴酒造・三郎丸蒸留所が発表した声明「ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所の方針と提案」です。同社の発表は愛好家を中心にシェア・リツイートされ、今後基準を運用していく上での重要な示唆であるとする意見が多く寄せられています。



内容をざっくりまとめると、
・若鶴酒造、三郎丸蒸留所は同基準を遵守する。
・しかし今後日本のウイスキー産業には、国産モルト原酒の多様性と、グレーン原酒の確保という課題が生じる。
・国産グレーン原酒を国内のウイスキーメーカーに提供する仕組みの確立を後押ししていただきたい。
・国産モルト原酒の多様性については、三郎丸蒸留所は他の蒸留所との原酒交換に応じる準備があり、今後積極的に推進していきたい。
と言うものです。

自分の記事とも概ね同じ意見ですが、実際のウイスキー製造現場サイドからの声として、エピソードを交えて説明されたそれは、より説得力のあるものであったと感じます。
また、原酒の多様性確保に関し、国産グレーン原酒の懸念はクラフト1社だけではどうにもならないことですが、逆にクラフト側からの提案として「原酒の交換」が発表されたのは、重要な意思表明だと感じています。

日本のクラフト蒸留所は、小規模ながら大手とは異なる様々な個性の原酒が存在します。
三郎丸蒸留所については本記事でも紹介しているので割愛しますが、
厚岸蒸留所の、精緻な仕込みに北海道産麦芽がもたらすフルーティーな原酒。
安積蒸留所の、スコッチモルトを彷彿とさせるようなピーテッド原酒。
静岡蒸溜所の、軽井沢スチルと薪加熱方式というこれまでにない取り組みが生み出す原酒。
長濱蒸溜所の、麦芽の甘みと香ばしさが活かされた柔らかい味わいの原酒。
嘉之助蒸留所の、クリアで早期に仕上がる南国環境を彷彿とさせる原酒・・・。
個人的にぱっと思い浮かべるだけで、これだけ個性的なモルトがあります。

また、今や第二蒸留所まで稼働し世界規模のブランドととなった秩父は勿論。スペイサイド的な酒質を彷彿とさせるスタイルでリリースが楽しみな遊佐、樽や熟成環境に様々な工夫を凝らす信州、津貫。古参ながら苦戦していた江井ヶ島も設備をリニューアルして酒質が向上したという話も聞きます。1つ1つ紹介していくとキリがありません。
これらの原酒が交わり、ジャパニーズブレンデッドとしてリリースされる。まさに日本だからこそ実現できるブランドであり、夢のある、美味しさだけでなくワクワクするプランだと思います。


とはいえ、この手の話は”言うは易し”というヤツで、法律的な面も絡むことが懸念事項です。
なんだって前例のないことをするのはパワーがいるものですが、荒唐無稽な提案ではありません。例えば相互に等価設定で同量の原酒を樽で取引しあうような対応なら・・・。原酒交換が1件でも行われ、ノウハウが開示されれば後に続く蒸留所も増えてくるのではないかと思います。
また、今までは交換した原酒をどのように使われるのか等の不安もあり得たところ。整備された基準が、様々な意味で後押しになるのではないかとも感じます。

今回、声明を発表された若鶴酒造の稲垣マネージャーは、33歳と若いクラフトマンです。ですが蒸留所を見ても、本記事で説明したとおり老朽化した蒸留所を改修し、新しい技術を導入し、素晴らしい原酒を生み出すまで導いた行動力があります。
ならば、この提案もきっと早期に実現されるのではないかと思います。今後、三郎丸蒸留所から生み出される原酒だけでなく、発表された提案の実現に向けた動きについても、注目していきたいです。

「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」に潜む明暗

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2月16日、日本洋酒酒造組合から”ジャパニーズウイスキーの基準”となる、表示の整理に関する自主基準が制定され、国内外に向けて公開されました。施行は2021年4月1日からとなります。

同組合は、酒税の保全等を目的として設立されている組合で、大手からクラフトまで、国内で洋酒の製造販売等を行うほぼ全てのメーカーが加盟しています。そうした組合が作る基準ですから、自主基準とはいえ、少なからず実効性のある基準ではないかと思います。
実際、既に動きを見せるメーカーもあり。また酒税法に関連する組織であるため、後の法律面への反映も期待できるのではとも感じます。

