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2020年11月

グレンマッスル No,6

カテゴリ:
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GLEN MUSCLE 
No,6 "Nice Bulk!!" 
Most Muscular Edition 
Blended Islay Scotch Malt & Highland Malt Whisky 
Aged 24 to 29 years old 
Distilled 1991 & 1996 
Bottled 2020.10.30 
Selected, Blended by Team GLEN MUSCLE with Y,Yahisa 
Bottled by NAGAHAMA Distillery 
700ml 46.1%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
場所:自宅
評価:★★★★★★(6)

香り:オーキーで華やか、トップノートはエステリーでパイナップルや洋梨の果肉、焼き菓子の甘さと香ばしさ。微かに人工的な黄桃シロップ、長期熟成を思わせる角のとれたウッディネス。奥には古典的な麦芽香もあり、時間と共に馴染んでくる。

味:香り同様にオーキーで、黄色系のフルーツソースとほろ苦くナッティーな麦芽風味。アタックは度数相応で柔らかいが、存在感のあるリッチな味わい。奥にはケミカルなニュアンス、若干枯れた要素の混じる古典的なモルティーさ。
余韻はフルーティーさに混じる微かなピート、土っぽさ。ビターなフィニッシュがじんわりと染み込むように続く。

華やかでほろ苦い樽香、熟した果実のフルーティーさと、オールドモルトを思わせる古典的なモルティーさの競演。熟成した原酒ならではの質感、香味の奥行きも特徴の一つ。さながらエステリー&モルティー、あるいは伝統と革新か。同じ90年代蒸留の原酒でありながら、異なる個性が混ざりあい、ボトルやグラスの中での多層的な香味の変化が長く楽しめる。
ブレンド向け輸入原酒(バルク)は質が劣るという潜在的先入観を覆す、まさに「ナイスバルク!!」という掛け声を贈りたい。

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VATTED SCOTCH GRAIN WHISKY 
With GLEN MUSCLE No,6 
Aged 38 years 
Distilled 1982 
Bottled 2020 
30ml 54.3% 

GLEN MUSCLE No,6 24年 + 1982グレーン原酒(38年) ※グレーンを5%程度ブレンド。
今回のリリースに付属する、グレーン原酒をブレンド。
主となるフレーバー構成はほぼ同じだが、2つの原酒の個性に繋がりが生まれ、全体を包み込むような甘味がバランスの良さに繋がっている。このグレーンの働きは”繋ぎ”であり、洋菓子にかけられたシロップ、あるいは寿司の醤油といったところか。香味に一体感をもたらすだけでなく、ボディの厚みが増し、キャラメルのような香味は黄色系のフルーツとマッチする。ゆったりと楽しめるウイスキーへと変化する。


長濱蒸溜所からリリースされた、グレンマッスル第6弾。ブレンデッドモルトウイスキーです。※一般販売は長濱浪漫ビールWEB SHOPで12/1 12:30~
ここまでシリーズが続くと、前置きの必要はないと思いますので多くは触れませんが。グレンマッスルは、ウイスキー愛好家が求める「美味しさだけでなく、尖った魅力や面白さのあるウイスキー」を、愛好家がウイスキーメーカーと協力(リリースを監修)して実現するシリーズです。
原酒は国内外問わず、方式もシングルカスクからブレンドを問わずであり、特にブレンドの場合は原酒の選定、レシピ作りから関わるのもこのシリーズの特徴と言えます。

今回は長濱蒸留所が保有する輸入原酒の中から、熟成年数の長いものを中心にリストアップ。実際にテイスティングし、モルト、グレーン合わせて10種類以上の原酒の中から、29年熟成のアイラモルトと、24年熟成のハイランドモルト、2蒸留所の原酒が選定されました。
アイラモルトは華やかさとナッティーなフレーバー、独特の土っぽさのある古典的な麦芽風味。魅力的な要素が強くありましたが、ボディの軽さがネック。一方で、ハイランドモルトは少し特徴的な風味がありつつも、フルーティーでボディも厚い。
どちらも一長一短な個性を持っていましたが、その場で適当に混ぜたところ、お互いの良い部分が強調されたことから、この2つで進めたいと、リリースの方向性が決まったのです。

その後、2種類の原酒における最適なブレンド比率を模索するため、長濱蒸留所でブレンダーも務める屋久さんと、複数のレシピで試作を実施。最後は直感、ブラインドで投票を行って、リリースレシピを決定しました。
なお、原酒の選定時、ある方針を巡って激しい協議(物理)もあったとかなかったとかなのですが、それはリリースの狙いにも関わってくるので、後ほど説明します。

