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2020年02月

ブラック&ホワイト 1970年代流通 特級表記 43%

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BLACK & WHITE 
BUCHANAN'S CHOICE OLD SCOTCH WHISKY 
1970's 
760ml 43% 

グラス:国際規格テイスティンググラス
場所:お酒の美術館 神田店
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(6)

香り:ほろ苦く古典的な麦芽香。バニラや洋梨、微かに干し草、柔らかい甘さに若干の古酒感、微かに内陸系のピート香を伴う。

味:柔らかくスムーズな口当たり。麦芽風味は香り同様に古典的な要素があり、土っぽさと籾殻、芯の白い部分。そこに洋梨や林檎の蜜、ほのかにべっこう飴を思わせるマイルドな甘味。余韻にかけて微かにスモーキーなピート香があり、染み込むようなフィニッシュ。

柔らかく古典的な麦芽風味が主体で、グレーンのコクやほのかなスモーキーさ。ライトタイプだがダシの効いたスープのような薄っぺらくない味わいが魅力。THE付きロイヤルハウスホールドに通じるブキャナン味が備わった、最後の時代。

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2匹の犬がトレードマーク、ブラック&ホワイトの1970年代前半流通品。写っていませんがJAPAN TAX付きです。
ブキャナン社のスタンダード銘柄。。。なのですが、下手するとその辺のデラックスグレードを喰ってしまいかねない完成度の1本。
構成原酒はダルウィニーとグレントファースで、そのどちらにもある麦芽系の風味がしっかりとベースにあり、若さを感じさせない仕上がりが魅力です。

この時代のブラック&ホワイトは、状態が悪いものも散見されますが、いいもんは本当に良いのです。60年代ティンキャップ時代ともそう大差ないクオリティ(60年代流通の方が少しピートが強めな印象。)
70年代においてジョニーウォーカーはリッチな甘味とスモーキーさで力業のブレンド、バランタインはハイランドモルトとアイラモルトを巧みに用いた技のブレンドというのが個人的な分類ですが、このブキャナンは力業でも匠の技でもない、牧歌的なハイランドもルとの魅力を詰め込んだようなブレンドであると感じます。

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(ブラック&ホワイト、70年代から80年代までのラベル変化。70年代の写真は手持ちがなく、ヤフオクの履歴から引用。上から順に、70年代後半、80年代前半、80年代後半。80年代後半はボトル形状がなで肩系のデザインとなる。味の変化以外に、少しずつトレードマークたる犬が小さくなっていっているのは、他のDCL銘柄と同じ変化である。

ブラック&ホワイトは、ブキャナン社(あるいはDCL)のブランド戦略の中で大衆的なウイスキーとして世の中に広まっていくこととなり、80年代に入ると原酒の質の低下の煽りもうけて、クオリティは急降下。
80年代後半はストレートで飲むにはなかなか・・・少なくとも、今回のレビューで触れたような古典的な麦芽風味は一切消えて、ピートフレーバーも霧散し現行寄りの仕上がりとなってしまっています。
ハイボールで飲むには80年代くらいからのボトルがちょうど良いのですが、この辺はうまく使い分けたいところです。

なお、スタンダードで十分美味しいのだから上位グレードも・・・という期待を裏切らないのが、ブキャナンズクオリティであり、それがブキャナンズ・デラックスです。(THE付きロイヤルハウスホールドも旨いのですが、価格が・・・。)
同系統の構成でありながら、さらに熟成と厚みを増したモルティさとスモーキーフレーバー。オールド好きは是非試して欲しいですね。

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今日のおまけ:シャトー デュクリュゾー 2013 メドック

成城石井のワインコーナーで、税込み3500円くらいで売っている仏ワイン。等級はブルジョワですが、実績のある作り手が傘下としているためか作りには丁寧さが伺える。店舗によっては2011が売れ残っていますが、たぶん普通の店舗なら2013のはず。2011については保証せず(へたりぎみという話も。。。ただ、別件で飲んだ2009は結構うまかった)。メルロー主体でぶれ幅がそんなにあるような銘柄ではないので、恐らく近年のヴィンテージはそう悪くないのでは。フランスのなかでは安旨と言える1本です。