我々愛好家サイドから見ると、唐突に公開された感のある本基準ですが、検討は2017年頃から始まっていたそうで(参照記事:こちら)、加盟企業から選出されたWG、理事会での協議、意見交換等を経て約4年間をかけてまとめ上げた基準となります。
なお、ウイスキー文化研究所で議論が進んでいたジャパニーズウイスキーの定義とは、別のルートで造られたものという位置づけで、必ずしも整理が一致するわけではありません。

日本洋酒酒造組合:ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
※英語版はこちら

結論から言うと、ジャパニーズウイスキーとしての透明性とブランドを整理出来る、よく考えられている基準だと思います。
日本のウイスキーには、酒税法等での条件が緩いことから、
  1. 輸入原酒を使ってジャパニーズを名乗る(あるいは誤認させる)銘柄が、国内外に販売されていること。
  2. 最低熟成年数や熟成方法が定義されていないため、明らかに未熟な原酒が商品に使われていること。
  3. ブレンド用アルコールを用いてもウイスキーを名乗れること。
  4. 焼酎原酒などウイスキーではない蒸留酒がジャパニーズウイスキーとして輸出、販売されていること。
  5. ラベルの表記等に関して、基準が整理、統一されていないこと。
大きく分類すると、以上の問題がありました。
今回の基準では、これら意図して法律の抜け道を使う、悪貨の駆逐と言う点に主眼が置かれた整理となっており、一定の効果を発揮するものだと思います。

ですが、基準の決定に当たっては大手メーカー主導の流れがあるのか。あるいは目下最大の問題を優先したためか。
シングルモルトについてのブランド保護、透明性は担保された一方で、昨今増加傾向にあるクラフトディスティラリーの”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点で厳しい内容である、という印象があります。
今日の記事では、本基準がもたらす効果を「明暗」含めて、まとめてみたいと思います。


■ジャパニーズウイスキーの基準における整理

まず、今回制定された”表示に関する基準”において、ジャパニーズウイスキーと区分する条件をまとめると
  • モルトウイスキー・グレーンウイスキー、どちらも日本の蒸留所で糖化、発酵、蒸留、熟成を行ったもの。麦芽は必ず使うこと。
  • 水は日本国内で採水されたもの。熟成については木製樽(700リットル以下)を用いて日本国内で3年以上とする。
  • ボトリングは日本国内で、度数は40%以上とする。
として整理しています。

中でも蒸留所での製法に糖化が含まれていることや、原材料で「麦芽は必ず使用しなければならない」とあるのがポイントです。元々糖分のあるものから発酵、蒸留するブレンドアルコール類や、焼酎のように麴を使って糖化・発酵をさせるものと、麦芽で糖化するジャパニーズウイスキーが違うことを定義しています。

そのうえで、表記は「ジャパニーズウイスキー」とし(例:ジャパニーズモルトウイスキーではNG。また第6条の記載から、英訳等で日本製と誤認させる表記へのアレンジもNG)。ジャパニーズを名乗る基準に加え、問題となっていた"疑似ジャパニーズ"や”アル添ウイスキー”、"焼酎ウイスキー"をジャパニーズウイスキーの区分からシャットアウトする整理になっています。

ウイスキーの基準

今回発表された基準は、別途ウイスキー文化研究所が調整していた、ジャパニーズウイスキーの定義(TWSC版)と比べると、考え方は同じである一方、スコッチウイスキーの定義である"Scotch Whisky Regulation"寄りの内容で整理されています。
例えば仕込みに関する記述に加え、熟成年数もスコッチに倣って1年長く設定されている点。輸入バルク原酒を加えたものを「ジャパンメイドウイスキー」と整理するウイ文研の基準と異なり、あくまでジャパニーズか、そうではないか、という1か0かの整理になっています。

熟成年数の違いについては、日本のウイスキーがスコッチタイプの原酒である以上、3年熟成からウイスキーであるという整理も納得できなくはありません。
「日本は気候が温暖で熟成が早い(エンジェルシェアが多い)から熟成期間を短縮すべき」という意見もあるとは思いますが、既に国内でシングルモルトは最低3年でリリースするという対応が行われているのを見ると、実態べースで整理しても良いとは思います。レアケースですが、熟成庫に空調いれてるところもありますし。
ただし樽については木樽として幅広く読める表現となっており、スコッチ路線の基準でありながら、アレンジされている点もあります。