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(ブレンドレシピの選定風景イメージ。ブレンドは原酒を混ぜてからの時間経過でフレーバーが変わるため、当初想定とは異なる結果になり、改めてブレンドの難しさを認識。)

リリースコンセプトとして、今回のグレンマッスル的な魅力、面白さは2つあります。
1つは「熟成感」。そしてもう1つが「ブレンド」、グレーンの重要性です。

近年、若い原酒のリリースが増えてきています。長熟原酒枯渇のボトラーズリリースもそうですが、蒸留所側も、ニューメイクの段階で雑味が少なく柔らかい味わいの原酒を作り、3~5年でそれなりに飲めるというリリースが、特に新興勢を中心に見られるようになりました。またアメリカでは、科学の力で熟成期間を大幅に短縮するという取り組みまで行われています。

こうしたリリースに共通するところとして、樽感は強く、わかりやすく付与されているものの、原酒そのものと馴染んでいなかったり、あるいは奥行きがなくフレーバーの幅が少ないという傾向があります。
そんなリリースはダメだと、否定するものではありません。それにはそれの良さがあります。例えば樽由来の香味を捉えやすく、フレーバーの理解に繋がるだけでなく、成長の余地があることから、その先の姿をイメージして楽しむことも出来ます。

一方で、熟成した原酒の良さとは何か。口当たりの質感もさることながら、フレーバーの幅、奥行きと言いますか。一つの要素からどんどんテイスティングワードが広がるような、軸のある複雑さだと、自分は考えています。若い原酒でも複数の樽感を足し合わせることで後付けの複雑さを出すことも出来ますが、ともすると化粧の厚塗りをしているようになり、熟成によって得られた複雑さとは違うものになってしまうのです。

今回のリリースに使われている樽はアメリカンオーク、ホグスヘッドタイプです。
同系統の樽構成でありながら、香味で連想するフレーバーの種類が多く、ただウッディなだけではない、柔らかくも存在感のある”熟成感”を備えた香味の広がりを、感じていただけるのではないかと思います。


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(マッスル6にグレーンを後追いで追加。しっかりと樽感、香味のあるグレーンなので、追いグレーンの場合はハーフショットなら1ml程度で十分。スポイトがない場合は、ストローや小振りのスプーンで代用できる。)

そしてもう一つのコンセプトが、先に述べたように”ブレンド”です。
今回のリリースには、1982年蒸留、38年熟成のグレーン原酒が付属しています。
販売ページでは特に説明していないので(非売品扱いなので)、手元に届いて「なにこれ」となるかもしれませんが、このグレーンには、グレンマッスルNo,6に加えて頂くことで、ブレンドにおけるグレーンの重要性、違いを体験できるという狙いがあります。

実は原酒選定の際、このグレーンも候補にあり、グレンマッスルNo,6をモルト100%にするか、ブレンデッドウイスキーにするか、メンバー間で意見が別れました。
ブレンデッドモルトには原酒由来のフレーバーの分かり易さや、リリースとしての特別感があり、一方でグレーンをブレンドした際の全体としてのバランスの良さ、完成度の高さも捨てがたいものでした。

近年のブレンドに使われるグレーンは、ともするとモルトの香味を引き算してバランスを取るものですが、このグレーンは足し算、全体を底上げするような働きがあります。
激しい協議の結果、リリースはブレンデッドモルトで行われることとなりましたが、長濱蒸留所のご厚意で、購入者がブレンドできる”追いグレーン”を付属して貰えることとなりました。
これが、小瓶としてついてくる、1982グレーン原酒です。

飲んでいる途中で味変に使用する。あるいは小瓶を用意して、事前にグレーンを混ぜて馴染ませて、比較テイスティングして楽しむ。。。これまでのリリースにはなかった楽しみ方じゃないかと思います。
また、ウイスキーを注文して、加水用の水が出てくるBARは多くありますが、グレーンが出てくるってのも斬新ではないでしょうか(笑)。
なお、このグレーンはかなり香味のしっかりしたグレーンなので、加えるのはハーフショットに1ml程度で充分です。
馴染ませる場合はもう少し加えても大丈夫ですが、入れすぎるとグレーンが勝ち過ぎてしまうので注意が必要。。。そうした変化も飲み手の遊び心として、楽しんで貰えたらと思います。