自分が好んで紹介してきた、新世界の熟した果実感が全面にあるようなタイプではないのですが、仏ワインらしい重めのボディと腐葉土やタンニン、そこにブラックベリーやダークフルーツ系の甘酸っぱさがアクセント。強く主張はしない熟成感。
塩胡椒で焼いた肉よりも、ワインソースで合わせた肉料理や、ソース系の甘酸っぱい風味が合わさったものが間違いない。
新世界の果実味豊富なワインを飲んできて、なんとなくあざとく感じるようになったなら、この1本はオススメです。

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シングルモルト 厚岸 サロルンカムイ 2020年リリース 55%

カテゴリ:
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THE AKKESHI 
Single Malt Whisky 
"Sarorunkamuy" 
Lightly-Peated 
Bottled January 2020 
200ml 55% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:自宅
評価:★★★★★(5)

香り:干し草や木材が焦げたようなスモーキーな香りに、若い原酒の乳酸やレモングラスのような柑橘香から、バニラや蒸した穀物のような甘さ、ほのかに黒砂糖。ニッキを思わせるスパイス香がピートと合わせて感じられる。

味: やや酸を感じる若いモルティーさから、クリーミーでピーティーな口当たり。ホワイトペッパーを思わせるスパイスとオークのバニラ、ローストした麦芽のほろ苦さにレモンバウムのような駄菓子的な柑橘感が続く。 
余韻で鼻腔に抜けていくミズナラのスパイシーかつウッディさをアクセント、土っぽさと焦げたようなピーティーなフレーバーが長く続く。

強くはないが主体的に感じられるピート香と、ミズナラ樽のスパイシーさを軸に複数の樽感とが若さを中和し、バランスよく仕上げてある。ピートはヨード等のアイラタイプではなく、スモーキーで木材が焦げたようなほろ苦さ。ボディにあるコクのある甘味、余韻にかけて鼻腔に抜けるミズナラ香が良いアクセントになっている。加水すると燻した麦芽のスモーキーさと、若い原酒の酸が目立つ。これまでリリースされてきた厚岸ウイスキーの集大成。ヒンナ。

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ファン待望、厚岸蒸留所初のシングルモルトリリース。3年以上熟成した2016年蒸留のノンピート、ピーテッド原酒をブレンドしたもので、樽はバーボン、シェリー、ワイン、そしてバッティングの軸になる原酒は、北海道産のミズナラ樽で熟成させたピーテッド原酒を使用した、こだわりの1本です。

厚岸蒸留所は目標のひとつにオール北海道産のウイスキーを掲げており、このファーストリリースはゴールではなく始まりとして、軸になる原酒を北海道産ミズナラ樽のものにしたのではないかと推察します。
その中身は3年熟成のシングルモルトであるため、多少なり若さは見られます。
ただ、他のクラフト同様に現時点ではこれ以上の熟成年数のものはない訳ですから、若さをもってNGとする評価は、無い物ねだりというか違うモノ飲んでくださいとしか言えません。その上でこのリリースの見所はというと、複数の原酒の織り成すバランス、そしてこれまでリリースされてきた、ニューボーン4作との"繋がり"にあると感じました。

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(厚岸蒸留所リリースの系譜。過去4作のニューボーンは、それぞれに意味や位置付けがあるが、サロルンカムイはこれらの集大成であるように感じられた。また3年未満でSpirit表記だったものが、いよいよ今作でSingle Malt表記となったのも感慨深い。過去4作のレビューはこちら

これまでリリースされたニューボーンは、上の写真の通り
・1st:ノンピート原酒(バーボン樽)
・2nd:ピーテッド原酒(バーボン樽)
・3rd:ノンピート原酒(ミズナラ樽)
・4th:ブレンデッドウイスキー(バーボン、ワイン、シェリー樽)※ほぼノンピート
以上の構成でリリースされてきました。
1stはまずベースとなるプレーンな厚岸蒸留所の酒質を、2ndと3rdは将来のシングルモルトとしてのリリースを見据えた同蒸留所のスタイルを、そして4thはブレンデッドウイスキーとして同蒸留所の方向性、ワインやシェリー樽等の過去使ってこなかった様々な樽を用いるスタイルとして。
いずれもそれぞれが、将来の厚岸ウイスキーを見据えたマイルストーン的な意味を持っていました。