一方で、輸入バルクウイスキーを一部でも使ったウイスキーについては、単にジャパニーズウイスキーとして表記できないだけでなく、銘柄名についても制限をかけるのが本基準の特徴と言えます。
これは、第6条(特定の用語と誤認される表示の禁止等)に記載があり、日本を想起させる人名、地名、あるいは国旗の表記といった禁止事項が明記され、一見すると某西のメーカーが色々とやって話題になったような疑似ジャパニーズウイスキーが、その名称を名乗れなくなる整理となっています。

ウイスキーの基準2

当ブログでも以前から発信していましたが、ジャパニーズウイスキーの基準に関する問題は、製法だけでなく、名称や販売の際の説明についても制限しなければ意味がありません。
今回発表された基準は、その点についても考慮されているだけでなく、表記と言う意味では「ウイスキーに該当しない酒類にウイスキーであるかのように表示する」、前例でいえば”海外で焼酎をウイスキーとして販売する行為”に対して、第6条3項に「酒類※を売らないし協力もしない」という罰則的な記述があるのも、限定的ですが組合の規定として踏み込んだ内容だと思います。

※酒類であるため、製品やウイスキー原酒だけでなく、焼酎、ブレンド用アルコール等が幅広く含まれる。つまり該当するようなことをした企業が使うであろう酒類の供給を条件としている点が、この項目のポイントと言える。他方で、第6条3項は「日本国の酒税法上のウイスキーに該当しない酒類」が対象となるため、必ずしも第5条及び第6条2項を破った企業に対する罰則とはなりえない点が、ややちぐはぐな流れとも言える。


■基準の運用と時限措置
ただし、この基準では
・第6条第2項に、第5条に定める製法品質の要件に該当しないことを明らかにする措置をした時は、この限りではない。(説明すれば、ジャパニーズウイスキー表記はダメだけど、引き続き日本を想起させる単語等は使っても良い。)
・附則 第2条として、すでに販売中のウイスキーに関しては、中身の整理に2024年3月31日まで3年間の猶予を設ける。
とされており、抜け道もなくはありません。
基準制定の背景に一部の方々が強く連想する銘柄が、これをもって急に消えるというわけではないんですよね。おそらくラベル上の表記とデザインがちょっと変わるくらいで。 


ウイスキーの基準3

前者(第6条第2項)は、どこで説明するのかと言うことになりますが、話を聞く限りではラベルに限らないようです。SNS,WEB,消費者が常時参照できるような場所も含まれるようで、既に大手ウイスキーメーカーのサイトで説明の追加が行われているところもあります。

昨今、サントリーが山崎や白州に「Single Malt Japanese Whisky」表記をつけたり、その他ブランドのラベルもマイナーチェンジしていたり。ニッカの竹鶴ピュアモルトのリニューアルやセッションのリリース、キリンの富士や陸しかり。。。大手各社の動きは、ここに帰結するものだったのでしょう。
そうしてみると、入念に準備されていた、業界としての動きなのだということが見えてきます。

また、後者(附則第2条)については、既存のブランドを持っているところは逃げ得が出来るのではないか!と憤る意見もあるかもしれませんが、既存銘柄のラベル変更等は、ロットの切り替えを待つ必要もあり、その準備期間という意味もあると考えられます。
何よりウイスキーの熟成は3年間と定義している以上、自社原酒の準備期間として3年の猶予を与えるのは、性善説で考えると理解できる内容でもあります。

しかしこの附則事項も、ウイスキー蒸留を行うための設備の準備期間は考慮されておらず、本当に最低限の年数であること。
”2021年3月31日以前に事業者が販売するウイスキー”が、ブランド全体を指すか、リリース単位を指すかというとリリース単位であるそうで、例えば日本12年という銘柄をバルクウイスキーでリリースしていたメーカーが、これのフィニッシュモノや年数違いはリリース出来ないとのこと。
どちらも、これから基準に対応するメーカーにとっては、最低限の配慮であるように感じます。(前者の説明をすればその限りではなく、あくまで自主基準上では、ですが。)