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長濱蒸溜所とは、今年2月にリリースされた第2弾”Shiagatteruyo!!”に続くタイアップ、リリース監修となりました。そして2020年に予定されている、最後のリリースとなります。
新型コロナウイルスの感染拡大という難しい状況かつ、蒸留所としてはシングルモルトリリースに向けても多忙を極めるなか、我々メンバーの要求への柔軟な対応に加え、上述の追いグレーンをはじめ多くのご厚意を頂きました。

ですが、そのおかげで愛好家から見てワクワクするような、美味しいだけではない要素に富んだリリースに仕上がりました。
今回のリリースは決して安価ではありません。原酒価格の高騰から、マッスルシリーズで初の20000円OVERとなってしまいました。故に、手にとって頂いた皆様にも感謝であり、それに見合う価値、美味しさや楽しさを感じて頂けたら幸いです。

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2020年にリリースされたグレンマッスルシリーズは、構成原酒含めて計6本。まさかここまで続くとは思いませんでした。
メーカー、ユーザー問わず本当に多くの愛好家によって支えられたシリーズだと思います。
そして来年も、我々の旅は続きます。。。

Thanks to Glenmuscle officicals and lovers.
See you Next Muscle.




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余談1。
今回のラベル、どこかで見たことがあるという方も居ると思います。
1つは過去の偉大なリリースで、もう一つはスコットランドのどこかで・・・です。
前者についてはお察し頂くとして、後者はウイスキー愛好者でスコットランド・スペイサイド地方を旅行した人にとっては、一度は目にしているのではないかという、有名な(?)標識がベースになっています。
写真は、先日カレンダーの紹介もさせていただいた、K67さんから頂きました。
どこにあるか、現物をGoogleMAP等で探してみてください。


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余談2。
このシリーズから、Eclipseの藤井さんがシードル醸造所設立、創業のためチーム活動を休止されています。
以前から計画は聞いていて、でもシードルって言っても、ガレージみたいなとこで少量から作るんでしょ?、ビール的な感じで。。。と思ってましたごめんなさい、先日公開された外観写真を見て震える規模でした。
日本にはまだ馴染みの少ないシードルですが、リンゴそのものは日本の食文化に根付いており、生産量も多くあります。ジャパニーズウイスキーならぬジャパニーズシードル、良いですね。是非理想とするシードルを造られ、お店で飲める日を楽しみにしています!!


補足:グレンマッスルのリリースにあたって。
少しでも手に取りやすい価格でコンセプトに合致したリリースを実現するため、我々チームメンバーは監修料、及び販売に伴う金銭的な利益の一切を得ておりません。またメンバー個人が必要とする本数についても、販売元から通常価格で購入しております。

ニッカ セッション 43% ブレンデッドモルトウイスキー

カテゴリ:
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NIKKA WHISKY
SESSION 
Blended Malt Whisky 
700ml 43% 

グラス:SK2、木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅(サンプル)
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★(5-6)

香り:ほのかに乳酸系の酸を伴う、ケミカル様な香り立ち。プレーン寄りのオーク香と乾いたウッディネスに、微かにドライオレンジ。焦げたようなモルティーさとピート香が混じる。

味:香り同様の構成。口当たりは酸味を帯びたケミカルなフルーティーさ。モルト100%だけあって、コシのしっかりした味わいに、多少ギスギスとした若い要素もあるが、モルト由来の甘みと加水で上手く慣らされている。後を追うようにほろ苦く香ばしいピートフレーバーが広がり、乾いた樽香を伴って余韻へ続く。

プレーン寄りの樽感に、ベンネヴィスと若めの新樽熟成余市という印象を受ける構成。若さを目立たせず、現在の相場を考えたら上手くまとめている。レシピ上は宮城峡や他の輸入原酒も使われているのだろうが、前述2蒸留所の個性が目立つため、残りの蒸溜所(原酒)は繋ぎと言える。余韻にかけての焦げたようにビターなスモーキーフレーバーは余市モルトの特徴。ベンネヴィスの特徴についてはもはや触れる必要はないだろう。前述の通り樽感がプレーン寄りなので、ハイボールにすると面白い。

(今回はサンプルテイスティングのため、画像は友人が撮影したものを借りています。Photo by @Bowmore80s)

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9月末にニッカからリリースされた新商品。ブラックニッカの限定品ラッシュの印象が強くて意識していませんでしたが、新ブランドの立ち上げは実に6年ぶりとのことです。
今年3月には看板商品である竹鶴ピュアモルトが終売&リニューアルしており、2020年はニッカにとって2015年以来の大きな方針転換を行った年と言えます。