一方、サロルンカムイのフレーバーを紐解いていくと、その先はこれらすべてのニューボーンにたどり着くように感じます。
軸となっているミズナラ樽の原酒は言わずもがな、熟成を経たピーテッドモルトや、ノンピートのバーボン樽原酒のキャラクターが随所にあり、特にピートフレーバーはノンピート原酒とのバッティングでライトに整えられて全体のなかでアクセントになっている。

また、比率としては少ないものの、ミズナラとピートという厚岸蒸留所がシングルモルトの主要要素に考えるフレーバーを潰さず、ブレンデッドウイスキーで言うグレーン、蕎麦で言う小麦粉的な繋ぎの役割を果たして全体の一体感を産み出している、シェリー樽やワイン樽由来のコクのある甘味の存在。
これは何の裏付けもない考察ですが、まるでニューボーンで表現された個性をパズルのピースに、足りない部分を補ってひとつの形に仕上げた集大成であるように思えました。

集大成というと、これをもって厚岸蒸留所の旅が完結するかのような表現にもなってしまいますが、むしろここからが本当の始まり。北海道産の原料を使った仕込みはまだまだこれからですし、熟成していく原酒のピークの見極め、厚岸産牡蠣とのペアリング。。。何より創業時に掲げられた、アイラモルトを目指すという理想も残されています。厚岸蒸留所の独自色は、まさにこれから育とうという段階にあります。
ですが、まずこの段階で3年モノとしてリリースできるベストなシングルモルトを作ってきたのかなと。その意味で、集大成であると感じたのです。


記念すべきファーストリリースに銘打たれた"サロルンカムイ"は、アイヌ語でタンチョウヅルを体現する神、湿地にいる神を意味する言葉であり、ボトルもそのイメージに合わせて白と赤のカラーリングとしてあります。
厚岸蒸留所は別寒辺牛湿原に隣接する土地に建てられているだけでなく、今後国産ピートの採掘も行われる予定であることから、湿原の神様との関わりは切ってもきれないものです。
お酒を神様に捧げるのは八百万の神が住まう日本的な発想ですが、ウイスキーが神秘を内包するものである以上、厚岸蒸留所の今後に一層の加護があればと思えてなりません。

月並みですが、樋田社長並びに厚岸蒸留所の皆様、3年熟成となるシングルモルトのリリース本当におめでとうございます。
この約2年間のニューボーンのリリースやイベントでの原酒のテイスティング等を通じ、ファーストリリースに向けた濃密な準備期間を経験できました。
今後のリリースも楽しみにしております。

イチローズ モルト&グレーン ワールドブレンデッド 秩父ウイスキー祭り2020 

カテゴリ:
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Ichiro's Malt & Grain 
SINGEL CASK WORLD BLENDED 
For CHICHIBU WHISKY MATSURI 2020 
Finished Cask type French Oak #7256 
Bottled 2019 Nov 
700ml 58.6% 

グラス:国際規格テイスティング
時期;開封後数日以内
場所:ジェイズバー
評価:★★★★★★(5ー6)

香り:クリーミーなバニラ香やお香を思わせる甘い木香が支配的に広がる。合わせてウッディで干し草のようなニュアンスに、ややスパイシーで生姜や筍のようなアロマが混じる。

味:濃厚で香り同様にフレンチオーク由来のフレーバーが、含み香としてもわっと広がる。中間にはグレーンの甘味、微かに洋梨の白い果肉、ほのかなえぐみ。じわじわとトーンの高い刺激を伴う。
余韻はスパイシーでウッディ、さらさらとした乾いた舌あたりを残し、フレンチオークの要素が長く続く。

香味ともフレンチオーク由来のクリームのようなバニラ系の香味が主体的に備わった、樽感の強いブレンデッド。その香味は、柔らかくというよりも、お香に火をつけたように鼻腔、口内に広がる。あるいは新築のコテージや桧風呂の木の香りに包まれるようでもあり、特徴的な構成である。加水するとマイルドにはなるが、樽と酒質が分離するようなアンバランスさも感じられた。