基準説明
ウイスキーの基準4
※アサヒビールオンラインストアにおける説明文。赤字箇所がこのタイミングで追記された。第6条第2項は運用次第で本基準を有名無実化させる危険性もあるので、組合でのガイドライン整備が別途必要と考えられる。今後注視したい。
※海外のウイスキーショップにも動きがあり、有名どころであるWhiskyExchangeも、本基準を紹介。ショップではJapanese Whisky と From Japanese で整理するとのこと。


■基準の明暗そして今後への期待
さて、ここまでは基準における「明」の部分を中心にまとめてきましたが、「暗」となる懸念点についても自分の思うところをまとめます。
冒頭では、”クラフトディスティラリーにおける”ブランド構築”や、”ブレンデッドウイスキー造り”という点では、厳しい内容である。”として触れました。
何かというと、原酒の多様性の確保、特に「グレーンウイスキー」の存在です。

シングルモルトブームの昨今にあって、基準を読む際にモルトウイスキーを連想しがちですが、消費の大半を占めるのはブレンデッドウイスキーです。
ブレンデッドウイスキーをつくるためには、モルトウイスキーだけではなく、グレーンウイスキーが必須となります。ですが、国内でグレーンの製造設備を持っているクラフトメーカーは殆どなく、また設備もポットスチルに比べて高額なことから、スコットランドだけでなく、カナダ、アイルランドといった地域からの輸入原酒に頼らざるを得ないのが実態となっています。(ポットスチルでもグレーンウイスキーは作れますが、連続式に比べ効率が悪く、コストも高くなります。)

大手3者は自社でグレーンウイスキーを作れるので問題はありません。国内外でブランドを確立している有名クラフトメーカーも、あまり問題にならないかもしれません。
しかし、ブームで参入したクラフト蒸留所や、あるいはこれから参入するメーカーはというと、まさに動こうとしていた矢先のことです。
グレーンウイスキーを販売してくれる国内の作り手が無い以上、この基準が施行されると、既存のブランド名や日本を想起させる名称(例えば蒸溜所の地名)で「ブレンデッドを作るな」と取られたり、リリースした商品に対して一般ユーザーから後ろ指を指される可能性もあります。

特に海外市場における影響は重大です。
我々はこの基準を「ジャパニーズウイスキーと名乗る場合の表示基準」と捉えていますが、意図したのか、想定外かはわかりませんが、スコッチや米国の基準と横並びで「日本でウイスキーをつくる場合のルール」として受け取られているケースがあり、これも混乱を呼びかねないと感じています。
というか、現実的にブレンデッドジャパニーズウイスキーを作れないんですよね。
結果、既にブランドを確立しているメーカー優位になりかねず。。。新規参入の障壁となるだけでなく、ブレンデッドウイスキー市場をさらに大手が独占しかねない、その後押しとなる基準にならないかと危惧しています。

日本のウイスキーの整理4月以降
(4月以降の日本のウイスキーの整理想定。名称の「奥多摩」は、日本を想起させる地名の例であり他意はない。クラフトメーカーにとって、ジャパニーズウイスキー表記のブレンデッド※4の安定したリリースは難しい状況となる。)

この”グレーンウイスキーの話”をもって、基準を取り下げろとか、バルクを使ってジャパニーズウイスキーを明記してまでブランドづくりをさせろ、という主張をするものではありません。
基準の内容そのものは、現在の日本のウイスキーが内包する問題点だけでなく、製造サイドへの配慮といった多くを網羅するものであり、既に一部メーカーも動きを見せる等実効性もあります。
基準の決め方について、理事会とプロセスの実態がどうだったのか・・・某T氏の発信する情報等から、その透明性は少々気になるところですが、原材料の透明化について業界として動きを見せた。それは大きな一歩だと思います。

あとはこの基準をもとに、更なる問題点にどう対応していくか。何より、業界をどのように成長させていくかが重要です。
透明化の次は、品質ですね。ジャパニーズウイスキーだから買うと言う層の存在が、昨今のブームを起こしているのは事実ですが、愛好家のマインドとしては美味しいから、好きだから、あるいは楽しいから買うのです。