特に大きかったのが、「竹鶴ピュアモルト」のブレンドレシピの変更だと感じています。
これまでは「ベンネヴィス」が使われていると噂されていた、ソフトでケミカルな、フルーティーなフレーバーの混じる構成を見直し、香味の上では100%、あるいはほぼ余市と宮城峡の組み合わせと思える、全く異なる味わいにシフトしてきたのです。

そしてその後、間を置かず発表されたのが、今回のレビューアイテムである「ニッカ・セッション」。ニッカウヰスキーとしてはおそらく初めて、ベンネヴィス蒸留所の原酒が使われていることを、公式にPRしたリリースです。

発売発表直後、飲まずして「つまり旧竹鶴ピュアモルトでしょ」と思った愛好家は、きっと自分だけではなかったと思います。しかし上述のとおり竹鶴ピュアモルトがリニューアルして香味が変わっており、使われなくなった原酒はどこに行くのかというところで、”華やぐスコティッシュモルトと、躍動するジャパニーズモルトの競演”なんてPRされたら、考えるなと言うほうが無理な話でじゃないでしょうか(笑)。

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(左から、ニッカ・セッション、竹鶴ピュアモルト、旧竹鶴ピュアモルト。)

ただ、当たり前な話ですが、ニッカ・セッションは旧竹鶴ピュアモルトのレシピをそのまま持ってきたようなブレンドではありませんでした。
上の写真で色合いを見ても、その違いは明らかですね。
先日、LIQULのコラムRe-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.8で、竹鶴ピュアモルトとセッションを特集した際にまとめさせてもらいましたが、旧竹鶴ピュアモルトと新作2銘柄の間ではっきりと線が引かれた、過去との違いを明確にしたレシピだとも感じています。

下の表はレシピというか、味わいから感じた銘柄毎の各原酒の個性の強さを、主観でまとめた個人的なイメージです。
あくまで主観なので、実際のレシピで使われている分量とは異なると思いますが(例えば、宮城峡のようにソフトな原酒は量が多くても目立ちにくい)、ポイントはピーティーな余市モルトの利かせ方だと考えています。
旧竹鶴ピュアモルトでは淡い程度だったその存在が、新作2銘柄では最近の余市に見られる、あまり樽の内側を焼いてないような新樽の香味に、ピーティーで香ばしいモルティーさが合わさり、特に余韻にかけて存在感を発揮して来ます。

主観的分析

ベンネヴィスは、わかりやすいいつものケミカルっぽさのある個性。中にはピーティーな原酒もありますが、余市のそれとはキャラクターが大きく異なります。
その余市のピーテッドモルトの使い方で、これぞニッカという分かりやすい個性があるのは、輸入原酒の有無に限らず、ニッカの原酒が使われているという、明確なメッセージを発信しているように思えてきます。

それは、2銘柄を新たにリリースした理由にも繋がるものです。
原酒不足対応、将来を見据えた計画、流通量の安定化・・・様々な要因が説明されてきましたが、違和感はこのセッションのリリース。リニューアルした竹鶴ピュアモルトの出荷本数は年間30000ケースと旧時代と比較して相当絞ってきた中で、セッションの初年度は様子見で50000ケースです。
本当に原酒が足りないなら、宮城峡より生産量が少ない余市モルトをセッションに回す(少なくとも旧竹鶴よりは効かせている)ことや、そもそもセッションのリリースをしないで、旧竹鶴ピュアモルトを継続する選択肢だってあったと考えられるわけです。

昨今、「輸入原酒をジャパニーズウイスキーとして、あるいはそれを連想させる名前の商品に用いてリリースすることの賛否」が注目されていることは、改めて説明する必要はないと思います。
つまり、消費者意識の高まりを受けて、竹鶴は100%日本産と再整理し、もう一つ軸となるブランドを、輸入原酒とニッカの明確なキャラクターの中で、情報公開しつつ造ったのではないかと。
(実際、ジャパニーズウイスキーの基準に関する議論を受けたリリースの動きがある、なんて話を昨年聞いたことがありましたし。)

勿論、サントリーから碧”AO”、キリンから陸、ブレンデッドとグレーンと言う、2社が強みをもつ領域でワールドウイスキーが展開される中で、ニッカも後れをとるなと得意領域で新商品をリリースしてきた、ということかもしれませんが、これら3商品のリリース背景に、原酒不足問題だけでなく、大なり小なり「ジャパニーズウイスキーの基準問題」が影響していることは間違いないでしょう。