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秩父ウイスキー祭りでリリースされる記念ボトルのなかでも、目玉と言えるイチローズモルトからの2銘柄。シングルモルト秩父とワールドブレンデッド、その2020年度リリースの1本です。
販売は会場での抽選となるため運試し的な要素も強く、その後リユース市場での動向含めて良くも悪くも注目される銘柄でもあります。

2019年の同イベントでリリースされたワールドブレンデッドは、ベースとなるウイスキーをバーボンバレルでフィニッシュしたもので、スタンダードな構成というか良くも悪くもイチローズモルトらしさのあるキャラクターであったところ。
一方今年のリリースはフレンチオーク由来の樽香である、バニラクリームを思わせるニュアンスが全面に出て、ウッディなえぐみは控えめ。なかなか個性的な仕上がりとなっています。
ラベルに後熟樽として表記されたT5は、樽を作ったTaransaud社の規格であり、5年間自然乾燥させたフレンチオークを、225~228リットルサイズに組み上げた特別仕様の樽なのだそうです。

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(秩父ウイスキー祭り2019でリリースされたワールドブレンデッド。フィニッシュの樽のキャラクターはあまり強くないが、その反面秩父モルト含めて使われた原酒の個性を感じやすい。今年のリリースとは対局にあるような1本。)

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(フレンチオークでフィニッシュされた、ワールドブレンデッド"ジャズラウンジ「マデュロ」向け"。全面に感じるバニラクリームのような樽香は共通項で、同系統のウイスキーと言えるが、こちらの方がウッディさや秩父モルトを思わせるニュアンスが強い。)

シングルカスクブレンデッドは、1樽分のみ作られる仕様であるためか、通常のブレンドに比べてはっきりとしたキャラクターとなる傾向があります。
ただ今回のボトルは、秩父モルトも使われているのでしょうが、スタンダードリリースのホワイトラベルの延長線上にあるようなレシピを思わせる構成で。。。プレーンな内陸系モルト比率が高く、グレーンも4~5割ほどか。フィニッシュで付与された濃厚な樽香に反して、ベース部分がそこまで強く主張してこないのです。
それが悪い訳ではなく、これはこれでまとまるとも言えるため、樽を味わうブレンドとして楽しむものと感じました。

ちなみにテイスティング段階で詳細スペックを認識していなかったことで、その木香の強さをして「なにこれ?ミズナラ!?」と誤認(汗)。
冷静になって、過去にテイスティングしたボトルのなかで特に似ている香味を持つマデュロ向けに思い当たり、これフレンチオークじゃんと、間違いをただせた訳ですが、そのままレビューを書かなくて良かったです。
あぶなかったー。。。

ニッカ シングルカスク余市 1990-2010 日本丸就航20周年記念 61%

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YOICHI 
NIKKA SINGLE CASK MALT WHISKY 
For 20th Aniversary NIPPON MARU 
Aged 19 years 
Distilled 1990.12.22 
Bottled 2010.2.4 
Cask No, 128853 
750ml 61% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:不明
場所:自宅@テイスティングサンプル
評価:★★★★★★★★(8)

香り:メローなウッディーさ。松の樹皮やどんぐり、燻したような麦芽香の後からチャーオークの焦げ感を伴うバニラとキャラメルの濃厚なアロマ。樽香の奥にはチョコチップクッキーのような香ばしさを伴う甘味と垣間見える熟した果実感。強くはないが存在感のあるピートスモークに、微かに溶剤的な刺激も伴う。

味:リッチでメロー、パワフルでどっしりとしたボディ。キャラメルを思わせる甘味に松の樹皮やアーモンドのようなビ武骨なウッディさと香ばしさ。そこに熟したオレンジの果汁を思わせる甘酸っぱさが溶け込み、余市の酒質由来の要素を感じる。
余韻はややハイトーンでスパイシー。漁港を思わせる海の香りがウッディな樽香と共に鼻孔に届く。カカオの苦味、焦げたウッディさはこなれており、染み込むように長く続く。

麦、ピート、樽、そして時間がもたらすそれらの融合。余市が余市たる味わいが詰まった素晴らしい1本。60%を越えるハイプルーフだが、熟成によって口当たりはこなれ、それでいてパワフルでフルボディな新樽フレーバー。樽感の奥に潜む多彩なレイヤーから、余市における円熟味を味わえる1本とも言える。加水するとマイルドで、麦芽由来の甘味が開く。