基準が規制である以上、すべてを100%満足させることは出来ません。その上で、基準を守ってもらうメリット(組合に加盟するメリット)も示しつつ、業界全体の成長戦略を考える必要があります。
例えば、ジャパニーズ独自の味わい、魅力の一助となるように、ジャパニーズウイスキー専用の酵母を組合が開発して組合員に提供するとか、品質保証シールのような取り組みはあっても良いのではと思います。

グレーンウイスキーの話もその1つであり、特に緊急性の高いものです。
組合が国内でグレーンウイスキーを調達し、年間決まった量を組合に加盟するウイスキーメーカーに提供するとか。
あるいは、グレーンウイスキーのみを製造するメーカーの立ち上げを業界として支援し、国産グレーン原酒を提供するとか。
時限措置として一定期間、グレーンについては輸入であっても国内で指定の年数以上熟成させたものなら使用して良いとか。。。


今この瞬間、ジャパニーズウイスキーのブランド保全は大事ですが、今後、日本のウイスキー産業をどのように育て、世界的な競争力を確保していくのか。このブームもいつまでも続く訳ではありませんから、組合が公的な側面を持つならば、長期的な視点から対応策を検討していくことも必要ではないかと思います。

今回の基準の公開をもってゴールではなく、業界としてはさらに動きが出てくることでしょう。従うメーカーだけではなく、そうではないメーカーも出てくると思います。
国産ウイスキーの原料等の表記や説明は、各社のモラルによって動いてきた業界に、やっと投じられた1石です。これが将来的に見て、日本のウイスキー産業がさらなる基盤を築くことになる一歩であったとなることを、いちウイスキー愛好家として期待しています。


後日談1:クラブハウスでジャパニーズウイスキーの基準を読み解く配信を行いました。
後日談2:同アプリで、ジャパニーズウイスキーの基準施行後に実現してほしいこと、組合へのリクエストに関する配信を行いました。
(音声は録音公開していませんが、当日の参考情報とメモは、それぞれ公開してあります。)


※以下、余談。
本基準の公開と合わせて、昨日の日経新聞(以下、参照)にも記事が掲載されています。このスピード…リークですね(笑)。
我々が良く知っている日本メーカーがリリースするウイスキーのうち、「富士山麓」「ザ・ニッカ」「フロムザバレル」「ブラックニッカ」「角瓶」「トリス」・・・といったラインナップがジャパニーズウイスキーから外れるとされており、個人的には富士山麓はフォアロ・・・うわまてやめろなにを・・・であるため、ある意味で納得でしたが、あれ?ヒb・・・「それ以上いけない!」・・・とか、読む人が読むと刺激的な内容となっています。

見方を変えると、今回の基準に伴う動きは日本のウイスキー産業を牽引してきた、大手メーカーからの盛大なカミングアウトです。
実態として4年間かはさておき、よくぞここまで各社と調整したなと。決断に至ったキッカケは、赤信号みんなで渡れば精神か、あるいは一般に輸入原酒に関する認識が広まるタイミングを待っていたのか。
"基準による明暗"という本記事のタイトルに倣えば、このカミングアウトが大手にとっては暗であり、一方で明であると言えるのかもしれません。
こちらは後でリストを作って、どれがどうだったのかをまとめてみたいです。

ご参考:「ジャパニーズウイスキー」の定義 業界団体が作成: 日本経済新聞 (nikkei.com)
この定義に基づくと、ウイスキー大手のジャパニーズウイスキーは、サントリーホールディングスは「響」「山崎」「白州」「知多」「ローヤル」「スペシャルリザーブ」「オールド」、海外市場向けの専用商品「季(TOKI)」の8ブランドが対象になる。アサヒグループホールディングス傘下のニッカウヰスキーは「竹鶴」「余市」「宮城峡」「カフェグレーン」4ブランド、キリンホールディングスは「富士」1ブランドと、蒸留所限定などがそれぞれ対象となる。

フィンドレイター 8年 シングルハイランドモルト 1980年代流通 特級表記 43%

カテゴリ:
フィンドレイターピュアモルト

FINDLATERS
A Single Highland Malt 
Pure Scotch Malt Whisky 
Aged 8 years 
1980's 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(5-6)

