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THE JAPANESE TRAIL No,4 
ASAKA DISTILLERY 
SINGLE MALT WHISKY 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Exclusively For The Whisky Crew 
700ml 59% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:注ぎたてはシャープな印象を持つトップノート、すぐにバーボン樽由来の黄色系果実のオーク香、柑橘、土っぽさやタールを伴うピートスモークが麦芽の甘さと共に広がる。

味:ややオイリーな口当たり。麦芽の甘みと土っぽさを伴うピートフレーバーが、柑橘やグレープフルーツ、微かにパイナップル等のフルーティーさ酸味、ほろ苦さを伴いつつ広がる。飲みこんだ後で口内にハイトーンな刺激を伴うが、それを柔らかい甘さが包み込む。スモーキーでほろ苦く、香ばしい余韻が長く続く。

安積蒸溜所のピーテッドモルトの個性を、しっかりと感じることが出来るリリース。内陸のピートであるためヨードやダシ感こそ無いが、バーボンオークの華やかさ、安積らしい湿り気のある柑橘感、加熱した果実のような酸味、麦芽風味、そこに強めのピートスモークが合わさって、ラフロイグやキルホーマンの8〜10年熟成品に近い系統に仕上がっている。
これでまだ4年。。。今後はさらにリッチで、フルーティーな成長を遂げていくだろう伸び代もある。安積蒸留所の軌跡を感じると共に、ジャパニーズの将来が楽しみになる1本。

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年末に向けてリリースラッシュのウイスキー業界。個人的に期待大だった1本が、このTHE WHISKY CREW向けのシングルモルト安積です。
蒸留所創業の2016年から、個人的に安積蒸留所に注目してきたというのもありますが、今回のリリースがピーテッドタイプだったという点が一番の理由です。

安積蒸溜所からの本格的なピーテッドタイプのリリースは、2020年の安積ファースト・ピーテッド以来(個人向けPBを除く)であり、このリリースが将来性抜群で美味しかったことや、ピーテッド原酒の成長を見ることが出来るのではないかと、期待していたわけです。
通常リリースだと今年発売されたシングルモルト安積2022はバランス寄りのピート感を備えていますが、ノンピート原酒の個性が強い仕上がりで、ピート原酒の成長を見るまでには至りませんでした。

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そして飲んだ感想は、コメントからも感じていただけるように期待通りの1本でした。
原酒の構成は、2018年蒸溜で4年熟成のバーボン樽3樽からのバッティング。内訳は50PPMのヘビーピーテッドモルト1樽、ノンピートモルト2樽。バッティングの比率はピーテッドモルトが60%、残り2樽からノンピートモルトが合計40%となっています。
また安積のバーボン樽原酒の度数は大概61〜62%くらいであり、そこから推定2〜3%だけ加水した、ほぼカスクストレングス、極少量加水リリースとなります。

この加水量で増える本数は微々たるもの。市場的にはカスクストレングスの方がウケが良い傾向がある中で、3樽の原酒を結びつけるため、香味の完成度を重視して加水を選ぶプロ意識。
まだ4年熟成で若いため、奥行きというか複雑さは若干軽いところもありますが、3樽のバッティングによってピート感とフルーティーさ、両方が感じられる構成となっており、今後1〜2年の熟成でさらに樽感がのって風味のカドが取れてくれば、一層リッチで複雑な味わいになることも想像出来る。
これはもう間違いないでしょう。

熟成によって蓄積する時間、つまり蒸留所の軌跡を辿る事が出来るだけでなく、そこから先の未来まで、来年が楽しみだねと前向きな気持ちになれる。
TWCのジャパニーズトレイルのコンセプトとしては勿論、年末にテイスティングするのにも相応しい仕上がりとなっています。

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※安積蒸溜所におけるピーテッド原酒の仕込みは、1年のうち蒸溜設備のオーバーホール期間前、夏場の前の1〜2ヶ月のみ行われている。仕込みの量が少ないため、リリース頻度も少ない。

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安積蒸留所といえば、2019年に木桶発酵槽を導入し、以降の仕込みでは酒質にさらにフルーティーさと厚みが出ています。
原酒の成長だけでなく、今後生まれてくる新しい原酒にも期待できるわけですが。
一方で、木桶導入前、ステンレスタンクを使っていた時代が悪かったかというと決してそんなことはなく、今回のように樽やピートとの馴染みがよく、ブレンドした際には他の原酒との繋がりも良い。仏のような笑顔で知られる造り手の山口哲蔵氏のような、懐深い特性も持っています。

一方でなぜこうした安積独自の酒質、独特の酸味を持つフルーティーな味わいになるのか、実は造り手側もよくわかっていないそうです。
ただし偶然の産物と言えど、何らかの理由はあるわけで。製造プロセスを聞く限り、変わったところはないので、私は発酵時に日本酒における生酛仕込み的な現象が起こっているのではと予想しています。
上の写真を見ていただければ伝わるように、安積蒸溜所の設備はかつて笹の川酒造で日本酒の製造・保管場所だった歴史ある造りの蔵に導入され、糖化、発酵、蒸留、全てが同じ空間で行われています。

生酛仕込みは発酵時に使用する乳酸菌を、自然に漂う乳酸菌を増やして使用する方法で、この乳酸菌は例えば木材などに住み着くと言われています。(木製発酵槽で香味の複雑さが期待出来るのもこの点にあると言われています。)
発酵時間はステンレスタンクでの発酵だった2018年頃までは約3日、現在は約100時間、その中で蔵に付いている菌が独自の発酵、フレーバーの生成に寄与しているとしたら、創業から250年、長い時間をかけて生み出された笹の川酒造の歴史が醸す味わいとして、なんとも浪漫ある要素ではないでしょうか。

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2016年の創業から、淡々と原酒を造り、焦らず、じっくりと原酒の熟成と合わせて事業を展開してきた安積蒸留所。
来年は熟成した原酒と、輸入原酒をブレンドしたワールドブレンデッドウイスキー安積蒸留所&4を発売するなど、ウイスキー事業本格参入から7年目の年に、同蒸留所としてさらなるチャレンジも発表されています。

一足お先にテイスティングしてきましたが、柔らかい甘さを感じるモルトとグレーンの風味、ほのかにピーティーですっきりと飲みやすく仕上がったブレンデッドで、ハイボールにめちゃくちゃ使いやすかったですね。
この7年間、決して平坦ではなかった安積蒸留所の道のり、飛躍の時は近いと感じる原酒の成長。来年以降もリリースを楽しみにしています。

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