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縁あって大変貴重なボトルをテイスティングさせていただきました。
それは、クルーズ船日本丸の就航20周年を記念し、船内限定で発売されていた余市のシングルカスク。流石豪華客船、凄い樽引っ張ってきたなと言う感じですが、リリース当時はブーム到来前。まだ普通に余市20年や、年に1度のヴィンテージシリーズが販売されていた頃ですから、この手の原酒が販売されていても違和感はありません。

他方で違和感という意味では、日本丸は商船三井客船、つまり三井グループに属する船であることが少しひっかかりました。
ニッカウイスキーが属するのはアサヒビールホールディングス。同社は特段どこのグループというわけではありませんが、過去の資金調達等の関係から実質的に住友グループの一員と見なされるほど深い繋がりがあります。そう、グループが違うんですね。

日常的な宴会から冠婚葬祭において、ビールを見るとグループがわかると言う話は耳にしたことがあると思いますが、それは販売経路にそのまま繋がります。この整理でいくと、三井グループはサッポロかサントリーと言われており。。。山崎、白州ではなく余市が詰められていたことに、些か違和感を感じたという訳です。
もっとも、この手の話は時代によって変わるの。最近の日本丸のレストランや、客室内の冷蔵庫にはアサヒスーパードライが使われていることから、そこまで気にする話じゃないのかもしれません。(あるいは2000年頃の三井グループと住友グループの合併話から、門戸が開かれたか。)

話がだいぶそれてしまいました。そろそろ中身にフォーカスしていきます。
今回のボトルはまさにアメリカンオークの新樽というフレーバーが主体ですが、ただ樽感が濃いだけでなく、熟成によって丸みを帯びている点。その奥には、余市らしい激しく主張しないじっとりとしたスモーキーさと、微かに漁港のような香りがアクセント。そして厚みのある酒質は、オレンジ系の果実の甘酸っぱさを伴う、リッチな樽感のなかに余市らしさが複数のレイヤーとなって合わさった、多彩な味わいが魅力であると言えます。

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(余市10年マイウイスキーの新樽熟成3種。どれも今回の日本丸20周年記念と大差ない色合い、度数構成であるが。。。)

同じ新樽の余市で比較すると、樽感という点では、上記マイウイスキーの余市10年も、今回の日本丸カスク(約20年熟成)と同じくらいの濃さがあります。
ですが、ここまでのバランス、多彩さが感じられたものはありません。勿論このはつらつとした味わいも決して悪くはないのですが。。。このまま10年寝かせてもこうはならない。恐らくそれは熟成期間の違いだけでなく、使われた新樽のサイズが違うのではと推察します。

最近のマイウイスキーや余市では、250リットルの新樽が中心です。しかしこの日本丸は、パンチョンやバットサイズの大型の新樽が使われているのではないか。それ故にじっくりと熟成が進み、約2倍の年月をかけてこの香味にたどり着いたのでは・・・と。
それこそ、ウイスキー不遇の期間を過ごしたからこそ生まれた産物であると共に、その時間がくれた贈り物のようなウイスキーだと感じます。
(画像検索でこのボトルに付属していたメーカーコメントのカードを確認しました。500リットルサイズの新樽が使われてるとのことです。2/25 追記)

なお蒸留は1990年12月22日となっているところ、日本丸の就航は同年9月です。同じ月の原酒って無かったのかなあとか。ひょっとして関係者が1990年に樽買いしていた?いやそれこそ先に触れたグループ違いの話が当時は強かったろうし・・・
これでなんの事情もなく揃えて来なかったなら、ニッカらしいなと思えてしまったりです(笑)。

キルホーマン 100%アイラ 6年 2013-2019 秩父ウイスキー祭り向け 58%

カテゴリ:
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KILCHOMAN 
100% ISLAY 
For CHICHIBU WHISKY MATSURI 2020 
Aged 6 years 
Distilled 2013 
Bottled 2019 
Cask type Bourbon Barrel #423/2013 
700ml 58% 