香り:ほのかに青みがかった要素を伴う、厚みがあってリッチな麦芽香。蜂蜜や、微かに柑橘系の要素も溶け込む。ハイランドモルトらしい構成が中心だが、オリーブオイルやボール紙、あるいは籾殻のような若干癖のあるニュアンスがあり、これが垢抜けなさに繋がっている。

味:スムーズで柔らかい口当たり。香り同様に垢抜けない麦芽風味が、ややオイリーで粘性を伴う質感をもって広がる。例えば生焼けのホットケーキのよう。そこに柑橘の皮、特に和柑橘を思わせる渋みがあり、若い原酒がメインであるためか、加水で整い切らない粗さと共に口内を軽く刺激する。
麦芽風味は余韻まで残る。加えて、蜂蜜の甘み。徐々に微かなピーティーさがじんわりとほろ苦く、染み込むように広がる。

一時期のハイランドモルトのキャラクターの一つと言える、麦芽風味主体の味わい。イメージとしては甘いお粥のような白系統のフレーバー。若い原酒であるためか多少粗さもあるが、この麦感はブレンデッドスコッチ・フィンドレイターに通じる、構成原酒の一つとしてリンクする。ただし、ちょっと青みがかった要素というか、蒸溜所の個性とも言える風味が目立つところもあり、ここが好みを分けそう。

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【ブラインドテイスティング回答】
地域:ハイランド中心
年数:12年程度
樽:リフィル系主体、あまり強くない
度数:43%
その他:80-90年代流通くらいの、オールドっぽい感じのモルトウイスキー。

微かにスモーキーでハイランド系の麦感主体、蜜っぽい甘味もある。しみじみ旨い系。加水仕様と度数のわりにアタックが強いが、熟成が若いのか。余韻がぼやける感じもあり、複数原酒のブレンドモルトだろうか。正直銘柄はよくわからない。
ただ、この当時のハイランドモルトらしい厚みと垢抜けなさのある麦感は、ダルウィニーやディーンストン、あるいはフェッターケアンのちょい古いヤツなんてのも連想される。少なくとも、大手資本有名どころ第一線ではないモルトだと思われる。

――――――


久々にブラインドテイスティングの記事、そしてオールドボトルの記事です。

上のコメントが、記事掲載に当たってオープンテイスティングしたもの。下のコメントが当時回答として出題者に返信したものです。
このサンプルは昨年、ウイスキー仲間のK君が送ってくれた出題で、自分のブログに掲載していないオールドブレンドの類だったので、情報保管も兼ねて出題してくれたようでした。ホンマありがたい限りやで。。。

ということで、今回はスコッチウイスキー銘柄、フィンドレイターのシングルモルトボトリングです。ラベル上でPure表記とSingle malt表記が混在しているのが、80年代後半らしさというか、時代を感じさせる要素ですね。
構成原酒の情報はありませんが、香味等から察するに、おそらく中身はディーンストンだと思われます。厚みはあるが垢抜けない麦芽風味、ちょっと青みがかったニュアンスは、当時この蒸留所の原酒を使っていたブレンデッドや、同様にシングルモルトとしてリリースされた他のフィンドレイターにも共通するニュアンスです。

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(70年代から90年代にかけてフィンドレイターブランドとしてリリースされた、ハイランドシングルモルトの一部。何れも熟成年数は違うが、今回のボトルと共通するフレーバーが備わっている。)

当時、フィンドレイターを手掛けていたのはインバーゴードン系列で、構成原酒として用いられたハイランドモルトは、タムナヴーリン、タリバーディン、ディーンストン、ベンウィヴィスの4種とされています。

どうしてここまでマイナーどころが。。。というのはさておき、幻のモルトであるベンウィヴィスが選択肢なのは愛好家にとってのロマン。ただし、写真にある一連のリリースとの関係性に加え、1980年代後半リリースボトルで、77年閉鎖のベンウィヴィスを8年表記では使わないだろうなということで惜しくも除外です。

一方で、ディーンストンも1982年に原酒の生産調整から一時閉鎖しているのですが、当時の価値観では閉鎖蒸留所だからプレミアがつくなんてことはなく、普通にブレンドに使われていた時代です。
余ってるからシングルモルトで、くらいの発想があってもおかしくはありません。

近年のモルトは香味がドライに振れているので、今回のボトルのような麦系の甘味が強く出ているモノは少なくなってきています。オールドシングルモルトも値上がり傾向ですから、こうした銘柄不明のオールドモルトで昔ながらの味を楽しむというのは、知る人ぞ知る楽しみ方みたいで、なんだかお得感がありますね。
この8年は若い原酒ゆえの粗さも多少ありますが、当時の魅力、個性を楽しめる選択肢として、あるいは加水の癒し系として。家飲み用にアリな一本だと思います。


※以下、後日談※

後日談

( ゚д゚)・・・

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)!!??