こうしたリリースに市場が、消費者が、どのように反応するか、各社はブランド価値向上を狙いつつ、そこを見ているようにも思います。
とはいえ、味以上にレアリティに惹かれる人が多いのもボリュームゾーンの特徴なので、ワールドウイスキーがブームの恩恵を100%受けていられるかは微妙なところ(実際、これら3つのワールドウイスキーは普通に店頭で買えますね)。ひょっとすると、一時的な整理になる可能性もあります。
しかし、日本におけるワールドウイスキーは、新しい可能性と成長の余地のあるジャンルであり、個人的には日本だからこそ作れるウイスキー造りの一つとして、今後も探求を続けてほしいと感じています。



今回は軸となる情報は同じながら、LIQULと異なる視点で記事を書きました。
なんというか、新リリースの楽しさだけでなく、色々と考えさせられるリリースでしたね・・・ニッカ・セッションは。
では、今回はこのへんで。

ウイスキー愛好家作 卓上カレンダーの紹介

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ウイスキー仲間で、当ブログに写真の提供も頂いているK67さんが、自身で撮影した写真を使った2021年のウイスキーカレンダーを作成。購入方法をSNS等で紹介しています。
カレンダーは
・ポットスチル集となっているカラー版
・蒸留所のシンボルをまとめたモノクロ版
の2種類があり、どちらも中々に良い出来です。
せっかくなので今日の記事で紹介させてもらいます。

K67さんは友人へのプレゼントとして、毎年ウイスキーカレンダーを少量作っていました。
それが、TOLOTの”みんなも注文”という機能を使うことで、第三者が自由に注文することが出来るとわかり、もし欲しい方がいらっしゃったらと、購入方法を公開されています。

価格はそれぞれ送料込みで650円。
K67さんから画像をお借りして、以下にサンプルと購入ページURLを表示します。


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カレンダー・ポットスチル(カラー)
※購入方法:上記リンクにアクセス後、アクセスパスワード3758を入力



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カレンダー・蒸溜所シンボル(モノクローム)
※購入方法:上記リンクにアクセス後、アクセスパスワード2625を入力。


自分はK67さんから毎年カレンダーを頂いていたのですが、これまで風景的、俯瞰的な作品が多かった構成から、今年はモノにフォーカスした、比較的距離の近い写真が多く使われているのもポイントです。
ポットスチルやロゴなど、蒸溜所や地域のシンボルとも言えるパーツから、逆にその周辺の景色やリリースされているウイスキーを連想するような作品で、既に会社の机にはカラーが、自宅の在宅ワーク用スペースにはモノクロが、来年に向けてスタンバイしています。

誤解のないように補足すると、この販売を通じた売上や個人情報が、K67さんの手元に入るものではありません。(勿論私の手元に入るものでもありません。)
この完成度だしちょっとくらい儲けても良いじゃんってレベルなのですが。。。。価格はトロットの受注・制作・発送サービスの利用料です。
なので、写真を見ていいなと思った方は購入いただき、そして手に取った感想を伝えていただけたら嬉しいです。


※K67さん個人サイト"酒は人生の妙薬"

K67さんは趣味としてスコットランドをはじめ各地を旅行して、様々な写真を撮られています。
その質感というかアングルというか、カメラの設定を撮りたいイメージにアジャストする能力というか、語彙力の問題でうまく言葉にできませんが、瞬間を切り取るセンスが素晴らしく、思わず惹き付けられるような作品が多くあります。

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(北海道で今年8月末に撮影されたという1枚。夏の終わりという雰囲気が犇々と伝わってくる。)

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(オークニーのストーンヘンジ。流れる雲と風の気まぐれが造った素晴らしい風景を切り取った1枚だと思う。)

その他作品は個人サイトのギャラリーをご覧いただければと思いますが、この写真を撮影する機材が、キャノン砲みたいな一眼レフじゃない、10年選手のコンパクトなカメラで撮ってるというのだから、写真は機材で撮れる幅が広がるけど、それを活かすのはセンスと技術なんだなぁと思わされます。
ホント、自分もこんな写真が撮れたら。。。

話が逸れました。
今年は本当にいろんなことがありましたね。
毎年様々な出来事があり、決まり文句のような言葉ですが、100年に一度、あるいは世界規模のパンデミックに関連しては、過去経験のない出来事ではないかと思います。
そしてこれは、きっと来年も暫く続くのです。
終わりの見えないコロナ禍の生活に、閉塞感を感じている人も多く居るなかで、ちょっとした気分転換。ふと思いを馳せることが出来るアイテムって良いなと。
ままならない日々が続きますが、感動したり、共感したり、楽しい気持ちになれるモノを大事にしたいですね。