グラス:国際規格テイスティンググラス
場所:ジェイズバー
時期:開封後数日以内
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:スモーキーでピーティー、ドライな香り立ちで、乾いた麦芽と塩素、ツンとした刺激がアルコールを連想させ、グレープフルーツを思わせる柑橘の綿っぽさの混じる爽やかなフルーティーさが、オーク由来の要素として感じられる。

味:ドライでスパイシー、香り同様にグレープフルーツ感のあるピーティーさ。ボディは硬質で鋭い、乾燥して固くなった麦芽を噛み砕いているようだ。余韻はその鋭さが更に強く感じられ、スパイシーでハイトーン。ピーティーなほろ苦さとオークの華やかさを戻りに伴うフィニッシュ。

グレープルーツ系のフルーティーさがあり、どことなくバーボン樽熟成の90年代後半ボウモアに近い要素を伴っている。ただし麦芽風味に硬質で鋭い質感があり、度数以上に口当たりの強さが目立つ点は、我々が認識する100%アイラへのイメージと異なるところである。若さ由来もあるのだろうか。
加水するとボディは多少水っぽくなるが、バニラやオーク系のフルーティーさが含み香で開いてくる。

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秩父ウイスキー祭り2020の記念ボトルとしてリリースされた、100%アイラシリーズでのシングルカスク。ここ2~3年見かけていなかった系統のリリースですね。
100%アイラは基本的には複数樽バッティングのシングルモルト、かつ50%加水でリリースされるため、若い原酒ですが日本のファンにとっては待望の1本ではないかと思います。

以前聞いた話では、キルホーマン側は100%アイラのカスク売りを積極的にやってくれないのだとか。まあ確かにローカルバーレイで手間暇かかる蒸留所でのモルティング、生産も少量ですから、人気も出てきた昨今自社で今後のためにとっておきたい原酒ですよね。
特に昨年の通常リリースにブレンドされていたような、人気のフルーティーさがあるバーボンバレルであればなおのことです。それ故に、秩父ウイスキー祭りの記念ボトルとして、その樽を引いてこれるあたり、イベントの規模と主催者のパワーを感じます。

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(キルホーマン100%アイラと言えば、昨年話題になった9th EDITIONで開眼した愛好家は少なくないと推察。その魅力はなんといっても厚みのある麦芽風味と、80~90年代のラフロイグを思わせるようなトロピカル系統のフルーティーさにある。この味が7~9年熟成で出るのだから素晴らしい。)

さて、この100%アイラの原酒は、比較的カスク差が大きい印象があります。
つい先日、同じバーボンバレル、同じ蒸留年で熟成年数のカスクサンプルを飲み比べる機会があったのですが、今回にように固くスパイシーなタイプがあれば、ねっとりと麦芽風味が張り付くようなタイプ、あるいは焦げたゴムっぽいニュアンスが出ているタイプなど。。。樽感ではなくベースの酒質のキャラクターが異なっていて驚かされるとともに、これらをバッティングすることで、複雑で多彩な100%アイラ・シングルモルトに繋がるのだと納得させられました。

恐らく麦芽の違いから来る差が、マイクロディスティラリー故に蒸留時の微妙な違いの影響を受けて、更に大きな差になる。(麦芽の誤差×蒸留時の誤差、どちらのパラメーターも大きいという話)
スプリングバンクなんかでも固体差が大きいと感じる話がありますが、背景にはフロアモルティングによって仕込まれる麦芽がもつ、モルトスターでドラムで仕込まれるものに比べての不均一さがあると考えられるのです。

今回のキルホーマンもそのベクトルの一つ。特に6thや7thあたりに共通するニュアンスが、強調されて感じられるのが魅力である一方、硬さというか強さもシングルカスク故にはっきりと出ているあたり、構成原酒の一つにして、原酒の幅のなかで良くも悪くも突き抜けたタイプなのだなと思えます。
例えば、フロアモルティングで乾燥させるにあたり、しっかり熱が入ってしまったカリカリの麦芽で。。。じっくりミディアムレアに仕上げたようなタイプとフレーバーが異なるなら、イメージに違和感はありません。

美味しいアイラモルトであることは間違いありませんが、イメージというか、評価の別れるカスクだなと思いました。
時間をおいてまた飲んで変化を見てみたいですね。

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