い、いやあ先入観というか、節穴でしたねぇ。
まぁ結果間違ってないから「ヨシッ!」ということで(笑)


静岡蒸溜所 プロローグK シングルモルト 3年 55.5%

カテゴリ:
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SHIZUOKA 
"PROLOGUE K" 
THE LEGENDARY STEAM-HEATING STILL 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Aged 3 years old 
Cask type Bourbon Barrel 
Released in 2020 
700ml 55.5% 

評価:★★★★(4)

香り:和柑橘を思わせる爽やかさと苦み、若干の土っぽさ。蒸かした穀物のような甘さもあるが、奥にはニューポッティーな要素に加え、セメダイン系のニュアンスも伴うドライ寄りの香り立ち。

味:飲み口は度数相応の力強さで、若干粉っぽさのある舌あたり。バーボン樽由来のやや黄色見を帯びたウッディな甘味が、軽めのピートや麦芽のほろ苦さを伴って広がる。
一方で、中間から後半、余韻はあまり伸びる感じはなく、樽感、ピートとも穏やかになり、若さに通じるほのかな未熟要素、軽いえぐみを残して消えていく。

強めの樽感と軽めのピートでカバーされ、若さは目立たない仕上がり。樽はウッディな渋みが主張するような効き方ではなく、余韻にかけて穏やかに反転する変化が面白い。これは温暖な環境と短い熟成年数、そして酒質によるところと推察。若い原酒のみで構成されているため、酒質と樽感との分離感も多少あるが、少量加水するとスムーズで軽やか、麦芽由来の甘さも引き立ちまとまりが良くなる。
クラフト蒸留所のファーストリリースとして、そのクオリティは及第点。”伝説のスチル”の真価はこれからか。

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静岡蒸溜所から2020年12月にリリースされた、シングルモルトのファーストリリース”プロローグK”
ボトルで購入は出来ず、コロナ禍でBAR飲みも控えているため飲めていませんでしたが、知人のBARで小瓶売りのテイクアウトが可能だったため、緊急事態宣言前に調達していたものです。

静岡蒸溜所は、2016年に静岡県の奥座敷、中河内川のほとりに、洋酒インポーターであったガイアフロー社が創業した蒸溜所です。
創業にあたっては、旧軽井沢蒸溜所の設備一式を市の競争入札で落札し、可能な限り活用していく計画が発表されたことでも話題となりました。

その後聞いた話では、設備は老朽化していて、ほとんどが新蒸溜所での運用に耐える品質を保持していなかったそうです。ですが、モルトミルとポットスチル1機は活用可能だったとのことで、静岡蒸溜所に移設されて再び原酒を生み出し始めます。これが、今回リリースされたプロローグKのルーツである、"伝説の蒸留機 K”となります。
また、蒸溜所の創業年である2016年は、蒸溜所にすべての設備が整っていなかったため、初留・再留とも蒸留機Kで行う形態で仕込まれていました(現在は初留のみ)。今回のリリースも、全て同原酒で構成されているとのことです。

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(今は無き、軽井沢蒸溜所での1枚。このシルエットは、プロローグKのラベルデザインや、ボトルシルエットにも採用されている。)

以上の経緯から、創業前は"軽井沢蒸留所の復活"とも話題になった静岡蒸留所ですが、創業してからの評価はピンキリというか、必ずしもいい話ばかりではありませんでした。
WEBやメディアを通じて発信される拘りや新しい取り組み、愛好家からの期待値に反して、ウイスキー関係者からは「迷走している」という評価を聞くことも。。。