では、今回はこのへんで。

ハンキーバニスター 8年 1970年代流通 特級表記 43%

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HANKEY BANNISTER 
YEARS 8 OLD
SCOTCH WHISKY 
1960-70's 
760ml 43% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後3か月程度
評価:★★★★★★(6)

香り:トップノートは黒砂糖やかりんとう、ほのかにみたらし、カラメルソース。香ばしい要素が混じる色濃い甘いアロマ。古典的なシェリー感の一つが軸となり、そこにデメラララムのようなグレーンの甘い香りも混じる。

味:適度なコクとまろやかさ。香り同様のシェリー系のフレーバーが広がる、まったりとしたリッチな味わい。余韻は軽いスパイシーさと、キャラメルソースを思わせる甘味、ほろ苦さ。奥に乾煎りした穀物、アイスコーヒーにあるような酸味を微かに。

年数表記以上の原酒もブレンドされているとは思うが、8年熟成とは思えないリッチな味わい。当時らしいカラメル系のシェリー感や加水の影響を受けながら個性を残す、香ばしくしっかりとしたモルティーさ、熟成したグレーンの甘みを感じられるのがこのブレンドの魅力である。グレンファークラスがキーモルトと言われても違和感は無いが、実態は不明。ストレートで。

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7月頃、ふと濃いめのオールドブレンデッドが飲みたくなり、開封したボトル。ハンキーバニスター8年のJAPAN TAX付き。
狙い通りの味なのですが、若干の引きこもりと金属っぽさがあったので、ワインコルクを刺して放置プレーしていました。気が付けば夏が終わり、秋も晩秋というところ。そういえばこの手のウイスキーを飲むには丁度いい時期になったなと。これもまた狙い通り、香りがしっかり開いて美味しく頂けています。

ハンキーバニスターのスタンダード品は、1980年代前後で原酒の傾向が大きく変わります。シェリー感が濃いのが1970年代までで、求める味は断然こっち。1980年代は15年等の上位リリースに原酒がまわされたのか、12年以下のグレードはシェリー感が淡くなり、リフィル系統の樽使いにシフトしたような印象を受けます。
撮影条件が違うので何とも言えませんが、過去に当ブログでレビューしたものと比較しても、その色合いから系統の違いを察していただけると思います。

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(1980年代のハンキーバニスター12年。色合いだけでなく、紋章の違いも時代考察材料。)

同銘柄は、日本では三越デパートを中心にギフト品として展開されており、今回のボトルにも三越のシールが貼られていますね。
ところが洋酒ブームの終焉をもって日本への輸入が途絶えたのか、あるいは88年に親会社がSaccone & Speed社からインヴァ―ハウス社となり、ターゲット市場が変わったか、90年代には姿を消していました。で、そのまま終売かと思い込んでいたのですが、最近はまた輸入が始まったようです。
調べてみると、本国ではリリースが継続されており、40年熟成品までラインナップにあるのだから、知らないウイスキーがまだまだあるなと思い知らされます。

ちなみにこのSaccone & Speed社は1982年にグレンファークラスの販売代理店となり、ラベルに同社の名前が書かれることが、オールドファークラスの時代考察材料としても知られています。
販売代理店になるくらいだから、それ以前から蒸留所との繋がりは深かったと考えられるものの、実は今回レビューする時代のハンキーバニスターのキーモルトが、ファークラスであるという記述はスコッチオデッセイ以外見当たらない。。。いや味的に違和感はないのですが。

なお同誌の記述によると、この銘柄が特に日本に入ったのは1980年代からだそうで、確かにリユース市場で見かけるのはそのあたり。
80年代なら、15年や21年は同様にとろんと甘いシェリー感があるのですが、熟成が進んだためか、陶器のため抜けているのか、味にメリハリが少ないのがこの8年との違いと言えます。
若い原酒も、古典的な樽感も、熟成した原酒もうまく使って仕上げられた、近年中々見られないブレンドです。



三郎丸0 THE FOOL 3年 カスクストレングス 63% シングルモルト

カテゴリ:
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SABUROMARU ZERO 
”THE FOOL” 
Cask Strength 
Heavily Peated (50PPM) 
Aged 3 years 
Distilled 2017 
Bottled 2020 
Cask type Bourbon barrel 
700ml 63% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅
時期:開封直後
評価:★★★★★★(6)(!)