私自身、設備や蒸留行程の細かいところまで見てきた訳ではないので、あくまでウイスキーイベント等でカスクサンプルをテイスティングする限り。骨格が弱い一方で雑味が多いというか、発酵か、蒸留か、何か仕込みでうまくいってないような。。。酒質の面でも惹きつけられる要素が少ないというのが、少なくとも1年前時点※での本音でした。
※昨年はコロナでイベントがなく、見学にも行けなかったので。


(静岡蒸留所 プロローグKのPR動画。ウイスキー作りやリリースまでの流れが、22分とPR動画にしては長編の構成で紹介されている。プロローグKの紹介は16分あたりから。え、そこまで考えて?というこだわりも。)

そして3年熟成となるプロローグKです。男子3日会わざれば・・・ではないですが、日本のモルトで1年は大きな影響を持つ時間です。あれからどのように変化したのか、じっくり見ていきます。
構成原酒の蒸留時期は、創業初期にあたる2016年から2017年。麦芽は50%が日本産、30%はスコットランドから輸入したピーテッド麦芽、残り20%はドイツ、カナダ産のビール用の麦芽(ノンピート麦芽、ホップが効いているわけではない)を使用。これら原料を蒸留機Kで蒸留した原酒をバーボン樽で3年熟成した、31樽から構成されています。

飲んだ印象としては、樽感は強いですが、ベースは繊細寄りのウイスキーだと思います。
ピートも内陸系のものを軽めなので、フレーバーのひとつとしてアクセントになってます。
香りに感じられる特徴的な柑橘香や、樽香によらない幾つかの個性は、麦芽の構成に由来するのでしょうか。以前とある蒸溜所の方から「日本産の麦芽を使った原酒は、熟成の過程で和の成分を纏いやすい」という話を伺ったことがありますが、このプロローグKのトップノートでも、同様の印象が感じられました。

樽感が強めなのは、蒸留所のある場所が、静岡の山間ながら温暖な熟成環境に由来していると考えられます。
短期間の熟成なので、華やかなオーク香やフルーティーさ、ウッディな渋みはまだ出ていませんが、樽由来の甘み、エキス分は良く溶け込んでいます。
つまりこれから熟成が進めば、一層ウッディになり、フルーティーな変化もありそうですが、現時点ではかつて感じた印象のまま、酒質の厚み、奥行きが少なく、後が続かない。スッと消えていくのは、その為かなという感じです。
この良く言えば繊細、率直に言えば弱い箇所をどう補うかが、仕込みからリリースまで、全体的な課題だと感じます。

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(蒸留機を増設し、設現在の形になった静岡蒸溜所で蒸留された原酒のサンプルの一つ。ラベルにはWood firedという新しい取り組みによる表記がある。創業初期より骨格はしっかりしたと感じられるが・・・。)

蒸留所としては、2017年以降にポットスチルを増設し、地元で産出する木材・薪を使った直火蒸留という新しい取り組みも始めるなどしています。(これは温度が上がらないなど、苦労されていたと聞きます。)
ですがその酒質は、例えば三郎丸のリニューアル前後や、長濱の粉砕比率調整前後のような、ベクトルが変わるような大きな変化があった訳ではないようで、どこか問題を抱えているように感じます。

静岡蒸溜所の原酒は、近年のトレンドと言える洗練されてクリアなキャラクターではなく、クラフト感というかクラシックな雑味というか。。。言わばクラフトらしいクラフト、という路線が創業時から変わらぬベクトルとして感じられます。
加えて懐が深いタイプではなさそうなので、ピークの見極めが難しそうです。繊細さを活かすなら短熟のハイプルーフもアリですが、この手の酒質は樽と馴染みにくく奥行きも出にくいため、雑味や未熟香とのバランスをどうとっていくか。個人的には酒質や余韻のキレを多少犠牲にしても、いっそ樽をもっと効かせた後で、46%加水くらいにしてまとめる方が向いてる感じかなと思います。

果して、10年後にどちらのキャラクターがウイスキーとして正しいかはわかりません。
ですが、思い返すと軽井沢蒸留所の原酒も、決して洗練されたタイプではありませんでした(美味い不味いは、好みやカスク差もあるので保留。実際、軽井沢は樽による当たり外れが大きかった)。軽井沢蒸留所のDNAを持つ静岡蒸留所にあって、このキャラクターはある意味でらしさであり、"伝説"を受け継ぐ姿なのかもしれません。

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