香り:香り立ちはドライで酒精の刺激と香ばしいスモーキーさ。焚火や野焼きの後のような、土っぽさ、干し草の焦げた香りに、郷愁を感じさせる要素を伴う。合わせてエステリーで、グレープフルーツやドライオレンジを思わせる柑橘香、ほのかにオーキーなアクセント。奥にはニューポッティーな要素も微かにある。

味:コクと厚み、そしてボリュームのある口当たり。香ばしい麦芽風味とピートフレーバー、樽由来の甘味と酒質の甘酸っぱさが混じり、柑橘を思わせる風味が広がる。余韻はスモーキーでほろ苦いピートフレーバーの中に、微かに薬品シロップのような甘みと若干の未熟要素。ジンジンとした刺激を伴って長く続く。

度数が63%あるとは思えないアルコール感の穏やかさだが、芯はしっかりとしており、味にボリュームがあるため口の中での広がりに驚かされる。厚みのある酒質が内陸系のピート、麦芽、そして程よく付与された樽由来の風味をまとめ、熟成年数以上の仕上がりを思わせる。
勿論未熟な成分も感じられるが、過去の設備の残滓と言える要素であり、伸び代のひとつと言える。加水するとフレッシュな酒質の若さが前に出るが、すぐに馴染む。2つの世代を跨ぐウイスキーにして、可能性と将来性を感じさせる、門出の1本。

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富山県、若鶴酒造が操業する三郎丸蒸留所は、創業1952年と、日本のウイスキー蒸留所の中でも長い歴史を持つ、老舗の蒸留所です。
同蒸留所は、2016年から2017年にかけ、クラウドファンディングも活用した大規模リニューアルを実施したことでも知られています。そうして新たな環境で仕込まれた、新生・三郎丸としての原酒で3年熟成となる、三郎丸0”ゼロ”がついにリリースされました。

50PPMというこだわりのヘビーピート麦芽に由来する、ピーティーでしっかりと厚みや甘味のあるヘビーな酒質。これは他のジャパニーズモルトにはない個性と言えます。
今回のリリースは、同社酒販サイトALC限定で63%のカスクストレングス仕様(200本)と、通常リリースとなる48%の加水仕様(2000本)があり、どちらもバーボン樽で熟成した原酒のみをバッティングし、構成されています。
※()内はリリース本数。

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(三郎丸0カスクストレングス(左)と48%加水仕様(右)。ベースとなる原酒はどちらも同じ。外箱は富山県高岡市の伝統工芸品である高岡銅器から、銅をデザインに採用している。)

中身の説明に移る前に、三郎丸0THE FOOLの位置づけについて、裏面に書かれたメーカー説明文を補足します。
1つ目は、なぜ”ゼロ”なのか。
この手のリリースはファーストリリースであることを表記するのが一般的ですが、三郎丸は位置づけが少し異なります。
蒸留所責任者である稲垣さんに伺ったところ、2017年は厳密にはリニューアル過程の途中であり、旧世代の設備(ポットスチルの一部や、マッシュタン)が残って使われていました。進化の途中、リニューアル前後の三郎丸蒸留所を繋ぐ、1の前の”0”という意味があるそうです。

もう1つが、タイトルやラベルに描かれたタロット"THE FOOL"(愚者)について。
これは、裏ラベルでキーワードとして触れられていますが、単なる愚か者ということではなく、「思うところに従い、自由に進む者」という意味があるとのこと。
蒸留所のリニューアルやウイスキー造りは、稲垣さんが自分で考え、まさに愚者の意味する通り様々なアップデートや工夫を凝らして行われてきました。
そういえば、タロットカードとしての愚者の番号も「0」なんですよね。
若者の挑戦がどのような結末に繋がるのか、0から1へと繋がるのか。。。蒸留所としても作り手としても、分岐点となるリリースと言えます。

※蒸留所の特徴や設備、リニューアル・アプデートがもたらした酒質の変化等については、LIQULの対談記事(ジャパニーズクラフトウイスキーの現在~VOL.1 三郎丸蒸留所編~)で、詳しくまとめられています。今回のリリース、あるいは若鶴のウイスキーを飲みながら、ご一読いただければ幸いです。





前置きが長くなりましたが、ここから中身の話です。
三郎丸0 THE FOOL カスクストレングスは、これぞ2017年の三郎丸という前述の個性が全面にあり、バーボン樽由来の香味は引き立て役。ネガティブな要素も多少ありますが、それも含めてまとまりの良さが特徴の一つです。
加水版はまだ飲めていませんが、カスクストレングスを加水した感じでは、若さが多少出るものの、目立って崩れる印象はないため、方向性は同じと推察しています。

酒質の懐の深さと言うべきでしょうか。フレーバーの傾向としては、何度かリリースされたニューボーン等から大きく変わっていませんが、複数の原酒がバッティングされたことで味わいに厚みが出ています。GLEN MUSCLE  No,3でブレンドしたときも感じましたが、キャラは強いのにチームを壊さない。キーモルトとしても申し分ない特性を備えていると感じます。

一方で、リニューアル前となる2016年以前の原酒は、特徴的な厚みやオイリーさはプラス要素でしたが、設備の問題で未熟香に繋がる成分、オフフレーバーが多かっただけでなく、50PPMで仕込まれたはずのピート香が蒸留後は抜けているという症状もありました。一部愛好家からは酷評される仕上がりで、ニューメイクに至っては体が嚥下を拒否するレベルだったことも。
それがリニューアルを経て、ステンレス製だったポットスチルが改造され、形状はほぼそのまま銅の触媒効果が得られるようになり。また、酵母や仕込みも見直されたことで、現在の味わいに通じる下地が作られることとなります。

三郎丸ビフォーアフター
(リニューアル前後の三郎丸。画像右上にあるマッシュタンは、裏ラベルにも書かれた"縦長のマッシュタン"。麦芽粉砕比率は前代未聞の4.5:4.5:1。2017時点では継続して使われており、2018年に三宅製作所製の導入で半世紀に及ぶ役目を終えた。)

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(三郎丸蒸留所の設備や原料の遍歴まとめ。2018年以降も、段階的に様々な改修が行われている。つまり作り手も新しい環境へのアジャストが求められ、難しい5年間だったことが伺える。)

発酵臭や硫黄香といったネガティブ要素が大幅に軽減され、強みと言える厚みのある麦芽風味とピートフレーバー、オイリーな酒質が残ったのが、2017年のニューメイクです。
伝統の中でも良い部分を受け継ぎ、まさに過去と未来を繋ぐ中間点にある存在と言っても間違いないと思います。

2018年以降のものに比べると、まだ未熟要素が目立ちますが、熟成によって消えるか馴染むかする程度。何より、新たな旅を始めたばかりの蒸留所の第一歩に、これ以上を求めるのも酷というものでしょう。
実際、酒質的にも樽感的にも、熟成の余地は残されていますし、同蒸留所には冷温熟成庫があるため、日本の環境下でありながら20年以上の熟成が見込める点は、他のクラフト蒸留所にはない大きな強みだと思います。

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(原酒の受け皿となる樽も、バーボンだけでなくボデガ払い出しの長熟シェリー樽や、PX樽、ミズナラ樽、ワイン樽・・・などなど数多くある。いくつか利かせてもらったが、これから先が楽しみになる成長具合だった。)

自分はリニューアル以降、毎年蒸留所を訪問し、酒質の変化を見てきました。
大きな変化があった2017年、期待が確信に変わったのがマッシュタンを変更した2018年。2019年はポットスチルの交換や、乳酸発酵への取り組みもあって特に苦労があったそうですが、2020年はその甲斐あって、蒸留所改修プランの集大成ともいうべき原酒が生まれています。

つまり、今後リリースされる銘柄は、ますます酒質のクオリティが高くなっていくと予想できるのです。それは将来的にあの偉大な、巨人と称される蒸留所に届きうるまでとも。。。
勿論規模では比較にならないでしょうが、そもそもターゲット領域が違う話です。小規模だからこそ、実現できるアイデアもあります。(例えば良質な樽の確保や、アイラピート麦芽とか)
ああ、リアルタイムでこうした蒸留所の成長を感じられることの、なんと贅沢な楽しみ方でしょう。

4年前、飯田橋の居酒屋で稲垣さんから聞いた、無謀とも思えた蒸留所の再建プラン。今にして思えば、それはまさに"愚者"に描かれた若者の旅立ちだったのかもしれません。
愚者のタロットは、崖の上を歩く姿が書かれています。崖から落ちてしまうのか、あるいは踏みとどまって旅を続けていくのか。後者の可能性をニューメイクで感じ、シングルモルトがリリースされた今はもう疑いの余地はありません。
今後もファンの一人として、三郎丸蒸留所の成長・成熟を見ていけたら良いなと思います。

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改めて三郎丸0のリリース、おめでとうございます!

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